説明

散気装置の洗浄方法

【課題】長期間の使用により散気面に目詰まりが生じた場合において、散気板を水面に引き上げて清掃することなく、散気面の目詰まりの解消をできる散気装置の洗浄方法を提供する
【解決手段】本発明に係る散気装置の洗浄方法は、散気板4と、散気用給気配管3内へブロー水を供給するブロー水供給手段5と、一端が散気板4に連接され、他端が散気用給気配管3内に内挿された内挿管7とを備えた散気装置の洗浄方法であって、散気用給気配管3に対する給気を停止した後、洗浄液を散気用給気配管3内へ所定量供給する洗浄液供給工程と、散気用給気配管3内へ加圧空気を供給し、散気用給気配管3内の洗浄液を内挿管7を介して散気板4から所定時間継続して排出させる散気板洗浄工程とを有する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、散気装置の洗浄方法に関し、特に、散気板の散気面に付着した汚れ成分を確実に除去できる散気装置の洗浄方法に関する。
【背景技術】
【0002】
下水処理施設において汚水中の窒素化合物や炭素化合物を除去するために、微生物による分解、吸着作用を利用した活性汚泥法が用いられている。活性汚泥中の微生物が活動するためには微生物に酸素を与える必要がある。散気装置は、下水処理施設の曝気槽の底部等に設置されて水中に酸素を供給する装置である。散気装置には、散気面が膜タイプの散気装置(特許文献1)と、散気面が金属薄板タイプの散気装置(特許文献2)が存在する。金属薄板タイプの散気装置は、散気による圧損が少なく、かつ耐久性および保守点検の容易性において優れている。
【0003】
散気装置は、長期間にわたって曝気運転を継続すると、汚れ成分が膜または金属薄板の微細孔の内部および表面に付着して目詰まりを起こす。目詰まりを起こす汚れ成分の多くは微生物により形成されるスライムであり、これが散気孔を閉塞させる。このスライムの付着力は強く、ガス圧を高めてもスライムを剥離することはできない。
【0004】
膜タイプの散気装置では、散気装置の送気操作によってメンブランを伸長または収縮させ、膜の微細孔の内部および表面に付着した微生物由来のスライムを取り除く方法が開示されている(特許文献3)。
【0005】
しかし、金属薄板タイプの散気装置では、散気面が伸縮性のない剛体であるため、上述したような目詰まり防止処置を施すことはできない。現状では、金属薄板タイプの散気装置において微生物が増殖して目詰まりが発生した場合には、散気装置を水面上に引き上げて散気薄板を清掃しなければならず、散気装置の維持管理に多大な労力と費用を要する。
【0006】
また、膜タイプおよび金属薄板タイプの両方において、酸素移動効率を高めるために散気面の気孔径を小さくする必要があるが、気孔径が小さくなればなるほど目詰まりが起こりやすくなる。目詰まりの起こりやすい散気装置は、水面上に引き上げて散気薄板を頻繁に清掃しなければならない。
【特許文献1】特開2003−320388号公報
【特許文献2】特開2006−61817号公報
【特許文献3】特開2004−313938号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
このように、従来の散気装置は、目詰まりの問題に対して十分な解決手段を備えていなかった。
そこで、本発明においては、長期間の使用により散気面に目詰まりが生じた場合において、散気面が伸縮性のない剛体である散気板に対しても、散気板を水面に引き上げて清掃することなく、散気面の目詰まりの解消をできる散気装置の洗浄方法を提供することを目的としている。
【課題を解決するための手段】
【0008】
