説明

有機塩素化合物含有水の処理方法および装置

【課題】 有機塩素化合物を含む原水を簡便な装置で連続的かつ効率的にプロセス処理可能な、有機塩素化合物含有水の処理方法および装置を提供する。
【解決手段】 還元触媒担持粉末(例えば、パラジウム担持活性炭粉末)を還元触媒担持粉末供給装置2から原水1に添加・混合し、原水中の有機塩素化合物を吸着処理し、かつ膜分離装置4によりろ過膜の一次側に分離濃縮し、その後、パラジウム担持活性炭粉末を含む固形物を有機溶媒により逆洗することで、固形物を分離して有機溶媒中に移行させ、さらに、固形物を含んだ逆洗排有機溶媒槽7内に、水素添加装置8から水素添加することで、逆洗排有機溶媒槽7内を還元雰囲気とし、ここで常温常圧による有機塩素化合物の還元反応を進行させ、ダイオキシン等の有機塩素化合物を分解処理する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は、被処理水中に含まれるダイオキシンやテトラクロロエチレン等の難分解性の有機塩素化合物を除去する水処理方法、特に、上記有機塩素化合物に汚染されたごみ埋立地の浸出水、地下水を浄化するための有機塩素化合物含有水の処理方法および装置に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、特にごみ埋立地、最終処分場などにおいて、ダイオキシンやテトラクロロエチレン等による汚染が深刻化している。被処理水中のダイオキシンやテトラクロロエチレン等の難分解性の有機塩素化合物を分解除去する処理方法としては、オゾンや促進酸化処理等の酸化剤を利用した処理や生物処理を併用する方法(特許文献1および2参照)が広く行なわれている。また、前記以外の処理方法として、超臨海水を利用する方法(特許文献3参照)、加熱処理を用いる方法(特許文献4参照)、超音波照射を用いる方法(特許文献5参照)など各種の方法が知られている
前記特許文献1および2に開示されたような酸化処理による分解処理方法は、一般に、原水中の濁質や共存物質の影響を受けやすく、それに伴って必要となる酸化剤の量が過大となり、処理コストが増大するなどの問題がある。そのため、オゾン処理あるいは促進酸化処理の前段に凝集沈澱池やろ過装置を設け、固形分を十分分離した後に酸化処理を行う方法が用いられるが、一般的にダイオキシン類は原水中の固形分に吸着しやすいため、最終的に排出される固形分、汚泥等に蓄積され、それらが再び汚染を引き起こす懸念がある。また、前記特許文献3〜5に記載された処理方法は、装置構成が大掛かりとなることや、処理のための所要エネルギーが増大する等の問題があり、実用的ではない。
【0003】
ところで、特許文献6は、本願出願人の関連会社等により出願されたものであるが、特許文献6は下記を開示する。即ち、「例えば、工業排水中や、地下水あるいは土壌中に含まれる、テトラクロロエチレン等の有機塩素化合物を、常温常圧下で短時間に無害化するための処理方法を提供すること」を課題とし、その解決手段として、「有機塩素化合物を含む被処理液から、前記有機塩素化合物を有機溶媒中に移行させる抽出工程と、前記抽出液に還元触媒を接触させて前記有機塩素化合物を還元する還元処理工程とを含む有機塩素化合物の処理方法において、前記抽出工程における有機溶媒として炭素数8以下のアルコールを用い、前記還元処理工程を常温常圧下で行なう。有機溶媒としてメタノール、エタノール、プロパノールより選択される少なくとも1種、還元触媒として、還元作用を有する金属を活性炭の表面に担持させたものを用いることが好ましい。」旨を開示する。
【特許文献1】特開2001−205277号公報
【特許文献2】特開2001−47091号公報
【特許文献3】特開2002−113475号公報
【特許文献4】特開2003−751号公報
