説明

有機物含有水の凝集処理方法

【課題】複数種類の金属を不純物として含む鉄系凝集剤を用いて、不純物の残留が回避された良好な水質の凝集処理水を得る。
【解決手段】生物処理水等の被処理水を第1凝集工程の急速攪拌槽11に導入する。被処理水には、鉄系凝集剤貯槽21から鉄系凝集剤を添加し、pH調整剤貯槽22からpH調整剤を供給して酸性側で凝集反応させる第1凝集工程を実施する。第1凝集工程からの流出水は、沈殿槽13で固液分離する。得られた上澄み水には、凝集剤をさらに添加してpHを上げて金属類を不溶化させて濾過装置15で固液分離し、第1凝集工程で鉄系凝集剤から溶出した金属類を除去する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、蛋白質のようなコロイド状有機物を含む有機物含有水を凝集処理する有機物含有水の凝集処理方法に関し、特に、鉄系の凝集剤を用いる凝集処理方法に関する。
【背景技術】
【0002】
用水および排水中の不純物を除去する水処理方法として、凝集剤を用いて不溶性物質を凝集させ、液分と分離して除去する凝集処理が知られている。凝集剤には、無機系の凝集剤と有機系の凝集剤がある。無機系凝集剤としては、アルミニウム系と鉄系とがあるが、実情では、鉄系凝集剤はほとんど使用されず、アルミニウム系凝集剤が主として使用されている。
【0003】
従来用いられている鉄系凝集剤には、不純物として金属類が含まれていることが知られている。金属類としては、主としてマンガンが含まれ、他にニッケル等も含まれることがある。表1に、市販されている鉄系凝集剤2種3品(塩化第二鉄A商品とB商品、およびポリ硫酸第二鉄)に含まれる不純物の種類および濃度を示す。
【表1】

【0004】
鉄系凝集剤に含まれるこれら金属類は、凝集剤の使用条件によっては被処理水中に溶解し、凝集処理により得られる処理水中に残留する場合がある。鉄系凝集剤からの金属類の溶出量が多いと処理水が水質基準を満たさなくなるといった不都合がある。このように鉄系凝集剤に金属類が含まれることは鉄系凝集剤の使用が少ない理由の一つとなっている。
【0005】
鉄系凝集剤中の不純物対策として、鉄系凝集剤から不純物を除去する種々の方法が提案されている(例えば特許文献1〜4)。また、鉄系凝集剤を用いて凝集処理した後に凝集物を除去した液から溶解したマンガンを除去する方法も提案されている(特許文献5)。
【特許文献1】特開2001−187391号公報
【特許文献2】特開2002−79003号公報
【特許文献3】特開2002−136976号公報
【特許文献4】特開2002−263405号公報
【特許文献2】特開2002−59194号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
特許文献1〜4に開示された方法では、鉄系凝集剤からマンガンを除去するので、使用時にマンガンが凝集剤から溶出する問題自体を回避できる。しかし、不純物濃度の低い高品位の鉄系凝集剤を得るためには、製造コストが高くつくので、高品位の鉄系凝集剤を用いる凝集処理は高コストなる。一方、特許文献5の方法では、凝集物を除去し溶解性マンガンを含む液に紫外線照射を行うことでマンガンを酸化させ、さらに不溶化させたマンガンを除去する。
【0007】
ところで、上述した通り鉄系凝集剤に含まれる不純物はマンガンに限らない。しかし、上述した従来技術は、鉄系凝集剤の使用前または使用後にマンガンを除去することを主眼とし、他の不純物を考慮していない。
【0008】
