説明

新規アルドラーゼ並びに光学活性IHOG及びモナティンの製造方法

【課題】モナティン製造に有用な光学活性IHOGの製造方法、光学活性モナティンの製造方法、及び当該方法に用いるアルドラーゼを提供する。
【解決手段】インドールピルビン酸とピルビン酸(ないしオキサロ酢酸)から、光学活性モナティン合成における中間体として有用な光学純度の高い4−(インドール−3−イルメチル)−4−ヒドロキシ−2−オキソグルタル酸を合成することができる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、モナティンの前駆体である4−(インドール−3−イルメチル)−4−ヒドロキシ−2−オキソグルタル酸(IHOG)を生成する新規アルドラーゼ、及びこれを用いた4R−IHOGの製造方法、ならびに4R−モナティンの製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
下記構造式で示される4−(インドール−3−イルメチル)−4−ヒドロキシ−グルタミン酸(3−(1−アミノ−1,3−ジカルボキシ−3−ヒドロキシ−ブタン−4−イル)−インドール)(以下、「モナティン」と称する。)は、植物シュレロチトン イリシホリアス(Schlerochiton ilicifolius)の根に含有され、甘味強度が著しく高いことから、特に低カロリー甘味料として期待される化合物である(特開昭64−25757号公報参照)。
【0003】
【化1】

【0004】
上記モナティンは2つの不斉(2位、4位)が存在し、立体異性体は、(2S,4S)体と報告されていた。その他に3種の立体異性体の存在が確認され、何れもショ糖の数十倍から数千倍の甘味強度を有することが確かめられている(表1)。
【0005】
【表1】

【0006】
表1に示すように、(2S,4S)−モナティンのみならず、その他の立体異性体の何れもがそれぞれ高倍率の甘味度を有しているが、特に、(2R,4R)−モナティンは甘味度がショ糖の2700倍と著しく高く、甘味剤或いは甘味剤成分(甘味料)として最も期待される異性体である。従って、(2R,4R)−モナティンを効率的に生成する方法の開発が望まれる。
【0007】
本発明者らは、試薬として購入可能であるインドールピルビン酸とピルビン酸とを用いて、下記の反応(a)及び(b)からなる新たなモナティンの合成方法を開発した(特許文献1)。
(a)インドールピルビン酸とピルビン酸(ないしオキサロ酢酸)のアルドール縮合により前駆体ケト酸(IHOG)を合成する反応工程
(b)IHOGの2位をアミノ化する反応工程
【0008】
【化2】

【0009】
特許文献2は、上記モナティンの合成ルートにおける(a)のアルドール縮合反応について、インドールピルビン酸とピルビン酸(ないしオキサロ酢酸)から前駆体ケト酸(IHOG)を生成することができる酵素として、シュードモナス タエトロレンス(Pseudomonas taetrolens)及びシュードモナス コロナファシエンス(Pseudomonas coronafaciens)由来のアルドラーゼ等を開示している。これらのアルドラーゼは、IHOG以外にも、4−フェニルメチル−4−ヒドロキシ−2−オキソグルタル酸(PHOG)等のケト酸を生成する反応を触媒することが分かっている。
【0010】
IHOGには4R体と4S体の2つの異性体が存在するが、最も甘味度の高い異性体である(2R,4R)−モナティンを効率的に生成するためには、上記モナティンの合成ルートにおける(a)のアルドール縮合反応において、4R体のIHOG(以下「4R−IHOG」、4S体を「4S−IHOG」という。)を優先的に生成させ、4R体リッチなIHOGを得ることが望ましい。また、キラル分子は、異性体ごとに異なる生理活性を示すことが多々あるが、IHOGについても異性体ごとに異なる性質を有している可能性があり、4R体と4S体を作り分けることにより、モナティンの前駆体以外で他の用途に利用することも考えられる。したがって、4R−IHOG、4S−IHOGのうち一方の異性体を優先的に生成する方法の開発は、工業上極めて有用である。
【0011】
【特許文献1】国際公開第03/056026号パンフレット
【特許文献2】国際公開第04/018672号パンフレット
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0012】
しかしながら、従来の化学合成系では、生成するIHOGは、4R体と4S体の混合物(ラセミ体)であった。また、本発明者らはIHOGの合成に好適なアルドラーゼとして、Pseudomonas taetrolens由来のアルドラーゼを取得しているが、当該アルドラーゼによって生成されるIHOGは4R体リッチではなく、反応の条件にもよるが、むしろやや4S体リッチなIHOGを生成することが明らかとなっていた。(特許文献1、特許文献2)。また、4R−IHOGを優先的に生成するアルドラーゼについては、今までのところ、報告されてない。したがって、現状では、4R−IHOG、特に、4R体リッチなIHOGを効率的に生成する方法が確立されていない。
【0013】
本発明は、上記に鑑みてなされたものであって、PHOGやIHOG、特に4R−IHOGを生成する新規アルドラーゼ、及びこれを用いたIHOGの製造方法、ならびにモナティンの製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0014】
本発明者等は前記課題を解決すべく鋭意検討した結果、ある種の微生物に、目的とする4R−IHOGの合成に好適に利用できるアルドラーゼが存在することを見出し、これらを用いることにより、4R−IHOG及び4R−モナティンの製造方法に関する本発明に想到した。
【0015】
即ち、本発明は以下の内容を含むものである。
[1]
下記(a)又は(b)
(a)配列番号2記載のアミノ酸配列からなるタンパク質、又は
(b)配列番号2記載のアミノ酸配列と少なくとも相同性が70%以上であって、4R−アルドラーゼ活性を有するタンパク質、
のいずれかに記載のタンパク質、又は、それを含有する微生物を、
インドール−3−ピルビン酸及びピルビン酸又はオキサロ酢酸に作用させ、
光学純度70%以上の下記式(1)で示される(4R)−4−(インドール−3−イルメチル)−4−ヒドロキシ−2−オキソグルタル酸(4R−IHOG)又はその塩を生成させることを特徴とする、4R−IHOG又はその塩の製造方法。
【化3】

【0016】
[2]
下記(a)又は(b)
(a)配列番号2記載のアミノ酸配列からなるタンパク質、又は
(b)配列番号2記載のアミノ酸配列と少なくとも相同性が70%以上であって、4R−アルドラーゼ活性を有するタンパク質、
のいずれかに記載のタンパク質、又は、それを含有する微生物を、
インドール−3−ピルビン酸及びピルビン酸又はオキサロ酢酸に作用させ、
4R−IHOG又はその塩を優先的に生成させる第1の工程、及び、
前記第1の工程によって得られた4R−IHOG又はその塩のカルボニル基をアミノ基に変換し、光学純度90%以上の下記式(2)で示される4R−モナティン又はその塩を得る第2の工程、
を含むことを特徴とする4R−モナティン又はその塩の製造方法。
【化4】

(式中、波線の結合はR−配置及びS−配置の両方を含むことを表す。)
[3]
前記第2の工程において、カルボニル基のアミノ基への変換が、4R−IHOGに酵素を作用せしめてアミノ化することにより行なわれるものである、[2]記載の4R−モナティン又はその塩の製造方法。
[4]
前記第2の工程において、カルボニル基のアミノ基への変換が、反応液に含まれる4−(インドール−3−イルメチル)−4−ヒドロキシ−2−オキソグルタル酸を、中性又はアルカリ性条件下において下記一般式(3)
【化5】

(上記一般式(3)において、Rは水素原子、アルキル基、アリール基又はアラルキル基を表す。)
で表されるアミン化合物又はその塩と反応せしめ、下記式(4)に示される4−ヒドロキシ−4−(3−インドリルメチル)−2−ヒドロキシイミノグルタル酸(IHOG−oxime)を生成させ、生成したIHOG−oxime又はその塩の4R体を晶析し、
得られた4R体のIHOG−oxime又はその塩を還元し、生成した光学純度90%以上の4R−モナティン又はその塩を採取するものである、[2]記載の4R−モナティン又はその塩の製造方法。
【化6】

[5]
前記一般式(3)で表されるアミン化合物が、ヒドロキシルアミン、メトキシアミン、ベンジルオキシアミンからなる群より選ばれる少なくとも一種のアミン化合物である、[4]記載の4R−モナティン又はその塩の製造方法。
[6]
4R体のIHOG−oxime又はその塩の還元が、水素及び水素添加触媒の存在下で実施されることを特徴とする[4]又は[5]に記載の4R−モナティン又はその塩の製造方法。
[7]
前記第2の工程において、晶析により(2R,4R)−モナティンを採取することを特徴とする[4]〜[6]のいずれか一項に記載の4R−モナティン又はその塩の製造方法。
[8]
前記第2の工程において、晶析溶媒として水、アルコール溶媒又は含水アルコール溶媒を用いることを特徴とする[4]〜[7]のいずれか1項に記載の4R−モナティン又はその塩の製造方法。
[9]
前記方法に用いられるタンパク質が、スフィンゴモナス属又はバークホルデリア属細菌から選ばれる微生物に由来するタンパク質である、[1]〜[8]のいずれか一項に記載の製造方法。
[10]
前記微生物は、スフィンゴモナス エスピー(Sphingomonas sp.)AJ110329株又はAJ110372株、バークホルデリア エスピー(Burkholderia sp.)AJ110371株であることを特徴とする[9]記載の製造方法。
【0017】
[11]
下記(a)〜(c)のいずれかのタンパク質。
(a)配列番号2に記載のアミノ酸配列からなるタンパク質
(b)配列番号2記載のアミノ酸配列と少なくとも相同性が70%以上であって、4R−アルドラーゼ活性を有するタンパク質
(c)配列表の配列番号2に記載のアミノ酸配列において1若しくは数個のアミノ酸残基の置換、欠失、挿入、付加、又は逆位を含むアミノ酸配列を有し、かつ、アルドラーゼ活性を有するタンパク質
[12]
配列番号2記載のアミノ酸配列と少なくとも相同性が70%以上であって、4R−アルドラーゼ活性を有するタンパク質が、配列番号13又は15のいずれかに記載のタンパク質である、[11]記載のタンパク質。
[13]
[11]又は[12]に記載のタンパク質をコードするDNA。
[14]
下記(d)又は(e)のDNA。
(d)配列番号1記載の塩基配列又は同配列中塩基番号210〜1004の塩基配列からなるDNA
(e)配列番号1記載の塩基配列若しくは同配列中塩基番号210〜1004の塩基配列と相補的な塩基配列からなるDNAとストリンジェントな条件でハイブリダイズし、かつ、アルドラーゼ活性を有するタンパク質をコードするDNA
[15]
配列番号1記載の塩基配列若しくは同配列中塩基番号210〜1004の塩基配列と相補的な塩基配列からなるDNAとストリンジェントな条件でハイブリダイズし、かつ、アルドラーゼ活性を有するタンパク質をコードするDNAが、(f)配列番号12記載の塩基配列若しくは同配列中塩基番号399〜1253の塩基配列からなるDNA、又は(g)配列番号14記載の塩基配列若しくは同配列中塩基番号531〜1385の塩基配列からなるDNAのいずれかのDNAである、[14]記載のDNA。
[16]
[14]又は[15]に記載のDNAとベクターDNAを接続して得られることを特徴とする組換えDNA。
[17]
[16]記載の組換えDNAによって形質転換された細胞。
[18]
[17]記載の細胞を培地中で培養し、培地及び/又は細胞中にアルドラーゼ活性を有するタンパク質を蓄積させることを特徴とするアルドラーゼ活性を有するタンパク質の製造方法。
【発明の効果】
【0018】
本発明のアルドラーゼを用いることにより、インドールピルビン酸とピルビン酸(ないしオキサロ酢酸)から4R−IHOGを優先的に生成できる。また、生成した4R−IHOGをアミノ化することにより4R−モナティンを生成できるため、高甘味度モナティンの製造にきわめて有利に用いることができる。
【0019】
また、従来は、ラセミ体のIHOG(4R、4S−IHOG)から4R体を単離しようとする場合、4R、4S−IHOGをオキシム化し、得られた4−ヒドロキシ−4−(3−インドリルメチル)−2−ヒドロキシイミノグルタル酸(以下「IHOG−oxime」という。)にキラルアミンを作用させて4R体のIHOG−oxime(以下「4R−IHOG−oxime」という。)を晶析する必要があった。これに対し、本発明によれば、アルドール縮合反応の段階で4R体リッチなIHOGを生成させることができるため、晶析の際、キラルアミンを用いて光学分割する必要がなく、オキシム化後、そのまま4R−IHOG−oximeを晶析させることができる。したがって、4R−IHOGの精製処理プロセスを軽減することが可能となる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0020】
本発明者らの研究により、ある種の微生物に、4R−IHOGを優先的に合成する活性を有するアルドラーゼを生成する菌株が存在することが確認され、4R−IHOG及び4R−モナティンの製造方法が見出された。
【0021】
以下、本発明について、
[I] 光学活性IHOGの製造方法
[II] 光学活性モナティンの製造方法
の順に添付の図面を参照して詳細に説明する。
【0022】
[I] 光学活性IHOGの製造方法
(1)反応
本発明の4R−IHOGの製造方法について述べる。本発明の4R−IHOGの製造方法は、下記式(5)
【化7】

