説明

放熱性、導電性及び加工性に優れた樹脂被覆アルミニウム板材

【課題】 電子機器又は家電製品の筐体に用いることができる良好な放熱性と導電性の両方を具備し、且つ加工性に優れた樹脂被覆アルミニウム材を得る。
【解決手段】 化成皮膜を設けたアルミニウム板の片面乃至は両面に、熱硬化性樹脂100質量部に対して平均粒径0.1〜30μmのグラファイト粉末を20〜100質量部、及び最大長径の平均値が0.5〜100μmのニッケル粉末を10〜100質量部含有している膜厚5μm以下の第1層熱硬化性樹脂皮膜を設け、第1層熱硬化性樹脂皮膜上に、熱硬化性樹脂100質量部に対して、最大長径の平均値が0.5〜100μmのニッケル粉末を10〜100質量部含有している膜厚0.1〜3μm以下の第2層熱硬化性樹脂皮膜を設ける。第2層熱硬化性樹脂皮膜に、分散剤、潤滑剤を含むのが好ましい。
また、片面に上記樹脂皮膜を設け、他面に白色顔料を含有する白色樹脂皮膜を設けると反射板にも用いることができる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、内部で熱を発する電子部品、家電製品等の筐体や放熱板、反射板等の材料として好適であり、放熱性、導電性、および加工性に優れた高機能樹脂被覆アルミニウム板材、及び該樹脂被覆アルミニウム材を用いて製造した筐体、及びその筐体を用いた電子機器又は家電製品に関する。
【背景技術】
【0002】
電子機器の小型化、高性能化に伴い、これらの電子部品から放出される熱が、狭い空間に蓄積されることが多くなり、該空間からの排熱が問題となってきている。つまり、電子機器内の発熱による機器内部の高温化は、精密な電子機器本体の性能を損なう恐れがあるため、熱を効率よく外部へ排出することが重要な課題となっている。
【0003】
このため、低コストで加工性、放熱性の良い材料として、金属等からなる基材表面に外層塗膜と内層塗膜とを備え、前記内層塗膜が熱放射率70%以上の顔料を内層塗膜の乾燥質量に対して0.03〜70質量%含有する塗膜である熱放射性表面処理材の提案(特許文献1)がある。しかし、該赤外線放射性顔料を含む樹脂の塗装を施した材料は、有機皮膜のため無機皮膜と比較すると曲げ加工性が向上するものの、実際の筐体等の加工は加工強度の高いプレス成形等が行なわれるが、該有機皮膜には塗膜表面に潤滑性がないため、加工性が十分であるとはいえない。その結果、加工部の耐食性が劣るという品質問題、また大きな塗膜割れや傷の場合、商品価値がなくなるため生産性が低下し、コスト上昇を招く等の問題がある。
【0004】
さらに、CD−ROMなどのドライブケース、パーソナル・コンピュータ関連機器や計測器などの電子機器部品用材料としては、従来から精密な電子機器本体の性能を損なわない電気特性(アース性、シールド性)を具備することが要求されており、かかる材料として、表面に樹脂被覆を施した金属板において、樹脂層がポリエステル系、エポキシ系、フェノール系、アルキド系の1種または2種以上からなり、厚さ0.1〜10μmで、最大長径の平均値が0.1〜100μmの球状、スパイク球状、又は鱗片状の互いに独立した単体粒子及びニッケル粒子が互いに結合した鎖形ニッケルからなる群から選ばれる少なくとも1種のニッケル粉末を、樹脂100質量部に対し2〜60質量部含有している電子機器部品用樹脂被覆金属板(特許文献2)、あるいはアクリル系樹脂、エポキシ系樹脂、及びウレタン系樹脂の群から選ばれる少なくとも1種を樹脂成分とし、水分1〜50質量%、及び潤滑剤0.1〜20質量%を含有し、且つ厚みが0.05〜5μmである樹脂皮膜で、金属板の表面が被覆されている電気電子機器用の金属板材(特許文献3)の提案等がなされている。
【0005】
