説明

有機物含有水からの水の回収装置および回収方法

【課題】煩雑なpH調整工程を低減しつつ、しかもRO膜の閉塞や流束の低下を長期間にわたり抑制でき、耐久性に優れた有機物含有水からの水の回収装置および回収方法を提供する。
【解決手段】有機物含有水を生物処理した後、該生物処理水をろ過することで得られるろ過水のpHをアルカリに調整した後、逆浸透膜装置を通水して得られた透過水を処理水として回収することを特徴とする有機物含有水からの水の回収方法および回収装置。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、逆浸透(以下、単にROと言うこともある。)膜装置を用いた有機物含有水からの水の回収装置および回収方法に関し、とくに電子部品部材類(例えば、ウエハを用いた半導体等、半導体デバイス、平板ディスプレイデバイス、電子部品あるいはこれらの製造部品や部材等)製造工程排水からの、電子部品部材類製造工程用水の回収再利用に好適な回収装置および回収方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、電子部品部材類製造工程排水からの純水の回収方法としては、例えば、半導体洗浄排水をpH6〜9に調整し生物処理、除濁を行った後、pH4〜7に調整し第1RO膜分離装置で給水中のNH4+を含んだイオンや生物処理後なお残留する有機物の大部分を除去し透過処理し、該透過水をpH7〜9に調整し、さらに第2RO膜分離装置でCO2をHCO3-としてRO膜の脱塩機能により効率的に除去し透過処理し純水を回収するような回収方法が提案されている(例えば、特許文献1)。
【0003】
しかし、上記のような回収方法においては、工程数が多く、しかも煩雑なpH調整の操作が多い。また、生物処理後の被処理水をRO膜分離装置へ供給した場合には、RO膜の閉塞や透過流束の低下がおこるという問題があった。
【特許文献1】特開平6−328070号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
本発明の課題は、工程数、とくに煩雑なpH調整工程を低減しつつ、しかもRO膜の閉塞や流束の低下を長期間にわたり抑制でき、耐久性に優れた有機物含有水からの水の回収装置および回収方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本発明者はRO膜の閉塞や流束の低下は、生物処理水に含まれる生物処理時の菌体の代謝物などの有機物が、膜面に付着することが主原因であることをつきとめた。さらにこのような膜面への有機物の付着を抑制するには、RO膜装置への供給水(ろ過水)のpHを9以上、好ましくは10以上に調整することにより効果的に解決できることを見いだした。
【0006】
上記課題を解決するために、本発明に係る、有機物含有水からの水の回収方法は、有機物含有水を生物処理した後、該生物処理水をろ過することで得られるろ過水のpHをアルカリに調整した後、逆浸透膜装置を通水して得られた透過水を処理水として回収することを特徴とする方法からなる。このような回収方法においては、工程数、とくに煩雑なpH調整工程を低減しつつ、しかもRO膜の閉塞や流束の低下を長期間にわたり抑制できる。
【0007】
上記生物処理の方法は、とくに限定されるものではなく公知の生物処理方法を適用することができる。
【0008】
また、上記生物処理水のろ過方法もとくに限定されるものではなく、例えばろ材に砂、活性炭を用いた逆洗浄機構を備えたものを用いることができる。
【0009】
上記ろ過水のpHは、例えば苛性ソーダ等のアルカリを連続的または間欠的に添加して調整することができる。間欠的にpHを調整する場合には、1回のアルカリ添加時間を10分以上、好ましくは1時間以上に設定するとRO膜装置の性能をより安定させることができる。
【0010】
上記RO膜には、逆浸透複合膜を用いることが好ましく、とくに高耐汚染性の逆浸透複合膜を用いることで本発明の効果をより顕著に発現させることができる。
【0011】
本発明に係る有機物含有水からの水の回収方法は、広範な産業分野において排水等の有機物含有水からの処理水の回収に適用できるが、とくに電子部品部材類製造工程における電子部品部材類製造工程排水から、電子部品部材類の洗浄に利用可能な高純度の電子部品部材類製造工程用水の回収に用いて好適である。また、本発明に係る有機物含有水からの水の回収方法は、有機物含有水中の全有機物の濃度が低濃度のものから高濃度のものまで広く適用可能であり、例えば、有機物含有水中に含まれる全有機炭素が10mg/L以上に高度に汚染された排水にも適用可能である。
【0012】
上記課題を解決するために、本発明に係る、有機物含有水からの水の回収装置は、有機物含有水を生物処理する生物処理手段と、生物処理水をろ過するろ過手段と、ろ過水のpHをアルカリに調整するpH調整手段と、アルカリに調整されたろ過水を透過させ透過水を得る逆浸透膜手段とを有するものからなる。このような回収装置においては、従来の回収装置に比べ工程数、とくに煩雑なpH調整工程の回数低減できる。また、極度に汚染された有機物含有水から水を回収しようとする場合であっても適用できる。また、RO膜分離手段へ供給される水が適切に処理されるので、RO膜の閉塞や透過流束の低下を抑制でき、RO膜、ひいては回収装置全体の耐久性を向上できる。
【0013】
上記生物処理手段は、とくに限定されるものではなく公知の生物処理手段を適用することができる。
【0014】