【特許文献5】特許第3466083号明細書
【特許文献6】特開2004−243255号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
上記特許文献6に開示された有機塩素化合物の処理方法は、他の方式に比べて極めて早い分解処理速度を有し、高効率で分解処理可能であり、装置構成も簡略化するメリットがある。
【0005】
しかしながら、有機塩素化合物を含む原水を連続的かつ効率的にプロセス処理する場合には、特許文献6に開示された方法を適用するとしても、プロセス処理に適した処理方法の工夫改善が要請される。
【0006】
この発明は、上記のような点に鑑みてなされたもので、この発明の課題は、特許文献6に開示された有機塩素化合物の処理方法を発展させて、有機塩素化合物を含む原水を簡便な装置で連続的かつ効率的にプロセス処理可能な、有機塩素化合物含有水の処理方法および装置を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
前述の課題を解決するため、この発明は、難分解性の有機塩素化合物を含有する被処理水(原水)から前記有機塩素化合物を除去する方法において、下記の工程を含むことを特徴とする(請求項1)。
(1)粉末状担体表面に還元作用を促進する金属触媒を担持させた還元触媒担持粉末を、有機塩素化合物を含有する原水に注入・混合し、前記有機塩素化合物を前記還元触媒担持粉末に吸着させる工程(粉末の有機塩素化合物吸着工程)。
(2)前記有機塩素化合物吸着工程後の原水中の前記還元触媒担持粉末を含む固形物を、ろ過膜を備える膜分離装置により分離する工程(粉末の膜分離工程)。
(3)ろ過膜を有機溶媒により逆洗浄することにより、前記粉末の膜分離工程によって分離された前記固形物をろ過膜から除去し有機溶媒中に移行させる工程(粉末の有機溶媒移行工程)。
(4)前記粉末の有機溶媒移行工程後の有機溶媒中に水素を添加して、常温常圧下で前記有機塩素化合物の還元反応を進行させ、有機塩素化合物を分解処理する工程(水素添加還元処理工程)。
【0008】
前記請求項1の発明の実施態様としては下記請求項2ないし4の発明が好ましい。即ち、前記請求項1に記載の処理方法において、前記粉末状担体は、活性炭粉末とする(請求項2)。また、前記請求項1または2に記載の処理方法において、前記還元作用を促進する金属は、パラジウム、白金、ロジウムの内の少なくとも1種とする(請求項3)。さらに、前記請求項1または2に記載の処理方法において、前記有機溶媒は、メタノール、エタノール、プロパノールの内の少なくとも1種とする(請求項4)。
【0009】
また、有機塩素化合物含有水の処理装置の発明としては、下記請求項5ないし6の発明が好ましい。即ち、前記請求項1に記載の有機塩素化合物含有水の処理方法を実施するための装置であって、粉末状担体表面に還元作用を促進する金属触媒を担持させた還元触媒担持粉末を原水へ注入・混合する還元触媒担持粉末供給装置および混和槽と、ろ過膜を有し原水中の固形分を分離する膜分離装置と、ろ過膜逆洗用の有機溶媒貯留槽および逆洗用ポンプと、逆洗排有機溶媒槽と、水素添加還元処理用の水素添加装置とを備えることを特徴とする(請求項5)。さらに、前記請求項5に記載の装置において、前記粉末状担体は活性炭粉末とし、前記還元作用を促進する金属は、パラジウム、白金、ロジウムの内の少なくとも1種とし、前記有機溶媒は、メタノール、エタノール、プロパノールの内の少なくとも1種とする(請求項6)。
【0010】
