説明

有機導波路及びそれを用いた電気光学素子

【課題】有機導波路を作製する際に高温・高圧印加下で作製せざるを得ないプロセスの困難性と、配向緩和によるEO効果消失の問題とを同時に解決すること。
【解決手段】電気光学効果を呈する有機材料が添加されたポリマーを硬化して構成される長尺状のコアと、前記コアの周囲に積層されたクラッドとを備えた有機導波路であって、前記有機導波路は、前記コアが硬化した後に当該コアの長手方向に延伸されていることを特徴とする有機導波路。好ましくは、前記ポリマーは、熱硬化特性またはUV硬化特性を有する樹脂である。また、入力光を2つの分岐部分で分波し、一方の光波にのみ位相シフトを与え、位相シフトを与えない他方の光波と合波させ、入力光に変調が加わった出力光を得るマッハツェンダ変調器において、前記2つの分岐部分のうち、位相シフトを与えるコアとして上記有機導波路を使用することを特徴とする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、光データ処理、情報処理、光通信システム等において有用な光変調器である電気光学(EO)変調器デバイスに関する。
【背景技術】
【0002】
光変調器には、ニオブ酸リチウム(LN)を用いたタイプ、半導体素子を用いたタイプ、および、有機材料を用いたタイプが代表例として知られている。このうち、有機材料を用いたタイプは、誘電率およびその分散が小さいことから高速応答性に優れ(>100Gps)、また、屈折率が小さく石英ガラスに近いことから、例えば、石英ガラスを用いた他デバイスとの整合性に優れるという特長を有する。さらに、有機材料は、その分子設計、化学修飾を活かして、材料効率の高い材料を作り出すことも可能である。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2008−058531号公報
【非特許文献】
【0004】
【非特許文献1】雀部博之編、有機フォトニクス、アグネ承風社刊、1995.3.20、pp.57−66
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
有機材料は、上述のごとく高いポテンシャルを有するものの、電気光学(EO)変調器用材料として用いるには問題があった。EO効果を起こさせるには、反転対称性をなくすことが不可欠であるからである。例えば、ポリマーに対して単にEO分子を混ぜた材料では、EO効果の発現を担うべきEO分子がランダムに配向するため、EO効果が打ち消しあって材料全体としては、EO効果が発現し得ない。
【0006】
EO効果を発現させるために、従来では、上記のEO材料をガラス転移温度以上に加温した上で、1万ボルト以上の電界を印加するポーリング処理により、EO分子を強制的には一定方向に配向させて反転対称性をなくすことが行われている。このポーリング処理のプロセスは困難であり、さらにポーリング処理によって一定方向に配向したEO分子は、時間とともに分子結合の変化等に伴う配向緩和が概ね1月以内に起こるので、実用的ではないという問題点があった。もちろん、その配向緩和を抑える試みは行われている。例えば、分子が配向した時点で新たに架橋反応を起こさせて、配向緩和を抑える試みなどが行われている(非特許文献1)。
【0007】
しかしながら、これらの方法によって一定方向に配向させたEO分子は、室温下に置いていても(高温下でなく)、時間とともに少しずつその配向緩和が発生してくることは避けがたいという問題があった。
【0008】
本発明は、従来型のEO材料が抱えるプロセスの困難性と配向緩和の問題とを解決しようとするものである。即ち、高温・高圧印加下で作製せざるを得ないプロセスの困難性と、配向緩和によるEO効果消失の問題とを同時に解決しようとするものである。
【課題を解決するための手段】
【0009】
上記の課題を解決するために、請求項1に記載された発明は、電気光学効果を呈する有機材料が添加されたポリマーを硬化して構成されるコアと、前記コアの周囲に設けられたクラッドとを備えた有機導波路であって、前記有機導波路は、前記コアが硬化した後に当該有機導波路のコアを伝播する伝搬光の伝搬方向に延伸されていることを特徴とする。
【0010】
請求項2に記載された発明は、請求項1に記載の有機導波路において、前記ポリマーは、熱硬化特性またはUV硬化特性を有する樹脂であることを特徴とする。