このように、鉄系凝集剤に不純物が含まれる問題には未解決の課題もあり、さらなる技術の改善が求められている。本発明は、かかる課題に対し、鉄系凝集剤による凝集処理コストの上昇を回避でき、マンガン以外の不純物対策も講じられた凝集処理方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明は、鉄系凝集剤の添加後、酸性側で凝集処理をした後、凝集剤をさらに添加し、pHを高くして再凝集処理を行うことで上記課題を解決する。具体的には、本発明は以下を提供する。
【0010】
(1) 有機物を含む有機物含有水に鉄系凝集剤を添加してpH7.0未満で凝集処理を行う第1凝集工程と、 前記第1凝集工程で得られた凝集物を固液分離する第1固液分離工程と、 前記第1固液分離工程で得られた上澄み液に凝集剤をさらに添加して再凝集処理を行う第2凝集工程と、を含む有機物含有水の凝集処理方法。
(2) 前記第1凝集工程においてpH4.0以上7.0未満で凝集処理を行い、 前記第2凝集工程において前記凝集剤として鉄系凝集剤を添加してpH8.0以上11.0未満で再凝集処理を行う(1)に記載の有機物含有水の凝集処理方法。
(3) 前記第1凝集工程においてpH4.0以上7.0未満で凝集処理を行い、 前記第2凝集工程において前記凝集剤としてアルミニウム系凝集剤または高分子凝集剤を添加し金属捕集剤をさらに添加して再凝集処理を行う(1)に記載の有機物含有水の凝集処理方法。
(4) 前記有機物は、コロイド状の高分子系有機物である(1)から(3)のいずれかに記載の有機物含有水の凝集処理方法。
【0011】
本発明では、鉄系凝集剤の添加により酸性側で凝集物を生じる有機物を含む有機物含有水を処理対象とする。例えば、蛋白質、糖、または有機酸系の高分子有機物を含む水、具体的には、コロイド状の蛋白質を濁質成分として含む生物処理水やフミン質を多く含む工水または自然水を好適な処理対象水とする。
【0012】
鉄系凝集剤としては、2価鉄(硫酸第一鉄、塩化第一鉄など)を用いてもよいが、3価鉄を用いることが好ましい。3価鉄の鉄系凝集剤としては、硫酸第二鉄、塩化第二鉄等を用いればよい。鉄系凝集剤は、不純物として金属類を含むものを使用できる。鉄系凝集剤に含まれる不純物としては、マンガンが代表的であるが、マンガン以外にニッケル、銅、クロム、および亜鉛等が含まれてもよい。
【0013】
鉄系凝集剤の添加量は、第1凝集工程では100〜1,000mg/L程度の添加量とすることが好ましい。第1凝集工程では、凝集槽の槽内液がpH7.0未満となるよう調整し、好ましくは弱酸性領域、具体的にはpH4〜6、さらに好ましくは4.5〜5.5となるようにpHを調整する。pH調整には、水酸化ナトリウムのようなアルカリ、または塩酸や硫酸のような酸を用いればよい。第1凝集工程では、100〜200rpm程度の急速攪拌により凝集剤を被処理水と均一に混合させた後、30〜80rpm程度の緩速攪拌を行うとよい。急速攪拌後に緩速攪拌することで、フロックを粗大化できる。
【0014】
第1凝集工程では、フロック化を促進するために高分子凝集剤を添加してもよい。高分子凝集剤は特に限定されず、アルギン酸ナトリウムやポリアクリル酸ナトリウムのようなアニオンポリマー、ポリエチレンイミン、第4級アンモニウム塩のようなカチオンポリマー、またはポリアクリルアミドのようなノニオンポリマーを用いることができる。高分子凝集剤の添加量は、0.1〜10mg/L程度でよい。
【0015】
また、第1凝集工程で酸化剤を併用してもよい。酸化剤としては、次亜塩素酸ナトリウム、過酸化水素、またはオゾン等を用いればよく、次亜塩素酸ナトリウムや過酸化水素を第1凝集工程の凝集槽に注入する、またはオゾンガスを第1凝集工程の凝集槽に吹き込めばよい。
【0016】
