説明

有機廃棄物スラリーの貯留方法と燃料化方法及びバイオマス燃料並びに有機廃棄物スラリーの貯留装置

【課題】家畜排泄物や食品廃棄物等を含有する有機廃棄物スラリー中の固形分の沈降を防ぎつつ、このスラリーに含まれる有機成分の発酵及び溶解の進行を抑制することができ、しかも発熱量の低下を招く発酵をできるだけ防止することができる有機廃棄物スラリーの貯留方法と燃料化方法及びバイオマス燃料並びに有機廃棄物スラリーの貯留装置を提供する。
【解決手段】本発明の有機廃棄物スラリーの貯留方法は、有機廃棄物および洗浄水を含む含水率60質量%以上の高含水率有機廃棄物スラリー、有機廃棄物が塩素および/または塩素化合物を含みかつそれと等量以上かつ10倍量以下の水と混合してなる塩素含有有機廃棄物スラリー、のいずれか一方または双方を含む有機廃棄物スラリーを貯留装置2に投入し、温度制御手段13にて有機廃棄物スラリーの温度を0℃以上かつ30℃以下に調整し、撹拌手段12にて撹拌する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、有機廃棄物スラリーの貯留方法と燃料化方法及びバイオマス燃料並びに有機廃棄物スラリーの貯留装置に関し、更に詳しくは、鶏糞、牛糞、豚糞等の畜糞尿を含む家畜排泄物、あるいは百貨店、スーパーマーケット、コンビニエンスストア等にて廃棄される食品廃棄物等を含有する有機廃棄物を水中に拡散・溶解させた有機廃棄物スラリー中の固形分の沈降を防ぎつつ、この有機廃棄物に含まれる有機成分の分解を抑制することにより、このスラリーに含まれる有機成分の発酵及び溶解の進行を抑制し、この発酵に伴う発熱量の損失を防止することが可能な有機廃棄物スラリーの貯留方法と燃料化方法及びバイオマス燃料並びに有機廃棄物スラリーの貯留装置に関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来、鶏糞、牛糞、豚糞等の畜糞尿を含む家畜排泄物、あるいは百貨店、スーパーマーケット、コンビニエンスストア、飲食店等にて廃棄される売れ残り弁当や各種残飯等の食品廃棄物は、そのままの状態もしくは発酵させた状態で肥料として利用するのが一般的であるが、焼却炉等を用いて焼却することで減容化し、得られた焼却灰を肥料として利用することもある。
特に、近年、家畜排泄物の管理に関する適正化法が施行されたことにもより、畜糞尿を含む家畜排泄物の多くが肥料化されることが予想される一方、農地の減少傾向により使用される肥料の総量も減少傾向にある。そこで、家畜排泄物や食品廃棄物等の有機廃棄物を有効利用するために、肥料以外の用途の多角化が急務になっており、エネルギーとしての利用もその一つである。
【0003】
一般に、家畜排泄物は35質量%以下の低含水率状態では高位の発熱量を有するものであるが、低含水率状態とするためには、長時間の自然乾燥や化石燃料を用いた加熱乾燥を必要とするために、エネルギーとしての利用はごく一部では行われているものの総体的には進んでいない。
現在行われている家畜排泄物のエネルギー利用としては、鶏糞を発電や廃棄物ボイラーの燃料として用いたり、牛や豚の糞尿をメタン発酵させてメタンガスを主成分とするバイオガスを生成させ、このバイオガスを燃料として用いる等がある。
【0004】
このような家畜排泄物や食品廃棄物等の有機廃棄物を有効利用するための様々な方法や装置が提案されており、例えば、次のような提案がなされている。
(1)鶏糞、家畜糞等の含水廃棄処理物を、蒸気管と燃焼室を備えた熱風炉と多段式の乾燥炭化炉との間に発生蒸気の循環系統を配設して密閉系内で熱源を循環させながら炭化物及び灰化物を生成する方法(特許文献1)。
この方法では、乾燥炭化炉から炭化物を、熱風炉から灰化物を、それぞれ回収することで、二次利用可能な炭化物及び灰化物を同時に資源回収するとともに、省資源化と無公害化の推進を図っている。
(2)畜糞を乾燥させる乾燥機と、乾燥された畜糞を小粒と大粒に分離する分離機と、分離された小粒の乾燥畜糞を焼却処理する焼却炉と、乾燥未完了の畜糞を破砕して金属類の混入異物を露出するとともに、この混入異物を磁石を介して除去する磁石付振動式篩とを有する畜糞乾燥焼却装置(特許文献2)。
この装置では、畜糞原料に混入している石、金属などの金属類異物を簡単容易に撤去することで、金属類異物に起因する機械のトラブルを未然に回避するとともに、この畜糞を焼却処理することにより発生する熱を有効利用している。
【特許文献1】特開2004−330092号公報
【特許文献2】特開2005−156085号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
ところで、上述したように、家畜排泄物や食品廃棄物等の有機廃棄物を有効利用するための様々な方法や装置が提案されているが、これらの方法や装置においても、次のような問題点があった。
鶏糞をエネルギー源として利用しようとした場合、鶏糞のエネルギー利用を阻んでいる主たる点は、塩素含有量が高いという点である。鶏糞の塩素含有量が高いと、この塩素成分のために燃焼装置が腐食したり、あるいは低融点塩素化合物が発生して配管等の様々な箇所で閉塞等の様々なトラブルが発生する虞があるという問題点があった。
また、この鶏糞を、例えば、セメント焼成設備に燃料として投入した場合、それに含まれる塩素成分がセメントクリンカに混入してセメントの品質を低下させる虞がある。また、塩素成分がセメント焼成設備を腐食させる等のトラブルが発生する虞があるために、セメントの操業に悪影響を及ぼす虞がある。
【0006】
また、牛や豚の糞尿がエネルギー利用され難いのは、鶏糞と同様に塩素含有量が高いことと、含水率が80%前後と高いために、燃料として用いた場合、燃焼時に発生する熱エネルギーが糞尿に含まれる水分の蒸発潜熱に奪われてしまい、燃料としてのエネルギーの有効利用を図ることが難しいからである。
また、近年、鶏糞、牛糞、豚糞等の畜糞尿を燃料化する場合、この畜糞尿を直接脱水するか、あるいは畜糞尿を水に拡散した後、脱水して塩素等を除去し、この脱塩処理した畜糞尿を乾燥して燃料化することが試みられているが、脱水・乾燥の際に発酵が進行すると、畜糞尿中の有機成分の一部が分解され、結果的に発熱量の低下を招くという問題がある。
【0007】
特に、有機廃棄物および洗浄水を含む含水率60質量%以上の高含水率有機廃棄物スラリー、あるいは、有機廃棄物が塩素および/または塩素化合物を含みかつ前記有機廃棄物と等量以上かつ10倍量以下の水と混合してなる塩素含有有機廃棄物スラリーを、スラリーが酸素不足の状態、あるいは水分が多い状態で発酵した場合、メタン発酵が進行する。
