説明

新規メタロシリケート及び窒素酸化物浄化触媒

【課題】幅広い温度域、特に200℃以下の比較的低温の領域で効率的に窒素酸化物を浄化する触媒性能及び水熱耐久性を有し、尚且つハンドリングに優れたβ型鉄シリケート触媒、及びそれを用いた窒素酸化物の浄化方法の提供。
【解決手段】SiO/Feモル比が50以上150以下、結晶の乾燥重量に対するフッ素の含有率が400ppm以下、結晶回折(302)面の半値幅(FWHM)が0.16〜0.24°であるβ骨格構造中に鉄の全部又は一部を含有するβ型鉄シリケートを用いる。
当該β型鉄シリケートは、特にNaを除くアルカリ金属を含有し、フッ素を含有しない原料混合物を水熱処理して結晶化させることにより得られる。当該β型鉄シリケートから成る窒素酸化物浄化触媒を窒素酸化物の還元浄化に用いる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、触媒、吸着剤及び分離剤等として有用な新規メタロシリケートに関するものであり、更に詳しくは、工業的使用が困難なフッ素を用いることなく合成され、固体酸点としてのAl及び触媒活性点あるいは吸着点等として働きうるFeを共に高分散状態にて結晶中に含有し、なおかつ耐熱性の高い高結晶性のβ型鉄シリケートに関するものである。
【0002】
また本発明は、内燃機関から排出される窒素酸化物の浄化に関するものであり、β構造を有する結晶性シリケートからなる窒素酸化物浄化触媒、並びにそれを用いてアンモニア、尿素、有機アミン類の少なくとも一つと反応させる窒素酸化物浄化方法を提供するものである。
【背景技術】
【0003】
β型ゼオライトは特許文献1によって初めて開示されたハイシリカゼオライトであり、触媒及び吸着剤等として広く利用されている。
【0004】
ゼオライトの利用にあたっては、触媒活性や吸着選択性等の特定の機能を付与することを目的に、しばしば金属によるゼオライトの化学修飾が行われる。一般的に用いられる方法には、ゼオライトのイオン交換能を利用して金属カチオンを液相でのイオン交換により担持する方法や、金属の塩を含む溶液をゼオライトに含浸させることで金属を担持する方法がある。
【0005】
ゼオライトの化学修飾においては、目的とする機能を最大限に発揮するため、担持する金属は一般にゼオライト基材中に高分散に存在し、できる限り凝集していないことが望ましい。
【0006】
しかし、例えば上述のイオン交換による担持では、交換可能な金属量はゼオライトのイオン交換能に依存し、それ以上に担持しようとすると金属の凝集が起こりやすい。また、含浸による担持では金属の担持量を制御しやすい代わりに、担持する金属量を増やすに従い金属の凝集が起こりやすくなるという問題がある。
【0007】
一部の金属は、ゼオライトの水熱合成の原料として添加することにより、SiやAlと同様にゼオライト骨格中に導入することができる。このような方法によって導入した金属は、原子ごとに酸素原子を介したSiのネットワークに取り込まれるため、非常に高分散な状態となる。導入可能な金属としては、B、Cr、V、Ge、Ga、Fe、Sn、Zn等が知られている。これらの金属の中で、Feの導入に関しては比較的多くの試みがこれまでに行われている。
【0008】
β型ゼオライトの骨格にFeを導入したβ型鉄シリケートについては以下のような先行技術が開示されている。
【0009】
例えば、特許文献2においてAlとFeの両方を骨格に有するβ型鉄シリケートを含む吸着材が開示されている。また特許文献3において、X線回折ピークの半値幅等により規定されたβ型鉄シリケートを含む自動車排ガス浄化用吸着材が開示されている。その他特許文献4において骨格鉄とイオン交換サイトの鉄カチオンを含むアルミノシリケートゼオライトが開示されている。
【0010】
また例えば、非特許文献1および非特許文献2にもβ型鉄シリケートが開示されている。さらに非特許文献3において、原料中にフッ素を添加することで合成されたβ型鉄シリケートが開示されている。一般に、ゼオライト合成において原料中にフッ素を添加することで、フッ素を添加しない場合と比べて格子欠陥の少ない結晶性の良好なゼオライトが得られることが知られている。例えば、β型ゼオライトでは非特許文献4に開示されている。
【0011】
しかしながら、これらに開示されているβ型鉄シリケートはFeの導入量が非常に少ないために触媒等の活性点として利用するのに必ずしも十分ではないか、Al及びFeの導入量は十分であっても結晶性が十分でないものであった。これは、一般にAlを含有する鉄シリケートの水熱合成においては、原料中のFeが少ないほど生成物の物性は通常のアルミノシリケートに近づき、結晶化が容易となると同時に得られる結晶の結晶性が良くなる傾向があるのに対し、原料中のFeを増加させると急速に結晶の生成領域が縮小し、得られる結晶の結晶性が低下するためである。こうした傾向は、アルカリ性の原料混合物中におけるAlに対するFeの不安定性や、Alよりもイオン半径の大きいFeがゼオライト骨格に存在することによる結晶の歪みの増大に起因すると考えられる。
【0012】
また、ゼオライト合成におけるフッ素の使用は設備腐食等の観点から工業的に難しく、また生成したゼオライトに残存するフッ素が性能に悪影響を及ぼすという問題もあった。
【0013】
また、SiO/Fe比が20〜300、含有鉄中の孤立鉄イオンが80%以上のβ型構造中に鉄を有する結晶性シリケートから成る窒素酸化物浄化触媒(特許文献5)が報告されている。しかし、それらはフッ素原料を用いて結晶粒径を増大し、結晶性を高めたものであった。
【0014】
また、SiO/Feモル比が20〜300、log(SiO/Al)が2以上(モル比)のβ骨格構造中に鉄を有する結晶性シリケートが優れた低温での窒素酸化物の分解性能並びに水熱耐久性を有することが報告されている(特許文献6)。しかしながら、これらの粒子径も5μm以上と大きいものであった。
【0015】
これまで工業使用が困難なフッ素を用いることなく合成され、固体酸点としてのAl及び触媒活性点あるいは吸着点等として働きうるFeを共に高分散状態にて結晶中に含有し、触媒として高い動的性能が期待できる粒径範囲で、耐熱性の高い高結晶性のβ型鉄シリケートは知られていなかった。
【0016】
骨格構造中に異種元素を置換した結晶性シリケートは、通常のアルミノシリケートゼオライトとは異なる特性が期待され、触媒反応への利用が検討されている。例えば白金を担持した鉄シリケートを用いたキシレン異性化触媒(特許文献7)、また鉄シリケートを用いたナフタレン性化合物の選択メチル化触媒(特許文献8)、また環状エーテルの開環重合触媒として鉄シリケートを用いたポリアルキレングリコールの製造方法(特許文献9)等が開示されている。
【0017】
一方、鉄シリケートを用いた窒素酸化物の浄化技術も検討されている。例えば、ZSM−5型鉄シリケートに銅とガリウムとの共沈複合酸化物が分散担持された窒素酸化物を含む排ガスの浄化用触媒(特許文献10)、過剰の酸素が存在する雰囲気中で、炭化水素類または含酸素化合物の存在下、ZSM−5型鉄シリケートのアルカリ金属交換体を窒素酸化物を含む排ガスと接触させる窒素酸化物浄化方法(特許文献11)、窒素酸化物、酸素ガスおよび必要に応じて亜硫酸ガスを含有する燃焼排ガスを、鉄シリケート触媒および炭化水素還元剤の存在下で接触反応させる窒素酸化物の除去方法(特許文献12)、鉄シリケートに白金、パラジウム、ロジウム及びコバルトのうち少なくとも一種を担持した窒素酸化物を主として除去する排気ガス浄化触媒(特許文献13)等が報告されている。なお、特許文献12、13に記載される鉄シリケートは合成の際にテトラプロピルアンモニウム塩を使用していることから、得られた鉄シリケートの骨格構造はZSM−5構造である。