で示されるインドールピルビン酸と、
下記一般式(6)
【化8】

(式中、Rは水素原子又はカルボキシル基)
で示されるピルビン酸又はオキサロ酢酸とを反応せしめることにより、
下記式(1)
【化9】

で示される4R−IHOGを優先的に製造する方法であって、
当該反応を触媒するタンパク質存在下で反応を実施する点に特徴を有する。
【0023】
前記「反応を触媒するタンパク質」とは、好ましくは4R−アルドラーゼ活性を有するタンパク質であって、微生物に由来するものであっても、化学的に合成されたタンパク質であっても良い。すなわち、4R−アルドラーゼ活性とは、前記一般式(5)で表されるインドールピルビン酸と、前記一般式(6)で表されるピルビン酸又はオキサロ酢酸とのアルドール縮合により、前記一般式(1)で示される4R−IHOGを優先的に生成する反応、及び/又は、フェニルピルビン酸とピルビン酸から4R−PHOGを優先的に生成する反応を触媒できる活性をいう。このようなタンパク質であれば、特に限定なく本発明において使用可能である。本明細書において、「4R−IHOGを優先的に」製造するとは、生成されるIHOGの4位の光学純度がR体となる比率がS体となる比率よりも高いことを指し、好ましくは光学純度70%以上、特に好ましくは90%以上でR体となる反応効率を達成し得ることを指す。反応諸条件によっては、光学純度の比率は変動するが、当業者であれば反応の至適条件を容易に設定可能なため、最適な条件付近で上記比率が達成される方法であれば、反応条件を変動させた場合に上記比率が達成されない場合があっても本発明の方法に含まれる。また、4R体と4S体の混合比率を適宜調整する目的で、本発明に用いることの出来るタンパク質を用い、反応条件を調整することにより上記比率以下の反応を実施する場合も、本発明の製造方法に含まれる。なお、4R−IHOGの光学純度は、鏡像体過剰率(%e.e.)として([4R−IHOG]−[4S−IHOG])/([4R−IHOG]+[4S−IHOG])*100により決定できる。
【0024】
当該反応を触媒するタンパク質としては、(2)アルドラーゼ活性を有するタンパク質の項において後述するアルドラーゼが好ましい。反応に当たっては、当該反応を触媒するタンパク質(アルドラーゼ)を生成する菌体を培養して得たアルドラーゼを用いても良いし、組み換えDNA技術により当該反応を触媒するタンパク質を生成する形質転換体を作成し、当該形質転換体を培養して得たアルドラーゼを用いても良い。
当該反応を触媒するタンパク質は、4R−IHOGを優先的に合成する反応を触媒可能な限り、いかなる形態で反応系に添加してもよい。すなわち、当該反応を触媒するタンパク質を単体で反応系に添加してもよいし、当該反応を触媒するタンパク質(アルドラーゼ)を含むアルドラーゼ活性を有する組成物の形態で反応系に添加してもよい。
【0025】
ここで「アルドラーゼ活性を有する組成物」とは、当該反応を触媒するタンパク質(アルドラーゼ)を含むものであればよく、具体的には培養物、培地(培養物から菌体を除去したもの)、菌体(培養菌体、洗浄菌体のいずれも含む)、菌体を破砕あるいは溶菌させた菌体処理物、前記培地及び/又は細胞を精製処理することにより得られるアルドラーゼ活性を有する組成物(粗酵素液、精製酵素)などを含む。例えば、アルドラーゼ産生菌又は組み換えDNAによって形質転換された細胞を用いて、光学活性IHOGを製造する場合、培養しながら、培養液中に直接基質を添加してもよいし、培養液より分離された菌体、洗浄菌体などいずれも使用可能である。また、菌体を破砕あるいは溶菌させた菌体処理物をそのまま用いてもよいし、当該菌体処理物からアルドラーゼを回収し、粗酵素液として使用してもよいし、さらに、酵素を精製して用いてもよい。すなわち、アルドラーゼ活性を有する画分であれば、どのような形態であっても本発明の4R−IHOGの製造方法に使用することが可能である。
【0026】
アルドラーゼ又はアルドラーゼ活性を有する組成物を用いてアルドール反応を進行させるには、インドールピルビン酸、及び、ピルビン酸又はオキサロ酢酸、当該反応を触媒するタンパク質又はアルドラーゼ含有物を含む反応液を20〜50℃の適当な温度に調整し、pH6〜12に保ちつつ、30分〜5日静置、振とう、又は攪拌すればよい。
ここで、より立体選択的にIHOGを生成せしめる場合に、自発的なアルドール縮合を抑制することにより、より高い立体選択性をもって目的とする4R−IHOGを生成せしめることも出来る。ここで、インドール−3−ピルビン酸とピルビン酸をアルドール縮合せしめてIHOGを生成させる場合を例として挙げる。本反応はpHをアルカリ側、例えばpH9〜12あたりで反応せしめることにより、自発的にアルドール縮合する。この自発的なアルドール縮合により生成したIHOGは、4位の立体に関しては選択性が低く、4Rと4Sの混合物(ラセミ体)を与える。そこで本発明の一態様においては、反応を触媒するタンパク質を作用せしめる際の、反応pHをpH9〜pH7、より好ましくはpH8.7〜pH8付近に制御することにより、自発的なIHOGの生成が抑制され、一方で当該タンパク質によって4R−IHOG選択的にアルドール縮合せしめるため、結果として生成したIHOGの4R選択性を上げることができる。このような反応条件については、当該業者であれば簡単な予備的検討によって条件を決定することが出来る。
【0027】
また、本発明で開示するアルドラーゼは2価カチオンを添加することにより酵素活性が増加する、いわゆるクラスIIのアルドラーゼに属すると考えられる。ここで反応系に添加する2価カチオンの濃度についても、自発的なアルドール縮合の進行に影響を与えることから、結果として生成するIHOGの4位の立体選択性に影響を与えることがある。反応系に添加する2価カチオンの種類や濃度については、当該業者であれば簡単な予備検討により好適な条件を決定することができる。
【0028】
また、Mg2+、Mn2+、Ni2+、Co2+などの2価のカチオンを当該反応液に添加することによって反応速度を向上させることもできる。コスト等の面から、好ましくはMg2+を用いることがある。ここで、2価カチオンを反応液に添加する際は、反応を阻害しない限りにおいてはいずれの塩を用いてもよいが、好ましくはMgCl2、MgSO4、MnSO4等を用いることがある。これら2価カチオンの添加濃度は当該業者であれば簡単な予備検討によって決定することができるが、2価カチオンとして、Mg2+を添加した場合の例をあげると、添加するMg2+を1mM以下、好ましくは0.5mM以下、より好ましくは0.1mM以下にすることにより、自発的なIHOGの縮合速度を抑制し、結果としてアルドラーゼを作用せしめた場合に生成するIHOGの4R選択性を上げることが出来る。
【0029】
以下、本発明のIHOGの製造方法を実施する際の好ましい反応条件の一例を挙げれば、100mM バッファー、300mM インドール−3−ピルビン酸、600mM ピルビン酸、0.1mM MgCl2、1%(v/v)トルエンからなる反応液に、酵素源としてアルドラーゼ発現E.coliの洗浄菌体を10%(w/v)となるように添加し、37℃で4時間振とう反応させることにより、4−(インドール−3−イルメチル)−4−ヒドロキシ−2−オキソグルタル酸(IHOG)が得られる。
【0030】
生成したIHOGは、公知の手法により分離精製することができる。例えば、イオン交換樹脂に接触させて塩基性アミノ酸を吸着させ、これを溶離後晶析する方法又は溶離後、活性炭等による脱色濾過し晶析する方法等が挙げられる。また、生成したIHOGを含有する反応溶液を次の反応工程にそのまま用いることも可能である。
【0031】
一例を挙げると、本発明の方法に従ってIHOGを生成させた場合の4S−IHOGと4R−IHOGの生成比は、例えば、300mMのインドール−3−ピルビン酸と600mMのピルビン酸を基質として、0.1mM MgCl2存在下、pH8.7〜pH8.0の反応条件では、SpALDではS−IHOGとR−IHOGを約4:96の比で生成することが確認されている(実施例12参照)。更に、このようにして得られた4R−IHOGを含有する反応液を、後述するオキシム化反応を経て晶析すると、4R−IHOG−oximeの4位の光学純度は90%以上を達成することが可能となる。なお、ヒドロキシルアミンをもちいてIHOGをIHOG−oximeへ変換する反応は4位の光学選択性を有さないため、光学純度の測定はいずれの形態で測定した場合も同等となる。このようにして得られる4R−IHOGは4R−モナティン製造のための中間体として極めて有用である。
【0032】
(2)アルドラーゼ活性を有するタンパク質(アルドラーゼ)
本発明の製造方法に用いる、4R−アルドラーゼ活性を有するタンパク質(以下単に、「4R−アルドラーゼ」ということがある。)は、前記の反応を触媒する性質を有するものであるが、4R−アルドラーゼは、4R−アルドラーゼ活性を有する微生物から得ることもでき、当該微生物は、以下のスクリーニング方法によって得ることが出来る。
【0033】
(i)4R−アルドラーゼ活性を有する微生物
(a)4R−アルドラーゼ活性を有する微生物のスクリーニング方法
4R−アルドラーゼを産生する微生物は、土壌、水等の自然界から取得することができる。即ち、モナティン、IHOG、IHOG−oxime、PHG、PHOG、PHOG−oxime等の目的とするアルドラーゼが基質とする化合物を炭素源もしくは窒素源として、好ましくは、単一炭素源もしくは単一窒素源として、培地中に添加し、微生物源となるサンプルを接種の上、培養することが望ましい。また、それらの添加物はラセミ混合物を用いてもよいが、好ましくは4R−体、更に好ましくは、(2R,4R)−モナティンとすることが望ましい。炭素源以外の有機栄養源としては、通常の培地成分を適宜選択することが出来る。窒素源としては有機酸のアンモニウム塩、硝酸塩、およびペプトン、酵母エキス、肉エキスなどの有機窒素化合物あるいはこれらの混合物を使用できる。他に無機塩類、微量金属塩、ビタミン類などの通常用いられる栄養源を適宜混合できる。このような集積培養において生育可能な微生物はアルドラーゼ活性菌が多く含まれる。
【0034】
次に、上記培地の集積菌から単コロニーを取得し、取得したコロニーを、再度目的とする基質を単一炭素源とした培養プレート上で生育を確認し、アルドラーゼ活性を評価する。スクリーニングの際の培養条件は、前記炭素源以外は、通常の培養条件を用いることができるが、一例としては、後述する(c)アルドラーゼ活性を有する微生物の培養方法の項で説明する条件が挙げられる。
【0035】
微生物の産生するアルドラーゼ活性の評価方法としては、微生物菌体より酵素を精製し、その酵素標品を用いて酵素反応を評価することが望ましい。具体的にはi)IHOGあるいはPHOGを基質として、遊離するピルビン酸を検出する方法(分解活性検出)、ii)インドールピルビン酸、もしくはフェニルピルビン酸とピルビン酸(ないしオキサロ酢酸)を基質としてアルドール縮合によって産生されるIHOG、あるいはPHOGを高速液体クロマトグラフィー(HPLC)測定によって検出する方法(合成活性検出)、が挙げられる。さらに、ii)のアルドール縮合によって産生されるIHOG、あるいはPHOGをHPLCによって4位の不斉を確認することで、4R選択性を評価することが望ましい。
【0036】
具体的には、100mM バッファー、300mM インドール−3−ピルビン酸、600mMピルビン酸、0.1mM MgCl2、1%(v/v)トルエンからなる反応液にアルドラーゼを添加し、37℃で4時間振とう反応させ、HPLCにて生成したIHOG量を定量することにより、アルドラーゼ活性を見積もることができる。
【0037】
IHOGの定量は、例えば、ジーエルサイエンス社製「Inertsil ODS−2」(5μm、4.6×250mm)を利用したHPLC分析にて定量できる。分析条件の一例を以下に示す。
【0038】
移動相:40%(v/v)アセトニトリル/5mM リン酸二水素テトラブチルアンモニウム溶液
流速: 1ml/min
カラム温度: 40℃
検出: UV210nm
【0039】
(b)スクリーニングにより取得された微生物
本発明者らは、上記スクリーニングの結果、集積菌からスフィンゴモナス属に属する微生物及びバークホルデリア属に属する微生物を選択し、両属に属する微生物又はこれらに近縁の微生物から、本発明に使用可能なアルドラーゼが産生されることを見出した。従って、本発明に用いることが出来るアルドラーゼ活性を有する微生物としては、スフィンゴモナス属、バークホルデリア属、又はこれらに近縁の属に属する微生物が挙げられる。スフィンゴモナス属の近縁の属としては、例えば、リゾモナス属、ブラストモナス属、エリスロマイクロビウム属、ポルフィロバクター属、アグロバクテリウム属、エリスロバクター属が挙げられる。なお、スフィンゴモナス属については、近年再分類の提案がなされており、スフィンゴビウム属、ノボスフィンゴビウム属又はスフィンゴピキシス属と呼ばれる場合もあるが(International Journal of Systematic and Evolutionary Microbiology(2001), 51,1405−1417)、本明細書においては、これらも含む意味でスフィンゴモナス属の用語を用いる。
【0040】
スフィンゴモナス属に属する微生物としては、例えば、以下のものを例示することができる。
Sphingomonas sp., Sphingomonas trueperi, Sphingomonas parapaucimobilis, Sphingomonas sanguinis, Sphingomonas paucimobilis, Sphingomonas adhaesiva, Sphingomonas pruni, Sphingomonas mali, Sphingomonas asaccharolytica, Sphingomonas echinoids, Sphingomonas yanoikuyae, Sphingomonas herbicidovorans, Sphingomonas chlorophenolica, Sphingomonas agrestis, Sphingomonas rosa, Sphingomonas subarctica, Sphingomonas stygia, Sphingomonas subterranean, Sphingomonas aromaticivorans, Sphingomonas capsulate, Sphingomonas macrogoltabidus, Sphingomonas terrae, Rhizomonas suberifaciens, Blastomonas natatoria, Blastomonas ursincola, Agrobacterium sanguineum, Erythrobacter longus, Erythrobacter litoralis等が挙げられる。
【0041】
バークホルデリア属に属する微生物としては、例えば以下のものを例示することができる。
Burkholderia sp., Burkholderia phenazinium, Burkholderia caribensis, Burkholderia graminis, Burkholderia kururiensis, Burkholderia brasilensis, Burkholderia caryophylli, Burkholderia glathei, Burkholderia plantarii, Burkholderia vandii, Burkholderia glumae, Burkholderia cocovenenans, Burkholderia gladioli, Burkholderia vietnamiensis, Burkholderia multivorans, Burkholderia cepacia, Burkholderia pyrrocinia, Burkholderia thailandensis, Burkholderia pseudomallei, Burkholderia mallei, Burkholderia andropogonis等が挙げられる(Current Microbiology Vol. 42 (2001), pp. 269−275)。
【0042】
特に好ましくは、以下の微生物が挙げられる。これらの微生物の寄託先を下記に示す。
・Sphingomonas sp. AJ110329株(C77株)
(i)受託番号 FERM BP−10027
(ii)原寄託申請の受託日 2004年5月21日
(iii)寄託先 独立行政法人産業技術総合研究所特許生物寄託センター(日本国茨城県つくば市東1丁目1番地1中央第6)
・Sphingomonas sp. AJ110372株(C43株)
(i)受託番号 FERM BP−10156
(ii)原寄託申請の受託日 2004年10月28日
(iii)寄託先 独立行政法人産業技術総合研究所特許生物寄託センター(日本国茨城県つくば市東1丁目1番地1中央第6)
・Burkholderia sp. AJ110371株(C24株)
(i)受託番号 FERM BP−10155
(ii)原寄託申請の受託日 2004年10月28日
(iii)寄託先 独立行政法人産業技術総合研究所特許生物寄託センター(日本国茨城県つくば市東1丁目1番地1中央第6)
【0043】
尚、AJ110329株(C77株、FERM BP−10027)は、以下の分類実験の結果、上述のSphingomonas sp.であることが同定された。
AJ110329株のゲノムDNAよりPCRにより16S ribosomal RNA遺伝子(16S rDNA)のうち、5’末端側約500bpの領域を増幅し、塩基配列を決定した(配列番号16)。得られた配列の相同性解析を、MicroSeq Bacterial 500 Library v.0023(Applied Biosystems,CA,USA)をデータベースとし、MicroSeq Microbial Identification System Software V.1.4.1.を用いて解析した。その結果、AJ110329株16S rDNA部分塩基配列と一致する既知配列は存在せず、相同率96.6%でSphingomonas capsulataの16S rDNAに対し最も高い相同性を示した。分子系統樹上でもAJ110329株の16S rDNAはSphingomonasの16S rDNAが形成するクラスター内に含まれた。また、表2に示す菌学的性質についても上記16S rDNA塩基配列解析結果と矛盾するものではなく、AJ110329株をSphingomonas sp.と推定した。
【0044】
AJ110372株(C43株、FERM BP−10156)は、以下の分類実験の結果、上述のSphingomonas sp.であることが同定された。
AJ110372株のゲノムDNAよりPCRにより16S ribosomal RNA遺伝子(16S rDNA)のうち、5’末端側約500bpの領域を増幅し、塩基配列を決定した(配列番号17)。得られた配列の相同性解析を、MicroSeq Bacterial 500 Library v.0023 (Applied Biosystems,CA,USA)をデータベースとし、MicroSeq Microbial Identification System Software V.1.4.1.を用いて解析した。その結果、AJ110372株16S rDNA部分塩基配列と一致する既知配列は存在せず、相同率98.94%でSphingomonas yanoikuyaeの16S rDNAに対し最も高い相同性を示した。分子系統樹上でもAJ110372株の16S rDNAはSphingomonas yanoikuyaeの16S rDNAが形成するクラスター内に含まれ、AJ110372株をSphingomonas sp.と推定した。
【0045】
AJ110371株(C24株、FERM BP−10155)は、以下の分類実験の結果、上述のBurkholderia sp.であることが同定された。
AJ110371株のゲノムDNAよりPCRにより16S ribosomal RNA遺伝子(16S rDNA)のうち、5’末端側約500bpの領域を増幅し、塩基配列を決定した(配列番号18)。得られた配列の相同性解析を、MicroSeq Bacterial 500 Library v.0023(Applied Biosystems,CA,USA)をデータベースとし、MicroSeq Microbial Identification System Software V.1.4.1.を用いて解析した。その結果、AJ110371株16S rDNA部分塩基配列と一致する既知配列は存在せず、相同率95.21%でBurkholderia phenaziniumの16S rDNAに対し最も高い相同性を示した。分子系統樹上でもAJ110371株の16S rDNAはBurkholderiaの16S rDNAが形成するクラスター内に含まれた。また、表3に示す菌学的性質についても上記16S rDNA塩基配列解析結果と矛盾するものではなく、AJ110371株をBurkholderia sp.と推定した。
【0046】
Sphingomonas sp. AJ110329株(FERM BP−10027)の菌学的性質は、以下の表2に記載の通りである。
【表2】

