説明

有機無機複合体の製造方法

【課題】 複数の無機材料を複合化させた有機無機複合体を提供することにある。
【解決手段】 二価フェノ−ル化合物、ジカルボン酸化合物又はジカルボン酸無水物と、酸ハライドとを含有する有機溶剤溶液(1)と、
アルカリ金属を含む2つ以上の金属元素を有する金属化合物及び/又は珪酸アルカリと、水溶液中における25℃での標準酸化還元電位(E)が−0.5V以上である金属を有する金属化合物とを含有する、塩基性の水溶液(2)とを、前記有機溶剤溶液(1)と前記水溶液(2)とを共存させて有機無機複合体を得る工程1と、工程1により得られた有機無機複合体を含有するスラリーに還元剤を添加し、金属化合物(c−3)中の金属イオンを有機無機複合体上で金属に還元する工程2と、を有する有機無機複合体の製造方法。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、貴金属等の金属単体微粒子を微粒子状体で担持させた、ポリエステルやポリ酸無水物をマトリクスポリマーとする有機無機複合体の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
有機ポリマーがもつ加工性、柔軟性等の特性と、無機材料が持つ耐熱性、耐摩耗性等、表面硬度等の特性を付与することを目的として、無機微粒子を有機ポリマー内に分散、複合化することにより有機無機複合体を作り出す検討が広く行われている。
例えば、無機材料固有の特性を生かすような有機無機複合体の設計は、極力小さい粒径の無機微粒子を高い充填率で複合化することで、より高い複合化効果を期待することができる。粒径が小さいほど無機微粒子の重量当たりの表面積が大きくなり、有機ポリマーと無機材料との界面領域が広くなるためである。更に、無機微粒子の充填率が高くなると、無機材料の特性を強く出せることとなる。
【0003】
一方、複数の無機材料を複合化させることで、様々な特性を付与した有機無機複合体を得ることも期待できる。例えば、金属酸化物のような無機化合物と単体金属とを複合化させることで、耐熱性、耐摩耗性等、表面硬度等といった無機材料特有の特性に加え、金属由来の触媒機能等を有するような複合体を得ることが可能となる。
【0004】
無機材料として金属を複合化した有機無機複合体としては、たとえば、固体高分子化合物に、そのガラス転移温度以上で重金属化合物の蒸気を接触することを特徴とする高分子−金属クラスター複合体が知られている(例えば特許文献1参照)。しかし該方法は、有機ポリマーと単体金属とを内部までほぼ均一に複合化させる方法であり、金属が持つ各種特性(光学特性、修飾性等)を材料のバルク全体に付与する方法としては好ましい方法であるが、単体金属よりも沸点が高い金属酸化物等の金属化合物を同時に複合化させることが出来ない。
【0005】
一方、無機材料として酸化ケイ素(シリカ)や酸化アルミニウム(アルミナ)等の酸化物を、有機無機複合体の無機材料として使用した有機無機複合体が知られている。該有機無機複合体は、例えば、有機モノマーの存在下で、金属アルコキシドを加水分解、脱水縮合させることで有機無機複合体を合成するゾルゲル方法(例えば特許文献2参照)や、加熱溶融させた樹脂に無機成分を混合、分散させることで有機無機複合体を製造する溶融混練法(例えば特許文献3参照)や、界面重合法(例えば特許文献4、5参照)により得ることができる。
【0006】
しかしながら、特許文献2に記載のゾルゲル反応は、担持できる金属酸化物が限られるといった欠点があった。ゾルゲル反応には金属アルコキシドが必須であるが、安定性が高い貴金属は一般的に金属アルコキシドを形成しないため、酸化物の形態としても複合化することができない。また、アルコキシドを形成する化合物同士での金属種類の違いにより酸化物への転化速度がことなるため、これらを制御し複数種類を複合化することは困難を伴う。またゾルゲル反応は長時間を要するため製造効率が低いといった欠点もある。
【0007】
また、特許文献3に代表される溶融混練法は、無機材料を有機ポリマー中の20質量%以上分散状態で導入するのは困難である。また、前記酸化ケイ素や酸化アルミニウム等の金属酸化物と、単体金属微粒子のような、樹脂への混合特性が異なる複種類の無機材料を、各々均一に分散させることも難しい。特に単体金属がナノメートルオーダーの微粒子である場合にはサイズ効果により融点が低下することが知られており、樹脂との溶融混練操作に伴い融着し粗大化する恐れがある。
【0008】
また、特許文献4及び5に記載の界面重合法は、ポリマー中に微細な無機化合物を均一に分散させた複合体を、簡易な合成操作で、且つ複数種類の無機化合物を複合化できる優れた方法である。しかし、マトリクスとなるポリマーはポリアミド、ポリウレタンあるいはポリ尿素に限られている。
【特許文献1】特開2000―256489号公報
【特許文献2】特開平8−157735号公報
【特許文献3】特開2003−170420号公報
【特許文献4】特開2005−048008号公報
【特許文献5】特開2005−068311公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
本発明が解決しようとする課題は、複数の無機材料を複合化させた有機無機複合体を提供することにあり、さらに具体的には、貴金属等の金属単体微粒子を、ポリエステルと金属酸化物等からなる有機無機複合体中に微粒子状態で担持させた有機無機複合体を、簡便な方法により提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明者らは、先に、ポリエステルやポリ酸無水物中に微細な無機化合物を均一に分散させた複合体が得られる手段として、ポリエステルやポリ酸無水物の原料である二価フェノール化合物やジカルボン酸化合物や酸ハライド等のモノマーを全て有機溶剤に溶解し、無機化合物の原料であるアルカリ金属を含む金属化合物や珪酸アルカリを水に溶解し、それぞれの溶液を、少なくとも一部が相溶した状態に保ち又は分離した状態で共存させる方法を見いだしている。
本発明者らはこれを応用し、更に前記水溶液中に、水溶液中における25℃での標準酸化還元電位(E)が−0.5V以上である金属を有する金属化合物(c−3)を共存させ、前記有機溶剤溶液と前記水溶液の少なくとも一部が相溶した状態に保ち又は分離した状態で共存させて有機無機複合体を得た後、該有機無機複合体を含有するスラリーに還元剤を添加し、金属化合物(c−3)中の金属イオンを有機無機複合体上で金属単体に還元することにより、反応触媒、抗菌防カビ等に有効な金属を微粒子、0価(金属単体)、且つ均一に分散させた状態でポリエステルと金属酸化物等からなる有機無機複合体中に微粒子状体で担持させた有機無機複合体が簡便に得られることを見いだし、上記課題を解決した。
【0011】
