説明

映像表示システム

【課題】フリッカの発生を抑制しつつクロストークを低減することが可能な映像表示システムを提供する。
【解決手段】映像表示システムは、左眼用映像および右眼用映像等の複数の映像を時分割で切り換えて表示し、表示光として直線偏光を出射する液晶表示装置1と、液晶表示装置1における表示切り換えに同期して、開閉を切り換えるシャッター眼鏡6とを備える。シャッター眼鏡6は、液晶シャッター60の光入射側にシャッター入射側偏光板60A、光出射側にシャッター出射側偏光板60Bをそれぞれ有するものであり、シャッター入射側偏光板60Aの偏光度がシャッター出射側偏光板60Bの偏光度よりも低くなっている。シャッター入射側偏光板60Aの偏光度に対して、トレードオフの関係にあるフリッカおよびクロストークの発生の程度を最適化し易くなる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、シャッター眼鏡を用いて映像表示を行う映像表示システムに関する。
【背景技術】
【0002】
電子情報ディスプレイを用いた立体表示方式には多様な方式が存在するが、中でもシャッター眼鏡を用いた方式が注目されている。この方式では、液晶テレビ等の液晶ディスプレイ上に、左眼用および右眼用の視差画像を時分割に切り替えて表示すると共に、これに同期して左右の眼鏡の開閉を切り替え可能なシャッター眼鏡を用いて各視差画像をそれぞれ左眼および右眼へ向けて分離する。
【0003】
ここで、シャッター眼鏡は、例えば電圧印加によって光透過率を制御可能な液晶素子を用いたものであり、この液晶素子の入射側(液晶ディスプレイ側)および出射側(観察者側)にはそれぞれ、偏光板が貼り付けられている。尚、このようなシャッター眼鏡において、直線偏光を利用する場合には、その入射側の偏光板の光軸(透過軸)と、液晶ディスプレイにおける出射側の偏光板の光軸(透過軸)とが互いに一致している必要がある。このようなシステムにおいて、観察者(視聴者)がシャッター眼鏡をかけてディスプレイ上の表示画像を観察することで、立体視が可能となる。
【0004】
ところが、シャッター眼鏡を用いた立体映像表示システムでは、映像観察を行う環境下において、例えば室内の照明光等と干渉を起こし、フリッカが観察される場合がある。特に、インバータを使用していない低周波駆動の蛍光灯、例えば50Hz駆動(光出力は100Hz)の蛍光灯の下において、60Hz駆動のシャッター眼鏡を使用した場合、干渉により約40Hzもの顕著なフリッカが見えてしまう。これは観察者にとって非常に不快であり、疲労を誘引するだけでなく、知覚を通じてある種の発作を引き起こす蓋然性があるため、人間工学的な見地から懸念されている。
【0005】
上記のようなフリッカは、シャッター眼鏡における入射側の偏光板を完全に除去することによって、軽減されることが知られている(例えば、特許文献1)。尚、この場合、液晶ディスプレイにおける出射側偏光板の光軸と、シャッター眼鏡における出射側の偏光板の光軸とが一致していれば、映像の見え方に影響が生じることはない。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開平8−327961号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
しかしながら、上記のようにフリッカをなくすためにシャッター眼鏡における入射側偏光板を完全に除去してしまうと、観察者が頭を傾けた場合、液晶ディスプレイの出射側偏光板とシャッター眼鏡の出射側偏光板との光軸がずれてしまう。仮に光軸がずれた場合には、シャッター眼鏡におけるコントラストがその最大値からずれ(コントラストが低下し)、左右の視差画像間でクロストークが発生する。このようなクロストークが生じると、例えば映像が2重になって見える等、上記フリッカと同様、観察者に不快な印象を与えてしまう。
【0008】
本発明はかかる問題点に鑑みてなされたもので、その目的は、フリッカの発生を抑制しつつクロストークを低減することが可能な映像表示システムを提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明の映像表示システムは、複数の映像を時分割で切り換えて表示し、表示光として直線偏光を出射する映像表示装置と、映像表示装置における映像の切り換えに同期して、入射光を透過させる開動作と遮断する閉動作とを切り換えるシャッター眼鏡とを備える。シャッター眼鏡は、液晶素子を含むと共に、その液晶素子の光入射側にシャッター入射側偏光板、光出射側にシャッター出射側偏光板をそれぞれ有し、シャッター入射側偏光板の偏光度がシャッター出射側偏光板の偏光度よりも低くなっている。