また、帯電防止性(表面導電性)、プレス加工において塗膜われや塗膜剥離の発生を防止を目的とした両面プレコートアルミニウム板として、アルミニウム板の一方の面に、第一の有機樹脂系塗料を塗布して硬化させることにより、潤滑性塗膜が形成される一方、他の面に、導電性物質を含有せしめた第二の有機樹脂系塗料を塗布して硬化させることにより、導電性塗膜が形成されているプレス成形性及び導電性に優れた両面プレコートアルミニウム板(特許文献4)の提案等がある。
【0006】
これらの導電性樹脂被覆アルミニウム材等ではある程度、導電性についての要求には対応することができていた。
【0007】
しかし、近年の電子機器の小型化、高機能化に伴い先述のように電子部品から放出される熱が多くなり、上記電子機器部品用材料では、筐体内部の熱が筐体内に篭り、精密な電子機器本体の性能を損なってしまう問題が起こっている。熱放射性樹脂皮膜の膜厚を厚くすることで放熱性を向上させることが可能であるが、膜厚を厚くすると電気絶縁性の樹脂成分に導電性付与成分が十分に被覆されてしまい、導電性が低下する傾向があるため、導電性と放熱性の両立は非常に困難であった。
【0008】
かかる導電性と放熱性の両立を図ったプレコートアルミニウム板として、グラファイト粉末とニッケル粉末を含有せしめた熱硬化性樹脂皮膜を設けることにより、導電性と放熱性を両立させたプレコートアルミニウム板(特許文献5)の提案等がなされている。
【0009】
しかしながら、上記の放熱性及び導電性の両立を図ったアルミニウム材においては、放熱性と導電性の両方を満足するものであるが、塗膜中に含まれるグラファイト粉末は、六方晶形と呼ばれる結晶構造をしており、層状に剥がれやすいため、潤滑性はあるものの、プレス加工条件が厳しい場合、表面から一部が脱落して成形不具合が発生し、製品歩留が低下してしまうという問題が発生した。
【特許文献1】特開2002−228085号公報
【特許文献2】特開2001−205730号公報
【特許文献3】特開2002−275656号公報
【特許文献4】特開2003−286585号公報
【特許文献5】特開2005−305993号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
本発明は、良好な放熱性と導電性の両方を具備し、且つ加工性に優れた樹脂被覆アルミニウム材、該樹脂被覆アルミニウム材を用いて製造した電子機器又は家電製品の筐体に関する。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明者らは日々積み重ねた研究の結果、化成皮膜を設けたアルミニウム板の片面乃至は両面に、熱硬化性樹脂、グラファイト粉末及びニッケル粉末を含有する樹脂皮膜を設けることにより、放熱性ならびに導電性の両性能を向上し得ることを見出した。そして、更に実験を行ない、該樹脂皮膜の上に第2層として熱硬化性樹脂、ニッケル粉末を含有する樹脂皮膜を設けることで、放熱性ならびに導電性、また潤滑性や加工性といった性能を低下させることなく、表面からのグラファイト粉末による黒色脱落を防止し得ることを見出した。そして、更に実験を重ねてそれらの適正量を見出し本発明を完成させるに至った。
【0012】
すなわち、請求項1記載の発明は、化成皮膜を設けたアルミニウム板の片面乃至は両面に、熱硬化性樹脂100質量部に対して平均粒径0.1〜30μmのグラファイト粉末を20〜100質量部、及び最大長径の平均値が0.5〜100μmのニッケル粉末を10〜100質量部含有している膜厚5μm以下の第1層熱硬化性樹脂皮膜を設け、第1層熱硬化性樹脂皮膜上に、熱硬化性樹脂100質量部に対して、最大長径の平均値が0.5〜100μmのニッケル粉末を10〜100質量部含有している膜厚0.1〜3μm以下の第2層熱硬化性樹脂皮膜を設けたことを特徴とする、放熱性、導電性および加工性に優れた樹脂被覆アルミニウム板材である。
