説明

有価金属回収方法

【課題】有価金属の回収において、廃電池熔融物の酸化度を安定させ、スラグと合金との分離を確実にする方法を提供する。
【解決手段】廃電池を300℃以上600℃未満の低温で予め焙焼する焙焼工程ST10と、1100℃以上1200℃以下で焙焼して酸化処理を行う酸化工程ST20と、この酸化工程において酸化処理がされた廃電池を熔融して、スラグと、有価金属の合金と、を分離して回収する乾式工程S20と、を備える。焙焼工程ST10を設けることにより、酸化工程ST20に先駈けてプラスチック成分等、酸化工程ST20の安定性を阻害する有機性炭素を予め除去して、スラグと合金との分離効率を向上することができる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、使用済み電池、例えばリチウムイオン電池等の廃電池に含有する有価金属を回収する方法に関する。
【背景技術】
【0002】
リチウムイオン電池等の、使用済み或いは工程内の不良品である電池(以下廃電池という)をリサイクルし、含有する有価金属を回収しようとする処理方法には、大きく分けて乾式法と湿式法がある。
【0003】
乾式法は、破砕した廃電池を熔融処理し、回収対象である有価金属と、付加価値の低いその他の金属等とを、それらの間の酸素親和力の差を利用して分離回収するものである。即ち、鉄等の付加価値の低い元素を極力酸化してスラグとし、かつコバルト等の有価物は酸化を極力抑制して合金として回収するものである。
【0004】
例えば、特許文献1には、高温の加熱炉を使用し、廃電池にフラックスを添加し、スラグの繰り返し処理をすることで有価金属であるニッケルやコバルトを80%前後回収できる方法が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】米国特許第7169206号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
乾式法の処理工程において、廃電池を熔融工程内で酸化する場合、酸化されるべき物質が多数あり、処理バッチごとにばらつきが大きい。そのため、熔融物に含まれる各物質の酸化度をそれぞれ適切に調整する目的で同一量の酸素を添加しても、毎回同じように各物質について適正な酸化度が得られ難く、安定的に、有価金属が回収できないという問題があった。
【0007】
より具体的には、熔融工程内で熔融物に含まれる多数の物質のなかでも、例えば電池パックのプラスチックケースに由来するプラスチック成分、隔膜に由来するポリオレフィン等の樹脂、電解質に由来する有機溶媒にリチウム塩を溶解させた有機電解液等、様々な有機性炭素(カーボン)の影響によって、酸化度の調整が困難であることが問題となっている。電池に含まれる炭素分が大量に酸化工程に持ち込まれると、熔融工程における厳密な酸化の制御が困難で酸化度にばらつきが生じ易く、そのばらつきが、熔融物内の他の物質の適正な酸化の促進或いは酸化の抑制を妨げる場合があり、酸化処理全体を不安定なものとするという問題があった。
【0008】
本発明は上記の課題を解決するためになされたものであり、その目的は、乾式法による廃電池からの有価金属の回収において、回収率を安定的に高めることのできる有価金属回収方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明者らは、有価金属の回収プロセスに先行して、所定の範囲の比較的低い温度によって廃電池を予め焙焼する前処理工程を設けることにより、酸化工程に先駈けて電池パックのプラスチックケースに由来するプラスチック成分等、酸化工程の安定性を阻害する有機性炭素を予め除去して熔融物中の炭素分を低減することにより、従来よりも効率よく有価金属が回収可能であることを見出し、本発明を完成するに至った。より具体的には、本発明は以下のものを提供する。
【0010】
(1) 廃電池からの有価金属回収方法であって、前記廃電池を300℃以上600℃未満の温度で焙焼する焙焼工程と、前記焙焼工程によって焙焼した廃電池を1100℃以上1200℃以下で焙焼して酸化処理を行う酸化工程と、前記酸化工程後の廃電池を熔融して、スラグと、有価金属の合金と、を分離して回収する乾式工程と、を備える有価金属回収方法。