このように、様々な理由から、家畜排泄物や食品廃棄物等を含む有機廃棄物のエネルギー源としての有効利用ははかばかしくないのが現状である。
【0008】
本発明は、上記の課題を解決するためになされたものであって、鶏糞、牛糞、豚糞等の畜糞尿を含む家畜排泄物、売れ残り弁当や各種残飯等の食品廃棄物等を含有する有機廃棄物を水中に拡散・溶解させた有機廃棄物スラリー中の固形分の沈降を防ぎつつ、この有機廃棄物スラリーに含まれる有機成分の発酵および溶解の進行を抑制することにより、有機廃棄物に含まれる有機成分の分解を抑制することができ、その結果、有機廃棄物の発熱量の低下を防止することができる有機廃棄物スラリーの貯留方法と燃料化方法及びバイオマス燃料並びに有機廃棄物スラリーの貯留装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明者等は、上記課題を解決するために鋭意研究を重ねた結果、家畜排泄物、食品廃棄物のいずれか一方または双方を含有する有機廃棄物を水中に拡散・溶解させた有機廃棄物スラリーを貯留する際に、この有機廃棄物スラリーの固形分の濃度を10質量%以上、この有機廃棄物スラリーの温度を30℃以下、に保持すれば、有機廃棄物スラリー中の固形分の沈降を防ぎつつ、このスラリーに含まれる有機成分の分解を抑制することにより、このスラリーに含まれる有機成分の発酵及び溶解を抑制することができ、その結果、発酵に起因する発熱量の低下を防止することができることを見出し、本発明を完成するに至った。
【0010】
すなわち、本発明の有機廃棄物スラリーの貯留方法は、家畜排泄物、食品廃棄物のいずれか一方または双方を含有する有機廃棄物を水と混合してなる有機廃棄物スラリーの貯留方法であって、前記有機廃棄物スラリーは、前記有機廃棄物および洗浄水を含む含水率60質量%以上の高含水率有機廃棄物スラリー、前記有機廃棄物が塩素および/または塩素化合物を含みかつ前記有機廃棄物と等量以上かつ10倍量以下の水と混合してなる塩素含有有機廃棄物スラリーのいずれか一方または双方を含み、前記有機廃棄物スラリーの固形分の沈降・滞留による嫌気性発酵を生じさせないように、この有機廃棄物スラリー中の固形分の濃度を保持しかつ該有機廃棄物スラリーの温度を制御しつつ撹拌することを特徴とする。
【0011】
この有機廃棄物スラリーの貯留方法では、有機廃棄物スラリーの固形分の沈降・滞留による嫌気性発酵を生じさせないように、この有機廃棄物スラリー中の固形分の濃度を保持しかつ該有機廃棄物スラリーの温度を制御しつつ撹拌することにより、この有機廃棄物スラリー中の固形分が沈降するのを防止し、この有機廃棄物スラリーに含まれる有機廃棄物の発酵および溶解を抑制する。これにより、この有機廃棄物に含まれる有機成分の分解が抑制され、この有機成分の分解に起因する発熱量の低下が防止される。
【0012】
前記有機廃棄物スラリーの含水率は90質量%以下であることが好ましい。
この有機廃棄物スラリーの含水率を90質量%以下とすることで、このスラリー中の有機成分の固形物の濃度が低くなり過ぎることがなくなり、その結果、この固形物の濃度は、最低限度である10質量%以上を確保することとなる。
【0013】
前記有機廃棄物スラリーの温度は、0℃以上かつ30℃以下であることが好ましい。
この有機廃棄物スラリーの温度を0℃以上かつ30℃以下とすることで、スラリー中の有機成分の発酵の進行を抑制し、この有機廃棄物の発熱量を維持する。
【0014】
前記撹拌におけるスラリーの滞留時間は、1時間以上かつ10日以下であることが好ましい。
撹拌におけるスラリーの滞留時間を1時間以上かつ10日以下とすることにより、この有機廃棄物スラリーに含まれる有機廃棄物の発酵および溶解の進行を抑制する。
【0015】
前記有機廃棄物スラリー中の固形分の濃度は、10質量%以上かつ40質量%以下であることが好ましい。
この有機廃棄物スラリー中の固形分の濃度を10質量%以上かつ50質量%以下とすることにより、この固形分に含まれる有機廃棄物の発酵の進行を抑制する。これにより、この固形分に含まれる有機成分の分解が抑制され、この固形分中の有機成分の発熱量が維持される。
【0016】
本発明の有機廃棄物スラリーの燃料化方法は、本発明の有機廃棄物スラリーの貯留方法により貯留された有機廃棄物スラリーを燃料化するための方法であって、前記有機廃棄物スラリーを脱水して塩素濃度が3000ppm以下の脱塩素有機廃棄物とし、の脱塩素有機廃棄物を乾燥または加熱乾燥して、塩素濃度が3000ppm以下かつ含水率が35質量%以下の乾燥脱塩素有機廃棄物とすることを特徴とする。
【0017】
この有機廃棄物スラリーの燃料化方法では、有機廃棄物スラリーを脱水して塩素濃度が3000ppm以下の脱塩素有機廃棄物とし、この脱塩素有機廃棄物を乾燥または加熱乾燥して、塩素濃度が3000ppm以下かつ含水率が35質量%以下の乾燥脱塩素有機廃棄物とすることにより、得られた乾燥脱塩素有機廃棄物は、塩素濃度が極めて低くかつ高位の発熱量を有しており、燃焼効率が高いバイオマス燃料として有効利用することが可能である。
また、この乾燥脱塩素有機廃棄物をセメント焼成設備に燃料として投入した場合においても、セメントの操業や品質に悪影響を及ぼす虞が無い。
【0018】
前記加熱乾燥における熱源は、太陽熱、前記有機廃棄物の発酵過程にて発生する発酵熱のいずれか一方、または双方であることが好ましい。
太陽熱、有機廃棄物の発酵過程にて発生する発酵熱のいずれか一方、または双方を用いて加熱乾燥することにより、化石燃料を用いずに加熱乾燥することが可能になり、よって、省エネルギー効果が大きく、かつ、環境負荷も小さなものとなる。
【0019】
前記脱塩素有機廃棄物を乾燥または加熱乾燥した後に、分級、粉砕、解砕のいずれか1つまたは2つ以上を行うことが好ましい。
脱塩素有機廃棄物は、乾燥または加熱乾燥した後では、通常、球状、塊状(ブロック状)、板状等、比較的大きな形状を有している。そこで、乾燥または加熱乾燥した脱塩素有機廃棄物に対して、分級、粉砕、解砕のいずれか1つまたは2つ以上を行うことにより、燃焼効率の高い所望の形状の粉粒体とすることが可能である。
【0020】