【0013】
また、請求項2に記載の発明は、第2層熱硬化性樹脂皮膜が、分散剤としてアニオン性化合物、カチオン性化合物、非イオン系化合物、高分子型化合物の中から選ばれた1種または2種以上を含有させた樹脂であることを特徴とする請求項1に記載の放熱性、導電性および加工性に優れた樹脂被覆アルミニウム板材である。
【0014】
請求項3に記載の発明は、第2層熱硬化性樹脂皮膜が、潤滑剤としてオレフィン系ワックス、PTFE等のフッ素系樹脂、パラフィン系ワックス、マイクロクリスタリンワックス、ミツロウ、ラノリン、カルナバワックスの中から選ばれた1種または2種以上を含有させた樹脂であることを特徴とする請求項1または2のいずれかに記載の放熱性、導電性および加工性に優れた樹脂被覆アルミニウム板材である。
【0015】
請求項4に記載の発明は、片面に請求項1〜3のいずれか1項に記載の樹脂皮膜を有し、他面に白色顔料を含有する白色樹脂皮膜を設けたことを特徴とする放熱性、導電性、加工性及び反射性に優れた樹脂被覆アルミニウム板材である。
【0016】
請求項5に記載の発明は、請求項1〜4のいずれか1項に記載の樹脂被覆アルミニウム板材を用いて製造した電子機器用又は家電製品用の放熱性、導電性に優れた筐体であり、さらに、請求項6記載に発明は、請求項5に記載の筐体を用いた電子機器又は家電製品である。
【発明の効果】
【0017】
本発明の高機能樹脂被覆アルミニウム材は、熱の放射性および表面導電性に優れ、良好な表面潤滑性があるため耐プレス加工性に優れ、且つ耐食性、反射性、更には顔料脱落を防止した材質であり、パーソナル・コンピュータ、エアコンの室内機や室外機のラジエター、冷蔵庫等の家電製品等の熱の放散が必要とされる電子機器や家電製品の筐体の材料として極めて有効であり、グラファイト粉末の脱落による製品歩留低下の防止にも効果的である。
【発明を実施するための最良の形態】
【0018】
本発明においては、基材となるアルミニウム材は特に限定されるものではないが、筐体を形成・保持するに足る強度を有し、また絞り加工、曲げ加工時において十分なプレス成形加工性を有することから1000系、3000系及び5000系のアルミニウム合金板が好ましい。
【0019】
前記アルミニウム材上に設ける化成皮膜には、塗布型と反応型があり、特に制限されるものではないが、本発明においてはアルミニウムと樹脂皮膜の両方に密着性が良好な反応型化成皮膜を用いる。反応型化成皮膜とは、具体的にはリン酸クロメート、クロム酸クロメート、リン酸ジルコニウム、リン酸チタニウム等の処理液で形成される皮膜である。特にリン酸クロメート皮膜が、汎用性、コストの点で好ましい。アルミニウム材上に直接樹脂皮膜を設けるのではなく、アルミニウムと樹脂皮膜との間に化成皮膜を設けることにより、塗膜密着性が向上し、塗膜へのクラックの発生を防止する効果があり、加工性が向上する。
【0020】
前記化成皮膜上に設ける熱硬化性樹脂皮膜は、一般的にプレコートメタルに使用されるものであれば特に制限されず、例えばエポキシ系樹脂、フッ素系樹脂、アクリル系樹脂、メラミン架橋タイプポリエステル系樹脂、イソシアネート架橋タイプポリエステル系樹脂等をベースとした塗料である。特に5〜12μmの赤外線領域で優れた赤外吸収(放射)性を示すメラミン架橋タイプポリエステル系樹脂を使用すると、更に放熱性が向上する。
【0021】
電子機器からの放射熱はプランクの法則に従い、波長8〜10μmにピークを有しており、赤外線領域の熱放射性を向上させることが放熱性の向上に有効であることから、これらの樹脂を用いることで放熱性が向上する。なお、キルヒホッフの法則より熱放射率と熱吸収率は等しく、赤外線の吸収性の高い材料は、赤外線の放射も高い材料といえる。
【0022】
