説明

方向性電磁鋼板の製造方法

【課題】インヒビターフリー系の素材による方向性電磁鋼板の製造方法において、急速加熱処理を含む一次再結晶焼鈍を行う場合に、急速加熱処理による鉄損低減効果を安定して得る方途について提案する。
【解決手段】インヒビター成分であるAlを100ppm以下、N、SおよびSeを各々50ppm以下に低減した鋼スラブを熱間圧延し、1回もしくは中間焼鈍を挟む2回以上の冷間圧延を施して最終板厚とした後、一次再結晶焼鈍を施し、その後二次再結晶焼鈍を施す方向性電磁鋼板の製造工程において、前記一次再結晶焼鈍は、700℃以上の温度域へ150℃/s以上の昇温速度で加熱し、その後、一旦700℃以下の温度域に冷却した後、次の加熱帯では、平均昇温速度が40℃/s以下となる条件で均熱温度まで加熱する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、方向性電磁鋼板の製造方法、特に極めて低い鉄損を有する方向性電磁鋼板の製造方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
電磁鋼板は、変圧器や発電機の鉄心材料として広く用いられている。特に、方向性電磁鋼板は、その結晶方位がゴス(Goss)方位と呼ばれる、{110} <001>方位に高度に集積しており、変圧器や発電機のエネルギーロスの低減に直接つながる、良好な鉄損特性を有している。この鉄損特性を低減する手段としては、板厚の低減、Si含有量の増加、結晶方位の配向性向上、鋼板への張力付与、鋼板表面の平滑化又は、二次再結晶粒の微細化などが有効である。
【0003】
ここに、二次再結晶粒を微細化させる技術として、特許文献1〜4などには、脱炭焼鈍時に急速加熱する方法や、脱炭焼鈍直前に急速加熱処理して一次再結晶集合組織を改善する(ゴス方位強度を上昇させる)方法が開示されている。
【0004】
ところで、インヒビター成分を含有させてインヒビターとして活用するには、1400℃程度の高温スラブ加熱が必須となり、当然製造コストが上昇することになる。従って、経済性を考慮する場合は、インヒビター成分は極力低減することが好ましい。この観点から、AlN、MnSおよびMnSe等の析出型インヒビターを含有しない成分系(以下、インヒビターフリー系という)の素材による、方向性電磁鋼板の製造方法が、特許文献5等に開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開平8−295937号公報
【特許文献2】特開2003−96520号公報
【特許文献3】特開平10−280040号公報
【特許文献4】特開平6−49543号公報
【特許文献5】特許第3707268号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、前記の急速加熱処理にて一次再結晶集合組織を改善する技術をインヒビターフリー系の素材による方向性電磁鋼板の製造方法に適用したところ、場合によっては二次再結晶粒が微細化せずに所期した鉄損低減効果が得られないことが判明した。
【0007】
そこで、本発明では、インヒビターフリー系の素材による方向性電磁鋼板の製造方法において、急速加熱処理を含む一次再結晶焼鈍を行う場合に、急速加熱処理による鉄損低減効果を安定して得る方途について提案することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
発明者らは、急速加熱処理を含む一次再結晶焼鈍を一つの連続焼鈍ラインで行った場合に、二次再結晶粒が微細化しない原因因子を調査したところ、急速加熱によって生じる、鋼板における幅方向温度分布が重要な因子であることが判明した。すなわち、急速加熱処理と一次再結晶焼鈍とを別々のラインで行う場合には、ライン間の移動の際に鋼板温度は常温程度となるため、急速加熱で生じた幅方向の温度分布は解消されるものと考えられる。しかしながら、急速加熱処理と一次再結晶焼鈍を一つの連続焼鈍ラインで行うと、この幅方向温度分布が、一次再結晶焼鈍の均熱時でも解消せず、幅方向の一次再結晶粒径の不均一を生じさせ、この結果所望の効果が得られないのである。インヒビターを含有している場合、インヒビターにより粒成長が抑制されるために問題にはならなかったが、インヒビターフリー系では粒成長を抑制する析出物(インヒビター)が存在しないため、わずかな温度分布でも大きな影響を受けていた。
