説明

整流子電動機

【課題】ホルダプレート27を螺子28でエンドフレーム10に固定する際に、ホルダプレート27の落ち込みを防止できる技術を提供する。
【解決手段】ホルダプレート27は、グロメット22に設けられた内側シール部22bの一端側端面が螺子孔27aの近傍に押し当てられることで、その螺子孔27aの近傍がエンドフレーム10に押し付けられている。これにより、エンドフレーム10の外側から螺子28を締め付ける際に、ホルダプレート27が落ち込む(エンドフレーム10から軸方向に離れる)ことを防止できるので、ホルダプレート27の螺子孔27aに螺子28を締め付けて、ホルダプレート27を確実に固定できる。また、螺子孔27aの近傍がエンドフレーム10に押し付けられることで、螺子孔27aの位置が軸方向に移動することなく安定するため、螺子28の締め付けを確実に、且つ容易に行うことができる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、整流子とブラシとで整流作用を行う整流子電動機に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、特許文献1に記載された電動機がある。
この電動機は、図7に示す様に、電機子軸100の端部に整流子110が設けられ、この整流子110の外周に配置されるブラシ120と整流子110とで整流作用を行う整流子電動機である。
ブラシ120は、ブラシホルダ130に摺動自在に保持され、ブラシスプリング(図示せず)によって整流子110の外周面に押し付けられている。
また、ブラシホルダ130は、ホルダプレート140に取り付けられ、そのホルダプレート140がエンドフレーム150の外側から螺子160を締め付けてエンドフレーム150に固定されている。
【特許文献1】特開平9−37505号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0003】
ところが、上記の電動機は、エンドフレーム150の外側から螺子160を締め付ける際に、ホルダプレート140を軸方向に確実に位置決めしておくことができない。つまり、ホルダプレート140は、ブラシ120を整流子110に押し付けるブラシスプリングの付勢力によって保持されているだけであり、螺子160でエンドフレーム150に固定されるまでは、軸方向に移動可能な状態である。
このため、螺子160を締め付ける際に、何らかの原因でホルダプレート140がエンドフレーム150から離れて落ち込む(エンドフレーム150からホルダプレート140が軸方向に遠ざかる)と、ホルダプレート140に設けられた螺子孔141に螺子160が届かなくなるため、ホルダプレート140を固定できなくなるという問題があった。
本発明は、上記事情に基づいて成されたもので、その目的は、ホルダプレートを螺子でエンドフレームに固定する際に、ホルダプレートの落ち込みを防止して、ホルダプレートをエンドフレームに確実に固定できる整流子電動機を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0004】
(請求項1の発明)
本発明は、磁気回路を形成する筒状のヨークと、このヨークの一端側開口部に嵌合するエンドフレームと、一端側の端部がエンドフレームに軸受を介して回転自在に支持される電機子軸と、この電機子軸の一端側外周に設けられる整流子と、この整流子の外周にブラシ保持手段を介して配置されるブラシと、ヨークとエンドフレームとの間に挟持され、正極側のブラシに電流を流すためのモータリード線を保持するゴム製のグロメットとを備え、ブラシ保持手段は、ブラシを摺動自在に保持するブラシホルダと、このブラシホルダが固定されるホルダプレートとを有し、このホルダプレートが、エンドフレームの外側から螺子で固定される整流子電動機であって、ホルダプレートは、グロメットに押圧されてエンドフレームに押し付けられていることを特徴とする。
【0005】
上記の構成によれば、エンドフレームの外側から螺子を締め付ける際に、ホルダプレートがエンドフレームから落ち込まない(エンドフレームから軸方向に離れない)様に、エンドフレームに押し付けておくことができる。これにより、螺子の締め付け不良を防止できるので、ホルダプレートをエンドフレームに確実に固定できる。
【0006】
(請求項2の発明)
請求項1に記載した整流子電動機であって、ホルダプレートには、螺子に結合する螺子孔が形成されており、グロメットは、ホルダプレートに対し、螺子孔の近傍を押圧していることを特徴とする。
この場合、ホルダプレートの螺子孔の近傍を押圧することで、螺子孔の位置を安定できるので、螺子の締め付けを確実に、且つ容易に行うことができる。
【0007】
(請求項3の発明)
請求項2に記載した整流子電動機であって、グロメットは、エンドフレームの内側に配置されてエンドフレームの内周面に密着する内側シール部を有すると共に、この内側シール部の軸方向一端側にホルダプレートに押し当てられる当接面が設けられ、この当接面には、螺子孔の周囲に沿って開口する開口溝が形成されていることを特徴とする。
