説明

断熱箱体及びその製造方法

【課題】断熱箱体の製造方法において、断熱性能の大幅な低下を防止しつつ硬質ポリウレタンフォームの使用量を低減して原価低減を図ると共に、良好な箱体外観を維持すること。
【解決手段】断熱箱体の製造方法は、外箱1の側壁と内箱3の側壁との間に形成される側面空間の中間部分にパネル状の樹脂発泡体5を配置した箱体21を形成し、この箱体21の貯蔵室の開口面を下にした状態で、硬質ポリウレタンフォーム2を側面空間の底部側から樹脂発泡体5の両側を通して上方に発泡させ、当該樹脂発泡体5を埋設するように充填する方法である。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、断熱箱体及びその製造方法に係り、特に冷蔵庫、冷凍庫、冷蔵ショーケースおよび自動販売機などに用いる断熱箱体及びその製造方法に好適なものである。
【背景技術】
【0002】
従来の一般的な冷蔵庫の断熱箱体(従来技術1)は、外箱と内箱とを組み合わせて貯蔵室を有する箱体を形成し、外箱と内箱との間に形成される空間に硬質ポリウレタンフォームを充填して断熱箱体を形成したものであった。
【0003】
近年、地球温暖化防止の観点から省エネルギーが強く望まれており、熱を効率的に利用するという観点から、優れた断熱性能を有する断熱箱体が求められている。
【0004】
そこで、例えば特開2002−90048号公報(特許文献1)に示された断熱箱体(従来技術2)が案出されている。この断熱箱体は、断熱性の高い真空断熱材を外箱の裏側に貼り付け、この外箱と内箱とを組み合わせて箱体を形成し、外箱と内箱との間に形成される空間に硬質ポリウレタンフォームを充填して断熱箱体を形成したものであった。
【0005】
【特許文献1】特開2002−90048号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
近年、原油価格の高騰や全世界におけるウレタン原料の需給アンバランスなどから、世界的なウレタン原料の逼迫やウレタン原料価格の高騰などの問題が生じている。
【0007】
しかし、上述の従来技術1の断熱箱体では、外箱と内箱との間に形成される空間の全部に硬質ポリウレタンフォームを充填するものであるため、硬質ウレタンフォームの使用量が極めて大きく、上述のウレタン原料に係る問題の影響を大きく受けてしまうものであった。
【0008】
一方、上述の従来技術2の断熱箱体では、真空断熱材を外箱の裏側に貼り付けているため、硬質ポリウレタンフォームの発泡圧で真空断熱材が外箱側に押されて外箱が変形し外箱面外観が悪くなってしまうという問題があった。また、外箱の内側に放熱用パイプが存在する場合には、その部分に真空断熱材を貼り付けることができないために、その分だけ真空断熱材を小さくしなければならず、硬質ポリウレタンフォームの使用量の低減に制約を受けていた。なお、真空断熱材の厚さを厚くして硬質ウレタンフォームの使用量をさらに低減することが考えられるが、真空断熱材が硬質ウレタンフォームよりも非常に高価であるため、大幅な原価アップを招いてしまうという問題が生ずる。
【0009】
本発明の目的は、断熱性能の大幅な低下を防止しつつ硬質ポリウレタンフォームの使用量を低減して原価低減を図れると共に、良好な箱体外観を維持できる断熱箱体及びその製造方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0010】
前述の目的を達成するために、本発明の第1の態様は、内部に貯蔵室を有し、外箱と内箱との間の空間に前記貯蔵室の開口面を下にした状態で硬質ポリウレタンフォームが充填及び発泡され、この硬質ポリウレタンフォームを断熱壁として用いる断熱箱体において、前記断熱箱体の背面に設けられ硬質ポリウレタンフォームを注入するための注入口と、前記外箱の側壁と前記内箱の側壁との問の空間の中間部分に埋設されるパネル状の樹脂発泡体と、を備え、
前記注入口は、前記樹脂発泡体よりも前記外箱の側壁との距離が近い場所に位置する構成としたものである。
【0011】
係る本発明の第1の態様におけるより好ましい具体的構成例は次の通りである。
(1)前記注入口は、前記樹脂発泡体の背面側投影面外に位置すること。
(2)前記外箱の側壁面と前記パネル状樹脂発泡材との間を硬質ポリウレタンフォームの流動路とし、前記樹脂発泡体は前記硬質ポリウレタンフォーム内に埋設されること。
