説明

日常生活動作における動作に対する生理的反応の動態

被験者の日常生活動作(ADL)における、動作に対する生理的反応(PRA)を用いて、被験者に関する有益な診断情報を生成する。この生成には、インパルス応答テンプレート等のテンプレートを使用する。本手法は、心臓機能監視装置等の、植込み式装置、他の外来用医療監視装置、又は治療用装置をともに用いることができる。また、ローカルインターフェイス装置やリモートインターフェイス装置とともに用いることができる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、被験者の日常生活動作における動作に対する生理的反応を用いて、被験者についての有益な診断情報等を生成する装置に関する。
【背景技術】
【0002】
うっ血性心不全(CHF)とは、心臓による血液循環が妨げられる疾病である。CHFは一般的な疾病であるが、障害を引き起こし、大きな犠牲をもたらす疾病である。CHFは薬剤を用いて治療することができるが、心臓再同期治療(CRT)等を行うための植込み式の心臓機能管理装置を用いる場合もある。慢性の安定心不全患者に急性の代償不全が起こり、入院が必要となる場合もある。従って、CHF患者等の患者の心臓の状態を監視することは、急性代償不全及び入院を防止するために効果的である。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0003】
本願の発明者は、CHF状態等の診断における診断指標の向上の必要性に着目した。本明細書は、被験者の日常生活動作(ADL)における動作に対する生理的反応(PRA)を用いて、例えば被験者についての有益な診断情報を生成する方法について記載する。
【0004】
CHF患者においては、動作に対する生理的反応の動態が遅くなる。このことは、検査室にて実証可能である。例えば、ある患者に対して初めは低レベルの身体動作を実行させて、生理的なプロセスが経時的に適度に安定するまでその動作を維持させる。次に、例えばその患者をトレッドミル上にて運動させることにより動作レベルを急に上げると、心拍、収縮、1回拍出量、又は呼吸活動(1回換気量、呼吸速度、呼吸によりもたらされる換気量等)等の生理的反応が起こるが、CHF患者は、この生理的反応がCHFを患っていない人に比べて遅い。PRAの動態が遅いのは、CHF患者の心臓機能が低下していることと関連する。しかし、上記のようなテストを実施するのは容易ではない。動作の変化に対する生理的反応の動態の遅延は、心臓に対する制約の深刻度とほぼ比例するとされている。動態の遅延が、息切れ、運動の制約、及び疲労等の患者の容態の一因となっている場合もある。本明細書は、患者の日常生活動作における動作及び生理的反応の両方を継続的に監視することにより、動作の変化に対する生理的プロセスの動態反応を判断するための装置及び方法に関する。後述するように、このような装置及び方法においては、インパルス応答テンプレート等のテンプレートを使用して、反応動態が判断される。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本発明の第1の実施例は、動作センサ回路を含む装置に関する。動作センサは、被験者の日常生活動作における同被験者の身体動作を示す動作信号を受信する。本装置は、被験者の日常生活動作における、前記動作信号とは異なる併発的な実際の生理反応信号を受信する生理センサ回路を含む。装置は、近似生理反応信号を生成する信号処理回路を備える。この生成には、少なくとも1つの特性パラメータを含むテンプレートと動作信号とをコンボリューションして近似生理反応信号を生成すること、及び近似生理反応信号からの情報と実際の生理反応信号からの情報とを比較して少なくとも1つの特性パラメータを決定することを含む。信号処理回路は、使用者又はプロセスに対して少なくとも1つの特性パラメータから情報を提供する。
【0006】
本発明の実施例2は、動作センサ回路が、加速度信号を含む動作信号を受信する加速度計を有し、併発的な実際の生理反応信号を受信することが、心拍、間隔信号、及び呼吸信号の少なくともいずれかを受信することを含む実施例1に記載の装置に関する。
【0007】
本発明の実施例3は、信号処理回路が近似生理反応信号を生成することが、近似生理反応信号と実際の生理反応信号との間の差異を減少又は最小化させるために、反復的に近似生理反応信号を生成することを含む実施例1又は2に記載の装置に関する。
【0008】
本発明の実施例4は、信号処理回路が時間領域から周波数領域への変換回路を含み、信号処理回路が動作信号とテンプレートとをコンボリューションすることが、動作信号の周波数領域表現とインパルス応答テンプレートの周波数領域表現とを乗算することを含む実施例1乃至3のいずれかに記載の装置に関する。
