説明

新規化合物及び破骨細胞分化・増殖阻害剤

【課題】新規な骨粗鬆症の予防・治療薬の提供。
【解決手段】下式の化合物。


【効果】飲食品、医薬品、化粧品の原料として用いることができる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、例えば、飲食品、医薬品、化粧品の原料として用いることができる新規化合物、及び破骨細胞分化・増殖阻害剤に関する。
【背景技術】
【0002】
高齢化が年々進んでいる日本の現代社会においては、老化に伴う様々な疾患に悩む人々が増加している。例えば、老化に伴う疾患の一つである骨粗鬆症は、骨量が減少して骨が非常に脆くなる症状をいう。
【0003】
正常な骨では、古くなった骨の部分を破骨細胞が分解する骨吸収と、骨吸収されたところに骨芽細胞が新しい骨を作り出す骨形成がバランスよく行われて、一定の骨量に保たれている。しかし、カルシウムの摂取不足、カルシウム吸収能力の低下、ホルモンバランスの乱れ等により、骨の代謝回転のバランスが崩れて骨吸収が骨形成を上回ることによって骨粗鬆症を招きやすくなる。特に、閉経後の女性は、ホルモンバランスの乱れにより、骨粗鬆症になりやすい。
【0004】
したがって、骨粗鬆症に対しては、骨吸収を抑制するか、又は骨形成を促進することが必要であると考えられている。
【0005】
そのため、従来の骨粗鬆症の治療薬としては、活性型ビタミンD3製剤、ビタミンK2製剤、エストロゲン製剤、カルシトシン製剤、カルシウム製剤、ビスホスホネート製剤等が用いられているが、これらの治療薬には以下のような副作用の問題があった。
【0006】
1)活性型ビタミンD3製剤:血中カルシウム量の増え過ぎによる食欲不振、倦怠感、腎不全等。
2)ビタミンK2製剤:心筋梗塞の場合などに服用するワーファリンという薬の効果低下。
3)エストロゲン製剤:心筋梗塞や脳卒中の危険性拡大、乳癌及び子宮体癌の発症率拡大等。
4)カルシトシン製剤:吐き気、顔面紅潮等。
5)カルシウム製剤:胃腸障害。
6)ビスホスホネート製剤:消化器症状、特に食道潰瘍。
7)活性型ビタミンD3製剤とカルシウム製剤の併用による副作用の相乗効果。
【0007】
そのため、長期間摂取しても副作用の問題がなく、より安全性の高い骨粗鬆症治療剤の開発も進められており、例えば、下記特許文献1には、乳由来の塩基性タンパク質画分を有効成分とする骨強化剤が開示されている。
【0008】
下記特許文献2には、乳由来の塩基性タンパク質画分、特にラクトフェリンを有効成分とする破骨細胞分化抑制因子産生促進剤が開示されている。
【0009】
下記特許文献3には、カゼインホスホペプチド及びゲニステインを有効成分とする骨強化剤が開示されている。
【0010】
下記特許文献4には、コラーゲン又はコラーゲンの酵素分解物を有効成分とする骨粗鬆症予防・治療剤が開示されている。
【0011】
下記特許文献5には、イソフラボンを主たる有効成分とする骨形成促進及び骨塩量減少防止用組成物が開示されている。
【特許文献1】特許第3112637号公報
【特許文献2】特開2004−115509号公報
【特許文献3】特開2001−302539号公報
【特許文献4】特開平11−12192号公報
【特許文献5】特開平10−114653号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0012】
上記特許文献に記載されている食品由来の成分を有効成分とする様々な骨粗鬆症治療剤は、健康食品等として手軽に摂取でき、副作用の問題も少ないものの、いずれも十分満足できる効果が期待できるとは言えなかった。
【0013】
したがって、本発明は、例えば、破骨細胞の分化・増殖を阻害し、骨吸収を抑制することにより、十分な骨粗鬆症の予防・治療改善効果が期待でき、飲食品、医薬品、化粧品の原料として用いることができる新規化合物、及び破骨細胞分化・増殖阻害剤を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0014】
マコモタケは、漢方薬の原料として利用されており、口渇の抑制、解熱、整腸、消化、解毒など様々な生理活性効果が知られている。本発明者らは、豊富な食経験により安全性が確認されているマコモタケのさらなる生理活性を追及したところ、マコモタケの新たな生理活性効果として骨粗鬆症予防・治療効果を見出した。そこで、その生理活性成分について更なる研究を行った結果、本発明を達成するに至った。
【0015】
すなわち、本発明の新規化合物は、下記化学式(1)で示される。
【0016】
【化1】