即ち、本発明は、二価フェノ−ル化合物、ジカルボン酸化合物及びジカルボン酸無水物からなる群から選ばれる少なくとも1つの化合物(a)と、酸ハライド(b)とを含有する有機溶剤溶液(1)と、金属酸化物、金属水酸化物及び金属炭酸化物からなる群から選ばれる少なくとも1つのアルカリ金属を含む2つ以上の金属元素を有する金属化合物(c−1)及び/又は珪酸アルカリ(c−2)と、水溶液中における25℃での標準酸化還元電位(E)が−0.5V以上である金属を有する金属化合物(c−3)とを含有する、塩基性の水溶液(2)とを、前記有機溶剤溶液(1)と前記水溶液(2)の少なくとも一部が相溶した状態に保ち又は分離した状態で共存させることで前記化合物(a)のアルカリ金属塩を生成させ、更に、該アルカリ金属塩を前記酸ハライド(b)と反応させ有機無機複合体を得る工程1と、工程1により得られた有機無機複合体を含有するスラリーに還元剤を添加し、金属化合物(c−3)中の金属イオンを有機無機複合体上で金属に還元する工程2と、を有する有機無機複合体の製造方法を提供する。
【発明の効果】
【0012】
本発明の製造方法は、ポリエステルやポリ酸無水物に金属化合物及び金属といった複数の無機化合物を複合化させることが可能である。
本発明の製造方法においては、無機化合物は水溶した状態から析出させるため、粗大粒子化しにくい。そのため、ナノサイズの無機化合物がポリエステルやポリ酸無水物に分散した有機無機複合体を得ることができる。
また、金属の析出は、金属の前駆体である金属化合物(c−3)が予め有機無機複合体の合成系内に溶解しているために、工程1において生成する無機化合物の表面に(イオンとして)取り込まれ、工程2においては添加された還元剤によって還元され生じる。これにより、微粒子状で且つ0価の金属を析出させることができる。工程1、工程2ともに、移送を伴わずに連続的に行うことが出来る上、常温常圧下での短時間(基本的に30分未満)で終了するので、簡便に本発明の有機無機複合体を得ることができる。特に、工程2での還元を十分に行うことにより、金属を原料の金属化合物(c−3)からほぼ100%の収率で有機無機複合体に担持させることができる。原料である金属化合物(c−1)、珪酸アルカリ(c−2)や金属化合物(c−3)の種類や比率を適宜選択することで、様々な特性を有する有機無機複合体を得ることが可能である。
【発明を実施するための最良の形態】
【0013】
(言葉の定義)
以下、本発明の製造方法について詳細に説明する。なお本発明において、「無機化合物」とは、酸化ケイ素等の非金属の無機化合物、酸化アルミニウム等の金属化合物等を総称するものとする。また「金属化合物」は、金属酸化物、金属水酸化物、金属炭酸化物等の金属と他の元素が化合した物質を示すものとする。また「金属」とは0価の金属単体を示すものとする。
【0014】
(有機無機複合体の製造方法 工程1)
本発明の製造方法において工程1は、ポリエステル又はポリ酸無水物と、金属水酸化物及び金属炭酸化物からなる群から選ばれる少なくとも1つのアルカリ金属を含む2つ以上の金属元素を有する金属化合物(c−1)(以下金属化合物(c−1)と称す)及び/又は珪酸アルカリ(c−2)を原料とする無機化合物との有機無機複合体を合成する工程である。一方、該反応時に、金属化合物(c−3)は生成する有機無機複合体上に吸着する。
【0015】
(有機溶剤溶液(1))
本発明で使用する有機溶媒溶液(1)は、二価フェノ−ル化合物、ジカルボン酸化合物及びジカルボン酸無水物からなる群から選ばれる少なくとも1つの化合物(a)と、酸ハライド(b)とを含有する。前記化合物(a)と、酸ハライド(b)との重縮合反応で得られるポリエステルまたはポリ酸無水物が、マトリクスポリマーとなる。このとき、前記化合物(a)として二価フェノール化合物を使用し、前記酸ハライド(b)としてジカルボン酸ハロゲン化物を使用するとポリエステルとなり、前記化合物(a)としてジカルボン酸化合物あるいはジカルボン酸無水物を使用し、前記酸ハライド(b)としてジカルボン酸ハロゲン化物を使用するとポリ酸無水物となる。ポリ酸無水物の場合は、使用するジカルボン酸化合物として芳香族ジカルボン酸化合物、脂肪族ジカルボン酸化合物、芳香族ジカルボン酸無水物又は脂肪族ジカルボン酸無水物であることが好ましい。
【0016】
(化合物(a):二価フェノール化合物)
本発明で使用する二価フェノール化合物は、酸ハライドと同時に有機溶剤に溶解可能な、2つのフェノール性水酸基を有する化合物である。2つのフェノール性水酸基は、1つの芳香環上にあっても複数の芳香環上にあっても良い。これらは所望するポリマーの性質により適宜決定される。
2つのフェノール性水酸基が1つの芳香環上にある化合物としては、例えば、レゾルシン(1,3−ジヒドロキシベンゼン)、ヒドロキノン(1,4−ジヒドロキシベンゼン)、カテコール(1,2−ジヒドロキシベンゼン)が挙げられる。
また、2つのフェノール性水酸基がそれぞれ複数の芳香環上にある化合物としては、例えば、2,2’−ビフェノール、4,4’−ビフェノール、3,3’−5,5’−テトラメチルビフェノール(テトラメチルビフェノール)、等のビフェノール化合物、ビスフェノールS、ビスフェノールA、ビスフェノールH、ビスフェノールC、ビスフェノールE等のビスフェノール化合物、1,4−ジヒドロキシナフタレン、1,5−ジヒドロキシナフタレン、1,6−ジヒドロキシナフタレン、2,6−ジヒドロキシナフタレン等のナフタレン骨格を持つ化合物、アントラセン等の芳香環が3つ以上の化合物のいずれかの芳香環に、置換部位は問わずに2つのフェノール性水酸基を有する化合物をあげることができる。
【0017】
また前記二価フェノールは、酸ハライドと常温、常圧下では反応せず且つ使用する有機溶剤や後述の水溶液(B)と反応しないような置換基を有していてもよい。このような置換基の例としては、ハロゲン元素やアルキル基が挙げられる。
【0018】
なお本発明においては、エチレングリコールや1,4−ブタンジオール等の脂肪族アルキルジオール化合物では酸ハロゲン化物と重縮合反応が生じない。これは、脂肪族アルキルジオール化合物の水酸基の水素イオンの解離性が二価フェノールと比べて極めて低いために、後述の金属化合物(c−1)または珪酸アルカリ(c−2)中のアルカリ金属イオンが脂肪族アルキルジオール化合物の水酸基の水素イオンとイオン交換反応が極めて遅いためと考えられる。
【0019】
(化合物(a):ジカルボン酸化合物)
本発明で使用するジカルボン酸化合物は、酸ハライドと同時に有機溶剤に溶解可能な、2つのカルボキシ基を有する化合物である。ジカルボン酸化合物は脂肪族ジカルボン酸でも芳香族ジカルボン酸でも良い。
【0020】
芳香族ジカルボン酸化合物としては、例えば、芳香環から構成された化合物としてはテレフタル酸、イソフタル酸等の1つの芳香環を有する化合物、1,4−ジカルボキシナフタレン、1,5−ジカルボキシナフタレン、1,6−ジカルボキシナフタレン、2,6−ジカルボキシナフタレン等のナフタレン骨格を持つ化合物等の複数の芳香環を有する化合物、あるいは、ビフェニル−2,2´−ジカルボン酸等のビフェニル骨格を持つジカルボン酸等が挙げられる。
【0021】
また脂肪族ジカルボン酸化合物としては、例えば、エタン二酸(しゅう酸)、プロパン二酸(マロン酸)、ブタン二酸(コハク酸)、ペンタン二酸(グルタル酸)、ヘキサン二酸(アジピン酸)、オクタン二酸(スベリン酸)、デカン二酸(セバシン酸)等が挙げられる。
また前記ジカルボン酸化合物は、酸ハライドと反応せず且つ使用する有機溶剤や後述の水溶液(B)と反応しないような置換基を有していてもよい。このような置換基の例としては、ハロゲン元素やアルキル基が挙げられる。
【0022】
(化合物(a):ジカルボン酸無水物)
