説明

新規なトリペプチド及びアンジオテンシン変換酵素阻害剤

【課題】アンジオテンシン変換酵素阻害作用を有する新規なトリペプチド及びそのトリペプチドを有効成分として含有し、毒性がきわめて低く、安全性がきわめて高い、新規なアンジオテンシン変換酵素阻害剤を提供することを課題とする。
【解決手段】次式;Leu−Ala−Tyr
で示されるL体のアミノ酸の配列によるペプチド構造を有する新規なトリペプチド、及びそのトリペプチドを有効成分として含有するアンジオテンシン変換酵素阻害剤。このトリペプチドは鰻骨のタンパク質分解酵素の分解液から精製分離するか又は合成法によって製することができる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、医薬としての有用性を有し、新規なアミノ酸配列によるペプチド構造を有するトリペプチド及びそのトリペプチドを有効成分とするアンジオテンシン変換酵素阻害剤に関する。本発明に係るトリペプチドは、鰻骨のタンパク質分解酵素の分解液から分離精製することができ、又、合成法によって製することも可能である。
【背景技術】
【0002】
一般に、食品由来のペプチドは、アンジオテンシン変換酵素阻害剤及び血圧降下剤としての利点を有する。即ち、従来、天然物又は天然物由来のアンジオテンシン変換酵素阻害物質に関しては、以下の文献に開示されている。
【特許文献1】 特開平06−256387号公報
【特許文献2】 特開平06−340692号公報
【特許文献3】 特開平07−188282号公報
【特許文献4】 特開平07−188283号公報
【特許文献5】 特開平08−225593号公報
【特許文献6】 特開平09−059296号公報
【特許文献7】 特開平10−036391号公報
【特許文献8】 特開平11−335393号公報
【特許文献9】 特開平11−343298号公報
【特許文献10】 特開2001−064299号公報
【特許文献11】 特開2001−106698号公報
【特許文献12】 特開2001−106699号公報
【特許文献13】 特開2001−106700号公報
【特許文献14】 特開2003−128695号公報
【非特許文献1】 S.H.Ferreia et al.:Biochemistry,9,3583(1970)
【非特許文献2】 G.Oshima et al.:Biochim.Biophs.Acta,566,128(1979)
【非特許文献3】 S.Maruyama et al.:Agric.Biol.Chem.,46,1393(1983)
【非特許文献4】 鈴木健夫等:日本農芸化学会誌,57,1143(1983)
【非特許文献5】 山本節子等:日胸疾会誌,18,297−302(1989)
【0003】
レニンーアンジオテンシン系(renin−angiotensin system)が生体の水・電解質及び血液の調節に重要な役割を果していることは、よく知られている。このレニンーアンジオテンシン系にはアンジオテンシン変換酵素(以下「ACE」と略記する。)が存在し、アンジオテンシンIはACEによってアンジオテンシンIIに変換される。アンジオテンシンIIは強力な昇圧物質で、血管、副腎皮質のみならず、中枢神経系並びに末梢神経系に働いて血圧上昇を促す。又、ACEは、生体内降圧物質であるプラジキニンを分解し、不活性化する作用を有し、昇圧系に関与している。従って、ACEの活性を阻害することによって血圧を降下させることが可能であり、又、そのことは臨床的に高血圧の予防、治療に有効であると考えられている。この目的のため、プロリン誘導体であるカプトリルが合成され、その降圧作用が確認されて以来、カプトリルの構造研究に基づく種々のACE阻害物質の合成研究が盛んに行われ、最近ではマレイン酸エナラブリルやアラセブリル等の物質が、次々と臨床の場に供されている。現在、ACE阻害剤は、高血圧症については本態性高血圧症、病候性高血圧症を問わず、また、軽症、重症を問わず、幅広く用いられ、高血圧症の第一次選択の治療薬中に加えられ、多くの優れた点を有することが見いだされている。
【0004】