【0017】
本発明の新規化合物は、飲食品、医薬品又は化粧品の原料として用いられることが好ましい。
【0018】
一方、本発明の破骨細胞分化・増殖阻害剤は、下記化学式(1)で示される化合物で示される化合物を有効成分として含有することを特徴とする。
【0019】
【化2】

【0020】
また、本発明の破骨細胞分化・増殖阻害剤は、マコモタケの有機溶媒抽出物から調製された組成物を含有することが好ましい。
【0021】
また、本発明の破骨細胞分化・増殖阻害剤は、マコモタケの菌えい部の有機溶媒抽出物から調製された組成物を含有することが好ましい。
【発明の効果】
【0022】
本発明の新規化合物は、例えば、飲食品、医薬品、化粧品などの原料として用いることができ、骨粗鬆症の予防・治療改善効果が期待できる。
【0023】
また、本発明の破骨細胞分化・増殖阻害剤は、豊富な食経験により安全性が確認されているマコモタケ由来の成分を有効成分として含有するものであり、安全性が高く、更には十分な骨粗鬆症の予防・治療改善効果が期待できる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0024】
本発明の新規化合物は、下記化学式(1)で表される。
【0025】
【化3】

【0026】
上記化学式(1)で表す化合物(以下、「化合物(1)」と記す)は、有機溶媒に可溶な化合物であり、例えば、マコモタケの溶媒抽出物を精製することで得られる。
【0027】
すなわち、まず、抽出原料となるマコモタケを、必要に応じて乾燥あるいは粉砕処理する。なかでも、マコモタケの菌えい部は、上記化合物(1)の含有量が高いことから、マコモタケの菌えい部を抽出原料として用いることで、上記化合物(1)の回収率を向上できる。ここで、マコモタケとは、イネ科マコモ属・多年草の水生植物であるマコモの若茎が黒穂菌によって肥大生育したものであり、中国、台湾を中心とした東アジアから東南アジアにかけて栽培されている中国野菜である。近年では日本でも栽培が行われており、これらの市販品を簡単に入手することができる。
【0028】
次いで、この抽出原料のマコモタケを、抽出溶媒中に室温〜加温下で浸漬して、溶媒抽出物を得る。抽出溶媒としては、特に限定はなく、低級アルコール類(メタノール、エタノールなど)、アセトン、アセトニトリル、クロロホルム、ジクロロメタン、酢酸エチルなどが挙げられ、これらを、単独、もしくは2種類以上組み合わせて用いることができる。特に好ましい抽出溶媒としては、メタノール、エタノール、アセトン、ジクロロメタン及びこれらの混合溶媒が挙げられる。
【0029】
この抽出溶媒には、夾雑物が多量に含まれている場合が多いことから、例えば、マコモタケを低級アルコール類あるいはアセトンなどの水溶性有機溶媒に、室温〜加温下で浸漬して、水溶性溶媒抽出画分を得た後、酢酸エチル、ヘキサン、クロロホルム、ジクロロメタンなどの非水溶性有機溶媒を用いて脂溶性成分と水溶性成分に分離して、非水溶性有機溶媒抽出画分を回収することが好ましい。こうすることで、夾雑物の極めて少ないマコモタケの溶媒抽出物(非水溶性有機溶媒抽出画分)を得ることができる。また、この溶媒抽出物は必要に応じて濃縮してもよく、更に乾燥してもよい。
【0030】
次いで、この溶媒抽出物を、カラム分離精製、再結晶等により精製することで、上記化合物(1)を得ることができる。
【0031】
溶媒抽出物の精製処理は、まずクロマトグラフィーを用いて一次精製して得られる粗精製物を、再結晶化、カラムクロマトグラフィー、薄層カラムクロマトグラフィーから選ばれた少なくとも1種以上の方法により二次精製することが好ましい。こうすることで、上記化合物(1)の回収率を向上できる。
【0032】
上記一次精製に用いるクロマトグラフィーとしては、特に限定はなく、順相カラムクロマトグラフィー、逆相カラムクロマトグラフィー、サイズ排除カラムクロマトグラフィー、イオン交換カラムクロマトグラフィー等の従来一般的なクロマトグラフィーを用いることができる。また、一次精製方法としては、特に限定はなく、例えば、シリカゲルを担体としたクロマトグラフィーを用いた場合、クロロホルム、ジクロロメタン、ベンゼン、酢酸エチル、ヘキサンなどの非水溶性有機溶媒と、その混合溶媒、更にこれらにメタノール、エタノール、アセトンなどの水溶性有機溶媒を適当量加え、その比率を変え順次極性を上げながら溶出する方法が好ましく、ヘキサン/酢酸エチル、ヘキサン/ジクロロメタン、ジクロロメタン/アセトン、クロロホルム/アセトン、クロロホルム/メタノールの混合溶媒を用いる方法が特に好ましい。
