説明

有機ハロゲン化合物含有変圧器内部部材の無害化処理方法

【課題】有機ハロゲン化合物を微量含有する絶縁油の入った容量100L以上の変圧器(柱上変圧器を除く)から該絶縁油を抜き取った後、変圧器の内部部材に残留する有機ハロゲン化合物を、簡易に短期間で経済的に有害なダイオキシン類を副生することなく、変圧器解体前に無害化処理できる方法を提供する。
【解決手段】有機ハロゲン化合物を微量含有する絶縁油が入った、容量Aが100L以上の変圧器(柱上変圧器を除く)から該絶縁油を抜き取った後の変圧器内に残留する絶縁油の容量Bが、0.01<B/A≦0.2を満たす場合において、抜油後の変圧器内に0.01〜2.0重量%のアルカリを含有するイソプロピルアルコール溶液からなる洗浄液を(容量C)を4≦C/B≦60を満たすように充填した後、洗浄液を触媒充填装置に流通させながら変圧器内で循環洗浄すると共に、アルカリ濃度を維持しながら有機ハロゲン化合物を分解し内部部材を無害化する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、有機ハロゲン化合物を微量含有する絶縁油が入っていた容量100L以上の変圧器(柱上変圧器を除く)であって、該絶縁油を抜き取った後の変圧器を、変圧器容器と内部部材とに解体する前に、洗浄液で循環洗浄しながら変圧器の内部部材を無害化処理する方法に関する。
【背景技術】
【0002】
各種有機ハロゲン化合物のなかでも、ポリ塩化ビフェニール(以下PCBと略称する)は人体を含む生体に極めて有害であることから、1973年に特定化学物質に指定され、その製造、輸入、使用が禁止されている。しかし、その後適切な廃棄方法が決まらないまま数万トンのPCBが未処理の状態で放置されている。
【0003】
有機ハロゲン化合物を含む絶縁油が入った変圧器の容器及び内部部材を無害化処理するには、一般的には、以下の方法が考えられる。
(1)変圧器から汚染された絶縁油を抜き取り、抜油後の変圧器を洗浄して解体し、容器容器(ケース)と内部部材とに分け、これらを個別に残留PCBが所定の卒業基準値を満たすまで洗浄する方法(従来法、図6のフローチャートを参照)。
(2)変圧器から汚染された絶縁油を抜き取り、抜油後の変圧器を丸ごと加熱もしくは真空加熱し、PCBを蒸発させて除去する方法。
(3)変圧器から汚染された絶縁油を抜き取り、抜油後の変圧器を解体せずに、変圧器全体を洗浄槽に浸漬し、容器(ケース)と内部部材を同時に洗浄する方法。
(4)変圧器から汚染された絶縁油を抜き取り、抜油後の変圧器を解体せずに、変圧器の中に洗浄液を入れて有機ハロゲン化合物を滲出させ、容器(ケース)と内部部材を同時に洗浄する方法(図7のフローチャートを参照)。
【0004】
ところが、変圧器は複雑な内部構造を有するため、絶縁油を全て抜き取ることは事実上不可能である。そのため、上記(1)の方法では、変圧器を一次洗浄した後、PCBを含有したままの状態で内部部材を容器から取り出し解体しなければならず、密閉空間での慎重な作業が必要とされることから、作業時間がかかり、かつ作業員への負担も大きいという問題がある。
【0005】
上記(2)の方法は、上記(1)の方法のような問題はなく、変圧器を解体することな処理できる利点はあるが、容器が丸ごと収納可能な加熱炉もしくは真空加熱室等の大掛かりな設備が必要で、なおかつ反応も真空加熱で260〜600℃、加熱炉の場合850℃以上の加熱が必要である。
【0006】
上記(3)および(4)の方法は、容器(ケース)と内部部材を同時に洗浄するため、新たに生じる洗浄廃液の処理が不要であるという利点があり、しかも、解体時には内部部材が無害化されているため作業上の制限も少ない。しかしながら、(3)の方法は、変圧器全体を浸漬できる洗浄槽が必要であり、容量1000L級や1万L級の大型変圧器(柱上変圧器を除く)の場合には洗浄設備が大掛かりにならざるを得ない。このような大型の変圧器の場合、洗浄槽へ移動させること自体大変な労力を要し、かつ慎重な作業が必要とされることから、作業員への負担も大きい。そのため、できるだけ変圧器を移動させず、特別な設備を新設せずに変圧器貯蔵所で無害化処理できることが望ましい。
【0007】
以上の理由から、PCBを含む絶縁油を抜き取った後に、有機ハロゲン化合物を微量含有する絶縁油が残留した大型の変圧器の内部部材を、低コストで、かつ大掛かりな設備を使用せずに無害化するには、上記(4)の方法が適当と考えられる。
