説明

新規アルコール分離膜及びその製造方法並びにそれを用いるアルコール処理方法

【課題】アルコール分離性能が、例えば経時的に低下することなく、高いアルコール分離性能を有するアルコール選択分離膜及びその製造方法並びに該複合膜を用いたアルコール分離方法を提供すること。
【解決手段】アルコール選択吸着性微粒子とアルコール選択透過性高分子との界面に、該アルコール選択吸着性微粒子の表面に結合したアルコール選択透過性線状高分子を配したことを特徴とするアルコール分離膜。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、新規アルコール分離膜及びその製造方法並びにそれを用いるアルコール水溶液の処理方法に関する。さらに詳しくは、アルコールと水を分離するための分離膜として有用な有機高分子/無機粒子界面に非架橋の線状高分子相を有する複合膜、その製造方法及びそれを用いるアルコール水溶液処理方法に関する。
【背景技術】
【0002】
地球温暖化対策技術の1つとして、バイオマス発酵によるアルコールの生産が注目されている。バイオマス発酵によって得られたアルコールの分離コストを大幅に削減する方策として、膜分離技術に大きな期待が集まっている。このように、アルコール水溶液を選択的に分離する膜の開発が急務である。
【0003】
従来、アルコール選択透過膜は高分子由来のものが初めに開発された。これは、シリコーンゴム等のゴム状高分子、あるいはポリ(トリメチルシリルプロピン)等の高い自由体積を持つガラス状高分子の無孔膜であり、アルコールが水よりも選択的に高分子中に収着・拡散することによってアルコール選択性を得た(特許文献1〜5)。このような高分子材料は成形が比較的容易であるという長所を持つ。しかしながら、アルコールと水の収着特性に大きな違いが無いために、高い分離性能を得ることができなかった。
【0004】
一方、無機材料であるゼオライトを水熱合成によって膜化する検討が行われ、エタノール水溶液からエタノールを選択的に分離する分離膜の作製が報告されている(特許文献6)。この方法では、吸着性の高いゼオライトを用いることによって高分子膜よりも高い分離性能が報告されている。
【0005】
しかしながら、ゼオライト膜には以下に示す大きな問題点がある。(1)ゼオライト単独で膜を形成する場合、ゼオライトの種類によっては膜欠陥が多数発生するため、無機膜として分離性能を発現させることが困難な場合がある。(2)ゼオライトを形成させる際に水熱合成を行うため、支持体として高価なアルミナ等のセラミック支持体を用いる必要がある。(3)ゼオライトは耐酸性に乏しいため、発酵液中の有機酸によってゼオライトが親水化し、分離性能が経時時間とともに低下するという問題がある。これらの問題を解決するために、シリコーンゴムを用いてゼオライトを被覆する検討も行われている(特許文献7)。
【0006】
一方、アルコール選択性高分子中に、アルコールを選択的に吸着するゼオライト粒子を混合すると分離性能が向上することが報告された(特許文献8)。ゼオライト粒子の混合によってアルコールの吸着性が高くなるため、アルコールの分離性能が向上する。
【0007】
しかしながら、現状では実用化を想定すると分離性能は十分に高いとは言えず、分離性能を高めることが重要な技術課題となっている。このために、高分子材料の種類、無機粒子の種類、粒子径等を変えた様々な検討が行われているが、未だ十分な分離性能は得られていない(非特許文献1)。
【0008】
特許文献8に記載される従来型の有機高分子/無機粒子複合膜は、ゼオライト粒子と架橋高分子相の二相構造である。該複合膜を用いてアルコール分離をした場合、供給液中のアルコール分子は、膜内のゼオライト粒子に吸着した後、ゼオライト粒子と高分子相とゼオライト粒子間との界面において、アルコール分子がゼオライト粒子を脱着し、近接のゼオライト粒子まで高分子相中を拡散する過程を繰り返して膜を透過する。この拡散過程において、アルコールの拡散性が水に比べて低いためにアルコール分離性能が低下すると考えられる。また、従来の有機高分子/無機粒子複合膜の膜構造は、高分子相が架橋されているため、高分子相中のアルコール、水の拡散性の低下が大きく、溶媒の透過性の低下に伴い、透過流束が低下する。さらに、分子サイズの大きなアルコールが水よりも拡散性の低下の度合いが大きく、分離係数も低下する。一方、高分子相を架橋しない場合、理想的には透過性、分離性ともに向上すると考えられる。これは、線状(非架橋)高分子の自由体積が大きく、高分子鎖の運動性が高いために、分子サイズの大きいアルコールの拡散性の増加が大きいためである。
【0009】
しかしながら、実際には非架橋高分子は分離溶液中で大きく膨潤し、可塑化効果によってアルコールだけでなく水の透過も大きく増加することになり分離性能が大きく低下する。このため、非架橋高分子の膜構造は実用に適さず、さらなる改良が求められていた。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0010】
【特許文献1】特開昭58−166901号公報
【特許文献2】特開昭61−257205号公報
【特許文献3】特開昭61−174905号公報
【特許文献4】特開昭61−78402号公報
【特許文献5】特開平1−194903号公報
【特許文献6】特開平6−99044号公報
【特許文献7】特開2005−87882号公報
【特許文献8】特公平7−55287号公報
【非特許文献】
【0011】
【非特許文献1】Journal 0f Membrane Science, 308, (2008), 230-241
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0012】
本発明は、アルコール分離性能が、例えば経時的に低下することなく、高いアルコール分離性能を有するアルコール選択分離膜及びその製造方法並びに該分離膜を用いたアルコール分離方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0013】
本発明者らは、上記課題を解決するために鋭意研究を重ねた結果、アルコール選択分離膜が、有機高分子/無機粒子界面において、シランカップリング剤により無機粒子に結合している非架橋のアルコール選択透過性線状高分子を配したことによって、アルコールに対する高い分離性能を有することを見出した。本発明は、かかる知見に基づいて、さらに検討を重ねることにより完成したものである。
【0014】
すなわち、本発明は、
[1]アルコール選択吸着性微粒子とアルコール選択透過性高分子との界面に、該アルコール選択吸着性微粒子の表面に結合したアルコール選択透過性線状高分子を配したことを特徴とするアルコール分離膜、
