説明

有機−無機ハイブリッド高分子イオン性化合物と有機−無機ハイブリッドの特性を付与した帯電防止剤

【課題】アルコキシシリル基を有するイオン液体から得られる高分子イオン性化合物は、帯電防止剤として優れていると考えられる。そこで、重合性のアルコキシシリル基を利用して帯電防止剤を提供することにある。
【解決手段】 アルコキシシリル基を有するイオン液体を加水分解縮合することにより有機−無機ハイブリッド高分子イオン性化合物を得ることを特徴とする。アルコキシシリル基を酸触媒で加水分解縮合をするとシロキサン結合を有する有機−無機ハイブリッド高分子イオン性化合物が得られ、アセトニトリルに溶解して製膜すると粘着性が残る帯電防止剤が創製できる。また、アルコキシシリル基を塩基触媒で加水分解縮合するとシロキサン結合を有する高分子イオン性化合物が得られ、アセトニトリル等に溶解して製膜すると有機−無機ハイブリッドに基づく柔軟性、高強度、高い耐熱性、耐水耐薬品性を付与した、従来にはない難燃性の帯電防止剤が創製できる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、重合性のアルコキシシリル基を有するイオン液体からなる高分子イオン性化合物の創製と有機−無機ハイブリッドの特性を付与した帯電防止剤に関する。
【背景技術】
【0002】
帯電防止機能を有する化合物としてイオン液体は良く知られているが、従来用いてきたイオン液体は帯電防止機能を発現させるために、高分子化合物中にイオン液体を配合しているものがほとんどである。このため、イオン液体を配合した化合物の洗浄工程においてイオン液体が流れ出す問題点があった。また、これまでに用いてきた大半のイオン液体は重合性の官能基を有していないために洗浄工程での流出を防止するために高分子化することができなかった。
【0003】
近年、重合性官能基を有するイオン液体として、特開2005−255843号公報(特許文献1)には、(メタ)アクリル基を有するイオン液体が開示され、単独で重合させて得られた高分子イオン性化合物が帯電防止性フィルム(シート)として利用できることも開示されている。
しかし、この広報で開示されている高分子イオン性化合物は(メタ)アクリル基を重合した有機高分子イオン性化合物であり、シロキサン結合を有する有機−無機ハイブリッド高分子イオン性化合物ではない。そのため、有機高分子の成形加工性のよさはあるが、柔軟性、高強度、高い耐熱性、耐水耐薬品性に劣るという欠点があった。
【特許文献1】特開2005−255843号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
有機の官能基を重合して得た有機高分子イオン性化合物に無い柔軟性、高強度、高い耐熱性などの機能を有する帯電防止高分子イオン性化合物が求められている。本発明は以上のような事情に鑑みてなされたものであり、その目的は、アルコキシシリル基を有するイオン液体を加水分解縮合させて有機−無機ハイブリッド高分子イオン性化合物を創製することにある。また、その有機−無機ハイブリッド由来の特性を付与した高分子イオン性化合物からなる帯電防止剤を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本願発明者らは、上記目的を達成するために鋭意検討を重ねた結果、アルコキシシリル基を有するイオン液体を酸触媒もしくは塩基触媒で加水分解縮合させることにより、有機−無機ハイブリッド高分子イオン性化合物を得ることができることを見出した。また、その有機−無機ハイブリッド高分子イオン性化合物が有機−無機ハイブリッドに基づく特性を付与した帯電防止剤として利用できることを明らかにし、本発明を完成するに至った。
【0006】