【0010】
本発明の映像表示システムでは、シャッター眼鏡において、シャッター入射側偏光板の偏光度がシャッター出射側偏光板の偏光度よりも低くなっている。ここで、映像観察時において、室内照明光等との干渉によりフリッカを生じることがあるが、このフリッカは、シャッター入射側偏光板を除去することによりなくすことも可能である。但し、このようにした場合、観察者がシャッター眼鏡をかけた状態で頭を傾けると、シャッター眼鏡のコントラストが低下し、複数の映像間においてクロストークを生じてしまう。ここで、フリッカの発生とクロストークの発生とは、シャッター入射側偏光板の偏光度に対して、互いにトレードオフの関係にある。シャッター眼鏡において、偏光度が出射側よりも入射側において低くなっていることにより、そのような関係にあるフリッカおよびクロストークの発生の程度が最適化し易くなる。
【発明の効果】
【0011】
本発明の映像表示システムによれば、シャッター眼鏡において、シャッター入射側偏光板の偏光度がシャッター出射側偏光板の偏光度よりも低くなるようにしたので、観察映像においてフリッカの発生を抑制しつつクロストークを低減することが可能となる。またこれにより、観察者に不快感や疲労感を与えない高品質な映像表示(例えば立体映像表示)を実現することができる。
【図面の簡単な説明】
【0012】
【図1】本発明の一実施の形態に係る映像表示システムの全体構成を表すブロック図である。
【図2】図1に示した液晶表示パネルおよびシャッター眼鏡の各面に設けられる偏光板の透過軸を説明するための模式図である。
【図3】図1に示した映像表示システムにおける立体映像表示動作の概要を表す模式図である。
【図4】映像光と室内照明光との干渉により生じるフリッカについて解析した図である。
【図5】シャッター開口dutyと照明の明暗比との関係を表した図である。
【図6】シャッター入射側偏光板のコントラストとフリッカとの関係を表した図である。
【図7】シャッター眼鏡の正立時および回転時(傾斜時)を説明するための模式図である。
【図8】クロストーク(平均値)および眼鏡コントラストの偏光度依存性を説明するための図である。
【図9】シャッター入射側偏光板のコントラストとクロストークとの関係を表した図である。
【図10】フリッカおよびクロストークの許容の有無に関する主観評価をまとめた図である。
【図11】本発明の変形例に係る映像表示システムにおけるマルチ映像表示動作の概要を表す模式図である。
【発明を実施するための形態】
【0013】
以下、本発明の実施の形態について、図面を参照して詳細に説明する。なお、説明は以下の順序で行う。

1.実施の形態(立体映像表示システムにおいてシャッター入射側偏光板を低偏光度とした例)
2.変形例(上記シャッター眼鏡をマルチ映像表示システムに適用した例)
【0014】
<実施の形態>
[映像表示システムの全体構成]
図1は、本発明の一実施の形態に係る映像表示システムのブロック構成を表すものである。この映像表示システムは、時分割駆動方式の立体映像表示システムであり、映像表示装置としての液晶表示装置1と、シャッター眼鏡6とを備えている。
【0015】
(液晶表示装置1)
液晶表示装置1は、左右の視差を有する右眼用映像信号DRおよび左眼用映像信号DLからなる入力映像信号Dinに基づいて、映像表示を行うものである。この液晶表示装置1は、液晶表示パネル2、バックライト3、映像信号処理部41、シャッター制御部42、タイミング制御部43、バックライト駆動部50、データドライバ51およびゲートドライバ52を有している。
【0016】
バックライト3は、液晶表示パネル2に対して光を照射する光源であり、例えばLED(Light Emitting Diode)や、CCFL(Cold Cathode Fluorescent Lamp)等を含むものである。
【0017】
液晶表示パネル2は、ゲートドライバ52から供給される駆動信号およびデータドライバ51から供給される映像電圧に基づいて、バックライト3からの照明光を変調することにより、入力映像信号Dinに基づく映像表示を行うものである。具体的には、詳細は後述するが、右眼用映像信号DRに基づく右眼用映像と、左眼用映像信号DLに基づく左眼用映像とを、時分割で交互に表示することにより、立体映像表示のための時分割駆動がなされるようになっている。本実施の形態では、この液晶表示パネル2が、直線偏光を使用して映像表示を行うものであり、その光入射面と光出射面にはそれぞれ、後述する直線偏光板が貼り合わせられている。
【0018】