【0033】
上記二次精製に用いるカラムクロマトグラフィーとしては、順相カラムクロマトグラフィー、ジオールカラムクロマトグラフィー、逆相カラムクロマトグラフィー、サイズ排除カラムクロマトグラフィーなどがあり、担体、溶出溶媒等の精製条件は各種クロマトグラフィーに対応して適宜選択することができる。これらカラムクロマトグラフィーを単独または組み合わせて採用することができ、オープンカラム、HPLCカラムなどで適宜適用できる。
【0034】
上記二次精製に用いる薄層クロマトグラフィーとしては、逆相担体または順相担体またはアミンや光学活性体で修飾した化学修飾担体を用いたものが挙げられ、担体、展開溶媒等の精製条件は各種クロマトグラフィーに対応して適宜選択することができる。
【0035】
本発明の新規化合物(化合物(1))は、豊富な食経験により安全性が確認されているマコモタケ由来の成分であり、安全性は既に立証されており、各種飲食品、医薬品、化粧品の原料として用いることができる。
【0036】
上記飲食品としては、例えば、(a)清涼飲料、炭酸飲料、果実飲料、野菜ジュース、乳酸菌飲料、乳飲料、豆乳、ミネラルウォーター、茶系飲料、コーヒー飲料、スポーツ飲料、アルコール飲料、ゼリー飲料等の飲料類、(b)トマトピューレ、キノコ缶詰、乾燥野菜、漬物等の野菜加工品、(c)乾燥果実、ジャム、フルーツピューレ、果実缶詰等の果実加工品、(d)カレー粉、わさび、ショウガ、スパイスブレンド、シーズニング粉等の香辛料、(e)パスタ、うどん、そば、ラーメン、マカロニ等の麺類(生麺、乾燥麺含む)、(f)食パン、菓子パン、調理パン、ドーナツ等のパン類、(g)アルファー化米、オートミール、麩、バッター粉等、(h)焼菓子、ビスケット、米菓子、キャンデー、チョコレート、チューイングガム、スナック菓子、冷菓、砂糖漬け菓子、和生菓子、洋生菓子、半生菓子、プリン、アイスクリーム等の菓子類、(i)小豆、豆腐、納豆、きな粉、湯葉、煮豆、ピーナッツ等の豆類製品、(j)蜂蜜、ローヤルゼリー加工食品、(k)ハム、ソーセージ、ベーコン等の肉製品、(l)ヨーグルト、プリン、練乳、チーズ、発酵乳、バター、アイスクリーム等の酪農製品、(m)加工卵製品、(n)干物、蒲鉾、ちくわ、魚肉ソーセージ等の加工魚や、乾燥わかめ、昆布、佃煮等の加工海藻や、タラコ、数の子、イクラ、からすみ等の加工魚卵、(o)だしの素、醤油、酢、みりん、コンソメベース、中華ベース、濃縮出汁、ドレッシング、マヨネーズ、ケチャップ、味噌等の調味料や、サラダ油、ゴマ油、リノール油、ジアシルグリセロール、べにばな油等の食用油脂、(p)スープ(粉末、液体含む)等の調理、半調理食品や、惣菜、レトルト食品、チルド食品、半調理食品(例えば、炊き込みご飯の素、カニ玉の素)等が挙げられる。そして、飲食品への添加量としては、有効量が摂取できれば、特に限定されるものではなく、飲食品の味や品質安定性へ損なわないように適宜配合すればよいが、例えば5〜500ppm質量、好ましくは10〜100ppm質量となるように配合すればよい。
【0037】
上記化粧品としては、化粧水、乳液、ローション、ジェル、ファンデーション、クリーム、洗顔料、身体洗浄料等などが挙げられる。そして、化粧品への添加量としては、5〜500ppm質量が好ましく、10〜100ppm質量がより好ましい。添加量が、上記範囲より少ないと、十分な生理活性効果が期待できず、上記範囲よりも多いと品質安定性に不具合が生じる場合がある。
【0038】
上記医薬品としては、例えば、破骨細胞分化・増殖阻害剤、免疫賦活剤、メラニン生成抑制剤等が挙げられる。また、その形態としては、液剤、散剤、錠剤、丸剤、細粒剤、顆粒剤、カプセル剤、ゼリー、チュアブル、ペースト等の剤型が例示できる。
【0039】
次に、本発明の破骨細胞分化・増殖阻害剤について説明する。
【0040】
本発明の破骨細胞分化・増殖阻害剤は、下記化学式(1)で示される化合物(化合物(1)を有効成分として含有するものである。
【0041】
【化4】

