説明

映像信号制御装置、映像提示システム、映像提示方法およびプログラム

【課題】
瞬目や眼球運動時のみ観察可能なパターンの提示を行う映像提示装置を提供する。
【解決手段】
映像の表示が可能な映像表示部に表示する映像を制御する映像信号制御装置において、前記映像信号制御装置は、ユーザーがパターンを表示したい領域において第一の色と第二の色を連続的に切り替えることにより経時加法混色を起こさせるとともに、該図の背景領域において経時加法混色により知覚される第三の色が前記映像表示部に表示されるように制御する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、映像信号制御装置、映像提示システム、映像提示方法およびプログラムに関し、より詳細にはプロジェクタや液晶ディスプレイ等の映像表示装置に映像を表示する際に瞬目や眼球運動時のみ観察可能なパターンの提示方法、この方法を実現する映像提示システム、プログラムに関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来、眼球運動時にのみ知覚される映像の提示としては、1本のLEDアレイによる映像提示手法が提案されている(非特許文献1参照)。 しかし、非特許文献1に記載の手法では、眼球運動の向き・速度によって提示像にゆがみが生じること、LEDアレイの輝度が高くまぶしいこと、眼球静止時に映像提示ができないこと、特殊な提示装置(LEDアレイ)を必要とすること、が問題となっている。
【0003】
また、非特許文献2では、経時加法混色を利用して、人間には知覚されず、カメラや計測装置、情報機器にのみ検出可能なコードを映像に埋め込むことを提案している。これにより、人に知覚されない形で映像に情報を付加することができる。しかし、この研究は瞬目や眼球移動時に観察可能なパターンを人に提示するものではなく、人に対する情報提示を目的としていない。
【0004】
なお、本願発明は、2つの色を交互に高速に切り替えながら提示すると人は2つの色の混色(経時加法混色)を知覚するという現象を利用し、瞬目や眼球運動時のみ観察可能なパターンの提示を行うという従来にない発想に基づくものであり、本願発明に先行する特許文献は見当たらない。
【0005】
【非特許文献1】渡邊淳司著「視覚情報提示のための時空間統合知覚特性の研究」、博士論文、東京大学 システム情報学専攻、2005
【非特許文献2】Grundhofer, A., Seeger, M., Hantsch, F., and Bimber,O.: Dynamic Adaptation of Projected Imperceptible Codes, IEEEInternational Symposium on Mixed and Augmented Reality (ISMAR'07), Nov 2007
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明は、上記従来事情に鑑みてなされたものであり、その課題とする処は、瞬目や眼球運動時のみ観察可能なパターンの提示を行う映像提示装置を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記課題を解決するために第一の発明は、映像の表示が可能な映像表示部に表示する映像を制御する映像信号制御装置において、前記映像信号制御装置は、ユーザーがパターンを表示したい領域において第一の色と第二の色を連続的に切り替えることにより経時加法混色を起こさせるとともに、該図の背景領域において経時加法混色により知覚される第三の色が前記映像表示部に表示されるように制御することを特徴とする。
【0008】
この発明により、瞬目や眼球運動時のみ観察可能な像の提示が可能となる。この発明は、輝度が等しい2つの色を交互に切り替えながら提示すると、切り替え周波数が比較的低い場合にも、ちらつきなく2つの色の混色が知覚されることを利用している。2つの色を交互に連続的に切り替えながら提示すると、人は2つの色の混色(経時加法混色)を知覚する。このとき、切り替えの速度が遅いとちらつきが知覚される。CRTや液晶のディスプレイ・プロジェクタは、60Hz程度で更新されており、動画像をちらつきなく提示できるが、これらでたとえば白と黒のような輝度が大きく異なる色を交互に提示するとちらつきが知覚される。しかし、輝度が等しく色だけが異なる2色を用意し、これを交互に切り替えながら提示すると、通常のディスプレイでもちらつきなく混色が提示できる。この状態で、観察者が瞬目や眼球運動を行うと、点滅の境界部分で2つの色を混色ではなく別々の色として知覚できる。そこで、提示したい像を点滅部分として提示することで瞬目や眼球運動時にだけ知覚される像を提示することができる。