Burkholderia sp. AJ110371株(FERM BP−10155)の菌学的性質は、以下の表3に記載の通りである。
【表3】

参考文献および使用キット
1)BARROW,(G.I.)and FELTHAM,(R.K.A):Cowan and Steel’s Manual for the Identificaation of Medical Bacteria. 3rd edition.1993,Cambridge University Press.
2)坂崎利一・吉崎悦郎・三木寛二:新細菌培地学講座・下〈第二版〉.1988,近大出版,東京.
3)細菌同定キットAPI20,NE,
(bioMerieux,France:http://www.biomerieux.fr/home_en.htm).
【0047】
(c)アルドラーゼ活性を有する微生物の培養方法
アルドラーゼの取得源となる微生物の培養形態は液体培養、固体培養いずれも可能であるが、工業的に有利な方法は、深部通気撹拌培養法である。栄養培地の栄養源としては、微生物培養に通常用いられる炭素源、窒素源、無機塩及びその他の微量栄養源を使用できる。使用菌株が利用できる栄養源であればすべてを使用できる。
【0048】
通気条件としては、好気条件を採用する。培養温度としては、菌が発育し、アルドラーゼが生産される範囲であれば良い。従って、厳密な条件は無いが、通常10〜50℃、好ましくは30〜40℃である。培養時間は、その他の培養条件に応じて変化する。例えば、アルドラーゼが最も生産される時間まで培養すれば良く、通常5時間〜7日間、好ましくは10時間〜3日間程度である。
【0049】
(d)微生物からのアルドラーゼの取得方法
アルドラーゼ活性を有する微生物を培養した後、菌体を遠心分離(たとえば、10,000xg、10分)により集菌する。アルドラーゼの大部分は菌体中に存在するので、この菌体を破砕、又は溶菌させることにより、アルドラーゼの可溶化を行う。菌体破砕には、超音波破砕、フレンチプレス破砕、ガラスビーズ破砕等の方法を用いることができ、また溶菌させる場合には、卵白リゾチームや、ペプチダーゼ処理又はこれらを適宜組み合わせた方法が用いられる。
【0050】
アルドラーゼ産生菌由来のアルドラーゼを精製する場合、酵素可溶化液を出発材料として精製することになるが、未破砕あるいは未溶菌残渣が存在するようであれば、可溶化液を再度遠心分離操作に供し、沈殿する残渣を除いた方が、精製に有利である。
【0051】
アルドラーゼの精製には、通常酵素の精製を行うために用いられる全ての常法、例えば硫安塩析法、ゲル濾過クロマトグラフィー法、イオン交換クロマトグラフィー法、疎水性クロマトグラフィー法、ハイドロキシアパタイトクロマトグラフィー等を採用することができる。その結果、より比活性が高いアルドラーゼ含有画分を得ることができる。
【0052】
精製されたアルドラーゼ標品を調製した後、エドマン分解法(Edman,P.,Acta Chem.Scand.4,227(1950))によるプロテインシーケンサーに供することによって、N末端アミノ酸配列を知ることが出来る。さらに、ペプチダーゼ処理を施した後、逆相HPLCによりペプチド標品を分取精製し、エドマン分解法によるプロテインシーケンサーに供することによって、内部アミノ酸配列を知ることが出来る。
【0053】
明らかとなったアミノ酸配列に基づいて、これをコードするDNAの塩基配列を演繹できる。DNAの塩基配列を演繹するには、ユニバーサルコドンを採用することが出来る。
【0054】
演繹された塩基配列に基づいて、30塩基対程度のDNA分子を合成する。該DNA分子を合成する方法はTetrahedron Letters,22,1859(1981)に開示されている。また、Applied Biosystems社製のシンセサイザーを用いて該DNA分子を合成できる。該DNA分子は、アルドラーゼをコードするDNA全長を、アルドラーゼ産生菌染色体遺伝子ライブラリーから単離する際に、プローブとして利用できる。あるいは、本発明のアルドラーゼをコードするDNAをPCR法で増幅する際に、プライマーとして利用できる。ただし、PCR法を用いて増幅されるDNAはアルドラーゼをコードするDNA全長を含んでいない場合もあるので、PCR法を用いて増幅されるDNAをプローブとして用いて、アルドラーゼをコードするDNA全長をアルドラーゼ産生菌染色体遺伝子ライブラリーから単離する。
【0055】
PCR法の操作については、White,T.J.et al.,Trends Genet.5,185(1989)等に記載されている。染色体DNAを調製する方法、さらにDNA分子をプローブとして用いて、遺伝子ライブラリーから目的とするDNA分子を単離する方法については、Molecular Cloning,2nd edition,Cold Spring Harbor Press(1989)等に記載されている。
【0056】
単離されたアルドラーゼをコードするDNAの塩基配列を決定する方法は、A Practical Guide to Molecular Cloning,John Wiley & Sons, Inc.(1985)に記載されている。また、Applied Biosystems社製のDNAシークエンサーを用いて、塩基配列を決定することができる。
【0057】
アルドラーゼ産生菌よりアルドラーゼをコードするDNAを取得する方法としては、本発明のアルドラーゼをコードするDNAの全長あるいは、部分配列をプローブとしてハイブリダイズするDNAを取得する方法も挙げられる。
【0058】
アルドラーゼ産生菌よりアルドラーゼをコードするDNAを取得する方法としては、本発明のアルドラーゼのアミノ酸配列をアライメントすることによって、保存性の高いアミノ酸部分から演繹されるDNA配列をプローブDNAとして利用することが出来る。もしくはPCR法のプライマーとして利用することが出来る。PCR法を用いて増幅されるDNAはアルドラーゼをコードするDNA全長を含まない場合があるので、PCR法を用いて増幅されるDNAをプローブとして用いて、アルドラーゼをコードするDNA全長をアルドラーゼ産生菌染色体遺伝子ライブラリーから単離することが出来る。
このようにして、アルドラーゼ活性を有する微生物を取得し、取得された微生物からアルドラーゼ及びアルドラーゼをコードするDNAを取得することが出来る。
【0059】
(ii)アルドラーゼ
本発明者らは、上記スクリーニング方法により選択された、C77株(Sphingomonas sp. AJ110329株)より、アルドラーゼを取得し、SpALDと命名した。前述の方法によって特定された本発明のSpALDをコードするDNAを配列表の配列番号1(CDS:塩基番号210〜1004)、SpALDのアミノ酸配列を配列番号2に示す。
【0060】
本発明者らは更に微生物スクリーニングを実施し(実施例において詳述する)、配列番号1記載の塩基配列の一部をプローブとしたサザン解析、コロニーハイブリダイゼーションにより、C43株(Sphingomonas sp. AJ110372株)及びC24株(Burkholderia sp. AJ110371株)から新規なアルドラーゼ遺伝子を取得し(配列番号12及び14)、配列番号13のアミノ酸配列を有するタンパク質(SpALD2)及び配列番号15のアミノ酸配列を有するタンパク質(BuALD)を得た。SpALD、SpALD2、BuALDの配列を比較した結果を図1に示す。3種のアルドラーゼに共通するアルドラーゼのコア配列(配列番号23)を図中の上段に示した。3種のアルドラーゼに共通するアミノ酸残基数は200個存在し全体の70.2%を占め、更に、3種のアルドラーゼ中2種に共通するアミノ酸残基は76残基存在し、コア配列と合わせた合計は実に全体の96.8%を占める。また、SpALD/SpALD2間の相同性は88.4%、SpALD/BuALD間の相同性は74.7%である。
【0061】
更に、その他公知の配列との相同性を調査した結果、配列表の配列番号2のアミノ酸配列は、Escherichia coli C株由来の2,4−dihydroxyhept−2−ene−1,7−dioic acid aldolase (HpcH)(Stringfellow JMら、Gene. 1995 166(1):73−6)と20%の相同性を有している。その他では、既知のPseudomonas taetrolens細菌由来のIHOG aldolase(遺伝子名PtALD)、Pseudomonas coronafaciens細菌由来のIHOG aldolase(遺伝子名PcALD)(国際公開第03/056026号パンフレット)、Comamonas testeroni ATCC49249由来の4−Hydroxy−4−methyl−2−oxoglutarate aldolase(遺伝子名proA)、あるいはPseudomonas straminea由来の4−Hydroxy−4−methyl−2−oxoglutarate aldolase(遺伝子名proA)とは、いずれも10%以下と、ほとんど相同性が無く、本発明等が見出したアルドラーゼが極めて新規なタンパク質であることがわかる。本発明者らが見出した3種のアルドラーゼもまた、本発明の一部を構成し、以下総称して「本発明のアルドラーゼ」ということがある。
【0062】
なお、ここでの相同性の解析は、遺伝子解析ソフト「Genetyx ver.6」(ゲネティクス社)を用い、パラメータを初期設定値として算出した値である。
【0063】
従って、配列番号2記載のアミノ酸配列と70%以上、好ましくは74%以上、更に好ましくは80%以上、とりわけ好ましくは85%以上、極めて好ましくは95%以上の相同性を有するタンパク質は、いずれも、同様の酵素活性を有するものであって、本発明に用いることが出来る。更に、配列番号2記載のアミノ酸配列と70%以上の相同性を有し、かつ、配列番号23記載のアルドラーゼのコア配列を有するタンパク質であれば、極めて好適に用いることが出来る。
【0064】
従って、本発明の製造方法に用いる、4R−アルドラーゼ活性を有するタンパク質としては、本発明のアルドラーゼを含み、好ましくは、下記(a)又は(b)のタンパク質が挙げられる。
(a)配列番号2に記載のアミノ酸配列からなるタンパク質
(b)配列番号2記載のアミノ酸配列と少なくとも相同性が70%以上であって、4R−アルドラーゼ活性を有するタンパク質
更に、上記(b)のタンパク質としては、以下の(c)のタンパク質も含まれる。
(c)配列番号13又は15のいずれかに記載のアミノ酸配列からなるタンパク質
【0065】
また、本発明のアルドラーゼとしては、以下のタンパク質が含まれる。
(d)配列番号2、13又は15のいずれかに記載のアミノ酸配列からなるタンパク質
(e)配列番号2、13又は15のいずれかに記載のアミノ酸配列において1若しくは数個のアミノ酸残基の置換、欠失、挿入、付加、又は逆位を含むアミノ酸配列を有し、かつ、アルドラーゼ活性を有するタンパク質
【0066】
ここで、「1若しくは数個」とは、アミノ酸残基のタンパク質の立体構造や、アルドラーゼ活性を大きく損なわない範囲のものであり、具体的には、1〜90個、好ましくは1〜75個、さらに好ましくは1〜57個、とりわけ好ましくは1〜43個、極めて好ましくは1〜15個である。ただし、配列表の配列番号2、11又は13のいずれかに記載のアミノ酸配列において1又は数個のアミノ酸残基の置換、欠失、挿入、付加又は逆位を含むアミノ酸配列の場合には、33℃、pH9の条件下で配列表の配列番号2、11又は13のいずれかに記載のアミノ酸配列を有するタンパク質の10%以上、好ましくは30%以上、より好ましくは50%以上、さらに好ましくは70%以上のアルドラーゼ活性、好ましくは4R−アルドラーゼ活性をそれぞれ保持していることが望ましい。
【0067】
上記のような置換、欠失、挿入又は付加は、アルドラーゼ活性が維持されるような保存的変異が含まれる。保存的変異は、代表的には保存的置換である。アルドラーゼの元々のアミノ酸を置換し、かつ、保存的置換とみなされるアミノ酸としては、AlaからSer又はThrへの置換、ArgからGln、His又はLysへの置換、AsnからGlu、Gln、Lys、His又はAspへの置換、AspからAsn、Glu又はGlnへの置換、CysからSer又はAlaへの置換、GlnからAsn、Glu、Lys、His、Asp又はArgへの置換、GluからAsn、Gln、Lys又はAspへの置換、GlyからProへの置換、HisからAsn、Lys、Gln、Arg又はTyrへの置換、IleからLeu、Met、Val又はPheへの置換、LeuからIle、Met、Val又はPheへの置換、LysからAsn、Glu、Gln、His又はArgへの置換、MetからIle、Leu、Val又はPheへの置換、PheからTrp、Tyr、Met、Ile又はLeuへの置換、SerからThr又はAlaへの置換、ThrからSer又はAlaへの置換、TrpからPhe又はTyrへの置換、TyrからHis、Phe又はTrpへの置換、及び、ValからMet、Ile又はLeuへの置換が挙げられる。
【0068】
ここに、アルドラーゼ活性とは、本発明の製造方法において用いられる場合は前記の4R−アルドラーゼ活性をいい、本発明のアルドラーゼ(タンパク質)の性質としては、光学選択性を厳密に要求するものではないが、4R−アルドラーゼ活性がより好ましい。以下、「アルドラーゼ活性」の用語を用いる場合において、本発明の製造方法に用いる場合は4R−アルドラーゼ活性を指し、前記(1)反応の項で述べたように、インドールピルビン酸と、ピルビン酸又はオキサロ酢酸とのアルドール縮合により、4R−IHOGを優先的に生成する反応を触媒できる活性である。ここに、「4R−IHOGを優先的に」生成するとは、生成されるIHOGの4位の光学純度がR体となる比率がS体となる比率よりも高いことを指し、好ましくは光学純度70%以上、特に好ましくは90%以上でR体となる反応効率を達成し得ることを指す。一方、「アルドラーゼ活性」が、本発明のタンパク質の活性を意味する場合は、光学選択性を要求しないアルドラーゼ活性を意味し、光学選択性を要求しないアルドラーゼ活性とは、インドールピルビン酸とピルビン酸(ないしオキサロ酢酸)からIHOGを合成する活性を意味し、光学選択性を問わない。光学選択性の程度を問わず、本発明のアルドラーゼは有用だからである。
【0069】
次に、精製されたSpALD,BuALDについて調べた酵素化学的性質を以下に述べる。
SpALD及びBuALDは、インドールピルビン酸と、ピルビン酸又はオキサロ酢酸とを反応せしめることにより、4R−IHOGを優先的に製造する反応を触媒する。
【0070】
SpALDの至適pHは、37℃において、約7.1−8.0付近にある。また、pH8以下でpH安定性を有する。また、50℃以下で温度安定性を有し、特に30℃以下の範囲内で高い温度安定性を有する。
【0071】
SpALDの分子量をゲル濾過法により測定したところ約155kDaであり、SDS−PAGE法により測定したところ約30kDaであったことから、SpALDは、分子量約30kDaのサブユニット6量体構造をとると推察される。
したがって、本発明のタンパク質の別の様態は、
(A)インドール−3−ピルビン酸とピルビン酸とをアルドール縮合させて4−(インドール−3−イルメチル)−4−ヒドロキシ−2−オキソグルタル酸を生成する反応を触媒する活性、及び/又は、フェニルピルビン酸とピルビン酸とをアルドール縮合させて4−フェニルメチル−4−ヒドロキシ−2−オキソグルタル酸を生成する反応を触媒する活性を有し、
(B)(A)記載の活性の至適pHが37℃において約7.5−8.0であり、
(C)pH8以下でpH安定性を有し、
(D)50℃以下で温度安定性を有し、かつ、
(E)ゲルろ過法により測定した分子量が約155kDaであり、SDS−PAGE法により測定したサブユニットあたりの分子量が約30kDaである
ことを特徴とするタンパク質である。
【0072】
BuALDの至適pHは、37℃において、約6.5−7.5付近にある。また、pH7.5以下でpH安定性を有する。また、37℃以下で温度安定性を有し、特に30℃以下の範囲内で高い温度安定性を有する。
【0073】
BuALDの分子量をゲル濾過法により測定したところ約160kDaであり、SDS−PAGE法により測定したところ約30kDaであったことから、BuALDは、分子量約30kDaのサブユニット6量体構造をとると推察される。
従って、本発明のタンパク質の別の態様は、
(A)インドール−3−ピルビン酸とピルビン酸とをアルドール縮合させて4−(インドール−3−イルメチル)−4−ヒドロキシ−2−オキソグルタル酸を生成する反応を触媒する活性、及び/又は、フェニルピルビン酸とピルビン酸とをアルドール縮合させて4−フェニルメチル−4−ヒドロキシ−2−オキソグルタル酸を生成する反応を触媒する活性を有し、
(B)(A)記載の活性の至適pHが37℃において約6.5−7.5であり、
(C)pH8.5以下でpH安定性を有し、
(D)37℃以下で温度安定性を有し、かつ、
(E)ゲルろ過法により測定した分子量が約160kDaであり、SDS−PAGE法により測定したサブユニットあたりの分子量が約30kDaである
ことを特徴とするタンパク質である。
