説明

新規のイオン性液体

アニオンとしてポリエーテルカルボキシレートを含有する新規のイオン性液体、その製造法ならびにその使用。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
発明の詳細な説明
本発明は、アニオンとしてポリエーテルカルボキシレートを含有する新規のイオン性液体、その製造法ならびにその使用に関する。
【0002】
イオン性液体とは、当業者により、もっぱらイオンのみから成っており、かつ100℃未満の融点を有する液体と解される。イオン性液体の典型的なカチオンの例は、テトラアルキルアンモニウムカチオン、テトラアルキルホスホニウムカチオン、ジアルキルイミダゾリウムカチオンまたはアルキルピリジニウムカチオンを包含し、かつ典型的なアニオンの例は、トリフルオロメタンスルホネート、テトラフルオロボレート、アルキルスルホネートまたはビス(トリフルオロメチルスルホニル)イミド)を包含する。近年、イオン性液体は一層重要性を増してきている。それらは、例えば溶媒として、熱媒体として、電池における、二重層キャパシタにおける、太陽電池における電解質としての使用のために、あるいは抽出処理または分離処理における使用のために提案されている。イオン性液体に関する概観は、例えばP.Wasserscheid,W.Keim,Angew.Chem.2000,112,3926 bis 3945の中で、または"Ionic Liquids",Ullmann's Encyclopedia of Industrial Chemistry,Electronic Release,7th Edition,Wiley−VCH,Weinheim,New York 2007の中で見出される。
【0003】
WO2005/070896およびWO2007/057403は、イオン性液体のアニオンとしてアニオンRa−S-の使用を開示する。この際、S-は、種々の酸基、例えばスルホン酸塩、亜硫酸塩、ホスホン酸塩、亜リン酸塩またはカルボキシル基であってよい。基Raは、多数の非常に異なる、場合によっては置換された炭化水素基であってよく、そのなかでもアルキルエーテル基またはアルキルポリエーテル基であってもよい。基Rとして、具体的には5−メトキシ−3−オキサペンチル、8−メトキシ−3,6−ジオキサオクチル、11−メトキシ−3,6,9−トリオキサウンデシル、7−メトキシ−4−オキサヘプチル、11−メトキシ−4,8−ジオキサウンデシル、15−メトキシ−4,8,12−トリオキサペンタデシル、9−メトキシ−5−オキサノニル、14−メトキシ−5,10−オキサテトラデシルならびに相応するエトキシ誘導体およびヒドロキシ誘導体が開示される。しかしながら、これらの基と特定の酸基および特定のカチオンとの特別な組み合わせは開示されない。
【0004】
US5,233,087は、一般式RO(CH2CH2O)xCH2COO-+のアルキルポリエトキシカルボキシレートを開示し、その際、RはC8〜C18−アルキル基であり、xは1〜15の数であり、かつMはアルカリ金属イオンまたはアルカリ土類金属イオンである。アルキルエトキシカルボキシレートは、相応するアルコールRO(CH2CH2O)xHとクロロ酢酸との反応によって得られる。それらは水溶液中での界面活性剤として使用される。
【0005】
EP716072A1は、一般式RO(AO)nCH2COO-+の濃縮された流動性のポリエーテルカルボキシレートを開示し、その際、RはC8〜C24−アルキル基またはC原子9〜24個を有するアルキル置換アリール基、nは1〜15の数、AはC2〜C5ーアルキレンであり、かつMはアルカリ金属イオン、12アルカリ土類金属イオン、アンモニウムイオンまたは置換されたアンモニウムイオンである。それらは洗剤および洗浄剤分野における分散剤および乳化剤として使用することができる。
【0006】
アルキルポリエーテルカルボキシレートを基礎とする界面活性剤の別の例を、WO97/28238またはDE102004027329A1が開示する。アルキルポリエーテルカルボキシレートを基礎とする界面活性剤は、例えば商標Akypo(R)で市販もされている。しかし上記文献のいずれも、イオン性液体中でのこの種のアルキルポリエーテルカルボキシレートの使用を開示しない。
【0007】
