説明

放熱材料及びその製造方法

【課題】セラミックス基板、ダイヤモンド基板等の無機系材料の放熱材料は硬度が高く難加工性であり、グラファイトフィルム、カーボンナノチューブ等の炭素系材料は放熱性が低かった。
【解決手段】アルミニウム含浸グラファイト基板の表面に析出したアルミニウムを塩酸によるウェットエッチング法によって除去する(ステップ101)。次に、アルミニウム含浸グラファイト基板の表面にナノメートルのオーダの凹凸構造を加工する(ステップ102)。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は放熱材料及びその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
発熱部品、たとえばコンピュータ等の電子電気機器に搭載される半導体素子、太陽電池、電気自動車等に用いられるパワーコンバータ及びインバータの冷却の問題が注目を集めている。
【0003】
上述の発熱部品の1つの冷却方法はその発熱部品が搭載された機器筐体にファンを取付け、機器筐体を冷却する。また、他の冷却方法はその発熱部品に熱伝導媒体たとえばヒートパイプ、ヒートシンク、フィン、ファン等を取付け、発熱部品からの熱を熱伝導媒体によって外部へ伝達する。このとき、発熱部品に銅、アルミニウム等の良熱伝導材料を接触させ、熱伝導材料を介して熱伝導媒体によって外部へ伝達する。
【0004】
しかしながら、近年、半導体素子等のハイパワー化及びその搭載スペースの狭小化に伴って発熱部品の発熱量が大きくなる傾向がある。特に、機器筐体が小型化すると、上述の熱伝導媒体を取付けるスペースが小さくなり、この結果、十分な熱対流をとれず、発熱部品が高温となり、素子の性能を下げるものとなる。
【0005】
上述の発熱部品の冷却を、効率的に行うために種々の放熱材料が提案されている。
【0006】
従来の放熱材料としてはSiC、AlN等よりなるセラミックス基板(参照:特許文献1)、1000-2000W/m・Kの高熱伝導率のダイヤモンド基板(参照:特許文献2)、柔軟性を有するグラファイトフィルム(参照:特許文献3)、及び良放熱性、耐熱性、耐薬品性、低価格性等のカーボンナノチューブ(参照:特許文献4)がある。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特開平2−7445号公報
【特許文献2】特開2008−222468号公報
【特許文献3】特開2009−107904号公報
【特許文献4】特開2004−10978号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
しかしながら、第1の従来の放熱材料であるセラミックス基板は、基本的に、粒径が10-100μmのセラミックスパウダを適当なバインダを用いて焼結したものであるので、発熱部品とセラミックス基板との間に空隙が生じ、密着性が悪く、この結果、放熱性が悪いという課題がある。また、セラミックス基板の熱膨張係数が非常に小さく、従って、発熱部品とセラミックス基板との熱膨張係数の差から剥離が頻繁に生じるという課題もある。さらに、セラミックス基板のSiCあるいはAlNは硬度が高く、難加工材料であるので、切出し、研磨に時間を要し、この結果、製造コストが高いという課題もある。
【0009】
また、第2の従来の放熱材料であるダイヤモンド基板は、セラミックス基板と同様に、ダイヤモンド基板の熱膨張係数が非常に小さく、従って、発熱部品とダイヤモンド基板との熱膨張係数の差から剥離が頻繁に生じるという課題がある。また、ダイヤモンド基板は硬度が高く、難加工材料であるので、切出し、研磨に時間を要し、この結果、製造コストが高いという課題もある。さらに、ダイヤモンド基板は、セラミックス基板と異なり、非常に高価な材料なので、製造コストが著しく高くなる。
【0010】
さらに、第3の従来の放熱材料であるグラファイトフィルムは炭素系材料であるので、無機系材料であるセラミックス基板及びダイヤモンド基板に比較して放熱性が劣るという課題がある。
【0011】