この液晶表示パネル2は、例えばVA(Vertical Alignment)モードやTN(Twisted Nematic)モードの液晶よりなる液晶層をTFT基板および対向基板で挟み込んだものであり、全体としてマトリクス状に配列された複数の画素20を含んでいる。各画素20は、TFT(Thin Film Transistor;薄膜トランジスタ)素子を含み、駆動対象となる画素を線順次で選択するためのゲート線、選択画素に対して映像電圧を供給するためのデータ線および補助容量線等に接続されている。TFT素子は、映像信号D1に基づく映像電圧を供給するためのスイッチング素子であり、例えばMOS−FET(Metal Oxide Semiconductor−Field Effect Transistor)よりなる。
【0019】
映像信号処理部41は、入力映像信号Dinに基づいて、右眼用映像信号DRおよび左眼用映像信号DLの出力順序(表示順序)の制御を行うことにより、映像信号D1を生成するものである。ここでは、1フレーム期間内において左眼用映像信号DLと右眼用映像信号DRとが交互に配列してなる映像信号D1を生成する。
【0020】
シャッター制御部42は、映像信号処理部41による右眼用映像信号DRおよび左眼用映像信号DLの出力タイミングに対応するタイミング制御信号(制御信号CTL)を、シャッター眼鏡6に出力するものである。この制御信号CTLは、図1に示したような無線信号(例えば赤外線信号等)であってもよいが、有線信号であってもよい。
【0021】
タイミング制御部43は、バックライト駆動部50、ゲートドライバ52およびデータドライバ51の駆動タイミングを制御すると共に、映像信号処理部41から供給される映像信号D1をデータドライバ51へ供給するものである。
【0022】
ゲートドライバ52は、タイミング制御部43によるタイミング制御に従って、液晶表示パネル2内の各画素20を線順次駆動するものである。
【0023】
データドライバ51は、液晶表示パネル2の各画素20へそれぞれ、タイミング制御部43から供給される映像信号D1に基づく映像電圧を供給するものである。具体的には、映像信号D1に対してD/A(デジタル/アナログ)変換を施すことにより、アナログ信号である映像信号(上記映像電圧)を生成し、各画素20へ出力する。
【0024】
バックライト駆動部50は、タイミング制御部43によるタイミング制御に従って、バックライト3の点灯動作(発光動作)を制御するものである。
【0025】
(シャッター眼鏡6)
シャッター眼鏡6は、液晶表示装置1の観察者(視聴者)が用いることにより立体視を可能とするものである。このシャッター眼鏡6は、本発明における「シャッター機構」の一具体例に対応する左眼用レンズ6Lおよび右眼用レンズ6Rを有している。これらの左眼用レンズ6Lおよび右眼用レンズ6Rにはそれぞれ、例えば液晶シャッター(後述の液晶シャッター60)が設けられている。液晶シャッターは、図示しない一対の電極間に、例えばTNモードやSTN(Super Twisted Nematic)モードの液晶を挟み込んだものであり、それらの一対の電極を通じて液晶に電圧を印加することにより入射光の透過率を制御するものである。この液晶シャッターにおける入射光を透過させる動作(開動作)および遮断する動作(閉動作)は、シャッター制御部42から供給される制御信号CTLによって、時分割制御される。
【0026】
具体的には、シャッター制御部42が、左眼用映像および右眼用映像の表示切り換えに同期して、左眼用レンズ6Lおよび右眼用レンズ6Rの開状態および閉状態が交互に切り替わるように、シャッター眼鏡6を駆動する。言い換えると、左眼用映像の表示期間には、左眼用レンズ6Lを開状態、右眼用レンズ6Rを閉状態とする制御を行う一方、右眼用映像の表示期間には、右眼用レンズ6Rを開状態、左眼用レンズ6Lを閉状態とする制御を行う。これにより、1フレーム期間を2分割して右眼用映像と左眼用映像とを交互に切り替えて表示する時分割駆動方式において、右眼用映像を右眼、左眼用映像を左眼でそれぞれ観察することが可能となる。
【0027】
また、シャッター制御部42は、1フレーム期間における所定の開閉デューティ(Duty)で、左眼用レンズ6Lおよび右眼用レンズ6Rの開閉動作を制御する。望ましくは、左眼用レンズ6Lおよび右眼用レンズ6Rの各開口Duty(開期間)が、1フレームを2分割した期間のうちの10%〜50%程度となるように制御する。上記のようなシャッター眼鏡6の入射面および出射面にも、上記液晶表示パネル2と同様、入射面および出射面にそれぞれ、以下に説明する直線偏光板が貼り合わせられている。
【0028】
