説明

新規な9,10−ジ(メタ)アクリルオキシアントラセン化合物

【課題】
光ラジカル重合性組成物用の光ラジカル重合増感剤として有用な新規な化合物および当該光増感剤を含有する光硬化性組成物を提供する。
【解決手段】
第一発明は新規な9,10−ジ(メタ)アクリルオキシアントラセン化合物を要旨とし、第二発明は、9,10−ジ(メタ)アクリルオキシアントラセン化合物をアクリル化することからなる製造方法を要旨とし、第三発明は、9,10−ジ(メタ)アクリルオキシアントラセン化合物を含有する光ラジカル重合増感剤を要旨とし、第四発明は、上記光ラジカル重合増感剤、ラジカル重合開止剤及びラジカル重合性モノマーを含有する光硬化性組成物を要旨とする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、光ラジカル重合増感剤として有用な新規なアントラセン化合物、特に9,10−ジ(メタ)アクリルオキシアントラセン化合物、その製造方法、その光ラジカル重合増感剤としての用途に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、光ラジカル重合開始剤としてはアセトフェノン型の光ラジカル重合開始剤が良く知られている。これらの例としては例えば1-ヒドロキシ-シクロヘキシル-フェニル-ケトン(チバ・スペシャリティー社製イルガキュア184)、2,2-ジメトキシ-1,2-ジフェニルエタン-1-オン(チバ・スペシャリティー社製イルガキュア651)、2-メチル-1[4-(メチルチオ)フェニル]-2-モリフォリノプロパン-1-オン(チバ・スペシャリティー社製イルガキュア907)等がある。(特許文献1、2参照)
しかしながら、これらのアセトフェノン型のラジカル重合開始剤である1-ヒドロキシ-シクロヘキシル-フェニル-ケトン(チバ・スペシャリティー社製イルガキュア184)、2,2-ジメトキシ-1,2-ジフェニルエタン-1-オン(チバ・スペシャリティー社製イルガキュア651)、2-メチル-1[4-(メチルチオ)フェニル]-2-モリフォリノプロパン-1-オン(チバ・スペシャリティー社製イルガキュア907)は最長UV吸収波長が350nmを超えない。
高圧水銀ランプを用いて光硬化する場合は問題ないが、さらに長波長のメタルハライドランプには対応できず、また、近年開発が進む406nmの光を使う青色LEDには感応しないのが欠点であった。
【0003】
一方、長波長に感応する重合開始剤としてはビス(2,4,6-トリメチルベンゾイル)-フェニルフォスフィンオキサイドが知られておりBAPOの名称で使われている。しかしこのBAPOは高価である。そこで、350nmを超え400nm近辺までの長波長のUV光を吸収し、アセトフェノン型の光ラジカル重合開始剤を活性化することのできる添加剤(増感剤)が求められるようになって来た。
【特許文献1】特開2003−253225
【特許文献2】特許3147582
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
本発明者は、かかる状況に鑑み、上記欠点を排除した技術を提供すべく鋭意検討の結果、本発明を完成するに至ったものである。すなわち本発明の目的は、次のとおりである。
1.長波長のUV光を吸収しアセトフェノン型の光ラジカル重合開始剤を活性化することのできる新規な増感剤を提供すること
2.長波長のUV光を照射することによって硬化反応を開始させる光硬化性組成物を提供すること
【課題を解決するための手段】
【0005】
本発明者は、芳香族アクリレートの構造と光ラジカル発生能に関して鋭意検討した結果、アクリルオキシ基を有するアントラセン化合物である9,10−ジ(メタ)アクリルオキシアントラセン化合物を共存させることにより、アセトフェノン型光ラジカル重合開始剤を用いても、350nmを超え400nm近辺までの長波長の光照射によりラジカルを発生し、ラジカル重合性モノマーを重合できることを見出し、本発明を完成させた。すなわち、本発明は以下を骨子とするものである。