(3)前記樹脂発泡体の前記外箱側の面は、前記外箱の側壁面と略平行に配置させたこと。
【0012】
前述の目的を達成するために、本発明の第2の態様は、外箱及び内箱からなり貯蔵室を有する箱体を形成し、前記外箱と前記内箱との間に形成される空間に硬質ポリウレタンフォームを充填して断熱箱体を形成する断熱箱体の製造方法において、前記外箱の側壁と前記内箱の側壁との間に形成される側面空間の中間部分にパネル状の樹脂発泡体を配置した前記箱体を形成し、この箱体の貯蔵室の開口面を下にした状態で、前記硬質ポリウレタンフォームを前記側面空間の底部側から前記樹脂発泡体の両側を通して上方に発泡させ、当該樹脂発泡体を埋設するように充填したことにある。
【0013】
係る本発明の第2の態様におけるより好ましい具体的な構成例は次の通りである。
(1)前記樹脂発泡体として発泡倍率が30倍以下のポリスチレン樹脂発泡体を用いたこと。
(2)前記樹脂発泡体を前記外箱の側壁に支持脚を介して支持することにより当該樹脂発泡体を前記側面空間の中間部分に配置したこと。
(3)前記樹脂発泡体内に耳部を有する真空断熱材を埋設して一体成型し、当該樹脂発泡体を前記側面空間の中間部分に配置したこと。
(4)前記樹脂発泡体の下辺が前記側面空間の底部から100mm以上の高さとなるように当該樹脂発泡体を前記側面空間の中間部分に配置したこと。
(5)前記硬質ポリウレタンフォームの発泡時に上面となる前記外箱の背壁の中央部にガスを排出する穴を設け、前記外箱の背壁と前記外箱の側壁との角部に、前記硬質ポリウレタンフォームの発泡を前記穴の方に導く傾斜面を有する樹脂発泡体を設置したこと。
【発明の効果】
【0014】
本発明の断熱箱体及びその製造方法によれば、断熱性能の大幅な低下を防止しつつ硬質ポリウレタンフォームの使用量を低減して原価低減を図れると共に、良好な箱体外観を維持できる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0015】
以下、本発明の実施形態に係る断熱箱体及びその製造方法を図1から図4を参照しながら説明する。
【0016】
本実施形態の断熱箱体の製造方法により製造された冷蔵庫の全体構成に関して図1を参照しながら説明する。
【0017】
冷蔵庫50は、断熱箱体20、複数の断熱扉25〜28、冷凍サイクル及び制御装置などから構成されている。
【0018】
断熱箱体20は、外箱1及び内箱3からなる箱体21と、外箱1と内箱3との間に形成された空間に充填された硬質ポリウレタンフォーム2と、外箱1の側壁と内箱3の側壁との問の空間の中間部分に埋設されたパネル状の樹脂発泡体5とを備えて構成されている。硬質ポリウレタンフォーム2及び樹脂発泡体5は共に断熱壁として用いられる。外箱1の側壁面と樹脂発泡材5との間を硬質ポリウレタンフォームの流動路とし、樹脂発泡体5は硬質ポリウレタンフォーム2内に埋設されている。そして、樹脂発泡体5の外箱側の面は、外箱1の側壁面と略平行に配置させている。
【0019】
断熱箱体20の背面には、硬質ポリウレタンフォーム2を注入するための注入口が設けられている。この注入口は、樹脂発泡体5よりも外箱1の側壁との距離が近い場所に位置し、具体的には樹脂発泡体5の背面側投影面外に位置している。
【0020】
外箱1は金属板で構成され、内箱3は合成樹脂材料で構成されている。箱体21は、外箱1及び内箱2の前面フランジ部が全周にわたって密着するように外箱1及び内箱2を組み合わせて構成されており、複数の貯蔵室22〜24を形成している。複数の貯蔵室22〜24は、上から冷蔵室22、野菜室23、第1の冷凍室24、第2の冷凍室24の順に配列されている。
【0021】
なお、外箱1の各壁面の裏側には冷凍サイクルの一部を構成する放熱パイプ4(図2参照)が設置され、外箱1を通して冷凍サイクルの熱を放熱することにより冷凍サイクルの効率を向上するようになっている。また、内箱3の各壁面は、凹凸を有していたり、付属品が装着されたりしていて平坦な面は少ない。
【0022】
