説明

放電加工用電極及びその製造方法

【課題】有効に電極の強度を向上すると共に、作製性及びセッティング等の取扱い性に極めて優れた放電加工用電極を提供する。
【解決手段】放電加工用電極10は、被処理物との間に放電を発生させて、被処理物表面に皮膜を形成する。実質的な電極部分として、所定の目粗さとした連鎖状金属13の空孔部13aに皮膜の原料となる粉末14を充填し、これを圧縮成形してなる皮膜形成用圧粉体を有する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は放電加工を利用したコーティング、即ち放電コーティング技術における消耗電極部材の構造、より具体的にはエンジン用シリンダヘッドのバルブシート部に耐摩耗性付与を目的とする鋼(Fe)製シートリングを圧入することなく、シートリングの代替可能とする放電加工用電極に関する。
【背景技術】
【0002】
放電加工コーティングは、放電エネルギーを利用して消耗電極成分を被処理面に堆積させる処理であるため、消耗電極の成分が形成する皮膜成分を左右することになる。特許文献1にはこの技術を利用したコーティング技術が開示されている。
【0003】
ここで、特許文献1に開示される技術につき概略説明する。先ず、図7(a)に示すように放電加工装置100において油槽101内に被処理物(ワークW)がセットされ、ワークWの上方に導電性電極102が配置される。ワークW及び導電性電極102は、油槽101内に満たした加工油103に浸漬される。導電性電極102の先端には導電性接着剤104を介して電極1(消耗電極部材)が取り付けられる。油槽101側及び導電性電極102側にはパルス電源105が接続され、ワークWと電極1の間にパルス電圧が印加され、そのアーク放電によってワークW上に皮膜W1が形成される。
【0004】
特許文献1には、エンジンのシリンダヘッドのバルブシート部にコーティングする際の電極1の成形方法が開示される。これによれば、図7(b)のように上型202及び下型201でなる成形型200を用い、皮膜W1の構成成分となる粉末1Aが下型201のキャビティ内に充填され、上型202によって粉末1Aを加圧圧縮する。この例では、被コーティング面であるバルブシート形状に合わせ、電極1としては図7(c)のようにリング状に圧縮成形される。
【0005】
この方法による電極1は、粉末を圧縮して成形しただけであるため、強度的に脆く壊れ易い理由から電極作製及び電極セッティング時の取扱いが難しいという問題があった。そこで、圧縮成形した電極を破損しないように、慎重に導電性電極102先端に導電性接着剤104を用いて接着していた。この接着には例えばオーブンで50℃×1時間を要し、消耗電極の更新時には古い消耗電極及び接着剤を除去後、再度新しい電極1を接着する必要があり、極めて多くの時間を要していた。
【0006】
そこで、かかる取扱いの煩わしさを解決するため、特許文献2にはリング状等の形状への変形が容易で、且つ破損し難いNi系の発泡金属を消耗電極として使用する方法が開示されている。図8(b)のように目の細かいNi系の発泡金属板2Aを用い、この発泡金属板2Aをロールさせてリング状に成形し、電極2を形成する。この方法では消耗電極の取扱いは容易で、図8(a)のようにリング状に成型した発泡金属板2Aでなる電極2を導電性電極102の先端に巻き付ける。そして、締結バンド106で固定することで、上述した導電性接着剤104による固定に較べると電極セッティングに要する時間は短縮することができる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特開2002‐20882号公報
【特許文献2】特開2004‐255517号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
しかしながら、図8に示したような放電加工によるコーティングで形成される皮膜W1の種類がNi系に限定されざるを得なかった。また、Ni系金属は、放電加工液である加工油103から遊離した炭素と反応して炭化物を形成し難いということもあり、バルブシート部に適した硬くて耐摩耗性に優れた皮膜を得るのが必ずしも容易でなかった。