本発明のバイオマス燃料は、家畜排泄物、食品廃棄物のいずれか一方または双方を含有する有機廃棄物から、前記有機廃棄物および洗浄水を含む含水率60質量%以上の高含水率有機廃棄物スラリー、前記有機廃棄物が塩素および/または塩素化合物を含みかつ前記有機廃棄物と等量以上かつ10倍量以下の水と混合してなる塩素含有有機廃棄物スラリー、のいずれか一方または双方を含む有機廃棄物スラリーを得、この有機廃棄物スラリーを、脱水し、その後乾燥または加熱乾燥してなるバイオマス燃料であって、塩素濃度が3000ppm以下、含水率が35質量%以下かつ発熱量が3500kcal/kg以上であることを特徴とする。
【0021】
このバイオマス燃料では、塩素濃度を3000ppm以下、含水率を35質量%以下、発熱量を3500kcal/kg以上としたことにより、バイオマス燃料としての発熱効率が向上し、有機廃棄物が有するエネルギーを有効利用することが可能になる。
また、塩素濃度を3000ppm以下としたことにより、燃焼装置等においても腐食や配管等の閉塞等のトラブルが発生する虞がなく、また、セメント焼成設備に投入した場合においても、セメントの操業や品質に悪影響を及ぼす虞が無い。
【0022】
本発明の有機廃棄物スラリーの貯留装置は、家畜排泄物、食品廃棄物のいずれか一方または双方を含有する有機廃棄物を水と混合してなる有機廃棄物スラリーの貯留装置であって、前記有機廃棄物および洗浄水を含む含水率60質量%以上の高含水率有機廃棄物スラリー、前記有機廃棄物が塩素および/または塩素化合物を含みかつ前記有機廃棄物と等量以上かつ10倍量以下の水と混合してなる塩素含有有機廃棄物スラリーのいずれか一方または双方を含む有機廃棄物スラリーを貯留する貯留槽と、貯留された前記有機廃棄物スラリーを撹拌する撹拌手段と、貯留された前記有機廃棄物スラリーの温度を制御する温度制御手段とを備え、前記有機廃棄物スラリーの固形分の沈降・滞留による嫌気性発酵を生じさせないように、この有機廃棄物スラリー中の固形分の濃度を保持しかつ該有機廃棄物スラリーの温度を制御しつつ撹拌することを特徴とする。
【0023】
この有機廃棄物スラリーの貯留装置では、貯留された前記有機廃棄物スラリーを撹拌する撹拌手段と、貯留された前記有機廃棄物スラリーの温度を制御する温度制御手段とを備えたことにより、前記有機廃棄物スラリーの固形分の沈降・滞留による嫌気性発酵を生じさせないように、この有機廃棄物スラリー中の固形分の濃度を保持した状態で、この有機廃棄物スラリーの温度を制御し撹拌することが可能になる。これにより、この有機廃棄物スラリー中の固形分が沈降するのを防止し、この有機廃棄物スラリーに含まれる有機廃棄物の発酵および溶解を抑制し、この有機廃棄物に含まれる有機成分の分解を抑制する。
【0024】
前記撹拌手段は、撹拌機、前記有機廃棄物スラリー中に空気を送る送風機、前記有機廃棄物スラリーを循環させる循環ポンプのいずれか1種または2種以上を備えていることを特徴とする。
前記温度制御手段は、前記有機廃棄物スラリーを加熱する加熱手段、前記有機廃棄物スラリーを流体を介して冷却/加温する温度調節手段のいずれか一方または双方を備えていることを特徴とする。
【発明の効果】
【0025】
本発明の有機廃棄物スラリーの貯留方法によれば、有機廃棄物スラリーの固形分の沈降・滞留による嫌気性発酵を生じさせないように、この有機廃棄物スラリー中の固形分の濃度を保持しかつ該有機廃棄物スラリーの温度を制御しつつ撹拌するので、この有機廃棄物スラリー中の固形分の沈降を防止することができ、この有機廃棄物スラリーに含まれる有機廃棄物の発酵および溶解を抑制することができ、分解に起因する発熱量の低下を防止することができる。
【0026】
本発明の有機廃棄物スラリーの燃料化方法によれば、有機廃棄物スラリーを脱水して塩素濃度が3000ppm以下の脱塩素有機廃棄物とし、この脱塩素有機廃棄物を乾燥または加熱乾燥して、塩素濃度が3000ppm以下かつ含水率が35質量%以下の乾燥脱塩素有機廃棄物とするので、塩素濃度が極めて低くかつ高位の発熱量を有し、しかも燃焼効率が高い脱塩素有機廃棄物からなるバイオマス燃料を容易かつ安価に得ることができる。
また、このバイオマス燃料をセメント焼成設備に投入したとしても、燃焼効率が低下する虞がなく、セメントの操業や品質に悪影響を及ぼす虞も無い。
【0027】
本発明のバイオマス燃料によれば、塩素濃度を3000ppm以下、含水率を35質量%以下、発熱量を3500kcal/kg以上としたので、塩素濃度が極めて低くかつ高位の発熱量を有し、しかも燃焼効率が高い脱塩素有機廃棄物からなるバイオマス燃料を容易かつ安価に提供することができる。
【0028】
本発明の有機廃棄物スラリーの貯留装置によれば、有機廃棄物スラリーを貯留する貯留槽と、貯留された前記有機廃棄物スラリーを撹拌する撹拌手段と、貯留された前記有機廃棄物スラリーの温度を制御する温度制御手段とを備えたので、有機廃棄物スラリーに含まれる有機成分の発酵及び溶解の進行を抑制することができ、発酵に起因する発熱量の低下を防止することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0029】
本発明の有機廃棄物スラリーの貯留方法と燃料化方法及びバイオマス燃料並びに有機廃棄物スラリーの貯留装置の最良の形態について、図面に基づき説明する。
なお、本実施形態は、発明の趣旨をより良く理解させるために具体的に説明するものであり、特に指定のない限り、本発明を限定するものではない。
【0030】
「有機廃棄物スラリーの燃料化設備」
図1は、本発明の一実施形態の有機廃棄物スラリーの燃料化方法に用いられる燃料化設備を示す模式図であり、家畜排泄物、食品廃棄物のいずれか一方または双方を含有する有機廃棄物を水と混合してなる有機廃棄物スラリーを燃料化する設備である。
図において、1は溶解槽、2は貯留装置、3は脱水機、4は乾燥設備、5は乾燥機、6は粉砕機、7は排水処理装置である。
【0031】
この有機廃棄物スラリーは、前記有機廃棄物および洗浄水を含む含水率60質量%以上の高含水率有機廃棄物スラリー、前記有機廃棄物が塩素および/または塩素化合物を所定量以上含みかつ前記有機廃棄物と等量以上かつ10倍量以下の水と混合してなる塩素含有有機廃棄物スラリー、のいずれか一方または双方を混合したものである。ここで用いられる塩素および/または塩素化合物を含む有機廃棄物における塩素および/または塩素化合物の含有量は、5000ppm〜30000ppmである。
【0032】