樹脂発泡体5は、断熱箱体22を構成する外箱1と内箱3との間に形成される側面空間の中間部分に配置されている。図1に示す例では、樹脂発泡体5は、箱体21が形成する上壁部、底壁部、両側壁部及び背壁部における空間の中間部分にそれぞれ配置されている。樹脂発泡体5は、支持脚6(図2(c)〜(e)参照)を介して外箱1に支持されている。樹脂発泡体5としては、ポリスチレン樹脂発泡体、具体的にはポリスチレン樹脂発泡成型ボードが用いられている。なお、樹脂発泡体5としてアクリロニトリル・スチレン樹脂発泡体またはフェノール樹脂発泡体を用いてもよい。これらのポリスチレン樹脂発泡体、アクリロニトリル・スチレン樹脂発泡体、フェノール樹脂発泡体からなる樹脂発泡体5は、硬質ポリウレタンフォーム2よりも一般的に安価である。
【0023】
複数の断熱扉25〜28は、冷蔵室22、野菜室23、第1の冷凍室24、第2の冷凍室24の開口部を開閉するように設けられ、上から冷蔵室扉25、野菜室扉26、第1の冷凍室扉27、第2の冷凍室扉28を構成している。野菜室扉26、第1の冷凍室扉27、第2の冷凍室扉28は、引き出し式の扉であり、各々の部屋を構成する容器を扉の引き出し時に扉と共に手前側に引出されるように構成されている。
【0024】
冷凍サイクルは、断熱箱体20の角部に配置された圧縮機29と、貯蔵室の背面側に配置された冷却器30と、凝縮器と、キャピラリーチューブなどを冷媒配管で接続して構成されている。冷却器30の上方には冷気ファン31が配設されている。この冷気ファン31は、冷却器30で冷却された冷気を各貯蔵室22〜24へと送り、庫内を所定温度に冷却する。なお、温度の異なる貯蔵室22〜24に対応する数だけ冷却器を設け、各冷却器により各貯蔵室22〜24を独立して冷却するようにしてもよい。
【0025】
次に、従来例、比較例1、本実施形態の実施例1〜3の断熱箱体に関して図2、図3及び表1を参照しながら説明する。
【0026】
【表1】

【0027】
これらの従来例、比較例1、実施例1〜3の断熱箱体の製造方法は、箱体21の貯蔵室22〜24の開口面を下にした状態で、硬質ポリウレタンフォーム2の原液2aを側面空間の底部に供給し、硬質ポリウレタンフォームを底部側から上方に発泡させ、外箱1と内箱3とで形成される空間内に硬質ポリウレタンフォームを充填して断熱箱体20を形成する点で共通するので、以下の各製造方法で重複して説明することを省略する。
【0028】
図2(a)に示す従来例の断熱箱体の製造方法は、外箱1と内箱3とで形成される空間内に樹脂発泡体5設置せずに硬質ポリウレタンフォーム2を充填する製造方法であり、外箱1と内箱3とで形成される空間内の全部に硬質ポリウレタンフォーム2が充填される。この従来例の断熱箱体の製造方法によれば、外箱面外観は良好であるものの、上述したように、硬質ポリウレタンフォーム2の使用量が多くなるために原価アップを招くという問題がある。表1は、この従来例を比較例1及び実施例1〜3の基準として表示してある。
【0029】
図2(b)に示す比較例1の断熱箱体の製造方法は、樹脂発泡体5を外箱1の裏面にテープや接着剤によって貼り付けてウレタン注入容積を減じた状態で、硬質ポリウレタンフォーム2を充填する製造方法である。ここで、外箱1と内箱3とで形成される空間に対して、樹脂発泡体5の体積比が10%であり、樹脂発泡体5の厚み方向の占有率が30%である。また、側面空間の底部から樹脂発泡体5の下辺まで高さが100mmである。さらには、樹脂発泡体5として発泡倍率が60倍のポリスチレン樹脂発泡体が用いられている。なお、樹脂発泡体5に形成した凹みの中に外箱1の裏側に既設された放熱パイプ4等の立体物を収納することにより、樹脂発泡体5を外箱1の裏側に密着するように設置してある。
【0030】
この比較例1の断熱箱体の製造方法によれば、表1の比較例1に示すように、従来例と比較して、熱漏洩量対比を104%に抑えつつ、ウレタン注入量低減率を7%とすることができるものの、放熱パイプ4部分にウレタン発泡ガスが滞留するため、外箱面外観が悪くなってしまうという問題がある。また、この比較例1では、樹脂発泡体5の発泡倍率が60倍と大きいために、硬質ポリウレタンフォーム3の発泡によって樹脂発泡体5の一部が溶解してしまう、という問題が生ずることが分かった。
【0031】
図2(c)に示す実施例1の断熱箱体の製造方法は、側面空間の中間部分に樹脂発泡体5を配置した状態で、硬質ポリウレタンフォーム2を充填する製造方法である。ここで、外箱1と内箱3とで形成される空間に対して、樹脂発泡体5の体積比が10%であり、樹脂発泡体5の厚み方向の占有率が30%である。また、側面空間の底部から樹脂発泡体5の下辺まで高さが50mmであり、樹脂発泡体5として発泡倍率が30倍のポリスチレン樹脂発泡体が用いられている。なお、樹脂発泡体5を外箱1の側壁に複数の支持脚6を介して支持することにより、樹脂発泡体5を側面空間の中間部分に配置している。これによって、放熱パイプ4が存在しても樹脂発泡体5を放熱パイプ4から離れて対向する位置に配置することができる。