【0011】
請求項3に記載された発明は、有機導波路であって、ポリマーを硬化して構成され、経路途中で2本に分岐する分岐部分を有する1本のコアと、前記コアの周囲に設けられたクラッドとを備え、前記分岐部分の一方のコアは、電気光学効果を呈する有機材料が添加され、当該コアが硬化した後に当該コアを伝搬する伝搬光の伝搬方向に延伸されていることを特徴とする。
【0012】
請求項4に記載された発明は、請求項3に記載の有機導波路において、前記ポリマーは、熱硬化特性またはUV硬化特性を有する樹脂であることを特徴とする。
【0013】
請求項5に記載された発明は、有機導波路の作製方法であって、複数のクラッド層を堆積して中空の導波路を用意するステップと、前記中空の導波路を、電気光学効果を呈する有機材料が添加されたポリマーの溶液に浸して前記中空に該ポリマーを充たすステップと、前記中空に充たされたポリマーを硬化して導波路のコアを形成するステップと、前記コアが形成された導波路を当該導波路のコアを伝搬する伝搬光の伝搬方向に延伸するステップとを含むことを特徴とする。
【0014】
請求項6に記載された発明は、電気光学スイッチであって、請求項1または2に記載の有機導波路と、前記有機導波路の前段に設けられた偏光子と、前記有機導波路の後段に設けられた検光子とを備えたことを特徴とする。
【0015】
請求項7に記載された発明は、マッハツェンダ変調器であって、入力光を2つの分岐部分で分波し、一方の光波にのみ位相シフトを与え、位相シフトを与えない他方の光波と合波させ、入力光に変調が加わった出力光を得るマッハツェンダ変調器において、前記2つの分岐部分のうち、位相シフトを与えるコアとして請求項1又は2に記載の有機導波路を使用することを特徴とする。
【発明の効果】
【0016】
本発明は、有機導波路を作製する際に高温・高圧印加下で作製せざるを得ないプロセスの困難性と、配向緩和によるEO効果消失の問題とを同時に解決する効果を奏する。
【図面の簡単な説明】
【0017】
【図1】本発明の導波路作製工程の一例について説明するための図である。
【図2】本発明の導波路作製工程の他の一例について説明するための図である。
【図3】実施例1にかかる導波路フィルムの外観を示す図である。
【図4】実施例2において用いられる導波路の構成を示す図である。
【図5】実施例2の光学系を示す図である。
【図6】実施例3にかかるマッハツェンダ変調器の原理について説明する図である。
【図7】実施例3にかかる導波路の作製について説明する図である。
【図8】実施例3にかかる導波路のコアパターンを示す図である。
【図9】実施例3にかかる導波路におけるビーム伝搬の様子を示す図である。
【図10】実施例3にかかる導波路における出力光の印加電圧依存性を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0018】
以下、本発明の実施の形態について、詳細に説明する。
【0019】
本発明では、クラッドに挟まれた長尺状のコアを作製する際に、モノマーであるEO分子(電気光学効果を呈する有機材料)をポリマーに分散させて構成したEO材料を用いて作製するが、その骨格となるポリマーが有する三次元網目構造に着目してEO分子の配向緩和が抑制されたコアを作製している。具体的には、ポリマーの三次元網目構造を力学的に変化させて、分散させたEO分子の反転対称性をなくし、かつ、変形した骨格ポリマーの強固な網目構造によってEO分子の配向緩和を阻止しようとするものである。ポリマーは、モノマー単位の繰り返し構造をとるため、モノマーの繰り返しの網目構造が出来上がっている。例えば、EO分子をポリマーに均一に分散させてEOフィルム等を作製し、そのフィルムを一方向に延伸すれば、ポリマーの網目構造が一方向に引きずられて歪み、その結果、歪んだ網目構造により分散したEO分子が一方向に傾くこととなる。
【0020】
もちろん、フィルムの延伸によって、延伸した方向に平行となるところまで全てのEO分子が完全に分子軸を揃えて向くようになることはないが、ある程度の傾きを持って分子軸を揃えると考えられる。ある程度の傾きを持ってEO分子の分子軸が揃えられていれば、フィルム全体としてはEO分子に何らかの異方性が生じることとなる。EO分子に異方性が生じると、反転対称性が崩れ、EO効果を発現することとなる。