(1) 下記式(1)で示される9,10−ジ(メタ)アクリルオキシアントラセン化合物。
【0006】
【化1】

【0007】
(式(1)中、Rは水素原子又はメチル基であり、X,Yは同一であっても異なっていてもよく、水素原子、アルキル基、ハロゲン原子、水酸基、アルコキシ基又はチオアルコキシ基のいずれかである。)
(2) 9,10−ジヒドロキシアントラセン化合物をアクリル化することよりなる (1)に記載の9,10−ジ(メタ)アクリルオキシアントラセン化合物の製造方法。
(3) (1)に記載の9,10−ジ(メタ)アクリルオキシアントラセン化合物を含有する光ラジカル重合増感剤。
(4) (3)に記載の光ラジカル重合増感剤、光ラジカル重合開始剤及びラジカル重合性モノマーを含有する光硬化性組成物。
【発明の効果】
【0008】
本発明は、以下に詳細に説明するとおりであり、次のような特別に有利な効果を奏し、その産業上の利用価値は極めて大である。
1.本発明の9,10−(メタ)アクリルオキシアントラセン化合物は新規な化合物であり、光ラジカル重合増感剤として有用である。
2.本発明の9,10−(メタ)アクリルオキシアントラセン化合物は、工業的に入手可能な9,10−ジヒドロキシアントラセン化合物を原料として製造することができる。
3.本発明9,10−(メタ)アクリルオキシアントラセン化合物を含有する光ラジカル重合増感剤は、400nm近辺の長波長の光により、アセトフェノン型光ラジカル重合開始剤を活性化させラジカル重合性モノマーを重合させることができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0009】
本発明の(メタ)アクリルオキシ基を有するアントラセン化合物は、下記式(1)に記載の構造を有する化合物で、式(1)中、Rは水素原子又はメチル基であり、X,Yは同一であっても異なっていてもよく、水素原子、アルキル基、ハロゲン原子、水酸基、アルコキシ基又はチオアルコキシ基のいずれかである。
【0010】
【化2】

【0011】
式(1)中、X,Yで表されるアルキル基としては、メチル基、エチル基、n−プロピル基、n−ブチル基、t−ブチル基、n−ペンチル基、i−ペンチル基、4−メチルペンチル基、n−オクチル基、2−エチルヘキシル基等が挙げられる。式(1)中、X,Yで表されるハロゲン原子としては、塩素原子、臭素原子、フッ素原子等が挙げられる。式(1)中、X,Yで表されるアルコキシ基としては、メトキシ基、エトキシ基、n−プロポキシ基,n−ブトキシ基、フェノキシ基、4−メチルフェノキシ基、4−クロロフェノキシ基等が挙げられる。式(1)中、X,Yで表されるチオアルコキシ基としては、チオメトキシ基、チオエトキシ基、チオプロポキシ基、チオブトキシ基、チオヘキシル基、チオヘプチル基、チオクチル基、チオデシル基、チオドデシル基、チオフェノキシ基、チオ(4−メチルフェノキシ)基、チオ(4−クロロフェノキシ)基等が挙げられる。
【0012】
式(1)で表される(メタ)アクリルオキシ基を有するアントラセン化合物としては、例えば次の物を挙げることが出来る。すなわち、9,10−ジアクリルオキシアントラセン、9,10−ジメタクリルオキシアントラセン、2−メチル−9,10−ジアクリルオキシアントラセン、2−メチル−9,10−ジメタクリルオキシアントラセン、2−エチル−9,10−ジアクリルオキシアントラセン、2−エチル−9,10−ジメタクリルオキシアントラセン、2−クロロ−9,10−ジアクリルオキシアントラセン、2−クロロ−9,10−ジメタクリルオキシアントラセン、2−メトキシ−9,10−ジアクリルオキシアントラセン、2−メトキシ−9,10−ジメタクリルオキシアントラセン、2−エトキシ−9,10−ジアクリルオキシアントラセン、2−エトキシ−9,10−