説明

既知の薬理活性化合物の新たな用途

本発明は、血管の弾力性を改善する必要がある対象の血管の弾力性、特に動脈の弾力性をin vivoで治療的に改善するための医薬製剤または食品もしくは栄養補助食品を製造するための、アルファケトグルタル酸、そのアミドおよび塩、並びにそれらの混合物の新たな使用に関する。血管の弾力性の改善は、高血圧、肺動脈の高血圧、循環器疾患、網膜血管疾患、心不全、アテローム性動脈硬化症、心室肥大、脳卒中、動脈瘤、腎不全、腎硬化症、および高血圧関連疾患の治療/予防に用いることができよう。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、既知の薬理活性化合物の新たな使用に関する。より詳細には、本発明は、対象における血管の弾力性、特に動脈の弾力性をin vivoで治療的に改善させるための医薬製剤または食品もしくは栄養補助食品を製造するための、アルファケトグルタル酸、そのアミドおよび塩、およびそれらの混合物の新たな使用に関する。
【背景技術】
【0002】
胃の手術
西欧諸国における糖尿病の着実な増加に伴い、死亡率を低下させ、病的状態を改善する手段としての侵襲形の体重減少の可能性は、ますます魅力的になってきた。特に、非手術的方法の成功率が肥満患者で5%またはそれ以下であるとのNIHの声明が1992年に出されたので、ある者は侵襲形が減量の唯一の許容される形であると推奨するだろう。胃バイパス法は、過剰体重の最大70%の減少をもたらし、10〜14年間の長期間の減量が持続することを示した。
【0003】
最近、Coatesとその同僚は、胃バイパス法のような侵襲法は骨格の健康に影響があるらしいことを報告した。胃バイパス術を受けた25人の患者の研究において、骨代謝回転のマーカーが有意に上昇し、骨ミネラル密度が腰転子(hip trochanter)において低下した。
【0004】
胃バイパス術は、病的肥満にみられる一般的な問題である高血圧を低下させるのに有用であることも知られている。高血圧(bp > 160/90 mmHg)と登録された67人の病的肥満患者の追跡調査において、胃バイパス術は44人の個体(66%)における手術前の高血圧を解決することが示された。
病気における血管の弾力性
【0005】
かなり前から、血管の弾力性、特に動脈の弾力性は、病的状態の高血圧および関連病状に関与することが分かっている。大動脈の硬さは、非高血圧対象における高血圧の進行の独立した予想因子であること、すなわち、大動脈の硬さは他の知られた危険因子とは独立した高血圧を発現させる危険因子であることがわかった(Dernellis and Panaretou、Hypertension. 2005;45:426-431.)。網膜血管疾患は、高血圧性網膜症による、すなわち全身性高血圧によって生じるかもしれない。
【0006】
肺性高血圧 (PH)は、まとめて肺血管系として知られる肺動脈、肺静脈、または肺毛細血管の血圧の増加であり、息切れ、めまい、失神、および労作により悪化する他の症状をもたらす。原因に応じて、肺性高血圧は、運動耐容能の顕著な低下を伴う重症疾患になることがあり、右心不全を生じうる。肺動脈高血圧症(WHOグループI)は、肺に繋がる血管および肺内の血管の拘縮または血管収縮を伴う。これは、心臓が肺に血液を送り出すのを困難にする。やがて、罹患血管は、線維症として知られるプロセスで、より硬く、肥厚するようになる。これはさらに肺内の血圧を増加させ、肺の血流を損なう。さらに、心臓の作業負荷の増加は右心室肥大を引き起こし、右心室不全に進行することがある。
【0007】
動脈瘤は、血管壁の疾患または脆弱化により生じる血管の局所的な血液が充満した拡張(バルーン様の膨らみ)である。動脈瘤は、最も一般的には脳基底部の動脈(ウィリス輪)や大動脈(心臓から出て行く主動脈)(いわゆる、大動脈瘤)に生じる。血管の膨らみは破裂し、常に疾患や死をもたらしうる。動脈瘤がより大きくなると、いっそう破裂しやすくなる。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
高血圧、肺性高血圧、心室肥大、および動脈瘤の治療(薬物的および外科的)は存在するが、依然として、より有効で、副作用が少なく、そして/または費用対効果がよい改良された治療が必要である。
【課題を解決するための手段】
【0009】
今回、本発明者は、肥満個体の動脈の柔軟特性が胃の手術後に変化することを示した。バイパス手術は、骨格系にみられるのと同様に動脈の構造に影響を与え、弾力性や強度に悪影響を及ぼし、栄養摂取に変化を与える。しかしながら、これら悪影響に対する有効な治療法は報告されていない。したがって、胃の手術のこれらの悪影響を予防する要求が満たされていないことがわかった。さらに、同じ治療が、血管の弾力性を改善する必要性がある他の対象、例えば高齢対象に使用しうることもわかった。
【0010】
すなわち、本発明は、血管の弾力性を改善する必要がある対象における血管の弾力性を改善するための医薬製剤または食品もしくは栄養補助食品を製造するための、以下からなる群から選ばれる少なくとも1のメンバーの使用を提供する:
a) アルファケトグルタル酸 (AKG);
b) アルファケトグルタル酸の医薬的に許容される塩;
c) アミノ酸、ジペプチドもしくはトリペプチド、およびアルファケトグルタル酸のアミド、およびその医薬的に許容される塩;および
d) アルファケトグルタル酸、またはその医薬的に許容される塩、および少なくとも1のアミノ酸、またはその医薬的に許容される塩の医薬的に許容される物理的混合物。
【0011】
血管は好ましくは動脈である。
【0012】
ある態様において、対象は、高血圧、肺動脈の高血圧、循環器疾患、網膜血管疾患、心不全、アテローム性動脈硬化症、心室肥大、脳卒中、動脈瘤、腎不全、腎硬化症、または高血圧関連疾患の治療および/または予防を必要とする。
【0013】
ある態様において、本発明は、栄養失調関連病状の個体、胃の手術を受けた個体、または高齢の個体の血管の弾力性および強度に対する悪影響を治療するための医薬製剤または食品もしくは栄養補助食品を製造するための、アルファケトグルタル酸 (AKG)、アルファケトグルタル酸の医薬的に許容される塩、アミノ酸、ジペプチドもしくはトリペプチド、およびアルファケトグルタル酸のアミド、およびその医薬的に許容される塩、ならびにアルファケトグルタル酸またはその医薬的に許容される塩、および少なくとも1のアミノ酸の医薬的に許容される物理的混合物からなる群から選ばれる少なくとも1のメンバーの使用に関する。さらなる態様によれば、胃の手術は、胃バイパス術、胃切除術、部分胃切除術、または胃バンディング術である。
【0014】
さらなる態様によれば、アルファケトグルタル酸またはそのアルカリもしくはアルカリ土類金属塩、またはその組み合わせを用いる。
【0015】
本発明のある態様によれば、アルファケトグルタル酸ナトリウムを用いる。別の態様によれば、アルファケトグルタル酸カルシウムを用いる。
【0016】
さらなる態様によれば、患者に投与する該物質の用量は、1〜1000mg/kg、10〜400、または10〜100mg/kg体重/日である。
【0017】
本発明の別の局面では、有効量の、以下からなる群から選ばれる少なくとも1のメンバーを血管の弾力性を改善する必要がある対象に投与することを含む、血管の弾力性を改善する必要がある対象の血管の弾力性を改善するための治療方法を提供する:
a. アルファケトグルタル酸 (AKG);
b. アルファケトグルタル酸の医薬的に許容される塩;
c. アミノ酸、ジペプチドもしくはトリペプチド、およびアルファケトグルタル酸のアミド、およびその医薬的に許容される塩;および
d. アルファケトグルタル酸またはその医薬的に許容される塩、および少なくとも1のアミノ酸またはその医薬的に許容される塩の医薬的に許容される物理的混合物。
【0018】
該方法の血管は、好ましくは動脈である。
【0019】
処置を施す対象は、高血圧、肺動脈の高血圧、循環器疾患、網膜血管疾患、心不全、アテローム性動脈硬化症、心室肥大、脳卒中、動脈瘤、腎不全、腎硬化症または高血圧関連疾患の治療および/または予防を必要としていることがある。