【0021】
一旦延伸したことを原因とするポリマーの網目構造は、半永久的に固定されることから、それに引きずられたEO分子も半永久的に傾いた姿勢を保つので、従来の配向緩和という問題を解決できることにもなる。因みに、EO分子と異なり、基本骨格をなすポリマーには配向緩和というような問題は存在しないと考えられる。この構成によって、高電圧印加という困難な工程を行わないで反転対照性をなくし、かつ、配向緩和の問題も解決できる。
【0022】
また、本発明では、EO材料をコアとした有機導波路(単に、導波路ともいう)を作製する際に、特許文献1に記載のソフトスタンパ技術を用いることができる。この技術により、導波路パターン転写時に押圧分布の影響を受けにくく導波路の大面積化が容易であり、導波路の長尺化も可能である。
【0023】
この工程を図1に示す。図1の(a)に示す原版10の上にクラッド材11を塗布し、その上に、ローラRをフィルムに押し付けながら一方向に回転させるラミネート法によりもう一方のクラッドシート12、13を塗布する(b)。このクラッドシート12、13は、例えば、PETフィルム12(ポリエチレンテレフタレート樹脂からなる高分子フィルム)上にクラッド材13をブレードコート法等により予め塗布したものが用いられる。なお、クラッドシート12、13は透明なシートであればPETに限定されない。ラミネート後、加熱して余分な溶媒等を除去し、原版10から剥離させると、コア部に相当する部分は凹部となったスタンパであるソフトスタンパ17が作製される(c)。さらにソフトスタンパ17にある凹部を全て充満するように、EO材料を塗布し(d)、次に、別のクラッドシート15、16をラミネート法により貼り合わせれば(e)、凹部、即ち、コア部にEO材料が充満した導波路20が出来上がることとなる(f)。
【0024】
凹部に入りきれなかったEO材料は、ラミネート工程で柔らかいクラッドシート15、16を介してローラRからの押出し圧力により一方向に押し出されていくので自動的にフィルム外へ押し出される。またコア材たるEO材料にUV硬化性あるいは熱硬化性を持たせておけば、この時点で、UV照射あるいは加温を行えば、コア材の固化が行われることとなる。固化後の導波路フィルムの端面処理については、通常の研磨加工により端面研磨を行うことが可能であり、これによって、導波路が完成することとなる。
【0025】
さらに本発明では、図1に示す上記態様に代えて、図2に示す態様で導波路を作製してもよい。図2に示す態様では、毛管現象を利用することにより、導波路作製の工程をさらに簡易とすることができる。まず、クラッドを堆積してEO材料からなる導波路のコア部分について中空となるように作製しておき、導波路が完成した後、新たに毛管現象を利用して、溶液(UV硬化性あるいは熱硬化性を持たせておく)を当該中空部に封入し、封入し終わった後に、UV照射あるいは加温によってコア部を固化させて導波路を完成させることもできる。
【0026】
ここで、図2に示す導波路作製工程について説明する。まず、図2(a)に示す原版10を用意し、原版10の上にクラッド材11を塗布した後、その上に、ローラRをフィルムに押し付けながら一方向に回転させるラミネート法によりもう一方のクラッドシート12、13を塗布する(b)。このクラッドシートは、例えば、PETフィルム12上にクラッド材13をブレードコート法等により予め塗布したものからなる。ラミネート後、加熱して余分な溶媒等を除去し、原版から剥離させると、コア部に相当する部分は凹部となったスタンパであるソフトスタンパ17が作製される(c)。ソフトスタンパ17に対して、今度は、クラッドシートをラミネート法により貼り合わせれば(d)、コア部が中空となった導波路18が出来上がることとなる(e)。次に、中空導波路18の一端を、UV硬化性あるいは熱硬化性を持ったコア材を満たした溶液に浸しておけば、毛管現象により自動的にコア材が封入されてコア部にEO材料が充満した導波路21が出来上がる(f)。溶液の封入完了後、導波路21をこの状態のままUV照射あるいは加温を行えば、コア材の固化が行われることとなる。固化後の導波路21の端面処理については、通常の研磨加工により端面研磨を行うことが可能である。この方法により作製されたコア材は光学的な均一性が得られる。