【0042】
そして、本発明の破骨細胞分化・増殖阻害剤は、マコモタケの有機溶媒抽出物から調製された組成物を含有することが好ましく、マコモタケの菌えい部の有機溶媒抽出物から調製された組成物を含有することがより好ましい。
【0043】
上記化合物(1)は、マコモタケに含まれている成分であり、また、有機溶媒に可溶な化合物である。このため、マコモタケの有機溶媒抽出液には、上記化合物(1)が含まれており、高い骨粗鬆症予防・治療効果が得られる。なかでも、マコモタケの菌えい部の有機溶媒抽出物には、特に上記化合物(1)が多く含まれていることから、マコモタケの菌えい部の有機溶媒抽出物から調製された組成物を用いることで、有効成分の含有量を向上させることができ、より優れた骨粗鬆症予防・治療効果が得られる。
【0044】
なお、マコモタケの有機溶媒抽出液から得られる抽出物中には、通常、固形分あたり1ppm〜1000ppm程度の上記化合物(1)が含まれている。
【0045】
また、本発明の破骨細胞分化・増殖阻害剤は、更にイソフラボン、コラーゲンペプチド、ラクトフェリン、カゼインホスホペプチド、魚骨カルシウム、貝カルシウムから選ばれた1種以上を含むことが好ましい。これらの成分は、骨粗鬆症予防・治療効果を有することが知られており、相乗効果が期待できる。また、必要に応じて、無機塩類、有機酸類、糖質類、タンパク類、ペプチド類、アミノ酸類、脂質類を適宜配合することができる。
【0046】
本発明の破骨細胞分化・増殖阻害剤の形態としては、液剤、散剤、錠剤、丸剤、細粒剤、顆粒剤、カプセル剤、ゼリー、チュアブル、ペースト等の剤型が例示できる。そして、上記化合物(1)の有効摂取量は、体重1kg当り、0.01〜5mgが好ましく、0.05〜0.5mgがより好ましい。
【実施例】
【0047】
以下、本発明の新規化合物及び破骨細胞分化・増殖阻害剤について具体的に説明する。
【0048】
なお、化合物の同定は、ESI/TOFMSスペクトル解析、赤外吸収(IR)スペクトル解析、核磁気共鳴(NMR)スペクトル解析、DEPTスペクトル解析、H−H COSYスペクトル解析、HMQCスペクトル解析、HMBCスペクトル解析にて行った。
【0049】
ESI/TOFMSスペクトル解析は、ポジティブイオンモードで行った。
【0050】
赤外吸収(IR)スペクトル解析は、KBr法で行った。
【0051】
核磁気共鳴(NMR)スペクトル解析は、H−NMRは500MHz、13C−NMRは125MHz、溶媒は重クロロホルムの条件で行った。
【0052】
<実施例1>
[新規化合物]
マコモタケを葉部と菌えい部に切り分け、菌えい部(30.6 kg)を粉砕機で粉砕し、85%EtOH、アセトンで順次抽出を行った。このようにして得られた抽出物をCHCl3とEtOAcと水で溶媒分画し、CHCl3可溶部、EtOAc可溶部、水可溶部を得た。得られた画分の一部を破骨細胞形成阻害試験に供したところCHCl3可溶部、EtOAc可溶部に活性が確認された。そこでEtOAc可溶部7.2 gをフラッシュカラムクロマトグラフィー(silica gel 60 N (350 g),φ4 cm×60 cm)に供し、CH2Cl2:アセトン =10:0, 9:1, 6:4, 2:8, 0:10,100% MeOHの溶媒で順次段階的に溶出し、溶出画分MAK-E1〜MAK-E26を得た。これらを後述する破骨細胞形成阻害試験に供したところMAK-E3,4,9,11,13,24に活性が確認された。これらのうちMAK-E4 (135.8 mg)をフラッシュカラムクロマトグラフィー(silica gel 60 N, (200 g), φ2.5 cm×60 cm)に供し、ヘキサン:CH2Cl2=6:4,100%CH2Cl2,CH2Cl2:MeOH=1:1,100%MeOHの溶媒で順次段階的に溶出し、溶出画分MAK-E4-1〜MAK-E4-7を得た。そのMAK-E4-6(16.3 mg)を分取TLC(silica gel 60 F254,20×20 cm)に供し、ヘキサン:CH2Cl2=6:4で展開し、展開スポット画分MAK-E4-6-1〜MAK-E4-6-10を得た。