説明

有機性排水の処理方法

【課題】高圧状態の気体や薬液を添加することなく、簡単な設備を用いて余剰汚泥の発生量を大きく減量化することができる有機性排水の処理方法を提供する。
【解決手段】有機性排水を活性汚泥を用いて生物処理する処理方法において、生物処理槽中の活性汚泥の一部を可溶化槽にてせん断及び微細化し、活性汚泥中に微細気泡を生成及び分散させた後に、再び生物処理に用いる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、生活系排水、畜産排水、水産加工排水又は各種産業排水などの有機性排水の処理方法に関するものである。さらに詳しくは、係る処理において増加する活性汚泥の減量化に関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来、有機性排水の生物化学的処理方法として、好気性微生物を含んだ活性汚泥により有機性排水を処理する活性汚泥法が採用されている。一般的な活性汚泥法の処理工程として図9に示すような工程がある。図9に示すように、流量調整工程で排水の均一化等を行った後、有機性排水を生物処理工程へと導入し、生物処理工程内で活性汚泥により有機性排水中の汚濁成分を分解させて浄化処理している。しかしながら、活性汚泥法では新たに多量の活性汚泥が発生する。そのため、生物処理工程で処理された排水が処理水分離工程へ移送された後、沈殿した活性汚泥を分離し、分離した活性汚泥のうち有機性排水の浄化処理に必要な量だけ返送汚泥として生物処理工程内へと戻し、その他は余剰汚泥として廃棄している。廃棄された余剰汚泥は含水率が高く脱水性が悪いこと等から取り扱いにくく、また、その処分費用も高く、有機性排水を活性汚泥法によって浄化処理する場合には常に余剰汚泥の処理方法が問題となる。
【0003】
余剰汚泥を減量化する方法として、図10に示すような減量化方法が知られている(例えば、特許文献1参照)。この方法は、有機性排水を活性汚泥処理槽101で活性汚泥処理することにより発生し、沈殿槽102で分離された活性汚泥の一部である返送汚泥の懸濁液に、高圧状態の二酸化炭素を微小気泡として溶解させる方法である。返送汚泥の懸濁液は二酸化炭素処理装置103内で高圧状態の二酸化炭素と接触され、返送汚泥内の微生物は効率よく死滅する。二酸化炭素処理装置103では残存酵素が失活しない程度の圧力を持った二酸化炭素を撹拌機、スタティックミキサー及びミクロフィルターなどを使用して1000μm以下の粒径にしている。高圧状態の二酸化炭素と返送汚泥を接触させた後、二酸化炭素を除去した返送汚泥の懸濁液を活性汚泥処理槽101に返送し、再度活性汚泥処理を行い、死滅細胞内の残存酵素の働きで活性汚泥処理槽101で発生する活性汚泥を減量化するものである。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2005−246287号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、前記特許文献1の方法では高圧状態の二酸化炭素を用いることから安全上の懸念がある。設備の安全性を確保するためには、二酸化炭素処理装置や周辺の配管系統などを高耐圧仕様とする必要がある。また、二酸化炭素の異常昇圧や漏洩などに対しても設備設計や運転、保守管理方法などを考慮する必要がある。使用済みの二酸化炭素は回収され加圧後再利用されるが、ここでも加圧設備や貯留施設が必要となるため、施設が複雑で大掛かりなものとなるという問題がある。
【0006】