【0032】
この実施例1の断熱箱体の製造方法によれば、表1の実施例1に示すように、熱漏洩量対比を105%に抑えつつ、ウレタン注入量低減率を3%とすることができと共に、外箱面外観を良好に維持することができる。また、この実施例1では、発泡倍率が30倍のポリスチレン樹脂発泡体を樹脂発泡体5として用いたことにより、が硬質ポリウレタンフォーム3の発泡によって樹脂発泡体5の一部が溶解することを防止することができた。
【0033】
なお、この実施例1では、比較例1に対して、熱漏洩量が大きくなると共に、ウレタン注入量の低減率も小さくなっているが、設置した樹脂発泡体5の位置が低いため、硬質ポリウレタンフォーム3の発泡が立ち上る際に障壁となり、各空隙部へのバランスの良いウレタン樹脂流動に繋がらないことが原因として考えられる。
【0034】
図2(d)に示す実施例2の断熱箱体の製造方法は、側面空間の底部から樹脂発泡体5の下辺まで高さが120mmとした点を除いて、実施例1と同じである。
【0035】
この実施例2の断熱箱体の製造方法によれば、表1の実施例2に示すように、実施例1よりも側面空間の底部から樹脂発泡体5の下辺まで高さを120mmと高くしたので、硬質ポリウレタンフォーム3の発泡の立ち上がりがスムースになり、熱漏洩量対比を104%に抑えつつ、ウレタン注入量低減率を6%とすることができ、実施例1よりもウレタン注入量を大幅に低減することができた。
【0036】
図2(e)に示す実施例3の断熱箱体の製造方法は、側面空間の底部から樹脂発泡体5の下辺まで高さを100mmとし、樹脂発泡体5内に耳部8aを有する真空断熱材8を埋設して一体成型した点を除いて、実施例1と同じである。
【0037】
この実施例3の断熱箱体の製造方法によれば、実施例1よりも側面空間の底部から樹脂発泡体5の下辺まで高さを100mmと高くしたので、硬質ポリウレタンフォーム3の発泡の立ち上がりがスムースになり、ウレタン注入量低減率を6%とすることができ、実施例1よりもウレタン注入量を大幅に低減することができた。
【0038】
また、断熱性能の高い真空断熱材8を内蔵しているので、熱漏洩量対比を98%に低減することができた。ポリスチレン樹脂発泡体単体の熱伝導率は28.0[mW/m・K]であるのに対し、真空断熱材8の熱伝導率は2.5[mW/m・K]であるので、真空断熱材8を内蔵した樹脂発泡体5全体の熱伝導率は8.0[mW/m・K]となる。このように、真空断熱材8を内蔵した樹脂発泡体5とすることにより、ポリスチレン樹脂発泡体単体と比較して、大幅な熱伝導率の改善を実現できる。
【0039】
しかも、真空断熱材8の耳部8aが樹脂発泡体5に内蔵されているので、真空断熱材8の耳部8aが硬質ポリウレタンフォーム2の流動性を阻害する問題を解消することができる。
【0040】
この実施例3で用いられる真空断熱材8を図3を参照しながら説明する。真空断熱材8は、芯材10と、熱溶着層用のプラスチック層を有す金属箔ラミネートフィルム等から成る外包材11とから成っている。
【0041】
芯材10は、無機繊維の積層体13と、内袋12とから構成されている。この無機繊維の積層体13には、グラスウール、グラスファイバー、アルミナ繊維、シリカアルミナ繊維或いは本綿等の天然繊維が用いられている。内袋12には肉厚20μmのポリエチレン等の合成樹脂フィルムが用いられている。芯材10内には吸着剤14が収納されている。この吸着剤14には、例えば合成ゼオライトであるモレキュラーシーブや、不織布等に収納した生石灰(酸化カルシウム)等が使われている。
【0042】
そして、芯材10を外包材11内に収納し、外包材11内を減圧して外包材の周縁を溶着して密封することにより図3に示す真空断熱材8が得られる。なお、外包材11は一般的にはプラスチック−金属箔ラミネートフィルムで構成されており、外包材11の開口部を溶着、密封する際には、このプラスチック部を溶かして溶着するものである。
【0043】