前記ポリエステル系樹脂は、加工性と塗装性の観点から数平均分子量が8000〜25000のものが好ましい。つまり、数平均分子量が小さいと塗膜の可撓性が低下することによる曲げ加工性の低下、また数平均分子量が大きいと塗料粘度の急激な上昇による塗装性の低下が起こる場合がある。また、ガラス転移温度については加工性と塗膜硬度の点から−10〜70℃のものが好ましい。ガラス転移温度がこれより低いと塗膜硬度が低下し柔らかくなることによりプレス成形等の加工時に疵が発生する場合があり、ガラス転移温度がこれより高いと塗膜の柔軟性低下により曲げ加工性の低下が起こる場合がある。
【0023】
架橋剤である前記メラミン系樹脂には、メチル化メラミン系樹脂、ブチル化メラミン系樹脂などがあるが、加工性の点からメチル化メラミン系樹脂が好ましい。
【0024】
前記グラファイト粉末は、潤滑性付与材として、また赤外線放射性があるため放熱性付与材として非常に有効である。グラファイト粉末の平均粒径は、0.1〜30μmとする。平均粒径が0.1μm未満では、グラファイト粉末の分散性が低下し塗料化が困難となる場合があり、また非常に微細な粉末に加工するためコストが高くなる。また30μmを超えると、グラファイト粉末が樹脂層から脱落しやすくなり、耐黒色脱落性、及び曲げ加工性が低下する。特に好ましいサイズは、0.1〜20μmである。
【0025】
また、前記グラファイト粉末は、熱硬化性樹脂100質量部に対して20〜100質量部を配合する。配合量が20質量部未満の場合、単位面積当たりの絶対量が不足し放熱性向上の効果が十分に得られない。また、100質量部を超えると、樹脂組成物の成膜が困難となり、グラファイト粉末が樹脂層から脱落しやすくなり、耐黒色脱落性及び成形加工性が低下する。
【0026】
本発明に用いるグラファイト粉末の種類は特に制限されるものではない。具体的には人造タイプと天然タイプがあり、天然タイプにはさらに土状、鱗片状、鱗状等の種類が有り、これらの中から1種又は2種以上混合したものでも良い。また、カーボンブラック等を併用しても良い。
【0027】
なお、赤外線放射性顔料としてはグラファイトの他に、一般にカーボンブラック、鉄マンガン系や銅クロム系等の金属酸化物が知られているが、カーボンブラックは1次粒子径がnmオーダーであり、表面積が非常に大きいため塗料粘度が急激に上昇し、塗料化が困難である。一方、鉄マンガン系及び銅クロム系金属酸化物は、波長10μm以下の赤外線放射性が劣る。
【0028】
さらに、前記グラファイト粉末とともに、熱硬化性樹脂100質量部に対して10〜100質量部のニッケル粉末を塗膜に導電性を付与する目的で含有させる。他の金属粉末でも導電性の付与には有効であるが、特にコスト、性能のバランスからニッケル粉末を用いることが好ましい。ニッケル粉末の含有量が、10質量部未満では、導電性付与効果が十分ではない。また、100質量部を超えると樹脂皮膜の成膜が困難となりニッケル粉末が樹脂層から脱落しやすくなるため成形加工性が低下する。
【0029】
前記ニッケル粉末の大きさは、最大長径の平均値を0.5〜100μmとする。最大長径の平均値が0.5μm未満の場合、導電性のばらつきが大きく不安定となり導電性が低下する。また、100μmを超えると、ニッケル粉末が樹脂層から脱落しやすくなるため曲げ加工性が低下する。また、ニッケル粉末の種類は特に制限されるものではない。具体的には球状、鎖型、鱗片状等の種類が有り、これらの中から1種又は2種以上混合したものを用いても良い。鎖型、鱗片状のものが特に加工性、導電性ともに良好であり好ましい。
【0030】
前記熱硬化性樹脂皮膜の膜厚は、5μm以下とする。膜厚が5μmを超えた場合、グラファイト粉末の絶対量が過剰となり皮膜に割れや剥離が発生しやすくなる。また、電気絶縁性である樹脂皮膜に導電性付与剤であるニッケル粉末が十分被覆されてしまうため、導電性が低下する恐れがある。好ましくは1.5μm以下である。
