説明

有機発光装置及びその製造方法

【課題】封止層に剥離やクラックといったダメージを与えずに分割することができる、有機発光装置を提供する。
【解決手段】少なくとも基材を有する基板と、前記基板上に配置されており前記基板上に順に第1電極と、有機発光層と、第2電極とを有する有機EL素子と、前記有機EL素子上及び前記基板表面を覆っている無機封止層とを有し、一体に形成された複数の有機発光装置を分割することにより得られる有機発光装置において、前記基板端部には分割によって形成される辺を有し、前記基板表面には前記辺に沿って立体部が形成されており、前記無機封止層は前記立体部に延在して成膜されていることを特徴とする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、フラット素子ディスプレイ等に用いられる有機発光装置及びその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、フラット素子ディスプレイとして、自発光型デバイスである有機EL素子を有する有機発光装置が注目されている。有機EL素子は、基板上に少なくとも、第1電極と有機発光層を含む積層構造体と第2電極がこの順に積層されている。有機EL素子は、水分や酸素により特性劣化を招き易く、わずかな水分により積層構造体と電極層の剥離が生じ、ダークスポット発生の原因となる。そのため、有機EL素子をエッチングガラスカバーで覆い、シール剤により周辺を貼り付け、内部に吸湿剤を装着して、シール面から浸入する水分を吸湿剤で吸湿し、有機EL素子の寿命を確保している。
【0003】
有機EL素子を使った薄型、省スペースのフラット素子ディスプレイを実現するためには、発光エリア周辺の吸湿剤のスペースを削減する必要がある。吸湿剤を必要としない有機EL素子の封止方法としては、第2電極上に封止層を積層する方法があり、水分や酸素の積層構造体への浸入を防止するための高機能な封止層が要求される。
【0004】
有機EL素子の封止層として具体的には、CVD法やスパッタ法を用いた酸化窒化シリコン膜や、セラミックと有機膜を積層させた封止層が提案されており、有機発光層に対して、これら無機材料からなる封止層を用いて水分や酸素を遮蔽することが可能となる。
【0005】
ところで、この様な有機EL素子を有する有機発光装置の製造においては、製造コスト低減の観点から、大判の基板上に複数の有機発光装置を作製した後に、分割を行う。
【0006】
複数の有機発光装置が形成された大判の基板から有機発光装置を分割する方法として、次の提案がなされている。
【0007】
特許文献1には、貼り合わせ基板の分割において、基板両面からスクライブ及びブレイクを順次行うことにより、分割工程での基板の損傷を低減する発明が記載されている。
【0008】
特許文献2には、有機発光装置を多面取りで生産する際に、ブレイク工程での押圧力を他方の基板から一方の基板へと伝達するための押圧伝達部を形成することにより、基板の切断不良を解決する発明が記載されている。
【0009】
【特許文献1】特許第3042192号公報
【特許文献2】特開2003−181825号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
しかしながら、一般的なスクライブ手法を使って、複数の有機発光装置が形成された基板から有機発光装置を分割する場合には、分割する位置における封止層の剥離、クラックが発生する。その結果、積層構造体に水分やガス成分が浸入し、表示劣化を招くことにつながる。特許文献1及び2においては、無機材料からなる封止層の分割位置における剥離、クラック発生の低減に対する対策については、記載されていない。
【0011】
本発明はこの様な課題に対して、複数の有機発光装置が形成された基板から有機発光装置を分割する工程において、封止層に剥離やクラックといったダメージを与えずに分割することができる、有機発光装置及びその製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0012】