上記実施例1〜3のように、外箱1の側壁と内箱3の側壁との間に形成される側面空間の中間部分に樹脂発泡体5を配置して、側面空間、つまりウレタン流動空間を他の部材の設置により狭めてしまう場合、硬質ポリウレタンフォーム3の材料を高流動タイプとすることが望ましい。高流動タイプとすることにより、相乗的な効果を期待できる。近年の冷蔵庫向けの硬質ポリウレタンフォーム3は、冷蔵庫の断熱性能の向上(消費電力量の低減)のため、低熱伝導率化が加速しており、相反因子となるウレタン流動性が良好でない傾向にある。特に、低熱伝導率化を達成するため、ファインセル化を狙った高反応性のポリエステルのポリオールの導入がトレンドとなっている。
【0044】
そこで、ポリエステルの配合部数や、水部数、フリー密度の最適化を検討した結果、より大きな効果が得られる実施例4〜6を見出した。
【0045】
表2に示す本実施形態における比較例2は、ポリオール100部に対して、ポリエステルを15部、水分を1.5部含有するポリオールを用いて発泡成型した硬質ウレタンフォームの例である。
【0046】
【表2】

【0047】
この比較例2では、フリー発泡密度が25.2[kg/m]と高く、流動性はあまり良くなかった。また、370mm×540mm×35mmtのストレートモールドにて発泡成型した硬質ウレタンフォームの熱伝導率を、英弘精機製熱伝導率測定装置HC−073にて測定したところ、10℃で16.9[mW/m・K]であった。また、このモールドに厚さ20mmのポリスチレン樹脂発泡体を設置して残りの空隙部に比較例2のウレタン樹脂を注入して発泡成型した断熱パネルの熱伝導率を英弘精機製熱伝導率測定装置HC−073にて測定したところ、10℃で25.0[mW/m・K]であり、断熱厚が薄い部分つまりウレタン流動空隙が狭いところではウレタンスキン層の生成が顕著になり熱伝導率の悪化につながっている。つまり、ウレタン流動性があまり良くないと言える。
【0048】
表2に示す本実施形態における比較例3は、ポリオール100部に対して、ポリエステルを15部、水分を1.3部含有するポリオールを用いて発泡成型した硬質ウレタンフォームの例である。この比較例3では、フリー発泡密度が24.8[kg/m]と高く、ポリエステルも比較的多いため高反応性であり、また水分量も少ないことから、流動性はあまり良くなかった。また、370mm×540mm×35mmtのストレートモールドにて発泡成型した硬質ウレタンフォームの熱伝導率を、英弘精機製熱伝導率測定装置HC−073にて測定したところ、10℃で16.8〔mW/m・K]と良好であった。しかし、このモールドに厚さ20mmのポリスチレン樹脂発泡体を設置して残りの空隙部に比較例3のウレタン樹脂を注入して発泡成型した断熱パネルの熱伝導率を英弘精機製熱伝導率測定装置HC−073にて測定したところ、10℃で24.7[mW/m・K]であり、断熱厚が薄い部分つまりウレタン流動空隙が狭いところではウレタンスキン層の生成が顕著になり熱伝導率の悪化につながっている。つまり、ウレタン流動性があまり良くないと言える。
【0049】
表2に示す本実施形態における比較例4は、ポリオール100部に対して、ポリエステルを5部、水分を2.1部含有するポリオールを用いて発泡成型した硬質ウレタンフォームの例である。この比較例4では、フリー発泡密度が24.5[kg/m]と比較的高く、流動性はあまり良くなかった。また、370mm×540mm×35mmtのストレートモールドにて発泡成型した比較例4の硬質ウレタンフォームの熱伝導率を、英弘精機製熱伝導率測定装置HC−073にて測定したところ、10℃で17.5[mW/m・K]とあまり良くなかった。これは、ポリエステル成分が少ないのと、水部数が多めの領域にあるためであると考えられる。また、このモールドに厚さ20mmのポリスチレン樹脂発泡体を設置して残りの空隙部に比較例4のウレタン樹脂を注入して発泡成型した断熱パネルの熱伝導率を英弘精機製熱伝導率測定装置HC−073にて測定したところ、10℃で25.4[mW/m・K]であり、流動性もあまり良くないと言える。
【0050】
