説明

既存構造物の解体時における浮力対策工法

【課題】地下水圧が作用する既存構造物の耐圧版を残して同既存構造物を解体し新築構造物を構築する場合に、地下水圧の作用による既存耐圧版の浮き上がりを抑止する浮力対策工法を提供する。
【解決手段】地下水圧が作用する既存構造物の少なくとも耐圧版1を残して既存構造物を解体し、既存耐圧版1上に新築構造物を構築する場合に、その解体途中で、既存耐圧版1上に新設杭施工用ケーシング3を地下水圧の水頭よりも高く設置し、ケーシング3を通じて新たにコンクリート杭2を打設し、コンクリート杭2の杭頭部分2aと既存構造物の耐圧版1とを一体的に接合して地下水圧に抵抗させる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は、地下水圧が作用する既存構造物の耐圧版を残して同既存構造物を解体し新築構造物を構築する場合に、地下水圧の作用による既存耐圧版の浮き上がりを抑止する浮力対策工法の技術分野に属する。
【背景技術】
【0002】
地下水圧が作用する既存構造物を解体して新築構造物を構築する場合、その解体途中において、減少した既存構造物の重量よりも地下水圧の方が大きくなり、該地下水圧の浮力により解体途中の既存構造物が浮き上がる問題がある。従来、この解体途中の既存構造物の浮き上がりを抑止する対策工法として、例えば下記の特許文献1には、地下水圧に抵抗する新築基礎を構築した後、該新築基礎に新設の地下躯体を構築して地下水圧よりも重量を大きくした状態を保ちつつ、既存の地下躯体及び既存の地上躯体を解体していく技術が開示されている。
【0003】
また、特許文献2に開示された浮力対策工法は、逆打ち工法によって構築される新築構造物の浮力対策工法であって、底部が拡径形状のコンクリート杭を打設し、新築構造物の基礎と一体的に接合して引抜き抵抗を高めた構成である。しかし、特許文献2は、逆打ち工法によって構築される新築構造物に作用する地下水圧を抑止する技術であって、既存構造物の解体時に作用する地下水圧を抑止する技術ではない。
【0004】
【特許文献1】特開2004−339816号公報
【特許文献2】特開平8−3986号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
特許文献1に開示された浮力対策工法は、既存構造物を解体しながら新規の構造物を構築していくので、解体した既存構造物の重量が小さくなっても新設構造物の自重荷重で地下水圧の作用に抵抗でき、浮き上がりを抑止することができる。しかし、解体した既存構造物の重量分の新築構造物を順次にバランス良く構築しなければならず、施工方法が制約される。
【0006】
本発明の目的は、地下水圧が作用する既存構造物の耐圧版を残して同既存構造物を解体し、既存耐圧版上に新築構造物を構築する場合に、予め既存耐圧版と一体的に接合される新設のコンクリート杭を打設して、地下水圧の作用による既存耐圧版の浮き上がりを確実に抑止する浮力対策工法を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記従来技術の課題を解決するための手段として、請求項1に記載した発明に係る既存構造物の解体時における浮力対策工法は、
地下水圧が作用する既存構造物の少なくとも耐圧版1を残して同既存構造物を解体し、当該既存耐圧版1上に新築構造物を構築する場合に、その解体途中で、前記既存耐圧版1上に新設杭施工用ケーシング3を地下水圧の水頭よりも高く設置し、前記ケーシング3を通じて新たにコンクリート杭2を打設し、該コンクリート杭2の杭頭部分2aと前記既存構造物の耐圧版1とを一体的に接合して地下水圧に抵抗させることを特徴とする。
【0008】
請求項2記載の発明は、請求項1に記載した既存構造物の解体時における浮力対策工法において、
コンクリート杭2は、前記既存耐圧版1と接合する杭頭部分2aの杭径を他の軸部杭径よりも大きく形成し、又は前記杭頭部分2aの杭径を上方になるにつれて大きく形成し、前記既存耐圧版1との接合を一体的したことを特徴とする。
【0009】
請求項3記載の発明は、請求項1又は2に記載した既存構造物の解体時における浮力対策工法において、
既存耐圧版1は、前記杭頭部分2aとの接合部の面を凹凸状に荒く形成し、前記新設コンクリート杭2との接合を一体化したことを特徴とする。
【0010】
請求項4記載の発明は、請求項1〜3のいずれか一に記載した既存構造物の解体時における浮力対策工法において、
新設杭施工用ケーシング3の外周部にコンクリート7を打設して、同ケーシング3を既存構造物の既存耐圧版1へ固定し、同ケーシング3内へ必要な高さまでコンクリート杭2を打設し、該コンクリート杭2と前記既存耐圧版1との付着抵抗を高めて既存耐圧版1との接合を一体化したことを特徴とする。
【発明の効果】
【0011】