本発明は以上のような問題点に鑑みなされたものであり、高圧状態の気体や薬液を添加することなく、簡単な設備を用いて余剰汚泥の発生量を大きく減量化することができる有機性排水の処理方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明の有機性排水の処理方法は、有機性排水を生物処理槽における活性汚泥で生物処理すると共に、前記生物処理により新たに活性汚泥が発生する有機性排水の処理方法において、
生物処理槽中の活性汚泥の一部を取り出してせん断及び微細化し、前記活性汚泥中に微細気泡を生成及び分散させた後、前記生物処理槽に移送することを特徴とし、下記の構成を好ましい態様として含む。
【0008】
前記活性汚泥のせん断及び微細化と、前記微細気泡の生成及び分散が一つの手段で同時に微分散処理として行われ、
前記生物処理槽において新たに発生する活性汚泥の1〜10倍量の活性汚泥を取り出して前記微分散処理を行い前記生物処理槽に移送すること。
【0009】
前記活性汚泥のせん断及び微細化と、前記活性汚泥中への前記微細気泡の生成及び分散を行う手段が、
前記活性汚泥中で、回転中心部に一端を開口させた吸気管を設けた撹拌羽を回転させ、
回転中心部に生ずる負圧により回転中心部に前記活性汚泥及び外気を吸い込み、
撹拌羽の回転により発生するせん断力・撹拌力によって、前記活性汚泥及び外気を微細化すること。
【0010】
前記外気が空気、オゾンまたは二酸化炭素のいずれか1つを含む気体であり、活性汚泥中に生成、分散させる前記微細気泡が前記気体からなること。
【0011】
前記回転中心部に吸い込まれる外気の量が、固形分濃度が7,000〜30,000g/m3の余剰汚泥1m3当たり0.06〜1.2m3/hであること。
【0012】
少なくとも、流入工程、流量調整工程、分散工程、生物処理工程、処理水分離工程、並びに、
生物処理槽から取り出した活性汚泥の一部をせん断及び微細化し、前記活性汚泥中に微細気泡を生成及び分散させた後に、前記生物処理槽に移送する工程を含むと共に、
前記分散工程が、前記生物処理工程より前の工程において、前記有機性排水中の不溶性物質をせん断及び微細化すると共に、前記有機性排水中に微細気泡を生成及び分散させる工程であること。
【0013】
ここで、本発明において、微分散処理とは活性汚泥または有機性排水中の不溶性物質をせん断及び微細化し、活性汚泥中または有機性排水中に微細気泡を生成及び分散させることである。
【発明の効果】
【0014】
本発明は以上のような構成を有し、以下の優れた効果が得られる。
(1)生物処理槽から取り出した活性汚泥をせん断及び微細化し、さらに、該活性汚泥中に微細気泡を生成及び分散させることによって該活性汚泥を可溶化させ、可溶化された活性汚泥を再び生物処理槽に戻して、再度生物処理に用いることで余剰汚泥を減量化することができる。
(2)高圧気体や薬液などの添加を必要とせず、常温常圧の穏やかな条件かつ簡単な装置で余剰汚泥を減量化することができる。
【図面の簡単な説明】
【0015】
【図1】本発明の第1の実施形態を示した処理フローチャートである。
【図2】本発明の第1の実施形態を示した構成図である。
【図3】本発明の第1の実施形態に用いる可溶化槽を示す模式図である。
【図4】図3の可溶化槽の撹拌羽付近の空間を示す模式図である。
【図5】本発明の第1の実施形態に用いる他の可溶化槽を示す模式図である。
【図6】本発明の第1の実施形態に用いる他の可溶化槽を示す模式図である。
【図7】本発明の第2の実施形態を示した処理フローチャートである。
【図8】本発明の第2の実施形態を示した構成図である。
【図9】従来技術の有機性排水の処理方法を示した処理フローチャートである。
【図10】従来技術の他の有機性排水の処理方法を示した構成図である。
【発明を実施するための形態】
【0016】
以下、本発明の実施形態について図面を参照して説明するが、本発明が本実施形態に限定されないことは言うまでもない。