また、上記生物処理水のろ過手段もとくに限定されるものではなく、例えばろ材に砂、活性炭を用いた逆洗浄機構を備えたものを用いることができる。
【0015】
上述のようにRO膜の閉塞や流束の低下は、生物処理水に含まれる生物処理時の菌体の代謝物などの有機物が、膜面に付着することが主原因である。このような膜面への有機物の付着を抑制するには、RO膜装置への供給水(ろ過水)のpHを9以上、好ましくは10以上に調整することがより効果的である。したがって、有機物含有水からの水の回収装置は、ろ過水にアルカリを添加しpHを9以上に調整する手段を有することが好ましい。アルカリの添加は連続的であってもよく間欠的であってもよい。間欠的にアルカリを添加しpHを9以上に調整する手段においては、1回のアルカリ添加時間を10分以上、好ましくは1時間以上に設定するとRO膜装置の性能をより安定させることができる。
【0016】
上記逆浸透膜手段のRO膜には、逆浸透複合膜を用いることが好ましく、とくに高耐汚染性の逆浸透複合膜を用いることで本発明の効果をより顕著に発現させることができる。
【0017】
本発明に係る有機物含有水からの水の回収装置は、広範な産業分野において排水等の有機物含有水からの処理水の回収に適用できるが、とくに電子部品部材類製造工程における電子部品部材類製造工程排水から、電子部品部材類の洗浄に利用可能な高純度の電子部品部材類製造工程用水の回収装置として好適である。また、本発明に係る有機物含有水からの水の回収装置は、有機物含有水中の全有機物の濃度が低濃度のものから高濃度のものまで広く適用可能であり、例えば、有機物含有水中に含まれる全有機炭素が10mg/L以上に高度に汚染された排水にも適用可能である。
【発明の効果】
【0018】
本発明によれば、工程数、とくに煩雑なpH調整工程を低減しつつ、しかもRO膜の閉塞や流束の低下を長期間にわたり抑制できるので、装置の運転効率を大幅に向上できる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0019】
以下に、本発明の望ましい実施の形態を、図面を参照して説明する。
図1は、本発明の一実施態様に係る有機物含有水からの水の回収装置が組み込まれた、半導体製造設備における水の循環システム全体を示している。図1において、1は河川水、地下水および工業用水を前処理する前処理系、2は1次純水系、3は2次純水系を表している。1次純水系2を経て2次純水系3で作られた超純水は、半導体製造設備における各ユースポイント4に供給され、例えば半導体の洗浄等に使用される。半導体製造で使用された超純水は、半導体の製造に使用された有機薬品などの不純物を含んだ排水(有機物含有水)となり、排水配管5を介して有機物含有水からの水の回収装置6に送られる。該回収装置6により有機物等の不純物が除去された透過水は供給配管16を介して、再び1次純水系2に供給される。このようにして、半導体製造設備における水の循環システムが構成されている。
【0020】
有機物含有水からの水の回収装置6は、図2に示すように構成されている。排水配管5からの排水は、排水原水槽7に貯留される。排水原水槽7に貯留され他排水は、生物処理手段8において生物処理された後、第1中間槽9を介してろ過手段10(砂ろ過塔)に供給される。ろ過手段10によりろ過されたろ過水は、第2中間槽11、活性炭塔12を通過し、さらにpH調整手段13によりpH調整された後、安全フィルタ14を介してRO膜手段15に供給される。
【0021】
なお、pH調整手段13は、連続的にあるいは間欠的にアルカリを添加可能な手段から構成されている。
【実施例】
【0022】
次に実施例を挙げて本発明をさらに具体的に説明するが、これは単に例示であって、本発明を限定するものではない。
【0023】
実施例1
図2に示す装置により、原水として表1に示す水質の電子部品部材類製造工程排水(有機物含有水)の処理を行った。この際、RO膜手段15への供給水はNaOHによりpH=9に調整した。RO膜手段15におけるRO膜の処理流束の経時的変化を図3に示した。
【0024】
実施例2
図2に示す装置により、原水として表1に示す水質の電子部品部材類製造工程排水(有機物含有水)の処理を行った。この際、RO膜手段15への供給水はNaOHによりpH=10に調整した。RO膜手段15におけるRO膜の処理流束の経時的変化を図3に示した。
【0025】
実施例3
図2に示す装置により、原水として表1に示す水質の電子部品部材類製造工程排水(有機物含有水)の処理を行った。この際、RO膜手段15への供給水はNaOHによりpH=11に調整した。RO膜手段15におけるRO膜の処理流束の経時的変化を図3に示した。
【0026】
実施例4
図2に示す装置により、原水として表1に示す水質の電子部品部材類製造工程排水(有機物含有水)の処理を行った。この際、RO膜手段15への供給水はNaOHによりpH=11に調整した。また、pH調整手段によるNaOHの添加は、1時間連続で行い、その後11時間は添加を行わない周期を繰り返した。RO膜手段15におけるRO膜の処理流束の経時的変化を図4に示した。比較のためNaOHの添加を連続的に行った実施例3のデータを図4に併記した。
【0027】
比較例1
図2に示す装置により、原水として表1に示す水質の電子部品部材類製造工程排水(有機物含有水)の処理を行った。この際、RO膜手段15への供給水にはpH調整を行なわなかった。RO膜手段15におけるRO膜の処理流束の経時的変化を図3に示した。
【0028】
【表1】