[2]アルコール選択吸着性微粒子とアルコール選択透過性高分子との界面に、アルコール選択透過性線状高分子を配し、該アルコール選択透過性線状高分子が、該アルコール選択吸着性微粒子の表面に結合し、かつ該アルコール選択透過性高分子に結合しており、該アルコール選択透過性線状高分子が該アルコール選択吸着性微粒子と該アルコール選択透過性高分子とを架橋していることを特徴とする前記[1]記載のアルコール分離膜、
[3]結合が共有結合であることを特徴とする前記[1]又は[2]に記載の分離膜、
[4]アルコール選択透過性線状高分子が、疎水性有機材料であることを特徴とする前記[1]〜[3]のいずれかに記載の分離膜、
[5]疎水性有機材料が、線状シリコーンゴム及び線状炭化水素からなる群から選ばれる1以上であることを特徴とする前記[4]に記載の分離膜、
[6]アルコール選択吸着性微粒子が、疎水性無機粒子であることを特徴とする前記[1]〜[5]のいずれかに記載の分離膜、
[7]疎水性無機粒子が、疎水性ゼオライトであることを特徴とする前記[6]に記載の分離膜、
[8]アルコール選択透過性高分子が、架橋高分子であることを特徴とする前記[1]〜[7]のいずれかに記載の分離膜、
[9]架橋高分子の材料が、シリコーンゴムであることを特徴とする前記[8]に記載の分離膜、
[10]アルコール選択吸着性微粒子とアルコール選択透過性線状高分子とカップリング剤とを反応させる工程、前記工程で得られるアルコール選択吸着性微粒子とアルコール選択透過性高分子の材料とを混合し、アルコール選択吸着性微粒子含有アルコール選択透過性高分子を形成する工程を含むことを特徴とする、前記[1]〜[9]のいずれかのアルコール分離膜の製造方法、
[11]カップリング剤が、カップリング反応によって酸を発生するシランカップリング剤であることを特徴とする前記[10]に記載の製造方法、
[12]カップリング反応によって酸を発生するシランカップリング剤が、ジアセトキシシラン、トリアセトキシシラン、テトラアセトキシシラン、ジクロロシラン、トリクロロシラン及びテトラクロロシランからなる群から選ばれる1以上であることを特徴とする前記[11]に記載の製造方法、及び
[13]前記[1]〜[9]のいずれかに記載の分離膜を用いて、アルコール水溶液又はアルコール発酵液からアルコールを分離する方法、
に関する。
【発明の効果】
【0015】
本発明によれば、アルコール分離性能が、例えば経時的に低下することなく、顕著に優れたアルコール分離能力を有し、アルコール水溶液又はアルコール発酵液を接触させることにより、効率よくアルコールを分離できる分離膜及びその製造方法が提供される。また、本発明によれば、該分離膜を用いてアルコール水溶液又はアルコール発酵液から、効率よくアルコールを分離するアルコール分離方法が提供される。
【図面の簡単な説明】
【0016】
【図1】図1は、実施例1の分離膜の断面図である。
【図2】図2は、比較例2の分離膜の断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0017】
本発明の分離膜は、アルコール選択透過性高分子中にアルコール選択吸着性微粒子を分散させて保持した膜構造において、アルコール選択吸着性微粒子とアルコール選択透過性高分子との界面に、該アルコール選択吸着性微粒子の表面に結合したアルコール選択透過性線状高分子を配したことを特徴とする。前記分離膜としては、アルコール選択吸着性微粒子とアルコール選択透過性高分子との界面に該アルコール選択吸着性微粒子の表面に結合したアルコール選択透過性線状高分子を配していれば、特に限定されず、例えば、アルコール選択吸着性微粒子の表面がアルコール選択透過性線状高分子で被覆され、アルコール選択透過性線状高分子が中間膜の形態を呈している分離膜等が挙げられる。本発明の分離膜は、アルコール選択吸着性微粒子とアルコール選択透過性高分子との界面にアルコール選択透過性線状高分子を配したため、アルコールの拡散係数が増加し、アルコールと水の拡散係数の差が小さくなることから、従来の膜構造に比べて透過流束、分離係数共に向上させることができる。
【0018】
前記アルコール選択透過性線状高分子は、少なくとも一部が結合していれば、すべてアルコール選択吸着性微粒子に結合していてもよいし、フリーの状態と結合した状態が混在してもよいが、結合することによって膜の安定性がより向上するという点で、アルコール選択吸着性微粒子とアルコール選択透過性高分子との界面に、アルコール選択吸着性微粒子の表面にすべてが結合したアルコール選択透過性線状高分子を配したアルコール分離膜が好ましい。
【0019】
前記アルコール選択吸着性微粒子の材料としては、本発明の効果を妨げない限り特に限定されないが、例えば、疎水性無機粒子、疎水性高分子粒子等が挙げられ、アルコールの吸着性が高く、水の吸着性が低いという点で疎水性無機粒子が好ましい。前記アルコール選択吸着性微粒子の配合量は、特に限定されないが、分離膜全体に対して、通常20〜80重量%であり、分離性能と製膜性のバランスを考慮すると、30〜70重量%が好ましい。アルコール選択吸着性微粒子の配合量が、20重量%未満ではアルコール吸着性能が十分でなく、80重量%を超えると、製膜できないため好ましくない。前記した疎水性無機粒子又は疎水性高分子粒子とは、極性の小さい成分(例:アルコール)と極性の大きい成分(例:水)との混合物から極性の小さい成分を吸着する無機粒子又は高分子粒子を意味する。前記アルコール選択吸着性とは、吸着分離係数αアルコール/水(吸着)が1より大きいことを意味する。前記吸着分離係数は、下記式[I]に従って算出される。
【数1】

(式中、(Xalcadsは吸着液中のアルコール濃度(重量%)を意味し、(XH20adsは吸着液中の水濃度(重量%)を意味し、(Xalcは供給液中のアルコール濃度(重量%)を意味し、(XH20は供給液中の水濃度(重量%)を意味する。)
【0020】