【0009】
本発明はかかる実情に鑑み、有効に電極の強度を向上すると共に、作製性及びセッティング等の取扱い性に極めて優れた放電加工用電極を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明の放電加工用電極は、被処理物との間に放電を発生させて、該被処理物表面に皮膜を形成するようにした放電加工用電極であって、実質的な電極部分として、所定の目粗さとした連鎖状金属の空孔部に皮膜の原料となる粉末を充填し、これを圧縮成形してなる皮膜形成用圧粉体を有することを特徴とする。
【0011】
また、本発明による放電加工用電極において、前記連鎖状金属の空孔部の孔径は、0.5mm<孔径<電極板厚であり、その空孔率は80〜98%であることを特徴とする。
【0012】
また、本発明による放電加工用電極において、前記連鎖状金属よりも目粗さの細かい第2の連鎖状金属を重ねて、これらを同時に圧縮成形した二層構造を有することを特徴とする。
【0013】
また、本発明による放電加工用電極において、前記第2の連鎖状金属の空孔部の孔径は、0.3〜1mm、その空孔率は70〜95%であることを特徴とする。
【0014】
また、本発明による放電加工用電極において、前記連鎖状金属又は前記第2の連鎖状金属を構成する長尺状素材を、リング状にロールしてこれを圧縮成形することを特徴とする。
【0015】
また、本発明による放電加工用電極において、二層構造のうち、前記第2の連鎖状金属に対応する金属部分を放電加工装置へのセッティング部位として使用することを特徴とする。
【0016】
また、本発明の放電加工用電極の製造方法は、被処理物との間に放電を発生させて、該被処理物表面に皮膜を形成するようにした放電加工用電極の製造方法であって、所定の目粗さとした連鎖状金属の空孔部に皮膜の原料となる粉末を充填し、これを圧縮成形してなる皮膜形成用圧粉体により実質的な電極部分を形成することを特徴とする。
【発明の効果】
【0017】
本発明によれば、皮膜形成用圧粉体の中に連鎖した細線を内蔵することで強度が向上し、且つ消耗電極の成分を限定することなく、硬く耐摩耗性に優れた皮膜を形成することのできる成分で消耗電極を作製することができる。また、皮膜形成用圧粉体と強度的にも優れた金属電極部とを一体成形した二層構造の電極とすることで、全体の強度を格段に向上させることができる。更に、メカニカルチャックや電磁チャックを用いてセッティング可能になり、迅速且つ強固に電極を固定することができる。
【図面の簡単な説明】
【0018】
【図1】本発明の実施形態における電極の構造及び作製方法を示す図である。
【図2】本発明の実施形態における電極の具体的な作製手順を示す図である。
【図3】本発明の実施形態における電極を構成する連鎖状金属とその空孔部の関係等を示す図である。
【図4】本発明の実施形態における電極を構成する皮膜形成用圧粉体における空孔率と破断荷重との関係等を示す図である。
【図5】本発明の実施形態における電極の放電加工装置へのメカニカルチャックによるセッティング方法の例を示す図である。
【図6】本発明の実施形態における電極の放電加工装置への電磁チャックによるセッティング方法の例を示す図である。
【図7】従来の電極の構造、作製方法及びセッティング方法の例を示す図である。
【図8】従来の別の電極の構造、作製方法及びセッティング方法の例を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0019】
以下、図面に基づき、従来例と実質的に同一又は対応する部材には同一符号を用いて、本発明による放電加工用電極の好適な実施の形態を説明する。
ここで先ず本実施形態において、既に説明したエンジンのシリンダヘッドのバルブシート部に、放電加工によってコーティングする際に使用する電極を作製する場合の例とする。また、そのコーティングのための放電加工は、図7等に示したような放電加工装置100において行われるものとする。