第1凝集工程の処理水は、固液分離装置に導入して凝集物(固形分)と液分とを固液分離する。第1凝集工程は、被処理水に含まれる有機物の除去を主目的とし、添加される凝集剤の量および生成される凝集物の量は比較的多い。このため、第1凝集工程ではフロックを粗大化し、粗大化したフロックを固液分離装置として沈殿槽を利用して重力沈降により固液分離するとよい。あるいは、加圧浮上装置を固液分離装置として利用して固液分離してもよく、この場合は、固液分離装置に導入する前に浮上助剤を添加してもよい。
【0017】
第2凝集工程では、凝集剤をさらに添加し、凝集槽の槽内液が酸性側にならないようにpHを調整する。このようにpHを代えることにより、第1凝集工程で鉄系凝集剤から溶出した不純物を不溶化させ、新たに添加した凝集剤の作用で凝集させる。第2凝集工程で用いる凝集剤は鉄系凝集剤であってもよく、アルミニウム系凝集剤や高分子凝集剤(これらをまとめて「非鉄系凝集剤」と呼ぶ)であってもよい。第2凝集工程で鉄系凝集剤を用いる場合、添加量は5〜50mg/L程度として、pH8以上のアルカリ条件で再凝集処理を行う。
【0018】
一方、非鉄系凝集剤を用いる場合は、金属捕集剤を併用しpHをそれほど高くすることなく再凝集処理を行うことができる。非鉄系凝集剤として、ポリ塩化アルミニウム(PAC)や硫酸アルミニウムのようなアルミニウム系凝集剤、または上述した高分子凝集剤を用いればよい。アルミニウム系凝集剤を用いる場合は、添加量は鉄系凝集剤を用いる場合と同様、5〜50mg/L程度でよい。高分子凝集剤を用いる場合は、添加量は0.1〜5mg/L程度でよい。
【0019】
金属捕集剤は、pH6以上でキレート効果を奏し、マンガンやニッケル等の金属を捕集する各種キレート剤を用いればよく、添加量は10〜100mg/L程度あればよい。
【0020】
第2凝集工程で生成されるフロックは、不溶化したマンガン等の金属類が主で、発生量はそれほど多くならないため、第2凝集工程で生成されたフロックを含む液は濾過槽や膜分離装置で固液分離してより清澄な処理水を得るとよい。
【0021】
ただし、第2凝集工程からの流出水を沈殿装置や浮上装置で固液分離することは排除されず、第2凝集工程においてもフロック化を促進するために高分子凝集剤を用いてもよい。また、第2凝集工程も第1凝集工程と同様に急速攪拌を行った後に緩速攪拌を行う構成としてもよい。さらに、第1凝集工程からの流出水を膜分離装置や濾過装置で固液分離することは排除されない。
【発明の効果】
【0022】
本発明によれば、鉄系凝集剤にマンガン以外の不純物が含まれる場合に、凝集処理後の処理水からこれら複数種類の不純物を除去できる。よって、複数種類の不純物を含む低品位の鉄系凝集剤を用い、低コストで良質な水質の処理水を得ることができる凝集処理が可能となる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0023】
以下、本発明について図面を用いて詳細に説明する。以下、同一部材については同一符号を付し、説明を省略または簡略化する。
【0024】
図1は、本発明の第1実施態様に係る凝集処理に用いられる有機物含有水の凝集処理装置(以下、単に「処理装置」という)1の模式図である。処理装置1は、急速攪拌槽11、緩速攪拌槽12、沈殿槽13、再凝集槽14、および濾過装置15がこの順に直列接続されて構成されている。急速攪拌槽11と緩速攪拌槽12とは第1接続管31で接続され、緩速攪拌槽12と沈殿槽13とは第1移送管32で接続されている。沈殿槽13と再凝集槽14とは、第1処理水管33で接続され、再凝集槽14と濾過装置15とは第2移送管34で接続されている。急速攪拌槽11には被処理水を導入する原水管30が接続され、濾過装置15には処理水を取り出す第2処理水管35が接続されている。
【0025】
