説明

断熱スリーブを備えた溶融金属用の鋳造ノズル

【課題】本発明では取鍋のサンドの焼結によるノズル詰まり現象、あるいは、タンディッシュSN(スライドノズル)プレート位置での凝固殻の発達による自然開孔の不成功の問題を解決する。
【解決手段】
溶融金属用容器から溶融金属を鋳込むためのノズルであって、該ノズルの注入孔の少なくとも入口又は出口の一方又は双方の内面にリング状のセラミック繊維からなる断熱スリーブを設けた鋳造ノズルである。ノズル内にリング状の断熱スリーブを挿入し、注入初期におけるノズル内における凝固殻の発生を防止し、円滑な鋳造の継続を担保する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は、取鍋からダンディツシュヘ溶融金属を注入する流量制御用ノズル、特にスライディングノズル(以下はSNと称する)及びタンディッシュから鋳型ヘ溶鋼を注入する流量制御用SNに関する。
【背景技術】
【0002】
溶鋼取鍋及びタンディッシュから流出する溶鋼の流量を制御するため、従来のストッパーを備えたものと、S Nを備えたものとがある。前者はストパーを上下することによってタンディッシュへの注入量を制御するが、SNノズルの場合には、上ノズルプレートと下ノズルプレートのそれぞれのノズル孔を互いに移動させて注入量を制御する。通常、取鍋においてはSNの閉状態で上ノズル内部に川砂等のサンドを充填した状態で受鋼する。
タンディッシュの場合には、SNの閉の状態でスライドノズルに設置したガス吹き込みロから不活性ガスを吹き込み、タンディッシュ底部の温度降下を防止し、凝固殻が付着しないようにし、自然な開孔を行う(特開平8−257708号公報)。また、他の方法としてタンディッシュのSNを閉じた状態で所定量のSN のノズルから不活性ガスを吹き込み、ノズル内の溶鋼を注ぎ上げることによりノズル孔内に凝固殻が付着をしないようにして自然開孔をする方法(特開2002−346707号公報)がある。
【特許文献1】特開平8−257708号公報
【特許文献2】特開 2002−346707号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0003】
取鍋のノズルにサンド(詰め物砂)を充填する方式には溶鋼を受鋼してから注入開始までの時間によってサンドが溶鋼の潜熱により焼結し、SNの開放操作のみで溶鋼の流出させる自然開孔が不可能な場合がある。この場合、溶鋼を流出させる手段として高圧の酸素ガスをパイプ先端からノズル下端より強制的に吹き付け、焼結部分を溶解して流出させる。
【0004】
タンディッシュについては、スライドプレートにガス吹き込み用ポーラスレンガを成形し、このレンガからガス吹き込み、溶鋼の潜熱によって凝固殻の発達を遅らしているが、これのみでは自然開孔が100%達成できない。またこの方法にはガスの供給のためにガス配管部が必要となり、構造が複雑であり、また施工及びメンテナンスに於いても困難な間題点がある。
【0005】
そこで、本発明ではノズル内のサンドの焼結によるノズル詰まり現象、あるいは、タンディッシュSNプレート位置での凝固殻の発達による自然開孔の不成功の問題を解決するノズルに関するものである。
【課題を解決するための手段】
【0006】
発明の第1の態様は、溶融金属用容器から溶融金属を鋳込むためのノズルであって、該ノズルの注入孔の少なくとも入口又は出口の一方又は双方の内面にリング状のセラミック繊維からなる断熱スリーブを設けたことを特徴とする鋳造ノズルである。
【0007】
ノズル内にリング状の断熱スリーブを挿入し、注入初期におけるノズル内における凝固殻の発生を防止し、円滑な鋳造の継続を担保する。
【0008】
発明の第2の態様は、前記断熱スリーブは、セラミック繊維をリング状に形成したスリーブであることを特徴とする鋳造ノズルである。
【0009】