【0074】
なお、ここで、数値に付された「約」という用語は、その数値の20%の偏差範囲を含み得ることを示し、許容される偏差としてより好ましくは10%、さらに好ましくは5%、さらに好ましくは2.5%を示すものである。
【0075】
(iii)アルドラーゼをコードするDNA
本発明者らは、前記(i)(ii)記載の通り、本発明者らが単離したアルドラーゼ産生菌であるSphingomonas sp. AJ110329株(C77株)より、配列表の配列番号1の塩基配列を有する本発明のアルドラーゼ遺伝子、Sphingomonas sp. AJ110372株(C43株)より、配列番号12の塩基配列を有する本発明のアルドラーゼ遺伝子、及び、Burkholderia sp. AJ110371株(C24株)より、配列番号14の塩基配列を有する本発明のアルドラーゼ遺伝子を得た。これらの遺伝子は、本発明の、インドールピルビン酸とピルビン酸(ないしオキサロ酢酸)からIHOGを合成する反応を触媒するアルドラーゼをコードしており、本発明に含有される。
【0076】
なお、アルドラーゼをコードするDNAは、配列表の配列番号1、12及び14に示されるDNAだけではない。すなわち、インドールピルビン酸とピルビン酸(ないしオキサロ酢酸)からIHOGを合成する反応を触媒するアルドラーゼを生成するSphingomonas属及びBurkholderia属のうち、種及び株ごとに、塩基配列の違いが観察されるはずだからである。
【0077】
すなわち、配列番号2記載のアミノ酸配列と70%以上、好ましくは74%以上、更に好ましくは80%以上、とりわけ好ましくは85%以上、極めて好ましくは95%以上の相同性を有するタンパク質であって、アルドラーゼ活性、好ましくは4R−アルドラーゼ活性を有するタンパク質、又は、配列番号2記載のアミノ酸配列と70%以上の相同性を有し、かつ、配列番号23記載のアルドラーゼのコア配列を有するタンパク質であって、アルドラーゼ活性、好ましくは4R−アルドラーゼ活性を有するタンパク質をコードするDNAであれば、本発明のDNAに含まれる。
【0078】
また、本発明のDNAは単離されたアルドラーゼをコードするDNAのみではなく、当然ながら、アルドラーゼ産生菌の染色体DNAから単離されたアルドラーゼをコードするDNAに人工的に変異を加えたDNAであっても、アルドラーゼをコードする場合には、本発明のDNAである。人工的に変異を加える方法として頻繁に用いられるものとして、Method. in Enzymol.,154(1987)に記載されている部位特異的変異導入法が挙げられる。
【0079】
また、配列表配列番号1、12又は14のいずれかに記載の塩基配列と相補的な塩基配列からなるDNAとストリンジェントな条件でハイブリダイズし、アルドラーゼ活性、好ましくは4R−アルドラーゼ活性を有するタンパク質をコードするDNAも本発明のDNAである。ここで「ストリンジェントな条件」とは、いわゆる特異的なハイブリッドが形成され、非特異的なハイブリッドが形成されない条件をいう。この条件を明確に数値化することは困難であるが、一例を示せば、相同性が高いDNA同士、例えば50%以上、より好ましくは80%以上、さらに好ましくは90%以上、特に好ましくは95%以上の相同性を有するDNA同士がハイブリダイズし、それより相同性が低いDNA同士がハイブリダイズしない条件、あるいは通常のサザンハイブリダイゼーションの洗いの条件である37℃、0.1×SSC、0.1% SDS、好ましくは60℃、0.1×SSC、0.1% SDS、さらに好ましくは65℃、0.1×SSC、0.1% SDSに相当する塩濃度でハイブリダイズする条件があげられる。ここに、「アルドラーゼ活性」又は「4R−アルドラーゼ活性」とは、前記(ii)アルドラーゼの項で述べた説明と同義である。ただし、配列表の配列番号1,12又は14のいずれかに記載の塩基配列と相補的な塩基配列とストリンジェントな条件でハイブリダイズする塩基配列の場合には、33℃、pH9の条件下で配列表の配列番号2,13又は15のいずれかに記載のアミノ酸配列を有するタンパク質の10%以上、好ましくは30%以上、より好ましくは50%以上、さらに好ましくは70%以上のアルドラーゼ活性、好ましくは4R−アルドラーゼ活性をそれぞれ保持していることが望ましい。
【0080】
さらに、配列表の配列番号1,12又は14のいずれかに記載のDNAがコードするアルドラーゼと実質的に同一のタンパク質をコードするDNAも本発明のDNAである。すなわち、
(a)配列番号1記載の塩基配列のうち、塩基番号210〜1004の塩基配列からなるDNA
(b)配列番号12記載の塩基配列のうち、塩基番号399〜1253の塩基配列からなるDNA
(c)配列番号14記載の塩基配列のうち、塩基番号531〜1385の塩基配列からなるDNA
(d)配列番号1記載の塩基配列若しくは同配列中塩基番号210〜1004の塩基配列、配列番号12記載の塩基配列若しくは同配列中塩基番号399〜1253の塩基配列、又は配列番号14記載の塩基配列若しくは同配列中塩基番号531〜1385の塩基配列と相補的な塩基配列からなるDNAとストリンジェントな条件でハイブリダイズし、かつ、アルドラーゼ活性を有するタンパク質をコードするDNA
(e)配列番号2、13又は15のいずれかに記載のアミノ酸配列からなるタンパク質をコードするDNA
(f)配列番号2、13又は15のいずれかに記載のアミノ酸配列において1若しくは数個のアミノ酸残基の置換、欠失、挿入、付加、又は逆位を含むアミノ酸配列を有し、かつ、アルドラーゼ活性を有するタンパク質をコードするDNA
(g)配列番号2、13又は15のいずれか記載のアミノ酸配列と70%以上相同性を有するアミノ酸配列からなるタンパク質であって、かつ、アルドラーゼ活性を有するタンパク質をコードするDNA
も本発明のDNAに含まれる。ここで、「1若しくは数個」の意義は、前記(ii)アルドラーゼの項で述べたものと同じである。
【0081】
(3)アルドラーゼの製造方法
次に本発明のアルドラーゼの製造方法について説明する。本発明のアルドラーゼの製造方法としては、(i)アルドラーゼ産生菌を微生物培養することによりアルドラーゼを生成蓄積させる方法と、(ii)組み換えDNA技術によりアルドラーゼを生成する形質転換体を作成し、当該形質転換体を培養することによりアルドラーゼを生成蓄積させる方法の2つがある。(i)については、アルドラーゼ産生菌の取得方法、アルドラーゼ産生菌を微生物培養する方法として、前記(2)(i)の項で述べた。以下に、(ii)について説明する。
【0082】
(ii)組み換えDNA技術による製法
組み換えDNA技術を利用して酵素、生理活性物質等の有用タンパク質を製造する例は数多く知られており、組み換えDNA技術を用いることで、天然に微量に存在する有用タンパク質を大量生産できる。
【0083】
図2は、本発明のアルドラーゼの製造工程のフローチャートである。
先ず、本発明のアルドラーゼをコードするDNAを調製する(ステップS1)。
次に、調製したDNAをベクターDNAと接続して組み換えDNAを作製し(ステップS2)、該組み換えDNAによって細胞を形質転換して形質転換体を作製する(ステップS3)。続いて、該形質転換体を培地中で培養し、培地中及び/又は細胞中にアルドラーゼを生成蓄積させる(ステップS4)。
その後、ステップS5に進み、該酵素を回収・精製することによって精製アルドラーゼを製造する。
また、ステップS5で生産した精製アルドラーゼ又はステップS4のアルドラーゼが蓄積された培地及び/又は細胞をアルドール反応に用いることで、目的とする光学活性IHOGを大量に製造することができる(ステップS6)。
【0084】
なお、ベクターDNAと接続されるDNAは、本発明のアルドラーゼが発現可能であればよい。
【0085】
ここで、ベクターDNAに接続されるアルドラーゼ遺伝子としては、上述の(2)アルドラーゼ(iii)DNAの項に記載したいずれのDNAをも用いることが出来る。
【0086】
タンパクを組み換えDNA技術を用いて大量生産する場合、該タンパクを生産する形質転換体内で該タンパクが会合し、タンパクの封入体(inclusion body)を形成させることが好ましい。この発現生産方法の利点は、目的のタンパク質を菌体内に存在するプロテアーゼによる消化から保護する点及び目的のタンパク質を菌体破砕に続く遠心分離操作によって簡単に精製できる点等である。
【0087】
このようにして得られるタンパク封入体は、タンパク変性剤により可溶化され、主にその変性剤を除去することによる活性再生操作を経た後、正しく折り畳まれた生理的に活性なタンパクに変換される。例えば、ヒトインターロイキン−2の活性再生(特開昭61−257931号公報)等多くの例がある。
【0088】
タンパク封入体から活性型タンパクを得るためには、可溶化・活性再生等の一連の操作が必要であり、直接活性型タンパクを生産する場合よりも操作が複雑になる。しかし、菌体の生育に影響を及ぼすようなタンパクを菌体内で大量に生産させる場合は、不活性なタンパク封入体として菌体内に蓄積させることにより、その影響を抑えることができる。
【0089】
目的タンパクを封入体として大量生産させる方法として、強力なプロモータの制御下、目的のタンパクを単独で発現させる方法の他、大量発現することが知られているタンパクとの融合タンパクとして発現させる方法がある。
【0090】
さらに、融合タンパクとして発現させた後に、目的のタンパクを切り出すため、制限プロテアーゼの認識配列を適当な位置に配しておくことも有効である。
【0091】
タンパクを組み換えDNA技術を用いて大量生産する場合、形質転換される宿主細胞としては、細菌細胞、放線菌細胞、酵母細胞、カビ細胞、植物細胞、動物細胞等を用いることができる。宿主−ベクター系が開発されている細菌細胞としてはエシェリヒア属細菌、シュードモナス属細菌、コリネバクテリウム属細菌、バチルス属細菌などが挙げられるが、好ましくはエシェリヒア・コリが用いられる。エシェリヒア・コリを用いてタンパクを大量生産する技術について数多くの知見があるためである。以下、形質転換された大腸菌を用いてアルドラーゼを製造する方法を説明する。
【0092】
アルドラーゼをコードするDNAを発現させるプロモータとしては、通常大腸菌における異種タンパク生産に用いられるプロモータを使用することができ、例えば、T7プロモータ、trpプロモータ、lacプロモータ、tacプロモータ、PLプロモータ等の強力なプロモータが挙げられる。
【0093】
アルドラーゼを融合タンパク封入体として生産させるためには、アルドラーゼ遺伝子の上流あるいは下流に、他のタンパク、好ましくは親水性であるペプチドをコードする遺伝子を連結して、融合タンパク遺伝子とする。このような他のタンパクをコードする遺伝子としては、融合タンパクの蓄積量を増加させ、変性・再生工程後に融合タンパクの溶解性を高めるものであればよく、例えば、T7gene10、β−ガラクトシダーゼ遺伝子、デヒドロ葉酸還元酵素遺伝子、インターフェロンγ遺伝子、インターロイキン−2遺伝子、プロキモシン遺伝子等が候補として挙げられる。
【0094】
これらの遺伝子とアルドラーゼをコードする遺伝子とを連結する際には、コドンの読み取りフレームが一致するようにする。適当な制限酵素部位で連結するか、あるいは適当な配列の合成DNAを利用すればよい。
また、生産量を増大させるためには、融合タンパク遺伝子の下流に転写終結配列であるターミネーターを連結することが好ましい。このターミネータとしては、T7ターミネータ、fdファージターミネータ、T4ターミネータ、テトラサイクリン耐性遺伝子のターミネータ、大腸菌trpA遺伝子のターミネータ等が挙げられる。
【0095】
アルドラーゼ又はアルドラーゼと他のタンパクとの融合タンパクをコードする遺伝子を大腸菌に導入するためのベクターとしては、いわゆるマルチコピー型のものが好ましく、Col E1由来の複製開始点を有するプラスミド、例えばpUC系のプラスミドやpBR322系のプラスミド、あるいはその誘導体が挙げられる。ここで、「誘導体」とは、塩基の置換、欠失、挿入、付加又は逆位などによってプラスミドに改変を施したものを意味する。なお、ここでいう改変とは、変異剤やUV照射などによる変異処理、あるいは自然変異などによる改変をも含む。
【0096】
また、形質転換体を選別するために、該ベクターがアンピシリン耐性遺伝子等のマーカーを有することが好ましい。このようなプラスミドとして、強力なプロモーターを持つ発現ベクターが市販されている(pUC系(宝酒造(株)製)、pPROK系(クローンテック製)、pKK233−2(クローンテック製)ほか)。
【0097】
プロモータ、アルドラーゼ又はアルドラーゼと他のタンパクとの融合タンパクをコードする遺伝子、ターミネータの順に連結したDNA断片と、ベクターDNAとを連結して組み換えDNAを得る。
【0098】
該組み換えDNAを用いて大腸菌を形質転換し、この大腸菌を培養すると、アルドラーゼ又はアルドラーゼと他のタンパクとの融合タンパクが発現生産される。形質転換される宿主は、異種遺伝子の発現に通常用いられる株を使用することができるが、特にエシェリヒア・コリ JM109(DE3)株、JM109株が好ましい。形質転換を行う方法、及び形質転換体を選別する方法はMolecular Cloning,2nd edition,Cold Spring Harbor press(1989)等に記載されている。
【0099】
融合タンパクとして発現させた場合、血液凝固因子Xa、カリクレインなどの、アルドラーゼ内に存在しない配列を認識配列とする制限プロテアーゼを用いてアルドラーゼを切り出せるようにしてもよい。
【0100】
生産培地としては、M9−カザミノ酸培地、LB培地など、大腸菌を培養するために通常用いる培地を用いてもよい。また、培養条件、生産誘導条件は、用いたベクターのマーカー、プロモータ、宿主菌等の種類に応じて適宜選択する。
【0101】
アルドラーゼ又はアルドラーゼと他のタンパクとの融合タンパクを回収するには、以下の方法などがある。アルドラーゼあるいはその融合タンパク質が菌体内に可溶化されていれば、菌体を回収した後、菌体を破砕あるいは溶菌させ、粗酵素液として使用できる。さらに、必要に応じて、通常の沈澱、濾過、カラムクロマトグラフィー等の手法によりアルドラーゼあるいはその融合タンパク質を精製して用いることも可能である。この場合、アルドラーゼあるいは融合タンパク質の抗体を利用した精製法も利用できる。
【0102】
タンパク封入体が形成される場合には、変性剤でこれを可溶化する。菌体タンパクとともに可溶化してもよいが、以降の精製操作を考慮すると、封入体を取り出して、これを可溶化するのが好ましい。封入体を菌体から回収するには、従来公知の方法で行えばよい。例えば、菌体を破壊し、遠心分離操作等によって封入体を回収する。タンパク封入体を可溶化させる変性剤としては、グアニジン塩酸(例えば、6M、pH5〜8)や尿素(例えば8M)などが挙げられる。
【0103】
これらの変性剤を透析等により除くと、活性を有するタンパクとして再生される。透析に用いる透析溶液としては、トリス塩酸緩衝液やリン酸緩衝液などを用いればよく、濃度としては20mM〜0.5M、pHとしては5〜8が挙げられる。
【0104】
再生工程時のタンパク濃度は、500μg/ml程度以下に抑えるのが好ましい。再生したアルドラーゼが自己架橋を行うのを抑えるために、透析温度は5℃以下であることが好ましい。また、変性剤除去の方法として、この透析法のほか、希釈法、限外濾過法などがあり、いずれを用いても活性の再生が期待できる。
【0105】
アルドラーゼをコードするDNAとして、配列表配列番号1,12又は14に示されるDNAを用いた場合には配列番号2,13又は15に記載のアミノ酸配列を有するアルドラーゼがそれぞれ生産される。
【0106】
[II]光学活性モナティンの製造方法
本発明の光学活性モナティンの製造方法は、[I]光学活性IHOGの製造方法の項に記載した方法により光学活性IHOGを製造した後、当該IHOGをモナティンに変換する方法である。本発明の方法に従い生産されるIHOGは、4R−IHOGが優位に生産されているため、本発明において製造されるIHOGからは、4R体の光学活性モナティン、すなわち(2R,4R)−モナティン及び(2S,4R)−モナティンが優位に生成される(以下、(2R,4R)−モナティン及び(2S,4R)−モナティンを総称して4R−モナティンという)。
【0107】
モナティンの異性体4種のうち、最も甘味度の高い異性体である(2R,4R)−モナティンを効率的に生産するためには、4R体リッチなIHOGを用いることが好ましい。この場合、IHOGの全体量に対する4R−IHOGの割合が、55%超となることが好ましく、より好ましくは、60%超、さらに好ましくは70%超、特に好ましくは80%超である。
【0108】
IHOGをモナティンに変換する方法は特に限定されず、化学反応法、酵素法等の公知の方法を用いることができる。
【0109】
(1)化学反応法
化学反応法によって光学活性IHOGから光学活性モナティンを製造する方法としては、光学活性IHOGをオキシム化し、対応する下記式(4)記載のIHOG−oxime又はその塩を化学的に還元して光学活性モナティンを生成する方法を挙げることができる。
【化10】