【0027】
なお、UV樹脂としては、UV硬化性の樹脂であれば基本的にはいかなるものでもよく、市販のUV硬化樹脂、例えば、NTTアドバンストテクノロジ社のエポキシ樹脂、スリーボンド社の可視光硬化性樹脂、日立化成工業社のUV硬化樹脂、デュポン社あるいは三菱レイヨン社のUV樹脂等を用いることができる。熱硬化樹脂も、フェノール樹脂、エポキシ樹脂、メラミン樹脂、尿素樹脂、不飽和ポリエステル樹脂、アルキド樹脂、ポリウレタン、熱硬化性ポリイミド等であれば、同様に通常の市販品を用いることができる。これらのどれを用いても、毛管現象を利用すれば満遍なく導波路のコア部に材料を封入できることが可能である。材料選択の自由度が増すということも本発明の特長である。
【0028】
EO効果を有する分子としては、m-ニトロアニリン(mNA)、メチル-(2,4-ジニトロフェニル)-アミノプロパナート(MAP)、尿素、2-メチル-4-ニトロアニリン(MNA)、3-メチル-4-ニトロピリジン-1-オキサイド(POM)、4'-ジメチルアミノ-N-メチル-4-スチルバゾリウム メチル硫酸塩(DMSM)、2-シクロオクチルアミノ-5-ニトロピリジン(COANP)、2-メチル-4-ニトロ-N-メチル-アニリン(MNMA)、o-ジシアノビニル-アニソール(DIVA)、2-(N-プロニノール)-5-ニトロピリジン(PNP)、N-(4-ニトロフェニル)-L-プロニノール(NPP)、4-ヒドロキシ-N-メチル-スチルバゾリウム-4-トルエンスルホン酸塩(MC−PTS)、4-(N, N-ジメチルアミノ)-3-アセトアミドニトロベンゼン(DAN)、3,5-ジメチル-1-(4-ニトロフェニル)ピラゾール(DMNP)、3-メチル-4-メトキシ-4'-ニトロスチルベン(MMONS)、2−アダマンチルアミノ-5-ニトロピリジン(AANP)、2-アミノ-5-ニトロピリジウムジハイドロゲンフォスフェート(2A5NPDP)、(-)-1-(4-ジメチルアミノフェニル)-2-(2-ヒドロキシプロピルアミノ)シクロブテン-3,4-ジオン(DAD)、4'-ニトロベンジリデン-3-アセトアミノ-4-メトキシアニリン(MNBA)、4'-ジメチルアミノ-N-メチル-4-スチルバゾリウムトシル塩(DAST)など、および、これらの分子を構成する水素を重水素化あるいはフッ素化したものを用いることが可能である。
【0029】
以下、実施例により、本発明を詳しく説明するが、本発明では、容易に大面積化・長尺化が行え、しかも、UV硬化型あるいは熱硬化方のコア部は均一性に優れるので、ソフトスタンパ技術の貢献もあって、従来の課題であった長尺化および材料の均一性の二つの問題も同時に解決することができる。
【実施例1】
【0030】
図1に示す工程により直線導波路フィルムを作製した。この導波路フィルム30の外観を図3に示す。導波路フィルム30の外形は、縦(厚さ)100μm(ミクロンメートル)、横(幅)10cm、奥行き20cmである。導波路のコアサイズは、6μm×6μmとした。図3では、コアは1つだけが示されているが、実際は、1mm間隔で50本のコアを備えている。導波路はシングルモード導波路とすべく、屈折率の調整を行った。クラッド材には、NTTアドバンストテクノロジ社のUV硬化性エポキシ樹脂を用いた。コア材には、UV樹脂にEO分子のDASTを徐々に混入したものを用い、シングルモードとなる濃度のものを用いた。DAST濃度を種々変えて導波パターンを詳細に調べた結果、波長0.83μmでは、DASTの濃度が13.5重量%のときに最も特性が良くなることが判明した。図1の工程に従い、フィルム30にはUV照射によりコア部を硬化させて導波路を完成させた。
【0031】
作製したフィルム導波路は、そのままでは等方的であり、EO効果を発現し得ないので、図3に示す通り、奥行き方向(コアの長さ方向)に延伸させた。本実施例では、奥行き長(=導波路長)を元の20cmから25cmに延伸させた。延伸機は、通常市販されている機材をそのまま用いた。延伸させる方向は、導波路のコアを伝搬する伝搬光の伝搬方向であればよい。本明細書では、伝搬光の伝搬方向がコアの長さ方向である導波路を例に挙げて記載している。
【0032】