【0008】
ところで、絶縁油抜き取り後の変圧器容器の洗浄には、下記した種々の方法が提案されている。しかしながら、大型の変圧器(柱上変圧器を除く)の内部部材を解体前に洗浄して無害化処理する方法は未だ報告されていない。
【0009】
例えば、特許文献1には、PCBを含有する絶縁油抜き取り後の柱上変圧器を、ウォタージェットにより水で一次洗浄した後、ケースと内部部材とに解体・分別し、ケースを更に水および溶剤で洗浄することにより、柱上変圧器ケースを無害化する方法が開示されているが、この方法では解体前に内部部材を無害化できない。特許文献2には、変圧器の内部部材をプロパノール等の洗浄液中に浸漬することにより、該部材の隙間に洗浄液を侵入させ、隙間に付着したPCBを洗浄除去する方法が開示されているが、この方法でも部材を解体後、さらに洗浄する必要がある。
【0010】
特許文献3には、有機塩素化合物が入った変圧器から内容物を抜き取り、その後、変圧器の内部をイソプロピルアルコールを用いて循環洗浄する方法が開示され、循環洗浄時に有機塩素化合物を分解することもできるとされているが、基本的には、所定の卒業基準値を超える部材に対する洗浄が必要とされる方法である。特許文献4には、変圧器からPCB抜き取り後に変圧器内部の循環洗浄を行う方法が開示されているが、この方法は循環洗浄した後、内部部材を解体・分離し、内部部材については真空加熱分離処理または溶剤洗浄処理を行う方法である。
【0011】
一方、柱上変圧器に入ったPCBを微量含有する絶縁油を無害化処理する方法として、柱上変圧器の中にアルカリとイソプロピルアルコールを添加し、絶縁油とイソプロピルアルコールの混合液を触媒充填装置に流通させながら変圧器内で循環させることにより、油中のPCBを分解する方法が開示されている(特許文献5等を参照)。この方法では、油の分解処理と同時に、内部部材中に残留するPCBも滲出・分解するが、その滲出は非常にゆっくりでありかつ、循環する液中のPCB濃度にも影響されるので、油の分解処理時に液中のPCB濃度が0.5ppm以下になったからと言って、内部部材も無害化できたと判断することは実質的に困難である。
【0012】
さらに、変圧器容器の中に、アルカリとイソプロピルアルコールを添加し、イソプロピルアルコール溶液を触媒充填装置に流通させながら変圧器内で循環させることにより、絶縁紙中のPCBを無害化処理する方法が開示されている(特許文献6を参照)。絶縁紙や木片に含まれているPCBは、時間とともにイソプロピルアルコール中に拡散溶出していくので、それを分解すれば、時間とともにPCB濃度を減少させることが可能であることが開示されているが、具体的な無害化処理条件は開示されていない。
【特許文献1】特許第377941号公報(請求項1等)
【特許文献2】特開2003−24885号公報(請求項1、請求項10等)
【特許文献3】特開2003−145122号公報(請求項1等)
【特許文献4】特開2003−117517号公報(請求項1等)
【特許文献5】特許第3626960号公報(請求項1等)
【特許文献6】特開2006−142278号公報(請求項1、請求項3、図1等)
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0013】
本発明は、前記の課題に鑑みてなされたものであり、有機ハロゲン化合物を微量含有する絶縁油の入った容量100L以上の変圧器(柱上変圧器を除く)から該絶縁油を抜き取った後に、変圧器の内部部材に残留する有機ハロゲン化合物を、簡易に、経済的に、しかも有害なダイオキシン類を副生することなく、変圧器を容器と内部部材とに解体する前に無害化処理することができる、有機ハロゲン化合物含有変圧器内部部材の無害化処理方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0014】
本発明者らは、前記課題を解決するため、100L級、1000L級及び1万L級の変圧器(柱上変圧器を除く)について鋭意検討を行った。その結果、これら大型の変圧器の形状は容量にかかわらずほぼ相似形であるため、汚染された絶縁油の入った変圧器から該絶縁油をドレン弁から抜き取った後の残油量は、変圧器の用途・容量に関係なく、もとの変圧器の容量の1〜20%になるとの知見を得た。そして、該変圧器の中にアルカリ含有イソプロピルアルコール溶液からなる洗浄液を入れ、その後、この溶液を触媒充填装置に流通させながら洗浄液を交換或いは追加せずに変圧器内を循環洗浄させ、卒業基準を満たすまで内部部材を洗浄できるかどうかを試みた。
