説明

旋回軸受装置

【課題】シール部材の取付および取外を容易に行うことができ、またはシール部材を取り付けるための部品の点数を減らす。
【解決手段】旋回軸受装置21において、内輪22の外周面のうち外輪23の下面23Aよりも下側に位置する部位にシール溝28を形成し、このシール溝28にシール部材29の挿入部30を挿入し、その後、挿入部30に形成された嵌込溝部32にシール固定部材33を嵌め込む。嵌込溝部32にシール固定部材33を嵌め込むことにより、嵌込溝部32が押し広げられ、挿入部30が弾性変形してシール溝28に押し付けられ、シール部材29がシール溝28に固定される。これにより、シール固定部材33をシール部材29の嵌込溝部32に対して着脱するだけ、シール部材29の取付または取外を行うことが可能になる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、例えば油圧ショベル、油圧クレーンの建設機械等において、下部走行体上に上部旋回体を旋回可能に支持する旋回軸受装置に関する。
【背景技術】
【0002】
油圧ショベル、油圧クレーン等の建設機械は下部走行体上に上部旋回体が旋回軸受装置を介して旋回可能に支持されている。旋回軸受装置は、下部走行体の丸胴に固定された内輪と、上部旋回体の旋回フレームに固定された外輪と、内輪と外輪との間に設けられた複数の転動体とを備えている。外輪は、内輪の外周側に複数の転動体を介し、内輪に対して回転可能に装着されている。
【0003】
上部旋回体の旋回フレームには、油圧モータおよび減速装置を有する旋回駆動装置が設けられており、減速装置の出力軸に形成されたピニオンが、旋回軸受装置の内輪の内周側に形成された内歯と噛合している。油圧モータを駆動し、油圧モータからの回転出力を減速装置により減速し、出力トルクを増大させる。そして、この回転を出力軸から内輪に伝え、内輪に対して外輪を回転させる。これにより、下部走行体に対して上部旋回体が旋回する。
【0004】
このような旋回軸受装置において、内輪の外周面と外輪の内周面との間には環状の隙間が形成されており、この隙間は、内輪および外輪の下側において下向きに開口し、内輪および外輪の上側において上向きに開口している。旋回軸受装置の多くは、このような隙間の下側開口部と上側開口部とをそれぞれシールするシール部材(ダストシール)を備えている。これらのシール部材により、内輪と外輪との間の隙間に粉塵が侵入するのを防止し、または、外輪と内輪との間に潤滑油を保持している。
【0005】
従来の旋回軸受装置は、例えば、内輪と外輪との隙間の下側開口部をシールするために、内輪の外周面のうち、外輪の下面よりも下側に位置する部位に全周に亘ってシール溝を形成し、このシール溝に環状のシール部材を装着し、このシール部材のリップ部を内輪のシール溝から外輪に向けて延在させ、当該リップ部の先端を外輪の下面に接触させることにより、内輪と外輪との間の隙間の下側開口部を閉塞している(特許文献1参照)。
【0006】
このような従来の旋回軸受装置において、内輪と外輪との間の隙間の下側開口部をシールするシール部材を内輪のシール溝に固定する方法には、接着剤を用いる方法、複数の可撓性ロッドをターンバックルで連結してなるシール固定部材を用いてシール部材をシール溝内に締付固定する方法等が知られている。
【0007】
可撓性ロッドおよびターンバックルを用いてシール部材をシール溝内に締付固定する方法は、シール部材をシール溝に挿入した後、シール部材の外周側を囲い込むように複数の可撓性ロッドを配置しつつ、これら可撓性ロッドをターンバックルを用いてねじ込み連結することにより、シール部材の外周側全周を締め付けるリング状のシール固定部材を形成するといった方法である。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【特許文献1】特開2001−12482号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
ところで、シール部材は可撓性材料ないし弾性材料、例えばゴムにより形成されており、また、内輪に対して外輪が回転するときにシール部材のリップ部が外輪に対して摺動する。このため、シール部材は建設機械の使用に伴い摩耗し、劣化する消耗部品であり、それゆえ定期交換が必要である。