また、MAK-E-4-7(76.7 mg)を分取TLC(silica gel 60 F254,20×20 cm)に供し、ヘキサン:CH2Cl2=6:4で展開し、展開スポット画分MAK-E4-7-1〜MAK-E4-7-10を得た。各画分をTLC及びNMRで比較したところ、MAK-E4-6-3,4、及びMAK-E4-7-3,4,5は類似した画分であったため、あわせてMAK-E4-7-1’とした。同様にMAK-E4-6-5,6、及びMAK-E4-7-6,7をあわせてMAK-E4-7-2’とし、MAK-E4-6-7,8,9、及びMAK-E4-7-8,9をあわせてMAK-E4-7-3’とした。MAK-E4-7-1'(10.2 mg)をSep pak(silica gel)に供し、得られた溶出部を順相カラムを用いたHPLC(Senshu pak AQUASIL SS-5251)に供し、ヘキサン:CHCl3=6:4で溶出させ、溶出画分MAK-E4-7-1’-1〜MAK-E4-7-1’-13を得た。その溶出画分MAK-E4-7-1’-2(5.3 mg)をsep pak(silica gel)に供し100%ヘキサンで溶出させ非吸着部と吸着部を得た。しかし得られた画分は量的に少なく化学構造同定のための分析が困難であったため、再度、マコモタケ菌えい部から抽出を行った。
【0053】
すなわち、上記MAK-E4-7-1’-2画分を指標にして、以下のようにして破骨細胞形成阻害活性物質を単離した。
【0054】
菌えい部(39.0 kg)を粉砕機で粉砕し、85%EtOH、アセトンで順次抽出を行った。得られた抽出物からヘキサン可溶部(40.0 g)を抽出し、上記と同様にしてフラッシュカラムクロマトグラフィー(silica gel 60 N, (350 g),φ4cm×60cm)に供し、溶出画分MAK-H1〜MAK-H26を得た。各画分について上記MAK-E4-7-1’-2を指標にしてTLC及びNMRで比較したところ、MAK-H6〜MAK-H10は類似した画分であったため、あわせてMAK-H6(107.0 mg)とした。これを分取TLC(silica gel 60 F254,20×20 cm)に供し、ヘキサン:CH2Cl2=6:4で展開し、展開スポット画分MAK-H6-1〜MAK-H6-12を得た。各画分をTLC及びNMRで比較したところ、MAK-H6-6,7,8,9,10は類似した画分であったため、あわせてMAK-H6-6-2’とした。MAK-H6-6-2’(25.9 mg)をSep pak(silica gel)に供し、得られた溶出部を順相カラムを用いたHPLC(Senshu pak AQUASIL SS-5251) に供し100%ヘキサンで溶出させ、溶出画分MAK-H6-6-2’-1〜MAK-H6-6-2’-40を得た。このうちTLC、NMRを指標にMAK-H6-6-2’-27,28,29,30,31,32,33をあわせてMAK-H6-6-2’-27’とし、MAK-H6-6-2’-34,35,36,37,38,39,40をあわせてMAK-H6-6-2’-34’とした。MAK-H6-6-2’-27’を先と同じ条件でHPLCに供し、溶出画分MAK-H6-6-27’-1〜MAK-H6-6-27’-20を得たが、この段階で量が少なくなったため、再度MAK-H6(106.0 mg)を上に示したものと同じ条件で分取TLCに供し、5つの展開スポット画分MAK-H6-1(2)〜MAK-H6-5(2)を得た。このうちMAK-H6-4(2)(58.0 mg)を先と同じ条件でSep pak(silica gel)、及び順相カラムHPLC(Senshu pak AQUASIL SS-5251) に供し、溶出画分MAK-H6-4(2)-1〜MAK-H6-4(2)-14を得た。その溶出画分MAK-H6-4(2)-10,11と、上記MAK-H6-6-2’-34’とをあわせたMAK-H6-6-2’-34”(24.0 mg)を疎水性フィルターに供し、2−プロパノールで溶出させた。このうち2−プロパノール不溶部から下記式(1)で表わされる新規化合物(化合物(1))(2.1 mg)が単離された。
【0055】
【化5】