前記疎水性無機粒子としては、本発明の効果を妨げない限り特に限定されないが、カップリング剤の反応性が高く、表面の安定性が良いという点で、疎水性ゼオライト等が好ましい。疎水性ゼオライトとは、ゼオライト中のシリカ/アルミナ比(Si/Al比)が100以上であるゼオライトであれば、特に限定されず、シリカ/アルミナ比(Si/Al比)が1200以上であるゼオライトが好ましく、アルミナが含まれないゼオライトがとりわけ好ましい。前記疎水性ゼオライトとしては、ZSM類(例えば、ZSM−5型)、ソーダライト類、モルデナイト類、シリカライト類が挙げられる。また、これらがアルカリ金属又はアルカリ土類金属を含む場合、それらを他の金属イオンで置き換えた各種ゼオライト等も用いることができる。アルコール選択吸着性微粒子の個数粒度分布は特に限定されないが、微粒子の直径(粒子径)0.05μm〜50μmの範囲が好ましく、0.1μm〜30μmの範囲がより好ましい。直径が0.05μmより小さいと、微粒子のアルコール選択吸着性が失われるおそれがあり、その結果、分離性能が低下することがあり、直径が50μmを超える粒子を含むと製膜性に問題が生じるおそれがあり、その結果、ピンホールが生成して分離性能が低下することがある。アルコール選択吸着性微粒子の平均粒子径(直径の長さ平均径)は、特に限定されないが、0.1〜30μmが好ましく、1〜20μmがより好ましい。アルコール選択吸着性微粒子の直径は、走査型電子顕微鏡(SEM)を用いて測定することができる。前記疎水性ゼオライトの原料となるシリカ成分としては、ケイ酸ナトリウム、水ガラス、コロイダルシリカ、アルコキシシランの加水分解物等を用いることができる。疎水性ゼオライトのアルミナ成分としては、アルミン酸ナトリウム、水酸化アルミニウム、硝酸アルミニウム、塩化アルミニウム、ベーマイト等を用いることができる。必要に応じて、カルシウム酸化物成分として、水酸化カルシウム、酸化カルシウム、硝酸カルシウム、塩化カルシウム等、マグネシウム酸化物成分として、水酸化マグネシウム、酸化マグネシウム、硝酸マグネシウム、塩化マグネシウム等、バリウム酸化物成分として、硝酸バリウム、塩化バリウム、水酸化バリウム等が用いられる。これらの疎水性無機粒子は、例えば、米国特許第4,061,724号、米国特許第3,702,886号、米国特許第3,709,979号等記載の公知の方法を用いて製造することができる。また、これらの疎水性無機粒子は、市販品を用いてよく、例えば、HSZ-390、HSZ-690、HSZ-890(以上、東ソー社製)等を用いることができ、これら2種以上を併用して使用してもよく、シリカ/アルミナ比が高いという点でHSZ-890が好ましい。また、本発明の分離膜には、前記疎水性無機粒子の他に、シリカ、アルミナ、ジルコニア、カーボン、活性炭等を加えてもよい。
【0021】
前記アルコール選択透過性高分子は、膜構造保持とアルコールを選択透過させる媒体とを兼ねて用いられ、本発明の効果を妨げない限り特に限定されないが、例えば、架橋高分子、自由体積の大きなガラス状高分子等が挙げられ、アルコール水溶液中での安定性が高いという点で架橋高分子が好ましい。自由体積の大きなガラス状高分子としては、ポリトリメチルシリルプロピン等が挙げられる。また、架橋高分子にポリトリメチルシリルプロピン等を混ぜて使用してもよい。前記アルコール選択透過性とは、分離係数αアルコール/水が1より大きいことを意味する。前記分離係数は、下記式[II]に従って算出される。
【数2】

(式中、(Xalcは透過液中のアルコール濃度(重量%)を意味し、(XH20は透過液中の水濃度(重量%)を意味し、(Xalcは供給液中のアルコール濃度(重量%)を意味し、(XH20は供給液中の水濃度(重量%)を意味する。)
【0022】
前記架橋高分子の材料としては、本発明の効果を妨げない限り特に限定されないが、例えば、従来公知のシリコーンゴム、炭化水素等が挙げられ、アルコール選択性が高いという点で、シリコーンゴムが好ましい。前記シリコーンゴムとしては、特に限定されず、例えば、ジメチルシリコーン系ゴム、メチルハイドロジェンシリコーン系ゴム、メチルビニルシリコーン系ゴム、メチルフエニルシリコーン系ゴム等が挙げられる。これらの高分子材料としては、市販品を用いてよく、例えば、SILPOT184(東レダウコーニング社製)、シリコーンゴムマクロマー(Gelest社製)等を用いることができる。なお、本発明に用いるアルコール選択透過性高分子は、下記する形成方法により得られるものであり、例えば、シリコーンゴムを用いる場合、アルコール選択透過性高分子の材料は未架橋シリコーンゴムである。未架橋シリコーンゴムの場合には、後記のように重合して架橋して用いる。
【0023】
本発明の分離膜では、安定性に優れるという点で、より分子量の大きいシリコーンゴムが好ましい。シリコーンゴムの分子量(重量平均分子量:Mw)としては、1,000〜1,000,000程度が好ましく、10,000〜1,000,000程度がより好ましい。シリコーンゴムは溶剤に溶かしたものが用いられることが一般的である。溶剤には、無極性溶媒が用いられる。前記無極性溶媒としては、例えば、n−ヘキサン、シクロヘキサン、ベンゼン、トルエン、ジエチルエーテル、酢酸エチル等が挙げられる。
【0024】
前記アルコール選択透過性線状高分子としては、本発明の効果を妨げない限り特に限定されないが、例えば、疎水性有機材料等が好適に挙げられる。アルコール選択透過性は、前記と同一の意味を有する。前記疎水性有機材料としては、本発明の効果を妨げない限り特に限定されないが、例えば、線状シリコーンゴム(以下、非架橋シリコーンゴムともいう。)、線状炭化水素等が挙げられる。前記線状シリコーンゴムの大きさとしては、安定性に優れるため、ケイ素数1,000〜1,000,000のものが好適に挙げられる。線状炭化水素の大きさとしては、安定性に優れるため、炭素数1,000〜1,000,000のものが好適に挙げられる。前記線状炭化水素としては、ニトリルブタジエンゴム(NBR)、ポリイソブチレン、ポリイソプレン又はスチレンブタジエン共重合体ゴム等が挙げられる。前記線状シリコーンゴム、線状炭化水素等は、置換基を有していてもよく、該置換基としては、本発明の効果を妨げない限り特に限定されず、例えば、炭素数1〜20の直鎖状又は分鎖状のアルキル基、炭素数1〜30のアリール基、フルオロ基、クロロ基、ブロモ基等のハロゲノ基等が挙げられる。アルコール選択性が高いという点で、疎水性有機材料としては、前記線状シリコーンゴム、又は線状炭化水素がより好ましい。
【0025】
前記線状シリコーンゴムは、ジメチルシリコーン系ゴム、メチルハイドロジェンシリコーン系ゴム、メチルビニルシリコーン系ゴム、メチルフエニルシリコーン系ゴム等(好ましくはジメチルシリコーン系ゴム又はメチルフエニルシリコーン系ゴム等)を主成分とし、カップリング反応の際に使用するため分子鎖の片末端もしくは両末端及び/又は側鎖に、1個又は2個のシラノール基を有するものが望ましい。片末端に1個シラノール基を有する線状シリコーンゴムは、カップリング剤との反応によってアルコール選択吸着性微粒子の表面に結合することができる。また、両末端及び/又は側鎖に2個シラノール基を有する線状シリコーンゴムは、カップリング剤との反応によってカップリング反応と同時に重合反応によって分子量を大きくすることができる。前記した疎水性有機材料とは、極性の小さい成分(例:アルコール)と極性の大きい成分(例:水)との混合物から極性の小さい成分を収着する有機材料を意味する。線状シリコーンゴムは、高分子鎖同士が化学結合していない点で架橋シリコーンゴムとは異なる。