【0009】
本発明の実施例5は、信号処理回路が動作信号とテンプレートとをコンボリューションすることが、動作信号とインパルス応答テンプレートとをコンボリューションすることを含む実施例1乃至4のいずれかに記載の装置に関する。
【0010】
本発明の実施例6は、信号処理回路が動作信号とテンプレートとをコンボリューションすることが、時間の指数関数を含む時間領域インパルス応答テンプレートを用いることを含み、少なくとも1つの特性パラメータが指数関数のスケーリング定数及び指数関数の時定数の少なくともいずれかを含む実施例1乃至5のいずれかに記載の装置に関する。
【0011】
本発明の実施例7は、信号処理回路が前記少なくとも1つの特性パラメータを経時的にトレンド把握し、トレンド把握された特性パラメータを用いて被験者の診断を提供する実施例1乃至6のいずれかに記載の装置に関する。
【0012】
本発明の実施例8は、少なくとも1つの特性パラメータが時定数を含み、信号処理回路が、トレンド把握された時定数が経時的に増加したときに心臓状態の悪化を示す診断を提供する実施例1乃至7のいずれかに記載の装置に関する。
【0013】
本発明の実施例9は、少なくとも1つの特性パラメータがスケーリング定数を含み、信号処理回路が、トレンド把握されたスケーリング定数が経時的に減少したときに変時性不全の悪化を示す診断を提供する実施例1乃至8のいずれかに記載の装置に関する。
【0014】
本発明の実施例10は、少なくとも1つの特性パラメータがスケーリング定数を含み、信号処理回路が、トレンド把握されたスケーリング定数が経時的に増加したときに心臓状態の悪化を示す診断を提供する実施例1乃至9のいずれかに記載の装置に関する。
【0015】
本発明の実施例11は装置可読媒体に関する。実施例11は、実施例1乃至10のいずれとも組み合わせることができる。本装置可読媒体は、装置により実行された際に、被験者の日常生活動作における同被験者の身体動作を示す動作信号を受信することと、被験者の日常生活動作における、動作信号とは異なる併発的な実際の生理反応信号を受信することと、近似生理反応信号を生成することと、を含む命令を含む。近似生理反応信号を生成することは、動作信号と少なくとも1つの特性パラメータを含むテンプレートとをコンボリューションして近似生理反応信号を生成すること、及び近似生理反応信号からの情報と実際の生理反応信号とを比較することにより少なくとも1つの特性パラメータを決定することを含む。命令は、少なくとも1つの特性パラメータからの情報を使用者又はプロセスに提供することを含む。
【0016】
本発明の実施例12は、動作信号を受信することが加速度信号を受信することを含み、併発的な実際の生理反応信号を受信することが、心拍、間隔信号、及び呼吸信号の少なくともいずれかを受信することを含む実施例1乃至11のいずれかに記載の装置可読媒体に関する。
【0017】
本発明の実施例13は、近似生理反応信号を生成することが、近似生理反応信号及び実際の生理反応信号の間の差異を減少又は最小化させるために近似生理反応信号を反復的に生成することを含む実施例1乃至12のいずれかに記載の装置可読媒体に関する。
【0018】
本発明の実施例14は、動作信号とテンプレートとをコンボリューションすることが、動作信号の周波数領域表現とインパルス応答テンプレートの周波数領域表現とを乗算することを含む実施例1乃至13のいずれかに記載の装置可読媒体に関する。
【0019】
本発明の実施例15は、動作信号とテンプレートとをコンボリューションすることが、動作信号とインパルス応答テンプレートとをコンボリューションすることを含む実施例1乃至14のいずれかに記載の装置可読媒体に関する。
【0020】
本発明の実施例16は、動作信号とテンプレートとをコンボリューションすることが、時間の指数関数を含む時間領域インパルス応答テンプレートを使用することを含み、少なくとも1つの特性パラメータが、指数関数のスケーリング定数及び指数関数の時定数の少なくともいずれかを含む実施例1乃至15のいずれかに記載の装置可読媒体に関する。
【0021】
本発明の実施例17は、少なくとも1つの特性パラメータを経時的にトレンド把握することと、トレンド把握された特性パラメータを用いて被験者の診断を提供することを含む実施例1乃至16のいずれかに記載の装置可読媒体に関する。
【0022】
本発明の実施例18は、少なくとも1つの特性パラメータが時定数を含み、診断が、トレンド把握された時定数が経時的に増加したときに心臓状態の悪化を示す実施例1乃至17のいずれかに記載の装置可読媒体に関する。
