説明

放電加工用電極線およびその製造方法

【課題】放電加工時に電極線の微細切れが少なく被加工物の面粗度が向上する放電加工用電極線とその製造方法を提供する。
【解決手段】放電加工用電極線の製造方法は、第1金属の第1直径からなる線材を芯線21として準備する段階と、前記芯線21に第2金属をメッキする段階と、前記第2金属がメッキされた芯線を第2直径に細線すると同時に該第2直径の細線表面に一定パターンの皺23aを形成する段階と、前記芯線と第2金属の相互拡散によって該芯線と第2金属の境部に形成される第1合金層22と、前記第1金属が前記第2金属の方に拡散されて前記第1合金層の外郭に第2合金層23が形成されるように熱処理する段階を含む。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は放電加工用電極線およびその製造方法に関し、さらに詳しくは、電極線の放電加工時に微塵の発生が少なく、加工速度と被加工物の面粗度が向上する放電加工用電極線およびその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
一般に、放電加工用電極線を用いる放電加工方法は、図1のように被加工物1に予め形成しておいたスタート穴7に電極線2を挿通させ、該電極線2を挿通方向に引っ張って移動させながら、電極線2とスタート穴7の内壁面との間に高周波電圧を印加することによって、その隙間にアークを発生させ、被加工物1を溶融して加工液および電極線、被加工物などの瞬間的な気化爆発力によって溶融物を除去することにより、所定の形状に被加工物を加工する方法である。
【0003】
前記放電加工のために放電加工機には電源供給装置、電極線搬送装置、被加工物の搬送装置そして加工液循環装置が設置される。
被加工物搬送装置は、図1に示す矢印方向、即ち電極線2に直交する方向に移動され、電極線2は供給リール3から連続的に送出され、被加工物の両端のガイドローラ5、5′を経て巻取リール4に巻き取られる。
【0004】
この時、被加工物1と電極線2との間に電源供給装置6によって高周波電圧が印加されて切削加工が行なわれ、切削加工時に発生する熱を冷却するために脱イオン純水が加工領域に加工液として供給される。放電加工の効率、特に加工速度は加工液の供給流速、加工電流密度、そして放電波形および周波数などと密接な関係があり、その技術の構成要素などの調節によって改善できると知られている。
【0005】
放電加工用電極線としては従来から純銅が使用されているが、純銅は導電性が良いだけではなく延伸率が高くて細線加工が容易であるためである。しかし純銅線は放電加工するとき、引張力が低いのでよく断線するという短所がある。また、引張力をあまり大きくすることができないので電極線の振動を抑制できなくなり、加工の精度が低下するという短所がある。また、加工速度が遅くなるなど様々な問題がある。従って、特殊加工用としてモリブデン線、タングステン線などの精密加工用の高強度線が使用されたり、一般加工用として65/35重量比の黄銅線を代表とする黄銅電極線が幅広く使用されたりしている。
【0006】
黄銅電極線は純銅と比べて約2倍以上の引張力を有し、また合金成分である亜鉛の役目によって放電安定性、気化爆発力などが向上する。従って、純銅電極線より加工速度を速くすることができ、加工の精度が向上するという長所を有する。
また、放電加工の利用分野が拡大することによって、一層引張力および加工速度の向上の要求が高まり、黄銅にAl、Siなどの微量の元素を添加して引張力と加工速度を向上させた黄銅電極線が開発されている。
黄銅合金中の亜鉛含量が高いほど加工速度は向上すると考えられるが、亜鉛含量が40%を超えると脆弱なβ相が形成されるので、細線にするときに引抜きが容易ではない。
【0007】
