説明

新規なASC様タンパク質およびそれをコードする新規遺伝子

【課題】 本発明は、新規なASC様タンパク質、その遺伝子、その製造方法、およびその用途を提供することを目的とする。
【解決手段】 ヒトHCC cell lineより新規なASC様タンパク質をコードする遺伝子を単離した。この新規遺伝子は、癌サンプルにおいて異常なメチル化を生じ、この遺伝子がコードするタンパク質は、アポトーシスの活性化を介した細胞増殖抑制機能を有すると考えられる。新規遺伝子および新規タンパク質は、癌の治療法や診断法研究の標的として有用である。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、新規なApoptosis-associated Speck-like protein (ASC)様タンパク質およびその遺伝子等に関する。
【背景技術】
【0002】
PAAD、DAPINとしても知られるpyrinドメインは、death domain (DD)、death-effector domain (DED)およびcaspase recruitment domain (CARD)を含むdeath domain-foldスーパーファミリーのメンバーであると考えられており、これらのドメインを有するタンパク質は、アポトーシスや炎症の起こるメカニズムに関与するとの報告がなされている(非特許文献1)。
pyrinドメインを有するタンパク質の一つであるASCは、抗癌剤処理によって癌細胞にアポトーシスを誘導したときに、細胞内で凝集塊(speck)を形成するCARDタンパク質として発見された(非特許文献2)。ASCはpyrinドメインに加えて、C末端にCARDドメインを有し、CARD−CARD相互作用によってprocaspaseIを活性化し(非特許文献3)、炎症のシグナル伝達において機能する。
ASCは、target of methylation-induced silencing (TMS1)とも呼ばれるように、DNAのメチル化によりその発現が抑制されることが乳癌で報告されている(非特許文献4)。
一般に、プロモータ領域のCpGアイランドでメチル化が起こると、ヒストンのアセチル化が低下し、転写が抑制される傾向がある。近年、複数種の癌において、がん抑制遺伝子などの遺伝子がメチル化され、これらの遺伝子の機能が抑制されている現象が見出されている。
さらに、ASCは、そのpyrinドメインによってBaxに結合し、これをミトコンドリアにリクルートすることによって、シトクロムcの放出と各種カスパーゼの活性化に寄与している(非特許文献5)。
これらの情報は、ASCが、免疫反応のみならず、癌の発生に深く関わっていることを示唆しており、基礎研究および癌の予防・治療法の研究の分野において注目されている。
【非特許文献1】Fairbrother WJ, et al. Protein Sci 2001;10:1911-8
【非特許文献2】Masumoto J, et al. J Biol Chem 1999;274:33835-8
【非特許文献3】Srinivasula SM, et al. J Biol Chem 2002;277:21119-22
【非特許文献4】Conway KE, et al. Cancer Res 2000;60:6236-42
【非特許文献5】Ohtsuka T, et al. Nat Cell Biol 2004;6:121-8
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0003】
特定のタンパク質の発現やDNAの変異と癌との関連を示すことができれば、そのタンパク質やDNAを研究することによって、癌発生のメカニズム解明の研究にも貢献し、癌の治療法、予防法の開発にもつながると考えられる。また、そのタンパク質やDNAの変異を検出または定量することにより、癌の早期発見にも用いることが可能である。
本発明は、このような状況に鑑みてなされたものであり、新規なASC様タンパク質、その遺伝子、その製造方法、および用途を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0004】
本発明者らは、上記課題に鑑みて鋭意研究を重ねた結果、肝臓、脳、脾臓を含む様々な組織で発現している新規なASC様タンパク質をコードする遺伝子を単離し、このタンパク質をASC−like(以下、「ASCL」という。)と名付けた。
そして、ASCL遺伝子は、肝細胞癌(以下、「HCC」という。)のcell lineにおいては高密度かつ高頻度(80%)にメチル化されていること、正常な肝サンプルではこのような顕著なメチル化が生じていないこと、さらに、この異常なメチル化が、RNAの発現抑制に高い関連性を有していることを見出した。ASCLの発現が抑制されている細胞を脱メチル化剤で処理したところ、ASCL発現が再び活性化されたことから、ASCLの発現抑制がDNAのメチル化に関連することが、より明らかとなった。
一方、ASCLのメチル化はその頻度は低いものの、原発性HCCにおいても見られ、原発性HCCサンプルの53%で、ASCLまたはASCのいずれかのメチル化が起こっていることが確認された。
さらに、メチル化による発現抑制が起こった細胞で、発現を再活性化させると、その細胞の増殖が抑制されることを確認し、本発明を完成するに至った。
【0005】
すなわち、本発明は、
〔1〕下記(a)〜(d)のいずれかに記載のDNA:(a)配列番号:2に記載のアミノ酸配列からなるタンパク質をコードするDNA、(b)配列番号:1に記載の塩基配列のコード領域を含むDNA、(c)配列番号:2に記載のアミノ酸配列において1若しくは複数のアミノ酸が置換、欠失、挿入および/または付加されたアミノ酸配列を有し、配列番号:2に記載のタンパク質と機能的に同質のタンパク質をコードするDNA、(d)配列番号:1に記載の塩基配列と相補的な塩基配列からなるDNAとストリンジェントな条件でハイブリダイズし、配列番号:2に記載のアミノ酸配列からなるタンパク質と機能的に同質のタンパク質をコードするDNA;〔2〕配列番号:2に記載のアミノ酸配列からなるタンパク質の部分ペプチドをコードするDNA;〔3〕上記〔1〕または〔2〕に記載のDNAによりコードされるタンパク質またはペプチド;〔4〕上記〔1〕または〔2〕に記載のDNAを含有するベクター;〔5〕上記〔4〕に記載のベクターを含む形質転換体;〔6〕上記〔5〕に記載の形質転換体を培養し、発現したタンパク質またはペプチドを回収する工程を含む、上記〔3〕に記載のタンパク質またはペプチドの製造方法;〔7〕上記〔3〕に記載のタンパク質または部分ペプチドに結合する抗体;〔8〕被検者から採取した試料からDNAを抽出する工程と、該DNA上の下記(i)〜(v)のいずれかに記載の領域におけるメチル化の頻度を測定する工程と、を含む癌の診断方法:(i)配列番号:2に記載のアミノ酸配列からなるタンパク質をコードするDNAを含む領域、(ii)配列番号:1に記載の塩基配列を含む領域、(iii)配列番号:2に記載のアミノ酸配列において1若しくは複数のアミノ酸が置換、欠失、挿入および/または付加されたアミノ酸配列を有し、配列番号:2に記載のタンパク質と機能的に同質のタンパク質をコードするDNAを含む領域、(iv)配列番号:1に記載の塩基配列と相補的な塩基配列からなるDNAとストリンジェントな条件でハイブリダイズし、配列番号:2に記載のアミノ酸配列からなるタンパク質と機能的に同質のタンパク質をコードするDNAを含む領域、(v)配列番号3に記載の塩基配列からなる領域;〔9〕さらに、前記被検者から採取した試料から抽出されたDNA上の、ASCタンパク質のコード領域におけるメチル化の頻度も測定する、上記〔8〕に記載の方法。