【0023】
本発明の実施例19は、少なくとも1つの特性パラメータがスケーリング定数を含み、診断が、トレンド把握されたスケーリング定数が経時的に減少した時に変時性不全の悪化を示す実施例1乃至18のいずれかに記載の装置可読媒体に関する。
【0024】
本発明の実施例20は、少なくとも1つの特性パラメータがスケーリング定数を含み、トレンド把握されたスケーリング定数が経時的に増加したときに心臓状態の悪化を示す実施例1乃至19のいずれかに記載の装置可読媒体に関する。
【0025】
以下の記載においては図を参照するが、異なる図における類似する構成要素には同一の符号が付されている。発明の詳細な説明及び図面は必ずしも縮尺どおりではなく、例示的実施形態を示すものであり、本発明の範囲を限定するものではない。例示的実施形態は、本発明の説明のみを意図する。
【図面の簡単な説明】
【0026】
【図1】心臓機能管理システムの各部の例、及び同システムが使用される環境を示す図。
【図2】被験者の日常生活動作(ADL)における動作に対する生理的反応(PRA)を、被験者についての有益な診断情報の生成等に用いる使用例を示す図。
【発明を実施するための形態】
【0027】
図1に、心臓機能管理システム100の各部、及びこのシステムが使用される環境の例を示す。一実施形態においては、システム100は、体外医療器具(装着可能な医療器具等)等の外来用医療器具もしくは植込み式の心拍管理用又は心臓機能管理用装置102、ローカル体外インタフェース装置104、及び任意のリモート体外インタフェース装置106を含む。
【0028】
一実施形態においては、植込み式装置102は、心房感知回路108、心房治療回路110、心室感知回路112、心室治療回路114、制御回路116、記憶回路118、通信回路120、バッテリ121等の電源、バッテリ状態回路123、患者又は他の被験者の身体動作信号を感知する動作センサ113、及び被験者の身体動作信号とは異なる生理的信号を感知するための生理センサ115を含む。
【0029】
一実施形態においては、心房感知回路108が、心房間電極、又は心房の脱分極情報等の内在性心房信号を感知できる他の電極等の電極に接続される。心房治療回路110も、ペーシング、心臓再同期治療(CRT)、心収縮力補助(CCM)治療、除細動/カーディオバージョン刺激、又は他のエネルギーパルスを一方又は両方の心房に施すために、上記の電極又は他の電極に接続してもよい。
【0030】
一実施形態においては、心室感知回路112が、心室間電極、又は心室の脱分極情報等の内在性心室信号を感知できる他の電極等の電極に接続される。心室治療回路114も、ペーシング、心臓再同期治療(CRT)、心収縮力補助(CCM)治療、除細動/カーディオバージョン刺激、又は他のエネルギーパルスを一方又は両方の心室に施すために、上記の電極又は他の電極に接続してもよい。
【0031】
一実施形態においては、動作センサ113が、被験者の身体動作を示す加速度を感知するための、単一軸又は複数軸の加速度計を含む。動作センサ113は、加速度信号を処理して身体動作信号を求めるためのセンサインタフェース回路を含んでいてもよい。一実施形態においては、身体動作信号は、被験者の身体運動を示す。他の実施形態においては、動作センサ113が、被験者の姿勢、心音、又は加速度信号から得ることができる他の情報等の感知のような他の目的に用いられる。
【0032】
一実施形態においては、生理センサ115がインピーダンスセンサや他のセンサ等の呼吸センサを含む。このようなセンサは、被験者の胸部等にテスト用エネルギーを供給し応答電圧信号の感知を行う電極を有する。この応答電圧信号は、胸部インピーダンスを示すものであり、フィルタリングすることにより、呼吸、心収縮、及び胸部体液貯留等についての情報を提供し得る。
【0033】
感知した心臓信号からの情報取得等を行うために、制御回路116を心房感知回路108及び心室感知回路112に接続してもよい。制御回路116は、患者の身体動作レベルや身体運動レベルについての情報を受け取るために動作センサ113に接続してもよい。制御回路116は、例えば他の生理学的情報を受け取るために生理センサ115に接続してもよい。一実施形態においては、他の生理学的情報には心収縮信号が含まれる。心収縮信号からは、例えば、被験者の心拍、心拍間隔、及び1回排出量等についての情報を得ることができる。一実施形態においては、制御回路116がデジタル信号処理(DSP)回路等の信号処理回路を含む。信号処理回路によりテンプレートパラメータを抽出することができ、後述するように、このテンプレートパラメータから診断上の指標を生成することができる。一実施形態においては、信号処理回路は、1つ又は複数の信号処理機能を実行する専用回路を含む。このような信号処理機能としては、時間領域又は周波数領域におけるコンボリューション、時間領域から周波数領域への信号変換、周波数領域から時間領域への信号変換等が含まれる。