【0009】
この急速加熱時の温度分布に起因した、一次再結晶粒の幅方向粒径分布を抑制するためには、一次再結晶焼鈍設備の構成を急速加熱後、一旦冷却し、さらに加熱、均熱する構成、例えば急速加熱帯、第一冷却帯、加熱帯、均熱帯および第二冷却帯とし、特に第一冷却帯と加熱帯の条件を制御することが重要であることを、今般明らかにした。この知見を得るに至った実験結果について、以下に説明する。
【0010】
<実験1>
表1に示す成分を含む鋼スラブを連続鋳造にて製造し、該スラブを1200℃にて加熱した後に、熱間圧延により板厚1.8mmの熱延板に仕上げ、1100℃で80秒の熱延板焼鈍を施した。ついで、冷間圧延により板厚0.30mmとし、非酸化性雰囲気にて一次再結晶焼鈍を施した。この一次再結晶焼鈍時は、まず、直接加熱方式(通電加熱方式)によって20〜300℃/sの昇温速度で600〜800℃まで急速加熱し、その後、間接加熱方式(ラジアントチューブによるガス加熱方式)によって、900℃まで55℃/sの平均昇温速度で加熱し、900℃で100秒間保持した。なお、温度は、板幅方向中央部の温度である。
【0011】
【表1】

【0012】
ここでは、一次再結晶集合組織を評価した。すなわち、一次再結晶集合組織は、板厚中心層におけるEuler空間のφ2=45°断面での二次元的強度分布によって評価した。すなわち、この断面では、主要な方位についての強度(集積度)を把握することができる。図1に、昇温速度とゴス方位強度(φ=90°、φ1=90°、φ2=45°)との関係および、急速加熱による到達温度とゴス方位強度との関係を示す。インヒビターフリー系において、急速加熱により一次再結晶集合組織を変化させる(ゴス方位強度を高くする)ためには、加熱速度を150℃/s以上、到達温度は700℃以上にする必要があることがわかった。
【0013】
<実験2>
表2に示す成分を含む鋼スラブを連続鋳造にて製造し、該スラブを1400℃にて加熱した後に、熱間圧延により板厚2.3mmの熱延板に仕上げ、1100℃で80秒の熱延板焼鈍を施した。ついで、冷間圧延により板厚0.27mmとし、雰囲気の水素分圧に対する水蒸気分圧の比である雰囲気酸化度:PH2O/PH2=0.35にて一次再結晶焼鈍を施した。なお、一次再結晶焼鈍は、次の二つの方式で行った。
(方式i)
まず、通電加熱方式によって600℃/sの昇温速度で800℃まで急速加熱し、一旦ある温度、すなわち800℃(冷却せず)、750℃、700℃、650℃、600℃、550℃および500℃の各温度まで冷却し、その後、ラジアントチューブによるガス加熱方式によって、850℃まで20℃/sの平均昇温速度で加熱し、850℃で200秒間保持した。
(方式ii)
また、ラジアントチューブによるガス加熱方式によって、700℃までは平均昇温速度35℃/s、その後850℃までは5℃/sの平均昇温速度で加熱し、850℃で200秒間保持した。
【0014】
【表2】

【0015】
ついで、MgOを主成分とする焼鈍分離剤を塗布し、仕上げ焼鈍を施した。仕上げ焼鈍は、乾水素雰囲気中、1200℃×5時間の条件で行った。仕上げ焼鈍後は、未反応の焼鈍分離剤を除去した後、50%のコロイダルシリカとリン酸マグネシウムからなる張力コートを塗布し、製品とした。なお、温度は、板幅方向中央部の温度である。
【0016】
本実験では、急速加熱終了時、冷却終了時および均熱終了時の板幅方向最大温度差と、製品コイルの外巻き部の鉄損特性とを評価した。表3に、各工程での板幅方向温度分布を示す。急速加熱によって幅方向で最大50℃の温度分布が生じていた。また、冷却後の到達板温が低ければ低いほど、冷却後および均熱後の幅方向温度分布は減少する傾向を示した。
