新規なフラボノイド化合物
【課題】新規なフラボノイド化合物及びこれを含有する抗酸化剤を提供する。
【解決手段】マタタビ科茎葉部より単離した化合物の構造解析を行い、新規な化合物:7-O-α-L-rhamnopyranosyl-4',5-dihydroxy-3-[O-α-L-acetylrhamnopyranosyl-(1→6)-3-O-β-D-glucopyranosyloxy]flavone。本化合物は新規なフラボノイド化合物であり、ルチンと同様に抗酸化力を有する。
【解決手段】マタタビ科茎葉部より単離した化合物の構造解析を行い、新規な化合物:7-O-α-L-rhamnopyranosyl-4',5-dihydroxy-3-[O-α-L-acetylrhamnopyranosyl-(1→6)-3-O-β-D-glucopyranosyloxy]flavone。本化合物は新規なフラボノイド化合物であり、ルチンと同様に抗酸化力を有する。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は新規なフラボノイド化合物に関する。詳しくは、マタタビ(Actinidia Polygama Maxim.)より単離された新規なフラボノイド化合物及びこれを有効成分とする抗酸化剤に関する。
【背景技術】
【0002】
マタタビ(Actinidia Polygama Maxim.)は、東アジアを中心にサハリン・シベリア東部・朝鮮半島・中国大陸に分布し、日本では北海道・本州・四国・九州の山地(特に林緑)、原野、丘陵地などの標高1000m付近に生育している落葉つる性植物である。
昔から「猫にマタタビ」といってマタタビが猫科動物に興奮作用を与えることで有名であるが、これは揮発性成分であるマタタビラクトンやアクチニジンにより、大脳のコリン作動性自律神経元系が刺激されるためである。この作用をもたらす成分は、五員環をもったモノテルペンのδ−ラクトン体であるisoiridomyrmecinおよびモノテルペンアルカロイドのactinidineであることが知られている(非特許文献1)。
また、マタタビの果実の中に虫が入ったものは表面が塊状になり、この塊状の実を熱湯で処理したものを『木天寥』、マタタビの蔓を乾燥させたものは『天木蔓』と呼ばれ、古来より漢方薬として用いられてきた。その効能は、疲労回復・保温・回春・利尿・強心・リウマチ等に効果があるといわれてきたが、生理作用については不明な点が多く、前述のとおり、猫科動物に対する特有の興奮作用についての報告があるのみである。
これまでに本発明者らは、マタタビ茎葉部の凍結乾燥粉末、及び茶が小動物(マウス、ラット、ウサギ、ネコ)に対し、抗高脂血作用、肺発癌抑制作用及び肝機能の低下改善作用等を示すことを明らかにしてきた(非特許文献2〜4等)。しかし、これらの作用をもたらしている成分の単離、構造的な解析は未だ行っておらず、効果の検討のみを行なってきた。
【非特許文献1】目武雄, 村井不二男, 磯江幸彦, 玄丞培, 林雄二, 1969, 日化誌, 90, 507- 528
【非特許文献2】櫻井英敏, 1997, 「マタタビ葉部の抗高脂血作用と商品化戦略」, 平成7, 8年度生物資源科学部総合研究助成金 研究成果報告書 全pp254
【非特許文献3】櫻井英敏, 古賀秀徳, 1999, マタタビ葉の抗高脂血作用に関する研究, 食に関する助成研究調査報告書 (財)すかいらーくフード研究所No.12, 145-153
【非特許文献4】櫻井英敏,1998.9,「マタタビ茶の成分と効用について」山林No.1372, pp34〜45
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0003】
本発明は、新規なフラボノイド化合物及びこれを含有する抗酸化剤を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0004】
本発明者らは、マタタビ科茎葉部より単離した化合物の構造解析を行い、一般式(1)で表すことができることがわかった。本化合物はこれまでに発見されていない新規なフラボノイド化合物であり、ルチンと同様に抗酸化力を有することを確認し、本発明を完成するに至った。
すなわち、本発明は以下の構成を有する。
<1>下記一般式(1)で示される化合物。
【化2】
(式中、R1、R2、R3、R4はOH又はOAcのいずれかである。)
<2>R1、R2、R3がOHであり、R4がOAcである前記<1>に記載の化合物。
<3>前記<1>又は<2>に記載の化合物及びこれらの薬学的に許容される塩を含有成分とする抗酸化剤。
【発明の効果】
【0005】
本発明の化合物は、構造骨格にケンフェロール、グルコース、ラムノース、アセチルラムノースを有する新規な化合物であり、一般式(1)で示すことができる。本化合物は、ルチンと同様に抗酸化力を有することから、抗酸化剤又は各種の抗酸化作用を要する医薬組成物としての用途が期待される。
【発明を実施するための最良の形態】
【0006】
本発明の化合物は、一般式(1)で示される新規な化合物である。式中、R1、R2、R3、R4は、水酸基(OH)又はアセチル基(Ac)のいずれかである。このうち、R1〜R3がOHであり、R4がOAcである化合物(式(2))を7-O-α-L-rhamnopyranosyl-4',5-dihydroxy-3-[O-α-L-acetylrhamnopyranosyl-(1→6)-3-O-β-D-glucopyranosyloxy]flavoneと命名した。
なお、本化合物の薬学的に許容される塩も本発明の範囲に含まれる。
【化3】
【0007】
式(2)で示される化合物は、以下の性質を有する。