このような問題点を改善するために、本発明の発明者は、韓国特許登録10−518727において、電極線が銅を含む第1金属からなる芯線と、前記芯線の縁に第1金属と第2金属との相互拡散反応によって第2金属の成分が第1金属の方向に拡散して芯線の外郭から芯線の中心方向に形成される合金層と、前記芯線上に第1金属と第2金属との相互拡散反応によって第1金属の成分が第2金属の方向に拡散されて形成される合金メッキ層と、前記合金メッキ層上に形成され、前記芯線である第1金属より低い気化温度を有する第2金属からなるメッキ層を含み;前記芯線上に形成される合金メッキ層は前記第1金属と第2金属の相互拡散反応によって形成され、前記複数層の中で一番高い硬度と低い延伸率を有し;前記合金メッキ層およびメッキ層は電極線の長手方向に対して概ね直角をなすクラックを含む電極線を提案した。
【0008】
また、電極線が、銅を含む第1金属からなる芯線と、前記芯線の縁に第1金属と第2金属との相互拡散反応によって第2金属の成分が第1金属の方向に拡散して芯線の外郭から芯線の中心方向に形成される合金層と、前記芯線上に第1金属と第2金属との相互拡散反応によって第1金属の成分が第2金属の方向に拡散して形成される合金メッキ層を含み;前記芯線上に形成される合金メッキ層は第1金属と、第1金属より低い気化温度を有する第2金属の相互拡散反応によって形成され、芯線より高い硬度と低い延伸率を有する合金メッキ層をなし、前記合金メッキ層は電極線の長手方向に対して直角をなすクラックを含む電極線を提案し、前記第1金属は銅、黄銅または銅合金、前記第2金属は亜鉛、アルミニウム、錫またはその合金を利用する。
【0009】
また、本発明の発明者は、韓国特許登録10−518731から、放電加工機に使用される電極線の製造方法に於いて、銅を含む第1金属からなる第1直径の線材を芯線として準備する段階と;前記第1金属の芯線を第1金属より低い気化温度を有する第2金属が溶融されている溶融メッキ槽に通して、芯線の外郭に第1金属と第2金属との相互拡散反応によって前記第1金属および第2金属より硬度が高く、延伸率が低い合金層を形成するとともに、その上に第2金属からなるメッキ層を形成するための溶融メッキ段階と;前記合金層とメッキ層が形成された前記線材を第2直径に引抜きながら、前記合金層の高い硬度と低い延伸率によって前記合金層およびメッキ層にクラックを形成する段階と;前記クラックが形成された細線を熱処理して機械的な性質を安定化させる段階を有する技術を提案した。
前記芯線に合金層とメッキ層を形成するために芯線を400〜500℃の溶融メッキ槽に1〜10秒間通し、前記第1金属は銅、黄銅または銅合金、前記第2金属は亜鉛、アルミニウム、錫またはその合金を利用する。
【0010】
また、本発明の発明者は、韓国特許登録10−518733から、放電加工機に使用される電極線の製造方法において、銅を含む第1金属からなる第1直径の線材を芯線として準備する段階と;前記第1金属の芯線を第1金属より低い気化温度を有する第2金属が溶融されているメッキ槽を通して芯線の外郭に第1金属と第2金属との相互拡散反応によって前記第1金属および第2金属より硬度が高く延伸率が低い合金メッキ層を形成するための溶融メッキ段階と;合金メッキ層が形成された前記線材を第2直径に引抜きしながら合金メッキ層の高い硬度と低い延伸率によって合金メッキ層にクラックを形成する段階と;前記クラックが形成された細線を熱処理して機械的な性質を安定化させる段階を有する技術を提案した。
【0011】
上述した従来の技術では、亜鉛層の溶融および加えられる熱によって銅を含む芯線金属と相互拡散反応により銅亜鉛の細片粒から構成される合金層を有する電極線を形成することによって、加工速度が改善されるという長所はあるが、510N以上の黄銅の芯線が延伸工程で鋼線化されるのでよく割れて放電加工時微塵及び細片屑が多く発生するという問題点がある。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0012】
【特許文献1】韓国特許登録10−518727号公報
【特許文献2】韓国特許登録10−518731号公報
【特許文献3】韓国特許登録10−518733号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0013】