【0009】
また、第二の発明は、映像の表示が可能な映像表示部に表示する映像を制御する映像信号制御装置において、前記映像信号制御装置は、輝度信号と色差信号から成る映像信号において、ユーザーがパターンを表示したいパターン表示領域に関係する色差信号の変調を行い、該領域の表示色を連続的に切り替えることにより経時加法混色を起こさせ、さらに該経時加法混色により知覚される表示色が変調前の前記映像信号と等しくなるように前記映像表示部に表示する映像を制御することを特徴とする。
【0010】
この発明は、従来のディスプレイを用いて、瞬目や眼球運動をしたときだけ観察できる像を通常の映像に重畳させて表示することができる。
本発明によれば、たとえば、ビデオゲームにおけるヒントの提示、映像作品や演劇等のパフォーマンスの中で幽霊や透明人間といった通常目に見えないものの表現、街頭広告や空間演出など、さまざまな用途に利用することができる。通常のディスプレイで通常の映像に重畳して提示可能な本手法は、瞬き等をせずに普通に観察した場合には特殊な提示を行っていることを観察者に知られることがないため、より効果的な提示が可能となる。
【0011】
また、第三の発明では、上記変調の処理を、原色信号から輝度信号を除いた色差信号を表す色度図の直線上において、ユーザーがパターンを表示したいパターン表示領域に関係する色差信号が示す画素値から所定の画素値の加減を繰り返すようにすることで、前記パターン表示領域の表示色を連続的に切り替えて経時加法混色を起こさせ、さらに該経時加法混色により知覚される表示色が変調前の映像信号と等しくなるように前記映像表示部に表示する映像を制御することを特徴とする。
【0012】
また、第四の発明に係る映像提示システムは、第一から第三の発明に係る映像信号制御装置に加えて、映像の表示が可能な映像表示部をさらに備えている。
【0013】
また、第五の発明の映像提示方法は、映像表示部と、前記映像表示部に表示する映像を制御する映像信号制御装置と、から成る映像提示システムを用いた映像提示方法において、前記映像信号制御部が白灰黒3値またはグレースケール画像から成るパターンを正色差画像と色差を反転させた反色差画像とするステップと、奇数フレームでは正色差画像、偶数フレームでは反色差画像を前記映像表示部に出力するように切り替えるステップとを含んでいる。
【0014】
また、第六の発明のプログラムは、映像の表示が可能な映像表示部に表示する映像の制御をコンピュータに実行させるためのプログラムであって、白灰黒3値またはグレースケール画像から成るパターンを正色差画像と色差を反転させた反色差画像とするステップと、奇数フレームでは正色差画像、偶数フレームでは反色差画像を前記映像表示部に出力するように切り替えるステップとをコンピュータに実行させるように構成されている。
【発明の効果】
【0015】
本発明は、以上説明したように構成されているので、瞬目や眼球運動時のみ観察可能なパターンの提示を行う映像提示システムを提供することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0016】
以下、本発明に係る好適な実施の形態を添付図面とともに詳細に説明する。ただし、図面は模式的なものであり、現実のものとは異なることに留意すべきである。又、図面相互間においても互いの寸法の関係や比率が異なる部分が含まれていることはもちろんである。また、以下に示す実施の形態は、この発明の技術的思想を具体化するための装置や方法を例示するものであって、この発明の技術的思想は、各構成部品の配置などを下記のものに特定するものでない。この発明の技術的思想は、特許請求の範囲において、種々の変更を加えることができる。
【0017】
[第一の実施形態]
先ず、本発明の第一の実施形態に係る映像提示システムを図1を参照しながら説明する。この実施形態に係る映像提示システムは、メモリ1、CPU2、情報記憶領域3および映像信号生成装置4とから成る映像信号制御装置と、映像表示装置5を主要な構成要素として備えている。
【0018】
ここで、映像信号生成装置とは、たとえばパソコンに備えられたビデオカードのことである。
また、映像表示装置とは、たとえばコンピュータ用ディスプレイ装置であり、映像信号生成装置を介して出力されたパターンを画面上に表示する。なお、映像表示装置は、液晶ディスプレイ、ELディスプレイ、プラズマディスプレイ、CRTディスプレイ、プロジェクタとスクリーンなど、映像を表示できるものであればどのようなものでもよい。