【0034】
一実施形態においては、制御回路116が心房治療回路110及び心室治療回路114に接続され、治療用パルスの適時供給を誘発する制御信号又は誘発信号を発する。一実施形態においては、CCM治療を効果的に提供すべく、制御回路116が制御を行えるように構成される。例えば、1つ又は複数の他の治療(徐脈ペーシング、抗頻拍ペーシング(ATP)、心臓再同期治療(CRT)、心房又は心室の除細動刺激治療等)や機能(ペーシング閾値エネルギーを自動決定するための自動閾値機能、適宜な心臓ペーシングを行うためにペーシングエネルギーを自動調整する自動ペーシング機能等)と組み合わせてCCM治療を行うことができる。一実施形態においては、制御回路116内に専用のモジュールを設けるか、制御回路116が実行可能、解釈可能、又は動作可能であるコードが設定される。
【0035】
記憶回路118は制御回路116に接続され、制御パラメータ値、生理学的データ、及び他の情報の格納等を行う。通信回路120は制御回路116に接続され、ローカル体外インタフェース装置104やリモート体外インタフェース装置106等の外部装置との高周波(RF)通信又は他の無線通信が可能となっている。
【0036】
一実施形態においては、バッテリ121は、植込み式装置102に電力を供給するためのバッテリを1つ以上含む。一実施形態においては、バッテリ121が充電式であり、体外装置から経皮的に電力を受けて植込み式装置102に送電する。バッテリ状態回路123は、バッテリ121及び制御回路116のそれぞれと通信可能に接続され、例えば、バッテリ状態情報を判断する。このバッテリ状態情報には、バッテリ121の電力残量等が含まれる。制御回路116は、バッテリ状態情報に少なくとも部分的には基づいて植込み式装置102の動作を変更するように構成してもよい。
【0037】
一実施形態においては、ローカル体外インタフェース装置104がプロセッサ122、及びグラフィカルユーザインタフェース(GUI)124、又は情報表示や、通信回路と同様にユーザー入力の受信を行う類似装置を有し、通信又はコンピュータネットワークによりリモート体外インタフェース装置106と有線通信又は無線通信を行うことができるようになっている。同様に、リモート体外インタフェース装置106もプロセッサ126、及びグラフィカルユーザインタフェース(GUI)128、又は情報表示や、通信回路と同様にユーザー入力の受信を行う類似装置を有し、通信又はコンピュータネットワークによりローカル体外インタフェース装置104と有線通信又は無線通信を行うことができるようになっている。
【0038】
システム100は、外来用装置又は植込み式装置102(例えば制御回路116を備えたもの)、ローカル体外インタフェース装置104(例えばプロセッサ122を備えたもの)、及びリモート体外インタフェース装置106(例えばプロセッサ126を備えたもの)に処理能力を備えているので、本明細書に記載する様々な方法をいずれの装置でも実行することができ、また、2つ以上の装置に処理を分担させることもできる。
【0039】
被験者の日常生活動作(ADL)中における、動作に対する生理的反応(PRA)を用いて、例えば被験者についての有益な診断情報を生成する一実施形態200を図2に示す。後述するように、この作業には、動作信号とコンボリューションされるインパルス応答テンプレート等のテンプレートを用いる。被験者のADLには、歩行、睡眠、座位、立位、屈み込み、及び運動等の被験者の日常的身体動作が含まれる。本発明によるシステム及び方法においては、被験者のADLから有益な診断情報を抽出することができ、被験者が決められた運動内容(心臓ストレステスト、トレッドミルテスト等)を行う必要がない。このような決められた運動内容は、診断情報の抽出を目的として行われる決められた動作であり、被験者のADLの範囲外であるとみなされる。本発明の実施形態においては、診断情報を抽出するための1つ又は複数の決められた運動内容を被験者に実行させることなく、被験者の診断情報を取得することができる。本発明の実施形態においては、決められた運動内容の実行を必要とせずに、被験者が通常の(又は不規則的な)日常動作を行なっている間に、被験者の診断情報を取得することができる。
【0040】