上記の構成によれば、グロメットに設けられた当接面をホルダプレートに押し当てることで、ホルダプレートをより安定してエンドフレームに押し付けることができるので、エンドフレームの外側から螺子を締め付ける際に、ホルダプレートの落ち込みを確実に防止できる。また、グロメットの当接面に開口溝を形成することで、螺子孔に結合する螺子が当接面に干渉することを回避できるので、螺子の締め付けを確実に行うことができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0008】
本発明を実施するための最良の形態を以下の実施例により詳細に説明する。
【実施例1】
【0009】
図1はスタータ1の半断面図である。
本実施例のスタータ1は、図1に示す様に、回転力を発生するモータ2と、このモータ2の回転を減速する減速装置3と、この減速装置3を介してモータ2の駆動トルクが伝達される出力軸4と、この出力軸4の外周にクラッチ5と一体化して配置されるピニオンギヤ6と、シフトレバー7を介してクラッチ5とピニオンギヤ6を反モータ方向(図1の左方向)へ押し出す働きを有すると共に、モータ2の通電回路(以下モータ回路と呼ぶ)に設けられるメイン接点(後述する)を開閉する電磁スイッチ8等より構成される。
【0010】
モータ2は、磁気回路を形成する円筒状のヨーク9と、このヨーク9の一端側開口部に嵌合するエンドフレーム10と、ヨーク9の内周に周方向等間隔に配置される複数の永久磁石11と、一端側の端部が軸受12を介してエンドフレーム10に回転自在に支持される電機子軸13を有する電機子14と、電機子軸13の一端側外周に複数のセグメントを円筒状に樹脂モールドして構成された整流子15と、ブラシ保持手段(後述する)を介して整流子15の外周に配置される複数個のブラシ16等より構成され、電機子14が回転すると、整流子15の外周をブラシ16が摺動して整流作用を行う整流子電動機である。
【0011】
減速装置3は、電機子軸13と同軸上で減速できる周知の遊星歯車減速機であり、電機子14の反整流子側に構成されている。
出力軸4は、一端側の端部が軸受17を介してハウジング18に回転自在に支持され、他端側の端部が減速装置3に連結されている。
クラッチ5は、出力軸4の外周にヘリカルスプライン嵌合して組み付けられ、エンジン始動時に出力軸4の回転をピニオンギヤ6に伝達する。また、ピニオンギヤ6がエンジンによって回された時、つまりピニオンギヤ6の回転速度が出力軸4の回転速度を上回ると、ピニオンギヤ6の回転が出力軸4に伝わらない様に、両者間の動力伝達を遮断する一方向クラッチとして構成されている。
【0012】
ピニオンギヤ6は、クラッチ5の反モータ側に配置され、クラッチ5と一体に出力軸4上を反モータ方向へ移動してエンジンのリングギヤ(図示せず)に噛み合った後、出力軸4と一体に回転してリングギヤを駆動する。
電磁スイッチ8は、始動スイッチ(図示せず)の閉操作によって車載バッテリから通電される電磁コイル(図示せず)と、この電磁コイルの内側を可動するプランジャ(図示せず)とを有し、電磁コイルへの通電によって電磁石が形成されると、その電磁石にプランジャが吸引されてメイン接点を閉操作する。また、電磁コイルへの通電が停止して電磁石の吸引力が消滅すると、図示しないリターンスプリングの反力にプランジャが押し戻されてメイン接点を開操作する。
【0013】
メイン接点は、2本の外部端子19、20を介してモータ回路に接続される一組の固定接点(図示せず)と、プランジャと一体に可動して一組の固定接点間を断続する可動接点(図示せず)とで形成され、この可動接点を通じて一組の固定接点間が導通することでメイン接点が閉状態となり、一組の固定接点間の導通が遮断されることでメイン接点が開状態となる。
2本の外部端子19、20は、バッテリケーブルを介して車載バッテリに接続されるB端子19と、モータリード線21を介して正極側のブラシ16に接続されるM端子20であり、共に電磁スイッチ8の樹脂カバー8aに固定されている。
モータリード線21は、エンドフレーム10に取り付けられるゴム製のグロメット22に保持され、そのグロメット22からモータ2の内部に引き込まれた一方の端部が金属プレート23(図4参照)を介して正極側のブラシ16に接続され、グロメット22からモータ2の外側に引き出された他方の端部がM端子20に接続されている。
【0014】
シフトレバー7は、ハウジング18に揺動自在に支持されるレバー支点部7aを有し、このレバー支点部7aより一端側のレバー端部が電磁スイッチ8のプランジャに取り付けられたレバー用フック24に連結され、レバー支点部7aより他端側のレバー端部がクラッチ5に係合している。このシフトレバー7は、プランジャが電磁石に吸引されて、図1の右方向へ移動すると、レバー用フック24に連結された一端側のレバー端部がプランジャに引かれて移動することにより、クラッチ5に係合する他端側のレバー端部がレバー支点部7aを中心に揺動して、クラッチ5を反モータ方向へ押し出す働きを有する。
【0015】
次に、スタータ1の作動を説明する。
始動スイッチの閉操作により、電磁スイッチ8の電磁コイルに通電されて電磁石が形成されると、その電磁石にプランジャが吸引されて移動する。このプランジャの移動がシフトレバー7を介してクラッチ5に伝達されると、クラッチ5がピニオンギヤ6と一体に出力軸4上を反モータ方向へ移動して、ピニオンギヤ6の端面がリングギヤの端面に当接して停止する。