【0011】
(2) 前記乾式工程中の熔融工程において、追加の酸化処理を行う追加酸化工程を備える(1)に記載の有価金属回収方法。
【0012】
(3) 前記焙焼工程と前記酸化工程とを、単一の加熱炉内の温度を逐次変動させることにより、前記単一の加熱炉内で行う(1)又は(2)に記載の有価金属回収方法。
【0013】
(4) 前記焙焼工程と前記酸化工程とを、単一の加熱炉内を複数の区域に分けて、該区域ごとに異なる温度に加熱することにより、前記単一の加熱炉内で行う(1)又は(2)に記載の有価金属回収方法。
【0014】
(5) 前記廃電池はプラスチックケースが付随する電池パックである(1)から(4)のいずれかに記載の有価金属回収方法。
【発明の効果】
【0015】
本発明によれば、廃電池からの有価金属回収処理に先行して、所定範囲の温度によって廃電池を焙焼する工程を設けることにより、安定的な回収率を保持しつつ、従来よりも低コストでかつ安全に有価金属が回収可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0016】
【図1】本発明の一例である、廃電池からの有価金属回収方法を示すフローチャートである。
【図2】本発明の予備酸化工程における酸化処理に用いるキルンの使用状態を示す断面模式図である。
【発明を実施するための形態】
【0017】
以下、本発明の一実施形態について図面を参照しながら説明する。図1は、廃電池からの有価金属回収方法の一例を示すフローチャートである。本実施形態においては、廃電池がプラスチックケースの付随するリチウムイオン電池パックである場合について説明するが、本発明はこれに限定されるものではない。
【0018】
<全体プロセス>
図1に示すように、この有価金属回収方法は、焙焼工程ST10と、酸化工程ST20と、乾式工程S20と、湿式工程S30とからなる。このように、本実施例における有価金属回収方法は乾式工程S20において合金を得て、その後に湿式工程S30によって有価金属元素を分離回収するトータルプロセスである。なお、本発明における廃電池とは、使用済み電池のみならず、工程内の不良品等も含む意味である。また、処理対象に廃電池を含んでいればよく、廃電池以外のその他の金属や樹脂等を適宜加えることを排除するものではない。その場合にはその他の金属や樹脂を含めて本発明の廃電池である。
【0019】
<焙焼工程ST10>
まず、本発明の特徴である焙焼工程ST10について説明する。焙焼工程ST10は、有価金属回収方法におけるその他の各工程に先行して行われる前処理工程であり、廃電池を300℃〜600℃の温度で焙焼することにより、プラスチックケース等に含まれる有機性炭素を減少させるプロセスである。このため、炭化物が残留され難いという観点から、焙焼は空気や酸素を含む気体による酸化焙焼であることが好ましいが、窒素雰囲気下等の還元性雰囲気での焙焼を排除するものではない。なお、焙焼時間は特に限定されないが、焙焼工程ST10後の有機物由来の炭素が、焙焼工程ST10前の有機物由来の炭素に対して10質量%以下となるように調整することが好ましい。これにより、後の酸化工程における酸化度のバラツキを抑えることができる。尚、ここでいう有機物由来の炭素とは、廃電池に含まれる全ての有機性炭素のうち、電池パックのプラスチックケースに由来するプラスチック成分、隔膜に由来するポリオレフィン等の樹脂、電解質に由来する有機溶媒にリチウム塩を溶解させた有機電解液等を含むが、電池の負極活物質であるカーボンは含まれない。以下、本明細書において有機物由来の炭素という場合、上述した炭素のことをいうものとする。
【0020】
なお、熱分解で燃焼しない有機性炭素の一部は、炭化物として残るが。これらの大部分は、物理的に廃電池から剥離することによって容易に除去可能であり、また、電池本体に付着して残る微量の炭素については、酸化工程における酸化度の適切な調整を阻害することもなく、後の分離工程で分離可能である。なお、この焙焼工程ST10の温度は後の酸化工程に比べて低い温度であるので、金属が酸化されることはなく、後の酸化工程への影響はほとんどない。
【0021】