【0017】
〔第1の実施形態〕
図1乃至図6に基づいて本発明の第1の実施形態である有機性排水の処理方法について説明する。図1は本発明の第1の実施形態の処理フローチャート、図2は構成図である。図1に示すように、本発明における処理工程は、流入工程、流量調整工程、生物処理工程、処理水分離工程、汚泥返送工程、可溶化工程、可溶化移送工程から構成される。
【0018】
図1乃至図2において、流入工程で設備に流入した有機性排水は流量調整工程で流量調整され、生物処理工程に送られる。生物処理工程では、膜分離活性汚泥槽1内で有機性排水が活性汚泥法によって生物処理される。膜分離活性汚泥槽1には、処理槽内に生物処理を行う活性汚泥が入れられ、消毒工程(図示せず)を経て設備外に放流する処理水を分離する膜2が設けられている。従って、膜分離活性汚泥槽1内で処理水分離工程も行われている。膜分離活性汚泥槽1内の活性汚泥の一部は濃縮貯留工程(図示せず)を経て、余剰汚泥として設備外へ廃棄される。また、活性汚泥の残りは返送汚泥として可溶化移送工程に送られ、可溶化移送工程中の可溶化工程で可溶化処理される。可溶化工程では、可溶化槽4内で分散機5によって活性汚泥3をせん断及び微細化し、さらに、分散機5によって生成した微細気泡を活性汚泥3中に分散させる。可溶化槽4内で微分散処理され、可溶化された活性汚泥3は、生物処理工程に移送され、膜分離活性汚泥槽1で生物処理に用いられる。また、返送汚泥の一部は濃縮貯留工程を経て可溶化工程を経ずに汚泥返送工程に送られ、生物処理工程に移送されることもある。尚、この場合、濃縮貯留工程は廃棄される余剰汚泥と一緒に行っても良い。また、活性汚泥を充分に減量できる場合には、廃棄する余剰汚泥をなくし、活性汚泥全てを返送汚泥としても構わない。
【0019】
図3は、図2の可溶化槽4の構成例を示す図である。図3において、可溶化槽4の上方には、可溶化槽4に膜分離活性汚泥槽1から取り出した活性汚泥3を導入する導入管6が配置されている。可溶化槽4の下方には処理した活性汚泥3を膜分離生物処理槽1に送水するための送水管7が設けられている。可溶化槽4内には、撹拌羽8、駆動部9、吸気管10により構成された分散機5が配置されている。吸気管10の両端は開放されており、一端は可溶化槽4の外部に配置され、他端は撹拌羽8が駆動部9によって回転した時に生じる負圧の中心部となる位置に配置される。
【0020】
以上のように構成することで、分散機5は次のような作用を生じる。導入管6から可溶化槽4に導入された活性汚泥3は、撹拌羽8の回転により撹拌され、せん断及び微細化される。この時、撹拌羽8付近の活性汚泥3は撹拌羽8から離反する方向に移動し、可溶化槽4の側壁11に沿って上昇流となって水面付近へ移動していく。一方、撹拌羽8の中心部は、活性汚泥3が側壁11方向へ移動することにより負圧が生じることになり、上方より活性汚泥3を吸い込むこととなる。そして、水面付近へ移動した活性汚泥3は再び下降し、撹拌羽8を通過する。このように、撹拌羽8の回転によって活性汚泥3は可溶化槽4内を循環し、撹拌羽8を通過するたびに撹拌羽8によってせん断及び微細化される。
【0021】
また、撹拌羽8の中心部で負圧となる位置には吸気管10が配置されているため、可溶化槽4の外部から空気(外気)が吸い込まれ、撹拌羽8の中心部に排出される。排出された外気は活性汚泥3と共に撹拌羽8に至り、撹拌羽8の撹拌によってせん断され微細気泡12となる。生成した微細気泡12は、せん断及び微細化された活性汚泥3と共に可溶化槽4内を循環し、撹拌羽8によって撹拌されることによって、活性汚泥3の中に均一に分散される。活性汚泥3中に分散された微細気泡12の自己圧壊効果により活性汚泥3を可溶化させる。
