説明

曲線運動装置

【課題】曲線軌道レールの腐食又は錆のおそれを低減できる曲線運動装置を提供する。
【解決手段】曲線運動装置は、レール台座と、レール台座と一体形成又は一体に金属接合された無端環状の曲線軌道レールと、曲線軌道レールを摺動するスライダーと、を含む。例えば、レール台座と曲線軌道レールとは、鍛造によりレール台座から曲線軌道レールを突出させる。又は、レール台座と曲線軌道レールとは、溶接によりレール台座と曲線軌道レールとを接合して一体とする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、曲線運動装置に関する。
【背景技術】
【0002】
例えば、光学測定装置やレントゲン装置、CTスキャナ、舞台装置、アミューズメント機器、工作機械などのように所定の回転運動や曲線運動を伴う機器に適用される曲線運動装置が知られている。
【0003】
例えば、特許文献1から3には、複数の一定曲率の円弧状の曲線軌道レールをレール台座状に配置した曲線運動装置が記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2009−024842号公報
【特許文献2】特開2009−127647号公報
【特許文献3】特開2010−127345号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、特許文献1から3に記載の曲線運動装置は、風雨に曝される又は薬液で腐食又は発錆するといった過酷環境での耐久性を考慮していなかった。曲線運動装置は、複数の曲線軌道レール同士の継ぎ目、レール台座と曲線軌道レールとの締結ボルト座面、レール台座と曲線軌道レールとの間の微小隙間等組み立て上形成される隙間又は座面を有している。隙間又は座面は、水分、塵、薬液が浸入又は堆積しやすく、曲線軌道レールの腐食又は錆につながるおそれがある。
【0006】
本発明は、上記に鑑みてなされたものであって、曲線軌道レールの腐食又は錆のおそれを低減できる曲線運動装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明の曲線運動装置は、レール台座と、前記レール台座と一体形成又は一体に金属接合された無端環状の曲線軌道レールと、前記曲線軌道レールを摺動するスライダーと、を含むことを特徴とする。
【0008】
これにより、レール台座と円弧状軌道との締結ボルト座面、レール台座と曲線軌道レールとの間の微小隙間等組み立て上形成される隙間又は座面が低減されている。このため、隙間又は座面に水分、塵、薬液が浸入又は堆積するおそれが低減される。その結果、曲線軌道レールが腐食して、あるいは曲線軌道レールに錆が生じて、スライダーが曲線軌道レールを滑走する障害となることが低減される。また、腐食又は錆による周囲の汚染が低減される。また、風雨に曝される又は薬液で腐食又は発錆するといった過酷環境での耐久性が向上する。
【0009】
本発明の望ましい態様として前記曲線軌道レールは、径の異なる複数の曲線軌道レールが同心円状に配置され、前記スライダーを移動台で連結することが好ましい。これにより、曲線軌道レールの軌道面の真円度又は曲線軌道レール同士の軌道面の同軸度を高精度とすることができる。このため、径の異なる複数の曲線軌道レールに配置されたスライダーを移動台で連結できる。また、移動台にかかる荷重(モーメント荷重又はアキシャル荷重)は、径の異なる複数の曲線軌道レールに分散してかかる。その結果、曲線軌道レールの寿命を延ばすことができる。
【0010】
本発明の望ましい態様として、前記レール台座と前記曲線軌道レールとは、鍛造により前記レール台座から前記曲線軌道レールを突出させることが好ましい。これにより、曲線軌道レールが鍛錬され、剛性が高まる。また、曲線軌道レールとレール台座との間に隙間がなくなり、ボルトで組み付ける必要もないことからボルト座面も低減できる。その結果、曲線軌道レールの腐食又は発錆のおそれが低減される。
【0011】
本発明の望ましい態様として、前記レール台座と前記曲線軌道レールとは、溶接により前記レール台座と前記曲線軌道レールとを接合して一体とすることが好ましい。これにより、曲線軌道レールとレール台座との間に隙間がなくなり、ボルトで組み付ける必要もないことからボルト座面も低減できる。その結果、曲線軌道レールの腐食又は発錆のおそれが低減される。
【0012】