本発明に係る浮力対策工法によれば、既存構造物の解体途中で、既存耐圧版1の開口部4を通じて新設コンクリート杭2を打設し、該コンクリート杭2の杭頭部分2aを前記既存耐圧版1と一体的に接合するので、その後は、既存構造物の重量に勝る地下水圧が既存耐圧版1に作用しても、該地下水圧は新設コンクリート杭2の重量と引抜き抵抗(周面摩擦抵抗)で既存耐圧版1の浮き上がりを確実に抑止することができる。従って、既存構造物は耐圧版1を残して完全に解体し、すべて取り除くことができる。よって、既存耐圧版1上には施工方法を制約されることなく新築構造物を構築できる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0012】
本発明は、地下水圧が作用する既存構造物の耐圧版1を残して同既存構造物を解体し、前記既存耐圧版1上に新築構造物を構築する場合に、その解体途中で、前記既存耐圧版1上に新設杭施工用ケーシング3を地下水圧の水頭よりも高く設置し、前記ケーシング3を通じて新たにコンクリート杭2を打設するので、地下水の噴き出しを懸念することなく、同コンクリート杭2の杭頭部分2aと前記既存構造物の耐圧版1とを一体的に接合して地下水圧に抵抗させることができる。これらの実施例は新設杭施工用ケーシング3の直径が耐圧版1の開口部4の口径よりも大きい場合の例である。
【実施例1】
【0013】
以下に、本発明の実施例、即ち、地下水圧が作用する既存構造物の耐圧版1を残して同既存構造物を解体し、前記既存耐圧版1上に新築構造物を構築する場合の浮力対策工法を、図1〜図6に示した実施例に基づいて説明する。
【0014】
図1は、既存構造物の解体がある程度進み、その残存構造物の重量が未だ地下水圧に勝っている段階で、既存耐圧版1上に新設杭施工用ケーシング3を地下水圧の水頭よりも高く設置し、前記新設杭施工用ケーシング3を通じて新たにコンクリート杭2を打設し、該コンクリート杭2の杭頭部分2aと前記既存耐圧版1とを一体的に接合した状態を概念的に示している。
この場合に、図示は省略したが、地下水圧の作用が予想以上に大きかったり、或いは既存耐圧版1上の重量が意外に小さくなりすぎた場合には、取り壊した既存構造物のコンクリートガラを既存耐圧版1上に敷き詰めて、既存耐圧版1と共に前記コンクリートガラの重量で地下水圧に抵抗させる。或いは既存耐圧版1と共に既存構造物の一部を残して実施してもよい。
【0015】
前記新設コンクリート杭2の施工手順は、先ず、既存耐圧版1上に新設杭施工用ケーシング3を地下水圧の水頭よりも高く設置する。もっとも前記新設杭施工用ケーシング3を設置する以前に、又は予め設置した新設杭施工用ケーシング3を通じて、前記既存耐圧版1をコアドリル等の掘削機で削孔し、前記新設杭施工用ケーシング3の内径よりも少し小さい開口部4を形成する。そして、新設杭施工用ケーシング3及び前記既存耐圧版1の開口部4を通じて、例えば公知技術のアースドリル工法、リバース工法などにより、前記既存耐圧版1の開口部4の口径よりも少し小さめの直径の杭孔を地盤に掘削する。しかる後に、該掘削孔内へ杭用鉄筋籠(図示は省略)を設置し、トレミー管を用いてコンクリートを既存耐圧版1の上面よりも少し高い位置Aまで打設する。したがって、新設コンクリート杭2は、既存耐圧版1と接合する杭頭部分2aの杭径を他の軸部杭径よりも大きく形成するので、新設コンクリート杭2と既存耐圧版1とを特に引抜き力に抵抗するように強固に接合して一体化を図ることができる(請求項2記載の発明)。
【0016】
なお、新設コンクリート杭2の杭頭部分2aは、図2に示すように、厚さ範囲内で直径が大小に異なる段部を形成して一体化させ、既存耐圧版1の上面から突出させない構成として実施することもできる。この場合に、図3に示すように、新設コンクリート2の杭頭部分2aの杭径を上方になるにつれて大きく形成して、前記既存耐圧版1との強固な接合の一体化を図る構成で実施することもできる(請求項2記載の発明)。因みに、図2及び図3に示した新設コンクリート杭2と既存耐圧版1との接合構造は、新設杭施工用ケーシング3を設置する以前に、既存耐圧版1の開口部4を予め図示した形状に削孔することで簡易に施工することができる。
【0017】
従って、本発明に係る浮力対策工法によれば、既存構造物の重量に勝る地下水圧が既存耐圧版1に作用しても、該地下水圧は新設コンクリート杭2の重量及び引抜き抵抗(周面摩擦抵抗)で既存耐圧版1の浮き上がりを確実に抑止することができる。よって、既存構造物は耐圧版1を残して完全に解体しすべて取り除くことができ、既存耐圧版1上には施工方法を制約されることなく新築構造物を構築できる。このとき、前記新設コンクリート杭2と既存耐圧版1の接合部分及び新設杭施工用ケーシングは新規の耐圧版としてその中へ埋め殺すことができる。
【0018】
因みに、図4に示すように、新築構造物の鉄骨柱(構真柱)5を逆打ち工法によって施工し、前記新設コンクリート杭2の重量及び引抜き抵抗と共に、新築構造物の重量も作用させて地下水圧による既存耐圧版1の浮き上がりをより確実に抑止させた構成で実施することもできる。なお、図4中の符号6は、新築構造物の荷重を新設杭施工用ケーシング3へ伝達するための補強材である。