すなわち、本発明の高分子イオン性化合物は、(1)アルコキシシリル基を有するイオン液体を加水分解縮合させて、有機−無機ハイブリッド構造を有することを特徴とする高分子イオン性化合物である。そして、本発明でいう高分子イオン性化合物とは高分子化イオン液体のことである。また、本発明でいう加水分解縮合とは、アルコキシシリル基上のアルコキシ基が酸もしくは塩基触媒と水により水酸基に変換され、生成したシラノールがアルコキシシリル基もしくは別のシラノールから脱アルコールもしくは脱水し、シロキサン結合に変換されることおよびこの反応の繰り返しによりアルコキシシリル基を有するイオン液体の高分子化が進行することである。上記の課題を解決するために、イオン液体のアルコキシシリル基を加水分解縮合させて得ることができることを特徴とする。加水分解縮合はアルコキシル基を完全に縮合したものであっても良いし、部分的に縮合させたものでも良い。前記の構成によれば、縮合の度合が異なる種々の有機−無機ハイブリッド高分子イオン性化合物を提供することができる。
本発明の帯電防止剤は、(2)前記(1)記載の高分子イオン性化合物を主成分とする有機−無機ハイブリッド由来の特性を併せ持つことを特徴とする帯電防止剤である。そして、本発明でいう有機−無機ハイブリッドとは無機のシロキサン結合により有機の高分子ユニットが繋がれている化合物である。前記の構成によれば、従来の高分子イオン性化合物に帯電防止機能のほか有機−無機ハイブリッドに基づく特性を付与した帯電防止剤を提供することができる。
本発明の帯電防止剤は、(3)アルコキシシリル基を有するイオン液体を酸触媒存在下で加水分解縮合させて得ることを特徴とする前記(2)の帯電防止剤である。前記の構成によれば、従来の高分子イオン性化合物に帯電防止機能のほか有機−無機ハイブリッドに基づく特性を付与することができる帯電防止剤を提供することができる。
本発明の帯電防止剤は、(4)アルコキシシリル基を有するイオン液体を塩基触媒存在下で加水分解縮合させて得ることを特徴とする前記(2)の帯電防止剤である。前記の構成によれば、従来の高分子イオン性化合物に帯電防止機能のほか有機−無機ハイブリッドに基づく特性を付与することができる帯電防止剤を提供することができる。
本発明の帯電防止ハードコート剤は、(5)アルコキシシリル基を有するイオン液体を加水分解縮合して得られる高分子イオン性化合物を溶液で塗布できることを特徴とする帯電防止ハードコート剤である。前記の構成によれば、前記(1)の高分子イオン性化合物を帯電防止ハードコート剤として提供できる。
【発明の効果】
【0007】
本発明の有機−無機ハイブリッド高分子イオン性化合物はイオン性ユニットに基づく帯電防止機能を有しているだけでなく、有機−無機ハイブリッドに基づく柔軟性、高強度、高い耐熱性、耐水耐薬品性が付与されているため、従来の帯電防止剤にはない機能を備えている。このため、従来用いられてきた帯電防止剤の課題である洗浄工程での流れ出し、湿度依存性、着色、透明性劣化などの課題に効果を奏する。
【発明を実施するための最良の形態】
【0008】
以下、本発明についてさらに詳しく説明する。
本発明に係るアルコキシシリル基を有するイオン液体は、酸もしくは塩基触媒存在下でアルコキシシリル基が加水分解縮合を起こし、生成する有機−無機ハイブリッド高分子イオン性化合物が帯電防止機能と有機−無機ハイブリッドに基づく特性を有することを特徴とする。
高分子イオン性化合物を創出するために用いられるアルコキシシリル基を有するイオン液体としては、重合性があれば特に限定されるものではないが、下記(化1)に記載の一般式(1)および(2)で示される4級塩型イオン液体から選ばれる少なくとも1種類であることが望ましい。中でも、製造コストを考慮すると、原料が安価で入手しやすく、比較的合成が簡便な前記一般式(1)で示されるイミダゾリウム塩型イオン液体、特に電子材料等での利用においてはハロゲンアニオンが含有された化合物の使用を避けるため、1価のアニオンとしてハロゲンアニオンを含まないイオン液体を用いることが好適である。
なお、アルコキシシリル基を有する本イオン液体を帯電防止剤として用いる場合、前記一般式(1)および(2)で示されたイオン液体を複数組み合わせて使用することができ、テトラエトキシシラン(TEOS)などのイオン性の構造を持たないアルコキシシランを用いて、重合度および帯電防止剤の柔軟性を調整できる。