ジメタクリルオキシアントラセン、2−フェノキシ−9,10−ジアクリルオキシアントラセン、2−フェノキシ−9,10−ジメタクリルオキシアントラセン、2−ヒドロキシ−9,10−ジアクリルオキシアントラセン、2−ヒドロキシ−9,10−ジメタクリルオキシアントラセン、2−チオメトキシ−9,10−ジアクリルオキシアントラセン、2−チオメトキシ−9,10−ジメタクリルオキシアントラセン、2−チオフェノキシ−9,10−ジアクリルオキシアントラセン、2−チオフェノキシ−9,10−ジメタクリルオキシアントラセン、1−メチル−9,10−ジアクリルオキシアントラセン、1−メチル−9,10−ジメタクリルオキシアントラセン、1−エチル−9,10−ジアクリルオキシアントラセン、1−エチル−9,10−ジメタクリルオキシアントラセン、1−クロロ−9,10−ジアクリルオキシアントラセン、1−クロロ−9,10−ジメタクリルオキシアントラセン、1−メトキシ−9,10−ジアクリルオキシアントラセン、2−メトキシ−9,10−ジメタクリルオキシアントラセン、1−エトキシ−9,10−ジアクリルオキシアントラセン、1−エトキシ−9,10−ジメタクリルオキシアントラセン、2−フェノキシ−9,10−ジアクリルオキシアントラセン、1−フェノキシ−9,10−ジメタクリルオキシアントラセン、1−ヒドロキシ−9,10−ジアクリルオキシアントラセン、2−ヒドロキシ−9,10−ジメタクリルオキシアントラセン、2−チオメトキシ−9,10−ジアクリルオキシアントラセン、1−チオメトキシ−9,10−ジメタクリルオキシアントラセン、1−チオフェノキシ−9,10−ジアクリルオキシアントラセン、1−チオフェノキシ−9,10−ジメタクリルオキシアントラセン、2,6−ジメチル−9,10−ジアクリルオキシアントラセン、2,6−ジメチル−9,10−ジメタクリルオキシアントラセン、2,7−ジメチル−9,10−ジアクリルオキシアントラセン、2,76−ジメチル−9,10−ジメタクリルオキシアントラセン、1,5−ジメチル−9,10−ジアクリルオキシアントラセン、1,5−ジメチル−9,10−ジメタクリルオキシアントラセン等である。代表的な構造式を以下に示す。
【0013】
【化3】

【0014】
本発明の9,10−ジアクリルオキシアントラセン化合物又は9,10−ジメタクリルオキシアントラセン化合物は、相当する9,10−ジヒドロキシアントラセン化合物に塩基存在下又は塩基非存在下、塩化アクリロイル又は塩化メタアクリロイルを作用させることにより得られる。
【0015】
9,10−ジヒドロキシアントラセン化合物としては、例えば、9,10−ジヒドロキシアントラセン、2−メチル−9,10−ジヒドロキシアントラセン、2−エチル−9,10−ジヒドロキシアントラセン、2−クロロ−9,10−ジヒドロキシアントラセン、2−メトキシ−9,10−ジヒドロキシアントラセン、2−エトキシ−9,10−ジヒドロキシアントラセン、2−フェノキシ−9,10−ジヒドロキシアントラセン、2−ヒドロキシ−9,10−ジヒドロキシアントラセン、2−チオメトキシ−9,10−ジヒドロキシアントラセン、2−チオドデシルオキシ−9,10−ジヒドロキシアントラセン、2−チオフェノキシ−9,10−ジヒドロキシアントラセン、1−メチル−9,10−ジヒドロキシアントラセン、2−エチル−9,10−ジヒドロキシアントラセン、1−クロロ−9,10−ジヒドロキシアントラセン、1−メトキシ−9,10−ジヒドロキシアントラセン、1−エトキシ−9,10−ジヒドロキシアントラセン、1−フェノキシ−9,10−ジヒドロキシアントラセン、1−ヒドロキシ−9,10−ジヒドロキシアントラセン、1−チオメトキシ−9,10−ジヒドロキシアントラセン、1−チオドデシルオキシ−9,10−ジヒドロキシアントラセン、1−チオフェノキシ−9,10−ジヒドロキシアントラセン等が挙げられる。
【0016】