本発明は斯かる問題点を解決するために、電気メッキと細線引抜きを経た後に熱処理することによって放電加工用電極線に界面が発生しないようにし、電極線の周りに波形の皺がよるように形成する。即ち、放電加工用電極線は界面がない滑らかな表面を有し、該表面に曲面波形の皺が電極線の長手方向に沿って形成されるように構成する。
【0014】
メッキ層を60〜490℃の温度で熱処理して合金層にし、電極線の引張力を400〜1100N/mmに維持しながら該合金層の表面に曲面波形の皺を有する放電加工用電極線を製造することによってクラックによる細片粒の発生を防止し、皺の形成により表面積の拡大による加工速度および被加工物の面粗度が向上し、微細切れの発生が著しく改善される放電加工用電極線を提供することを目的とするものである。
【0015】
本発明の他の目的は、界面が形成されない放電加工用電極線を熱処理する過程で60〜490℃の酸化雰囲気で熱処理することによって放電加工用電極線に合金層と酸化層を形成して加工速度および被加工物の面粗度の向上を最大化することができる放電加工用電極線およびその製造方法を提供することである。
前記のように合金層が形成された電極線の表面において界面(クラック)形成を根本的に抑制し、合金層が形成された電極線の表面に熱処理の過程で必要に応じて酸化層を形成することによって、放電加工時被加工物の面粗度を向上し電極線の微細切れの発生を抑制するとともに速い加工速度を維持することができる。
【0016】
本発明のまた他の目的は、放電加工の精度を改善し微細切れの屑が発生し難い環境にやさしい電極線を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0017】
前記目的を達成するための本発明の放電加工用電極線は、銅を含む第1金属からなる芯線と、前記芯線の外面にメッキされる第2金属が前記芯線との相互拡散によって前記芯線と第2金属の境部に形成される第1合金層と、前記第1金属が前記第2金属の方に相互拡散されて前記第1合金層の外郭に形成される第2合金層からなり、前記第2合金層の表面には一定パターンの皺が構成されることを特徴とする。
【0018】
また、前記芯線、第1合金層および第2合金層はクラックがないことを特徴とする。
また、前記電極線の引張力は400〜1100N/mmであることを特徴とする。
また、前記第2合金層に構成される一定パターンの皺は酸化層によって構成されることを特徴とする。
また、前記第1金属は銅、黄銅または銅合金からなり、前記第2金属は亜鉛、アルミニウム、錫またはその合金からなることを特徴とする。
【0019】
本発明の目的を達成するための放電加工用電極線の製造方法は、第1金属の第1直径からなる線材を芯線として準備する段階と、前記芯線に第2金属をメッキする段階と、前記第2金属がメッキされた芯線を第2直径に細線化すると同時に該第2直径の細線表面に一定パターンの皺を形成する段階と、前記芯線と第2金属の相互拡散によって該芯線と第2金属の境部に形成される第1合金層と、前記第1金属が前記第2金属の方に拡散されて前記第1合金層の外郭に第2合金層が形成されるように熱処理する段階を含むことを特徴とする。
【0020】
本発明の目的を達成するための放電加工用電極線の他の製造方法は、銅を含む第1金属の第1直径からなる線材を芯線として準備する段階と、前記芯線に第2金属をメッキする段階と、前記第2金属がメッキされた芯線を第2直径に細線化する段階と、前記芯線と第2金属の相互拡散によって該芯線と第2金属の境部に形成される第1合金層と、前記第1金属が前記第2金属の方に拡散されて前記第1合金層の外郭に第2合金層が形成されるように熱処理する段階と、前記第2合金層の表面に酸化層を形成し、その酸化層の表面に一定パターンの皺を形成する段階を含むことを特徴とする。
【0021】
前記熱処理段階は、1〜120時間、60〜490℃の温度で行なわれることを特徴とする。
また、前記メッキは、電気メッキ方法からなることを特徴とする。
また、前記熱処理は、酸化雰囲気で行なわれることを特徴とする。
また、前記第1金属は純銅、または63〜67重量%の銅と33〜37重量%の亜鉛からなる黄銅が使用され、第2金属は亜鉛、アルミニウム、錫またはその合金が使用される。