化合物名:7-O-α-L-rhamnopyranosyl-4',5-dihydroxy-3-[O-α-L-acetylrhamnopyranosyl-(1→6)-3-O-β-D-glucopyranosyloxy]flavone
分子量:782
分子式:C35H42O20
性状:淡黄色粉末、H2O、MeOH、DMSOに可溶で、クロロホルム、エーテルに不溶
【0008】
また、本発明の化合物はルチンと同様に抗酸化作用を有していることから、肝障害や高脂血症に対する予防・治療剤及びこれらを含有する食品として使用可能である。
【0009】
本発明の化合物は、本化合物を含有する抗酸化剤、食品、医薬等として製造することができる。
医薬として投与するには、有効成分を経口投与、経皮投与、直腸内投与、注射などの投与方法に適した固体又は液体の医薬用無毒性担体と混合して、慣用の医薬製剤の形態で投与することができる。このような製剤としては、例えば、錠剤、顆粒剤、散剤、カプセル剤などの固形剤、溶液剤、懸濁剤、乳剤などの液剤、凍結乾燥製剤などが挙げられ、これらの製剤は製剤上の常套手段により調製することができる。
【0010】
食品としては、そのまま、又は種々の栄養成分を加えて、若しくは飲食品中に含有せしめて利用することができる。例えば、上述した適当な助剤を添加した後、慣用の手段を用いて、食用に適した形態、例えば、顆粒状、粒状、錠剤、カプセル、ペーストなどに成形して食用に供してもよく、また種々の食品、例えば、ハム、ソーセージなどの食肉加工食品、かまぼこ、ちくわなどの水産加工食品、パン、菓子、バター、粉乳、発酵乳製品に添加して使用したり、水、果汁、牛乳、茶、清涼飲料などの飲料に添加して使用してもよい。
【実施例】
【0011】
〔1.マタタビ茎葉部含有成分の単離〕
(1)実験材料および試薬調製
マタタビ茎葉部
長野県木曽農業協同組合が提供のものを使用した。
水飽和ブタノールの調製
特級ブタノール(和光純薬工業株式会社)800 mlに純水300 mlを加えて1昼夜撹拌。静置後に上層を水飽和ブタノールとして使用した。
HP-20カラムの移動相の調製
特級メタノール(和光純薬工業株式会社)120 mlに純水120 mlを加えて撹拌し、50%メタノールとした。
【0012】
(2)マタタビ茎葉部抽出サンプルの調製
フード・プロセッサーでマタタビ茎葉部100 g、特級メタノール(和光純薬工業株式会社)500 mlを加え、ホモジナイズした。繊維等の不純物を取り除く為ろ過し、ロータリーエバポレーターにて5倍濃縮した。その後、同量の特級ヘキサン(和光純薬工業株式会社)を加えて撹拌し、静置後に下層を得た。この操作を2度繰り返した後に、この下層にBuOH 200ml、H2O 200mlを加え、撹拌、静置後に上層を得た(図1)。
【0013】
(3)HP-20カラム(2.5cm×30cm)による分画法
(2)で調製したブタノール分画液を乾固した後、メタノールに溶解し、ろ過したサンプル5 mlをHP-20カラムに吸着させ、50%メタノール、100%メタノールで順次溶出を行った。なお、このときの流速は2.0 ml / minとした。100%メタノール画分は20 mlずつ分取し、分光光度計(UV mini1240 島津製作所)で265 nmの吸光度を測定した(図2)。この時、最も吸光度が高いフラクション番号4の溶出液をHPLCにて分析を行った。
【0014】
(4)高速液体クロマトグラフ(HPLC)による分取法
HP-20カラム溶出液のフラクション番号4をHPLCに供して分析した。このとき得られた特徴的な2つのピークRt.20とRt.30付近(図3)をそれぞれ80回分取した。試料液は凍結乾燥する事により粉末化し、真空状態にて保存した。Rt.20付近、Rt.30付近の試料を以下単にRt.20、Rt.30ということがある。
HPLC分析条件
クロマトグラフ : MCPD-3600(株式会社日立製作所)
検出 : UV (265 nm)
カラム : nacalai tesque COSMOSIL 4.6×250 mm 5C18-MS-II
カラム温度: 40℃
移動相 : 18% Acetonitrile
流速 : 0.7 ml/min
インテグレーター : MCPD-3600
インジェクション量 : 40 μl
【0015】
〔2.マタタビ茎葉部抽出成分の同定〕
(1)分析項目及び分析方法
(1−1)紫外部吸収スペクトル(UV)
各試料は紫外可視分光光度計(Cary 50 Conc.VARIAN Italy)を用いて200 nm〜370 nmの吸光度を測定した。
(1−2)質量スペクトル(EI-MS)
質量分析装置(5980 Series gas chromatograph、ヒューレットパッカード株式会社、Palo Alto, CA)を用いて、粉末化した純度98%のRt.30 を分析した。
EI-MSの分析条件
試料導入部温度:40℃→300℃
(1−3)質量スペクトル(FAB-MS)
質量分析装置(Sx102A、日本電子株式会社)を用いて、粉末化した純度98%のRt.20と純度98%のRt.30 を直接導入により分析した。
FAB-MSの分析条件
導入法:直接導入法
イオン化法:FAB+
マトリックス:グリセリン
(1−4)超高速液体クロマトグラフ-マスマススペクトル(UPLC-MS/MS)
高速液体クロマトグラフタンデム四重極型質量分析計(日本ウォーターズ株式会社)を用いて、〔マタタビ茎葉部含有成分の単離〕(3)にて調製したフラクション番号4の溶出液を分析した。
LC-MS/MSの分析条件
MS: Waters Quattro Premier XE
LC: UPLC
Detector : UV (265 nm)
Column : Waters Acquity UPLC Shield RP 18
Mobile phase : 10-35% Acetonitrile
Injection volume : 5 μl