【実施例2】
【0019】
図5と図6は、既存耐圧版1の開口部4の口径とほぼ同径の新設杭施工用ケーシング3を使用した実施例を示している。
図5に示す実施例は、主に、既存耐圧版1の重量が比較的大きいかったり、或いは地下水圧の作用が比較的小さい場合に好適に実施される。本実施例の既存耐圧版1は、新設コンクリート杭2と既存耐圧版1との強化な接合の一体化を図るために、新設コンクリート杭2の杭頭部分2aとの接合部の面4を凹凸状に荒く形成している(請求項3記載の発明)。
【0020】
図6に示す実施例は、新設杭施工用ケーシング3の外周部にケーシング押さえコンクリート7を打設して、新設杭施工用ケーシング3を既存構造物の既存耐圧版1へ固定していることが特徴である。同ケーシング3内へ必要な高さまでコンクリート杭2を打設して、該新設コンクリート杭2と前記既存耐圧版1との付着抵抗を高めて、強固な一体化を図る構成で実施している(請求項4記載の発明)。
【0021】
もちろん、上記図4の実施例と同様に、新築構造物の鉄骨柱(構真柱)5を逆打ち工法によって施工し、前記新設コンクリート杭2の引抜き抵抗と共に、新築構造物の重量を作用させて、地下水圧による既存耐圧版1の浮き上がりをより確実に抑止させる構成で実施することもできる。この場合に、図6で示した実施例の押さえコンクリート7が、新設躯体や新設耐圧版を構築する際の邪魔になるような場合には、新築構造物の鉄骨柱(構真柱)5を施工して、該鉄骨柱(構真柱)重量を新設杭施工用ケーシング3へ直接伝えた後に、前記押さえコンクリート7を除去してもよい。
【0022】
以上に本発明を図示した実施例に基いて説明したが、もちろん、本発明の技術的思想は上記実施例の限りではない。本発明の要旨、技術的思想を逸脱しない範囲で、当業者が通常行う設計変更ないし応用変形を含めて、多様に実施することができる。
【図面の簡単な説明】
【0023】
【図1】実施例1の新設コンクリート杭と既存耐圧版との接合状態を示した縦断面図である。
【図2】実施例1の新設コンクリート杭と既存耐圧版との異なる接合状態を示した縦断面図である。
【図3】実施例1の新設コンクリート杭と既存耐圧版との異なる接合状態を示した縦断面図である。
【図4】新設コンクリート杭に新設構造物の鉄骨柱を建て込んだ接合状態を示した断面図である。
【図5】実施例2の新設コンクリート杭と既存耐圧版との接合状態を示した縦断面図である。
【図6】実施例2の新設コンクリート杭と既存耐圧版との異なる接合状態を示した縦断面図である。
【符号の説明】
【0024】
1 既存耐圧版
2 新設コンクリート杭
2a 新設コンクリート杭の杭頭部分
3 新設杭施工用ケーシング
7 ケーシング押さえコンクリート

【特許請求の範囲】
【請求項1】
地下水圧が作用する既存構造物の少なくとも耐圧版を残して同既存構造物を解体し、当該既存耐圧版上に新築構造物を構築する場合に、その解体途中で、前記既存耐圧版上に新設杭施工用ケーシングを地下水圧の水頭よりも高く設置し、前記ケーシングを通じて新たにコンクリート杭を打設し、該コンクリート杭の杭頭部分と前記既存構造物の耐圧版とを一体的に接合して地下水圧に抵抗させることを特徴とする、既存構造物の解体時における浮力対策工法。
【請求項2】
コンクリート杭は、前記既存耐圧版と接合する杭頭部分の杭径を他の軸部杭径よりも大きく形成し、又は前記杭頭部分の杭径を上方になるにつれて大きく形成して、前記既存耐圧版との接合を一体化したことを特徴とする、請求項1に記載した既存構造物の解体時における浮力対策工法。
【請求項3】
既存耐圧版は、前記杭頭部分との接合部の面を凹凸状に荒く形成し、前記新設コンクリート杭との接合を一体化したことを特徴とする、請求項1又は2に記載した既存構造物の解体時における浮力対策工法。
【請求項4】
新設杭施工用ケーシングの外周部にコンクリートを打設して、同ケーシングを既存構造物の既存耐圧版へ固定し、同ケーシング内へ必要な高さまでコンクリート杭を打設し、該コンクリート杭と前記既存耐圧版との付着抵抗を高めて既存耐圧版との接合を一体化したことを特徴とする、請求項1〜3のいずれか一に記載した既存構造物の解体時における浮力対策工法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【公開番号】特開2007−177410(P2007−177410A)
【公開日】平成19年7月12日(2007.7.12)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−374164(P2005−374164)
【出願日】平成17年12月27日(2005.12.27)
【出願人】(000003621)株式会社竹中工務店 (1,669)
【Fターム(参考)】