焙焼工程ST10における焙焼温度を300℃未満とした場合、通常のオレフィン樹脂や塩化ビニル樹脂等の熱分解温度に到達しないため、融点が250℃程度であるプラスチック成分等は溶融したまま、酸化工程ST20に持ち込まれる。特にプラスチックケースの付随するリチウムイオン電池パックの場合には、電池本体のばらつきに比べ、電池パックの製品毎の成分、重量のバラつきは大きく、電池パックに含まれる炭素分が酸化工程に持ち込まれると、酸化工程で必要となる酸化条件が大きく変動され、酸化度の制御が困難となる。また、溶融化したプラスチックの一部が焙焼を行う炉内に付着して円滑な操業の妨げになり、或いは焙焼炉自体の劣化につながる場合があり好ましくない。このため、焙焼工程ST10における焙焼温度はプラスチック成分の熱分解に必要な300℃以上であることが好ましい。
【0022】
一方、焙焼温度が600℃を超えた場合、プラスチック等の燃焼熱により、反応温度は急激に上昇し、例えば、電池構成材であり融点が660℃程度のアルミ箔が熔融し塊状のメタルに変形するため、後の酸化工程における反応効率を低下に影響を及ぼし適切な酸化制御を困難にする。また、電解質を構成する有機電解液等の電池内部の液状有機物の急激なガス化による電池内部の圧力上昇に伴って電池が破裂し、内容物が噴出して回収不能となるリスクが高まる。このため、焙焼工程ST10における焙焼温度は600℃以下であることが好ましい。
【0023】
このように、酸化工程ST20に先駈けて焙焼工程ST10を、限定された低温域、即ち300℃〜600℃の範囲の焙焼温度で行うことにより、廃電池内における他成分の高温加熱に起因する様々なリスクを回避しつつ、外装のプラスチックケース等由来の有機性炭素を効率よく除去することができる。なお、廃電池に含まれる炭素のうち、特に電池パックに由来するプラスチックの除去が酸化度の厳密な抑制において効果的であることは上述した通りであるが、焙焼工程によって除去されるカーボンは必ずしもこれに限られない。電池の構成要素である高分子隔膜等も本発明の焙焼工程において除去することは可能であり、そのような処理を行うことを目的とする焙焼工程を含む有価金属の回収方法も本発明の範囲である。
【0024】
また、焙焼工程ST10が300℃〜600℃の範囲の焙焼温度であることにより、電解質を構成する有機電解液等を緩慢に熱分解でき、液体の急激な膨張による廃電池の爆発を防止、又は爆発したとしても小さな破裂に止め、内容物が噴出して回収不能となるリスクを低減することができる。これにより、全工程に先駈けての孔開け等の別途の前処理が不要となり、生産性が高まる。
【0025】
この焙焼工程ST10は、廃電池を上記温度範囲で焙焼することが可能な加熱炉を特に限定なく用いることができるが、一例として、キルンを用いることができる。なかでも、従来よりセメント製造等に用いられているロータリーキルンを好適に用いることができるため、以下、ロータリーキルンをキルンの代表例として本発明の実施形態の詳細について説明するが、本発明におけるキルンとはこれに限らない。例えば、トンネルキルン(ハースファーネス)等、焙焼工程ST10において廃電池を所定の温度で焙焼可能であるあらゆる形式のキルンを含むものである。
【0026】
本実施形態においては、焙焼工程ST10は、図2に示すキルン1を焙焼炉として用いることにより行う。図2に示す通り、キルン本体10は厚さ15〜30mmの炭素鋼等からなる筒状の回転式の窯である。内部は耐火煉瓦等で内張りされている。キルン本体10の外側にはキルン本体に回転力を伝える駆動ギヤ11が備えられている。また、キルン本体内部には、内部を熱するための熱風を送風するバーナーパイプ12が備えられている。これらを備えたキルン本体10は、使用時には水平面に対して3〜4%の傾斜をもつように設置される。
【0027】
キルン1を用いた酸化工程ST20においては、まず、キルン本体10の内部の温度をバーナーパイプ12より送風する熱風により300℃〜600℃となるように加熱する。次に駆動ギヤ11により、キルン本体10をR方向に回転させながら、搬入口13よりA方向へと廃電池を搬入する。廃電池は、キルン本体10の傾斜に沿って攪拌、焙焼されながらキルン本体10内を排出口14の方向に向かって移動してゆく。
【0028】