(偏光板の構成)
図2は、液晶表示パネル2および液晶シャッター60のそれぞれの入射面および出射面に設けられた偏光板と、その光軸(透過軸)を模式的に表したものである。但し、図2において各偏光板上に示した矢印(C1〜C4)は、各偏光板の透過軸方向を表している。このように、液晶表示パネル2の入射側(バックライト3の側)にはパネル入射側偏光板2A、出射側(表示側)にはパネル出射側偏光板2Bがそれぞれ設けられている。シャッター眼鏡6では、液晶シャッター60の入射側(液晶表示パネル2の側)にシャッター入射側偏光板60A、出射側(観察者側)にはシャッター出射側偏光板60Bがそれぞれ設けられている。
【0029】
液晶表示パネル2では、例えば、パネル入射側偏光板2Aおよびパネル出射側偏光板2Bが、それぞれの透過軸C1,C2が互いに直交するように(クロスニコルの状態で)配置されている。シャッター眼鏡6においても同様で、例えばシャッター入射側偏光板60Aおよびシャッター出射側偏光板60Bが、それぞれの透過軸C3,C4が互いに直交するように配置されている。
【0030】
これらのうち、パネル出射側偏光板2Bの透過軸C2とシャッター入射側偏光板60Aの透過軸C3とは一致している。但し、これは、液晶表示装置1をXZ平面上に傾かずに配置され、シャッター眼鏡6がその入射面を液晶表示パネル2側に向けて正立している状態を基準とする。具体的には、ディスプレイ画面の水平方向をX、垂直方向をYとした場合、ディスプレイ画面に正対して、観察者がY方向に沿って頭を傾けずに直立あるいは着座している状態で、シャッター眼鏡6を着用した場合を想定している。
【0031】
本実施の形態では、そのシャッター入射側偏光板60Aが、シャッター出射側偏光板60Bよりも低コントラスト(低偏光度)となるように設定されている。具体的には、シャッター入射側偏光板60Aの偏光度は、望ましくは0.200以上0.900以下であり、より望ましくは0.375または0.524である。換言すると、シャッター入射側偏光板60Aのコントラストが、望ましくは1.5〜19であり、より望ましくは2.2または3.2である。但し、偏光板のコントラストを、(透過軸の透過率)/(吸収軸の透過率)とする。シャッター出射側偏光板60Bの偏光度は、例えば0.998程度以上(コントラストは1000程度以上)となっている。尚、本明細書において、これらの偏光度およびコントラストにおける上記数値および数値範囲は、後述の実施例に基づいて得られた概算値である。本実施の形態(本発明)は、偏光度およびコントラストの値が、上記と完全同一の場合に限らず、多少の誤差を有する場合にも適用可能である。一方、パネル入射側偏光板2Aおよびパネル出射側偏光板2Bにおけるコントラストは例えば1000以上であり、具体的には5000程度である。
【0032】
[映像表示システムの作用・効果]
(立体映像表示動作)
図3は、映像表示システムにおける立体映像表動作の概要を表したものである。この映像表示システムでは、図1に示したような液晶表示装置1において、映像信号処理部41が入力映像信号Dinに基づき右眼用映像信号DRおよび左眼用映像信号DLの出力順序の制御を行い、映像信号D1を生成する。この映像信号D1は、タイミング制御部43を介してデータドライバ51へ供給される。一方で、シャッター制御部42は、そのような右眼用映像信号DRおよび左眼用映像信号DLの出力タイミングに対応する制御信号CTLを、シャッター眼鏡6へ向けて出力する。データドライバ51は、映像信号D1に対してD/A変換を施し、アナログ信号である映像電圧を生成する。そして、ゲートドライバ52およびデータドライバ51から出力される各画素20への駆動電圧によって表示駆動動作がなされる。
【0033】
このようにして映像電圧が供給された画素20では、バックライト3からの照明光が液晶表示パネル2において変調され、表示光として出射される。これにより、入力映像信号Dinに基づく映像表示が、液晶表示装置1において行われる。詳細には、1フレーム期間に、左眼用映像信号DLに基づく左眼用映像と、右眼用映像信号DRに基づく右眼用映像とが交互に表示され、時分割駆動による表示駆動動作がなされる。例えば左眼用レンズ6Lおよび右眼用レンズ6Rの駆動周波数はそれぞれ60Hzであり、この場合、左右合わせて120Hzで高速時分割駆動がなされることになる。
【0034】