イオン性液体がカチオンおよびアニオンのみから成るという事実は、その無類の特性を根拠づける。それらはなかでも非常に低い蒸気圧を有し、多数の有機材料および無機材料を溶解することができ、かつ高い温度安定性によって際立っている。イオン性液体の物理的および化学的な特性、例えば融点、熱安定性、粘度、伝導性、溶媒和強さ、溶解度特性、酸性および配位能力は、使用されるイオンによって決定され、すなわち、それらはカチオンおよびアニオンの選択によって幅広い範囲内で目的に合わせて変化され得、かつ、そのつどの使用に適合させることができる。
【0008】
イオン性液体は、今では商業的にも入手される。全ての処理のために適しているイオン性液体を提供するために、新しいイオン性液体を合成することが非常に重要である。それゆえ本発明の課題は、新規のイオン性液体を提供することであった。
【0009】
それに応じて、100℃未満の融点を有する一般式1n[Xn+][Y-]のイオン性液体が見出され、その際、nは1、2または3であり、かつ、その際
・カチオンXn+は、金属イオン、第四級アンモニウムイオン、オキソニウムイオン、スルホニウムイオンまたはホスホニウムイオンの群から選択されたカチオンであり
・アニオンY-は一般式(II)
6O−(R7−O−)x−R8−COO- (II)、
[式中、
・xは2〜8の数であり、
・R6は、炭素原子1〜3個を有する分枝鎖または非分枝鎖の炭化水素基であり、
・基R7はそれぞれ互いに無関係に、炭素原子2〜4個を有する分枝鎖または非分枝鎖のアルキレン基であり、かつ
・R8は、炭素原子1〜4個を有する分枝鎖または非分枝鎖のアルキレン基であり、
その際、基R6、R7およびR8の中で、それぞれ水素原子は全体的にまたは部分的にフッ素によって置換されていてもよい]を有する。
【0010】
本発明に関して、後に述べるところで詳細に説明する。
【0011】
"イオン性液体"とは、以下で通常の意味において、もっぱらカチオンおよびアニオンのみから構成されている、100℃未満の融点を有する、溶媒不含の、殊に水不含の組成物と解される。
【0012】
本発明によるイオン性液体は、一般式12[Xn+][Y-]を有する。
【0013】
カチオンXn+について、nの数は1、2または3、有利には1または2および特に有利には1である。
【0014】
カチオンは、一方では金属イオン、殊にアルカリ金属イオンまたはアルカリ土類金属イオンであってよい。有利な金属イオンの例は、Li+、Na+、K+、Be2+、Mg2+およびCa2+を包含する。特に有利なのはNa+およびK+であり、かつ極めて有利なのはNa+である。
【0015】
さらにカチオンXn+は、第四級アンモニウムカチオン、オキソニウムカチオン、スルホニウムカチオンまたはホスホニウムカチオンであってよい。イオン性液体中で使用するためのこの種類の適したカチオンは当業者に、例えばWO2007/057235、第4頁、第13行目〜第18頁、第38行目から公知である。当業者は、イオン性液体の所望の特性に従って適切に選択する。
【0016】
有利には、カチオンはアンモニウムイオンである。これはNH4+または脂肪族または芳香族のアミン、例えば窒素複素環のアンモニウムイオンであってよい。この種の化合物の例は、殊にWO2007/057235、第5頁、第14行目〜第7頁、第20行目の中で挙げられている。
【0017】
この際、本発明の実施に有利なのは、式(Ia)、(Ib)および(Ic)のアンモニウムイオン
【化1】

である。
【0018】
さらに本発明の有利な実施態様は、一般式(Id)のホスホニウムイオンならびに一般式(Ie)のスルホニウムイオン
【化2】

を包含する。
【0019】
上記式(Ia)〜(Ie)の中で、基RならびにR1〜R5は互いに無関係に、それぞれ水素または飽和または不飽和の、非環式または環式の、脂肪族、芳香族または芳香脂肪族の炭素原子1〜20個を有する炭化水素基であり、その際、該基の中で、隣接しない炭素原子は酸素原子および/または窒素原子によっても置換されていてよく、または該基は官能基で置換されていてよい。有利には、炭化水素基は、場合により上記のように置換されていてよい不飽和脂肪族炭化水素基である。基Rは、そのつど有利には水素、メチルまたはエチルおよび特に有利には水素である。
【0020】
炭化水素基中の官能基として、原則的に、炭素原子に結合していてよい全ての官能基が考慮に入れられる。適した例として、−OH(ヒドロキシ)、=O(殊にカルボニル基として)、−NH2(アミノ)、=NH(イミノ)、−COOH(カルボキシ)、−CONH2(カルボキサミド)、−SO3H(スルホ)および−CN(シアノ)ならびにフッ素、塩素、臭素およびヨウ素が挙げられる。有利な官能基は−OHまたは−COOHである。