セラミック繊維は断熱効果があるので、ノズル孔内に注入された溶融金属の凝固殻の形成を遅らして、円滑な鋳造開始を行う。セラミック繊維としては、AlとSiOから成る繊維、ガラス繊維、スラグウール、アルミナファイバ、シリカファイバ、ジルコニヤファイバ等がある。特にAlとSiOから成るセラミックファイバは融点が高く好適である。
【0010】
発明の第3の態様は、前記断熱スリーブは、炭素繊維をリング状に形成したスリーブであることを特徴とする鋳造ノズルである。
【0011】
炭素繊維はリング状の形状を保ち、また溶融金属との濡れ性が悪いので、凝固殻を生成しにくくする効果がある。黒鉛繊維としてはカーボンクロス(例えば商品名としてタイロン3000)がある。クロスの厚みは例えば1.7mmのものが利用できる。
【0012】
発明の第4の態様は、前記断熱スリーブは、前記鋳物鋳造において利用される離型材を塗布または含浸させたスリーブであることを特徴とする鋳造ノズルである。
【0013】
離型材にはコンクリート用のものもあるが、かかる離型剤は融点が低いので望ましくない。鋳物鋳造において利用される離型剤は、砂型鋳型内面に塗布され鋳物表面に鋳物砂が付着しないように使用される離型剤であり、ノズル孔内壁に溶融金属が付着しないよう防止する効果がある。例えば、SiO2−SiC−CaO系で、塩基度1.7〜2.3の粉末60質量%に対して水ガラスを質量40%添加した離型材が望ましい。この離型材を例えばカーボンクロスまたはセラミック繊維に含浸させ、または、前記スリーブの表面に1.5mm程度塗布し、乾燥後使用する。
【0014】
発明の第5の態様は、前記ノズルは取鍋またはタンディッシュ用のスライドノズル用のスライドプレートノズルであることを特徴とする鋳造ノズルである。
【0015】
スライドプレートノズルのノズル孔が凝固殻で閉鎖されると円滑なノズル開閉ができず、流量制御が極めて困難になるので、特にスライドノズルに対して効果がある。
【0016】
発明の第6の態様は、前記溶融金属は溶鋼であることを特徴とする請求項1記載の鋳造ノズル。
溶鋼の凝固点は約1550度であり、凝固し易いので、これを防止することが出来る。
【発明の効果】
【0017】
取鍋またはタンディッシュのノズル内に、本発明による断熱スリーブをあらかじめセットしておき、溶鋼の鋳造を開始するとほぼ100%ノズルの閉鎖が生じず、円滑な鋳込みを開始することが出来た。従って、溶鋼の鋳造を開始するSNの操作によつて溶鋼の自然開孔が出来ないことは、これに伴う付帯作業として酸素による強制開孔やタンディッシュボンネット上からの棒突きが発生するが、この作業は鋳造の安定を乱す事のみならず、作菓の安全についても非常に危険が伴っている。本発明はこうした危険作業の解消と安定操業の維持を可能とするものである。特に取鍋に於ける自然開孔の成否は連続鋳造の連々鋳(取鍋を連続して鋳造する方式)の継続を左右する操業上の重要な要素が円滑に実施できた。
本発明により、取鍋またはタンディッシュからの鋳造開始において、ノズルを開とした場合において、円滑な溶融金属の流出開始がほぼ100%可能となり、その後の鋳造作業が継続できる効果が得られる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0018】
図面1〜6により具体的に発明の実施形態を説明する。図1に示すように取鍋1内の溶融金属は、特に溶鋼2は上ノズル3、流出量を制御するスライドノズル4、保護管5を介してタンディッシュ6に注入される。タンディッシュ内の溶鋼7は、ストッパー8を上下して注入量を制御し、溶鋼7を浸漬ノズル9を介して鋳型10内に注入する。または、スライドノズル11により溶鋼の流量は制御され、浸漬ノズル9を介して鋳型10に注入される。
【0019】