【0026】
これらのアルコール選択透過性線状高分子は、特に限定されず、公知の方法を用いて製造することができる。また、これらの疎水性有機材料は、市販品を用いてよく、例えば、DMS−S12(Gelest社製(日本総代理店:アヅマックス(azmax)社))、DMS−S15(Gelest社製)、DMS−S27(Gelest社製))、DMS−S32(Gelest社製)等を用いることができ、分子量が大きすぎるとゲル化しやすいという問題があるため、DMS−S12が好ましい。前記アルコール選択透過性線状高分子の配合量は、特に限定されないが、分離膜全体に対して、通常3〜60重量%程度であり、好ましくは5〜45重量%程度である。
【0027】
本発明の分離膜は多孔質支持膜との複合膜として使用してもよい。本発明に用いる多孔質支持膜は、例えば、後述するポリマー等を用いて製造することができ、セラミックスやポリエチレンフタレート(PET)フィルム等を用いることもできる。具体的には、ポリマーを用いて製造する場合、ポリマーを溶媒に溶解して、原料溶液を得たのち、該原料溶液と、凝固液(溶媒と非溶媒の混合溶液)と接触させて、非溶媒濃度の上昇により相分離を誘起する方法(非溶媒誘起相分離法;NIPS法、特公平1−22003号公報参照)により、多孔質支持膜を製造することができる。前記セラミックスとしては、アルミナ、ジルコニア、チタニア、シリカ等が挙げられる。多孔質支持膜の細孔の緻密層部分の孔径としては、100nm以下が好ましく、さらに好ましくは10nm以下である。多孔質支持膜の膜厚は、本発明の効果を妨げない限り、特に限定されない。分離膜と多孔質支持膜とを複合膜とする方法は、特に限定されず、公知の方法を用いて積層体とすることができる。
【0028】
多孔質支持膜の製造に用いるポリマーとしては、例えば、ポリエーテルスルホン(PES)、ポリスルホン(PSF)、ポリフェニレンスルホン、トリアセチルセルロース、酢酸セルロース、カーボン、ポリアクリロニトリル、ポリフッ化ビニリデン、芳香族ナイロン、ポリエチレンフタレ−ト(PET)、ポリエチレンナフタレート、ポリアリレート、ポリイミド、ポリエーテル、セロファン、芳香族ポリアミド、ポリエチレン、ポリプロピレン等が挙げられる。前記溶媒としては、N−メチルピロリドン(NMP)、アセトン、ジメチルホルムアミド等が挙げられる。溶媒が凝固時に凝固液へ溶解するものであれば、特に限定されない。前記非溶媒としては、例えば水、一価アルコール、多価アルコール、エチレングリコール、テトラエチレングリコール等が挙げられる。
【0029】
原料溶液と凝固液との接触の方法としては、特に限定されないが、例えば、原料溶液を凝固液に浸漬する方法が挙げられる。凝固液中の溶媒濃度は、特に限定されないが、原料溶液の凝固において、凝固液中の溶媒濃度を変化させることにより、支持膜の構造が変化し、耐圧性を上げることができる。また、多孔質支持膜は市販品(例えば、限外濾過(UF)ディスク PBHK バイオマックス(商品名、ミリポア社製)等)を使用してもよい。
【0030】
以下、本発明のアルコール分離膜の製造方法について説明する。本発明のアルコール分離膜の製造方法は、アルコール選択吸着性微粒子とアルコール選択透過性線状高分子とカップリング剤とを反応させることにより、アルコール選択透過性線状高分子が結合したアルコール選択吸着性微粒子を得る工程、次いで、前記工程で得られるアルコール選択吸着性微粒子とアルコール選択透過性高分子の材料とを混合し、アルコール選択透過性高分子を形成する工程を含むこと特徴とする。前記結合は、特に限定されないが、分離膜の分離性能が安定して得られる点から、共有結合が好ましい。
【0031】
前記カップリング剤としては、本発明の効果を妨げない限り特に限定されないが、例えば、カップリング反応によって酸を発生するシランカップリング剤が好適に挙げられる。前記酸としては、特に限定されないが、酢酸、塩酸等が好適に挙げられる。カップリング反応によって酸を発生するシランカップリング剤を使用することによって、カップリング処理時に、無機粒子表面に水酸基を形成させ、続いて形成した水酸基をカップリング剤と反応させ、有機酸に対して安定な疎水構造を形成させ、発酵液からのアルコール分離の際に、有機酸による無機粒子表面の水酸基の形成を予防し、発酵液中の有機酸に対する安定性を向上させることができる。
【0032】
前記カップリング反応によって酸を発生するシランカップリング剤としては、特に限定されないが、酸無水物官能シランカップリング剤(例えば、ジアセトキシシラン(例えばジメチルジアセトキシシラン等)、トリアセトキシシラン(例えばメチルトリアセトキシシラン、エチルトリアセトキシシラン等)、テトラアセトキシシラン等)、クロル官能シランカップリング剤(例えば、ジクロロシラン(例えばジメチルジクロロシラン等)、トリクロロシラン(例えばメチルトリクロロシラン等)、テトラクロロシラン等)等が好適に挙げられる。また、前記アルコール選択透過性線状高分子として片末端に1個シラノール基を有する線状シリコーンゴムを用いる場合、アシルオキシ基(例えば、アセトキシ基)及び/又はクロル基を2〜4個有するシランカップリング剤が好ましく、前記アルコール選択透過性線状高分子として両末端及び/又は側鎖に2個のシラノール基を有する線状シリコーンゴムを用いる場合、カップリング反応に用いられない基が反応して架橋構造となるのを防ぐため、アシルオキシ基(例えば、アセトキシ基)及び/又はクロル基を2個有するシランカップリング剤が好ましい。さらに、親水性官能基(例えば、アミノ基、水酸基等)を含むカップリング剤を使用して、分離膜に親水性官能基が含まれると、該親水性官能基が水を選択的に収着し、アルコール分離性能を下げるおそれがあるため、親水性官能基を含まないカップリング剤が好ましい。
【0033】
前記カップリング剤は、二種類以上を併用してもよい。上記に示されるカップリング剤に加えて、本発明の効果を妨げない限り、他のシランカップリング剤を用いてもよい。他のシランカップリング剤としては、特に限定されないが、例えば、オルトケイ酸のアルキルエステル(例えば、オルトケイ酸メチル、オルトケイ酸エチル、オルトケイ酸n−プロピル、オルトケイ酸i−プロピル、オルトケイ酸n−ブチル、オルトケイ酸sec−ブチル、オルトケイ酸t−ブチル等)又はその加水分解物等が挙げられる。
【0034】