(1−5)核磁気共鳴スペクトル(NMR:Nuclear Magnetic Resonance)
核磁気共鳴装置(ECA-500、日本電子株式会社)を用いて、純度98%のRt.30 を分析した。
NMR測定試料の調製
粉末化した試料は、指標としてテトラメチルシラン(TMS)の入ったジメチルスルホキシド(DMSO)(和光純薬工業株式会社)に溶解させた。
【0016】
(2)結果および考察
(2−1)単離
図3に示した2つのピーク、すなわちRt.20、Rt.30をHPLCにて80回分取したものを濃縮後、〔マタタビ茎葉部含有成分の単離〕(4)のHPLC分析条件で分析した結果、それぞれ純度98%の単一のピークとして検出された。
(2−2)紫外部吸収スペクトル(UV)
各試料をメタノールに溶解し、その紫外部吸収波長を測定したところRt.20、Rt.30ともに265 nm(C=C)と350 nm(C=O)に2つの極大吸収が認められた。したがって、これら2つのピークは同一骨格(アグリコン)を有していることが判明した。
(2−3)質量スペクトル(MS)
Rt.20の質量スペクトル(MS)
単離したRt.20 のピークを直接導入し、FAB-MS分析を行った。m/z 741にフラグメントイオンピークが認められることから、Rt.20 の分子量は740であると推定される。
Rt.30の質量スペクトル(MS)
単離したRt.30 のピークをFAB-MS、EI-MSにより測定した。FAB-MSの結果(図4)より、m/z 783にフラグメントイオンピークが認められることから、Rt.30 の分子量は782であると推定される。また、EI-MSの結果から、Rt.30 には2つの物質が含まれていると考えられる。1つは、m/z 286の物質であり、ライブラリサーチ(Wiley-NIST)に参照したところ主なフラグメントは完全に一致することからケンフェロールと推定した。もう1つはm/z 355に分子イオンピークがみられ、これはラムノースとグルコースの複合体にアセチル基が結合したものだと推定した。また、開裂状態からアセチル基はラムノースに結合していると思われる。2つの物質が確認された原因としては、EI-MSにかける際に熱をかけたことによる熱分解が考えられる。そのため、Rt.30はケンフェロールとグルコース、ラムノース、アセチルラムノースの複合体であると推定される。
(2−4)超高速液体クロマトグラフ-マスマススペクトル(UPLC-MS/MS)
HP-20カラムにより分画したフラクション番号4の溶出液をUPLC-MS/MSにより分析した。まず、LC-MSの段階においてRt.3.22, Rt.3.72, Rt.4.48に3つの特徴的なピークが得られた。この3つのピークのUVを確認したところ、(2−2)と同様な結果となった。このことから、これら3つのピークの物質は単離したRt.20, Rt.30と同一な構造骨格を有していると考えられる。次に、この3つのピークをUPLC-MS/MSによって分析した結果を図5に示す。Rt.3.22は分子量740、Rt.3.72は分子量782であり、このことからもRt.3.22, Rt.3.72はそれぞれRt.20, Rt30であると推定される。それぞれの開裂を見ると、EI-MSの結果よりm/z286のピークはケンフェロールを表し、m/z486はケンフェロールとグルコースの複合体を示していると思われる。また、Rt3.22, Rt.3.72, Rt.4.48の順に分子量が42ずつ増えていることから、分子量42であるアセチル基がそれぞれ0, 1, 2個ずつ結合していると考えられる。
(2−5)核磁気共鳴スペクトル(NMR)
単離したRt.30のピークをDMSOに溶解し、NMR解析を行った。1H-NMR及び13C-NMRの結果より検出されたピークを表1,2に示す。
【0017】
【表1】
【0018】
【表2】
【0019】
DEPTスペクトルの結果(図6)より、35本のシグナルが検出され、16.4 ppm、16.6 ppmおよび19.6 ppmに3本のCH3、67.5 ppm に1本のCH2、66.5〜131 ppmに21本のCHおよび10本の炭素化合物のシグナルが検出された。よって、この物質は35個の炭素を有していて、そのうちメチル基を3本、メチレン基を1本、メチン基を21本さらに、C=CやC=O等の炭素化合物を10本有しているという事が示唆された。
H,H-COSYスペクトルの結果(図7)より、隣の炭素のプロトンとスピン結合またはスピン−スピン結合している波形の相関関係が得られた。このことより、0.99 ppmはCH3、1.13 ppmはCH3、2.02 ppmはCH3O、3.30 ppmはCH2 、4.54 ppmは-CH2-O-CHのCH、3.23 ppmと4.67 ppm はそれぞれラムノース炭素1位と4位のCH、4.94 ppmはアセチルラムノースの炭素第4位のCH、5.03 ppmはグルコース炭素第1位のCH 、6.16 ppmと6.37ppmはケンフェロール炭素第6位と8位、6.84 ppmおよび8.01 ppm はベンゼン環のCH=CHと解析された。
C,H-COSYスペクトル結果であるHMQCスペクトル(図8,9)の結果より、カーボンのシグナルとプロトンのピークとの相関関係の波形が得られた。さらに、 δH 5.03 ppmにアノメリックプロトンが観察されており、そのスピン結合が8Hzであるためβ-Glcのようなβ位で結合の糖であると考えられる。また、δH 4.54 ppmとδH 4.67 ppmも1H-NMR、13C-NMRの化学シフトよりアノメリック位と考えられる。スピン結合が3Hz以下であることからα位での結合であり、CH3を有するα-Rhmのような6-デオキシ糖であると思われる。これらの結果より、単離したRt.30の物質はケンフェロール、グルコース、ラムノース、アセチルラムノースを有する構造と推定した(式(2))。