【0018】
亜酸化窒素の浄化触媒については、亜酸化窒素の直接分解に用いられる、銅やコバルト等を担持したβ型鉄シリケートを含む触媒の製造方法(特許文献14)、β構造を有する鉄シリケートを用いて、亜酸化窒素を直接分解する方法、及び一酸化炭素を還元剤として亜酸化窒素を非選択的接触還元する方法(非特許文献3)等が開示されている。
【0019】
一方、排ガス中の窒素酸化物の浄化触媒については、リーンバーン燃焼排ガスやディーゼル燃焼排ガスに代表される酸素過剰排ガスの窒素酸化物の浄化に関し、鉄又は銅を担持したアルミノシリケートゼオライト触媒を用い、アンモニアにより選択的接触還元(通常SCRという)する方法(特許文献15)が知られている。
【0020】
また、SiO/Fe比が20〜300、含有鉄中の孤立鉄イオンが80%以上のβ型構造中に鉄を有する結晶性シリケートから成る窒素酸化物浄化触媒(特許文献5)が報告されている。しかし、アンモニアを還元剤として用いた窒素酸化物(NOx)の還元方法において、低温での窒素酸化物の分解性能並びに水熱耐久性は不十分であった。
【0021】
また、SiO/Feモル比が20〜300、log(SiO/Al)が2以上(モル比)のβ骨格構造中に鉄を有する結晶性シリケートが優れた低温での窒素酸化物の分解性能並びに水熱耐久性を有することが報告されている(特許文献6)。しかしながら、これらの結晶粒子径は5μm以上と大きく、コーティングや成型等、ハンドリングに問題が残るものであった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0022】
【特許文献1】米国特許3308069号
【特許文献2】特許第4044984号
【特許文献3】特許第3986186号
【特許文献4】米国特許出願公開2009−048095号
【特許文献5】特開2009−166031号
【特許文献6】特開2009−166032号
【特許文献7】特許第3269828号公報
【特許文献8】特表2004−524142号公報
【特許文献9】特許第3477799号公報
【特許文献10】特開平5−305240号公報
【特許文献11】特許第2691643号公報
【特許文献12】特開平5−154349号公報
【特許文献13】特許第2605956号公報
【特許文献14】米国特許出願公開第2006―0088469号公報
【特許文献15】特開平2−293021号公報
【非特許文献】
【0023】
【非特許文献1】ZEOLITES、Vol.10(1990)、85〜89頁
【非特許文献2】Microporous Materials、Vol.2(1994)167〜177頁
【非特許文献3】Journal of Catalysis、Vol.232(2005)、318〜334頁
【非特許文献4】ZEOLITES、Vol.12(1992)、240〜250頁
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0024】
本発明の目的は、工業的使用が困難なフッ素を使用することなく合成され、フッ素の含有率が400ppm以下であり、Al及びFeの両方を含有する高結晶性のβ型鉄シリケート、及び、その製造方法を提供することにある。
【0025】
また、排出ガス中の窒素酸化物の効率的な浄化が望まれている中で、従来、200℃以下の低温における窒素酸化物浄化活性及び水熱耐久性能が高く、尚且つハンドリングに優れた窒素酸化物浄化触媒は得られていなかった。
【0026】
本発明の目的は、幅広い温度域、特に200℃以下の比較的低温の領域で効率的に窒素酸化物を浄化する触媒性能及び水熱耐久性を有し、尚且つハンドリングに優れた結晶性シリケート触媒を提供することにある。さらに他の目的は、上記触媒を用いた窒素酸化物の浄化方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0027】
本発明者らは以上のような状況を鑑み、β型鉄シリケートの製造方法、製造条件に対して鋭意検討を重ねた結果、本発明のβ型鉄シリケートを見出すに至った。
【0028】
以下、本発明のβ型鉄シリケートについて説明する。
【0029】
なお、最初に特許請求の範囲の請求項1から請求項5までに記載された発明のβ型鉄シリケートについて説明する。
【0030】
本発明のβ型鉄シリケートの組成は、
(x+y)M(2/n)O・xFe・yAl・zSiO・wH
(但し、nは陽イオンMの原子価、x、y、z、はそれぞれFe、Al、SiOのモル分率を表し、x+y+z=1である。wは0以上の数である)で表される。
【0031】
本発明のβ型鉄シリケートの結晶構造は、X線回折で確認される結晶構造がβ型である。β型鉄シリケートは、酸素12員環からなる0.76×0.64nmおよび0.55×0.55nmの細孔が交差した3次元細孔を有するメタロシリケートである。β型鉄シリケートのX線回折パターンは以下の表1に示す格子面間隔d(オングストローム)とその回折強度で特徴付けられる。
【0032】
【表1】

【0033】
本発明のβ型鉄シリケートは、その含有するFeの全部又は一部が4配位構造の骨格原子として酸素原子と連結した構造であり、アルミノシリケートゼオライトと同様にシリケート骨格の電荷不足に由来する固体酸性質を有するものである。本発明のβ型鉄シリケートが含有するFeは、必ずしもその全てが骨格に存在する必要はない。骨格に存在するFeは構造指向剤(これ以降、“SDA”と称する)除去のための焼成操作等の熱処理によって、その一部が脱離しうるからである。
【0034】
本発明のβ型鉄シリケート組成のSiO/Feは50以上150以下である。SiO/Feが50を下回るとβ型構造の結晶化が次第に困難になるため結晶性が低下する。SiO/Feが150を上回るとFeの絶対量が少なくなり触媒活性の低下等に繋がる。結晶性の観点から、好ましくはSiO/Feが100以上150以下、更に好ましくは130以上150以下である。
【0035】
AlとFeはいずれもゼオライト骨格に4配位構造で導入されるため、AlとFeの個々の組成だけでなく、これらの合計の導入量によっても結晶化は制御される。即ち本発明のβ型鉄シリケートのSiO/(Al+Fe)は20以上70以下であり、結晶性の観点から好ましくは25以上70以下、更に好ましくは30以上70以下である。
【0036】
本発明のβ型鉄シリケートは原料にフッ素を使用することなく合成され、結晶の乾燥重量に対するフッ素の含有率が400ppm以下である。フッ素を使用して合成されたβ型鉄シリケートはSDAの除去焼成後においてもフッ素が残存する。本発明のβ型鉄シリケート結晶の乾燥重量に対するフッ素の含有率は200ppm以下であることが好ましく、100ppm以下であることがより好ましく、検出限界以下であることが更に好ましい。
【0037】
β型鉄シリケート中のフッ素の定量は、例えばランタンアリザリンコンプレキソン吸光光度法にて行うことができる。ランタンアリザリンコンプレキソンとして、市販のアルフッソン((株)同仁化学研究所)を用いることができる。分析は前処理として試料をアルカリ溶解、濃縮及び蒸留後、アルフッソンを添加し、pH調整後に波長620nmの吸光度を測定する。
【0038】
本発明のβ型鉄シリケートは、X線結晶回折(302)面の半値幅(FWHM)が0.16〜0.24°である。
【0039】
尚、X線結晶回折は合成後のSDA含有状態にて測定される。
【0040】