一方、プランジャの移動によってモータ回路のメイン接点が閉じると、バッテリからモータ2に給電されて電機子14に回転力が生じる。この電機子14の回転が減速装置3で減速されて出力軸4に伝達され、更に、出力軸4からクラッチ5を介してピニオンギヤ6に伝達される。その結果、ピニオンギヤ6が強制的に回されてリングギヤに噛み合うことにより、ピニオンギヤ6からリングギヤにモータ2の駆動トルクが伝達されて、エンジンをクランキングする。
【0016】
クランキングからエンジンが完爆して始動スイッチが開操作されると、電磁コイルへの通電が停止して吸引力が消滅する。これにより、リターンスプリングの反力でプランジャが押し戻されるため、メイン接点が開いてバッテリからモータ2への給電が停止され、電機子14の回転が次第に減速して停止する。
また、プランジャが押し戻されると、エンジン始動時と反対方向にシフトレバー7が揺動してプランジャの動きがクラッチ5に伝達される。その結果、ピニオンギヤ6がリングギヤから離脱してクラッチ5と一体に出力軸4上を所定の位置(図1に示す位置)まで後退して停止する。
【0017】
続いて、上記のブラシ保持手段について説明する。
ブラシ保持手段は、図4に示す様に、ブラシ16を摺動自在に保持するブラシホルダ25と、ブラシ16を整流子15の外周面に押し付けるブラシスプリング26と、ブラシホルダ25が固定されるホルダプレート27等より構成される。
ホルダプレート27は、例えば、バーリングによって形成された螺子孔27aが複数(本実施例では2個所)設けられ、この螺子孔27aにエンドフレーム10の外側から螺子28を締め付けて固定される(図1参照)。また、ホルダプレート27は、螺子28で固定される前に、エンドフレーム10に取り付けられたグロメット22とエンドフレーム10との間にホルダプレート27の一部が挟持された状態で保持されている。
【0018】
グロメット22は、図3に示す様に、エンドフレーム10に形成されたU字状の開口部10aに圧入して取り付けられ、軸方向からヨーク9とエンドフレーム10との間に挟み込まれている。
このグロメット22は、エンドフレーム10に取り付けた状態で、エンドフレーム10の外周面に密着する外側シール部22aと、エンドフレーム10の内周面に密着する内側シール部22bとを有すると共に、外側シール部22aの外周面から内側シール部22bの内周面まで貫通するリード線挿通孔22cが形成され、そのリード線挿通孔22cに前述のモータリード線21が挿通される。
また、グロメット22は、図2に示す様に、内側シール部22bの軸方向一端側の端面が、ホルダプレート27に形成された螺子孔27aの近傍に押し当てられている。その結果、ホルダプレート27は、内側シール部22bに押圧される螺子孔27aの近傍がエンドフレーム10に押し付けられている。
【0019】
(実施例1の効果)
本実施例のホルダプレート27は、グロメット22に設けられた内側シール部22bの一端側端面が螺子孔27aの近傍に押し当てられることで、その螺子孔27aの近傍がエンドフレーム10に押し付けられている。これにより、エンドフレーム10の外側から螺子28を締め付ける際に、ホルダプレート27が落ち込む(エンドフレーム10から軸方向に離れる)ことを防止できるので、ホルダプレート27の螺子孔27aに螺子28を確実に締め付けることができる。また、螺子孔27aの近傍がエンドフレーム10に押し付けられることで、螺子孔27aの位置が軸方向に移動することなく安定するため、螺子28の締め付けを確実に、且つ容易に行うことができる。
【実施例2】
【0020】
図5はグロメット22の斜視図である。
この実施例2は、図5に示す様に、グロメット22の内側シール部22bに当接面22dを形成し、この当接面22dをホルダプレート27に押し当てる構成である。
当接面22dは、内側シール部22bの軸方向一端側に形成され、ホルダプレート27に当接する表面積が、実施例1に記載した内側シール部22bの軸方向一端側の端面より大きく形成されている。また、当接面22dには、図6に示す様に、螺子孔27aの周囲に沿って開口するU字状の開口溝22eが形成されている。
【0021】
上記の構成によれば、内側シール部22bの軸方向端面より大きな表面積を有する当接面22dをホルダプレート27に押し当てることで、ホルダプレート27を安定してエンドフレーム10に押し付けることができる。その結果、エンドフレーム10の外側から螺子28を締め付ける際に、ホルダプレート27の落ち込みを確実に防止できる。
また、当接面22dには、螺子孔27aの周囲に沿って開口する開口溝22eが形成されているので、螺子孔27aに結合する螺子28が当接面22dに干渉することはなく、螺子28の締め付けを確実に行うことができる。
【図面の簡単な説明】
【0022】
【図1】スタータの半断面図である。
【図2】本発明の特徴を示す断面図である(実施例1)。
【図3】エンドフレームの開口部にグロメットを圧入する様子を示す斜視図である。
【図4】ブラシ保持手段の平面図である。
【図5】グロメットの斜視図である(実施例2)。
【図6】グロメットの当接面を示す正面図である(実施例2)。
【図7】従来技術を示す整流子電動機の要部断面図である。
【符号の説明】
【0023】
2 モータ(整流子電動機)
9 ヨーク
10 エンドフレーム
12 軸受
13 電機子軸
15 整流子
16 ブラシ
21 モータリード線
22 グロメット
22b 内側シール部
22d 当接面
22e 当接面に形成された開口溝
25 ブラシホルダ(ブラシ保持手段)
27 ホルダプレート(ブラシ保持手段)
27a 螺子孔
28 螺子