【0022】
本発明において、圧壊とは、液中に存在する微細気泡12が微細気泡12中に含まれる気体の自然溶解により徐々に縮小し、消滅する現象のことをいう。微細気泡12が圧壊するときには極めて強い酸化力を持つ遊離活性基が発生し、活性汚泥3を可溶化させる。
【0023】
本発明において、可溶化工程は膜分離活性汚泥槽1から活性汚泥を取り出して行う必要がある。これは、生物処理工程で分散機5を用いた処理を行うと、せん断及び分散された活性汚泥3が処理水分離工程で沈降障害を引き起こすためである。可溶化工程における活性汚泥3の固形分濃度は7,000〜30,000g/m3が好ましい。効率的に活性汚泥をせん断及び微細化するためには活性汚泥3の固形分濃度は7,000g/m3以上が好ましく、分散機5が余剰汚泥により目詰まりせず処理するためには30,000g/m3以下が好ましい。以下、係る濃度で可溶化処理を行うことを前提に説明する。
【0024】
本実施形態においては、可溶化槽4内で分散機5によって微分散処理される活性汚泥3の量は、膜分離活性汚泥槽1で発生する活性汚泥量の1〜10倍が好ましい。分散機5によって活性汚泥3を微分散処理し十分に可溶化させるには、2.4時間以上処理することが好ましい。また、微分散処理し可溶化した活性汚泥3を膜分離生物処理槽1に送り、膜分離生物処理槽1で発生する活性汚泥3の量を効果的に減量化するには、活性汚泥3の量は膜分離活性汚泥槽1で発生する活性汚泥量の1倍以上が好ましい。よって、具体的には、膜分離活性汚泥槽1で1日に新たに発生する活性汚泥を処理しうる可溶化槽4を用意し、2.4〜24時間処理して膜分離活性汚泥槽1に移送する工程を繰り返すことが好ましい。
【0025】
本発明において、撹拌羽8の撹拌によって吸引される外気の量は、固形分濃度が7,000〜30,000g/m3の活性汚泥1m3に対して、0.06m3/h以上がよく、0.06〜1.2m3/hが好ましい。活性汚泥3中に微細気泡12を効率的に分散させるためには、外気の量は固形分濃度が7,000〜30,000g/m3の活性汚泥1m3に対して0.06m3/h以上が好ましい。また、微細気泡12によって可溶化された有機成分を用いて活性汚泥3が再合成することを防ぎ、膜分離活性汚泥槽1で発生する活性汚泥を効率的に減量化するには、外気の量は固形分濃度が7,000〜30,000g/m3の活性汚泥1m3に対して1.2m3/h以下が好ましい。
【0026】
尚、本発明において「外気」とは、活性汚泥3の外部に存在する気体を意味する。
【0027】
本発明において、撹拌羽8付近の空間Aの体積中に存在する外気の体積と活性汚泥3の体積との比は、0.3〜6%であることが好ましい。ここで、撹拌羽8付近の空間Aの体積とは、図4に示されるように、撹拌羽8と同じ中心を有し、撹拌羽8の1.0〜1.5倍の高さを持ち、撹拌羽8の半径の1.0〜3倍の半径を有する円柱状の空間Aの体積のことである。撹拌羽8付近の空間Aの体積中に存在する外気の体積は、活性汚泥3中に微細気泡12を効率的に分散させるためには、活性汚泥3の体積の0.3%以上が好ましく、自己圧壊効果が得られる程度に空気を微細化するためには、活性汚泥3の体積の6.0%以下が好ましい。
【0028】
本発明において、可溶化槽4内の活性汚泥3の水深を浅くすることや、撹拌羽8の回転数を上げることで、撹拌羽8の回転中心部上方の水面付近の活性汚泥3も確実に撹拌羽8に向かって引き込むことができる。また、図5のように複数の分散機5を使用する時は、可溶化槽4内に仕切り板13を設けると効果的である。また、図6のように分散機5の駆動部9を可溶化槽4の外に出し、撹拌羽8の上方にドラフトチューブ14を設けても良い。このようにすると、駆動部9の保守点検が容易になるとともに、可溶化槽4内で活性汚泥3が循環するときに上昇流と下降流を区画することができる。それによって、可溶化槽4の側壁11付近などにおける活性汚泥3の滞留を防ぐことができる。これらのように、可溶化槽4や分散機5の形状や仕様を適宜選択することによって、効率的に活性汚泥3を微分散処理することができる。
