説明

有機繊維コードの熱処理方法及び有機繊維コードの熱処理装置

【課題】有機繊維コードの接着剤処理後の乾燥工程において、コード表面に付着する接着剤の樹脂カスの発生を抑制する。
【解決手段】有機繊維コードCに接着剤液を塗布する接着剤塗布工程と、塗布された有機繊維コードC’を乾燥する乾燥工程と、乾燥された有機繊維コードを熱処理する熱処理工程とを有する有機繊維コードの熱処理方法において、前記乾燥工程が、乾燥室12中を走行する前記塗布された有機繊維コードC’に対する近赤外線の照射により行う。その近赤外線は、0.7〜2.5μmの波長帯域にピークを有することが好ましい。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、有機繊維コードの熱処理方法に関し、さらに詳しくは接着剤処理時の乾燥工程においてコード表面に付着する樹脂カスの発生を抑制することができる有機繊維コードの熱処理方法に関する。
【背景技術】
【0002】
ナイロン、ポリエステルなどの有機繊維は機械的性質、寸法安定性、耐久性に優れ、衣料用のみでなく産業用途にも広く利用されている。産業用としてはゴム資材用途で幅広く使用されており、なかでもタイヤコードではその特徴を生かしタイヤ補強材として多量に利用されている。
【0003】
空気入りタイヤの補強材として使用されるナイロン、ポリエステル等の有機繊維コードは、コードとゴム材料間との接着性及びコード特性を付与するために、接着剤液(レゾルシン・ホルマリン・ラテックス(RFL)液等)を生コードに塗布した後熱処理を施す、いわゆる接着剤熱処理が行われている。
【0004】
有機繊維コード単体やすだれ織物を接着剤熱処理する場合の従来例を図4に示す。まず、レットオフ装置に搭載された巻物B1から引き出された生コードCに接着剤液を塗布する接着剤処理を行う。この際、塗布方法は特に限定されないが、ディッピング処理が通常用いられており、ディッピングマシン30により生コードCを接着剤液を貯留した接着剤タンク31中に浸漬ロールを通して接着剤液中を通過させることにより接着剤液を所定量付着、含浸させる。次いで、接着剤処理コードは絞りロール35によって引き上げられ、乾燥炉32において120〜160℃の循環熱風で乾燥させる乾燥工程を経た後、熱処理炉33に搬送され所定の延伸条件、温度下で炉内を循環する熱風により一定時間の熱処理が行われる熱処理工程により、接着性の付与とコード特性が調整された処理コードPとなり、巻物B2にロール状に巻き取られる。従来、この接着剤熱処理には、以上の一連の処理を1つの装置で連続して行うことができるディッピング装置が用いられている(例えば、特許文献1)。
【0005】
従来の熱風による乾燥工程では、乾燥処理されたコード表面に接着剤液が半樹脂化した粒状あるいは泡状の樹脂カスが多数発生し付着するため、ゴム接着性などのコード特性の低下原因になっていた。また、この樹脂カスは、熱処理炉など後工程のガイド、ロール、プーリーなどに粘着するため、樹脂カスを除去するための人手による掃除作業やそのための生産性の低下を招いていた。また、樹脂カスとなってコードから脱落する接着剤液を補うために、コードには多目の接着剤液を付着させる必要があり資源の無駄にもなっていた。
【0006】
上記熱風による乾燥に代えて、遠赤外線の照射による加熱乾燥、マイクロ波の照射による乾燥方法が提案されているが(特許文献2、3など)、いずれもコード表面から加熱乾燥が進み、樹脂カスの発生による問題は解決されていない。
【特許文献1】特開平10−140123号公報
【特許文献2】特開2006−316389号公報