【0021】
炭化水素基中で、隣接しない炭素原子がヘテロ原子によって置換されている場合、これは有利には酸素原子である。つまり換言すれば−一般に置換基が存在する場合−エーテル基−O−、ヒドロキシ基−OHおよび/またはカルボキシル基−COOHを有する基が有利である。
【0022】
式(Ia)の有利なアンモニウムイオンは、Rが水素、R1が直鎖または分枝鎖の、有利には直鎖の、C原子1〜20個、有利にはC原子4〜20個、特に有利にはC原子6〜20個および極めて有利にはC原子8〜20個を有するアルキル基であり、かつR2およびR3が互いに無関係に、それぞれ水素、メチルまたはエチル、有利には水素またはメチルであるものを包含する。基R1の長さにより、イオン性液体の特性、例えばその融点が制御され得る。
【0023】
さらに有利なアンモニウムイオン(Ia)は、少なくとも1個の基R、R1、R2またはR3が、炭素原子1〜20個、有利には炭素原子2〜20個を有し、OH基、有利には末端に配置されたOH基で置換されている基のものである。有利には、モノ−、ジ−またはトリエタノールアンモニウムイオン、例えばHO−CH2−CH2−NH3+、(HO−CH2−CH2−)2NH2+、(HO−CH2−CH2−)3NH+またはHO−CH2−CH2−N(CH33+(コリン)であってよい。該基は、任意に別の置換基、殊に−COOHを包含してよい。一例は、カルニチン(H3C)3+−CH2−CH(OH)−CH2−COO-を包含する。
【0024】
有利なピリジニウムイオン(Ib)およびイミダゾリウムイオン(Ic)は、基RおよびR1〜R4もしくはR5の少なくとも1個が、直鎖または分枝鎖の、有利には直鎖の、C原子1〜20個、有利にはC原子4〜20個および特に有利にはC原子6〜20個を有するアルキル基であり、残りの基がそれぞれ互いに無関係に水素、メチルまたはエチル、有利には水素またはメチルであるものを包含する。
【0025】
アニオンYm-は、本発明により一般式(II)
6O−(R7−O−)x−R8−COO- (II)
を有する。基R6は、C原子1〜3個を有する直鎖または分枝鎖の炭化水素基であり、その際、水素原子は全体的にまたは部分的にフッ素によって置換されていてもよい。有利には、それはメチル、エチル、n−プロピルまたはi−プロピルの群から選択されたアルキル基である。有利には、メチル基またはエチル基および極めて有利にはメチル基である。
【0026】
基R6は、式−R7−O−のx アルコキシ基を介して−R8−COO-と結合されており、その際、アニオン中のアルコキシ基は同じまたは異なっていてよい。
【0027】
基R7は、炭素原子2〜4個を有するアルケニル基であり、その際、水素原子は全体的にまたは部分的にフッ素によって置換されていてもよい。R7の例は、1,2−エチレン基−CH2−CH2−、1,2−プロピレン基−CH2−CH(CH3)−、1,3−プロピレン基−CH2−CH2−CH2−、1,4−ブチレン基−CH2−CH2−CH2−CH2−または1,2−ブチレン基−CH2−CH(C25)−を包含する。有利には、1,2−エチレン基−CH2−CH2−および/または1,2−プロピレン基−CH2−CH(CH3)−および特に有利には1,2−エチレン基−CH2−CH2−である。有利には、アルキレン基の少なくとも50%は1,2−エチレン基である。分枝鎖アルキレン基である限りは、これらは示された配向または逆の配向でアニオン中に組み込まれていてもよい。
【0028】
基R8は、炭素原子1〜4個を有する直鎖または分枝鎖のアルキレン基であり、その際、水素原子は全体的にまたは部分的にフッ素によって置換されていてもよい。例は、メチレン基−CH2−、1,2−エチレン基−CH2−CH2−、1,2−プロピレン基−CH2−CH(CH3)−、1,3−プロピレン基−CH2−CH2−CH2−、1,4−ブチレン基−CH2−CH2−CH2−CH2−またはt−ブチレン基−CH2−CH(CH32−を包含する。有利には、それはメチレン基−CH2−である。
【0029】
xの数は、2〜8の値、有利には2〜6の値、特に有利には3〜5および極めて有利には3の値を有し、その際、ここでxは公知のように存在するアルコキシ基の平均値であり、それは当然の事ながら自然数である必要はなく、任意の有理数であってもよい。
【0030】
本発明によるイオン性液体の特性は、当業者によりアニオンおよびカチオンの選択によって影響を及ぼされ得る。当然の事ながら、イオン性液体は複数の異なるアニオンY-および/または複数の異なるカチオンXn+も含有してよい。