延伸後のフィルム30の導波路の基本光学特性を調べた。直線偏波を入射したところ、s偏波およびp偏波ともに、偏光保持率は20dB以上を確保できていた。光透過率そのものも延伸前と変化なく、通常の材料の透過率と同じであった。即ち、波長0.83μmでは、吸収は殆ど観測されなかった。この結果から、コアの長さ方向に延伸されることによってはコア部の矩形の崩れはなく、十分な光学特性を有していることが確認できた。
【0033】
なお、DAST以外のEO分子でも同様に導波路を作製することができ、例えば、MNAでは、その濃度を17.2重量%としたとき、MMONSでは、その濃度を15.6重量%としたときに良好な導波特性を得ることができた。即ち、これらの低分子系EO分子は、UV樹脂や熱硬化樹脂への分散特性は、いずれもほぼ同じ特性を有しているので、いずれをとっても殆ど同等の導波路特性を得ることができた。因みに、分散後の導波路としてのEO効果の大きさは、分散したEO分子自身の効率によっても変わる。EO分子を分散させる樹脂についても、上記UV硬化性エポキシ樹脂の他のUV樹脂、さらには、熱硬化樹脂を用いた場合も、同等の光学特性を有する導波路を作製することができた。
【実施例2】
【0034】
本実施例では、実施例1で作製した延伸EOフィルムを用いて図5に示す光学系を構成しEOスイッチ実験を行った。この光学系では、偏光子50と検光子52とをクロスニコル配置にして導波路30が挟まれている。また、検光子52と導波路30の間には複屈折補償用の位相板51も設置されている。なお、本実施例では、実施例1で作成した導波路の複数のコアのうち導波特性が最も優れたコア14をEOスイッチとして使用する。
【0035】
導波路30は、図4に示すようなEOスイッチとして構成されている。図4に示すように、導波路30のコア14の上下に電極41が設置されており、これに接続された電源42に電圧を印加したときにEO効果を起こす構成とされている。電極41は、通常のアルミ蒸着により設置した。導波路のコアサイズは、5μm×5μmであった。フィルムの厚みは、100μmであるが、ハンドリングを考え、アルミ蒸着後に、適当なプラスチックフフィルムを上下に貼付して、1ミリ厚にまで増大させた。
【0036】
ここで、導波路30のコア14において透過率が最大値となるときに電極41に印加された電圧がVπであるとすると、電極41に印加された電圧をVとしたときの透過率Tは、
【0037】
【数1】

【0038】
と表せる。予めVπを求めておけば、この式に基づいて導波路30のコア14の透過率Tを調整することもできる。
【0039】
また図5の光学系では、光源には、波長0.83μmの半導体レーザ光(連続光)を用いている。半導体レーザは、直線偏波のものを使用した。本実施例では、その偏波方向をフィルムに対して45度傾けて導波路に入射されるようにしている。この入射光をプローブ光という。
【0040】
上記の構成の光学系においては、電圧を印加させたときのみ、コア部のEO材料にEO効果が誘起されて、当初、検光子52に対して垂直成分aのみの直線偏波だったプローブ光が楕円偏波となる。この偏波の変化により、クロスニコル配置の検光子52に対して、平行な偏波成分bが生じ、その結果、検光子52を通り抜けるというEOスイッチ動作が起こることになる。この検光子52を通り抜けた出射光を出射プローブ光という。
【0041】
本実施例では、印加する電圧を1ボルトとして上記EOスイッチ動作を行ったところ、プローブの偏波回転として14度を観察することができた。従来のポーリング印加させるタイプの一般的なEO素子と比べると効率の面では、1桁以上劣っているが、それはEO分子の傾き方がポーリング法よりも大きくないことから当然の結果である。ただし、ここでの結果は、実施例1に示すように元のフィルム長20cmを25cmに延伸させたフィルムを用いた場合である。
【0042】
さらに本実施例では、実施例1のフィルム30に代えて、元のフィルム長20cmを30cmにまで延伸させた別のフィルムを用いて上記と同様の実験を行なったところ、EO分子の傾き方が増し、プローブの偏波回転は24度にまで改善された。
【0043】
なお、EO分子としてMMONSを用い、それを分散させる樹脂として市販のフェノール樹脂を用いた場合も同様の結果が得られた。MMONSの濃度を16.4重量%として20cm長のフィルムを作製し、これを25cmに延伸した場合、印加する電圧を1ボルトとした場合、プローブの偏波回転として6度を観察することができた。