急速攪拌槽11には凝集剤路41が接続され、凝集剤貯槽21から凝集剤が添加される。また、急速攪拌槽11にはpH調整剤路42も接続されている。凝集剤路41からは再添加路43が分岐し、再添加路43は再凝集槽14に接続されている。再凝集槽14にはまた、pH調整剤路42から分岐した第2調整剤路44が接続されている。急速攪拌槽11、緩速攪拌槽12、および再凝集槽14には攪拌機Sがそれぞれ設置されている。再添加路43および第2調整剤路44は再凝集槽14に接続する代わりに第1処理水管33に接続してもよい。
【0026】
図2は本発明の第2実施態様に係る凝集処理に用いられる処理装置2の模式図である。図2の処理装置2は、金属捕集剤を添加して再凝集が行われるように構成されている。具体的には、再凝集工程を行う再凝集槽14として、金属捕集剤反応槽17と第2凝集槽18とを設けている。金属捕集剤反応槽17には捕集剤貯槽26から捕集剤路46を介して金属捕集剤が添加され、第2凝集槽18には第2凝集剤路45を介して非鉄系の凝集剤が添加される。金属捕集剤反応槽17と第2凝集槽18とは第3接続管37で接続されている。
【0027】
また、処理装置2では、第1凝集工程では鉄系凝集剤を用いる一方、第2凝集工程では非鉄系凝集剤を用いることとする。このため、再添加路43は設けず、非鉄系凝集剤を貯留する第2凝集剤貯槽25を設けて、第2凝集剤貯槽25から延びる第2凝集剤路45を第2凝集槽18に接続している。なお、捕集剤添加路46は金属捕集剤反応槽17に接続する代わりに第1処理水管33に接続してもよく、第2凝集剤路45は第2凝集層18に接続する代わりに第3接続管37に接続してもよい。
【0028】
以下、上記処理装置を用いる本発明に係る凝集処理方法について説明する。まず、微生物汚泥等の懸濁物を含む被処理水を原水管30から急速攪拌槽11に導入し、凝集剤路41を介して凝集剤貯槽21に貯留された鉄系凝集剤を被処理水に添加する。また、pH調整剤路42を介してpH調整剤貯槽22に貯留されたpH調整剤を添加して急速攪拌槽11内の液のpHが4〜7になるように調整する。なお、凝集剤路41は急速攪拌槽11に接続する代わりに原水管30に接続してもよい。同様に、pH調整剤路42も急速攪拌槽11に接続する代わりに原水管30に接続してもよい。
【0029】
本実施態様では、第1凝集工程を、急速攪拌を行う工程と緩速攪拌を行う工程に分割している。具体的には、急速攪拌槽11では、攪拌機Sの回転速度を100〜200rpm程度に設定し、槽内液を激しく攪拌する急速攪拌を行って凝集剤を拡散させて被処理水と混合する。そして、急速攪拌槽11内の液を第1接続管31から緩速攪拌槽12に送る。緩速攪拌槽12では、攪拌機Sの回転速度を30〜80rpm程度に設定し、槽内液を緩やかに攪拌する緩速攪拌により懸濁物質を凝集させてフロックを形成させる。
【0030】
上記第1凝集工程で形成されたフロックを含む液は、第1移送管32を介して沈殿槽13に導入する。本発明では、第1凝集工程での凝集反応は鉄系凝集剤を用いて弱酸性域で行われるため、鉄系凝集剤の強い凝集作用が奏され、被処理水中に含まれる懸濁物質のほとんどが凝集される。本発明では、第1凝集工程において急速攪拌後に緩速攪拌が行われることでフロックの粗大化が促進されるため、凝集物は沈殿槽13で重力沈降により固液分離される。または、浮上分離装置を用いてもよい。沈殿槽や浮上分離槽は、濾過装置や膜分離装置のように逆洗する必要がないためメンテナンスが容易であり、装置構成も簡素であるという利点を有する。
【0031】
このように、有機物含有水を鉄系凝集剤によって酸性側で凝集処理することで被処理水中の懸濁物質を良好に除去できる。しかし、鉄系凝集剤を酸性側で使用する場合、特別な処理を施された高品位な鉄系凝集剤を用いる場合を除いて、鉄系凝集剤に含まれるマンガン等の不純物が凝集処理後の処理水に含まれる。そこで、本発明では、鉄系凝集剤を添加し酸性側で凝集処理を行って凝集物を固液分離した後、第2凝集工程を設けて不純物を不溶化するとともに再び凝集剤を添加して不純物を再凝集させ、これを固液分離する。