【0031】
我々はここで特定の理論に縛られたがらずとも、本発明によるイオン性液体の特別な特性は、例えば後で実施例を使ってカルボキシル基およびナトリウムイオンの場合に示されているように、キレート形成によって少なくとも影響を受けるものと考えられる。
【0032】
【化3】

【0033】
この内部キレート形成によって、イオン性液体の塩性の特性は減少し、かつ該イオン性液体は非極性に挙動する。例えば本発明によるイオン性液体の融点は、類似のカチオンを有する他の塩と比較して相対的に低く、かつ非極性物質に対する溶媒能力は良好である。本発明によるアニオンの使用下で、例えば室温で液体の長鎖アルキルイミダゾリウム塩が製造され得る。
【0034】
特に有利なのは、アニオンH3CO−(CH2−CH2−O)3−CH2−COO-(III)と、Na+、NH4+またはR1−NH3+の群から選択されたカチオンとからのイオン性液体であり、その際、R1は、この有利な変法の場合、C原子1〜20個を有する、有利には4〜20個を有する、特に有利には6〜18個を有する、および極めて有利には8〜18個を有する直鎖アルキル基である。(III)における特に有利なイオンR1−NH3+の例は、n−ヘキシルアンモニウム、n−オクチルアンモニウム、n−デシルアンモニウム、n−ドデシルアンモニウム、n−テトラデシルアンモニウム、n−ヘキサデシルアンモニウムおよびn−オクタデシルアンモニウムを包含する。
【0035】
さらにアニオン(III)のための特に有利なカチオンは、Ca2+、Mg2+、コリン、ならびにテトラアルキルアンモニウムイオン、イミダゾリウムイオンおよびピリジニウムイオンであり、該カチオンはそのつどC原子4〜20個、有利には6〜18個および特に有利には8〜18個を有する直鎖アルキル基R1を有する。
【0036】
例えば本発明によるイオン性液体の製造は、まず最初にアニオンR6O−(R7−O−)x−R8−COO- (II)に相応する酸R6O−(R7−O−)x−R8−COOH (V)を合成し、かつ第二の工程で、該酸をカチオンまたはその前駆体を含む塩基と反応させることによって行うことができる。場合によっては合成の過程で使用される溶媒が反応系から除去される。
【0037】
酸R6O−(R7−O−)x−R8−COOH (V)の合成のために、例えば相応するポリオキシアルキレンモノアルキルエーテルR6O−(R7−O−)x−H (IV)から出発してよい。これらはカルボン酸R6O−(R7−O−)x−R8−COOH (V)を得るために一般式Hal−R8−COOHのハロゲンカルボン酸と反応させられ、その際、HalはF、Cl、BrおよびI、有利にはCl、BrおよびIである。有利には、一般式Cl−R8−COOHのω−クロロカルボン酸を使用してよく、かつ特に有利な合成変法ではクロロ酢酸が使用される。該反応は、無水エーテルアルコール(IV)を元素のナトリウムと反応させて反応性アルコラートを得ることによって行うことができる。カルボン酸(V)は当業者に公知の技術によって分離し、かつ例えば真空蒸留によって精製することができる。
【0038】
カルボン酸(V)は第二の工程で相応する塩基で中和してよい。塩基が場合によっては溶解していた溶媒が引き続き蒸留により分離される。ナトリウム塩の製造は、例えば相応する量の水性NaOHでの中和によって行うことができ、その後に水が真空中で除去される。それは水不含でカルボン酸(V)と炭酸水素ナトリウムとのアルコール中での反応によって行ってもよく、その後にアルコールが蒸留分離される。
【0039】
アンモニウムイオン(Ia)、(Ib)または(Ic)を有するイオン性液体は、Rが水素である場合、相応する非プロトン化アミンを、場合により適した溶媒に溶かしてカルボン酸(V)に添加することによって簡単に製造することができる。塩基として完全にアルキル化されたアンモニウムイオンが使用されるべき場合、アンモニウムイオンを相応する水酸化物の形で、例えばテトラアルキルアンモニウムイオンNR4+OH-として使用してよい。水酸化物の代わりに、相応するテトラアルキルアンモニウムハロゲン化物も使用してよく、かつ第二の工程でイオン交換体を用いてハロゲン化物イオンを水酸化物イオンに交換してよい。イミダゾールを、例えばWO01/77081に記載された方法に従って、強塩基、例えばカリウム−tert−ブチレートでまずイミダゾリウムカルベンに変換させることができる。次いでイミダゾリウムカルベンを酸(V)と接触させてよく、その際、カルボン酸アニオンおよび相応するイミダゾリウムカチオンが形成される。
