説明

新規脂肪細胞分化抑制剤

【課題】副作用等の安全性の点で問題が少ない天然成分を有効成分とする脂肪細胞分化抑制剤、抗肥満薬、抗肥満用食品、抗肥満用飼料を提供すること。
【解決手段】α−トコトリエノール、γ−トコトリエノール等のトコトリエノール若しくはその生体内代謝物であるγ−カルボキシエチルヒドロキシクロマン(γ−CEHC)等のカルボキシエチルヒドロキシクロマン、又はパームから抽出されて製品化されているパームトコトリエノール等のトコトリエノール含有物を有効成分とする脂肪細胞分化抑制剤とする。この脂肪細胞分化抑制剤は抗肥満薬としても有用である。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、α−トコトリエノール、γ−トコトリエノール、α−カルボキシエチルヒドロキシクロマン(CEHC)若しくはγ−CEHC、又はこれらの含有物を有効成分とする脂肪細胞分化抑制剤や抗肥満薬、食品、及び、細胞分化抑制剤や抗肥満薬としての使用方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、トコトリエノール類に関しては、γ―トコトリエノールを含有する利尿剤、ナトリウムイオン排泄剤、高血圧予防治療剤、虚血性心疾患予防治療剤、うっ血性心不全予防治療剤又は腎疾患予防治療剤(例えば、特許文献1参照)や、動脈硬化症、癌、I型糖尿病、II型糖尿病、糖尿病性ネフロパシー、皮膚損傷と傷跡組織形成用、中枢神経異常と退化、例えばアルツハイマー病のように一般の神経退化、炎症用、不妊症/生殖能力不全の疾患および異常、日光暴露に関した症状、疾患および異常、加齢に関する疾患および異常、白内障の治療および予防用、抗凝固用および硝酸塩トレランスからなる群から選択される酸化ストレス関連症状、疾患および異常を予防または治療するためのビタミンCの遅効放出製剤とビタミンEの単調放出製剤を有することを特徴とする、ヒトまたは動物の血漿中、それらの高濃度とビタミンCとビタミンE間の制御割合を与える抗酸化剤ビタミンCとビタミンEの経口デリバリー用の医薬デリバリーシステム(例えば、特許文献2参照)や、2,5,7,8−テトラメチル−2−(β−カルボキシエチル)−6−ヒドロキシクロマン若しくはその塩及び/又は2,7,8−トリメチル−2−(β−カルボキシエチル)−6−ヒドロキシクロマン若しくはその塩、又はこれらの水和物である抗酸化剤又は当該物質を含有する抗酸化剤であって、代謝酵素により2,5,7,8−テトラメチル−2−(β−カルボキシエチル)−6−ヒドロキシクロマンに変換することにより抗酸化作用を示すα―トコトリエノールを含有する抗酸化剤、又は代謝酵素により生体内で2,7,8−トリメチル−2−(β−カルボキシエチル)−6−ヒドロキシクロマンに変換することにより抗酸化作用を示すγ―トコトリエノールを含有する抗酸化剤(例えば、特許文献3参照)が知られている。
【0003】
また、トコフェロール類を含有する食品としては、i)約10〜30%のトコフェロール類、トコトリエノール類またはそれらの組合せ;ii)約2〜20%の遊離ステロール類;iii)約2〜20%のステロールエステル類;iv)約0.1〜1.0%のシクロアルテノール類;およびv)約7〜19%の飽和脂肪を含んでなる、食用油であって、ヒト患者によるコレステロールの合成、吸収および血中レベルを減少させ、ヒト患者からコレステロールの排出を増加させ、ヒト患者の血中での過酸化物質の蓄積を減少させて、上記ヒト患者にビタミンEの血中レベルも増加させる食用油(例えば、特許文献4参照)や、アスコルビン酸エステル及びレシチン及びdl−α−トコフェロール、天然型トコフェロール類、トコトリエノール類の1種類又は2種類以上を含有する混合物を含有することを特徴とするステロール脂肪酸エステル組成物を含有する食用油、マーガリン類、菓子、調味料、乳製品などの食品(例えば、特許文献5参照)が知られている。
【0004】
更に、トコトリエノール類含有粉末に関して、保存安定性に優れ、さらさらした流動性を有するトコトリエノール含有粉末、その製造方法及び該粉末を圧縮成型してなる錠剤であって、トコトリエノール含有油を水中でレシチン、セルロースおよび乳化剤を用いて処理して乳化液を生成させ、この乳化液に粉体物質を添加混合して懸濁液とし、懸濁液を噴霧乾燥してなる方法によって製造されたトコトリエノール含有粉末(例えば、特許文献6参照)が提案されている。
【0005】