【0029】
活性汚泥3のせん断及び微細化と、微細気泡12の生成及び活性汚泥3への分散は同じ機器で同時に行うことが好ましい。そうすることによって、可溶化槽4の複雑化及び大型化を防ぐことができるだけでなく、せん断及び微細化された活性汚泥3中に、均一に微細気泡12を分散させ、効果的に活性汚泥3を可溶化することができる。
【0030】
本実施形態において、分散機5として撹拌羽8によるものを示したが、活性汚泥3を微分散処理することができればどのような機器でも良い。例えば、超音波を用いた装置や水中ポンプ、ラインミキサなどのスタティックミキサーも利用でき、特に限定されない。可溶化槽4内で分散機5を用いて活性汚泥3を微分散処理し可溶化することで、高圧気体や薬液などの添加を必要とせず、常温常圧の穏やかな条件且つ簡単な装置で余剰汚泥を減量化することができる。
【0031】
本発明において、撹拌羽8の撹拌によって吸引される外気は空気の他に、酸素、二酸化炭素、オゾンなどがあり、特に限定されない。オゾンガスのような酸化力の強い気体を用いると活性汚泥3の可溶化が促進される。
【0032】
本実施形態において、生物処理工程と処理水分離工程が一つの槽で行われる処理方式である膜分離活性汚泥方式を示したが、生物処理工程と処理水分離工程が別々の槽で行われる処理方式を用いても良く、特に限定されない。
【0033】
〔第2の実施形態〕
図7乃至図8に基づいて本発明の第2の実施形態について説明する。第2の実施形態が第1の実施形態と異なるのは、処理工程と生物処理槽である。第2の実施形態の処理工程では、流量調整工程の後段に分散工程を設けている。また、生物処理槽については、第1の実施形態では、膜分離生物処理槽1で生物処理工程と処理水分離工程を行っていたが、第2の実施形態では、生物処理工程と処理水分離工程を別々の槽で行っている。尚、本実施形態では、前記第1の実施形態と同じ構成要素については同一符号を付して示し、以下では第1の実施形態との相違点を主に説明する。
【0034】
図7は第2の実施形態の処理フローであり、図8は構成図である。図7に示すように、第2の実施形態の処理工程は、流入工程、流量調整工程、分散工程、生物処理工程、処理水分離工程、汚泥返送工程、可溶化工程、可溶化移送工程から構成される。
【0035】
図7乃至図8において、流入工程において設備に流入した有機性排水は流量調整工程に送られ、流量調整工程で流量調整され、分散工程に送られる。分散工程では、分散槽15内で有機性排水中の固形物を分散機5を用いてせん断及び微細化する。さらに、分散機5によって生成した微細気泡12を有機性排水中に分散させる。分散槽15及び分散機5の構成は第1の実施形態の可溶化槽4及び可溶化槽4内に配置した分散機5と同じ構成であるので説明を省略する。分散工程で微分散処理された有機性排水は、生物処理工程に送られる。生物処理工程では、生物処理槽16内で有機性排水が活性汚泥法によって生物処理される。生物処理された有機性排水は処理水分離工程に送られ、沈殿槽17内で活性汚泥と処理液に分離される。第2の実施形態のその他の構成は第1の実施形態と同様なので説明を省略する。
【0036】