【0040】
本発明によるイオン性液体は、100℃未満、有利には75℃未満および特に有利には60℃未満の融点を有する。融点は、当業者により、相応するアニオンおよびカチオンの選択によって所望の融点に応じて定めることができる。室温で液状のイオン性液体も簡単に準備することができる。
【0041】
本発明によるイオン性液体は、殊に溶媒または抽出溶媒として使用することができる。
【0042】
それらはカチオンを錯化する能力がより強いという点で他のイオン性液体とは異なる。さらに本発明によるイオン性液体は毒性成分を含まず、かつ非常に高い電気化学安定性を有する。特に本発明によるイオン性液体は、化学反応を実施するための溶媒として、殊にメタセシス反応を実施するための溶媒として、または天然ポリマーおよび合成ポリマーのための溶媒として適している。その際、それらは組成に応じて、古典的な溶媒、ヒドロトロープまたは界面活性剤の特性を示す。
【0043】
それらはさらに液−液抽出のための抽出溶媒として使用することができ、例えば重金属、薬理活性物質、天然物、栄養素もしくは栄養添加物の抽出のために使用することができる。
【0044】
それらはさらに非水性電解質または非水性電解質の成分としてエネルギー貯蔵システム、例えば電池において、またはエネルギー変換システム、例えば太陽電池において使用することができる。そのうえ電気化学処理、例えば電気化学金属堆積のための溶媒として適している。
【0045】
さらなる使用は、ナノ粒子合成における溶媒および/または構造化マトリックスとしての使用、ナノ粒子を安定化させるための使用または天然ポリマーおよび合成ポリマーのための溶媒としての使用を包含する。
【0046】
当然の事ながら、本発明によるイオン性液体は、他のイオン性液体とも一緒に使用するために混合することができる。これによって新規の特性スペクトルを有するさらに別のイオン性液体が得られる。
【0047】
本発明によるイオン性液体は、溶媒および抽出溶媒として使用される場合、相当の利点を持つ。
【0048】
イオン性液体は、塩の溶液を非水性非プロトン性溶媒中で提供することを可能にする。そのような溶液は、電気化学法、例えば電気化学金属堆積法において好ましくは利用され得る。それと言うのも、全ての金属が水性媒体から堆積され得るという訳ではないからである。本発明によるイオン性液体のサイクリックボルタンモグラムは幅広い電界ひいては高い酸化還元安定性を示す。それゆえイオン性液体は電気化学的な使用に特に良好に適している。
【0049】
その非プロトン性特性によって、イオン性液体は化学反応のための反応媒体として適しており、該化学反応の過程で塩性または極性の物質が溶解した状態で維持されなければならず、一方でそれは同時にプロトン性基、例えばOH基または水の存在によって干渉を受けるものとされる。
【0050】
加えてイオン性液体は水を含まなくても導電性を有し、かつ、それによって高い誘電率を有する無水液体が使用されなければならない多数の工業的な方法において問題が生じる。
【0051】
本発明によるイオン性液体は難揮発性である。難揮発性溶媒は、低い圧力を達成することが重要である(例えばポンプ)工業的装置において魅力的である。さらに、Na+塩およびK+塩は非常に高い分解点を有し、かつ僅かしか腐食性を有さない。それゆえ本発明によるイオン性液体は特に高温使用、例えば高温潤滑のためにまたは回路板を製造する場合に適している。
【0052】
以下の実施例は、本発明をより詳細に説明する:
実施例1−ナトリウム−2,5,8,11−テトラオキサトリデカン−13−オエート(TEGMECH2COO-Na+)の合成
【化4】

【0053】
第一段階:ポリエーテルカルボン酸の製造:
Na15.3gを、トリエチレングリコールモノメチルエーテル260mL中に保護ガス雰囲気で強く攪拌しながら溶解する。その際、まず室温で処理し、かつ後で段階的に約120℃に加熱する。Naを完全に溶解した後、100℃に冷却し、かつトリエチレングリコールモノメチルエーテル60mL中に溶解されたクロロ酢酸30.9を滴下する。続けて反応混合物を100℃で約12h攪拌する。
【0054】