半値幅(FWHM)は結晶の状態を表す指標であり、結晶の規則性、格子の歪みの度合いを表す。この値が低いほど結晶は長周期構造を維持しており結晶性が高いといえる。半値幅が0.24°を超えるものは結晶性が十分ではなく、高温での耐熱水処理等によって結晶構造が崩壊しやすい。
【0041】
本発明のβ型鉄シリケートは、β骨格構造中に鉄の全部又は一部を含有する。β型鉄シリケートの骨格にFeが存在することは電子スピン共鳴測定(測定温度77K)によって確認することができる。
【0042】
常磁性のFeイオン(Fe3+)は電子スピン共鳴測定において共鳴吸収を示し、吸収ピークとしてはg≒2.0、g≒4.3及びg>4.3の少なくとも3つの吸収ピークをもつものに帰属されることが知られている(Journal of Catalysis,249(2007)67他参照)。g≒2.0の吸収ピークをもつものは対称四面体構造(又は高対称な多配位構造)を有する孤立Feイオン、g≒4.3及びg>4.3の吸収をもつFeイオンは歪んだ四面体構造及び歪んだ多配位構造を有する孤立Feイオンに帰属される。
【0043】
シリケート骨格中に存在するFeは孤立状態かつ高対称な四面体構造をとり、骨格外のFeは八面体構造をとると考えられることから、本発明のβ型鉄シリケートの骨格にFeが存在することは、電子スピン共鳴測定におけるg≒2.0の共鳴吸収によって確認することができる。
【0044】
電子スピン共鳴測定は、一般的な方法で行うことができる。
【0045】
例えば、電子スピン共鳴装置((株)日本電子製JES−TE200)を用い、測定条件としては測定温度77K、マイクロ波出力は1.0mW、観測範囲は0〜1000mT、変調幅は0.32mT、時定数は0.3secとすることができる。試料は約10mgを石英製試料管に秤取し、液体窒素温度測定用デュアに挿入後、測定を行う。
【0046】
またβ型鉄シリケートの骨格にFeが存在することは、X線吸収スペクトル(XAFS)を解析することによっても確認することができる。この場合、FeのK吸収端の前に現れるプリエッジピーク(7110eV)が四面体構造の孤立Feイオンに帰属される。
【0047】
本発明のβ型鉄シリケートはAlを含有する、所謂アルミノシリケートである。ゼオライトのAlは固体酸点であり、触媒反応における吸着点等として機能することから、吸着対象の化学種や、適用しようとする触媒反応によっては必須の要素となる。Alの含有量を減らしていけばゼオライトの水熱耐久性は一般に向上するが、一方でその代償としてAlに由来する固体酸点の機能は徐々に失われる。
【0048】
尚、ゼオライトの水熱耐久性とは、ゼオライト骨格自体の水熱耐久性を意味する。
【0049】
本発明のβ型鉄シリケートは、固体酸点として働くAlを十分に含有しながら、高結晶性であり高い水熱耐久性を有するものである。
【0050】
本発明のβ型鉄シリケート組成のSiO/Alは25以上70以下であることが好ましい。SiO/Alが25を下回るとβ型構造の結晶化が次第に困難になるため結晶性が低下する。またSiO/Alが70を上回ると固体酸量が不十分となる。結晶性の観点から、好ましくはSiO/Alは35以上70以下、更に好ましくは45以上70以下である。
【0051】
本発明のβ型鉄シリケートのSEM観察における結晶粒径は0.2μm以上2.0μm以下であることが好ましい。
【0052】
尚、本発明での結晶粒径とは平均結晶粒径を意味し、その測定方法は15000倍のSEM観察倍率において50個の一次粒子の直径を計測して得られた算術平均値である。一次粒子の形状には不規則なものも存在するため、全ての粒子について一律に水平方向の最大径を計測して直径とした。観察倍率は直径の計測に適当であれば任意に選択できる。
【0053】
0.2μm未満では水熱耐久性が低く、2.0μmを超えると触媒として用いる場合、特に流速が大きい場合の動的性能が低下する。さらにコーティング、成型等のハンドリング性においても本発明の範囲の粒径が好ましい。
【0054】
次に本発明のβ型鉄シリケートの製造方法について説明する。
【0055】
本発明のβ型鉄シリケートの原料混合物の仕込み組成は下記のように例示される。但し、これらの組成範囲は限定的なものではなく、最終的な生成物組成が本発明のβ型鉄シリケートの組成の範囲内となるように任意に設定することができる。また、種晶などの結晶化促進作用を有する成分を添加してもよい。
【0056】
aMO・SiO・bFe・cAl・dSDA・eH
ここで、
M = K又はRb又はCs
a = 0.005〜0.10であり、好ましくは0.01〜0.05
b = 0.006〜0.02であり、好ましくは0.006〜0.01
c = 0.014〜0.04であり、好ましくは0.014〜0.028
d = 0.10〜0.35であり、好ましくは0.10〜0.30
e = 7〜15であり、好ましくは9〜13
【0057】
上述のMOについて、一般的に用いられるNaは含まない。Naの存在は反応溶液中の負電荷を帯びたアルミノシリケート種を安定化し、結晶化を促進するが、一方で結晶核発生の増大から個々の結晶粒子の微細化を招くことが多く、結果的に十分な結晶性が得られにくいためである。
【0058】
合成用原料はシリカ源、アルミニウム源、鉄源、SDA、アルカリ金属源及び水から構成される。
【0059】
シリカ源としてはコロイダルシリカ、無定型シリカ、珪酸ナトリウム、テトラエチルオルトシリケート、鉄アルミノシリケートゲルなどを用いることができ、アルミニウム源としては硫酸アルミニウム、アルミン酸ナトリウム、水酸化アルミニウム、硝酸アルミニウム、アルミノシリケートゲル、金属アルミニウムなどを用いることができる。また鉄源としては硝酸鉄、塩化鉄、硫酸鉄、金属鉄などを用いることができ、これら原料は、他の成分と十分均一に混合できるものが好ましい。
【0060】
SDA原料としてはテトラエチルアンモニウムカチオンを有するテトラエチルアンモニウムヒドロキシド(これ以降“TEAOH”と称する。)、テトラエチルアンモニウムブロマイド、更にはオクタメチレンビスキヌクリジウム、α,α’−ジキヌクリジウム−p−キシレン、α,α’−ジキヌクリジウム−m−キシレン、α,α’−ジキヌクリジウム−o−キシレン、1,4−ジアザビシクロ[2,2,2]オクタン、1,3,3,N,N−ペンタメチル−6−アゾニウムビシクロ[3,2,1]オクタン又はN,N−ジエチル−1,3,3−トリメチル−6−アゾニウムビシクロ[3,2,1]オクタンカチオンを含む化合物の群の少なくとも一種以上を使用することができる。
【0061】
アルカリ金属源としては水酸化カリウム、硫酸カリウム、塩化カリウム、酢酸カリウム、水酸化ルビジウム、硫酸ルビジウム、塩化ルビジウム、酢酸ルビジウム、水酸化セシウム、硫酸セシウム、塩化セシウム、酢酸セシウムなどを用いることができ、これら原料は、他の成分と十分均一に混合できるものが好ましい。
【0062】
水、シリカ源、アルミニウム源、鉄源、SDA及びアルカリ金属源の原料混合物を密閉式圧力容器中で、100〜180℃の温度で結晶化させることにより本発明のβ型鉄シリケートを得ることができる。
【0063】
結晶化の際、原料混合物は混合攪拌された状態でも静置した状態でもよい。結晶化終了後、十分放冷し、固液分離し、十分量の純水で洗浄し、110〜150℃の温度で乾燥して本発明のβ型鉄シリケートが得られる。
【0064】
SDAの除去処理は、酸性溶液やSDA分解成分を含んだ薬液を用いた液相処理、レジンなどを用いた交換処理、熱分解処理を用いることができ、これらの処理を組み合わせても良い。更には、β型鉄シリケートのイオン交換能を利用してH型やNH型に変換して用いることもできる。
【0065】