【0017】
【表3】

【0018】
図2に、板幅方向最大温度差と製品コイルの外巻き部の鉄損特性との関係を示すように、インヒビターを含有していない成分系Aでは、均熱時の幅方向温度差が鉄損特性に特に大きな影響を与えており、良好な鉄損特性を得るためには均熱時の幅方向温度差が5℃以下とすることが必要であった。このことから、急速加熱後に、一旦到達板温を700℃以下にすることが必須であることが判明した。また、急速加熱を行わなかった(方式ii)では、均熱時の幅方向温度分布は非常に良好であるが、鉄損特性は大きく劣っている。
ちなみに、インヒビターを含有する成分系Bの場合を、図3に示すように、均熱時の幅方向温度差が鉄損特性に大きな影響を与えることはない。
【0019】
<実験3>
表4に示す成分を含む鋼スラブを連続鋳造にて製造し、スラブを1100℃にて加熱した後に、熱間圧延により板厚2.0mmの熱延板に仕上げ、950℃で120秒の熱延板焼鈍を施した。ついで、冷間圧延により板厚0.23mmの冷延板とし、雰囲気酸化度:PH2O/PH2=0.25にて一次再結晶焼鈍を施した。一次再結晶焼鈍は、次の二つの方式で行った。
(方式iii)
まず、直接加熱方式(誘導加熱方式)によって750℃/sの昇温速度で730℃まで急速加熱し、その後一度650℃まで冷却した。次いで、間接加熱方式(ラジアントチューブによるガス加熱方式)によって、10〜60℃/sの昇温速度で850℃まで加熱して、850℃で300秒間保持した。
(方式iv)
また、間接加熱方式(ラジアントチューブによるガス加熱方式)によって、700℃までは平均昇温速度60℃/s、その後850℃までは10〜60℃/sの平均昇温速度で加熱し、850℃で300秒間保持した。
【0020】
【表4】

【0021】
その後、MgOを主成分とする焼鈍分離剤を塗布し、仕上げ焼鈍を施した。仕上げ焼鈍は乾水素雰囲気中、1250℃×5時間の条件で行った。仕上げ焼鈍後は、未反応の焼鈍分離剤を除去した後、50%のコロイダルシリカとリン酸マグネシウムからなる張力コートを塗布し、製品とした。なお、温度は、板幅方向中央部の温度である。
【0022】
本実験では急速加熱終了時、冷却終了時および均熱終了時の板幅方向最大温度差と、製品コイルの外巻き部の鉄損特性とを評価した。表5に各工程での幅方向温度分布を示す。急速加熱を実施しない(方式iv)では、全ての条件で均熱時の温度分布は5℃以下になっているが、急速加熱を実施した場合は、加熱帯の昇温速度を40℃/s以下にしなければ、急速加熱によって生じた幅方向温度分布が解消されず、40℃/sを超える加熱速度では所望の鉄損特性が得られていない。このことから、加熱帯の昇温速度は、40℃/s以下にする必要があると言える。
【0023】
【表5】

【0024】
以上より、インヒビターフリー系の素材を用いて方向性電磁鋼板を製造するに当たって、急速加熱処理による鉄損改善効果を最大限生かすための重要なポイントの一つは、急速加熱で生じる板幅方向温度分布を均熱帯までに解消することにあることが、新たに判明した。
【0025】
本発明は、上記した知見に基づくものであり、その要旨構成は、次のとおりである。
(1)C:0.08質量%以下、
Si:2.0〜8.0質量%および
Mn:0.005〜1.0質量%
を含み、かつインヒビター成分であるAlを100ppm以下、N、SおよびSeを各々50ppm以下に低減し、残部Feおよび不可避不純物の組成を有する鋼スラブを熱間圧延し、1回もしくは中間焼鈍を挟む2回以上の冷間圧延を施して最終板厚とした後、一次再結晶焼鈍を施し、その後二次再結晶焼鈍を施す方向性電磁鋼板の製造工程において、
前記一次再結晶焼鈍は、700℃以上の温度域へ150℃/s以上の昇温速度で加熱し、その後、一旦700℃以下の温度域に冷却した後、平均昇温速度が40℃/s以下となる条件で均熱温度まで加熱することを特徴とする方向性電磁鋼板の製造方法。
【0026】
(2)前記一次再結晶焼鈍における雰囲気酸化度PH2O/PH2を0.05以下とすることを特徴とする前記(1)に記載の方向性電磁鋼板の製造方法。