以上のように構成することで、第2の実施形態には次のような作用が生じる。流量調整工程から分散工程に流入した有機性排水は、分散槽15内で分散機5によって有機性排水中の固形物がせん断及び微細化される。さらに、有機性排水中に微細気泡12が分散される。有機性排水中には不溶性物質(例えば、油脂類、蛋白質、澱粉などのゲル状物質)が含まれている場合が多く、生物処理工程の前段に分散工程を設けることによって、有機性排水中の不溶性物質を生物処理に適した粒子径にすることができる。有機性排水中の不溶性物質は加圧浮上法などによって物理的に分離除去されることが多いが、微分散処理された有機性排水を生物処理することで、大掛かりな装置や工程を必要とせずに生物処理槽16内で効率的に生物処理を行うことができる。また、分散工程で処理された有機性排水と可溶化工程で処理された活性汚泥3とを生物処理工程で処理することによって、短時間で生物処理を行うことができると共に活性汚泥を減量化することができるという相乗効果を得ることができる。第2の実施形態のその他の作用は第1の実施形態と同様なので説明を省略する。
【実施例】
【0037】
[実施例1〜6,比較例1]
本発明の可溶化工程において、分散機5が吸引する外気量が活性汚泥3の可溶化に及ぼす影響について、以下に示す試験方法で評価した。
【0038】
図3に示すように、2×10-33の活性汚泥が入った容積4×10-33の可溶化槽4の中に分散機5が配置され、両端が開放された吸気管10が一端は可溶化槽4の外部に配置され、他端は撹拌羽8が駆動部9によって回転した時に生じる負圧の中心部となる位置に配置された試験設備を用いた。活性汚泥3は予め膜分離生物処理槽1から取り出したものであり、固形分濃度は12,000g/m3である。外気としては空気を用いた。1m3の活性汚泥3に対して1時間当りに吸気管10が吸引する空気量を所定の量に調節しながら、所定の回転数にて分散機5を運転し、処理時間を6時間として微分散処理を行った。そして処理前後の可溶化槽4内の活性汚泥の固形分濃度を比較し、下記[1]式に従って可溶化率を算出した。
可溶化率(%)=(1−(処理後の固形分濃度/処理前の固形分濃度))×100 [1]
【0039】
吸気管10より吸引する空気量を表1に示すように変化させて、空気量が活性汚泥3の可溶化に及ぼす影響について評価を行った。その結果を表2に示す。
【0040】
【表1】

【0041】
表1に示されるように、空気を吸引せず、撹拌羽8による撹拌のみで活性汚泥3をせん断及び微細化した比較例1では10%弱の可溶化率を示すことが確認された。実施例1では僅かな量の空気でも吸引し、微細気泡12を生成させ活性汚泥3中に分散させることによって可溶化率が大きく向上することが確認された。また、実施例2〜3では吸引する空気量を増加させると可溶化率も増加するが、1m3の活性汚泥に対する空気量が0.3m3/hを超える実施例3,4の可溶化率は頭打ちとなり、緩やかに減少することが確認された。さらに、1m3の活性汚泥に対する空気量が1.8m3/h以上になる実施例5,6では可溶化率が急激に減少することが確認された。
【0042】
実施例5,6において可溶化率が低下した原因としては、微細気泡12によって可溶化された活性汚泥3が再合成していることや、吸引する空気量が大きくなりすぎて、微細な気泡を生成することができなくなり、自己圧壊効果が得られなくなったことが考えられる。これらの結果から、活性汚泥3中に微細気泡12を分散させ効果的に活性汚泥3を可溶化させるためには、活性汚泥3の固形分濃度が12,000g/m3程度の場合、1時間当りに1m3の活性汚泥3に対して0.06〜1.2m3/hの空気を吸気管10から吸引することが好ましいことがわかった。
【0043】
[実施例7〜12,比較例2]
次に、可溶化工程で可溶化処理された活性汚泥3が生物処理工程で発生する活性汚泥の減量化に及ぼす影響について、以下に示す試験方法で評価した。
【0044】