;〔10〕前記メチル化の頻度を測定する工程が、Methylation Specific PCR法である、上記〔8〕または〔9〕に記載の方法;〔11〕前記メチル化の頻度を測定する工程が、Bisulfite Sequencing法である、上記〔8〕または〔9〕に記載の方法〔12〕被検者から採取した試料中に含まれる請求項1に記載のDNAの発現を検出および/または定量する工程と、
これを健常者における場合と比較して、該DNAの発現が低下している場合に被検者が癌であると判定する工程と、を含む癌の診断方法;〔13〕下記(a)または(b)を含む癌の診断用キット:(a)上記〔3〕に記載のタンパク質またはペプチドに結合する抗体、(b)請求項1または2に記載のDNA若しくはその相補鎖の全部または一部に相補的なポリヌクレオチド;〔14〕上記〔1〕に記載のDNAの発現を亢進または抑制する化合物のスクリーニング方法であって、細胞に被検化合物を添加する工程と、前記被検化合物の添加の前後における、前記細胞内での上記〔1〕に記載のDNAの発現の変化を検出および/または定量する工程と、を含む方法、を提供する。
【発明の効果】
【0006】
ASCL遺伝子はそのメチル化により発現が抑制され、ASCLタンパク質の発現の有無は細胞のアポトーシスに深く関与する。従って、ASCLおよびASCL遺伝子の発現に関する研究は、癌その他の細胞増殖に関連する疾患の予防または治療方法の開発につながる大きな可能性を有している。ASCLおよびASCL遺伝子の発現を調整する物質は、各種癌疾患の予防または治療薬として作用する可能性がある。さらに、ASCL遺伝子のメチル化の頻度や、ASCLタンパク質を検出または定量し、その結果を各種疾患の診断に用いることも可能である。
【発明を実施するための最良の形態】
【0007】
以下に、本明細書で用いる用語等の意味を明示して、本発明を詳細に説明する。
【0008】
本発明は、本発明に係るタンパク質として、新規なASC様タンパク質を提供する。当該ASC様タンパク質のアミノ酸配列を配列番号:2に、このタンパク質をコードするcDNAの塩基配列を配列番号:1に示す。ASCLは、新規なpyrinドメインタンパク質であり、その遺伝子は、肝臓、脳、脾臓を含む正常組織で発現していた。一方で、ASCL遺伝子には、肝細胞癌のcell lineにおいて異常なメチル化が高い割合で生じており、このメチル化は、ASCLのRNAの発現抑制と高い相関性を有していた。RNAの発現が抑制された細胞を脱メチル化剤である5-aza-2'-deoxycytidineで処理することにより、ASCL遺伝子の発現を再活性化したことから、この発現抑制にはASCL遺伝子のメチル化が関与していることがより明らかとなった。
また、脱メチル化によりASCLの機能を回復させた細胞のコロニーでは、細胞の増殖抑制が観察されたこと、さらに、ASCL遺伝子を含むベクターで形質転換した細胞において、annexin-V結合が陽性になり、カスパーゼ3が活性化されたことから、ASCLタンパク質は細胞のアポトーシスに関与している可能性が高いことも示唆された。
これらの事実から、ASCLタンパク質は、HCCの発生において何らかの重要な役割を果たしていることが推察され、ASCLに関連する研究は、HCCの予防方法や治療方法につながるものとして重要であると言える。
また、ASCLタンパク質やASCL遺伝子のメチル化を検出または定量し、その結果を癌の診断、癌になりやすい傾向、癌の進行度の指標としても用いることができる可能性が高い。
【0009】
また、本発明に係るタンパク質は、ASCLと機能的に同質なタンパク質も含む。このようなタンパク質には、配列番号:2に記載のアミノ酸配列からなるASCLタンパク質の変異体、ホモログ、バリアントなどが含まれる。ここで「配列番号:2に記載のアミノ酸配列からなるタンパク質と機能的に同質」とは、例えば、そのタンパク質の発現を増加させることによって、そのタンパク質を含む細胞の増殖が抑制される機能を有することを意味する。このような機能は、そのタンパク質をコードするポリヌクレオチドを含むベクターで形質転換した細胞を用いて確認することができる。
本発明に係る、配列番号:2に記載のアミノ酸配列からなるタンパク質と機能的に同等のタンパク質は、配列番号:2に記載のアミノ酸配列において1若しくは複数のアミノ酸が置換、欠失、挿入および/または付加されたアミノ酸配列を有する。このようなタンパク質は、例えば、配列番号:2に記載のアミノ酸配列からなるタンパク質をコードするDNAに変異を導入し、このDNAを含むベクターを用いて宿主を形質転換し、発現したタンパク質を回収することによって得ることができる。また、配列番号:2に記載のアミノ酸配列において1若しくは複数のアミノ酸が置換、欠失、挿入および/または付加されたアミノ酸配列を有するタンパク質には、細胞内で自然に誘発された変異を有するタンパク質も含まれる。アミノ酸の変異数や変異部位は、タンパク質の機能が保持される限り制限されない。
「変異を導入する方法」としては、部位特異的突然変異誘発法を用いることができ、この方法によれば、まず、変異させたい遺伝子をM13ファージ等のベクターの一部に組み込んで一本鎖環状のファージDNAを得て、これに変異を導入するよう一部の塩基を変更して設計されたオリゴヌクレオチドをハイブリダイズさせたのち、DNAポリメラーゼとDNAリガーゼで修復して一部ミスマッチの状態になった二本鎖環状DNAとする。これを大腸菌等に感染させて培養すると二本鎖の組換え体M13の複製の際、変異株と非変異株が分離してそれぞれ一本鎖となって個々のファージ粒子に入る。そこで変異が導入された方の鎖のみ選ぶことで、特定の部位に所望の変異を有する配列を得ることができる。この他、適当な制限酵素を用いて付着末端を生じさせ、そのままDNAリガーゼで連結して数塩基の欠失を起こさせる方法や、エラーが起こりやすい条件下でPCRにより増幅することで、一定の領域のランダムな変異を入れる方法、Kunkel法やEckstein法など公知の方法を使用することができる。