【0010】
上述したように、シール部材をシール溝に接着剤を用いて固定する方法を採用した場合、シール部材の交換が困難であるという問題がある。
【0011】
また、可撓性ロッドおよびターンバックルを用いてシール部材をシール溝内に締付固定する方法を採用した場合、シール部材をシール溝から取り外すときには、ターンバックルをゆるめて複数の可撓性ロッドを分離しなければならず、一方、シール部材をシール溝に固定するときには、ターンバックルを締め付けて複数の可撓性ロッドを連結しなければならない。このため、シール部材の交換作業が煩雑であり、作業性が悪く、交換作業に長い時間がかかってしまうという問題がある。
【0012】
また、可撓性ロッドおよびターンバックルを用いてシール部材をシール溝内に締付固定する方法では、複数の可撓性ロッドと、複数のターンバックルが必要であり、シール部材をシール溝に固定するための部品の点数が多く、旋回軸受装置の製造コストまたはメンテナンスコストが高くつくという問題がある。
【0013】
本発明は例えば上述したような問題に鑑みなされたものであり、本発明の目的は、シール部材の取付および取外を容易に行うことができ、またはシール部材を取り付けるための部品の点数を減らすことができる旋回軸受装置を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0014】
上記課題を解決するために、本発明は、円筒状の内輪と、内輪の外周側に設けられた外輪と、内輪と外輪との間に設けられ内輪に対して外輪を回転可能に支持する転動体と、内輪の外周面のうち外輪の下面よりも下側に位置する部位に全周に亘って形成されたシール溝と、内径側がシール溝に挿入される挿入部となると共に外径側が内輪と外輪との間の隙間をシールするリップ部となり、可撓性材料から形成されたシール部材とを備えた旋回軸受装置に適用される。
【0015】
そして、請求項1に係る発明が採用する構成の特徴は、シール部材の挿入部には、当該挿入部の外径側周面に開口し全周に亘って延びる嵌込溝部を形成し、嵌込溝部には、シール部材をシール溝に固定するためにシール部材よりも硬質な可撓性材料からなるシール固定部材を嵌め込むことにある。
【0016】
また、請求項2に係る発明は、前記嵌込溝部の縁部に、当該嵌込溝部の開口部を当該嵌込溝部の内部に比して狭くすることによりシール固定部材を抜け止めする抜け止め部を形成したことにある。
【0017】
また、請求項3に係る発明は、シール部材は長尺体を環状に変形した状態でシール溝に挿入し、シール固定部材は長尺体を環状に変形した状態で嵌込溝部に嵌め込む構成としたことにある。
【発明の効果】
【0018】
請求項1に係る発明によれば、シール部材の挿入部をシール溝に挿入し、その後、シール部材の嵌込溝部にシール固定部材を嵌め込む。シール固定部材を嵌込溝部に嵌め込むことにより、シール固定部材によって嵌込溝部が押し広げられ、挿入部が拡張する方向に弾性変形する。この結果、挿入部がシール溝に押し付けられ、シール部材がシール溝に固定される。このように、シール部材の挿入部をシール溝に挿入した後、シール部材の嵌込溝部にシール固定部材を嵌め込むだけで、シール部材をシール溝に固定することができ、シール部材の取付および取外を容易に行うことができる。
【0019】
また、シール部材をシール溝に固定するための部品はシール固定部材のみである。したがって、シール部材を取り付けるための部品の点数を減らすことができ、旋回軸受装置の製造コストまたはメンテナンスコストを下げることができる。
【0020】
また、請求項2に係る発明によれば、嵌込溝部の縁部に抜け止め部を形成することにより、嵌込溝部に嵌め込まれたシール固定部材が旋回軸受装置を搭載した建設機械の作業時に発生する振動等により抜け落ちるのを防ぐことができる。
【0021】
また、請求項3に係る発明によれば、シール部材およびシール固定部材をそれぞれ長尺体として形成することにより、シール部材およびシール固定部材を容易に製造することが可能になり、また、シール部材およびシール固定部材の取扱が容易になる。
【図面の簡単な説明】
【0022】
【図1】本発明の実施形態による旋回軸受装置が搭載された油圧ショベルを示す正面図である。
【図2】図1中の油圧ショベルに設けられた旋回駆動装置を本発明の実施形態による旋回軸受装置と共に示す縦断面図である。