【0031】
前記第2層熱硬化性樹脂皮膜は、第1層の熱硬化性樹脂皮膜に用いる熱硬化性樹脂と同様のものであり、例えばエポキシ系樹脂、フッ素系樹脂、アクリル系樹脂、メラミン架橋タイプポリエステル系樹脂、イソシアネート架橋タイプポリエステル系樹脂等をベースとした塗料である。前述したように、特に5〜12μmの赤外線領域で優れた赤外吸収(放射)性を示すメラミン架橋タイプポリエステル系樹脂を使用すると、放熱性を保持しやすくなる。
【0032】
前記第2層熱硬化性樹脂皮膜には、ニッケル粉末を含有させる。ニッケル粉末を添加することにより、第2層を設けることによる導電性の低下を防ぐことが可能となる。第2層熱硬化性樹脂皮膜に含有させるニッケル粉末の含有量は、熱硬化性樹脂100質量部に対して10〜100質量部とする。10質量部未満では、導電性付与効果が十分ではなく、100質量部を超えると、樹脂皮膜の成膜が困難となりニッケル粉末が樹脂層から脱落しやすくなるため成形加工性が低下する。またニッケル粉末の最大長径は、0.5〜100μmとする。0.5μm未満では、導電性のバラつきが大きくなり導電性が低下する。また、100μmを超えると、ニッケル粉末が樹脂層から脱落しやすくなるため、結果曲げ加工性が低下する。
【0033】
前記第2層熱硬化性樹脂皮膜の膜厚は、0.1〜3μmとする。3μmを超えると、第1層及び第2層に含有されるニッケル粉末、特に第1層に含有されるニッケル粉末による導電性の効果が低くなる。また、0.1μm未満では、第1層に含有されるグラファイト粉末の脱落を防止することが困難であり、更に膜厚の調整が非常に困難となる。好ましくは、0.2〜1.5μm以下である。
【0034】
なお、分散剤として、アニオン性化合物、カチオン性化合物、非イオン性化合物、高分子型化合物から選ばれた1種又は2種以上を、第2層熱硬化性樹脂皮膜に含有させることが好ましい。第2層樹脂皮膜に上記分散剤を含有させることで、塗装焼付け時にグラファイトとの濡れ性が向上し、グラファイト粉末を第2層樹脂皮膜が十分に被覆でき、脱落を防止できる。添加量としては、熱硬化性樹脂100質量部に対して30質量部以下であることが好ましい。分散成分が30質量部を超えると、塗料粘度が上昇しやすくなり、貯蔵安定性が低下し、また樹脂中のニッケル粉末がかえって凝集しやすくなるため導電性が低下する。
【0035】
さらに、潤滑剤として、ポリエチレンワックス等のオレフィン系ワックス、PTFE(ポリテトラフルオロエチレン)等のフッ素系樹脂、パラフィン系ワックス、マイクロクリスタリンワックス、ミツロウ、ラノリン、カルナバワックスの中から選ばれた1種又は2種以上を、第2層熱硬化性樹脂皮膜に含有させることが好ましい。第2層の潤滑性を向上させることで、加工性を向上させる効果が得られる。添加量は、熱硬化性樹脂100質量部に対して30質量部以下であることが好ましい。潤滑性付与成分が30質量部を超えると、耐溶剤性、ブロッキング性、導電性の低下や加工時の塗膜カスの発生等が起こり、電子機器用材料として好適ではない。
【0036】
なお、片面に請求項1〜3のいずれか1項に記載の樹脂皮膜を有し、他面に白色顔料を含有する白色樹脂皮膜を施し反射面とすることによって反射性と放熱性、導電性を満足する材料を作製することができる。この様な樹脂被覆アルミニウム板材は、光に対する面を白色樹脂皮膜とすることで液晶反射板や照明用反射板用途に用いることが可能である。
【0037】
白色樹脂皮膜としては、例えば、フッ素系樹脂、エポキシ系樹脂、ポリエステル系樹脂、アクリル系樹脂、ウレタン系樹脂の中から選ばれた少なくとも1種の熱硬化性樹脂100質量部に対して酸化チタン、亜鉛華、硫化亜鉛、硫酸バリウム、炭酸カルシウムの中から選ばれた少なくとも1種又は2種以上からなる白色顔料を、70質量部から150質量部含有する膜厚30〜150μmの白色樹脂を用いることが好ましい。