上記した背景技術の課題を解決するための手段として、請求項1に記載した発明に係る有機発光装置は、
少なくとも基材を有する基板と、前記基板上に配置されており前記基板上に順に第1電極と、有機発光層と、第2電極とを有する有機EL素子と、前記有機EL素子上及び前記基板表面を覆っている無機封止層とを有し、
一体に形成された複数の有機発光装置を分割することにより得られる有機発光装置において、
前記基板端部には分割によって形成される辺を有し、前記基板表面には前記辺に沿って立体部が形成されており、前記無機封止層は前記立体部に延在して成膜されていることを特徴とする。
【発明の効果】
【0013】
本発明によれば、複数の有機発光装置が形成された基板から個々の有機発光装置を分割する工程において、封止層に剥離やクラックといったダメージを与えずに分割することができる。そのため、積層構造体への水分やガス成分の浸入を完全に防止することが可能となり、発光劣化が抑制された長寿命の有機発光装置を得ることができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0014】
本発明の実施形態について、以下、図1から図8の図面を用いて説明する。なお、これらの図は本発明に係る有機発光装置の構成の一例について、構成の一部を取り出して模式的に示すものである。
【0015】
図1に示した有機発光装置は、素子構成の一例を示す有機発光装置の一部の断面概要図である。表示領域の端から周辺領域までを示している。図1に示す有機発光装置は、端部に基板の分割によって形成される辺を有している。
【0016】
ガラス基材1の上に薄膜トランジスタ(TFT)を構成する層(ソース、ドレイン電極層)2、絶縁層3、有機平坦化層4の順で積層形成されている。本実施形態では以上の構成を基板としている。そして、基板の上部に、単位画素の第1電極5が形成され、その各画素の周辺をポリイミド製の素子分離膜8で覆っている。このガラス基材1上に、正孔輸送層、有機発光層、電子輸送層、電子注入層からなる積層構造体(有機化合物層)6が順次形成されている。その上部には、第2電極7が形成されている。これらの第1電極5と、有機発光層を含む積層構造体6と、第2電極7とで有機EL素子が形成されている。更に取り出し電極を除き、第2電極7、積層構造体6、素子分離膜8、有機平坦化層4を完全に覆う、無機材料からなる封止層9が形成されている。そして、封止層9を含むその上部に粘着材10を介して円偏光板11が設けられている。
【0017】
なお、本実施の形態において基板は、少なくとも基材1を有していればよい。本発明は、上述するように個々の有機EL素子を駆動する薄膜トランジスタを有するアクティブマトリクス型の発光装置だけではなく、ストライプ状の電極の交差部分で発光を得るパッシブマトリクス型の発光装置にも適用できるからである。後者の場合、基板は薄膜トランジスタを有しておらず、基材1上に電極が形成される場合もある。
【0018】
また、TFTを構成する層2は、本実施の形態ではソース、ドレイン電極と同一の層であるが、別の層であってもよい。例えばゲート電極層と同一の層であってもよい。
【0019】
また、積層構造体6は、少なくとも有機発光層を有していればよいが、上述のように正孔輸送層、電子輸送層、電子注入層を有している方が好ましい。
【0020】
図1(a)に示した構成においては、TFTを構成する層2並びにTFTを覆う絶縁層3に凹構造の立体部Aが基板の分割によって形成される辺に沿って形成されており、封止層9は前記立体部Aに延在して成膜されている。図1(b)に示した構成においては、絶縁層3上に凸構造の立体部Aが形成されており、封止層9は前記立体部Aに延在して成膜されている。ちなみに、絶縁層3の形成面よりも基材1の方向に所定の深さを持って形成された立体部Aを凹構造、反対に、絶縁層3の形成面より基材1と反対方向に所定の高さを持って形成させた立体部Aを凸構造、としている。
【0021】