【図3】図2中の旋回軸受装置を拡大して示す縦断面図である。
【図4】図3中の内輪と外輪との間の隙間の下側開口部をシールするシール部材およびシール固定部材等を拡大して示す縦断面図である。
【図5】シール部材の嵌込溝部にシール固定部材を嵌め込む前の状態におけるシール部材およびシール固定部材等を示す縦断面図である。
【図6】本発明の実施形態におけるシール部材の端部を示す斜視図である。
【図7】環状に湾曲させた状態のシール部材を示す斜視図である。
【図8】本発明の実施形態におけるシール固定部材の端部を示す斜視図である。
【図9】環状に湾曲させた状態のシール固定部材を示す斜視図である。
【発明を実施するための形態】
【0023】
以下、本発明に係る旋回軸受装置の実施の形態を図1ないし図9に従って詳細に説明する。
【0024】
図1において、1は本発明の実施形態による旋回軸受装置が搭載された油圧ショベルを示し、油圧ショベル1は、自走可能なクローラ式の下部走行体2と、下部走行体2上に設けられた上部旋回体3と、上部旋回体3の前部側に俯仰動可能に設けられ、土砂等の掘削作業を行う作業装置4とにより構成されている。
【0025】
また、下部走行体2と上部旋回体3との間には、下部走行体2に対して上部旋回体3を
旋回可能に支持する本実施形態による後述の旋回軸受装置21が設けられている。そして、上部旋回体3には旋回軸受装置21を駆動するための後述の旋回駆動装置5が設けられている。
【0026】
図2において、5は後述の旋回軸受装置21を介して上部旋回体3を旋回させるための旋回駆動装置を示し、旋回駆動装置5は油圧モータ6と減速装置7とを備えている。
【0027】
油圧モータ6は上部旋回体3を旋回させるための回転駆動源であり、減速装置7を構成するハウジング8の上端に取り付けられている。
【0028】
また、減速装置7は油圧モータ6の出力回転を減速すると共に出力トルクを増大させる装置であり、ボルト9を用いて上部旋回体3の旋回フレーム3Aに固定されている。減速装置7のハウジング8内には、油圧モータ6のモータ軸6Aに連結された1段目の遊星歯車減速機構10と、遊星歯車減速機構10に連結された2段目の遊星歯車減速機構11と、遊星歯車減速機構11に連結された出力軸12とが設けられている。
【0029】
出力軸12は軸受13,14を介してハウジング8内に回転可能に支持されている。また、軸受14の下側には、ハウジング8内に充填された潤滑油を封止するオイルシール15が設けられている。
【0030】
また、出力軸12の下端部にはピニオン12Aが形成されており、ピニオン12Aは後述する旋回軸受装置21の内輪22の内歯22Aと噛合している。また、内輪22の内周側にはグリスバス16が設けられ、グリスバス16には、内歯22Aとピニオン12Aとの噛合部を潤滑するグリスが収容されている。
【0031】
次に、21は本発明の実施形態による旋回軸受装置を示し、旋回軸受装置21は、図3に示すように、下部走行体2に対して上部旋回体3を旋回可能に支持する装置である。そして、旋回軸受装置21は、内輪22と、内輪22の外周側に設けられた外輪23と、内輪22と外輪23との間に設けられ、内輪22に対して外輪23を回転可能に支持する複数の転動体24(1個のみ図示)とから構成されている。
【0032】
内輪22は円筒状に形成され、下部走行体2の上側に設けられた丸胴2Aの上部に複数のボルト25(1個のみ図示)を用いて固定されており、内輪22の直径は例えばおよそ3メートルないし4メートルである。また、内輪22の内周面には全周に亘って内歯22Aが形成され、旋回駆動装置5の出力軸12の先端に形成されたピニオン12Aと噛合している。一方、外輪23は、上部旋回体3の旋回フレーム3Aの下面側にボルト26(1個のみ図示)を用いて固定されている。また、各転動体24には例えば鋼球が用いられ、さらに、内輪22と外輪23との間の隙間27には潤滑油が注入されており、各転動体24の摩擦および摩耗を低減している。
【0033】