取鍋の上ノズルの詳細を図2、図3に示す。ノズル孔の頭部径は下部の径より大きく、下方に向かって緩やかな絞り状態(例えば、高さ300mm、上端径12mm、下部径10mm)であり、SNを全開にしても焼結状態になったサンド(砂)38は容易に抜け落ちない。そこで図3に示すように、サンドが焼結状態になる領域(上端から50mm程度)にノズルの最小径(D1)と同程度の直径のリング状で、望ましくは離型材を含浸したリング状断熱繊稚のスリーブ40を高さ(H)、約70mmの範囲に固着させ、このリング内にサンドを充填させると、この領域に発生するサンド38は、SNが全開すると、未焼結のまま流出し、スリーブ内の多少焼結したサンド37は溶鋼静圧によりブリッジを形成することが出来ず、ノズルから流出し、自然開孔が可能となった。
【0020】
一方、ダンディッシュのスライドノズルの構成例を図4に、スライドノズルの拡大図を図5に示す。タンディッシュは受鋼前に約1000℃以上に達するまで加熱される。SNも同様に予熱を行うが全閉の状態であるためノズル113の孔の表面のみの加熱され、内部までの加熱には至らない。受鋼する直前はSN11の中間プレート110又は下プレート112を全閉として受鋼する。このため、予熱したとは云え、ノズルの受鋼面の温度は500〜600℃程度でタンディッシュ内に溶鋼が一定量に達するまでの時間、約90秒前後の間に凝固殻が発達する。この凝固殻がSNの上プレート111の孔にプッリジをつくりSNの中間プレート、又は下プレートを開放にしても溶鋼が流出しない場合がある。
【0021】
従来、この場合の処置としてタンディッシュカバーの上部より棒鋼で強制的に凝固殻を突き破り溶鋼を流出させていた。本発明では、ブリッジを形成するSN上プレート111の厚み部分に離型材を含浸させた断熱繊維1.7mm厚を2層42としてスリーブ状に円周全面に固着させることにより耐火物による吸熱を減少させ、凝固殻の発達を抑制する。また、ブリッジが形成されても容易に剥離し、溶鋼の流出を可能とした。
【0022】
断熱繊維としては、セラミック繊維としては、AlとSiOから成る繊維、スラグウール、アルミナファイバ、シリカファイバ、ジルコニヤファイバ等がある。特にAlとSiOから成るセラミックファイバは融点が高く好適である。
【0023】
前記断熱スリーブは、そのほか炭素繊維をリング状に形成したスリーブも望ましい。
炭素繊維は溶融金属との濡れ性が悪いので、凝固殻が生成しにくい効果がある。
【0024】
離型材としては、鋳物鋳造において利用される離型剤で、鋳物表面に鋳物砂が付着しないように使用される離型剤であり、ノズル孔内壁に溶融金属が付着しないよう防止する効果がある。例として、SiO2−SiC−CaO系で、塩基度1.7〜2.3の粉末60質量%に対して水ガラスを質量40%添加した離型材を利用した。
【実施例】
【0025】
図2は取鍋の上ノズル3の断面図でノズルの内面に離型材を含浸させたリング状の断熱繊維で、高さ約70mmのスリーブ40を固着させた状態を示す。図2で固定プレート31に接して、注入を制御するスライドプレート32が移動する。断熱繊維は、例えば炭素繊維の平絞りで伸縮性のある繊維で、厚み1.7mmを多重に重ね合わせた布であり、各々のノズルの内径はDl>D2>D3の関係にあり、D3がDlの約95%である。上記断熱スリーブ40には離型材を含浸させ、図3に示す位置に無機質耐火セメントで固着させる。
図3はリングを内装したノズルが取鍋にセットされ、砂(SiO2とA1203 主成分)の詰め物38が充填された状態を示す。砂がノズル孔に充填した状態で溶鋼を受鋼する。溶鋼の温度は1550℃〜1600℃であり、溶鋼流によってサンド詰め物の一部35は押し流される。また一部は溶鋼との比重差により浮上する。従って残存する詰め物37は70〜80%で、その上層部40〜50mm程度が焼結層37を形成する。こうして離型材による固着施工位置は上端より約70mmである。焼結ブリッジは断熱材の範囲に限定することが出来た。
図4はタンディッシュ底部に設けられたスライドノズル11を示し、固定プレート111、中間のスライドプレート110および下プレート112から構成されている。タンディッシュの余熱は中間のスライドノズルを全閉の状態で予熱を開始する。