【0020】
図1(a)は、本発明による消耗電極部材10(以下、単に電極という)を示している。なお、この電極10は、放電加工装置100の導電性電極102の先端に取り付けられるものとする。本実施形態の電極10は連鎖した細線を内蔵した皮膜形成用圧粉体11と、粉末を含まない金属部分12との二層(もしくは二段)構造となっている。
【0021】
ここで、電極10の成形方法について説明する。図1(b)のように上型202及び下型201でなる成形型200を使用する。先ず、下型201のキャビティ内に目の粗い連鎖状金属13(金属細線が連鎖することで構成された構造体)が装填され、更に連鎖状金属13の空孔部13aにコーティング皮膜の原料となる原料粉末14が充填される。連鎖状金属13の上に、目の細かい連鎖状金属15を重ねて装填し、上型202によって同時に圧縮することで、皮膜形成用圧粉体11及び金属部分12から電極10が成形される。
【0022】
かかる構成の電極10において結論的に言うと、皮膜形成用圧粉体11の中に連鎖した細線(連鎖状金属13)を内蔵することで強度が向上し、且つ消耗電極の成分を限定することなく、硬く耐摩耗性に優れた皮膜を形成可能な成分で消耗電極を作製することが可能となる。連鎖した細線を内蔵した皮膜形成用圧粉体11と、強度的にも優れた金属部分12を一体成型することで、電極10全体の強度を更に向上させた二層構造の電極とする。ここで、二種類の連鎖状金属13,15を重ねて一体成形する際、それぞれの連鎖状金属の端面から延出した細線同士が、それらの合わせ面16(図1(b)参照)で絡み合いながら圧縮成形され、強固に結合させることができる。この金属細線の絡み合いによる合わせ部での結合力強化は、二層に重ねた層相互間の連鎖状金属同士の結合力だけでなく、それぞれの連鎖状金属13,15単独において例えばリング状にロールした際の突合わせ面でも同様の効果が得られる。
【0023】
更に図2を参照して、電極10の具体的な作製手順を説明する。
1)先ず、シリンダヘッドのバルブシート形状に合ったリング状となるように、目の粗い連鎖状金属13(長尺状素材)を矢印のようにロールしてリング状にし、成形型200の下型201にセットする。なお、連鎖状金属13をロールさせることで、連鎖状金属13の長手方向の端部同士が突合わせ面13Aにて突き合わさる。この突合わせ面13Aにおいても、連鎖状金属13の金属細線の絡み合いにより、上述したような相互の結合力強化が得られる。
【0024】
2)リング状にした目の粗い連鎖状金属13に対して、皮膜原料となる原料粉末14を投入し、連鎖状金属13の空孔部13aに原料粉末14を充填する。この場合、原料粉末14は図1(b)に示されるように、連鎖状金属13の上端部が適度に露出する程度とする。このように連鎖状金属13の上部を露出させることで、二層構造となった電極構造体を圧縮成形した際に、目の粗い連鎖状金属13と目の細かい連鎖状金属15との合わせ面16において、それらを構成する細線同士が絡み合うことを助長させる。なお、原料粉末14を過投入すると、目の粗い連鎖状金属13の端面(上端面)を原料粉末14で覆うこととなり、そのままでは細線同士が絡み合い難くなり、二層構造の合わせ部の結合レベルを低下させる。
【0025】
3)目の細かい連鎖状金属15(長尺状素材)をロールしてリング状にし、既にセットした目の粗い連鎖状金属13に重ねた状態で成形型200(の下型201)にセットする。なお、この場合も連鎖状金属15をロールさせることで、連鎖状金属15の端部同士が突合わせ面15Aにて突き合わさる。
4)最後に上型202をセットし、加圧・圧縮することで電極10を一体成形する。
【0026】