【0010】
また、本発明に係るタンパク質は、配列番号:2に記載のアミノ酸配列からなるタンパク質と機能的に同等のタンパク質として、配列番号:1に記載の塩基配列と相補的な塩基配列を有するDNAとストリンジェントな条件でハイブリダイズするDNAによりコードされるタンパク質も包含する。「配列番号:1に記載の塩基配列と相補的な塩基配列を有するDNAとストリンジェントな条件でハイブリダイズするDNA」の例としては、例えば、配列番号:2に記載のアミノ酸配列からなるタンパク質をコードするDNAとの全塩基配列との相同性の程度が、全体の平均で約80%以上、好ましくは約90%以上、より好ましくは約95%以上である塩基配列を含有するDNAなどを挙げることができる。
ここで、ハイブリダイゼーションは、当業者であれば自体公知の方法(例えば、Current Protocols in Molecular Biology; edit. Ausubel et al. (1987)に記載の方法等)またはそれに準ずる方法に従って、適宜行うことができる。ストリンジェントな条件は、例えば、1×SSC、0.1%SDS、60℃とすることができ、SCCの濃度および温度などで調整することができる。高ストリンジェントな条件を選択すれば、より高い相補性を有するDNAのみがハイブリダイズする。
【0011】
本発明に係るタンパク質は、生体に由来するものであっても、人工的に合成されるものであってもよく、例えば、ヒトの肝細胞や脾臓細胞のcell lysateから公知のタンパク質精製の方法に従って得ることができる。後述のように、本発明のポリヌクレオチドを挿入した発現ベクターで適当な宿主を形質転換して得ることもできるし、自体公知の無細胞系タンパク質合成方法によって作製してもよい。
【0012】
本発明は、また、上述した本発明に係るタンパク質の部分ペプチドも提供する。本発明に係る部分ペプチドは、具体的には、配列番号:2に記載のアミノ酸配列、または、ASCLと機能的に同質のタンパク質のアミノ酸配列の一部である、少なくとも10アミノ酸、好ましくは15アミノ酸以上のアミノ酸配列からなる。部分ペプチドは、遺伝子工学的手法で得ることもできるし、公知の固相または液相ペプチド合成法により合成することもでき、また、ASCLを適当なペプチダーゼや臭化シアン等で切断することによってもできる。かかる部分ペプチドは、例えば、ASCLに結合する抗体の調製に用いることができ、また、ASCLと他のタンパク質との結合活性を有する部分ペプチドであれば、医薬品候補化合物のスクリーニングに利用することも可能である。
【0013】
なお、本発明に係るタンパク質は、C末端は通常カルボキシル基(−COOH)またはカルボキシレート(−COO−)であるが、C末端がアミド(CONH2)またはエステル(−COOR)化されているものも含む。また、本発明に係るタンパク質は、糖が結合した糖タンパク質などの複合タンパク質であってもよく、タンパク質の塩も包含する。
【0014】
本発明はまた、本発明に係るタンパク質をコードするDNAをも提供する。かかるDNAは、配列番号:2に記載のアミノ酸配列からなるタンパク質、およびこのタンパク質と機能的に同質なタンパク質をコードするDNAであれば、特に制限はなく、cDNA、ゲノムDNA、化学合成DNAなどを含んでもよい。また、ASCLまたはこれと機能的に同質のタンパク質をコードする限り、遺伝暗号の縮重に基づく任意の塩基配列を有するDNAなども含まれる。
【0015】
また、本発明は、本発明に係るDNAが挿入されたベクターを提供する。本発明で用いられるベクターは、挿入したDNAを安定に保持するものであれば、特に限定されず、例えば、大腸菌由来のプラスミド(例えば、pBR322、pBR325)、枯草菌由来のプラスミド(例えば、pUB110、pTP5)、酵母由来のプラスミド(例えば、pSH19、pSH15)等が挙げられる。大腸菌を宿主とする場合は、λファージ系やM13ファージ系などのバクテリオファージがよく用いられる。また、動物細胞を宿主とする場合は、ベクターとして、SV40、パピローマウイルス、ワクシニアウイルス、レトロウイルス、バキュロウイルスなどのウイルスDNAを用いることができる。
さらに、宿主内で、本発明に係るタンパク質が効率よく発現されるよう、宿主に適した、プロモータ配列、エンハンサー配列、シャインダルガーノ配列、シグナル配列、ポリAシグナルなどを適宜選択し、ベクターに挿入することができる。
本発明に係るDNAの上記ベクターへの挿入は、例えば、制限酵素を用いてベクターを切断し、リガーゼ反応によって、DNAを該切断部位に連結することにより行うことができる。
【0016】
本発明は、上記本発明に係るベクターで形質転換させた形質転換体も含む。本発明の形質転換体は、本発明に係るDNAが挿入されたベクターに適した宿主を選択し、この宿主に前記ベクターを導入することにより得られる。宿主としては、例えば大腸菌や緑膿菌などのグラム陰性菌、枯草菌などのグラム陽性菌、放線菌、酵母、糸状菌、動植物培養細胞、昆虫培養細胞などが挙げられる。
ベクターの導入方法としては、宿主が大腸菌である場合には塩化カルシウム法、枯草菌を宿主とする場合にはコンピテントセル法や酢酸リチウム法、枯草菌、放線菌、酵母などにはプロトプラスト法、動植物細胞、酵母、細菌などに広く用いられる方法としてリン酸カルシウム共沈法、エレクトロポレーション法、DEAE−デキストランやポリブレンなどのポリマーと複合体を形成させる方法などから適宜選択することができる。カチオン性脂質のリポソームと複合体を形成させるリポフェクトアミン(Invitrogen社)を用いることもできる。
【0017】
本発明はまた、上記形質転換体を培養して、本発明に係るタンパク質を生成させることを特徴とする、タンパク質の製造方法も含む。形質転換体の培養は、宿主細胞の特性、発現するタンパク質の特性、プロモータの特性などにより選択することができ、例えばMEM培地、DMEM培地、Williams E培地(Gibco社)等の公知の培地を使用することができる。また、例えば抗生物質耐性を有するプラスミドを用いた場合は、当該抗生物質を培地に添加することにより目的タンパク質の発現を調節することができ、又ラクトース依存性プラスミドを使用した場合はIPTGを培地に添加して発現を誘導することができる。
このようにして得た形質転換体を培養して発現させた本発明に係るタンパク質は、通常のタンパク質の精製方法を用いて精製することができ、使用した発現系により、例えば各種クロマトグラフィー、限外濾過法、塩析、浸透圧ショック法、超音波処理などを組み合わせて精製することができる。クロマトグラフィー法としては、例えば、水溶液中で行うイオン交換クロマトグラフィー、ゲル濾過、疎水クロマトグラフィー、アフィニティークロマトグラフィー、有機溶媒を用いる逆相クロマトグラフィーなどが挙げられる。本発明はこれらの精製方法を用いて精製されたタンパク質も含む。