溶解槽1は、家畜排泄物、食品廃棄物のいずれか一方または双方を含有しかつ塩素および/または塩素化合物を所定量以上含む有機廃棄物から有機廃棄物スラリーを作製することができるものであればよく、槽の少なくとも内面が有機廃棄物に含まれる塩素および/または塩素化合物に対して耐食性を有する金属、例えばステンレス鋼等からなる槽が好ましく、例えば、撹拌手段が備えられた密閉式あるいは開放式の溶解槽が好適である。
【0033】
貯留装置2は、家畜排泄物、食品廃棄物のいずれか一方または双方を含有する有機廃棄物が塩素および/または塩素化合物を所定量以上含みかつこの有機廃棄物と等量以上かつ10倍量以下の水と混合してなる有機廃棄物スラリー、あるいは、鶏舎、牛舎、豚舎等の畜舎から発生する、洗浄水を含んだ含水率が60質量%以上の鶏糞、牛糞、豚糞等の有機廃棄物スラリー等を脱水機3に送る際に、その流量を調整するために一旦貯留する装置であり、有機廃棄物スラリーの固形分の沈降・滞留による嫌気性発酵を生じさせないように、この有機廃棄物スラリー中の固形分の濃度を保持しかつ該有機廃棄物スラリーの温度を制御しつつ撹拌する装置である。
【0034】
この貯留装置2は、図2に示すように、有機廃棄物スラリーSを貯留する貯留槽11と、貯留された有機廃棄物スラリーSを撹拌する撹拌手段12と、貯留された有機廃棄物スラリーSの温度を制御する温度制御手段13と、貯留槽11に有機廃棄物スラリーSを投入する投入用配管14と、この投入用配管14に離間した側の対極の位置に設けられ貯留槽11に貯留された有機廃棄物スラリーSを貯留槽11の底部に近い位置で取り出し脱水機3に送る取出用配管15と、これら撹拌手段12及び温度制御手段13を制御し、さらに投入用配管14及び取出用配管15各々における有機廃棄物スラリーSの流量を制御する制御器(制御手段)16とにより構成されている。
【0035】
この貯留槽11では、有機廃棄物スラリーSの滞留時間が長くなると、このスラリーS中の有機成分の発酵・溶解が進行するので、滞留時間の短縮を図る必要がある。そこで、この貯留槽11の容量を、1日あたりの有機廃棄物スラリーSの発生量の10倍量以下とする。この貯留槽11が複数ある場合、複数個の貯留槽11の合計容量も、1日あたりの有機廃棄物スラリーSの発生量の10倍量以下とする。
【0036】
撹拌手段12は、有機廃棄物スラリーS中の固形分を沈降させることのないように撹拌することができるものであればよく、図に示すような撹拌機の他、有機廃棄物スラリーS中に配管を介して空気を送る送風機、有機廃棄物スラリーSを配管を介して循環させる循環ポンプが好適に用いられる。これらは、単独で用いてもよく、2種以上を組み合わせて用いてもよい。
【0037】
温度制御手段13は、有機廃棄物スラリーSの温度を0℃以上かつ30℃以下の範囲で制御することができるものであればよく、図に示すように、貯留槽11の壁面に内蔵される有機廃棄物スラリーSを加熱するヒータ(加熱手段)の他、有機廃棄物スラリーSを流体を介して冷却/加温するための流路及び循環ポンプを有する温度制御器(温度調節手段)が好適に用いられる。これらは、単独で用いてもよく、2種以上を組み合わせて用いてもよい。
この貯留槽11の底面を、取出用配管15側が低くなるように傾斜させれば、この貯留槽11の底面に有機廃棄物スラリーS中の固形分が沈降・堆積するのを防止することができるので好ましい。
【0038】
脱水機3は、貯留装置2から送り出される有機廃棄物スラリーSを脱水処理して固形状のケーキ(脱水有機廃棄物)と水分とに固液分離することができるものであればよく、濾過機、加圧濾過機、遠心脱水機、スクリュープレス等の各種脱水機が使用でき、特に、短時間で固液分離ができるスクリュープレスが好ましい。
【0039】
乾燥設備4は、固形状のケーキ(脱水有機廃棄物)を乾燥させるために、このケーキに含まれる家畜排泄物や食品廃棄物の種類や量に応じて太陽熱単独あるいは太陽熱及び自然の風力による天日乾燥、自然の風力あるいは他の設備からの排気等を利用した風力乾燥、有機廃棄物の発酵に伴う発酵熱による発酵乾燥のいずれか1種、あるいは2種以上を選択することができる設備であり、有機廃棄物の発酵乾燥を行う縦型撹拌式発酵装置、横型開放式堆肥舎等の発酵装置と、太陽熱、自然の風力、他の設備からの排気等を利用して脱水機2で脱水処理されたケーキの天日乾燥あるいは風力乾燥を行うハウスとを備えている。
なお、この乾燥設備4は、有機廃棄物に含まれる家畜排泄物や食品廃棄物の種類や量が限定される場合には、それらの用途に応じて、発酵装置、ハウスのいずれか一方のみにより構成してもよい。
【0040】
乾燥機5は、乾燥設備4で天日乾燥されたケーキの含水率を調整したり、あるいは脱水機3で固液分離されたケーキをさらに乾燥する必要がある場合等に用いられる装置であり、特に、用途に応じて乾燥、加熱乾燥を使い分けることができるという使い勝手の点でヒータ内蔵の乾燥機が好ましい。
粉砕機6は、乾燥設備4(あるいは乾燥機5)から取り出された固形状の乾燥したケーキ(乾燥有機廃棄物)に対して分級、粉砕、解砕のいずれか1つまたは2つ以上を行うことにより直径10mm以下の粒子状とする分級機能を有する装置であり、篩、分級機等を備えた自動乳鉢、スタンパ、ニーダー、ロールミル等が好適に用いられる。
排水処理装置7は、脱水機3からの排水に所定の排水処理を施し、処理済みの排水を放流する装置である。
【0041】
「有機廃棄物スラリーの燃料化方法」
次に、上記の燃料化設備を用いて有機廃棄物スラリーを燃料化する方法について説明する。
この燃料化方法の対象となる有機廃棄物スラリーとしては、家畜排泄物、食品廃棄物のいずれか一方または双方を含有する有機廃棄物が塩素および/または塩素化合物を所定量以上含みかつこの有機廃棄物と等量以上かつ10倍量以下の水と混合してなる有機廃棄物スラリー、あるいは、鶏舎、牛舎、豚舎等の畜舎から発生する、洗浄水を含んだ含水率が60質量%以上の鶏糞、牛糞、豚糞等の有機廃棄物スラリー等が挙げられる。これらは、その用途や必要に応じて、1種のみ、または2種以上を混合して用いることができる。
【0042】
(1)有機廃棄物スラリーの作製
溶解槽1に所定量の水、例えば、脱塩処理された上水道水等の新水、あるいは脱水機等から排出される二次水等を投入し、さらに有機廃棄物を投入して撹拌することにより、有機廃棄物スラリーを作製する。
【0043】
例えば、家畜排泄物、食品廃棄物のいずれか一方または双方を含有する有機廃棄物が塩素および/または塩素化合物を所定量以上含む場合、この有機廃棄物と等量以上かつ10倍量以下、好ましくは2倍量以上かつ5倍量以下の水と混合し有機廃棄物スラリーとする。