塩基としては、例えば、トリメチルアミン、トリエチルアミン、トリブチルアミン、ピリジン、α−ピコリン、β−ピコリン、γ−ピコリン、ピペリジン等が挙げられる。
【0017】
反応に用いる溶媒としては、ベンゼン、トルエン、キシレン、クロロベンゼンのような芳香族系溶媒、塩化メチレン、ジクロロエタン、ジクロロエチレンのようなハロゲン化炭素系溶媒、アセトン、メチルエチルケトン、メチルイソブチルケトンのようなケトン系溶媒、N−メチルピロリドン、ジメチルホルムアミドのようなアミド系溶媒、テトラヒドロフラン、1,4−ジオキサンのようなエーテル系溶媒が好適に用いられる。
【0018】
9,10−ジヒドロキシアントラセン化合物に対する塩化アクリロイル又は塩化メタクリロイルの添加量は、2モル倍から3モル倍、好ましくは2.2モル倍から2.4モル倍である。反応温度は0℃から80℃、好ましくは0℃から20℃である。本反応は発熱反応であり、冷却が必要である。反応時間は15分から60分程度である。反応終了後、水又はメタノールを加えて未反応の塩化アクリロイル又は塩化メタクリロイルを水和した後、塩酸塩を濾過して除去し、次いで濾液に水を添加して晶析し、析出した結晶を濾過して黄白色粉末を得る。さらに、例えば、塩化メチレン/メタノールから再結晶し、白黄色の結晶を得ることが出来る。
【0019】
得られた化合物の同定は、1H NMRスペクトル、IRスペクトル、Massスペクトルを用いて行い、9,10−ジアクリルオキシアントラセン化合物又は9,10−ジメタアクリルオキシアントラセン化合物であることを確認した。
【0020】
本発明の9,10−ジ(メタ)アクリルオキシアントラセンは光ラジカル重合増感剤として作用し、アセトフェノン型光ラジカル重合開始剤と併用することにより,400nm近辺の波長の光によりラジカルを発生させ、ラジカル重合性モノマーを重合させることが出来る。また、9,10−ジ(メタ)アクリルオキシアントラセンと共に、公知の増感剤や溶媒、希釈剤等をさらに含有させて光ラジカル重合増感剤としてもよい。
【0021】
アセトフェノン型光ラジカル重合開始剤としては、例えば1-ヒドロキシ-シクロヘキシル-フェニル-ケトン(チバ・スペシャリティー社製イルガキュア184)、2,2-ジメトキシ-1,2-ジフェニルエタン-1-オン(チバ・スペシャリティー社製イルガキュア651)、2-メチル-1[4-(メチルチオ)フェニル]-2-モリフォリノプロパン-1-オン(チバ・スペシャリティー社製イルガキュア907)が挙げられる。これらの光重合開始剤は単独使用では400nm近辺の波長の光を用いてラジカル重合性モノマーを重合させることは出来ないが、9,10−ジ(メタ)アクリルオキシアントラセン化合物を共存させることにより容易に400nm近辺の波長に感応するようになり、ラジカル重合性モノマーを重合させることが出来る。
【0022】
ラジカル重合性モノマーとしては、例えば、スチレン、酢酸ビニル、アクリル酸、メタクリル酸、アクリロニトリル、メタクリロニトリル、アクリルアミド、アクリル酸エステル、メタクリル酸エステル、等を用いることが出来る。(メタ)アクリル酸エステルとしては、アクリル酸メチル、アクリル酸−n−ブチル、アクリル酸シクロヘキシル、アクリル酸−2−エチルヘキシル、アクリル酸−2−ヒドロキシエチル、メタクリル酸メチル、メタクリル酸−n−ブチル、メタクリル酸シクロヘキシル、テトラエチレングリコールジアクリレート、トリメチロールプロパントリアクリレート、ペンタエリスリトールトリアクリレート、エポキシアクリレート、ウレタンアクリレートポリエステルアクリレート、ポリブタジエンアクリレート、ポリオールアクリレート、ポリエーテルアクリレート、シリコーン樹脂アクリレート、イミドアクリレート等が挙げられる。これら重合性モノマーは、一種でも二種以上の混合物であっても良い。
【0023】