トコトリエノールは未だ、工業的に純品として大量に入手することはできず、実際は、パーム油、米糠油等の植物油から抽出、濃縮されたトコトリエノール含有油が一般的に用いられている。トコトリエノールはトコフェロールと分子構造においてイソプレノイド側鎖に三つの二重結合が存在するという点だけが異なり、トコフェロールよりも熱、光、酸素等の影響を受けて分解、変質し易いものである。このため、トコトリエノールを純品として工業的規模で入手することは困難であり、通常は、α、β、γ及びδ−トコトリエノールの混合物(以下、「総トコトリエノール」という)、α、β、γ及びδ−トコフェロールの混合物(以下、「総トコフェロール」という)およびそれら以外の原料由来の油成分が夾雑した混合物として市販されている。例えば、イーストマンケミカル社製のトコトリエノール製品(商品名「トコトリエノール」)は、総トコトリエノール含量が16%以上(α−トコトリエノール8〜10%、γ−トコトリエノール8〜10%)、総トコフェロール13〜15%(α−トコフェロール)、その他のトコフェロール及びα2〜4%からなり、総トコフェロール及び総トコトリエノールの合計含量が30%以上で表される混合物であり、トコトリエノールの分子構造および夾雑している原料由来の油成分の挙動がエマルジョン乳化安定性に悪影響を及ぼしていると考えられる。
【0006】
【特許文献1】特開2001−342133号公報
【特許文献2】特表2003−507419号公報
【特許文献3】特開2002−179567号公報
【特許文献4】特表2004−519228号公報
【特許文献5】特開2004−18678号公報
【特許文献6】国際公開WO00/27393
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明の課題は、副作用等の安全性の点で問題が少ない天然成分を有効成分とする脂肪細胞分化抑制剤、抗肥満薬、抗肥満用食品、抗肥満用飼料を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0008】
肥満は脂肪細胞の増加に起因するが、高度に分化し、脂肪を蓄積した脂肪細胞からはアヂポサイトカインとよばれる一連の生理活性物質が分泌され、インスリン抵抗性を高めたり、高脂血症や高血圧をきたし、強いては動脈硬化を発症するといわれており、脂肪前駆細胞から脂肪細胞への分化にはインスリンが重要な役割を果たしていることが知られている。本発明者らは、トコトリエノール類の中でもα−トコトリエノールとγ−トコトリエノールがインスリンによる脂肪前駆細胞の分化を抑制するが、α−トコフェロールとβ−トコトリエノールとδ−トコトリエノールはインスリンによる脂肪前駆細胞の分化を抑制しないことを見い出し、本発明を完成するに至った。
【0009】
すなわち本発明は、(1)α−トコトリエノール若しくはγ−トコトリエノール、又はその生体内代謝物であるα−カルボキシエチルヒドロキシクロマン(CEHC)若しくはγ−CEHCを有効成分とする脂肪細胞分化抑制剤や、(2)α−トコトリエノール若しくはγ−トコトリエノール、又はその生体内代謝物であるα−カルボキシエチルヒドロキシクロマン(CEHC)若しくはγ−CEHCの含有物を有効成分とする脂肪細胞分化抑制剤や、(3)α−トコトリエノール若しくはγ−トコトリエノール、又はその生体内代謝物であるα−カルボキシエチルヒドロキシクロマン(CEHC)若しくはγ−CEHCの含有物が、パームトコトリエノールであることを特徴とする上記(2)記載の脂肪細胞分化抑制剤や、(4)α−トコトリエノール若しくはγ−トコトリエノール、又はその生体内代謝物であるα−カルボキシエチルヒドロキシクロマン(CEHC)若しくはγ−CEHCを有効成分とする抗肥満剤や、(5)α−トコトリエノール若しくはγ−トコトリエノール、又はその生体内代謝物であるα−カルボキシエチルヒドロキシクロマン(CEHC)若しくはγ−CEHCの含有物を有効成分とする抗肥満剤や、(6)α−トコトリエノール若しくはγ−トコトリエノール、又はその生体内代謝物であるα−カルボキシエチルヒドロキシクロマン(CEHC)若しくはγ−CEHCの含有物が、パームトコトリエノールであることを特徴とする上記(5)記載の抗肥満剤に関する。
【0010】