この有機廃棄物スラリー中の固形分の濃度は、10質量%以上かつ40質量%以下が好ましく、より好ましくは15質量%以上かつ25質量%以下である。
【0044】
ここで、有機廃棄物スラリー中の固形分の濃度を10質量%以上かつ40質量%以下とした理由は、固形分の濃度が10質量%未満では、水の量が多すぎてしまい、有機廃棄物スラリーの発酵が進行し易くなり、その結果、発熱量を3500kcal/kg以上に維持することができなくなるからであり、一方、固形分の濃度が40質量%を超えると、水の量が少なすぎてしまい、撹拌が十分に行うことができなくなり、その結果、有機廃棄物スラリーに含まれる有機成分の発酵および溶解の進行を抑制することができなくなり、有機廃棄物の発熱量が低下するからである。
この有機廃棄物スラリー中の固形分の濃度を10質量%以上かつ40質量%以下とすることにより、この固形分の発酵の進行を抑制し、この固形分中の有機成分の発熱量を維持することが可能になる。
【0045】
撹拌時間は、有機廃棄物スラリー中の固形分が沈降することなく、この有機廃棄物スラリーに含まれる有機廃棄物の発酵および溶解を抑制し、この有機廃棄物に含まれる有機成分の分解を抑制するのに充分な時間であればよく、通常、3分〜60分の範囲である。
この撹拌の間に、有機廃棄物が水洗されると同時に微細化されて水中に拡散し、有機廃棄物スラリー中の固形分が沈降せずに浮遊することとなり、この有機廃棄物スラリーに含まれる有機廃棄物の発酵および溶解も抑制され、この有機廃棄物に含まれる有機成分の分解が抑制される。
【0046】
(2)有機廃棄物スラリーの貯留
次いで、溶解槽1にて作製された有機廃棄物が塩素および/または塩素化合物を含みかつこの有機廃棄物と等量以上かつ10倍量以下の水と混合してなる有機廃棄物スラリー、あるいは、畜舎から排出される鶏糞、牛糞、豚糞等の畜糞尿を洗浄水にて洗浄することで生じた含水率が60質量%以上の鶏糞、牛糞、豚糞等の有機廃棄物スラリーを、貯留装置2に投入し、この有機廃棄物スラリーの温度を0℃以上かつ30℃以下、より好ましくは0℃以上かつ25℃以下、さらに好ましくは0℃以上かつ20℃以下の温度範囲内となるように調整し、撹拌する。
【0047】
ここで、有機廃棄物スラリーがメタン発酵する場合、有機廃棄物スラリー中に含まれる複雑な有機物を多種類の嫌気性細菌により分解し、低級脂肪酸や二酸化炭素等を発生する第1段階と、第1段階にて発生した低級脂肪酸や二酸化炭素等をメタン細菌の作用によりメタンガスに変える第2段階とに分けられ、有機廃棄物スラリーの温度、滞留時間及び固形分の濃度が大きく影響する。
【0048】
有機廃棄物スラリーの温度は、メタン発酵させるのに最適な温度が37℃付近であることを考慮すると、30℃〜45℃がメタン発酵に最適な温度領域となるので、メタン発酵を抑制するには、この温度領域以下とする必要がある。
そこで、有機廃棄物スラリーの温度を0℃以上かつ30℃以下、より好ましくは0℃以上かつ25℃以下、さらに好ましくは0℃以上かつ20℃以下の温度範囲内となるように調整する必要がある。
なお、この有機廃棄物スラリーの貯留の温度が30℃を超えると、このスラリー中におけるメタン発酵が進行し、得られた燃料の発熱量を3500kcal/kg以上に維持することができなくなる。また、スラリーの温度を0℃より下げると、結氷が生じてスラリーの状態を維持することができない。
【0049】
この撹拌における有機廃棄物スラリーの滞留時間は、1時間以上かつ10日以下であることが好ましい。
撹拌における有機廃棄物スラリーの滞留時間を1時間以上かつ10日以下とすることにより、有機廃棄物スラリー中の有機成分の発酵・溶解の進行を抑制することが可能となる。
【0050】
このように、有機廃棄物スラリーの固形分の沈降・滞留による嫌気性発酵を生じさせないように、この有機廃棄物スラリー中の固形分の濃度を保持しかつ該有機廃棄物スラリーの温度を制御しつつ撹拌することにより、この有機廃棄物スラリー中の固形分が沈降するのを防止することができ、この有機廃棄物スラリーに含まれる有機廃棄物の発酵および溶解を抑制することができる。その結果、この有機廃棄物に含まれる有機成分の分解を抑制することができ、分解に起因する発熱量の低下を防止することができる。
【0051】
(3)有機廃棄物スラリーの脱水
次いで、この貯留された有機廃棄物スラリーを脱水機2を用いて脱水し、できるだけ低含水率のケーキとする。このケーキの含水率は、好ましくは85質量%以下、より好ましくは70質量%以下、さらに好ましくは60質量%以下である。
このケーキに含まれる塩素および/または塩素化合物の量を低減するためには、低含水率とすることが必須である。このケーキが低含水率であれば、後工程である乾燥または加熱乾燥する際の熱量を低減させることができるので好ましい。
【0052】
この有機廃棄物スラリーは、脱水機2にて圧搾脱水されて、塩素濃度が3000ppm以下、含水率が85質量%以下の脱塩素有機廃棄物からなるケーキとなる。この脱水機2から排出される排水は、排水処理装置4により所定の排水処理が施された後、外部の排水路等へ放流される。
【0053】
(4)ケーキの乾燥または加熱乾燥
次いで、この脱塩素有機廃棄物からなるケーキを乾燥または加熱乾燥して、塩素濃度が3000ppm以下、好ましくは2000ppm以下であり、かつ含水率が35質量%以下の乾燥脱塩素有機廃棄物とする。
このケーキの乾燥または加熱乾燥は、乾燥設備3を用いて、天日乾燥、風力乾燥、発酵乾燥のいずれか1種または2種以上を組み合わせて行う。
例えば、上記のケーキを乾燥設備3内に搬入し、太陽熱等の自然エネルギーを利用した天日乾燥、風力等の自然エネルギーあるいは他の設備からの排気等を利用した風力乾燥、縦型撹拌式発酵装置や横型開放式発酵装置等の発酵装置から発生する発酵熱を用いた発酵乾燥等のうち1種、あるいは2種以上を組み合わせて上記のケーキの乾燥を行い、塩素濃度が3000ppm以下、好ましくは2000ppm以下かつ含水率が35質量%以下の乾燥脱塩素有機廃棄物とする。
【0054】
なお、このケーキを発酵装置を用いて発酵させると同時に、この発酵熱を用いて乾燥を行えば、効率的な乾燥処理を行うことができる。この発酵装置では、発酵により生じる臭気及び水分を含む空気を水槽内に導入することにより、この臭気及び水分を取り除いているので、臭気等が外部へ漏れる虞はない。
【0055】