また、発現させたタンパク質は、精製前または精製後に適当なタンパク質修飾酵素を用いて修飾を加えたり部分的にペプチドを除去したりすることもでき、これらの修飾されたタンパク質も本発明に含まれる。タンパク質修飾酵素としては、トリプシン、キモトリプシン、プロテインキナーゼやグルコシダーゼなどが挙げられる。尚、当業者は、発現したタンパク質が遊離した状態であれば塩に、塩として得られた場合に遊離した状態に容易に変えることができる。
【0018】
本発明は、また、本発明に係るタンパク質または部分ペプチドに結合する抗体をも提供する。本発明にかかる抗体は、ASCLタンパク質、ASCLと機能的に同質なタンパク質、またはそれらの部分ペプチドに特異的に結合するものであればよく、ポリクローナル抗体であっても、モノクローナル抗体であってもよい。ヒト以外の哺乳動物を本タンパク質で免疫することによって得た抗体のほか、ヒト抗体や、遺伝子組換えにより得られた抗体も、本発明に係るタンパク質または部分ペプチドに特異的に結合する限り本発明に含まれる。本発明にかかる抗体は、自体公知またはそれに準じた方法により製造することができるが、以下に代表的方法を例示する。
まず、ポリクローナル抗体は、ASCLを用いて哺乳動物、好ましくはマウスやラット等のげっ歯目、ウサギ目、サルなどの霊長目の動物を免疫し、血清を得て、この血清をASCLまたは部分ペプチドを固定したアフィニティーカラムに通して精製することにより得ることができる。
またモノクローナル抗体は、まず同様に哺乳動物を免疫し、この動物から得た抗体産生細胞と、増殖力の強いミエローマ細胞とを融合させ、個々の融合細胞を分離し、求める抗体の生産能を検定することによって抗原の一つのエピトープに特異的に反応する抗体分子を1種だけ生産する細胞を選択し、この細胞を培養することによって製造することができる。またモノクローナル抗体は、モノクローナル抗体のアミノ酸配列をコードするDNAをベクターに挿入し、このベクターを宿主に導入して産生させて遺伝子工学的方法で得ることもできる。ヒト抗体遺伝子を導入したトランスジェニック動物を免疫すれば、ヒト抗体を産生することもでき、マウスのモノクローナル抗体の抗原結合部位をコードするcDNAとヒトのIgG遺伝子の定常部をコードする遺伝子を連結してこれをBリンパ球に導入すればキメラ抗体分子を生産させることも可能であり、これらの抗体も本発明に含まれる。本発明の抗体は、本発明に係るタンパク質または部分ペプチドを特異的に認識して結合する限り、フラグメントや修飾された抗体であってもよい。抗体のフラグメントとしては例えば、F(ab)、F(ab')2、Fcフラグメント、またはシングルチェインFvなどが挙げられ、修飾された抗体としては例えばポリエチレングリコールなどの化合物と結合された抗体などが挙げられる。本発明の抗体は、ASCLの精製や検出、定量に用いることができるし、またASCLの生物学的活性を亢進または抑制する作用を有する場合には、アゴニストまたはアンタゴニストとなりうる。
【0019】
本発明はまた、被検者から採取した試料からDNAを抽出する工程と、該DNA上で本発明に係るタンパク質またはその部分配列をコードする領域におけるメチル化の頻度を測定する工程と、を含む癌の診断方法をも提供する。上述のように、ASCL遺伝子では癌細胞においてメチル化の頻度が高いことが知られているので、メチル化の頻度を検出・定量することによって、そのサンプルが癌患者由来のものであるかどうかを判定することができる。例えば、被検者から採取したサンプルにおいて、メチル化の頻度が一定割合以上である場合や、頻度が健常者の平均値よりも高い場合に、その被検者は癌である、または癌の危険があるといった判断をすることができる。
【0020】
癌の診断のためにメチル化を検出するのに適した領域は以下の(i)〜(v)である。
(i)配列番号:2に記載のアミノ酸配列からなるタンパク質をコードするDNAを含む領域。
(ii)配列番号:1に記載の塩基配列を含む領域。
(iii)配列番号:2に記載のアミノ酸配列において1若しくは複数のアミノ酸が置換、欠失、挿入および/または付加されたアミノ酸配列を有し、配列番号:2に記載のタンパク質と機能的に同質のタンパク質をコードするDNAを含む領域。
(iv)配列番号:1に記載の塩基配列と相補的な塩基配列からなるDNAとストリンジェントな条件でハイブリダイズし、配列番号:2に記載のアミノ酸配列からなるタンパク質と機能的に同質のタンパク質をコードするポリヌクレオチドを含む領域。
(v)配列番号:3に記載の塩基配列からなる領域。
ここで、配列番号:3に示す塩基配列からなる領域は、ゲノムDNAを制限酵素NotIで切断した際に得られるNotIサイトであり、ASCLタンパク質のコード領域を完全に含む領域である。従って、被検者から採取したDNAをNotIで処理し、配列番号:3に記載の塩基配列からなる領域におけるメチル化を検出することにより、そのDNAが癌患者に由来するものかどうかを好適に判定することができる。また、メチル化の検出は、領域(i)〜(v)の一部であってもよい。
【0021】
DNAにおけるメチル化の頻度の測定は、自体公知の方法またはそれに準ずる方法を用いることができるが、Methylation Specific PCR法(以下、「MSP法」という。)またはBisulfite Sequencing法が好ましい。これらの方法は、BuisulfiteでDNAを処理するとシトシンがウラシルに変化するが、メチル化を受けたシトシンは構造上安定なため変化しないという事実に基づく方法である。Bisulfite処理によって、メチル化されたDNAは、メチル化されていないDNAと塩基配列において違いを生じる。
MSP法では、メチル化された配列に特異的なプライマーを用いてメチル化された領域だけを増幅し、検出する方法である。
一方、Bisulfite Sequencing法は、Bisulfite処理後の塩基配列を解析することによって、メチル化を検出する方法である。配列解析の方法は特に限定されず、マクサム・ギルバート法、ジデオキシ法等公知の方法によることができるが、例えばPyrosequencing法によれば、高精度に定量することができて好適である(Colella S. et al., BioTechniques 35: 146-150(July 2003))。
【0022】
なお、被検者から採取する試料は、特に限定されず、内視鏡やバイオプシーにより得られた組織の細胞や、痰、尿、便、血液などの体液等を用いることができる。