一方、ACE阻害物質の作用機序としては、アンジオテンシンIIの産生抑制によるアルドステロンやバソプレッシンの分泌抑制、又、腎動脈収縮の解除によるナトリウムや水の排泄促進が考えられている。更に、ACE阻害物質については、それがカリクレン−キニン系の不活性化を抑制し、プロスタグランジン系を賦活させることにより末梢血管拡張やナトリウム及び水の排泄をさらに促進させると考えられており、心不全の悪循環を断つ上で合目的な治療薬として期待されている。
【0005】
ところで、ACE阻害物質としては、上記の合成品の他に、天然物又は天然物由来の物質として、蛇毒由来のブラジキニン増強因子(C末端がPro:非特許文献1)、ゼラチンのコラゲナーゼ消化物由来の6種のペプチド(いずれもC末端がAla−Hyp:非特許文献2)、牛カゼインのトリプシン消化物由来のペプチド(C末端がGly−Lys:非特許文献3)等に始まり、本発明者によるイワシ筋肉由来の5種のヘクサペプチド(いずれもC末端から2番目又は3番目がPro、N末端がLeu:特許文献2)、ニンニク由来の16種のペプチド(特許文献1)、イワシ筋肉由来の23種のトリペプチドと大豆由来の27種のトリペプチド(特許文献3)、ブタ血祭由来の4種のトリペプチド(特許文献4)、大豆由来の3種のテトラペプチドと5種のペンタペプチド(特許文献5)、更に、海苔由来のテトラペプチド(N末端がPro:特許文献6)、海苔由来のペンタペプチド(N末端がAla又はCys:特許文献7)、高麗人参由来のペンタペプチド(N末端がIle:特許文献8)、クロレラ由来のペンタペプチド(N末端がVal:特許文献9)、ワカメ由来のテトラペプチド(N末端がTyr、Lys又はAla:特許文献10)、ワカメ由来のトリプチド(N末端がTyr:特許文献14)、スピルリナ由来のテトラペプチド(N末端がlle:特許文献11)、アコヤ貝由来のヘクサペプチド(N末端がIle:特許文献12)、アサリ貝由来のペンタペプチド(N末端がAla:特許文献13)、サンマウロコ由来のペプチド(特許文献17)等の数多くの特許文献が挙げられ、いずれも、ACE阻害剤及び血圧降下剤となり得ることが開示されている。
【0006】
このように、ACE阻害剤としての食品タンパク質由来の血圧降下ペプチドに関して数多くの提案がなされてきたが、規則性を持ったアミノ酸配列を有する鎖長の短いペプチドのACE阻害作用並びに経口投与による降圧降下(薬理効果)については、未だ不明であり、発見されてから長期間が経過しているが、未だ医薬品としての開発が進んでいるとの報告はなく、食品の場合には、鈴木等が、大豆、茶類、貝類、果実類等でACE阻害活性を認めている(非特許文献4)。しかし、これまでに水産加工残さいとして処理されてきた魚介類の骨にACE阻害物質があることは知られていない。
【0007】
上記の状況に鑑み、本発明者は、血圧効果作用を有すると共に、安全で、実用に供し得る新規ペプチドについて鋭意研究した結果、鰻骨のタンパク質分解酵素の分解液から得られた特定アミノ酸配列構造のトリペプチドがACE阻害用を奏することを見いだした。
又、この鰻骨由来のトリペプチドと同じアミノ酸配列のトリペプチドを合成法によって製したところ、鰻骨由来のトリペプチドと同様、血圧効果作用を奏することが判明した。よって、特定のアミノ酸配列構造を有するトリペプチドは血圧効果作用を有することが解明されたので、これを有効成分とするACE阻害剤を開発することができ、本発明を完成するに至った。
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
本発明は、ACE阻害作用を有する新規なトリペプチド及びそのトリペプチドを有効成分として含有し、毒性がきわめて低く、安全性がきわめて高い、新規なACE阻害剤を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
上記の課題を解決するための本発明のうち、請求項1に記載する発明は、
次式; Leu−Ala−Tyr
で示されるL体のアミノ酸の配列によるペプチド構造を有する新規なトリペプチドである。(式中、アミノ残基を表す各記号は、アミノ酸化学において慣用の表示法によるものである。)