上記過程を経た廃電池は排出口14からB方向に排出される。この時点までに上記のプラチック等は、大半は熱分解により気化し残りが炭化物となる。そして、この炭化物もキルン内の回転振動に伴い、大半は物理的に廃電池から剥離して除去される。
【0029】
なお、後に詳しく説明する通り、焙焼工程ST10と続く酸化工程ST20は、同一炉内において連続的に行うことも可能であり、その場合は、焙焼工程ST10の終了後に廃電池をキルン1から排出せずに、引き続きキルン1内で、廃電池に対して酸化工程ST20を行う。
<酸化工程ST20>
【0030】
酸化工程ST20においては、焙焼工程ST10で焙焼処理を経た廃電池を1100℃以上1200℃以下の温度で焙焼しながら酸素を供給することにより酸化処理を行う。従来の有価金属回収方法においては、乾式工程における熔融工程内で酸化処理を行っていたが、本発明の有価金属回収方法においては、熔融工程ST21の前に酸化工程ST20を設け、予め酸化処理を行うことが特徴となっている。
【0031】
この酸化処理は、乾式工程S20内で熔融工程ST21を行う前の段階に行うものであり、熔融工程ST21を行う溶融炉とは別途に酸化炉を設けて当該酸化炉内において行う。リチウムイオン電池の構成材の重量比率では鉄が20%程度、コバルトが20%程度、カーボンが25%、アルミニウムが5%程度を占める。酸化工程ではこのうち、焙焼工程ST10において一定量を除去された後に廃電池中に残存する比較的少量のカーボンを完全に酸化させて焼失させる他、アルミニウムの全量、鉄の70%程度が酸化した状態に相当する酸化状態を最適酸化度として酸化処理を行う。鉄の全量が酸化する点まで酸化が進むと、酸化後電池を1500℃程度で熔融した際、回収すべきコバルト等のレアメタルがスラグに分配する量が増え、回収率が低下するので好ましくない。一方で鉄の酸化度が小さいと、熔融後に回収される合金中に本来スラグ側に分配されるべき鉄が多く残留してしまうので好ましくない。
【0032】
酸化工程ST20における焙焼温度を1100℃未満であると上記した最適酸化度を得るために必要な酸化処理時間が長くなり好ましくない。例えば1100℃を少し越えた温度の純酸素雰囲気で酸化処理を行うと、1時間程度で必要な酸化処理が完了するが、900℃において同じ雰囲気で酸化処理を行うと酸化処理時間は4時間以上必要となる。一方、キルン本体10内の温度が1200℃を超えると、電池構成材である銅箔までが完全に熔融し、キルン本体10の内壁に付着してしまい、円滑な操業の妨げになり、或いはキルン自体の劣化につながる場合があり好ましくない。このため、酸化工程ST20における焙焼温度は1100℃以上1200℃以下であることが好ましい。
【0033】
尚、酸化工程における酸化処理時間は、定性的には酸素濃度が高く、酸化温度が高いほど、最適酸化度を得るまでに必要となる時間は短くなる。例えば1時間程度に酸化時間を収めるならば、酸素100%雰囲気下では1100℃以上、大気雰囲気下では概ね1200℃が必要となる。許容される設備投資額や要求される処理能力等によって目標の酸化時間は変動するため、これに応じて雰囲気中酸素濃度と酸化温度を制御すればよい。
【0034】
この酸化工程ST20は、廃電池を上記温度範囲で焙焼しながら酸素を供給することによりその内部で酸化処理を行うことが可能な加熱炉を特に限定なく用いることができるが、先に説明したロータリーキルンに代表されるキルンを好適に用いることができる。
【0035】
本実施形態においては、酸化工程ST20は、図2に示すキルン1を酸化炉として用いることにより行う。
【0036】
キルン1を用いた酸化工程ST20においては、まず、キルン本体10の内部の温度をバーナーパイプ12より送風する熱風により1100〜1200℃となるように加熱する。次に駆動ギヤ11により、キルン本体10をR方向に回転させながら、搬入口13よりA方向へと廃電池を搬入する。廃電池は、キルン本体10の傾斜に沿って攪拌、焙焼されながらキルン本体10内を排出口14の方向に向かって移動してゆく。
【0037】