本発明で使用するジカルボン酸無水化合物は、水と塩基の存在下で酸無水結合が加水分解されジカルボン酸になる化合物であればよい。例えばテトラヒドロフラン−2,5−ジオン(無水コハク酸)、無水グルタル酸等を脂肪族ジカルボン酸無水物として例示することができる。加えて、無水フタル酸、2,3−ナフタレンジカルボン酸無水物、1、8−ナフタル酸無水物、1、2−ナフタル酸無水物等の芳香族ジカルボン酸無水物を例示することができる。これらの化合物は酸ハライドと反応せず且つ使用する有機溶剤や後述の水溶液(B)と反応しないような置換基を有していてもよい。このような置換基の例としては、ハロゲン元素やアルキル基が挙げられる。ジカルボン酸無水物は前記ジカルボン酸化合物よりも有機溶剤に対する溶解性が高いため、有機溶剤溶液(1)中の濃度を高めることができ、反応効率をより高くすることができる。
【0023】
(酸ハライド(b))
本発明で使用する酸ハライド(b)は、有機溶剤溶液(1)中での常温、常圧条件下では二価フェノール化合物、ジカルボン酸化合物、ジカルボン酸無水物とは反応せず、水溶液(2)と共存させることで初めて重縮合反応を生じるような化合物であれば特に限定されない。
例えば、芳香族基を有する酸ハライド(b)としては、イソフタル酸クロリド、テレフタル酸クロリド、2つ以上の芳香環から構成される1,4−ジカルボキシナフタレン、1,5−ジカルボキシナフタレン、1,6−ジカルボキシナフタレン、2,6−ジカルボキシナフタレン等の酸ハロゲン化物が挙げられる。これらの芳香族酸ハライドは水溶液(2)を構成する水との加水分解反応に対して強いため、有機溶剤に水に相溶する溶媒を用いた場合でも収率を高くすることができ、特に好ましく用いられる。
また、脂肪族基を有する酸ハライド(b)としては、例えば、コハク酸、アジピン酸、アゼライン酸、セバシン酸等の酸ハロゲン化物が挙げられる。
また、前記酸ハライド(b)は、有機溶剤や後述の水溶液(B)と反応しないような置換基を有していてもよい。このような置換基の例としては、ハロゲン元素やアルキル基が挙げられる。
【0024】
(有機溶剤)
前記化合物(a)及び酸ハライド(b)は、いずれも有機溶剤に溶解した有機溶剤溶液(1)として使用する。使用できる有機溶剤としては、前記化合物(a)や前記酸ハライド(b)のいずれとも反応せずに溶解できる有機溶剤であれば特に制限はない。具体的な例としては、テトラヒドロフラン、ジメチルエーテル、ジエチルエーテル、n−ブチルエーテル、アニソール等のエーテル類、アセトン、2−ブタノン、シクロヘキサノン等のケトン類の他、酸酸エチル、酢酸プロピル、酢酸ブチル等の酢酸アルキル、クロロホルム、塩化メチレン等のハロゲン化炭化水素類、炭酸プロピレン等をあげることができる。またトルエン、キシレン等の芳香族炭化水素類、n−ヘキサン等の脂肪族炭化水素類は非常に極性が低いため、前記化合物(a)の炭化水素部位が大きいことで極性が低く、完全に溶解させることができるときのみ用いることができる。
【0025】
有機溶剤として、テトラヒドロフラン、ジメチルエーテル、アセトン、酢酸エチル等の、水可溶性もしくは水溶性である有機溶剤を使用すると、得られる前記有機溶剤溶液(1)と後述の水溶液(2)とが相溶した状態で反応することとなり、反応場が均一な溶液中である溶液重合で反応が進行し、得られる有機無機複合体は粉末状となる。
一方、ジブチルエーテル、アニソール、酢酸ブチル、クロロホルム、塩化メチレン等の、水難溶性もしくは水不溶性である有機溶剤を使用すると、得られる有機溶剤溶液(1)と後述の水溶液(2)とが分離した状態で反応することとなり、反応場が水と有機溶剤との界面である界面重合で反応は進行し、得られる有機無機複合体は塊状となる。
【0026】
有機溶剤溶液(1)中の化合物(a)と酸ハライド(b)とのモル比は、有機無機複合体の合成反応が正常に進行すれば特に限定されないが、収率よく反応を進行させるためにはおよそ1:1であることが好ましい。
また、本発明での前記有機溶剤溶液(1)中の化合物(a)と酸ハライド(b)のそれぞれのモノマー濃度は、重合反応が十分に進行すれば特に制限されないが、各々のモノマー同士を良好に接触させる観点から、0.01〜3モル/Lの濃度範囲、特に0.05〜1モル/Lが好ましい。
また、前記有機溶剤溶液(1)は、その他反応を阻害しないような添加剤を適宜加えてもよい。
【0027】
(水溶液(2))
本発明で使用する塩基性の水溶液(2)は、金属酸化物、金属水酸化物及び金属炭酸化物からなる群から選ばれ少なくとも1つのアルカリ金属を含む2つ以上の金属元素を有する金属化合物(c−1)(以下金属化合物(c−1)と略す)及び/又は珪酸アルカリ(c−2)と、水溶液中における25℃での標準酸化還元電位(E)が−0.5V以上である金属を有する金属化合物(c−3)とを含有する。
【0028】
本発明で得られる有機無機複合体の無機化合物の原料は、前記金属化合物(c−1)及び/又は珪酸アルカリ(c−2)である。金属化合物(c−1)を原料とした場合はアルカリ金属以外の金属元素を有する金属化合物が析出し、珪酸アルカリ(c−2)を原料とした場合はシリカ(二酸化ケイ素)が析出する。
【0029】
(金属化合物(c−1))
本発明で使用する金属化合物(c−1)は、具体的には、下記一般式(1)で表される。
【0030】
【化1】

【0031】
前記一般式(1)において、Aはアルカリ金属元素を表し、Mはアルカリ金属以外の金属元素を表し、Bは酸素原子、カルボキシ基、またはヒドロキシ基を表す。x、y、及びzは各々独立してA、MとBの結合を可能とする数である。(複合酸化物系の無機材料には不定比化合物(例えばNa1.6Al0.92.8 のような類が多いために、xyzともに整数とも小数とも定義できない。そのため、安定して存在しえる数を指す。)
前記一般式(1)で表される化合物は、水に完全または一部溶解し塩基性を示すものが好ましい。且つ、析出する金属化合物が、水に殆どまたは全く溶解しない化合物であることが好ましい。
【0032】
前記一般式(1)におけるBが酸素原子である化合物としては、例えば、亜鉛酸ナトリウム、アルミン酸ナトリウム、亜クロム酸ナトリウム、モリブデン酸ナトリウム、スズ酸ナトリウム、タンタル酸ナトリウム、亜テルル酸ナトリウム、バナジン酸ナトリウム、タングステン酸ナトリウム、ジルコン酸ナトリウム等のナトリウム複合酸化物や、亜鉛酸カリウム、アルミン酸カリウム、亜クロム酸カリウム、モリブデン酸カリウム、スズ酸カリウム、マンガン酸カリウム、タンタル酸カリウム、亜テルル酸カリウム、鉄酸カリウム、バナジン酸カリウム、タングステン酸カリウム、金酸カリウム、銀酸カリウム、ジルコン酸カリウム等のカリウム複合酸化物、アルミン酸リチウム、モリブデン酸リチウム、スズ酸リチウム、マンガン酸リチウム、タンタル酸リチウム、バナジン酸リチウム、タングステン酸リチウムのリチウム複合酸化物のほかルビジウム複合酸化物が挙げられる。
【0033】
前記一般式(1)におけるBがカルボキシ基及びヒドロキシ基の両方を含む金属化合物(c−1)としては、例えば、炭酸亜鉛カリウム、炭酸ニッケルカリウム、炭酸ジルコニウムカリウム、炭酸コバルトカリウム、炭酸スズカリウム等が挙げられる。