本発明のβ型鉄シリケート中には高分散状態の鉄が含まれているため、そのまま触媒、あるいは吸着材等として用いることができ、用途は特に限定されない。
【0066】
本発明のβ型鉄シリケートにはさらに活性な金属種を担持させてもよい。担持させる金属種は特に限定されない。
【0067】
担持方法として、イオン交換法、含浸担持法、蒸発乾固法、沈殿担持法、物理混合法等の方法を用いることができる。金属担持に用いる原料は硝酸塩、硫酸塩、酢酸塩、塩化物、錯塩、酸化物、複合酸化物などを使用することができる。
【0068】
金属の担持量は限定されないが、特に0.1〜10重量%の範囲が好ましい。
【0069】
本発明のβ型鉄シリケートは、シリカ、アルミナ及び粘土鉱物等のバインダーと混合し成形して使用することもできる。成形する際に用いられる粘土鉱物として、カオリン、アタパルガイト、モンモリロナイト、ベントナイト、アロフェン、セピオライトが例示される。また、コージェライト製あるいは金属製のハニカム基材にウォッシュコートして使用することもできる。
【0070】
次に、特許請求の範囲の請求項6から請求項13までに記載された発明のβ型鉄シリケートから成る窒素酸化物浄化触媒、及び、その窒素酸化物浄化触媒の製造方法、並びに、その窒素酸化物浄化触媒を用いた窒素酸化物の還元方法について説明する。
【0071】
本発明者らは、アンモニア等を用いた窒素酸化物の選択還元触媒について鋭意検討を重ねた結果、SiO/Alモル比が20〜70、好ましくは20〜60、SiO/Feモル比が50〜200であり、結晶回折(302)面の半値幅(FWHM)が0.30〜0.40°であるβ骨格構造中に鉄とアルミを含有する結晶性シリケートでは、アンモニア等を還元剤とする窒素酸化物の選択還元において、優れた窒素酸化物の浄化性能、700℃、20時間、10容量%水蒸気雰囲気下の水熱耐久処理後におけるNOx還元率が反応温度200℃で45%以上60%以下となる優れた窒素酸化物の浄化性能を有していることを見出し、本発明を完成させるに至ったものである。
【0072】
以下、本発明の請求項6〜13の窒素酸化物浄化触媒、その製造方法、及び、その触媒を用いた窒素酸化物浄化方法について説明する。
【0073】
本発明の窒素酸化物浄化触媒は、SiO/Alモル比が20以上70以下、SiO/Feモル比が50以上200以下であり、結晶回折(302)面の半値幅(FWHM)が0.30〜0.40°であるβ骨格構造中に鉄とアルミを含有するβ型結晶性鉄シリケート(以下、「β型鉄シリケート」と呼称する)である。
【0074】
β骨格構造中に鉄とアルミを含有するとは、全ての鉄がβ骨格構造中に含有するのではなく、鉄の一部がβ骨格構造中に含有され、残りの鉄は、β骨格構造の構成元素とて存在せず、β骨格構造を構成しないイオン交換サイトや表面のシラノール基付近に存在している状態をさすものである。
【0075】
β型鉄シリケートの組成は、
(x+y)M(2/n)O・xFe・yAl・zSiO・wH
(但し、nは陽イオンMの原子価、x、y、z、はそれぞれFe、Al、SiOのモル分率を表し、x+y+z=1である。wは0以上の数である)で表される。
【0076】
本発明の窒素酸化物浄化触媒のβ型鉄シリケートの結晶構造は、X線回折で確認される結晶構造がβ型である。β型鉄シリケートは、酸素12員環からなる0.76×0.64nmおよび0.55×0.55nmの細孔が交差した3次元細孔を有するメタロシリケートである。β型鉄シリケートのX線回折パターンは以下の表2に示す格子面間隔d(オングストローム)とその回折強度で特徴付けられる。
【0077】
【表2】

【0078】
本発明の窒素酸化物浄化触媒のβ型鉄シリケートは、四配位構造の鉄が骨格原子として酸素原子と連結した構造を有し、アルミノシリケートゼオライトと同様にシリケート骨格の電荷不足に由来する固体酸性質を有するものである。本発明の鉄シリケートは、触媒の活性金属としての鉄が高度に分散した孤立鉄イオン(Fe3+)として存在しており、アンモニア等を用いた選択還元反応において、鉄の凝集が抑制され、高活性を示す。
【0079】
本発明の窒素酸化物浄化触媒のβ型鉄シリケートはβ骨格構造中に鉄を有する結晶性シリケートであって、SiO/Alモル比は20〜70、好ましくは20〜60の範囲である。SiO/Alモル比が20未満ではアルミの含有量は多くなるが、骨格内アルミが多すぎると耐熱水処理によって脱アルミ、脱鉄等の骨格からの金属の脱離、凝集が著しく進みやすくなり、活性に寄与する孤立Fe3+を十分に保持することが難しい。そのため、SiO/Alモル比20以上が好ましい。また、SiO/Alモル比が70より大きくなると骨格内のアルミ量が少なくなり、十分な水熱耐久性を得ることができない。また、固体酸量が減少することから、十分な触媒活性を得ることができない。特にSiO/Alモル比を60以下とすることが好ましく、50以下とすることがより好ましい。
【0080】
SiO/Feモル比が50未満では鉄の含有量は多くなるが、骨格内の鉄が多すぎると耐熱水処理によって脱アルミ、脱鉄等の骨格からの金属の脱離、凝集が著しく進みやすくなり、活性に寄与する孤立Fe3+を十分に保持することが難しい。そのため、SiO/Feモル比は50以上が好ましい。また、SiO/Feモル比が200を超えるものでは、絶対的な鉄イオン量が少なく、十分な触媒活性が得られない。SiO/Feモル比は50〜200、さらに100〜200の範囲であることが好ましい。
【0081】
なお、本発明の窒素酸化物浄化触媒のβ型鉄シリケート中で窒素酸化物の還元に最も寄与する鉄は、後述するシリケート骨格中に孤立鉄イオン(Fe3+)として分散して存在するものであり、Feとして凝集しているものではない。なお本発明のβ型鉄シリケートの組成の定義で用いているSiO/Feモル比は、孤立鉄イオンを含む全ての鉄含有量を定義するために便宜上に用いられる表記である。
【0082】
本発明の窒素酸化物浄化触媒のβ型鉄シリケートは、X線結晶回折(302)面の半値幅(FWHM)が0.30〜0.40°である。半値幅(FWHM)は結晶の状態を表す指標であり、結晶の規則性、格子のひずみの度合いを表す。この値が大きいほど結晶の規則性は低く、強く歪んでいることを示しており、シリカ骨格と鉄とアルミの相互作用が強く発現されており、水熱処理後の触媒活性が向上するものと考えられる。
【0083】
尚、X線結晶回折はSDA除去のための熱処理後において測定される。
【0084】
一方、半値幅(FWHM)が著しく大きい場合はゼオライト構造自体の崩壊が進みすぎており、触媒活性は著しく低下すると考えられる。従って、半値幅(FWHM)が0.30°未満であるものは歪が小さく、シリカ骨格と鉄とアルミの相互作用が十分でないため、熱水処理後の触媒活性が低くなり、0.40°を超えるとゼオライト構造自体の崩壊が著しく進みすぎ、触媒活性が低くなる。
【0085】
本発明の窒素酸化物浄化触媒のβ型鉄シリケートの平均結晶粒子径は0.2〜2.0μmの範囲であることが好ましい。その理由は、0.2μm未満では水熱耐久性が低く、触媒活性を維持することができないからであり、また、2.0μmを超えるとコーティング、成型等のハンドリング性が低下するからであり、0.2〜1.0μmであることが更に好ましい。
【0086】
本発明の窒素酸化物浄化触媒は、700℃、20時間、10容量%水蒸気雰囲気下、ガス流量/ゼオライト容量比100倍/分での水熱耐久処理後に、窒素酸化物浄化触媒で重要とされる低温活性、水熱耐久性を判断する指標である反応温度200℃でのNOx還元率が45%以上60%以下と優れた水熱耐久性を示す。
【0087】