本発明の望ましい態様として、前記レール台座と前記曲線軌道レールとは炭素鋼により形成されていることが好ましい。これにより、焼き入れ時に高い硬度がえられる。
【0013】
本発明の望ましい態様として、前記レール台座と前記曲線軌道レールとは、防錆処理が施されていることが好ましい。これにより、発錆のおそれが低減される。また、継ぎ目、隙間又は座面が低減されているので、防錆処理を施す前の洗浄処理の薬液が残留してしまうおそれが低減されている。このため防錆処理の品質が向上する。
【発明の効果】
【0014】
本発明によれば、曲線軌道レールの腐食又は錆のおそれを低減できる曲線運動装置を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0015】
【図1】図1は、実施形態1の曲線運動装置の全体斜視図である。
【図2】図2は、実施形態1の曲線運動装置のスライダーを示す部分破断斜視図である。
【図3】図3は、実施形態1の曲線運動装置の曲線軌道レールに対する高周波焼入れ工程の一例を示す概念図である。
【図4】図4は、実施形態1の曲線運動装置の曲線軌道レールの一部を示す斜視図である。
【図5】図5は、実施形態1の曲線運動装置の曲線軌道レールの一部にスライダーの逃げ部を形成した一例を示す斜視図である。
【図6】図6は、実施形態2の曲線運動装置の全体斜視図である。
【発明を実施するための形態】
【0016】
本発明を実施するための形態(実施形態)につき、図面を参照しつつ詳細に説明する。以下の実施形態に記載した内容により本発明が限定されるものではない。また、以下に記載した構成要素には、当業者が容易に想定できるもの、実質的に同一のものが含まれる。さらに、以下に記載した構成要素は適宜組み合わせることが可能である。
【0017】
(実施形態1)
図1は、実施形態1の曲線運動装置の全体斜視図である。図2は、実施形態1の曲線運動装置のスライダーを示す部分破断斜視図である。図1に示す曲線運動装置100は、レール台座30と、複数の曲線軌道レール10A、10Bと、複数のスライダー20、20と、移動台40と、を含んでいる。なお、非焼入部Aについては、後述する。
【0018】
レール台座30は、ドーナツ円板状をしている。レール台座30の形状はこれに限られず、円盤状であっても、矩形の板状であってもよい。曲線軌道レール10A、10Bとは逆のレール台座30の裏面には、タップ穴加工が施されていることが好ましい。このタップ穴は、レール台座裏面にある機台からのボルトが締結可能となっており、固定が容易である。また、曲線軌道レール10A、10Bとは逆の裏面に設けたので、例え錆が発生しても曲線軌道レール10A、10Bへの影響を低減できる。なお、タップ穴の下穴は、止まり穴になっていることがより好ましい。
【0019】
曲線軌道レール10A、10Bは、径の異なる2つの無端環状に形成されている。曲線軌道レール10A、10Bは、レール台座30上に配置され、同心円状に配置されている。スライダー20、20は、各曲線軌道レール10A、10Bに沿って摺動できるように取り付けられている。移動台40は、内外のスライダー20、20を移動台40で連結した構造となっている。
【0020】
曲線軌道レール10A、10Bは、図2に示すように断面矩形状かつ円形状に形成されたレール本体11を有している。レール本体11は、レール台座30と一体に形成された一体構造となっている。これにより、一般的な直動ガイドのレール上面にあるようなボルト沈頭穴を低減できる。曲線軌道レール10A、10B及びレール台座30は、構造用の炭素鋼で形成されている。曲線軌道レール10A、10B及びレール台座30は、例えば高炭素鋼(例えば、JIS規格S55C等)で形成する。
【0021】
レール本体11とレール台座30とを一体に形成するには、金属の母材を熱間鍛造(鍛造加工)して形成することが好ましい。例えば、合わせるとレール本体11とレール台座30との形状となるような空隙をもつ上下一対の金型の間で、ハンマ又はプレスにより、金属の母材を圧縮し、金型内に充填することにより造形を行うことで形成することができる。あるいは、金型による三次元的な拘束をせずに、金属の母材はハンマにより圧縮加工され、レール台座30からレール本体11を突出させてもよい。これにより、レール本体11は、鍛造によりレール台座30から迫り上げて一体構造としている。つまり、一体構造とは、鍛造加工によりレール台座30からレール台座30の同一材料でレール本体11が突出した構造である。
【0022】