前記第1直径の芯線は0.9〜1.2mm、第2直径の芯線は電極線の完成品の規格である0.07〜0.35mmに形成する。
【0022】
前記第1合金層は1〜3μm程、第2合金層は2〜20μm程に形成する。
前記細線化後に熱処理の段階で芯線線材の縁に第1金属と第2金属の相互拡散反応によって第2金属の成分が第1金属の方向に拡散されて芯線の外郭から芯線中心の方向に第1合金層が形成され、なお第1合金層の外郭に第1金属と第2金属の相互拡散反応によって第1金属の成分が第2金属の方向に拡散されて芯線である第1金属より気化温度が低く、第2金属の気化温度より高い第2合金層が形成される。
【発明の効果】
【0023】
本発明の放電加工用電極線は、細線引抜きの後に60〜490℃の温度で熱処理されるので放電加工用電極線にクラックが発生し難く、放電加工時電極線から発生する微細切れ屑を抑制できるという効果が得られる。
また、放電加工時に微細切れ屑の発生が抑制されると微細切れ屑による再放電を防止し電極線が通るダイヤモンドガイドダイスホールが微細切れ屑によって詰められることを防止することができる。
【0024】
また、放電加工用電極線の長手方向に表面に一定の曲面波形の皺が構成されるので、表面積が増加して加工速度および被加工物の面粗度を改善するという効果が得られる。
特に、本発明の放電加工用電極線は、クラック即ち、界面がない表面に皺を有する酸化層が形成されるので被加工物の面粗度を最大化し加工速度を改善するという効果が得られる。
このような面粗度および加工速度の改善は、限定される線径のもとで表面積が拡大された電極線から微細切れ屑が発生し難く、第1金属より気化温度が低い第2合金層が酸化層と相互作用して放電のとき熱エネルギーの爆発力が増加するため可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0025】
【図1】一般的な放電加工機の技術構成およびその原理を説明するための概略図である。
【図2】本発明の実施形態1の放電加工用電極線の断面構造を示す図面である。
【図3】本発明の実施形態1の放電加工用電極線の製品写真である。
【図4】本発明の実施形態2の放電加工用電極線の断面構造を示す図面である。
【図5】本発明の実施形態2の放電加工用電極線の製品写真である。
【発明を実施するための形態】
【0026】
本発明の放電加工用電極線は、図2のように約0.25mmの直径に細線化された銅65重量%、亜鉛35重量%の黄銅芯線21が構成される。前記細線にされた黄銅芯線21には1〜3μm程の第1合金層22と、2〜20μm程の第2合金層23が形成され、前記第2合金層の表面には曲面波形の皺23aが形成される。前記曲面波形の皺はメッキされた芯線を細線にする過程で図示されていない別の皺形成ダイスローラを使用して形成する。
【0027】
また、本発明の放電加工用電極線の他の実施形態は、図4のように約0.25mmの直径に細線化された銅65重量%、亜鉛35重量%の黄銅芯線21が構成される。前記細線にされた黄銅芯線21には1〜3μm程の第1合金層22と、2〜20μm程の第2合金層23が形成され、前記第2合金層の表面には曲面波形の皺24aを有する酸化層24が形成される。前記酸化層に形成される皺24aは酸化層の形成条件を適切にコントロールして得ることができる。
【0028】
特に、本発明の放電加工用電極線は亜鉛がメッキされた芯線を細線にした後、60〜490℃の低い温度で一定時間熱処理して芯線と亜鉛金属の相互拡散反応によって芯線の外層に第1合金層と第2合金層が形成されるので、クラックによる界面が発生することなく電極線の引張力を400〜1100N/mmに維持することができる。
前記のように構成される放電加工用電極線は、2次的な追加熱処理段階を経て機械的な性質をさらに安定化させることができる。
図3は表面に酸化層が形成されていない本発明の放電加工用電極線を示す写真であり、図5は表面に酸化層が形成された本発明の放電加工用電極線を示す写真である。
図3および図5を参照すると表面にクラックまたは、クラックが発生した跡(界面)もなく滑らかな状態を維持するとともに表面には電極線の長手方向に沿って一定パターンの長い皺が形成されていることが分かる。
