説明

既製コンクリート杭と床版の接合構造

【課題】既製コンクリート杭を、床版を支える柱用途として用いることができる既製コンクリート杭と床版の接合構造を提供する。
【解決手段】既製コンクリート杭12と床版14とを床版14内に設けた接合治具16を介して接合する構造10であって、接合治具16を、既製コンクリート杭12の外周に設けたリング18と、リング18の外周に環状に突設したドーナツ状プレート20と、ドーナツ状プレート20の上面においてリング18の外周に放射状に突設した放射状プレート22とから構成する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、既製コンクリート杭と床版の接合構造に関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来、PHC杭(遠心力高強度プレストレストコンクリート杭)に代表される中空円筒形状の既製コンクリート杭が知られている。既製コンクリート杭は、工場で安価に大量生産できるため、構造物の基礎杭として広く利用されている。このような既製コンクリート杭は、通常、杭頭部に設けた補強鉄筋を介して、構造物の基礎と結合した態様で用いられる。
【0003】
一方、鋼管内にコンクリートを充填した鋼管コンクリート柱と床版(フラットスラブ)の接合構造が知られている(例えば、特許文献1参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特許第3159194号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
ところで、上記の従来の既製コンクリート杭を、そのまま基礎杭用途に用いるだけでなく、基礎の上方の床版を支える柱用途としても用いることができるような既製コンクリート杭と床版の接合技術の開発が望まれていた。
【0006】
本発明は、上記に鑑みてなされたものであって、既製コンクリート杭を、床版を支える柱用途として用いることができる既製コンクリート杭と床版の接合構造を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記した課題を解決し、目的を達成するために、本発明の請求項1に係る既製コンクリート杭と床版の接合構造は、既製コンクリート杭と床版とを前記床版内に設けた接合治具を介して接合する構造であって、前記接合治具は、前記既製コンクリート杭の外周に設けたリングと、前記リングの外周に環状に突設したドーナツ状プレートと、前記ドーナツ状プレートの上面において前記リングの外周に放射状に突設した放射状プレートとからなることを特徴とする。
【0008】
また、本発明の請求項2に係る既製コンクリート杭と床版の接合構造は、上述した請求項1において、前記リングは鋼管であり、前記プレートは鋼板であることを特徴とする。
【0009】
また、本発明の請求項3に係る既製コンクリート杭と床版の接合構造は、上述した請求項1または2において、前記既製コンクリート杭を、地下から立ち上がる構真柱として用いることを特徴とする。
【0010】
また、本発明の請求項4に係る既製コンクリート杭と床版の接合構造は、上述した請求項1〜3のいずれか一つにおいて、前記既製コンクリート杭は、PHC杭であることを特徴とする。
【発明の効果】
【0011】
本発明によれば、既製コンクリート杭と床版とを前記床版内に設けた接合治具を介して接合する構造であって、前記接合治具は、前記既製コンクリート杭の外周に設けたリングと、前記リングの外周に環状に突設したドーナツ状プレートと、前記ドーナツ状プレートの上面において前記リングの外周に放射状に突設した放射状プレートとからなるので、既製コンクリート杭と床版とを接合治具で一体的に接合することができる。このため、既製コンクリート杭を、床版を支える柱用途として用いることができるという効果を奏する。
【図面の簡単な説明】
【0012】
【図1】図1は、本発明に係る既製コンクリート杭と床版の接合構造の実施例を示す透視斜視図である。
【図2】図2は、本発明に係る既製コンクリート杭と床版の接合構造の実施例を示す断面図である。
【図3】図3は、放射状プレートがない場合の力の伝達を説明する図である。
【図4】図4は、放射状プレートがある場合の力の伝達を説明する図である。
【図5】図5は、構真柱の施工状況を説明する断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0013】
以下に、本発明に係る既製コンクリート杭と床版の接合構造の実施例を図面に基づいて詳細に説明する。なお、この実施例によりこの発明が限定されるものではない。
【0014】
図1および図2に示すように、本発明に係る既製コンクリート杭と床版の接合構造10は、中空円筒形状のPHC杭12(既製コンクリート杭)と床版14とを、床版14内に埋め込んだ接合治具16を介して接合した構造である。床版14は、フラットプレート構造の鉄筋コンクリートからなる。
【0015】
接合治具16は、PHC杭12の外周に設けた鋼管18(リング)と、鋼管18の外周に環状に突設した鋼製のドーナツ状プレート20と、ドーナツ状プレート20の上面において鋼管18の外周に放射状に突設した鋼製の放射状プレート22とからなる。
【0016】
放射状プレート22は、鉛直面を有する矩形状の平板であって、その高さは床版14内に収まるように床版14の厚さよりも若干小さくしてある。PHC杭12と接合治具16の鋼管18とは、溶接接合、機械式継手接合等の一般的な杭継手で接合してある。
【0017】
鋼管18は、PHC杭12の外径と略等しい径の薄肉のものである。なお、PHC杭12の外周に鋼管18を設ける代わりに、SC杭(外殻鋼管付きコンクリート杭)を既製コンクリート杭および鋼管18として使用してもよい。
【0018】
上記の構成において、床版14からの鉛直荷重は、接合治具16の放射状プレート22およびドーナツ状プレート20を介して鋼管18に伝わり、鋼管18を介してPHC杭12に伝達される。
【0019】
