説明

有機フォトリフラクティブ材料を用いた光記録方法

【課題】 有機フォトリフラクティブ材料において、材料への光照射の開始から光記録の完了に至るまでの時間(応答時間)の短縮を行う。
【解決手段】 書きこみビームを有機フォトリフラクティブ材料に照射して光記録を行うにあたり、2本の照射書きこみビームの挟み角を20°超、140°以下とし、照射時の材料の貯蔵弾性率を5×10〜1×10Paとすることを特徴とする光記録方法である。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は有機フォトリフラクティブ材料を用いた屈折率格子(回折格子)による光記録方法に関する。本発明によれば光記録を行う(回折格子を形成させる)にあたり必要な光照射時間を短縮できる。
【背景技術】
【0002】
フォトリフラクティブ材料は、干渉光照射により屈折率が変化する材料である。すなわち、フォトリフラクティブ材料に、干渉光を照射すると電子とホール(以下、キャリアという)が生成し、このキャリアが移動することにより空間電界が生ずる。そして、この空間電界に対応して材料中の屈折率が変化し屈折率変調が可能となる。このフォトリフラクティブ材料に干渉光を照射すると、干渉光の明部分でのみ光が吸収され暗部分では吸収がないため、屈折率が周期的に変化した回折格子が材料に形成される。
【0003】
また、フォトリフラクティブ材料で誘起される屈折率変調の周期は、干渉光の明暗強度変調の周期との間にずれを生じる。したがって、コヒーレントな2つのビームを材料に照射すると、ビーム間にエネルギー移動が生じ、照射ビームとは異なる強度比の透過ビームが得られる。フォトリフラクティブ材料は、このような性質を有するため、ホログラム記録素子、光合分波器、ビーム増幅器、画像相関処理、連想記憶素子などへの応用が期待される。
【0004】
従来公知のフォトリフラクティブ材料としては、ニオブ酸リチウムなどを用いた無機のフォトリフラクティブ材料があるが、試料の調製や成形加工が困難なことから利用は限定されている。これに対し、有機化合物を用いたフォトリフラクティブ材料は、成型加工性や機能修飾の容易なことから種々の用途への利用が期待される(W. E. Moerner and S.M.
Silence著、Chemistry Review, 94巻、127−155頁、1994)。
このような有機フォトリフラクティブ材料には、優れた特性を示すものもあるが、材料への光照射の開始から光記録の完了に至るまでの応答時間が長く、記録の効率化が望まれている。
【0005】
かかる回折格子の書きこみ時間を短縮させる方法として、特開2003-322886号には回折格子形成に用いる2本の書きこみビームの挟み角度を大きくして、干渉縞の間隔を小さくする方法が記載されている。しかしながら、ここに記載の方法では、応答時間は短縮されるものの、フォトリフラクティブ特性も低下するという欠点がある。
【0006】
【非特許文献1】W. E. Moerner and S. M. Silence著、Chemistry Review, 94巻,127-155頁,1994
【特許文献1】特開2003−322886号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明者らは、これまで種々の有機フォトリフラクティブ材料について研究を行い、優れた加工性、光特性を示すフォトリフラクティブ材料を提案した。しかしながら、有機フォトリフラクティブ材料の応答時間の短縮は充分ではなく、一層の記録の効率化が望まれる。本発明の目的は、フォトリフラクティブ特性を大幅に低下させることなく、書きこみ時間を短縮することにある。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明は、書きこみビームを有機フォトリフラクティブ材料に照射して光記録を行うにあたり、2本(一般に等価な干渉光)の照射書きこみビームの挟み角を20°超、140°以下とし、照射時の材料の貯蔵弾性率を5×10〜1×10Paとすることを特徴とする光記録方法を提供するものである。本発明の光記録方法に用いられる有機フォトリフラクティブ材料は、電子供与基を有する電界応答光学機能化合物、これと電荷移動錯体を形成する電子吸引性基を有する増感剤、さらにこれら化合物を均一に分散混合するための可塑剤及び高分子化合物からなるのが好ましい。
【発明の詳細な記述】
【0009】
(発明の概要)
本発明では有機フォトリフラクティブ材料への2本の等価な書きこみビームの挟み角を20°超、140°以下とし、そのときの材料の貯蔵弾性率を5×10〜1×10Paとする。この書きこみ条件では回折格子を短時間で形成でき、また材料の弾性率が高いため格子緩和が抑制されフォトリフラクティブ特性の低下を抑制できる。
書きこみビームの挟み角は20°超、140°以下が好ましく、110°〜130°であるのがより好ましい。挟み角が20°以下であると格子形成に要する時間が長くなりすぎ、140°を超えると格子緩和のため格子が形成されにくくなる。
材料の貯蔵弾性率は5×10〜1×10Paが好ましく、より好ましくは1×10〜1×10Paである。貯蔵弾性率が5×10Paより小さいと材料粘度が低すぎて回折格子が形成(または維持)できなくなり、1×10Paを超えると材料粘度が高すぎて分子が配向せず回折格子が形成できなくなる。
なお、回折格子の格子間隔は干渉光照射によって形成される干渉縞の間隔により決まる。フォトリフラクティブ回折格子は光照射によって生成したキャリアが、干渉光照射によって形成される干渉縞の明部から暗部へ移動することによって形成されると考えられており、干渉縞の間隔が大きいと回折格子を形成するまでに時間がかかることになる。2本の書きこみ光の挟み角を大きくし干渉縞の間隔を小さくすれば、フォトリフラクティブ回折格子形成までの時間を短縮できると考えられる。ただ、干渉縞の間隔を短くしすぎると、干渉光明部の体積が減少するため干渉縞明部で発生するキャリアの量が減少し回折格子が形成されにくくなり、また形成された回折格子も周囲の熱により容易に緩和し、フォトリフラクティブ特性が失われると思われる。
【0010】
つぎに、本発明の光記録方法について更に詳しく説明する。本発明の記録方法が適用できるフォトリフラクティブ材料としては、種々の有機フォトリフラクティブ材料が挙げられるが、代表的な記録材料として(A)電界応答光学機能化合物、(B)増感剤、(C)高分子化合物、及び(D)可塑剤を含むフォトリフラクティブ材料が挙げられる。この材料について概要を説明する。
【0011】
(A)電界応答光学機能化合物
電界応答光学機能化合物は増感剤と共に電荷移動錯体を形成する。このような化合物としては、例えばN−(4−ニトロフェニル)−L−プロリノール(NPP)(式1)、[[4−(ヘキサヒドロ−1H−アゼピン−1−イル)フェニル]メチレン]プロパンジニトリル(7DCST)(式2)、4−(N−エチル-(5-ヒドロキシヘプチル)アミノジシアノスチレン(HHAS)(式3)などが挙げられる。有機フォトリフラクティブ材料中、電界応答光学機能化合物の配合量は他の成分との相溶性を考慮し、通常、0.01〜50重量%が好ましい。
【化1】