【特許文献3】特開2006−307365号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明の目的は、前記の従来技術における問題点を解決するもので、有機繊維コードの接着剤処理後の乾燥工程において、コード表面に付着する樹脂カスの発生を抑制し、コード特性の向上を図るとともに、装置の清掃頻度低減による効率化、それによる生産性の向上、さらに、資源の浪費を改善することができる有機繊維コードの熱処理方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明者は、従来の熱風により乾燥処理されたコード表面に接着剤液の樹脂カスが発生する原因について種々の実験をしたところ、熱風乾燥するとコード表面から接着剤液の乾燥が始まり内部に進むことから、コード表面に半乾燥状態の樹脂カスが多数発生し、さらに内部の水分が気化し表面に排出することで樹脂カスを泡状態にしてコード表面に付着させることを見出した。
【0009】
また、遠赤外線による場合、遠赤外線はコード内部まで浸透し加熱するが、コードに触れると直ちに発熱するため、結果としてコード表面から乾燥が進み、熱風乾燥と同様の樹脂カスを発生させる。さらに、マイクロ波による場合は、コード全体に発熱が急激に進むため、やはり熱風乾燥と同様の樹脂カスをコード表面に発生させることを突き止めた。
【0010】
そこで、本発明者は鋭意検討したところ、コード内部まで浸透し、内部から発熱し接着剤液をコード内部から乾燥させることで上記問題を解決できることを知り得、その熱源としては近赤外線が最も効果的であることを見出した。
【0011】
すなわち、本発明は、有機繊維コードに接着剤液を塗布する接着剤塗布工程と、塗布された該有機繊維コードを乾燥する乾燥工程と、乾燥された該有機繊維コードを熱処理する熱処理工程とを有する有機繊維コードの熱処理方法において、前記乾燥工程が、乾燥室中を走行する前記塗布された有機繊維コードに対する近赤外線の照射により行われることを特徴とする有機繊維コードの熱処理方法である。
【0012】
上記において、前記近赤外線が、0.7〜2.5μmの波長帯域にピークを有することが好ましい。
【0013】
また、本発明は、有機繊維コードに接着剤液を塗布する接着剤塗布装置と、塗布された該有機繊維コードを乾燥する乾燥装置と、乾燥された該有機繊維コードを熱処理する熱処理装置とを有する有機繊維コードの熱処理装置において、前記乾燥装置が、乾燥室中を走行する前記塗布された有機繊維コードに対して0.7〜2.5μmの波長帯域にピークを有する近赤外線を照射する近赤外線発生装置を備えることを特徴とする有機繊維コードの熱処理装置である。
【0014】
さらに、上記有機繊維コードの熱処理装置は、前記近赤外線発生装置からの近赤外線の内で前記有機繊維コードに対して照射されなかった近赤外線を、前記有機繊維コードに向けて反射し照射する反射鏡を備えていることが好ましい。
【発明の効果】
【0015】
本発明によれば、乾燥工程において、近赤外線の照射により接着剤処理コードを乾燥することで、コード内部から発熱し接着剤液をコードの内部から乾燥させることによってコード表面の樹脂化を抑え、コード表面に付着する接着剤の樹脂カスの発生を抑制し、コード特性の向上を図るとともに、装置の清掃頻度低減による効率化、それによる生産性の向上、さらに、資源の浪費を改善することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0016】
次に、本発明を実施するための形態を、添付の図面を用いて説明する。本実施形態においては、タイヤ用シングルコードの接着剤処理加工の例に従い説明するが、本発明は本例に限定されるものではない。
【0017】
図1は、本発明に係る熱処理装置1の構成を示す概略図、図2は乾燥室12内を示す概略図である。
【0018】
図1に示す熱処理装置1は、有機繊維コード(以下、単に「コード」と言うことがある)に接着剤液を塗布する接着剤塗布工程と、塗布されたコードを乾燥する乾燥工程と、乾燥されたコードを熱処理する熱処理工程とから構成されている。
【0019】