【0110】
好ましくは、4R体リッチなIHOGをオキシム化し、この4R体リッチなIHOG−oximeを含有する溶液から晶析によって4R−IHOG−oxime又はその塩を単離し、この4R−IHOG−oxime又はその塩を化学的に還元して4R−モナティンを生成する。
【0111】
IHOGのオキシム化は、中性又はアルカリ性条件下において、IHOGと、下記一般式(3)
【化11】

(上記一般式(3)において、Rは水素原子、アルキル基、アリール基又はアラルキル基を表す。)
に表されるアミン化合物又はその塩とを反応せしめることによって行う。ここに、Rがアルキル基、アリール基又はアラルキル基である場合、Rは炭素原子を1〜3有するアルキル基、又は、側鎖に置換基を有していてもよいアリール基又はアラルキル基が好ましく、結晶化の観点からより好ましくは、Rはメチル基、エチル基、ベンジル基から選択される。
【0112】
このオキシム化反応は、IHOGを含むアルドラーゼ反応液に、直接上記一般式(3)のアミンを添加することによって行うことができる。この4R体リッチなIHOG−oximeを含有する溶液から、4R−IHOG−oxime又はその塩を晶析することによって、4R体を単離することができる。晶析溶媒としては、水、アルコール溶媒又は含水アルコール溶媒を用いることが好ましい。
【0113】
晶析によって得られた4R−IHOG−oxime又はその塩を還元することによって4R−モナティンを得ることができる。4R−IHOG−oxime又はその塩の還元は、水素及び水素添加触媒の存在下で実施する。水素添加触媒としては、シリカ、アルミナ、チタニア、マグネシア、ジルコニア、活性炭などの担体に、白金、ロジウム、パラジウム、ニッケル、コバルトなどの金属触媒を担持させた金属担持触媒を用いることが好ましい。
【0114】
従来は、光学活性IHOGを効率的に生成させることができなかったため、ラセミ体のIHOG(4R、4S−IHOG)から4R−IHOGを単離するには、4R、4S−IHOGをオキシム化した後、キラルアミンを作用させて4R−IHOG−oximeを晶析させる必要があった。これに対し、本発明によれば、アルドール縮合反応の段階で4R体リッチなIHOGを生成させることができるため、晶析の際、キラルアミンを用いて光学分割する必要がなく、4R体リッチなIHOGをオキシム化した後、そのまま4R−IHOG−oximeを晶析させることができる。したがって、4R−IHOGの精製処理プロセスに要するコストを軽減することが可能となる。
【0115】
化学的還元法によって得られる4R−モナティンは、(2R、4R)−モナティン及び(2S、4R)−モナティンのラセミ混合物となる。(2R、4R)−モナティンを単離する場合は、晶析によって(2R、4R)−モナティンを析出させればよい。具体的には国際公開第03/059865号パンフレットに記載の方法を用いることが出来る。
【0116】
(2)酵素法
酵素法によって4R−IHOGから4R−モナティンを製造する場合、4R−IHOGの2位をアミノ化する反応を触媒する酵素の存在下で4R−IHOGをアミノ化すればよい。当該反応を触媒する酵素としては、例えば4R−IHOGに対してアミノ基転移反応を触媒するアミノトランスフェラーゼ、また、4R−IHOGの還元的アミノ化反応を触媒するデヒドロゲナーゼ等を例示することができるが、アミノトランスフェラーゼを用いることがより好ましい。
【0117】
アミノトランスフェラーゼを用いる場合、アミノトランスフェラーゼ及びアミノ基供与体の存在下で、4R−IHOGを反応させることによって、4R−モナティンを生成することができる。具体的には、国際公開第03/056026号パンフレットに記載の方法を用いることが出来る。
【0118】
この際、アミノトランスフェラーゼとしてはL−アミノトランスフェラーゼ及びD−アミノトランスフェラーゼのいずれも使用することが可能である。L−アミノトランスフェラーゼを用いた場合は、IHOGの2位にL−アミノ酸のアミノ基を転移することによって2S−モナティンを選択的に生成することができる。また、D−アミノトランスフェラーゼを用いた場合は、IHOGの2位にD−アミノ酸のアミノ基を転移することによって2R−モナティンを選択的に生成することができる。したがって、甘味度の高い(2R,4R)−モナティンを選択的に生成するには、D−アミノトランスフェラーゼを用いて、4R−IHOGを反応させることが好ましい。
アミノトランスフェラーゼを用いてモナティンを生成させる反応は、上記のアルドール縮合を行った後に生成した4R−IHOGを一旦単離精製してから行ってもよいし、アルドラーゼとアミノトランスフェラーゼを共存させて同一系内で反応を実施してもよい。同一系内で反応を実施する場合、アルドラーゼをコードするDNAとアミノトランスフェラーゼをコードするDNAを共発現する微生物を用いてもよく、また、別途酵素を調製し、反応系内に添加することでもよい。アルドラーゼをコードするDNAとアミノトランスフェラーゼをコードしているDNAを共発現する微生物(宿主細胞)は、上記したようなアルドラーゼをコードするDNAを機能的に含有する発現ベクターとアミノトランスフェラーゼをコードするDNAを機能的に含有する発現ベクターとの共形質導入やアルドラーゼをコードするDNAとアミノトランスフェラーゼをコードするDNAとを、宿主細胞内で活性を有した状態で発現し得るような形態で含有する発現ベクターによる形質転換等によって調製することができる。
【実施例】
【0119】
以下に実施例を示し、本発明を更に具体的に説明するが、本発明はこれら実施例のみに限定されるものではない。なお、実施例において、基質として用いたIHOG、PHOG及び(2R,4R)−モナティンは、参考例1、2及び3に記載の方法により合成したものである。
【0120】
なお、本実施例におけるIHOG及びPHOGの定量はジーエルサイエンス社製「Inertsil ODS−2 」(5μm, 4.6×250mm)を利用したHPLC分析を用いて行った。分析条件は、以下に示す通りである。
移動相:40%(v/v)アセトニトリル/5mM リン酸二水素テトラブチルアンモニウム溶液
流速:1ml/min
カラム温度:40℃
検出:UV210nm
また、生成したIHOGあるいはPHOGの4位の不斉の解析は、ジーエルサイエンス社製「Inertsil ODS−3」(5μm,4.6×160mm)と住化分析センター製「SUMICHIRAL OA−7100」(5μm,4.6×250mm)を順に直結したHPLC分析にて解析した。分析条件は、以下に示すとおりである。
移動相A:5%(v/v)アセトニトリル20mM リン酸カリウム緩衝液(pH6.8)
移動相B:50%(v/v)アセトニトリル20mM リン酸カリウム緩衝液(pH6.8)
0〜90分まで移動相Aで溶出し、90分〜120分まで移動相Bで溶出・洗浄
流速:0.4ml/min
カラム温度:17℃
検出:UV210nm
【0121】
実施例1 自然界からのIHOG アルドラーゼ活性菌の採取
(2R,4R)−モナティン(以下RRモナティン)を単一炭素源とした培地を用いて集積培養を行うことにより、4R−IHOG光学選択的アルドラーゼ活性菌株を自然界より単離・取得した。
【0122】
RRモナティン単一C源培地(RR−モナティン・1カリウム塩 0.4g/l、Yeast Nitrogen base without amino acid(Difco)0.67g/l)1mlを含む試験管に土壌試料を接種し、30℃で7日間振とう培養した。得られた培養液0.1mlを再度RRモナティン単一C源培地1mlを含む試験管に接種し、再度30℃で7日間振とう培養した。得られた培養液を滅菌生理食塩水で適宜希釈した後に、CM2G平板培地(グルコース 5g/l、酵母エキス 10g/l、ペプトン 10g/l、NaCl 5g/l、寒天末20g/l(pH7.0))に塗布し、30℃で24時間培養してコロニーを単離した。
【0123】
集積により得られた菌株からアルドラーゼ活性株を選抜した。ブイヨン平板培地(栄研化学)に供試微生物を接種し、30℃で24時間培養した。これを酵素生産培地(グリセロール 5g/l、フマル酸 5g/l、酵母エキス 3g/l、ペプトン 2g/l、硫安 3g/l、K2HPO4 3g/l、KH2PO4 1g/l、MgSO4・7H2O 0.5g/l、フタル酸ナトリウム 2.5g/l、寒天末 20g/l(pH6.5))を含むプレートに接種し、30℃で24時間培養した。得られた菌体を湿菌体重量で約1%(w/v)となるように、100mM Tris−HCl(pH8.0)、50mM PHOG、1mM MgCl2、5mM リン酸カリウム溶液(KPi)、1%(v/v)トルエンからなる反応液に接種し、30℃で24時間反応させた。該反応液中の遊離ピルビン酸濃度はlactate dehydrogenae(LDH)を用いた酵素法にて定量した。100mM Tris−HCl(pH8.0)、1.5mM NADH、5mM MgCl2、25U/ml LDHからなる反応液200μlにサンプル10μlを添加し、30℃で10分間インキュベートした。反応後の340nmの吸光度を測定し、NADHの減少量からサンプル中のピルビン酸量を定量した。
【0124】
また生成フェニルピルビン酸量はジーエルサイエンス社製「Inertsil ODS−2」(5μm,4.6×250mm)を利用したHPLC分析にて定量した。分析条件は、以下に示す通りである。
移動相:20%(v/v)アセトニトリル/0.05%(v/v)トリフルオロ酢酸水溶液
流速:1ml/min
カラム温度:40℃
検出:UV 210nm
本条件により、PHOGは約9.8分に、フェニルピルビン酸は約12分の保持時間に溶出され、それぞれ分別、定量できた。
【0125】
供試菌体添加区においてPHOGより生成したピルビン酸ないしフェニルピルビン酸量より対照区(菌体無添加区)の生成量を差し引いた値をアルドラーゼによる生成量とした。その結果、PHOGを基質としたアルドラーゼ活性菌株を見出した。
【0126】
次に採取したアルドラーゼ活性菌株を用いてIHOG合成反応を実施した。供試菌株を酵素生産培地(グリセロール 5g/l、フマル酸 5g/l、酵母エキス 3g/l、ペプトン 2g/l、硫安 3g/l、K2HPO4 3g/l、KH2PO4 1g/l、MgSO4・7H2O 0.5g/l、フタル酸ナトリウム 2.5g/l(pH6.5))を3mlを含む試験管に接種し、30℃で16時間培養した。得られた菌体を湿菌体重量で約1%(w/v)となるように、下記のIHOG合成反応溶液に懸濁して反応を行った。
【0127】
IHOG合成反応溶液:100 mM Hepes−KOH(pH8.5),300mMインドールピルビン酸,750mM ピルビン酸ナトリウム, 1mM MgCl2, 5mM リン酸カリウム緩衝液(pH8.5)
【0128】
反応液を37℃で16時間インキュベートした後に、生成したIHOGを定量し、さらに反応生成物の4位の不斉についても解析した。その結果、集積菌C77株において表4に示す通り、4R−IHOG優先的なアルドール縮合活性を見出した。
【0129】
【表4】

【0130】
実施例2 C77株(Sphingomonas sp. AJ110329株)由来IHOGアルドラーゼ(SpALD)の精製
C77株(Sphingomonas sp. AJ110329株)の可溶性画分からIHOGアルドラーゼの精製を以下の通り行った。アルドラーゼ活性測定は、PHOGを基質としたアルドール分解活性を以下の条件で測定した。
反応条件:50mM Hepes−KOH(pH8.5)、2mM PHOG、0.25mM NADH、0.2mM KPi、1mM MgCl2、16U/ml lactate dehydrogenase、3μl酵素/600μl反応液、30℃、340nmの吸光度を測定。
【0131】
(1)可溶性画分の調製
ブイヨン平板培地で30℃、24時間培養したC77株(Sphingomonas sp. AJ110329株)菌体を一白金耳かきとり、50mlの酵素生産培地(5g/l グリセロール、5g/l フマル酸、5 g/l 硫酸アンモニウム、3g/l K2HPO4、1g/l KH2PO4、0.5g/l MgSO4・7H2O、3g/l、酵母エキス、2g/l ペプトン、2.5g/l フタル酸ナトリウム、(Sigma社製)、pH6.5にKOHで調整)を含む500ml容フラスコに接種し、30℃で24時間振とう培養した。該培養液0.5mlを酵素生産培地50mlを含む500ml容フラスコ20本に接種し、30℃で24時間振とう培養した。得られた培養液から遠心分離により集菌し、バッファーA(20mM Hepes−KOH(pH7.6))に懸濁して洗浄した後、再度遠心分離にて集菌した。得られた洗浄菌体を80mlのバッファーAに懸濁し、4℃で30分間超音波破砕した。破砕液を遠心分離(x8000rpm、10分間×2回)により菌体残渣を除き、得られた上清を可溶性画分とした。
【0132】
(2)陰イオン交換クロマトグラフィー:Q−Sepharose FF
上記の可溶性画分40mlをバッファーAで平衡化した陰イオン交換クロマトグラフィーカラムQ−Sepharose FF 26/10(ファルマシア社製、CV=20ml)に供して担体に吸着させた。担体に吸着しなかったタンパク質(非吸着タンパク質)をバッファーAを用いて洗い流した後、KCl濃度を0Mから0.7Mまで直線的に変化させて(total 140ml)吸着したタンパク質の溶出を行った。各溶出画分についてPHOGアルドラーゼ活性を検出したところ、約0.4M相当の画分にPHOGアルドラーゼ活性のピークを検出した。同様のクロマト操作を2度繰り返して実施した。
【0133】
(3)疎水性クロマトグラフィー:Phenyl Sepharose HP HR 16/10
アルドラーゼ活性が検出された溶液をバッファーB(20mM Hepes−KOH、1M硫酸アンモニウム、pH7.6)に対して4℃で一晩透析し0.45μmのフィルターで濾過した。得られた濾液を、バッファーBで平衡化した疎水性クロマトグラフィーカラムPhenyl Sepharose HP HR 16/10(ファルマシア社製)に供した。この操作によりアルドラーゼは担体に吸着した。
担体に吸着しなかった非吸着タンパク質をバッファーBを用いて洗い流した後、硫酸アンモニウム濃度を1Mから0Mまで直線的に変化させてアルドラーゼを溶出させた。得られた各溶出画分についてアルドラーゼ活性を測定し、硫酸アンモニウム濃度がおよそ0.4〜0.5Mの溶出位置にアルドラーゼ活性が認められた。
【0134】
(4)ゲルろ過クロマトグラフィー:Sephadex 200 HP 16/60
アルドラーゼを含む画分をそれぞれ集めて、バッファーAに対して透析し、0.45μmのフィルターで濾過した。得られた濾液を、限外ろ過膜centriprep 10を用いて濃縮した。得られた濃縮液を、バッファーC(20mM Hepes−KOH,0.1M KCl,pH7.6)で平衡化されたゲルろ過Sephadex200 HP 16/60(ファルマシア社製)に供し、1ml/minの流速で溶出した。この操作によりアルドラーゼは66ml付近の画分に溶出された。活性のピークの溶出位置より、該アルドラーゼの分子量は約155kDaと見積もられた。
【0135】
(5)陰イオン交換クロマトグラフィー:Mono Q HR5/5
得られた画分を0.45μmのフィルターで濾過した。ここで得られた濾液を、バッファーAで平衡化された陰イオン交換クロマトグラフィーカラム Mono−Q HR 5/5(ファルマシア社製)に供した。この操作により、アルドラーゼは担体に吸着した。バッファーAにより非吸着タンパク質を洗い流した後、KCl濃度を直線的に0mMから700mMへ変化させてタンパク質の溶出をおこなった(Total 24ml)。各溶出画分についてアルドラーゼ活性を測定し、KCl濃度が約0.4Mの溶出位置にアルドラーゼ活性が認められた。
得られた画分をSDS−PAGEに供したところ、活性画分には10本程度のバンドが認められた。その中で、活性プロフィールとSDS−PAGEバンド強度のプロフィールが一致する約30kDaのバンドが存在し、当該バンドをアルドラーゼの候補としてSDS−PAGEから切り出し、アミノ酸配列解析に供した。
【0136】
【表5】

【0137】
実施例3 IHOG aldolaseの内部アミノ酸配列の決定
精製したアルドラーゼ画分をSDS−PAGEに供した後、30kDaに相当するバンドを切り出し、SDS−PAGEゲル中の試料をトリプシン処理し(pH8.5、35℃、20時間)、逆相HPLCに供して断片ペプチドを分離した。分取したフラクションのうち、2つのフラクションについてそれぞれ17残基、12残基分のアミノ酸配列(配列番号3、4)を下記表6の通り決定した。
【0138】
【表6】

【0139】
実施例4 C77株(Sphingomonas sp. AJ110329株)由来IHOGアルドラーゼ遺伝子のクローニング
(1)染色体DNAの調製
C77株(Sphingomonas sp. AJ110329株)を50mlのCM2G培地を用いて30℃で一晩培養した(前培養)。この培養液5mlを種菌として、50mlのブイヨン培地を用いて本培養を行った。対数増殖後期まで培養した後、培養液50mlを遠心分離操作(12000xg、4℃、15分間)に供し、集菌した。この菌体を用いて定法に従って染色体DNAを調製した。
【0140】
(2)PCRによる内部配列の取得
決定したIHOGアルドラーゼの内部アミノ酸配列をもとに、表7記載のミックスプライマー(配列番号5、6)を合成した。
【0141】
【表7】

【0142】
作製したミックスプライマーを用いて、C77株(Sphingomonas sp. AJ110329株)の染色体DNAを鋳型としてPCRによる増幅を行った。PCR反応は、PCR Thermal PERSONEL(TaKaRa社製)を用いて行い、以下の条件で30サイクル行った。
94℃ 30秒
55℃ 30秒
72℃ 1分
PCR産物をアガロースゲル電気泳動に供したところ、約200bpの断片の増幅が認められた。該DNA断片をpT7Blue (Novagen社製)にクローニングし、塩基配列を決定したところ、取得したDNA断片から推定されるアミノ酸配列が、IHOGアルドラーゼの内部アミノ酸配列と一致しており、目的のアルドラーゼ遺伝子が取得されたことが確認された。
【0143】
(3)コロニーハイブリダイゼーションによる全長遺伝子の取得
PCRで増幅したDNA断片を用いて、サザン解析及びコロニーハイブリダイゼーションによって全長遺伝子の取得を行った。DNAプローブの作製はDIGHigh Prime(ロシュダイアグノスティック社製)を使用して、説明書通りに37℃でO/Nインキュベートしてプローブの標識を行った。サザン解析は染色体DNA 1μgを各種制限酵素で完全に消化し、0.8%アガロースゲルで電気泳動したのちに、ナイロンメンブレンにブロッティングし、以下マニュアルに従って行った。ハイブリダイゼーションはDIG Easy Hyb(ロシュダイアグノスティック社製)を用いて行い、50℃で1時間プレハイブリダイゼーションを行った後にプローブを添加して、O/Nでハイブリダイゼーションさせた。バンドの検出はDIG Nucleotide Detection Kitを用いて行った。その結果、該PCR断片をプローブとして強くハイブリダイゼーションする約3.2kbpのPstI/BamHI断片を検出した。次に、このPstI/BamHI断片をコロニーハイブリダイゼーションにて取得した。染色体DNA 20μgをPstI/BamHIで処理後アガロースゲル電気泳動に供し約3.2kbpの大きさの断片を回収した。これをpUC19に連結し、E.coli JM109にてライブラリーを作製した。コロニーをナイロンメンブレンフィルター(Hybond−N、アマシャム社製)にうつし、アルカリ変性、中和、固定化の処理を行った。ハイブリダイゼーションはDIG Easy Hybを用いて行った。フィルターをバッファー中に浸し、42℃で1時間プレハイブリダイゼーションを行った。その後、作成した標識プローブを添加し、42℃で16時間ハイブリダイゼーションを行った。SSCでの洗浄後、プローブとハイブリダイズするコロニーの検出をDIG Nucleotide Detection Kit(ロシュダイアグノスティック社製)を用いて行った。その結果、プローブと強くハイブリダイゼーションするクローンを取得した。
【0144】
取得したクローンより回収したプラスミドDNAの塩基配列を決定したところ、配列番号1に記載の塩基配列を有することが明らかになった。決定した内部アミノ酸配列に対応する塩基配列(配列番号1にて519〜569番目、及び、666〜701番目)を含む855 bpのorfを見出し、目的とするアルドラーゼの全長を取得した。
【0145】
実施例5 E.coliでのIHOGアルドラーゼ(SpALD)の大量発現
(1)trpプロモーター及びrrnBターミネーター搭載プラスミドpTrp4の構築
E. coli W3110染色体DNA上のtrpオペロンのプロモーター領域を表8に示すオリゴヌクレオチドをプライマーとしてPCR(配列番号7及び配列番号8の組み合わせ)により目的遺伝子領域を増幅し、得られたDNA断片をpGEM−Teasyベクター(プロメガ製)にライゲーションした。このライゲーション溶液でE.coli JM109を形質転換し、アンピシリン耐性株の中からtrpプロモーターの方向がlacプロモーターと反対向きに挿入された目的のプラスミドを有する株を選択した。次にこのプラスミドをEcoO109i/EcoRIにて処理して得られるtrpプロモーターを含むDNA断片と、pUC19(Takara製)のEcoO109i/EcoRI処理物とライゲーションした。このライゲーション溶液でE.coli JM109を形質転換し、アンピシリン耐性株の中から目的のプラスミドを有する株を選択し、プラスミドをpTrp1と命名した。次にpKK223−3(Amersham Pharmacia製)をHindIII/HincIIにて処理し、得られたrrnBターミネーターを含むDNA断片とpTrp1のHindIII/PvuII処理物とライゲーションした。このライゲーション溶液でE.coli JM109を形質転換し、アンピシリン耐性株の中から目的のプラスミドを有する株を選択し、プラスミドをpTrp2と命名した。次にpTrp2を鋳型として表8に示すオリゴヌクレオチドをプライマーとしてPCR(配列番号7及び配列番号9の組み合わせ)によりtrpプロモーター領域を増幅した。このDNA断片をEcoO109i/NdeIにより処理し、pTrp2のEcoO109i/NdeI処理物とライゲーションした。このライゲーション溶液でE.coli JM109を形質転換し、アンピシリン耐性株の中から目的のプラスミドを有する株を選択し、このプラスミドをpTrp4と命名した。
【0146】
【表8】