このように、PHC杭12と床版14とを接合治具16により一体的に接合することで、従来、基礎を支える基礎杭としてしか使用することが難しかったPHC杭のような既製コンクリート杭を、床版を支持する柱用途として利用することが可能となる。また、このPHC杭のような既製コンクリート杭を、地下から立ち上がる構真柱として利用することも可能となる。このように、安価なPHC杭を構真柱として用いることで、鉄骨柱と場所打ち杭とにより構築される従来の一般的な構真柱に比べてコストダウンを図ることができる。
【0020】
次に、本発明の接合構造による力の伝達特性について図3および図4に基づいて説明する。
【0021】
図3に示すように、放射状プレートがない構成の場合には、ドーナツ状プレート20のみが床版14からの鉛直荷重を負担し、その根元に作用する曲げモーメントによって鋼管18に反力の曲げモーメントMを生じさせる。このため、鋼管18は、鉛直荷重の反力Rに加えて、反力の曲げモーメントMによる応力度σを負担する必要がある。
【0022】
一方、図4に示すように、本発明のように放射状プレート22がある構成の場合には、床版14からの鉛直荷重はドーナツ状プレート20に加えて、放射状プレート22で負担することになり、鋼管18に生じさせる反力の曲げモーメントはMである。この曲げモーメントMは、図3の放射状プレート22がない場合と同じ大きさである。
【0023】
反力の曲げモーメントMによる応力度σは、曲げモーメントの作用する断面の高さの2乗に反比例することから、放射状プレート22がある場合には、放射状プレート22がない場合に比べてσは小さくなる。この場合、鋼管18の肉厚を小さくすることが可能となる。
【0024】
次に、本発明の接合構造に用いるPHC杭を、建物の構真柱として利用する場合の施工方法について図5に基づいて説明する。
【0025】
図5に示すように、埋め込み工法にてPHC杭12の建て込みを行う場合には、まず、地盤2に杭埋め込み用の掘削孔24を築造する。このとき、杭の支持力を増すために孔下端に大径の拡大球根部26を形成する。このため、掘削孔壁径としては、拡大球根部26の上方の標準部28と拡大球根部26の2種類の径を設定する。
【0026】
ここで、PHC杭12と、地下に構築予定の床版14との接合部分には接合治具16を設けるため、この部分の径は、PHC杭12の外径より若干大きくなる。埋め込み杭を施工する場合の掘削孔径は、PHC杭12の径より200〜300mm程度大きくするのが一般的であるので、PHC杭12の径からの接合治具16の出っ張りが100mm程度の場合は、掘削孔径を標準部28より大きくする必要はないが、100mm程度を超える場合は、接合治具16より上部30の孔壁径は、この出っ張りを考慮して標準部28より拡大した孔径に設定する。
【0027】
そして、PHC杭12の建て込みを行って地盤2内に構真柱を構築し、地上から地盤2内の掘削を進めて接合治具16の位置に床版14を構築する。この場合、PHC杭12と床版14とは、接合治具16を介して一体的に接合するようにする。
【0028】
なお、接合治具16は、PHC杭12の外周に現場溶接で取り付けてもよい。接合治具16を現場溶接で取り付ければ、掘削孔24に建て込んだPHC杭12のレベルの調整作業は比較的容易である。
【0029】
上記の実施の形態において、既製コンクリート杭としてPHC杭を用いる場合について説明したが、PHC杭に限るものではなく、RC杭(鉄筋コンクリート杭)やPC杭(プレストレストコンクリート杭)などのその他の既製コンクリート杭を用いてもよい。このようにしても、本発明と同一の作用効果を奏することができる。
【0030】
以上説明したように、本発明によれば、既製コンクリート杭と床版とを前記床版内に設けた接合治具を介して接合する構造であって、前記接合治具は、前記既製コンクリート杭の外周に設けたリングと、前記リングの外周に環状に突設したドーナツ状プレートと、前記ドーナツ状プレートの上面において前記リングの外周に放射状に突設した放射状プレートとからなるので、既製コンクリート杭と床版とを接合治具で一体的に接合することができる。このため、既製コンクリート杭を、床版を支える柱用途として用いることができる。
【産業上の利用可能性】
【0031】
以上のように、本発明に係る既製コンクリート杭と床版の接合構造は、既製コンクリート杭を基礎杭としてだけではなく、床版を支持する柱として利用するのに有用であり、特に、地下から立ち上がる構真柱として利用するのに適している。
【符号の説明】
【0032】
10 既製コンクリート杭と床版の接合構造
12 PHC杭(既製コンクリート杭)
14 床版
16 接合治具
18 鋼管(リング)
20 ドーナツ状プレート
22 放射状プレート
24 掘削孔
26 拡大球根部
28 標準部
30 上部

【特許請求の範囲】
【請求項1】
既製コンクリート杭と床版とを前記床版内に設けた接合治具を介して接合する構造であって、
前記接合治具は、前記既製コンクリート杭の外周に設けたリングと、前記リングの外周に環状に突設したドーナツ状プレートと、前記ドーナツ状プレートの上面において前記リングの外周に放射状に突設した放射状プレートとからなることを特徴とする既製コンクリート杭と床版の接合構造。
【請求項2】
前記リングは鋼管であり、前記プレートは鋼板であることを特徴とする請求項1に記載の既製コンクリート杭と床版の接合構造。
【請求項3】
前記既製コンクリート杭を、地下から立ち上がる構真柱として用いることを特徴とする請求項1または2に記載の既製コンクリート杭と床版の接合構造。
【請求項4】
前記既製コンクリート杭は、PHC杭であることを特徴とする請求項1〜3のいずれか一つに記載の既製コンクリート杭と床版の接合構造。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【公開番号】特開2011−226098(P2011−226098A)
【公開日】平成23年11月10日(2011.11.10)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−95056(P2010−95056)
【出願日】平成22年4月16日(2010.4.16)
【出願人】(000002299)清水建設株式会社 (2,433)
【Fターム(参考)】