【0015】
その結果、全く予期しないことに、変圧器の容器を反応容器に見立て、残油に対する洗浄液の量を4倍以上60倍以下とすれば、洗浄液を追加しなくともアルカリを適時追添加するだけで、変圧器内部部材(鉄芯、コイル、絶縁紙、木片等)に残留する有機ハロゲン化合物を卒業基準を満たすまで無害化処理することができ、変圧器にラジエーターを付けた状態でも、変圧器からラジエーターを取り外した状態でも、ラジエーターの容量さえ把握できていれば、その分洗浄液を多く充填するだけでよいとの知見を得た。
しかも、残油量が明確になることによって、無害化処理所要時間の予測が正確になり、かつ、触媒の量を最適化できるので高価な触媒を余分に使用する必要性が無くなることを見出し、本発明を完成するに至った。
【0016】
すなわち、本発明は以下のとおりである。
(1)有機ハロゲン化合物を微量含有する絶縁油が入った、容量Aが100L以上の変圧器(柱上変圧器を除く)から該絶縁油を抜き取った後の変圧器内に残留する絶縁油の容量Bが、0.01<B/A≦0.2を満たす場合において、
絶縁油抜き取り後の変圧器内に、0.01〜2.0重量%のアルカリを含有するイソプロピルアルコール溶液からなる洗浄液を、その容量Cが、4≦C/B≦60を満たすように充填した後、
変圧器内の洗浄液を触媒充填装置に流通させながら変圧器内で循環洗浄すると共に、アルカリ濃度が0.01〜2.0重量%の範囲を保持するようアルカリを適時添加しながら、変圧器の内部部材に残留する有機ハロゲン化合物を分解する、
ことを特徴とする有機ハロゲン化合物含有変圧器内部部材の無害化処理方法。
(2)絶縁油抜き取り後の変圧器がラジエーター無しであり、かつ、4≦C/B≦50であることを特徴とする、前記(1)に記載の有機ハロゲン化合物含有変圧器内部部材の無害化処理方法。
(3)絶縁油抜き取り後の変圧器がラジエーター有りであり、かつ、5≦C/B≦60であることを特徴とする、前記(1)に記載の有機ハロゲン化合物含有変圧器内部部材の無害化処理方法。
(4)変圧器からラジエーターを取り外した後の底面側の開口から変圧器内の洗浄液を排出し、触媒充填装置に導くことを特徴とする、前記(1)又は(2)に記載の有機ハロゲン化合物含有変圧器内部部材の無害化処理方法。
(5)洗浄温度が常温以上60℃以下であることを特徴とする、前記(1)〜(4)のいずれかに記載の有機ハロゲン化合物含有変圧器内部部材の無害化処理方法。
(6)アルカリがNaOHおよびKOHから選ばれた少なくとも一種であることを特徴とする、前記(1)〜(5)のいずれかに記載の有機ハロゲン化合物含有変圧器内部部材の無害化処理方法。
(7)触媒がパラジウム担持炭素化合物であることを特徴とする、前記(1)〜(6)のいずれかに記載の有機ハロゲン化合物含有変圧器内部部材の無害化処理方法。
(8)有機ハロゲン化合物の分解に際し、触媒充填装置内の洗浄液へマイクロ波を照射することを特徴とする、前記(1)〜(7)のいずれかに記載の有機ハロゲン化合物含有変圧器内部部材の無害化処理方法。
【発明の効果】
【0017】
本発明によれば、面倒なポンプ汲み出し作業が不要で、しかも、コイル或いは紙、木片等の内部部材に付着或いは染み込んだ有機ハロゲン化合物を、適量の洗浄液に滲出・溶解させた後、適時アルカリを追加しつつ、洗浄液を触媒充填装置に流通させながら変圧器内で循環させるので、有機ハロゲン化合物の洗浄と分解が同時進行することによって、内部部材を無害化できる。変圧器にラジエーターを付けた状態でも、変圧器からラジエーターを取り外した状態でも、実質的に変圧器の中の洗浄液の量は変わらないため、状況に応じて選択肢が増えることで作業がし易くなる。
残油の量が明確であるため、残油中の有機ハロゲン化合物濃度と残油量とから残留する有機ハロゲン化合物の量を把握することができる。そのため、無害化処理所要時間の予測が正確になり、分解に用いる触媒の量も最適化できるので経済性が大幅に向上する。
【0018】
絶縁油抜き取り後の変圧器を無害化処理施設へ搬送する必要がなく、大規模な設備が不要で常圧下でも実施できるので、工場や変圧器貯蔵所などの現場で洗浄することができる。経済性及び安全性に優れた無害化処理である。
【0019】
洗浄を常温以上60℃以下で実施すれば、処理時に有害なダイオキシン類を副生させることがない。
【0020】