また、隙間27は内輪22の外周面と外輪23の内周面との間に全周に亘って形成されている。隙間27は、内輪22および外輪23の下側において下向きに開口しており、この開口した部分が下側開口部27Aであり、当該下側開口部27Aは、後述するシール部材29によりシールされている。また、隙間27は、内輪22および外輪23の上側において上向きに開口しており、この開口した部分が上側開口部27Bであり、当該上側開口部27Bは、後述するシール部材34によりシールされている。
【0034】
次に、図4において、28は内輪22の外周面のうち外輪23の下面23Aよりも下側に位置する部位に全周に亘って形成された凹溝であるシール溝を示す。即ち、内輪22外周面の上部から中間部にかけては外輪23内に位置しているものの、内輪22外周面の下部は外輪23内から下向きに突き出し、外輪23外に露出している。シール溝28は、内輪22の外周面のうち、この外輪23外に露出した下側部位に形成されている。
【0035】
29はシール溝28内に取り付けられ、内輪22と外輪23との間の隙間27の下側開口部27Aをシールするシール部材である。シール部材29は、隙間27に粉塵が侵入するのを防止し、かつ、隙間27内に注入された潤滑油の漏洩を防ぐダストシールとして機能する。シール部材29は、例えば合成樹脂材料、ゴム材料等の可撓性材料(弾性材料)、具体的にはNBR(ニトリルブタジエンラバー)により形成されている。なお、シール部材29の材料として、ACM(アクリルゴム)、FKM(フッ素ゴム)等を用いることもできる。また、シール部材29は、シール溝28に取り付ける前の状態においては1本の長尺体である。そして、シール部材29をシール溝28に取り付けるときには、シール部材29をシール溝28の周方向における湾曲に沿うように環状に変形させつつシール溝28に取り付ける。
【0036】
また、シール部材29は内径側がシール溝28に挿入される挿入部30となると共に外径側が内輪22と外輪23との間の隙間27をシールするリップ部31となり、挿入部30には後述するシール固定部材33を嵌め込む嵌込溝部32が形成されている。
【0037】
挿入部30は図4に示すように、シール溝28に挿入された状態において内輪22の内径側に位置する内側面30Aと、内輪22の外径側に位置する外側面30Bと、シール溝28の上面に接触する上側面30Cと、シール溝28の下面に接触する下側面30Dとを有し、横断面矩形状に形成されている。また、挿入部30の長さ寸法は例えばシール溝28の周方向の長さとほぼ等しい。
【0038】
一方、リップ部31は挿入部30の外側面30B上部において径方向外側に延びる鍔状体として形成されている。即ち、挿入部30をシール溝28に挿入したとき、リップ部31は、挿入部30の外側面30B上部から外輪23に向けて突出し、リップ部31の先端部が外輪23の下面23A外周側に接触する。また、リップ部31は、挿入部30の全長に亘って長さ方向に延設され、挿入部30をシール溝28に挿入したときには、リップ部31により隙間27の下側開口部27Aをその全周に亘って閉塞することができる。
【0039】
また、嵌込溝部32は図6または図7に示すように、挿入部30の外側面30B(外径側周面)に位置し、リップ部31の下側において開口し、挿入部30の全長に亘って長さ方向に延びている。即ち、挿入部30がシール溝28に挿入された状態において、嵌込溝部32は挿入部30の外側面30Bに開口し、挿入部30の全周に亘って延びている。
【0040】
また、図5に示すように、嵌込溝部32の断面形状は例えば菱形状であり、嵌込溝部32の開口部は、嵌込溝部32の菱形状の内部空間部32Aに比して狭幅の抜け止め部32Bとなっている。抜け止め部32Bは、後述のシール固定部材33を嵌込溝部32に対し着脱するときに弾性変形することによりシール固定部材33の嵌込溝部32に対する着脱を許す。一方、抜け止め部32Bは、図4に示すように、シール固定部材33が嵌込溝部32に嵌め込まれた後は元の形状に復元しまたは復元しようとすることにより、シール固定部材33を嵌込溝部32内において抜け止めする。
【0041】
次に、図4に示すように、33はシール部材29の嵌込溝部32に嵌め込まれ、シール部材29の挿入部30をシール溝28に固定するシール固定部材である。シール固定部材33は、図8に示すように、樹脂材料、ゴム材料等の可撓性材料により長尺体として形成され、図9に示すように、シール部材29をシール溝28に固定するときには、シール固定部材33を嵌込溝部32の周方向における湾曲に沿うように環状に変形させて嵌込溝部32に嵌め込む。また、シール固定部材33は、図4に示すように、シール部材29の嵌込溝部32に嵌め込んだときに挿入部30を拡張する方向に弾性変形させ、シール部材29の挿入部30をシール溝28に押し付けるものであって、シール部材29よりも硬質な可撓性材料により形成されている。