この物質を 7-O-α-L-rhamnopyranosyl-4',5-dihydroxy-3-[O-α-L-acetylrhamnopyranosyl-(1→6)-3-O-β-D-glucopyranosyloxy]flavone 慣用名ではkaempferol-7-O-rhamnose-3-O-acetylrutinoside と命名した。
また、Rt.20は、Rt.30のアセチル基がOH基である構造と推定した。
【0020】
〔3.抗酸化力の測定〕
Rt,20及びRt,30についてラジカル活性捕捉消去率を調べる試験を行った。なお、比較対照としてルチンについても同様の試験を行った。
(1) 試薬の調製
100μM DPPH/エタノール
1,1-diphenyl-2-picrylhydrazyl(和光純薬工業株式会社)0.197 mgを精秤し、エタノール50 mlに溶解した。
(2)試験方法
(2−1)標準アスコルビン酸検量線の作成
0〜5 μM アスコルビン酸(AsA)を300 μlずつ各試験管に取り、エタノール300 μlを加え、0.1 mM DPPH(和光純薬工業株式会社、大阪)300 μlを加えた。ここで、盲検(0 μM)の場合はエタノール 600μl に0.1 mM DPPHを 300 μlを加えた。その後、アルミホイルで遮光し、室温で30分間放置後、517 nmの吸光度で分光光度計(UVmini 1240、島津、京都)を用いて測定した。盲検との差を取り、この吸光度をもとに検量線を作成した。
(2−2)測定用試料
ルチンにおけるDPPHラジカル捕捉活性
ルチン(和光純薬工業株式会社) 1 mgにエタノール 1.999 mlを加え、2000倍希釈液を得た。
Rt.20におけるDPPHラジカル捕捉活性
Rt.20 を凍結乾燥させたもの 1 mgにエタノール 1.999 mlを加え、2000倍希釈液を得た。
Rt.30におけるDPPHラジカル捕捉活性
Rt.30 を凍結乾燥させたもの 1 mg にエタノール1.999 mlを加え、2000倍希釈液を得た。
(2−3)DPPHラジカル捕捉活性測定方法
各々の試料300 μlずつを各エッペンドルフチューブに取り、エタノール300 μlを加え、0.1mM DPPH(和光純薬工業株式会社)300 μlを加えた。盲検は試料300 μl を各エッペンドルフチューブに取り、水のみ 600 μl を加えた。また、基準として水+DPPHを作成し、水 600 μl に0.1mM DPPHを300 μl を加えた。その後、アルミホイルで遮光し、室温で30分間放置後、517 nmの吸光度を分光光度計(UVmini 1240、島津製作所)を用いて測定した。基準として作成した水+DPPHの結果を消去率0%とし各試料のDPPHラジカル捕捉活性消去率を算出した。
(3)結果および考察
ルチン、Rt.20、Rt.30におけるDPPHラジカル捕捉活性の結果を図10に示した。ルチンのDPPHラジカル捕捉活性は、303.12 mgアスコルビン酸当量/ 100 ml、Rt,20は192.86 mgアスコルビン酸当量/ 100 ml、Rt,30では158.16 mgアスコルビン酸当量/ 100 mlとなった。
ルチン、Rt.20、Rt.30におけるDPPHラジカル捕捉活性率の結果を図11に示した。結果としては、基準として作成した水+DPPHの結果を捕捉消去活性率0%としたとき、ルチンのDPPHラジカル捕捉消去活性率は、95.52%、Rt,20は87.82%、Rt,30では69.56%となった。
【産業上の利用可能性】
【0021】
本発明の化合物は、構造骨格にケンフェロール、グルコース、ラムノース、アセチルラムノースを有する新規な化合物であり、一般式(1)で示すことができる。本化合物は、ルチンと同様に抗酸化力を有することから、抗酸化剤又は各種の抗酸化作用を要する医薬組成物としての用途が期待される。
【図面の簡単な説明】
【0022】
【図1】マタタビ茎葉部抽出サンプルの調製手順を示す図である。
【図2】マタタビ茎葉から得られたブタノール抽出物をHP-20カラムを用いて分画したときの溶出液のフラクション番号と吸光度(256nm)の関係を示す図である。
【図3】HP-20カラム溶出液のフラクション番号4をHPLCに供して分析したとき得られたクロマトグラムを示す図である。
【図4】Rt.30のピークをFAB-MS、EI-MSにより測定した結果を示すである。
【図5】HP-20カラム溶出液のフラクション番号4をLC-UPMS/MSにより分析して得られたクロマトグラムを示す図である。
【図6】Rt.30のDEPTスペクトル結果を示す図である。
【図7】Rt.30のH,H-COSYスペクトルの結果を示す図である。
【図8】Rt.30のC,H-COSYスペクトル結果を示す図である。
【図9】Rt.30のC,H-COSYスペクトル結果を示す図である。
【図10】ルチン、Rt.20、Rt.30におけるDPPHラジカル捕捉活性の結果を示す図である。
【図11】ルチン、Rt.20、Rt.30におけるDPPHラジカル捕捉活性率の結果を示す図である。
【技術分野】
【0001】
本発明は新規なフラボノイド化合物に関する。詳しくは、マタタビ(Actinidia Polygama Maxim.)より単離された新規なフラボノイド化合物及びこれを有効成分とする抗酸化剤に関する。
【背景技術】
【0002】
マタタビ(Actinidia Polygama Maxim.)は、東アジアを中心にサハリン・シベリア東部・朝鮮半島・中国大陸に分布し、日本では北海道・本州・四国・九州の山地(特に林緑)、原野、丘陵地などの標高1000m付近に生育している落葉つる性植物である。