熱処理装置1によるコードの熱処理は、図1に示すように、レットオフ装置に搭載された巻物B1から引き出された生コードCを、RFL液を主とする接着剤液を塗布し(接着剤塗布工程)、接着剤液を所定量塗布、含浸させた接着剤処理コードC’を絞りロール15によって引き上げ、乾燥室12において乾燥させた後(乾燥工程)、熱処理炉13に搬送し所定の延伸条件、温度下で炉内を循環する熱風により一定時間の熱処理を行い(熱処理工程)、接着性の付与とコード特性が調整された処理コードPとなり、巻物B2にロール状に巻き取られる。
【0020】
本発明においては、上記乾燥工程は、乾燥室12中を走行する接着剤処理コードC’に対して熱源として近赤外線を照射することによりコードの乾燥が行われる。
【0021】
図2に示すように、近赤外線の発生装置21、22が、乾燥室12中を走行する接着剤処理コードC’に対して近赤外線を照射できるように配置されている。
【0022】
図2では、コードC’を上下から挟むように2ヶ所に近赤外線の発生装置21、22、を配置しているが、発生装置の配置位置や配置数は何ら制限されることはなく、近赤外線発生装置を1ヶ所のみに配置してもよく、また3ヶ所以上に配置してもよい。
【0023】
また、乾燥室12内には、120〜160℃の熱風を吹き出す熱風発生機25を設けておくことが好ましく、これにより乾燥室12内を高温に維持して近赤外線の照射によるコードの乾燥効果を向上することができる。
【0024】
近赤外線の発生装置としては、特定の波長帯域にピークを有する近赤外線を発生する近赤外線ランプヒータが使用でき、例えば、ハロゲンランプヒータが挙げられる。市販品としては、例えば、(株)ハイベックの「HYL25−60N」が使用できる。
【0025】
本発明において、上記近赤外線の波長は0.7〜2.5μmの波長帯域にピークを有するものが好ましい。0.7〜2.5μmに波長ピークを有する近赤外線を照射することで、コード内部まで赤外線が浸透し、内部から発熱し接着剤液をコード内部から乾燥させることができ、樹脂カスの発生を抑制することができる。波長ピークが0.7μm未満では十分な発熱量が得られず、また2.5μmを超えると中赤外線領域に接近しコード表面から発熱、乾燥する傾向を示し、樹脂カス発生の抑制効果が減少する。
【0026】
また、本発明においては、上記近赤外線発生装置から照射された余剰の近赤外線を、接着剤処理コードC’に向けて反射させ照射する反射鏡26を備えることができる。この場合の反射鏡としては、図3に示すようなパラボラ鏡26が好適である。これにより、近赤外線発生装置から発生する近赤外線を有効利用することができ、省エネルギーが図られる。
【0027】
乾燥条件としては、従来の乾燥条件の温度、時間に対応するものとすればよく、特に制限されることはなく、近赤外線発生装置の容量、発熱温度、及びコードの接着剤液付着率や走行速度などにより適宜調整することができる。
【0028】
本発明におけるコードとしては、ナイロン6、ナイロン66、アラミドなどのポリアミド、ポリエチレンナフタレート(PEN)、ポリエチレンテレフタレート(PET)などのポリエステル、レーヨン、ポリケトン、ビニロン等、タイヤを始めとして各種ゴム製品の補強材に使用できるものは全て適用可能である。
【実施例】
【0029】
以下、本発明を実施例に基づき具体的に説明する。
【0030】
図2に示す乾燥室を備えた、図1に示す有機繊維コードの熱処理装置を作製した。赤外線発生装置としては、実施例(近赤外線)では、(株)ハイベックの「HYL25−60N」、ピーク波長=0.9μmを、比較例(遠赤外線)では、(株)九州日昌製、ピーク波長=6μmを使用した。表1に記載の乾燥条件で、接着剤処理シングルコードを加熱乾燥処理した後、従来条件で熱処理炉で熱処理し、処理コードを得た。なお、従来例は市金工業社(株)製のシングルコード処理機(熱風乾燥)を使用した。
【0031】