上記の温度で焙焼されながらキルン本体10内を移動してゆく廃電池に対し、酸化度を調整してニッケル、コバルト、銅の回収率を向上するために空気等の酸化剤をキルン本体10内に導入する。例えばリチウムイオン電池の正極材料には、アルミ箔が使用されている。また、負極材料としては、カーボンが用いられている。更に電池の外部シェルは鉄製或いはアルミニウム製である。これらの材質は基本的に還元剤として作用する。このためこれらの材料をガスやスラグ化するトータルの反応は酸化反応になる。そのため、キルン本体10内に酸素導入が必要となる。酸化工程ST20において空気を導入しているのはこのためである。
【0038】
酸化剤は特に限定されないが、取り扱いが容易な点から、空気、純酸素、酸素富化気体等の酸素を含む気体等が好ましく用いられる。これらは酸化工程ST20において直接キルン本体10内に送り込まれる。なお、酸化剤の導入量については、酸化処理の対象となる各物質の酸化に必要な化学当量の1.2倍程度が目安となる。
【0039】
上記過程を経て酸化された廃電池は排出口14からB方向に排出される。酸化処理の過程で発生した排ガスはC方向に排出される。
【0040】
廃電池の材料を構成する主要元素は、酸素との親和力の差により一般的に、アルミニウム>リチウム>炭素>マンガン>リン>鉄>コバルト>ニッケル>銅、の順に酸化されていく。即ちアルミニウムが最も酸化され易く、銅が最も酸化されにくい。酸素との親和力が相対的に低いコバルト、ニッケル、銅の回収率を向上するために、酸化工程ST20においては、酸素との親和力において近接する鉄とコバルトについて、鉄の酸化度を高める一方で、同時にコバルトの酸化を抑制するという厳密な酸化度の調整が求められる。
【0041】
本発明における酸化工程ST20は、熔融工程ST21内で酸化処理を行う場合と比べて、より低温での酸化処理であるため、反応速度が比較的緩やかであり、また、筒状のキルン本体10の空間内に所定量の酸素を導入することにより、キルン本体10内を移動していく廃電池を酸化させる方法であるため、酸素量、酸化時間及び温度の調整等により、酸化の制御が容易である。酸化処理全体の安定性を阻害することの多いカーボンについても、先行する焙焼工程ST10においてプラスチック成分を一定量まで除去済みであるため、乾式工程における熔融工程内で酸化処理を行う場合とは異なり、容易に酸化の制御を行うことができる。具体的には、この酸化工程ST20において、残存するカーボンがほぼ全量酸化される程度まで酸化処理を行なう。これにより、次工程の熔融工程ST21におけるカーボンの未酸化によるばらつきを抑えることができ、鉄やコバルトの酸化度をより厳密に調整できる。
【0042】
また、乾式工程における熔融した廃電池の酸化処理では、鉄系素材のランスというストロー状の円筒を熔体内に挿入することによる酸素バブリングが安価で一般的な方法であったが、熔融温度が1400℃を超える高温であるために、ランスの熔融による消耗速度が大きい。そのために、交換頻度が大きくなり、作業効率の悪化とランスコストの増大という問題が生じていた。この酸化工程ST20は焙焼であるため、ランス消耗の問題は生じないというメリットもある。
【0043】
上述の通り、焙焼工程ST10及び酸化工程ST20を熔融工程ST21に先行して行うことにより、熔融工程ST21内で酸化処理を行う場合に比べて、より厳密な酸化度の調整が可能である。このことにより、廃電池からの有価金属の回収率を安定的に高めることができる点が本発明の特徴である。
【0044】
<焙焼工程及び酸化工程の他の実施形態>
以上説明した実施形態においては、焙焼工程ST10と酸化工程ST20は、それぞれの工程のために用意した別個の炉内で逐次的に行うことにより、上述の効果を奏するものであるが、両工程は、単一の炉内で連続的に行うことも可能である。例えばキルン等の同一の加熱炉内に、300℃〜600℃の温度帯と1100℃〜1200℃の温度帯を、それぞれ設けることにより(図示せず)、焙焼工程ST10と酸化工程ST20を単一の加熱炉内において連続的に行うことができる。
【0045】
或いは、キルン等の加熱炉の炉内を300℃〜600℃に加熱して焙焼工程ST10を行った後、引き続いて炉内を1100℃〜1200℃に昇温加熱して酸化工程ST20を行うことにより単一の加熱炉内におけるバッチ処理として両工程を連続的に行うことも可能である。
【0046】
なお、このように、焙焼工程ST10と酸化工程ST20を単一の加熱炉内において連続的に行う場合であっても、焙焼工程ST10を上記のように好ましい酸化焙焼とすることで、還元性雰囲気から酸化雰囲気のように雰囲気の大きな切替が必要なく、これによって連続的な操業を効率的に行うことができる点も本発明の優れた点である。