昔から「猫にマタタビ」といってマタタビが猫科動物に興奮作用を与えることで有名であるが、これは揮発性成分であるマタタビラクトンやアクチニジンにより、大脳のコリン作動性自律神経元系が刺激されるためである。この作用をもたらす成分は、五員環をもったモノテルペンのδ−ラクトン体であるisoiridomyrmecinおよびモノテルペンアルカロイドのactinidineであることが知られている(非特許文献1)。
また、マタタビの果実の中に虫が入ったものは表面が塊状になり、この塊状の実を熱湯で処理したものを『木天寥』、マタタビの蔓を乾燥させたものは『天木蔓』と呼ばれ、古来より漢方薬として用いられてきた。その効能は、疲労回復・保温・回春・利尿・強心・リウマチ等に効果があるといわれてきたが、生理作用については不明な点が多く、前述のとおり、猫科動物に対する特有の興奮作用についての報告があるのみである。
これまでに本発明者らは、マタタビ茎葉部の凍結乾燥粉末、及び茶が小動物(マウス、ラット、ウサギ、ネコ)に対し、抗高脂血作用、肺発癌抑制作用及び肝機能の低下改善作用等を示すことを明らかにしてきた(非特許文献2〜4等)。しかし、これらの作用をもたらしている成分の単離、構造的な解析は未だ行っておらず、効果の検討のみを行なってきた。
【非特許文献1】目武雄, 村井不二男, 磯江幸彦, 玄丞培, 林雄二, 1969, 日化誌, 90, 507- 528
【非特許文献2】櫻井英敏, 1997, 「マタタビ葉部の抗高脂血作用と商品化戦略」, 平成7, 8年度生物資源科学部総合研究助成金 研究成果報告書 全pp254
【非特許文献3】櫻井英敏, 古賀秀徳, 1999, マタタビ葉の抗高脂血作用に関する研究, 食に関する助成研究調査報告書 (財)すかいらーくフード研究所No.12, 145-153
【非特許文献4】櫻井英敏,1998.9,「マタタビ茶の成分と効用について」山林No.1372, pp34〜45
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0003】
本発明は、新規なフラボノイド化合物及びこれを含有する抗酸化剤を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0004】
本発明者らは、マタタビ科茎葉部より単離した化合物の構造解析を行い、一般式(1)で表すことができることがわかった。本化合物はこれまでに発見されていない新規なフラボノイド化合物であり、ルチンと同様に抗酸化力を有することを確認し、本発明を完成するに至った。
すなわち、本発明は以下の構成を有する。
<1>下記一般式(1)で示される化合物。
【化2】
(式中、R1、R2、R3、R4はOH又はOAcのいずれかである。)
<2>R1、R2、R3がOHであり、R4がOAcである前記<1>に記載の化合物。
<3>前記<1>又は<2>に記載の化合物及びこれらの薬学的に許容される塩を含有成分とする抗酸化剤。
【発明の効果】
【0005】
本発明の化合物は、構造骨格にケンフェロール、グルコース、ラムノース、アセチルラムノースを有する新規な化合物であり、一般式(1)で示すことができる。本化合物は、ルチンと同様に抗酸化力を有することから、抗酸化剤又は各種の抗酸化作用を要する医薬組成物としての用途が期待される。
【発明を実施するための最良の形態】
【0006】
本発明の化合物は、一般式(1)で示される新規な化合物である。式中、R1、R2、R3、R4は、水酸基(OH)又はアセチル基(Ac)のいずれかである。このうち、R1〜R3がOHであり、R4がOAcである化合物(式(2))を7-O-α-L-rhamnopyranosyl-4',5-dihydroxy-3-[O-α-L-acetylrhamnopyranosyl-(1→6)-3-O-β-D-glucopyranosyloxy]flavoneと命名した。
なお、本化合物の薬学的に許容される塩も本発明の範囲に含まれる。
【化3】
【0007】
式(2)で示される化合物は、以下の性質を有する。
化合物名:7-O-α-L-rhamnopyranosyl-4',5-dihydroxy-3-[O-α-L-acetylrhamnopyranosyl-(1→6)-3-O-β-D-glucopyranosyloxy]flavone
分子量:782
分子式:C35H42O20
性状:淡黄色粉末、H2O、MeOH、DMSOに可溶で、クロロホルム、エーテルに不溶
【0008】
また、本発明の化合物はルチンと同様に抗酸化作用を有していることから、肝障害や高脂血症に対する予防・治療剤及びこれらを含有する食品として使用可能である。
【0009】
本発明の化合物は、本化合物を含有する抗酸化剤、食品、医薬等として製造することができる。
医薬として投与するには、有効成分を経口投与、経皮投与、直腸内投与、注射などの投与方法に適した固体又は液体の医薬用無毒性担体と混合して、慣用の医薬製剤の形態で投与することができる。このような製剤としては、例えば、錠剤、顆粒剤、散剤、カプセル剤などの固形剤、溶液剤、懸濁剤、乳剤などの液剤、凍結乾燥製剤などが挙げられ、これらの製剤は製剤上の常套手段により調製することができる。
【0010】
食品としては、そのまま、又は種々の栄養成分を加えて、若しくは飲食品中に含有せしめて利用することができる。例えば、上述した適当な助剤を添加した後、慣用の手段を用いて、食用に適した形態、例えば、顆粒状、粒状、錠剤、カプセル、ペーストなどに成形して食用に供してもよく、また種々の食品、例えば、ハム、ソーセージなどの食肉加工食品、かまぼこ、ちくわなどの水産加工食品、パン、菓子、バター、粉乳、発酵乳製品に添加して使用したり、水、果汁、牛乳、茶、清涼飲料などの飲料に添加して使用してもよい。
【実施例】
【0011】
〔1.マタタビ茎葉部含有成分の単離〕