【0020】
本発明では、驚くべきことに、アルファケトグルタル酸(AKG)、アルファケトグルタル酸の医薬的に許容される塩;およびアミノ酸、ジペプチドもしくはトリペプチド、およびアルファケトグルタル酸のアミド、およびその医薬的に許容される塩;ならびにアルファケトグルタル酸またはその医薬的に許容される塩、および少なくとも1のアミノ酸またはその医薬的に許容される塩の医薬的に許容される物理的混合物は、胃の手術を受けた個体の血管の弾力性および強度に対する悪影響をin vivoで治療的に処置するのに用い得ることがわかった。さらなる態様によれば、胃の手術は、胃バイパス術、胃切除術、部分胃切除術、または胃バンディング術である。
【0021】
さらなる態様において、本発明は、胃の手術を受けた個体の血管の弾力性および強度に対する悪影響の治療方法であって、有効量の、以下からなる群から選ばれる少なくとも1のメンバーをそのような治療または予防を必要とする対象に投与することを含む方法に関する:アルファケトグルタル酸 (AKG)、アルファケトグルタル酸の医薬的に許容される塩;アミノ酸、ジペプチドもしくはトリペプチド、およびアルファケトグルタル酸のアミド、およびその医薬的に許容される塩;およびアルファケトグルタル酸またはその医薬的に許容される塩、および少なくとも1のアミノ酸の医薬的に許容される物理的混合物。
【0022】
さらなる態様によれば、胃の手術は、胃バイパス術、胃切除術、部分胃切除術、または胃バンディング術である。
【0023】
さらなる態様において、本発明は、栄養失調関連病状の個体または高齢の個体の血管の弾力性および強度に対する悪影響の治療方法であって、有効量の、以下からなる群から選ばれる少なくとも1のメンバーをそのような治療または予防を必要とする対象に投与することを含む方法に関する:アルファケトグルタル酸 (AKG)、アルファケトグルタル酸の医薬的に許容される塩;アミノ酸、ジペプチドもしくはトリペプチド、およびアルファケトグルタル酸のアミド、およびその医薬的に許容される塩;およびアルファケトグルタル酸またはその医薬的に許容される塩、および少なくとも1のアミノ酸の医薬的に許容される物理的混合物。
【0024】
さらなる態様によれば、アルファケトグルタル酸または、そのアルカリもしくはアルカリ土類金属塩または、その組み合わせを用いる。
【0025】
本発明のある態様によれば、アルファケトグルタル酸ナトリウムを用いる。別の態様によれば、アルファケトグルタル酸カルシウムを用いる。
【0026】
さらなる態様によれば、本発明の方法を用いて患者に投与する該物質の用量は、1〜1000mg/kg、10〜400、または10〜100mg/kg体重/日である。
【0027】
本発明を好ましい態様、実施例、および添付の図面を用いて以下にさらに説明する。
【図面の簡単な説明】
【0028】
【図1】AKG (+AKG)またはビークル(-AKG)を投与したバイパス(B)および偽手術ラット(S)の大動脈切片から得た弾性反跳(recoil)記録を示す。記録は、A/Dコンバーターに取り付けた力変換器に1,000試料/sのサンプリング速度で行った。各点は、平均±SEを表す。平均間の有意差は、a & d = p<0.05およびb = p<0.01、c = p=0.01である。4群に割り当てた動物は以下の通りである:B-AKG n=6、B+AKG n=11、S-AKG n=12、およびS+AKG n=12。
【図2】一連の伸張および弛緩周期にさらした大動脈切片の典型的実験出力記録を示す。適用した最大伸張は、ラット大動脈で測定されたものの約0.14%であった(範囲13〜14kPa)。第2および第3周期の線の傾斜と比較した第1伸張/弛緩周期の線の傾斜に注意のこと。この傾斜は、大動脈切片に固有の弾性反跳(手動で適用した張力の約16%)を示す。この範囲の明確に反復された伸張/弛緩周期は、弾性力の低下をもたらす。
【図3】なし
【図4】第1伸張シリーズ:コントロールおよび(A) Na-AKGならびに(B) Ca-AKG処置マウスの大動脈切片からの弾性反跳記録を示す。記録は、A/Dコンバーターに取り付けた力変換器に1,000試料/sのサンプリング速度で行った。各点は平均±SEを示す。平均間の有意差は、a = P<0.05、およびb = P<0.01、c = P<0.001である。3群に割り当てた動物はすべてn = 6であった。
【図5】第2伸張シリーズ:コントロールおよび(A) Na-AKGならびに(B) Ca-AKG処置マウスの大動脈切片からの弾性反跳記録を示す。記録は、A/Dコンバーターに取り付けた力変換器に1,000試料/sのサンプリング速度で行った。各点は平均±SEを示す。平均間の有意差は、a = P<0.05、およびb = P<0.01、c = P<0.001である。3群に割り当てた動物はすべてn = 6であった。
【0029】
(詳細な説明)
本発明の目的は、血管の弾力性を改善する必要がある対象の血管の弾力性を改善するのに用いることができる有効で安全な治療方法を提供することである。好ましい態様において、弾力性が改善される血管は動脈であるが、静脈、毛細血管、小静脈、および細動脈の弾力性も本発明により改善することもできよう。
【0030】
高血圧および肺動脈の高血圧と血管の弾力性、特に動脈の弾力性との関連性が確立されているので、血管の弾力性を改善するために提供された処置は、高血圧および肺動脈の高血圧を治療および/または予防するための医薬の製造に用いることができる。同様に、高血圧は、循環器疾患、網膜血管疾患、心不全、脳卒中、アテローム性動脈硬化症、腎不全、腎硬化症、および他の疾患の原因因子であることが知られている。同様の肺動脈の高血圧は、右心室肥大の原因因子であることが知られている。すなわち、血管の弾力性を改善する提供された処置は、高血圧および肺動脈の高血圧が原因因子または危険因子である該疾患および病状、並びに高血圧および肺動脈の高血圧が原因因子または危険因子である他の疾患および病状を治療および/または予防するための医薬の製造に用いることができる。提供される処置は血管の弾力性が損なわれることが分かっている他の病状を治療および/または予防するための医薬の製造にも用いることができよう。
【0031】
本発明のさらなる態様は、胃の手術から生じた血管の弾力性および強度に対する悪影響の効果的かつ安全な治療法を提供する。
【0032】
本発明に関連して種々の文法的な形の用語「治療(処置)」とは、治療する病状の悪影響を予防し、治癒し、逆転させ、減弱させ、軽減し、改善し、阻害し、最小化し、抑制し、または止めることをいう。
【0033】
本発明の文脈において胃の手術に関連して用語「悪影響(負の影響)」とは、胃の手術後にみられる血管の能力、例えば動脈の弾力性および/または強度に対する悪影響をいう。例えば、動脈の弾力性の低下が胃バイパス術後にみられる。
【0034】
用語「栄養失調」は、不適切または不十分な食事、典型的には、栄養の不適切な摂取、吸収不良、または過剰な損失により生じる病状を意味する。
【0035】
栄養失調に関連するある種の病状は、適切な食事にも関わらずみられる。例えば、消化管機能は、高齢または他の病気により損なわれることがある。そのような場合は、消化不全は、例えば、胃、小腸、膵臓などの自身の消化酵素の産生欠如または不適切な産生;不適切な胆汁産生;不適切な胃pH(HCl産生障害);または他の原因によることがある。加齢、食事(例えばグルテン不耐性)または疾患による繊毛の破壊による繊毛アトロフィーは、吸収障害による栄養失調の直接原因であり得る。腸細菌の過剰増殖または欠損が関与する病状も栄養失調の原因でありうる。栄養失調のさらなる原因、例えば腸癌、外科手術、毒素、遺伝的、循環的(血液およびリンパ)な問題、拒食症などがある。とにかく、栄養失調および栄養失調関連病状は、悪液質および生命機能の低下をもたらす。
【0036】
本発明の文脈において用語「高齢(老齢)」は、生物(例えばヒト)の加齢変性が顕性化し始める実年齢を意味する。ヒトの場合、高齢は40歳以上、好ましくは50歳以上、より好ましくは60歳以上、最も好ましくは65歳以上であると定義することができよう。