図1に示すように、容積65m3の膜分離活性汚泥槽1と、分散機5と吸気管10が配置され、容積1m3の可溶化槽4を備えた有機性排水の生物処理設備で、可溶化処理された活性汚泥3が生物処理工程で発生する活性汚泥の減量化に及ぼす影響について、連続試験を行った。膜分離活性汚泥槽1には1日当り平均して100m3の有機性排水が流入し、固形分濃度が7,000〜30,000g/m3の活性汚泥が平均して1m3程度発生している。膜分離活性汚泥槽1における初期の活性汚泥の固形分濃度は15,000g/m3である。可溶化槽4には、予め膜分離活性汚泥槽1から取り出した活性汚泥3が1m3送られている。可溶化槽4で処理される活性汚泥3の固形分濃度は15,000g/m3であり、分散機5は、所定の回転数で運転され、活性汚泥1m3に対して1時間当りにおよそ0.3m3/hの空気を吸引するように調整される。連続試験の試験期間は1ヶ月(30日)とし、この間、膜分離活性汚泥槽1から可溶化処理に用いる活性汚泥以外の活性汚泥の取り出しは行っていない。本試験においては、可溶化処理に用いる活性汚泥を膜分離活性汚泥槽1より1度に1m3(固形分濃度:15,000g/m3)取り出し、可溶化槽4に送る。取り出すタイミングは、1日に可溶化処理する活性汚泥の量に応じて調整し、新たに活性汚泥を取り出すと同時に、それまで可溶化槽4にて処理していた活性汚泥を膜分離活性汚泥槽1に移送する。即ち、1日に可溶化処理する活性汚泥量がAm3(Aは1,2,4,8,12,24のいずれか)であれば1日にA回、活性汚泥を膜分離活性汚泥槽1から取り出し、可溶化槽4において(24/A)時間処理して膜分離活性汚泥槽1に移送する。比較例2については、活性汚泥の取り出し、可溶化処理、移送を一切行わない。
【0045】
試験開始時と1ヶ月後にそれぞれ、膜分離活性汚泥槽1における活性汚泥の固形分濃度を測定し、膜分離活性汚泥槽1における活性汚泥の増加量を算出した。
【0046】
尚、本試験は食品工場内の排水処理施設にて実地に行った。そのため、食品工場では生産品目や生産量の調整に応じて排水量や排水中の生物化学的酸素要求量(BOD)や、懸濁物質や澱粉などの濃度が変動する場合がある。また、試験期間が月単位であるため、天候条件や季節の変化によって排水の処理や活性汚泥の増加量などが変動することがある。そのため、分散機5が吸引する空気量も基本的には0.3m3/hとし、排水の処理や活性汚泥の増加量が大幅に変動した際には、排水処理状況の変化に応じて0.06〜1.2m3/hの範囲内で適宜調整した。
【0047】
【表2】

【0048】
表2に示されるように、可溶化工程で可溶化された活性汚泥3を生物処理工程に送らなかった比較例2では、活性汚泥が増加していることが確認された。実施例7〜12では、可溶化工程で分散機5によって可溶化処理され、可溶化された活性汚泥3を生物処理工程に送ることで、活性汚泥3を送らなかった比較例2よりも活性汚泥の増加を抑えることが出来ることが確認された。また、実施例7〜10では活性汚泥3の量を増加させると活性汚泥の増加を低減させるだけでなく、生物処理を行う前よりも活性汚泥の量を大幅に減少させることができることが確認された。しかし、活性汚泥3の量が2m3/日を超える実施例9では活性汚泥の減少量は頭打ちとなり、4m3/日を超える実施例10では活性汚泥の減少量が急激に減少することが確認された。さらに、可溶化処理する活性汚泥3の量が12m3/日以上の実施例11,12では再び活性汚泥が増加し、可溶化処理する活性汚泥3の量が増加するにつれて膜分離活性汚泥槽1における活性汚泥の増加量も増えることが確認された。
【0049】