ここで、ワークW上に皮膜W1を形成する実質的な電極部分となる連鎖状金属13の目の粗さ(目粗さ)、即ち空孔部13aの孔径(=d)については、原料粉末14の充填性を考えると、d=0.5mm超が好ましい。この点に関して図3を参照して説明する。孔径dが0.5mm以下の場合、金型201にセットした連鎖状金属13の上端部のみを除いた部分に原料粉末14を充填することが難しくなり、即ち図3(a)のように連鎖状金属13の下端部13bにおいても原料粉末14の充填不足が発生してしまう。かかる充填不足の状態で圧縮成形すると、成形後の電極10の一部(下端部)に連鎖状金属13のみで作製された原料粉末14の未充填部17ができてしまう。このような未充填部17の存在下では放電コーティングの際、連鎖状金属13自体の成分材料がワークWの被処理面に堆積し、充填した原料粉末14の成分による皮膜は形成されない。つまり、目的とする皮膜が得られない。
【0027】
また、空孔部13aの孔径がd=1.0mmの場合、及びd=1.5mmの場合とも、所定量の原料粉末14が適正に充填され、充填後の圧縮成形において上述したような未充填部17は発生しない。更に、孔径dの上限としては、連鎖状金属13をリング状にして金型200にセットした状態で、その構成金属細線が連鎖するためには電極10の板厚tmm(図3(b)参照)よりも孔径dが小さいことが好ましい。従って、空孔部13aの孔径dの範囲は、0.5mm<d<tmmとするのが好適である。
【0028】
次に、目の粗い連鎖状金属13に原料粉末14を充填・圧縮した電極10に関して、空孔率と引張による破断荷重の関係を図4(a)に示す。なお、空孔率とは、連鎖状金属13全体の体積に対して空孔部13aが占める割合として定義される。この場合、図4(b)に示すように連鎖状金属13の両端部(直径方向)を引張り、その引張荷重Fを変化させて行った。空孔率が大きくなるに従い、破断荷重も低下する。連鎖状金属13が内蔵されたリング状の皮膜形成用圧粉体11の破断荷重が、原料粉末14のみを圧縮成形してなる圧粉体の場合(図4(a)の破断荷重F1)よりも高くなるためには、空孔率が98%以下である必要があることがわかる。また、原料粉末14の充填性を考え、空孔率は80%以上であることが望ましい。なお、連鎖状金属13のみをリング状に圧縮成形した場合、その破断荷重F2であった。
【0029】
また、目の細かい連鎖状金属15の孔径は、圧縮成形した際の細線の絡み合いを維持するため0.3〜1mm程度が望ましい。孔径が0.3mm未満では合わせ面16に生じた細線(の腕)が短く、目の粗い連鎖状金属9の合わせ面16で絡み合う程度が低下し十分な結合が得られない。また、孔径が1mm超では合わせ面16で絡み合う細線(の腕)の数が低下してしまい、十分な結合が得られない。また、目の細かい連鎖状金属15の空孔率は、容易な圧縮成形性を考慮し、70〜95%程度が望ましい。
【0030】
つまり、原料粉末14が充填される目の粗い連鎖状金属13は、原料粉末14の充填性と皮膜形成用圧粉体11の強度の向上を考慮すると、孔径(=d)を0.5mm<d<tmm、空孔率を80〜98%とする。また、目の細かい連鎖状金属13は、合わせ面16における十分な結合強度と容易な圧縮成形性を得るために、孔径dを0.3〜1mm、空孔率を70〜95%程度とする。
【0031】
さて、以上のようにして作製した二層構造の電極10のセッティング方法を説明する。電極10の二層構造のうち、強度が増した金属部分12を放電加工装置100へのセッティング部位として使用する。金属部分12を使うことで、従来技術で困難であったメカチャック及び電磁チャックが利用可能となり、迅速且つ強固に固定することができる。また、これまでの電極1あるいは電極2に対して、負荷低減のため実施していた導電性接着剤104による接着や締結バンド106による固定等と比較すると、セッティングに要する時間及び電極固定時の密着レベルの向上、そして更には消耗電極の更新に要する時間の短縮など、セッティング時の作業性が格段に向上する。
【0032】