また、情報記憶領域とは、たとえばパソコンに備えられたハードディスクドライブやICメモリなどである。
また、ここでCPUは、通常のプログラムを実行するプロセッサだけでなく、映像や画像を処理するための専用のプロセッサ(たとえば、GPU・DSP・DMAなど)を含めた情報処理手段のことである。
【0019】
次に、本発明の第一の実施形態に係る映像処理手順を説明する。図2の原画像は、瞬目・眼球運動時のみに観察可能な提示像を記録した画像情報であり、各画素はひとつの数値、たとえば0〜1の実数値を持つ。原画像は、図1の情報記録領域に記録されている。
原画像としては静止画像や動画像を用いることができるほか、リアルタイム3次元コンピュータグラフィクスのように、CPUが演算によってリアルタイムに原画像を生成することもできる。
【0020】
図2の正色差画像と反色差画像は、図1のCPUが図2の原画像に基づいて生成する画像であり、図1の情報記録領域上に生成される。図1の映像信号生成装置は、図2の正色差画像または反色差画像を読み出し、図1の映像表示装置への出力信号を生成する。図1の映像信号生成装置は、垂直同期信号が入力されるたびに、出力する信号を正色差画像と反色差画像の間で切り替える(図2(2))。
図2(1)の処理では、原画像から正色差画像と反色差画像を生成する。正色差画像の各画素の画素値Icおよび反色差画像の各画素の画素値Ic’は、原画像の各画素の画素値Ioおよび第一の色C1および第二の色C2を用いて次の式で表される
【0021】
【数1】

【0022】
なおこのとき提示される第三の色(経時加法混色)C3は、
【数2】

となる。
【0023】
第一の色C1および第二の色C2には輝度が等しい色を選ぶ。原画像を作成する際には、背景を画素値0.5とし、はっきりと提示したい部分に0.5から離れた(0または1に近い)画素値を用いる。また、0と1の境界部分は特にはっきりと提示されるので、提示像が線画である場合には、提示像を観察しやすくするために、線が0と1の境界となるように原画像を作成すると好ましい。
【0024】
なお、本発明を実施するためには、映像提示装置を、あらかじめ出力信号の画素値と実際に出力される色が等しくなるように調整しておく必要がある。
【0025】
本実施形態のように、普通に観察した場合に背景色のみが知覚される場合に、プロジェクタなどを用いて映像を光として投影すると、その光を照明光として利用することができる。この場合、照明光が照らす対象物体上に瞬目や眼球運動時のみ観察可能な像を提示できるため、付加情報の提示に利用することができる。
【0026】
[第二の実施形態]
この実施形態では、第一の実施形態と異なり、表示する像の背景は通常の映像である。すなわち、普通に観察した際には通常の映像が観察され、瞬目や眼球運動時には通常の映像に重畳して原画像が観察される。
なお、本実施形態に係る装置構成は第一の実施形態の場合と同様である。
【0027】
入力映像は、情報記録領域に保存した画像やリアルタイムにCPUが生成する画像を読み出して生成することができるほか、外部装置から入力した映像信号用いることもできる。
【0028】
入力映像は輝度成分と色差成分に分解される。入力映像を分解した色差成分は、正色差画像または、反色差画像の画素値から生成した変調用色差信号により変調される。変調用色差信号は、正色差画像または反色差画像の画素値を読み出し、画素値を色差信号に変換することで生成する。具体的な計算は色差信号と画素値の形式によるが、画素値として輝度と色差を用いていれば、色差のみを読み出せばよい。
【0029】
図3の変調は、出力映像の画素値を奇数フレームと偶数フレームで平均したものが、入力映像の画素値と等しくなるような変調とする。
入力信号の輝度、色差成分、変調用の色差信号として、たとえばCIE L*u*v*表色系を用いると、色差信号 u* v* を単純に加算することでこのような変調が可能となる。具体的には、入力映像の色差成分をuin,
vin,変調用の色差信号をum, vm,Kを変調の深さを決める定数とすると、出力信号 u,vを
【数3】

とすればよい。
【0030】
輝度信号と変調後の色差信号は、映像提示装置に合った信号形式に変換されて出力される。変調を行う際には、変調後の映像信号が映像提示装置で提示可能な映像信号となるように、変調の深さを調節する。
【0031】