【0012】
(B)増感剤
増感剤は前記電界応答光学機能化合物と電荷移動錯体を形成しやすいものを用いる。例えば、2,4,7−トリニトロ−9−フルオレノン(TNF)(式4)などが用いられる。増感剤の配合量は有機フォトリフラクティブ材料中0.01〜25重量%である。
【化2】

【0013】
(C)高分子化合物
ここで用いられる高分子化合物としては、他の機能性材料との相溶性が高く、弾性率および透明性の高い樹脂が好ましい。たとえばポリビニルカルバゾールやポリアセナフチレンなど芳香環を有するビニル化合物、そのほか透明性や耐熱性が高い(フッ素化)ポリイミド類(式10で示される構造を有するもの)、ポリエーテルケトン類、ポリエーテルスルホン類などが挙げられる。これら高分子化合物は全組成に対して10〜50重量%配合するのが望ましい。
【化3】

(式中、nは10〜1500の整数を意味する。)
【0014】
(D)可塑剤
本発明の記録方法に用いるフォトリフラクティブ材料には相溶性改善のため可塑剤を配合するのが好ましい。このような可塑剤としては、例えば、2−(1,2−シクロヘキサンジカルボキシイミド)エチルプロピオネート(AX22)(式5)、2−(1,2−シクロヘキサンジカルボキシイミド)エチルブチレート(AX23)(式6)、2−(1、2−シクロヘキサンジカルボキシイミド)エチルベンゾエート(AXPH)(式7)、2−(1、2−シクロヘキサンジカルボキシイミド)エチルアクリレート(AX14)(式8)、2−(フタルイミド)エチルプロピオネート(AX24)(式9)などが挙げられる。可塑剤の配合量は、全組成に対して50重量%以下が好ましい。
【0015】
【化4】