表2に示す本実施形態における比較例5は、ポリオール100部に対して、ポリエステルを20部、水分を2.2部含有するポリオールを用いて発泡成型した硬質ウレタンフォームの例である。この比較例5では、フリー発泡密度が24.8[kg/m]と比較的高く、流動性はあまり良くなかった。また、370mm×540mm×35mmtのストレートモールドにて発泡成型した硬質ウレタンフォームの熱伝導率を、英弘精機製熱伝導率測定装置HC−073にて測定したところ、10℃で17.4[mW/rn・K]とあまり良くなかった。これは、水部数が多かったためであると考えられる。水部数が多いと、ウレア化により発生したガスで泡化が促進されるが、ガスの熱伝導率が良くないため、熱伝導率の悪化につながっていると考えられる。また、このモールドに厚さ20mmのポリスチレン樹脂発泡体を設置して残りの空隙部に比較例5のウレタン樹脂を注入して発泡成型した断熱パネルの熱伝導率を英弘精機製熱伝導率測定装置HC−073にて測定したところ、10℃で25.5[mW/m・K]であり、流動性もあまり良くないと言える。
【0051】
表2に示す本実施形態における実施例4は、ポリオール100部に対して、ポリエステルを8部、水分を2.0部含有するポリオールを用いて発泡成型した硬質ウレタンフォームの例である。この実施例4では、フリー発泡密度が24.0[kg/m]と適切であり、流動性は良好であった。また、370mm×5401nm×35mmtのストレートモールドにて発泡成型した実施例4の硬質ウレタンフォームの熱伝導率を、英弘精機製熱伝導率測定装置HC−073にて測定したところ、10℃で17.6[mW/m・K]であった。また、このモールドに厚さ20mmのポリスチレン樹脂発泡体を設置して残りの空隙部に実施例4のウレタン樹脂を注入して発泡成型した断熱パネルの熱伝導率を英弘精機製熱伝導率測定装置HC−073にて測定したところ、10℃で23.7[mW/m・K]と良好であり、この点からも流動性が良好であると言える。
【0052】
表2に示す本実施形態における実施例5は、ポリオール100部に対して、ポリエステルを15部、水分を1.6部含有するポリオールを用いて発泡成型した硬質ウレタンフォームの例である。この実施例5では、フリー発泡密度が23.5[kg/m]と適切であり、流動性は良好であった。また、370mm×540mm×35mmtのストレートモールドにて発泡成型した実施例5の硬質ウレタンフォームの熱伝導率を、英弘精機製熱伝導率測定装置HC−073にて測定したところ、10℃で16.8[mW/m・K]と良好であった。また、このモールドに厚さ20mmのポリスチレン樹脂発泡体を設置して残りの空隙部に実施例4のウレタン樹脂を注入して発泡成型した断熱パネルの熱伝導率を英弘精機製熱伝導率測定装置HC−073にて測定したところ、10℃で23.5[mW/m・K]と良好であり、この点からも流動性が良好であると言える。
【0053】
表2に示す本実施形態における実施例6は、ポリオール100部に対して、ポリエステルを10部、水分を1.8部含有するポリオールを用いて発泡成型した硬質ウレタンフォームの例である。この実施例6では、フリー発泡密度が24.2[kg/m]と適切であり、流動性は非常に良好であった。また、370mm×540mm×35mmtのストレートモールドにて発泡成型した実施例6の硬質ウレタンフォームの熱伝導率を、英弘精機製熱伝導率測定装置HC−073にて測定したところ、10℃で17.0[mW/m・K]であった。また、このモールドに厚さ20mmのポリスチレン樹脂発泡体を設置して残りの空隙部に実施例6のウレタン樹脂を注入して発泡成型した断熱パネルの熱伝導率を英弘精機製熱伝導率測定装置HC−073にて測定したところ、10℃で23.3[mW/m・K]と実施した中では最も高性能であり、流動性と断熱性能の両立が図られた結果となった。
【0054】
上述した表2の例えば比較例3と実施例4とを比較すると、実施例4は、硬質ウレタンフォーム単体では比較例3よりも熱伝導率が劣るものの、断熱箱体としては比較例3よりも熱伝導率に優れていることが分かった。この結果は、硬質ウレタンフォームの流動性を優先した処方とし、硬質ウレタンフォーム単体の熱伝導率が若干劣る場合であっても、内箱・外箱間の中間位置に樹脂発泡体を備えることによって、樹脂発泡体自体が有する断熱性能による効果と、ウレタンの流動経路が確保される位置に樹脂発泡材を配設したことによって、ウレタン流動と発泡の均一化が図られたことによる効果との相乗効果が得られ、断熱箱体全体として優れた断熱性能が確保される、ということを示している。つまり、流動性の向上が図られることによって、硬質ウレタンフォーム自体の状態が良くなり、箱体トータルで考えれば断熱性能が向上するという効果が得られる、ということになる。