また、レール本体11とレール台座30とを一体に熱間鍛造(鍛造加工)して形成することで、レール本体11が鍛錬され、レール本体11の剛性が高まる。また、レール本体11とレール台座30との間に隙間がなくなり、ボルトで組み付ける必要もないことからボルト座面も低減できる。その結果、腐食又は発錆のおそれが低減される。また部品点数が減り、安価に曲線運動装置100を提供できる。
【0023】
レール本体11とレール台座30とを一体に形成するには、金属の母材を鋳造して形成してもよい。例えば、合わせるとレール本体11とレール台座30との形状となるような空隙をもつ上下一対の金型の間に金属の母材を金型内に充填することにより造形を行うことで形成することができる。鋳造加工によりレール台座30からレール台座30の同一材料でレール本体11が突出した構造となる。
【0024】
レール本体11には、両側面、すなわちレール本体11の内周面と外周面とに、それぞれ断面円弧溝状をしたレール側上段の軌道面12a、12aと、レール側下段の軌道面12b、12bとがそれぞれその長手方向に沿って連続かつ平行に形成されている。
【0025】
曲線軌道レール10A、10Bは、それぞれレール本体11をレール台座30上に一体形成した後に、各軌道面12a、12a、12b、12bが研削加工又は切削加工されている。これにより、曲線軌道レール10A、10Bの真円度及び同軸度を調整している。
【0026】
曲線軌道レール10A、10B及びレール台座30は、応力除去のため熱処理を施すことが好ましい。レール本体11は、鍛造によりレール台座30から迫り上げて一体構造としているので、熱膨張差が生じにくく、剛性が高い。熱処理後、曲線軌道レール10A、10Bは、CBN(立方晶窒化ホウ素)刃先による軌道面12a、12a、12b、12bの仕上げ切削加工が施される。これにより、軌道面12a、12a、12b、12bは、精度が高くなり好ましい。
【0027】
仕上げ加工後、曲線軌道レール10A、10B及びレール台座30は、防錆処理が施される。例えば、曲線軌道レール10A、10B及びレール台座30の全体に、フッ化低温クロムめっきを施すことが好ましい。これにより、曲線軌道レール10A、10Bの発錆のおそれを低減できる。
【0028】
また、スライダー20、20は、一般的なリニアガイド装置で用いられているスライダーと同様な構造である。スライダー20、20は、曲線軌道レール10A、10Bのレール本体11をそれぞれ跨ぐように下向きコ字形をしたスライダー本体21と、このスライダー本体21の摺動方向両端面にそれぞれ取り付けられる下向きコ字形をしたエンドキャップ22、22と、複数個の転動体(ボール)Bと、を含んでいる。
【0029】
なお、スライダー20、20は防錆処理が施されることが好ましい。これにより、スライダー20、20の発錆のおそれが低減される。例えば、スライダー20、20には、曲線軌道レール10A、10B及びレール台座30と同様に、フッ化低温クロムめっきを施すことが好ましい。
【0030】
スライダー本体21の内面両側部には、曲線軌道レール10A、10B側の上段の軌道面12a、12a及び下段の軌道面12b、12bとそれぞれ対向するように、同じく断面円弧状をしたスライダー側上段の軌道面23a、23a(図2では一方のみ図示)と、スライダー側下段の軌道面23b、23b(同じく図2では一方のみ図示)とが上下に形成されている。
【0031】
また、スライダー本体21内には、その長手方向に貫通するように上段通過孔24a、24a(同じく図2では一方のみ図示)と、下段通過孔24b、24b(同じく図2では一方のみ図示)が形成されている。
【0032】
また、上段通過孔24a、24aとスライダー側上段の軌道面23a、23a、及びこの下段通過孔24b、24bとスライダー側下段の軌道面23b、23bとがエンドキャップ22、22内にそれぞれ4つずつ形成された図示しない曲線路状の方向転換孔によって連通されている。これによって、合計4つ(左右上下2つずつ)の循環路25、25、25、25(図2では2つのみ図示)が形成されている。
【0033】
そして、図示するように、これら4つの循環路25、25、25、25には、鋼製の転動体Bが複数数珠繋ぎ状に配列されており、これらの転動体Bがその内部を転動しながら循環することで、曲線軌道レール10A、10B上をそれぞれスライダー20、20が円滑に摺動するようになっている。
【0034】