【0038】
本発明に使用する塗料には、塗装性及びプレコート材としての一般性能を確保するために通常の塗料に使用される、溶剤、つや消し剤、レベリング剤、ワキ防止剤等を適宜含有させても良い。
【0039】
本発明において、請求項1、2又は3において請求項4のように他の片面の樹脂皮膜を規定しない場合は、用途や要求特性により、樹脂皮膜が片面だけに被覆されていても、別の樹脂皮膜が他の片面に被覆されていても構わず、何ら制限を設けるものではない。
【0040】
請求項1〜4の樹脂被覆アルミニウム板材は電子機器用又は家電製品用の放熱性、導電性に優れた筐体に用いられる。
【実施例1】
【0041】
以下に、本発明を実施例により詳細に説明する。
【0042】
[サンプルの調製]
アルミニウム板(JIS A5052、板厚0.5mm)に対し、市販のアルミニウム用脱脂剤にて脱脂処理を行ない、水洗後、市販のリン酸クロメート処理液にて下地処理を行ない、その上に表1に示す条件で塗料をロールコーターで両面に塗装し、PMT(最高到達板温度)200℃〜250℃にて焼付けした。第2層を設ける場合は焼付け後常温に冷却した後再び同様の方法にて焼付けを行なった。このようにして樹脂被覆アルミニウム材及び図1に模式的断面図を示す第2層を設けた樹脂被覆アルミニウム材を製造した。図中1は、第1層の熱硬化性樹脂皮膜、2は第2層の熱硬化性樹脂皮膜、3は化成皮膜、4はアルミニウム合金板である。
【0043】
[試験方法]
得られた樹脂被覆アルミニウム材について下記の試験方法にて性能試験を行なった。
【0044】
(電気抵抗値)
導電性は、四端子法により、銀製のプローブ(直径5mm、先端2.5R)を荷重100gで塗膜面に接触させたときの抵抗値を測定した。そして、◎:4Ω以下、○:4Ωを越え7Ω以下、△:7Ωを越え10Ω以下、×:10Ωを越えるもの、の基準で評価した。なお、電気抵抗値が10Ωを超える場合、電子機器部品に加工した際に所望の電気特性(アース性やシールド性)が得られないため電気抵抗値10Ω以下を使用可能とした。
【0045】
(放熱性)
放熱性は下記の方法で筐体を作製し、筐体表面温度を測定し、◎:28℃以下、○:29℃〜30℃、○△:31℃〜32℃、△:33℃〜35℃、×:36℃以上、の基準で評価した。
即ち、得られた樹脂被覆アルミニウム材により、底面が150mm×150mm、高さ100mmの筐体を作製した。作製した筐体を図2に示す。図中5は光源、6は樹脂被覆アルミニウム材、1は第1層熱硬化性樹脂皮膜、2は第2層熱硬化性樹脂皮膜、4はアルミニウム合金板である。なお図2においては熱硬化性樹脂皮膜とアルミニウム合金板の間にある化成皮膜の表示を省略している。この筐体の内部に光源として60Wの電球を入れて通電し、発光・発熱させ、筐体内部の温度が定常状態となった時点における筐体表面の温度を測定した。
【0046】
(加工性:耐顔料脱落性)
樹脂皮膜表面を、市販のワイパーで5回、手で擦り、ワイパーに付着した黒色を目視で観察し、◎:黒色が全く付着しない、○:非常に軽微な付着で良好、○△:軽微な付着あり、△:付着するものの使用可能、×:付着が激しく使用不可、の基準で評価した。
【0047】
(加工性:潤滑性)
加工性のうち、潤滑性はバウデン式摩擦試験機にて摩擦係数の測定を行ない、○:0.10未満、△:0.10以上0.15未満であるが使用可能、×:0.15以上で使用不可、の基準で評価した。
【0048】
(加工性:曲げ加工性)
加工性のうち、曲げ加工性は評価面を外側にして180°3T曲げを行ない、樹脂皮膜層の割れを目視で観察し、◎:塗膜の割れなし、○:非常に軽微な塗膜の割れがあるが良好、△:小さな塗膜の割れあるが使用可能、×:大きな塗膜割れあり使用不可、の基準で評価した。