アルカリとしてKOHやNaOHを使用し、分解用の触媒として金属担持炭素化合物を用いれば、有機ハロゲン化合物の分解を高効率で行うことができるので、処理コストを低減することができる。
【0021】
触媒充填装置において触媒層を流通する洗浄液にマイクロ波を照射すれば、分解を促進することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0022】
以下、本発明の有機ハロゲン化合物含有変圧器内部部材の無害化処理方法について、図面を参照しながら詳細に説明する。
【0023】
本発明においては、容量Aが100L以上の変圧器(柱上変圧器を除く)が対象となる。図1,図2は、本発明の無害化処理方法の実施形態を説明する図である。図1は変圧器にラジエーターを付けた状態で循環洗浄を行う実施形態を示す概略図である。図2は変圧器からラジエーターを取り外した状態で循環洗浄を行う実施形態を示す概略図であり、ラジエーターを取り外した時に出来た底面側の穴2から変圧器内の洗浄液を排出し、触媒充填装置に導入する。
1が変圧器、2がラジエーターを取り外した後にできた穴を利用した開口、3がラジエーターを取り外した後にできた穴を閉塞した部材、4がラジエーター、6がマイクロ波装置、7が触媒充填装置、8が帰還タンクである。10は洗浄液貯槽である。アルカリは、あらかじめ適量のイソプロピルアルコールに撹拌溶解したものを、イソプロピルアルコールが入った貯槽10に添加する。アルカリを添加したイソプロピルアルコールからなる洗浄液が、貯槽10より配管を通して変圧器1に導入される。
【0024】
触媒充填装置を流通させる循環ラインとは別に、ポンプ11を介して、変圧器内の洗浄液を循環する。このポンプ11を設置することにより、容量100L以上の大型の変圧器でも洗浄液を循環させることができるので、内部部材からの有機ハロゲン化合物の滲出・溶解を促進して、処理時間を短縮する効果がある。
【0025】
無害化処理前の変圧器に入っていた絶縁油は、有機ハロゲン化合物を微量含有する(含有量:1ppm〜10,000ppm、好ましくは1ppm〜500ppm)絶縁油である。
【0026】
絶縁油に含まれる有機ハロゲン化合物としては、PCB、ダイオキシン類等を挙げることができ、その種類は特に限定されるものではない。PCB市販品としては、例えば、鐘淵化学(株)のKC−200(主成分:2塩化ビフェニール)、KC−300(主成分:3塩化ビフェニール)、KC−400(主成分:4塩化ビフェニール)、KC−500(主成分:5塩化ビフェニール)、KC−600(主成分:6塩化ビフェニール)や、三菱モンサイト(株)のアロクロール1254(54% Chlorine)等を挙げることができる。
【0027】
図3は、容量1000L級の変圧器(柱上変圧器を除く)の構成例を説明する説明図である。変圧器1(外寸:約65cm×85cm×190cm)はラジエーター4付で、ラジエーター4は上下2箇所2,3で変圧器に接続(フランジで接続もしくは溶接)されている。接続箇所3から変圧器の上端までの距離は約20cmである。変圧器容器の中には、鉄板12,15と鉄枠13が設置され、その中に、体積約130〜200Lの内部部材(コイル)14が設置され、コイルの中には図示しない絶縁紙、木片が存在する。変圧器の下部にはドレン弁17がある。なお、図3では1本のラジエーター4のみを図示したが、ラジエーターは変圧器の4側面に各1本づつフランジにより取付けられていて、ラジエーターの内容積は4本合計で240Lである。
【0028】
図4は、図3の変圧器からラジエーターを取り外した状態を説明する図である。
【0029】
図5は、容量1万L級の変圧器(柱上変圧器を除く)の構成例を説明する説明図で、変圧器21(外寸:約1600cm×5500cm×2000cm)の容器の中には、1000L級の変圧器と同様の3個の内部部材(コイル)24が設置され、コイルの中には図示しない絶縁紙、木片が存在する。両側面にはラジエーター26が接続されている。変圧器の下部にはドレン弁27がある。
【0030】
容量が異なる変圧器1と変圧器21は、内部部材(コイル)の形状はほぼ同じ(相似)で、内部部材(コイル)数が異なる構成である。そのため、変圧器21は底面積が大きい分だけ容量が大きい。絶縁油抜き取り後に変圧器内に残る残油量Bは、変圧器の底面積及び壁面積に比例するため、変圧器の容量が異なっていても、残油量Bの変圧器容量Aに対する比(B/A)はほぼ一定の値になる。