【0047】
このように、焙焼工程ST10と酸化工程ST20を単一の加熱炉内で連続的に行うことにより、別個の炉内で逐次的に行う場合と同様の有価金属の回収率を維持しつつ、設備や工程を削減することによるコストダウンが可能である。
【0048】
<乾式工程S20>
乾式工程S20においては、酸化工程ST20で酸化処理の行われた廃電池を1500℃付近で熔融する熔融工程ST21を行う。熔融工程ST21は従来公知の電気炉等で行うことができる。
【0049】
本発明の有価金属回収方法においては、酸化工程ST20において、予め酸化処理を行うため、従来のように乾式工程において熔融した廃電池に酸化処理を行う必要はない。
【0050】
ただし、酸化工程ST20における酸化が不足している場合や、その他、酸化度の調整が必要な場合には、熔融工程ST21において、微小時間の追加酸化処理を行う追加酸化工程を設けることができる。この追加酸化工程により、より微細に適切な酸化度の制御が可能となる。また、追加酸化工程は、従来の熔融時の酸化処理と比較して微少な時間で行うことができるため作業効率への悪影響は少なく、またランスの消耗も少なくて済むのでコストアップの問題も生じにくい。
【0051】
他に、熔融工程ST21では、後述するスラグ分離ST22で分離されるスラグの融点低下のためにSiO(二酸化珪素)及びCaO(石灰)等をフラックスとして添加する。なお、このフラックスの添加は、必ずしも熔融工程ST21に行わなければならないわけではない。熔融工程ST21に先行する酸化工程ST20において行っても同様の効果を得ることが可能である。
【0052】
熔融工程ST21によって、鉄やアルミニウム等の酸化物であるスラグと、有価金属たるニッケル、コバルト、銅の合金とが生成する。両者は比重が異なるために、それぞれスラグ分離ST22、合金分離ST23でそれぞれ回収される。このとき、スラグ中の酸化アルミニウムの含有量が相対的に多いと高融点で高粘度のスラグとなるが、上記のように熔融工程ST21においてスラグの融点低下のためにSiO及びCaOを添加しているために、スラグの融点低下による低粘性化を図ることができる。このためスラグ分離ST22を効率的に行なうことができる。なお、熔融工程ST21における粉塵や排ガス等は、従来公知の排ガス処理ST24において無害化処理される。
【0053】
合金分離ST23を経た後、更に得られた合金に脱リン工程ST25を行なう。リチウムイオン電池においては、有機溶剤に炭酸エチレンや炭酸ジエチル等、リチウム塩としてLiPF(ヘキサフルオロリン酸リチウム)等が電解質として使用される。このLiPF中のリンは比較的酸化され易い性質を有するものの、鉄、コバルト、ニッケル等鉄族元素との親和力も比較的高い性質がある。合金中のリンは、乾式処理で得た合金から各元素を金属として回収する後工程の湿式工程での除去が難しく、不純物として処理系内に蓄積するために操業の継続ができなくなる。このため、この脱リン工程ST25で除去する。
【0054】
具体的には、反応によりCaOを生じる石灰等を添加し、空気等の酸素含有ガスを吹き込むことで合金中のリンを酸化してCaO中に吸収させることができる。
【0055】
このようにして得られる合金は、廃電池がリチウムイオン電池の場合、正極材物質由来のコバルト、ニッケル、電解質由来のリチウム、負極材導電物質由来の銅等が成分となる。
【0056】
<合金ショット化工程ST26>
本実施形態においては乾式工程S20の最後に合金を冷却して得る際に、これを粒状物(ショット化合金又は単にショットともいう)として得る。これにより、後の湿式工程S30における溶解工程ST31を短時間で行なうことができる。
【0057】
後述するように、乾式工程を広義の前処理とすることで不純物の少ない合金を得るとともに湿式工程に投入する処理量も大幅に減らすことで、乾式工程と湿式工程とを組み合わせることが可能である。しかしながら、湿式工程は基本的に大量処理に向かない複雑なプロセスであるので、乾式工程と組み合わせるためには湿式工程の処理時間、なかでも溶解工程ST31を短時間で行なう必要がある。その問題については、合金を粒状物化することによって溶解時間を短縮することができる。