なお、本発明に係る映像提示システムは、映像信号制御装置と映像表示部の間のデータのやり取りは、輝度信号と色差信号に限られない。例えば、映像信号制御装置の出力がRGB信号で映像表示部の入力もRGB信号の場合には、RGB信号と、輝度信号及び色差信号は相互に変換可能であるため、映像信号制御装置と映像表示部の間に、RGB信号→輝度信号と色差信号、輝度信号と変調後の色差信号→RGB信号を行う変換手段を設ければよい。
【0032】
なお、RGB信号→輝度信号と色差信号の変換処理は、既に知られている下記の変換式により行うことができる。
【数4】

このような変換に用いる係数はカラーマトリクスと呼ばれ、いくつかの方式があるが、各規格の信号に合わせて変換に用いる式も適宜変更すればよい。
【0033】
また、変換によって得られた色差信号について上述の変調処理を行い、輝度信号と変調後の色差信号を下記の式によりRGB信号に変換する。
【数5】

【0034】
これにより、たとえばPCのビデオカードの出力がRGB信号であった場合、ビデオカードと映像表示装置(例えば、CRT)の間に式(4)と式(5)の変換を実行するアダプタと、本発明に係る映像信号制御装置を設けることで、既存のディスプレイと情報処理装置を用いて本発明の実現が可能となる。
【0035】
本実施形態によれば、たとえば、ビデオゲームにおけるヒントの提示、映像作品や演劇等のパフォーマンスの中で幽霊や透明人間といった通常目に見えないものの表現、街頭広告や空間演出など、さまざまな用途に利用することができる。通常のディスプレイで通常の映像に重畳して提示可能な本手法は、瞬き等をせずに普通に観察した場合には特殊な提示を行っていることを観察者に知られることがないため、より効果的な提示が可能となる。
【0036】
[入力映像による眼球運動の誘発]
入力映像により、眼球運動を引き起こすことで、特定のタイミングで観客が原画像の像を認識するように仕向けることができる。入力映像の注視点、たとえば映画の登場人物や画像中の明るい部分などが動くとき、観客の眼球は注視点の運動にあわせて動く。このため、観客は提示像を観察することとなる。
【0037】
[非注視時のみ認識される像の提示]
さらに観客の眼球運動にあわせて変調を行う領域を移動させることにより、注視点を注視することによる眼球運動では認識されず、注視していない場合にのみ認識される像を提示することもできる。
【0038】
人は眼球の中心で注視点を捉えようとするため、注視時には、網膜は注視点の移動にあわせて運動する。このため、網膜上のある点には、注視点との相対位置が一定となるような画素の光が入射する。経時加法混色は、網膜上の同一の点に入射する光について起こるため、注視点との相対位置が一定となるような画素の色を時間方向に平均した色が知覚される。
【0039】
そこで、出力映像の画素の色を注視点の動きに合わせて移動させながら平均した色が、入力映像について同様に平均した色と等しくなるように出力映像を作る。これにより、観客が注視点を注視し、観客の眼球が注視点にあわせて運動した場合には原画像の像が観察されず、注視をせず、眼球が注視点に追従しなかった場合に原画像の像が観察される。
このような出力映像は次のように生成できる。
【0040】
x,yを画素位置、tをフレーム番号、入力映像の画素値をIin(x,y,t)、フレームtからt+1の間での注視点の移動量を(dx,dy)とするとき、出力映像の画素値Iout(x,y,t)が、
【数6】

を満たすように色差を変調する。図6に入力映像、原画像と出力映像の例を示す。
【0041】
[注視点による提示の選択]
入力映像に注視点の候補となるような像が複数ある場合、観客ごとに注視点が異なる場合がある。このとき、注視点が別々の運動をすると、観客の眼球運動も別々の運動となる。
このとき、提示映像が前述した(式6)を満たす場合には、原画像の像が観察されないので注視点の運動が、(式6)の(dx,dy)と等しくなる注視点を注視している観客には像が見えず、それ以外の点を注視している観客には像が見えるといった提示を行うことができる。
たとえば、映画でヒーローとヒロインが登場するとき、どちらを注視しているかによって観察できる像が異なるといった使い方ができる。
【0042】
このように、入力映像に重畳させて像を表示する場合、観客が入力映像中の特定の人物・物体に注視した場合にのみ像が観察できるようにすることもできる。これにより、たとえば映画を同所で同時に見る場合に、観客の興味に応じて別々の像を提示するといった趣向が実現できる。
【0043】
[第二の実施形態の変形例]