増感剤としての9,10−ジ(メタ)アクリルオキシアントラセン化合物の添加量は、モノマーに対して0.01〜1重量%が好ましく、さらに好ましくは0.05〜0.5重量%である。増感剤の濃度が低すぎれば、硬化速度が遅くなり、また増感剤の濃度が多すぎると硬化物の物性が悪化する。光ラジカル重合開始剤のモノマーに対する添加量は0.01〜1重量%が好ましく、さらに好ましくは0.05〜0.5重量%である。9,10−ジ(メタ)アクリルオキシアントラセンのアセトフェノン型の重合開始剤に対する添加比率(重量比)は0.1〜5倍が好ましく、より好ましくは、0.3〜1倍である。なお、本発明の光硬化性組成物としては、上記の光ラジカル重合増感剤、光ラジカル重合開始剤及びラジカル重合性モノマーの他に、本発明の効果を損なわない範囲で、希釈剤、着色剤、有機又は無機の充填剤、レベリング剤、界面活性剤、消泡剤、増粘剤、難燃剤、酸化防止材、安定剤、滑剤、可塑剤などの各種樹脂添加剤を含有させることができる。
【0024】
光硬化性組成物の硬化はフィルム状で行うことも出来るし、塊状に硬化させることも可能である。フィルム状に硬化させる場合は、たとえばポリエステルフィルムの基材に光硬化性組成物をバーコーター用いて塗布し、ついで光照射する。用いるランプとしてはメタルハライドランプ、キセノンランプ、紫外線LED、青色LED,白色LED、フュージョン社製のDランプ、Vランプ等が挙げられる。太陽光の使用も可能である。光照射は酸素非存在下で実施することが望ましい。酸素存在下では酸素阻害のためフィルム表面のべたつきがなかなか取れず、重合開始剤の大量添加が必要となる。酸素非存在下での硬化方法としては、窒素ガス、ヘリウムガス等の雰囲気で行うことが挙げられる。また、酸素非過性の膜をかぶせて光硬化させる方法も有効である。
【0025】
光硬化の判定は、タックフリーテスト(指触テスト)に基づいて行った。すなわち、光照射によりフィルム表面の光硬化性組成物のタック(べたつき)が取れるので、フィルム表面を指で触り、タック(表面のべたつき)がなくなった時間を「タックフリータイム」(硬化時間)とした。
【0026】
同様の硬化試験を、9,10−ジ(メタ)アクリルオキシアントラセン化合物に代えて9−(メタ)アクリルオキシアントラセン化合物を用いて行ったが、その硬化速度は9,10−ジ(メタ)アクリルオキシアントラセン化合物を用いる場合に比べて、硬化時間が6倍近く必要となり、効果的ではなかった。
【0027】
下記の実施例により本発明を例示するがこれらの実施例は本発明の範囲を限定するものではない。特記しない限り、すべての部および百分率は重量%である。
【実施例】
【0028】
「合成例1」
9,10−ジヒドロキシアントラセン10.0g(0.048mol)と120mLのN−メチルピロリドンの溶液に窒素雰囲気下、トリエチルアミン11.6g(0.115mol)を添加して、10℃以下に冷却した後、塩化アクリロイル9.5g(0.105mol)を15分かけて滴下した。滴下開始より30分後、メタノール5mLを加えて塩化アクリロイルを水和し、析出したトリエチルアミン塩酸塩を濾過により除去した。濾液を10℃以下に冷却した後、水120mLを添加して結晶を析出させ、濾過して水で洗浄後、乾燥させることにより淡黄色結晶の9,10−ジアクリルオキシアントラセン12.1g(0.038mol,収率:79mol%)を得た。
【0029】
得られた化合物の分析結果は以下に示すとおりであり、1H−NMR,IR,マススペクトルより、このものは9,10−ジアクリルオキシアントラセンであることが確認された。

融点: 209−211℃
1H−NMR(CDCl3,ppm):δ=6.24(d,2H,ビニル基),6.65(dd,2H,ビニル基),6.87(d,2H,ビニル基),7.46−7.55(m,4H,アントラセン環),7.89−7.99(m,4H,アントラセン環).
IR(KBr,cm-1):687,764,804,984,1039,1143,1177,1363,1410,1631,1736.