【0058】
ここで、粒状物とは、表面積で言えば平均表面積が1mmから300mmであることが好ましく、平均重量で言えば0.4mgから2.2gの範囲であることが好ましい。この範囲の下限未満であると、粒子が細かすぎて取り扱いが困難になること、更に反応が早すぎて過度の発熱により一度に溶解することができ難くなるという問題が生じるので好ましくなく、この範囲の上限を超えると、後の湿式工程での溶解速度が低下するので好ましくない。合金をショット化して粒状化する方法は、従来公知の流水中への熔融金属の流入による急冷という方法を用いることができる。
【0059】
<湿式工程S30>
廃電池からの有価金属回収プロセスは、特許文献1のように合金として回収したままでは意味がなく、有価金属元素として回収する必要がある。廃電池を乾式工程で予め処理することによって、上記のような有価金属のみの合金とすることで、後の湿式工程を単純化することができる。このとき、この湿式での処理量は投入廃電池の量にくらべて質量比で1/4から1/3程度まで少なくなっていることも湿式工程との組み合わせを有利にする。
【0060】
このように、乾式工程を広義の前処理とすることで不純物の少ない合金を得るとともに処理量も大幅に減らすことで、乾式工程と湿式工程を組み合わせることが工業的に可能である。
【0061】
湿式工程は従来公知の方法を用いることができ、特に限定されない。一例を挙げれば、廃電池がリチウムイオン電池の場合の、コバルト、ニッケル、銅、鉄からなる合金の場合、酸溶解(溶解工程ST31)の後、脱鉄、銅分離回収、ニッケル/コバルト分離、ニッケル回収及び、コバルト回収という手順で元素分離工程ST32を経ることにより有価金属元素を回収することができる。
【0062】
<処理量>
従来、乾式工程と湿式工程を組み合わせたトータルプロセスにおいては、乾式工程において、廃電池を熔融した状態で酸化処理を行っていたため、酸化処理における酸化度を適切に調整するために、乾式工程内の熔融工程は、溶炉内で同時に処理する全ての廃電池の酸化処理を終えてから、改めて次の工程を最初から開始するというバッチ処理とする必要があった。本発明の有機金属回収方法によれば、予め酸化工程ST20によって酸化処理を終えた廃電池を連続的に溶融炉に投入することにより、乾式工程において廃電池を連続的に処理できるため、従来より大量の処理が可能である。少なくとも1日あたり1t以上、好ましくは1日あたり10t以上である場合に本発明を好適に使用できる。
【0063】
廃電池の種類は特に限定されないが、コバルトやリチウムという稀少金属が回収でき、その使用用途も自動車用電池等に拡大されており、大規模な回収工程が必要となるリチウムイオン電池が本発明の処理対象として好ましく例示できる。
【実施例】
【0064】
以下、実施例及び比較例により本発明を更に具体的に説明するが、本発明は、以下の実施例に限定されるものではない。
【0065】
まず、実施例について説明する。実施例においては、熔融工程に先行して焙焼工程及び酸化工程を設け、その後に熔融工程を設けて熔融処理を行った。
試料:直径18mm、長さ65mmのサイズのリチウムイオン単電池6本が格納された幅10cm、長さ20cm、厚み2cmのサイズで重量300gの電池パック(18650タイプ)。このうちの全炭素の炭素量は約100g(負極活物質であるカーボン:56g、その他の有機物由来の炭素:44g)であった。
焙焼工程:試料を500℃に加熱した竪型炉に投入し、30分間焙焼した。30分間の焙焼工程後、焙焼後廃電池及び灰化した電池パックを取り出し、これをマグネシア皿に並べた。このうちの全炭素の炭素量は約60g(負極活物質であるカーボン:56g、その他の有機物由来の炭素:4g)であり、全炭素量は初期の60%(その他の有機物由来の炭素については初期の9.1%)まで減少した。
酸化工程:上記マグネシア皿を再び竪型炉に入れ、窒素雰囲気下において1200℃に加熱した。その後、電池上方より空気を2l/分で噴き付けた状態で1時間保持して酸化処理を行った。1時間後に空気の噴き付けを停止し、窒素を充分に通気して窒素雰囲気として冷却した後、マグネシア皿を竪型炉から取り出した。