第二の実施形態では色差画像に基づいて変調を行っている。一方本実施形態では、色差画像を用いずに、変調時に原画像の画素値に基づいて変調後の色を決定する。これにより、入力信号と映像提示装置の出力可能な色の範囲を考慮したうえで、最適な提示色を選択することができる。
【0044】
本方式では、色信号としてCIE L*u*v* のような、色差の感覚距離が色度図上の幾何距離と等しくなるような色空間を持つ形式を用いる。以下、変調の方法を図4を参照しながら説明する。図4に示す色度図の三角形は、ディスプレイで表示可能な範囲をあらわしている。
【0045】
まず、入力信号の輝度値Linに輝度値が等しいu* v*平面L*=Linを考える。図4では紙面がこの平面となる。入力信号は、u*
v*平面L*=Lin上の1点であらわされる。この点を中心に半径r=K(Io-0.5)の円を考える。ここで、Ioは原画像の画素値(0〜1、0.5が背景色)、Kは変調の深さを決める定数とする。変調後の色差として、円の直径の2つの端点を選ぶと、経時混色後の提示色が円の中心となり、入力信号と等しくなる。
【0046】
次に映像提示装置が提示可能な色の範囲をプロットすると、図4のグラデーションで表された三角形となる。提示可能な色を出力するため、この三角形に含まれるような円の直径を選択して色差を決定する。そのような直径が存在しない場合には、円の半径を短くし、直径が三角形内に含まれるようにしたあと、直径を選択して色差を決定する。
【0047】
なお、u*v*平面上での色距離と提示像の認識のしやすさ(像のみやすさ、提示の強さ、像のくっきり度・はっきり度)が、u*v*平面上での2色の幾何距離にほぼ比例することは次のような実験で確かめている。
【0048】
図5のようにL*=40平面上で、u*=0
v*=0を中心とした直径128の円の直径の端点2点を6組選び、円の中心を背景色とし、端点2点の経時加法混色により矩形を提示した。矩形の認識のしやすさを確認するために画面の更新頻度(フレーム周波数)を上げていったところ、ほぼ同じフレーム周波数で矩形が認識できなくなった。また、フレーム周波数を120Hzに固定し、円の直径を小さくしていった場合にも、ほぼ同じ直径で矩形が認識できなくなった。また、提示可能な三角形の短点のうち2点を選択し、フレーム周波数を上げていったところ、距離がもっとも離れている赤と青の2点がもっとも高い周波数で認識可能であり、ついで距離が離れている赤緑、最も距離の短い緑青となった。
【0049】
なお、本発明を実施するためには、出力信号の画素値と映像提示装置が実際に出力する色が等しくなるよう、調整しておく必要がある。
【0050】
また、本発明においては下記のような工夫を施すことが好ましい。
[動画像提示時の急峻なエッジの除去]
原画像に動画像を用いる場合、動画像に急峻なエッジ、たとえば、隣り合う画素値が0と1になる部分が移動すると、瞬きをせず、ほとんど眼球を動かさない場合においてもエッジが認識されてしまう場合がある。
このような場合には、この現象を防ぐため、原画像にはあらかじめフィルタをかけ、急峻なエッジを取り除くことが望ましい。このような処理は、図1のCPUが、原画像にガウシアンフィルタや平滑化フィルタを適用することで容易に行うことができる。
【0051】
[液晶ディスプレイ・プロジェクタによる動画像提示]
液晶ディスプレイ・プロジェクタには、画素のON/OFF特性の改善のため輝度の変化を予測して液晶を駆動する電圧を調節するものがある。
この場合、各画素の色・輝度の履歴により、指定した色・輝度とは異なる色・輝度が提示されることがある。出力映像の色・輝度を画素ごとに記録しておき、画素ごとの色・輝度の変化に応じた補正を加えることで、このような映像表示装置を用いた場合にも本発明を実施することができる。
【0052】
なお、上述した実施形態の構成では、映像表示装置と映像信号制御装置を別体の構成とした一例を示したが、たとえば、携帯式ゲーム機のように、映像表示装置と映像信号制御装置を同一の筐体に収めて構成するようにしてもよい。また、携帯式ゲーム機のように、予め使用する映像表示装置が定まっているような場合には、その映像表示装置に合わせて、より像が知覚しやすいように前もってキャリブレーションができるため、好ましい実施形態である。
【0053】
また、本発明の映像提示方法は、該方法をコンピュータに実行させるためのプログラム、該プログラムを記録したコンピュータ読み取り可能な記録媒体、該プログラムを含みコンピュータの内部メモリにロード可能なプログラム製品、該プログラムを含みコンピュータが使用可能な記録媒体にストアされたプログラム製品等により提供されることができる。