また本発明に係る診断方法が用いられる癌は、特に限定されず、例えば、脳腫瘍、頭頸部癌、食道癌、胃癌、大腸癌、肝癌、膵癌、肺癌、乳癌、皮膚癌、卵巣癌、前立腺癌、腎癌、膀胱癌、等が挙げられる。なお、本発明者らはHCCセル・ラインを用いてASCLの機能を解明したが、例えば、SOCS−1遺伝子におけるメチル化が、肝癌、リンパ腫、膵癌、胃癌で見られるように、メチル化は各種の癌に共通する現象であることが知られている(例えば、Esteller M, et al., Cancer Research 2001, Apr 15;61(8):3225-9を参照)。
【0023】
上記診断方法では、ASCL遺伝子のメチル化と同時に、被検者から採取したDNAのASC遺伝子におけるメチル化も併せて検出・定量することが好ましい。本発明者らの知見によれば、ASCL遺伝子のメチル化は、原発性HCCよりも培養細胞において高い頻度で生じていた。しかしながら、原発性HCCサンプルであっても、ASCL遺伝子またはASC遺伝子のいずれかで異常なメチル化が起きているものは50%以上にのぼった。このことから、ASC遺伝子のメチル化を併せて検出することによって、原発性HCCの遺伝的素因も判定することが可能となる。
原発性ASC遺伝子におけるメチル化も、上述したASCL遺伝子と同様の方法で検出または定量することができる。
【0024】
また、本発明に係る癌の診断方法は、被検者から採取した試料中に含まれるASCLタンパク質等をコードするDNAの発現を検出および/または定量する工程と、これを健常者における場合とを比較して、DNAの発現が低下している場合に被検者が癌であると判定する工程と、を含む。
本発明者らは、上述のように、ASCLタンパク質をコードするDNAにおいてメチル化が生じると、ASCLの発現が低下することを見出した。したがって、この発現を検出および/または定量することによって、その被検試料が癌患者由来のものであるかを検知することができる。なお、本明細書において「ASCLタンパク質をコードするDNAの発現」は、転写および翻訳の双方を含み、mRNAの発現を検出・定量してもよいし、ASCLタンパク質の発現を検出・定量しても良い。
被験者から採取する試料、および本診断法方が用いられる癌疾患は、上述したDNAのメチル化の検出・定量工程を含む診断方法と同様であり、ここでは説明を省略する。
【0025】
また、本発明は、ASCLタンパク質またはその部分ペプチドに結合する抗体を含む癌の診断用キットも提供する。かかる抗体と、抗体とASCLタンパク質またはそのペプチドとが結合したことを検出する手段があれば、被検試料中から当該タンパク質またはペプチドを検出することができる。例えば、本発明に係る診断用キットは、ASCLに結合する第一の抗体を固定した固相担体と、標識化されたASCLタンパク質に結合する第二の抗体と、を含む。第一の抗体を固定した固相担体と、被検者から採取し検出用に希釈等の処理をした資料とを接触させてインキュベートし、これと同時に、またはインキュベート後に第二の抗体を反応させて標識化合物を活性化することにより、タンパク質を検出・定量することができる。
標識としては、放射性同位元素、酵素、蛍光物質、発光物質等が挙げられるが、これらに限定されない。
【0026】
本発明は、ASCLタンパク質またはその部分ペプチドをコードするDNA若しくはその相補鎖の全部または一部に相補的なポリヌクレオチドを含む癌診断用キットも提供する。かかるポリヌクレオチドと、被検試料とを接触させてインキュベートして、該ポリヌクレオチドとハイブリダイズするポリヌクレオチドの有無を検出することによって、ASCLまたはその部分ペプチドをコードするDNA、またはそのDNAから発現したmRNAを検出・定量することができ、この結果を癌の診断に用いることが可能である。
具体的には、ASCLタンパク質またはその部分ペプチドをコードするDNA若しくはその相補鎖の全部または一部に相補的なポリヌクレオチドをプローブとして用いたノーザンハイブリダイゼーションを行ったり、プライマーとしてPCR反応に用い、増幅されたDNAを検出・定量法に供することができる。
【0027】
また、本発明は、ASCLをコードするDNAの発現を亢進または抑制する化合物のスクリーニング方法をも提供する。該方法は、被検化合物を被検細胞に添加する工程と、被検化合物を添加する前後における、ASCLをコードするDNAの発現量の変化をモニターする工程とを含む。
本発明者らは、ASCLによる細胞増殖抑制作用にアポトーシスが関与していることを見出した。従って、ASCLの発現を亢進または抑制する作用を有する化合物は、細胞のアポトーシスの制御に用いることのできる可能性があり、ひいては、癌の治療薬や予防薬としての機能を有する可能性もある。被検細胞は、ASCLをコードするDNAを有する細胞であればよく、特に種類は限定されない。また、DNAの発現は、上述した診断方法に用いられる方法と同様の方法を用いることができ、ここでは説明を省略する。
【0028】
以下に示す本発明の参考例、実施例、試験例は例示的なものであり、本発明は以下の具体例に制限されるものではない。
【0029】
なお、以下の実施例では、ヒトHCCのcell lineとして、東北大学加齢医学研究所よりHep3B、HT17およびLi-7を、永森静志氏よりHLC4を、Japanese Culture Collection よりHuH1、HuH4、およびHuH7を、また、財団法人癌研究会癌研究所病理部よりHuH2、PLC/PRF/%、Kim1を入手した。また、原発性HCCサンプルおよび隣接する正常肝組織は、財団法人癌研究会の癌研究会付属病院において、インフォームドコンセントの下に患者から提供されたものを用いた。
【実施例1】
【0030】
(ASCLのクローニング)
ヒトHCCのcell lineを用いたrestriction landmark genomic scanning (RLGS)解析で27%の異常が確認された(Nagai H, et al. Cancer Res 1994;54:1545-50、Yoshikawa H, et al. Genomics 1996;31:28−35、Yoshikawa H, et al. Gene 1997;197:129-35)NotIによるフラグメントをクローニングした。BLAST検索により、cDNAクローンであるZD54H05(Genebank accession number AF086332)がCpGリッチな領域に存在し、NotI領域を含むことがわかった(図1A)。
【0031】
ASCLの完全長cDNAをプローブとして、ヒト脾臓、脳、肝臓、胎盤(BD Biosciences)から得たpoly(A)+RNAを用い、Yoshikawa H, et al Genomics 1998;49:237-46の方法に従って、ノーザンブロッティングを行った。この結果、約0.5kb長のmRNAが得られ、これはcDNAの長さ(556bp)に一致した(図1B)。このRNAの発現は、肝臓、脾臓、脳で確認されたが胎盤では見られなかった。cDNA配列は、open reading flame (ORF)を含み、該ORFの5'末端には、in flameの終止コドンが存在した。これらの結果から、ZD54H05は89アミノ酸からなるタンパク質をコードする完全長の転写物であることが確認された。