熔融工程:酸化工程後の試料に、45gの試薬CaOと45gの試薬SiOを加え、窒素雰囲気下で1500℃に加熱した。熔融工程においては、追加の酸化工程を設けなくとも内容物は完全に熔融した。
合金分離及びスラグ分離:冷却後にスラグと合金を分離回収して、ICP法により分析した合金中への金属鉄と金属コバルトの分配率(質量%)を測定した。インプット重量に対し、Feは30%、Coは95%が合金として回収された。また、実施例の試験後のスラグは、均一熔融しており、表面には残留カーボンは認められなかった。
【0066】
なお、酸化工程における酸化処理の時間を1.5時間、2時間とした場合、合金相中の非回収対象元素が低下することを確認した。具体的には酸化を1時間行った後に熔融した際に得られる合金組成は重量%でFe36%、P0.08%であるが、酸化を2時間行った後で熔融した際に得られる合金組成は重量%でFe3.2%、P<0.01%となった。
【0067】
次に比較例について説明する。比較例1においては、実施例と同様の試料に対して実施例と同様の焙焼工程を行った後、酸化工程は行わずに、実施例1と同様の熔融工程を行った。内容物は完全には熔融されず、未燃のカーボン粉と未溶融の融剤が入り混じった粉状の残渣が多量に回収された。したがって実操業上において好ましい温度範囲である1500℃程度の温度で廃電池からの有価物回収を実施する際には、酸化工程が必須であることが解る。
【0068】
比較例2においては、実施例と同様の試料に対して、焙焼工程を行わずに、実施例と同様の酸化工程を施し、その後、熔融工程を行った。その結果、試験後のスラグには、未熔融部が残っており、その未熔融物中にカーボンの存在が認められた。
【0069】
このように、本発明においては、廃電池からの有価金属の安定的な回収のための課題であったカーボンの酸化処理について、熔融工程に先行して焙焼工程及び酸化工程を設けることにより、適切な酸化処理を行うことが可能となることが解る。
【符号の説明】
【0070】
ST10 焙焼工程
ST20 酸化工程
S20 乾式工程
ST21 熔融工程
ST22 スラグ分離
ST23 合金分離
ST24 排ガス処理
ST25 脱リン工程
ST26 合金ショット化工程
S30 湿式工程
ST31 溶解工程
ST32 元素分離工程
1 キルン
10 キルン本体
11 駆動ギヤ
12 バーナーパイプ
13 搬入口
14 排出口

【特許請求の範囲】
【請求項1】
廃電池からの有価金属回収方法であって、
前記廃電池を300℃以上600℃未満の温度で焙焼する焙焼工程と、
前記焙焼工程によって焙焼した廃電池を1100℃以上1200℃以下で焙焼して酸化処理を行う酸化工程と、
前記酸化工程後の廃電池を熔融して、スラグと、有価金属の合金と、を分離して回収する乾式工程と、を備える有価金属回収方法。
【請求項2】
前記乾式工程中の熔融工程において、追加の酸化処理を行う追加酸化工程を備える請求項1に記載の有価金属回収方法。
【請求項3】
前記焙焼工程と前記酸化工程とを、単一の加熱炉内の温度を逐次変動させることにより、前記単一の加熱炉内で行う請求項1又は2に記載の有価金属回収方法。
【請求項4】
前記焙焼工程と前記酸化工程とを、単一の加熱炉内を複数の区域に分けて、該区域ごとに異なる温度に加熱することにより、前記単一の加熱炉内で行う請求項1又は2に記載の有価金属回収方法。
【請求項5】
前記廃電池はプラスチックケースが付随する電池パックである請求項1から4のいずれかに記載の有価金属回収方法。

【図1】
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【図2】
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【公開番号】特開2012−251220(P2012−251220A)
【公開日】平成24年12月20日(2012.12.20)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−125211(P2011−125211)
【出願日】平成23年6月3日(2011.6.3)
【出願人】(000183303)住友金属鉱山株式会社 (2,015)
【Fターム(参考)】