具体的には、シャッター制御部42は、左眼用映像の表示期間には、制御信号CTLにより、シャッター眼鏡6において、左眼用レンズ6Lを開状態(表示光LLの透過状態)とし、右眼用レンズ6Rを閉状態(表示光LLの遮断状態)とする。一方、図3(B)に示したように、右眼用映像の表示期間には、制御信号CTLにより、左眼用レンズ6Lを閉状態(表示光LRの遮断状態)とし、右眼用レンズ6Rを開状態(表示光LRの透過状態)とする。そして、このような表示映像の切り替えに同期した左右のシャッターの開閉動作が、時分割で交互に繰り返される。
【0035】
観察者7は、上記のように時分割駆動されるシャッター眼鏡6をかけた状態で、液晶表示装置1のディスプレイ画面を観察することにより、左眼用映像を左眼7L、右眼用映像を右眼7Rでそれぞれ認識することになる。これらの左眼用映像と右眼用映像との間には視差があるため、観察者7には、その視差量に応じた奥行きのある立体的な映像として認識される。
【0036】
(シャッター入射側偏光板60Bによる作用)
ところで、シャッター眼鏡6において直線偏光を利用する場合、ある特定の室内照明の下で映像観察を行うと、観察映像にフリッカが発生することがある。具体的には、インバータを使用していない低周波駆動の蛍光灯等の下でシャッター眼鏡6を使用するような場合が挙げられる。この場合、室内照明の駆動周波数とシャッター眼鏡6の駆動周波数が近くなることが多く、それぞれの周波数の差分に相当するビートが発生し、顕著なフリッカが視認されることになる。その一例を図4(A)〜(C)に示す。図4(A)に示したように、シャッター眼鏡6の駆動周波数が48Hz、室内照明の駆動周波数が60Hz(光出力は120Hz)である場合、干渉により24Hzのフリッカが生じる。また、図4(B)に示したように、シャッター眼鏡6の駆動周波数が50Hz、室内照明の駆動周波数が60Hz(光出力は120Hz)である場合には、発生するフリッカの周波数は30Hzとなる。更に、図4(C)に示したように、シャッター眼鏡6の駆動周波数が60Hz、室内照明の駆動周波数が50Hz(光出力は100Hz)である場合、40Hzもの顕著なフリッカが生じてしまう。加えて、上記のようなフリッカとしては、シャッター眼鏡6の駆動周波数およびその高調波と、室内照明の駆動周波数およびその高調波とから、様々な周波数のものが発生し、更にその発生したフリッカの高調波をも関与して多くの周波数のフリッカが観測される。このようなフリッカは、観察者にとって非常に不快であり、疲労の原因となる。
【0037】
尚、上記のようなフリッカの発生は、シャッター眼鏡6における入射側の偏光板(図2におけるシャッター入射側偏光板60A)を完全に除去することにより、防ぐことが可能である。また、このように入射側の偏光板を除去した場合であっても、液晶表示装置1における出射側の偏光板(パネル出射側偏光板2B)の透過軸と、シャッター眼鏡6における出射側の偏光板(シャッター出射側偏光板60B)の透過軸とが一致するようにすれば、映像の見え方に影響が生じることはない。
【0038】
ところが、シャッター入射側偏光板60Bを完全に除去してしまうと、観察者が少しでも頭を傾けた場合、液晶表示装置1における出射側の偏光板とシャッター眼鏡6における出射側の偏光板との透過軸がずれてしまう。この結果、シャッター眼鏡6自体のコントラストがその最大値からずれ(コントラストが低下し)易くなり、左眼用映像と右眼用映像との間で顕著なクロストークを発生する。クロストークが生じると、例えば映像が2重になって見える等、上記フリッカと同様、観察者に不快感や疲労感を与えてしまう。
【0039】
そこで、本実施の形態では、シャッター眼鏡6において、シャッター入射側偏光板60AのコントラストCR(偏光度)をシャッター出射側偏光板60BのコントラストCR(偏光度)よりも低くなるように設定している。例えば、シャッター入射側偏光板60Aにおける偏光度を0.200以上0.900以下とし、シャッター出射側偏光板60Bにおける偏光度を0.998以上としている。このように設定することで、以下に説明するような関係にあるフリッカとクロストークの発生具合を、観察者に不快感を与えない程度にそれぞれ最適化することができる。
【0040】
即ち、Taを偏光板の透過軸における透過率(0≦Ta≦100)、Tbを偏光板の吸収軸の透過率(0≦Tb≦100)として、TP=(Ta2+Tb2)/2、TC=Ta×Tbと定義すると、偏光板のコントラストCRと偏光度Vとの間には、以下の式(1),(2)のような関係が成り立つ。尚、ここでは、偏光板のコントラストCRを、透過軸の透過率Taと吸収軸の透過率Tbとの比とする。
CR=Ta/Tb=(1+V)/(1−V) ………(1)
V=√((TP−TC)/(TP+TC))=(CR−1)/(CR+1)………(2)
【0041】
