説明

放電リアクター

【課題】放電リアクターを大型化することなくプラズマ放電の出力アップ並びに浄化性能の向上を実現することのできる放電リアクターを提供する。
【解決手段】高電圧電極1に接続される中心電極2と、この中心電極2に接続されると共に外周部11に溝部12が形成された内部電極3A〜3Eと、これら内部電極3A〜3Eを取り囲むようにしてその周囲に設けられた誘電体4と、誘電体4の外周囲に設けられた外部電極5と、を備える。また、複数ある内部電極3のうち一つの内部電極3Eの外周部11を誘電体4の内面4aに接触させる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、例えば放電リアクターに関し、詳細には、コロナ放電(プラズマ放電)の出力アップ並びに浄化性能の向上を実現する技術に関する。
【背景技術】
【0002】
バリア放電型リアクターは、例えば図6に示すように、ステンレス製ボルトからなる内部電極101と、この内部電極101を取り囲むようにしてその周囲に設けられる石英管102と、この石英管102の外周囲に設けられた外部電極103とからなる(例えば、非特許文献1参照)。図6には、3つのタイプのバリア放電リアクターを例示してある。
【0003】
かかるバリア放電型リアクターは、内部電極101と外部電極103との間に高周波交流やパルス電圧を印加させることでリアクター内部にコロナ放電(プラズマ)を発生させ、そのコロナ放電によって自動車などから排出される排気ガスを活性化させて浄化するようになっている。
【0004】
この他、図7に示すように、高電圧電極104に接続される中心電極105に円盤形状の内部電極106が取り付けられると共に、その内部電極106の外周囲に誘電体107と外部電極108がそれぞれ配置された構造の放電リアクターが知られている。
【0005】
この放電リアクターの内部電極106は、ステンレスからなる波板109と平板110を、外側が波板109、内側が平板110となるように、前記中心電極105に複数巻き付けてハニカム構造をなす円筒体として形成されている。
【0006】
図7に示すバリア放電型プラズマリアクターは、自動車用排気管111の中途部に接続され、自動車等から排出される排ガスを内部電極106から放射されるプラズマで浄化する機能をする。
【非特許文献1】「新版 静電気ハンドブック」 静電気学会編 オーム社 P.31
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
図7に示したバリア放電型プラズマリアクターにおいては、一般的に内部電極106の厚み方向における両端部106A,106Bからプラズマが発生しやすい。
【0008】
浄化性能を高めるためには、出来るだけプラズマを発生させる必要がある。そのためには、プラズマが発生しやすい内部電極106の端部106A、106Bを増やす必要がある。内部電極3の数を増やせば、自ずとプラズマが発生しやすい端部の数が増えるが、放電リアクター自体が大型化してしまうという弊害がある。
【0009】
そこで、本発明は、上記した課題を解決するために、放電リアクターを大型化することなくプラズマ放電(コロナ放電)の出力アップ並びに浄化性能の向上を実現することのできる放電リアクターを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
請求項1に記載の放電リアクターは、高電圧電極に接続される中心電極と、前記中心電極に接続されると共に外周部に溝部が形成された内部電極と、前記内部電極を取り囲むようにしてその周囲に設けられた誘電体と、前記誘電体の外周囲に設けられた外部電極と、を備える。
【0011】
請求項2に記載の発明は、請求項1に記載の放電リアクターであって、前記内部電極を前記中心電極に対して所定間隔で複数個配置し、それら内部電極のうち一つの内部電極の外周部を前記誘電体に接触させたことを特徴とする。
【0012】
請求項3に記載の発明は、請求項1または請求項2に記載の放電リアクターであって、前記高電圧電極側をガス流れの下流側としたことを特徴とする。
【発明の効果】
【0013】
請求項1に記載の放電リアクターによれば、内部電極の外周部に溝部が形成されることで、この溝部の両側に端部(エッジ)が形成されることになるから、この溝部両脇の端部からもプラズマが発生することになる。そのため、プラズマ出力が大幅にアップし、放電リアクターを排ガス浄化装置として使用した場合に浄化性能をより一層高めることができる。
【0014】
請求項2に記載の放電リアクターによれば、複数個設けた内部電極のうちの一つを誘電体にその外周部を接触させたので、接触部に沿面放電(放電電極と誘電体が接触した放電)が発生し、浄化性能がより一層向上する。また、この放電リアクターによれば、誘電体に内部電極が支えられることにより中心電極に取り付けられた内部電極の取り付け状態が安定する。
【0015】