【0147】
(2)アルドラーゼ遺伝子発現プラスミドptrpSpALDの構築とE.coliでの発現
表9に示すプライマー(配列番号10及び11)を用いてC77株(Sphingomonas sp. AJ110329株)の染色体DNAより増幅した断片をNdeI/PstI消化し、pTrp4のNdeI/PstIサイトに挿入したプラスミドptrpSpALDを構築した。このプラスミドは配列番号1に記載の塩基配列のうち210番目のATGを翻訳開始コドンとして1004番目まで翻訳することにより得られる、配列番号2記載のアミノ酸配列からなるアルドラーゼ遺伝子を発現する。
【0148】
【表9】

【0149】
構築した発現プラスミドをE.coli JM109に導入し、形質転換体を100μg/mlアンピシリンを含むLB培地50mlに1白金耳接種し、37℃で16時間振盪させた。培養終了後、得られた培養液1mlを集菌、洗浄し、1mlの20mM Hepes−KOH(pH7.6)に懸濁し、超音波破砕にて菌体を破砕した。破砕液を15000rpmで10分間遠心分離した上清を粗酵素液とした。
【0150】
該粗酵素液を用いてアルドラーゼ活性を測定した。アルドラーゼ活性測定は、PHOGを基質としたアルドール分解活性を以下の条件で測定した。
反応条件:50mM Hepes−KOH(pH8.5)、2mM PHOG、0.25mM NADH、0.2mM KPi、1mM MgCl2、16U/ml lactate dehydrogenase、3μl酵素/600μl反応液、30℃、340nmの吸光度を測定
測定した結果、pTrp4を導入したE.coli(コントロール)においてはアルドラーゼ活性は検出されなかったのに対して、ptrpSpALD導入株においては33.6U/mg proteinのアルドラーゼ活性が検出された。これにより、SpALD高発現プラスミドの構築と併せて、確かに目的とするアルドラーゼをクローニングしたことも確認できた。
【0151】
実施例6 C77株(Sphingomonas sp. AJ110329株)由来アルドラーゼの組み換え酵素の精製
C77株(Sphingomonas sp. AJ110329株)由来アルドラーゼ(SpALD)を高発現させたE.coliの可溶性画分から組み換えSpALDの精製を以下の通り行った。アルドラーゼ活性測定は、PHOGを基質としたアルドール分解活性を以下の条件で測定した。
反応条件:50mM Hepes−KOH(pH8.5)、2mM PHOG、0.25mM NAD、1mM MgCl2、16U/ml lactate dehydrogenase、3μl酵素/600μl反応液、30℃、340nmの吸光度を測定
【0152】
(1)可溶性画分の調製:
LB−amp平板培地で37℃、16時間培養したE.coli JM109 / ptrpSpALD菌体を一白金耳かきとり、LB−amp培地50mlを含む500ml容フラスコ10本に接種し、37℃で16時間振とう培養した。得られた培養液から遠心分離により集菌し、バッファーA(20mM Hepes−KOH,pH7.6)に懸濁して洗浄した後、再度遠心分離にて集菌した。得られた洗浄菌体を20mlのバッファーAに懸濁し、4℃で30分間超音波破砕した。破砕液を遠心分離(x8000rpm、10分間×2回)により菌体残渣を除き、得られた上清を粗抽出画分とした。
【0153】
(2)陰イオン交換クロマトグラフィー:Q−Sepharose FF
上記の可溶性画分20mlをバッファーAで平衡化した陰イオン交換クロマトグラフィーカラムQ−Sepharose FF 26/10(ファルマシア社製、CV=20 ml)に供して担体に吸着させた。担体に吸着しなかったタンパク質(非吸着タンパク質)をバッファーAを用いて洗い流した後、KCl濃度を0Mから0.7Mまで直線的に変化させて(total 140ml)吸着したタンパク質の溶出を行った。各溶出画分についてPHOGアルドラーゼ活性を検出したところ、約0.4M相当の画分にPHOGアルドラーゼ活性のピークを検出した。
【0154】
(3)疎水性クロマトグラフィー:Phenyl Sepharose HP HR 16/10
アルドラーゼ活性が検出された溶液をバッファーB(20mM Hepes−KOH、1M硫酸アンモニウム、pH7.6)に対して4℃で一晩透析し0.45μmのフィルターで濾過した。得られた濾液を、バッファーBで平衡化した疎水性クロマトグラフィーカラムPhenyl Sepharose HP HR 16/10(ファルマシア社製)に供した。この操作によりアルドラーゼは担体に吸着した。
担体に吸着しなかった非吸着タンパク質をバッファーBを用いて洗い流した後、硫酸アンモニウム濃度を1Mから0Mまで直線的変化させてアルドラーゼを溶出させた。得られた各溶出画分についてアルドラーゼ活性を測定し、硫酸アンモニウム濃度がおよそ0.4〜0.5Mの溶出位置にアルドラーゼ活性が認められた。
【0155】
(4)ゲルろ過クロマトグラフィー:Sephadex 200 HP 16/60
アルドラーゼを含む画分をそれぞれ集めて、バッファーAに対して透析し、0.45μmのフィルターで濾過した。得られた濾液を、限外ろ過膜centriprep 10を用いて濃縮した。得られた濃縮液を、バッファーC(20mM Hepes−KOH,0.1M KCl,pH7.6)で平衡化されたゲルろ過Sephadex 200 HP 16/60(ファルマシア社製)に供し、1ml/minの流速で溶出した。この操作によりアルドラーゼは66ml付近の画分に溶出された。
【0156】
(5)陰イオン交換クロマトグラフィー:Mono Q HR5/5
得られた画分を0.45μmのフィルターで濾過した。ここで得られた濾液を、バッファーAで平衡化された陰イオン交換クロマトグラフィーカラムMono−Q HR 5/5(ファルマシア社製)に供した。この操作により、アルドラーゼは担体に吸着した。バッファーAにより非吸着タンパク質を洗い流した後、KCl濃度を直線的に0 mMから700mMへ変化させてタンパク質の溶出をおこなった(Total 24ml)。各溶出画分についてアルドラーゼ活性を測定し、KCl濃度が約0.4Mの溶出位置にアルドラーゼ活性が認められた。
【0157】
以上のカラムクロマト操作により精製した画分をSDS−PAGEに供したところ、約30kDaに相当する位置にCBB染色で単一なバンドとして検出された。取得した組み換えSpALD溶液はバッファーAに対して4℃で一晩透析した。上記の操作により、452U/mlのSpALD溶液を1.5ml取得した。
【0158】
実施例7 SpALDを用いたインドール−3−ピルビン酸とピルビン酸からの4−(インドール−3−イルメチル)−4−ヒドロキシ−2−オキソグルタル酸(IHOG)の合成
実施例6にて作製したSpALDを酵素源として用いて、インドール−3−ピルビン酸とピルビン酸からの4−(インドール−3−イルメチル)−4−ヒドロキシ−2−オキソグルタル酸(IHOG)の合成を実施した。100mM Hepes−KOH(pH8.5)、300mM インドール−3−ピルビン酸、750mM ピルビン酸、1mM MgCl2からなる反応液にSpALDを7.9mg/mlとなるように添加し、37℃で3分間反応させた。酵素反応液を適宜希釈してHPLC分析に供し、生成したIHOGを定量した。その結果、該アルドラーゼによるIHOG生成を確認した。当該条件でのIHOG合成反応初速度は、451U/mgと見積もられた。
【0159】
実施例8 SpALDの酵素学的諸性質
実施例6で調製したSpALDを用いて、以下に掲げる項目について検討した。
基本測定条件:50mM Hepes−KOH(pH8.5)、2mM PHOG、5mM MgCl2、16U/ml Lactate dehydrogenase、30℃にて340nmの吸光度の減少を測定。
【0160】
(1)PHOGを基質とした速度論定数
図3示す結果から、Vmax(for PHOG)=979μmol/min/mg、Km(for PHOG)=0.60mM、Km(for MgCl2)=0.034mMとそれぞれ決定した。また、KPB添加によるアルドラーゼ活性の上昇は認められなかった。
【0161】
(2)pH安定性
pH3〜10の範囲におけるpH安定性を測定した。測定に用いた緩衝液は以下の通り。クエン酸ナトリウムバッファー(pH3, 4, 4.5)、酢酸ナトリウムバッファー(pH4, 4.5, 5, 5.5, 6, 6.5)、リン酸カリウムバッファー(pH6, 6.5, 7, 7.5, 8, 8.5)、Hepes−KOHバッファー(pH7.5, 8, 8.5, 9, 9.5)、CAPS−NAOHバッファー(pH9, 9.5, 10)。SpALDを100 mMのそれぞれの緩衝溶液中で37℃で30分間インキュベートした残存活性を基本測定条件にて測定した。結果を図4に示す。
【0162】
(3)温度安定性
25℃〜70℃にて100mM リン酸カリウムバッファー(pH7.0)及び100mM Hepes−KOHバッファー(pH8.5)中でSpALDを30分間インキュベートした後、残存活性を基本測定条件にて測定した。結果を図5に示す。
(4)至適pH
30℃におけるPHOG分解活性を比色法で測定した(図6)。結果、PHOGアルドール分解反応の至適pHはpH7.5付近であることが明らかとなった。
また、300mM IPAと750mM ピルビン酸を基質としたIHOG合成活性をそれぞれのpHで測定した(反応条件:100mM Hepes−KOH(pH8.5),300mM IPA,750mM PA,1mM MgCl2,37℃,16h)。酵素添加区のIHOG生成量から酵素無添加区のIHOG生成量を差し引いた値を図7に示す。結果、SpALDによるIHOGアルドール縮合の至適pHはpH8.0付近であることが明らかとなった。
【0163】
実施例9 SpALDによるIHOG合成
LB−amp平板培地で37℃、16時間培養したE.coli JM109/ptrpSpALD菌体を一白金耳かきとり、50mlのLB−amp培地を含む500ml容フラスコ12本に接種し、37℃で16時間振とう培養した。得られた培養液から遠心分離により集菌し、バッファーA(20mM Hepes−KOH,pH7.6)に懸濁して洗浄した後、再度遠心分離にて集菌した。遠心分離にて調製した菌体(湿菌体重量で約3g)を、以下の組成の反応液300mlに懸濁した。
IHOG合成反応溶液:50mM Hepes−KOH(pH8.5),300mM インドールピルビン酸,750mM ピルビン酸ナトリウム,1mM MgCl2、5mM リン酸カリウム緩衝液(pH8.5),(6N KOHにてpH8.5に調整)
菌体を懸濁した反応液にアルゴンガスを通気し、以後、アルゴンガス雰囲気下で反応を実施した。反応は37℃で攪拌しながら、20時間行った。反応終了後、遠心分離により除菌してアルドール反応液300mlを得た。
【0164】
実施例10 アルドール反応液のオキシム化及び4R−IHOG−oximeの単離
実施例9で取得したアルドール反応液に、8N水酸化ナトリウム水溶液にてpH値を9に保ちながら、ヒドロキシルアミン塩酸塩18.8g(270mmol)を加え、25℃にて3時間10℃にて一晩攪拌した。得られた反応液中のIHOG−oxime量をHPLC分析にて定量した。その結果、反応液中に25mmolの4−ヒドロキシ−4−(3−インドリルメチル)−2−ヒドロキシイミノグルタル酸(IHOG−oxime)が生成した。4位の不斉について分析を行ったところ、4R−IHOG−oximeが21.4mmol、4S−IHOG−oximeが3.6mmol生成しており、光学純度71.3%e.e.で4R体が優先的に生成していることを確認した。
【0165】
濃塩酸を用いて得られた反応液のpH値を2にし、有機物を酢酸エチルで抽出した。有機層を濃縮して残渣を得た。残渣に28%アンモニア水12ml及び水25mlを添加し、2−プロパノール138mlを加えて結晶化を行い、4−ヒドロキシ−4−(3−インドリルメチル)−2−ヒドロキシイミノグルタル酸の2アンモニウム塩9.76g(湿重量)を結晶として得た。得られた結晶を60mlの水に溶解させた後に、50℃にて2−プロパノール50mlを加え、さらに50℃にて2−プロパノール150mlを3時間かけて滴下した。得られた結晶をろ過し減圧乾燥することによって5.38g(15.8mmol)のIHOG−oxime・2アンモニウム塩を得た。得られた結晶の4位の不斉について分析を行ったところ、4R体としての光学純度99.0%e.e.であり、高純度の4R−IHOG−oxime・アンモニウム塩を2−プロパノールからの晶析により単離・取得することができた。
【0166】
実施例11 4R−IHOG−oximeの化学的還元による4R−モナティンの生成
実施例10で得た(4R)−4−ヒドロキシ−4−(3−インドリルメチル)−2−ヒドロキシイミノグルタル酸のアンモニウム塩5.38g(15.8mmol)を28%アンモニア水60mlに溶解し、5%ロジウム炭素(50%含水品)2.84gを加えて室温にて1MPaの水素圧で反応を行った。17時間後に触媒を濾過し(0.2ミクロンフィルター)、その濾過液に炭酸カリウム1.04g(7.5mmol)を溶解した。その溶解液を濃縮し、得られた濃縮物15.4gにエタノール20mlを加え25℃で撹拌し、更にエタノール30mlを3時間かけて滴下した後、25℃で17時間攪拌した。
【0167】
得られた湿結晶2.93gを水4mlに溶解し、35℃にてエタノール8mlを添加した後、更に35℃にてエタノール17mlを3時間かけて滴下した。このエタノール溶液を10℃まで4時間かけて冷却した後、10℃で1時間攪拌した。得られた湿結晶2.30gを減圧乾燥し、目的とする(2R,4R)−モナティンのK塩1.99gを得た。得られたモナティンは光学純度99.6%d.e.であった。
1HNMR(400MHz,D2O)δ:2.06(dd,J=11.8,15.3Hz,1H),2.67(dd,J=2.0,15.2Hz,1H),3.08(d,J=14.4Hz,1H),3.28(d,J=14.4Hz,1H),3.63(dd,J=2.2,12.2Hz,1H),7.12−7.16(m,1H),7.20−7.24(m,2H),7.48−7.49(m,1H),7.71−7.73(m,1H)。
ESI−MS 計算値 C141625=292.29,分析値291.28[M−H]-
【0168】
実施例12 SpALDによるIHOG合成の改良
LB−amp平板培地で37℃、16時間培養したE.coli JM109/ptrpSpALD菌体を一白金耳かきとり、50mlのLB−amp培地を含む500ml容フラスコ12本に接種し、37℃で16時間振とう培養した。得られた培養液から遠心分離により集菌し、バッファーA(20mM Hepes−KOH,pH7.6)に懸濁して洗浄した後、再度遠心分離にて集菌した。遠心分離にて調製した菌体(湿菌体重量で約3g)を、以下の組成の反応液300mlに懸濁した。
IHOG合成反応溶液:50mM リン酸バッファー(pH8.7),300mM インドールピルビン酸,600mM ピルビン酸ナトリウム,0.1mM MgCl2(6N KOHにてpH8.5に調整)
菌体を懸濁した反応液にアルゴンガスを通気し、以後、アルゴンガス雰囲気下で反応を実施した。反応は37℃で攪拌しながら、20時間行った。反応終了後、遠心分離により除菌してアルドール反応液300mlを得た。得られた反応液を実施例10と同様にオキシム化した後にHPLCにて生成IHOGを定量した。その結果、63.6mMの4R−IHOGが光学純度92.2%e.e.で生成しており、SpALDの反応条件の改善により4R選択性を向上せしめることが出来た。
【0169】
実施例13 C24株(Burkholderia sp. AJ110371株)からのアルドラーゼ遺伝子(buald)のクローニングおよびE.coliでの大量発現
実施例1にて採取し、4R−IHOG aldolase活性を見出した集積菌のうち、C24株から4R−IHOG aldolase(以下BuALD)をコードする遺伝子を取得した。また、ptrp4にbuald遺伝子を連結し、E.coli JM109で大量発現せしめた。
【0170】
(1)染色体DNAの調製
C24株(Burkholderia sp. AJ110371株)を50mlのCM2G培地を用いて30℃で一晩培養した(前培養)。この培養液5mlを種菌として、50mlのブイヨン培地を用いて本培養を行った。対数増殖後期まで培養した後、培養液50mlを遠心分離操作(12,000xg、4℃、15分間)に供し、集菌した。この菌体を用いて定法に従って染色体DNAを調製した。
【0171】
(2)サザン解析・コロニーハイブリダイゼーションによるbuald遺伝子の取得
SpALD遺伝子の全長をコードするDNA断片をプローブとして用いて、サザン解析及びコロニーハイブリダイゼーションによってbuald遺伝子の取得を行った。表9に示すプライマー(配列番号10及び11)を用いてC77株(Sphingomonas sp. AJ110329株)の染色体DNAよりspald遺伝子全長をPCRによって増幅した。増幅した断片を用いたDNAプローブの作製はDIG High Prime(ロシュダイアグノスティック社製)を使用して、説明書通りに37℃でO/Nインキュベートしてプローブの標識を行った。サザン解析は、C24株から調製した染色体DNA 1μgを各種制限酵素で完全に消化し、0.8%アガロースゲルで電気泳動したのちに、ナイロンメンブレンにブロッティングし、以下マニュアルに従って行った。ハイブリダイゼーションはDIG Easy Hyb(ロシュダイアグノスティック社製)を用いて行い、50℃で1時間プレハイブリダイゼーションを行った後にプローブを添加して、O/Nでハイブリダイゼーションさせた。バンドの検出はDIG Nucleotide Detection Kitを用いて行った。その結果、該PCR断片をプローブとして強くハイブリダイゼーションする約2.3 kbpのPstI/SmaI断片を検出した。次に、このPstI/SmaI断片をコロニーハイブリダイゼーションにて取得した。染色体DNA 20μgをPstI/SmaIで処理後アガロースゲル電気泳動に供し約2.3kbpの大きさの断片を回収した。これをpUC18に連結し、E.coli JM109にてライブラリーを作製した。コロニーをナイロンメンブレンフィルター(Hybond−N、アマシャム社製)にうつし、アルカリ変性、中和、固定化の処理を行った。ハイブリダイゼーションはDIG Easy Hybを用いて行った。フィルターをバッファー中に浸し、42℃で1時間プレハイブリダイゼーションを行った。その後、作成した標識プローブを添加し、42℃で16時間ハイブリダイゼーションを行った。SSCでの洗浄後、プローブとハイブリダイズするコロニーの検出をDIG Nucleotide Detection Kit(ロシュダイアグノスティック社製)を用いて行った。その結果、プローブと強くハイブリダイゼーションするクローンを取得した。
取得したクローンより回収したプラスミドDNAの塩基配列を決定したところ、配列番号14に記載の塩基配列を有することが明らかになり、目的とするbuald遺伝子の全長を取得した。
【0172】
(3)アルドラーゼ遺伝子発現プラスミドptrpBuALDの構築とE.coliでの発現
表10に示すプライマー(配列番号19及び20)を用いてC24株(Burkholderia sp. AJ110371株)の染色体DNAより増幅した断片をNdeI/PstI消化し、pTrp4のNdeI/PstIサイトに挿入したプラスミドptrpBuALDを構築した。このプラスミドは配列番号14に記載の塩基配列のうち531番目のATGを翻訳開始コドンとして1385番目まで翻訳することにより得られる、配列番号15記載のアミノ酸配列からなるアルドラーゼ遺伝子を発現する。
【0173】
【表10】