従って、本発明の窒素酸化物浄化触媒は、安定して長時間にわたりNOxを処理することができる。熱耐久後のNOx還元率は高いほど好ましいが、60%程度が限界である。
【0088】
従来から窒素酸化物浄化触媒は水熱耐久処理後の性能で評価されることが一般的であるが、その水熱耐久処理としては、特に規格化されたものはない。上記の水熱耐久試験条件は窒素酸化物浄化触媒の水熱耐久処理条件として一般的に用いられる条件の範疇であり、特殊な条件ではない。
【0089】
なお、β型ゼオライトに限らず、ゼオライトは600℃以上における熱的なダメージは指数関数的に増大するため、700℃で20時間の水熱耐久処理は、650℃であれば100〜200時間以上、800℃であれば数時間の処理に相当するものである。
【0090】
本発明の窒素酸化物浄化触媒は、シリカ、アルミナ及び粘土鉱物等のバインダーと混合し成形して使用することもできる。成形する際に用いられる粘土鉱物として、カオリン、アタパルジャイト、モンモリロナイト、ベントナイト、アロフェン、セピオライトが例示できる。
【0091】
本発明の窒素酸化物浄化触媒は排ガス浄化用触媒として高い性能を有する。
【0092】
本発明の窒素酸化物浄化触媒はシリカ骨格と一部骨格に含まれる鉄とアルミの相互作用を熱処理により高めることで、水熱処理後の特に低温で高いNOx分解性を発揮するものであり、窒素酸化物を含む排ガスと接触させることにより、高度に排ガス浄化することができる。
【0093】
本発明で浄化される窒素酸化物は、例えば一酸化窒素、二酸化窒素、三酸化二窒素、四酸化二窒素、一酸化二窒素、及びそれらの混合物が例示される。好ましくは一酸化窒素、二酸化窒素、一酸化二窒素である。ここで本発明が処理可能な排ガスの窒素酸化物濃度は限定されるものではない。
【0094】
また排ガスには窒素酸化物以外の成分が含まれていてもよく、例えば炭化水素、一酸化炭素、二酸化炭素、水素、窒素、酸素、硫黄酸化物、水が含まれていても良い。具体的には、本発明の方法ではディーゼル自動車、ガソリン自動車、ボイラー、ガスタービン等の多種多様の排ガスから窒素酸化物を浄化することができる。
【0095】
本発明の窒素酸化物浄化触媒は、特に還元剤の存在下で窒素酸化物を浄化するSCR触媒として用いることにより窒素酸化物を浄化することができる。
【0096】
還元剤としては排ガス中に含まれる炭化水素、一酸化炭素、水素等を還元剤として利用することができ、更には必要に応じて適当な還元剤を排ガスに添加して共存させても良い。排ガスに添加される還元剤は特に限定されないが、アンモニア、尿素、有機アミン類、炭化水素、アルコール類、ケトン類、一酸化炭素、水素等が挙げられ、特に窒素酸化物の浄化効率をより高めるためには、特にアンモニア、尿素、有機アミン類を用いることが好ましい。これらの還元剤により、窒素酸化物は無害な窒素に転化され、排ガスを処理することが可能となる。
【0097】
これらの還元剤の添加方法は特に限定されず、還元成分をガス状で直接添加する方法、水溶液などの液状を噴霧し気化させる方法、噴霧熱分解させる方法等を採用することができる。またこれらの還元剤の添加量は、十分に窒素酸化物が浄化できるように任意に設定することができる。
【0098】
本発明の窒素酸化物浄化触媒を用いた窒素酸化物の浄化方法は、本発明の窒素酸化物浄化触媒を用いれば特に限定はないが、例えば、本発明の窒素酸化物浄化触媒からなるSCR触媒と排ガスを接触させる際の空間速度を、体積基準で500〜50万hr−1、更に2000〜30万hr−1とすることが好ましい。
【0099】
次に、本発明の窒素酸化物浄化触媒の製造方法について説明する。
【0100】
本発明の窒素酸化物浄化触媒は、シリカ、アルミ、鉄、有機構造指向剤(SDA)を含む反応液から結晶化した合成物を水蒸気濃度5容量%以下の雰囲気、700〜850℃で焼成を行い、有機構造指向剤を除去することで製造することができる。
【0101】
本発明の窒素酸化物浄化触媒は、得られるβ型鉄シリケートの組成がSiO/Alモル比で20〜70、かつSiO/Feモル比で50〜200となる様な仕込み組成によって結晶化することによって製造することができる。この様な条件下での結晶化では、β型鉄シリケートの骨格構造中に、孤立鉄イオンとして高度に分散しており、なおかつ高対称四面体構造を有する孤立鉄イオンを導入することができる。鉄の量が多すぎると、フレッシュ焼成や耐久処理によって凝集が進み易く、孤立した対称四面体構造の孤立鉄イオンの導入が十分でなく、またβ型鉄シリケートの結晶性も低下し易い。
【0102】
合成用原料はシリカ源、鉄源、アルミニウム源、SDA、アルカリ及び水から構成され、必要に応じてフッ素源が使用される。シリカ源としてはコロイダルシリカ、無定型シリカ、珪酸ナトリウム、テトラエチルオルトシリケート、アルミノシリケートゲルなどを用いることができる。鉄源としては硝酸鉄、塩化鉄、硫酸鉄、金属鉄などを用いることができる。これらの原料は、他の成分と十分均一に混合できるものが好ましい。
【0103】
SDAとしてはテトラエチルアンモニウムカチオンを有するテトラエチルアンモニウムヒドロキシド、テトラエチルアンモニウムブロマイド、テトラエチルアンモニウムフルオリド、更にはオクタメチレンビスキヌクリジウム、α,α’−ジキヌクリジウム−p−キシレン、α,α’−ジキヌクリジウム−m−キシレン、α,α’−ジキヌクリジウム−o−キシレン、1,4−ジアザビシクロ[2,2,2]オクタン、1,3,3,N,N−ペンタメチル−6−アゾニウムビシクロ[3,2,1]オクタン又はN,N−ジエチル−1,3,3−トリメチル−6−アゾニウムビシクロ[3,2,1]オクタンカチオンを含む化合物の群の少なくとも一種以上を使用することができる。
【0104】
アルカリ源としては水酸化ナトリウム、硫酸ナトリウム、塩化ナトリウム、酢酸ナトリウム、水酸化カリウム、硫酸カリウム、塩化カリウム、酢酸カリウム、水酸化ルビジウム、硫酸ルビジウム、塩化ルビジウム、酢酸ルビジウム、水酸化セシウム、硫酸セシウム、塩化セシウム、酢酸セシウムなどを用いることができる。
【0105】
アルミニウム源としては硫酸アルミニウム、アルミン酸ナトリウム、水酸化アルミニウム、硝酸アルミニウム、アルミノシリケートゲル、金属アルミニウムなどを用いることができる。
【0106】
フッ素源としてはフッ酸、フッ化ナトリウム、フッ化カリウム、フッ化アンモニウム、テトラエチルアンモニウムフルオリドなどを用いることができる。
【0107】
これらの原料は他の成分と均一に混合し易いものが望ましい。
【0108】
原料混合物の仕込み組成は下記の組成範囲が例示される。但しこれらの組成範囲は限定的なものではなく、最終的な生成物組成が本発明の窒素酸化物浄化触媒のβ型鉄シリケートの組成の範囲内となるように任意に設定することができる。また、種晶などの結晶化促進作用を有する成分を添加してもよく、大きな結晶粒子径が得られる条件が好ましい。
【0109】
SiO/Alモル比 20〜70、好ましくは30〜60、更に好ましくは30〜50
SiO/Feモル比 50〜200、好ましくは100〜200
O/SiOモル比 5〜50、好ましくは5〜10
SDA/SiOモル比 0.1〜5、好ましくは0.1〜1
アルカリ/SiOモル比0〜0.1
F/SiOモル比 0〜5、好ましくは0〜1
【0110】
水、シリカ源、鉄源、アルミニウム源、SDA、アルカリ源、必要に応じてフッ素源の原料混合物を密閉式圧力容器中で、100〜180℃の温度で、結晶化させる。結晶化の際、原料混合物は混合攪拌された状態でも静置した状態でもよい。結晶化終了後、十分放冷し、固液分離、十分量の純水で洗浄し、110〜150℃の温度で乾燥した後に、細孔内のSDAを焼却除去することによって本発明のβ型鉄シリケートを得ることができる。