発明者は上記の課題を解決するために、水あるいは薬液などの洗浄水等を散気用給気配管内に注入し、これを散気用の空気によって散気板側に供給することによって散気板に付着したスライム(バイオフィルム)を自動洗浄することを考えた。そして、これを実現するためにための具体的手段として、一端が散気板に連通し、他端が散気用給気配管に内挿入される内挿管を設け、この内挿管を介して洗浄水を散気板に供給して水ブローすることを考えた。
【0009】
しかし、何らかの要因で散気板にバイオフィルムが完全に付着した場合は、水ブローでのバイオフィルムの完全な除去は困難であり、酸素移動効率の低下と散気装置の圧力損失の上昇による曝気動力が設置当初より大となることが避けられない。
そこで、発明者は散気板の散気孔壁面に付着したバイオフィルムを効果的に除去する方法として、散気板に形成されたバイオフィルムを化学的に分解して除去することを検討したところ、バイオフィルムの除去にはアルカリが有効であることが判明した。これは、バイオフィルムは微生物の塊で、たんぱく質が主成分であり、アルカリがたんぱく質を溶かすためである。
【0010】
ところで、水ブローの場合にはスライムを物理的に除去するものであり、ブロー時間も数分程度で済む。
一方、アルカリにてたんぱく質を分解除去することは化学反応であり、時間をある程度かける必要がある。また、この分解作用時間においては、散気面に曝気槽内の汚水が逆流しないように、常に散気用給気配管(ヘッダ管)内が曝気槽汚水の圧力に対して正圧を維持するようにしなければならない。汚水が逆流すると、散気板に汚水中のアルミニウムなどの金属塩とアルカリが反応し、固形物を析出し、散気板の開孔に目詰まりを起こすからである。
【0011】
このような逆流を防止してアルカリ液を注入する方法として、アルカリ液を酸気用給気配管(ヘッダ管)内に満管になるまで注入し、かつ、アルカリがバイオフィルムを分解作用する30分間程度の間、アルカリ液を常時供給することが考えられる。
しかしながら、この方法ではアルカリ液はバイオフィルムを分解するのに必要な量に対して、過大な量を注入しなければならないので、経済的でなく、また曝気槽に多量のアルカリが混入するので、活性汚泥への悪影響が懸念される。
そこで、発明者はこの問題を解決するために鋭意検討した結果、散気用給気配管(ヘッダ管)内にアルカリ液を必要な量だけ注入した後に、密閉状態の散気用給気配管内に微量の空気を連続注入することにより、この空気圧によって散気用給気配管(ヘッダ管)内に貯留されたアルカリ液を内挿管を介して散気板に時間をかけて押し出し供給することができるとの知見を得た。
本発明はかかる知見に基づきなされたものであり、具体的には以下のような構成を有するものである。
【0012】
(1)本発明に係る散気装置の洗浄方法は、曝気槽に設置される微細気孔を有する散気板と、該散気板に接続された散気用給気配管と、該散気用給気配管に開閉弁を介して接続されて該散気用給気配管に散気用空気を供給する給気装置と、一端が前記散気板に連接され、他端が前記散気用給気配管内に内挿された内挿管とを備えた散気装置の洗浄方法であって、
前記開閉弁を閉止して散気用給気配管に対する給気を停止した後、洗浄液を前記散気用給気配管内へ所定量供給する洗浄液供給工程と、前記散気用給気配管内へ加圧空気を供給し、前記散気用給気配管内の洗浄液を前記内挿管を介して散気板から所定時間継続して排出させる散気板洗浄工程を備えたことを特徴とするものである。
【0013】
(2)また、上記(1)に記載のものにおいて、洗浄液による洗浄後、散気用給気配管内にブロー水を供給すると共に散気用給気配管内に散気用空気を送風して該ブロー水を内挿管を介して散気板に供給して水ブローする水ブロー工程を備えたことを特徴とするものである。
【0014】
(3)また、上記(2)に記載のものにおいて、洗浄液が、アルカリを主成分とした薬液であることを特徴とするものである。
【0015】
(4)また、上記(3)に記載のものにおいて、洗浄液が、炭酸ナトリウムを含有することを特徴とするものである。
【発明の効果】