【化1】

【0009】
前記一般式(1)および(2)において、アルキレンオキサイド単位を含んでも良い炭素数1から10の直鎖状または分岐鎖状炭化水素基R1としては、例えば、メチレン、エチレン、プロピレン、ブチレン、ペンチレン等の炭化水素基およびエチレンオキサイド、プロピレンオキサイド、ブチレンオキサイド等のアルキレンオキサイドが付加してなる基等が挙げられる。
【0010】
前記一般式(1)および(2)において、アルコキシシリル基のアルコキサイドR2としては、加水分解縮合に関与しえる基であれば特に制限されない。例えば、トリメトキシシリル基、トリエトキシシリル基が挙げられるが、トリクロロシリル基も加水分解縮合するため、使用することができる。原料が入手し易いこと、イオン液体の製造が容易なことから、特に、アルコキシシリル基を使用することが好適である。
【0011】
前記一般式(1)および(2)において、置換基R3としては特に制限はなく、重合性を有する基がR3中に存在していてもよい。例えば、ビニル基、アリル基、(メタ)アクリル基、グリシジル基、アジリジン環、イソシアネート基、共役ジエン、酸無水物、酸塩化物、カルボニル基、水酸基、アミド基、アミノ基、クロロメチル基、エステル基、ホルミル基、ニトリル基、ニトロ基、カルボジイミド基、オキサゾリン基、アルコキシシリル基等が挙げられるが、原料が入手し易いこと、イオン液体の製造が容易なことから、特に、アルキル基、ビニル基、アリル基を使用することが好適である。
【0012】
前記一般式(1)および(2)において、R4からR6は、お互いに独立して、水素原子、アルキル基、アリール基、ヘテロ環等が上げられるがこれらに限定されるものではない。
【0013】
前記一般式(1)および(2)において、アニオンXとしては、アルコキシシリル基を有するイオン液体を形成し得る限りにおいて、特に限定されず、例えば、ハロゲンイオン、BF、PF、AsF、SbF、AlCl、FeCl、(CFSO、(NC)、CFSO、CHSO、HSO、CFCO、CHCO、CFSO、CHSO3−等が挙げられる。アルコキシシリル基を有するイオン液体の製造し易さ、粘度の低下、イオン伝導性、特に電子材料等での利用においてはハロゲンアニオンが含有された化合物の使用を避けるため、1価のアニオンとしてハロゲンアニオンではないアニオンを用いることが好適である。これらの観点から、BF、PF、(CFSO、CHSO3−を使用することが好適である。
【0014】
前記一般式(1)で示されるアルコキシシリル基を有するイオン液体は、特表2007−501815号公報に記載の方法と同様にして得ることができる。
【0015】
4,5−ジヒドロイミダゾール誘導体は、化学学術雑誌(Tetrahedron
Letter, 32, 5031-5034 (1991))に記載の方法と同様にして得ることができ、前記一般式(2)で示されるアルコキシシリル基を有するイオン液体は4,5−ジヒドロイミダゾール誘導体を特表2007−501815号公報に記載の文献の方法と同様にして得ることができる。
【0016】
アルコキシシリル基を有するイオン液体は、酸触媒もしくは塩基触媒の存在下で加水分解縮合を行うことができる。
例えば、アルコキシシリル基を有するイオン液体はパラトルエンスルホン酸等のブレンステッド酸を酸触媒として使用し、加水分解縮合させることにより有機−無機ハイブリッド高分子イオン性化合物を得ることができる。また、水酸化ナトリウム等の塩基触媒でも加水分解縮合させることができ有機−無機ハイブリッド高分子イオン性化合物を得ることができる。
【0017】
上記のようにして得た有機−無機ハイブリッド高分子イオン性化合物をアセトニトリルなどの有機溶媒に溶解し、塗布し乾燥させることにより有機−無機ハイブリッド高分子イオン性化合物からなる膜を得ることができる。酸加水分解により得た有機−無機ハイブリッド高分子イオン性化合物から作製した膜は表面に粘着性が残るため、粘着性を必要とする場合を除き好適にはアルカリ加水分解により得た高分子イオン性化合物から作製した膜を用いる方が良い。