【0016】
(書きこみ方法の詳細:光学系)
2本の書きこみビームの挟み角が20°から50°までは図1に示す光学系で特性を評価し、それ以上の角度では、試料表面で書きこみビームの反射の影響が強くなり試料に十分な光が照射できなくなるので、図2に示すように試料面に対し互いに逆方向から書きこみビームを入射する光学系で特性を評価した。
また実際に記録を行う際には、干渉光照射時にフォトリフラクティブ材料の貯蔵弾性率が5×10〜1×10Paとなるようにする。必要により、干渉光照射時に試料ステージにヒーターを設けるなどして弾性率をこの範囲に調整してもよい。
【0017】
(フォトリフラクティブ材料の作製)
後記の表1に示す成分を混合し、これらをテトラヒドロフランに加えて溶解した。ついで、得られた溶液をポリテトラフルオロエチレン膜で濾過し、ゴミなどの不純物を除去した後、テトラヒドロフランを完全に除去して、フォトリフラクティブ材料を得た。
【0018】
(特性評価方法について)
フォトリフラクティブ特性評価用試料は、上記のように作製した固形物をスペーサー(ガラスビーズ)と共に加熱時に2枚のガラス電極に挟みこみ厚さ100μmのフィルムとして作製した。
フォトリフラクティブ特性の評価として2ビームカップリング測定を行った。フォトリフラクティブ材料に干渉光を照射し、回折格子が形成されると入射するビームの一方からもう一方へと非対称なエネルギー移動が観測される。これが2ビームカップリングと呼ばれる現象であり、このエネルギー移動の大きさがエネルギー利得係数(=ゲイン定数)として求められる。ゲイン定数とは2つの入射ビームが回折格子を通過する際に生じるエネルギー移動を示すための特性値である。
【0019】
具体的なゲイン定数測定は以下のように行った。光源のレーザー(He-Neレーザー(633nm;10mW)からの書きこみビームを2つのS偏光ビームに分割し、これを書き込み光として評価用試料に照射した。試料を透過する2つのビームの強度変化を追跡し、下記の(数式1)を使ってゲイン定数(cm−1)を求めた。
ゲイン定数(cm−1)=100(cos(α)1n(γ1)−cos(β)1n(γ2)) (数式1)
なおここで、測定条件から、式中α、βはそれぞれの試料法線と入射ビームとの角度である。また式中γは、2つの透過ビームそれぞれの強度変化を示すものであり、それぞれのビームに対して、測定初期の強度をIt=0、任意時間後の強度をIとすると、γ=I/It=0と定義されるものである。
また、応答時間とは、エネルギー移動が完了(飽和)するまでの時間のことである。
【0020】
(貯蔵弾性率の測定)
貯蔵弾性率の測定は、有機フォトリフラクティブ材料を円板状サンプル(直径7mm、厚さ2.0mm)に成形して、動的粘弾性評価装置(レオメトリック・サイエンティフィック・エフ・イー社製,粘弾性測定システム拡張型(アレス))を用いて測定周波数6.28Hz,で行った。
【0021】
(実施例1〜7、比較例1〜6)
下記の表1に示す有機フォトリフラクティブ材料を作製し、特性を評価した。
実施例1〜7は、貯蔵弾性率及び2本の照射書きこみビームの挟み角(書きこみ挟み角)が所定の範囲にあり、ゲイン定数が大きく、応答時間が短い。
比較例1及び4は、貯蔵弾性率は所定の範囲にあるが、書きこみ挟み角が所定の範囲より小さいので、応答時間が長い。
比較例2は、貯蔵弾性率は所定の範囲にあるが、書きこみ挟み角が所定の範囲より大きいので、ゲイン定数が小さい。
比較例3は、書きこみ挟み角は所定の範囲にあるが、貯蔵弾性率が所定の範囲より大きい。得られた材料はゲイン定数が小さく、応答時間も長い。
比較例5及び6は、実施例1〜7の材料に対して可塑剤をより多く混合したものであり、書きこみ挟み角は所定の範囲にあるが、貯蔵弾性率が所定の範囲より小さい。得られた材料はゲイン定数が0で、フォトリフラクティブ特性を全く示さない。
【0022】
【表1】

【0023】
[発明の効果]
本発明によれば、有機フォトリフラクティブ材料に光記録方法を行う(回折格子を形成させる)にあたり良好なフォトリフラクティブ特性を維持しつつ光照射時間を短縮することができる。
【図面の簡単な説明】
【0024】
【図1】本発明の光記録に用いる光学系を示す概略図である。
【図2】本発明の光記録に用いる光学系を示す概略図である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
書きこみビームを有機フォトリフラクティブ材料に照射して光記録を行うにあたり、2本の照射書きこみビームの挟み角を20°超、140°以下とし、照射時の材料の貯蔵弾性率を5×10〜1×10Paとすることを特徴とする光記録方法。
【請求項2】
有機フォトリフラクティブ材料が、電子供与基を有する電界応答光学機能化合物、これと電荷移動錯体を形成する電子吸引性基を有する増感剤、さらにこれら化合物を均一に分散混合する可塑剤及び高分子化合物からなる有機フォトリフラクティブ材料である請求項1の光記録方法。


【図1】
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【図2】
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【公開番号】特開2006−18111(P2006−18111A)
【公開日】平成18年1月19日(2006.1.19)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2004−197216(P2004−197216)
【出願日】平成16年7月2日(2004.7.2)
【出願人】(000003964)日東電工株式会社 (5,557)
【Fターム(参考)】