本発明の立体部Aは、同立体部Aの形成位置に封止層9のクラック若しくは膜質の不連続領域を発生させるために、表示領域の周辺に形成されており、少なくとも前記表示領域の一辺と平行に配置されている。具体的には、図2に示すように、電源及び信号供給部材(パッド)14が形成された辺と、その対辺を除く二辺に配置されたり、図3に示すように、隣接する二辺に配置される。また、立体部Aは、図4に示すように、表示領域の周辺において、前記表示領域の一辺と平行に、複数列あるいは複数個配置される。勿論、表示領域を囲むように、四辺すべてに配置してもよい。このとき、立体部Aは表示領域と一定の間隔をもってライン状に形成されていることが好ましいが、有機発光装置を分割する際に封止層9にクラック若しくは膜質の不連続領域を発生させることができれば、配置は特に限定されない。例えば、図3に示すように、表示領域のいずれかの辺の長さよりも短い立体部Aからなる組織構造として配置してもよい。なお、表示領域の周辺に樹脂層が形成されている場合には、同樹脂層よりも外周領域に立体部Aが形成される。
【0022】
立体部Aの形状は図5(a)、(b)に示すように、凹構造でも凸構造でもよく、分割して有機発光装置を分割する際に封止層9のクラックあるいは膜質の不連続領域が得られる形状であればよい。望ましい形状としては、図5の断面概略図を参照して、立体部Aの高さ又は深さDは、0.1μm以上であること、あるいは、封止層9の膜厚の100分の1以上であることが好ましい。立体部Aの高さ又は深さDが0.1μm未満、あるいは、封止層9の膜厚の100分の1未満である場合には、立体部Aが封止層9に対して小さすぎる。そのため、封止層9の成膜初期に形成されるクラックあるいは膜質の不連続性が、膜厚を重ねる過程で埋められたり、均一化されてしまう。よって、封止層9に大きな外部衝撃を与えないと分割できなくなり、結果として、分割に伴い剥離やクラックといったダメージが発生してしまう。
【0023】
立体部Aのテーパー角Eは、封止層9にクラックあるいは膜質の不連続性を発生させることができれば特に限定されないが、最大角度が10°以上であることが好ましく、更には45°以上であることが望ましい。90°以上であっても構わない。また、基材1上に形成される立体部Aはすべて同じテーパー角である必要はなく、例えば、表示領域の周辺に複数の立体部Aを形成する場合に、隣接する立体部AとAのテーパー角を変化させることも可能である。
【0024】
立体部Aの幅Gは、確実に前記立体部Aを形成できる幅であれば特に限定されないが、幅を大きくとると額縁領域が拡大してしまうことから、より小さいことが好ましい。望ましくは、立体部Aの高さ又は深さDよりも小さいことがよい。
【0025】
複数の立体部Aを形成する場合には、隣接する立体部AとAの間隔Fは一定である必要はなく、任意の値が可能である。ただし、間隔Fが小さすぎる場合に、封止層9を貫くクラック若しくは膜質の不連続性が得られない場合が発生するため、立体部Aの高さ又は深さDよりも大きなピッチFが望ましい。
【0026】
この立体部Aにより、有機発光装置を分割する際に生じる封止層9のクラック若しくは膜質の不連続領域が、小さな外部衝撃を与えるだけで容易に、立体部Aの形成位置にて封止層9を分割することができる。若しくは、立体部Aの形状を選択することによって、外部衝撃を与えなくとも、立体部Aの形成位置で完全に分断された封止層9を形成することが可能である。
【0027】
立体部Aの形成方法としては、エッチングによって凹構造、凸構造を形成したり、マスク成膜によって凸構造を形成したりする方法があるが、図1(a)のようにアクティブマトリクス型の有機発光装置の場合にはエッチングによって形成することが好ましい。TFTを作成する際のパターニング工程と同時に立体部を形成することが可能であるからである。この方法によれば、製造コストを抑えたまま簡便に立体部を形成することができる。
【0028】