マススペクトル:(EI−MS)m/z=318(M+
【0030】
「合成例2」
9,10−ジヒドロキシアントラセン10.0g(0.048mol)と120mLのN−メチルピロリドンの溶液に窒素雰囲気下、トリエチルアミン11.6g(0.115mol)を添加して、10℃以下に冷却した後、塩化メタクリロイル11.0g(0.105mol)を15分かけて滴下した。滴下開始より30分後、メタノール5mLを加えて塩化メタアクリロイルを水和し、析出したトリエチルアミン塩酸塩を濾過により除去した。濾液を10℃以下に冷却した後、水120mLを添加して結晶を析出させ、濾過して水で洗浄後、乾燥させることにより淡黄色結晶の9,10−ジメタクリルオキシアントラセン15.3g(0.044mol,収率:92mol%)を得た。
【0031】
得られた化合物の分析結果は以下に示すとおりであり、1H−NMR,IR,マススペクトルより、このものは9,10−ジメタクリルオキシアントラセンであることが確認された。

融点:226−227℃
1H−NMR(CDCl3,ppm):δ=2.24(s,6H,メチル基),5.98(dd,2H,ビニル基),6.70(s,2H,ビニル基),7.47−7.56(m,4H,アントラセン環),7.80−8.02(m,4H,アントラセン環).
IR(KBr,cm-1):755,970,1039,1119,1290,1367,1439,1632,1734.
マススペクトル:(EI−MS)m/z=346(M+
【0032】
「合成例3」
2−メチル−9,10−ジヒドロキシアントラセン10.0g(0.045mol)と120mLのN−メチルピロリドンの溶液に窒素雰囲気下、トリエチルアミン10.8g(0.107mol)を添加して、10℃以下に冷却した後、塩化メタクリロイル10.2g(0.098mol)を15分かけて滴下した。滴下開始より30分後、メタノール5mLを加えて塩化メタアクリロイルを水和し、析出したトリエチルアミン塩酸塩を濾過により除去した。濾液を10℃以下に冷却した後、水120mLを添加して結晶を析出させ、濾過して水で洗浄後、乾燥させることにより淡黄色結晶の2−メチル−9,10−ジメタクリルオキシアントラセン12.9g(0.036mol,収率:80mol%)を得た。
【0033】
得られた化合物の分析結果は以下に示すとおりであり、1H−NMR,IR,マススペクトルより、このものは2−メチル−9,10−ジメタクリルオキシアントラセンであることを確認した。

融点:223−224℃
1H−NMR(CDCl3,ppm):δ=2.24(s,3H,メチル基),2.25(s,3H,メチル基),2.53(s,3H,メチル基),5.99(dd,2H,ビニル基),6.70(d,2H,ビニル基),7.32−7.35(m,1H,アントラセン環),7.44−7.49(m,2H,アントラセン環),7.66(s,1H,アントラセン環),7.83−7.94(m,3H,アントラセン環).
IR(KBr,cm-1):752,800,955,1039,1122,1309,1371,1446,1635,1730.