又、本発明のうち、請求項2に記載する発明は、
次式; Leu−Ala−Tyr
で示されるL体のアミノ酸の配列によるペプチド構造を有するトリペプチドを有効成分として含有することを特徴とするアンジオテンシン変換酵素阻害剤である。(式中、アミノ残基を表す各記号は、アミノ酸化学において慣用の表示法によるものである。)
【発明の効果】
【0010】
本発明に係る請求項1に記載のトリペプチド(以下「本発明のトリペプチド」という。)は、優れたACE阻害作用を有し、血圧降下作用、プラジキニン不活化抑制作用を示す。そのため、本発明のトリペプチドは、本態性高血圧、腎性高血圧、副腎性高血圧等の高血圧症の予防・治療作用並びにこれらのうつ血性心不全に対する臓器循環の正常化と長期予後の改善作用(延命効果)を示す。従って、本発明に係る請求項2に記載のACE阻害剤(以下「本発明のACE阻害剤」という。)は、これら高血圧症の予防剤・治療剤として、又、これらうっ血性心不全の治療剤として有用である。
尚、この新規なトリペプチドは、構造的にそのアミノ酸配列を部分構造とするペプチドにおいて、構造中に採用することもできる。
【0011】
又、本発明のトリペプチドは、静脈内へ繰り返し投与を行った場合、抗体産生を惹起せず、アナフイラキシーショックを起こさせない。更に、本発明のトリペプチドは、L−アミノ酸のみの配列構造からなり、投与後、生体内のプロテアーゼにより徐々に分解されるため、毒性はきわめて低く、安全性はきわめて高い(LD50>5000mg/kg:ラット経口投与)。
【発明を実施するための最良の形態】
【0012】
本発明のトリペプチドは、次式;Leu−Ala−Tyr
で示されるL体のアミノ酸の配列によるペプチド構造を有する新規なトリペプチドであり、常温における性状は、白色の粉末である。
本発明のトリペプチドは、化学的に合成する方法又は魚介類の骨、特に鰻骨のタンパク質分解酵素の分解液から分離精製する方法によって得ることができる。
【0013】
本発明のトリペプチドを化学的に合成する場合には、液相法又は固相法等の通常のペプチド合成法によって行うことができるが、好ましくは、固相法によってポリマー性の固相支持体へ前記トリペプチドのカルポキシル末端側(グルタミン)からそのアミノ酸残基に対応したL体のアミノ酸を、順次ペプチド結合によって結合して行くのがよい。そして、そのようにして得られた合成トリペプチドは、トリフルオロメタンスルホン酸、フッ化水素等を用いてポリマー性の固相支持体から切断した後、アミノ酸側鎖の保護基を除去し、逆相系のカラムを用いた高速液体クロマトグラフィー(以下「HPLC」と略記する。)等を用いた通常の方法で精製することができる。
【0014】
また、本発明のトリペプチドは、上記のとおり、鰻骨のタンパク質分解酵素の分解液から分離精製することができるが、その場合には、例えば、以下のようにして行うことができる。まず、鰻骨を用いて加水分解する。加水分解の方法は常法にしたがって行うことでよい。例えば、ペプシン等のタンパク質分解酵素で加水分解する場合は、鰻骨のホモジネイトを必要に応じて更に加水分解した後、酵素の至適温度まで加温し、pHを至適値に調整し、酵素を加えてインキュベイトする。次いで必要に応じて中和した後、酵素を失活させて加水分解液を得る。この加水分解液を濾紙及び/又はセライト等を用いて濾過することによって不溶性成分を除去し、得られた濾液をセロファン等の半透膜を用いて適当な溶媒(例えば、水、トリス−塩酸緩衝液、リン酸緩衝液の中性の緩衝液等)中で十分に透析し、その濾液中の成分で半透膜を通過した成分を含む溶液を強酸性陽イオン交換樹脂(例えば、ダウケミカル社製のDowex 50W、アンバーライト社製のAmberlite IR−120等)にかけ、その吸着溶出画分からACE阻害活性を有する成分を含有する画分を得、その得られたACE阻害活性画分をゲル濾過(例えば、フアルマシア社製のSephadex G−25、バイオラッド社製のBio−Gel P−6等)によって分画し、その得られたACE阻害活性画分を陽イオン交換ゲル濾過(例えば、フアルマシア社製のSP−Sephadex C−25、生化学工業社製のSE−Cellulose等)によって分画し、最終的に得られたACE阻害活性画分を更に逆相HPLCによって分画することによって単離精製を行うことができる。
