説明

有機樹脂難燃化用添加剤、難燃性樹脂組成物及びその成形品

【課題】環境汚染や性能劣化をもたらすハロゲン系や燐系の難燃剤を使用することなく、これらの難燃剤を使用した場合と同等の厳しい難燃レベルを満たすことができる有機樹脂難燃化用添加剤と、機械的特性、成形性や外観に優れた難燃性ポリカーボネート系樹脂組成物及びその成形品を提供する。
【解決手段】ケイ素原子に直接結合したフェニル基、及び炭化水素基(但し、ヘテロ原子を含んでいてもよい)を介してケイ素原子に結合したスルホン酸アルカリ金属塩基又はスルホン酸アルカリ土類金属塩基を有し、更にケイ素原子が酸素原子を介してリグニンと結合しているシリコーン変性リグニン化合物からなることを特徴とする有機樹脂難燃化用添加剤。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、有機樹脂難燃化用添加剤、難燃性樹脂組成物及びその成形品に関する。更に詳しくは、環境汚染の原因となるハロゲン系難燃剤又は燐系難燃剤を含有することなく、良好な難燃性を発揮する有機樹脂難燃化用添加剤と、衝撃強度等の機械的特性、成形性、外観に優れ、厳しい難燃性の要求される電気・電子・OA機器等の部品に好適な難燃性ポリカーボネート系樹脂組成物及びその成形品に関する。
【背景技術】
【0002】
ポリカーボネート樹脂(PCと略記することがある)は、自動車分野、OA機器分野、電気・電子分野をはじめ工業的に広く利用されているが、OA機器、電気・電子製品等の用途を中心に、使用する樹脂材料の難燃化の要望が強く、これらの要望に応えるために多数の難燃剤が開発検討されている。従来、ポリカーボネート樹脂の難燃化には、専ら臭素系化合物が使用され、あるいはこれに三酸化アンチモンが併用されている。しかし、このような樹脂組成物は、燃焼時に臭素ガスを発生し、環境汚染を惹起することが問題となっている。近年、臭素系化合物の使用量の減少を目的として、燐酸エステル等の燐系難燃剤を臭素化合物と併用あるいは単独で使用することが報告されているが、燐系難燃剤は、使用時に分解して、樹脂組成物の機械的強度を低下させるという欠点があり、また、環境汚染問題を完全に解消するものでもなかった。
【0003】
非燐系難燃材料あるいは非燐・非臭素系難燃材料として、例えば、スルホン酸塩等のアルカリ金属あるいはアルカリ土類金属の有機酸塩と、ポリテトラフルオロエチレン及び芳香族ポリカーボネートからなる難燃性ポリカーボネート樹脂組成物(特許文献1:特開昭51−045159号公報)や、ポリカーボネートとパーフルオロアルカンスルホン酸のアルカリ金属塩又はアルカリ土類金属塩及びエポキシ樹脂からなる難燃性ポリカーボネート樹脂組成物(特許文献2:特開平06−073281号公報)、ポリカーボネート樹脂、芳香族硫黄化合物の金属塩、繊維形成型の含フッ素ポリマー及びオルガノポリシロキサンを含む難燃性ポリカーボネート樹脂組成物(特許文献3:特開2004−155938号公報)が提案されている。しかしながら、上記のような難燃性ポリカーボネート樹脂組成物の場合、ポリカーボネート樹脂の特長である透明性が損なわれるばかりではなく、難燃性を発現するに十分な量の難燃剤を配合すると、樹脂組成物の溶融熱安定性が損なわれ、成形品の黄変や成形時に難燃剤の分散不良に起因するすじ(シルバー)の発生、更には、機械的強度が著しく低下するという欠点があった。
【0004】
また、芳香族骨格にスルホン酸基を有する芳香族モノマー単位が、全モノマー単位に対して15〜45モル%のスチレン系ポリマーのスルホン酸金属塩からなり、且つ、金属硫酸塩の含有量が5質量%以下のスチレン系ポリマーとポリカーボネートからなる難燃性樹脂組成物(特許文献4:特開2003−064229号公報)も提案されているが、これは、熱安定性が不良で黄変し易く、耐候性も不満足であった。
【0005】
上記のようなハロゲン又は燐を含まない難燃剤の配合されたポリカーボネート樹脂組成物の場合、難燃性が不十分であるか、又は難燃性を発現するに十分な量の難燃剤を配合すると、樹脂組成物の溶融熱安定性が損なわれ、成形品が黄変し、更には機械的強度が著しく低下するという欠点があった。
【0006】
一方、ポリカーボネート樹脂の性質を更に強化、改良するため、他の熱可塑性樹脂とのポリマーアロイも数多く開発されている。その1つであるポリカーボネート樹脂にABS樹脂等のスチレン/アクリロニトリル系グラフト共重合体を配合した組成物は、機械的特性、流動性及び熱的特性に優れた熱可塑性樹脂材料として自動車分野、電気・電子分野等で使用されている。また、難燃性が要求される分野では、かかる組成物に難燃剤が配合される。環境に対する負荷が少ないハロゲン不含の難燃性の材料としては、ポリカーボネート樹脂とABS樹脂からなる樹脂組成物に燐系難燃剤を配合した材料が提案(例えば、特許文献5,6:特開平02−115262号公報、特開平02−032154号公報参照)されているが、荷重撓み温度の低下やモールドデポジットの問題があった。
【0007】
また、ポリカーボネート樹脂、ABS樹脂等からなる組成物にポリスチレンのスルホン酸金属塩を配合した樹脂組成物が提案(特許文献7:特開平11−172063号公報)されているが、難燃性を発揮するに十分な量のポリスチレンのスルホン酸金属塩を配合すると、樹脂組成物の衝撃強度や荷重撓み温度が低下し、成形品の外観も不満足であった。更に、ポリカーボネート樹脂、スチレン系樹脂、ケイ素、ホウ素、酸素からなり、実質的にケイ素−酸素結合及びホウ素−酸素結合から形成される骨格を有し、且つ、分子内に芳香環を有する重合体からなる難燃性樹脂組成物も提案(特許文献8:特開2002−167499号公報)されているが、難燃性や衝撃強度が不十分であった。更にまた、芳香族ポリカーボネート樹脂、スチレン系樹脂、有機アルカリ金属塩及び/又は有機アルカリ土類金属塩及び官能基含有シリコーン化合物からなる難燃性樹脂組成物(特許文献9:特開2004−035587号公報)も提案されているが、光沢やウエルド部の引張り伸びが低く、実用性の低い難燃性樹脂組成物であった。
【0008】
以上のように、ポリカーボネート樹脂、ABS等のスチレン系樹脂、難燃剤からなる樹脂組成物は、荷重撓み温度、衝撃強度、ウエルド強度が低く、モールドデポジットや外観不良が発生し、実用性の乏しい難燃性樹脂組成物しか得られていないのが現状であった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0009】
【特許文献1】特開昭51−045159号公報
【特許文献2】特開平06−073281号公報
【特許文献3】特開2004−155938号公報
【特許文献4】特開2003−064229号公報
【特許文献5】特開平02−115262号公報
【特許文献6】特開平02−032154号公報
【特許文献7】特開平11−172063号公報
【特許文献8】特開2002−167499号公報
【特許文献9】特開2004−035587号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