マススペクトル:(EI−MS)m/z=360(M+
【0034】
「実施例1」
モノマーとしてトリメチロールプロパントリアクリレート2gにアセトフェノン型光ラジカル重合開始剤2,2-ジメトキシ-1,2-ジフェニルエタン-1-オン(チバ・スペシャリティー社製イルガキュア651)を10mg、合成例1で合成した9,10−ジアクリルオキシアントラセン10mgを加え、均一な組成物とした。この組成物を、バーコーターを用いてポリエステルフィルム(東レ社製 商品名:ルミラー、厚さ100ミクロン)上に膜厚12ミクロンになるように塗布した。ついで窒素雰囲気下、紫外線LEDを照射した。照射光の中心波長は395nmで照射強度は3mW/cm2である。べたつき(タック)がなくなるまでの光照射時間「タック・フリー・タイム」は10秒であった。
【0035】
「比較例1」
9,10−ジアクリルオキシアントラセンを添加しない以外は実施例1と全く同様に光硬化組成物を調製し、紫外線LED(395nm、照射強度3mw/cm)を照射して硬化時間を求めた。タックフリータイムは50秒であった。
【0036】
「比較例2」
9,10−ジアクリルオキシアントラセンを9−アクリルオキシアントラセンに変えた以外は実施例1と全く同様に光硬化組成物を調製し、紫外線LED(395nm、照射強度3mw/cm)を照射して硬化時間を求めた。タックフリータイムは60秒であった。
【0037】
「比較例3」
アセトフェノン型光ラジカル重合開始剤2,2-ジメトキシ-1,2-ジフェニルエタン-1-オン(チバ・スペシャリティー社製イルガキュア651)を添加しない以外は実施例1と全く同様に光硬化組成物を調製し、紫外線LED(395nm、照射強度3mw/cm)を照射して硬化時間を求めた。タックフリータイムは60秒であった。
【0038】
「実施例2」
モノマーとしてトリメチロールプロパントリアクリレート2gにアセトフェノン型光ラジカル重合開始剤2-メチル-1[4-(メチルチオ)フェニル]-2-モリフォリノプロパン-1-オン(チバ・スペシャリティー社製イルガキュア907)を10mg、合成例1で合成した9,10−ジアクリルオキシアントラセン10mgを加え、均一な組成物とした。この組成物をバーコーターを用いてポリエステルフィルム(東レ社製 商品名:ルミラー、厚さ100ミクロン)上に膜厚12ミクロンになるように塗布した。ついで窒素雰囲気下、紫外線LEDを表面から照射した。照射光の中心波長は395nmで照射強度は3mW/cm2である。べたつき(タック)がなくなるまでの光照射時間「タック・フリー・タイム」は16秒であった。
【0039】
「比較例4」
9,10−ジアクリルオキシアントラセンを添加しない以外は実施例1と全く同様に光硬化組成物を調製し、紫外線LED(395nm、照射強度3mw/cm)を照射して硬化時間を求めた。タックフリータイムは70秒であった。
【0040】
「実施例3」
モノマーとしてトリメチロールプロパントリアクリレート2gにアセトフェノン型光ラジカル重合開始剤1-ヒドロキシ-シクロヘキシル-フェニル-ケトン(チバ・スペシャリティー社製イルガキュア184)を10mg、合成例1で合成した9,10−ジアクリルオキシアントラセン10mgを加え、均一な組成物とした。この組成物をバーコーターを用いてポリエステルフィルム(東レ社製 商品名:ルミラー、厚さ100ミクロン)上に膜厚12ミクロンになるように塗布、ついで窒素雰囲気下、紫外線LEDを表面から光照射した。照射光の中心波長は395nmで照射強度は3mW/cm2である。べたつき(タック)がなくなるまでの光照射時間「タック・フリー・タイム」は30秒であった。
【0041】
「比較例5」
9,10−ジアクリルオキシアントラセンを添加しない以外は実施例3と全く同様に光硬化組成物を調製し、紫外線LED(395nm、照射強度3mw/cm2)したところ10分たっても全く硬化しなかった。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
下記式(1)で示される9,10−ジ(メタ)アクリルオキシアントラセン化合物。
【化1】

(式(1)中、Rは水素原子又はメチル基であり、X,Yは同一であっても異なっていてもよく、水素原子、アルキル基、ハロゲン原子、水酸基、アルコキシ基又はチオアルコキシ基のいずれかである。)
【請求項2】
9,10−ジヒドロキシアントラセン化合物をアクリル化することよりなる請求項1に記載の9,10−ジ(メタ)アクリルオキシアントラセン化合物の製造方法。
【請求項3】
請求項1に記載の9,10−ジ(メタ)アクリルオキシアントラセン化合物を含有する光ラジカル重合増感剤。
【請求項4】
請求項3に記載の光ラジカル重合増感剤、ラジカル重合開始剤及びラジカル重合性モノマーを含有する光硬化性組成物。


【公開番号】特開2007−99637(P2007−99637A)
【公開日】平成19年4月19日(2007.4.19)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−288541(P2005−288541)
【出願日】平成17年9月30日(2005.9.30)
【出願人】(000199795)川崎化成工業株式会社 (133)
【Fターム(参考)】