【0174】
構築した発現プラスミドをE.coli JM109に導入し、形質転換体を100μg/mlアンピシリンを含むLB培地50mlに1白金耳接種し、37℃で16時間振盪させた。培養終了後、得られた培養液1mlを集菌、洗浄し、1mlの20mM Hepes−KOH(pH7.6)に懸濁し、超音波破砕にて菌体を破砕した。破砕液を15000rpmで10分間遠心分離した上清を粗酵素液とした。
該粗酵素液を用いてアルドラーゼ活性を測定した。アルドラーゼ活性測定は、PHOGを基質としたアルドール分解活性を以下の条件で測定した。
反応条件:50mM Hepes−KOH(pH8.5)、2mM PHOG、0.25mM NADH、0.2mM KPi、1mM MgCl2、16U/ml lactate dehydrogenase、3μl酵素/600μl反応液、30℃、340nmの吸光度を測定
測定した結果、pTrp4を導入したE.coli(コントロール)においてはアルドラーゼ活性は検出されなかったのに対して、ptrpBuALD導入株においては231U/mgproteinのアルドラーゼ活性が検出された。これにより、BuALD高発現プラスミドの構築と併せて、確かに目的とするアルドラーゼをクローニングしたことも確認できた。
【0175】
実施例14 C24株(Burkholderia sp. AJ110371株)由来アルドラーゼの組み換え酵素の精製
C24株(Burkholderia sp. AJ110371株)由来アルドラーゼ(BuALD)を高発現させたE.coliの可溶性画分から組み換えBuALDの精製を以下の通り行った。アルドラーゼ活性測定は、PHOGを基質としたアルドール分解活性を以下の条件で測定した。
反応条件:50mM Hepes−KOH(pH8.5)、2mM PHOG、0.25mM NAD、1mM MgCl2、16U/ml lactate dehydrogenase、3μl酵素/600μl反応液、30℃、340nmの吸光度を測定
【0176】
(1)可溶性画分の調製:
LB−amp平板培地で37℃、16時間培養したE.coli JM109/ptrpBuALD菌体を一白金耳かきとり、LB−amp培地50 mlを含む500 ml容フラスコ10本に接種し、37℃で16時間振とう培養した。得られた培養液から遠心分離により集菌し、バッファーA(20mM Hepes−KOH,pH7.6)に懸濁して洗浄した後、再度遠心分離にて集菌した。得られた洗浄菌体を20mlのバッファーAに懸濁し、4℃で30分間超音波破砕した。破砕液を遠心分離(x8000rpm、10分間×2回)により菌体残渣を除き、得られた上清を粗抽出画分とした。
【0177】
(2)陰イオン交換クロマトグラフィー:Q−Sepharose FF
上記の可溶性画分20mlをバッファーAで平衡化した陰イオン交換クロマトグラフィーカラムQ−Sepharose FF 26/10(ファルマシア社製、CV=20ml)に供して担体に吸着させた。担体に吸着しなかったタンパク質(非吸着タンパク質)をバッファーAを用いて洗い流した後、KCl濃度を0 Mから0.7Mまで直線的に変化させて(total 140ml)吸着したタンパク質の溶出を行った。各溶出画分についてPHOGアルドラーゼ活性を検出したところ、約0.35M相当の画分にPHOGアルドラーゼ活性のピークを検出した。
【0178】
(3)疎水性クロマトグラフィー :Phenyl Sepharose HP HR 16/10
アルドラーゼ活性が検出された溶液をバッファーB(20mM Hepes−KOH、1M硫酸アンモニウム、pH7.6)に対して4℃で一晩透析し0.45μmのフィルターで濾過した。得られた濾液を、バッファーBで平衡化した疎水性クロマトグラフィーカラムPhenyl Sepharose HP HR 16/10(ファルマシア社製)に供した。この操作によりアルドラーゼは担体に吸着した。
担体に吸着しなかった非吸着タンパク質をバッファーBを用いて洗い流した後、硫酸アンモニウム濃度を1Mから0Mまで直線的変化させてアルドラーゼを溶出させた。得られた各溶出画分についてアルドラーゼ活性を測定し、硫酸アンモニウム濃度がおよそ0.4〜0.5Mの溶出位置にアルドラーゼ活性が認められた。
【0179】
(4)ゲルろ過クロマトグラフィー:Sephadex 200 HP 16/60
アルドラーゼを含む画分をそれぞれ集めて、バッファーAに対して透析し、0.45μmのフィルターで濾過した。得られた濾液を、限外ろ過膜centriprep 10を用いて濃縮した。得られた濃縮液を、バッファーC(20mM Hepes−KOH,0.1M KCl,pH7.6)で平衡化されたゲルろ過Sephadex 200 HP 16/60(ファルマシア社製)に供し、1ml/minの流速で溶出した。この操作によりアルドラーゼは66ml付近の画分に溶出された。
【0180】
(5)陰イオン交換クロマトグラフィー:Mono Q HR5/5
得られた画分を0.45μmのフィルターで濾過した。ここで得られた濾液を、バッファーAで平衡化された陰イオン交換クロマトグラフィーカラム Mono−Q HR 5/5(ファルマシア社製)に供した。この操作により、アルドラーゼは担体に吸着した。バッファーAにより非吸着タンパク質を洗い流した後、KCl濃度を直線的に0 mMから700mMへ変化させてタンパク質の溶出をおこなった(Total 24ml)。各溶出画分についてアルドラーゼ活性を測定し、KCl濃度が約0.4Mの溶出位置にアルドラーゼ活性が認められた。
【0181】
以上のカラムクロマト操作により精製した画分をSDS−PAGEに供したところ、約30kDaに相当する位置にCBB染色で単一なバンドとして検出された。取得した組み換えBuALD溶液はバッファーAに対して4℃で一晩透析した。上記の操作により、1241U/mlのBuALD溶液を1.5ml取得した。
【0182】
実施例15 BuALDの酵素学的諸性質
実施例14で調製したBuALDを用いて、以下に掲げる項目について検討した。
基本測定条件:50mM Hepes−KOH(pH8.5)、2mM PHOG、5mM MgCl2、16U/ml Lactate dehydrogenase、30℃にて340nmの吸光度の減少を測定。
【0183】
(1)PHOGを基質とした速度論定数
図8−1および図8−2に示す結果から、Vmax(for PHOG)=483μmol/min/mg、Km(for PHOG)=0.66mM、Km(for MgCl2)=0.021mMとそれぞれ決定した。また、KPB添加によるアルドラーゼ活性の上昇は認められなかった。
【0184】
(2)pH安定性
pH3〜10の範囲におけるpH安定性を測定した。測定に用いた緩衝液は以下の通り。クエン酸ナトリウムバッファー(pH3, 4, 4.5)、酢酸ナトリウムバッファー(pH4, 4.5, 5, 5.5, 6, 6.5)、リン酸カリウムバッファー(pH6, 6.5, 7, 7.5, 8, 8.5)、Hepes−KOHバッファー(pH7.5, 8, 8.5, 9, 9.5)、CAPS−NaOHバッファー(pH9, 9.5, 10)。BuALDを100mMのそれぞれの緩衝溶液中で37℃で30分間インキュベートした残存活性を基本測定条件にて測定した。結果を図9に示す。
【0185】
(3)温度安定性
25℃〜70℃にて100mM リン酸カリウムバッファー(pH7.0)及び100mM Hepes−KOHバッファー(pH8.5)中でBuALDを30分間インキュベートした後、残存活性を基本測定条件にて測定した。結果を図10に示す。
【0186】
実施例16 BuALDおよびSpALDによるIHOG合成とオキシム化
LB−amp平板培地で37℃、16時間培養したE.coli JM109/ptrpBuALDあるいはE.coli JM109/ptrpSpALD菌体を一白金耳かきとり、50mlのLB−amp培地を含む500ml容フラスコ4本にそれぞれ接種し、37℃で16時間振とう培養した。得られた培養液から遠心分離により集菌し、バッファーA(20mM Hepes−KOH,pH7.6)に懸濁して洗浄した後、再度遠心分離にて集菌した。遠心分離にて調製した菌体(湿菌体重量で約1g)を、以下の組成の反応液100mlに懸濁した。
IHOG合成反応溶液:50mM KPB(pH8.0),300mM インドールピルビン酸,600mM ピルビン酸ナトリウム,0.1mM MgCl2,(6N KOHにてpH8.0に調整)
菌体を懸濁した反応液にアルゴンガスを通気した後に、反応は37℃で攪拌しながら、18時間行った。反応終了後、遠心分離により除菌してアルドール反応液約100mlを得た。
取得したアルドール反応液約96mlに、6N水酸化ナトリウム水溶液にてpH値を9に保ちながら、ヒドロキシルアミン塩酸塩6.25g(90mmol)を加え、25℃にて6時間,10℃にて一晩攪拌した。得られた反応液中のIHOG−oxime量をHPLC分析にて定量した。その結果、(表11)BuALD区、SpALD区ともに、4R−IHOG−oximeが優先的に生成していた。
【0187】
【表11】

【0188】
実施例17 C43株(Sphingomonas sp. AJ110372株)からのアルドラーゼ遺伝子(SpALD2)のクローニングおよびE.coliでの大量発現
実施例1にて採取し、4R−IHOG aldolase活性を見出した集積菌のうち、Sphingomonas sp. C43株から4R−IHOG aldolase(以下SpALD2)をコードする遺伝子を取得した。また、ptrp4にspald2遺伝子を連結し、E.coli JM109で大量発現せしめた。
【0189】
(1)染色体DNAの調製
C43株(Sphingomonas sp. AJ110372株)を50mlのCM2G培地を用いて30℃で一晩培養した(前培養)。この培養液5mlを種菌として、50mlのブイヨン培地を用いて本培養を行った。対数増殖後期まで培養した後、培養液50mlを遠心分離操作(12,000xg、4℃、15分間)に供し、集菌した。この菌体を用いて定法に従って染色体DNAを調製した。
【0190】
(2)サザン解析・コロニーハイブリダイゼーションによるspald2遺伝子の取得
SpALD遺伝子の全長をコードするDNA断片をプローブとして用いて、サザン解析及びコロニーハイブリダイゼーションによってspald2遺伝子の取得を行った。表9に示すプライマー(配列番号10及び11)を用いてC77株(Sphingomonas sp. AJ110329株)の染色体DNAよりspald遺伝子全長をPCRによって増幅した。増幅した断片を用いたDNAプローブの作製はDIG High Prime(ロシュダイアグノスティック社製)を使用して、説明書通りに37℃でO/Nインキュベートしてプローブの標識を行った。サザン解析は、C43株から調製した染色体DNA 1μgを各種制限酵素で完全に消化し、0.8%アガロースゲルで電気泳動したのちに、ナイロンメンブレンにブロッティングし、以下マニュアルに従って行った。ハイブリダイゼーションはDIG Easy Hyb(ロシュダイアグノスティック社製)を用いて行い、50℃で1時間プレハイブリダイゼーションを行った後にプローブを添加して、O/Nでハイブリダイゼーションさせた。バンドの検出はDIG Nucleotide Detection Kitを用いて行った。その結果、該PCR断片をプローブとして強くハイブリダイゼーションする約3kbpのPstI断片を検出した。次に、このPstI断片をコロニーハイブリダイゼーションにて取得した。染色体DNA20μgをPstIで処理後アガロースゲル電気泳動に供し約3kbpの大きさの断片を回収した。これをpUC118に連結し、E.coli JM109にてライブラリーを作製した。コロニーをナイロンメンブレンフィルター(Hybond−N、アマシャム社製)にうつし、アルカリ変性、中和、固定化の処理を行った。ハイブリダイゼーションはDIG Easy Hybを用いて行った。フィルターをバッファー中に浸し、42℃で1時間プレハイブリダイゼーションを行った。その後、作成した標識プローブを添加し、42℃で16時間ハイブリダイゼーションを行った。SSCでの洗浄後、プローブとハイブリダイズするコロニーの検出をDIG Nucleotide Detection Kit(ロシュダイアグノスティック社製)を用いて行った。その結果、プローブと強くハイブリダイゼーションするクローンを取得した。
取得したクローンより回収したプラスミドDNAの塩基配列を決定したところ、配列番号12に記載の塩基配列を有することが明らかになり、目的とするspald2遺伝子の全長を取得した。
【0191】
(3)アルドラーゼ遺伝子発現プラスミドpUCSpALD2の構築とE.coliでの発現
表12に示すプライマー(配列番号21及び22)を用いてSphingomonas sp. C43株の染色体DNAより増幅した断片をEcoRI/PstI消化し、pUC18のEcoRI/PstIサイトに挿入したプラスミドpUCSpALD2を構築した。このプラスミドは配列番号12に記載の塩基配列のうち399番目のATGを翻訳開始コドンとして1253番目まで翻訳することにより得られる、配列番号13記載のアミノ酸配列からなるアルドラーゼ遺伝子を発現する。
【0192】
【表12】