カップリング剤によるアルコール選択吸着性微粒子の表面処理(アルコール選択吸着性微粒子とアルコール選択透過性線状高分子の結合)は、アルコール選択透過性線状高分子を含むアルコール選択吸着性微粒子の分散物に、カップリング剤を加え、系内に水蒸気を導入した後、加湿(好ましくは相対湿度60RH%以上)雰囲気下数時間〜10日間分散物を放置することにより実施できる。所望により分散媒(例えば、トルエン等)を用いてもよい。前記表面処理は、触媒の存在下に行うことが好ましい。前記触媒としては、特に限定されないが、例えば、ビス(2−エチルヘキサノエート)スズ(bis(2-ethylhexanoate)tin)、ビス(ネオデカノエート)スズ、ジ−n−ブチルビス(2−エチルヘキシルマレート)スズ、ジ−n−ブチルビス(2−エチルヘキシルマレート)スズ、ジ−n−ブチルビス(2,4−ペンタンジオネート)スズ、ジ−n−ブチルビス(2,4−ペンタンジオネート)スズ、ジ−n−ブチルブトキシクロロスズ、ジ−n−ブチルジアセトキシスズ、ジ−n−ブチルジラウリル酸スズ、ジメチルジネオデカノエートスズ、ジメチルヒドロキシ(オレエート)スズ、ジオクチルジラウリル酸スズ等が挙げられる。このような触媒の市販品として、SNB1100、SNB1101、SNB1710、SND2930、SND2950、SND3110、SND3160、SND3260、SND4220、SND4240、SND4430(以上、Gelest社製)等が挙げられる。
【0035】
表面処理の温度は、特に限定されないが、室温〜60℃程度が好ましい。また、電子線、プラズマ、放射線等を用いて公知の方法に従って表面処理を実施してもよい。表面処理反応を促進するため、無機酸(例えば、硫酸、塩酸、硝酸、クロム酸、次亜塩素酸、ホウ酸、オルトケイ酸、リン酸、炭酸等)、有機酸(例えば、酢酸、ポリアクリル酸、ベンゼンスルホン酸、フェノール、ポリグルタミン酸等)、又はこれらの塩(例えば、金属塩、アンモニウム塩等)を、分散物に添加してもよい。カップリング剤の使用量は、特に限定されないが、アルコール選択吸着性微粒子100重量部に対して、通常1〜200重量部程度であり、アルコール選択吸着性微粒子の表面に対するアルコール選択透過性線状高分子の結合量を高める点から、3〜100重量部程度が好ましい。アルコール選択透過性線状高分子は、アルコール選択吸着性微粒子100重量部に対して、通常3〜200重量部程度であり、アルコール選択吸着性微粒子の表面に対するアルコール選択透過性線状高分子の結合量を高める点から、5〜100重量部程度が好ましい。本発明において、アルコール選択透過性線状高分子はアルコール選択吸着性微粒子の表面に少なくとも一部が結合していればアルコール分離選択性を高めることができるため、結合しているアルコール選択透過性線状高分子の量は特に限定されないが、アルコール選択透過性線状高分子全体に対して通常10〜100%程度であり、50〜100%程度が好ましい。本発明において、アルコール選択吸着性微粒子の表面へのアルコール選択透過性線状高分子の結合は、例えば、トルエン等の溶媒でカップリング反応後の無機粒子を洗浄し、重量減少から判断できる。また、前記洗浄後の無機粒子をX線光電子分光法(XPS)、フーリエ変換赤外分光法(FT-IR)、熱重量分析(TG)等の構造評価を行うことでも、結合したアルコール選択透過性線状高分子の存在が確認できる。
【0036】
前記のように表面処理した後に、得られたアルコール選択吸着性微粒子とアルコール選択透過性高分子の材料とを混合し、アルコール選択吸着性微粒子含有アルコール選択透過性高分子を形成することで、前記アルコール選択吸着性微粒子の表面に結合したアルコール選択透過性線状高分子を配したアルコール選択吸着性微粒子をアルコール選択透過性高分子中に含有させることができる。
【0037】
アルコール選択吸着性微粒子含有アルコール選択透過性高分子の形成方法は、熱を与えて架橋する方法、光重合開始剤を配合して、紫外線照射等により架橋硬化させる方法等が挙げられ、前記アルコール選択透過性高分子がシリコーンゴムの場合、未架橋シリコーンゴムに熱を与えて架橋する方法が好適に挙げられる。熱架橋により良好に架橋硬化させるために架橋剤を配合してもよい。前記架橋剤としては、液状ゴムの種類や得られる架橋物の用途等に応じて、3個以上の反応性官能基を有するシランカップリング剤、シリカ又はシリコーン化合物、有機過酸化物、イオウ、有機イオウ化合物、金属酸化物等の公知の架橋剤を用いることができるが、特に3個以上の反応性官能基を有するシランカップリング剤、シリカ又はシリコーン化合物が好適に用いられる。具体的には、メチルトリアセトキシシラン、ジメチルビニレイテッドアンドトリメチレイテッドシリカ、テトラメチルテトラビニルシクロテトラシロキサン、ビニルターミネイテッドポリジメチルシロキサン、メチルヒドロシロキサン−ジメチルシロキサンコポリマー等が好適に用いられる。これらのうち、メチルヒドロシロキサン−ジメチルシロキサンコポリマー等の、水酸基と反応するSi−H結合を有するシリコーン化合物をアルコール選択透過性高分子の材料の1つとして用い、かつアルコール選択透過性線状高分子として両末端及び/又は側鎖に2個のシラノール基を有する線状シリコーンゴムを用いる場合、アルコール選択吸着性微粒子の表面に結合したアルコール選択透過性線状高分子に残っているもう1個の水酸基との反応によって該アルコール選択透過性線状高分子とアルコール選択透過性高分子を共有結合させることができるため、一部のアルコール選択透過性線状高分子はアルコール選択吸着性微粒子とアルコール選択透過性高分子を架橋することになるので、膜の安定性が高まると共に、水と相互作用する水酸基を除去あるいは減少させることができることから、膜の分離係数を高めることができるという点でより好ましい。
【0038】
前記光重合開始剤としては、公知のものを使用でき、具体的には、以下のような化合物が好適である。これらは単独又は2種以上の混合物として使用される。
ベンゾイン、ベンゾインメチルエーテル、ベンゾインエチルエーテル、ベンゾインイソプロピルエーテル、ベンゾインイソブチルエーテル等のベンゾインとそのアルキルエーテル類;アセトフェノン、2,2−ジメトキシ−2−フェニルアセトフェノン、1,1−ジクロロアセトフェノン、4−(1−t−ブチルジオキシ−1−メチルエチル)アセトフェノン、2−メチル−1−[4−(メチルチオ)フェニル]−2−モルホリノ−プロパン−1−オン、2−ベンジル−2−ジメチルアミノ−1−(4−モルホリノフェニル)−ブタノン−1、ジエトキシアセトフェノン、2−ヒドロキシ−2−メチル−1−フェニルプロパン−1−オン、ベンジルジメチルケタール、4−(2−ヒドロキシエトキシ)フェニル−(2−ヒドロキシ−2−プロピル)ケトン、1−ヒドロキシシクロヘキシルフェニルケトン、2−ヒドロキシ−2−メチル−1−[4−(1−メチルビニル)フェニル]プロパノンオリゴマー等のアセトフェノン類。