【0029】
前記芯線21の材料は銅または黄銅など銅を含む金属であれば良い。この芯線21によって電極線として要求される電気伝導度および機械的な強度に対応でき、第2合金層23は亜鉛のような芯線21に使用される材料より溶融点および気化温度の低い材料を使用して放電加工時に芯線を保護し加工速度を改善させる。
メッキに使用される材料に要求される性質は溶融点および気化温度が芯線より低く、銅または黄銅の芯線金属に電気メッキされ、電気メッキの後熱処理の過程で拡散反応を通じて比較的気化温度が低い合金層を形成することができる金属であれば良い。その金属としては亜鉛、アルミニウム、錫などがある。
図2から図5に示すように、皺が形成される表面が滑らかになるので放電加工時に電極線から芯線および合金層の切れ屑などが発生し難く、被加工物の面粗度が向上する。
前記のように構成される本発明の放電加工用電極線の製造方法および作用は、実施形態1及び実施形態2により詳しく説明する。
【0030】
(実施形態1)
銅65重量%と亜鉛35重量%の成分比を有する黄銅線を直径0.9mmの芯線(第1金属)の中間線材として準備する。
前記芯線をアルカリ脱脂槽に浸漬、水洗い、酸性洗浄し、再び水洗いする。
前記洗浄された芯線に第2金属である亜鉛を利用して線速20m/minの速度で770Aの電流を印加して所定の厚さに電気亜鉛メッキを行なう。
続いて、前記電気亜鉛メッキされた中間線材を0.25mm線径に引抜き細線化して中間線材を製造する。
【0031】
前記引抜き細線化の過程で図示されていない皺形成ダイス(または皺形成用ジグ)を通して中間線材の表面に一定パターンの波形皺がよるように形成する。
前記中間線材の表面に形成される皺は、完成品の線径を維持する細線の表面に波形に陰刻される形に形成される。
【0032】
続いて、前記のように細線して強線化された完成品と同じ線径の中間線材を1〜120時間、60〜490℃の温度で熱処理する。
前記熱処理によって芯線(第1金属)と電気亜鉛メッキされた第2金属との境面では相互拡散反応によって銅−亜鉛の第1合金層22が形成され、該合金層の外郭には亜鉛−銅の第2合金層23が形成される。
前記第1合金層22、第2合金層23は相互熱拡散によって形成されるものとして熱拡散が起こる前に形成された皺のパターン23aの形象をそのまま維持する。
【0033】
図2は第1合金層22と第2合金層23の境部が滑らかに形成されるパターンを有するように図示されているが、皺のパターンまたは合金層の拡散厚さによって第1合金層22と第2合金層23を区分する境部の形状は異なる。
前記亜鉛−銅の第2合金層は一番硬度が高い部分であり、芯線より延伸率が低い。
前記電気亜鉛メッキおよび相互拡散により芯線の境面には1〜3μmの銅−亜鉛からなる第1合金層が形成され、第1合金層の外郭には2〜20μmの亜鉛−銅からなる第2合金メッキ層が形成される。
【0034】
前記第1合金層は芯線を構成する第1金属と電気メッキ材である亜鉛、即ち第2金属の相互拡散反応によって形成され、第2合金層は芯線を構成する第1金属成分が電気亜鉛メッキされた第2金属の方に相互拡散する作用によって形成される。
前記のような芯線に第1合金層と第2合金層が形成される電極線は、細線工程を経た後熱処理されるので、図3のように一定パターンで皺がよる表面にクラックが生じることなく、引張力は400〜1100N/mmに維持されるという長所がある。
【0035】
前記加工された放電加工用電極線は、300〜600℃の温度雰囲気で0.05〜3秒の熱処理をさらに実施して電極線の機械的な性質を安定化させる。
前記のように製造された放電加工用電極線を利用して放電加工した被加工物のサンプル2つと従来のブラスワイヤー(brass wire)電極線を利用して放電加工した被加工物の加工速度、表面粗さなどを比較した測定結果を表1に示した。
【0036】
被加工物は厚さ40mmの金属(SKD−11)板材の中央にスタート穴を開けて放電加工して横20mm、縦10mm、厚さ40mmの六面体に加工し、それぞれ被加工物の加工速度と表面粗さなどを比較した。