【0031】
同様に、絶縁油抜き取り後に変圧器内に残る残油量Bは、変圧器の底面積に比例するため、変圧器の容量が異なっていても、絶縁油抜き取り後に変圧器に充填する洗浄液の容量Cの残油量Bに対する比(C/B)が等しければ、ほぼ同じ割合の高さまで洗浄液が充填されることになる。
【0032】
(絶縁油の抜き取り)
変圧器から絶縁油を抜き取る方式としては、一般的には、ドレン弁から排出する方式(別称:排油口抜き)、ポンプで汲み出す方式(別称:ポンプ上抜き)、ひっくり返す方式(別称:傾倒排油)が挙げられる。大型の変圧器では傾倒排油は困難であり、ポンプで汲み出す方式では作業が煩雑になることから、ドレン弁(図3の17、図5の27)から排出する方式が最も一般的である。本発明では、該ドレン弁から排出する方式、さらには、これに変圧器をドレン弁のある方を下にして斜めに傾け、ドレン弁からの排出ができるだけ多くなるようにすることを併用する方式が適している。
【0033】
柱上変圧器を除く変圧器の場合、内部構造は柱上変圧器ほど複雑ではないが、絶縁油抜き取り後も内部部材の隙間に侵入した油や絶縁紙や木片に浸透した油は完全に除去されないため、抜き取り後に変圧器内に残った残油の容量Bを、変圧器の容量Aに対する割合(B/A)で表わすと、ドレン弁からの排出方式では、通常、0.01<B/A≦0.2となる。ドレン弁からの排出方式でB/Aが0.01を超えるのは、ドレン弁の取り付け位置が構造上変圧器の底面より数cm上にあるためである。また、B/Aが0.2を超えると残油の量が多くなり過ぎ、1回の洗浄液の充填では内部部材を無害化することができなくなる恐れがあるが、ドレン弁からの排出方式では、通常、ドレン弁の位置は、装置底面から装置高さの2割を超えるような高い位置にあることはまずないため、0.2を超えることは無い。ただし、絶縁油の抜き取り方式によっては、残油量Bの変圧器容量Aに対する割合(B/A)を、0.01<B/A≦0.05 とすることも可能であり、残油量が少なければ相対的に多量の洗浄液を充填できるため、処理時間の短縮を図る上で、好ましい。残油の容量Bは、変圧器に入っていた汚染絶縁油の量と、抜き取った絶縁油の量との差として、求めることができる。ちなみに、ほとんどの場合、残油の液面はラジエーターの底面側取り付け部分よりも低くなる。
【0034】
(洗浄液の充填)
絶縁油抜き取り後、残油量がもとの変圧器の容量の1〜20%(好ましくは1〜5%)になった変圧器内に、0.01〜2.0重量%のアルカリを含有するイソプロピルアルコール溶液からなる洗浄液を、洗浄液の容量Cが、4≦C/B≦60を満たすように充填する。この段階で変圧器(又は変圧器+ラジエーター)の中には、残油(容量B)と洗浄液(容量C)が入っている。洗浄液の添加割合(C/B)が4未満になると内部部材が洗浄液に全部浸らなくなるため、洗浄液と接触しない内部部材が無害化されなくなるおそれがある。また、洗浄液の添加割合(C/B)が60を超えると、変圧器の容器内に収容できず溢れてしまう。
【0035】
図1に示す様に、洗浄液の循環洗浄をラジエーター有りの状態で実施する場合は、変圧器の中に入る分だけの洗浄液が必要になるため、洗浄液の容量Cが、5≦C/B≦60を満たすように充填するのがよく、より好ましくは20≦C/B≦60を満たすように充填するのがよい。
【0036】
図2に示す様に、洗浄液の循環洗浄をラジエーター無しの状態で実施する場合は、洗浄液がラジエーターに入る分だけ余分に洗浄液が必要になるため、洗浄液の容量Cが、4≦C/B≦50を満たすように充填するのがよく、より好ましくは10≦C/B≦50を満たすように充填するのがよい。
【0037】
洗浄液を構成する溶剤は、イソプロピルアルコールを用いる。このイソプロピルアルコールは、有機ハロゲン化合物の溶解溶剤として、かつ、有機ハロゲン化合物分解時における水素供与体となる。
【0038】
洗浄液を構成するアルカリは、脱ハロゲン化効率が高く、コスト及びハンドリング性に優れている観点より、KOH、NaOHが好ましい。アルカリは、単独で又は2種以上を任意に組合わせて使用する。アルカリは、有機ハロゲン化合物の分解により脱離した塩素を中和する中和剤となるため、中和剤の量が多すぎても経済性に劣り、少なすぎると反応速度が低下することになる。
【0039】