さらにまた、第4の従来の放熱材料であるCNTも炭素系材料であるので、無機系材料であるセラミックス基板及びダイヤモンド基板に比較して放熱性が劣るという課題がある。また、CNTの脆弱性及び疎水性から発熱部品とCNTとの間の密着性が低いという課題もある。この場合、銅等の金属基板上にCNTを分散液等に混ぜてコーティングするのが一般的であるが、金属基板とCNTとの密着性が悪く、CNTが直ぐに剥がれてしまい、あるいは、剥がれなくとも、金属基板とCNTとは原子レベルで結合しているのではないので、必然的に熱抵抗が生じ、熱伝導の損失が生じるという課題が生ずる。尚、金属基板とCNTとの間にペーストを挿入してCNTの剥がれを防止できるが、ペースト自身が熱抵抗を生じ、熱伝導の損失を生じる。さらに、CNTが空気中において400℃以上に加熱されると、爆発的な燃焼が起こるという課題もある。
【課題を解決するための手段】
【0012】
上述の課題を解決するために、本発明に係る放熱材料は、表面にナノメートルオーダの凹凸構造を形成した金属含浸炭素系基板を具備する。これにより、可視光を含む領域の波長の光線の反射率を低くすると共に、遠赤外領域の波長の光線の反射率も低くする。
【0013】
また、本発明に係る放熱材料の製造方法は、金属含浸炭素系基板の表面に析出した金属を除去する工程と、金属が除去された金属含浸炭素系基板の表面にナノメートルのオーダの凹凸構造を加工する工程を具備する。
【発明の効果】
【0014】
本発明によれば、所定粒径(ナノメートルオーダ)の金属粒子を含浸した炭素系基板(金属含浸炭素系基板)の表面からエッチング処理により金属を除去する。これにより、本発明は、その金属含浸炭素系基板の表面には除去された金属に対応した大きさ(ナノメートルオーダ)の凹凸構造が形成される。そして、本発明は、この金属含浸炭素系基板上に形成された凹凸構造により可視光を含む領域及び遠赤外領域の反射率が低くなるため、輻射による放熱性を高くできる。また、本発明によれば、金属含浸炭素系基板を用いているので、放熱材料の融解及び熱伝導の悪化はほとんどなく、さらに、CNTを用いた場合のような爆発的な燃焼もない。
【図面の簡単な説明】
【0015】
【図1】本発明に係る放熱材料の金属含浸グラファイト基板のナノ凹凸構造の加工フローを示すフローチャートである。
【図2】図1のプラズマエッチング後の金属含浸グラファイト基板の表面の走査型電子顕微鏡(SEM)写真である。
【図3】図1のプラズマエッチング後の金属含浸グラファイト基板の表面の反射率を示すグラフである。
【図4】図1の表面析出金属除去工程を行わない場合のプラズマエッチング後の金属含浸グラファイト基板の表面の走査型電子顕微鏡(SEM)写真である。
【図5】図1のフローの変更例を示すフローチャートである。
【発明を実施するための形態】
【0016】
一般に、放熱材料においては、反射率Rが低下すると、放射率Iが上昇し、逆に、反射率Rが上昇すると、放射率Iが低下するという関係が成立する。この場合、光放熱つまり光放射能力を示す指数として放射率を用いるが、光の透過率がほぼ0の場合放射率I≒1-R(反射率)で表わされる。従って、理想的には、放熱材料としてたとえば可視光を含む領域及び遠赤外領域の反射率Rができるだけ0に近いものを用いると、放熱効率が大きくなることが分かる。
【0017】
図1は本発明に係る放熱材料のアルミニウム含浸グラファイト基板のナノ凹凸構造の加工フローを示すフローチャートである。
【0018】
始めに、ステップ101を参照すると、基板表面前処理つまりアルミニウム含浸グラファイト基板の表面に析出したアルミニウムを塩酸によるウェットエッチング法によって除去する。このウェットエッチング法の条件はたとえば次のごとくである。
エッチング液:塩酸:純水 = 1:4
エッチング温度:25℃
エッチング時間:30分
【0019】
尚、ステップ101におけるグラファイト基板に含浸された金属は、アルミニウム以外のアンチモン、錫、銅鉛、亜鉛、銅等のいずれでもよく、また、これらの合金でもよい。また、ウェットエッチング法のエッチング液は、これらの金属と反応する他の酸たとえばりん酸、硝酸等でもよい。また、ステップ101におけるエッチング方法としてはウェットエッチング法の代りにドライエッチング法でもよい。この場合、エッチングガスは、グラファイト基板に含浸した金属と反応するガスたとえば塩素、塩化ホウ素、塩化水素、臭化水素、臭化ホウ素等でもよく、また、これらの混合ガスでもよい。
【0020】
次に、ステップ102において、表面のアルミニウムが除去されたアルミニウム含浸グラファイト基板をO2ガスを用いたプラズマエッチング法によってエッチングして図2に示すナノメートルのオーダの凹凸構造のグラファイト基板を得る。このプラズマエッチング条件は、たとえば、次のごとくである。
RFパワー:500W