【0039】
2−メチルアントラキノン、2−アミルアントラキノン、2−t−ブチルアントラキノン、1−クロロアントラキノン等のアントラキノン類;2,4−ジメチルチオキサントン、2,4−ジイソプロピルチオキサントン、2−クロロチオキサントン、2−イソプロピルチオキサントン、4−イソプロピルチオキサントン、2,4−ジエチルチオキサントン、2,4−ジクロロチオキサントン、1−クロロ−4−プロポキシチオキサントン、2−(3−ジメチルアミノ−2−ヒドロキシ)−3,4−ジメチル−9H−チオキサントン−9−オンメソクロリド等のチオキサントン類;アセトフェノンジメチルケタール、ベンジルジメチルケタール等のケタール類;ベンゾフェノン、4−(1−t−ブチルジオキシ−1−メチルエチル)ベンゾフェノン、3,3′,4,4′−テトラキス(t−ブチルジオキシカルボニル)ベンゾフェノン、o−ベンゾイル安息香酸メチル、4−フェニルベンゾフェノン、4−ベンゾイル−4′−メチル−ジフェニルサルファイド、3,3′,4,4′−テトラ(t−ブチルパーオキシルカルボニル)ベンゾフェノン、2,4,6−トリメチルベンゾフェノン、4−ベンゾイル−N,N−ジメチル−N−[2−(1−オキソ−2−プロペニルオキシ)エチル]ベンゼンメタナミニウムブロミド、(4−ベンゾイルベンジル)トリメチルアンモニウムクロリド等のベンゾフェノン類;アシルフォスフィンオキサイド類及びキサントン類。
【0040】
前記光重合開始剤の添加量としては、前記アルコール選択透過性高分子100重量部に対し、約0.1〜10重量部とすることが好ましい。より好ましくは約1〜3重量部である。
【0041】
本発明に用いるアルコール選択透過性高分子を光により架橋させる場合、光重合開始剤とともに増感剤として塩基性化合物を用いることができる。塩基性化合物としてはアミン化合物を用いることが好ましく、上記アミン化合物としては、特に制限されないが、具体的には、モノメチルアミン、ジメチルアミン、トリメチルアミン、モノエチルアミン、ジエチルアミン、トリエチルアミン、モノプロピルアミン、ジメチルプロピルアミン、モノエタノールアミン、ジエタノールアミン、エチレンジアミン、ジエチレントリアミン、ジメチルアミノエチルメタクリレート、ポリエチレンイミン等が挙げられる。これらの中で特に三級アミン化合物が好適である。上記三級アミン化合物としては、トリエタノールアミン、トリイソプロパノールアミン、トリブタノールアミン、メチルジエタノールアミン、メチルジイソプロパノールアミン、メチルジブタノールアミン、エチルジエタノールアミン、エチルジイソプロパノールアミン、エチルジブタノールアミン、プロピルジエタノールアミン、プロピルジイソプロパノールアミン、プロピルジブタノールアミン、ジメチルエタノールアミン、ジメチルイソプロパノールアミン、ジメチルブタノールアミン、ジエチルエタノールアミン、ジエチルイソプロパノールアミン、ジエチルブタノールアミン、ジプロピルエタノールアミン、ジプロピルイソプロパノールアミン、ジプロピルブタノールアミン、ジブチルエタノールアミン、ジブチルイソプロパノールアミン、ジブチルブタノールアミン、メチルエチルエタノールアミン、メチルエチルイソプロパノールアミン、メチルエチルブタノールアミン、ベンジルジエタノールアミン、N−フェニルジエタノールアミン、テトラエタノールエチレンジアミン、テトラプロパノールエチレンジアミン等が挙げられる。また、これら水酸基含有三級アミン化合物にエチレンオキサイドを付加させてポリエチレングリコール鎖を導入したもの、水酸基含有三級アミン化合物に水酸基と反応性を有する官能基を含有するモノマーを付加させて重合性二重結合を導入したもの、ポリマー又はオリゴマーに三級アミノ基を導入したもの等も用いることができる。これらのアミン化合物は単独又は2種以上を組み合わせて用いることができる。
【0042】
上記増感剤の使用量は、光重合開始剤100重量部に対し、約1〜10重量部とすることが好ましい。より好ましくは約5〜8重量部である。
【0043】
上記架橋反応は、適当な溶媒中、熱架橋の場合は加熱により、光重合の場合は紫外線の照射により実施することが好ましい。溶媒としては、上記アルコール選択透過性高分子を溶解するものであれば特に限定されないが、前記無極性溶媒が好適に使用できる。熱架橋の加熱は、通常約40〜160℃、好ましくは約60〜120℃で、通常約1〜24時間、好ましくは約5〜10時間で行われる。光重合の紫外線照射は、通常約200〜400nm、好ましくは約250〜370nmの波長を用いて、通常約30秒〜10分、好ましくは約1〜3分で行われる。なお、熱架橋と光重合とは併用して行うこともでき、例えば熱架橋の後に光重合を行うか、光重合させた後に熱架橋するか、あるいは光重合と熱架橋を同時に行うこともできる。かくして、アルコール選択透過性高分子が生成すると同時に、該アルコール選択透過性高分子内にアルコール選択吸着性微粒子とアルコール選択透過性高分子との界面にアルコール選択透過性線状高分子を配した分離膜が得られる。
【0044】
本発明の分離膜の膜厚は、本発明の効果を妨げない限り、特に限定されないが、通常1〜300μm程度、好ましくは2〜150μmである。
【0045】
本発明の他の一つは、上記で得られた分離膜を用いて、アルコール水溶液又はアルコール発酵液から、アルコールを分離する方法である。すなわち、本発明のアルコール分離方法はアルコール水溶液又はアルコール発酵液を上記で得られた分離膜に接触させて該アルコール水溶液中又はアルコール発酵液中のアルコールを選択的に透過させる工程を含むことを特徴とする。
【0046】
前記アルコール分離方法において、分離膜の透過側は、通常、減圧又はスウィープガスを流すことによって透過側の蒸気圧を低く保つ。また、本分離方法は、25℃〜200℃、好ましくは25〜180℃、より好ましくは25〜150℃の温度条件下で実施するのが望ましい。
【0047】
上記アルコール分離方法は、例えば、バイオマス発酵によって得られたアルコール発酵液からアルコールを分離するのに適用することができる。本発明の分離対象となるアルコールは、特に限定されないが、エタノール、プロパノール(1−プロパノール又は2−プロパノール)、ブタノール(1−ブタノール、2−ブタノール、2−メチル−1−プロパノール又は2−メチル−2−プロパノール)等が挙げられる。
【実施例】
【0048】
以下に実施例を用いて本発明を説明するが、本発明はこれらに限定されるものではない。
【0049】
[実施例1]