シャッター入射側偏光板60AのコントラストCRが低くなると、シャッター眼鏡6自体のコントラストが低くなるので、室内照明光に対するコントラストが相対的に低下して、フリッカが目立ちにくくなる。一方、表示映像におけるコントラストは、パネル出射側偏光板2Bとシャッター出射側偏光板60Bとによって支配されることになるので、シャッター入射側偏光板60Aのコントラストを低く設定したとしても、表示映像では高コントラストが維持される。但し、この場合であっても、観察者が頭を傾けるなどして、パネル出射側偏光板2Bにおける透過軸C2と、シャッター入射側偏光板60Aの透過軸C3とがずれた場合、シャッター入射側偏光板60Aが低コントラストであると、やはりクロストークを生じることもある。即ち、シャッター入射側偏光板60AのコントラストCRが低い程、フリッカは小さくなるが、クロストークは大きくなるという傾向がある。つまり、フリッカの発生とクロストークの発生とは、シャッター入射側偏光板60Aのコントラストに対してトレードオフの関係にある。
【0042】
従って、望ましくは、シャッター入射側偏光板60AのコントラストCRを、フリッカおよびクロストークの両方を許容し得る実効的な値に設定する。具体的には、シャッター入射側偏光板60AのコントラストCRが、2.2あるいは3.2(偏光度が0.375または0.524)であることにより、観察者がフリッカおよびクロストークの両者を許容可能となるため、観察時において不快感や疲労感を受けにくくなる。
【0043】
以上のように、本実施の形態では、シャッター眼鏡6において、シャッター入射側偏光板60AのコントラストCRがシャッター出射側偏光板60BのコントラストCRよりも低くなるようにしたので、観察映像においてフリッカの発生を抑制しつつクロストークを低減することが可能となる。またこれにより、観察者に不快感や疲労感を与えない高品質な映像表示(例えば立体映像表示)を実現することができる。
【0044】
(実施例)
以下、本実施の形態における具体的な実施例(実施例1〜3)について説明する。実施例1〜3として、それぞれコントラストCRの異なるシャッター眼鏡6を作製し、作製したシャッター眼鏡6におけるフリッカおよびクロストークの発生具合について、定量的に調べると共に、人間の眼による主観評価を行った。シャッター入射側偏光板60AにおけるコントラストCRについては、実施例1では9.8、実施例2では3.2、実施例3では2.2とした。但し、バックライト3としては、LEDを用い、これを明滅駆動させた(点灯期間のDuty:25%)。シャッター眼鏡6におけるシャッター開口Dutyについては、特に記載する場合を除いて50%とした。また、これらの実施例1〜3の比較例1として、高コントラスト(CR=1000)の偏光板をシャッター入射側に設けた場合、比較例2としてシャッター入射側に偏光板を設けなかった場合についても、実施例1〜3と同様の測定を行った。
【0045】
図5は、シャッター開口Dutyを10%〜50%とした各場合において、照明光の明暗比(%)を、実施例1,2および比較例1,2について示したものである。図6は、図5におけるシャッター開口Dutyが12.5%の場合のシャッター入射側偏光板60AのコントラストCRと、照明光の明暗比との関係を示したものである。尚、照明光の明暗比とは、室内照明光等の光強度における最大値をV1、最小値をV2とした場合に、以下の式(3)によって表されるものとする。このように、フリッカは、シャッター入射側偏光板60AのコントラストCRが高い比較例1においては顕著に発生し、コントラストCRが低くなる程、小さくなっていることがわかる(比較例1>実施例1>実施例2>比較例2)。
[(V1−V2)/{(V1+V2)/2}]×100 ………(3)
【0046】
図7(A),(B)は、シャッター眼鏡6の正立時および回転時の各場合におけるクロストークとシャッター眼鏡6自体のコントラスト(眼鏡コントラスト)を、実施例2,3および比較例1〜3について示したものである。また、正立時は、水平方向Xに沿って左眼用レンズ6Lおよび右眼用レンズ6Rが配置されている状態、回転時は、その正立時から20°回転した状態で左眼用レンズ6Lおよび右眼用レンズ6Rが配置されている状態を指すものとする(図8)。また、比較例3としては、光源としてLEDではなくCCFLを用い、これを常時点灯(点灯期間のDuty:100%)させた場合の測定結果を示している。尚、比較例3では、シャッター眼鏡の入射側偏光板には高コントラスト(CR=1000)のものを用いた。
【0047】