【0018】
アルコキシシリル基を有するイオン液体にパラトルエンスルホン酸一水和物の水溶液と反応溶媒としてアセトニトリルを混合し、室温で一晩撹拌した後、脱溶媒することによりシロキサン結合を有する有機−無機ハイブリッド高分子イオン性化合物が得られる。
【0019】
アルコキシシリル基を有するイオン液体に水酸化ナトリウムの水溶液と反応溶媒としてアセトニトリルを混合し、室温で一晩撹拌した後、脱溶媒することによりシロキサン結合を有する有機−無機ハイブリッド高分子イオン性化合物が得られる。
【0020】
アルコキシシリル基を有するイオン液体およびその高分子イオン性化合物は電荷を有するカチオンとアニオンからなるため、イオン伝導に基づく帯電防止機能を有している。これらのイオン液体を混錬もしくは表面にコートすることにより、帯電防止の効果が得られる。
【0021】
アルコキシシリル基を有するイオン液体の加水分解縮合反応で得られた高分子イオン性化合物はポリカチオン型高分子イオン性化合物に属し、イミダゾリウムカチオン部分は高分子鎖中に固定化さている。このため、有機−無機ハイブリッド高分子イオン性化合物はアニオン部分のシングルイオン伝導に基づく帯電防止作用を示し、有機−無機ハイブリッドに基づく柔軟性、高強度、高い耐熱性、耐水耐薬品性が付与した難燃性の帯電防止剤を作製することができる。このため、従来用いられてきた帯電防止剤の課題である洗浄工程での流れ出し、湿度依存性、着色、透明性劣化などの課題を解決できる。
【0022】
アルコキシシリル基を有するイオン液体から前記記載の方法により得ることのできる有機−無機ハイブリッド高分子イオン性化合物は有機−無機ハイブリッドの特徴である耐熱安定性を有しているため、200℃以上を必要とするポリカーボネートの混錬に使用することができる。
【0023】
アルコキシシリル基を有するイオン液体から前記記載の方法により得ることのできる有機−無機ハイブリッド高分子イオン性化合物はアセトニトリルのような強極性の溶媒に可溶であるため、帯電防止を必要とするプラスチックの表面に塗布した後、乾燥させることにより導電性ハードコート剤として利用できる。
【実施例】
【0024】
以下、実施例を挙げて本発明をより具体的に説明するが、本発明は以下の実施例に限定されるものではない。
【0025】
[合成例1] 1−メチル−3−(3−トリメトキシシリルプロピル)イミダゾールクロライドの合成
1−メチルイミダゾール(シグマアルドリッチジャパン(株)製)4.14gと3−クロロプロピルトリメトキシシラン(シグマアルドリッチジャパン(株)製)18mLを混合し、窒素雰囲気下90℃で70時間撹拌した。この反応溶液を室温に戻した後、ジエチルエーテル50mLを加えてエーテル層を分離した。この操作をあと2回繰り返した後、減圧ポンプで減圧乾燥させ、アルコキシシリル基を有するイオン液体12gを得た。
上記のようにして得たアルコキシシリル基を有するイオン液体は下記のようなスペクトルを示した。
1H NMR (CDCl3):d 0.6-0.7(m, 2H, CH2Si), 2.02(qin, 2H, CH2CH2CH2),
3.57(s, 9H, Si(OCH3)3), 4.15(s, 3H, NCH3),
4.36(t, 2H, NCH2), 7.61(t, 1H, CH3NCHCHN), 7.90
(t, 1H, NCHCHNCH2), 10.38(s, 1H, NCHN). 13C NMR
(CDCl3):d 5.0(CH2Si), 23.2(CH2CH2CH2),
35.3(NCH3), 49.7(OCH3), 50.7(NCH2), 121.1(NCHCHN),
123.0(NCHCHN), 136.2(NCHN). FT-IR(neat): 1069(SiOCH3).