【0027】
(3)前記鋼スラブは、さらに
Ni:0.03〜1.50質量%、
Sn:0.01〜1.50質量%、
Sb:0.005〜1.50質量%、
Cu:0.03〜3.0質量%、
P:0.03〜0.50質量%、
Mo:0.005〜0.10質量%および
Cr:0.03〜1.50質量%
のうちから選ばれる1種または2種以上を含有することを特徴とする前記(1)または(2)に記載の方向性電磁鋼板の製造方法。
【発明の効果】
【0028】
本発明によれば、スラブ低温加熱が可能なインヒビターフリー系の素材を用いて、鉄損特性が大幅に優れた方向性電磁鋼板の製造が安定的に可能になる。
【図面の簡単な説明】
【0029】
【図1】一次再結晶焼鈍における昇温速度とゴス強度との関係を示すグラフである。
【図2】インヒビターフリー系の素材を用いた場合の、均熱後の板幅方向最大温度差と製品コイルの外巻き部の鉄損特性との関係を示すグラフである。
【図3】インヒビター系の素材を用いた場合の、均熱後の板幅方向最大温度差と製品コイルの外巻き部の鉄損特性との関係を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0030】
次に、本発明の構成要件の限定理由について述べる。
本発明の電磁鋼板を製造する際の溶鋼成分の限定理由を、以下に説明する。この成分に関する「%」表示は特に断らない限り質量%を意味する。
C:0.08%以下
Cは、0.08%を超えると製造工程中に磁気時効の起こらない50ppm以下までにCを低減することが困難になるため、0.08%以下に限定する。また、下限に関しては、Cを含まない素材でも二次再結晶可能であるので特に設ける必要はない。
【0031】
Si:2.0〜8.0%
Siは、鋼の電気抵抗を高め、鉄損を改善するのに有効な元素であるが、含有量が2.0%に満たないとその添加効果に乏しく、一方、8.0%を超えると加工性が著しく低下し、また磁束密度も低下するため、Si量は2.0〜8.0%の範囲に限定した。
【0032】
Mn:0.005〜1.0%
Mnは、熱間加工性を良好にするために必要な元素であるが、0.005%未満であると効果がなく1.0%を超えると製品板の磁束密度が低下するため、0.005〜1.0%とする。
【0033】
ここで、インヒビター成分を含有していると、1400℃程度の高温スラブ加熱が必須となり製造コストが上昇するため、インヒビター成分は極力低減する必要がある。そこで、1200℃程度の低温スラブ加熱での製造を可能とするために、インヒビター成分はそれぞれAl:100ppm(0.01%)、N:50ppm(0.005%)、S:50ppm(0.005%)およびSe:50ppm(0.005%)を上限とする。かかる成分は極力低減することが磁気特性の観点から望ましいが、上記範囲内で残存させることは何ら問題ではない。
【0034】
上記の成分以外に、次に述べる成分を適宜含有させることができる。
Ni:0.03〜1.50%、Sn:0.01〜1.50%、Sb:0.005〜1.50%、Cu:0.03〜3.0%、P:0.03〜0.50%、Mo:0.005〜0.10%およびCr:0.03〜1.50%のうちから選んだ少なくとも1種
Niは、熱延板組織を改善して磁気特性を向上させる有用な元素である。しかしながら、0.03%未満では磁気特性の向上効果が小さく、一方1.5%を超えると二次再結晶が不安定になり磁気特性が劣化するため、Ni量は0.03〜1.5%とする。
また、Sn、Sb、Cu、P、CrおよびMoはそれぞれ磁気特性の向上に有用な元素であるが、いずれも上記した各成分の下限に満たないと、磁気特性の向上効果が小さく、一方、上記した各成分の上限量を超えると、二次再結晶粒の発達が阻害されるため、それぞれSn:0.01〜1.50%、Sb:0.005〜1.50%、Cu:0.03〜3.0%、P:0.03〜0.50%、Mo:0.005〜0.10%およびCr:0.03〜1.50%の範囲で含有させる必要がある。
【0035】