前記金属化合物(c−1)は、水に溶解させて用いるために水和物であっても良い。また、各々を単独でまたは2種以上を組み合わせて使用することもできる。
【0034】
金属化合物(c−1)の中でも、特に、アルミン酸アルカリ、スズ酸アルカリ、亜鉛酸アルカリ、炭酸ジルコニウムアルカリが特に好ましく用いられる。これらの金属化合物は、水溶性が高く溶解させた際の塩基性が強いため、前記マトリクスとなるポリマーの縮重合反応を進行させやすい。中でもアルミン酸アルカリは特に水溶性が高い上安価であるため最も好ましく用いられる。
【0035】
(珪酸アルカリ(c−2))
本発明で使用する珪酸アルカリ(c−2)は、例えば、珪酸ナトリウム(水ガラス)1号、2号、3号、4号が例となるMO・nSiOの組成式で、Mがアルカリ金属、nの平均値が1.8〜4のものが挙げられる。また、nの平均値が1.8以下でありMがナトリウムであるオルト珪酸ナトリウムやメタ珪酸ナトリウム、前記の珪酸ナトリウムのナトリウムが他のアルカリ金属に変更された、珪酸リチウム、珪酸カリウム、珪酸ルビジウム等も用いることができる。また、これらは、金属化合物(c−1)と組み合わせて用いることも出来る。
【0036】
(金属化合物(c−3))
本発明で使用する金属化合物(c−3)は、水溶液中における25℃での標準酸化還元電位(E)が−0.5V以上の、水溶性の金属を有する金属化合物である。(以下、金属化合物(c−3)が還元されて析出した金属を金属(c−3)と称す)
金属化合物(c−3)は、工程1では生成する有機無機複合体上に存在しており、後述の工程2において、得た有機無機複合体を還元処理することにより析出して金属(c−3)となる。
金属化合物(c−3)の具体例としては、酸化還元電位が低い方より、鉄、インジウム、コバルト、ニッケル、モリブデン、スズ、鉛、レニウム、ビスマス、銅、ルテニウム、ロジウム、銀、パラジウム、イリジウム、白金、又は金の過塩素酸、過臭素酸、過ヨウ素酸等の過ハロゲン酸物、塩化物、臭化物等のハロゲン化物、酸化物、水酸化物等が例示され、金属化合物(c−1)や珪酸アルカリ(c−2)と反応せずに水溶液中で溶解状態を保てる材料であれば特に限定されない。しかしながら水溶液(2)が塩基性を呈することから、金属化合物(c−3)の水溶液が酸性を呈すると水溶液(2)中の金属化合物(c−1)や珪酸アルカリ(c−2)と反応し、有機無機複合体の合成反応を阻害する場合があるので、金属化合物(c−3)を単独で溶解した水溶液が塩基性、もしくは中性であることが好ましい。
【0037】
特に、水溶液中での還元処理が容易で、得られた金属担持有機無機複合体の応用範囲が広いことから、好ましい金属化合物(c−3)としては、レニウム、銅、ルテニウム、ロジウム、銀、パラジウム、イリジウム、白金、金の、標準酸化還元電位(E)が0V以上の金属を含有する金属化合物が挙げられる。
【0038】
また、貴金属類は前記の金属化合物では水溶性が不十分であるため、担持量を増加させることが困難な場合がある。この場合、水溶性を高くしつつ水溶液を中性、または塩基性にするために、金属化合物(c−3)にアルカリ金属や、アンモニウム塩が含まれた、金属錯体を形成する化合物であることが特に好ましい。
このような化合物を以下に例示する。
【0039】
パラジウム化合物としては、シアン化パラジウムカリウム、塩化パラジウムナトリウム、ヘキサクロロパラジウム(IV)酸アンモニウム、ヘキサクロロパラジウム(IV)酸カリウム、ヘキサクロロパラジウム(IV)酸ナトリウム、塩化パラジウム(II)アンモニウム、テトラクロロパラジウム(II)リチウムを、
白金化合物としては、ヘキサクロロ白金(VI)酸ナトリウム、ヘキサクロロ白金(VI)酸カリウム、ヘキサクロロ白金(VI)酸アンモニウム、テトクロロ白金(II)酸ナトリウム、テトクロロ白金(II)酸アンモニウム、シアン化白金ニナトリウム、シアン化第一白金カリウムシアン化白金ルビジウム、シアン化白金セシウムを、
ロジウム化合物としては、ヘキサクロロロジウム(III)酸アンモニウム、ヘキサクロロロジウム(III)酸ナトリウム、シアン化ロジウムカリウムを、
イリジウム化合物としては、ヘキサクロロイリジウム(IV)酸アンモニウム、ヘキサクロロイリジウム(III)酸ナトリウム、ヘキサクロロイリジウム(III)酸アンモニウム、シアン化イリジウム三カリウムを、
オスミウム化合物としては、ヘキサクロロオスミウム(IV)酸ナトリウム、ヘキサクロロオスミウム(IV)酸アンモニウム、オスミウム酸カリウムを、
ルテニウム化合物としては、五塩化ルテニウム二アンモニウム、六塩化ルテニウム三アンモニウム、塩化ヘキサアンミンルテニウム、ルテニウム酸カリウム、シアン化ルテニウムカリウムを、
金化合物としては、テトクロロ金(III)酸ナトリウム、テトクロロ金(III)酸カリウムシアン化第二金ナトリウム、シアン化第一金カリウムを、
銀化合物としては、シアン化銀カリウムを例示することができる。
これらは単独で使用してもよく、2種以上を併用してもよい。2種以上を併用することで2種類以上の金属を担持することができる。また、金属化合物(c−3)は水に溶解させて用いるので水和物も好ましく用いられる。
【0040】
(水溶液(2)の溶媒)
前記金属化合物(c−1)、前記珪酸アルカリ(c−2)及び前記金属化合物(c−3)は、水に溶解させ水溶液(2)として使用する。また、前記有機溶剤溶液との反応を相溶した状態で行いたい場合には、アセトンやテトラヒドロフラン等の極性有機溶剤を水溶液(2)の30質量%程度を上限にして混合し、溶解度を調節してもよい。
【0041】
また、前記水溶液(2)にはポリエステル又はポリ酸無水物の合成を促進するために、水酸化アルカリ、炭酸アルカリ等の塩基性物質を溶解させてもよい。また、前記有機溶剤溶液(1)との混合性を高めるために界面活性剤等の添加剤を含有していても良い。
【0042】
(工程1における有機無機複合体の合成機構)
本発明の有機無機複合体の合成機構は以下のように推定している。
【0043】
(マトリクスとなるポリマーの合成反応)
前述の通り、前記化合物(a)と前記酸ハライド(b)とは、常温常圧下、塩基の不存在下では反応しない。即ち、前記化合物(a)と前記酸ハライド(b)とを溶解させた有機溶剤溶液は常温下では反応せず安定に存在する。一方、前記金属化合物(c−1)又は前記珪酸アルカリ(c−2)の水溶液も安定である。
これらの安定な溶液を、少なくとも一部が相溶した状態に保ち又は分離した状態で共存させると、前記金属化合物(c−1)又は前記珪酸アルカリ(c−2)のアルカリ金属により、前記化合物(a)のヒドロキシ基やカルボキシ基の水素イオンが解離し、アルカリ金属イオンとイオン交換反応を生じ、前記化合物(a)はアルカリ金属塩となる。アルカリ金属塩となった前記化合物(a)は反応性を著しく増し、前記酸ハライド(b)との重縮合反応が開始され、ポリエステルやポリ酸無水物のポリマーが生じる。具体的には、下記の通りである(以下アルカリ金属塩として、ナトリウム金属塩の場合を記載している)。
【0044】
前記化合物(a)が二価フェノールである場合、フェノール性水酸基の水素原子が水素イオンとして解離し、ナトリウムイオンとイオン交換し、−ONa基が生じる。一方前記化合物(a)がジカルボン酸化合物やカルボン酸無水物である場合は、カルボキシ基の水素原子が水素イオンとして解離し、ナトリウムイオンとイオン交換し、−COONaが生じる。