本発明は、上記事情に鑑みなされたものであり、環境汚染や性能劣化をもたらすハロゲン系や燐系の難燃剤を使用することなく、これらの難燃剤を使用した場合と同等の厳しい難燃レベルを満たすことができる有機樹脂難燃化用添加剤と、機械的特性、成形性や外観に優れた難燃性ポリカーボネート系樹脂組成物及びその成形品を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明者は、上記目的を達成するために鋭意検討を重ねた結果、ポリカーボネート樹脂又はポリカーボネート樹脂と他の熱可塑性樹脂とのポリマーアロイに、ケイ素原子に直接結合したフェニル基、炭化水素基(但し、ヘテロ原子を含んでいてもよい)を介してケイ素原子に結合したスルホン酸アルカリ金属塩基又はスルホン酸アルカリ土類金属塩基、及び酸素原子を介してケイ素原子に結合したリグニンを有する新規なシリコーン変性リグニン化合物を少量配合した樹脂組成物が、該樹脂組成物の燃焼時に多量の炭化物を形成させ、該炭化物が燃焼している樹脂の表面を被覆し、樹脂内部で発生する分解ガスの燃焼場への供給を遅延させることで、厳しい難燃レベルを達成できることを見出した。
【0012】
また、上記のシリコーン変性リグニン化合物は、ポリカーボネート樹脂への分散性も良好なため、ポリカーボネート系樹脂組成物に配合しても、この組成物の硬化物は機械的強度や外観等に優れていることを見出し、本発明をなすに至った。
【0013】
従って、本発明は、下記に示す有機樹脂難燃化用添加剤、難燃性樹脂組成物及びその成形品を提供する。
〔請求項1〕
ケイ素原子に直接結合したフェニル基、及び炭化水素基(但し、ヘテロ原子を含んでいてもよい)を介してケイ素原子に結合したスルホン酸アルカリ金属塩基又はスルホン酸アルカリ土類金属塩基を有し、更にケイ素原子が酸素原子を介してリグニンと結合しているシリコーン変性リグニン化合物からなることを特徴とする有機樹脂難燃化用添加剤。
〔請求項2〕
ケイ素原子に結合したスルホン酸アルカリ金属塩基又はスルホン酸アルカリ土類金属塩基が、スルホン酸ナトリウム塩基又はスルホン酸カリウム塩基であることを特徴とする請求項1記載の有機樹脂難燃化用添加剤。
〔請求項3〕
(A)ポリカーボネート樹脂50〜100質量%と(B)ポリカーボネート樹脂以外の熱可塑性樹脂0〜50質量%からなる樹脂100質量部に対し、(C)請求項1又は2記載の有機樹脂難燃化用添加剤0.01〜5.0質量部を配合してなることを特徴とする難燃性樹脂組成物。
〔請求項4〕
(B)ポリカーボネート樹脂以外の熱可塑性樹脂が、ゴムの存在下に少なくともスチレン系単量体と(メタ)アクリロニトリルとを重合してなるゴム変性スチレン/(メタ)アクリロニトリル系グラフト共重合体であることを特徴とする請求項3記載の難燃性樹脂組成物。
〔請求項5〕
請求項3又は4記載の難燃性樹脂組成物を成形して得られた成形品。
【発明の効果】
【0014】
本発明のシリコーン変性リグニン化合物からなる有機樹脂難燃化用添加剤は、有機樹脂、特に熱可塑性樹脂、例えば、ポリカーボネート系樹脂、シリコーン変性ポリカーボネート樹脂、ポリスチレン系樹脂、アクリロニトリル・ブタジエン・スチレン(ABS)系樹脂、ポリフェニレンエーテル系樹脂、ポリエステル系樹脂、ポリアミド系樹脂、ポリエチレン、ポリプロピレン、ポリブテン、ポリスルホン、ポリ乳酸、ポリ酢酸ビニル、エチレン−酢酸ビニル共重合体、ポリメチルメタクリレート、ポリオキシエチレン、酢酸セルロース、硝酸セルロース等の難燃化剤として有用である。
【0015】
特に、この有機樹脂難燃化用添加剤をポリカーボネート樹脂又はポリカーボネート樹脂と他の熱可塑性樹脂とのポリマーアロイに配合した難燃性樹脂組成物及びその成形品は、環境汚染や性能劣化をもたらすハロゲン系や燐系の難燃剤を使用することなく、これらの難燃剤を使用した場合と同等の厳しい難燃レベルを満たすことができ、しかも、衝撃強度等の機械的特性、成形性、外観や熱安定性に優れているので各種用途、特に電気・電子・OA機器部品の用途や精密部品用途に最適である。
【発明を実施するための形態】
【0016】
以下、本発明につき詳細に説明する。
本発明の有機樹脂難燃化用添加剤は、ケイ素原子に直接結合したフェニル基、及び炭化水素基(但し、ヘテロ原子を含んでいてもよい)を介してケイ素原子に結合したスルホン酸アルカリ金属塩基又はスルホン酸アルカリ土類金属塩基を持ち、更にケイ素原子が酸素原子を介してリグニンと結合しているシリコーン変性リグニン化合物からなるものである。
【0017】
このシリコーン変性リグニン化合物中のシリコーン成分は、有機樹脂、特にポリカーボネート系樹脂への分散性、難燃化効果から、分子中にケイ素原子に結合するフェニル基を有するものであり、構成シロキサン単位としてはフェニルシルセスキオキサン単位(C65SiO3/2)、ジフェニルシロキサン単位((C652SiO2/2)等を例示することができるが、この特性付与の観点から、分子中のケイ素原子に結合した全有機基に対するフェニル基の含有率を10〜90モル%とすることが好ましく、より好ましくは30〜70モル%の範囲である。
【0018】
また、このシリコーン変性リグニン化合物は、有機樹脂、特にポリカーボネート系樹脂への難燃化効果から、分子中に炭化水素基(但し、ヘテロ原子を含んでいてもよい)を介してケイ素原子に結合したスルホン酸アルカリ金属塩基又はスルホン酸アルカリ土類金属塩基(−SO3M基)を有するものであり、この特性付与の観点から、分子中のケイ素原子に結合した全有機基に対する、上記のスルホン酸アルカリ金属塩基又はスルホン酸アルカリ土類金属塩基を含む炭化水素基の含有率を3〜50モル%とすることが好ましく、5〜40モル%の範囲とすることがより好ましい。
【0019】
なお、このスルホン酸アルカリ金属塩基又はスルホン酸アルカリ土類金属塩基(−SO3M基)における金属原子Mとしては、リチウム、ナトリウム、カリウム等のアルカリ金属や、マグネシウム、カルシウム、バリウム等のアルカリ土類金属を例示することができるが、難燃性付与効果から、ナトリウム及び/又はカリウムであることが好ましい。
【0020】
この場合、上記炭化水素基を介してケイ素原子に結合したスルホン酸アルカリ金属塩基又はスルホン酸アルカリ土類金属塩基として、具体的には、フェニル基等のアリール基、ビニル基、アリル基等のアルケニル基、エポキシ基置換アルキル基、ハロゲン化アルキル基、メルカプト基置換アルキル基をスルホン酸アルカリ金属又はアルカリ土類金属化したものが挙げられる。なお、上記炭化水素基の炭素数は1〜18、特に2〜10であることが好ましい。
【0021】
なお、上記フェニル基、及びスルホン酸アルカリ金属塩基又はスルホン酸アルカリ土類金属塩基を含む炭化水素基以外のケイ素原子結合有機基は、炭素数1〜18、特に1〜10のメチル基、エチル基、プロピル基、イソプロピル基、ブチル基、イソブチル基、tert−ブチル基、ペンチル基、ネオペンチル基、ヘキシル基、シクロヘキシル基、オクチル基、ノニル基、デシル基等のアルキル基、ビニル基、アリル基、プロペニル基、イソプロペニル基、ブテニル基、ヘキセニル基、シクロヘキセニル基、オクテニル基等のアルケニル基、トリル基、キシリル基、ナフチル基等のフェニル基以外のアリール基、ベンジル基、フェニルエチル基、フェニルプロピル基等のアラルキル基等の非置換1価炭化水素基、及びこれらのハロゲン原子、エポキシ基、メルカプト基置換等の置換1価炭化水素基、メトキシ基、エトキシ基、プロポキシ基、ブトキシ基等のアルコキシ基、水酸基などが挙げられ、その割合は、ケイ素原子に結合する全有機基中、0〜77モル%、特に0〜65モル%であることが好ましい。
【0022】
なお、本発明のシリコーン変性リグニン化合物は、シリコーン化合物とリグニンとの反応によって得られるが、この反応は、後述するように、シリコーン化合物のケイ素原子結合アルコキシ基及び/又は水酸基とリグニンの水酸基の反応によるので、原料シリコーン化合物はケイ素原子結合アルコキシ基及び/又は水酸基(シラノール基)を含むものであり、このシリコーン化合物とリグニンとが反応して得られたシリコーン変性リグニン化合物は、上記ケイ素原子結合アルコキシ基及び/又は水酸基が残存している場合がある。