【0055】
一般的に硬質ウレタンフォームは断熱性能と流動性とは背反する関係にあり、フォーム成形過程の反応性の高低によって、断熱性能や流動性が定まる。したがって、これらを両立する処方を得ることが重要となるが(例えば実施例6)、それだけではなく、高流動性の硬質ウレタンフォームを用いることによる、断熱性能の悪化(低流動性ウレタンとの比較による)を補うことも重要になる。
【0056】
単に発泡樹脂体を断熱空間に設置しただけではウレタン流動を阻害する原因となってしまうため、本発明では、フォーム成形のしやすい流動経路が確保できる位置を特定して発泡樹脂体を配設している。すなわち、硬質ウレタンフォームの高流動化を図れば、一般的には断熱性能が悪化するが、発泡樹脂体の位置によっては、箱体トータルの断熱性能が逆転することを見出したのである。
【0057】
加えて、発泡樹脂体が内箱・外箱間の中間位置に配設されていることから、外箱の表面性が向上し、外観品質の向上も図ることができる。
【0058】
ウレタン樹脂の流動に適した樹脂発泡体5の設置方法について図4を用いて説明する。図4はウレタン樹脂の流動に適した樹脂発泡体5の設置方法を説明するための冷蔵庫の断面図である。図4において、上部が冷蔵庫の背面、下部が冷蔵庫の前面を表している。
【0059】
図4(a)〜(d)に示す従来例、実施例7〜9において、外箱1と内箱3によって囲まれた空間に硬質ウレタンフォーム2が充填される。ウレタン樹脂は、冷蔵庫背面に位置させた注入ヘッドより外箱1と内箱3によって囲まれた空間底部(フランジ面部)に向かって注入され、発泡により立ち上がり、冷蔵庫背面に設けられたガス抜き穴9付近において最終部となる。ガス抜き穴9が設置されないと、ウレタン発泡により生じたガスが溜まり、ウレタン樹脂の伸びを阻害し、ウレタン樹脂の未充填を引き起こす。逆に、ウレタン樹脂が流動しにくい部分に適切にガス抜き穴9を設置すると、ウレタン樹脂の注入量を削減できる可能性があるが、冷蔵庫意匠との関わりから、ガス抜き穴9を設置できる位置は限定されている。よって、いかに効果的にガス抜き穴から発泡ガスを排出させるか、つまりウレタン樹脂をガス抜き穴9に強制的に流動させるかについて、以下に説明する。
【0060】
図4(a)に示す従来例は、外箱1と内箱3によって囲まれた空間を全てウレタン樹脂のみで占める例である。この従来例の場合、外箱1のコーナー部や、内箱3のリブ等の複雑な形状部においては、ウレタン樹脂が充填しにくい、或いは未充填になる場合もあり、余剰にウレタン注入量が必要となる。
【0061】
図4(b)に示す実施例7は、両側面空間の中間部に設置した樹脂発泡体5に加えて、内箱3の背面の裏側に厚い樹脂発泡体5Aを設置した例である。この実施例7では、樹脂発泡体5、5Aの体積率が10%であり、ウレタン注入量が従来例と比較して5%の低減となった。
【0062】
図4(c)に示す実施例8は、両側面空間の中間部に設置した樹脂発泡体5及び内箱3の背面の裏側に設置した薄い樹脂発泡体5Aに加えて、外箱1の背壁と外箱の側壁との角部にウレタン樹脂の発泡を穴の方に導く傾斜面5Baを有する樹脂発泡体5Bを設置した例である。この実施例8では、樹脂発泡体5、5A、5Bの体積率が10%であるにも係らず、ウレタン注入量が従来例と比較して6%の低減となった。これは、樹脂発泡体5Bの形状や設置位置が、ウレタン最終充填部に向かって流れやすい配置となったためと考えられる。
【0063】
図4(d)に示す実施例9は、実施例8における樹脂発泡体5Aをガス抜き穴9に対向する部分を頂点とした山形傾斜面5Aaを有する形状にすると共に、実施例8における樹脂発泡体5Bをガス抜き穴9側に延ばして傾斜面5Baを緩やかにした例である。この実施例9では、樹脂発泡体5、5A、5Bの体積率が10%であるにも係らず、ウレタン注入量が従来例と比較して8%の低減となった。これは、樹脂発泡体5Bの形状がウレタン最終充填部に向かってさらに流れやすい配置となったためと考えられる。
【図面の簡単な説明】
【0064】
【図1】本発明の実施形態の断熱箱体の製造方法により製造された冷蔵庫の縦断面図である。
【図2】従来例、比較例及び本実施形態の実施例1〜3の断熱箱体の製造方法を示す要部断面図である。
【図3】本実施形態の実施例3に用いる真空断熱材の断面図である。