また、これら内外のスライダー20、20を連結する移動台40は、例えば上面が平坦な矩形状の金属板などから構成されている。移動台40は、図1及び図2に示すように、内外のスライダー20、20の上面間に架け渡すように設置されている。移動台40は、スライダー本体21の上面に形成されたボルト孔21aを利用してその上面から図示しないボルトを締結することで内外のスライダー20、20を一体的に連結する。移動台40は、上部に図示しない所定の機器(環状可動機器)を取り付け可能となっている。
【0035】
図3は、実施形態1の曲線運動装置の曲線軌道レールに対する高周波焼入れ工程の一例を示す概念図である。図4は、実施形態1の曲線運動装置の曲線軌道レールの一部を示す斜視図である。本実施形態の曲線運動装置100は、図3に示すように曲線軌道レール10A、10Bに焼き入れを施すことが好ましい。図4に示すように、曲線軌道レール10A、10Bの少なくともスライダー20が摺動する軌道面12a、12a、12b、12bを含む部分には、熱処理による焼入部Qがその周方向に沿って連続して形成されている。また、焼入部Qの始点Sと終点Tとの間には、図1及び図4に示す熱処理が行われていない非焼入部Aを有する構造となっている。
【0036】
焼入部Qは、例えば図3に示すような構成をした高周波焼入装置200による高周波焼入れによって形成することができる。高周波焼入装置200は、曲線軌道レール10A、10Bの内側及び外側であって曲線軌道レール10A、10Bの中心からみてその同位相上に配置される少なくとも一対の高周波(誘電加熱)コイル60、60と、この高周波コイル60、60の移送方向下流に配置された少なくとも一対の冷却手段70、70と、曲線軌道レール10A、10Bをそれぞれその周方向に沿って移動させながら高周波焼入を制御する図示しないコントローラとから構成されている。
【0037】
コントローラによって各曲線軌道レール10A、10Bをその周方向に沿ってゆっくりと回転走行させながら高周波コイル60、60に誘導加熱Hを加える。誘導加熱Hは、図4に示す軌道面12a、12a、12b、12bを含む各曲線軌道レール10A、10Bの両側面をその鋼のA1変態点以上(約700℃以上)に加熱する。図3に示すように、加熱した直後、冷却手段70、70によってその加熱部分に冷却液Cを吹き付けて急冷する。これにより、図4に示す軌道面12a、12a、12b、12bには、耐摩耗性や機械的強度に優れた焼入部Qが形成される。
【0038】
図4に示すように各曲線軌道レール10A、10Bの焼入部Qの始点Sと終点Tとが重なり合わないように、始点Sと終点Tの間に非焼入部Aを形成する。非焼入部Aは、焼入れの重なりを原因とする割れの発生を抑制することができる。
【0039】
また、焼入部Qの始点Sと終点Tとの間に形成される非焼入部Aは、それぞれ曲線軌道レール10A、10Bの内周側と外周側とでほぼ同位相に形成されている。これは、同じ位相に配置することで両側軌道面12a、12a、12b、12bに焼入れを同時に行うことができるだけでなく、焼入れによる変形を無視することができるからである。すなわち、片面ごとに焼入れを行ってもよいが、焼入れによって曲線軌道レール10A、10Bが変形するため、他方の面を焼入れする際に再度高周波コイル60とのキャップ調整が必要となり、処理が面倒となるからである。
【0040】
また、焼入部Qを形成するための熱処理として高周波焼入れを用いることにより、局部的な連続焼入れが可能である。これにより、浸炭焼入れやズブ焼入れのような大きな熱処理炉が不要となる。その結果、膨大な設備投資が不要となり、また、生産場所の省スペース化も図ることができる。局部的な連続焼入れは、火炎焼入れによっても可能であるため、上述したような高周波焼入装置200に代えて火炎焼入れ装置を用いることも可能である。
【0041】
また、この非焼入部Aの周方向長さは、スライダー20の周方向の長さよりも短くすることが好ましい。すなわち、焼入部Qに比べて機械的強度が低い非焼入部Aにスライダー20が達したときでも、非焼入部Aに対してスライダー20の全荷重がかかるおそれが低減される。このため、非焼入部Aの早期剥離や摩耗を低減することができる。
【0042】