【0045】
このようにアルカリ金属塩となった前記化合物(a)は反応性を著しく増すことで、前記酸ハライド(b)と重縮合反応を生じ、前記化合物(a)として二価フェノールを使用した場合はポリエステルが、ジカルボン酸化合物やジカルボン酸無水物を使用した場合はポリ酸無水物が生成する。その際に発生するNaCl等のハロゲン化アルカリは、合成系中の水や洗浄工程での水に溶解することで、合成系外に排出される。
【0046】
(無機化合物の析出反応)
一方、アルカリ金属が抜けた金属化合物(c−1)又は珪酸アルカリ(c−2)は、ゾルゲル反応を生じて無機化合物が析出する。例えば珪酸ナトリウムを使用した場合では、前記イオン交換反応時に、−Si−ONaがシラノール基(−Si−OH)となる。生成したシラノール基が複数会合して脱水重縮合反応を生じて(−Si−O−Si−)の結合が生成する。これによりシリカが固体化して析出する。
【0047】
前記ポリマーの合成反応と無機化合物の析出反応は、それぞれの反応の前駆物質が前記イオン交換反応時に同時に生じる。従って、どちらか一方の反応のみが一方的に生じることはなくほぼ同時に進行するものと考えられる。ポリマーが合成しながら同時に無機化合物を析出させるので、該ポリマー中に微細な無機化合物を均一に分散させた複合体を、簡易な合成操作で得ることができる。
【0048】
前記合成反応の反応場は、有機溶剤溶液(1)と水溶液(2)とが相溶するか、非相溶であるかにより異なる。
前述の通り、有機溶剤として、テトラヒドロフラン、ジメチルエーテル、アセトン、酢酸エチル等の、水可溶性もしくは水溶性である有機溶剤を使用すると、得られる前記有機溶剤溶液(1)と後述の水溶液(2)とが相溶した状態で反応することとなり、反応場が均一な溶液中である溶液重合で反応が進行し、得られる有機無機複合体は粉末状となる。この時得られるポリマーの分子量は低いものが多い。
一方、前述の通り、ジブチルエーテル、アニソール、酢酸ブチル、クロロホルム、塩化メチレン等の、水難溶性もしくは水不溶性である有機溶剤を使用すると、得られる有機溶剤溶液(1)と後述の水溶液(2)とが分離した状態で共存し反応することとなる。このとき、反応場が水と有機溶剤との界面であると、界面重合的に反応は進行し、得られる有機無機複合体は塊状〜粗大粒子状となる。この時得られるポリマーの分子量は高いものが多い。
これらの重合方法は特に限定されず、所望する有機無機複合体の形状、ポリマーの分子量等により選択することが可能である。
【0049】
(有機溶剤溶液(1)と水溶液(2)の共存方法)
前記有機溶剤溶液(1)と前記水溶液(2)とを、少なくとも一部が相溶した状態に保ち又は分離した状態で共存させるには、有機溶剤溶液(1)と水溶液(2)とが接触する環境があれば特に限定はなく、通常は、攪拌翼を有する1つの反応釜に前記有機溶剤溶液(1)と前記水溶液(2)とを仕込めばよい。反応温度は特に高く設定する必要は無く、例えば−10〜50℃の常温付近の温度範囲で十分に反応が進行する。また、加圧や減圧は特に必要としない。有機無機複合体の合成反応は、用いるモノマー種や反応装置、スケールにもよるが、通常30分以下の短時間で完結する。
【0050】
具体的には、前記有機溶剤溶液(1)または前記水溶液(2)を仕込んだ反応釜中に、攪拌しながらもう1方の溶液を添加していく方法が挙げられる。前記有機溶剤溶液(1)及び前記水溶液(2)の仕込み順序については特に限定はないが、より好ましくは、前記有機溶剤溶液(1)を仕込んだ反応釜中に、攪拌しながら前記水溶液(2)を滴下し、前記水溶液(2)を徐々に添加していく方法であると、得られる有機無機複合体のポリマー成分であるポリエステルやポリ酸無水物のエステル部位や酸無水部位が切断する恐れもなく、良好な有機無機複合体を得ることができる。これは、アルカリ性水溶液が共存する状態ではエステル部位や酸無水部位が切断する恐れがあり、アルカリ性を示す水溶液(2)と生成したポリエステルやポリ酸無水物とが長時間接触するのを避けるためである。
【0051】
(製造装置)
前記工程1で使用する製造装置としては、有機溶剤溶液(1)と前記水溶液(2)とを良好に接触反応させることができる製造装置であればとくに限定されず、連続式、バッチ式のいずれの方式でも可能である。連続式の具体的な装置としては大平洋機工株式会社製「ファインフローミルFM−15型」、同社製「スパイラルピンミキサSPM−15型」、あるいは、インダク・マシネンバウ・ゲーエムベー(INDAG Machinenbaugmb)社製「ダイナミックミキサDLM/S215型」などが挙げられる。また、バッチ式の場合は有機溶液と水溶液の接触を良好に行わせる必要があるので、アンカ−翼やマックスブレンド翼やファウドラ−翼等の攪拌力が強い攪拌装置を用いるのが好ましい。
【0052】
(有機無機複合体上の金属イオンを金属に還元する工程(工程2))
本発明の工程2すなわち還元処理操作は、還元剤の水溶液を工程1で合成した有機無機複合体が分散したスラリーに添加し、攪拌することにより行う。この操作は還元剤と金属化合物(c−3)に由来する金属イオンが存在している有機無機複合体スラリーとが十分に接触さえすれば得に限定されない。還元処理の温度は水中で還元反応が生じる範囲では特に限定されない。金属(c−3)が還元容易な貴金属であれば、適切な還元剤を選定することで常温下での30分以内の攪拌処理で金属イオンが金属へと還元される。還元する対象の標準酸化還元電位(E)が低い等の理由で還元反応が生じにくい場合は、数十度まで加温し、より長時間還元処理をしても良い。
【0053】
(還元剤)
本発明で用いられる還元剤としては、水溶液中に溶解している金属化合物(c−3)に由来する金属イオンを金属(c−3)へと還元できるものであれば制限なく用いることができる。還元剤の例を挙げると、Fe(II)、Sn(II)、Ti(III)、Cr(II)等の低原子価状態にある金属イオンを有する金属化合物や、酸化程度の低い有機化合物であるホルムアルデヒド、アセトアルデヒド等のアルデヒド類、酢酸、ギ酸等のカルボン酸類の他、シュウ酸、糖類や、ヒドロキノン、カテコール等の二価フェノール類に加えて、次亜リン酸ナトリウム、ステアリン酸ナトリウム、亜ジチオン酸ナトリウム、重亜硫酸ナトリウム、ヒドラジン、アンモニアや各種アミン化合物等を例示することができる。
【0054】
還元剤は、前記工程1で得られた水中に分散している有機無機複合体上に存在している金属化合物(c−3)に由来する前駆体金属イオンに作用して、これを金属(c−3)に還元する必要があるため、水と相溶する必要がある。ホルムアルデヒド、アセトアルデヒド、ヒドラジン(水和物)等の液体であるものは、直接または水希釈液を有機無機複合体スラリーに導入してもよい。また、固体の還元剤は有機無機複合体スラリーに添加する前に、水に溶解させて用いると還元処理が迅速かつ均一にできるため好ましい。水溶液中の還元剤の濃度は還元対象の金属種や担持金属量によって適宜選定してよい。
【0055】
また、金属への還元を良好に行うために、有機無機複合体スラリーや還元剤の水溶液中にメッキ技術で用いられる公知慣用の薬剤である錯化剤、緩衝材、光沢剤、界面活性剤等を用いてもよい。