【0037】
「血管の弾力性が改善する」とは、血管の弾力性がより大きくなること、すなわち血管の硬さがより少なくなることを意味する。該用語は、血管の張力が増大することも含む。
【0038】
本発明に関連して含まれる胃の手術の例には、限定されるものではないが、胃バイパス術、胃切除術、部分胃切除術、および胃バンディング術が含まれる。
【0039】
すなわち、本発明のある局面は、血管の弾力性を改善するための、例えば、高血圧、肺動脈の高血圧、循環器疾患、網膜血管疾患、心不全、アテローム性動脈硬化症、心室肥大、脳卒中、動脈瘤、腎不全、腎硬化症、および高血圧関連疾患を治療および/または予防するための、医薬製剤または食品もしくは栄養補助食品を製造するための、アルファケトグルタル酸およびその医薬的に許容される塩;アルファケトグルタル酸、およびアミノ酸またはジペプチドもしくはトリペプチドのアミド、およびその医薬的に許容される塩;アルファケトグルタル酸またはその医薬的に許容される塩、および少なくとも1のアミノ酸またはその医薬的に許容される塩の医薬的に許容される物理的混合物からなる群から選ばれる少なくとも1のメンバーの新たな用途を提供する。
【0040】
好ましい態様において、該医薬製剤は動脈の弾性力の改善を目指すものである。
【0041】
ある態様において、該医薬製剤は胃の手術を受けた対象に向けられる。
【0042】
ある態様において、該医薬製剤は栄養失調関連病状に罹患した対象に向けられる。
【0043】
ある態様において、該医薬製剤は高齢対象に向けられる。
【0044】
本発明のある態様によれば、アルファケトグルタル酸または、そのアルカリもしくはアルカリ土類金属塩または、その組み合わせを用いる。
【0045】
好ましくは、アルファケトグルタル酸ナトリウムを用いる。さらにより好ましくは、アルファケトグルタル酸カルシウムを用いる。アルファケトグルタル酸ナトリウムは、腸内投与後速やかに吸収され、より高いピーク血中濃度になるが、アルファケトグルタル酸カルシウムは腸内投与後の吸収が緩やかで、効果がより持続する。実施例2は、アルファケトグルタル酸カルシウムがある条件下でアルファケトグルタル酸ナトリウムより効果が高いことを示す。
【0046】
さらなる局面において、本発明は、血管の弾力性を改善するための、例えば高血圧、肺動脈の高血圧、循環器疾患、網膜血管疾患、心不全、アテローム性動脈硬化症、心室肥大、脳卒中、動脈瘤、腎不全、腎硬化症、および高血圧関連疾患を治療および/または予防するための方法であって、そのような治療または予防を必要とする対象に、有効量の、アルファケトグルタル酸およびその医薬的に許容される塩、アルファケトグルタル酸およびアミノ酸またはジペプチドもしくはトリペプチドのアミド、およびその医薬的に許容される塩、アルファケトグルタル酸またはその医薬的に許容される塩および少なくとも1のアミノ酸またはその医薬的に許容される塩の医薬的に許容される物理的混合物からなる群から選ばれる少なくとも1のメンバーを投与することを含む方法に関する。
【0047】
ある態様によれば、対象は、胃の手術を受けているか、栄養失調関連病状に罹患しているか、または高齢である。
【0048】
これらの局面のある態様によれば、アルファケトグルタル酸またはそのアルカリもしくはアルカリ土類金属塩、またはその組み合わせを投与する。好ましくは、アルファケトグルタル酸ナトリウムを投与する。より好ましくは、アルファケトグルタル酸カルシウムを投与する。
【0049】
本発明に従って用いる活性要素(単数または複数)の医薬製剤は、哺乳動物および鳥を含む脊椎動物、例えば齧歯類、例えばマウス、ラット、モルモット、またはウサギ;鳥、例えば七面鳥、雌鳥または雛鳥および他のブロイラーおよび放し飼い(free going)動物;乳牛、ウマ、ブタまたは子ブタ、および他の家畜、イヌ、ネコおよび他のペット、および特にヒト、に投与することができよう。
【0050】
投与は、治療する脊椎動物種、該方法を必要とする脊椎動物の病状、および治療する具体的適応に応じて異なる方法で行ってよい。
【0051】
ある態様において、固形食品および/または飲料の形の食品もしくは栄養補助食品、例えばダイエットサプリメントおよび/または成分として投与される。さらなる態様は、さらに下記のサスペンジョンまたは溶液、例えば飲料であってよい。また、形式は、カプセルまたは錠剤(例えばチュアブルまたは可溶性錠、例えば発泡錠)、および粉末、および当業者に知られた他の乾燥形式、例えばペレット、例えばマイクロペレット、および薬粒であり得る。
【0052】
投与は、上記のような非経口、直腸、または経口食品もしくは栄養補助食品としてでありうる。非経口ビークルには、塩化ナトリウム溶液、リンゲルデキストロース、デキストロース、および塩化ナトリウム、乳酸加リンゲル、または固定油が含まれる。
【0053】
食品および栄養補助食品は乳化させてもよい。次に、活性治療成分(単数または複数)を、医薬的に許容される、活性成分と適合性の賦形剤と混合することができよう。適切な賦形剤は、例えば水、生理食塩水、デキストロース、グリセロール、エタノールなど、およびそれらの混合物である。さらに、所望により、該組成物は、活性成分の効果を増強する、少量の補助物質、例えば湿潤剤もしくは乳化剤、pH、緩衝剤を含むことができる。
【0054】
非経口食品または栄養補助食品の異なる形式、例えば固形食品、液体、または凍結乾燥もしくは他の乾燥製剤で供給することができる。それには以下のものが含まれよう:種々の緩衝剤(例えばTris-HCl、酢酸塩、リン酸塩)の希釈物、pHおよびイオン強度、添加物、例えば表面への付着を抑制するアルブミンもしくはゼラチン、界面活性剤(例えば、Tween 20、Tween 80、Pluronic F68、胆汁酸塩)、可溶化剤(例えば、グリセロール、ポリエチレングリセロール)、抗酸化剤(例えばアスコルビン酸、メタ重亜硫酸ナトリウム)、保存料(例えばチメロサール、ベンジルアルコール、パラベン)、増量物質もしくは張性調節剤(例えばラクトース、マンニトール)、ポリマー、例えばポリエチレングリコールの該組成物との共有結合、金属イオンとの錯体形成、または物質のポリマー化合物、例えばポリ乳酸、ポリグリコール酸、ハイドロゲルなどの粒子調製物内または上、もしくはリポソーム、ミクロエマルジョン、ミセル、単層状もしくは多層状ベジクル、赤血球ゴースト、またはスフェロプラスト上への物質の取り込み。
【0055】
ある態様において、食品もしくは栄養補助食品は、本発明のあらゆる方法で、飲料もしくはその乾燥組成物の形で投与される。
【0056】
飲料には、有効量の活性成分もしくはその成分を、栄養的に許容される水溶性担体、例えば無機質、ビタミン、炭水化物、脂肪、およびタンパク質と一緒に含む。飲料が乾燥形で提供される場合は、これら成分はすべて乾燥形で供給される。摂取する準備が整って提供される飲料はさらに水を含む。最終飲料溶液は、例えば上記段落の全般的示唆にしたがって緩衝溶液として、張力や酸性度も調節されよう。
【0057】
pHは、細菌や真菌の増殖を抑制するため、好ましくは約2〜5、特に約2〜4の範囲である。滅菌飲料はpH約6〜8を用いてもよい。
【0058】
飲料は、単独で、または1またはそれ以上の治療的有効組成物と組み合わせて供給することができよう。
【0059】
さらなる態様によれば、経口および直腸で使用する薬剤としての医薬製剤は、活性成分(単数または複数)を、本発明に開示する方法および用途に有用な、医薬的に許容される担体および/または添加剤、例えば希釈剤、保存料、可溶化剤、乳化剤、アジュバント、および/または担体と混合して含む、錠剤、ローゼンジー剤、カプセル剤、粉末剤、液体もしくは油状サスペンジョン、シロップ、エリキシル、水性溶液などの形でありうる。
【0060】