【0023】
本発明のシリコーン変性リグニン化合物は、上記シリコーン化合物のケイ素原子が酸素原子を介してリグニン化合物と結合しているものである。特に上記シリコーン化合物がリグニンと組み合わさるとより難燃性が向上する。
【0024】
ここで言うリグニンとは、植物の木質化した部分(例えば、木材)又はその加工製品(例えば、紙)中に存在するリグニンなどが使用可能である。木材を用いる場合、その樹木の種類は特に限定されず、針葉樹であってもよく、広葉樹であってもよい。また、イネ、トウモロコシ、サトウキビ等の各種草本植物をリグニンの原料として用いることもできる。
【0025】
リグニンは、主に、木材等から亜硫酸カルシウム水溶液を用いてセルロースとリグニン、ヘミセルロース類等に分離することで得られるものである。また、本発明においては、このリグニンを処理してリグニン濃度を高めたもの、分子量を調整したもの、また、不純物を除去したもの等も用いることができる。更にセルロースを含んだリグニンであっても問題はない。特に本発明においては粉末状のリグニンが好適であり、この場合、リグニンの粉末の粒径は200μm以下が好ましい。
【0026】
リグニンは植物中のフェニルプロパン系の構成単位が複雑に縮合した無定型高分子物質を総称するものであり、その部分構造式の一例を下記に示す。
【化1】

【0027】
シリコーン化合物と上記リグニンとの反応は、リグニンのフェノール性水酸基あるいはアルコール性水酸基と、シリコーン化合物のケイ素原子結合アルコキシ基あるいはケイ素原子結合水酸基が脱アルコール反応又は脱水反応にて反応すると考えられる(下記式参照、R’=水素原子又はアルキル基)。
【化2】

【0028】
このリグニンに上記シリコーン化合物が表面処理され、このシリコーン化合物のケイ素原子と酸素原子を介してリグニンが結合したシリコーン変性リグニン化合物を有機樹脂難燃化用添加剤として適用した場合、分子中のスルホン酸アルカリ金属塩基又はスルホン酸アルカリ土類金属塩基は、燃焼時に有機樹脂の熱分解を加速して燃焼表面の炭化層形成を促進するものと推定され、更にリグニンに存在豊富なポリフェノール類由来のフェニル基によるカップリング効果やシロキサン主鎖による無機的な難燃層形成などの相乗効果によって、速やかに酸素を遮断して消火に至ると共にドリップ防止に寄与するものと考えられる。
【0029】
ここで、シリコーン化合物は、4官能単位SiO2、3官能単位RSiO3/2、2官能単位R2SiO、及び1官能単位R3SiO1/2の割合が、
SiO2単位 : 0〜50モル%、特に0〜30モル%、
RSiO3/2単位 : 20〜100モル%、特に40〜90モル%、
2SiO単位 : 0〜80モル%、特に10〜60モル%、
3SiO1/2単位 : 0〜30モル%、特に0〜20モル%
であることが好ましい。なお、Rは上記有機基である。
【0030】
このようなシリコーン化合物としては、上記条件を満たすものであればいかなる組成や構造を有するものも有効に使用することができるし、組成や構造の異なる2種以上のシリコーン化合物を併用することも可能であり、製造方法も特に限定されず、従来公知の方法によって製造することができる。
【0031】
またシリコーン化合物の構造に従い、相当するシラン類又はその前駆体を、場合によって適当な有機溶剤の存在下に共加水分解し、更にスルホン酸アルカリ金属塩基又はスルホン酸アルカリ土類金属塩基を導入し、その後リグニンを処理してもよいし、またスルホン酸アルカリ金属塩基又はスルホン酸アルカリ土類金属塩基を導入する前に、シリコーン化合物にリグニンを処理し、その後スルホン酸アルカリ金属塩基又はスルホン酸アルカリ土類金属塩基を導入してもよい。
【0032】
スルホン酸アルカリ金属塩基又はスルホン酸アルカリ土類金属塩基を導入する方法としては、(1)フェニル基を硫酸又は無水硫酸によりスルホン化した後に水酸化ナトリウム、水酸化カリウム等のアルカリ金属又はアルカリ土類金属の水酸化物で中和してスルホン酸アルカリ金属塩又はアルカリ土類金属塩化する方法、(2)アルケニル基を亜硫酸水素ナトリウムや亜硫酸水素カリウム等のアルカリ金属又はアルカリ土類金属亜硫酸水素塩でスルホン酸アルカリ金属塩又はアルカリ土類金属塩化する方法、(3)エポキシ基を亜硫酸水素ナトリウムや亜硫酸水素カリウム等のアルカリ金属又はアルカリ土類金属亜硫酸水素塩でスルホン酸アルカリ金属塩又はアルカリ土類金属塩化する方法、(4)ハロゲン化アルキル基を亜硫酸ナトリウムや亜硫酸カリウム等のアルカリ金属又はアルカリ土類金属亜硫酸塩でスルホン酸アルカリ金属塩又はアルカリ土類金属塩化する方法、(5)メルカプト基を過酸化水素によりスルホン酸化した後に水酸化ナトリウム、水酸化カリウム等のアルカリ金属又はアルカリ土類金属の水酸化物で中和してスルホン酸アルカリ金属塩又はアルカリ土類金属塩化する方法などが例示されるが、反応性や操作の容易さからは上記した(3)や(5)の方法が好ましく、更には(5)の方法がより好ましい。
【0033】
最適な製造方法としては、下記の2つの製造方法を挙げることができる。
(1)法
SiX4 : 0〜50モル%、特に0〜30モル%、
1SiX3 : 20〜100モル%、特に40〜90モル%、
12SiX2 : 0〜80モル%、特に10〜60モル%、
13SiX : 0〜30モル%、特に0〜20モル%
(但し、Xは塩素等のハロゲン原子、アルコキシ基、アシロキシ基等の加水分解性基を示し、R1は独立にフェニル基及びフェニル基以外の置換又は非置換1価炭化水素基を示し、フェニル基の一部及び/又はフェニル基以外の置換もしくは非置換1価炭化水素基の一部又は全部をスルホン酸アルカリ金属塩又はアルカリ土類金属塩化した後は上述したRを構成する基である。)
の割合のシラン混合物を共加水分解、縮合した後、上述したようにしてフェニル基の一部及び/又はフェニル基以外の置換もしくは非置換1価炭化水素基の一部又は全部をスルホン酸アルカリ金属塩又はアルカリ土類金属塩化した後、リグニンで処理し、本シリコーン変性リグニン化合物を得る方法。
【0034】
(2)法
SiX4 : 0〜50モル%、特に0〜30モル%、
1SiX3 : 20〜100モル%、特に40〜90モル%、
12SiX2 : 0〜80モル%、特に10〜60モル%、
13SiX : 0〜30モル%、特に0〜20モル%
(但し、Xは塩素等のハロゲン原子、アルコキシ基、アシロキシ基等の加水分解性基を示し、R1は独立にフェニル基及びフェニル基以外の置換又は非置換1価炭化水素基を示し、フェニル基の一部及び/又はフェニル基以外の置換もしくは非置換1価炭化水素基の一部又は全部をスルホン酸アルカリ金属塩又はアルカリ土類金属塩化した後は上述したRを構成する基である。)
の割合のシラン混合物を共加水分解、縮合した後、一旦リグニンで処理する。その後、フェニル基の一部及び/又はフェニル基以外の置換もしくは非置換1価炭化水素基の一部又は全部をスルホン酸アルカリ金属塩又はアルカリ土類金属塩化し、本シリコーン変性リグニン化合物を得る方法。
【0035】