【0056】
本発明での工程2即ち金属還元工程に用いる装置としては、有機無機複合体スラリーと還元剤溶液とを良好に接触反応させることができる製造装置であればとくに限定されず連続式、バッチ式のいずれの方式でも可能である。使用する金属化合物(c−3)の標準酸化還元電位(E)が高く、且つ還元力の強力な還元剤を用いた場合は、還元反応が早いために複合体の合成に用いたのと同様な連続式攪拌装置の使用が可能である。それ以外の場合では攪拌を十分な時間行わせるため、汎用のバッチ式攪拌装置が好ましい。本発明での製造法では還元剤が極端に不足した場合や、還元条件が還元対象の金属に適合していない場合を除いて、ほぼ100%の収率で金属(c−3)を担持することができる。
【0057】
(有機無機複合体の無機成分)
本発明の製造方法で得られる有機無機複合体において無機成分は、前述の通り、前記金属化合物(c−1)及び/又は珪酸アルカリ(c−2)に由来する無機化合物の微粒子(以下、前記金属化合物(c−1)に由来する無機化合物を無機化合物(c−1)と称し、珪酸アルカリ(c−2)に由来する無機化合物を無機化合物(c−2)と称する)と、該微粒子に担持された前記金属化合物(c−3)が還元された金属(c−3)の微粒子とから構成される。
例えば、原料に金属化合物(c−1)を用いた場合には、無機成分は、酸化アルミニウム(アルミナ)、酸化ジルコニウム、酸化スズ、酸化亜鉛等の金属酸化物類となる。また珪酸アルカリ(c−2)を用いた場合には二酸化ケイ素(シリカ)となる。中でも、酸化アルミニウム(アルミナ)や二酸化ケイ素(シリカ)は、得られる無機化合物の粒径が小さくなる傾向があり複合化しやすく特に好ましい。例えば耐熱付与剤、寸法安定付与剤として使用する場合は、できるだけ無機粒径が小さい方が高い効果が得られ、例えば平均粒径が500nm以下であるとより高い効果が得られ好ましい。
【0058】
(有機無機複合体全量100質量%に対する無機化合物(c−1)や前記無機化合物(c−2)の含有率)
前記無機化合物(c−1)や前記無機化合物(c−2)は、無機材料が持つ耐熱性、耐摩耗性等、表面硬度等の特性を付与し、更に金属(c−3)を担持する役割も有する。
従って、前記無機化合物(c−1)や前記無機化合物(c−2)の有機無機複合体全量100質量%に対する含有率は一定以上であることが好ましく、より10〜80質量%であり、更に好ましくは20〜80質量%であり、最も好ましくは30〜80質量%である。無機化合物含有率が多くなりすぎると、逆にシート化や積層板等への加工性や樹脂への混練性が損なわれる場合がある。
【0059】
(有機無機複合体全量100質量%に対する金属(c−3)の含有率)
金属(c−3)の含有率即ち担持量は、得られる有機無機複合体の用途により適宜選定されれば良く特に限定は無い。しかし、金属(c−3)が前記無機化合物(c−1)及び/又は前記無機化合物(c−2)の表面上に担持されることから、前記無機化合物(c−1)及び/又は前記無機化合物(c−2)よりも少ない量が現実的である。具体的には、有機無機複合体全量100質量%に対して最大量15質量%程度担持されているのが好ましい。
金属(c−3)はナノサイズで担持されているので担持効果が高く、用途によっては0.01質量%以上担持すれば機能することもあるが、特に好ましい範囲は0.1質量%〜10質量%である。
【0060】
前記金属(c−3)の担持量は、前記金属化合物(c−3)の前記水溶液(2)への溶解量が支配する。例えば担持量を増やしたい場合には、使用する金属化合物(c−3)として水溶解度の高い金属を選択し、多量に水溶液(2)中に溶解させて工程1を行うとともに、工程2の還元工程において、十分な還元剤を供給すればよい。
【0061】
(有機無機複合体の形状)
得られる有機無機複合体の形状は特に限定はなく、製造方法、使用原料によって粉体状、塊状の各形状にて得ればよい。具体的には、有機ポリマーを合成するためのモノマーの種類や、有機溶液(A)の水への相溶性の影響、合成工程での複合体のせん断処理の影響が大きく、これらを変更することにより設計可能である。
【実施例】
【0062】
以下に具体例をもって本発明を説明するが、本発明はこれらに限定されるものではない。
【0063】
(実施例1)
(合成工程:工程1)
アセトン50gに化合物(a)として4,4’‐イソプロピリデンジフェノール(ビスフェノールA)を3.78g入れて常温下で5分間攪拌を行い完全に溶解させた。次に酸ハライド(b)としてテレフタル酸クロライド3.37gをいれ常温下で5分間攪拌することにより淡黄色の透明均一な有機溶剤溶液(1−1)を得た。次に、イオン交換水27gに珪酸アルカリ(c−2)として水ガラス3号11.55gを入れて常温下で5分間攪拌することにより得た均質透明な水溶液と、別のイオン交換水27.0gに金属化合物(c−3)としてヘキサクロロ白金ナトリウム・六水和物0.486gを入れ室温で15分間攪拌し得た黄色透明な水溶液とを混合することで、淡黄色透明の水溶液(2−1)を得た。
次に、有機溶剤溶液(1−1)をアンカ−翼を持つ300cm攪拌装置の中に入れ、常温下で翼の回転数150回転/分で攪拌しつつ、1分間かけて水溶液(2−1)を滴下し、反応させた。水溶液(2)を滴下するに伴い淡黄色生成物が発生した。この状態で攪拌を15分間継続することで淡黄色の粉末状複合体を含有するスラリーを得た。
【0064】
(還元工程:工程2)
本スラリーを200cmのビーカーに移し、攪拌子を入れた後マグネチックスターラーで常温攪拌しつつ、ヒドラジン1水和物5gとイオン交換水10gとを混合した還元剤水溶液を4g採取し、これを5秒間で滴下した。還元剤水溶液を滴下直後より、滴下部位周辺の複合体スラリーが徐々に黒変していき20分間で均一な灰色となった。この色の変化は還元剤の添加により複合体上の白金イオンが白金金属に還元されたことを示している。
【0065】
(複合体の洗浄処理)
このスラリーを95mmφのヌッチェ上に目開き4μmの濾紙を設置し0.015MPaで減圧濾過することにより灰色のペースト状の含液有機無機複合体を得た。この粉体をメタノール100gとイオン交換水100gの混合用液中に分散させ常温下で30分間攪拌することによりメタノール/水洗浄を行いその分散液を、上記と同様な方法で濾過することで含水/メタノール有機無機複合体を得た。これを引き続き蒸留水250g中に分散させ常温下で30分間攪拌することにより水洗浄を行いその分散液を、上記と同様な方法で濾過することで含水有機無機複合体を得た。これを120℃で5時間乾燥することにより、灰色の有機無機複合体を得た。
尚、各実施例とも還元処理後スラリーの濾過液は回収したのち、150℃、5時間熱風乾燥を行い、残留した粉末を後述の蛍光X線測定に供した。
【0066】
(実施例2)