前記請求項1ないし6の発明によれば、還元触媒担持粉末(例えば、パラジウム担持活性炭粉末)を原水に添加する事で、原水中の難分解性有機塩素化合物を吸着処理し、かつ膜分離を行う事でダイオキシン等の汚染物質を十分除去した処理水が得られる。また、ろ過膜の一次側に濃縮された固形物(添加したパラジウム担持活性炭粉末を含む)を有機溶媒(例えば、エタノール)により逆洗することで、固形物の分離を促進し、かつ、固形物を溶媒中に移行させることができる。この際、前記粉末以外の固形物に付着した有機塩素化合物は、溶媒中に脱離、溶解して、パラジウム担持活性炭粉末への吸着をさらに促進させることができる。さらに、固形物を含んだ有機溶媒においては、その後の水素添加により還元雰囲気とする事で、常温常圧による有機塩素化合物の還元または脱塩素反応が進行し、ダイオキシン等の有機塩素化合物が分解される。
【0011】
なお、前記粉末状担体としては、前記活性炭粉末以外に、ゼオライト、シリカ、アルミナ等が使用できるが、有機塩素化合物の吸着性の観点から活性炭やゼオライトが好ましく、活性炭が最も好ましい。シリカ、アルミナは吸着性はゼロではないが、活性炭やゼオライトに比べて劣る。従って、還元触媒担持粉末としては、パラジウム担持活性炭粉末、白金担持活性炭粉末、ロジウム担持活性炭粉末等が好ましい。還元触媒としては、前記パラジウム、白金、ロジウム以外に、ニッケル、又はニッケル−モリブデンが使用できる。
【0012】
また、前記膜分離装置としては、水処理で一般に用いられる精密ろ過膜(MFろ過膜)、限外ろ過膜(UFろ過膜)等のろ過膜を用いたものが適用できる。さらに、前記有機溶媒としては、前述のメタノール、エタノール、プロパノールが好ましいが、コスト的にメタノールが最も好ましい。さらにまた、有機溶媒中に水素を添加する場合の水素ガス注入方法としては、散気管による方法、インジェクターを用いる方法、膜を介して供給する方法等、公知の方法が適用できる。
【発明の効果】
【0013】
この発明によれば、原水に含有する有機塩素化合物を吸着性の良い還元触媒担持粉末でトラップして濃縮した上で還元反応により分解除去するので、有機塩素化合物含有水のプロセス処理を、大きなエネルギー消費をせずに簡便な装置で連続的かつ効率的に行なうことできる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0014】
図1に基づき、本発明の実施の形態について以下に述べる。図1は、本発明の実施形態に係る有機塩素化合物含有水の処理装置のシステム系統図である。
【0015】
図1において、1は原水、2は還元触媒担持粉末供給装置、3は混和槽、4は膜分離装置、5は有機溶媒貯留槽、6は逆洗用ポンプ、7は逆洗排有機溶媒槽、8は水素添加装置である。図1における有機塩素化合物含有水の処理プロセスについて以下に述べる。
【0016】
有機塩素化合物を含有する原水1に還元触媒担持粉末供給装置2から還元触媒担持粉末を供給する。ここで用いる還元触媒としては、例えばパラジウム、白金等の貴金属触媒を粉末活性炭に10%担持したものが用いられる。その後、混和槽3において、一定時間、還元触媒担持粉末への有機塩素化合物の吸着を行い、その後、膜分離装置4において固液分離処理を行い、処理水を系外に排水する。この膜分離装置4におけるろ過膜としては、水処理で一般に用いられるMF膜、UF膜等を用いた膜分離装置が用いられる。
【0017】
膜分離装置4では一定時間毎、あるいはろ過膜の差圧やろ過水のフラックス等の監視により、定期的に逆洗浄の操作を行う。この逆洗浄には、通常の水処理の場合、膜ろ過水を逆洗ポンプ等により供給して、ろ過膜に堆積した固形物を除去するが、本発明ではあらかじめ有機溶媒貯留槽5に貯留した有機溶媒(例えば、エタノール)を、逆洗用ポンプ6により供給し、有機溶媒とともにろ過膜に堆積した固形物を逆洗排有機溶媒槽7に貯留する。有機溶媒の逆洗によれば、通常の水による逆洗に比べて膜面に付着した固形物の剥離性は向上し、かつ固形物に吸着されたダイオキシン等の有機塩素化合物の脱離・溶解が促進される。
【0018】