アルカリの量は、化学量論的には、柱上変圧器内の残油量B、及び、残油中の有機ハロゲン化合物の濃度から、変圧器内の有機ハロゲン化合物の量を求め、該ハロゲンに対し1.0〜1.5倍当量をイソプロピルアルコール中に含有させるようにするのがよいと考えられるが、実際にはこれでは濃度が低すぎて反応が進まない。そこで、低濃度PCB混入油の処理で得た知見と、容器処理では残油が反応液としては70〜170倍に希釈されることを考慮し、容器処理時のアルカリは残油量の1〜20重量%を添加するのが好ましい。そのように調製したときの洗浄液中のアルカリ濃度は、通常、0.01〜2.0重量%になる。アルカリ濃度が0.01重量%未満の場合は反応速度が低下し、2.0重量%を超えても反応速度は上がらず、頭打ちになる。経済性や洗浄液の後処理等を考慮すると、さらに好ましいアルカリ濃度は0.01〜1.5重量%、最も好ましいアルカリ濃度は0.02〜0.5重量%である。
【0040】
下記の(表1)には、変圧器の油量及び容量と、残油量に対し所定量の洗浄液を充填したときの洗浄液の組成例を示した。表1から、残油量が一定の範囲内にある場合は、洗浄液を一定の量範囲内で充填すれば、内部部材を洗浄液に浸漬することが可能になり、また洗浄液中のアルカリ濃度(該アルカリ濃度は、全液中のアルカリ濃度とほぼ等しい)も、0.01〜2.0重量%の範囲内になることが分かる。
一方、残油に対し、洗浄液の量が少なすぎる場合は内部部材のコイルの上部を洗浄液に浸漬することができなくなり(No.1)、洗浄液の量が多すぎる場合は変圧器の容器から洗浄液が溢れてしまうおそれがある(No.6、7)。
【0041】
【表1】

【0042】
(循環洗浄)
次に、変圧器内の洗浄液を、触媒充填装置に流通させながら変圧器内で循環洗浄すると共に、アルカリ濃度が0.01〜2.0重量%の範囲を保持するようアルカリを適時添加する。なお、循環洗浄の前に、洗浄液をあらかじめポンプ11にて変圧器内に数日間循環させ、内部部材中のPCBを溶出させてもよい。変圧器内に充填した洗浄液は、触媒充填装置に循環洗浄させるためにポンプ5を介して循環を開始すると、ラジエーター4(ラジエーター有りの場合のみ)、配管及び触媒充填装置7の中にも入り込むので、柱上変圧器内の洗浄液の量は減少する。この際に洗浄液の量を調整し、ラジエーターの上部接続部分2よりも若干低めの高さにするのが、洗浄液の経済性及び内部部材の無害化との兼ね合いから、最も好ましい(図3を参照)。同様の理由から、容量1万L級の変圧器(柱上変圧器を除く)の場合は、図5に示すように(25は液面である)、内部部材が完全に浸る量の洗浄液が充填されていることが、最も好ましい。
【0043】
変圧器内の洗浄液の量を調整した後、図1又は図2に示すように、柱上変圧器内の洗浄液を、ポンプ5を介して、マイクロ波装置6内に設置された触媒充填装置7へ供給する。図1及び図2に示す触媒充填装置7には、一部図示を省略しているが、有機ハロゲン化合物を分解しうる触媒が充填された触媒充填層が形成されている。洗浄液は、図中の矢印で示すように、ポンプ5、供給ラインを介して触媒充填装置7に導入され、導入された洗浄液は触媒充填層を流通した後、回収ラインを介して一旦帰還タンク8に戻され、ここで洗浄液中のガスを排出した後、ポンプ9を介して変圧器1内へ戻される。
【0044】
触媒充填装置に充填する触媒としては、有機ハロゲン化合物(特に、PCB)の脱ハロゲン化反応を促進しうるものであれば限定されないが、無機系触媒は触媒寿命が長く、かつ、アルカリ化合物存在下でも安定であるため、有機系触媒よりも好ましい。無機系触媒としては、脱ハロゲン化効率を高める観点より、複合金属酸化物、炭素結晶化合物、金属担持炭素化合物、金属担持酸化物、金属担持複合金属酸化物及び金属酸化物等が好ましく用いられる。中でも、アルカリ性雰囲気で安定性が高い点より、炭素結晶化合物、金属担持炭素化合物、金属担持酸化物及び金属担持複合酸化物が好ましく、特に金属担持炭素化合物が好ましい。これらの触媒は、単独で又は2種以上を任意に組合せて使用することができ、再生触媒を使用してもよい。
【0045】
金属担持炭素化合物としては、金属を担持した炭素化合物であればよく、その金属担持量は、触媒全量に対して0.1〜20wt%、より好ましくは0.1〜10wt%である。担持される金属としては、例えば、鉄、銀、白金、ルテニウム、パラジウム、ロジウム等が挙げられ、脱ハロゲン化効率を高める観点より、パラジウム、ルテニウム、白金が好ましいが、特にパラジウムが好ましい。金属担持炭素化合物の具体例としては、例えば、Pd/C(パラジウム担持炭素化合物)、Ru/C(ルテニウム担持炭素化合物)、Pt/C(白金担持炭素化合物)等が挙げられる。アルカリ化合物存在下で安定なものであれば、ポリエチレン等の樹脂に金属を担持した触媒も使用することができる