アニソール80gに化合物(a)として4,4’−イソプロピリデンジフェノール(ビスフェノールA)を3.78g入れて常温下で5分間攪拌を行い完全に溶解させた。次に酸ハライド(b)としてテレフタル酸クロライド3.37gをいれ常温下で5分間攪拌することにより淡黄色の透明均一な有機溶剤溶液(1−2)を得た。次にイオン交換水27gに金属化合物(c−1)として浅田化学工業(株)製粉末アルミン酸ナトリウムP−100の2.97gを入れ常温下で10分間攪拌することにより得た透明淡黄色の水溶液と、別のイオン交換水27.0gに金属化合物(c−3)として塩化パラジウムナトリウム・2水和物0.610gを入れ室温で15分間攪拌し、得た褐色透明な水溶液とを混合することで、淡褐色透明な水溶液(2−2)を得た。調整した有機溶剤溶液(1−2)と、水溶液(2−2)を用い、攪拌時間を30分とした以外は実施例1と同様な合成操作により、白色の有機無機複合体を得た。本スラリー中の複合体粒子は水に非相溶なアニソールを有機溶剤溶液に用いたため、実施例1と比べてやや大きいものであった。
引き続き、イオン交換水10gにホスフィン酸ナトリウム5gを入れ、常温下で5分間攪拌することで溶解して得た還元剤溶液の内6gを還元剤として複合体スラリーに添加し、常温下で30分間攪拌することにより還元処理を行った。本処理によりパラジウムが還元されるに従って複合体スラリーの色は灰色へと変化した。
本スラリーを実施例1と同様な方法で洗浄、乾燥処理を行うことにより、灰色の有機無機複合体を得た。
【0067】
(実施例3)
実施例1における有機溶剤溶液(1−1)中の4,4’−イソプロピリデンジフェノール(ビスフェノールA)を3,3’−5,5’−テトラメチルビフェノール(テトラメチルビフェノール)4.01gに、テレフタル酸クロライド3.37gを同量のイソフタル酸クロライドに変更することで有機溶剤溶液(1−3)を調整した。次にイオン交換水27gに金属化合物(c−1)として日本軽金属(株)製炭酸ジルコニウムカリウム水溶液「ジルメル1000」の10.9gを入れ常温下で10分間攪拌することにより得た透明の水溶液と、別のイオン交換水27.0gに金属化合物(c−3)として塩化第二銅2水和物0.92gを入れ室温で15分間攪拌し、得た青色透明な水溶液とを混合することで、青透明な水溶液(2−3)を得た。調整した有機溶剤溶液(1−3)と、水溶液(2−3)を用いた以外は実施例1と同様な合成操作により、青色の粉末状有機無機複合体を含有するスラリーを得た。本スラリーにヒドラジン1水和物10gとイオン交換水10gとを混合した還元剤水溶液の内17gを添加し、常温下で60分間攪拌することにより還元処理を行った。本処理により銅が還元されるに従って複合体スラリーの色は茶色へと変化した。
本スラリーを実施例1と同様な方法で洗浄、乾燥処理を行うことにより、茶色の有機無機複合体を得た。
【0068】
(実施例4)
テトラヒドロフラン50gに化合物(a)としてコハク酸1.96gを入れて常温下で10分間攪拌を行い完全に溶解させた。次に酸ハライド(b)としてテレフタル酸クロライド3.37gをいれ常温下で5分間攪拌することにより透明均一な有機溶剤溶液(1−4)を得た。次に、イオン交換水27gに珪酸アルカリ(c−2)として水ガラス3号11.55gを入れて常温下で5分間攪拌することにより均質透明な水溶液と、別のイオン交換水27.0gに金属化合物(c−3)として過塩素酸銀0.400gを入れ室温で15分間攪拌して得た透明な水溶液とを混合することで、透明な水溶液(2−4)を得た。調整した有機溶剤溶液(1−4)と、水溶液(2−4)を用いた以外は実施例1と同様な合成操作により、白色の有機無機複合体を得た。
引き続き、イオン交換水10gにホスフィン酸ナトリウム5gを入れ、常温下で5分間攪拌することで溶解して得た還元剤溶液の内、6gを還元剤として複合体スラリーに添加し、常温下で30分間攪拌することにより還元処理を行った。本処理により銀が還元されるに従って複合体スラリーの色は灰色へと変化した
本スラリーを実施例1と同様な方法で洗浄、乾燥処理を行うことにより、灰色の有機無機複合体を得た。
【0069】
(実施例5)
実施例4の有機溶剤溶液(1−4)中のコハク酸を無水コハク酸1.66gに変更し、溶媒をテトラヒドロフランからアセトン50gに変更した有機溶剤溶液(1−5)を調整した以外は、実施例4と同様な合成、還元、洗浄、乾燥処理を行うことにより、灰色の有機無機複合体を得た。
【0070】
(比較例)
樹脂溶融混練装置である、ラボプラストミルCタイプ、KF−15ミキサー((株)東洋精機製作所社製)を用いて以下の条件で溶融混練法により二酸化ケイ素微粒子とCu微粒子とを混練する試験を行った。
加熱温度320℃、ミキサー回転数300rpm、混練時間10分、混合試験物:ポリアリレート(芳香族ポリエステル)樹脂(U−ポリマー「U−100、ユニチカ製)7.0g、ナノ二酸化ケイ素微粒子(シーアイ化成製、平均粒径25nm)4.8g、銀微粉末0.20g(平均粒径1μm)
尚、純度が高い金属単体微粒子は、溶媒分散体の形状を除くと1μm以下の材料を入手することができなかった。
本方法では二酸化ケイ素微粒子の装置への導入が無機微粒子の飛散によりやや困難であった。また、溶融樹脂の増粘が著しく混練処理が困難であった。
【0071】
上記各実施例で得られた有機無機複合体について以下の項目の測定、試験を行なった。
【0072】
(測定1)無機化合物の含有率の測定法
有機無機複合体を絶乾後に精秤(複合体質量)し、これを空気中、600℃で1時間焼成しポリマー成分を完全に焼失させ、焼成後の質量を測定し灰分質量とした。下式により灰分含有率を算出した。
【0073】
【数1】

この時、金属(c−3)は後述の濾液中の金属化合物の分析により収率がほぼ100%であることより複合体中の存在量は金属化合物(c−3)の量より既知である。従って、
【0074】
【数2】


が成り立つ。
【0075】
(測定2)無機成分の検証
(蛍光X線での測定)
有機無機複合体粉末約1gを開口部が直径10mmの測定用ホルダ−にセットし測定用試料とした。該試料を理化学電気工業株式会社製蛍光X線分析装置「ZSX100e」を用いて全元素分析を行った。得られた全元素分析の結果を用い、測定用試料の試料データ(与えたデータは、試料形状;フィルム、補正成分;セルロース、実測した試料の面積当たりの質量値)を装置に与えることにより、FP法(Fundamental Parameter法;試料の均一性、表面平滑性を仮定し装置内の定数を用いて補正を行い成分の定量を行う方法)にて該複合体中の元素存在割合を算出した。
【0076】
いずれの実施例で得られた有機無機複合体も、金属化合物(c−1)及び/又は珪酸アルカリ(c−2)に由来する無機元素(珪酸ナトリウムの場合がケイ素、アルミン酸ナトリウムの場合はアルミニウム、炭酸ジルコニウムカリウムの場合はジルコニウム)が大量に検出され、目的とする無機化合物の複合化がされていることが示された。また、金属(c−3)(Pt、Pd、Ag、Cu)も検出された。いずれの実施例で得られた試料でも、本方法で得られた金属(c−3)の量は、0.2質量%の誤差範囲内で水溶液(2)への金属化合物(c−3)の仕込み量から算出した予測値と一致した。
一方、無機原料である金属化合物(c−1)及び/又は珪酸アルカリ(c−2)に由来するアルカリ(珪酸ナトリウム、アルミン酸ナトリウムの場合はナトリウム、炭酸ジルコニウムカリウムの場合はカリウム)は、痕跡程度しか検出されなかった。従って、(a)の無機化合物微粒子の測定方法で得られた灰分(すなわち無機物質)はアルカリ金属を実質的に含有しておらず、本発明では金属化合物(c−1)、又は珪酸アルカリ(c−2)からのアルカリ金属除去及び固体化反応が予測された反応機構の通り行われていることが明らかとなった。