それから過剰のトリエチレングリコールモノメチルエーテルを油ポンプ真空(約10-3mbar)中で留去する(沸点:約88〜90℃)。引き続き、冷却された残留物を水約150mLと混合し、短時間攪拌した後に85%のリン酸23mLと混合する。それから透明な褐色の溶液を、全体で3×ジクロロメタン200mLで抽出する。合一された有機相を硫酸マグネシウムで乾燥する。溶媒のろ過および取り出しにより、最終的に暗褐色の油性液体がもたらされる。
【0055】
粗製2,5,8,11−テトラオキサトリデカン−13−酸を、油拡散ポンプ真空(約10-7mbar;沸点135〜145℃)中での二度の蒸留によって精製する。最後に無色の粘性の液体が得られる。
【0056】
第二段階:Na塩への変換
2,5,8,11−テトラオキサトリデカン−13−酸のナトリウム塩を、該酸と等モル量の0.1M水酸化ナトリウム水溶液と反応させることによって得る。中和後に回転蒸発器で水を抜き出す。生成物の乾燥を、油ポンプ真空、油拡散ポンプ真空およびターボ分子ポンプ真空中で段階的に行う(それぞれ数日間)。
【0057】
代替的に、非水性でも化合物のナトリウム−2,5,8,11−テトラオキサトリデカン−13−オエートを、等モル量の2,5,8,11−テトラオキサトリデカン−13−酸と炭酸水素ナトリウムとをエタノール中で反応させることによって製造することができる。乾燥を水性合成と同様に行う。
【0058】
第三の変法では、ポリエーテルカルボン酸を水溶液中でNaOH標準液を用いてちょうど当量点となるまで滴定してよい(pH測定を介して)。この方法は2つの成分を量り入れる際の不正確性を回避するので、等モル性が確実に保証される。後処理は上記のように行う。
【0059】
ナトリウム−2,5,8,11−テトラオキサトリデカン−13−オエートは、水、ジクロロメタン、ペンタノールおよびアセトンと任意の比で混合可能であり、ジエチルエーテルと部分的に混合可能である。25℃での粘度は、低いせん断速度の場合、百万ミリパスカル秒のオーダーにある。融点は第1表の中で挙げられている。
【0060】
実施例2:リチウム−2,5,8,11−テトラオキサトリデカン−13−オエート(TEGMECH2COO-Li+)の合成
実施例1で記載したように行い、ただしかし中和のためにLiOHを使用した。融点は第1表の中で挙げられている。
【0061】
実施例3:カリウム−2,5,8,11−テトラオキサトリデカン−13−オエート(TEGMECH2COO-+)の合成
実施例2で記載したように行い、ただしかし中和のためにKOHを使用した。融点は第1表の中で挙げられている。
【0062】
実施例4:カルシウム−ジ(2,5,8,11−テトラオキサトリデカン−13−オエート)(TEGMECH2COO-2Ca2+)の合成
実施例2で記載したように行い、ただしかし中和のためにCaCO3を使用した。融点は第1表の中で挙げられている。
【0063】
実施例5:ヘキシルアンモニウム−2,5,8,11−テトラオキサトリデカン−13−オエートの合成
【化5】

【0064】
2,5,8,11−テトラオキサトリデカン−13−酸を、実施例1の中で記載したように製造する。アルキルアンモニウム塩は、一般に、該酸と等モル量の該当するアミンとの直接反応によって入手することができる。
【0065】
ヘキシルアンモニウム−2,5,8,11−テトラオキサトリデカン−13−オエートの合成のために、2,5,8,11−テトラオキシトリデカン−13−酸をn−ヘキシルアミンで中和する。この際、反応は溶媒不含(例えばエーテルカルボン酸への純粋なヘキシルアミンの滴下、冷却下)でも有機溶媒(典型的にエタノール)中でも行うことができる。高真空中での乾燥の間にアミンが逆反応および蒸発することを回避するために、化合物を単に油ポンプ真空中でおよそ1日間乾燥する。合成は水不含で行われるのと、中和のあいだ水が発生することがないので、この場合、この温和な乾燥で十分である。融点は第1表の中で挙げられている。
【0066】
アンモニウム塩の粘度は、ナトリウム塩の粘度より明らかに低く、かつ20000mPasのオーダーにある。そのため該粘度はハチミツまたはシロップの粘度と比較可能である。導電性測定および蛍光測定から、実施例5に記載のイオン性液体が水溶液中で水分屈性特性を有することが推論され得る。
【0067】
実施例6:ドデシルアンモニウム−2,5,8,11−テトラオキサトリデカン−13−オエートの合成
【化6】

【0068】
実施例4で記載したように行うが、ただしかしドデシルアミンを中和のために使用する。
【0069】