圧力:6.65Pa (50mTorr)
水素流量:150sccm
エッチング時間:30分
【0021】
尚、図1のステップ102でのプラズマエッチング法は、電子サイクロトロン共鳴(ECR)エッチング法、反応性イオンエッチング(RIE)法、大気圧プラズマエッチング法等のいずれでもよく、また、処理ガスは、O2ガス以外のArガス、N2ガス、H2ガス、CF4ガス等のいずれでもよい。
【0022】
従って、図3の実線に示すように、可視光を含む領域の波長0.4-2.4μmの平均反射率は2%以下と低くなる。従って、可視光を含む領域の吸収は最高となる。しかも、遠赤外領域の平均反射率も同程度と低くなる。この場合の放射温度計(KEYENCE FT-H20、商標名)によってアルミニウム含浸グラファイト基板の表面温度が150℃のときに、放射率は0.97と高かった。この結果、プラズマエッチングされた金属含浸グラファイト基板をそのまま放熱材料として用いることができる。
【0023】
尚、図1において、基板表面前処理ステップ101を行わずにプラズマエッチングステップ102を行うと、図4に示すように、金属(たとえばアルミニウム)含浸グラファイト基板表面の金属(アルミニウム)部分がプラズマ処理されず、反射率が高い部分として残存する。この結果、図3の点線に示すように、反射率は15〜25%と高くなる。
【0024】
図5は図1のフローの変更例を示し、図1の基板表面前処理ステップ101の後かつプラズマエッチングステップ102の前に、サンドブラスト等の機械的表面研磨及び/またはCO2レーザ、YAGレーザ、エキシマレーザ等のハイパワーレーザ照射による表面研磨による前処理を行う。これにより、不規則的周期のたとえばミクロメートルのオーダ、サブミクロメートルのオーダの凹凸構造を形成する。従って、グラファイト基板の表面積が増大して放熱効率が高くなる。
【0025】
尚、図5の不規則的周期のミクロン(サブミクロン)凹凸加工ステップ501において、グラファイト基板の表面に不規則的周期のミクロメートルのオーダもしくはサブミクロメートルのオーダの凹みを多数形成して表面積を増大させてもよい。たとえば、レジスト層を塗布し、次いで、不規則的周期パターンを有するフォトマスクを用いたフォトリソグラフィによりレジスト層のパターンを形成し、このレジスト層のパターンを用いてグラファイト基板をH2ガス及びO2ガスを用いたプラズマエッチングたとえばRIEを行い、その後、レジスト層のパターンを除去する。また、機械的ルーリングエンジン等を用いた切削方法によって不規則的周期のミクロメートルのオーダあるいはサブミクロメートルのオーダの剣山型凹凸構造を形成して表面積を増大させることもできる。この剣山型凹凸構造はエッチングで逆剣山型の金型を形成し、これに液体状のグラファイト材料、例えばカーボンブラック等を流し込んでも形成できる。
【0026】
ここで、規則的周期のミクロメートルのオーダあるいはサブミクロメートルのオーダの凹凸構造は2次元フォトニック結晶的効果を起こし、遠赤外領域の反射率を高めるので、放熱効率が低くなる逆効果となり、好ましくない。
【0027】
尚、上述の金属含浸グラファイト基板は金属含浸稠密グラファイト基板とすることができる。これにより、稠密グラファイト基板の靭性がさらに大きくなるので、放熱材料としての加工性、発熱部品との密着性が向上し、発熱部品と放熱材料との間の空隙がなくなる。
【0028】
また、上述の実施の形態では、グラファイト基板を用いたが、グラファイト基板以外の炭素系基板、たとえばダイヤモンド基板表面をプラズマエッチングして反射率を低減させた基板を用いてもよい。
【0029】
尚、金属を含浸していない炭素系基板たとえばグラファイト基板を用いると、グラファイトの脆性から機械加工性が低く、動的衝撃の生じる環境では用いることができない。また、耐摩耗性が低く、ねじ等による取付けができない。さらに、グラファイトは異方性熱伝導性を有するので、高い熱伝導性は1つの面内方向に限定される。従って、金属を含浸していない炭素系基板は好ましくない。
【0030】
尚、上述の実施の形態におけるナノメートルのオーダとは約10〜500nmの範囲を示し、サブミクロメートルのオーダとは約0.2〜10μmの範囲を示し、ミクロメートルのオーダとは約10〜500μmの範囲を示す。
【符号の説明】
【0031】
101:表面析出金属除去ステップ
102:ナノ凹凸構造加工ステップ
501:不規則的周期のミクロン(サブミクロン)凹凸加工ステップ