【0032】
cDNAとゲノムDNAとの比較から、完全長転写物は、二つのエクソンからなり、コード領域は最初のエクソンのみに含まれることがわかった。また、このタンパク質は、ASCのpyrinドメイン高い相同性を示した(図1C)。ASCLはpyrinドメインのみからなるが、ASCは、CARDドメインも含む(図1D)。
【実施例2】
【0033】
(ASCL遺伝子のメチル化と、HCC cell lineにおける発現抑制)
ASCLのメチル化をMSP法により検出した。MSP法は、Herman JG, et al. Proc Natl Acad Sci USA 1996;93:9821-6の方法に従ってBisulfite処理を行った後、配列番号:4および5に記載の塩基配列を有するプライマーをメチル化領域特異的プライマーとし、配列番号:6および7に記載の塩基配列を有するプライマーを非メチル化領域特異的プライマーとして、Conway KE, et al. Cancer Res 2000;60:6236-42の方法に従って行った。その結果、10のcell lineのうち、8 cell lineでメチル化が確認された(図1E)が、対照的に、正常肝サンプルでは確認されなかった。すべてのHep3Bを除くすべてのcell lineで、完全なメチル化が生じていた。
【0034】
次に、Bisulfite Sequencing法によりメチル化が生じている部位を詳細に解析した。Bisulfite処理後、配列番号:8に示すASCL遺伝子のCpGリッチ領域を、配列番号:9(forward)および10(reverse)をプライマーとして増幅した。PCR産物をクローニングし、それぞれのサンプルについて任意の8つのクローンの塩基配列を解析した。この結果、HuH2およびLi-7は39CpG領域においてほとんど完全にメチル化されているが、癌でない肝細胞ではほとんどメチル化が生じていなかった(図1F)。この結果、HCC cell lineにおいて、ASCL遺伝子は、高頻度かつ高密度にメチル化されていることがわかった。
【0035】
続いて、RT-PCR法により、HCC cell lineにおけるASCL遺伝子の発現を解析した。RNeasy Mini Kit (Qiagen)を用いて、HCC cell lineから全RNAを抽出し、正常肝全RNA(Ambion)を入手した。cDNAはSuperscript Preamplification System(Invitrogen)を用い、3μgの全RNAの逆転写により調製した。ASCL増幅には、配列番号:11および12に記載の塩基配列を持つプライマーを使用した。その結果、メチル化されていないcell line(Huh7およびPLC/PRF/5)および正常肝サンプルではASCLの発現が見られた。しかし、メチル化されたcell lineでは発現が見られず(図1G)、ASCL発現はASCL遺伝子のメチル化と相関性を有することが確認された。メチル化による発現抑制をさらに確かめるため、1μMの5-aza-2'-deoxycytidin(脱メチル化剤)で4日間処理したところ、実験に用いた3つのHCC cell line全てにおいて、ASCL遺伝子の再活性化が見られた(図1H)。部分的にメチル化されたHep3Bにおいても再活性化が起きた。これらの結果から、ASCL遺伝子の発現抑制は、CpGアイランドの異常なメチル化が関与していることが示唆された。
【0036】
原発性HCCサンプルにおいても、MSP解析により23.5%において異常なメチル化が見られた。
【実施例3】
【0037】
(ASCLによる細胞増殖抑制)
ヒト肝臓RNA(BD Biosciences)から完全長ASCLcDNAを単離し、配列番号:13および14に記載のプライマーペアを用いてPCRで増幅し、これをpcDNA3.1/HisCベクター(Invitrogen)に挿入した。ASCcDNAは、配列番号:15および:16に記載のプライマーペアを用いて、RT-PCRにより増幅し、Xpress-tagをHA-tagに置き換えるよう修飾したpcDNA3.1ベクターに挿入した。これらのベクターを用いて細胞を形質転換し、G418で4週間培養した。
【0038】
この結果、ASCLが過剰発現した細胞においては、細胞(HuH2)の増殖が著しく抑制されることが確認された(図2A)。増殖抑制は、Li-7細胞でも抑制された。
【0039】
また、アポトーシスを検出するため、annexin V-Cy3 apoptosis detection kit(MBL)を用いた。形質転換細胞を、Cy3で標識されたannexin-V溶液とともにインキュベートし、Binding Bufferで洗浄して結合しなかったannexin-Vを除去した。細胞は2%のパラホルムアルデヒドで固定し、0.1%Triton X-100で処理した後、anti-Xpress antibody (Invitrogen)と共にインキュベートして、続いて二次抗体(Jackson Immunorsearch)で標識したFITCとインキュベートした。細胞を、DAPI(Vector Laboratory)を含むマウント液に移し、共焦点顕微鏡で観察した。
【0040】
この結果ASCL発現細胞は、annexin-Vと膜の結合が観察された(図2B)。
【0041】
さらに、Yoshikawa H, et al. Na Genet 2001;28:29-35の方法に従って、ウェスタンブロッティングを行った。抗caspase-3抗体およびβ-actin抗体はSanta Cruz Biotechnology とSigmaからそれぞれ入手した。
【0042】
この結果、ASCLの過剰発現は、procaspase-3を切断し、caspase-3を活性かすることが確認された(図2C)。この活性化は、一般的なcasepase阻害剤Z-VAD-FMKにより阻害された。
【0043】
以上の結果は、ASCLがアポトーシスに関連する方法で、細胞の増殖抑制に関与することを裏付けた。
【実施例4】
【0044】
(HCCにおけるDNAのメチル化とASCの発現抑制)
ASCLとASCは、そのゲノム上の位置づけと、pyrin domainの相同性から密接に関連するものと考えられる。そこで、HCCにおけるASC遺伝子のメチル化と発現を解析した。10のHCC cell lineのうち、7つ(HuH2、HuH4、HuH7、Li-7、PLC/RPF/5、Kim1およびFLC4)がメチル化を受けていた(図3A)。対照的に、残りの3つのcell lineと正常肝サンプルでは、メチル化は検出されなかった。発現解析では、完全にメチル化されているcell line(HuH2、PLC/PRF/5およびFLC4)では、まったく発現せず(図3B)、これらのcell lineでは、DNAのメチル化に関連してASC遺伝子が不活化されていることが示唆された。部分的にメチル化を受けたcell lineでは、ASC遺伝子の発現が見られ、メチル化を受けていない対立遺伝子が活性を有するものと考えられた。