【0032】
具体的には、第1凝集工程での凝集処理により形成されたフロックを沈殿槽13で固液分離して得られた処理水を第1処理水管33から取り出し、再凝集槽14に導入する。再凝集槽14には再添加路43を介して凝集剤貯槽21に貯留された鉄系凝集剤を添加して第2凝集工程を実施する。また、本実施態様では第1凝集工程でのpH調整にアルカリが用いられ、pH調整剤貯槽22にはアルカリが貯留されている。そこで、このpH調整剤貯槽から第2調整剤路44を介してアルカリを供給し、再凝集槽14内の液のpHを高くする。
【0033】
本発明の第1実施態様に係る凝集処理方法では、第2凝集工程でpHを高くすることで鉄系凝集剤に含まれ溶出した金属類を不溶化して、追加添加した鉄系凝集剤と反応させる。このため、pHは比較的高くする必要があり8〜11、特に8.5〜9.5にする。再凝集槽14で生成されるフロックは、鉄系凝集剤由来の金属を主体とするため、第1凝集工程で生成されるフロックに比べて微細でその生成量も多くはない。
【0034】
そこで、第2凝集工程での再凝集処理により生じたフロックを含む液は、第2移送管34を介して固液分離装置としての濾過装置15に送る。濾過装置15を用いれば、微細なフロックも除去できる。濾過装置15に代えて精密濾過膜等の濾過膜を備える膜分離装置を用いてもよい。また、沈殿槽や浮上槽を用いて固液分離をしてもよく、第2凝集工程で高分子凝集剤を併用してもよい。
【0035】
一方、第2実施態様に係る凝集処理方法では、第2凝集工程で金属捕集剤を用いることで金属の不溶化を促進する。このため、再凝集槽14をアルカリ条件にする必要はなく、pH6以上、特に6.0〜7.5にすればよい。金属捕集剤を用いる場合は、凝集剤としては鉄系凝集剤以外の非鉄系凝集剤を用いるとよい。
【0036】
第2実施態様においても、第2凝集工程からの流出液は濾過装置15で濾過して生成されたフロックを除去する。このように、第2凝集工程で鉄系凝集剤から溶出した各種金属類を凝集させ、後段で固液分離することによりこれら金属類が除去された処理水が得られる。
【実施例】
【0037】
[比較例1]
まず、比較例1として、有機性排水を生物処理することにより得られ、微生物汚泥を含む有機物含有水を被処理水として処理した。有機物含有水は、全有機物(TOC)濃度15mg/L、浮遊性懸濁物(SS)濃度40mg/L、ニッケル濃度0.1mg/L以下、マンガン濃度0.1mg/L以下、pH7で導電率は300ms/mであり、SSは大部分が微生物汚泥由来のものであった。
【0038】
比較例1では、再凝集を行う第2凝集工程を設けず、凝集処理を1段階とした。具体的には、図3に示す処理装置3を用いて沈殿槽13の上澄み液を濾過装置15に導入して処理水を得た。比較例1では、表1に商品Aとして示した塩化第二鉄(FeCl)を用いて凝集処理を行い、その添加量は被処理水に対して500mg/Lとした。
【0039】
急速攪拌槽11には、上記塩化第二鉄を添加するとともに、水酸化ナトリウムと次亜塩素酸ソーダを添加して、急速攪拌槽11内の液のpHを9.5に調整した。そして急速攪拌槽11における攪拌条件を攪拌速度150rpm、10分とし、緩速攪拌槽12におけるフロック化の条件を攪拌速度50rpm、5分として第1凝集工程を行った。
【0040】
第1凝集工程からの流出水は、第1移送管32で沈殿槽13に導入し、沈降速度(LV)1.0m/hrで凝集したフロックを重力沈降させ、固液分離を行った。上澄み液は、沈殿槽13から第1処理水管33を介して濾過装置15に送り、濾過速度(LV)5m/hrで濾過を行った。濾過装置15としては、アンスラサイト床と砂床とからなる2層濾過装置を用いた。