図7(A)に示したように、正立時においては、パネル出射側偏光板2Bとシャッター入射側偏光板60Aとの各透過軸が一致しているため、シャッター入射側偏光板60AのコントラストCRの違いにより眼鏡コントラストに大きな差は生じない。その結果、クロストークにはほとんど差が生じないことがわかる。一方、図7(B)に示したように、回転時においては、眼鏡コントラストがコントラストCRの低くなる程低下し、これに伴ってクロストークが増加していることがわかる。
【0048】
図9は、上記のような回転時(20°)におけるシャッター入射側偏光板60AのコントラストCRとクロストークとの関係を表したものである。このように、クロストークは、シャッター入射側偏光板60AのコントラストCRが低くなる程、大きくなっていることがわかる(比較例2>実施例3>実施例2>実施例1>比較例1)。
【0049】
これらの測定結果から、フリッカとクロストークとは上述したようなトレードオフの関係にあることがわかる。そこで、シャッター入射側偏光板60AのコントラストCRにおける実効的な解を求めるべく、以下のような主観評価実験を行った。即ち、実施例1〜3および比較例2の各場合について、3名の観察者が実際にシャッター眼鏡6を着用して、表示映像を観察し、発生したフリッカおよびクロストークのそれぞれについて許容できるか否かについて評価を行った。但し、3名全員が許容できると判定した場合を「○」、3名のうち1名でも許容できないと判定した場合を「△」、3名全員が許容できないと判定した場合を「×」として示す。尚、「−」の表記は、評価を行っていないことを示す。また、表示映像(ビデオ)の駆動周波数を、48Hz,50Hz,60Hz、室内照明(LED)の駆動周波数を100Hz,120Hz、シャッター開口Dutyを12.5%,37%,50%とした各場合について判定を行った。図10(A)がフリッカについての評価結果、図10(B)がクロストークについての評価結果をそれぞれ示すものである。
【0050】
このような主観評価実験の結果、フリッカの発生とクロストークの発生との両方において、1名以上が許容できるという判定(即ち、「○」または「△」の判定)となったのは、実施例2,3、特にシャッター開口Dutyを50%とした場合であることがわかった。従って、シャッター入射側偏光板60AのコントラストCRを、特に3.2および2.2とすると共に、シャッター開口Dutyを50%とした場合に、フリッカおよびクロストークの発生具合が最適化され、これらの両方を実効的に低減することが可能となる。
【0051】
<変形例>
図11は、上記実施の形態の変形例に係る映像表示システム(マルチビューシステム)における映像表示動作の概要を模式的に表したものである。本変形例では、これまで説明した立体映像表示動作の代わりに、複数人の観察者(ここでは、2人の観察者)に対し、互いに異なる複数(ここでは、2つ)の映像を個別に表示することを可能とする映像表示動作を行う。尚、上記実施の形態と同様の構成要素については同一の符号を付し、適宜説明を省略する。
【0052】
本変形例のマルチビューシステムでは、1人目の観察者に対応する第1の映像信号に基づく第1の映像と、2人目の観察者に対応する第2の映像信号に基づく第2の映像とが、時分割で交互に表示される。即ち、これまでは、シャッター眼鏡6における左眼用レンズ6Lおよび右眼用レンズ6Rごとにそれぞれ対応する左眼用映像および右眼用映像が表示されるのに対し、本変形例では、観察者(ユーザ)毎にそれぞれ対応する複数の映像が表示される。
【0053】
具体的には、図11(A)に示したように、第1の映像V1の表示期間においては、制御信号CTL1により、観察者71が用いるシャッター眼鏡61において、右眼用レンズ6Rおよび左眼用レンズ6Lの双方が開状態となっている。また、制御信号CTL2により、観察者72が用いるシャッター眼鏡62において、右眼用レンズ6Rおよび左眼用レンズ6Lの双方が閉状態となっている。即ち、観察者71のシャッター眼鏡61では、第1の映像V1に基づく表示光LV1を透過させ、観察者72のシャッター眼鏡62では、この表示光LV1を遮断させる。
【0054】
一方、図11(B)に示したように、第2の映像V2の表示期間においては、制御信号CTL2により、観察者72が用いるシャッター眼鏡62において、右眼用レンズ6Rおよび左眼用レンズ6Lの双方が開状態となっている。また、制御信号CTL1により、観察者71が用いるシャッター眼鏡61において、右眼用レンズ6Rおよび左眼用レンズ6Lの双方が閉状態となっている。即ち、観察者72のシャッター眼鏡62では、第2の映像V2に基づく表示光LV2を透過させ、観察者71のシャッター眼鏡61では、この表示光LV2を遮断させる。
【0055】