【0044】
本実施例は、近赤外領域での動作を確認した例であるが、通信波長帯(1.3μm、1.5μm)での動作については、材料の重水素化やフッ素化を行えば、吸収を効果的に低減したスイッチングが可能となる。本実施例の波長域においても、重水素化やフッ素化を行うと、吸収がより下がることとなる。今回は、電圧印加の繰り返し周波数を、極めて遅い1MHzとしたが、有機材料の特性から、これ以上の高繰り返し(10GHz以上)の周波数で実験することは十分可能である。
【実施例3】
【0045】
本実施例では、実施例1の導波路作製法によって作られた導波路を用いてマッハツェンダ変調器を作製する。光学接着剤を用いれば、導波路を容易に貼り合わせて2層化することが可能であることから、この2層導波路を用いれば、マッハツェンダ変調器を作製することが可能となる。
【0046】
まず、図6を用いてマッハツェンダ変調器の原理について説明する。同図において(a)はマッハツェンダ変調器の概略構成を示し、(b)はマッハツェンダ変調器における印加電圧と透過率との関係を示している。図6(a)に示すようにマッハツェンダ変調器では、1本の長尺状のコアの途中が2本に分岐したコアパターン61に構成した導波路を備えている。マッハツェンダ変調器の導波路は、コアを硬化した後にコアの長手方向に延伸されている。このコアパターン61の分岐後の片側のコアにのみEO材料を設けておき、EO材料の上下に設けられた電極62に接続された電源63において電圧を印加すると、EO材料が設けられた導波路にのみEO効果により位相変調が起こる。2つに分岐したコアは再び1つのコアに結合されるので、EO効果により位相変調された光と位相変調されていない光とが再び合波される。2つの光が合波されると、全体して強度変調されることとなることを動作原理としている。図6(b)に示すように、マッハツェンダ変調器の出力は、次第に減少して一旦最小値である0(ゼロ)になり、再び増大し始める。マッハツェンダ変調器の出力が最小値になるときの印加電圧を一般にVπと呼んでいる。
【0047】
図7に、マッハツェンダ変調器用の2層導波路の作製工程を示す。図1に示した手順に従ってマッハツェンダ変調器用のコアパターンを設けた導波路を二つ用意する。2つの導波路のクラッド材には、実施例1と同様にNTTアドバンストテクノロジ社のUV硬化性エポキシ樹脂を用いた。また、2つの導波路のうち一方には、図6(a)と同様のコアパターンにコア材としてUV樹脂のみを封入してコアを硬化し、これを導波路1とする(a)。もう一方には、長尺状の2本のコアパターンを形成し、1本のコアにコア材としてUV樹脂にDAST等のEO材料を混合させた溶液を封入するとともに、もう1本のコアには導波路1と同様にUV樹脂のみを封入してコアを硬化し、これを導波路2とする(b)。
【0048】
導波路2は、実施例1と同様に、コアを硬化させた後にコアの長さ方向に延伸される。その元の長さ20cmから25cmまで延伸される。その後、2つの導波路1、2それぞれにダイシング技術等によって2つの45度ミラー77を設ける(b、d)。この45度ミラーとは、コア77を貫通するように導波路2の一部を切削したことによって、コアと空気との界面で全反射を起こさせてミラーとして機能するよう構成されたものである。その全反射機能よって、ビームの層間移動を可能にしている。導波路1と導波路2とを貼り合わせてマッハツェンダ変調器用の2層導波路70が完成する(e)。
【0049】
図8(a)、(b)は、導波路1、導波路2それぞれの導波路のパターンおよび45度ミラーの上面から見た位置関係を示す図である。導波路1には、図8(a)に示すように、コアが2本に分岐されている部分に2つの45度ミラー77が設けられている。導波路2には、図8(b)に示すように、導波路1の45度ミラー77に対応する位置に2つの45度ミラー77が設けられている。なお図8(b)に示す導波路2では、2本のコア73a、73bのうち、一方のコア73bのみがEO材料を用いて構成されている。
【0050】