更に、立体部Aにより形成される封止層9のクラック若しくは膜質の不連続領域での封止層9の分断を確実なものとするために、例えば図6に示すように、立体部Aに沿って抵抗線12を設けることができる。抵抗線12に電流を流し、立体部Aを加熱することで、封止層9に強い応力が発生し、封止層9のクラック若しくは膜質の不連続領域で封止層9が分断される。抵抗線12は、電流を流すことで加熱できるものであれば特に限定されないが、TFTを構成する層を用いて、該導電層の形成時に同時にパターニング形成することが望ましい。
【0029】
第1電極5は、高導電性の電極材料であれば特に限定されないが、例えば高反射性の材料であるCr、Al、Agなどを用いることができる。ITO、IZOなど透明電極を積層して用いてもよい。
【0030】
第2電極7は、高導電性の電極材料であれば特に限定されないが、例えば高透過性若しくは半透過性の材料で構成され、ITO、IZOなどInを含む酸化膜、Agなどを用いることができる。
【0031】
封止層9は、水分やガス成分の遮断能力が高いものであれば特に限定されないが、一般に水分及びガスバリア性が高いことで知られる無機材料からなる膜(以下、無機膜と省略する場合がある。)を用いることができる。また封止層9は、組成が異なる2種類以上の積層膜であってもよい。封止層に求められる特性によっては、無機膜と有機膜の積層構成であってもよい。しかし、水分やガス成分の伝播経路となることから、有機発光装置の分割位置Bには有機膜が形成されていないことが望ましい。
【0032】
封止層9の膜厚は、水分やガス成分の遮蔽性能が確保できれば特に限定されないが、第2電極7表面の表面平滑性や付着ゴミなどを覆い、充分な封止性能を得るためには0.5μm以上であることが望ましい。
【0033】
本発明の封止層9に用いられる無機膜は、例えば、プラズマCVDにより形成できる。プラズマCVDの励起周波数を30MHzから100MHzのVHF帯を用いることで、プラズマのイオン衝撃を弱め有機EL素子の熱ダメージを抑えることができる。それと共に、緻密で欠陥が無く、斜面や凹凸のカバレッジ性が良好で、防湿性が高く、さらに低応力の良好な無機封止層を実現できる。無機膜は、シリコン、窒素、水素、酸素原子の総数に対する水素濃度が12〜32atomic%であることが望ましい。下地の有機封止層との密着性や、凹凸のカバレッジ性が良く、熱応力の緩和に効果的で有機EL素子の発光による温度上昇に効果が絶大である。さらに、水素濃度が17〜28atomic%であるとさらに効果的である。
【0034】
このような、水素濃度の勾配を持たせた封止層9で構成された有機発光装置は、防湿性能が高いばかりか、屈折率の異なる膜の積層で生じる光の反射を抑え、光の透過率を改善できる。
【0035】
図7は本発明に係る有機発光装置の製造方法の一例を示すものである。
【0036】
凹構造の立体部Aが形成された基板上に第1電極5、積層構造体6、第2電極7を形成し、有機EL素子を形成する(図7(a))。続いて封止層9を成膜すると、原料物質が基板に吸着堆積して成膜が進んでいく為、立体部A部分では堆積速度の不連続位置にクラック若しくは膜質の不連続領域が発生する(図7(b))。この封止層9のクラック若しくは膜質の不連続領域では、封止層9は外力、熱、電磁波などの外部衝撃により容易に、封止層9に剥離、クラックなどの大きなダメージを与えることなく分割することが可能となる。加えて、封止層9の分割面は高い防湿性能を有しており、封止層9の分割位置からの水分やガス成分の浸入を防止する高い遮蔽性能を有することになる。次に、立体部A上あるいは立体部Aよりも外方の分割線(位置)Bにて、立体部Aと平行に、封止層9及び基板を分割する(図7(c))。封止層9には分割に伴うダメージが発生するが、立体部Aの形成位置にある封止層9のクラック若しくは膜質の不連続領域で封止層9の剥離及びクラックは堰止められる。よって、立体部Aよりも表示領域側の封止層9に分割のダメージが伝播することを防ぐことができる(図7(d))。
【0037】