導電性および水性媒体中での表面張力の測定から、実施例6に記載のイオン性液体が界面活性剤特性を有することが推論され得る。両親媒性特性ひいては可溶化特性に基づき、実施例6に記載のイオン性液体は、従来のイオン性液体と比べて幅広い溶媒スペクトルを有する。さらに実施例6に記載のイオン性液体は、構造化特性を水中、有機溶媒中および殊に純粋状態でも有することが推論され得る。それに応じて、該イオン性液体は、例えば構造付与体(原型)として無機化処理において用いることができる(例えばメソポーラスシリケートのために)。さらに実施例6からのイオン性液体は室温にて液状で存在する(融点は第1表を参照のこと)。この非常に低い融点に基づき、該イオン性液体は水と任意の比で混ざって、水中で界面活性剤濃度が高い場合に高粘度の液晶相が形成される古典的なイオン性界面活性剤とは対照的に低い粘度の液体が生じる。
【0070】
実施例7〜11:さらに別のアルキルアンモニウム−2,5,8,11−テトラオキサトリデカン−13−オエートの合成
実施例5で記載したように行ったが、ただしかし以下のアミンを使用した:
実施例7: n−オクチルアミン
実施例8: n−デシルアミン
実施例9: n−テトラデシルアミン
実施例10: n−ヘキサデシルアミン
実施例11: n−オクタデシルアミン
融点、分解点および粘度は、それぞれ第1表の中で挙げられている。
【0071】
【表1】

【0072】
第1表:
種々の2,5,8,11−テトラオキサトリデカン−13−オエートの融点および分解点(分解の開始)ならびに粘度
1全ての試験液体はニュートン流体のように挙動する
n.b.測定せず。
【0073】
第1表は、イオン性液体の融点がアニオン中のアルキル基の鎖長が増大するにつれて増すことを示している。従って鎖長の選択によって融点を目的に合わせて調整することができる。
【0074】
同様に分解点および粘度はカチオンの選択によって影響を及ぼすことができる。
【0075】
イオン性液体の使用
実施例1により合成されたナトリウム−2,5,8,11−テトラオキサトリデカン−13−オエートを用いて溶解試験を実施した。
【0076】
硝酸アンモニウムはTEGMECH2COONa中に室温でも良好に可溶性であり、その一方で、NaClは100℃を超える温度の場合、僅かな濃度しか溶解しない。120℃の場合、硫酸マグネシウムはTEGMECH2COONa中に著しい可溶性を示す。ナトリウム塩の環境適合性に関して特に言及に値するのは、TEGMECH2COONa中で10質量パーセントまでのオリーブ油の可溶性である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
100℃未満の融点を有する一般式1n[Xn+][Y-]のイオン性液体であって、その際、nが1、2または3である上記イオン性液体において、
・カチオンXn+が、金属イオン、第四級アンモニウムイオン、オキソニウムイオン、スルホニウムイオンまたはホスホニウムイオンの群から選択されたカチオンであること、および
・アニオンY-が一般式(II)
6O−(R7−O−)x−R8−COO- (II)、
[式中、
・xは2〜8の数であり、
・R6は、炭素原子1〜3個を有する分枝鎖または非分枝鎖の炭化水素基であり、
・基R7はそれぞれ互いに無関係に、炭素原子2〜4個を有する分枝鎖または非分枝鎖のアルキレン基であり、かつ
・R8は、炭素原子1〜4個を有する分枝鎖または非分枝鎖のアルキレン基であり、
その際、基R6、R7およびR8の中で、それぞれ水素原子が全体的にまたは部分的にフッ素によって置換されていてもよい]を有することを特徴とする1n[Xn+][Y-]イオン性液体。
【請求項2】
前記カチオンが、アルカリ金属イオン、アルカリ土類金属イオン、式(Ia)、(Ib)および(Ic)のアンモニウムイオン
【化1】

一般式(Id)のホスホニウムイオンまたは一般式(Ie)のスルホニウムイオン
【化2】

[式中、基RならびにR1〜R5は互いに無関係に、それぞれ水素または飽和または不飽和の、非環式または環式の、脂肪族、芳香族または芳香脂肪族の、炭素原子1〜20個を有する炭化水素基であり、かつ、その際、前記基の中で、隣接しない炭素原子は酸素原子および/または窒素原子によっても置換されていてよく、または前記基の水素原子は官能基で置換されていてよい]の群から選択された少なくとも1つであることを特徴とする、請求項1記載のイオン性液体。
【請求項3】
前記カチオンが、アルカリ金属イオン、アルカリ土類金属イオンまたは式(Ia)のアンモニウムイオンの群から選択された少なくとも1つであることを特徴とする、請求項2記載のイオン性液体。