2層導波路70におけるビームの伝搬について図9に示す。同図において(a)は2層導波路70でのビーム伝搬の様子を2層導波路70の側面から見た図であり、(b)は2層導波路70でのビーム伝搬の様子を3次元的に示した図である。まず、図9(b)に示すように、導波路1にビームを入力させると、45度ミラー77の位置まで導波路1のコアを伝搬し、全反射されて導波路2に進入する。さらに、ビームは、導波路2においても後段の45度ミラー77まで直進し、全反射されて再び導波路1に戻る。導波路1に戻ったビームは導波路1のコアを図9(a)に示すように導波する。この構成では、導波路2の2本のコアのうちの一本のコアでのみEO効果を起こさせ、それによって生じる位相変調により、2つの分岐された光を合波する際に起こる強度変調を得ている。導波路1のコアは、いわば単なる伝送路だけの役割を担っている。
【0051】
図9(b)に示すように、導波路1のコアに導入したビームは、暫く導波路1のコアを導波した後、ビームAとビームBとの二手に分波し、一方のビームAは、45度ミラーによって導波路2に移った後にEO効果を起こすコア90を導波し、再び導波路1に戻る。もう一方のビームBは、45度ミラーによって導波路2に移るがEO効果を起こさない通常のUV樹脂のみのコアを通過した後、再び導波路1に戻る。導波路1に再び戻ったビームAとビームBは合波して再び1つのビームとなる。当然、ビームAとビームBとには位相差が生じているので、これを起因として合波後のビームには強度変調が起こることとなる。
【0052】
本実施例3では、マッハツェンダ変調器用光導波路について、EO効果を起こす導波路2内のコア90の部分の長さは10cm、コアは、延伸した導波路および延伸していない導波路ともに、5μm×5μmの断面矩形のコアとした。クラッド材およびコア材には、実施例1と同じものを用いている。本実施例3でも、導波パターンを詳細に調べた結果、DASTの濃度が13.5重量%のときに最も特性が良くなることが判明した。導波路は、十分な光学特性を有しており、直線偏波の偏光保持率はマッハツェンダ変調器に必要な20dB以上が確保できていた。45度ミラーも必要な全反射機能を備えており、ビームの層間移動も実験に十分なレベルを得ることができた。
【0053】
本実施例3でも、実施例2と同様に、EO材料を封入したコア90のアームの部分のみの上下に電極(図示せず)を設置し、電圧を印加した。電極は、通常のアルミ蒸着により設置した。フィルムの厚みは、100μmとし、ここでも、ハンドリングを考え、アルミ蒸着後に、適当なプラスチックフィルムを上下に貼付して、素子全体としては1mm厚にまで増大させた。光源には、波長0.83μmの半導体レーザ光(連続光)を用いた。
【0054】
図10に出力光の印加電圧依存性を調べた結果を示す。本実施例3では、Vπとして11ボルトを要した。従来のポーリング印加させるタイプの一般的なEO素子と比べると効率の面では、1桁以上劣っているが、それは、実施例2と同様に、EO分子の傾き方がポーリング法よりも大きくないことから当然の結果である。
【0055】
さらに本実施例では元の導波路2を長さ20cmから30cmに延伸させると、EO分子の傾き方が増し、Vπは8ボルトにまで低減できた。なお、印加電圧0V時の透過率が100%でないのは、導波損失等に起因する。
【0056】
EO分子としてMMONSを用い、それを分散させる樹脂として市販のフェノール樹脂を用いた場合も同様の結果が得られた。MMONSの濃度を16.4重量%としてフィルム(20cm長)を作製し、これを25cmに延伸した場合、印加する電圧を1ボルトとした場合、Vπとして23ボルトが得られた。
【0057】
通信波長帯(1.3μm、1.5μm)での動作については、材料の重水素化やフッ素化を行えば、吸収を効果的に低減した強度変調が可能となる。本実施例の波長域においても、重水素化やフッ素化を行うと、吸収がより下がることとなる。今回は、電圧印加の繰り返し周波数を、極めて遅い1MHzとしたが、有機材料の特性から、これ以上の高繰り返し(10GHz以上)の周波数で実験することは十分可能である。
【0058】
なお、本実施例で示した45度ミラーを設けるという技術を使えば、2層に限らず3層以上の多層化も可能である。即ち、導波路のコア部に45度ミラーを設けた単層の導波路を用意しておき、これらを光学接着剤によって貼り合わせて行けば、次々とビームが層間移動できる3次元導波路への展開を図ることが可能である。この多層化は、導波路長の長さを層の数だけ倍々に増やせるので、材料自体の効率を長尺化によって補う場合に特に有効な手法となる。