【0015】
本発明のトリペプチドの製法においては、魚介類骨としては、本発明の課題を達成できる限り、いかなる魚介類の骨を用いてもよいが、好ましくは鰻骨を用いるのがよい。
【0016】
本発明のACE阻害剤は、通常用いられる賦形剤等の添加物を用いて注射剤、錠剤、カプセル剤、顆粒剤又は散剤等に調製することができる。これらの各種製剤において用いられる賦形剤、結合剤、崩壊剤、潤沢剤の種類は、特に限定されず、通常の注射剤、錠剤、カプセル剤、顆粒剤又は散剤に用いられるものを使用することができる。賦形剤としては、結晶セルロース等の糖類、マンニトール等の糖アルコール類、デンプン類、無水リン酸カルシウム等、結合剤としては、デンプン類、ヒドロキシプロピルメチルセルロース等を、崩壊剤としては、カルボキシメチルセルロース及びそのカルシウム塩類を、潤滑剤としては、ステアリン酸及びその塩類、タルク、ワックス類を挙げることができる。また、製剤の調整にあたっては、必要に応じ、メントール、クエン酸及びその塩類、香料等の矯臭剤を用いることができる。注射用の無菌組成物は、常法により、本発明のトリペプチドを、注射用水、生理食塩水及びキシリトールやマンニトール等の糖アルコール注射液、プロピレングリコールやポリエチレングリコール等のグリコールに溶解又は懸濁させて注射剤とすることができる。この際、緩衝液、防腐剤、酸化防止剤等を必要に応じて添加することができる。本発明のトリペプチドを含有する製剤は、凍結乾燥品又は乾燥粉末の形とし、用時、通常の溶解剤、例えば水又は生理食塩水に溶解して用いることもできる。
【0017】
本発明のACE阻害剤の投与方法としては、通常は、ACEを有している哺乳類(例えば、ヒト、イヌ、ラット等)に注射すること又は経口投与することが挙げられる。投与量は、例えば、動物体重Kg当たり本発明のACE阻害剤を0.01〜10mgの量が適当である。投与回数は、通常1日1〜4回程度であるが、投与経路によって、適宜調整することができる。
【0018】
以下、実施例及び試験例をもって本発明を更に説明する。
【実施例1】
【0019】
<本発明のトリペプチドの鰻骨からの製造例>
鰻骨500gに2規定の酢酸水5Lを加え、ホモジナイズ後、室温で1週間撹拌しながら、鰻骨由来のタンパク質、所謂、鰻骨コラーゲンの抽出を行った。1週間後、ホモジネイト液を濾過助剤;ラジオライト♯100による珪藻土濾過を行い、得られた清澄濾液を透析チューブ(36inch、和光純薬工業製)に詰め、流水に対して3日間透析を行い、透析内液を得た。この透析内液を凍結乾燥して、93gの鰻骨コラーゲンを得た。この鰻骨コラーゲン粉末に脱イオン水600mLを加えて溶解し、1規定の塩酸にてpHを2.0に調整した後、ペプシン(メルク社製、酵素番号EC3.4.23.1)2.79gを添加し、37℃で24時間撹拌しながら酵素分解を行った。反応後、分解液を直ちに限外濾過膜(アミコン社製、YM10型、¢76mm)に通過させ、通過液をDowex 50W X4[H]カラム(¢4.5×20cm)に負荷した。そのカラムを脱イオン水で十分洗浄した後、2規定のアンモニア水800mLを用いて溶出した。減圧濃縮操作によりアンモニアを除去して濃縮液60mLを得た。この濃縮液4mLを予め脱イオン水で緩衝化したSephadex G−25(¢2.3×140cm)に負荷し、流速20mL/hr、各分画量10mLでゲル濾過を行った。ゲル濾過を繰り返し、大量分取したACE阻害活性の高いペプチド画分を集めて凍結乾燥し、鰻骨コラーゲン由来のペプチド粉末(以下「鰻骨ペプチド」と略記する。)とした。この鰻骨ペプチド粉末4gを脱イオン水30mLに溶解後、予め脱イオン水で緩衝化したSP−Sephadex C−25〔H〕カラム(¢1.5×47.2cm)に負荷し、脱イオン水1000mLから3%塩化ナトリウム水1000mLの濃度勾配を行い、溶出した。