(1)実験材料および試薬調製
マタタビ茎葉部
長野県木曽農業協同組合が提供のものを使用した。
水飽和ブタノールの調製
特級ブタノール(和光純薬工業株式会社)800 mlに純水300 mlを加えて1昼夜撹拌。静置後に上層を水飽和ブタノールとして使用した。
HP-20カラムの移動相の調製
特級メタノール(和光純薬工業株式会社)120 mlに純水120 mlを加えて撹拌し、50%メタノールとした。
【0012】
(2)マタタビ茎葉部抽出サンプルの調製
フード・プロセッサーでマタタビ茎葉部100 g、特級メタノール(和光純薬工業株式会社)500 mlを加え、ホモジナイズした。繊維等の不純物を取り除く為ろ過し、ロータリーエバポレーターにて5倍濃縮した。その後、同量の特級ヘキサン(和光純薬工業株式会社)を加えて撹拌し、静置後に下層を得た。この操作を2度繰り返した後に、この下層にBuOH 200ml、H2O 200mlを加え、撹拌、静置後に上層を得た(図1)。
【0013】
(3)HP-20カラム(2.5cm×30cm)による分画法
(2)で調製したブタノール分画液を乾固した後、メタノールに溶解し、ろ過したサンプル5 mlをHP-20カラムに吸着させ、50%メタノール、100%メタノールで順次溶出を行った。なお、このときの流速は2.0 ml / minとした。100%メタノール画分は20 mlずつ分取し、分光光度計(UV mini1240 島津製作所)で265 nmの吸光度を測定した(図2)。この時、最も吸光度が高いフラクション番号4の溶出液をHPLCにて分析を行った。
【0014】
(4)高速液体クロマトグラフ(HPLC)による分取法
HP-20カラム溶出液のフラクション番号4をHPLCに供して分析した。このとき得られた特徴的な2つのピークRt.20とRt.30付近(図3)をそれぞれ80回分取した。試料液は凍結乾燥する事により粉末化し、真空状態にて保存した。Rt.20付近、Rt.30付近の試料を以下単にRt.20、Rt.30ということがある。
HPLC分析条件
クロマトグラフ : MCPD-3600(株式会社日立製作所)
検出 : UV (265 nm)
カラム : nacalai tesque COSMOSIL 4.6×250 mm 5C18-MS-II
カラム温度: 40℃
移動相 : 18% Acetonitrile
流速 : 0.7 ml/min
インテグレーター : MCPD-3600
インジェクション量 : 40 μl
【0015】
〔2.マタタビ茎葉部抽出成分の同定〕
(1)分析項目及び分析方法
(1−1)紫外部吸収スペクトル(UV)
各試料は紫外可視分光光度計(Cary 50 Conc.VARIAN Italy)を用いて200 nm〜370 nmの吸光度を測定した。
(1−2)質量スペクトル(EI-MS)
質量分析装置(5980 Series gas chromatograph、ヒューレットパッカード株式会社、Palo Alto, CA)を用いて、粉末化した純度98%のRt.30 を分析した。
EI-MSの分析条件
試料導入部温度:40℃→300℃
(1−3)質量スペクトル(FAB-MS)
質量分析装置(Sx102A、日本電子株式会社)を用いて、粉末化した純度98%のRt.20と純度98%のRt.30 を直接導入により分析した。
FAB-MSの分析条件
導入法:直接導入法
イオン化法:FAB+
マトリックス:グリセリン
(1−4)超高速液体クロマトグラフ-マスマススペクトル(UPLC-MS/MS)
高速液体クロマトグラフタンデム四重極型質量分析計(日本ウォーターズ株式会社)を用いて、〔マタタビ茎葉部含有成分の単離〕(3)にて調製したフラクション番号4の溶出液を分析した。
LC-MS/MSの分析条件
MS: Waters Quattro Premier XE
LC: UPLC
Detector : UV (265 nm)
Column : Waters Acquity UPLC Shield RP 18
Mobile phase : 10-35% Acetonitrile
Injection volume : 5 μl
(1−5)核磁気共鳴スペクトル(NMR:Nuclear Magnetic Resonance)
核磁気共鳴装置(ECA-500、日本電子株式会社)を用いて、純度98%のRt.30 を分析した。
NMR測定試料の調製
粉末化した試料は、指標としてテトラメチルシラン(TMS)の入ったジメチルスルホキシド(DMSO)(和光純薬工業株式会社)に溶解させた。
【0016】
(2)結果および考察
(2−1)単離
図3に示した2つのピーク、すなわちRt.20、Rt.30をHPLCにて80回分取したものを濃縮後、〔マタタビ茎葉部含有成分の単離〕(4)のHPLC分析条件で分析した結果、それぞれ純度98%の単一のピークとして検出された。
(2−2)紫外部吸収スペクトル(UV)
各試料をメタノールに溶解し、その紫外部吸収波長を測定したところRt.20、Rt.30ともに265 nm(C=C)と350 nm(C=O)に2つの極大吸収が認められた。したがって、これら2つのピークは同一骨格(アグリコン)を有していることが判明した。
(2−3)質量スペクトル(MS)
Rt.20の質量スペクトル(MS)
単離したRt.20 のピークを直接導入し、FAB-MS分析を行った。m/z 741にフラグメントイオンピークが認められることから、Rt.20 の分子量は740であると推定される。
Rt.30の質量スペクトル(MS)