また本発明は、(7)α−トコトリエノール若しくはγ−トコトリエノール、又はその生体内代謝物であるα−カルボキシエチルヒドロキシクロマン(CEHC)若しくはγ−CEHCを有効成分として含有し、脂肪細胞分化抑制作用がある旨が表示された食品や、(8)α−トコトリエノール若しくはγ−トコトリエノール、又はその生体内代謝物であるα−カルボキシエチルヒドロキシクロマン(CEHC)若しくはγ−CEHCの含有物を有効成分として含有し、脂肪細胞分化抑制作用がある旨が表示された食品や、(9)α−トコトリエノール若しくはγ−トコトリエノール、又はその生体内代謝物であるα−カルボキシエチルヒドロキシクロマン(CEHC)若しくはγ−CEHCの含有物が、パームトコトリエノールであることを特徴とする上記(8)記載の食品や、(10)α−トコトリエノール若しくはγ−トコトリエノール、又はその生体内代謝物であるα−カルボキシエチルヒドロキシクロマン(CEHC)若しくはγ−CEHCを有効成分として含有し、抗肥満作用がある旨が表示された食品や、(11)α−トコトリエノール若しくはγ−トコトリエノール、又はその生体内代謝物であるα−カルボキシエチルヒドロキシクロマン(CEHC)若しくはγ−CEHCの含有物を有効成分として含有し、抗肥満作用がある旨が表示された食品や、(12)α−トコトリエノール若しくはγ−トコトリエノール、又はその生体内代謝物であるα−カルボキシエチルヒドロキシクロマン(CEHC)若しくはγ−CEHCの含有物が、パームトコトリエノールであることを特徴とする上記(11)記載の食品に関する。
【0011】
さらに本発明は、(13)α−トコトリエノール若しくはγ−トコトリエノール、又はその生体内代謝物であるα−カルボキシエチルヒドロキシクロマン(CEHC)若しくはγ−CEHCを有効成分として含有し、脂肪細胞分化抑制作用及び/又は抗肥満作用がある旨が表示された飼料や、(14)α−トコトリエノール若しくはγ−トコトリエノール、又はその生体内代謝物であるα−カルボキシエチルヒドロキシクロマン(CEHC)若しくはγ−CEHCの含有物を有効成分として含有し、抗脂肪細胞分化抑制作用及び/又は抗肥満作用がある旨が表示された飼料や、(15)α−トコトリエノール若しくはγ−トコトリエノール、又はその生体内代謝物であるα−カルボキシエチルヒドロキシクロマン(CEHC)若しくはγ−CEHCの含有物が、パームトコトリエノールであることを特徴とする上記(14)記載の飼料や、(16)α−トコトリエノール若しくはγ−トコトリエノール、又はその生体内代謝物であるα−カルボキシエチルヒドロキシクロマン(CEHC)若しくはγ−CEHCを脂肪細胞分化抑制剤及び/又は抗肥満剤として使用する方法や、(17)α−トコトリエノール若しくはγ−トコトリエノール、又はその生体内代謝物であるα−カルボキシエチルヒドロキシクロマン(CEHC)若しくはγ−CEHCの含有物を脂肪細胞分化抑制剤及び/又は脂肪細胞分化抑制剤及び/又は抗肥満剤として使用する方法に関する。
【発明の効果】
【0012】
本発明によると、副作用等の安全性の点で問題が少ない天然成分を有効成分とする脂肪細胞分化抑制剤、抗肥満薬、抗肥満用食品、抗肥満用飼料を提供することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0013】
本発明の脂肪細胞分化抑制剤や抗肥満剤としては、α−トコトリエノール若しくはγ−トコトリエノール、又はその生体内代謝物であるα−CEHC若しくはγ−CEHCを有効成分とするものや、これらを含むものであれば特に制限されず、また、本発明の食品(サプリメント形態を含む)や飼料としては、α−トコトリエノール若しくはγ−トコトリエノール、又はα−CEHC若しくはγ−CEHC、あるいは、これらの含有物を有効成分として含有し、脂肪細胞分化抑制作用及び/又は抗肥満作用がある旨が表示された食品や飼料やであれば特に制限されず、そしてまた、本発明の使用方法としては、α−トコトリエノール若しくはγ−トコトリエノール、又はα−CEHC若しくはγ−CEHC、あるいは、これらの含有物を脂肪細胞分化抑制剤及び/又は抗肥満剤として用いる方法であれば特に制限されず、上記α−トコトリエノール、γ−トコトリエノール、α−CEHC又はγ−CEHC中では、γ−トコトリエノールを好適に例示することができる。
【0014】