また、図5に示すように、非焼入部Aを含む範囲にスライダー20の荷重が殆ど作用しない逃げ部R(緩やかな凹み)を形成してもよい。焼入部Qに比べて機械的強度が低い非焼入部Aに対して、スライダー20の転動体Bが荷重を支持しながら転動すると、その硬さや強度不足によってこの非焼入部Aに早期に剥離又は摩耗が生ずるおそれがある。これに対して、この非焼入部Aを含む範囲にスライダー20の荷重が作用しない逃げ部Rが形成すれば、非焼入部Aにスライダー20が達したときでも、非焼入部Aに対してスライダー20の全荷重がかかるおそれが低減される。このため、非焼入部Aの剥離又は摩耗を低減することができる。
【0043】
本実施形態1の曲線運動装置100は、移動台40のスライダー20、20にかかる大きな荷重(モーメント荷重やアキシアル荷重)を、径の異なる2つの無端環状の曲線軌道レール10A、10Bによって分散して受けることができる。この結果、曲線軌道レール10A、10Bを幅広化又はスライダー20、20を大型化する必要を低減でき、曲線運動装置100全体の軽量化や製造コストの削減などが可能となる。
【0044】
また、各曲線軌道レール10A、10B間やその周辺に駆動用のリニアモータや位置センサなどを配置することが容易となる。
【0045】
なお、本実施形態1の曲線運動装置100は、内外一対(2つ)の曲線軌道レール10A、10Bを備えた例で説明した。さらに曲線軌道レールを3重以上の同心円状に設け、内外の各スライダー20を1つの移動台40で纏めて連結するようにしてもよい。また、内外のスライダー20、20を連結する移動台40を同一曲線軌道レール上に複数独立して備えてもよい。
【0046】
上述したように本実施形態の曲線運動装置100は、各曲線軌道レール10A、10Bがレール台座30上に一体形成されている。これにより、本実施形態1の曲線運動装置100は、複数の曲線軌道レール10A、10B同士の継ぎ目、レール台座30と曲線軌道レール10A、10Bとの締結ボルト座面、レール台座30と曲線軌道レール10A、10Bとの間の微小隙間等組み立て上形成される隙間又は座面が低減されている。このため、隙間又は座面に水分、塵、薬液が浸入又は堆積するおそれが低減される。その結果、曲線軌道レール10A、10Bが腐食又は発錆して、スライダー20、20が曲線軌道レール10A、10Bを滑走する障害となることが低減される。また、腐食又は錆による周囲の汚染が低減される。また、風雨に曝される又は薬液で腐食又は発錆するといった過酷な環境での耐久性が向上する。
【0047】
また、曲線運動装置100は、曲線軌道レール10A、10Bに、継ぎ目、隙間又は座面が低減されているので、防錆処理を施す前の洗浄処理の薬液が残留してしまうおそれが低減されている。このため防錆処理の品質が向上する。
【0048】
また、曲線運動装置100は、曲線軌道レール10A、10B及びレール台座30を締結するボルトが不要であるので、ボルト締結時に防錆処理を剥離してしまうおそれが低減されている。
【0049】
また、各曲線軌道レール10A、10Bがレール台座30上に一体形成されて一体構造となっているので、従来ボルトにて組み付けられていた曲線運動装置と比較して、剛性が高い。
【0050】
また、本実施形態1の曲線運動装置100は、複数の曲線軌道レール10A、10Bをレール台座30上に同心円状に多重に一体構造としている。これにより、移動台40の動きをよりスムーズにすることが可能となる。従来、移動台40によって連結された内外のスライダー20、20が円滑に動作するためには、各曲線軌道レール10A、10Bをその真円度と同軸度とが極めて小さくなるようにレール台座30上に組み付ける必要があるが、曲線軌道レール10A、10Bのような薄肉輪状の部材を高度な真円度を保ち、かつ互いの同軸度を維持しながら組み付けることは難しい。
【0051】
これに対して、本実施形態1の曲線運動装置100は、レール台座30上に一体形成された各曲線軌道レール10A、10Bを有する。その結果、レール台座30を基準として軌道面12a、12a、12b、12bを加工できる。よって、回転中心と曲線運動装置100の中心とを合わせる作業を短縮でき、かつ高精度な真円軌跡がえられる。レール台座30上の多重の曲線軌道レールの軌道面12a、12a、12b、12bを同時加工してもよい。
【0052】
ワンチャックで同時加工することができるので、高精度な同軸性がえられる。また、同時加工により、軌道面12a、12a又は軌道面12b、12bを同一平面上とすることができるため、各スライダー20、20は、全て同一平面上を走行できる。よって、スライダー20、20同士を連結しても回転力や捻れが生じ難く、移動台40の姿勢精度を保つことができる効果も発揮できる。