被験者のPRAを求めるためには、被験者のADL中における1つ又は複数の生理的信号を監視する必要がある。生理的信号は、ADL中及びADL後に変化する場合がある。一実施形態においては、被験者のADLにおける被験者の身体動作の変化に伴う生理的信号の変化は、その生理的信号の変化がADLに応答するものであるのか、単にADLに付随するものであるのか関わらず、その被験者のPRAであるとみなされる。
【0041】
図2の202Aにおいては、被験者の日常生活動作に対する反応(例えば動作中の反応)において得られる、実際の生理的信号情報が所定期間にわたって取得される。202Bにおいては、同じ所定期間における近似生理的信号が受信される。(近似生理的信号は、まず名目上のテンプレートパラメータセットをシード(seeding)し、後述する反復ループの反復を一度以上行うことにより生成することができる。後述するように、この処理は例えば214におけるコンボリューションから開始することができる。)
【0042】
一実施形態においては、実際の生理的信号が心拍(HR)又は間隔信号を含む。HR信号は、被験者において発生している連続な心収縮の速さに関する情報を提供するものである。一実施形態においては、実際の生理的信号が呼吸信号を含む。一実施形態においては、呼吸信号が呼吸速度信号(RR信号)又は間隔信号を含む。RR信号は被験者の連続的な呼吸の速さに関する情報を提供するものである。一実施形態においては、呼吸信号が換気量(MV)信号を含む。MV信号は、MV=TV・RRの式で表され、MVは換気量、TVは1回換気量(一呼吸につき排出される空気)、RRは被験者がどれくらい速く呼吸しているかを示す呼吸速度である。1つ又は複数の他の生理的反応変数を用いてもよい。
【0043】
204において、実際の生理反応信号と近似生理反応信号とが比較される。一実施形態においては、この工程は同じ所定期間に対応する実際の生理的信号と近似生理的信号を比較することを含む。一実施形態においては、この比較は、近似データポイントと実際データポイントの時間領域減算を実行し、差を二乗し、二乗した差を合計する。これにより、所定期間における近似生理反応信号と実際の生理反応信号との間の累積的差異を示す差の二乗和が求められる。
【0044】
206において、所定期間における近似生理反応信号と実際の生理反応信号との間の差異を示す演算値が、1つ又は複数の条件と比較される。一実施形態においては、この工程には、所定の静的又は動的な最小閾値との差異量を比較することを含む。一実施形態においては、この工程には、テンプレートパラメータの様々な組み合わせをテストし、所定期間における近似生理反応信号と実際の生理反応信号との差異が最も少なくなるテンプレートパラメータの組み合わせを選択することが含まれる。一実施形態においては様々なテンプレートパラメータの組み合わせが網羅的にテストされる。一実施形態においては、数的最良適合検索ルーチン等を用いて、より省略可されて様々なテンプレートパラメータの組み合わせがテストされる。このようなテストには、滑降シンプレックス法(downhill simplex)や、様々なテンプレートパラメータの組み合わせのスペースを効率的に横断する他の手法を用いることができる。
【0045】
206において、1つ以上の条件が適合した場合や、近似生理反応信号と実際の生理反応信号との間の差異が最小値になるパラメータ組み合わせが設定された場合は、次に208においてテンプレートに関連する1つ以上の対応パラメータが保存される。そして、210において所定の時間任意にて待機した後、202A及び202Bの処理に戻る。
【0046】
206において、近似生理反応信号と実際の生理反応信号との間の差異が閾値を超えた場合、処理は212に進む。212において、例えば近似生理反応信号と実際の生理反応信号との間の差異を減少又は最小化させるように、1つ又は複数のテンプレートパラメータが調整される。
【0047】
一実施形態においては、テンプレートがインパルス応答テンプレートを含む。一実施形態においては、インパルス応答テンプレートが1次指数モデルにより近似される。このようなインパルス応答テンプレートは時間領域においてh(t)=A・e−(t/τ)により表される。h(t)は時間領域インパルス応答であり、Aはスケーリング定数、τは特性時定数である。スケーリング定数A及び時定数τは、1次指数インパルス応答テンプレートh(t)のパラメータを構成する。212において、スケーリング定数及び時定数の両方又は一方が調整され、例えば近似生理反応信号と実際の生理反応信号との間の差異が減少又は最小化される。
【0048】