【0029】
図3から明らかなように実施例1(pH=9)、実施例2(pH=10)、実施例3(pH=11)においては、経時的透過流束の低下が極めて小さく、長期間にわたり安定した水回収がなされていることが分かる。とくに実施例2、3のように、pH=10以上に調整した場合にはその効果が顕著に現れている。これに対し、比較例1の場合には、当初から透過流束の低下が起こり、10日目以降の透過流束は0.4程度にまで低下し、それ以降は横這い状態に推移している。したがって、比較例1の場合には運転開始から10日前後でRO膜全体が略完全に閉塞されたものと考えられる。
【0030】
また、図4から明らかなように、NaOHを連続的に添加しpHを11に調整した実施例3、およびNaOHを間欠的に添加しpHを11調整した実施例4の透過流束はほとんど差がなく、アルカリの添加は連続的、間欠的のいずれであってもよいことが分かる。
【産業上の利用可能性】
【0031】
本発明に係る有機物含有水からの水の回収装置および回収方法は、排水等から水を回収する回収装置として広範に適用可能であるが、とくに電子部品部材類製造工程排水からの純水の回収に好適なものである。
【図面の簡単な説明】
【0032】
【図1】本発明の一実施態様に係る有機物含有水からの水の回収装置が組み込まれた、半導体製造設備における水の循環システムの概略構成図である。
【図2】本発明の一実施態様に係る有機物含有水からの水の回収装置の概略機器系統図である。
【図3】実施例および比較例における透過流束の測定結果を示す特性図である。
【図4】NaOHを連続的に添加した場合と間欠的に添加した場合における透過流束の測定結果を示す特性図である。
【符号の説明】
【0033】
1 前処理系
2 1次純水系
3 2次純水系
4 ユースポイント
5 排水配管
6 有機物含有水からの水の回収装置
8 生物処理手段
9 第1中間槽
10 ろ過手段
11 第2中間槽
12 活性炭塔
13 pH調整手段
14 安全フィルタ
15 RO膜手段
16 供給配管


【特許請求の範囲】
【請求項1】
有機物含有水を生物処理した後、生物処理水をろ過することで得られるろ過水のpHをアルカリに調整した後、逆浸透膜装置を通水して得られた透過水を処理水として回収することを特徴とする有機物含有水からの水の回収方法。
【請求項2】
前記ろ過が砂ろ過及び/または活性炭ろ過のいずれかである、請求項1の有機物含有水からの水の回収方法。
【請求項3】
前記ろ過水に連続的にアルカリを添加し、ろ過水のpHを9以上に調整する、請求項1または2の有機物含有水からの水の回収方法。
【請求項4】
前記ろ過水に間欠的にアルカリを添加し、ろ過水のpHを9以上に調整する、請求項1または2の有機物含有水からの水の回収方法。
【請求項5】
前記有機物含有水に排水を用いる、請求項1ないし4のいずれかに記載の有機物含有水からの水の回収方法。
【請求項6】
前記排水が電子部品部材類製造工程の排水である、請求項5の有機物含有水からの水の回収方法。
【請求項7】
前記排水に含まれる全有機炭素が10mg/L以上である、請求項1ないし6のいずれかに記載の有機物含有水からの水の回収方法。
【請求項8】
有機物含有水を生物処理する生物処理手段と、生物処理水をろ過するろ過手段と、ろ過水のpHをアルカリに調整するpH調整手段と、アルカリに調整されたろ過水を透過させ透過水を得る逆浸透膜手段とを有する有機物含有水からの水の回収装置。
【請求項9】
前記ろ過手段が、砂ろ過手段及び/または活性炭ろ過手段のいずれかからなる、請求項8の有機物含有水からの水の回収装置。
【請求項10】
前記pH調整手段が、ろ過水に連続的にアルカリを添加しpHを9以上に調整する手段からなる、請求項8または9の有機物含有水からの水の回収装置。
【請求項11】
前記pH調整手段が、ろ過水に間欠的にアルカリを添加しpHを9以上に調整する手段からなる、請求項8または9の有機物含有水からの水の回収装置。
【請求項12】
前記有機物含有水が排水からなる、請求項8ないし11のいずれかに記載の有機物含有水からの水の回収装置。
【請求項13】
前記排水が電子部品部材類製造工程の排水からなる、請求項12の有機物含有水からの水の回収装置。
【請求項14】
前記排水に含まれる全有機炭素が10mg/L以上である、請求項8ないし13のいずれかに記載の有機物含有水からの水の回収装置。



【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【公開番号】特開2006−130367(P2006−130367A)
【公開日】平成18年5月25日(2006.5.25)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2004−319121(P2004−319121)
【出願日】平成16年11月2日(2004.11.2)
【出願人】(000004400)オルガノ株式会社 (606)
【Fターム(参考)】