そして、このような状態が時分割で交互に繰り返されることにより、2人の観察者71,72は、互いに異なる映像(映像V1,V2)を個別に観察することが可能となる。
【0056】
本変形例のような映像表示システムにおいても、シャッター眼鏡6において、上述したようなシャッター入射側偏光板60Aを低コントラストとすることにより、上記実施の形態と同様の効果を得ることができる。
【0057】
尚、本変形例では、2人の観察者において互いに異なる2つの映像を個別に観察する場合について説明したが、3人以上の観察者において互いに異なる3つ以上の映像を個別に観察する場合にも、本発明を適用することが可能である。また、映像の数とシャッター眼鏡の数は必ずしも同数となっていなくともよい。すなわち、ある1つの映像に対応して開閉動作を行うシャッター眼鏡を複数個用意し、1つの映像を複数人の観察者で観察するようにしてもよい。
【0058】
以上、実施の形態および変形例を挙げて本発明を説明したが、本発明はこれらの実施の形態等に限定されず、種々の変形が可能である。例えば、シャッター眼鏡6において、シャッター入射側偏光板とシャッター出射側偏光板との間に、例えば1/4λ板等の位相差板を挿設してもよい。ここで、本発明のように、シャッター入射側偏光板60Aの偏光度を低い値に設定する場合には、画面全体が着色することがある。これは、観察者が頭を傾けるなどしてパネル出射側偏光板における透過軸とシャッター入射側偏光板における透過軸にずれが発生する場合で、シャッター眼鏡6に入射した光と液晶との間で複屈折が起こるためである。上記のように、位相差板を配置することにより、このような透過軸のずれによる着色を低減することができる。
【0059】
また、上記実施の形態等では、フリッカの程度は室内照明等に依存するので、フリッカとクロストークを使用環境に合わせて最適化できるように、シャッター入射側偏光板60Aのコントラストやシャッター開口Dutyを機械的あるいは電気的に調節する機構を設けてもよい。また、このような調節は観察者が手動で行ってもよいし、センサー等により自動的に行うようにしてもよい。
【符号の説明】
【0060】
1…液晶表示装置、2…液晶表示パネル、20…画素、3…バックライト、41…映像信号処理部、42…シャッター制御部、43…タイミング制御部、50…バックライト駆動部、51…データドライバ、52…ゲートドライバ、6,61,62…シャッター眼鏡、6L…左眼用レンズ、6R…右眼用レンズ、7,71,72…観察者、7L…左眼、7R…右眼、Din(DL,DR),D1…映像信号、CTL,CTL1,CTL2…制御信号、L…左眼用映像、R…右眼用映像、V1,V2…映像、LL,LR,LV1,LV2…表示光。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
複数の映像を時分割で切り換えて表示し、表示光として直線偏光を出射する映像表示装置と、
前記映像表示装置における映像の切り換えに同期して、入射光を透過させる開動作と遮断する閉動作とを切り換えるシャッター眼鏡とを備え、
前記シャッター眼鏡は、
液晶素子を含むと共に、前記液晶素子の光入射側にシャッター入射側偏光板、光出射側にシャッター出射側偏光板をそれぞれ有し、前記シャッター入射側偏光板の偏光度が、前記シャッター出射側偏光板の偏光度よりも低いものである
映像表示システム。
【請求項2】
前記シャッター入射側偏光板の偏光度は0.200以上0.900以下であり、前記シャッター出射側偏光板の偏光度は0.998以上である
請求項1に記載の映像表示システム。
【請求項3】
前記シャッター入射側偏光板と前記シャッター出射側偏光板との間に位相差板が設けられている
請求項1に記載の映像表示システム。
【請求項4】
前記複数の映像は、互いに視差を有する左眼用映像および右眼用映像であり、
前記シャッター眼鏡は、左眼用液晶素子と右眼用液晶素子とを有し、前記左眼用映像および前記右眼用映像の表示切り替えに同期して、前記左眼用液晶素子および前記右眼用液晶素子を交互に開閉させる
請求項1に記載の映像表示システム。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【公開番号】特開2011−146797(P2011−146797A)
【公開日】平成23年7月28日(2011.7.28)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−4175(P2010−4175)
【出願日】平成22年1月12日(2010.1.12)
【出願人】(000002185)ソニー株式会社 (34,172)
【Fターム(参考)】