【0193】
構築した発現プラスミドをE.coli JM109に導入し、形質転換体を100μg/mlアンピシリン、0.1mM Isopropyl−b−D−thiogalactopyranoside(IPTG)を含むLB培地50mlに1白金耳接種し、30℃で16時間振盪させた。培養終了後、得られた培養液1mlを集菌、洗浄し、1mlの20mM Hepes−KOH(pH7.6)に懸濁し、超音波破砕にて菌体を破砕した。破砕液を15000rpmで10分間遠心分離した上清を粗酵素液とした。
【0194】
該粗酵素液を用いてアルドラーゼ活性を測定した。アルドラーゼ活性測定は、PHOGを基質としたアルドール分解活性を以下の条件で測定した。
反応条件: Hepes−KOH(pH8.5)、2mM PHOG、0.25mM NADH、1mM MgCl2、16U/ml lactate dehydrogenase、 3μl酵素/600μl反応液、30℃、340nmの吸光度を測定
測定した結果、pUC18を導入したE.coli(コントロール)からはアルドラーゼ活性が検出されなかったのに対して、pUCSpALD2導入株においては0.68U/mg proteinのアルドラーゼ活性が検出された。これにより、SpALD2高発現プラスミドの構築と併せて、確かに目的とするアルドラーゼをクローニングしたことも確認できた。
【0195】
実施例18 SpALD2によるIHOGおよびIHOG−oxime合成
LB−amp平板培地で30℃、16時間培養したE.coli JM109/pUCSpALD2菌体を一白金耳かきとり、100μg/mlアンピシリン、0.1mM IPTGを含むLB培地50ml培地を含む500ml容フラスコ4本にそれぞれ接種し、34℃で16時間振とう培養した。得られた培養液から遠心分離により集菌し、バッファーA(20mM Hepes−KOH,pH7.6)に懸濁して洗浄した後、再度遠心分離にて集菌した。遠心分離にて調製した菌体(湿菌体重量で約1g)を、以下の組成の反応液100mlに懸濁した。
IHOG合成反応溶液:50mM KPB(pH8.0),300mM インドールピルビン酸,600mM ピルビン酸ナトリウム,0.1mM MgCl2,(6N KOHにてpH8.0に調整)
菌体を懸濁した反応液にアルゴンガスを通気した後に、反応は37℃で攪拌しながら、18時間行った。反応終了後、遠心分離により除菌してアルドール反応液約100mlを得た。
取得したアルドール反応液約96mlに、50%ヒドロキシルアミン水溶液5.95ml(90mmol)を加え、25℃にて6時間,10℃にて一晩攪拌した。得られた反応液中のIHOG−oxime量をHPLC分析にて定量した。その結果、4R−IHOG−oximeが3.84mmol、4S−IHOG−oximeが0.15mmol生成しており、光学純度92.4%e.e.で4R体が優先的に生成していることを確認した。
【0196】
参考例1 4−ヒドロキシ−4−(3−インドリルメチル)−2−ケトグルタル酸(IHOG)の合成
水酸化カリウム18.91g(286.5mmol、含量85重量%)を溶解した水64.45mlに、インドール−3−ピルビン酸7.50g(35.8mmol、含量97.0重量%)とオキサロ酢酸14.18g(107.4mmol)を加えて溶解させた。この混合溶液を35℃にて24時間攪拌した。
更に、3N−塩酸40.0mlを加えて中和(pH=7.0)し、153.5gの反応中和液を得た。この反応中和液には、4−ヒドロキシ−4−(3−インドリルメチル)−2−ケトグルタル酸が5.55g含まれており、収率53.3%(対インドールピルビン酸)であった。
この反応中和液に水を加え、168mlとし、合成吸着剤(三菱化学製 DIAION−SP207)840mlにて充填された樹脂塔(直径4.8cm)に通液した。更に、流速23.5ml毎分にて純水を通液し、1.73〜2.55(L/L−R)を収集することにより、高純度の4−ヒドロキシ−4−(3−インドリルメチル)−2−ケトグルタル酸を3.04g含む水溶液を、収率54.7%(樹脂への投入量に対して)にて得た。
(NMR測定)
1H−NMR(400MHz,D2O):3.03(d,1H,J=14.6Hz),3.11(d,1H,J=14.6Hz),3.21(d,1H,J=18.1Hz),3.40(d,1H,J=18.1Hz),7.06−7.15(m,3H),7.39(d,1H,J=7.8Hz),7.66(d,1H,J=7.8Hz).
13C−NMR(100MHz,D2O):35.43,47.91,77.28,109.49,112.05,119.44,119.67,121.91,125.42, 128.41,136.21,169.78,181.43,203.58
【0197】
参考例2 4−フェニルメチル−4−ヒドロキシ−2−ケトグルタル酸(PHOG)の合成
水酸化カリウム(純度85%)13.8gを溶解した水25mlに対し、フェニルピルビン酸5.0g(30.5mmol)、オキサル酢酸12.1g(91.4mmol)を加えて室温にて72時間反応させた。濃塩酸を用いて反応液のpH値を2.2に調節し、酢酸エチルで抽出した。有機層を飽和食塩水で洗浄し、無水硫酸マグネシウムで乾燥を行った後に、濃縮して残渣を得た。残渣を酢酸エチルとトルエンから再結晶を行い、4−フェニルメチル−4−ヒドロキシ−2−ケトグルタル酸2.8g(11.3mmol)を結晶として得た。
(NMR測定)
1H NMR(D2O)δ:2.48(d,J=14.4Hz,0.18H),2.60(d,J=14.4Hz,0.18H),2.85−3.30(m,3.64H),7.17−7.36(m,5H)
(分子量測定)
ESI−MS計算値C12126=252.23,分析値251.22(MH-
【0198】
参考例3 4−ヒドロキシ−4−(3−インドリルメチル)−2−ヒドロキシイミノグルタル酸の製造
1.6wt%水酸化ナトリウム水溶液917gに、インドール−3−ピルビン酸73.8g(352ミリモル)を加えて溶解した。反応溶液を35℃とし、30%水酸化ナトリウム水溶液を用いてpH値を11.1に保ちながら、50%ピルビン酸水溶液310.2g(1761ミリモル)を2時間かけて滴下した。更に4.5時間反応させて、4−ヒドロキシ−4−(3−インドリルメチル)−2−ケトグルタル酸を含有する反応溶液を得た。これに、30%水酸化ナトリウム水溶液にてpH値を7に保ちながら、40%ヒドロキシルアミン塩酸塩水溶液367.2g(2114ミリモル)を加え、5℃にて17.5時間攪拌した。濃塩酸を用いて反応液のpH値を2にし、有機物を酢酸エチルで抽出した。有機層を飽和食塩水で洗浄し、濃縮して残渣を得た。残渣に28%アンモニア水60mlと2−プロパノール1350mlから再結晶を行い、4−ヒドロキシ−4−(3−インドリルメチル)−2−ヒドロキシイミノグルタル酸の2アンモニウム塩43.4g(142ミリモル:収率40%対インドール−3−ピルビン酸)を結晶として得た。
【0199】
参考例4 (4S)−4−ヒドロキシ−4−(3−インドリルメチル)−2−ヒドロキシイミノグルタル酸の(R)−(+)−1−フェニルエチルアミン塩の製造
4−ヒドロキシ−4−(3−インドリルメチル)−2−ヒドロキシイミノグルタル酸のアンモニウム塩44.7g(0.131モル)を25℃で水500mlに溶解後、36%塩酸25.5gにてその水溶液のpHを2にした。酸性溶液を酢酸エチル1300mlで抽出し、その酢酸エチル溶液を飽和食塩水200mlで洗浄した。得られた酢酸エチル溶液に炭酸ナトリウム水溶液500ml(炭酸ナトリウム 13.9g 0.131モル)を加え攪拌し、アルカリ水溶液と酢酸エチルを分離した。得られたアルカリ水溶液に36%塩酸23.1gを添加し液のpHを2にした。この酸性水溶液に(R)−(+)−1−フェニルエチルアミン6.99g(57.6ミリモル)を滴下し25℃にて1時間攪拌する。得られた結晶を濾過し、減圧乾燥して(4S)−4−ヒドロキシ−4−(3−インドリルメチル)−2−ヒドロキシイミノグルタル酸の(R)−(+)−1−フェニルエチルアミン塩21.8g(47.8ミリモル)を得た(収率72.7%、光学純度87.4%)。
(NMR測定)
1H−NMR(400MHz,DMSO−d6)δ:1.48(d,3H,J=6.8Hz),2.63(d,1H,J=14.0Hz),2.70(d,1H,J=14.0Hz),2.90(d,1H,J=14.1Hz),3.06(d,1H,J=14.1Hz),4.40(q,1H,J=6.8Hz),6.91−7.54(m,10H)。
【0200】
参考例5 (4R)−4−ヒドロキシ−4−(3−インドリルメチル)−2−ヒドロキシイミノグルタル酸の(S)−(−)−1−フェニルエチルアミン塩の製造
参考例4で得られた結晶濾過液に、更に(S)−(−)−1−フェニルエチルアミン7.12g(58.7ミリモル)を滴下し25℃にて1時間攪拌した。得られた結晶を濾過し、減圧乾燥して(4R)−4−ヒドロキシ−4−(3−インドリルメチル)−2−ヒドロキシイミノグルタル酸の(S)−(−)−1−フェニルエチルアミン塩23.8g(53.3モル)を得た(収率81.1%、光学純度92.1%)。
【0201】
参考例6
(1)(4S)−4−ヒドロキシ−4−(3−インドリルメチル)−2−ヒドロキシイミノグルタル酸のアンモニウム塩の製造
25℃にて、(4S)−4−ヒドロキシ−4−(3−インドリルメチル)−2−ヒドロキシイミノグルタル酸の(R)−(+)−1−フェニルエチルアミン塩21.8g(51.0ミリモル)に水200ml及び28%アンモニア水18.5gを加えて溶解させた後、さらにトルエン200mlを加えて攪拌した。分層して得られた水層を60℃に加温し、その水溶液に2−プロパノール900mlを2時間かけて滴下した。この2−プロパノール水溶液を10℃まで5時間かけて冷却した後、10℃で10時間攪拌した。得られた結晶を濾過し、減圧乾燥して(4S)−4−ヒドロキシ−4−(3−インドリルメチル)−2−ヒドロキシイミノグルタル酸のアンモニウム塩14.75gを得た(収率85.1%、光学純度99.0%)。
融点;205℃(分解)
比旋光度[α]20D+13.4(c=1.00,H2O)
(2)(4R)−4−ヒドロキシ−4−(3−インドリルメチル)−2−ヒドロキシイミノグルタル酸のアンモニウム塩の製造
上記参考例と同様に、(4R)−4−ヒドロキシ−4−(3−インドリルメチル)−2−ヒドロキシイミノグルタル酸の(R)−(+)−1−フェニルエチルアミン塩23.8g(53.3ミリモル)から(4R)−4−ヒドロキシ−4−(3−インドリルメチル)−2−ヒドロキシイミノグルタル酸のアンモニウム塩16.2gを得た(収率89.3%、光学純度99.9%)。
比旋光度[α]20D−13.6(c=1.00,H2O)
【0202】
参考例7 (2R,4R)モナティンの製造
参考例6で得た(4R)−4−ヒドロキシ−4−(3−インドリルメチル)−2−ヒドロキシイミノグルタル酸のアンモニウム塩13.2g(38.7ミリモル)を28%アンモニア水135mlに溶解し、5%ロジウム炭素(50%含水品)6.93gを加えて25℃にて1MPaの水素圧で反応を行った。24時間後に触媒を濾過し(0.2ミクロンフィルター)、その濾過液に炭酸カリウム2.54g(18.4ミリモル)を溶解した。その溶解液を濃縮し、得られた濃縮物32.7gに水20ml及びエタノール45mlを加え25℃で撹拌し、更にエタノール60mlを3時間かけて滴下した後、25℃で20時間攪拌し晶析を行った。得られた湿結晶9.78gを水12mlに溶解し、エタノール24mlを添加した後、更にエタノール51mlを3時間かけて滴下した。このエタノール溶液を15℃まで4時間かけて冷却した後、15℃で10時間攪拌した。得られた湿結晶7.08gを減圧乾燥し、目的とする(2R,4R)モナティンのカリウム塩5.7gを得た。
【産業上の利用可能性】
【0203】
以上のように、本発明のアルドラーゼを用いることによって、IHOG及びPHOGを光学選択的に生成することが可能となる。本発明のアルドラーゼは、モナティンの合成ルートにおけるアルドール縮合反応の段階において、効率的な不斉導入を可能とするものであり、光学活性IHOG、及び、光学活性モナティンの製造に好適に利用することができる。
【図面の簡単な説明】
【0204】
【図1】本発明のアルドラーゼのホモロジー比較を示す図である。
【図2】本発明のアルドラーゼの製造工程を示すフローチャートである。
【図3−1】SpALDのPHOGを基質とした反応速度を示すグラフである。
【図3−2】SpALDのMgCl2濃度に対する反応速度を示すグラフである。
【図4】SpALDのpH安定性を測定した結果を示すグラフである。
【図5】SpALDの温度安定性を測定した結果を示すグラフである。
【図6】SpALDのアルドール分解活性における反応至適pHを示すグラフである。
【図7】SpALDのアルドール縮合活性における反応至適pHを示すグラフである。
【図8−1】BuALDのPHOGを基質とした反応速度を示すグラフである。
【図8−2】BuALDのMgCl2濃度に対する反応速度を示すグラフである。
【図9】BuALDのpH安定性を測定した結果を示すグラフである。
【図10】BuALDの温度安定性を測定した結果を示すグラフである。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
下記(a)又は(b)
(a)配列番号2記載のアミノ酸配列からなるタンパク質、又は
(b)配列番号2記載のアミノ酸配列と少なくとも相同性が70%以上であって、4R−アルドラーゼ活性を有するタンパク質、
のいずれかに記載のタンパク質、又は、それを含有する微生物を、
インドール−3−ピルビン酸及びピルビン酸又はオキサロ酢酸に作用させ、
光学純度70%以上の下記式(1)で示される(4R)−4−(インドール−3−イルメチル)−4−ヒドロキシ−2−オキソグルタル酸(4R−IHOG)又はその塩を生成させることを特徴とする、4R−IHOG又はその塩の製造方法。
【化1】

【請求項2】
下記(a)又は(b)
(a)配列番号2記載のアミノ酸配列からなるタンパク質、又は
(b)配列番号2記載のアミノ酸配列と少なくとも相同性が70%以上であって、4R−アルドラーゼ活性を有するタンパク質、
のいずれかに記載のタンパク質、又は、それを含有する微生物を、
インドール−3−ピルビン酸及びピルビン酸又はオキサロ酢酸に作用させ、
4R−IHOG又はその塩を優先的に生成させる第1の工程、及び、
前記第1の工程によって得られた4R−IHOG又はその塩のカルボニル基をアミノ基に変換し、光学純度90%以上の下記式(2)で示される4R−モナティン又はその塩を得る第2の工程、
を含むことを特徴とする4R−モナティン又はその塩の製造方法。
【化2】

(式中、波線の結合はR−配置及びS−配置の両方を含むことを表す。)
【請求項3】
前記第2の工程において、カルボニル基のアミノ基への変換が、4R−IHOGに酵素を作用せしめてアミノ化することにより行なわれるものである、請求項2記載の4R−モナティン又はその塩の製造方法。
【請求項4】
前記第2の工程において、カルボニル基のアミノ基への変換が、反応液に含まれる4−(インドール−3−イルメチル)−4−ヒドロキシ−2−オキソグルタル酸を、中性又はアルカリ性条件下において下記一般式(3)
【化3】

(上記一般式(3)において、Rは水素原子、アルキル基、アリール基又はアラルキル基を表す。)
で表されるアミン化合物又はその塩と反応せしめ、下記式(4)に示される4−ヒドロキシ−4−(3−インドリルメチル)−2−ヒドロキシイミノグルタル酸(IHOG−oxime)を生成させ、生成したIHOG−oxime又はその塩の4R体を晶析し、
得られた4R体のIHOG−oxime又はその塩を還元し、生成した光学純度90%以上の4R−モナティン又はその塩を採取するものである、請求項2に記載の4R−モナティン又はその塩の製造方法。
【化4】

【請求項5】
前記一般式(3)で表されるアミン化合物が、ヒドロキシルアミン、メトキシアミン、ベンジルオキシアミンからなる群より選ばれる少なくとも一種のアミン化合物である、請求項4に記載の4R−モナティン又はその塩の製造方法。
【請求項6】
4R体のIHOG−oxime又はその塩の還元が、水素及び水素添加触媒の存在下で実施されることを特徴とする請求項4又は5に記載の4R−モナティン又はその塩の製造方法。
【請求項7】
前記第2の工程において、晶析により(2R,4R)−モナティンを採取することを特徴とする請求項4〜6のいずれか一項に記載の4R−モナティン又はその塩の製造方法。
【請求項8】
前記第2の工程において、晶析溶媒として水、アルコール溶媒又は含水アルコール溶媒を用いることを特徴とする請求項4〜7のいずれか1項に記載の4R−モナティン又はその塩の製造方法。
【請求項9】
前記方法に用いられるタンパク質が、スフィンゴモナス属又はバークホルデリア属細菌から選ばれる微生物に由来するタンパク質である、請求項1〜8のいずれか一項に記載の製造方法。
【請求項10】
前記微生物は、スフィンゴモナス エスピー(Sphingomonas sp.)AJ110329株又はAJ110372株、バークホルデリア エスピー(Burkholderia sp.)AJ110371株であることを特徴とする請求項9記載の製造方法。
【請求項11】
下記(a)〜(c)のいずれかのタンパク質。
(a)配列番号2に記載のアミノ酸配列からなるタンパク質
(b)配列番号2記載のアミノ酸配列と少なくとも相同性が70%以上であって、4R−アルドラーゼ活性を有するタンパク質
(c)配列表の配列番号2に記載のアミノ酸配列において1若しくは数個のアミノ酸残基の置換、欠失、挿入、付加、又は逆位を含むアミノ酸配列を有し、かつ、アルドラーゼ活性を有するタンパク質
【請求項12】
配列番号2記載のアミノ酸配列と少なくとも相同性が70%以上であって、4R−アルドラーゼ活性を有するタンパク質が、配列番号13又は15のいずれかに記載のタンパク質である、請求項11に記載のタンパク質。
【請求項13】
請求項11又は12に記載のタンパク質をコードするDNA。
【請求項14】
下記(d)又は(e)のDNA。
(d)配列番号1記載の塩基配列又は同配列中塩基番号210〜1004の塩基配列からなるDNA
(e)配列番号1記載の塩基配列若しくは同配列中塩基番号210〜1004の塩基配列と相補的な塩基配列からなるDNAとストリンジェントな条件でハイブリダイズし、かつ、アルドラーゼ活性を有するタンパク質をコードするDNA
【請求項15】
配列番号1記載の塩基配列若しくは同配列中塩基番号210〜1004の塩基配列と相補的な塩基配列からなるDNAとストリンジェントな条件でハイブリダイズし、かつ、アルドラーゼ活性を有するタンパク質をコードするDNAが、(f)配列番号12記載の塩基配列若しくは同配列中塩基番号399〜1253の塩基配列からなるDNA、又は(g)配列番号14記載の塩基配列若しくは同配列中塩基番号531〜1385の塩基配列からなるDNAのいずれかのDNAである、請求項14に記載のDNA。
【請求項16】
請求項14又は15に記載のDNAとベクターDNAを接続して得られることを特徴とする組換えDNA。
【請求項17】
請求項16記載の組換えDNAによって形質転換された細胞。
【請求項18】
請求項17記載の細胞を培地中で培養し、培地及び/又は細胞中にアルドラーゼ活性を有するタンパク質を蓄積させることを特徴とするアルドラーゼ活性を有するタンパク質の製造方法。


【図1】
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【図2】
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【図3−1】
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【図3−2】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8−1】
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【図8−2】
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【図9】
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【図10】
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【公開番号】特開2006−204285(P2006−204285A)
【公開日】平成18年8月10日(2006.8.10)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−167501(P2005−167501)
【出願日】平成17年6月7日(2005.6.7)
【出願人】(000000066)味の素株式会社 (887)
【Fターム(参考)】