ここで図5を参照して、メカニカルチャックを用いて、放電加工装置100に電極10をセットするセッティング方法の例を説明する。ここでは、前述した二層構造の電極10を使用するものとし、該電極10がセットされる導電性電極102には、チャック20を装着するための内孔102a(典型的にはストレート孔とする)が形成されている。チャック20は、内孔102aの内周に沿って配設される拡張板21と、拡張板21の内側に挿入される拡張棒22とを有し、両者が協働して電極10を保持固定するようになっている。この場合、拡張板21は全体として、この例では中空円筒状を呈し、円周6分割した6枚の切片から構成される。また、拡張棒22は、上方側を先細としたテーパ状の棒体により構成され、少なくとも下方側大径部の外径は、拡張板21の内径よりも大きく設定される。
【0033】
電極10は図5(b)のi)〜iii)の手順でセットされる。即ち、先ず拡張棒22が拡張板21の下端から突出した状態では、拡張板21の内径は収縮した状態となっている。拡張板21をこの収縮状態i)で、その強度が強化されている金属部分12の孔12aに挿入し、且つii)のように金属部分12を導電性電極102の先端(下端面)に密着させる。この密着状態で拡張棒22を、iii)のように拡張板21の内方へ押入し、これにより拡張板21が円周方向に拡張する、即ち拡径する。このように剛性強固な金属部分12を利用して、その孔12aの内周面を保持し、これにより電極10を適正且つ的確に固定することができる。この場合、上述のように拡張棒22を拡張板21内に押入するだけの簡単な作業で、電極10をスピーディにセット可能とする。
【0034】
なお、上記のように6枚の拡張板21は相互に分離もしくは分割構成されたものであってもよく、あるいはまた、中空円筒体の上端部を除いてその下方部位に上下方向のスリットを形成することによって、全体としての径が拡縮変形するように構成することも可能である。また、拡張板21の枚数等は、6枚の他に適宜増減可能である。
【0035】
更に図6を参照して、電磁チャックを用いて、放電加工装置100に電極10をセットするセッティング方法の別の例を説明する。この例では電極10のチャック方法として、目の細かい連鎖状金属15を圧縮成形してなる金属部分12の材質として、FeあるいはNi等の磁性材料を用いる。また、放電加工装置100の導電性電極102を電磁チャック30として構成する。
【0036】
電極10は図6(b)のi)〜ii)の手順でセットされる。i)のように電磁チャック式の導電性電極102の先端(下端面)に磁性材料で形成された金属部分12を密着させ、ii)のように磁力により電極10を導電性電極102に固定する。
【0037】
電極10のセッティング方法として、メカニカルチャック及び電磁チャックの例を説明したが、更に両者を併用することも可能である。メカニカルチャック及び電磁チャックを併用することで、電極10のより強固な固定を実現することもできる。
【0038】
(実施例)
次に、本発明の更に具体的な実施例について説明する。この実施例において図2等を参照して、連鎖状金属13の形成に際してニッケルの細線を用い、その空孔部13aの孔径d=1mm、空孔率97%、厚さ3mm、その内径24mmになるようにリング状にロールし、成形型200の下型201にセットした。次に、Mo系皮膜を形成するために、表1に示した割合(重量パーセント)で混合した原料粉末14を充填した。原料粉末14の充填後、孔径0.5mm、空孔率95%、厚さ3mmとした連鎖状金属15を、上記のように原料粉末14を充填した連鎖状金属13の上に重ね400MPaで圧縮成形した。
【0039】
【表1】

【0040】
上記条件で圧縮成形した二層構造の電極10を使用し、この電極10を前述したメカニカルチャック方式で導電性電極102にセットした。そして、以下の2点につき従来技術(原料粉末のみを圧縮成型してなる電極を導電性接着剤で固定したもの)と比較した。
1.成型後の電極の成形状態(欠け及び亀裂の有無)
2.電極の作製から放電加工機の導電性電極へのセッティング完了までの時間
【0041】
本発明と従来技術を用いて、各10ヶ圧縮成形したときの電極の成形状態(欠け及び亀裂の有無)と、電極の作製から放電加工装置100へのセッティング完了までに要する時間の平均値を、それぞれ表2及び表3に示す。