上記成分以外の残部は、不可避的不純物およびFeである。次いで、この成分組成を有する溶鋼から、通常の造塊法、連続鋳造法でスラブを製造してもよいし、100mm以下の厚さの薄鋳片を直接連続鋳造法で製造してもよい。スラブは通常の方法で加熱して熱間圧延に供するが、鋳造後加熱せずに直ちに熱間圧延してもよい。薄鋳片の場合には熱間圧延しても良いし、熱間圧延を省略してそのまま以後の工程に進んでもよい。
【0036】
次いで、必要に応じて熱延板焼鈍を施す。ゴス組織を製品板において高度に発達させるためには、熱延板焼鈍温度は800℃以上1100℃以下が好適である。熱延板焼鈍温度が800℃未満であると、熱間圧延でのバンド組織が残留し、整粒の一次再結晶組織を実現することが困難になり、二次再結晶の発達が阻害される。熱延板焼鈍温度が1100℃を超えると、熱延板焼鈍後の粒径が粗大化しすぎるため、整粒の一次再結晶組織を実現する上で極めて不利である。
【0037】
熱延板焼鈍後は、必要に応じて中間焼鈍を挟む1回以上の冷間圧延を施した後、再結晶焼鈍を行い、焼鈍分離剤を塗布する。ここで、冷間圧延の温度を100℃〜250℃に上昇させて行うこと、および冷間圧延の途中で100〜250℃の範囲での時効処理を1回または複数回行うことが、ゴス組織を発達させる点で有効である。冷間圧延後、磁区を細分化するためにエッチング溝を形成させても本発明には何の問題もない。
【0038】
また、前述したように、一次再結晶集合組織を改善させるためには150℃/s以上の昇温速度での急速加熱が必要である。生産の効率性の観点より、急速加熱の方式は、誘導加熱や通電加熱などの直接加熱方式が好ましい。急速加熱後に一旦700℃以下の温度域に冷却するのは、急速加熱時に発生した板幅方向温度分布を均熱過程までに解消させるためである。同様の目的で、その後の均熱温度までの加熱は、昇温速度40℃/s以下に限定する。この加熱は温度分布が生じにくい間接加熱方式とすることが好ましい。間接加熱方式は、例えば、雰囲気加熱や輻射加熱などがあるが、連続焼鈍炉で一般的に採用されている雰囲気加熱(ラジアントチューブによるガス加熱方式など)がコストやメンテナンスの点で好ましい。なお、均熱温度が800℃より低くなると、一次再結晶粒径が小さくなり、二次再結晶の駆動力が大きくなりすぎて、方位のずれた粒も成長可能になり、磁気特性が劣化するおそれがある。一方、均熱温度が950℃より高くなると、一次再結晶粒径が大きくなり、逆に二次再結晶の駆動力が小さくなりすぎて、二次再結晶が発現しにくくなる。したがって、均熱温度は800〜950℃とすることが好ましい。
【0039】
以上のような一次再結晶焼鈍を行うための設備としては、例えば、急速加熱帯、第一冷却帯、加熱帯、均熱帯および第二冷却帯から構成された連続焼鈍炉が挙げられ、急速加熱帯では昇温速度150℃/s以上で700℃以上に到達させる加熱を、第一冷却帯では700℃以下の温度域への冷却を、そして加熱帯では昇温速度40℃/s以下の加熱を、それぞれ行うことが好ましい。
【0040】
一次再結晶焼鈍における雰囲気酸化度は特に限定されないが、幅方向および長手方向の鉄損特性をより安定化させたい場合には、PH2O/PH2≦0.05、より好ましくはPH2O/PH2≦0.01にすることが好ましい。なぜなら、一次再結晶焼鈍時のサブスケール形成を抑制することによって、タイト焼鈍で行う二次再結晶時の鋼板窒化挙動の幅方向および長手方向の変動が抑制されるためである。
【0041】
一次再結晶焼鈍後に、二次再結晶焼鈍を施す。このときフォルステライト被膜を形成させる場合は、MgOを主成分とする焼鈍分離剤を鋼板表面に塗布してから施す。一方、フォルステライト被膜を形成させない場合は、鋼板と反応しない(鋼板表面にサブスケールを形成しない)シリカ粉末やアルミナ粉末といった、公知の焼鈍分離剤を塗布してから行う。次いで、こうして得られた鋼板表面に張力被膜を形成させる。この形成は、公知の方法を適用すればよく、特定の方法に限定する必要はない。たとえば、CVD法やPVD法のような蒸着法を用いて、窒化物、炭化物または炭窒化物からなるセラミック被膜を形成することができる。このようにして得られた鋼板に、更なる鉄損低減を目的として、レーザーあるいはプラズマ炎等を照射して、磁区を細分化することも可能である。