請求項3に記載の放電リアクターによれば、高電圧電極側をガス流れの下流側とすれば、高電圧電極に生じるススやSOC(可溶性)などによる汚染を軽微なものとすることができる。なお、SOCは、soluble organic compoundsの略で 可溶性有機物のことである。
【発明を実施するための最良の形態】
【0016】
以下、本発明を適用した具体的な実施の形態について図面を参照しながら詳細に説明する。
【0017】
図1は本実施の形態の放電リアクターを一部破断して示す要部拡大斜視図、図2は図1の放電リアクターのうち中心電極に取り付けられた内部電極郡の斜視図、図3は図1の放電リアクターのうち内部電極の拡大斜視図である。
【0018】
本実施の形態の放電リアクターは、図1に示すように、高電圧電極1に接続される中心電極2と、この中心電極2に接続されるハニカム構造とされた内部電極3(3A〜3E)と、この内部電極3を取り囲むようにしてその周囲に設けられた誘電体4と、この誘電体4の外周囲に設けられた外部電極5と、を備え、例えば自動車等の内燃機関から排出される排ガスを浄化して排出させる自動車用排気管6の中途部に接続される。
【0019】
中心電極2は、細長い円柱体として形成されており、排ガスの流れ方向(図1中矢印Xで示す方向)にその長手方向を向けて配置されている。この中心電極2には、高電圧電極1が接続されている。リアクター内に挿入される高電圧電極1の挿入部分には、絶縁材料を巻き付けることで形成される絶縁体7が設けられている。この絶縁体7を設けることで、高電圧電極1への放電を防止している。
【0020】
内部電極3は、図2に示すように、中心電極2の長手方向に沿って所定間隔を置いて複数個設けられている。本実施の形態では、内部電極3は、同一の大きさとされた4つの内部電極3A〜3Dと、それよりも大きな直径とされた1つの大径の内部電極3Eの合計5つの電極郡からなる。
【0021】
かかる内部電極3(3A〜3E)は、図3に示すように、ステンレスからなる波板8と平板9を、外側が波板8、内側が平板9となるように、前記中心電極2に複数巻き付けてハニカム構造をなす円筒体として形成されている。このように構成された内部電極3は、波板8と平板9とから構成されることから、それらの間に圧力損失を低減させる働きをする空孔10を複数有する。なお、内部電極3の表面に浄化触媒を付着させて浄化性能をさらにアップさせるようにしてもよい。
【0022】
本実施の形態では、例えば同一の大きさとされた4つの内部電極3A〜3Dは、厚みTを10mm、直径Dを32mmとし、大径の内部電極3Eは、厚みTを10mm、直径Dをそれよりも大きき46mmとする。これらの大きさは、あくまで一例であり、前記した寸法に限定されるものではない。
【0023】
そして特に本実施の形態では、これら4つの内部電極3A〜3Dには、プラズマの発生をより高めるために、波板8の最外周部11に溝部12を形成している。例えば、内部電極3A〜3Dの外周部11には、溝幅Wを2mm程度としたスリットを形成して溝部12を形成している。溝部12の深さとしては、例えば、最も外側の波板8の波板高さの1/2程度の深さとすることが好ましい。溝部12の深さが深すぎると、波板8と平板9が分裂してしまう。そこで、波板8と平板9を重ねて巻回し終わって、外周の複数個所をスポット溶接等により溶接後、カッターにより最外周の波板8の外側頂部を板厚より少し深く切除する。
【0024】
前記溝部12が形成されることにより、その溝部12の両端部には、厚み方向である内部電極3の端部3a、3bと同じく、プラズマを発生する部位となる端部3c、3dが形成される。つまり、一つの内部電極3には、プラズマを発生させやすい端部3a〜3dであるプラズマ発生部位が合計4つ存在することになる。本実施の形態では、溝部12を形成した内部電極3が4つあるため、合計16個の端部3a〜3dを有したプラズマ発生部位を有していることになる。
【0025】
なお、大径の内部電極3Eには、溝部12を形成していないが、必要に応じて溝部12を形成しても構わない。
【0026】
誘電体4は、例えばセラミックス、アルミナ、ガラス、石英などによって円筒管として形成されている。この誘電体4は、全ての内部電極3A〜3Eをその内部に収容する円筒管として形成され、その軸芯方向を排気の流れ方向に向けて配置されている。本実施の形態では、前記した5つの内部電極3A〜3Eのうち1つだけ大径とされた内部電極3Eの外周部を、誘電体4の内面4aに接触させている。
【0027】
例えば、誘電体4には、厚み1.2mm、内径を前記大径の内部電極3Eの外径と同じ46mmとした石英管を使用した。
【0028】
外部電極5は、誘電体4の外周囲を取り囲むようにしてその周面に設けられている。この外部電極5が設けられる位置は、少なくとも前記内部電極3(3A〜3E)と対向する位置とされる。本実施の形態では、外部電極5にはコバール金属からなる電極管を使用し、その厚みを1mmとした。