【0049】
(加工性:テープ試験)
曲げ加工性試験の観察終了後、曲げ部にセロハンテープを密着させ、テープを急激に剥離した際の塗膜の剥離具合を観察するテープ試験を行ない、○:剥離なし、△:軽微の剥離あるが使用可能、×:剥離ありの基準で評価した。
【0050】
(光反射性)
全反射率はスガ試験機社製多光源分光測色計MSC−IS−2DH(積分球使用、拡散光照明8°方向受光)を用い、波長550nmでの全反射率(正反射成分を含む)を
BaSO製白板を標準板とした時の百分率で表した。なお、液晶反射板として用いるためには、全反射率が90%以上であることが適しており、90%以上を使用可能レベルとした。
【0051】
得られた性能試験結果を表1に示す。なお、表1において、添加量は、熱硬化性樹脂100質量部に対する配合質量で示す。
【0052】
【表1】

【0053】
表1に示される結果から明らかなように、実施例1〜21は、放熱性、導電性ともに良好であり、潤滑性、曲げ加工性、耐黒色脱落性についても良好である。
【0054】
一方、比較例22〜35は、放熱性、導電性、曲げ加工性のいずれかが劣り、電子機器用放熱性樹脂被覆アルミニウム材としては不適当である。
すなわち、比較例22は、第1層熱硬化性樹脂皮膜の膜厚が厚いため、ニッケル粉末が十分に電気絶縁性である樹脂皮膜に被覆され、導電性のバラツキが大きく不安定になり導電性が劣る。
比較例23は、第1層における、赤外線放射性向上剤であるグラファイト粉末の添加量が不十分であるため、放熱性が劣る。
比較例24は、第1層における、グラファイト粉末の添加量が過剰であるため、曲げ加工を行なうとグラファイト粉末が基点となって割れが生じ、曲げ加工性が劣る。
比較例25は、第1層における、導電性付与剤であるニッケル粉末の最大長径の平均値が小さいため、導電性が劣る。
比較例26は、第1層におけるニッケル粉末の最大長径の平均値が大きいため、曲げ加工を行なうとニッケル粉末が基点となって割れが生じ、曲げ加工性が劣る。
比較例27は、第1層における、導電性付与剤であるニッケル粉末の添加量が不十分であるため、導電性が劣る。
比較例28は、第1層におけるニッケル粉末の添加量が過剰であるため、樹脂皮膜が成膜せず、曲げ加工を行なうとニッケル粉末が樹脂層から脱落し、曲げ加工性が劣る。
比較例29は、第2層におけるニッケル粉末の最大長径の平均値が小さいため、導電性が劣る。
比較例30は、第2層におけるニッケル粉末の最大長径の平均値が大きいため、曲げ加工を行なうとニッケル粉末が基点となって割れが生じ、曲げ加工性が劣る。
比較例31は、第2層におけるニッケル粉末の添加量が不十分であるため、導電性が劣る。
比較例32は、第2層におけるニッケル粉末の添加量が過剰であるため、樹脂皮膜の成膜が妨げられ、曲げ加工を行なうとニッケル粉末が樹脂層から脱落し、曲げ加工性が劣る。
比較例33は、第2層の樹脂皮膜の膜厚が厚いため、ニッケル粉末が電気絶縁性の樹脂皮膜に十分に覆われてしまうため、導電性が劣る。
比較例34は、第2層における分散剤が過剰であるため、ニッケル粉末が逆に凝集してしまうため、導電性が劣る。
比較例35は、第2層における潤滑剤が過剰であるため、導電性が劣る。
【実施例2】
【0055】
次に、片面を先述の方法にて塗装焼付けを行ない、実施例1、16の熱硬化性樹脂皮膜を設けて導電性、放熱性を持つ面とし、もう一方の面の化成皮膜上にアクリル系樹脂100質量部に対して酸化チタンを120質量部含有する塗料を塗装焼付けすることにより皮膜厚110μmの白色樹脂皮膜の光反射面を設けた。結果を表2に示す。
【0056】
【表2】

【0057】
導電・放熱面は優れた導電性、放熱性を示し、光反射面は、全反射率95%と優れた光反射性を示した。