単離したRt.30 のピークをFAB-MS、EI-MSにより測定した。FAB-MSの結果(図4)より、m/z 783にフラグメントイオンピークが認められることから、Rt.30 の分子量は782であると推定される。また、EI-MSの結果から、Rt.30 には2つの物質が含まれていると考えられる。1つは、m/z 286の物質であり、ライブラリサーチ(Wiley-NIST)に参照したところ主なフラグメントは完全に一致することからケンフェロールと推定した。もう1つはm/z 355に分子イオンピークがみられ、これはラムノースとグルコースの複合体にアセチル基が結合したものだと推定した。また、開裂状態からアセチル基はラムノースに結合していると思われる。2つの物質が確認された原因としては、EI-MSにかける際に熱をかけたことによる熱分解が考えられる。そのため、Rt.30はケンフェロールとグルコース、ラムノース、アセチルラムノースの複合体であると推定される。
(2−4)超高速液体クロマトグラフ-マスマススペクトル(UPLC-MS/MS)
HP-20カラムにより分画したフラクション番号4の溶出液をUPLC-MS/MSにより分析した。まず、LC-MSの段階においてRt.3.22, Rt.3.72, Rt.4.48に3つの特徴的なピークが得られた。この3つのピークのUVを確認したところ、(2−2)と同様な結果となった。このことから、これら3つのピークの物質は単離したRt.20, Rt.30と同一な構造骨格を有していると考えられる。次に、この3つのピークをUPLC-MS/MSによって分析した結果を図5に示す。Rt.3.22は分子量740、Rt.3.72は分子量782であり、このことからもRt.3.22, Rt.3.72はそれぞれRt.20, Rt30であると推定される。それぞれの開裂を見ると、EI-MSの結果よりm/z286のピークはケンフェロールを表し、m/z486はケンフェロールとグルコースの複合体を示していると思われる。また、Rt3.22, Rt.3.72, Rt.4.48の順に分子量が42ずつ増えていることから、分子量42であるアセチル基がそれぞれ0, 1, 2個ずつ結合していると考えられる。
(2−5)核磁気共鳴スペクトル(NMR)
単離したRt.30のピークをDMSOに溶解し、NMR解析を行った。1H-NMR及び13C-NMRの結果より検出されたピークを表1,2に示す。
【0017】
【表1】
【0018】
【表2】
【0019】
DEPTスペクトルの結果(図6)より、35本のシグナルが検出され、16.4 ppm、16.6 ppmおよび19.6 ppmに3本のCH3、67.5 ppm に1本のCH2、66.5〜131 ppmに21本のCHおよび10本の炭素化合物のシグナルが検出された。よって、この物質は35個の炭素を有していて、そのうちメチル基を3本、メチレン基を1本、メチン基を21本さらに、C=CやC=O等の炭素化合物を10本有しているという事が示唆された。
H,H-COSYスペクトルの結果(図7)より、隣の炭素のプロトンとスピン結合またはスピン−スピン結合している波形の相関関係が得られた。このことより、0.99 ppmはCH3、1.13 ppmはCH3、2.02 ppmはCH3O、3.30 ppmはCH2 、4.54 ppmは-CH2-O-CHのCH、3.23 ppmと4.67 ppm はそれぞれラムノース炭素1位と4位のCH、4.94 ppmはアセチルラムノースの炭素第4位のCH、5.03 ppmはグルコース炭素第1位のCH 、6.16 ppmと6.37ppmはケンフェロール炭素第6位と8位、6.84 ppmおよび8.01 ppm はベンゼン環のCH=CHと解析された。
C,H-COSYスペクトル結果であるHMQCスペクトル(図8,9)の結果より、カーボンのシグナルとプロトンのピークとの相関関係の波形が得られた。さらに、 δH 5.03 ppmにアノメリックプロトンが観察されており、そのスピン結合が8Hzであるためβ-Glcのようなβ位で結合の糖であると考えられる。また、δH 4.54 ppmとδH 4.67 ppmも1H-NMR、13C-NMRの化学シフトよりアノメリック位と考えられる。スピン結合が3Hz以下であることからα位での結合であり、CH3を有するα-Rhmのような6-デオキシ糖であると思われる。これらの結果より、単離したRt.30の物質はケンフェロール、グルコース、ラムノース、アセチルラムノースを有する構造と推定した(式(2))。
この物質を 7-O-α-L-rhamnopyranosyl-4',5-dihydroxy-3-[O-α-L-acetylrhamnopyranosyl-(1→6)-3-O-β-D-glucopyranosyloxy]flavone 慣用名ではkaempferol-7-O-rhamnose-3-O-acetylrutinoside と命名した。
また、Rt.20は、Rt.30のアセチル基がOH基である構造と推定した。
【0020】
〔3.抗酸化力の測定〕
Rt,20及びRt,30についてラジカル活性捕捉消去率を調べる試験を行った。なお、比較対照としてルチンについても同様の試験を行った。
(1) 試薬の調製
100μM DPPH/エタノール
1,1-diphenyl-2-picrylhydrazyl(和光純薬工業株式会社)0.197 mgを精秤し、エタノール50 mlに溶解した。
(2)試験方法
(2−1)標準アスコルビン酸検量線の作成
0〜5 μM アスコルビン酸(AsA)を300 μlずつ各試験管に取り、エタノール300 μlを加え、0.1 mM DPPH(和光純薬工業株式会社、大阪)300 μlを加えた。ここで、盲検(0 μM)の場合はエタノール 600μl に0.1 mM DPPHを 300 μlを加えた。その後、アルミホイルで遮光し、室温で30分間放置後、517 nmの吸光度で分光光度計(UVmini 1240、島津、京都)を用いて測定した。盲検との差を取り、この吸光度をもとに検量線を作成した。
(2−2)測定用試料
ルチンにおけるDPPHラジカル捕捉活性