【0026】
[合成例2] 1−メチル−3−(3−トリメトキシシリルプロピル)イミダゾールテトラフルオロボレートの合成
合成例1で合成したアルコキシシリル基を有するイオン液体10.18gとテトラフルオロホウ素ナトリウム(ナカライテスク(株)製)4.11gにアセトニトリル200mLを加えて、懸濁液を窒素雰囲気下室温で5日間撹拌した。白色析出物をセライトでろ過した後、アセトニトリルを減圧留去した。得られた油状生成物を塩化メチレン40mLで抽出し、活性炭処理を行った。塩化メチレンを減圧留去して、塩素アニオンがテトラフルオロホウ素アニオンに置換されたアルコキシシリル基を有するイオン液体9.17gを得た。
上記のようにして得たテトラフルオロホウ素アニオンを有するイオン液体は下記のようなスペクトルを示した。
1H NMR (CDCl3):d 0.6-0.7(m, 2H, CH2Si), 1.96(qin, 2H, CH2CH2CH2),
3.55(s, 9H, Si(OCH3)3), 3.95(s, 3H, NCH3),
4.20(t, 2H, NCH2), 7.45(s, 1H, NCHCHN), 7.47 (t, 1H, NCHCHN),
8.69(s, 1H, NCHN). 13C NMR (CDCl3):d 5.3(CH2Si),
23.4(CH2CH2CH2), 35.6(NCH3),
50.1(OCH3), 51.3(NCH2), 121.8(NCHCHN), 123.3(NCHCHN),
135.5(NCHN). FT-IR(neat): 1032(SiOCH3).
【0027】
[1] アルコキシシリル基の加水分解縮合による高分子イオン性化合物
[実施例1]
合成例2で合成したアルコキシシリル基を有するイオン液体1.03gに2.9重量パーセントのパラトルエンスルホン酸一水和物(ナカライテスク(株)製)を溶解させた水溶液1.0gを加えて撹拌した。14時間後、50℃で溶媒を減圧留去したところ無色透明の飴状の高分子イオン性化合物を得た。
上記のようにして得た高分子イオン性化合物は下記のようなスペクトルを示した。
1H NMR (DMSO-d6):d 0.55(bs, 2H, CH2Si), 1.78(bs, 2H, CH2CH2CH2),
3.85(bs, 3H, NCH3), 4.11(bs, 2H, NCH2), 7.5-7.7(m, 2H, NCHCHN),
8.92(s, 1H, NCHN). 13C NMR (DMSO-d6):d 8.7(CH2Si),
23.3(CH2CH2CH2), 35.8(NCH3),
51.0(NCH2), 121.9(NCHCHN), 123.7(NCHCHN), 136.4(NCHN).
FT-IR(neat): 1030(Si-O-Si).
【0028】
[実施例2]
実施例1で得られた高分子イオン性化合物をアセトニトリルに溶かしてポリエチレン製の容器に溶液を流し込み、80℃で乾燥させた。表面に粘着性の残る高分子イオン性化合物の膜を得た。このようにして酸加水分解して得た高分子イオン性化合物の膜は粘着性を有するため、粘着性および接着性を必要とする帯電防止剤に利用できる。
【0029】
[実施例3]
合成例2で合成したアルコキシシリル基を有するイオン液体1.02gに3重量パーセントの水酸化ナトリウム水溶液(ナカライテスク(株)製)を溶解させた水溶液1.0gを加えて室温で2時間撹拌した。反応温度を70℃に上げて3時間撹拌した後、50℃で溶媒を減圧留去したところ無色透明の半固体状の高分子イオン性化合物を得た。
上記のようにして得た高分子イオン性化合物は下記のようなスペクトルを示した。
1H NMR (CDCl3):d 0.53(bs, 2H, CH2Si), 1.73(bs, 2H, CH2CH2CH2),
3.41(bs, 1.2H, Si(OCH3)0.4), 3.85(s, 3H, NCH3),
4.09(bs, 2H, NCH2), 7.60(bs, 1H, NCHCHN), 7.70 (t, 1H, NCHCHN),
8.8-8.9(m, 1H, NCHN). FT-IR(neat): 1012(Si-O-Si).