さらに、本明細書で用いている「医薬的に許容される担体」は当業者によく知られており、限定されるものではないが、0.01〜0.05Mリン酸緩衝液または0.8%生理食塩水が含まれよう。さらに、そのような医薬的に許容される担体は、水性もしくは非水性溶液、サスペンジョン、およびエマルジョンであってよい。非水性溶媒の例には、プロピレングリコール、ポリエチレングリコール、植物油、例えばオリーブ油、および注射可能有機エステル、例えばオレイン酸エチルがある。水性担体には、水、アルコール/水性溶液、エマルジョン、またはサスペンジョン(生理食塩水および緩衝媒質を含む)がある。非経口的ビークルには、塩化ナトリウム溶液、リンゲルデキストロース、デキストロース、および塩化ナトリウム、乳酸加リンゲル、または固定油が含まれる。抗菌剤、抗酸化剤、キレート剤、不活性ガスなどの保存料および他の添加剤も存在しうる。
【0061】
アミノ酸、ジペプチドもしくはトリペプチド、およびアルファケトグルタル酸のアミドにおいて、ジペプチドやトリペプチドを形成するアミノ酸(単数または複数)は、天然のペプチドの成分として生じるあらゆるアミノ酸でありうる。それは、アルファケトグルタル酸またはその塩と少なくとも1のアミノ酸の医薬的に許容される物理的混合物に適用される。好ましくは、アミノ酸(単数または複数)はアルギニン、オルニチン、ロイシン、イソロイシン、およびリジンからなる群から選ばれる。
【0062】
該アミノ酸は好ましくはL型を用いる。
【0063】
アルファケトグルタル酸とアミノ酸またはジ-またはトリペプチドとのアミドの例には、限定されるものではないが、アルファケトグルタル酸と、グルタミン、グルタミン酸、アルギニン、オルニチン、リジン、プロリン、イソロイシン、およびロイシンからなる群から選ばれるアミノ酸とのアミド、ならびにグルタミン酸、アルギニン、オルニチン、リジン、プロリン、イソロイシン、およびロイシンのいずれかとグルタミンとのジペプチド、ならびにアルギニン、オルニチン、リジン、プロリン、イソロイシン、およびロイシンのいずれかとグルタミン酸とのジペプチドと、アルファケトグルタル酸とのアミドからなる群から選ばれるアルファケトグルタル酸とアミノ酸とのアミドが含まれる。
【0064】
アルファケトグルタル酸またはその塩と少なくとも1のアミノ酸との物理的混合物の実施例には、限定されるものではないが、アルファケトグルタル酸、およびそのナトリウム、カリウム、カルシウム、およびマグネシウム塩とグルタミン、グルタミン酸、アルギニン、オルニチン、ロイシン、イソロイシン、リジン、およびプロリンのいずれか、および該アミノ酸のあらゆる組み合わせとの物理的混合物が含まれる。
【0065】
該物理的混合物のアルファケトグルタル酸またはその塩とアミノ酸(単数または複数)の分子比は、一般に1:0.01〜1:2、好ましくは1:0.1〜1:1.5、最も好ましくは1:0.2〜1:1.0の範囲内であろう。
【0066】
投与する用量は、用いる活性要素(単数または複数)、治療する病状、治療する患者の年齢、性別、体重などによって異なるが、一般的に1〜1000mg/kg体重/日、または10〜400mg/kg体重/日、好ましくは10〜100mg/kg体重/日の範囲内であろう。
【0067】
上記態様は互いに自由に組み合わせてよい。すなわち、上記および特許請求の範囲に記載の詳細および事項は、本発明のあらゆる他の態様に準用する。本発明を開示した態様について説明したが、当業者は、具体的に記載していないが特許請求の範囲内にある他の態様、変化、または組み合わせを予測することができよう。
【0068】
本明細書に記載のすべての引用文献は本明細書の一部を構成する。
【0069】
本明細書で用いている用語「含む(comprising)」は、記載した事項を含むがそれに限定されないと理解すべきである。
【0070】
本発明を実施例によりさらに説明するが、これにより本発明の範囲が限定されるものではない。
【実施例1】
【0071】
本発明は、1)ラットの食道と十二指腸をつなぐバイパス術の動脈の弾力性に対する影響、2)血圧とそのような手術の長期間の関連、および3)バイパス術によって生じる動脈の弾力性のあらゆる変化の逆転に対するAKG摂取のあらゆる有益な効果に取り組むことを目的とする。
動物および大動脈調製
【0072】
Department of Comparative Physiology、Lund Universityの動物施設に収容された成雄Sprague Dawleyラットを用いた。動物を12/12明周期の同じ条件下で飼育し、体重は479±5gであった。ラットに自由に齧歯類用ペレットを与え(Altromin no.1314 Spezialfutterwerke、Lage、Germany)、自由給水とした。ラットを、バイパス術、AKG (B-AKG)なし(n=6);バイパス術、AKG (B+AKG)あり (n=11);偽手術、AKGなし(S-AKG) (n=12);偽手術、AKGあり(S+AKG) (n=12)にグループ分けした。
【0073】
ラットを95%CO2に暴露し、頸椎脱臼によりと殺した。ラットは、地域および国の指針に従ってと殺した。
【0074】
右および左総腸骨動脈前の腹部大動脈の切開部分を注意深くきれいにし、付着組織を除去した。大動脈を約6〜9mm片(静止時直径3〜4mm)に切り、次いで各片の一方の末端を力変換器に、他方を一部説明したようにマウンティングブロック上に金属ピンにしっかり取り付けた (Harrison et al. Reprod Fertil Dev. 1997;9(7):731-40、Harrison and Flatman Am J Physiol. 1999 Dec;277(6 Pt 2):R1646-53)。大動脈片の重量は8-25mg (中央値14.32mg)の範囲であり、平均直径は3.75±0.08mmであった。
【0075】
大動脈切片を酸素化、サーモスタットで調節した、内部の深さと直径が各5.5および3.2 cmで、NaCl 136.91、KCl 2.68、Na2HPO4 8.08、およびNaH2PO4 1.66(mM)を含む44mLのリン酸緩衝生理食塩水(0.15 M PBS、pH 7.4)を入れたチャンバー(37℃)中に浸した。力を、8S PowerLab A/D Converter (ADInstruments、Chalgrove、Oxfordshire、UK)に接続した自作ブリッジ増幅器につないだFTO3力置換変換器(Grass Instrument、West Warwick、RI)を用いて測定した。該変換器は機能範囲0〜0.05kg、信頼力(reliable force)2mg(機能範囲の0.004%と等価)であった。PowerLab 8S A/DコンバーターをiBook G4に接続し、Chart5 v.5.4 Software (AD Instruments、Australia)で操作した。データの記録はサンプリング速度40.000データサンプル/秒(40 KHz)であり、増幅器の入力インピーダンスは200MΩ差であった。
力の測定
【0076】
大動脈切片を垂直にトリプリケートでつるした。記録した信号は、プリアンプ装置に取り付けたオフセットダイアルを用いて非伸張大動脈切片についてゼロに調整した。次に、各大動脈を、最終最大張力が0.49N(FT03 Grass Force変換器を用いて測定)が達成されるまで張力を約5段階で増加した(各工程は約0.09Nである)。この最終張力レベルは、大動脈切片で記録された生理学的最大力に近いものではない。次に、大動脈切片を完全に弛緩させ、次いでさらにもう2回、張力の段階的増加を反復した。次に、大動脈切片を取り出し、計量した。1000データ試料/secの記録速度を用いた。
【0077】
張力の段階的増加直後に、大動脈組織はある程度の弾性反跳を示したので記録トレースの非常にわずかな下降がみられた。記録トレースのこの下降は時間単位で測定した。
張力の計算
【0078】
LaPlaceの方程式は、中空シリンダーの壁の張力(T)がシリンダーの半径(r)とシリンダーの内側の流れにより生じる該壁への圧(p)に正比例すること(例えばT=p x r)を前提とする。大動脈切片の壁内の圧が手動伸張の結果として力変換器により記録されるものと等価であるということを前提にすると、そのような張力の増加を生じる圧は、LaPlaceの方程式と各大動脈切片の測定した半径を用いて計算することができる。
統計分析
【0079】