このようにして得られた乾燥脱塩素有機廃棄物は、塩素濃度が3000ppm以下と低く、かつ高位の発熱量を有しているので、工業用各種燃料としての利用が可能である。
また、この乾燥脱塩素有機廃棄物の含水率を、例えば20質量%以下に調整する必要がある場合、乾燥機4を用いて所定の温度にて所定時間乾燥処理を施すことにより、含水率を所定の範囲内に調整することができる。
【0056】
この乾燥脱塩素有機廃棄物は、単に乾燥しただけでは、球状、塊状(ブロック状)、板状等、大きな形状をしていることが多い。用途によってはこのままの形状でもよいが、セメント焼成設備等にて用いる場合等では、燃焼効率を向上させるために、粉砕機5に備えられた篩または分級機を用いて分級した後、この粉砕機5により粉砕または解砕して、直径10mm以下の粒子状とするのがよい。
このようにして得られた乾燥脱塩素有機廃棄物は、塩素濃度が3000ppm以下と低くかつ高位の発熱量を有し、しかも、直径10mm以下の粒子状とされているので、セメント焼成設備のセメントキルンの窯尻部等に投入することによりセメント焼成用燃料として有効利用される。
【0057】
「バイオマス燃料」
本実施形態のバイオマス燃料は、家畜排泄物、食品廃棄物のいずれか一方または双方を含有する有機廃棄物から、前記有機廃棄物および洗浄水を含む含水率60質量%以上の高含水率有機廃棄物スラリー、前記有機廃棄物が塩素および/または塩素化合物を含みかつ前記有機廃棄物と等量以上かつ10倍量以下の水と混合してなる塩素含有有機廃棄物スラリー、のいずれか一方または双方を含む有機廃棄物スラリーを得、この有機廃棄物スラリーを、脱水し、その後乾燥または加熱乾燥してなるバイオマス燃料であって、その塩素濃度は3000ppm以下が好ましく、より好ましくは2000ppm以下、さらに好ましくは1000ppm以下である。
また、含水率は35質量%以下が好ましく、より好ましくは20質量%以下、さらに好ましくは15質量%以下である。
また、発熱量は、3500kcal/kg以上であることを特徴とする。
【0058】
このバイオマス燃料では、塩素濃度を3000ppm以下、含水率を35質量%以下、発熱量を3500kcal/kg以上としたことにより、バイオマス燃料としての発熱効率が向上し、有機廃棄物が有するエネルギーを有効利用することが可能になる。
また、塩素濃度を3000ppm以下としたことにより、燃焼装置等においても腐食や配管等の閉塞等のトラブルが発生する虞がなく、また、セメント焼成設備に投入した場合においても、セメントの操業や品質に悪影響を及ぼす虞が無い。
このバイオマス燃料は、上述した有機廃棄物スラリーの燃料化方法により得ることができる。
【0059】
以上説明したように、本実施形態の有機廃棄物スラリーの貯留方法によれば、有機廃棄物スラリーの固形分の沈降・滞留による嫌気性発酵を生じさせないように、この有機廃棄物スラリー中の固形分の濃度及び温度を制御しつつ撹拌するので、有機廃棄物スラリー中の固形分の沈降を防止することができ、この有機廃棄物スラリーに含まれる有機廃棄物の発酵および溶解を抑制することができる。その結果、この有機廃棄物に含まれる有機成分の分解を抑制することができ、発酵に起因する発熱量の低下を防止することができる。
【0060】
本実施形態の有機廃棄物スラリーの燃料化方法によれば、有機廃棄物スラリーを脱水して塩素濃度が3000ppm以下の脱塩素有機廃棄物とし、この脱塩素有機廃棄物を乾燥または加熱乾燥して、塩素濃度が3000ppm以下かつ含水率が35質量%以下の乾燥脱塩素有機廃棄物とするので、塩素濃度が極めて低くかつ高位の発熱量を有し、しかも燃焼効率が高い脱塩素有機廃棄物からなるバイオマス燃料を容易かつ安価に得ることができる。
【0061】
本実施形態のバイオマス燃料によれば、塩素濃度を3000ppm以下、含水率を35質量%以下、発熱量を3500kcal/kg以上としたので、塩素濃度が極めて低く、発熱量を3500kcal/kg以上に維持し、しかも燃焼効率が高い脱塩素有機廃棄物からなるバイオマス燃料を容易かつ安価に提供することができる。
また、このバイオマス燃料をセメント焼成設備に燃料として投入した場合、塩素濃度が3000ppm以下と極めて低くかつ含水率も35質量%以下と低いことから、セメント焼成設備における燃焼効率を高めることができ、しかもセメントの操業や品質に悪影響を及ぼす虞が無い。
【0062】
本実施形態の有機廃棄物スラリーの貯留装置によれば、有機廃棄物スラリーSを貯留する貯留槽11と、撹拌手段12と、温度制御手段13と、投入用配管14と、取出用配管15と、制御器16とを備えたので、有機廃棄物スラリーに含まれる有機成分の発酵及び溶解の進行を抑制することができ、発酵に起因する発熱量の低下を防止することができる。
【実施例】
【0063】
以下、実施例及び比較例により本発明を具体的に説明するが、本発明はこれらの実施例により限定されるものではない。
【0064】
(実施例1)
有機廃棄物スラリーとして、含水率85質量%、塩素濃度8500ppm、発熱量4200kcal/kgの牛糞(180kg/日)に脱塩処理した上水道水70Lを加えて撹拌・混合した牛糞スラリーを用いた。この牛糞スラリーの固形分の濃度は11質量%であった。
この牛糞スラリーの日発生量は0.25m/日であり、この牛糞スラリーを容量2mの貯留槽に貯留した。
この貯留槽の容量は、牛糞スラリーの日発生量の8倍であり、貯留槽内の牛糞スラリーの温度は20℃であった。この牛糞スラリーを撹拌機を用いて撹拌した。
【0065】
次いで、この貯留槽への流入量と同量の0.25m/日の牛糞スラリーを貯留槽から流出させ、この牛糞スラリーを脱水機を用いて脱水し、含水率70質量%、塩素濃度2400ppm、発熱量3990kcal/kgのケーキ90kg/日を得た。
次いで、このケーキを乾燥設備内に搬入し、太陽熱及び風力を利用して天日乾燥を行い、含水率55質量%、塩素濃度2400ppm、発熱量3990kcal/kgの乾燥脱塩素牛糞(60kg/日)を得た。
【0066】
次いで、この乾燥脱塩素牛糞を横型開放式堆肥舎に搬入し、発酵熱を用いて乾燥させ、含水率が25質量%、塩素濃度が2730ppm、発熱量が3570kcal/kgの乾燥脱塩素牛糞(32kg/日)を得た。
この乾燥脱塩素牛糞をセメント焼成設備のセメントキルンの窯尻部に燃料として投入したところ、セメントキルンの燃焼効率が低下することはなく、セメントの操業や品質に影響は無かった。
【0067】
(実施例2)