【0042】
ここで、例えば、シール固定部材33の材料として、上述したシール部材29と同様にNBR,ACM,FKM等を用いることができる。この場合、シール部材29のゴム硬度が例えばHs70であるときには、シール固定部材33のゴム硬度を例えばHs90程度とすることが望ましい。また、シール固定部材33の長さ寸法は例えばシール部材29の長さ寸法とほぼ等しく、また、シール固定部材33の直径寸法は、シール固定部材33を嵌込溝部32に嵌め込むことにより嵌込溝部32を押し広げて挿入部30をシール溝28に押し付けることができること等を考慮して決定される。
【0043】
なお、図3において、内輪22の上面外周側に形成された凹溝には、内輪22と外輪23との間の隙間27の上側開口部27Bをシールするダストシールとして機能するシール部材34が設けられている。
【0044】
本発明の実施形態による旋回軸受装置21は以上のような構成を有するものであり、次にその作用・効果について述べる。
【0045】
即ち、シール部材29をシール溝28に取り付けるときには、まず、シール部材29の挿入部30を、シール溝28に沿って湾曲させつつシール溝28に挿入する。続いて、シール固定部材33を、シール溝28に挿入された挿入部30の嵌込溝部32に沿って湾曲させつつ嵌込溝部32に嵌め込む。シール固定部材33が嵌込溝部32に入り込むとき、嵌込溝部32の抜け止め部32Bが弾性変形するため、シール固定部材33を嵌込溝部32に嵌め込むのに大きな力を必要としない。
【0046】
そして、シール固定部材33が嵌込溝部32に嵌め込まれた後は、嵌込溝部32がシール固定部材33により押し広げられ、挿入部30が図4中の矢印に示すように拡張する方向に弾性変形し、挿入部30の上側面30Cおよび下側面30Dがシール溝28の上面および下面にそれぞれ押し付けられる。この結果、挿入部30の上側面30Cおよび下側面30Dがシール溝28の上面および下面に強固に密着し、シール部材29がシール溝28に固定される。
【0047】
一方、シール部材29をシール溝28から取り外すときには、長尺なシール固定部材33の端部(切口部分)を持ち、シール部材29の嵌込溝部32からシール固定部材33を順次抜き出す。シール固定部材33が嵌込溝部32から抜け出るとき、嵌込溝部32の抜け止め部32Bが弾性変形するため、シール固定部材33を嵌込溝部32から抜き出すのに大きな力を必要としない。
【0048】
このようにシール固定部材33が嵌込溝部32から抜き出されたことによって、嵌込溝部32が元の形状に復元し、これと同時に挿入部30が元の形状に復元し、挿入部30の上側面30Cおよび下側面30Dがシール溝28の上面および下面に押し付けられない状態に戻る。この結果、シール部材29をシール溝28から大きな力を要せず容易に抜き出すことができる。
【0049】
以上、説明したとおり、本発明の実施形態である旋回軸受装置21は、シール部材29に嵌込溝部32を形成し、嵌込溝部32にシール固定部材33を嵌め込むことにより、シール部材29をシール溝28に固定する構成を有する。この構成により、シール部材29をシール溝28に取り付けるときには、まずシール部材29の挿入部30をシール溝28に挿入し、次にシール固定部材33をシール部材29の嵌込溝部32に嵌め込むだけでよく、しかも挿入部30を挿入するときにも、シール固定部材33を嵌め込むときにも大きな力を必要としない。一方、シール部材29をシール溝28から取り外すときには、まずシール固定部材33をシール部材29の嵌込溝部32から抜き出し、次にシール部材29をシール溝28から抜き出すだけでよく、しかもシール固定部材33を抜き出すときにも、シール部材29を抜き出すときにも大きな力を必要としない。したがって、シール部材29の交換作業等を容易に行うことができる。
【0050】
また、シール部材29をシール溝28に固定するのに用いる部品は単体の長尺体からなるシール固定部材33のみである。したがって、シール部材29を取り付けるための部品の点数を減らすことができ、旋回軸受装置21の製造コストまたはメンテナンスコストを下げることができる。