(1)法として、より具体的には、フェニル基含有シランとしてフェニルトリメトキシシラン、ジフェニルジメトキシシラン、メルカプト基含有シランとしてメルカプトプロピルトリメトキシシラン、メルカプトプロピルメチルジメトキシシラン、場合によりその他のシランとしてメチルトリメトキシシラン、ジメチルジメトキシシラン等をメタノール等の親水性有機溶剤に溶解し、ここに所定量の過酸化水素水を滴下して熟成することによりメルカプト基を酸化してスルホン酸基とし、同時にこのスルホン酸基を触媒として反応系内に存在する水によって加水分解してシロキサン結合を有する重合体とした後に、水酸化ナトリウム水溶液や水酸化カリウム水溶液等を加えることによりスルホン酸基を中和してスルホン酸ナトリウム塩基やスルホン酸カリウム塩基等のスルホン酸アルカリ金属塩基又はスルホン酸アルカリ土類金属塩基に置換する。反応後は、加熱溜去、水洗浄、乾燥などの操作によって低沸分や不純物を取り除き、このシリコーン化合物を次にリグニンと反応させる。
【0036】
リグニンとこのシリコーン化合物を反応させる場合は湿式法でも乾式法でもよいが、シリコーン化合物が固体として得られる場合もあるので、有機溶剤中に分散させたリグニンにシリコーン化合物を添加して反応させるのが好ましい。
この時リグニン100質量部に対し、シリコーン化合物を20〜200質量部、特に50〜150質量部反応させるのが好ましい。このシリコーン化合物が20質量部未満だと難燃性が悪くなる場合がある。またこの量が200質量部より多いとコスト的に不利になる。
【0037】
反応は有機溶剤の存在下、リグニンとシリコーン化合物を反応させるが、この時触媒を加えて反応させるのが好ましい。触媒は酸あるいは塩基性触媒から選ばれるが、特に塩基性触媒、アミン、アンモニア等が好ましい。使用する有機溶剤に特に限定はないが、アルコール系や炭化水素系溶剤が好ましい。
反応温度は使用する有機溶剤によるが、50〜150℃が好ましい。また反応時間は2〜48時間が好ましい。
反応後は濾過、遠心分離等の操作により取り出し、乾燥することにより本シリコーン変性リグニン化合物を得ることができる。
【0038】
(2)法として、より具体的には、フェニル基含有シランとしてフェニルトリメトキシシラン、ジフェニルジメトキシシラン、メルカプト基含有シランとしてメルカプトプロピルトリメトキシシラン、メルカプトプロピルメチルジメトキシシラン、場合によりその他のシランとしてメチルトリメトキシシラン、ジメチルジメトキシシラン等をメタノール等の親水性有機溶剤に溶解し、ここに所定量の過酸化水素水を滴下して熟成することによりメルカプト基を酸化してスルホン酸基とし、同時にこのスルホン酸基を触媒として反応系内に存在する水によって加水分解してシロキサン結合を有する重合体とする。このシリコーン前駆体を次にリグニンと反応させる。
【0039】
リグニンとこのシリコーン前駆体を反応させる場合は湿式法でも乾式法でもよいが、好ましくは有機溶剤中に分散させたリグニンにシリコーン前駆体を添加して反応させるのが好ましい。
この時リグニン100質量部に対し、シリコーン前駆体を20〜200質量部、特に50〜150質量部反応させるのが好ましい。このシリコーン前駆体が20質量部未満だと難燃性が悪くなる場合がある。またこの量が200質量部より多いとコスト的に不利になる。
【0040】
反応は有機溶剤の存在下、リグニンとシリコーン前駆体を反応させるが、この時触媒を加えて反応させるのが好ましい。触媒は酸あるいは塩基性触媒から選ばれるが、特に塩基性触媒、アミン、アンモニア等が好ましい。使用する有機溶剤に特に限定はないが、アルコール系や炭化水素系溶剤が好ましい。
反応温度は使用する有機溶剤によるが、50〜150℃が好ましい。また反応時間は2〜48時間が好ましい。
【0041】
得られたシリコーン前駆体変性リグニン化合物を水酸化ナトリウム水溶液や水酸化カリウム水溶液等を加えることによりシリコーン前駆体中のスルホン酸基を中和してスルホン酸ナトリウム塩基やスルホン酸カリウム塩基等のスルホン酸アルカリ金属塩基又はスルホン酸アルカリ土類金属塩基に置換させる。反応後は、加熱溜去、水洗浄、乾燥などの操作によって低沸分や不純物を取り除き、乾燥することにより本シリコーン変性リグニン化合物を得ることができる。
【0042】
本発明のシリコーン変性リグニン化合物は、各種の熱可塑性樹脂、例えば、ポリカーボネート系樹脂、シリコーン変性ポリカーボネート樹脂、ポリスチレン系樹脂、アクリロニトリル・ブタジエン・スチレン(ABS)系樹脂、ポリフェニレンエーテル系樹脂、ポリエステル系樹脂、ポリアミド系樹脂、ポリエチレン、ポリプロピレン、ポリブテン、ポリスルホン、ポリ乳酸、ポリ酢酸ビニル、エチレン−酢酸ビニル共重合体、ポリメチルメタクリレート、ポリオキシエチレン、酢酸セルロース、硝酸セルロース等の難燃化剤として使用することができる。
【0043】
特に(A)ポリカーボネート樹脂、又は(A)ポリカーボネート樹脂と(B)ポリカーボネート樹脂以外の熱可塑性樹脂とのポリマーアロイに、(C)上記シリコーン変性リグニン化合物からなる有機樹脂難燃化用添加剤を配合した難燃性樹脂組成物は、難燃性等の各種特性に優れた成形品材料として有用である。
【0044】
本発明の難燃性樹脂組成物に使用される(A)成分のポリカーボネート樹脂としては、芳香族ジヒドロキシ化合物あるいは芳香族ジヒドロキシ化合物と少量のポリヒドロキシ化合物との混合物を、ホスゲンあるいは炭酸ジエステルと反応させることによって調製される分岐していてもよい熱可塑性芳香族ポリカーボネートのホモポリマー又はコポリマーが挙げられる。ポリカーボネート樹脂を調製するための重合法としては、界面重縮合法(ホスゲネーション法)、溶融重合法(エステル交換法)等の方法を採用することができる。
【0045】
原料の芳香族ジヒドロキシ化合物としては、2,2−ビス(4−ヒドロキシフェニル)プロパン(=ビスフェノールA)、テトラメチルビスフェノールA、ビス(4−ヒドロキシフェニル)−p−ジイソプロピルベンゼン、ハイドロキノン、レゾルシノール及び4,4’−ジヒドロキシジフェニル等から選ばれる1種又は2種以上が挙げられ、好ましくはビスフェノールAである。分岐した芳香族ポリカーボネート樹脂を得るには、フロログルシン、4,6−ジメチル−2,4,6−トリス(4−ヒドロキシフェニル)−2−ヘプテン、4,6−ジメチル−2,4,6−トリス(4−ヒドロキシフェニル)ヘプタン、2,6−ジメチル−2,4,6−トリス(4−ヒドロキシフェニル)−3−ヘプテン、1,3,5−トリス(4−ヒドロキシフェニル)ベンゼン及び1,1,1−トリス(4−ヒドロキシフェニル)エタンなどのポリヒドロキシ化合物、あるいは3,3−ビス(4−ヒドロキシアリール)オキシインドール(=イサチンビスフェノール)、5−クロルイサチンビスフェノール、5,7−ジクロルイサチンビスフェノール、5−ブロモイサチンビスフェノールなどを前記芳香族ジヒドロキシ化合物と一緒に用いればよく、これら化合物の使用量は、芳香族ジヒドロキシ化合物及びポリヒドロキシ化合物の全量に対して0.01〜10モル%であることが好ましく、より好ましくは0.1〜2モル%である。
【0046】
ポリカーボネート樹脂の分子量は、ポリカーボネート樹脂製造時に、即ち、重合触媒の存在下、芳香族ジヒドロキシ化合物及び末端停止剤として1価芳香族ヒドロキシ化合物のアルカリ水溶液と、ハロゲン化カルボニル化合物とを量比を一定にして有機溶剤中に供給し、重合させることにより調整できる。末端停止剤として使用される1価芳香族ヒドロキシ化合物は、m−又はp−メチルフェノール、m−又はp−プロピルフェノール、p−tert−ブチルフェノール又は長鎖アルキル置換フェノール等が挙げられる。ポリカーボネート樹脂としては、好ましくは、2,2−ビス(4−ヒドロキシフェニル)プロパンから誘導されるポリカーボネート樹脂又は2,2−ビス(4−ヒドロキシフェニル)プロパンと他の芳香族ジヒドロキシ化合物とから誘導されるポリカーボネート共重合体が挙げられる。更に、樹脂はシロキサン構造を有するポリマーでもよく、例えば、難燃性を高める目的でシロキサン構造を有するオリゴマーを共重合することができる。ポリカーボネート樹脂の分子量は、溶媒としてメチレンクロライドを用い、温度25℃で測定された溶液粘度より換算した粘度平均分子量で、好ましくは15,000〜40,000であり、より好ましくは16,000〜30,000である。