【0042】
以上の方法に従って製造することにより、インヒビターが含有しない成分系において、安定的に急速加熱による鉄損低減効果を得ることが可能になり、今まで以上に鉄損の低い方向性電磁鋼板を安定的に製造することが可能になる。
【実施例】
【0043】
表6に示す鋼スラブを連続鋳造にて製造し、1410℃に加熱した後、熱間圧延により板厚2.0 mmの熱延板に仕上げ、950℃で180秒の熱延板焼鈍を施した。ついで、冷間圧延により板厚0.75mmとし、酸化度PH2O/PH2=0.30、830℃、300秒の条件下に中間焼鈍を施した。その後、塩酸酸洗により表面のサブスケールを除去し、再度冷間圧延を実施し、0.23mm厚の冷延板とし、さらに磁区細分化処理のため5mm間隔の溝をエッチングにて形成した後、均熱温度840℃で200秒保持する条件で一次再結晶焼鈍を実施した。一次再結晶焼鈍条件の詳細を表7に示す。その後、コロイダルシリカを静電塗布した後に、二次再結晶および純化を目的にしたバッチ焼鈍を1250℃×30時間、H2雰囲気の条件で実施した。かくして得られたフォルステライト被膜のない、平滑な表面を有する鋼板に対し、TiCl4、H2およびCH4の混合ガスからなる雰囲気中にて、TiCを鋼板の両面に形成した。その後、50%のコロイダルシリカとリン酸マグネシウムからなる絶縁コートを塗布してから製品とし、その磁気特性を評価した。その評価結果を、表7に示す。
【0044】
なお、鉄損特性は、コイル長手方向3箇所よりサンプルを採取して評価した。コイル外巻きおよび内巻きは、長手方向最端部であり、コイル中巻きは長手方向の中央部である。
【0045】
表7に示すように、各条件が本発明範囲内の場合、非常に良好な鉄損特性が得られている。一方で、製造条件が一つでも本発明範囲を外れたものについては、満足する鉄損特性が得られていない。
【0046】
【表6】

【0047】
【表7】


【特許請求の範囲】
【請求項1】
C:0.08質量%以下、
Si:2.0〜8.0質量%および
Mn:0.005〜1.0質量%
を含み、かつインヒビター成分であるAlを100ppm以下、N、SおよびSeを各々50ppm以下に低減し、残部Feおよび不可避不純物の組成を有する鋼スラブを熱間圧延し、1回もしくは中間焼鈍を挟む2回以上の冷間圧延を施して最終板厚とした後、一次再結晶焼鈍を施し、その後二次再結晶焼鈍を施す方向性電磁鋼板の製造工程において、
前記一次再結晶焼鈍は、700℃以上の温度域へ150℃/s以上の昇温速度で加熱し、その後、一旦700℃以下の温度域に冷却した後、平均昇温速度が40℃/s以下となる条件で均熱温度まで加熱することを特徴とする方向性電磁鋼板の製造方法。
【請求項2】
前記一次再結晶焼鈍における雰囲気酸化度PH2O/PH2を0.05以下とすることを特徴とする請求項1に記載の方向性電磁鋼板の製造方法。
【請求項3】
前記鋼スラブは、さらに
Ni:0.03〜1.50質量%、
Sn:0.01〜1.50質量%、
Sb:0.005〜1.50質量%、
Cu:0.03〜3.0質量%、
P:0.03〜0.50質量%、
Mo:0.005〜0.10質量%および
Cr:0.03〜1.50質量%
のうちから選ばれる1種または2種以上を含有することを特徴とする請求項1または2に記載の方向性電磁鋼板の製造方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【公開番号】特開2011−174138(P2011−174138A)
【公開日】平成23年9月8日(2011.9.8)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−39389(P2010−39389)
【出願日】平成22年2月24日(2010.2.24)
【出願人】(000001258)JFEスチール株式会社 (8,589)
【Fターム(参考)】