【0111】
通常、β型鉄シリケート細孔内のSDAの熱処理除去は、シリケート結晶の熱劣化抑制の観点からできるだけ低温で行なうほうが良いと考えられており、大気雰囲気中での550〜650℃での焼成処理、酸性溶液又はSDAを分解する成分を含んだ薬液を用いた液相処理、レジンなどを用いた交換処理が行なわれていた。
【0112】
本発明の窒素酸化物浄化触媒は、従来には行なわれない700〜850℃の高温域でSDAの除去のための熱処理を行なうことにより、シリカ骨格と骨格中の一部の鉄とアルミの相互作用が強くなり、水熱耐久処理後の低温触媒活性が向上するものである。
【0113】
本発明の窒素酸化物浄化触媒の製造におけるSDA除去目的の熱処理時の水蒸気濃度は、5容量%以下で行なうことを必須とする。特に1容量%以下で行なうことが、水蒸気による骨格からの脱アルミと脱鉄、および鉄の凝集、不活性化を抑制するために好ましい。5容量%を超える水蒸気濃度では、骨格シリカと骨格中の一部の鉄とアルミの相互作用による性能向上は生じず、逆に鉄の凝集が促進され、水熱処理後の耐久活性は低下する。
【0114】
本発明の窒素酸化物浄化触媒の製造における熱処理温度は700〜850℃で行なうことを必須とする。特に800〜850℃で行なうことが好ましい。700℃未満では骨格シリカと骨格中の一部の鉄とアルミとの相互作用の促進が十分に進まず、本発明の触媒活性を得ることができず、一方で850℃を超えるとβ型結晶性鉄シリケートの結晶崩壊が著しく進行し、触媒活性が低下する。
【0115】
熱処理時間は特に限定されるものではないが、熱処理時間が短すぎると鉄とβ型ゼオライトのシリカ骨格との相互作用が十分に進行しないため、1時間以上保持することが好ましい。
【0116】
本発明の窒素酸化物浄化触媒のβ型鉄シリケートの電子顕微鏡(SEM)で観測される結晶粒子径(平均結晶粒子)は耐熱水性、コーティング、成型等におけるハンドリングの容易さから0.2〜2.0μmであり、0.2〜1.0μmであることが好ましい。
【0117】
本発明の窒素酸化物浄化触媒のβ型鉄シリケート中には活性な孤立鉄イオンが含まれているため、そのまま窒素酸化物の浄化触媒として用いることができるが、さらに触媒活性な金属種を担持させて用いてもよい。
【0118】
担持させる金属種は特に限定されないが、例えば8、9、10族、11族の元素、特に鉄、コバルト、パラジウム、イリジウム、白金、銅、銀、金の群から選ばれる一種以上である。特に、鉄、パラジウム、白金、銅、銀の一種以上であることが好ましい。また希土類金属、チタン、ジルコニアなどの助触媒成分を付加的に加えることもできる。
【0119】
触媒活性な金属種を担持させる場合の担持方法は特に限定されない。担持方法として、イオン交換法、含浸担持法、蒸発乾固法、沈殿担持法、物理混合法等の方法が採用することができる。金属担持に用いる原料としては硝酸塩、硫酸塩、酢酸塩、塩化物、錯塩、酸化物、複合酸化物などがいずれも使用できる。金属の担持量は限定されないが、特に0.1〜10重量%の範囲が好ましい。
【0120】
本発明の窒素酸化物浄化触媒のβ型鉄シリケートは、シリカ、アルミナ及び粘土鉱物等のバインダーと混合し成形して使用することもできる。成形する際に用いられる粘土鉱物として、カオリン、アタパルガイト、モンモリロナイト、ベントナイト、アロフェン、セピオライトが例示できる。また、コージェライト製或いは金属製のハニカム基材にウォッシュコートして使用することもできる。
【発明の効果】
【0121】
本発明のβ型鉄シリケートは、工業的使用が困難なフッ素を使用することなく合成され、高い結晶性を有しなおかつ結晶格子中にFeを含有し、2.0μm以下の微細な結晶粒径において高い耐熱性を有する。
【0122】
また、本発明の窒素酸化物浄化触媒は窒素酸化物の浄化性能が高く、幅広い温度域、特に200℃以下の低温において効率的に窒素酸化物を浄化することができる。また耐久性に優れ、耐久処理後も高い触媒活性を有する。
【図面の簡単な説明】
【0123】
【図1】実施例1で得られたβ型鉄シリケートの電子スピン共鳴スペクトルを示す図である。
【図2】実施例12で得られた窒素酸化物浄化触媒のX線回折パターンを示す図である。
【実施例】
【0124】
以下、本発明を実施例で説明するが、本発明はこれらの実施例に限定されるものではない。
【0125】
以下の実施例1〜11及び比較例1〜3は本発明の請求項1〜5のβ型鉄シリケートに関するものである。
【0126】
実施例1
3号珪酸ソーダ(SiO;30%、NaO;9.1%、Al;0.01%)、98%硫酸、水、硫酸アルミニウム水溶液及び硝酸鉄九水和物の所定量を混合し、生成したゲルを固液分離し、純水により洗浄した。洗浄後のゲルに所定量の水、35%TEAOH、水酸化セシウム一水和物及び種晶を加えて十分に撹拌混合した。反応混合物の組成比はSiO:0.015Fe:0.026Al:0.049CsO:0.15TEAOH:10HOであった。この反応混合物をステンレス製オートクレーブに密閉し、回転条件下150℃で48時間加熱してβ型鉄シリケートを結晶化した。結晶化後のスラリー状混合物は白色であり、結晶のF含有率は分析の定量限界100ppmを下回り検出限界以下であった。
【0127】
実施例2
実施例1と同様の方法により反応混合物を調製した。反応混合物の組成比はSiO:0.012Fe:0.025Al:0.015CsO:0.15TEAOH:10HOであった。この反応混合物をステンレス製オートクレーブに密閉し、回転条件下150℃で48時間加熱してβ型鉄シリケートを結晶化した。結晶化後のスラリー状混合物は白色であり、結晶のF含有率は検出限界以下であった。
【0128】
実施例3
水酸化セシウム一水和物の代わりに48%水酸化カリウム水溶液を用いた以外は実施例1と同様の方法により反応混合物を調製した。反応混合物の組成比はSiO:0.010Fe:0.012Al:0.030KO:0.14TEAOH:10HOであった。この反応混合物をステンレス製オートクレーブに密閉し、回転条件下150℃で48時間加熱してβ型鉄シリケートを結晶化した。結晶化後のスラリー状混合物は白色であり、結晶のF含有率は検出限界以下であった。
【0129】
実施例4
実施例3と同様の方法により反応混合物を調製した。反応混合物の組成比はSiO:0.0062Fe:0.019Al:0.021KO:0.15TEAOH:10HOであった。この反応混合物をステンレス製オートクレーブに密閉し、回転条件下150℃で90時間加熱してβ型鉄シリケートを結晶化した。結晶化後のスラリー状混合物は白色であり、結晶のF含有率は検出限界以下であった。
【0130】
実施例5
実施例3と同様の方法により反応混合物を調製した。反応混合物の組成比はSiO:0.0067Fe:0.028Al:0.031KO:0.15TEAOH:10HOであった。この反応混合物をステンレス製オートクレーブに密閉し、回転条件下150℃で48時間加熱してβ型鉄シリケートを結晶化した。結晶化後のスラリー状混合物は白色であり、結晶のF含有率は検出限界以下であった。
【0131】
実施例6
水酸化セシウム一水和物の代わりに水酸化ルビジウムn水和物を用いた以外は実施例1と同様の方法により反応混合物を調製した。反応混合物の組成比はSiO:0.0069Fe:0.034Al:0.030RbO:0.15TEAOH:10HOであった。この反応混合物をステンレス製オートクレーブに密閉し、回転条件下150℃で48時間加熱してβ型鉄シリケートを結晶化した。結晶化後のスラリー状混合物は白色であり、結晶のF含有率は検出限界以下であった。