【0016】
本発明の散気装置の洗浄方法によれば、散気板を水面に引き上げて清掃することなく、散気板に付着したバイオフィルムを効果的に除去して、散気板の目詰まりを解消することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0017】
以下、本発明の実施の形態を図面に基づいて説明する。
【0018】
1.散気装置
図1は、本実施の形態に係る散気装置を示す模式図である。本実施の形態においては、洗浄液として、アルカリを主成分とする薬液(以下、「アルカリ液」という)を用いる場合を例に挙げて説明する。
本実施の形態の散気装置1は、ガス供給手段2とガス供給手段2から供給される空気を散気板へと導く散気用給気配管3(ヘッダ管)と、散気用給気配管3から散気用空気の供給を受けて微細気泡を放出する散気板4と、上端が散気板4に連接され、下端が前記散気用給気配管3内に内挿された内挿管7と、薬液注入管13を介して散気用給気配管3にアルカリ液を注入する薬液注入装置14と、空気注入管15を介して散気用給気配管3に加圧空気を注入する加圧空気供給装置16と、ブロー水供給管17を介して散気用給気配管3にブロー水を供給するブロー水供給手段5とを備えている。
【0019】
散気用給気配管3には開閉弁18が、また薬液注入管13には開閉弁19が、さらに空気注入管15には開閉弁20が、またさらにブロー水供給管17には開閉弁21がそれぞれ設けられている。
以下、散気装置1の主な構成について詳細に説明する。
【0020】
<散気板>
散気板4は、膜タイプまたは金属薄板タイプなど、いかなる形態の散気板であってもよい。例えば、散気板4が金属薄板タイプの場合、機械加工によって形成した微細孔またはスリットを有する金属薄板が用いられる。
ガス供給手段2より供給された空気は、散気用給気配管3から内挿管7を通して散気板4に送気され、散気板4の散気面に点在する複数の散気孔から放出される。
【0021】
<内挿管>
本実施形態における散気装置1は、内挿管7を備えているために、散気用給気配管3を水で満管にしなくても水を散気板4の散気孔に供給して水ブローすることができる。従って、大量の水は必要とせず、特に、抗菌物質を含む水溶液を供給する場合は、少ない抗菌物質で短時間かつ効率的に微生物を除去することができる。この結果、散気板4へのバイオフィルムの付着を防止でき、薬液洗浄の回数を少なくできるので、散気装置を水面下で長期かつ安定的に運転することができる。
【0022】
なお、内挿管7が無い場合において、散気板4を水ブローするための水を供給しようとすると、前述のように散気用給気配管3を満水にする必要があるだけでなく、満水にした水を抜くための工夫が必要となる。仮に、水を抜くための手段が無い場合には、散気板4が取り付けられている散気用給気配管内に水が残留し、管路が細くなってしまい、適切な散気ができなくなる。
【0023】
図2は、内挿管7の一例を示す断面図である。内挿管7は、上端が散気板4に連接され、下端が散気用給気配管3内の底面近傍まで延出するように内挿され、下端部には傾斜した吸い込み面8を有している。
【0024】
内挿管7は、空気の散気板4への供給路であるとともに、水ブロー処理中は供給されたブロー水を散気板4から排出する機能を有している。
【0025】
内挿管7は、散気用給気配管3と一体に形成しても、着脱可能な別部材としてもよい。着脱可能な別部材とする場合、内挿管7は、散気用給気配管3に予め設けた挿入口に挿入して固定することができる。内挿管7の固定方法には、特に制限はなく、あらゆる固定方法が含まれる。例えば、内挿管の側面に固定用締付け部材10を予め溶接し、散気用給気配管側に取付ブラケット11を予め溶接しておくことにより、内挿管7をねじ込んで散気用給気配管3に固定することができる。同様に、散気板4も内挿管7と着脱可能とすることができる。また、内挿管7の材質には、特に制限はなく、好ましくは、プラスチックまたはステンレス鋼、チタン等の金属から形成される。