データは平均±SEで表す。平均間の差は、対応のあるstudent t-検定を用いて統計的有意差を試験し、さらにGaussian正規分布についてさらに試験した。データは、正規分布し、同じ分散を有することがわかった。P値>0.05を示す差は有意でないと考えた。
結 果
張力および圧の測定
【0080】
典型的には、大動脈切片を、完全に伸張させるときには張力約0.034N (0.49N最大張力/14.32mg中央値組織wt.)/mg湿重量に暴露した。すなわち、LaPlaceの方程式と平均大動脈半径1.87mmを用いて、生じた圧は0.018 kPaのオーダーであった。そのような圧の増加は、ヒト動脈で典型的にみられるもの(10kPa)の0.18 %、ラットで測定されるもの(13〜14 kPa)の約0.14% (Carroll et al. 2006;Duka et al. 2006)であった。
張力の平均手動段階増加は0.09N (4.95 x 10-3 N/mg湿重量)を生じ、大動脈切片は典型的には手動適用張力の約16%を示す値である0.015Nで反跳することがわかった。
偽手術コントロールラット
【0081】
コントロールの大動脈の弾力性は、バイパス手術ラットより有意に高かった(P=0.007;それぞれB-AKG群とS-AKG群について1.9 x 10-7±0.2 x 10-7 N ms-1 mg-1湿重量対4.9 x 10-7±0.8 x 10-7 N ms-1 mg-1)。AKG摂取はコントロール群のこの現象に効果がなかった(P=0.44)。
バイパス手術ラット
【0082】
AKG摂取および非摂取いずれも、バイパス手術ラットではコントロールラットより大動脈の弾性力は低かった(それぞれB+AKG群およびS-AKG群についてP=0.037; 3.1 x 10-7±0.4 x 10-7 N ms-1 mg-1湿重量対4.9 x 10-7±0.8 x 10-7 N ms-1 mg-1湿重量)。AKG摂取はバイパス手術ラットで有意な効果があり、動脈の弾性力をコントロールラットとバイパス手術ラット(B-AKG)の間のレベルに増加させた(P=0.047;それぞれB-AKG群およびB+AKG群について、1.9 x 10-7±0.2 x 10-7 N ms-1 mg-1湿重量対3.1 x 10-7±0.4 x 10-7 N ms-1 mg-1湿重量(図1参照))。
伸張シリーズ
【0083】
試験したすべての動脈において、最初の伸張シリーズ(例えば、伸張、次いで弛緩の適用)は、張力の引き続く適用下で弾力性の低下をもたらした。この効果を、血圧の突然の増加に伴って生じると予期される一種の損傷と比較した(図2参照)。
考 察
【0084】
この試験結果は、バイパス術が動脈の弾性力に悪影響があることを明確に示す。さらに、我々の知るところでは、そのような外科手術が動脈の弾性力の劇的な変化をもたらすことを示したのはこれが最初である。同様の変化は、血圧の突然の上昇と同程度の伸張をもたらすことも示す。
バイパス術
【0085】
この実験のバイパス手術ラットは、肥満していないか、または他に偽手術コントロールラットと異なる違いはなかった。両群を手術したので、外科手術に関連するあらゆるストレスは両群とも共通であった。しかしながら、該群は、食道と十二指腸をつなぐバイパス術に関して異なった。このタイプのバイパス術は、胃と十二指腸のほとんどを、胃(近位部から)、膵臓、胆汁、および十二指腸の分泌を可能にするようにバイパスするRoux-en-Yの胃バイパス術と比較されるかもしれない。これは、現在、病的肥満の治療法として肥満手術を選択する時の最も一般的な方法である (Adrian et al 2003)。
【0086】
胃バイパス術は、食物摂取を制限して肥満を抑制すると思われる。この効果は、全く明確にみられる(Coates et al 2004、Cowan and Buffington 1998、Fernstrom et al 2006)が、生理学的結果も考慮する必要がある。
【0087】
胃は、食物の貯蔵庫として働き、食物の機械的分解を行う以外に消化と分泌の場所でもある。食物が胃に入るときは、唾液の消化酵素がまだ働いている段階である。消化のこの相が欠如すると特にデンプンの分解が影響を受けるだろう。これはエネルギーの減少をもたらすが、致命的であったり、消化に大きな問題をもたらすことはないはずである。これは、一般に食物粒子の機械的分解についても言えるかもしれない。
【0088】
より重度の局面は、胃の分泌が無いことである。ここで重要な成分は、酵素のペプシンとリパーゼ、固有の因子、および塩酸である。ペプシンは、タンパク質の分解に不可欠であり、分泌されたペプシノーゲンからペプシンに活性化させるにはHClが必要である。したがって、胃の欠如は、アミノ酸摂取に重大な結果をもたらし、アミノ酸欠乏を引き起こすかもしれない。この別の局面は、酵素と結合した無機質やビタミンの放出である。微量栄養素が放出されなければ、微量栄養素は消化管に沿ってさらに吸収され得ない。胃からのリパーゼはトリグリセリドを分解するが、これが起こらなくてもトリグリセリドは膵臓由来のリパーゼに出会って、脂肪酸の要求を満たすはずである。
【0089】
十二指腸に入った溶液の酸性度はこの分泌を調節するので、膵臓分泌または胆汁の制御は、胃がなければあまりできないと考えられる。また、胃はいつでも十二指腸に入る食物量を調節する。輸送は、炭水化物、タンパク質、または脂肪の量に依存し、いつでも脂肪は最小量であり、炭水化物は最大量である。このメカニズムは、十分な消化を保証し、腸への移動速度を調節する。バイパス術では、このメカニズムが廃絶され、全般的な消化が危険にさらされる。酸性度の変化と流速の変化により、ある成分の吸収不良や吸収低下が生じることがある。
【0090】
ビタミンB12はタンパク質から放出され、固有因子は胃内に分泌される。固有因子は回腸におけるB12の吸収に不可欠である。ビタミンB12は通常豊富に存在するが、手術後突然にそうではなくなる。ヒトでは、手術後の追跡調査で、ビタミンB12欠乏がバイパス手術患者の70%にみられることも報告されている(Lynch et al.2006、Shah et al 2006)。同じ著者らは、環境の酸性が弱まった時に特にタンパク質からの放出が低下することにより生じる鉄欠乏や、ビタミン欠乏が一部関与すると思われる貧血を報告している。Caおよび葉酸欠乏もバイパス手術後に報告されている(Lynch 2006、Parkes 2006、Shah 2006)。これが十二指腸以外の吸収の悪さによるか、その二つのバイオアベイラビリティの低さによるのかは明らかでない。このラットの試験において、十二指腸は機能すべきであるが、流量およびpHの変化は、分解および腸の残りを通過するすべての栄養素に影響を及ぼし、異なる吸収パターンを示すかもしれない。流量は、腸内への高浸透圧物質の流入にきわめて影響を受けるかもしれない。これは高浸透圧食物の小腸への流れが胃バイパス術を受けた患者の嘔吐で反応する「ダンピング症候群」の原因であるかもしれない(Lynch et al 2006)という仮説により支持される。
【0091】
我々の研究では、手術のストレス作用は、コントロール群の偽手術ラットを用いて考慮される。さらに、手術前に肥満や高血圧のラットはおらず、バイパス手術前には動脈は正常な弾力性を有するものと推測される。
【0092】
ヒトでは、バイパス術後に血圧の低下がみられる(Coates、Buffington 1998、Fernstrom et al 2006、Foley et al 1992,)。これは、おそらく主として体重の減少によるが、一部は代謝やホルモンバランスの変化によるかもしれない。したがって、我々のバイパス手術ラットでは、血圧のわずかな低下や正常血圧に留まることが予期されるので、該ラットにみられる動脈の弾性力の変化は、高血圧によるとはあまり考えられない。
【0093】
手術後、我々の測定値は動脈の弾力性の明らかな低下を示す。
【0094】
今の問題は、手術後に何が起こっているか?何が動脈壁に影響を及ぼすのか?である。Gokce et al (2005)は、体重減少を伴う内皮細胞依存性流量介在性血管拡張の長期改善を報告しており、この改善は、胃バイパス手術患者では薬物療法による体重減少に比べて有意に良好である。手術前に肥満でない我々のラットでは、栄養素への身体の接近の変化および代謝やホルモンバランスの考えられる変化の影響のみを観察した。