【0030】
[実施例4]
実施例3で得られた高分子イオン性化合物をアセトニトリルもしくはジメチルホルムアミドに溶かしてポリエチレン製の容器に溶液を流し込み、80℃で乾燥させた。柔軟性の高い高分子イオン性化合物の膜を得た。得られた膜の面積抵抗は3.74×10Ω/cmであった。
【0031】
実施例に示されるようにアルコキシシリル基を有するイオン液体のアルコキシシリル基を加水分解縮合することにより、有機―無機ハイブリッド高分子イオン性化合物が得られる。特にアルカリ加水分解により得られた高分子イオン性化合物の膜は帯電防止機能の他に優れた表面硬化性を有している。この膜の面積抵抗は3.74×10Ω/cmであり、帯電防止剤として優れていることが分かる。また、高分子イオン性化合物は有機−無機ハイブリッド構造を有しているため、帯電防止の他に、有機−無機ハイブリッドに基づく柔軟性、高強度、高い耐熱性、耐水耐薬品性、並びにイオン構造に由来する難燃性の機能が付与されている。
【0032】
実施例およびそのNMRデータに示されるようにアルコキシル基の加水分解縮合において、酸加水分解縮合して得た高分子イオン性化合物は完全に加水分解されているものの、アルカリ加水分解して得た高分子イオン性化合物は87%のメトキシ基しか加水分解されていない。また、加水分解縮合した後の高分子イオン性化合物がアセトニトリルもしくはジメチルホルムアミドに可溶であることから、生成したシラノールの縮合は完全に進んでいないことがわかる。
従い、アルコキシシリル基を有するイオン液体の加水分解縮合を一度途中で止め、中間体として単離し、再度可溶化して完全に縮合させて製膜することができることもわかる。本発明における帯電防止剤を塗布する際に、施工者は中間体を製造元から仕入れ、現場で溶かして塗るだけで帯電防止膜を製膜できるという簡便さを教授することができ、産業上においても大変利用価値の高いものである。
【産業上の利用可能性】
【0033】
アルコキシシリル基を有するイオン液体を酸もしくは塩基触媒存在下で加水分解縮合することにより本発明の柔軟性、高強度、高い耐熱性、耐水耐薬品性を有する有機−無機ハイブリッド高分子イオン性化合物を提供することができ、それらの用途としては、帯電防止剤が挙げられる。この高分子イオン性化合物はこれまでの界面活性剤型の帯電防止剤とは異なり、有機−無機ハイブリッドに基づく柔軟性、高強度、高い耐熱性、耐水耐薬品性に加えてイオンユニットの特徴である、帯電防止機能、難燃性に優れた特徴を併せ持っているため、帯電防止フィルム、ポリカーボネートのような汎用プラスチックの帯電防止ハードコート剤並びに帯電防止性組成物として広く用いることができる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
アルコキシシリル基を有するイオン液体を加水分解縮合させて、有機−無機ハイブリッド構造を有することを特徴とする高分子イオン性化合物。
【請求項2】
請求項1記載の高分子イオン性化合物を主成分とする有機−無機ハイブリッド由来の特性を併せ持つことを特徴とする帯電防止剤。
【請求項3】
アルコキシシリル基を有するイオン液体を酸触媒存在下で加水分解縮合させて得ることを特徴とする請求項2記載の帯電防止剤。
【請求項4】
アルコキシシリル基を有するイオン液体を塩基触媒存在下で加水分解縮合させて得ることを特徴とする請求項2記載の帯電防止剤。
【請求項5】
請求項1記載の高分子イオン性化合物を溶液で塗布できることを特徴とする帯電防止ハードコート剤

【公開番号】特開2009−286815(P2009−286815A)
【公開日】平成21年12月10日(2009.12.10)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−137536(P2008−137536)
【出願日】平成20年5月27日(2008.5.27)
【出願人】(591167430)株式会社KRI (211)
【Fターム(参考)】