片方又は両方のテンプレートパラメータが調整された後、214において、インパルス応答テンプレートが、動作センサ113により取得されて216において提供される身体動作信号とコンボリューションされ、新しい近似生理反応信号が生成される。生成された信号は、実際の生理反応信号と204にて比較される。この比較処理は、206において所定の1つ又は複数の条件に適合するか、近似生理反応信号と実際の生理反応信号との差異が最小化するまで反復される。このようにして、204、206、212及び214が反復ループを形成している。このループは、インパルス応答テンプレートの1次指数モデルが許容する程度に実際の生理反応信号に近い近似生理反応信号が取得されるか、206において少なくとも1つ又は複数の所定の条件に適合するまで反復される。
【0049】
一実施形態においては、インパルス応答テンプレートと身体動作信号とのコンボリューションが、時間領域(例えばフォールドアンドシフト(fold−and−shift))信号コンボリューションオペレーションを用いて実行される。一実施形態においては、インパルス応答テンプレートと身体動作信号とのコンボリューションが、インパルス応答テンプレート及び身体動作信号のそれぞれを周波数領域に変換し、身体動作信号の周波数領域表現により周波数領域インパルス応答テンプレートの乗算を行うことによりコンボリューションを実行できるようにする。一実施形態においては、時間領域から周波数領域への変換は、制御回路116の信号処理回路に設けられた高速フーリエ変換(FFT)回路を用いて行われる。
【0050】
208において、保存された1つ又は複数のテンプレートパラメータ(スケーリング定数や時定数等)をすぐに破棄してテンプレートパラメータの新たな値によって上書きする必要はない。テンプレートパラメータは保存することができ(例えば記憶回路118の先入れ先出し型(FIFO)メモリバッファに保存できる)、経時的にトレンド把握され(trended)、被験者に関する診断情報の提供に用いられる。一実施形態においては、210における任意待機は、24時間の期間であり、202Aにおける実際の生理的反応情報及び202Bにおける近似生理的反応情報が、このような情報の1日期間を構成し、208で保存されたテンプレートパラメータが日次値を表す。このような日次値は、数週間、数ヶ月、又は数年等のより長い期間にわたって保存及びトレンド把握することができる。210での任意待機は、短期間であっても長期間であってもよい。例えば、図2のように、数分から数時間の複数期間を設定することができる。パラメータを保存し、まとめて平均化することもできるし(日次平均を取得するため、又は中心的傾向の表示値を演算するために)、個別にトレンド把握することもできる。
【0051】
表1に、1つ又は複数のトレンド把握されたテンプレートパラメータ(A,x等)から取得可能であると思われる診断情報を示す。
【0052】
【表1】

一実施形態においては、1つ又は複数のインパルス応答テンプレートパラメータ、1つ又は複数のトレンド把握されたインパルス応答テンプレートパラメータ、又は、1つ又は複数のインパルス応答テンプレートパラメータから得られた診断情報や他の情報が、外来用医療器具又は植込み式医療器具から通信される。一実施形態においては、このような情報が通信回路120を介して植込み式心臓機能管理用装置102からローカル体外インタフェース装置104又はリモート体外インタフェース装置106へ通信される。通信された情報は、診断情報として、テキスト表示(英数字等)、又は非テキスト表示(非英数字等)により使用者に対して表示することができる。
【0053】
補注
上記の詳細な説明は、添付の図面を参照する。図面は詳細の説明の一部である。図面は本発明が実施される特定の実施形態を例示的に示すものである。このような実施形態は、「実施例」とも称される。このような実施例は、図示又は説明した要素以外の要素も含む場合がある。しかし、本願の発明者は、図示又は説明された要素のみを含む実施例も想定している。さらに、本願の発明者は、本明細書において図示又は説明する特定の実施例(もしくはその実施例の1つ又は複数の様態)又は他の実施例(もしくはその実施例の1つ又は複数の様態)に対して、図示又は説明された要素(もしくはその様態)を組み合わせ又は置換して用いた実施例も想定している。
【0054】
本明細書で言及されている全ての文献は、言及することによりその内容のすべてが本明細書で開示されることとする。本明細書で言及されている全ての係属中の出願も、言及することによりその内容のすべてが本明細書で開示されることとする。
【0055】