【0056】
以下には、上記化合物(1)の同定の結果について示す。
【0057】
図1に示すように、化合物(1)はESI/TOFMSにおいてm/z687に[M+Na]+,の分子イオンピークを示したため、分子量664、分子式C46H80O2である化合物であることが明らかとなった。また、図8に示すように、IRスペクトルにおいて1740 cm-1に吸収が見られたため、カルボキシル基の存在が明らかとなった。1H-NMRスペクトルはステロイドに特徴的なピークを示していたが(図3)、ESI/TOFMSより決定した炭素原子の数は46もあることからこの化合物はステロイドの脂肪酸エステルであることが示唆された。図4に示す13C-NMRスペクトルにはカルボキシル基由来のδ173.5のピークが観測された。また、図5に示すDEPTスペクトルより5個の四級炭素の存在が示唆された。図6に示すHMQCスペクトルの相関からCとそれに結合しているプロトンの帰属を明らかにすることができた。図7に示すCOSYスペクトルからH-20とH-21、H-22とH-23に相関が確認された。図8に示すHMBCスペクトルから、H-3とC-1’、H-3’とC-2’,3’、H-18’とC-16’,17’、H-1とC-3,5、H-2とC-3、H-4とC-3,5、H-6とC-8、H-7とC-9,14、H-11とC-9、H-12とC-9,13、H-14とC-12、H-15とC-14、H-16とC-13、H-17とC-13、H-18とC-12,13,14,17、H-19とC-1,5,9,10、H-20とC-17、H-21とC-17,20,22、H-22とC-17、H-26とC-23,24,25、H-27,28とC-24,25に相関が確認され、ステロイドの側鎖にあたる部分構造が確認された。また水酸基に結合するより低磁場シフトしたH-3とC-1’、H-3’とC-2’,3’、H-18’とC-16’,17’に相関が確認され、エステル結合した脂肪酸にあたる部分構造が確認された。
【0058】
以上より、マコモタケ菌えい部から得られた新規化合物を、上記式(1)で表わされるepisterol stearate(ステロイドのステアリン酸エステル)であると決定した。
【0059】
<試験例1>
[破骨細胞の分化・増殖阻害活性評価]
上記化合物(1)による破骨細胞の分化・増殖阻害活性を評価した。破骨細胞形成阻害活性試験はマウス由来の骨髄細胞と骨芽細胞様間質細胞の共存培養法を用いた。破骨細胞形成阻害活性は破骨細胞(TRAP陽性多核細胞)の形成した数をカウントして評価した。
【0060】
・共存培養
マウス(雌 5〜7週齢)の脛骨,大腿骨から採取した骨髄細胞 1.3×108 cellと、 頭蓋骨から採取し培養した骨芽細胞様間質細胞 1×106 cellを培養液(10%FBS含有α-MEM)7.2 mlに懸濁し、48穴プレートに150μl /wellで分注した。
【0061】
上記化合物(1)のサンプル溶液としては、実施例1で得られたものを100 mg/mlとなるようにDMSO及びヘキサンに溶解し、さらに培養液で希釈し希釈系列を作製した。各濃度のサンプル溶液50 μlを1,25(OH)2VD3(20 ng/ml) 50 μlと共に培養液に添加し全量を250 μl/wellとした。CO2インキュベータを用いて培養 (37℃、CO2濃度5.0%)し、培養開始3日目にはサンプルを追加するため各wellの上澄み液100 μlを除去し、初日の添加濃度の2倍のサンプル溶液と1,25(OH)2D3(40 ng/ml) を各50 μl添加し、再び培養した。
【0062】
・TRAP陽性多核細胞のカウント
1週間程度培養した後、培養液を除去し、PBSで洗浄後10%ホルマリン含有PBS溶液を0.5 ml/well加え10分間固定した。次にEtOHを0.5 ml/well添加し、1分間再固定した。その後乾燥させ、TRAP反応液を0.3 ml/well加え、室温で30分間染色した。染色後は蒸留水(0.5 ml/well)で洗浄し、乾燥した。TRAP陽性であり、核を2個以上有する細胞をTRAP陽性多核細胞として、1 well当たりの個数をカウントした。なお、TRAP反応液は、Naphthol as-mx phosphate 1.5 mgを150 mlのN,N-dimethylformaldehydeに溶解し、これに、fast red violet lb salt 9 mgを15 mlのbuffer(50 mM 酒石酸Naを含む0.1 M酢酸Na緩衝液pH5.0)に添加した溶液を混合し、調製した。
【0063】
・MTT assay
上記共存培養後の生細胞数をMTT assayで確認した。具体的には、共存培養後の培養液を除去せず、1 mg/mlのMTT試薬を125 μl/wellで添加した。次にCO2インキュベータを用いて37℃、CO2濃度5.0%の培養条件で2時間培養した後、培養液を除去し、dimethyl sulfoxide 100 μl/well加え吸光度 (λ=570 nm) を測定した。なお、MTT試薬は、3-(4,5-dimethyl-2-thiazoly)-2,5-diphenyl-2H-tertazolium bromideを1 mg/mlになるよう水に溶解して調製した。
【0064】
結果を図9にまとめて示す。図9に明らかなとおり、上記化合物(1)は、50μg/mlの濃度で細胞生存率に影響を与えず、破骨細胞の形成を有意に抑制した。
【0065】
<製造例1>
表1に示す配合で調合した組成物を常法にしたがってハードカプセルに230mg/カプセルで充填して、ハードカプセル食品を製造した。魚骨カルシウムは商品名「焼成ボニカル」(焼津水産化学工業株式会社製)を使用した。
【0066】
【表1】