【0095】
血圧に影響を与えるかもしれないカルシウムやカリウムのようなカチオンは、高度に荷電タンパク質と結合し、正常濃度より少なく存在するようである。
【0096】
他にも説明があるかもしれない。タンパク質が分解しないか、部分的にしか分解しなければ、アミノ酸が腸に十分に輸送されないだろう。これはタンパク質の代謝回転に影響を与えるはずである。動脈壁では、弾力性の一部は壁の結合組織による。この組織は、いつでも再形成され、損傷されると修復される。再形成もしくは修復に利用可能なアミノ酸の量が不十分ならば、壁はいずれ弾力性を失うだろう。これに加えて別の因子には、消化管から送られるシグナルの差による種々のホルモンバランスの違いがあるかもしれない。これは、胃バイパス術を受けたヒトに見られる骨再吸収の増加と、次いで骨量の減少を伴う骨の代謝回転の増加を生じるものと同じ原因によるかもしれない。理由の一部は、健康な代謝回転に必要なタンパク質を胃バイパス術を受けたラットが消化することができないからかもしれない。骨の高い代謝回転は、再プログラムされたホルモン調節された周期も示す。弾力性が減少すると、弾性繊維の構造や割合が全体的変化をもたらす。
伸張効果
【0097】
血管壁内の液圧Pは、Laplaceの法則に従って定義された、半径rの逆数で割った壁の張力Tおよび外部圧pnに等しい(P = pn + T(1/r))。外部圧および周囲組織からのあらゆる支持を無視して、妥当な大きさの円筒状静脈もしくは動脈のみを処理することを選択すると、該方程式をP = T/rに単純化することができる。さらに、発現する張力は血管壁の厚さ、すなわち血管壁を含む膜および筋組織の量に依存することがよく知られている。すなわち、圧を一定に維持すれば、単純化した方程式は、血管壁の厚さが血管の半径に伴って変化することを予測するだろう。しかしながら、実際には循環系内の圧は一定ではなく、特に摩擦による損失を通して圧は低下する。それにも関わらず、当面はより大きい血管とより小さい血管は、壁厚が血管の大きさに比例する単純化した方程式により決められた規則に従う。
AKG効果
【0098】
ある種のアミノ酸は、腸壁内で代謝されることが知られており、AKGのアミノ酸への優先使用を指摘し、AKG栄養補助食品を用いるとアミノ酸吸収はバイパスラットで増強しうる(AKG不使用バイパス参照)。
結 論
【0099】
本試験の結果は、この種のバイパス手術が動脈の弾性力にかなりの影響を及ぼすことを示唆する。
【0100】
AKG摂取はバイパス手術ラットで動脈の弾性力に対する好ましい効果を有し、これはコントロールではみられない。
【0101】
突然の受動高張力は、コントロールとバイパス手術ラットの両方の動脈の弾性力に持続効果を示し、血管は突然の圧変化をとることができなくなる。
【実施例2】
【0102】
方 法
本試験の目的は、実施例1の試験で観察された効果が胃の手術を受けた対象に限られるか否かを解明することであった。今回、より一般的な理由(すなわち加齢)で動脈の弾力性を増加させる必要があった実験対象について試験した。
地域倫理許可
【0103】
本試験は、Lund UniversityのEthical Review Committee for Animal Experimentsに承認され(Ethical allowance M14-05)、実験動物の保護に関するEuropean Community規則に従って実施した。
動物および大動脈調製
【0104】
雌NMRIマウス(実験開始時50週齢)をDepartment of Cell & Organism Biology、Lund University、Swedenの動物施設で飼育した。該動物は、12/12時間明暗周期の同じ条件下で飼育した。マウスに自由に齧歯類用ペレット(Altromin no.1314 Spezialfutterwerke、Lage、Germany)を与え、不断給水とした。マウスを3群の1つに任意に割り当て、76週齢に達するまで182日間飼育し、その時点で体重は28±7gであった。グループ1のマウスには、齧歯類用ペレットと (2% w/v) Na2-AKG 2 H2O (n=6)を与え、グループ2のマウスには、齧歯類用ペレットと (2% w/v) Ca-AKG H2O (n=6)を与えた。グループ3のマウスには、齧歯類用ペレットのみを与え、コントロール群とした(n=6)。餌に栄養補助食品として与えたAKGのレベルは、マウスの自発的餌摂取量の2%に相当し、これは体重の約10〜15%/日であった。
【0105】
マウスを95%CO2に暴露して麻酔し、頸椎脱臼によりと殺した。右および左総腸骨動脈の前の腹部大動脈の切開部分を注意深くきれいにし、付着組織を除去した。一部説明したように、大動脈を約4.5mm片(静止時の直径は約1mm)に切り、次に各片の一方の末端を力変換器に、他方の末端をマウンティングブロック上の金属ピンにしっかり取り付けた(Harrison et al. Reprod Fertil Dev. 1997;9(7):731-40、Harrison and Flatman Am J Physiol. 1999 Dec;277(6 Pt 2):R1646-53)。大動脈片の重量をほぼ0.01mgまで記録することができるはかりで計量し、平均2.75mgであった。
【0106】
大動脈切片を、酸素化、サーモスタットで調節した、内部の深さと直径が各5.5および3.2 cmで、NaCl 136.91、KCl 2.68、Na2HPO4 8.08、およびNaH2PO4 1.66(mM)を含む44mLのリン酸緩衝生理食塩水(0.15 M PBS、pH 7.4)を入れたチャンバー(37℃)中に浸した。力を、8S PowerLab A/D Converter (ADInstruments、Chalgrove、Oxfordshire、UK)に接続した自作ブリッジ増幅器につないだFTO3力置換変換器(Grass Instrument、West Warwick、RI)を用いて測定した。該変換器は機能範囲0〜0.05kg、信頼力(reliable force)2mg(機能範囲の0.004%と等価)であった。PowerLab 8S A/DコンバーターをiBook G4に接続し、Chart5 v.5.4 Software (AD Instruments、Australia)で操作した。記録したデータはサンプリング速度40.000データサンプル/秒(40 KHz)であり、増幅器の入力インピーダンスは200MΩ差であった。
力の測定
【0107】
大動脈切片を垂直にデュプリケートでつるした。記録した信号は、プリアンプ装置に取り付けたオフセットダイアルを用いて非伸張大動脈切片についてゼロに調整した。次に、各大動脈を、最終最大張力0.49N(FT03 Grass Force変換器を用いて測定)が達成されるまで張力を約5段階で増加した(各工程は約0.09Nである)。この最終張力レベルは、大動脈切片で記録された生理学的最大力に近いものではない。次に、大動脈切片を完全に弛緩させ、次いでさらにもう2回短い間隔で連続して、張力の段階的増加を反復した。次に、大動脈切片を取り出し、計量した。
【0108】
張力の段階的増加直後に、大動脈組織はある程度の弾性反跳を示したので記録トレースの非常にわずかな下降がみられた。記録トレースのこの下降は、Chart v.5.4 Software (AD Instruments、Australia)の一部として利用可能な平均勾配計算を用いて時間をかけて測定した。平均勾配(μg ms-1)は、トレース選択中のデータポイントの時間導関数であり、最適適合の最小二乗線から計算する。
張力の計算
【0109】
LaPlaceの方程式は、中空シリンダーの壁の張力(T)がシリンダーの半径(r)とシリンダーの内側の流れにより生じる該壁への圧(p)に正比例すること(例えばT=p x r)を前提とする。大動脈切片の壁内の圧が手動伸張の結果として力変換器により記録されるものと等価であるということを前提にすると、そのような張力の増加を生じる圧は、LaPlaceの方程式と各大動脈切片の測定した半径を用いて計算することができる。