【産業上の利用可能性】
【0058】
本発明の高機能樹脂被覆アルミニウム材は、良好な導電性、放熱性、加工性及び潤滑性がある樹脂被覆アルミニウム材であるため、耐プレス加工性に優れ、且つ耐食性、反射性にも優れた材質であり、また第2層を設けることで他の性能を低下させることなく耐黒色脱落性を向上させることができるため、パーソナル・コンピュータ、エアコンの室外機や室内機のラジエター、冷蔵庫等の家電製品等、内部で熱を発生する電子部品、家電製品等の筐体や放熱板、反射板等の材料として、好適な材料である。また更に反対面に光反射面等を設けるときはアース性、シールド性、帯電防止性を必要とするCD−ROM等のドライブケース、パーソナル・コンピュータ関連機器や計測器等の電子機器部品材料用の筐体材料としても好適である。
【図面の簡単な説明】
【0059】
【図1】本発明の樹脂被覆アルミニウム材を模式的に示す断面図である。
【図2】本発明の樹脂被覆アルミニウム材の放熱性を評価する装置を模式的に示す断面図である。
【符号の説明】
【0060】
1 第1層熱硬化性樹脂皮膜
2 第2層熱硬化性樹脂皮膜
3 化成皮膜
4 アルミニウム板
5 光源
6 熱硬化性樹脂被覆アルミニウム材

【特許請求の範囲】
【請求項1】
化成皮膜を設けたアルミニウム板の片面乃至は両面に、熱硬化性樹脂100質量部に対して平均粒径0.1〜30μmのグラファイト粉末を20〜100質量部、及び最大長径の平均値が0.5〜100μmのニッケル粉末を10〜100質量部含有している膜厚5μm以下の第1層熱硬化性樹脂皮膜を設け、第1層熱硬化性樹脂皮膜上に、熱硬化性樹脂100質量部に対して、最大長径の平均値が0.5〜100μmのニッケル粉末を10〜100質量部含有している膜厚0.1〜3μm以下の第2層熱硬化性樹脂皮膜を設けたことを特徴とする、放熱性、導電性および加工性に優れた樹脂被覆アルミニウム板材。
【請求項2】
第2層熱硬化性樹脂皮膜が、分散剤としてアニオン性化合物、カチオン性化合物、非イオン系化合物、高分子型化合物の中から選ばれた1種または2種以上を含有させた樹脂であることを特徴とする請求項1に記載の放熱性、導電性および加工性に優れた樹脂被覆アルミニウム板材。
【請求項3】
第2層熱硬化性樹脂皮膜が、潤滑剤としてオレフィン系ワックス、PTFE等のフッ素系樹脂、パラフィン系ワックス、マイクロクリスタリンワックス、ミツロウ、ラノリン、カルナバワックスの中から選ばれた1種または2種以上を含有させた樹脂であることを特徴とする請求項1または2のいずれかに記載の放熱性、導電性および加工性に優れた樹脂被覆アルミニウム板材。
【請求項4】
片面に請求項1〜3のいずれか1項に記載の樹脂皮膜を有し、他面に白色顔料を含有する白色樹脂皮膜を設けたことを特徴とする放熱性、導電性、加工性及び反射性に優れた樹脂被覆アルミニウム板材。
【請求項5】
請求項1〜4のいずれか1項に記載の樹脂被覆アルミニウム板材を用いて製造した電子機器用又は家電製品用の放熱性、導電性に優れた筐体。
【請求項6】
請求項5に記載の筐体を用いた電子機器又は家電製品。

【図1】
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【図2】
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【公開番号】特開2007−181984(P2007−181984A)
【公開日】平成19年7月19日(2007.7.19)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−1602(P2006−1602)
【出願日】平成18年1月6日(2006.1.6)
【出願人】(000107538)古河スカイ株式会社 (572)
【Fターム(参考)】