流速80mL/hr、各分画量10mLでカラムクロマトグラフィーを行った。SP−Sephadex C−25クロマトグラフ中のACE阻害活性画分を集めて凍結乾燥し、精製鰻骨ペプチド粉末を得た。この精製鰻骨ペプチド粉末20mgを60mLの脱イオン水に溶解した後、逆相HPLCを行った。カラムとしては野村化学社製Develosil ODS−5(4.5mmID X 25cmL)を使用し、移動相としては0.05%トリフルオロ酢酸(以下「TFA」と略記する。)から25%アセトニトリル/0.05%TFAの濃度勾配法を行い、流速1.0mL/分、波長220nmでHPLCを行った
結果、溶出時間;64.7分にACE阻害活性の高いペプチドフラグメントのピークを得た。この逆相HPLC分析の結果は図1に示す。
【0020】
再度、逆相HPLCリクロマトグラフィーして得たペプチドフラグメントのアミン酸分析を行ったところ、Leu;1.09、Ala;0.93、Tyr;1.01であった。さらに、ACE阻害活性を測定したところ、IC50値;032μMであった。このようにして得られたACE阻害作用を有するペプチドフラグメントのアミノ酸配列は、アプライドバイオシステム(ABI)社製のプロティンシークエンサー477A型を用いて決定された。その結果、本実施例に係る新規なペプチドは、次式、
Leu−Ala−Tyr
で示されるL体のアミノ酸配列で表されるトリペプチドであることが確認された。
この新規なトリペプチドの常温における性状は、白色の粉末である。
【0021】
本実施例に係る新規なトリペプチドをACE阻害剤として、例えば錠剤に製剤する場合には、常法にしたがって、例えば次のように処理すればよい。▲1▼ペプチド12g、▲2▼乳糖94g、▲3▼コーンスターチ34g、▲4▼ステアリン酸マグネシウム1.2gを原料とし、先ず▲1▼、▲2▼及び14gのコーンスターチを混和し、8gのコーンスターチから作ったペーストとともに顆粒化し、この顆粒に4.3gのコーンスターチと▲4▼とを加え、得られた混合物を圧縮錠剤機で打錠し、錠剤1000個を製造する。
【実施例2】
【0022】
<本発明のトリペプチドの合成法による製造例>
アプライドバイオシステム(ABI)社製のペプチド自動合成装置430A型を用いた固相法によって、本発明のペプチドを合成した。固相担体としては、スチレンジビニルベンゼン共重合体(ポリスチレン樹脂)をクロロメチル化した樹脂を使用した。まず、本発明のトリペプチドのアミノ酸配列にしたがって、常法どおり、そのC末端側のチロシンからクロロメチル樹脂に反応させ、ペプチド結合樹脂を得た。このときのアミノ酸は、t−ブトキシカルボニル(以下「t−Boc」と略記する。)基で保護されたt−Bocアミノ酸を使用した。次に、このペプチド結合樹脂をエタンジチオールとチオアニソールからなる混合液に懸濁し、室温で10分間撹拌後、水冷下でトリフルオロ酢酸を加え、さらに10分間撹拌した。この混合液にトリフルオロメタンスルホン酸を滴下し、室温で30分間撹拌した後、無水エーテルを加えてその生成物を沈殿させて分離し、その沈殿物を無水エーテルで数回洗浄した後、減圧下で乾燥した。このようにして得られた未精製の合成ペプチドは蒸留水に溶解した後、逆相系のカラムC18(5μm)を用いたHPLCにより精製した。移動相として(A)0.1%TFA含有蒸留水、(B)0.1%TFA含有アセトニトリル溶液を使用し、(A)液が82分間で68%→17%の濃度勾配法により流速1.4mL/minでクロマトグラフィーを行った。紫外部波長219nmで検出し、最大の吸収を示した溶出画分を分取し、これを凍結乾燥することによって目的とする合成トリペプチドを得た。
【0023】
この合成トリペプチドをマススペクトル分析により分析した結果、アミノ酸配列が前記で示したアミノ酸配列構造を有するトリペプチドであることが確認された。このマススペクトル分析の結果は、図2に示す。さらに、この合成トリペプチドのACE阻害活性を試験例1の方法によって測定したところ、IC50値;0.17μMであった。
【試験例1】
【0024】
<ACE阻害活性測定法>