【0053】
また、移動台40でスライダー20を連結すると、互いのスライダー20、20内部の転動体Bの予圧量がミスアライメントにより変化するおそれがある。本実施形態1の曲線運動装置100は、スライダー20、20内部の転動体Bの予圧量がミスアライメントにより変化するおそれを低減できる。その結果、曲線運動装置100の寿命を延ばすことができる。
【0054】
本実施形態の曲線運動装置100は、図1に示すように、各曲線軌道レール10A、10Bの各非焼入部Aが内側に配置された曲線軌道レールと外側に配置された曲線軌道レールとでほぼ同位相に位置しないように配置されている。この結果、移動台40で連結された各スライダー20、20が各曲線軌道レール10A、10Bの非焼入部Aに同時に位置することを避けることができるため、曲線運動装置100の寿命を延ばすことができる。
【0055】
すなわち、各曲線軌道レール10A、10Bと同様に、焼入部Qに比べて機械的強度が低い非焼入部Aにスライダー20が達したときでも、その各曲線軌道レール10A、10Bの非焼入部Aに対して2つのスライダー20、20が同時に達して全荷重が同時にかかることがなくなるため、その非焼入部Aの早期剥離や摩耗を低減することができる。
【0056】
(実施形態2)
図6は、実施形態2の曲線運動装置の全体斜視図である。本実施形態では、曲線軌道レールと、レール台座とが溶接により一体に金属接合されている点に特徴がある。なお、上述した実施形態で説明したものと同じ部材には同一の符号を付して重複する説明は省略する。
【0057】
曲線軌道レール10A、10Bは、図6に示すように断面矩形状かつ円形状に形成されたレール本体15を有している。レール本体15は、レール台座30と、別体に形成されている。実施形態2の曲線運動装置は、レール本体15とレール台座30とが一体に金属接合されている。例えば、実施形態2の曲線運動装置は、溶接により接合Mを形成し、レール本体15とレール台座30とを一体とする。接合Mは、曲線軌道レール10A、10Bの周方向に沿って、連続して形成することが好ましい。また、接合Mは、曲線軌道レール10A、10Bの周方向に沿って、連続して全周に渡って形成することが好ましい。レール本体15の両側面、すなわちレール本体15の内周面と外周面とに、接合Mがそれぞれレール本体15の長手方向に沿って連続かつ平行に形成されていることがより好ましい。
【0058】
曲線軌道レール10A、10B及びレール台座30は、後述する溶接の応力緩和の熱処理により熱膨張差が生じるおそれを低減するため、同じ材料、例えば同じ炭素鋼を使用することが好ましい。曲線軌道レール10A、10B及びレール台座30は高炭素鋼(例えば、JIS規格S55C等)で形成する場合、溶接棒はオーステナイト系ステンレス鋼(例えば、JIS規格SUS309等)を用いて、溶接し、接合Mを形成することが好ましい。これにより、水素拡散による割れを抑制することができる。
【0059】
曲線軌道レール10A、10Bは、それぞれレール本体15をレール台座30上に溶接し一体構造とした後に、各軌道面12a、12a、12b、12bが研削加工又は切削加工されている。これにより、曲線軌道レール10A、10Bの真円度及び同軸度を調整している。
【0060】
曲線軌道レール10A、10B及びレール台座30は、応力除去のため熱処理を施すことが好ましい。熱処理後、曲線軌道レール10A、10Bは、CBN(立方晶窒化ホウ素)刃先による軌道面12a、12a、12b、12bの仕上げ切削加工が施される。これにより、軌道面12a、12a、12b、12bは、精度が高くなり好ましい。
【0061】
仕上げ加工後、曲線軌道レール10A、10B、レール台座30、接合Mは、防錆処理が施される。例えば、曲線軌道レール10A、10B、レール台座30、接合Mの全体に、フッ化低温クロムめっきを施すことが好ましい。これにより、曲線軌道レール10A、10Bの発錆のおそれを低減できる。
【0062】
実施形態2の曲線運動装置は、上述したように、図4に示す軌道面12a、12a、12b、12bに耐摩耗性や機械的強度に優れた焼入部Qが形成されることがより好ましい。図4に示すように各曲線軌道レール10A、10Bの焼入部Qの始点Sと終点Tとが重なり合わないように、始点Sと終点Tの間に非焼入部Aを形成する。非焼入部Aは、焼入れの重なりを原因とする割れの発生を抑制することができる。
【0063】