より具体的には、例えば、3,4−ジヒドロ−2,5,7,8−テトラメチル−2−{(E,E)−4,8,12−トリメチル−3,7,11−トリデカトリエニル}−2H−1−ベンゾピラン−6−オール(別名(+−)−α−トコトリエノール)、3,4−ジヒドロ−2,5,7,8−テトラメチル−2−{R(E,E)−4,8,12−トリメチル−3,7,11−トリデカトリエニル}−2H−1−ベンゾピラン−6−オール〔別名(R)−α−トコトリエノール〕、3,4−ジヒドロ−2,5,7,8−テトラメチル−2−(4,8,12−トリメチル−3,7,11−トリデカトリエニル)−2H−1−ベンゾピラン−6−オール)(別名α−トコトリエノール)などのα−トコトリエノール;例えば、5−{(3,4−ジヒドロ−2,7,8−トリメチル−2−(4,8,12−トリメチル−3,7,11−トリデカトリエニル)−2H−1−ベンゾピラン−6−オール(γ−トコトリエノール)、3,3’,4,4’−テトラヒドロ−2,2’−7,7’,8,8’−ヘキサメチル−2,2−ビス(4,8,12−トリメチル−3,7,11−トリデカトリエニル)−(5,5’−ビ−2H−1−ベンゾピラン)−6,6’−ジオール(別名γ−トコトリエノール)、3,4−ジヒドロ2,7,8−トリメチル−2−{(3E,7E)−4,8,12−トリメチル3,7,11−トリデカトリエニル}−2H−1−ベンゾピラン−6−オール)(別名γ−トコトリエノール)などのγ−トコトリエノールをそれぞれ挙げることができる。
【0015】
上記α−トコトリエノールやγ−トコトリエノールは、例えばパーム油のような植物油から抽出するか、あるいは化学的に合成して得ることができる。また、市販品を利用することもできる。またトコトリエノールは分子内に不斉炭素原子及び複数の二重結合を有しており、光学活性体、ラセミ体、あるいはシス体、トランス体、シス−トランス混合物等が存在するが、本発明におけるα−トコトリエノールやγ−トコトリエノールは単一の異性体には限定されず、混合物も含まれ、その混合比も限定されるものではない。
【0016】
また、カルボキシエチルヒドロキシクロマン(CEHC)としては、α−CEHC、γ−CEHCやこれらの塩を挙げることができるが、中でも2,7,8−トリメチル−2−(β−カルボキシエチル)−6−ヒドロキシクロマンとも称されるγ−CEHCを好適に例示することができる。これらα−CEHCやγ−CEHCは、公知の方法により製造することができる。
【0017】
本発明において、α−トコトリエノールやγ−トコトリエノール等の含有物としては、トコトリエノール含有植物油抽出物を好適に例示することができ、パーム、米糠、大麦、小麦、オート麦、ココナッツ、ブドウ、大豆、ひまわり、とうもろこし、ごま、なたね、落花生、オリーブ等に由来する植物油の抽出物を例示することができる。中でも、パームから抽出されて製品化されているパームトコトリエノールや、大麦焼酎製造において副成する大麦焼酎蒸留残液から得られるトコトリエノールを150mg/kg以上含有する大麦溝条からなる組成物(特開2001−8664号公報参照)や、植物胚芽のぬか及び胚種からの抽出トコトリエノール(特表2005−536191号公報参照)を具体的に例示することができる。また、トコトリエノール含有油を水中でレシチン、セルロース、乳化剤を用いて処理し乳化液を生成させ、この乳化液に粉体物質を添加混合して懸濁液とし、懸濁液を噴霧乾燥してなる方法によって製造されたトコトリエノール含有粉末(WO00/27393)なども使用することができる。
【0018】
上記トコトリエノール含有物としては、総トコトリエノール含量が10重量%〜80重量%、好ましくは25重量%〜75重量%、より好ましくは50重量%〜75重量%のものを用いることができ、このようなトコトリエノール含有油として、商業的に入手し得る製品としては、例えば、「トコトリエノール」(76%含有品、ライオン社製)、「トコトリエノール」(30%含有品、イーストマンケミカル社製)、「オリザトコトリエノール」(オリザ油化社製)、「トコトリエノールオイル」(70%含有品、ゴールデンホーププランテーション ベルハド社製)、「トコトリエノールオイル」(30%含有品、50%含有品、カローテック製)等を挙げることができる。
【0019】
本発明の脂肪細胞分化抑制剤は、脂肪組織に蓄積し、脂肪細胞中の分化特異的遺伝子(例えば、PPARγ、C/EBPα、aP2、FAS、レジスチン)の発現を抑制することから、抗肥満活性を有することは明らかである。そして、本発明の脂肪細胞分化抑制剤や抗肥満剤を医薬品として用いる場合には、経口又は非経口的に投与することができ、本発明の脂肪細胞分化抑制剤や抗肥満剤をサプリメントとして用いる場合には、経口的に投与することができる。
【0020】