【0132】
比較例1
水酸化セシウム一水和物の代わりに48%水酸化ナトリウム水溶液を用いた以外は実施例1と同様の方法により反応混合物を調製した。反応混合物の組成比はSiO:0.015Fe:0.026Al:0.049NaO:0.15TEAOH:10HOであった。この反応混合物をステンレス製オートクレーブに密閉し、回転条件下150℃で48時間加熱してβ型鉄シリケートを結晶化した。結晶化後のスラリー状混合物は白色であり、結晶のF含有率は検出限界以下であった。
【0133】
比較例2
TEAOHに硝酸鉄九水和物を溶解させた後、これにアルミン酸ナトリウム及び純水を加え、強撹拌下においてシリカゾル(SiO;40%、NaO;0.5%、Al;0.00%)及び種晶を添加した。反応混合物の組成比はSiO:0.0058Fe:0.038Al:0.077NaO:0.12TEAOH:7.7HOであった。生成したゲルを30分間継続して撹拌した後、この反応混合物をステンレス製オートクレーブに密閉し、回転条件下160℃で48時間加熱してβ型鉄シリケートを結晶化した。結晶化後のスラリー状混合物は白色であり、結晶のF含有率は検出限界以下であった。
【0134】
比較例3
TEAOHに硝酸鉄九水和物を溶解し、テトラエチルオルトシリケートを加え、十分に撹拌混合し室温にて加水分解を行い、生成したエタノールを蒸発させた。続いて必要量の水を蒸発させた。これに48%フッ酸を加え、乳鉢にて混合した後、この反応混合物をステンレス製オートクレーブに充填し、150℃で240時間加熱して結晶化した。反応混合物の組成はSiO:0.016Fe:0.50HF:0.61TEAOH:7.5HOであった。結晶化後のスラリー状混合物は白色であり、結晶のF含有率は14000ppmであった。これを空気流通下、600℃で2時間焼成し、SDAを除去した後の結晶のF含有率は430ppmであった。
【0135】
実施例7
実施例1〜6及び比較例1〜2で合成したβ型鉄シリケートの結晶組成を誘導結合プラズマ発光分析法により分析した。以下の表3に結果を示す。
【0136】
【表3】

【0137】
実施例8
実施例1〜6及び比較例1〜2で合成したβ型鉄シリケートのX線回折測定を行った。
【0138】
X線回折測定の条件を以下に示す。
【0139】
ターゲット:Cu
加速電圧:40KV
電流:30mA
ステップ幅:0.02°
サンプリング時間:1秒
発散スリット:1°
散乱防止スリット:1°
受光スリット:0.3mm
結果を表4に示す。実施例の半値幅は0.16〜0.24°の範囲であった。
【0140】
【表4】

【0141】
実施例9
実施例1及び比較例1で合成したβ型鉄シリケートの耐熱水性評価を実施した。評価ではSDAを焼成除去した試料(フレッシュ)を用い、ペレット成型後、破砕して評価に供した。固定床流通式反応管に試料を充填し、10容量%のHOの流通下において、所定の温度で5時間の耐久処理を行った。フレッシュの試料及び耐久処理を行った試料について、通常用いられるCu−Kα線源を用いる粉末X線結晶回折により、2θ=22.3°の回折ピーク高さから試料の結晶化度を測定した。
【0142】
その結果を以下の表5に示す。
【0143】
【表5】

【0144】
以上のように、本発明のβ型鉄シリケートはいずれの処理条件においても比較例に対して高い耐熱水性を示した。
【0145】
実施例10
実施例1〜6及び比較例1〜3で合成したβ型鉄シリケートをSEMにより、倍率15000倍で観察して得られたβ型鉄シリケートの平均結晶粒径を以下の表6に示す。
【0146】
【表6】

【0147】
実施例11
実施例1で合成したβ型鉄シリケートについて電子スピン共鳴測定を実施し、骨格に存在するFeの確認を行った。
【0148】
電子スピン共鳴測定の条件を以下に示す。
【0149】
測定温度:77K
マイクロ波出力:1.0mW
観測範囲:0〜1000mT
変調幅:0.32mT
時定数:0.3sec
試料量:約10mg
【0150】
測定により得られたスペクトルを図1に示す。
【0151】
g≒2.0の大きな共鳴吸収が観測されており、シリケート骨格に存在する高対称な四面体構造を有するFeの存在が確認された。
【0152】
以下の実施例12〜14及び比較例4〜6は本発明の請求項6〜9の別のβ型鉄シリケートから成る窒素酸化物浄化触媒に関するものである。
【0153】
(X線による半値幅(FWHM)の測定)
通常用いられるCu−Kα線源を用いる粉末X線結晶回折により、2θ=22.6°付近に現れるメインピークを使用して半値幅(FWHM)を求めた。X線回折測定条件は実施例8に記載の条件と同様である。
【0154】
(水熱耐久処理条件)
窒素酸化物浄化触媒を以下の条件で処理した。
【0155】
温度 :700℃
時間 :20時間
ガス中水分濃度 :10容量%
ガス流量/ゼオライト容量比 :100倍/分
【0156】
(NOx還元率の測定)
NOx還元率は、以下の条件のガスを所定の温度で接触させた場合の窒素酸化物の還元率とした。窒素酸化物浄化触媒は、還元分解するNOガスと還元剤のアンモニアを1:1で含有するガスを用いて評価することが一般的である。本発明で用いたNOx還元条件は、通常の窒素酸化物浄化触媒のNOx還元性を評価する一般的な条件の範疇に入るものであり、特殊な条件ではない。
【0157】
本発明の評価で採用した窒素還元条件:
処理ガス組成 NO 200ppm
NH 200ppm
10容量%
O 3容量%
残り Nバランス
処理ガス流量 1.5リットル/分
処理ガス/触媒容量比 1000/分
【0158】
実施例12
珪酸ソーダ水溶液、硫酸アルミニウム水溶液、硝酸第二鉄水溶液、硫酸を用い、スラリー状生成物の組成が、SiO:0.027Al:0.007Feとなるように攪拌下で反応させ、スラリー状生成物とし、脱水した後、洗浄して粒状無定形珪酸塩とした。
【0159】
次に反応混合物の組成が、SiO:0.027Al:0.007Fe:0.060KOH:0.15TEAOH:10HOとなるように混合し、さらに当該組成物100部に対して1部の種晶(東ソー製HSZ940NHA)を加え、オートクレーブ中、150℃で60時間水熱合成により結晶化した(TEAOH:水酸化テトラエチルアンモニウム35%水溶液)。
【0160】
結晶化後のスラリーは固液分離し、十分量の純水で洗浄し、110℃で乾燥した。その乾燥粉末を水蒸気濃度0.05容量%の乾燥空気流通下、800℃で2時間焼成して触媒1を得た。
【0161】
触媒1の組成はICP発光分析の結果SiO/Alモル比は35、SiO/Feモル比は144であり、平均結晶粒子径は0.28μmであった。X線結晶回折(302)面の半値幅(FWHM)は0.36°であり、700℃、20時間、10容量%水蒸気雰囲気下の水熱耐久処理後におけるNOx還元率は反応温度200℃で50%であった。また、耐久処理前のNOx還元率は反応温度200℃で50%であった。
【0162】
図2に触媒1のX線回折チャート図を示す。そのピークパターンはβ型ゼオライトのパターンと一致し、触媒1はβ型結晶構造を有する事が明らかである。
【0163】
実施例13
珪酸ソーダ水溶液、硫酸アルミニウム水溶液、硝酸第二鉄水溶液、硫酸を用い、スラリー状生成物の組成をSiO:0.035Al:0.007Feとし、反応混合物の組成をSiO:0.035Al:0.007Fe:0.060KOH:0.15TEAOH:10HOとなるように混合し、該組成物100部に対して0.5部の種晶(東ソー製HSZ940NHA)を加えた以外は実施例12と同様にして触媒2を得た。