有機廃棄物スラリーとして、含水率80質量%、塩素濃度8000ppm、発熱量4500kcal/kgの豚糞(150kg/日)に脱塩処理した上水道水100Lを加えて撹拌・混合した豚糞スラリーを用いた。この豚糞スラリーの固形分の濃度は12質量%であった。
この豚糞スラリーの日発生量は0.25m/日であり、この豚糞スラリーを容量2mの貯留槽に貯留した。
この貯留槽の容量は、豚糞スラリーの日発生量の8倍であり、貯留槽内の豚糞スラリーの温度は20℃であった。この豚糞スラリーを撹拌機を用いて撹拌した。
【0068】
次いで、この貯留槽への流入量と同量の0.25m/日の豚糞スラリーを貯留槽から流出させ、この豚糞スラリーを脱水機を用いて脱水し、含水率70質量%、塩素濃度2550ppm、発熱量4280kcal/kgのケーキ(100kg/日)を得た。
次いで、このケーキを乾燥設備内に搬入し、太陽熱及び風力を利用して天日乾燥を行い、含水率25質量%、塩素濃度2550ppm、発熱量4280kcal/kgの乾燥脱塩素豚糞(40kg/日)を得た。
【0069】
次いで、この乾燥脱塩素豚糞をセメント焼成設備のセメントキルンの窯尻部に燃料として投入したところ、セメントキルンの燃焼効率が低下することはなく、セメントの操業や品質に影響は無かった。
【0070】
(比較例1)
有機廃棄物スラリーとして、含水率80質量%、塩素濃度8000ppm、発熱量4500kcal/kgの豚糞100kg/日に脱塩処理した上水道水150Lを加えて撹拌・混合した豚糞スラリーを用いた。この豚糞スラリーの固形分の濃度は8質量%であり、実施例2の豚糞スラリーの固形分の濃度と比べて低いものであった。
この豚糞スラリーの日発生量は0.25m/日であり、この豚糞スラリーを容量2mの貯留槽に貯留した。
この貯留槽の容量は、豚糞スラリーの日発生量の8倍であり、貯留槽内の豚糞スラリーの温度は20℃であった。この豚糞スラリーを撹拌機を用いて撹拌した。
【0071】
次いで、この貯留槽への流入量と同量の0.25m/日の豚糞スラリーを貯留槽から流出させ、この豚糞スラリーを脱水機を用いて脱水した。得られたケーキ(67kg/日)は、含水率が70質量%、塩素濃度が1620ppmである一方、発熱量は3110kcal/kgと小さいものであった。
次いで、このケーキを乾燥設備内に搬入し、太陽熱及び風力を利用して天日乾燥を行い、含水率25質量%、塩素濃度1620ppm、発熱量3110kcal/kg、の乾燥脱塩素豚糞(27kg/日)を得た。
【0072】
次いで、この発熱量が小さい乾燥脱塩素豚糞をセメント焼成設備のセメントキルンの窯尻部に燃料として投入したところ、セメントキルンの燃焼効率が低下し、セメントの操業に大きな影響があった。
【0073】
(比較例2)
有機廃棄物スラリーとして、含水率80質量%、塩素濃度8000ppm、発熱量4500kcal/kgの豚糞(150kg/日)に脱塩処理した上水道水100Lを加えて撹拌・混合した豚糞スラリーを用いた。この豚糞スラリーの固形分の濃度は12質量%であった。
この豚糞スラリーの日発生量は0.25m/日であり、この豚糞スラリーを容量4mの貯留槽に貯留した。
この貯留槽の容量は、豚糞スラリーの日発生量の16倍と、実施例2の貯留槽と比べて大きいものであり、貯留槽内の豚糞スラリーの温度は20℃であった。この豚糞スラリーを撹拌機を用いて撹拌した。
【0074】
次いで、この貯留槽への流入量と同量の0.25m/日の豚糞スラリーを貯留槽から流出させ、この豚糞スラリーを脱水機を用いて脱水した。得られたケーキ(100kg/日)は、含水率が70質量%、塩素濃度が2550ppmである一方、発熱量は3060kcal/kgと小さいものであった。
次いで、このケーキを乾燥設備内に搬入し、太陽熱及び風力を利用して天日乾燥を行い、含水率25質量%、塩素濃度2550ppm、発熱量3060kcal/kgの乾燥脱塩素豚糞(40kg/日)を得た。
【0075】
次いで、この発熱量が小さい乾燥脱塩素豚糞をセメント焼成設備のセメントキルンの窯尻部に燃料として投入したところ、セメントキルンの燃焼効率が低下し、セメントの操業に大きな影響があった。
【0076】
(比較例3)
有機廃棄物スラリーとして、含水率80質量%、塩素濃度8000ppm、発熱量4500kcal/kgの豚糞(150kg/日)に脱塩処理した上水道水100Lを加えて撹拌・混合した豚糞スラリーを用いた。この豚糞スラリーの固形分の濃度は12質量%であった。
この豚糞スラリーの日発生量は0.25m/日であり、この豚糞スラリーを容量2mの貯留槽に貯留した。
この貯留槽の容量は、豚糞スラリーの日発生量の8倍であった。また、この貯留槽は保温性が高く、貯留槽内の豚糞スラリーの温度は40℃で、実施例2の貯留槽内の豚糞スラリーと比べてかなり高温であった。この豚糞スラリーを撹拌機を用いて撹拌した。
【0077】
次いで、この貯留槽への流入量と同量の0.25m/日の豚糞スラリーを貯留槽から流出させ、この豚糞スラリーを脱水機を用いて脱水した。得られたケーキ(100kg/日)は、含水率が70質量%、塩素濃度が2550ppmである一方、発熱量は2930kcal/kgと小さいものであった。
次いで、このケーキを乾燥設備内に搬入し、太陽熱及び風力を利用して天日乾燥を行い、含水率25質量%、塩素濃度2550ppm、発熱量2930kcal/kgの乾燥脱塩素豚糞(40kg/日)を得た。
【0078】
次いで、この発熱量が小さい乾燥脱塩素豚糞をセメント焼成設備のセメントキルンの窯尻部に燃料として投入したところ、セメントキルンの燃焼効率が低下し、セメントの操業に大きな影響があった。
【0079】
(比較例4)
有機廃棄物スラリーとして、含水率80質量%、塩素濃度8000ppm、発熱量4500kcal/kgの豚糞(150kg/日)に脱塩処理した上水道水100Lを加えて撹拌・混合した豚糞スラリーを用いた。この豚糞スラリーの固形分の濃度は12質量%であった。
この豚糞スラリーの日発生量は0.25m/日であり、この豚糞スラリーを容量2mの貯留槽に貯留した。
この貯留槽の容量は、豚糞スラリーの日発生量の8倍であり、貯留槽内の豚糞スラリーの温度は20℃であった。なお、この比較例4では、実施例2と異なり、この豚糞スラリーの撹拌を行わなかった。
【0080】