経口投与するには、通常、錠剤、散剤、顆粒剤、カプセル剤、液剤、トローチ剤等の剤形とすることができる。これらの剤形とするには通常用いられる製剤化助剤及び製剤化方法を用いることができ、例えば、賦形剤として、乳糖、マンニトール、キシリトール、エリスリトール、結晶セルロース、リン酸水素カルシウム、軽質無水ケイ酸等を挙げることができ、崩壊剤としてカルボキシメチルセルロースカルシウム、低置換度ヒドロキシプロピルセルロース、デンプン、クロスカルメロースナトリウム等を挙げることができ、結合剤としてヒドロキシプロピルセルロース、ヒドロキシプロピルメチルセルロース、ポリビニルピロリドン等を挙げることができ、滑沢剤としてステアリン酸、ステアリン酸カルシウム、ステアリン酸マグネシウム等を挙げることができる。また、着色剤や界面活性剤等を使用することもできる。トコトリエノールは酸化を受けやすい物質であるので、特にトコフェロール、ジブチルヒドロキシトルエン、没食子酸プロピル等の抗酸化剤を少量配合することが好ましい。
【0021】
また非経口投与するには、注射剤、坐剤、軟膏剤、経鼻剤等の剤形とすることができる。注射剤とするには、トコトリエノールが油性の物質であるため、ポリオキシエチレン硬化ヒマシ油、ショ糖脂肪酸エステル、ソルビタン脂肪酸エステル、マクロゴール類等の界面活性剤等を使用して乳化又は可溶化し、必要に応じて、ソルビトール、マンニトール等を添加して浸透圧を調整し、更に緩衝剤を加えてpHを調整するなどして製することができる。さらに、メチルパラベン等の保存剤、ベンジルアルコール等の局麻剤を配合することができる。
【0022】
投与量は、疾病の種類、患者の体重や年齢、投与形態、症状等により適宜選定することができるが、例えば成人に投与する場合、トコトリエノールとして、1日あたり1mg〜5g、好ましくは20mg〜2g、より好ましくは50mg〜1gを、数回に分けてあるいは1回で投与することが望ましい。
【0023】
本発明の脂肪細胞分化抑制作用及び/又は抗肥満作用がある旨が表示された食品としては、本発明の脂肪細胞分化抑制剤が含まれているものであれば特に制限されず、食品の種類としてはヨーグルト、ドリンクヨーグルト、ジュース、牛乳、豆乳、酒類、コーヒー、紅茶、煎茶、ウーロン茶、スポーツ飲料等の各種飲料や、プリン、クッキー、パン、ケーキ、ゼリー、煎餅などの焼き菓子、羊羹などの和菓子、冷菓、チューインガム等のパン・菓子類や、うどん、そば等の麺類や、かまぼこ、ハム、魚肉ソーセージ等の魚肉練り製品や、みそ、しょう油、ドレッシング、マヨネーズ、甘味料等の調味類や、チーズ、バター等の乳製品や、豆腐、こんにゃく、その他佃煮、餃子、コロッケ、サラダ等の各種総菜を挙げることができる。
【0024】
また、本発明の脂肪細胞分化抑制作用及び/又は抗肥満作用がある旨が表示された飼料としては、本発明の脂肪細胞分化抑制剤が含まれている家畜・家禽用飼料やペットフードであれば特に制限されず、脂肪細胞分化抑制剤を他の飼料成分と混合して用いることもできるが、プレミックスの形態で添加することもできる。
【0025】
以下、実施例により本発明をより具体的に説明するが、本発明の技術的範囲はこれらの例示に限定されるものではない。
【実施例1】
【0026】
<実験材料及び実験方法>
3T3−L1脂肪細胞の分化を誘導する系として、インスリンならびにパームトコトリエノール、各種ビタミンE同族体、γ−CEHCを3T3−L1前駆脂肪細胞に添加し、14日後に脂肪細胞分化特異的遺伝子の発現量をリアルタイムPCRによって測定した。また、細胞内脂質蓄積はOil red O脂質染色により形態学的に観察した。すなわち、3T3−L1脂肪細胞(ATCC)を、10%FBS(GIBCO)を含むDMEM培地(IWAKI)に2×10cells/wellになるように播種し、5%COの存在下37℃で3日間培養し、インスリン(US Biological)10μg/mlの存在下又は非存在下に、パームトコトリエノール(ライオン(株))、α−トコトリエノール(エーザイフードケミカル)、β−トコトリエノール(エーザイフードケミカル)、γ−トコトリエノール(エーザイフードケミカル)、δ−トコトリエノール(エーザイフードケミカル)をそれぞれ1μg/ml、0.1μg/ml、0.01μg/ml添加し、又はγ−カルボキシエチルヒドロキシクロマン(CEHC:エーザイ(株))を100μg/ml添加して、5%COの存在下37℃で14日間培養し、トリゾール(Invitrogen)を用いて、全RNAを抽出し、0.2μg/mlのRNA溶液にOmniscriptTM Reverse Transcriptase(QIAGEN)を用いて0.1μg/mlのcDNAを合成した。次に、脂肪細胞分化特異的遺伝子であるPPARγ(peroxisome proliferator activated receptor γ)、FAS、レジスチン(resistin)、aP2、C/EBPαの各mRNA発現を、リアルタイムPCRを用いて測定した。用いたプライマーは以下のとおりである。