【0051】
また、旋回軸受装置21はシール部材29の嵌込溝部32の縁部に抜け止め部32Bを形成し、シール固定部材33を着脱するときには、抜け止め部32Bが弾性変形し、シール固定部材33の嵌込溝部32に対する着脱を許す構成を有する。これにより、シール部材29の取付作業時にはシール固定部材33をシール部材29の嵌込溝部32に容易に嵌め込むことができ、また、シール部材29の取外作業時にはシール固定部材33をシール部材29の嵌込溝部32から容易に取り外すことができる。また、シール固定部材33が嵌込溝部32に嵌め込まれた後は、抜け止め部32Bがシール固定部材33を嵌込溝部32内において抜け止めする。これにより、嵌込溝部32に嵌め込まれたシール固定部材33が、油圧ショベル1の作業時の振動等により嵌込溝部32から抜け出るのを防止することができる。
【0052】
また、シール部材29の挿入部30を長尺体として形成したことにより、シール部材29を容易に製造することが可能になり、また、シール部材29の取扱が容易になる。また、シール固定部材33を長尺体として形成したことにより、シール固定部材33を容易に製造することが可能になり、また、シール固定部材33の取扱が容易になる。
【0053】
なお、上述した実施形態では、シール部材29を長尺体として形成する場合を例に挙げたが、シール部材29を環状に形成してもよい。また、固定部材24も長尺体ではなく環状体としてもよい。
【0054】
また、上述した実施形態では、本発明の旋回軸受装置が適用される建設機械として油圧ショベル1を例に挙げたが、本発明はこれに限らず、油圧クレーン等のような旋回軸受装置を備えた他の建設機械にも適用することができる。また、本発明の旋回軸受装置が適用される建設機械は、自走可能な走行体上に旋回体が設けられている型式の建設機械に限らず、船体または基台上に旋回体が設けられている型式の建設機械でもよい。さらに、本発明は建設機械以外のものに搭載された旋回軸受装置にも適用可能である。
【符号の説明】
【0055】
21 旋回軸受装置
22 内輪
23 外輪
23A 下面
24 転動体
27 隙間
28 シール溝
29 シール部材
30 挿入部
31 リップ部
32 嵌込溝部
32A 内部空間部
32B 抜け止め部
33 シール固定部材

【特許請求の範囲】
【請求項1】
円筒状の内輪と、前記内輪の外周側に設けられた外輪と、前記内輪と前記外輪との間に設けられ前記内輪に対して前記外輪を回転可能に支持する転動体と、前記内輪の外周面のうち前記外輪の下面よりも下側に位置する部位に全周に亘って形成されたシール溝と、内径側が前記シール溝に挿入される挿入部となると共に外径側が前記内輪と前記外輪との間の隙間をシールするリップ部となり、可撓性材料により形成されたシール部材とを備えた旋回軸受装置において、
前記シール部材の挿入部には、当該挿入部の外径側周面に開口し全周に亘って延びる嵌込溝部を形成し、前記嵌込溝部には、前記シール部材を前記シール溝に固定するために前記シール部材よりも硬質な可撓性材料からなるシール固定部材を嵌め込む構成としたことを特徴とする旋回軸受装置。
【請求項2】
前記嵌込溝部の縁部には、当該嵌込溝部の開口部を当該嵌込溝部の内部に比して狭くすることにより前記シール固定部材を抜け止めする抜け止め部を形成したことを特徴とする請求項1に記載の旋回軸受装置。
【請求項3】
前記シール部材は長尺体を環状に変形した状態で前記シール溝に挿入し、前記シール固定部材は長尺体を環状に変形した状態で前記嵌込溝部に嵌め込むことを特徴とする請求項1または2に記載の旋回軸受装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【公開番号】特開2010−190263(P2010−190263A)
【公開日】平成22年9月2日(2010.9.2)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−32853(P2009−32853)
【出願日】平成21年2月16日(2009.2.16)
【出願人】(000005522)日立建機株式会社 (2,611)
【Fターム(参考)】