【0041】
比較例1では濾過装置15から取り出した濾過水(処理水)のSS濃度は1.5mg/L、マンガン濃度は0.5mg/L、ニッケル濃度は0.1mg/L未満であった。このように、比較例1ではアルカリ条件で凝集反応を行ったため、鉄系凝集剤からの不純物の溶出は抑制できたが、凝集効果が悪く、懸濁物の除去が不十分となった。
【0042】
[比較例2]
そこで、比較例2として第1凝集工程のpHを酸性側にして凝集反応を行った。比較例2では、急速攪拌槽11の槽内液のpHが5.5となるようにpHを調整した。第1凝集工程でのpHを代えた以外は比較例1と同じ条件で実験した結果、濾過装置15から取り出した処理水のSS濃度は0.1mg/L未満、マンガン濃度は1.5mg/L、ニッケル濃度は4.1mg/Lであった。このように比較例2では酸性側で凝集反応を行ったため、懸濁物を十分に除去できたが、鉄系凝集剤から不純物が溶出して処理水に含まれた。
【0043】
[実施例1]
【0044】
次に、実施例1として、図1に示す処理装置1を模した実験装置を用いて実験した。実施例1では、第1凝集工程により形成されたフロックを分離した後、鉄系凝集剤をさらに添加してアルカリ条件で第2凝集工程を実施した。第1凝集工程は、比較例2と同様の条件とし、水酸化ナトリウムと次亜塩素酸ソーダを用いて急速攪拌槽11内の液のpHを5.5に調整し、急速攪拌と緩速攪拌を行った。
【0045】
第1凝集工程からの流出水は、第1移送管32で沈殿槽13に導入し、比較例1と同様の条件でフロックを固液分離し、上澄み液を沈殿槽13から第1処理水管33を介して再凝集槽14に送り、塩化第二鉄を20mg/Lの添加量で添加するとともに、水酸化ナトリウムを追加添加してpHを9.5に上昇させた。再凝集槽14では、攪拌機Sの攪拌速度150rpm、攪拌時間を10分として第2凝集工程を行った。第2凝集工程からの流出水は第2移送管34から濾過装置15に導入し、比較例1と同じ条件で濾過を行った。
【0046】
実施例1では、濾過装置15から取り出した処理水のSS濃度は0.1mg/L未満、マンガン濃度は0.5mg/L、ニッケル濃度は0.1mg/L未満であった。このように、実施例1では懸濁物を十分に除去でき、かつ、鉄系凝集剤から溶出した複数種類の金属を除去することができた。
【0047】
[実施例2]
【0048】
また、実施例2として、図2に示す処理装置2を模した実験装置を用い、第2凝集工程において鉄系凝集剤の代わりにポリ塩化アルミニウム(PAC)を添加した。PACの添加量は、20mg/Lとした。また、金属捕集剤(栗田工業株式会社製、商品名「ウェルクリンK100」)を添加量100mg/Lで再凝集槽14に添加した。再凝集槽14には水酸化ナトリウムを添加し、pHが6.5となるように調整して第2凝集工程を実施した。第2凝集工程からの流出水は実施例1と同様に第2移送管34から濾過装置15に導入し、比較例1と同じ条件で濾過した。
【0049】
実施例2では、濾過装置15から取り出した処理水のSS濃度は0.1mg/L未満、マンガン濃度は0.1mg/L未満、ニッケル濃度は0.1mg/L未満であった。このように、実施例2では懸濁物を十分に除去でき、かつ、鉄系凝集剤から溶出した複数種類の金属をより良好に除去することができた。また、実施例2では、中性付近で第2凝集工程の凝集反応を行ったため、アルカリの添加量を少なくすることができた。
【0050】
[比較例3]
比較例3として第2凝集工程のpHを酸性側にして凝集反応を行った。比較例3では、再凝集槽14の槽内液のpHが5.5となるようにpHを調整した。第2凝集工程でのpHを代えた以外は実施例1と同じ条件で実験した結果、濾過装置15から取り出した処理水のSS濃度は0.1mg/L未満、マンガン濃度は1.5mg/L、ニッケル濃度は4.0mg/Lであった。このように、比較例3では酸性側で第2凝集工程を行った結果、鉄系凝集剤から溶出した不純物を除去できなかった。