【特許請求の範囲】
【請求項1】
磁気回路を形成する筒状のヨークと、
このヨークの一端側開口部に嵌合するエンドフレームと、
一端側の端部が前記エンドフレームに軸受を介して回転自在に支持される電機子軸と、 この電機子軸の一端側外周に設けられる整流子と、
この整流子の外周にブラシ保持手段を介して配置されるブラシと、
前記ヨークと前記エンドフレームとの間に挟持され、正極側の前記ブラシに電流を流すためのモータリード線を保持するゴム製のグロメットとを備え、
前記ブラシ保持手段は、前記ブラシを摺動自在に保持するブラシホルダと、このブラシホルダが固定されるホルダプレートとを有し、このホルダプレートが、前記エンドフレームの外側から螺子で固定される整流子電動機であって、
前記ホルダプレートは、前記グロメットに押圧されて前記エンドフレームに押し付けられていることを特徴とする整流子電動機。
【請求項2】
請求項1に記載した整流子電動機であって、
前記ホルダプレートには、前記螺子に結合する螺子孔が形成されており、
前記グロメットは、前記ホルダプレートに対し、前記螺子孔の近傍を押圧していることを特徴とする整流子電動機。
【請求項3】
請求項2に記載した整流子電動機であって、
前記グロメットは、前記エンドフレームの内側に配置されて前記エンドフレームの内周面に密着する内側シール部を有すると共に、この内側シール部の軸方向一端側に前記ホルダプレートに押し当てられる当接面が設けられ、この当接面には、前記螺子孔の周囲に沿って開口する開口溝が形成されていることを特徴とする整流子電動機。

【図1】
image rotate

【図2】
image rotate

【図3】
image rotate

【図4】
image rotate

【図5】
image rotate

【図6】
image rotate

【図7】
image rotate


【公開番号】特開2008−125227(P2008−125227A)
【公開日】平成20年5月29日(2008.5.29)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−305691(P2006−305691)
【出願日】平成18年11月10日(2006.11.10)
【出願人】(000004260)株式会社デンソー (27,639)
【Fターム(参考)】