加えて、各実施例の濾過液の乾燥物からは、反応副生成物であるNaCl、KClのほかはFe等の不純物元素のみが検出され、金属(c−3)に相当する金属元素は検出されなかった。このことから、金属化合物(c−3)は還元剤によって全て還元されたことが示された。
【0077】
(測定3)ポリエステルやポリ酸無水物の検証
(フ−リエ変換型赤外分光分析:FT−IRの測定)
得られた有機無機複合体の粉末をKBr粉末と混合粉砕した試料を作製しKBrディスク法により、FT−IR(日本分光(株)製FT/IR−550)による測定を行った。
参照用のサンプルとして、実施例1、2ではビスフェノールA型の芳香族ポリエステル(ポリアリレート)であるユニチカ“U−ポリマー U−100”を粉砕して用いた。また実施例3では3,3’−5,5’−テトラメチルビフェノール(テトラメチルビフェノール)型の芳香族ポリエステル(ポリアリレ−ト)である大日本インキ化学製“N−80”を粉砕して用いた。
一方、実施例4,5でのポリ酸無水物を有機ポリマー成分として持つ複合体用には好適な参照サンプルが無いため、IR測定で酸無水結合に特徴的なC=O伸縮に相当する1800cm−1付近のピ−クの有無とその強度を見ることで検証を行った。
【0078】
その結果、実施例1〜3ではいずれの例でも参照サンプルと同一のピ−ク位置に、殆ど同様なピ−ク強度を持つIRスペクトルデ−タ−が得られた。また、実施例4,5ではいずれの例でも1800cm−1付近に明瞭な酸無水結合特有のピ−クが観察された。この結果、いずれの実施例でもポリマーの合成が良好に行われていることが示された。
【0079】
(透過型電子顕微鏡(TEM)観察および元素マッピング)
有機無機複合体を170℃、20MPa/cmの条件で2時間熱プレスを行い、厚さ約1mmの有機無機複合体からなる薄片を得た。これを収束イオンビーム装置を用いて厚さ75nmの超薄切片とした。得られた切片をTEM観察と同時にEDS元素分析による元素マッピングが可能なエネルギーフィルターTEMである「JEM−2010EFE」(日本電子株式会社製)を用いて、各々50万倍のTEM写真をベースにして元素マッピングを行った。マッピングにより示された元素種類より無機化合物(c−1)及び/又は無機化合物(c−2)と金属(c−3)とを判別した。本元素マッピングにより後述(測定4)の無機化合物(c−1)及び/又は無機化合物(c−2)、金属(c−3)の粒径測定及び、後述(測定5)の金属(c−3)の無機化合物(c−1)及び/又は無機化合物(c−2)への担持状態の観察を行った。
【0080】
(測定4)無機化合物(c−1)、無機化合物(c−2)、金属(c−3)の粒径測定
無機化合物(c−1)、無機化合物(c−2)、又は金属(c−3)の粒径は、TEM写真より100個の粒径を測定し、その平均値を平均粒径とした。尚、粒子形状により粒径の測定方法を下記の通りに行った。
粒子が略球状の場合:任意の1辺の長さをその粒子の粒径とした。無機化合物(c−1)及び/又は無機化合物(c−2)が二酸化ケイ素、酸化ジルコニウムの場合と、実施例、比較例の全ての金属(c−3)は、この方法により測定した。
粒子が2以上のアスペクト比を持つ粒子の場合:粒子の長軸と短軸の長さをそれぞれ測定し、(長軸+短軸)/2の数値をその粒子の粒径とした。無機化合物(c−1)が酸化アルミニウムの場合は、この方法で測定した。
【0081】
(測定5)金属(c−3)の表面での凝集物の有無の確認
各実施例及び、比較例での有機無機複合体粒子に炭素を10nmの厚さで蒸着して得た試料を、日立社製電解放射型走査電子顕微鏡「SEM−EDX」を用いて金属(c−3)を対象とした元素マッピングを行い、担持させた金属の分散状態を測定した。なお、本測定法での金属の大きさの分解能は1μmである。1μm以上の粗大な粒子が生じていた場合は凝集物有り、なければ凝集物無しとした。
【0082】
以下、表1に実施例の試験に用いた原料溶液の構成を記した。尚、有機溶剤溶液(1)の欄の上段は酸ハライド(b)、下段は化合物(a)である。また、水溶液(2)の欄の上段は金属化合物(c−1)または(c−2)、下段は金属化合物(c−3)である。
【0083】
【表1】


【0084】
以下、表2に実施例1〜5の結果を、表3に比較例の上記の測定結果をまとめた。
【0085】
【表2】


【0086】
この結果、実施例1〜5で得た有機無機複合体は、ポリエステルやポリ酸無水物に各無機化合物が250nm以下のサイズかつ、20質量%以上の高い含有率で分散しており、且つ金属(c−3)は100nm以下のきわめて小さい粒径で、1μm以上の粒径の凝集物を構成せずに分散していた。アルカリ金属は殆ど検出されなかった。
【0087】
一方、比較例1は、無機化合物(c−1)として平均粒子径25nmの二酸化ケイ素粉末を使用したにもかかわらず、混練の工程で凝集が生じ、ナノサイズの複合を行うことができなかった。また金属(c−3)もナノ粒子がなくミクロンオーダーの粒子を用いたことにより、ナノ粒径化が不可能である上、凝集も見られた。
【産業上の利用可能性】
【0088】
本発明で得られた有機無機複合体は成形等の処理で加工が可能であり、貴金属類を担持した場合は反応触媒用部材、環境触媒用部材の他、銀や銅を担持した場合は抗菌防カビ部材等に用いることができる。また、得られた有機無機複合体を他の樹脂に溶融混練、添加することにより、該樹脂に対して無機化合物(c-1)または無機化合物(c−2)による強度、弾性率、耐衝撃性、電子伝導性、帯電防止特性等の性質と、金属(c−3)による触媒特性、抗菌防カビ特性等を同時に付与することもできる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
二価フェノ−ル化合物、ジカルボン酸化合物及びジカルボン酸無水物からなる群から選ばれる少なくとも1つの化合物(a)と、酸ハライド(b)とを含有する有機溶剤溶液(1)と、
金属酸化物、金属水酸化物及び金属炭酸化物からなる群から選ばれる少なくとも1つのアルカリ金属を含む2つ以上の金属元素を有する金属化合物(c−1)及び/又は珪酸アルカリ(c−2)と、水溶液中における25℃での標準酸化還元電位(E)が−0.5V以上である金属を有する金属化合物(c−3)とを含有する、塩基性の水溶液(2)とを、
前記有機溶剤溶液(1)と前記水溶液(2)の少なくとも一部が相溶した状態に保ち又は分離した状態で共存させることで前記化合物(a)のアルカリ金属塩を生成させ、更に、該アルカリ金属塩を前記酸ハライド(b)と反応させ有機無機複合体を得る工程1と、
工程1により得られた有機無機複合体を含有するスラリーに還元剤を添加し、金属化合物(c−3)中の金属イオンを有機無機複合体上で金属に還元する工程2と、を有する有機無機複合体の製造方法。

【公開番号】特開2009−62407(P2009−62407A)
【公開日】平成21年3月26日(2009.3.26)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−228846(P2007−228846)
【出願日】平成19年9月4日(2007.9.4)
【出願人】(000002886)DIC株式会社 (2,597)
【Fターム(参考)】