先ず、欠け及び亀裂の発生は、本発明により作製した電極10には観察されなかったのに対し、従来技術では10ヶ中に5ヶに亀裂が観察された。連鎖状金属13を圧粉体内に内蔵し、且つ金属電極体との二層一体成形構造にすることで、電極10の強度が向上し欠け及び亀裂が発生しなくなったことが分かる。
【0042】
次に、電極10の作製から放電加工機へのセッティング完了までに要する時間は、本発明ではが7分要したのに対して、従来技術が72分で、所要時間が約1/10と大幅に短縮することができた。なお、電極セッティングには手作業を含み、また従来技術の場合には接着剤の乾燥時間が大半を占める。本発明ではワンタッチもしくはこれに準ずる操作、作業で極めてスピーディ且つ的確に電極10をセッティングすることができる。つまり、電極10の強度向上と作製からセッティングまでの所要時間の短縮により、作業性が格段に改善できた。
【0043】
【表2】

【0044】
【表3】

【0045】
以上、本発明を種々の実施形態と共に説明したが、本発明はこれらの実施形態にのみ限定されるものではなく、本発明の範囲内で変更等が可能である。
上記実施形態において、エンジンシリンダヘッドのバルブシート部の放電コーティング用電極構造としてリング状の消耗電極について記述したが、リング形状以外でも同様の強度向上とセッティングの迅速化が可能である。
【符号の説明】
【0046】
10 電極、11 皮膜形成用圧粉体、12 金属部分、13 連鎖状金属、13a 空孔部、14 原料粉末、15 連鎖状金属、16 合わせ面、100 放電加工装置、101 油槽、102 導電性電極、103 加工油、105 パルス電源、200 成形型、201 下型、202 上型。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
被処理物との間に放電を発生させて、該被処理物表面に皮膜を形成するようにした放電加工用電極であって、
実質的な電極部分として、所定の目粗さとした連鎖状金属の空孔部に皮膜の原料となる粉末を充填し、これを圧縮成形してなる皮膜形成用圧粉体を有することを特徴とする放電加工用電極。
【請求項2】
前記連鎖状金属の空孔部の孔径は、0.5mm<孔径<電極板厚であり、その空孔率は80〜98%であることを特徴とする請求項1に記載の放電加工用電極。
【請求項3】
前記連鎖状金属よりも目粗さの細かい第2の連鎖状金属を重ねて、これらを同時に圧縮成形した二層構造を有することを特徴とする請求項1又は2に記載の放電加工用電極。
【請求項4】
前記第2の連鎖状金属の空孔部の孔径は、0.3〜1mm、その空孔率は70〜95%であることを特徴とする請求項3に記載の放電加工用電極。
【請求項5】
前記連鎖状金属又は前記第2の連鎖状金属を構成する長尺状素材を、リング状にロールしてこれを圧縮成形することを特徴とする請求項1〜4のいずれか1項に記載の放電加工用電極。
【請求項6】
二層構造のうち、前記第2の連鎖状金属に対応する金属部分を放電加工装置へのセッティング部位として使用することを特徴とする請求項3〜5のいずれか1項に記載の放電加工用電極。
【請求項7】
被処理物との間に放電を発生させて、該被処理物表面に皮膜を形成するようにした放電加工用電極の製造方法であって、
所定の目粗さとした連鎖状金属の空孔部に皮膜の原料となる粉末を充填し、これを圧縮成形してなる皮膜形成用圧粉体により実質的な電極部分を形成することを特徴とする放電加工用電極の製造方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【公開番号】特開2011−127211(P2011−127211A)
【公開日】平成23年6月30日(2011.6.30)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−289172(P2009−289172)
【出願日】平成21年12月21日(2009.12.21)
【出願人】(000002082)スズキ株式会社 (3,196)
【Fターム(参考)】