【0026】
内挿管7の下端部は吸込み面8を備えている。散気用給気配管3には複数個の散気板4が設置されているが、散気用給気配管3は必ずしも水平に設置されているとは限らず、内挿管7の下端が水面に対して同じ高さに配置されない場合がある。図3に示したように、内挿管下端の吸込み面8が傾斜していない場合は、下端部が水面に接するか水面下にある内挿管7からしか吸い上げ又は押し上げが起こらないため、全ての散気板4にブロー水が均一に供給されず、ブロー水が供給されない一部の散気板で目詰まりが進行する恐れがある。
一方、図4に示したように、内挿管下端の吸込み面8が傾斜している場合は、水面が吸込み面8の上端と下端の間にあればブロー水を吸い上げ可能であり、水面に対する内挿管下端の配置に上下が生じた場合でも、一定範囲であれば全ての内挿管からの吸い上げが可能であり、散気板4に均一なブローが可能である。したがって、吸込み面8が傾斜している場合は、散気用給気配管3の水平方向の設置精度の許容範囲が大きくなる。
【0027】
また、図4に示すように、水位が吸込み面8の上端と下端の間にある場合はブロー速度の大きい気水混相のブローとなるが、図5に示すように水位が吸込み面8より高くなった場合は、水だけを押し上げるため、空気が混相しない水押出しブローとなる。
【0028】
傾斜した吸い込み面8の下端は、散気用給気配管3の内底近傍に位置し、たとえ水位が低くても、確実にブロー水を内挿管7内に吸い上げ又は押し上げることができるようにする。傾斜した吸い込み面8の下端は、散気用給気配管3の内底より0〜10mm上方にあることが好ましい。
傾斜した吸い込み面8の垂直方向に対する傾斜角度θに特に制限はないが、内挿管7は空気の供給路でもあるため、空気を十分に内挿管7内に送気できるような傾斜角度θにすることが好ましい。傾斜角度θは、例えば10〜85度、好ましくは30〜80度とすることができる。
【0029】
なお、上記の説明では、内挿管7の管壁に通気孔を設けていない例を示したが、これは管壁に通気孔があると、薬液による散気板洗浄の際に通気孔から薬液が漏れて散気板4側へ薬液が供給されないからである。の供給効率が悪くなるからである。
もっとも、内挿管7の管壁に通気孔があっても、薬液による散気板洗浄の際に通気孔の高さ以上になるように薬液を入れるようにすればよいので、内挿管7の管壁に通気孔を設けることを排除するものではない。
【0030】
<ブロー水供給手段>
ブロー水供給手段5はブロー水供給管17を介して散気用給気配管3にブロー水を供給する装置であって、散気用給気配管3の空気圧に打ち勝ってブロー水を散気用給気配管3内に供給できるようになっている。ブロー水供給手段5としては、例えば水等を貯留する貯留槽に、該貯留槽に貯留された水等を送り出す送水ポンプを設けたものがある。
ブロー水供給手段5より供給されるブロー水は、ブロー水供給管17を介して散気用給気配管3に流れ込み、散気用給気配管3から内挿管7を通して散気板4に送水され、空気と同様、散気板4の散気面に点在する複数の散気孔から放出される。
【0031】
<薬液注入装置>
薬液注入装置14は、薬液注入管13を介して散気用給気配管3にアルカリ液を注入する装置である。薬液注入装置14は、アルカリ液を貯留する貯留槽と貯留槽内のアルカリ液を薬液注入管13に送り出す送液ポンプを備えている。
【0032】
<加圧空気供給装置>
加圧空気供給装置16は、空気注入管15を介して散気用給気配管3に加圧空気を注入する装置であり、例えばエアポンプから構成される。
【0033】
上記のように構成された本実施の形態に係る散気装置1の動作を、散気運転、水ブロー運転、薬液による洗浄に分けて説明する。
<散気運転>