【0029】
このように構成された放電リアクターでは、高電圧電極1及び中心電極2を介して内部電極3(3A〜3E)に高周波交流またはパルス電圧を印加すると、内部電極3と外部電極5間にプラズマ(コロナ放電)が発生し、そのコロナ放電によって排気ガス中に含まれるNOや残留ハイドロカーボンを活性化させ浄化させることができる。特に、プラズマは内部電極3の端部3a〜3dから発生し易いため、内部電極3の外周部11に溝部12を形成して端部3a〜3dの数を増やすことでプラズマ発生部位の数が増え、プラズマ出力をアップできる。これにより、本実施の形態の放電リアクターによれば、内部電極3の数を増やすことなくプラズマ出力アップが図れ、装置自体を大型化せずに、排気ガスの浄化性能を大幅に向上させることが可能となる。
【0030】
また、本実施の形態の放電リアクターによれば、複数ある内部電極3の一つの内部電極3Eの外周部11を誘電体4の内面4aに接触させたので、その接触部に沿面放電を発生させることができ、浄化性能をさらに向上させることができる。また、中心電極2に複数取り付けられることで重量のある内部電極郡が、誘電体4の内面4aでその一つの内部電極3Eが支えられることにより、電極郡が安定して誘電体4との距離を保って保持されることになる。
【0031】
また、本実施の形態の放電リアクターによれば、排ガスの流れ方向Xを図1に示す方向とは逆向きにして高電圧電極1側をガス流れの下流側とすれば、高電圧電極1に生じるススやSOCなどによる汚染を軽微にすることができる。
【0032】
ここで実際に、本実施の形態の放電リアクターを使用した浄化性能実験を行った。具体的には、14kV、4kHzの直流パルス放電を行って排ガスを浄化させた。図4は浄化性能を示す特性図であり、図5はプラズマ出力特性を示す特性図の結果を示す。
【0033】
なお、図4の●印は溝部12を形成した場合の浄化性能、▼印は溝部12を形成しなかった場合の浄化性能を示してある。図5の●印は溝部12を形成した場合のプラズマ出力特性、▼印は溝部12を形成しなかった場合のプラズマ出力特性を示してある。
【0034】
これらの結果から判るように、内部電極3に溝部12を形成した場合の方が溝部12を形成しなかった場合に比べて、NO浄化性能が40%向上し、投入電力も25%向上した。したがって、本実施の形態の放電リアクターにすれば、投入電力当たりの浄化比率を大幅に向上させることができる。
【0035】
以上、本発明を適用した具体的な実施の形態について説明したが、上述の実施の形態は一例であり、この実施の形態に本発明が限定されるものではない。
【図面の簡単な説明】
【0036】
【図1】図1は本実施の形態の放電リアクターを一部破断して示す要部拡大斜視図である。
【図2】図2は図1の放電リアクターのうち中心電極に取り付けられた内部電極郡の斜視図である。
【図3】図3は図1の放電リアクターのうち内部電極の拡大斜視図である。
【図4】浄化性能を示す特性図である。
【図5】図5はプラズマ出力特性を示す特性図である。
【図6】従来の放電リアクターの概略構成図である。
【図7】従来の他の構造の放電リアクターの概略構成図である。
【符号の説明】
【0037】
1…高電圧電極
2…中心電極
3(3A〜3E)…内部電極
3a〜3d…プラズマ発生部位となる端部
4…誘電体
5…外部電極
6…自動車用排気管
7…絶縁体
11…内部電極の外周部
12…溝部

【特許請求の範囲】
【請求項1】
高電圧電極(1)に接続される中心電極(2)と、
前記中心電極(2)に接続されると共に外周部(11)に溝部(12)が形成された内部電極(3A〜3E)と、
前記内部電極(3A〜3E)を取り囲むようにしてその周囲に設けられた誘電体(4)と、
前記誘電体(4)の外周囲に設けられた外部電極(5)と、を備えた
ことを特徴とする放電リアクター。
【請求項2】
請求項1に記載の放電リアクターであって、
前記内部電極(3A〜3E)を前記中心電極(2)に対して所定間隔で複数個配置し、それら内部電極(3A〜3E)のうち一つの内部電極(3E)の外周部(11)を前記誘電体(4)に接触させた
ことを特徴とする放電リアクター。
【請求項3】
請求項1または請求項2に記載の放電リアクターであって、
前記高電圧電極(1)側をガス流れの下流側とした
ことを特徴とする放電リアクター。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【公開番号】特開2008−259927(P2008−259927A)
【公開日】平成20年10月30日(2008.10.30)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−102618(P2007−102618)
【出願日】平成19年4月10日(2007.4.10)
【出願人】(000004765)カルソニックカンセイ株式会社 (3,404)
【Fターム(参考)】