【図4】ウレタン樹脂の流動に適した樹脂発泡体の設置方法を説明するための冷蔵庫の断面図である。
【符号の説明】
【0065】
1…外箱、2…硬質ウレタンフォーム、3…内箱、4…放熱パイプ、5…樹脂発泡体、6…支持脚、固定用樹脂部品、7…一体成型断熱ボード、8…真空断熱材、9…ウレタンガス抜き穴、10…芯材、11…外包材、12…内袋、13…積層体、14…吸着剤、20…断熱箱体、21…箱体、22…冷蔵室、23…野菜室、24…冷凍室、25…冷蔵室扉、26…野菜室扉、27…第1の冷凍室扉、28…第2の冷凍室扉、29…圧縮機、30…冷却器、31…冷気ファン、50…冷蔵庫。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
内部に貯蔵室を有し、外箱と内箱との間の空間に前記貯蔵室の開口面を下にした状態で硬質ポリウレタンフォームが充填及び発泡され、この硬質ポリウレタンフォームを断熱壁として用いる断熱箱体において、
前記断熱箱体の背面に設けられ硬質ポリウレタンフォームを注入するための注入口と、前記外箱の側壁と前記内箱の側壁との問の空間の中間部分に埋設されるパネル状の樹脂発泡体と、を備え、
前記注入口は、前記樹脂発泡体よりも前記外箱の側壁との距離が近い場所に位置することを特徴とする断熱箱体。
【請求項2】
前記注入口は、前記樹脂発泡体の背面側投影面外に位置することを特徴とする請求項1に記載の断熱箱体。
【請求項3】
前記外箱の側壁面と前記樹脂発泡材との間を硬質ポリウレタンフォームの流動路とし、前記樹脂発泡体は前記硬質ポリウレタンフォーム内に埋設されることを特徴とする請求項1または2に記載の断熱箱体。
【請求項4】
前記樹脂発泡体の前記外箱側の面は、前記外箱の側壁面と略平行に配置させたことを特徴とする請求項1〜3のいずれかに記載の断熱箱体。
【請求項5】
外箱及び内箱からなり貯蔵室を有する箱体を形成し、前記外箱と前記内箱との間に形成される空間に硬質ポリウレタンフォームを充填して断熱箱体を形成する断熱箱体の製造方法において、
前記外箱の側壁と前記内箱の側壁との間に形成される側面空間の中間部分にパネル状の樹脂発泡体を配置した前記箱体を形成し、
この箱体の貯蔵室の開口面を下にした状態で、前記硬質ポリウレタンフォームを前記側面空間の底部側から前記樹脂発泡体の両側を通して上方に発泡させ、当該樹脂発泡体を埋設するように充填したこと
ことを特徴とする断熱箱体の製造方法。
【請求項6】
請求項5において、前記樹脂発泡体として発泡倍率が30倍以下のポリスチレン樹脂発泡体を用いたことを特徴とする断熱箱体の製造方法。
【請求項7】
請求項5において、前記樹脂発泡体を前記外箱の側壁に支持脚を介して支持することにより当該樹脂発泡体を前記側面空間の中間部分に配置したことを特徴とする断熱箱体の製造方法。
【請求項8】
請求項5において、前記樹脂発泡体内に耳部を有する真空断熱材を埋設して一体成型し、当該樹脂発泡体を前記側面空間の中間部分に配置したことを特徴とする断熱箱体の製造方法。
【請求項9】
請求項5において、前記樹脂発泡体の下辺が前記側面空間の底部から100mm以上の高さとなるように当該樹脂発泡体を前記側面空間の中間部分に配置したことを特徴とする断熱箱体の製造方法。
【請求項10】
請求項5において、前記硬質ポリウレタンフォームの発泡時に上面となる前記外箱の背壁の中央部にガスを排出する穴を設け、前記外箱の背壁と前記外箱の側壁との角部に、前記硬質ポリウレタンフォームの発泡を前記穴の方に導く傾斜面を有する樹脂発泡体を設置したことを特徴とする断熱箱体の製造方法。
【請求項11】
請求項5において、前記硬質ポリウレタンフォームとして、ポリオールのポリエステル成分が8〜15重量部、水分が1.6〜2.0重量部である硬質ポリウレタンフォームを用いたことを特徴とする断熱箱体の製造方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【公開番号】特開2007−327715(P2007−327715A)
【公開日】平成19年12月20日(2007.12.20)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−160701(P2006−160701)
【出願日】平成18年6月9日(2006.6.9)
【出願人】(399048917)日立アプライアンス株式会社 (3,043)
【Fターム(参考)】