本明細書において、「1つの」なる表現は1つ又は複数である場合を含む。さらに、「又は」なる表現は包括的に使用されており、「A又はB」は、「BではなくA」、「AではなくB」、及び「A及びB」を含む。また、「含む」及び「備える」なる表現は、非限定的に用いられており、このような表現の前に記載される要素以外の要素を含むシステム、装置、及びプロセス等も本願の特許請求の範囲であるとみなされる。
【0056】
本明細書に記載する方法の実施例は、少なくともその一部を装置又はコンピュータにより実行することができる。いくつかの実施例は、コンピュータ可読媒体又は装置可読媒体を含み、このような媒体においては、前述した実施例の方法を電子機器が実行し得る命令がコード化されている。このような方法の実施は、マイクロコード、アセンブリ言語コード、高レベル言語コード等のコードを含む。このようなコードは、様々な方法を実行するためのコンピュータ可読命令を含む。コードは、コンピュータプログラム製品の一部であってもよい。さらに、コードは、実行時等において、揮発性又は不揮発性の物理的コンピュータ可読媒体に格納してもよい。このようなコンピュータ可読媒体の例としては、ハードディスク、取外し可能な磁気記憶媒体、取外し可能な光学ディスク(コンパクトディスク、デジタルビデオディスク等)、磁気カセット、メモリカード、メモリスティック、RAM、及びROM等が含まれる。
【0057】
上記の説明は例示的なものであり、限定的なものではない。例えば、前述した実施例(または1つ又は複数の様態)は組み合わせて用いることができる。上記の説明から当業者等により他の実施例が実施し得る。要約は、技術的開示内容の把握を容易にするものであり、本発明の範囲を限定するものではない。本発明の実施形態の以上の詳細な説明において、開示を合理化する目的で種々の特徴を単一の実施形態に一緒にグループ編成した。この開示方法は、本発明の請求される実施形態が、各請求項に明確に述べられた以上の特徴を要求するという意図を反映するものとして解釈すべきではない。むしろ、特許請求の範囲に反映されるように、本発明の要旨は、開示された単一の実施形態の、全部より少数の特徴に存在する。従って、特許請求の範囲は、本発明の実施形態の詳細な説明に組み込まれ、各請求項は、個別の実子形態として自立している。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
被験者の日常生活動作における同被験者の身体動作を示す動作信号を受信する動作センサ回路と、
被験者の日常生活動作における、前記動作信号とは異なる併発的な実際の生理反応信号を受信する生理センサ回路と、
近似生理反応信号を生成する信号処理回路と、を備える装置であって、
前記近似生理反応信号の生成は、前記動作信号と少なくとも1つの特性パラメータを含むテンプレートとをコンボリューションして近似生理反応信号を生成すること、及び
近似生理反応信号からの情報と実際の生理反応信号からの情報とを比較して少なくとも1つの特性パラメータを決定することを含み、
前記信号処理回路が、使用者又はプロセスに対して前記少なくとも1つの特性パラメータから情報を提供する装置。
【請求項2】
前記動作センサ回路が、加速度信号を含む動作信号を受信する加速度計を有し、前記併発的な実際の生理反応信号を受信することが、心拍、間隔信号、及び呼吸信号の少なくともいずれかを受信することを含む請求項1に記載の装置。
【請求項3】
前記信号処理回路が近似生理反応信号を生成することが、近似生理反応信号と実際の生理反応信号との間の差異を減少又は最小化させるために、反復的に近似生理反応信号を生成することを含む請求項1又は2に記載の装置。
【請求項4】
前記信号処理回路が時間領域から周波数領域への変換回路を含み、信号処理回路が動作信号とテンプレートとをコンボリューションすることが、動作信号の周波数領域表現とインパルス応答テンプレートの周波数領域表現とを乗算することを含む請求項1乃至3のいずれか一項に記載の装置。
【請求項5】
前記信号処理回路が動作信号とテンプレートとをコンボリューションすることが、動作信号とインパルス応答テンプレートとをコンボリューションすることを含む請求項1乃至4のいずれか一項に記載の装置。
【請求項6】
前記信号処理回路が動作信号とテンプレートとをコンボリューションすることが、時間の指数関数を含む時間領域インパルス応答テンプレートを用いることを含み、前記少なくとも1つの特性パラメータが、指数関数のスケーリング定数及び指数関数の時定数の少なくともいずれかを含む請求項5に記載の装置。
【請求項7】
前記信号処理回路が少なくとも1つの特性パラメータを経時的にトレンド把握し、トレンド把握された特性パラメータを用いて被験者の診断を提供する請求項6に記載の装置。
【請求項8】