表1に記載されている被加工物の前面、後面は被加工物の20mm部分の両面を意味し、1次から3次カットは被加工物を最初カットした後、該カットされた部分に沿って3回にわたって順次仕上げしたことを意味する。
【0037】
【表1】

表1から分かるように、実施形態1の放電加工用電極線は放電加工時被加工物の加工速度がやや速くなり面粗度は大きく改善されたことが分かる。
【0038】
(実施形態2)
銅65重量%と亜鉛35重量%の成分比を有する黄銅線を直径0.9mmの芯線(第1金属)の中間線材として準備する
前記芯線はアルカリ脱脂槽に浸漬、水洗い、酸性洗浄し、再び水洗いする。
前記洗浄された芯線に第2金属である亜鉛を利用して線速20m/minの速度で770Aの電流を印加して所定の厚さに電気亜鉛メッキを行なう。
続いて、前記電気亜鉛メッキされた中間線材を0.25mm線径に引抜き細線化して中間線材を製造する。
続いて、前記のように細線にして強線化された中間線材を60〜490℃の酸化雰囲気で1〜120時間熱処理する。
【0039】
特に、熱処理の過程で図4に示す酸化層24が形成されるとき酸化層の形成条件を適切にコントロールして酸化層24の表面に電極線の長手方向に一定パターンの波形の皺24aが形成されるようにする。
前記波形の皺は、電気亜鉛メッキ層内の所定深さまで酸素が浸透して酸化層が形成される過程で酸素雰囲気の温度、時間、酸素の投入量などの条件によって第1、第2合金層が形成されると同時にその形態が決定される。
【0040】
即ち、前記パターンの酸化層の形成とともに熱処理の過程で芯線(第1金属)と電気亜鉛メッキされた第2金属との境面では相互拡散反応によって銅−亜鉛の第1合金層22が形成され、該合金層の外郭には亜鉛−銅の第2合金層23が形成され、第1合金層の外郭に波形の皺24aを有する酸化層24が形成される。
前記亜鉛−銅の第2合金層は一番硬度が高い部分であり、芯線より延伸率が低い。
相互拡散により芯線の境面には1〜3μmの銅−亜鉛からなる第1合金層が形成され、第1合金層の外郭には2〜20μmの亜鉛−銅からなる第2合金メッキ層が形成される。
【0041】
前記第1合金層は、芯線を構成する第1金属と電気メッキ材である亜鉛即ち第2金属の相互拡散反応によって形成され、第2合金層は、芯線を構成する第1金属成分が電気亜鉛メッキされた第2金属の方に相互拡散する作用によって形成される。
前記第1合金層および第2合金層の形成とともに第2合金層の表面には皺24aが形成された酸化層24が形成される。前記第2合金層の表面に形成される酸化層からなる皺は波形に陰刻される形に形成される。
【0042】
前記のように製造される放電加工用電極線は細線工程を経た後、熱処理されるので図5のように表面にクラックが生じなく引張力は400〜1100N/mmに維持されるという長所がある。
前記加工された放電加工用電極線は、300〜600℃の温度雰囲気で0.05〜3秒以内の熱処理をさらに実施して電極線の機械的な性質を安定化させる。
前記のように製造された放電加工用電極線を利用して放電加工した被加工物のサンプル2つと従来のブラスワイヤー(brass wire)電極線を利用して放電加工した被加工物の加工速度、表面粗さなどを比較した測定結果を表2に示した。
【0043】
被加工物は厚さ40mmの金属(SKD−11)板材の中央にスタート穴を開けて放電加工して横20mm、縦10mm、厚さ40mmの六面体に加工し、夫々被加工物の加工速度と表面粗さなどを比較した。
表2に記載されている被加工物の前面、後面は被加工物の20mm部分の両面を意味し、1次から3次カットは被加工物を最初カットした後、該カットされた部分に沿って3回にわたって順次仕上げしたことを意味する。
【0044】
【表2】

表2から分かるように、実施形態2の放電加工用電極線は放電加工時被加工物の加工速度はわずかに速くなり面粗度は大きく改善されたことが分かる。
【0045】
以上説明した実施形態1、実施形態2においては電極線の表面が滑らかであり、表面に形成された皺によって電極線の表面積が拡大されるので微細切れ屑が発生し難く、被加工物の加工速度および面粗度の向上を図ることができる。