【0027】
PPARγ−F(配列番号1):
5’−GGCGATCTTGACAGGAAAGAC−3’
PPARγ−R(配列番号2):
5’−CCCTTGAAAAATTCGGATGG−3’
FAS−F(配列番号3):
5’−TGCTCCCAGCTGCAGGC−3’
FAS−R(配列番号4):
5’−GCCCGGTAGCTCTGGGTGTA−3’
レジスチン−F(配列番号5):
5’−TCTTGAGCTGCTCCTGTGG−3’
レジスチン−R(配列番号6):
5’−GGGCTGCTGTCCAGTCTATC−3’
aP2−F(配列番号7):
5’−AGCATCATAACCCTAGATGGCG−3’
aP2−R(配列番号8):
5’−CATAACACATTCCACCACCAGC−3’
C/EBPα−F(配列番号9):
5’−GGTTTTGCTCTGATTCTTGCC−3’
C/EBPα−R(配列番号10):
5’−CGAAAAAACCCAAACATCCC−3’
【0028】
<結果>
1.パームトコトリエノールについて
インスリン(10μg/ml)の存在下あるいは非存在下においてパームトコトリエノールを1μg/mlの濃度で添加した場合、図1に示すように、インスリンのみを添加した3T3−L1脂肪細胞に比べて、パームトコトリエノールとインスリンを添加した細胞では、PPARγmRNAの発現量は83.3±7.6%減少した(p<0.001)。
【0029】
また、インスリン(10μg/ml)の存在下あるいは非存在下においてパームトコトリエノールを1、0.1、0.01μg/mlの濃度でそれぞれ添加した場合、図2に示すように、インスリンのみを添加した3T3−L1脂肪細胞に比べて、パームトコトリエノール 0.1μg/mlとインスリンを添加した細胞では、PPARγmRNAの発現量は95.6±0.8%、パームトコトリエノール 1μg/mlとインスリンを添加した細胞では、PPARγmRNAの発現量は96.1±0.6%減少した(p<0.001)。
【0030】
さらに、他の分化特異的遺伝子、FAS、resistin、aP2、C/EBPαについても、インスリン(10μg/ml)の存在下あるいは非存在下においてパームトコトリエノールを1μg/mlの濃度で添加した場合、図3に示すように、パームトコトリエノール添加によるmRNAの減少がみとめられた。
【0031】
パームトコトリエノール中には各種ビタミンE同族体が含まれている。含有されている割合について表1に示す。そこで本発明者らは、パームトコトリエノール中に含まれるα―トコフェロール、α―トコトリエノール、β−トコトリエノール、γ−トコトリエノール及びδ−トコトリエノールについて、更なる検討を行った。
【表1】

【0032】
2.α―トコフェロールについて
上記の方法に従って、α―トコフェロールが脂肪細胞分化に与える影響を検討した。インスリン(10μg/ml)の存在下あるいは非存在下においてα―トコフェロールを1、0.1、0.01μg/mlの濃度でそれぞれ添加した場合、図4に示すように、インスリンのみを添加した3T3−L1脂肪細胞に比べて、α―トコフェロールを1μg/mlとインスリンを添加した細胞では、PPARγmRNAの発現量は234.6±83.8%増加した。
【0033】
3.α―トコトリエノールについて
上記の方法に従って、α―トコトリエノールが脂肪細胞分化に与える影響を検討した。インスリン(10μg/ml)の存在下あるいは非存在下においてα―トコトリエノールを1、0.1、0.01μg/mlの濃度でそれぞれ添加した場合、図5に示すように、インスリンのみを添加した3T3−L1脂肪細胞に比べて、α―トコトリエノール1μg/mlとインスリンを添加した細胞では、PPARγmRNAの発現量は78.0±4.3%減少した(p<0.001)。
【0034】
4.β−トコトリエノールについて
上記の方法に従って、β―トコトリエノールが脂肪細胞分化に与える影響を検討した。インスリン(10μg/ml)の存在下あるいは非存在下においてβ―トコトリエノールを1、0.1、0.01μg/mlの濃度でそれぞれ添加した場合、図6に示すように、インスリンのみを添加した3T3−L1脂肪細胞に比べて、β―トコトリエノール1μg/mlとインスリンを添加した細胞では、PPARγmRNAの発現量に有意差は認められなかった(p<0.001)。
【0035】
5.γ−トコトリエノールについて