前記少なくとも1つの特性パラメータが時定数を含み、前記信号処理回路が、トレンド把握された時定数が経時的に増加したときに心臓状態の悪化を示す診断を提供する請求項7に記載の装置。
【請求項9】
前記少なくとも1つの特性パラメータがスケーリング定数を含み、前記信号処理回路が、トレンド把握されたスケーリング定数が経時的に減少したときに変時性不全の悪化を示す診断を提供する請求項7又は8に記載の装置。
【請求項10】
前記少なくとも1つの特性パラメータがスケーリング定数を含み、前記信号処理回路が、トレンド把握されたスケーリング定数が経時的に増加したときに心臓状態の悪化を示す診断を提供する請求項7乃至9のいずれか一項に記載の装置。
【請求項11】
装置可読媒体であって、装置により実行された際に、
被験者の日常生活動作における同被験者の身体動作を示す動作信号を受信することと、
被験者の日常生活動作における、前記動作信号とは異なる併発的な実際の生理反応信号を受信することと、
近似生理反応信号を生成することと、同近似生理反応信号を生成することが、
動作信号と少なくとも1つの特性パラメータを含むテンプレートとをコンボリューションして近似生理反応信号を生成すること、及び
近似生理反応信号からの情報と実際の生理反応信号からの情報とを比較することにより少なくとも1つの特性パラメータを決定することを含み、
前記少なくとも1つの特性パラメータからの情報を使用者又はプロセスに提供することと、を含む命令を有する装置可読媒体。
【請求項12】
前記動作信号を受信することが加速度信号を受信することを含み、前記併発的な実際の生理反応信号を受信することが、心拍、間隔信号、及び呼吸信号の少なくともいずれかを受信することを含む請求項11に記載の装置可読媒体。
【請求項13】
前記近似生理反応信号を生成することが、近似生理反応信号と実際の生理反応信号との間の差異を減少又は最小化させるために近似生理反応信号を反復的に生成することを含む請求項11又は12に記載の装置可読媒体。
【請求項14】
前記動作信号とテンプレートとをコンボリューションすることが、動作信号の周波数領域表現とインパルス応答テンプレートの周波数領域表現とを乗算することを含む請求項11乃至13のいずれか一項に記載の装置可読媒体。
【請求項15】
前記動作信号とテンプレートとをコンボリューションすることが、動作信号とインパルス応答テンプレートとをコンボリューションすることを含む請求項11乃至14のいずれか一項に記載の装置可読媒体。
【請求項16】
前記動作信号とテンプレートとをコンボリューションすることが、時間の指数関数を含む時間領域インパルス応答テンプレートを使用することを含み、前記少なくとも1つの特性パラメータが、指数関数のスケーリング定数及び指数関数の時定数の少なくともいずれかを含む請求項15に記載の装置可読媒体。
【請求項17】
前記少なくとも1つの特性パラメータを経時的にトレンド把握することと、トレンド把握された特性パラメータを用いて被験者の診断を提供することを含む請求項16に記載の装置可読媒体。
【請求項18】
前記少なくとも1つの特性パラメータが時定数を含み、前記診断が、トレンド把握された時定数が経時的に増加したときに心臓状態の悪化を示す請求項17に記載の装置可読媒体。
【請求項19】
前記少なくとも1つの特性パラメータがスケーリング定数を含み、前記診断が、トレンド把握されたスケーリング定数が経時的に減少したときに変時性不全の悪化を示す請求項17又は18に記載の装置可読媒体。
【請求項20】
前記少なくとも1つの特性パラメータがスケーリング定数を含み、前記診断が、トレンド把握されたスケーリング定数が経時的に増加したときに心臓状態の悪化を示す請求項17乃至19のいずれか一項に記載の装置可読媒体。

【図1】
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【図2】
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【公表番号】特表2013−519442(P2013−519442A)
【公表日】平成25年5月30日(2013.5.30)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2012−552990(P2012−552990)
【出願日】平成23年2月10日(2011.2.10)
【国際出願番号】PCT/US2011/024325
【国際公開番号】WO2011/103020
【国際公開日】平成23年8月25日(2011.8.25)
【出願人】(505003528)カーディアック ペースメイカーズ, インコーポレイテッド (466)
【Fターム(参考)】