ちなみに、有機発光装置の製造においては、製造コスト低減の観点から、1枚の基板上に複数の有機発光装置を形成し、後に各有機発光装置に分割を行う。図8は、基板上に複数の有機発光装置を形成する際の、立体部Aの配置位置の一例を示したものである。
【0038】
図8(a)は、隣接する有機EL素子間にある分割位置Bに対して両側に凹構造の立体部Aを形成した例である。この場合、分割位置Bで立体部Aと平行に基板を分割する。分割位置Bでは封止層9にクラック、剥離が発生するが、立体部Aの形成位置にある封止層9のクラック若しくは膜質の不連続領域により封止層9の剥離及びクラックは堰止められ、表示領域側の封止層9に分割のダメージは伝播しない。図8(b)では、分割位置Bを跨ぐ凹構造の立体部Aを形成している。同様に、分割位置Bで発生する封止層9の剥離及びクラックは、立体部Aの形成位置で堰止められ、表示領域側の封止層9に分割のダメージは伝播しない。
【0039】
隣接する有機発光装置の間に、先に述べたように、複数の立体部Aを形成することも可能である。この場合、最も表示領域に近接する立体部Aよりも外方位置で分割すれば、どの位置に分割位置を設定しても良い。言い換えれば、封止層9を分割する位置においては、その分割位置と表示領域の間に少なくとも1つ以上の立体部Aが形成されていなければならない。
【0040】
これらの立体部Aは、所望の構造を実現するものであればいかなる方法、材料にて形成してもよい。しかし、立体部Aを形成する為だけに材料、プロセスを追加することは有機発光装置のコストを増加させることにもなり、製造歩留まりの低下に繋がることから、既存の構成層、プロセスの中で形成することが望ましい。
【0041】
例えば、凹構造の立体部Aを作成する場合、基板上に形成するTFT及び絶縁層3に形成することができる。より具体的には、絶縁層3にコンタクトホールを設ける際に、立体部Aの形成位置でも同時にエッチングを行うことにより、絶縁層3の厚さ分の深さDを有する立体部Aが形成可能となる。絶縁層3の厚さ以上の深さDが必要な場合は、TFTの形成時に、立体部Aの形成位置に対応させてTFTの構成層をパターニングすることにより、最大、TFTと絶縁層3の合計厚さ分の深さDを有する立体部Aが形成可能となる。
【0042】
凸構造の立体部Aの場合には、有機平坦化層4、素子分離膜8を用いて、各層の形成時に同時に形成することができる。
【0043】
なお、基板の分割には、刃先によるスクライブ、レーザースクライブなど、一般的なスクライブ手法を用いることができる。そしてスクライブされた分割位置に沿って基板を割ることで基板を分割することができる。本発明の立体部がない有機発光装置にこれらの分割方法を適用すると、分割位置において封止層9のクラック発生、あるいは剥離など封止層のダメージが問題となる。
【実施例】
【0044】
以下、実施例より本発明の実施態様について、更に詳しく説明する。
【0045】
<実施例1>
本実施例について、図9を用いて説明する。図9は、評価サンプルの一部を取り出して模式的に示した(a)断面図、及び(b)上面図である。
【0046】
本実施例では、図9に示すように評価サンプルを作製し、分割位置からの水分の浸入の有無について、Ca腐食による透過率の変化で評価した。Ca膜は水及び酸素と反応することにより、Ca膜の透過率が変化する。
【0047】
ガラス基材上に絶縁層が形成された基板上に、高さ0.5μm、幅1μm、テーパー角55°の立体部Aを、ライン状に形成した。次に、立体部Aから0.2mmの位置にCa膜13を基板の中央部に部分的に真空蒸着により1000Å形成した。続いて立体部A、Ca膜13を覆うようにVHFプラズマCVDで窒化シリコン膜を5μm成膜し、封止層9を形成する。基板を投入後、封止層9の成膜まで一貫して真空中で行った。
【0048】
次に、Ca膜の端部から0.3mmの位置、立体部Aから0.1mmの位置で、高浸透タイプのホール刃により、封止層9側から基板をスクライブし、評価サンプルを作製した。
【0049】