上記の方法に従って、γ−トコトリエノールが脂肪細胞分化に与える影響を検討した。インスリン(10μg/ml)の存在下あるいは非存在下においてγ−トコトリエノールを1、0.1、0.01μg/mlの濃度でそれぞれ添加した場合、図7に示すように、インスリンのみを添加した3T3−L1脂肪細胞に比べて、γ−トコトリエノール0.1μg/mlとインスリンを添加した細胞では、PPARγmRNAの発現量は49.9±8.1%、γ−トコトリエノール1μg/mlとインスリンを添加した細胞では、PPARγmRNAの発現量は55.0±4.1%減少した(p<0.001)。
【0036】
また、他の分化特異的遺伝子であるFAS、レジスチン、aP2、C/EBPαについて、インスリン(10μg/ml)の存在下あるいは非存在下においてγ−トコトリエノールを1、0.1、0.01μg/mlの濃度でそれぞれ添加した場合につき検討を行った。結果を図8及び9に示す。その結果、レジスチンでは全ての濃度で、その他の遺伝子については0.1及び0.01μg/mlの濃度で、γ−トコトリエノール添加によるmRNAの減少が認められた。
【0037】
6.δ−トコトリエノールについて
上記の方法に従って、δ−トコトリエノールが脂肪細胞分化に与える影響を検討した。インスリン(10μg/ml)の存在下あるいは非存在下においてδ−トコトリエノールを1、0.1、0.01μg/mlの濃度でそれぞれ添加した場合、図10に示すように、インスリンのみを添加した3T3−L1脂肪細胞と、δ−トコトリエノールを各濃度で添加した細胞では、PPARγmRNAの発現量に有意差は認められなかった(p<0.001)。
【0038】
7.γ−CEHC(Carboxy Ethyl Hydroxy Chroman)について
さらに、γ−トコトリエノールの代謝物であるγ−CEHCが脂肪細胞分化に与える影響を、上記の方法に従いPPARγ及びレジスチンについて検討した。結果を図11に示す。その結果、PPARγmRNAの発現量の減少は、γ−CEHC(100μg/ml)とインスリンを添加した3T3−L1脂肪細胞では、インスリンのみを添加したものに比べ19.3±45.4%であった(p<0.01)。また、レジスチンは60.7±3.2%であった(p<0.01)。
【図面の簡単な説明】
【0039】
【図1】本発明のパームトコトリエノール(1μg/ml)の濃度におけるPPARγ増加抑制作用を示す図である。
【図2】本発明のパームトコトリエノール(1、0.1、0.01μg/ml)の各濃度におけるPPARγ増加抑制作用を示す図である。
【図3】本発明のパームトコトリエノール(1μg/ml)のFAS、resistin、aP2、C/EBPαそれぞれの増加抑制作用を示す図である。
【図4】本発明のα−トコフェロール(1、0.1、0.01μg/ml)の各濃度におけるPPARγ増加抑制作用を示す図である。
【図5】本発明のα−トコトリエノール(1、0.1、0.01μg/ml)の各濃度におけるPPARγ増加抑制作用を示す図である。
【図6】本発明のβ−トコトリエノール(1、0.1、0.01μg/ml)の各濃度におけるPPARγ増加抑制作用を示す図である。
【図7】本発明のγ−トコトリエノール(1、0.1、0.01μg/ml)の各濃度におけるPPARγ増加抑制作用を示す図である。
【図8】本発明のγ−トコトリエノール(1、0.1、0.01μg/ml)の各濃度におけるレジスチン、aP2それぞれの増加抑制作用を示す図である。
【図9】本発明のγ−トコトリエノール(1、0.1、0.01μg/ml)の各濃度におけるFAS、C/EBPαそれぞれの増加抑制作用を示す図である。
【図10】本発明のδ−トコトリエノール(1、0.1、0.01μg/ml)の各濃度におけるPPARγ増加抑制作用を示す図である。
【図11】本発明のγ−CEHC(100μg/ml)の各濃度におけるPPARγ、レジスチンそれぞれの増加抑制作用を示す図である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
α−トコトリエノール若しくはγ−トコトリエノール、又はその生体内代謝物であるα−カルボキシエチルヒドロキシクロマン(CEHC)若しくはγ−CEHCを有効成分とする脂肪細胞分化抑制剤。
【請求項2】
α−トコトリエノール若しくはγ−トコトリエノール、又はその生体内代謝物であるα−カルボキシエチルヒドロキシクロマン(CEHC)若しくはγ−CEHCの含有物を有効成分とする脂肪細胞分化抑制剤。
【請求項3】