図5はタンディッシュのSNの拡大図である。SNの中間のスライドプレート110又は下プレート112が全閉の状態で、この状体の受鋼面は予熱で直接火炎に当たらず受鋼することになり、容易に凝固殻の発達に繋がっていると想定される。そこで、図4及び図5に示すように、ノズルの予熱開始前の準備段階で固定プレートのノズル孔の円周部に厚み1.7mmの2層の断熱炭素繊維42に離型材を含浸させたリング状スリーブを、耐熱モルタルにより固着させる。
上記実施例においては、取鍋またはタンディッシュのノズル内に1個の断熱スリーブを設けた例を示したが、当然にノズル下部ばかりでなく入口に本発明にかかる断熱スリーブを設けると手間はかかるが、さらにノズル閉鎖を完全に防止する効果が期待できる。
実験1として、SNプレート内面に断熱繊維に離型材を含浸させたスリーブを固着させたものを加熱900℃で2時間保持した後、スリーブの固着状態を検証した。また、実験2として断熱スリーブ施工後の溶鋼に浸漬試験をし、スリーブの状態を検討した。これらの結果でいずれの場合も断熱スリーブは施工状態を保持し、また、溶鋼の凝固殻の発生は認められなかった。
また、取鍋ノズル内に本発明を利用した結果5回の試験では100%自然開孔ができた。タンディッシュSNノズルに本発明を利用した結果5回の試験では100%の自然開孔が実施できた。
【産業上の利用可能性】
【0026】
本発明は、金属を鋳造する各種のノズルによる鋳造開始に際して利用に際して利用できる。
【図面の簡単な説明】
【0027】
【図1】本発明にかかる各種ノズルの利用形態を説明する図である。
【図2】本発明の鋳造ノズルに挿入される断熱スリーブの配置を示す図である。
【図3】本発明の鋳造ノズルに挿入される断熱スリーブ内の鋳造時の態様を示す図である。
【図4】本発明にかかるSN鋳造ノズルの利用態様を示す図である。
【図5】本発明にかかるSN鋳造ノズルに挿入される断熱スリーブの配置を示す図である。
【符号の説明】
【0028】
1 取鍋
2 溶鋼
3 113 上ノズル
4 上ノズルの下部のスライドプレート
5 保護管
6 タンディッシュ
7 タンディッシュ内溶鋼
8 ストッパー
9 浸漬ノズル
10 鋳型
11 スライドノズル
31 固定ノズル
32 スライドプレート
35 流されるサンド
37 焼結されるサンド
38 未焼結サンド
40 取鍋用断熱スリーブ
42 タンディッシュ用断熱スリーブ
110 スライドノズルのスライドプレート
111 スライドノズルの固定プレート
112 スライドノズルの下プレート

【特許請求の範囲】
【請求項1】
溶融金属用容器から溶融金属を鋳込むためのノズルであって、該ノズルの注入孔の少なくとも入口又は出口の一方又は双方の内面にリング状のセラミック繊維からなる断熱スリーブを設けたことを特徴とする鋳造ノズル。
【請求項2】
前記断熱スリーブは、セラミック繊維をリング状に形成したスリーブであることを特徴とする請求項1記載の鋳造ノズル。
【請求項3】
前記断熱スリーブは、炭素繊維をリング状に形成したスリーブであることを特徴とする請求項1記載の鋳造ノズル。
【請求項4】
前記断熱スリーブは、鋳物鋳造において利用される離型剤を塗布または含浸させた断熱スリーブであることを特徴とする請求項1記載の鋳造ノズル。
【請求項5】
前記ノズルは取鍋またはタンディッシュ用のスライドノズル用のスライドプレートノズルであることを特徴とする請求項1記載の鋳造ノズル。
【請求項6】
前記溶融金属は溶鋼であることを特徴とする請求項1記載の鋳造ノズル。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【公開番号】特開2008−126258(P2008−126258A)
【公開日】平成20年6月5日(2008.6.5)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−312984(P2006−312984)
【出願日】平成18年11月20日(2006.11.20)
【出願人】(000220767)東京窯業株式会社 (211)
【Fターム(参考)】