また、図5に示すように、非焼入部Aを含む範囲にスライダー20の荷重が殆ど作用しない逃げ部R(緩やかな凹み)を形成してもよい。焼入部Qに比べて機械的強度が低い非焼入部Aに対して、スライダー20の転動体Bが荷重を支持しながら転動すると、その硬さや強度不足によってこの非焼入部Aに早期に剥離又は摩耗が生ずるおそれがある。これに対して、この非焼入部Aを含む範囲にスライダー20の荷重が作用しない逃げ部Rが形成すれば、非焼入部Aにスライダー20が達したときでも、非焼入部Aに対してスライダー20の全荷重がかかるおそれが低減される。このため、非焼入部Aの剥離又は摩耗を低減することができる。
【0064】
上述したように実施形態2の曲線運動装置は、溶接により各曲線軌道レール10A、10Bがレール台座30上に一体形成されて一体構造となっている。これにより、実施形態2の曲線運動装置は、複数の曲線軌道レール10A、10B同士の継ぎ目、レール台座30と曲線軌道レール10A、10Bとの締結ボルト座面、レール台座30と曲線軌道レール10A、10Bとの間の微小隙間等組み立て上形成される隙間又は座面が低減されている。このため、隙間又は座面に水分、塵、薬液が浸入又は堆積するおそれが低減される。その結果、曲線軌道レール10A、10Bが腐食又は発錆して、スライダー20、20が曲線軌道レール10A、10Bを滑走する障害となることが低減される。また、腐食又は錆による周囲の汚染が低減される。また、ボルト等の部品点数が減り、安価に曲線運動装置を提供できる。
【0065】
また、実施形態2の曲線運動装置は、溶接により各曲線軌道レール10A、10Bがレール台座30上に一体形成されて一体構造となっている。このため、実施形態2の曲線運動装置は、曲線軌道レール10A、10Bをボルトでレール台座30に組み付ける場合に比較して、剛性を高めることができる。
【0066】
また、実施形態2の曲線運動装置は、曲線軌道レール10A、10Bに、継ぎ目、隙間又は座面が低減されているので、防錆処理を施す前の洗浄処理の薬液が残留してしまうおそれが低減されている。このため防錆処理の品質が向上する。
【0067】
また、実施形態2の曲線運動装置は、曲線軌道レール10A、10B及びレール台座30を締結するボルトが不要であるので、ボルト締結時に防錆処理を剥離してしまうおそれが低減されている。
【0068】
上述した実施形態1及び2の曲線運動装置は、光学測定装置、レントゲン装置、CTスキャナ、舞台装置、アミューズメント機器、工作機械などのように所定の回転運動や曲線運動を伴うあらゆる機器への適用が可能である。
【符号の説明】
【0069】
100 曲線運動装置
200 高周波焼入装置
10A、10B 曲線軌道レール
11 レール本体
12a、12b 軌道面
20 スライダー
30 レール台座
40 移動台
60 高周波コイル
70 冷却手段
B 転動体

【特許請求の範囲】
【請求項1】
レール台座と、
前記レール台座と一体形成又は一体に金属接合された無端環状の曲線軌道レールと、
前記曲線軌道レールを摺動するスライダーと、
を含むことを特徴とする曲線運動装置。
【請求項2】
前記曲線軌道レールは、径の異なる複数の曲線軌道レールが同心円状に配置され、前記スライダーを移動台で連結する請求項1記載の曲線運動装置。
【請求項3】
前記レール台座と前記曲線軌道レールとは、鍛造により前記レール台座から前記曲線軌道レールを突出させる請求項1又は2に記載の曲線運動装置。
【請求項4】
前記レール台座と前記曲線軌道レールとは、溶接により前記レール台座と前記曲線軌道レールとを接合して一体とする請求項1又は2に記載の曲線運動装置。
【請求項5】
前記レール台座と前記曲線軌道レールとは炭素鋼により形成されている請求項1から4のいずれか1項に記載の曲線運動装置。
【請求項6】
前記レール台座と前記曲線軌道レールとは、防錆処理が施されている請求項1から5のいずれか1項に記載の曲線運動装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【公開番号】特開2012−177436(P2012−177436A)
【公開日】平成24年9月13日(2012.9.13)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−40802(P2011−40802)
【出願日】平成23年2月25日(2011.2.25)
【出願人】(000004204)日本精工株式会社 (8,378)
【Fターム(参考)】