使用したコードは、タイヤ補強用のナイロン66、1400dtex/2(旭化成(株)「レオナ66」、上×下撚数=36×36回/10cm)のシングルコードであり、接着剤液は下記D5A処方を使用した。
【0032】
[D5A処方]
A液 水:152g
レゾルシン:7.7g
37%ホルマリン:10.4g
10%苛性ソーダ:7.1g
B液 水:174.7g
ビニルピリジンラテックス:112.5g
SBRラテックス:38.7g
アンモニア水:7.1g
A液を22℃で、16時間熟成後、B液に混合し使用。
【0033】
処理コードの接着剤液付着率(接着剤処理後の未乾燥時)、乾燥後の樹脂付着率(JIS L1017に記載のディップピックアップ、a)溶解法、ナイロンの場合に準拠)、乾燥後の水分率(JIS L1017に準拠)、コード表面の樹脂カス発生程度(目視で観察)、及び接着力(JIS L1017に記載のTテストに準拠(A法、埋め込み長さ10mm))を評価した。結果を表1に示す。
【0034】
【表1】

【0035】
表に示される通り、比較例、従来例の処理コードは、熱処理中に接着剤が樹脂カスとなって取られるため、樹脂付着率が少なく、接着力が低い。また、近赤外線はエネルギー効率が良いため、コード内の残留水分が少なくなるまで乾燥することができ、接着性以外のコード特性も優れたものとすることができる。
【産業上の利用可能性】
【0036】
本発明に係る有機繊維コード熱処理方法は、ナイロン、ポリエステルなどのコードのシングルコードの熱処理、コードセッターによる複数本コードの同時処理に、またすだれ織物の熱処理にも使用が可能である。
【図面の簡単な説明】
【0037】
【図1】実施形態の熱処理装置を示す概略図である。
【図2】実施形態の乾燥室を示す概略図である。
【図3】赤外線の反射鏡の説明図である。
【図4】従来のディッピング装置を示す概略図である。
【符号の説明】
【0038】
12……乾燥室
C……有機繊維コード
C’……接着剤処理コード

【特許請求の範囲】
【請求項1】
有機繊維コードに接着剤液を塗布する接着剤塗布工程と、塗布された該有機繊維コードを乾燥する乾燥工程と、乾燥された該有機繊維コードを熱処理する熱処理工程とを有する有機繊維コードの熱処理方法において、
前記乾燥工程が、乾燥室中を走行する前記塗布された有機繊維コードに対する近赤外線の照射により行われる
ことを特徴とする有機繊維コードの熱処理方法。
【請求項2】
前記近赤外線が、0.7〜2.5μmの波長帯域にピークを有する
ことを特徴とする請求項1に記載の有機繊維コードの熱処理方法。
【請求項3】
有機繊維コードに接着剤液を塗布する接着剤塗布装置と、塗布された該有機繊維コードを乾燥する乾燥装置と、乾燥された該有機繊維コードを熱処理する熱処理装置とを有する有機繊維コードの熱処理装置において、
前記乾燥装置が、乾燥室中を走行する前記塗布された有機繊維コードに対して0.7〜2.5μmの波長帯域にピークを有する近赤外線を照射する近赤外線発生装置を備える
ことを特徴とする有機繊維コードの熱処理装置。
【請求項4】
前記近赤外線発生装置からの近赤外線の内で前記有機繊維コードに対して照射されなかった近赤外線を、前記有機繊維コードに向けて反射し照射する反射鏡を備える
ことを特徴とする請求項3に記載の有機繊維コードの熱処理装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【公開番号】特開2009−167550(P2009−167550A)
【公開日】平成21年7月30日(2009.7.30)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−5648(P2008−5648)
【出願日】平成20年1月15日(2008.1.15)
【出願人】(000003148)東洋ゴム工業株式会社 (2,711)
【Fターム(参考)】