【0110】
すなわち、各大動脈試料から得られた平均勾配(μg ms−1)の測定値をニュートン(N ms−1)に変換し、次いで試料重量で調整して最終弾性反跳値(N ms-1 mg-1湿重量)を得た。
統計分析
【0111】
データは平均±SEで表す。平均間の差は、一元ANOVAを用いて統計的有意差を試験し、さらにGaussian正規分布についてさらに試験した。データは、正規分布し、同じ分散を有することがわかった。P値>0.05を示す差は有意でないと考えた。
結 果
張力測定
【0112】
典型的には、大動脈切片を、完全に伸張させるときには張力約0.178N (0.49N最大張力/2.75mg中央値組織重量)/mg湿重量に暴露した。すなわち、LaPlaceの方程式と平均大動脈半径1.0mmを用いて、生じた圧は0.178kPaのオーダーであった。
【0113】
張力の平均手動段階増加は0.09N (4.95 x 10-3 N/mg湿重量)を生じ、大動脈切片は典型的には手動適用張力の約16%を示す値である0.015 Nで反跳することがわかった。
コントロールマウス
【0114】
コントロールの大動脈の弾力性は、第1および第2伸張シリーズにおいてそれぞれ3.3 x 10-5±7.8 x 10-7 N ms-1 mg-1湿重量および3.4 x 10-6±9.4 x 10-7 N ms-1 mg-1湿重量であった。反復伸張プロトコールは、弾性反跳の約90%の低下をもたらした(第2対第1シリーズ)(図5)。
Na-AKGマウス(A)
【0115】
Na-AKG摂取により、大動脈切片の弾力性は、第1および第2伸張シリーズにおいてそれぞれ4.3 x 10-5±1.6 x 10-6 N ms-1 mg-1湿重量および3.7 x 10-6±1.1 x 10-6 N ms-1 mg-1湿重量であった。Na-AKG摂取は、コントロールマウスに比べて動脈の弾性力に対する有意な効果も示した(図4)。反復伸張プロトコールは、弾性反跳の約91%の低下をもたらした(第2対第1シリーズ)(図5)。
Ca-AKGマウス(B)
【0116】
Ca-AKG摂取により、大動脈切片の弾力性は、第1および第2伸張シリーズにおいてそれぞれ6.4 x 10-5±2.7 x 10-6 N ms-1 mg-1湿重量および3.8 x 10-6±1.2 x 10-6 N ms-1 mg-1湿重量であった。さらに、Ca-AKG摂取は、コントロールマウスに比べて動脈の弾性力に対する有意な効果も示した(図4)。反復伸張プロトコールは、弾性反跳の約94%の低下をもたらした(第2対第1シリーズ)(図5)。
伸張シリーズおよび動脈の構造安定性
【0117】
試験した動脈すべてにおいて、初期伸張シリーズ(例えば張力の適用、次いで弛緩)は、その後の張力の適用により弾力性の低下をもたらした。この効果は、血圧の突然の上昇を生じると予期される一種の損傷と比較することができよう(図5参照)。
【表1】

考 察
【0118】
この試験の結果は、明らかに高齢マウスにおける動脈の弾性力に対するアルファケトグルタル酸処置の有益な効果を示す。さらに、我々の知るところでは、これは大動脈の硬化を標的とすることができる治療法に関する最初の報告である。
動 物
【0119】
本試験の動物は、高齢ヒト対象と適合する年齢の成体として選んだ。本試験のマウスの大動脈を解剖すると、動脈の沈着物が生じて、大動脈がほぼ白〜半透明に見え、切開後も管状を維持することが明らかであった。
血圧および張力
【0120】
6ヶ月齢またはそれ以上のラットにおいて、腹部大動脈または腸骨動脈もしくは頸動脈のカニューレションにより得られた血圧は平均119mmHg(上限150mmHg、下限92mmHg)と記録された(Durant、1927)。この著者は、6ヶ月齢までは年齢と血圧の相関がみられ、その後は体重がさらに増加するにも関わらずさらなる血圧の上昇は記録されなかった。小齧歯類におけるこの血圧値は安静ヒト対象と非常に近く、収縮期圧は通常120 mmHg (16kPa)である。さらに、本試験の動脈切片にもたらされる圧の増加は、典型的にヒト動脈でみられるものの1.8%、およびラットで測定されたもの(13〜14kPa)の約1.4%を示す(Carroll et al. 2006; Duka et al. 2006)。
【0121】
大動脈中膜は、弾性層板に接線方向に結合する平滑筋細胞のシートを含み、弾性線維とコラーゲン線維の間の力の分布を変化させることによる平滑筋の緊張の変化は硬化のダイナミックな調節や機能的な調節をもたらす(McEniery et al. 2007)。特に、低レベルの動脈圧では大動脈壁内に生じる圧力は主にエラスチン繊維によるものであるが、動脈圧が高レベルになると該圧力は一般により硬いコラーゲン繊維による。すなわち、老化の影響の一つは、低レベルの動脈圧にコラーゲン繊維が関与し、その結果同時に脈圧が増大する。
【0122】
動脈に生じた張力は、血管壁の厚さ、すなわち壁を含む結合組織と筋肉組織の量に依存する。したがって、圧を一定に維持すると、Laplaceの方程式は、血管壁の厚さは血管の半径により変化すると予測するだろう。しかしながら、実際には循環系内の圧は一定ではなく、特に摩擦による損失により低下する。それにも関わらず、当面は、より大きい血管とより小さい血管は、単純化した方程式でLaplaceの法則に従う。Laplaceの方程式は、血管壁内の液圧Pは、半径rの逆数で割った壁の張力Tおよび外部圧pnに等しい(P = pn + T(1/r))。外部圧および周囲組織からのあらゆる支持を無視して、妥当な大きさの円筒状動脈のみを処理することを選択すると、該方程式をP = T/rに単純化することができる。本試験では、大動脈切片を右および左総腸骨動脈の前で腹部大動脈から切除したが、それはLaplaceの法則に従って必要な要求を満たす直径のものである。
動脈の老化
【0123】
生物内の器官、組織、および細胞種に種々の方法で影響を及ぼす老化は、いろいろな意味で速度の異なる機能低下とみなすことができる(Calabresi et al. 2007)。大きな動脈の血管壁には、中膜の硬化および肥厚、ならびに内腔直径の拡大を含む加齢に関連する構造変化が起き(Marin & Rodriguez-Martinez、1999; Dao et al. 2005)、この変化は動脈樹に異種性であることが非常に多い(Hajdu et al. 1990; Moreau et al. 1998; Laurant et al. 2004)。高齢ラットの大動脈では、平滑筋細胞数の修飾、コラーゲン沈着の増加とエラスチンの構造変化が特徴である(Jacob、2003; Dao et al. 2005)。特に、多くの研究が、加齢に伴う平滑筋細胞数の低下(Cliff、1970; Orlandi et al. 1993)、動脈のI型およびIII型コラーゲンの増加、およびエラスチン密度の相対的減少 (Jacob、2003; Dao et al. 2005; Marin、1995)を報告している。
【0124】
本試験において採用された張力法は、第2シリーズの弾性反跳の程度が遙かに弱いことを示したことに注目すべきである(第1シリーズの反復伸張を参照のこと)。この点は、血圧の0.178 kPaの増加と等価な比較的軽度の伸張期に耐える高齢大動脈切片の能力またはその能力の欠如を強調し、際だたせる。したがって、第2伸張は、この環境下では高齢マウスの大動脈切片には存在しないと思われる構造安定性の指標とみることができよう。ヒトでは60歳までに平均的個体は、200億回を超える大動脈の圧力周期を経験し(平均心拍数x年齢) (McEniery et al. 2007)、そのような圧力周期から生じる損傷は、血管壁のエラスチン、コラーゲン、および平滑筋成分を含む速やかな調整と修正を必要とする。本試験において、平滑筋の緊張の調整や、エラスチンやコラーゲン繊維の修復のあらゆる機会の可能性がなく、第1シリーズの伸張後、コントロール大動脈における弾性反跳のほぼ90% (N ms-1 mg-1湿重量)が失われ、同レベルの弾性反跳が第2シリーズでAKG処置マウスにみられたという事実は、脆弱な大血管の反跳がどのように高齢マウスに損傷を与えるかを示唆する。