本実施例のサンプルの分割位置についてSEMを用いて観察したところ、分割位置Bにおいては封止層9の剥離及びクラックの発生が確認された。しかし、立体部Aの位置にて、封止層9の剥離及びクラックは堰止められ、Ca膜側の封止層9には剥離、クラックは見られなかった。
【0050】
本実施例の評価サンプルを温度60℃、相対湿度90%RHの恒温恒湿槽内に放置し、1000hr経過後に測定してもCa膜の透過率は変化しなかった。
【0051】
<比較例1>
本比較例について、図10を用いて説明する。図10は、評価サンプルの一部を取り出して模式的に示した断面図である。
【0052】
本比較例では、図10に示すように評価サンプルを作製し、分割位置からの水分の浸入の有無について、Ca腐食による透過率の変化で評価した。
【0053】
本比較例の評価サンプルは実施例1と同様の工程にて作製したが、立体部Aは形成しない。基板1の分割はCa膜の端部から0.3mmの位置にて、封止層9側から行った。
【0054】
本比較例のサンプルの分割位置についてSEMを用いて観察したところ、封止層9の剥離及びクラックが発生していることが分かった。分割による封止層9の損傷は、分割位置から0.5mm以内であった。
【0055】
本比較例の評価サンプルを温度60℃、相対湿度90%RHの恒温恒湿槽内に放置すると、1000hr経過後には、分割位置方向からCa膜は腐食され、約25mmの領域に渡って透過率の低下が観察された。
【0056】
<比較例2>
本比較例では、図10に示すように評価サンプルを作製し、分割位置からの水分の浸入の有無について、Ca腐食による透過率の変化で評価した。
【0057】
本比較例の評価サンプルは実施例1と同様の工程にて作製したが、立体部Aは形成しない。基板1の分割はCa膜の端部から0.3mmの位置にて、基板1側から行った。
【0058】
本比較例のサンプルの分割位置についてSEMを用いて観察したところ、封止層9の剥離が発生していることが分かった。分割による封止層9の損傷は、分割位置から0.3mm以内であった。
【0059】
本比較例の評価サンプルを温度60℃、相対湿度90%RHの恒温恒湿槽内に放置すると、1000hr経過後には、分割位置方向からCa膜は腐食され、約15mmの領域に渡って透過率の低下が観察された。
【0060】
<実施例2>
本実施例について、図1(a)及び図2及び図8(a)を用いて説明する。
【0061】
本実施例では図1(a)に示す有機発光装置を作製して、同有機発光装置の発光特性評価を行った。
【0062】
本実施例では、大判の基板上に、図1(a)に示す構成を有する有機発光装置を隣接させて配置し、封止層9の形成後に有機発光装置毎に分割を行った。隣接する有機発光装置の間には、図2に示すように、電源及び信号供給パッド14が形成された辺と、その対辺を除く二辺に立体部Aを形成した。
【0063】
立体部Aは、図8(a)に示すように、分割位置Bに対して対称に、深さ0.5μm、幅5μm、テーパー角60°の凹構造の立体部Aを、分割位置Bから0.1mmの位置から表示領域側にピッチ10μmにて3つ形成した。
【0064】
本実施例の有機発光装置は、次の様にして作製した。ガラス基材1の上に、TFTを構成する層2、絶縁層3、有機平坦化層4を順次形成して基板を作成し、次にその基板上に形成される第1電極5とTFTを構成する層2とのコンタクトホールを形成した。上記の立体部Aは、このコンタクトホールの形成と同時に、絶縁層3に形成した。続いて、第1電極5を形成し、第1電極5の周辺にポリイミド製の素子分離膜8を形成し、絶縁した。この基板上に、FL03/DpyFL+sDTAB2/DFPH1/DFPH1+Cs2CO3の積層構造体6を蒸着し、ホール輸送層、発光層、電子輸送層、電子注入層の順で積層構造体6を形成した。その上層には、ITOからなる第2電極7をスパッタにより膜厚60nmで成膜し、画素を形成した。更に、有機平坦化層4、第1電極5、積層構造体6、第2電極7、素子分離膜8、粘着材10、立体部Aを覆うように、VHFプラズマCVDで窒化シリコン膜を5μm成膜し、封止層9を形成した。ガラス基材1の投入後、封止層9の成膜まで一貫して真空中で行った。