【0047】
本発明の難燃性樹脂組成物に使用される(B)成分のポリカーボネート樹脂以外の熱可塑性樹脂としては、通常熱可塑性樹脂成形品として使用されるものであれば特に制限なく有効に利用できる。それらの中の代表的なものを例示すれば、シリコーン変性ポリカーボネート樹脂、ポリスチレン系樹脂、アクリロニトリル・ブタジエン・スチレン(ABS)系樹脂、ポリフェニレンエーテル系樹脂、ポリエステル系樹脂、ポリアミド系樹脂をはじめとして、ポリエチレン、ポリプロピレン、ポリブテン、ポリスルホン、ポリ乳酸、ポリ酢酸ビニル、エチレン−酢酸ビニル共重合体、ポリメチルメタクリレート、ポリオキシエチレン、酢酸セルロース、硝酸セルロース等が挙げられるが、これらの熱可塑性樹脂の中でもとりわけゴムの存在下に少なくともスチレン系単量体と(メタ)アクリロニトリルとを重合してなるゴム変性スチレン/(メタ)アクリロニトリル系グラフト共重合体が、ポリカーボネート樹脂とのポリマーアロイとして汎用されているため好ましい。なお、本明細書では、かかる共重合体を、「ゴム変性スチレン/(メタ)アクリロニトリル系共重合体」と称することがある。また、必要により「ゴム変性スチレン/(メタ)アクリロニトリル系共重合体」製造時には、スチレン系単量体、アクリロニトリル及び/又はメタアクリロニトリルからなる主成分に、他の共重合可能な単量体を併用して重合してもよい。
【0048】
ゴム変性スチレン/(メタ)アクリロニトリル系共重合体の原料であるスチレン系単量体としては、例えば、スチレン、α−メチルスチレン、p−メチルスチレン等が使用され、好ましくはスチレンが挙げられる。(メタ)アクリロニトリルとしては、アクリロニトリル、メタクリロニトリルが挙げられる。他の共重合可能な単量体としては、例えば、アクリル酸メチル、アクリル酸エチル、アクリル酸プロピル、メタクリル酸メチル、メタクリル酸エチル等の(メタ)アクリル酸アルキルエステル、マレイミド、N−フェニルマレイミド等が挙げられ、好ましくは、(メタ)アクリル酸アルキルエステルが挙げられる。なお、本明細書においては、「(メタ)アクリロニトリル」はアクリロニトリル及び/又はメタクリロニトリルを意味し、「(メタ)アクリル」はアクリル及び/又はメタクリルを意味する。
【0049】
重合時に共存させるゴムとしては、好ましくはガラス転移温度が10℃以下のゴムである。ゴムの具体例としては、ジエン系ゴム、アクリル系ゴム、エチレン/プロピレンゴム、シリコーンゴム等が挙げられ、好ましくはジエン系ゴム、アクリル系ゴム等が挙げられる。
【0050】
ジエン系ゴムとしては、例えば、ポリブタジエン、ブタジエン/スチレン共重合体、ポリイソプレン、ブタジエン/(メタ)アクリル酸の低級アルキルエステル共重合体、ブタジエン/スチレン/(メタ)アクリル酸の低級アルキルエステル共重合体等が挙げられ、(メタ)アクリル酸の低級アルキルエステルとしては、例えば、アクリル酸メチル、アクリル酸エチル、メタクリル酸メチル、メタクリル酸エチル等が挙げられる。ブタジエン/(メタ)アクリル酸の低級アルキルエステル共重合体又はブタジエン/スチレン/(メタ)アクリル酸の低級アルキルエステル共重合体における(メタ)アクリル酸の低級アルキルエステルの割合は、ゴム質量の30質量%以下であることが好ましい。
【0051】
アクリル系ゴムとしては、例えば、アクリル酸アルキルエステルからの合成ゴムが挙げられる。エステルを形成するアルキル基の炭素数は好ましくは1〜8である。アクリル酸アルキルゴムの具体例としては、アクリル酸エチル、アクリル酸ブチル、アクリル酸エチルヘキシル等が挙げられる。アクリル酸アルキルゴムには、任意に、架橋性のエチレン性不飽和単量体が用いられていてもよく、架橋剤としては、例えば、アルキレンジオール、ジ(メタ)アクリレート、ポリエステルジ(メタ)アクリレート、ジビニルベンゼン、トリビニルベンゼン、シアヌル酸トリアリル、(メタ)アクリル酸アリル、ブタジエン、イソプレン等が挙げられる。アクリル系ゴムとしては、更に、コアとして架橋ジエン系ゴムを有するコア−シェル型重合体が挙げられる。
【0052】
ここで、ゴム変性スチレン/(メタ)アクリロニトリル系共重合体中におけるスチレン系単量体の含有率は10〜90質量%、好ましくは25〜85質量%であり、(メタ)アクリロニトリルの含有率は5〜40質量%、好ましくは5〜25質量%であり、ゴムの含有率は5〜80質量%、好ましくは10〜50質量%である。また、ゴム変性スチレン/(メタ)アクリロニトリル系共重合体中における他の共重合可能な単量体の含有率は20質量%以下、好ましくは10質量%以下である。
【0053】
ゴムの存在下、スチレン系単量体と(メタ)アクリロニトリル系単量体をグラフト重合させる方法としては、特に限定されるものではないが、通常、乳化重合法あるいは塊状重合法が採用される。本発明に使用されるゴム変性スチレン/(メタ)アクリロニトリル系共重合体としては、何れの方法で製造したものをも使用することができる。
【0054】
ゴム変性スチレン/(メタ)アクリロニトリル系共重合体は、通常、ゴムに、少なくともスチレンと(メタ)アクリロニトリルからなる単量体の共重合物がグラフトしたグラフト共重合体の他、単量体のみが相互に共重合した共重合体を含有する混合物である。ゴムの存在下、スチレン系単量体と(メタ)アクリロニトリルとを重合したグラフト共重合体としては、例えば、アクリロニトリル・ブタジエン・スチレン(ABS)樹脂、ABSのブタジエンをエチレン・プロピレン・ジエンゴム(EPDM)で置換した(AES)樹脂、アクリロニトリル・アクリルゴム・スチレン(AAS)樹脂等が挙げられる。
【0055】
本発明の難燃性樹脂組成物における樹脂成分中、(B)成分の含有量は0〜50質量%である。これは、(B)成分が50質量%を超えると耐熱性が低下し易いためであり、好ましくは0〜35質量%である。
【0056】
本発明の難燃性樹脂組成物における、(C)上記シリコーン変性リグニン化合物からなる有機樹脂難燃化用添加剤の配合量は、(A)ポリカーボネート樹脂50〜100質量%と(B)ポリカーボネート樹脂以外の熱可塑性樹脂0〜50質量%からなる樹脂成分100質量部に対して0.01〜5.0質量部、好ましくは0.05〜3.0質量部、更に好ましくは0.1〜2.0質量部である。(C)有機樹脂難燃化用添加剤の配合量が0.01質量部未満では十分な難燃性が得られず、5.0質量部を超えると熱分解を起こし易くなって、機械的強度や外観が低下する。
【0057】
本発明の難燃性樹脂組成物には、本来の特性を損なわない範囲で必要に応じて、フィブリル形成能を有するポリフルオロエチレン樹脂、上記(C)成分以外のシリコーン系化合物や従来公知の難燃剤(但し、ハロゲン系難燃剤及び燐系難燃剤は配合しないことが好ましい)、エラストマー、紫外線吸収剤、フェノール系酸化防止剤、燐系熱安定剤、顔料、染料、滑剤、離型剤、可塑剤、帯電防止剤、摺動性改良剤等の添加剤、ガラス繊維、ガラスフレーク、炭素繊維、金属繊維等の強化材あるいはチタン酸カリウム、ホウ酸アルミニウム、ケイ酸カルシウム等のウィスカー、マイカ、タルク、クレー等の無機充填剤を添加配合することができる。これらの添加方法は、それらの特性を生かす従来公知の方法で適宜添加することができる。
【0058】