また、実施形態1、実施形態2の第1金属としては黄銅以外に銅、銅合金を利用することができ、第2金属としては亜鉛、アルミニウム、錫またはその合金などを利用できる。
本発明の実施形態などは本発明の技術構成および製造方法を限定するものではなく、本発明の技術思想および目的を外れない範囲内で様々に変更して実施できる。
【符号の説明】
【0046】
1 被加工物
2 電極線
3 供給リール
4 巻取リール
5、5' ローラ
6 電源供給装置
7 スタート穴
21 芯線
22 第1合金層
23 第2合金層
23a、24a 皺
24 酸化層

【特許請求の範囲】
【請求項1】
第1金属からなる芯線と、
前記芯線の外面にメッキされる第2金属が前記芯線との相互拡散によって前記芯線と第2金属の境部に形成される第1合金層と、
前記第1金属が前記第2金属の方に相互拡散されて前記第1合金層の外郭に形成される第2合金層からなり、
前記第2合金層の表面には一定パターンの皺が構成されることを特徴とする放電加工用電極線。
【請求項2】
前記芯線、第1合金層および第2合金層にはクラックがないことを特徴とする請求項1に記載の放電加工用電極線。
【請求項3】
前記第2合金層に構成される一定パターンの皺は、酸化層によって構成されることを特徴とする請求項1に記載の放電加工用電極線。
【請求項4】
前記電極線の引張力は、400〜1100N/mmであることを特徴とする請求項1に記載の放電加工用電極線。
【請求項5】
前記第1金属は銅、黄銅または銅合金からなり、前記第2金属は亜鉛、アルミニウム、錫またはその合金からなることを特徴とする請求項2または請求項3に記載の放電加工用電極線。
【請求項6】
第1金属の第1直径からなる線材を芯線として準備する段階と、
前記芯線に第2金属をメッキする段階と、
前記第2金属がメッキされた芯線を第2直径に細線化する段階と、
前記芯線と第2金属の相互拡散によって該芯線と第2金属の境部に形成される第1合金層と、前記第1金属が前記第2金属の方に拡散されて前記第1合金層の外郭に第2合金層が形成されるように熱処理する段階と、
前記第2合金層の表面に酸化層を形成し、その酸化層の表面に一定パターンの皺を形成する段階を含むことを特徴とする放電加工用電極線の製造方法。
【請求項7】
前記熱処理段階は、1〜120時間、60〜490℃の温度で行なわれることを特徴とする請求項6に記載の放電加工用電極線の製造方法。
【請求項8】
前記熱処理は、酸化雰囲気で行なわれることを特徴とする請求項7に記載の放電加工用電極線の製造方法。
【請求項9】
前記メッキは、電気メッキ方法からなることを特徴とする請求項7または請求項8に記載の放電加工用電極線の製造方法。
【請求項10】
前記第1金属は、銅、黄銅または銅合金からなり、前記第2金属は、亜鉛、アルミニウム、錫またはその合金からなることを特徴とする請求項9に記載の放電加工用電極線の製造方法。
【請求項11】
第1金属の第1直径からなる線材を芯線として準備する段階と、
前記芯線に第2金属をメッキする段階と、
前記第2金属がメッキされた芯線を第2直径に細線化すると同時に該第2直径の細線表面に一定パターンの皺を形成する段階と、
前記芯線と第2金属の相互拡散によって該芯線と第2金属の境部に形成される第1合金層と、前記第1金属が前記第2金属の方に拡散されて前記第1合金層の外郭に第2合金層が形成されるように熱処理する段階を含むことを特徴とする放電加工用電極線の製造方法。

【図1】
image rotate

【図2】
image rotate

【図3】
image rotate

【図4】
image rotate

【図5】
image rotate


【公開番号】特開2013−35119(P2013−35119A)
【公開日】平成25年2月21日(2013.2.21)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2012−171036(P2012−171036)
【出願日】平成24年8月1日(2012.8.1)
【出願人】(511284982)
【出願人】(511267930)
【出願人】(511267941)
【Fターム(参考)】