ACE(シグマ社製、酵素番号EC3・4・15・1)2.5mU、合成基質ヒプリル−L−ヒスチジル−L−ロイシン(ペプチド研究所製)12.5mMを用い、Liebermanの測定法を改良した山本等の方法(非特許文献5)に準じて測定した。すなわち、生成した馬尿酸を酢酸エチルにて抽出し、225nmの吸光度で測定した。被検液での吸光度の値をEs、被検液の代わりに緩衝液を加えたときの値をEc、予め反応停止液を加えて反応させたときの値をEbとして、次式から阻害率を求めた。
【0025】
阻害率(%)= (Ec−Es)/(Ec−Eb)×100
尚、本発明のACE阻害剤の上記の阻害活性IC50値は、ACEの酵素活性を50%(阻害率)阻害するために必要な試料の濃度(M)で示したものである。
【試験例2】
【0026】
<高血圧自然発症ラットへ投与時の降圧効果>
(1)試験方法
実験動物として日本チャールズ・リバー社より15週令雄性高血圧自然発症ラット(以下「SHR」と略記する。)を購入し、1週間の予備飼育後、収縮期血圧(以下「SBP」と略記する。)が160mmHg以上(体重280〜330g)のラットを6匹1群として、「コントロール群」と「トリペプチド群」とに分けて用いた。
ラットは、室温23±2℃、湿度55±10%及び12時間明暗(午前6時〜午後6時点灯)に調整された飼育室でステンレスワイヤー製ラット用個別ゲージに1匹ずつ収容して飼育した。トリペプチド群には、被験剤としてのトリペプチド(実施例1で製したもの)を体重1kg当たり10mgを生理食塩水に溶解して、強制経口投与した。コントロール群には、被験剤の代わりに生理食塩水のみを投与した。飼料はオリエンタル酵母社製MF粉末飼料を、飲水は自家揚水(水道水質基準適合)をそれぞれ自由に摂取させた。
血圧は、非観血的尾動脈血圧測定装置(理研開発社製、PS−100型)を用い、tail cuff法により、投与前、投与後6時間後のSHR尾動脈の収縮期血圧値(mmHg)の測定を測定時間ごとに5回行い、得られた測定値の最高値と最低値を棄却し、3回の平均値をもって各時間の測定値とした。本発明のトリペプチド10mg/kgをSHRに経口投与したときの収縮期血圧値(mmHg)への作用の結果については、表1に示す。
(2)試験結果
表1に示すとおりである。
(3)所見
以上の試験の結果、本発明のトリペプチドは、in vitro(試験管内)においてACE阻害活性を有し、in vivo(生体内)においても有意な血圧降下作用を示すことが確認された。
従って、本発明のトリペプチドは、高血圧症の治療又は予防薬として有用である。
【0027】
【表1】

【産業上の利用可能性】
【0028】
本発明のトリペプチド及びそれを有効成分とするACE阻害剤は、生体内の血圧降下作用を有し、しかも、毒性はきわめて低く、安全性はきわめて高い上、静脈内へ繰り返し投与を行った場合でも抗体産生を惹起せず、アナフイラキシーショックを起こさせないので、高血圧症の予防剤・治療剤として、また、うっ血性心不全の治療剤として大いに有用である。
【図面の簡単な説明】
【0029】
【図1】本発明のトリペプチドの逆相HPLCによる分離精製の結果を示すグラフ(実施例1)
【図2】本発明のトリペプチドのマススペクトルを示すグラフ(実施例2)

【特許請求の範囲】
【請求項1】
次式;Leu−Ala−Tyr
で示されるL体のアミノ酸の配列によるペプチド構造を有する新規なトリペプチド。
【請求項2】
次式;Leu−Ala−Tyr
で示されるL体のアミノ酸の配列によるペプチド構造を有する新規なトリペプチドを有効成分として含有することを特徴とするアンジオテンシン変換酵素阻害剤。

【図1】
image rotate

【図2】
image rotate


【公開番号】特開2006−199672(P2006−199672A)
【公開日】平成18年8月3日(2006.8.3)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−41268(P2005−41268)
【出願日】平成17年1月19日(2005.1.19)
【出願人】(591167119)
【Fターム(参考)】