【0065】
次に、分割位置Bにおいて、高浸透タイプのホール刃により封止層9側から基板をスクライブし、有機発光装置を分割した。続いて、各有機発光装置に円偏光板11を粘着材10で封止層9上に貼り合わせて図1(a)の有機発光装置を作製した。
【0066】
本実施例の有機発光装置の分割位置を光学顕微鏡並びにSEMで観察したところ、封止層9にクラックや剥離が確認されたが、最も表示領域側の立体部Aよりも表示領域側の封止層9には、一切クラックや剥離は確認されなかった。
【0067】
本実施例の有機発光装置を温度60℃、相対湿度90%RHの恒温恒湿槽内に放置し、1000hr経過後に評価しても、VI特性及び輝度の劣化は確認されなかった。また、有機発光装置の外周領域からの輝度変化及びΦ1μm以上のダークスポットも、画素周辺からの輝度劣化及びΦ1μm以上のダークスポットも発生しなかった。
【0068】
<実施例3>
本実施例について、図1(a)及び図2及び図8(b)を用いて説明する。
【0069】
本実施例では、実施例2と同様の有機発光装置を作製して、素子の発光特性評価を行った。ただし、本実施例では、立体部Aとして、図8(b)に示すように、分割位置Bを跨ぐ深さ0.5μm、幅100μm、テーパー角60°の凹構造を形成した。更に、凹構造端から表示領域側に、深さ0.5μm、幅5μm、テーパー角60°の立体部Aを、ピッチを30μm、20μm、10μmと変化させて3つ形成した。
【0070】
本実施例の有機発光装置の分割位置を光学顕微鏡並びにSEMで観察すると、封止層9にクラックや剥離が確認されたが、最も表示領域側の立体部Aよりも表示領域側の封止層9には、一切クラックや剥離は確認されなかった。
【0071】
本実施例の有機発光装置を温度60℃、相対湿度90%RHの恒温恒湿槽内に放置し、1000hr経過後に評価しても、VI特性及び輝度の劣化は確認されなかった。また、有機発光装置の外周領域からの輝度変化及びΦ1μm以上のダークスポットも、画素周辺からの輝度劣化及びΦ1μm以上のダークスポットも発生しなかった。
【産業上の利用可能性】
【0072】
本発明による有機発光装置は、水分及びガス成分の遮蔽能力に優れることから、幅広い温度、湿度での使用が想定され、高い対環境性を必要とするデジタルカメラやデジタルビデオカメラのモニターといったモバイル機器の表示装置等に利用することができる。
【図面の簡単な説明】
【0073】
【図1】本発明の有機発光装置の実施形態の一例を模式的に示す断面図である。
【図2】本発明の有機発光装置の立体部の形状と配置位置の一例を示す斜視図である。
【図3】本発明の有機発光装置の立体部の形状と配置位置の他の一例を示す斜視図である。
【図4】本発明の有機発光装置の立体部の形状と配置位置の他の一例を示す斜視図である。
【図5】本発明の有機発光装置の立体部の形状を模式的に示す断面図である。
【図6】本発明の有機発光装置の立体部と抵抗線の位置関係を模式的に示す断面図である。
【図7】本発明の有機発光装置の製造方法の一例を模式的に示す断面図である。
【図8】本発明の隣接する有機発光装置の立体部の形状、配置位置と分割位置の一例を模式的に示す断面図である。
【図9】第1の実施例における評価基板の構成の概略を模式的に示す断面図である。
【図10】比較例における評価基板の構成の概略を模式的に示す断面図である。
【符号の説明】
【0074】
1 ガラス基材
2 TFTを構成する層
3 絶縁層
4 有機平坦化層
5 第1電極
6 積層構造体(有機化合物層)
7 第2電極
8 素子分離膜
9 封止層
10 粘着材
11 円偏光板
12 抵抗線
13 Ca膜
14 電源及び信号供給パッド
A 立体部
B 分割(線)位置
D テーパー角
E 高さ/深さ
F ピッチ
G 幅

【特許請求の範囲】
【請求項1】
少なくとも基材を有する基板と、前記基板上に配置されており前記基板上に順に第1電極と、有機発光層と、第2電極とを有する有機EL素子と、前記有機EL素子上及び前記基板表面を覆っている無機封止層とを有し、