【0045】
原発性HCCでは、17サンプルのうち6つでASC遺伝子のメチル化が見られ、非癌肝サンプルでは、メチル化は見られなかった(図3C)。
【実施例5】
【0046】
(ASCLの免疫学的特性)
ASCL遺伝子またはASC遺伝子を含むベクターで形質転換した細胞を3%パラホルムアルデヒドで固定し、0.1%Triton X-100で処理した。マウス抗Xpress (Invitrogen)抗体および、ウサギ抗HA (Santa Cruz Biotechnology, Inc)抗体を使用して、Xpress標識されたASCLおよび、HA標識されたASCを検出した。
【0047】
細胞はCy3またはFITCで標識した二次抗体(Jackson Immunoresearch)とインキュベートし、DAPI染色して共焦点顕微鏡で観察した。Speck陽性細胞または多核細胞の解析のため、ASCLおよび/またはASCを発現する200の細胞を観察した。
【0048】
この結果、ASCLは、HuH2細胞を形質転換した発現細胞において、その30%で小さなspeck様の染色を示した(図4A)。これらのspeckは、核とサイトゾルで観察された。
【0049】
ASCは、HL60およびHela細胞における場合と同様に(Masumoto J, et al. J Biol Chem 1999;274:33835-8、McConnell BB, et al. Cancer Res 2000;60:6243-7、Richards N, et al. J Biol Chem 2001;276:39320-9)、HuH2細胞においてもspeckを形成した(図4B)。
【0050】
ASCLとASCとを共発現させると、ASC特異的speckがサイトゾルに出現し、ASCLはASC特異的speckにおいてASCと共在することが判明した(図4C)。ASC特異的speckが現れた細胞の頻度は、ASC単独で発現させた場合(18%)と、ASCとASCLを共発現させた場合(17%)においてほぼ同等であった。
【0051】
また、ASCLまたはASC遺伝子で形質転換した細胞においては、多核細胞が増加していることが確認された(図4D、E)。多核細胞の頻度は、ASCLで12%、ASCで5%、コントロールで1%であった。
【0052】
一方、ASCのspeckは一細胞あたり一つなのに対して、ASCLのspeckは、ASCのspeckより小さなサイズのものが一細胞に複数出現した。また、ASCLのspeckはある細胞では核とサイトゾルの両方(図4F−a)に、ある細胞では核のみに(図4F−b)、またある細胞ではサイトゾルのみに(図4F−c)出現したが、ASCのspeckにはこのような動きは見られず、常に核とサイトゾルの両方に見られた(図4G)。
【図面の簡単な説明】
【0053】
【図1】図1は、ASCL遺伝子の概要を示す。図1Aは、ASCL遺伝子の構造を示す。上のラインはゲノム配列(Genbank accession number AC009088)を示し、ボックスはASCL遺伝子のエクソンであり、黒のボックスがコード領域を表す。RLGS解析で確認されたNotI部位は、ASCL遺伝子のエクソン2から約1kb下流に存在した。CpG配列は中央のボックスのバーで表されている。ASCL遺伝子全体およびNotI部位は、わずか100bpのギャップを隔てた2つのCpGアイランドからなるCpG領域内に存在した。三角の矢印はそれぞれRT-PCRおよびMSP法に用いられたプライマーペアを示す。 図1Bは、様々な器官におけるASCL遺伝子の発現の様子を示す。正常組織からのポリ(A)+RNAは、ASCL遺伝子特異的プローブとハイブリダイズさせた。約0.5kbのバンドが検出された。スタンダードにはβアクチンプローブを用いた。 図1Cは、ASCLタンパク質のアミノ酸配列と、ASCのpyrinドメインの配列を示す。ASCLタンパク質は89のアミノ酸からなり、ASCのpyrinドメインに相同性が高い。「*」および「:」は、ASCLとASCがidenticalまたはsimilarな塩基をそれぞれ有する部位を表している。 図1Dは、ASCLおよびASCのドメイン構造を示す。ASCLはpyrinドメインのみからなり、ASCはpyrinドメインとCARDドメインの両方を有する。 図1Eは、HCCにおけるメチル化により不活化されたASCL遺伝子を示す。10のHCCと1つの非癌肝サンプルを用いて、翻訳開始領域付近でデザインしたプライマーによるMSP解析を行った。目視できるMレーンのバンドは、メチル化特異的プライマーによる130bpのDNA産物であり、Uレーンのバンドは、非メチル化特異的プライマーによる134bpのDNA産物である。 図1Fは、ASCL遺伝子のBisulfite sequence解析の結果である。翻訳開始領域が「0」で示されている。2つのHCC cell line (HuH2およびLi-7)と2つの非癌肝サンプルで、ゲノム領域の-58〜348における39のCpG領域におけるメチル化の状態を検出した。各サンプルにつき8つのクローンについて塩基配列を解析した。黒の円はメチル化、白の円は非メチル化を示す。MSPプライマーの位置も示されている。 図1Gは、HCC cell lineのRT-PCRの結果を示す。10のHCC cell lineと1の正常肝サンプルに由来する全RNAサンプルを、ASCL特異的プライマーを用いたRT-PCR法で解析した。増幅産物は328bp(上図)であった。GAPDH増幅によりRT-PCRの結果と矛盾がないことを確認した(下図)。 図1Hは、メチル化阻害剤による再活性化を示す。3つのメチル化されたcell line(HuH2、Li-7、Hep3B)を5Aza-dCで処理して、または処理せずに、ASCL遺伝子の発現をRT-PCRにより解析した。 図1Iは、原発性HCCサンプルのMSP解析の結果を示す。ASCL遺伝子のメチル化は、17の原発性HCCサンプルを用いて解析した。6つのサンプルをペアにし(癌/非癌)、残り11のサンプルは癌サンプルのみ解析した。「C」は癌サンプル、「N」は非癌サンプルを表す。レーン18は、メチル化DNAのポジティブコントロールである。4つのサンプル(レーン3、14、15および17)が異常なメチル化を示した。