散気運転は、ガス供給手段2から送風される空気を、散気用給気配管3に送り出し、この空気を内挿管7を介して散気板4の微細孔またはスリットから曝気槽12内へ微細気泡として放出する運転である。散気運転時には、開閉弁18を開放し、開閉弁19、20、21を閉止して運転する。
【0034】
<水ブロー運転>
水ブロー運転とは、ブロー水供給手段5からブロー水を散気用給気配管3に定期的に供給し、内挿管7を介してブロー水を散気板4に供給することによって散気板4を水ブローし、散気板4の散気孔に微生物などが付着するのを防止する運転である。ブロー水の供給頻度に特に制限はないが、好ましくは数時間から数日毎にブロー水を散気用給気配管3内に供給する。
水ブロー運転においては、開閉弁18、21を開にし、開閉弁19、20を閉にして運転する。
【0035】
<薬液による洗浄>
長期間に亘る散気運転を継続していると、ブロー水の定期的な供給を行なっていたとしても、散気板4にバイオフィルムが付着して散気板4での圧力損失が増大することがある。このような場合に行うのが薬液による洗浄であって、バイオフィルムなどを分解することができる薬液を用いて行うものである。
図6、図7は本実施の形態における薬液による洗浄方法の説明図である。以下、図1、図6、図7に基づいて薬液による洗浄方法を説明する。なお、図6、図7における開閉弁18、19、20、21については、弁が開状態のときには白抜きで表示し、弁が閉状態のときには黒塗りで表示している。
【0036】
散気運転を行なっている状態(図6(a)参照)から、薬液洗浄を行なう場合には、開閉弁18を閉止して散気用の給気を停止し、この状態で開閉弁19を開放して薬液注入装置14からアルカリ液を薬液注入管13を介して散気用給気配管3に所定量(例えば、ヘッダ管の半分の高さ程度)だけ注入する(図6(b)参照)。
なお、開閉弁18を閉止後は、散気用給気配管3内の圧力が散気板4に作用する水圧と同程度になるまで散気が継続され、前記水圧と散気用給気配管3内の圧力が同程度になると散気が行なわれなくなるが、このとき前記水圧と散気用給気配管3内の圧力がバランスしているので、汚水が散気板4から逆流することはない。
散気用給気配管3に注入されたアルカリ液は、図6(b)に示すように散気用給気配管3(ヘッダ)に貯留される。
【0037】
次に、開閉弁19を閉止して薬液の注入を停止し、その後、開閉弁20を開放して空気注入管15を介して散気用給気配管3に加圧空気を所定時間(例えば、30分〜数時間程度)継続して少量づつ注入する(図6(c)参照)。加圧空気を散気用給気配管3に注入することにより、散気用給気配管3内の圧力が徐々に上昇し、図6(c)に示すように、アルカリ液が内挿管7に押し上げられ、散気板4にゆっくりと供給される。これによって、散気板4に付着したバイオフィルムがアルカリにより分解される。
なお、注入する加圧空気の量は、アルカリ液が散気板4にゆっくりと(じんわりと)供給されるような量にするのが望ましく、例えば散気板1枚当り0.01L/minとする。
【0038】
加圧空気の注入を所定時間継続した後、開閉弁20を閉止し、開閉弁18を開放して散気用の空気を散気用給気配管3に供給する。さらに、開放弁21を開放してブロー水供給管17を介してブロー水を散気用給気配管3に供給する(図7(d)参照)。これによって、ブロー水が散気用の空気と共に散気板4に供給され、散気板4に残存しているバイオフィルムやアルカリ液をブローする。
その後、開閉弁21を閉止して、散気運転を継続する(図7(e)参照)。これによって、目詰まりが解消して目詰まりに起因する圧損が回復する。
【0039】
以上のように、本実施の形態の散気装置1は内挿管7を備えており、散気用給気管3(ヘッダ管)を水で満管にしなくてもブロー水を散気板4に供給することができるので、空気の供給通路は常に確保されている。従って、空気の供給中に定期的にブロー水を供給し、散気板4の散気孔に付着した微生物をブロー水で除去しながら、散気装置1を連続運転することができる。