【0067】
<製造例2>
表2に示す配合で常法にしたがってゼリー飲料を製造した。このゼリー飲料はマコモタケの風味を感じることなく、また食感にも優れ、非常に飲み易かった。
【0068】
【表2】

【0069】
<製造例3>
表3に示す配合で常法にしたがって乳飲料を製造した。この乳飲料は沈殿を生じることなく、またマコモタケの風味を感じることもなく、非常に飲み易かった。
【0070】
【表3】

【産業上の利用可能性】
【0071】
本発明の新規化合物は、飲食品、医薬品、化粧品等の原料として用いることができる。
【0072】
また、本発明の破骨細胞分化・増殖阻害剤は、そのまま、或いは飲食品、医薬品、化粧品等に配合して摂取することにより、骨粗鬆症の予防・治療改善に用いることができる。
【図面の簡単な説明】
【0073】
【図1】化合物(1)のESI/TOFMSスペクトルである。
【図2】同IRスペクトル図である。
【図3】同H−NMRスペクトル図である。
【図4】同13C−NMRスペクトル図である。
【図5】同DEPTスペクトル(上段)と13C−NMRスペクトル(下段)との対応図である。
【図6】同HMQCスペクトル図である。
【図7】同H−H COSYスペクトル図である。
【図8】同HMBCスペクトル図である。
【図9】化合物(1)による破骨細胞の分化・増殖阻害活性を示す図表である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
下記化学式(1)で示される新規化合物。
【化1】

【請求項2】
飲食品、医薬品又は化粧品の原料として用いられる請求項1記載の新規化合物。
【請求項3】
下記化学式(1)で示される化合物を有効成分として含有することを特徴とする破骨細胞分化・増殖阻害剤。
【化2】

【請求項4】
マコモタケの有機溶媒抽出物から調製された組成物を含有する請求項3記載の破骨細胞分化・増殖阻害剤。
【請求項5】
マコモタケの菌えい部の有機溶媒抽出物から調製された組成物を含有する請求項4記載の破骨細胞分化・増殖阻害剤。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【公開番号】特開2009−73768(P2009−73768A)
【公開日】平成21年4月9日(2009.4.9)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−244658(P2007−244658)
【出願日】平成19年9月21日(2007.9.21)
【新規性喪失の例外の表示】特許法第30条第1項適用申請有り 平成19年3月25日 社団法人 日本農芸化学会主催の「日本農芸化学会2007年度(平成19年度)大会」に文書をもって発表
【出願人】(304023318)国立大学法人静岡大学 (416)
【出願人】(390033145)焼津水産化学工業株式会社 (80)
【Fターム(参考)】