【図2】図2はASCLの細胞増殖抑制実験の結果を示す。 図2Aはコロニー形成アッセイの結果である。メチル化により不活化された細胞(HuH2)を、ASCL遺伝子を含むまたは含まないベクターで形質転換し、G418で4週間選択した。 図2Bは、ASCLのアポトーシスを示す。メチル化により不活化された細胞を、ASCL発現ベクターでトランジェントに形質転換した。(a)は免疫染色により検出した結果である。(b)はCy3で標識されたannexin-Vを資格化したアポトーシスを起した細胞を示す。(c)は、ASCLによるカスパーゼ3の活性化を示す。HuH2細胞をASCL遺伝子発現ベクターまたはコントロールのベクターでトランジェントに形質転換し、pan-caspase阻害剤であるZ-VAD-FMKとインキュベートした。cell lysateを用いてSDS-PAGEを行い、図中に示された抗体によってイムノブロッティングを行った。抗カスパーゼ3抗体によるイムノブロッティングで、カスパーゼ3(20kDa)の結合が確認された。
【図3】図3は、HCCにおけるASC遺伝子のメチル化による不活性化を示す。 図3Aは、HCC cell lineのMSP解析を示す。図1Eと同様のサンプルを用いた。Mレーンのバンドは、メチル化特異的プライマーによる191bpのDNA産物であり、Uレーンのバンドは、非メチル化特異的プライマーによる196bpのDNA産物である。 図3Bは、HCC cell lineのRT-PCR解析結果を示す。図1Gと同様のサンプルを用い、ASC特異的プライマーを使用した。増幅されたASC産物は、411bpであった。 図3Cは、原発性HCCサンプルのMSP解析の結果を示す。図1Iと同様のサンプルを用いた。「C」は原発性HCCサンプルを、対応する「N」は非癌サンプルを示す。レーン18はメチル化DNAのポジティブコントロールであり、6つのサンプル(レーン6、11、12、13、16、17)で異常なメチル化が観察された。
【図4】図4はASCLおよびASCの免疫蛍光解析の結果を示す。 図4Aは、ASCL形質転換細胞で、ASCLタンパク質が多くの小さなSpeckを形成した様子を示す。 図4Bは、ASC形質転換細胞で、ASCタンパク質が単一の大きなSpeckを形成した様子を示す。 図4Cは、ASCLおよびASCの共在を示す。細胞をASCL発現ベクターおよびASC発現ベクターでトランジェントに共形質転換した。ASCL(赤)はASC(緑)とSpeck内で共在した。 図4Dは、多核化細胞(緑)をASCLで形質転換した結果を、図4EはASCで形質転換した結果を示す。 図4Fは、様々な細胞内におけるASCLの局在パターンを観察したものである。(a)ではASCL(赤)は核およびサイトゾルの両方に、(b)では核のみに、(c)ではサイトゾルのみに局在していた。一方、ASC(緑)は、核およびサイトゾルの両方に局在していた。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
下記(a)〜(d)のいずれかに記載のDNA。
(a)配列番号:2に記載のアミノ酸配列からなるタンパク質をコードするDNA。
(b)配列番号:1に記載の塩基配列のコード領域を含むDNA。
(c)配列番号:2に記載のアミノ酸配列において1若しくは複数のアミノ酸が置換、欠失、挿入および/または付加されたアミノ酸配列を有し、配列番号:2に記載のタンパク質と機能的に同質のタンパク質をコードするDNA。
(d)配列番号:1に記載の塩基配列と相補的な塩基配列からなるDNAとストリンジェントな条件でハイブリダイズし、配列番号:2に記載のアミノ酸配列からなるタンパク質と機能的に同質のタンパク質をコードするDNA。
【請求項2】
配列番号:2に記載のアミノ酸配列からなるタンパク質の部分ペプチドをコードするDNA。
【請求項3】
請求項1または2に記載のDNAによりコードされるタンパク質またはペプチド。
【請求項4】
請求項1または2に記載のDNAを含有するベクター。
【請求項5】
請求項4に記載のベクターを含む形質転換体。
【請求項6】
請求項5に記載の形質転換体を培養し、発現したタンパク質またはペプチドを回収する工程を含む、請求項3に記載のタンパク質またはペプチドの製造方法。
【請求項7】
請求項3に記載のタンパク質または部分ペプチドに結合する抗体。
【請求項8】
被検者から採取した試料からDNAを抽出する工程と、
該DNA上の下記(i)〜(v)のいずれかに記載の領域におけるメチル化の頻度を測定する工程と、を含む癌の診断方法。
(i)配列番号:2に記載のアミノ酸配列からなるタンパク質をコードするDNAを含む領域。
(ii)配列番号:1に記載の塩基配列を含む領域。
(iii)配列番号:2に記載のアミノ酸配列において1若しくは複数のアミノ酸が置換、欠失、挿入および/または付加されたアミノ酸配列を有し、配列番号:2に記載のタンパク質と機能的に同質のタンパク質をコードするDNAを含む領域。
(iv)配列番号:1に記載の塩基配列と相補的な塩基配列からなるDNAとストリンジェントな条件でハイブリダイズし、配列番号:2に記載のアミノ酸配列からなるタンパク質と機能的に同質のタンパク質をコードするDNAを含む領域。
(v)配列番号3に記載の塩基配列からなる領域。
【請求項9】
さらに、前記被検者から採取した試料から抽出されたDNA上の、ASCタンパク質のコード領域におけるメチル化の頻度も測定する、請求項8に記載の方法。
【請求項10】
前記メチル化の頻度を測定する工程が、Methylation Specific PCR法である、請求項8または9に記載の方法。
【請求項11】
前記メチル化の頻度を測定する工程が、Bisulfite Sequencing法である、請求項8または9に記載の方法。
【請求項12】
被検者から採取した試料中における請求項1に記載のDNAの発現を検出および/または定量する工程と、
これを健常者における場合と比較して、該DNAの発現が低下している場合に被検者が癌であると判定する工程と、を含む癌の診断方法。
【請求項13】
下記(a)または(b)を含む癌の診断用キット。
(a)請求項3に記載のタンパク質またはペプチドに結合する抗体。
(b)請求項1または2に記載のDNA若しくはその相補鎖の全部または一部に相補的なポリヌクレオチド。
【請求項14】
請求項1に記載のDNAの発現を亢進または抑制する化合物のスクリーニング方法であって、
細胞に被検化合物を添加する工程と、
前記被検化合物の添加の前後における、前記細胞内での請求項1に記載のDNAの発現の変化を検出および/または定量する工程と、を含む方法。


【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【公開番号】特開2006−61002(P2006−61002A)
【公開日】平成18年3月9日(2006.3.9)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2004−219993(P2004−219993)
【出願日】平成16年7月28日(2004.7.28)
【出願人】(504287767)住商バイオサイエンス株式会社 (1)
【Fターム(参考)】