上記(A)〜(C)成分、及び必要によりその他の添加剤を混合し、本発明の難燃性樹脂組成物を製造する方法は、各種混練機、例えば、一軸及び多軸混練機、バンバリーミキサー、ロール、ブラベンダープラストグラム等で、上記成分を混練した後、冷却固化する方法や、適当な溶媒、例えば、ヘキサン、ヘプタン、ベンゼン、トルエン、キシレン等の炭化水素及びその誘導体に上記成分を添加し、溶解する成分同士あるいは溶解する成分と不溶解成分を懸濁状態で混ぜる溶液混合法等が用いられる。工業的コストからは溶融混練法が好ましいが、これに限定されるものではない。溶融混練においては、一軸や二軸の押出機を用いることが好ましい。
【0059】
本発明の難燃性樹脂組成物から成形品を得る方法は、特に限定されるものでなく、熱可塑性樹脂組成物について一般に用いられている成形法、例えば、射出成形、中空成形、押出成形、シート成形、熱成形、回転成形、積層成形等の成形方法が適用できる。
【実施例】
【0060】
以下、本発明を実施例により更に具体的に説明するが、実施例は本発明の単なる例示を意図するものに過ぎない。本発明はその要旨を超えない限り以下の実施例によって限定されることはない。なお、実施例及び比較例においては、下記に記載の原材料を用いた。
【0061】
[原材料]
(1)ポリカーボネート樹脂:ポリ−4,4−イソプロピリデンジフェニルカーボネート、商品名:ユーピロン(登録商標)S−3000(粘度平均分子量21,500)、三菱エンジニアリングプラスチックス(株)製(以下、「PC樹脂」と略記する)。
(2)ABS樹脂:CBT−698、テクノポリマー(株)製。
(3)本発明のケイ素原子に直接結合したフェニル基、及び炭化水素基(但し、ヘテロ原子を含んでいてもよい)を介してケイ素原子に結合したスルホン酸アルカリ金属塩基又はスルホン酸アルカリ土類金属塩基を持ち、更にケイ素原子が酸素原子を介してリグニンと結合しているシリコーン変性リグニン化合物からなる有機樹脂難燃化用添加剤:下記合成例1〜5によるシリコーン変性リグニン化合物1〜5。
【0062】
(4)本発明範囲外の成分
・本発明範囲外の、炭化水素基を介してケイ素原子に結合したスルホン酸アルカリ金属塩基又はスルホン酸アルカリ土類金属塩基を含有せず、ケイ素原子に結合したフェニル基とシロキサン結合を有するシリコーン化合物:シリコーン化合物6=ポリメチルフェニルシロキサン、商品名:KF50、信越化学工業(株)製。
・本発明範囲外の、炭化水素基を介してケイ素原子に結合したスルホン酸アルカリ金属塩基又はスルホン酸アルカリ土類金属塩基を含有せず、ケイ素原子に結合したフェニル基を有するシリコーン化合物で変性されたリグニン化合物:下記比較合成例1のシリコーン変性リグニン化合物7。
・本発明範囲外のリグニンと反応していない合成例1中のシリコーン前駆体1。
・本発明範囲外のシリコーン変性されていないリグニン。
【0063】
合成に使用したリグニン粉末:針葉樹から取り出された下記構造単位を有するリグニン粉末。
【化3】

【0064】
(5)燐系難燃剤:トリフェニルフォスフェート、大八化学(株)製(以下、「TPP」と略記する)。
(6)フェノール系酸化防止剤:ペンタエリスリトールテトラキス[3−(3,5−ジ−tert−ブチル−4−ヒドロキシフェニル)プロピオネート],商品名:IRGANOX1010,チバ・スペシャルティ・ケミカルズ(株)製(以下、「酸化防止剤」と略記する)。
(7)熱安定剤:トリス(2,4−ジ−tert−ブチルフェニル)ホスファイト,商品名:アデカスタブ2112,旭電化工業(株)製(以下、「熱安定剤」と略記する)。
【0065】
また、合成例中のシリコーン前駆体は、硝酸で分解後、ICP−AESに供して絶対検量法によりS元素、及びNa元素又はK元素の含有量を測定した。
【0066】
[合成例1] シリコーン変性リグニン化合物1の合成
撹拌装置、冷却コンデンサー、温度計、滴下ロートを取り付けた容量1.2Lのフラスコに、フェニルトリメトキシシラン59.5g(0.3モル)、ジフェニルジメトキシシラン48.9g(0.2モル)、γ−メルカプトプロピルトリメトキシシラン58.9g(0.3モル)、ジメチルジメトキシシラン24.0g(0.2モル)及びメタノール450.0gを仕込み、撹拌して均一溶液とした。ここへ、水浴中で冷却して内温20〜30℃を保ちながら、30質量%の過酸化水素水119.0gを2時間かけて滴下した。続けてフラスコ内を加熱して内温67℃のメタノール還流条件下に5時間撹拌して熟成反応させた。なお、反応液は還流熟成の途中より徐々に濁り始め、熟成終了時には完全に白濁した均一分散液となっていた。この反応液のpHをpH試験紙により確認したところ1〜2であり、また過酸化水素チェッカー(試験紙)によって過酸化水素残存量を確認したところ、0.5mg/L以下であった。
【0067】
ここへ、水浴中で冷却して内温20〜50℃を保ちながら、30質量%の水酸化カリウム水溶液72.6gを30分間かけて滴下した。続けてフラスコ内を加熱して内温67℃のメタノール還流条件下に3時間撹拌して熟成反応させた後に、反応液のpHをpH試験紙により確認したところ9であった。これを110℃のオイルバス中で加熱してメタノールと水をほぼ溜去した後、室温まで冷却してから再度メタノール500gを添加し、室温下で1時間撹拌して均一分散液としてから濾過を行い、メタノールに溶解する未反応物を除去した。更にケーキ状のメタノール未溶解物をメタノール200gとイオン交換水300gとの混合溶媒中に添加し、氷水中で冷却しながら1時間撹拌して均一分散液としてから濾過を行い、残存するイオン性不純物を除去した。得られたケーキ状物をアセトンで洗浄した後、10Torrの減圧下、100℃で5時間減圧乾燥して残存するアセトンと水分を除去した後、乳鉢で粉砕して白色微粉末128gを得た(シリコーン前駆体1)。
【0068】
このようにして得られたシリコーン前駆体1の理論構造は、分子中のケイ素原子に結合した全有機基に対するフェニル基の含有率が50モル%、同じくプロピル基を介してケイ素原子に結合したスルホン酸カリウム塩基の含有率が21.4モル%であり、全シロキサン単位中で3官能シロキサン単位からなる分岐構造を60モル%有するものである。このものを硝酸分解/ICP−AES法によって分析した結果、S元素含有量=6.1質量%(理論値=6.1質量%)、K元素含有量=6.9質量%(理論値=7.5質量%)であった。
【0069】
次に撹拌装置、冷却コンデンサー、温度計、滴下ロートを取り付けた容量2Lのフラスコに、上記で得られたシリコーン前駆体100g、リグニン粉末100g、メタノール800g及び触媒としてトリエチルアミン40gを添加し、撹拌して分散溶液とした。続けてフラスコ内を加熱して内温67℃のメタノール還流条件下に12時間撹拌して熟成反応させた。その後エステルアダプターを取り付け、メタノールを溜去し、得られた固形粉末を10Torrの減圧下、100℃で8時間減圧乾燥して残存するメタノールとトリエチルアミンを除去した後、乳鉢で粉砕して黄褐色微粉末189gを得た。
【0070】
[合成例2] シリコーン変性リグニン化合物2の合成
撹拌装置、冷却コンデンサー、温度計、滴下ロートを取り付けた容量2Lのフラスコに、フェニルトリメトキシシラン69.4g(0.35モル)、ジフェニルジメトキシシラン9.8g(0.04モル)、γ−メルカプトプロピルトリメトキシシラン88.4g(0.45モル)、ジメチルジメトキシシラン19.2g(0.16モル)及びメタノール600.0gを仕込み、撹拌して均一溶液とした。ここへ、水浴中で冷却して内温20〜30℃を保ちながら、30質量%の過酸化水素水178.6gを2時間かけて滴下した。続けてフラスコ内を加熱して内温67℃のメタノール還流条件下に5時間撹拌して熟成反応させた。なお、反応液は還流熟成の初期より徐々に濁り始め、熟成終了時には完全に白濁した均一分散液となっていた。この反応液のpHをpH試験紙により確認したところ1であり、また過酸化水素チェッカー(試験紙)によって過酸化水素残存量を確認したところ、0.5mg/L以下であった。