【0040】
また、本実施の形態においては、散気用給気配管3に対する給気を停止した後、アルカリ液を散気用給気配管3内へ所定量供給し、その後散気用給気配管3内へ加圧空気を所定時間(例えば30分〜数時間)継続して供給するようにしたので、散気板4に対して所定時間(例えば30分〜数時間)継続してアルカリ液を供給でき、散気板4に付着したバイオフィルムを化学的に分解して、散気板4の目詰まりを効果的に回復することができる。
しかも、本実施の形態では、散気用給気管3(ヘッダ管)を満管にする必要がなく、アルカリ液は散気板4の洗浄に必要な量だけ供給すればよく、アルカリ液を無駄にすることがなく経済性に優れ、また曝気槽に多量のアルカリが混入することもないので、活性汚泥への悪影響の懸念も少ない。
【0041】
なお、上記の実施の形態においては、ブロー水について特に限定していないが、微生物を死滅させる効果を有する成分を含むブロー水を使用することによって、微生物の増殖を効果的に抑制することができる。微生物を死滅させる効果を有する成分には、特に制限はないが、例えば、抗菌物質または酸化物質、より具体的には、次亜塩素酸ナトリウム、逆性石鹸、酸、アルカリ、オゾン、または二酸化塩素、炭酸アルカリ金属などが含まれる。
【実施例1】
【0042】
曝気槽12に、以下に示す仕様の散気板を設置し、下記の条件にて水ブローを実施し、水ブローの効果を確認した。
【0043】
散気板材質:SUS316L
孔形状 :長さ1.45mm、幅0.04mm
開孔率 :約0.5%
通気量 :30m3/m2/hr
ブロー水 :次亜塩素酸ナトリウム溶液(濃度;100ppm)
ブロー水量:500ml/回
水ブロー頻度:1回/日
なお、水ブローを実施しない例を比較例とした。
【0044】
水ブロー有りの例(実施例)となしの例(比較例)の圧損増加量(mmAq)の経時変化を、図8のグラフに示した。
【0045】
図8のグラフから明らかなように、水ブローを定期的に実施することによって、長期間にわたる散気運転においても散気装置の圧損上昇を効果的に抑制することができ、高い酸素移動効率を維持することができた。
【実施例2】
【0046】
薬液洗浄の効果を確認するために以下のような3種類の実験を行なった。
<実験例1>
図9に示すように、24個の散気板4をヘッダ管22に設置した散気ブロックを曝気槽の水深1mの位置に配置し、1.5m/hr(散気板1枚当り)(30m3/m2/hr)で連続曝気した。
曝気開始時の散気板4の圧力損失は236mmAqであった。
曝気開始後300日経過したときの散気板4の圧力損失を測定したところ441mmAqであった。
そこで、以下に示す方法で薬液洗浄を行った。
ヘッダ管入り口の開閉弁23を閉じ、管内圧を水圧に対して正圧に保持しながら、薬液として5%NaOH溶液を全容積80Lのヘッダ管22に対し45L注水した。薬液注入後、エアポンプを用いてヘッダ管22内に空気を供給し、注入した薬液を空気で押出しながら内挿管7(図1参照)を介して散気板4に供給した。空気供給量は220ml/分とし、3時間継続して供給した。
空気による薬液押出しを終了した後、ろ過水をヘッダ管22内に48L供給し、開閉弁を開けてヘッダ管22内にブロア空気を導入して散気板4に水ブローを実施した。
水ブロー終了30分後に散気板4の圧力損失を測定したところ254mmAqであり、圧損の回復率は、91.2%であった。
このように、アルカリ液による薬液洗浄を実施することにより、散気板4の効果的な洗浄が実施できることが確認された。
【0047】
<実験例2>
実験例1と同じ条件で、薬液を5%NaOH+2%炭酸ナトリウムとした同様の実験例を行った。薬液洗浄後の圧力損失を測定したところ244mmAqであり、圧損の回復率は、96.1%であった。