一体に形成された複数の有機発光装置を分割することにより得られる有機発光装置において、
前記基板端部には分割によって形成される辺を有し、前記基板表面には前記辺に沿って立体部が形成されており、前記無機封止層は前記立体部に延在して成膜されていることを特徴とする有機発光装置。
【請求項2】
前記有機EL素子の周囲に電源及び信号供給部材を有しており、
前記立体部は、前記電源及び前記信号供給部材が配置されている辺と、その対辺を除く二辺に形成されていることを特徴とする請求項1に記載の有機発光装置。
【請求項3】
前記立体部は複数形成されていることを特徴とする請求項1又は請求項2に記載の有機発光装置。
【請求項4】
前記立体部は、隣接する立体部の形状や間隔が異なることを特徴とする請求項1乃至請求項3のいずれか1項に記載の有機発光装置。
【請求項5】
前記立体部は0.1μm以上の高さ又は深さであることを特徴とする請求項1乃至請求項4のいずれか1項に記載の有機発光装置。
【請求項6】
前記立体部の高さ又は深さは、前記無機封止層の膜厚の100分の1以上であることを特徴とする請求項1乃至請求項5のいずれか1項に記載の有機発光装置。
【請求項7】
請求項1に記載の有機発光装置であって、
前記基板は、前記基材上に前記有機EL素子の発光を制御する薄膜トランジスタと、前記薄膜トランジスタを覆っている絶縁層とを有しており、
前記立体部は前記絶縁層の下地層である前記薄膜トランジスタを構成する層及び前記絶縁層に形成されていることを特徴とする請求項1乃至請求項6のいずれか1項に記載の有機発光装置。
【請求項8】
前記基材上に抵抗線が設けられており、
前記立体部は、前記抵抗線上に設けられていることを特徴とする請求項1乃至請求項7のいずれか1項に記載の有機発光装置。
【請求項9】
前記抵抗線は、前記薄膜トランジスタを構成する層と同層に形成されていることを特徴とする請求項1乃至請求項8のいずれか1項に記載の有機発光装置。
【請求項10】
基板と、前記基板上に順に配置されている第1電極と、有機発光層と、第2電極とを有する有機EL素子と、前記有機EL素子上及び前記基板表面を覆い、前記基板端部に延在して成膜されている無機封止層とを有する有機発光装置の製造方法であって、
前記基板上に順に前記第1電極と、前記有機発光層と、前記第2電極とを有する有機EL素子を形成する工程と、
前記第2電極上から予め設定された前記分割線に延在して前記無機封止層を形成する工程と、
前記分割線に沿って前記基板及び前記無機封止層を分割する工程と、
を有する有機発光装置の製造方法において、
前記基板の分割線に沿って立体部を形成する工程を有することを特徴とする有機発光装置の製造方法。
【請求項11】
前記分割する工程は、前記分割線上で前記無機封止層をスクライブする工程と、前記スクライブされた分割線上で前記基板及び前記無機封止層を割る工程とを有することを特徴とする請求項10に記載の有機発光装置の製造方法。
【請求項12】
前記有機EL素子を形成する工程は、基板上に複数の有機EL素子を形成する工程であり、前記分割線は、隣接する前記有機EL素子間にあることを特徴とする請求項10又は請求項11に記載の有機発光装置の製造方法。
【請求項13】
前記立体部を形成する工程は、エッチングする工程である請求項10乃至請求項12のいずれか1項に記載の有機発光装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【公開番号】特開2007−294403(P2007−294403A)
【公開日】平成19年11月8日(2007.11.8)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−26707(P2007−26707)
【出願日】平成19年2月6日(2007.2.6)
【出願人】(000001007)キヤノン株式会社 (59,756)
【Fターム(参考)】