【0051】
[比較例4]
比較例4として第2凝集工程で鉄系凝集剤を添加せず、再凝集槽14の槽内液のpHを9.5となるようにpHを調整した。比較例4では、第2凝集工程で鉄系凝集剤を添加しなかった以外は実施例1と同じ条件で実験した結果、濾過装置15から取り出した処理水のSS濃度は0.5mg/L、マンガン濃度は0.5mg/L、ニッケル濃度は0.1mg/L未満であった。このように、比較例4では第1凝集工程の後、凝集剤を添加せずにpHを上昇させただけであったため、フロックの強度が弱く、微細なSSが濾過装置から流出した
【0052】
表2に、実施例1、2、および比較例1〜4の処理概要と結果を示す。
【表2】

【0053】
以上のように、本発明によれば、鉄系凝集剤に複数種類の金属が含まれる場合でも、これら金属が処理水に残留することを回避しつつ、被処理水に含まれる懸濁物質を良好に除去できることが示された。
【産業上の利用可能性】
【0054】
本発明は、懸濁物を含む水の凝集処理に用いることができる。
【図面の簡単な説明】
【0055】
【図1】本発明の第1実施態様に係る凝集処理の処理フローを示す模式図。
【図2】本発明の第1実施態様に係る凝集処理の処理フローを示す模式図。
【図3】従来技術に係る凝集処理の処理フローを示す模式図。
【符号の説明】
【0056】
1〜3 凝集処理装置
11 急速攪拌槽(第1凝集工程)
12 緩速攪拌槽(第1凝集工程)
13 沈殿槽(第1固液分離工程)
14 再凝集槽(第2凝集工程)
15 濾過装置
21 鉄系凝集剤貯槽
22 pH調整剤貯槽
25 非鉄系凝集剤貯槽
26 金属捕集剤貯槽

【特許請求の範囲】
【請求項1】
有機物を含む有機物含有水に鉄系凝集剤を添加してpH7.0未満で凝集処理を行う第1凝集工程と、
前記第1凝集工程で得られた凝集物を固液分離する第1固液分離工程と、
前記第1固液分離工程で得られた上澄み液に凝集剤をさらに添加して再凝集処理を行う第2凝集工程と、を含む有機物含有水の凝集処理方法。
【請求項2】
前記第1凝集工程においてpH4.0以上7.0未満で凝集処理を行い、
前記第2凝集工程において前記凝集剤として鉄系凝集剤を添加してpH8.0以上11.0未満で再凝集処理を行う請求項1に記載の有機物含有水の凝集処理方法。
【請求項3】
前記第1凝集工程においてpH4.0以上7.0未満で凝集処理を行い、
前記第2凝集工程において前記凝集剤としてアルミニウム系凝集剤または高分子凝集剤を添加し金属捕集剤をさらに添加して再凝集処理を行う請求項1に記載の有機物含有水の凝集処理方法。
【請求項4】
前記有機物は、コロイド状の高分子系有機物である請求項1から3のいずれかに記載の有機物含有水の凝集処理方法。


【図1】
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【図2】
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【図3】
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【公開番号】特開2009−66508(P2009−66508A)
【公開日】平成21年4月2日(2009.4.2)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−236819(P2007−236819)
【出願日】平成19年9月12日(2007.9.12)
【出願人】(000001063)栗田工業株式会社 (1,536)
【Fターム(参考)】