【0071】
ここへ、水浴中で冷却して内温20〜50℃を保ちながら、30質量%の水酸化カリウム水溶液108.9gを30分間かけて滴下した。続けてフラスコ内を加熱して内温67℃のメタノール還流条件下に3時間撹拌して熟成反応させた後に、反応液のpHをpH試験紙により確認したところ9〜10であった。これを110℃のオイルバス中で加熱してメタノールと水をほぼ溜去した後、室温まで冷却してから再度メタノール600gを添加し、室温下で1時間撹拌して均一分散液としてから濾過を行い、メタノールに溶解する未反応物を除去した。更にケーキ状のメタノール未溶解物をメタノール400gとイオン交換水300gとの混合溶媒中に添加し、氷水中で冷却しながら1時間撹拌して均一分散液としてから濾過を行い、残存するイオン性不純物を除去した。得られたケーキ状物をアセトンで洗浄した後、10Torrの減圧下、100℃で5時間減圧乾燥して残存するアセトンと水分を除去した後、乳鉢で粉砕して白色微粉末111gを得た(シリコーン前駆体2)。
【0072】
このようにして得られたシリコーン前駆体2の理論構造は、分子中のケイ素原子に結合した全有機基に対するフェニル基の含有率が35.8モル%、同じくプロピル基を介してケイ素原子に結合したスルホン酸カリウム塩基の含有率が37.5モル%であり、全シロキサン単位中で3官能シロキサン単位からなる分岐構造を80モル%有するものである。このものを硝酸分解/ICP−AES法によって分析した結果、S元素含有量=9.1質量%(理論値=9.0質量%)、K元素含有量=9.7質量%(理論値=11.0質量%)であった。
【0073】
次に撹拌装置、冷却コンデンサー、温度計、滴下ロートを取り付けた容量2Lのフラスコに、上記で得られたシリコーン前駆体100g、リグニン粉末100g、メタノール800g及び触媒としてトリエチルアミン40gを添加し、撹拌して分散溶液とした。続けてフラスコ内を加熱して内温67℃のメタノール還流条件下に12時間撹拌して熟成反応させた。その後エステルアダプターを取り付け、メタノールを溜去し、得られた固形粉末を10Torrの減圧下、100℃で8時間減圧乾燥して残存するメタノールとトリエチルアミンを除去した後、乳鉢で粉砕して黄褐色微粉末192gを得た。
【0074】
[合成例3] シリコーン変性リグニン化合物3の合成
撹拌装置、冷却コンデンサー、温度計、滴下ロートを取り付けた容量1.2Lのフラスコに、フェニルトリメトキシシラン59.5g(0.3モル)、ジフェニルジメトキシシラン48.9g(0.2モル)、γ−メルカプトプロピルトリメトキシシラン58.9g(0.3モル)、ジメチルジメトキシシラン24.0g(0.2モル)及びメタノール450.0gを仕込み、撹拌して均一溶液とした。ここへ、水浴中で冷却して内温20〜30℃を保ちながら、30質量%の過酸化水素水119.0gを2時間かけて滴下した。続けてフラスコ内を加熱して内温67℃のメタノール還流条件下に5時間撹拌して熟成反応させた。なお、反応液は還流熟成の途中より徐々に濁り始め、熟成終了時には完全に白濁した均一分散液となっていた。この反応液のpHをpH試験紙により確認したところ1〜2であり、また過酸化水素チェッカー(試験紙)によって過酸化水素残存量を確認したところ、0.5mg/L以下であった。エステルアダプターを取り付け、メタノールを溜去し、薄黄色透明液体125gを得た。
【0075】
次に撹拌装置、冷却コンデンサー、温度計、滴下ロートを取り付けた容量2Lのフラスコに、上記で得られたシリコーン液体125g、リグニン粉末125g、メタノール900g及び触媒としてトリエチルアミン45gを添加し、撹拌して分散溶液とした。続けてフラスコ内を加熱して内温67℃のメタノール還流条件下に12時間撹拌して熟成反応させた。一旦20℃に冷却し、続けて30質量%の水酸化カリウム水溶液72.6gを30分間かけて滴下した。続けてフラスコ内を加熱して内温67℃のメタノール還流条件下に9時間撹拌して熟成反応させた。次に加熱してメタノールと水をほぼ溜去した後、黄褐色固体を取り出し、メタノール、水にて洗浄した後、10Torrの減圧下、100℃で5時間減圧乾燥して残存するアセトンと水分を除去した後、乳鉢で粉砕して白色微粉末240gを得た。
【0076】
[合成例4] シリコーン変性リグニン化合物4の合成
装置、冷却コンデンサー、温度計、滴下ロートを取り付けた容量2Lのフラスコに、フェニルトリメトキシシラン69.4g(0.35モル)、ジフェニルジメトキシシラン9.8g(0.04モル)、γ−メルカプトプロピルトリメトキシシラン88.4g(0.45モル)、ジメチルジメトキシシラン19.2g(0.16モル)及びメタノール600.0gを仕込み、撹拌して均一溶液とした。ここへ、水浴中で冷却して内温20〜30℃を保ちながら、30質量%の過酸化水素水178.6gを2時間かけて滴下した。続けてフラスコ内を加熱して内温67℃のメタノール還流条件下に5時間撹拌して熟成反応させた。なお、反応液は還流熟成の初期より徐々に濁り始め、熟成終了時には完全に白濁した均一分散液となっていた。この反応液のpHをpH試験紙により確認したところ1であり、また過酸化水素チェッカー(試験紙)によって過酸化水素残存量を確認したところ、0.5mg/L以下であった。
エステルアダプターを取り付け、メタノールを溜去し、薄黄色透明液体111gを得た。
【0077】
次に撹拌装置、冷却コンデンサー、温度計、滴下ロートを取り付けた容量2Lのフラスコに、上記で得られたシリコーン液体111g、リグニン粉末111g、メタノール800g及び触媒としてトリエチルアミン40gを添加し、撹拌して分散溶液とした。続けてフラスコ内を加熱して内温67℃のメタノール還流条件下に12時間撹拌して熟成反応させた。一旦20℃に冷却し、続けて30質量%の水酸化カリウム水溶液108.9gを30分間かけて滴下した。続けてフラスコ内を加熱して内温67℃のメタノール還流条件下に9時間撹拌して熟成反応させた。次に加熱してメタノールと水をほぼ溜去した後、黄褐色固体を取り出し、メタノール、水にて洗浄した後、10Torrの減圧下、100℃で5時間減圧乾燥して残存するアセトンと水分を除去した後、乳鉢で粉砕して白色微粉末210gを得た。
【0078】
[合成例5] シリコーン変性リグニン化合物5の合成
撹拌装置、冷却コンデンサー、温度計、滴下ロートを取り付けた容量1.2Lのフラスコに、フェニルトリメトキシシラン19.8g(0.1モル)、メチルトリメトキシシラン40.9g(0.3モル)、γ−メルカプトプロピルトリメトキシシラン58.9g(0.3モル)、ジメチルジメトキシシラン48.1g(0.3モル)及びメタノール400.0gを仕込み、撹拌して均一溶液とした。ここへ、水浴中で冷却して内温20〜30℃を保ちながら、30質量%の過酸化水素水119.0gを2時間かけて滴下した。続けてフラスコ内を加熱して内温67℃のメタノール還流条件下に5時間撹拌して熟成反応させた。なお、反応液は還流熟成の途中より徐々に濁り始め、熟成終了時には完全に白濁した均一分散液となっていた。この反応液のpHをpH試験紙により確認したところ1〜2であり、また過酸化水素チェッカー(試験紙)によって過酸化水素残存量を確認したところ、0.5mg/L以下であった。