逆洗排有機溶媒槽7は、逆洗排有機溶媒の充填完了後に気密状態とし、水素添加装置8から水素を供給することで、還元雰囲気を作り、ダイオキシン等の難分解有機塩素化合物を還元処理または脱塩素処理を行って分解する。
【0019】
上記によれば、大きなエネルギー消費をせずに簡便な装置で連続的かつ効率的に有機塩素化合物含有水のプロセス処理を行なうことができる。
【図面の簡単な説明】
【0020】
【図1】本発明の実施形態に係る有機塩素化合物含有水の処理装置のシステム系統図。
【符号の説明】
【0021】
1:原水、2:還元触媒担持粉末供給装置、3:混和槽、4:膜分離装置、5:有機溶媒貯留槽、6:逆洗用ポンプ、7:逆洗排有機溶媒槽、8:水素添加装置。


【特許請求の範囲】
【請求項1】
難分解性の有機塩素化合物を含有する被処理水(原水)から前記有機塩素化合物を除去する方法において、下記の工程を含むことを特徴とする有機塩素化合物含有水の処理方法。
(1)粉末状担体表面に還元作用を促進する金属触媒を担持させた還元触媒担持粉末を、有機塩素化合物を含有する原水に注入・混合し、前記有機塩素化合物を前記還元触媒担持粉末に吸着させる工程(粉末の有機塩素化合物吸着工程)。
(2)前記有機塩素化合物吸着工程後の原水中の前記還元触媒担持粉末を含む固形物を、ろ過膜を備える膜分離装置により分離する工程(粉末の膜分離工程)。
(3)ろ過膜を有機溶媒により逆洗浄することにより、前記粉末の膜分離工程によって分離された前記固形物をろ過膜から除去し有機溶媒中に移行させる工程(粉末の有機溶媒移行工程)。
(4)前記粉末の有機溶媒移行工程後の有機溶媒中に水素を添加して、常温常圧下で前記有機塩素化合物の還元反応を進行させ、有機塩素化合物を分解処理する工程(水素添加還元処理工程)。
【請求項2】
請求項1に記載の処理方法において、前記粉末状担体は、活性炭粉末とすることを特徴とする有機塩素化合物含有水の処理方法。
【請求項3】
請求項1または2に記載の処理方法において、前記還元作用を促進する金属は、パラジウム、白金、ロジウムの内の少なくとも1種とすることを特徴とする有機塩素化合物含有水の処理方法。
【請求項4】
請求項1または2に記載の処理方法において、前記有機溶媒は、メタノール、エタノール、プロパノールの内の少なくとも1種とすることを特徴とする有機塩素化合物含有水の処理方法。
【請求項5】
請求項1に記載の有機塩素化合物含有水の処理方法を実施するための装置であって、粉末状担体表面に還元作用を促進する金属触媒を担持させた還元触媒担持粉末を原水へ注入・混合する還元触媒担持粉末供給装置および混和槽と、ろ過膜を有し原水中の固形分を分離する膜分離装置と、ろ過膜逆洗用の有機溶媒貯留槽および逆洗用ポンプと、逆洗排有機溶媒槽と、水素添加還元処理用の水素添加装置とを備えることを特徴とする有機塩素化合物含有水の処理装置。
【請求項6】
請求項5に記載の装置において、前記粉末状担体は活性炭粉末とし、前記還元作用を促進する金属は、パラジウム、白金、ロジウムの内の少なくとも1種とし、前記有機溶媒は、メタノール、エタノール、プロパノールの内の少なくとも1種とすることを特徴とする有機塩素化合物含有水の処理装置。


【図1】
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【公開番号】特開2007−83095(P2007−83095A)
【公開日】平成19年4月5日(2007.4.5)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−271303(P2005−271303)
【出願日】平成17年9月20日(2005.9.20)
【出願人】(591083244)富士電機システムズ株式会社 (1,717)
【Fターム(参考)】