【0046】
触媒の形状は、粒状のものでもハニカム状のものでもよい。粒状の場合はカラムの上下をメッシュ等で固定する必要があり、その場合の粒子径は75μm〜10mmが好ましい。10mmを超える場合は比表面積が不足し、75μm未満の場合はメッシュが詰まり差圧が高くなる。より好ましくは150μm〜5mmが望ましい。触媒粒子は、できるだけ粒子径のそろったものがよい。
【0047】
循環洗浄は、洗浄液を触媒充填装置に流通させながら循環させる状態で、所定時間、継続して行うことが好ましいが、断続的に行ってもよい。その間、適宜洗浄液中の有機ハロゲン化合物濃度を測定することにより、反応の進行状況を確認することができる。循環洗浄は、内部部材に残存する有機ハロゲン化合物が、それぞれ所定の卒業基準を満たすまで実施する。洗浄時の液温は、常温以上60℃以下が好ましい。常温以下では有機ハロゲン化物の分解が遅いため処理時間が長くなり、60℃を超えると副生物やダイオキシン類が生成しやすくなるからである。
【0048】
循環洗浄は、洗浄液を触媒充填装置に流通させながら循環させる状態で、所定時間、継続して行うことが好ましいが、断続的に行ってもよい。その間、適宜洗浄液中の有機ハロゲン化合物濃度を測定することにより、反応の進行状況を確認することができる。循環洗浄は、内部部材に残存する有機ハロゲン化合物が、それぞれ所定の卒業基準を満たすまで実施する。洗浄時の液温は、常温以上60℃以下が好ましい。常温以下では有機ハロゲン化物の分解が遅いため処理時間が長くなり、60℃を超えると副生物やダイオキシン類が生成しやすくなるからである。
【0049】
また、本発明の無害化処理方法では、適時、例えば、1時間〜24時間間隔で、洗浄液中のアルカリ濃度を測定した後、必要に応じてアルカリを追添加し、アルカリが所定濃度を保持するようにする。有機ハロゲン化合物の分解に伴い、逐次アルカリが消費されていくため、アルカリ濃度が低下すると、有機ハロゲン化合物の分解速度が低下し、速やかな処理を実施することができなくなるからである。なお、洗浄液中のアルカリ濃度と液中のアルカリ濃度とはほぼ等しいことから(表1を参照)、洗浄液中のアルカリ濃度測定は、液中のアルカリ濃度測定をもって替えることができる。アルカリ濃度の測定方法に限定はないが、例えば、規定塩酸を用いた滴定で求めることができる。アルカリ濃度としては、脱塩素化効率及び経済性を考慮して、常時、0.01〜2.0重量%の範囲、さらに好ましくは0.01〜1.0重量%の範囲、特に好ましくは0.02〜0.5重量%の範囲に保持するのがよい。
【0050】
洗浄液を触媒充填装置に流通させる際には、触媒充填装置内で洗浄液にマイクロ波照射装置10によりマイクロ波を照射することによって、有機ハロゲン化合物の分解を促進することができる。マイクロ波は連続的又は断続的に照射すればよい。この場合、マイクロ波の出力、周波数は、設定する洗浄条件に応じて適宜決定することができるが、周波数1〜300GHzのマイクロ波を電気的に制御しながら10W〜20kWの範囲で照射することが好ましい。この場合も、洗浄時の液温は常温以上60℃以下が好ましい。
【0051】
以上の方法により、内部部材に残留している有機ハロゲン化合物が卒業基準を満たすまで循環させることにより、内部部材を無害化することができる。
【0052】
洗浄処理終了後、洗浄液を汲み上げポンプで変圧器から抜き出し、図6のフローチャートに示すように、変圧器を乾燥した後、鉄製の容器(ケース)と内部部材とに解体する。解体した容器(ケース)は容器(ケース)と碍子等に分解し、また、内部部材は鉄芯とコイル(銅線)とに分解し、コイルは破砕した後に銅と紙・木等とに分解する。分解した各部材は、部材ごとに所定の卒業基準値を満たしているかどうかを分析により確認する。その後、部材をリサイクルする。
【0053】
本発明の無害化処理方法によれば、変圧器解体前に内部部材を無害化処理することができるが、変圧器の内部部材の無害化処理を実施した後に、万一、内部部材が卒業基準値を満たしていない場合は、従来公知の洗浄方法を用いてさらに洗浄すればよい。
【0054】