動脈の弾性反跳およびAKG
【0125】
伝統的降圧剤は、ほぼ平均血圧を低下させる間接効果により動脈の硬化を減少させることが報告されているが、加齢に伴う硬化に対する末梢動脈の相対免疫は、通常、エラスチンの平滑筋およびコラーゲンに対する比がかなり低いことに起因するが、これは他の生物学的プロセス、例えば動脈が自身を再構築する能力を反映しているかもしれない(McEniery et al. 2007)。
【0126】
クレブス回路の速度を決定する中間体であるアルファケトグルタル酸は、細胞エネルギー代謝にきわめて重要な役割を果たす。アルファケトグルタル酸はグルタメートおよびグルタミンの供給源としても機能し、タンパク質合成を刺激し、タンパク質分解を阻害する (Hammarqvist et al.、1991)。コラーゲン代謝に関して、AKGは、コラーゲン三重らせんを形成するために必須の、4-ヒドロキシプロリンの形成を触媒するプロリル-4-ヒドロラーゼの補助因子として働くだけでなく、グルタメートからのプロリンのプールの増加を介してコラーゲン合成にも寄与する (Son et al. 2007)。
【0127】
Na-AKG群に比べてCa-AKG群で効果がよりよいのは、Ca-AKG塩では提供されたAKGのバイオアベイラビリティがより持続することにより説明することができる。Ca塩は、溶解性が2g/100mlであるのに対し、Na-AKGの溶解性は50倍高いので、AKGイオンがゆっくり放出され、腸内腔におけるその出現を調節するよう作用する。すなわち、AKGアニオンは、Na-AKGの形でより急速に利用可能になる。そのような状況では、血中濃度が約10μg/mlを超えると大部分のAKGが単純にエネルギーに変換される。Na-AKGの腸内投与後、AKGの血中レベルは容易に10μg/mlを超えうる。これは、Ca-AKGの腸内投与後にはほとんどまたは全く観察されない。AKGがCa-AKGの形で供給されると、AKGは徐々に長期間にわたり放出され、エネルギーでなくプロリンや他のアミノ酸に変換される時間が多くなる。
【0128】
最近、AKGは、腎臓、精巣、および平滑筋に発現することが現在知られているGタンパク質結合レセプター(CPR99)の天然リガンドであることが確認された(He et al.、2004)。AKGは、Gタンパク質結合レセプターリガンドとしてTCA回路中間体と代謝状態およびタンパク質/コラーゲン合成両方のつながりを形成するかもしれないので、特にこれは本試験においてみられる大動脈壁の弾力性に対してみられた有益な効果の根本原因であることの十分な証拠となるかもしれない。
結 論
【0129】
この試験結果は、AKGは、胃の手術を受けた対象(実施例1)だけでなく、動脈の弾力性が低下した他の対象でも動脈の弾性力を改善するのに有効であることを示唆する。この試験では、対象は高齢齧歯類であったが、これは、通常高齢でもある動脈の弾性力が低下したヒト対象の関連モデルであるとみなされる。
参考文献
【0130】
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【特許請求の範囲】
【請求項1】
血管の弾力性を改善する必要がある対象の血管の弾力性を改善するための医薬製剤または食品もしくは栄養補助食品を製造するための、以下からなる群から選ばれる少なくとも1のメンバーの使用:
a. アルファケトグルタル酸 (AKG);
b. アルファケトグルタル酸の医薬的に許容される塩;
c. アミノ酸、ジペプチドもしくはトリペプチド、およびアルファケトグルタル酸のアミド、およびその医薬的に許容される塩;および
d. アルファケトグルタル酸、またはその医薬的に許容される塩、および少なくとも1のアミノ酸、またはその医薬的に許容される塩の医薬的に許容される物理的混合物。
【請求項2】
血管が動脈である請求項1記載の使用。
【請求項3】
対象が、高血圧、肺性高血圧、網膜血管疾患、心室肥大、または動脈瘤の治療および/または予防を必要とする上記請求項のいずれかに記載の使用。
【請求項4】
対象が胃の手術を受けている上記請求項のいずれかに記載の使用。
【請求項5】
胃の手術が、胃バイパス術、胃切除術、部分胃切除術、または胃バンディング術である請求項4に記載の使用。
【請求項6】
対象が栄養失調関連病状に罹患している上記請求項のいずれかに記載の使用。
【請求項7】
対象が高齢である上記請求項のいずれかに記載の使用。
【請求項8】
アルファケトグルタル酸またはそのアルカリもしくはアルカリ土類金属塩、またはその組み合わせを用いる上記請求項いずれかに記載の使用。
【請求項9】
アルファケトグルタル酸ナトリウムまたはアルファケトグルタル酸カルシウムを用いる請求項8記載の使用。
【請求項10】
患者に投与する該物質の用量が、1〜1000mg/kg体重/日である上記請求項のいずれかに記載の使用。
【請求項11】
患者に投与する該物質の用量が、10〜400mg/kg体重/日である上記請求項のいずれかに記載の使用。
【請求項12】
患者に投与する該物質の用量が、10〜100mg/kg体重/日である上記請求項のいずれかに記載の使用。
【請求項13】
血管の弾力性を改善する必要がある対象に、有効量の、以下からなる群から選ばれる少なくとも1のメンバーを投与することを含む、血管の弾力性を改善する必要がある対象の血管の弾力性を改善するための治療方法:
a. アルファケトグルタル酸 (AKG);
b. アルファケトグルタル酸の医薬的に許容される塩;
c. アミノ酸、ジペプチドもしくはトリペプチド、およびアルファケトグルタル酸のアミド、およびその医薬的に許容される塩;および
d. アルファケトグルタル酸、またはその医薬的に許容される塩、および少なくとも1のアミノ酸、またはその医薬的に許容される塩の医薬的に許容される物理的混合物。
【請求項14】
血管が動脈である請求項13記載の方法。
【請求項15】
対象が高血圧、肺性高血圧、網膜血管疾患、心室肥大、または動脈瘤の治療および/または予防を必要とする請求項13に記載の方法。
【請求項16】
対象が胃の手術を受けている請求項13記載の方法。
【請求項17】
胃の手術が、胃バイパス術、胃切除術、部分胃切除術、または胃バンディング術である請求項16記載の方法。
【請求項18】
栄養失調関連病状に罹患している請求項13のいずれかに記載の方法。
【請求項19】
対象が高齢者である請求項13記載の方法。
【請求項20】
アルファケトグルタル酸、またはそのアルカリもしくはアルカリ土類金属塩または、その組み合わせを投与する請求項13〜19のいずれかに記載の方法。
【請求項21】
アルファケトグルタル酸ナトリウムまたはアルファケトグルタル酸カルシウムを投与する請求項20記載の方法。

【図1】
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【図2】
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【図4】
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【図5】
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【公表番号】特表2010−532348(P2010−532348A)
【公表日】平成22年10月7日(2010.10.7)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−514699(P2010−514699)
【出願日】平成20年6月27日(2008.6.27)
【国際出願番号】PCT/SE2008/050797
【国際公開番号】WO2009/005464
【国際公開日】平成21年1月8日(2009.1.8)
【出願人】(510004457)エントレス・アクチボラゲット (1)
【氏名又は名称原語表記】ENTRESS AB
【Fターム(参考)】