ルチン(和光純薬工業株式会社) 1 mgにエタノール 1.999 mlを加え、2000倍希釈液を得た。
Rt.20におけるDPPHラジカル捕捉活性
Rt.20 を凍結乾燥させたもの 1 mgにエタノール 1.999 mlを加え、2000倍希釈液を得た。
Rt.30におけるDPPHラジカル捕捉活性
Rt.30 を凍結乾燥させたもの 1 mg にエタノール1.999 mlを加え、2000倍希釈液を得た。
(2−3)DPPHラジカル捕捉活性測定方法
各々の試料300 μlずつを各エッペンドルフチューブに取り、エタノール300 μlを加え、0.1mM DPPH(和光純薬工業株式会社)300 μlを加えた。盲検は試料300 μl を各エッペンドルフチューブに取り、水のみ 600 μl を加えた。また、基準として水+DPPHを作成し、水 600 μl に0.1mM DPPHを300 μl を加えた。その後、アルミホイルで遮光し、室温で30分間放置後、517 nmの吸光度を分光光度計(UVmini 1240、島津製作所)を用いて測定した。基準として作成した水+DPPHの結果を消去率0%とし各試料のDPPHラジカル捕捉活性消去率を算出した。
(3)結果および考察
ルチン、Rt.20、Rt.30におけるDPPHラジカル捕捉活性の結果を図10に示した。ルチンのDPPHラジカル捕捉活性は、303.12 mgアスコルビン酸当量/ 100 ml、Rt,20は192.86 mgアスコルビン酸当量/ 100 ml、Rt,30では158.16 mgアスコルビン酸当量/ 100 mlとなった。
ルチン、Rt.20、Rt.30におけるDPPHラジカル捕捉活性率の結果を図11に示した。結果としては、基準として作成した水+DPPHの結果を捕捉消去活性率0%としたとき、ルチンのDPPHラジカル捕捉消去活性率は、95.52%、Rt,20は87.82%、Rt,30では69.56%となった。
【産業上の利用可能性】
【0021】
本発明の化合物は、構造骨格にケンフェロール、グルコース、ラムノース、アセチルラムノースを有する新規な化合物であり、一般式(1)で示すことができる。本化合物は、ルチンと同様に抗酸化力を有することから、抗酸化剤又は各種の抗酸化作用を要する医薬組成物としての用途が期待される。
【図面の簡単な説明】
【0022】
【図1】マタタビ茎葉部抽出サンプルの調製手順を示す図である。
【図2】マタタビ茎葉から得られたブタノール抽出物をHP-20カラムを用いて分画したときの溶出液のフラクション番号と吸光度(256nm)の関係を示す図である。
【図3】HP-20カラム溶出液のフラクション番号4をHPLCに供して分析したとき得られたクロマトグラムを示す図である。
【図4】Rt.30のピークをFAB-MS、EI-MSにより測定した結果を示すである。
【図5】HP-20カラム溶出液のフラクション番号4をLC-UPMS/MSにより分析して得られたクロマトグラムを示す図である。
【図6】Rt.30のDEPTスペクトル結果を示す図である。
【図7】Rt.30のH,H-COSYスペクトルの結果を示す図である。
【図8】Rt.30のC,H-COSYスペクトル結果を示す図である。
【図9】Rt.30のC,H-COSYスペクトル結果を示す図である。
【図10】ルチン、Rt.20、Rt.30におけるDPPHラジカル捕捉活性の結果を示す図である。
【図11】ルチン、Rt.20、Rt.30におけるDPPHラジカル捕捉活性率の結果を示す図である。
【特許請求の範囲】
【請求項1】
下記一般式(1)で示される化合物。
【化1】
(式中、R1、R2、R3、R4はOH又はOAcのいずれかである。)
【請求項2】
R1、R2、R3がOHであり、R4がOAcである請求項1に記載の化合物。
【請求項3】
請求項1又は2に記載の化合物及びこれらの薬学的に許容される塩を含有成分とする抗酸化剤。
【請求項1】
下記一般式(1)で示される化合物。
【化1】
(式中、R1、R2、R3、R4はOH又はOAcのいずれかである。)
【請求項2】
R1、R2、R3がOHであり、R4がOAcである請求項1に記載の化合物。
【請求項3】
請求項1又は2に記載の化合物及びこれらの薬学的に許容される塩を含有成分とする抗酸化剤。
【図1】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【公開番号】特開2010−120907(P2010−120907A)
【公開日】平成22年6月3日(2010.6.3)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−298118(P2008−298118)
【出願日】平成20年11月21日(2008.11.21)
【新規性喪失の例外の表示】特許法第30条第1項適用申請有り 日本食品科学工学会 第55回大会講演集(2008年9月5日、社団法人 日本食品科学工学会発行) 日本食品科学工学会 第55回大会(社団法人 日本食品科学工学会主催、2008年9月5日〜7日開催)
【出願人】(899000057)学校法人日本大学 (650)
【Fターム(参考)】
【公開日】平成22年6月3日(2010.6.3)
【国際特許分類】
【出願日】平成20年11月21日(2008.11.21)
【新規性喪失の例外の表示】特許法第30条第1項適用申請有り 日本食品科学工学会 第55回大会講演集(2008年9月5日、社団法人 日本食品科学工学会発行) 日本食品科学工学会 第55回大会(社団法人 日本食品科学工学会主催、2008年9月5日〜7日開催)
【出願人】(899000057)学校法人日本大学 (650)
【Fターム(参考)】
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