【請求項4】
前記カチオンがアンモニウムイオン(Ia)であって、その際、Rは水素であり、R1は、炭素原子1〜20個を有する直鎖または分枝鎖のアルキル基であり、かつR2およびR3は互いに無関係に、それぞれ水素、メチルまたはエチルであることを特徴とする、請求項3記載のイオン性液体。
【請求項5】
1が、炭素原子8〜20個を有する直鎖アルキル基であることを特徴とする、請求項4記載のイオン性液体。
【請求項6】
前記カチオンがアンモニウムイオン(Ia)であって、その際、基R、R1、R2またはR3の少なくとも1個は、OH基ならびに任意にCOOH基で置換されている、炭素原子1〜20個を有する基であることを特徴とする、請求項3記載のイオン性液体。
【請求項7】
6がメチル基であることを特徴とする、請求項1から6までのいずれか1項記載のイオン性液体。
【請求項8】
基R7の少なくとも50%が1,2−エチレン基であることを特徴とする、請求項1から6までのいずれか1項記載のイオン性液体。
【請求項9】
xが3〜5であることを特徴とする、請求項1から8までのいずれか1項記載のイオン性液体。
【請求項10】
8がメチレン基−CH2−であることを特徴とする、請求項1から9までのいずれか1項記載のイオン性液体。
【請求項11】
前記カチオンがLi+、Na+、K+、NH4+または一般式R1−NH3+のアンモニウムイオンであり、その際、R1は、C原子1〜20個を有する直鎖アルキル基である、かつ前記アニオンがH3CO−(−CH2−CH2−O−)3−CH2−COO-であることを特徴とする、請求項1記載のイオン性液体。
【請求項12】
1が、C原子8〜20個を有する直鎖アルキル基であることを特徴とする、請求項11記載のイオン性液体。
【請求項13】
請求項1記載のイオン性液体の製造法において、
・第一の反応工程で、ポリオキシアルキレンモノアルキルエーテルR6O−(R7−O−)x−H (IV)を、一般式Hal−R8−COOHのハロゲンカルボン酸、その際、HalはF、Cl、BrまたはIである、と反応させてカルボン酸R6O−(R7−O−)x−R8−COOH (V)を得、かつ
・第二の反応工程で、形成されたカルボン酸R6O−(R7−O−)x−R8−COOH (V)を、イオン性液体1n[Xn+][R6O−(R7−O−)x−R8−COO-]の形成下で塩基X(OH)nまたは[X−nH]で中和し、
ただし、使用される溶媒および/または反応中に形成される溶媒をそのつど完全に分離する、請求項1記載のイオン性液体の製造法。
【請求項14】
ハロゲンカルボン酸がクロロ酢酸であることを特徴とする、請求項13記載の方法。
【請求項15】
請求項1から12までのいずれか1項記載のイオン性液体の溶媒としての使用。
【請求項16】
前記溶媒が化学反応の実施のために用いられることを特徴とする、請求項15記載の使用。
【請求項17】
前記溶媒が天然ポリマーおよび合成ポリマーの溶解のために用いられることを特徴とする、請求項15記載の使用。
【請求項18】
前記溶媒が電気化学処理のために用いられることを特徴とする、請求項15記載の使用。
【請求項19】
前記溶媒がナノ粒子の製造および安定化のために用いられることを特徴とする、請求項15記載の使用。
【請求項20】
請求項1から12までのいずれか1項記載のイオン性液体の、液−液抽出のための抽出溶媒としての使用。
【請求項21】
請求項1から12までのいずれか1項記載のイオン性液体の、エネルギー貯蔵システムおよびエネルギー変換システムにおける電解質または非水性電解質の成分としての使用。
【請求項22】
請求項1から12までのいずれか1項記載のイオン性液体の高温潤滑剤としての使用。

【公表番号】特表2010−526115(P2010−526115A)
【公表日】平成22年7月29日(2010.7.29)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−506899(P2010−506899)
【出願日】平成20年4月30日(2008.4.30)
【国際出願番号】PCT/EP2008/055314
【国際公開番号】WO2008/135482
【国際公開日】平成20年11月13日(2008.11.13)
【出願人】(508020155)ビーエーエスエフ ソシエタス・ヨーロピア (2,842)
【氏名又は名称原語表記】BASF SE
【住所又は居所原語表記】D−67056 Ludwigshafen, Germany
【Fターム(参考)】