【0164】
触媒2の組成はICP発光分析の結果SiO/Alモル比は26、SiO/Feモル比は138であり、平均結晶粒子径は0.26μmであった。X線結晶回折(302)面の半値幅(FWHM)は0.34°であり、700℃、20時間、10容量%水蒸気雰囲気下の水熱耐久処理後におけるNOx還元率は反応温度200℃で47%であった。また、耐久処理前のNOx還元率は反応温度200℃で47%であった。
【0165】
実施例14
珪酸ソーダ水溶液、硫酸アルミニウム水溶液、硝酸第二鉄水溶液、硫酸を用い、スラリー状生成物の組成をSiO:0.026Al:0.015Feとし、反応混合物の組成をSiO:0.026Al:0.015Fe:0.100KOH:0.15TEAOH:10HOとなるように混合し、該組成物100部に対して0.5部の種晶(東ソー製HSZ940NHA)を加えた以外は実施例12と同様にして触媒3を得た。
【0166】
触媒3の組成はICP発光分析の結果SiO/Alモル比は34、SiO/Feモル比は56であり、平均結晶粒子径は0.24μmであった。X線結晶回折(302)面の半値幅(FWHM)は0.36°であり、700℃、20時間、10容量%水蒸気雰囲気下の水熱耐久処理後におけるNOx還元率は反応温度200℃で46%であった。また、耐久処理前のNOx還元率は反応温度200℃で55%であった。
【0167】
比較例4
珪酸ソーダ水溶液、硫酸アルミニウム水溶液、硝酸第二鉄水溶液、硫酸を用い、スラリー状生成物の組成をSiO:0.009Al:0.017Feとし、反応混合物の組成をSiO:0.009Al:0.017Fe:0.050KOH:0.15TEAOH:10HOとなるようにした以外は実施例12と同様にして比較触媒1を得た。
【0168】
比較触媒1の組成はICP発光分析の結果SiO/Alモル比は102、SiO/Feモル比は49であり、平均結晶粒子径は0.24μmであった。X線結晶回折(302)面の半値幅(FWHM)は0.34°であり、700℃、20時間、10容量%水蒸気雰囲気下の水熱耐久処理後におけるNOx還元率は反応温度200℃で36%であった。また、耐久処理前のNOx還元率は反応温度200℃で54%であった。
【0169】
比較例5
珪酸ソーダ水溶液、硫酸アルミニウム水溶液、硝酸第二鉄水溶液、硫酸を用い、スラリー状生成物の組成をSiO:0.009Al:0.027Feとし、反応混合物の組成をSiO:0.009Al:0.027Fe:0.140KOH:0.15TEAOH:10HOとなるように混合し、該組成物100部に対して0.5部の種晶(東ソー製HSZ940NHA)を加えた以外は実施例12と同様にして比較触媒2を得た。
【0170】
比較触媒2の組成はICP発光分析の結果SiO/Alモル比は88、SiO/Feモル比は30であり、平均結晶粒子径は0.19μmであった。X線結晶回折(302)面の半値幅(FWHM)は0.38°であり、700℃、20時間、10容量%水蒸気雰囲気下の水熱耐久処理後におけるNOx還元率は反応温度200℃で43%であった。また、耐久処理前のNOx還元率は反応温度200℃で59%であった。
【0171】
比較例6
乾燥粉末を水蒸気濃度0.05容量%の乾燥空気流通下、600℃で2時間焼成した以外は実施例12と同様にして比較触媒3を得た。
【0172】
比較触媒3の組成はICP発光分析の結果SiO/Alモル比は35、SiO/Feモル比は144であり、平均結晶粒子径は0.28μmであった。X線結晶回折(302)面の半値幅(FWHM)は0.28°であり、700℃、20時間、10容量%水蒸気雰囲気下の水熱耐久処理後におけるNOx還元率は反応温度200℃で38%であった。また、耐久処理前のNOx還元率は反応温度200℃で77%であった。
【0173】
実施例12〜14及び比較例4〜6で得られた窒素酸化物浄化触媒の物性と200℃でのNOx還元率との関係を以下の表7に示す。
【0174】
【表7】

【0175】
表から明らかな様に、実施例12〜14の触媒は耐久処理後における200℃でのNOx還元率が比較例4〜6の触媒と比較して高い。
【産業上の利用可能性】
【0176】
本発明の高結晶性β型鉄シリケートは、例えば窒素酸化物の浄化触媒として使用可能であり、自動車の排ガスの窒素酸化物除去に適用される。
【0177】
また本発明の窒素酸化物浄化触媒は、還元剤の存在下で自動車排ガス中の窒素酸化物を浄化するのに利用できる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
SiO/Feモル比が50以上150以下、結晶の乾燥重量に対するフッ素の含有率が400ppm以下、結晶回折(302)面の半値幅(FWHM)が0.16〜0.24°であるβ骨格構造中に鉄の全部又は一部を含有するβ型鉄シリケート。
【請求項2】
SiO/Alモル比が25以上70以下である請求項1に記載のβ型鉄シリケート。
【請求項3】
結晶粒径が0.2μm以上2.0μm以下である請求項1又は2に記載のβ型鉄シリケート。
【請求項4】
結晶粒径が0.2μm以上1.0μm以下である請求項1乃至3のいずれかに記載のβ型鉄シリケート。
【請求項5】
以下のフッ素を含有しない原料組成物
aMO・SiO・bFe・cAl・dSDA・eH
ここで、
M = K又はRb又はCs
a = 0.005〜0.10
b = 0.006〜0.02
c = 0.014〜0.04
d = 0.10〜0.35
e = 7〜15
、を水熱処理することにより結晶化させる請求項1乃至4のいずれかに記載のβ型鉄シリケートの製造方法。
【請求項6】
β型骨格構造中に鉄とアルミニウムを有し、SiO/Alモル比が20以上70以下、SiO/Feモル比が50以上200以下であり、結晶回折(302)面の半値幅(FWHM)が0.30〜0.40°であることを特徴とするβ型鉄シリケートから成る窒素酸化物浄化触媒。
【請求項7】
平均結晶粒子径が0.2〜2.0μmである請求項6に記載の窒素酸化物浄化触媒。
【請求項8】
平均結晶粒子径が0.2〜1.0μmである請求項6に記載の窒素酸化物浄化触媒。
【請求項9】
SiO/Feモル比が100以上200以下である請求項6乃至8のいずれかに記載の窒素酸化物浄化触媒。
【請求項10】
シリカ、アルミ、鉄、有機構造指向剤を含む反応液から結晶化したβ型鉄シリケートを水蒸気濃度5容量%以下の雰囲気中、700〜850℃で熱処理することを特徴とする請求項6乃至9のいずれかに記載の窒素酸化物浄化触媒の製造方法。
【請求項11】
水蒸気濃度が1容量%以下である請求項10に記載の窒素酸化物浄化触媒の製造方法。
【請求項12】
700〜850℃での焼成における保持時間が1時間以上である請求項10又は11に記載の窒素酸化物浄化触媒の製造方法。
【請求項13】
請求項6乃至9のいずれかに記載の窒素酸化物浄化触媒を用いた窒素酸化物の還元方法。

【図1】
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【図2】
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【公開番号】特開2011−148678(P2011−148678A)
【公開日】平成23年8月4日(2011.8.4)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−283167(P2010−283167)
【出願日】平成22年12月20日(2010.12.20)
【出願人】(000003300)東ソー株式会社 (1,901)
【Fターム(参考)】