次いで、この貯留槽への流入量と同量の0.25m/日の豚糞スラリーを貯留槽から流出させ、この豚糞スラリーを脱水機を用いて脱水した。得られたケーキ(100kg/日)は、含水率が70質量%、塩素濃度が2550ppmである一方、発熱量は3020kcal/kgと小さいものであった。この発熱量が小さかった理由は、豚糞スラリーを撹拌しなかったために、この豚糞スラリーに含まれている固形分が沈降して貯留槽の底部に堆積し、長時間滞留して発酵が進行したためと考えられる。
【0081】
次いで、このケーキを乾燥設備内に搬入し、太陽熱及び風力を利用して天日乾燥を行い、含水率25質量%、塩素濃度2550ppm、発熱量3020kcal/kgの乾燥脱塩素豚糞(40kg/日)を得た。
次いで、この発熱量が小さい乾燥脱塩素豚糞をセメント焼成設備のセメントキルンの窯尻部に燃料として投入したところ、セメントキルンの燃焼効率が低下し、セメントの操業に大きな影響があった。
【図面の簡単な説明】
【0082】
【図1】本発明の一実施形態の燃料化設備を示す模式図である。
【図2】本発明の一実施形態の燃料化設備の貯留装置を示す断面図である。
【符号の説明】
【0083】
1 溶解槽
2 貯留装置
3 脱水機
4 乾燥設備
5 乾燥機
6 粉砕機
7 排水処理装置
11 貯留槽
12 撹拌手段
13 温度制御手段
14 投入用配管
15 取出用配管
16 制御器
S 有機廃棄物スラリー

【特許請求の範囲】
【請求項1】
家畜排泄物、食品廃棄物のいずれか一方または双方を含有する有機廃棄物を水と混合してなる有機廃棄物スラリーの貯留方法であって、
前記有機廃棄物スラリーは、前記有機廃棄物および洗浄水を含む含水率60質量%以上の高含水率有機廃棄物スラリー、前記有機廃棄物が塩素および/または塩素化合物を含みかつ前記有機廃棄物と等量以上かつ10倍量以下の水と混合してなる塩素含有有機廃棄物スラリーのいずれか一方または双方を含み、
前記有機廃棄物スラリーの固形分の沈降・滞留による嫌気性発酵を生じさせないように、この有機廃棄物スラリー中の固形分の濃度を保持しかつ該有機廃棄物スラリーの温度を制御しつつ撹拌することを特徴とする有機廃棄物スラリーの貯留方法。
【請求項2】
前記有機廃棄物スラリーの含水率は90質量%以下であることを特徴とする請求項1記載の有機廃棄物スラリーの貯留方法。
【請求項3】
前記有機廃棄物スラリーの温度は、0℃以上かつ30℃以下であることを特徴とする請求項1または2記載の有機廃棄物スラリーの貯留方法。
【請求項4】
前記撹拌におけるスラリーの滞留時間は、1時間以上かつ10日以下であることを特徴とする請求項1、2または3記載の有機廃棄物スラリーの貯留方法。
【請求項5】
前記有機廃棄物スラリー中の固形分の濃度は、10質量%以上かつ40質量%以下であることを特徴とする請求項1ないし4のいずれか1項記載の有機廃棄物スラリーの貯留方法。
【請求項6】
請求項1ないし5のいずれか1項記載の有機廃棄物スラリーの貯留方法により貯留された有機廃棄物スラリーを燃料化するための方法であって、
前記有機廃棄物スラリーを脱水して塩素濃度が3000ppm以下の脱塩素有機廃棄物とし、
この脱塩素有機廃棄物を乾燥または加熱乾燥して、塩素濃度が3000ppm以下かつ含水率が35質量%以下の乾燥脱塩素有機廃棄物とすることを特徴とする有機廃棄物スラリーの燃料化方法。
【請求項7】
前記加熱乾燥における熱源は、太陽熱、前記有機廃棄物の発酵過程にて発生する発酵熱のいずれか一方、または双方であることを特徴とする請求項6記載の有機廃棄物スラリーの燃料化方法。
【請求項8】
前記脱塩素有機廃棄物を乾燥または加熱乾燥した後に、分級、粉砕、解砕のいずれか1つまたは2つ以上を行うことを特徴とする請求項6または7記載の有機廃棄物スラリーの燃料化方法。
【請求項9】
家畜排泄物、食品廃棄物のいずれか一方または双方を含有する有機廃棄物から、前記有機廃棄物および洗浄水を含む含水率60質量%以上の高含水率有機廃棄物スラリー、前記有機廃棄物が塩素および/または塩素化合物を含みかつ前記有機廃棄物と等量以上かつ10倍量以下の水と混合してなる塩素含有有機廃棄物スラリー、のいずれか一方または双方を含む有機廃棄物スラリーを得、この有機廃棄物スラリーを、脱水し、その後乾燥または加熱乾燥してなるバイオマス燃料であって、
塩素濃度が3000ppm以下、含水率が35質量%以下かつ発熱量が3500kcal/kg以上であることを特徴とするバイオマス燃料。
【請求項10】
家畜排泄物、食品廃棄物のいずれか一方または双方を含有する有機廃棄物を水と混合してなる有機廃棄物スラリーの貯留装置であって、
前記有機廃棄物および洗浄水を含む含水率60質量%以上の高含水率有機廃棄物スラリー、前記有機廃棄物が塩素および/または塩素化合物を含みかつ前記有機廃棄物と等量以上かつ10倍量以下の水と混合してなる塩素含有有機廃棄物スラリーのいずれか一方または双方を含む有機廃棄物スラリーを貯留する貯留槽と、
貯留された前記有機廃棄物スラリーを撹拌する撹拌手段と、
貯留された前記有機廃棄物スラリーの温度を制御する温度制御手段とを備え、
前記有機廃棄物スラリーの固形分の沈降・滞留による嫌気性発酵を生じさせないように、この有機廃棄物スラリー中の固形分の濃度を保持しかつ該有機廃棄物スラリーの温度を制御しつつ撹拌することを特徴とする有機廃棄物スラリーの貯留装置。
【請求項11】
前記撹拌手段は、撹拌機、前記有機廃棄物スラリー中に空気を送る送風機、前記有機廃棄物スラリーを循環させる循環ポンプのいずれか1種または2種以上を備えていることを特徴とする請求項10記載の有機廃棄物スラリーの貯留装置。
【請求項12】
前記温度制御手段は、前記有機廃棄物スラリーを加熱する加熱手段、前記有機廃棄物スラリーを流体を介して冷却/加温する温度調節手段のいずれか一方または双方を備えていることを特徴とする請求項10または11記載の有機廃棄物スラリーの貯留装置。

【図1】
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【図2】
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【公開番号】特開2009−154104(P2009−154104A)
【公開日】平成21年7月16日(2009.7.16)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−335748(P2007−335748)
【出願日】平成19年12月27日(2007.12.27)
【出願人】(000183266)住友大阪セメント株式会社 (1,342)
【Fターム(参考)】