α−トコトリエノール若しくはγ−トコトリエノール、又はその生体内代謝物であるα−カルボキシエチルヒドロキシクロマン(CEHC)若しくはγ−CEHCの含有物が、パームトコトリエノールであることを特徴とする請求項2記載の脂肪細胞分化抑制剤。
【請求項4】
α−トコトリエノール若しくはγ−トコトリエノール、又はその生体内代謝物であるα−カルボキシエチルヒドロキシクロマン(CEHC)若しくはγ−CEHCを有効成分とする抗肥満剤。
【請求項5】
α−トコトリエノール若しくはγ−トコトリエノール、又はその生体内代謝物であるα−カルボキシエチルヒドロキシクロマン(CEHC)若しくはγ−CEHCの含有物を有効成分とする抗肥満剤。
【請求項6】
α−トコトリエノール若しくはγ−トコトリエノール、又はその生体内代謝物であるα−カルボキシエチルヒドロキシクロマン(CEHC)若しくはγ−CEHCの含有物が、パームトコトリエノールであることを特徴とする請求項5記載の抗肥満剤。
【請求項7】
α−トコトリエノール若しくはγ−トコトリエノール、又はその生体内代謝物であるα−カルボキシエチルヒドロキシクロマン(CEHC)若しくはγ−CEHCを有効成分として含有し、脂肪細胞分化抑制作用がある旨が表示された食品。
【請求項8】
α−トコトリエノール若しくはγ−トコトリエノール、又はその生体内代謝物であるα−カルボキシエチルヒドロキシクロマン(CEHC)若しくはγ−CEHCの含有物を有効成分として含有し、脂肪細胞分化抑制作用がある旨が表示された食品。
【請求項9】
α−トコトリエノール若しくはγ−トコトリエノール、又はその生体内代謝物であるα−カルボキシエチルヒドロキシクロマン(CEHC)若しくはγ−CEHCの含有物が、パームトコトリエノールであることを特徴とする請求項8記載の食品。
【請求項10】
α−トコトリエノール若しくはγ−トコトリエノール、又はその生体内代謝物であるα−カルボキシエチルヒドロキシクロマン(CEHC)若しくはγ−CEHCを有効成分として含有し、抗肥満作用がある旨が表示された食品。
【請求項11】
α−トコトリエノール若しくはγ−トコトリエノール、又はその生体内代謝物であるα−カルボキシエチルヒドロキシクロマン(CEHC)若しくはγ−CEHCの含有物を有効成分として含有し、抗肥満作用がある旨が表示された食品。
【請求項12】
α−トコトリエノール若しくはγ−トコトリエノール、又はその生体内代謝物であるα−カルボキシエチルヒドロキシクロマン(CEHC)若しくはγ−CEHCの含有物が、パームトコトリエノールであることを特徴とする請求項11記載の食品。
【請求項13】
α−トコトリエノール若しくはγ−トコトリエノール、又はその生体内代謝物であるα−カルボキシエチルヒドロキシクロマン(CEHC)若しくはγ−CEHCを有効成分として含有し、脂肪細胞分化抑制作用及び/又は抗肥満作用がある旨が表示された飼料。
【請求項14】
α−トコトリエノール若しくはγ−トコトリエノール、又はその生体内代謝物であるα−カルボキシエチルヒドロキシクロマン(CEHC)若しくはγ−CEHCの含有物を有効成分として含有し、抗脂肪細胞分化抑制作用及び/又は抗肥満作用がある旨が表示された飼料。
【請求項15】
α−トコトリエノール若しくはγ−トコトリエノール、又はその生体内代謝物であるα−カルボキシエチルヒドロキシクロマン(CEHC)若しくはγ−CEHCの含有物が、パームトコトリエノールであることを特徴とする請求項14記載の飼料。
【請求項16】
α−トコトリエノール若しくはγ−トコトリエノール、又はその生体内代謝物であるα−カルボキシエチルヒドロキシクロマン(CEHC)若しくはγ−CEHCを脂肪細胞分化抑制剤及び/又は抗肥満剤として使用する方法。
【請求項17】
α−トコトリエノール若しくはγ−トコトリエノール、又はその生体内代謝物であるα−カルボキシエチルヒドロキシクロマン(CEHC)若しくはγ−CEHCの含有物を脂肪細胞分化抑制剤及び/又は脂肪細胞分化抑制剤及び/又は抗肥満剤として使用する方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【公開番号】特開2007−277187(P2007−277187A)
【公開日】平成19年10月25日(2007.10.25)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−107003(P2006−107003)
【出願日】平成18年4月7日(2006.4.7)
【出願人】(305013910)国立大学法人お茶の水女子大学 (32)
【Fターム(参考)】