実施例11,12において、生物処理工程中に可溶化した活性汚泥3を送っているにもかかわらず、生物処理工程において活性汚泥が発生した原因としては、活性汚泥3の量が増加することによって、1m3の活性汚泥3の微分散処理時間が短くなったことが考えられる。活性汚泥3の微分散処理時間が短くなると、活性汚泥3の微分散処理が十分でなくなり、活性汚泥3を十分に可溶化することができなくなると考えられる。これらの結果から、可溶化処理した活性汚泥3によって生物処理工程中の活性汚泥を減量するためには、生物処理工程において新たに発生する活性汚泥量の1〜10倍の量の活性汚泥3を可溶化工程にて可溶化し、生物処理工程に移送することが好ましい。
【符号の説明】
【0050】
1:膜分離活性汚泥槽、2:膜、3:余剰汚泥、4:可溶化槽、5:分散機、6:導入管、7:送水管、8:撹拌羽、9:駆動部、10:吸気管、11:側壁、12:微細気泡、13:仕切り板、14:ドラフトチューブ、15:分散槽、16:生物処理槽、17:沈殿槽

【特許請求の範囲】
【請求項1】
有機性排水を生物処理槽における活性汚泥で生物処理すると共に、前記生物処理により新たに活性汚泥が発生する有機性排水の処理方法において、
生物処理槽中の活性汚泥の一部を取り出してせん断及び微細化し、前記活性汚泥中に微細気泡を生成及び分散させた後、前記生物処理槽に移送することを特徴とする有機性排水の処理方法。
【請求項2】
前記活性汚泥のせん断及び微細化と、前記微細気泡の生成及び分散が一つの手段で同時に微分散処理として行われ、
前記生物処理槽において新たに発生する活性汚泥の1〜10倍量の活性汚泥を取り出して前記微分散処理を行い前記生物処理槽に移送することを特徴とする請求項1に記載の有機性排水の処理方法。
【請求項3】
前記活性汚泥のせん断及び微細化と、前記活性汚泥中への前記微細気泡の生成及び分散を行う手段が、
前記活性汚泥中で、回転中心部に一端を開口させた吸気管を設けた撹拌羽を回転させ、
回転中心部に生ずる負圧により回転中心部に前記活性汚泥及び外気を吸い込み、
撹拌羽の回転により発生するせん断力・撹拌力によって、前記活性汚泥及び外気を微細化することを特徴とする請求項2に記載の有機性排水の処理方法。
【請求項4】
前記外気が空気、オゾンまたは二酸化炭素のいずれか1つを含む気体であり、活性汚泥中に生成、分散させる前記微細気泡が前記気体からなることを特徴とする請求項3に記載の有機性排水の処理方法。
【請求項5】
前記回転中心部に吸い込まれる外気の量が、固形分濃度が7,000〜30,000g/m3の活性汚泥1m3当たり0.06〜1.2m3/hであることを特徴とする請求項3または4に記載の有機性排水の処理方法。
【請求項6】
前記有機性排水の処理方法が、
少なくとも、流入工程、流量調整工程、分散工程、生物処理工程、処理水分離工程、並びに、
生物処理槽から取り出した活性汚泥の一部をせん断及び微細化し、前記活性汚泥中に微細気泡を生成及び分散させた後に、前記生物処理槽に移送する工程を含むと共に、
前記分散工程が、前記生物処理工程より前の工程において、前記有機性排水中の不溶性物質をせん断及び微細化すると共に、前記有機性排水中に微細気泡を生成及び分散させる工程であることを特徴とする請求項1〜5のいずれか1項に記載の有機性排水の処理方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【公開番号】特開2012−200695(P2012−200695A)
【公開日】平成24年10月22日(2012.10.22)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−69164(P2011−69164)
【出願日】平成23年3月28日(2011.3.28)
【出願人】(000117102)旭有機材工業株式会社 (235)
【Fターム(参考)】