【0059】
以上に説明したように、本発明の有機EO導波路は、フレキシブルスタンパ技術に加えて、新たに毛管現象をも利用したことから、大面積化・長尺化が容易に行え、しかも、UV硬化型あるいは熱硬化型のコア部は均一性に優れるので、導波路のコア部において十分な光学均一性を獲得している。また、フレキシブルスタンパ技術によれば、大面積で多彩なパターンを描くことが可能であり、また、45度ミラーを設置すれば2層化あるいはそれ以上の多層化も可能であり、三次元導波路への可能性も開くものである。
【0060】
本発明の導波路を用いた有機EO導波路は、高効率に動作することは勿論、良好な光学特性等を備えていることから光情報処理や光通信分野で重用される。また、有機材料はガラスと屈折率が殆ど等しいことに加えて、本発明の有機EO導波路は平面型の光導波路であることから、光ファイバ型と異なり、PLC(Planar Lightwave Circuit)との接続等、広い展開を図ることも可能である。しかも、本発明に従った有機EO導波路は、純粋な電子分極効果による非線形メカニズムを利用しているので、通信波長帯を含む広い波長範囲で100Gps超での高速動作を実現でき得る。
【符号の説明】
【0061】
10 原版
11 クラッド材
R ローラ
12、15 PETフィルム
13、16 クラッド材
14 コア
17 ソフトスタンパ
18 中空導波路
1、2、20、21、30 導波路
41、62 電極
42、63 電源
50 偏光子
51 複屈折補償用の位相板
52 検光子
61 コアパターン
77 45度ミラー
73a、73b コア
70 2層導波路

【特許請求の範囲】
【請求項1】
電気光学効果を呈する有機材料が添加されたポリマーを硬化して構成されるコアと、
前記コアの周囲に設けられたクラッドとを備えた有機導波路であって、
前記有機導波路は、前記コアが硬化した後に当該有機導波路のコアを伝搬する伝搬光の伝搬方向に延伸されていることを特徴とする有機導波路。
【請求項2】
前記ポリマーは、熱硬化特性またはUV硬化特性を有する樹脂であることを特徴とする請求項1に記載の有機導波路。
【請求項3】
ポリマーを硬化して構成され、経路途中で2本に分岐する分岐部分を有する1本のコアと、
前記コアの周囲に設けられたクラッドとを備え、
前記分岐部分の一方のコアは、電気光学効果を呈する有機材料が添加され、当該コアが硬化した後に当該コアを伝搬する伝搬光の伝搬方向に延伸されていることを特徴とする有機導波路。
【請求項4】
前記ポリマーは、熱硬化特性またはUV硬化特性を有する樹脂であることを特徴とする請求項3に記載の有機導波路。
【請求項5】
複数のクラッド層を堆積して中空の導波路を用意するステップと、
前記中空の導波路を、電気光学効果を呈する有機材料が添加されたポリマーの溶液に浸して前記中空に該ポリマーを充たすステップと、
前記中空に充たされたポリマーを硬化して導波路のコアを形成するステップと、
前記コアが形成された導波路を当該導波路のコアを伝搬する伝搬光の伝搬方向に延伸するステップとを含むことを特徴とする有機導波路の作製方法。
【請求項6】
請求項1または2に記載の有機導波路と、
前記有機導波路の前段に設けられた偏光子と、
前記有機導波路の後段に設けられた検光子とを備えたことを特徴とする電気光学スイッチ。
【請求項7】
入力光を2つの分岐部分で分波し、一方の光波にのみ位相シフトを与え、位相シフトを与えない他方の光波と合波させ、入力光に変調が加わった出力光を得るマッハツェンダ変調器において、前記2つの分岐部分のうち、位相シフトを与えるコアとして請求項1又は2に記載の有機導波路を使用することを特徴とするマッハツェンダ変調器。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【公開番号】特開2011−257442(P2011−257442A)
【公開日】平成23年12月22日(2011.12.22)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−129165(P2010−129165)
【出願日】平成22年6月4日(2010.6.4)
【出願人】(000004226)日本電信電話株式会社 (13,992)
【Fターム(参考)】