【特許請求の範囲】
【請求項1】
表面にナノメートルのオーダの第1の凹凸構造を形成した金属含浸炭素系基板を具備する放熱材料。
【請求項2】
さらに、前記第1の凹凸構造のサイズより大きい不規則的周期の第2の凹凸構造を前記金属含浸炭素系基板に形成した請求項1に記載の放熱材料。
【請求項3】
前記第2の凹凸構造のサイズがサブミクロメートルのオーダ以上である請求項2に記載の放熱材料。
【請求項4】
前記金属含浸炭素系基板が金属含浸グラファイト基板である請求項1に記載の放熱材料。
【請求項5】
金属含浸炭素系基板の表面に析出した金属を除去する表面析出金属除去工程と、
該金属が除去された金属含浸炭素系基板の表面をナノメートルのオーダの第1の凹凸構造に加工する第1の凹凸構造加工工程と
を具備する放熱材料の製造方法。
【請求項6】
前記表面析出金属除去工程が該金属に反応する酸を用いたウェットエッチング工程である請求項5に記載の放熱材料の製造方法。
【請求項7】
前記表面析出金属除去工程が該金属に反応するガスを用いたドライエッチング工程である請求項5に記載の放熱材料の製造方法。
【請求項8】
前記第1の凹凸構造加工工程がプラズマエッチング工程である請求項5に記載の放熱材料の製造方法。
【請求項9】
さらに、前記表面析出金属除去工程の後かつ前記第1の凹凸構造加工工程の前に、前記第1の凹凸構造のサイズより大きい不規則的周期の第2の凹凸構造を前記炭金属含浸炭素系基板の表面に加工する工程を具備する請求項5に記載の放熱材料の製造方法。
【請求項10】
前記第2の凹凸構造のサイズがサブミクロメートルのオーダ以上である請求項9に記載の放熱材料の製造方法。
【請求項11】
前記金属含浸炭素系基板が金属含浸グラファイト基板である請求項5に記載の放熱材料の製造方法。




【図1】
image rotate

【図3】
image rotate

【図5】
image rotate

【図2】
image rotate

【図4】
image rotate


【公開番号】特開2012−59795(P2012−59795A)
【公開日】平成24年3月22日(2012.3.22)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−199547(P2010−199547)
【出願日】平成22年9月7日(2010.9.7)
【出願人】(000002303)スタンレー電気株式会社 (2,684)
【Fターム(参考)】