【0054】
また、本発明の提示像は、デジタルスチルカメラ、銀塩写真などで撮影すると、高い確率で像が画像に記録される。また、ビデオカメラなどで撮影した場合には、提示像が切り替えの周期よりも長い周期で明滅して観察される。映像提示装置のフレーム周波数を高くし、切り替え周期を短くすることにより、肉眼で提示像を観察できなくなるが、この場合にもカメラの類には提示像が写るので、カメラだけに記録される像を提示することもできる。本発明を照明に利用することで、たとえば、人工的に心霊写真が撮影できるスポットを作り出すことができる。
【図面の簡単な説明】
【0055】
【図1】本発明の基本構成を説明する図である。
【図2】第一の実施形態の場合の映像信号の流れを示す図である。
【図3】第二の実施形態の場合の映像信号の流れを示す図である。
【図4】色度図においてディスプレイで表示可能な範囲をあらわす図である。
【図5】色度図においてディスプレイで表示可能な範囲をあらわす図である。
【図6】非注視時のみ認識される像の提示を行う場合の原画像と出力映像の例を示す図である。
【符号の説明】
【0056】
1:メモリー
2:CPU
3:情報記憶領域
4:映像信号生成装置
5:映像表示装置


【特許請求の範囲】
【請求項1】
映像の表示が可能な映像表示部に表示する映像を制御する映像信号制御装置において、
前記映像信号制御装置は、ユーザーがパターンを表示したい領域において第一の色と第二の色を連続的に切り替えることにより経時加法混色を起こさせるとともに、該図の背景領域において経時加法混色により知覚される第三の色が前記映像表示部に表示されるように制御することを特徴とする映像信号制御装置。
【請求項2】
映像の表示が可能な映像表示部に表示する映像を制御する映像信号制御装置において、 前記映像信号制御装置は、輝度信号と色差信号から成る映像信号において、ユーザーがパターンを表示したいパターン表示領域に関係する色差信号の変調を行い、該領域の表示色を連続的に切り替えることにより経時加法混色を起こさせ、さらに該経時加法混色により知覚される表示色が変調前の前記映像信号と等しくなるように前記映像表示部に表示する映像を制御することを特徴とする映像信号制御装置。
【請求項3】
原色信号から輝度信号を除いた色差信号を表す色度図の直線上において、ユーザーがパターンを表示したいパターン表示領域に関係する色差信号が示す画素値から所定の画素値の加減を繰り返し、前記パターン表示領域の表示色を連続的に切り替えることにより経時加法混色を起こさせ、さらに該経時加法混色により知覚される表示色が変調前の前記映像信号と等しくなるように前記映像表示部に表示する映像を制御することを特徴とする請求項2に記載の映像信号制御装置。
【請求項4】
映像の表示が可能な映像表示部を更に備えた、請求項1乃至3のいずれか一項に記載の映像提示システム。
【請求項5】
映像表示部と、
前記映像表示部に表示する映像を制御する映像信号制御装置と、
から成る映像提示システムを用いた映像提示方法において、
前記映像信号制御装置が白灰黒3値またはグレースケール画像から成るパターンを正色差画像と色差を反転させた反色差画像とするステップと、
奇数フレームでは正色差画像、偶数フレームでは反色差画像を前記映像表示部に出力するように切り替えるステップとを含む映像提示方法。
【請求項6】
映像の表示が可能な映像表示部に表示する映像の制御をコンピュータに実行させるためのプログラムであって、
白灰黒3値またはグレースケール画像から成るパターンを正色差画像と色差を反転させた反色差画像とするステップと、
奇数フレームでは正色差画像、偶数フレームでは反色差画像を前記映像表示部に出力するように切り替えるステップとをコンピュータに実行させるためのプログラム。

【図2】
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【図1】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【公開番号】特開2009−69267(P2009−69267A)
【公開日】平成21年4月2日(2009.4.2)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−235240(P2007−235240)
【出願日】平成19年9月11日(2007.9.11)
【出願人】(504133110)国立大学法人 電気通信大学 (383)
【Fターム(参考)】