シリコーンゴムマクロマー(両末端シラノール ポリジメチルシロキサン)(商品コード:DMS-S12、Gelest社製)1.46gを100mlスクリューバイアル瓶に量り取る。これに触媒のbis(2-ethylhexanoate)tin (商品コード:SNB1100、Gelest社製)を0.005g加え、溶液を撹拌する。次いで、ジメチルジアセトキシシラン(商品コード:SID4076.0、Gelest社製)を0.94g加え、溶液を撹拌する。この溶液に、量り取った疎水性ゼオライト(SiO/Al=1800)(商品名:HSZ-890、東ソー社製)を8g、さらにトルエン10gを加えて一昼夜撹拌する。瓶の蓋を開けて加湿(60RH%以上)雰囲気下で1時間保持し水分を系内に導入し、次いで瓶の蓋を閉じて室温で3日程度保持し、導入した水分を用いてシリコーンゴムのグラフト重合反応を行い、疎水性ゼオライト微粒子の表面処理を行う。これにより、疎水性ゼオライト微粒子表面に線状シリコーンゴム層を形成する。次いで、前記溶液にトルエンを36g入れ、10分撹拌する。架橋シリコーンゴムの主剤(シリカ:30〜40重量%、テトラ(トリメチルシロキシ)シラン:1〜10重量%、キシレン:1重量%未満及びエチルベンゼン:1重量%未満)(商品名:SILPOT184、東レダウコーニング社製)を5.09g加え、10分撹拌する。架橋シリコーンゴムの硬化剤(シリカ:10〜20重量%、テトラメチルテトラビニルシクロテトラシロキサン:1〜10重量%及びオクタメチルシクロテトラシロキサン:0.1〜1重量%)(商品名:SILPOT184、東レダウコーニング社製)を0.51g入れ、10分撹拌する。調製した溶液をテフロン(登録商標)シャーレにキャストし、室温で一昼夜乾燥後、80℃のオーブン中で一昼夜熱処理し、重合を完了させる。このようにして膜厚60μmの分離膜を作製した(ゼオライトの重量分率:50重量%、平均粒子径:14μm)。得られた分離膜の断面図を図1に示す。
[実施例2]
シリコーンゴムマクロマー(両末端シラノール ポリジメチルシロキサン)(商品コード:DMS-S12、Gelest社製)1.98gを100mlスクリューバイアル瓶に量り取る。これに触媒のbis(2-ethylhexanoate)tin (商品コード:SNB1100、Gelest社製)を0.01g加え、溶液を撹拌する。次いで、ジメチルジアセトキシシラン(商品コード:SID4076.0、Gelest社製)を2.02g加え、溶液を撹拌する。この溶液に、量り取った疎水性ゼオライト(SiO/Al=1800)(商品名:HSZ-890、東ソー社製)を20g、さらにトルエン45gを加えて一昼夜撹拌する。瓶の蓋を開けて加湿(60RH%以上)雰囲気下で1時間保持し水分を系内に導入し、次いで瓶の蓋を閉じて撹拌しながら室温で3日程度保持し、導入した水分を用いてシリコーンゴムのグラフト重合反応を行い、疎水性ゼオライト微粒子の表面処理を行う。これにより、疎水性ゼオライト微粒子表面に線状シリコーンゴム層を形成する。次いで、前記溶液13.80gを100mlスクリューバイアル瓶に量り取り、トルエンを0.15g入れ、10分撹拌する。ビニルターミネイテッドポリジメチルシロキサン(商品コード:DMS-V41,Gelest社製)のトルエン溶液(50重量%)5.36gとメチルヒドロシロキサン−ジメチルシロキサンコポリマー(商品コード:HMS-064,Gelest社製)のトルエン溶液(50重量%)1.06gをスクリューバイアル瓶に加え、スターラーを使用して撹拌した。白金触媒溶液を100μl添加し、スターラーで3分間撹拌した。白金触媒溶液は白金-ジビニルテトラメチルジシロキサン錯体/ビニル末端ポリジメチルシロキサン溶液(白金濃度3〜3.5重量%,商品コード:SIP6830.3,Gelest社製)のトルエン溶液(4重量%)である。調製した溶液をテフロン(登録商標)シャーレにキャストし、室温で一昼夜乾燥後、80℃のオーブン中で一昼夜熱処理し、重合を完了させる。このようにして膜厚60μmの分離膜を作製した(ゼオライトの重量分率:50重量%、平均粒子径:14μm)。得られた分離膜の断面図を図1に示す。この膜では、アルコール選択透過性線状高分子はアルコール選択吸着性微粒子と、アルコール選択透過性高分子の両方に共有結合している。
【0050】
[比較例1]
100mlスクリューバイアル瓶に架橋シリコーンゴムの主剤(商品名:SILPOT184、東レダウコーニング社製)を15g量り取る。トルエンを46.5g入れ、10分撹拌する。架橋シリコーンゴムの硬化剤(商品名:SILPOT184、東レダウコーニング社製)を1.5g入れ、10分撹拌する。調製した溶液をテフロン(登録商標)シャーレにキャストし、室温で一昼夜乾燥後、80℃のオーブン中で一昼夜熱処理し、重合を完了させる。このようにして膜厚60μmの分離膜を作製した。
【0051】
[比較例2]
100mlスクリューバイアル瓶に架橋シリコーンゴムの主剤(商品名:SILPOT184、東レダウコーニング社製)を7.27g量り取る。トルエンを46g入れ、10分撹拌する。架橋シリコーンゴムの硬化剤(商品名:SILPOT184、東レダウコーニング社製)を0.73g入れ、10分撹拌する。この溶液に疎水性ゼオライト(SiO/Al=1800)(商品名:HSZ-890、東ソー社製)を8g加えてさらに10分撹拌する。調製した溶液をテフロン(登録商標)シャーレにキャストし、室温で一昼夜乾燥後、80℃のオーブン中で一昼夜熱処理し、重合を完了させる。このようにして膜厚60μmの分離膜を作製した(ゼオライトの重量分率:50重量%、平均粒子径:14μm)。得られた分離膜の断面図を図2に示す。
[比較例3]
シリコーンゴムマクロマー(両末端シラノール ポリジメチルシロキサン)(商品コード:DMS-S12、Gelest社製)2.4gを100mlスクリューバイアル瓶に量り取る。これに、量り取った疎水性ゼオライト(SiO/Al=1800)(商品名:HSZ-890、東ソー社製)を8g、さらにトルエン10gを加えて一昼夜撹拌する。瓶の蓋を開けて加湿(60RH%以上)雰囲気下で1時間保持し水分を系内に導入し、次いで瓶の蓋を閉じて室温で3日程度保持し、導入した水分を用いてシリコーンゴムのグラフト重合反応を行い、疎水性ゼオライト微粒子の表面処理を行う。これにより、疎水性ゼオライト微粒子表面に線状シリコーンゴム層を形成する。次いで、前記溶液にトルエンを36g入れ、10分撹拌する。架橋シリコーンゴムの主剤(シリカ:30〜40重量%、テトラ(トリメチルシロキシ)シラン:1〜10重量%、キシレン:1重量%未満及びエチルベンゼン:1重量%未満)(商品名:SILPOT184、東レダウコーニング社製)を5.09g加え、10分撹拌する。架橋シリコーンゴムの硬化剤(シリカ:10〜20重量%、テトラメチルテトラビニルシクロテトラシロキサン:1〜10重量%及びオクタメチルシクロテトラシロキサン:0.1〜1重量%)(商品名:SILPOT184、東レダウコーニング社製)を0.51g入れ、10分撹拌する。調製した溶液をテフロン(登録商標)シャーレにキャストし、室温で一昼夜乾燥後、80℃のオーブン中で一昼夜熱処理し、重合を完了させる。このようにして膜厚60μmの分離膜を作製した(ゼオライトの重量分率:50重量%、平均粒子径:14μm)。