【0079】
ここへ、水浴中で冷却して内温20〜50℃を保ちながら、30質量%の水酸化カリウム水溶液72.6gを30分間かけて滴下した。続けてフラスコ内を加熱して内温67℃のメタノール還流条件下に3時間撹拌して熟成反応させた後に、反応液のpHをpH試験紙により確認したところ9であった。これを110℃のオイルバス中で加熱してメタノールと水をほぼ溜去した後、室温まで冷却してから再度メタノール500gを添加し、室温下で1時間撹拌して均一分散液としてから濾過を行い、メタノールに溶解する未反応物を除去した。更にケーキ状のメタノール未溶解物をメタノール200gとイオン交換水300gとの混合溶媒中に添加し、氷水中で冷却しながら1時間撹拌して均一分散液としてから濾過を行い、残存するイオン性不純物を除去した。得られたケーキ状物をアセトンで洗浄した後、10Torrの減圧下、100℃で5時間減圧乾燥して残存するアセトンと水分を除去した後、乳鉢で粉砕して白色微粉末95gを得た。
【0080】
このようにして得られたシリコーン前駆体5の理論構造は、分子中のケイ素原子に結合した全有機基に対するフェニル基の含有率が0モル%、同じくプロピル基を介してケイ素原子に結合したスルホン酸カリウム塩基の含有率が21.4モル%であり、全シロキサン単位中で3官能シロキサン単位からなる分岐構造を70モル%有するものである。このものを硝酸分解/ICP−AES法によって分析した結果、S元素含有量=8.8質量%(理論値=8.5質量%)、K元素含有量=6.5質量%(理論値=10.3質量%)であった。
【0081】
次に撹拌装置、冷却コンデンサー、温度計、滴下ロートを取り付けた容量2Lのフラスコに、上記で得られたシリコーン前駆体80g、リグニン粉末80g、メタノール700g及び触媒としてトリエチルアミン35gを添加し、撹拌して分散溶液とした。続けてフラスコ内を加熱して内温67℃のメタノール還流条件下に12時間撹拌して熟成反応させた。その後エステルアダプターを取り付け、メタノールを溜去し、得られた固形粉末を10Torrの減圧下、100℃で8時間減圧乾燥して残存するメタノールとトリエチルアミンを除去した後、乳鉢で粉砕して黄褐色微粉末148gを得た。
【0082】
[比較合成例1] シリコーン変性リグニン化合物7の合成
撹拌装置、冷却コンデンサー、温度計、滴下ロートを取り付けた容量1.2Lのフラスコに、フェニルトリメトキシシラン59.5g(0.3モル)、ジフェニルジメトキシシラン48.9g(0.2モル)、γ−メルカプトプロピルトリメトキシシラン58.9g(0.3モル)、ジメチルジメトキシシラン24.0g(0.2モル)及びメタノール450.0gを仕込み、撹拌して均一溶液とした。ここへ、水浴中で冷却して内温20〜30℃を保ちながら、30質量%の過酸化水素水119.0gを2時間かけて滴下した。続けてフラスコ内を加熱して内温67℃のメタノール還流条件下に5時間撹拌して熟成反応させた。なお、反応液は還流熟成の途中より徐々に濁り始め、熟成終了時には完全に白濁した均一分散液となっていた。この反応液のpHをpH試験紙により確認したところ1〜2であり、また過酸化水素チェッカー(試験紙)によって過酸化水素残存量を確認したところ、0.5mg/L以下であった。エステルアダプターを取り付け、メタノールを溜去し、薄黄色透明液体125gを得た。
【0083】
次に撹拌装置、冷却コンデンサー、温度計、滴下ロートを取り付けた容量2Lのフラスコに、上記で得られたシリコーン液体125g、リグニン粉末125g、メタノール900g及び触媒としてトリエチルアミン45gを添加し、撹拌して分散溶液とした。続けてフラスコ内を加熱して内温67℃のメタノール還流条件下に12時間撹拌して熟成反応させた。その後エステルアダプターを取り付け、メタノールを溜去し、得られた固形粉末を10Torrの減圧下、100℃で8時間減圧乾燥して残存するメタノールとトリエチルアミンを除去した後、乳鉢で粉砕して黄褐色微粉末236gを得た。
【0084】
[実施例1〜8及び比較例1〜7]
表1及び表2に示す配合処方で各成分を配合し、単軸押出機VS−40(田辺プラスチック機械(株)製)によりバレル温度260℃で混練、ペレット化した。得られたペレットを120℃(ABS樹脂を配合した場合は110℃)、5時間乾燥した後、住友重機械工業(株)製、サイキャップM−2、型締め力75Tを用いて、シリンダー温度:270℃(ABS樹脂を配合した場合は260℃),金型温度:100℃の条件でサイクル60秒にて各種試験片の射出成形を行い、得られた試験片を用いて下記の方法により評価を行い、結果を表1及び表2に示した。表1と表2を比較することにより、本発明の難燃性樹脂組成物は、燃焼性、アイゾット衝撃強度、全光線透過率(透明性/PC樹脂単独系)、成形品外観(ABS樹脂配合系)、耐モールドデポジット性(ABS樹脂配合系)に優れていることが明らかになった。
【0085】
[試験片の評価法]
(1)燃焼性:UL94垂直燃焼性試験に従い、2.0mm厚みの燃焼性試験を行った。
(2)アイゾット衝撃強度:ASTM D256に従った。
(3)光線透過率:80mm×40mm×3.2mmtのプレートを成形し、ASTM D1003に従い、全光線透過率を測定した(PC樹脂単独系のみ)。
(4)成形品外観:ウエルド部のない引張り試験片のゲート近傍を目視観察し、フローマークのない試験片を○、フローマークの少し発生している試験片を△、フローマークの発生している試験片を×と評価した(ABS樹脂配合系のみ)。
(5)モールドデポジット:実施例に記載された成形条件にて連続成形を500ショット行い、成形終了後金型の付着物の有無について評価を行った(ABS樹脂配合系のみ)。
【0086】
【表1】

【0087】
【表2】


【特許請求の範囲】
【請求項1】
ケイ素原子に直接結合したフェニル基、及び炭化水素基(但し、ヘテロ原子を含んでいてもよい)を介してケイ素原子に結合したスルホン酸アルカリ金属塩基又はスルホン酸アルカリ土類金属塩基を有し、更にケイ素原子が酸素原子を介してリグニンと結合しているシリコーン変性リグニン化合物からなることを特徴とする有機樹脂難燃化用添加剤。
【請求項2】
ケイ素原子に結合したスルホン酸アルカリ金属塩基又はスルホン酸アルカリ土類金属塩基が、スルホン酸ナトリウム塩基又はスルホン酸カリウム塩基であることを特徴とする請求項1記載の有機樹脂難燃化用添加剤。
【請求項3】
(A)ポリカーボネート樹脂50〜100質量%と(B)ポリカーボネート樹脂以外の熱可塑性樹脂0〜50質量%からなる樹脂100質量部に対し、(C)請求項1又は2記載の有機樹脂難燃化用添加剤0.01〜5.0質量部を配合してなることを特徴とする難燃性樹脂組成物。
【請求項4】
(B)ポリカーボネート樹脂以外の熱可塑性樹脂が、ゴムの存在下に少なくともスチレン系単量体と(メタ)アクリロニトリルとを重合してなるゴム変性スチレン/(メタ)アクリロニトリル系グラフト共重合体であることを特徴とする請求項3記載の難燃性樹脂組成物。
【請求項5】
請求項3又は4記載の難燃性樹脂組成物を成形して得られた成形品。

【公開番号】特開2010−254754(P2010−254754A)
【公開日】平成22年11月11日(2010.11.11)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−103820(P2009−103820)
【出願日】平成21年4月22日(2009.4.22)
【出願人】(000002060)信越化学工業株式会社 (3,361)
【Fターム(参考)】