このように、アルカリとして水酸化ナトリウムに炭酸ナトリウムを加えることでさらに洗浄効果が向上することが確認された。
【0048】
<実験例3>
実験例1のアルカリ薬液押出し終了後に、酸性薬剤として5%シュウ酸を45Lヘッダ管に注水し、実験例1と同様に空気による酸性薬液押出しを実施し、その後に実験例1と同様の水ブローを実施した。薬液洗浄後の圧力損失を測定したところ238mmAqであり、圧損の回復率は、99.0%であった。
このように、アルカリ洗浄後に酸による洗浄を行なうことで、アルカリ洗浄では洗浄できない例えば鉱物系の汚れを効果的に洗浄できることが確認された。
なお、実験例1〜3に示した圧力損失測定結果を以下の表1にまとめて示す。
【0049】
【表1】

【図面の簡単な説明】
【0050】
【図1】本発明の一実施の形態に係る散気装置の模式図である。
【図2】本発明の一実施の形態に係る内挿管の断面図である。
【図3】本発明の一実施の形態に係る内挿管の一態様を示す図であり、吸込み面が傾斜していない場合の模式図である。
【図4】本発明の一実施の形態に係る内挿管の他の態様を示す図であり、吸込み面が傾斜している場合の模式図である。
【図5】本発明の一実施の形態における内挿管の作用の説明図である。
【図6】本発明の一実施の形態における薬液による洗浄方法の説明図である。
【図7】本発明の一実施の形態における薬液による洗浄方法の説明図である。
【図8】実施例1の圧損増加量の経時変化を示すグラフである。
【図9】実施例2の実験例の説明図である。
【符号の説明】
【0051】
1 散気装置
2 ガス供給手段
3 散気用給気配管
4 散気板
5 ブロー水供給手段
7 内挿管
8 吸い込み面
9 通気孔
10 固定用締付け部材
11 取付ブラケット
12 曝気槽
13 薬液注入管
14 薬液注入装置
15 空気注入管
16 加圧空気供給装置
17 ブロー水供給管
18、19、20、21、23 開閉弁
22 ヘッダ管
θ 傾斜角度

【特許請求の範囲】
【請求項1】
曝気槽に設置される微細気孔を有する散気板と、該散気板に接続された散気用給気配管と、該散気用給気配管に開閉弁を介して接続されて該散気用給気配管に散気用空気を供給する給気装置と、一端が前記散気板に連接され、他端が前記散気用給気配管内に内挿された内挿管とを備えた散気装置の洗浄方法であって、
前記開閉弁を閉止して散気用給気配管に対する給気を停止した後、洗浄液を前記散気用給気配管内へ所定量供給する洗浄液供給工程と、前記散気用給気配管内へ加圧空気を供給し、前記散気用給気配管内の洗浄液を前記内挿管を介して散気板から所定時間継続して排出させる散気板洗浄工程を備えたことを特徴とする散気装置の洗浄方法。
【請求項2】
洗浄液による洗浄後、散気用給気配管内にブロー水を供給すると共に散気用給気配管内に散気用空気を送風して該ブロー水を内挿管を介して散気板に供給して水ブローする水ブロー工程を備えたことを特徴とする請求項1に記載の散気装置の洗浄方法。
【請求項3】
洗浄液が、アルカリを主成分とした薬液であることを特徴とする請求項1または2に記載の散気装置の洗浄方法。
【請求項4】
洗浄液が、炭酸ナトリウムを含有することを特徴とする請求項3に記載の散気装置の洗浄方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【公開番号】特開2009−172575(P2009−172575A)
【公開日】平成21年8月6日(2009.8.6)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−272923(P2008−272923)
【出願日】平成20年10月23日(2008.10.23)
【出願人】(000004123)JFEエンジニアリング株式会社 (1,044)
【Fターム(参考)】