【0052】
前記実施例1及び比較例1〜3の分離膜中の非架橋シリコーンゴムの有無、疎水性ゼオライトの重量分率、カップリング剤の有無、及び膜厚を下記表1に示す。
【表1】

【0053】
[試験例1]
実施例1及び比較例1〜3で得た分離膜を用いてパーベーパレーション法によってアルコール/水分離能を測定した。すなわち、膜温度60℃において、エタノール水溶液を分離膜に供給し、分離膜を透過した溶媒の透過流束(単位:g m−2−1)を透過液重量から測定し、下記条件で透過液濃度、透過流束をガスクロマトグラフィーで約8時間測定し、上記式[II]に従って分離係数αを算出した。透過液のサンプリングは、1時間に1回行い、約8時間経過後に分離係数及び透過流束が定常状態になったときの結果を表2〜4に示す。
【0054】
<アルコール/水分離能測定装置の設定条件>
アルコール水溶液供給量:約500ml/分、
測定温度:60℃、
供給水溶液組成:アルコール/水=4/96(wt/wt)、
透過側圧力;<1kPa
<ガスクロマトグラフィー分析条件>
製品:GC−3200S(ジーエルサイエンス社製)
Heキャリアーガス量:約20ml/分、
カラム: Gaskuropack 54 60/80 1/8" x 2m
【0055】
【表2】

比較例3においては、測定開始から約8時間経過後には、上記表2の透過流束及び分離係数の値になり、経時的な分離性能の低下が見られた。
【0056】
[試験例2]
アルコールとして2−プロパノール(イソプロパノール)を用いる以外は、試験例1と同様にして、アルコール/水分離能を測定した。
【0057】
【表3】

比較例3においては、測定開始から約8時間経過後には、上記表3の透過流束及び分離係数の値になり、経時的な分離性能の低下が見られた。
【0058】
[試験例3]
アルコールとしてブタノール(1−ブタノール)を用いる以外は、試験例1と同様にして、アルコール/水分離能を測定した。
【0059】
【表4】

比較例3においては、測定開始から約8時間経過後には、上記表4の透過流束及び分離係数の値になり、経時的な分離性能の低下が見られた。
【0060】
上記表2〜4から、本発明の分離膜は、透過流束及び分離係数が優れており、従来型の有機高分子/無機粒子複合膜に比べて優れた分離性能を有することが明らかになった。また、膜に欠陥は発生せず、例えば経時的な安定性にも優れることが確認された。
【産業上の利用可能性】
【0061】
本発明の分離膜は、アルコールを、アルコール水溶液又はアルコール発酵溶液から分離するための用途に使用されるものであり、例えば、バイオマスエネルギーの製造等の分野において有用である。
【符号の説明】
【0062】
1 アルコール選択透過性高分子
2 アルコール選択吸着性微粒子
3 アルコール選択透過性線状高分子

【特許請求の範囲】
【請求項1】
アルコール選択吸着性微粒子とアルコール選択透過性高分子との界面に、該アルコール選択吸着性微粒子の表面に結合したアルコール選択透過性線状高分子を配したことを特徴とするアルコール分離膜。
【請求項2】
アルコール選択吸着性微粒子とアルコール選択透過性高分子との界面に、アルコール選択透過性線状高分子を配し、該アルコール選択透過性線状高分子が、該アルコール選択吸着性微粒子の表面に結合し、かつ該アルコール選択透過性高分子に結合しており、該アルコール選択透過性線状高分子が該アルコール選択吸着性微粒子と該アルコール選択透過性高分子とを架橋していることを特徴とする請求項1記載のアルコール分離膜。
【請求項3】
結合が共有結合であることを特徴とする請求項1又は2に記載の分離膜。
【請求項4】
アルコール選択透過性線状高分子が、疎水性有機材料であることを特徴とする請求項1〜3のいずれかに記載の分離膜。
【請求項5】
疎水性有機材料が、線状シリコーンゴム及び線状炭化水素からなる群から選ばれる1以上であることを特徴とする請求項4に記載の分離膜。
【請求項6】
アルコール選択吸着性微粒子が、疎水性無機粒子であることを特徴とする請求項1〜5のいずれかに記載の分離膜。
【請求項7】
疎水性無機粒子が、疎水性ゼオライトであることを特徴とする請求項6に記載の分離膜。
【請求項8】
アルコール選択透過性高分子が、架橋高分子であることを特徴とする請求項1〜7のいずれかに記載の分離膜。
【請求項9】
架橋高分子の材料が、シリコーンゴムであることを特徴とする請求項8に記載の分離膜。
【請求項10】
アルコール選択吸着性微粒子とアルコール選択透過性線状高分子とカップリング剤とを反応させる工程、前記工程で得られるアルコール選択吸着性微粒子とアルコール選択透過性高分子の材料とを混合し、アルコール選択吸着性微粒子含有アルコール選択透過性高分子を形成する工程を含むことを特徴とする、請求項1〜9のいずれかのアルコール分離膜の製造方法。
【請求項11】
カップリング剤が、カップリング反応によって酸を発生するシランカップリング剤であることを特徴とする請求項10に記載の製造方法。
【請求項12】
カップリング反応によって酸を発生するシランカップリング剤が、ジアセトキシシラン、トリアセトキシシラン、テトラアセトキシシラン、ジクロロシラン、トリクロロシラン及びテトラクロロシランからなる群から選ばれる1以上であることを特徴とする請求項11に記載の製造方法。
【請求項13】
請求項1〜9のいずれかに記載の分離膜を用いて、アルコール水溶液又はアルコール発酵液からアルコールを分離する方法。

【図1】
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【図2】
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【公開番号】特開2011−183378(P2011−183378A)
【公開日】平成23年9月22日(2011.9.22)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−26074(P2011−26074)
【出願日】平成23年2月9日(2011.2.9)
【出願人】(591178012)財団法人地球環境産業技術研究機構 (153)
【Fターム(参考)】