また、本発明による無害化処理を実施する際には、内部部材が存在しない変圧器容器の内側上部箇所の洗浄が不十分になるおそれがあるため、該箇所の洗浄を目的とした各種洗浄を併用してもよい。
【産業上の利用可能性】
【0055】
本発明の有機ハロゲン化合物含有変圧器内部部材の無害化処理方法は、PCBが入っていた大型の変圧器(柱上変圧器を除く)の内部部材を無害化する処理方法として有用である。
【図面の簡単な説明】
【0056】
【図1】本発明に係る有機ハロゲン化合物含有変圧器内部部材の無害化処理方法の一実施形態を示す概略図である。
【図2】本発明に係る有機ハロゲン化合物含有変圧器内部部材の無害化処理方法の一実施形態を示す概略図である。
【図3】1000L級変圧器(柱上変圧器を除く)の構成例を示す説明図である。
【図4】1000L級変圧器(柱上変圧器を除く)からラジエーターを取り外した構成例を示す説明図である。
【図5】1万L級変圧器(柱上変圧器を除く)の構成例を示す説明図である。
【図6】本発明の有機ハロゲン化合物含有変圧器内部部材の無害化処理方法による柱上変圧器の処理例を示すフロー図である。
【図7】従来の有機ハロゲン化合物含有変圧器内部部材の無害化処理方法による柱上変圧器の処理例を示すフロー図である。
【符号の説明】
【0057】
1 変圧器
2,3 ラジエーター接続箇所
4 ラジエーター
5 ポンプ
6 マイクロ波装置
7 触媒充填装置
8 帰還タンク
9 ポンプ
10 洗浄液貯槽
11 ポンプ
12 鉄板
13 鉄枠
14 内部部材(コイル)
15 鉄板
16 洗浄液
17 ドレン弁
21 変圧器
24 内部部材(コイル)
25 洗浄液の液面
26 ラジエーター
27 ドレン弁

【特許請求の範囲】
【請求項1】
有機ハロゲン化合物を微量含有する絶縁油が入った、容量Aが100L以上の変圧器(柱上変圧器を除く)から該絶縁油を抜き取った後の変圧器内に残留する絶縁油の容量Bが、0.01<B/A≦0.2を満たす場合において、
絶縁油抜き取り後の変圧器内に、0.01〜2.0重量%のアルカリを含有するイソプロピルアルコール溶液からなる洗浄液を、その容量Cが、4≦C/B≦60を満たすように充填した後、
変圧器内の洗浄液を触媒充填装置に流通させながら変圧器内で循環洗浄すると共に、アルカリ濃度が0.01〜2.0重量%の範囲を保持するようアルカリを適時添加しながら、変圧器の内部部材に残留する有機ハロゲン化合物を分解する、
ことを特徴とする有機ハロゲン化合物含有変圧器内部部材の無害化処理方法。
【請求項2】
絶縁油抜き取り後の変圧器がラジエーター無しであり、かつ、4≦C/B≦50であることを特徴とする、請求項1に記載の有機ハロゲン化合物含有変圧器内部部材の無害化処理方法。
【請求項3】
絶縁油抜き取り後の変圧器がラジエーター有りであり、かつ、5≦C/B≦60であることを特徴とする、請求項1に記載の有機ハロゲン化合物含有変圧器内部部材の無害化処理方法。
【請求項4】
変圧器からラジエーターを取り外した後の底面側の開口から変圧器内の洗浄液を排出し、触媒充填装置に導くことを特徴とする、請求項1又は2に記載の有機ハロゲン化合物含有変圧器内部部材の無害化処理方法。
【請求項5】
洗浄温度が常温以上60℃以下であることを特徴とする、請求項1〜4のいずれかに記載の有機ハロゲン化合物含有変圧器内部部材の無害化処理方法。
【請求項6】
アルカリがNaOHおよびKOHから選ばれた少なくとも一種であることを特徴とする、請求項1〜5のいずれかに記載の有機ハロゲン化合物含有変圧器内部部材の無害化処理方法。
【請求項7】
触媒がパラジウム担持炭素化合物であることを特徴とする、請求項1〜6のいずれかに記載の有機ハロゲン化合物含有変圧器内部部材の無害化処理方法。
【請求項8】
有機ハロゲン化合物の分解に際し、触媒充填装置内の洗浄液へマイクロ波を照射することを特徴とする、請求項1〜7のいずれかに記載の有機ハロゲン化合物含有変圧器内部部材の無害化処理方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【公開番号】特開2009−183838(P2009−183838A)
【公開日】平成21年8月20日(2009.8.20)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−25387(P2008−25387)
【出願日】平成20年2月5日(2008.2.5)
【出願人】(000003687)東京電力株式会社 (2,580)
【Fターム(参考)】