説明

有機薄膜電界発光素子、照明装置およびそれに用いられる自己組織化単分子膜材料

【課題】低コスト化が期待できる高分子有機EL素子ならびに有機無機ハイブリッドLED、さらには界面劣化を軽減するためにさらなるコスト高になっている低分子有機EL素子に対して、それを根本的に解決する手法を提供する。
【解決手段】有機薄膜電界発光素子1において、主たるキャリアにとってエネルギー障壁となり、逆のキャリアにとってエネルギー障壁とならず、かつ逆のキャリアによるラジカルが安定な機能基を有する自己組織化単分子膜8を界面に配することで、デバイス特性を維持しつつ、劣化要因の一つである界面を、化学結合で強固なものとしさらには劣化を引き起こす堆積するキャリアを安定に長期間に保持する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、有機薄膜電界発光素子、照明装置およびそれに用いられる自己組織化単分子膜材料に関するものである。
【背景技術】
【0002】
少なくとも一層の発光性有機化合物層(有機エレクトロルミネッセンス層)が、陰極と陽極とに挟まれた構造の有機薄膜電界発光素子(以下、「有機EL素子」と称する。)は、無機EL素子に比べて印加電圧を大幅に低下させることができ、多彩な発光色の素子が作製可能である(例えば、非特許文献1〜3、特許文献1〜3参照)。
【0003】
現在、より高性能な有機EL素子を得るため、材料の開発・改良をはじめ、様々なデバイス構造が提案されており、活発な研究が行われている。
【0004】
また、この有機EL素子については既に様々な発光色の素子、また高輝度、高効率の素子が開発されており、表示装置の画素としての利用や光源としての利用など多種多様な実用化用途が検討されている。その中でも大きな課題の一つが長寿命化と低コスト化の両立である。低コスト化の最有力技術として考えられ続けているのが高分子有機EL素子である。しかしながら、長寿命化に課題を抱えており、その要因の一つが界面である。さらに、低コスト化の新たな手法として有機無機ハイブリッドLEDの開発(例えば、非特許文献4、特許文献4参照)も進められているが同様に界面の問題は回避できていない。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開平10−153967号公報
【特許文献2】特開平10−12377号公報
【特許文献3】特開平11−40358号公報
【特許文献4】特開2007−53286号公報
【非特許文献】
【0006】
【非特許文献1】Appl.Phys.Lett. 51(12),913,1987
【非特許文献2】Appl.Phys.Lett. 71(1),34,1997
【非特許文献3】Nature 357,477,1992
【非特許文献4】Appl.Phys.Lett. 89,183510,2006
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
そこで本発明の目的は、低コスト化が期待できる高分子有機EL素子ならびに有機無機ハイブリッドLED、さらには界面劣化を軽減するためにさらなるコスト高になっている低分子有機EL素子に対して、それを根本的に解決する手法を提供することで、低コストで高効率かつ長寿命の有機薄膜電界発光素子、この発光素子を備えた照明装置を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0008】
このような目的は、下記の本発明により達成される。
【0009】
(1)陽極および陰極と、前記陽極と前記陰極とに挟まれた1層または複数層の有機化合物層と、それら各層間に1層または複数層の主たるキャリアにとってエネルギー障壁となり逆のキャリアにとってエネルギー障壁とならない自己組織化単分子膜を有することを特徴とする有機薄膜電界発光素子により達成される。ここで示した“キャリア”とは電子もしくは正孔であり、“主たるキャリア”とは、その層もしくは界面において原理的に主成分となる側のキャリアを指す。例えば、陰極/電子輸送層界面であれば電子であり、発光層/正孔輸送層界面であれば正孔である。また、“エネルギー障壁がない”とは、単成分でのエネルギー準位から見積もられるエネルギー差が、そのキャリアにとって障壁となっていないことを示す。
【0010】
これにより、長寿命で優れた発光効率を発現できる低分子および高分子材料を有する有機薄膜電界発光素子が得られる。
【0011】
(2)陽極および陰極と、前記陽極と前記陰極とに挟まれた1層または複数層の有機化合物層と、少なくとも前記陽極と前記有機化合物層との間または前記陰極と前記有機化合物層との間に、少なくとも1種類以上の金属酸化物薄膜を有し、それら各層間に1層または複数層の主たるキャリアにとってエネルギー障壁となり逆のキャリアにとってエネルギー障壁とならないことを特徴とする自己組織化単分子膜を有することを特徴とする有機薄膜電界発光素子により達成される。
主たるキャリアが電子の場合のエネルギー図を図1に示す。本エネルギー図は有機無機ハイブリッドLEDを例として示しているが、これに限定されない。それぞれの四角形の底辺は最高被占軌道準位(HOMO)もしくは価電子帯(VB)の最高エネルギー準位を示し、上辺は最低空軌道準位(LUMO)もしくは伝導帯(CB)の最低エネルギー準位を示している。正孔の注入が十分であれば、正孔は電子注入性金属酸化物層6界面に蓄積される。自己組織化単分子膜を有さない従来型では有機化合物層4のラジカルカチオンが直接金属酸化物表面に接しているため前記有機化合物の劣化が進む。しかしながら、ラジカルカチオンが安定である部位を有する自己組織化単分子膜を電子注入性金属酸化物層6上に配した場合、ラジカルカチオンは直接金属酸化物表面に接することはなく、安定に局所電場を発生させることができる。また、この際、自己組織化単分子膜が正孔の注入されやすいエネルギー準位、つまりエネルギー障壁を有さない状態が実現でき、電子の注入できないエネルギー準位、つまりエネルギー障壁を有する状態が実現できれば、より好適に前記駆動は実現できる。なお、電子注入はトンネリングにより直接有機化合物層4に注入される。これにより、自己組織化単分子膜上でのキャリア再結合も防げる。主たるキャリアが正孔の場合はその逆である。
【0012】
(3)より好適には、前記金属酸化物薄膜界面上に自己組織化単分子膜が存在する有機薄膜電界発光素子により達成される。
【0013】
(4)より好適には、前記金属酸化物薄膜が酸化チタン薄膜を含む有機薄膜電界発光素子により達成される。
【0014】
これらにより原理的に封止構造を必要としない有機無機ハイブリッドLED構造を有した、低コストかつ長寿命で優れた発光効率を発現できる有機薄膜電界発光素子が得られる。
【0015】
(5)上記自己組織化単分子膜が一般式(1)れる自己組織化単分子膜用材料を用いることにより安価で長寿命かつ高効率の有機薄膜電界発光素子が得られる。
一般式
【0016】
【化1】

【0017】

但し、R,R,Rはアルコキシ基またはハロゲン原子であり、Xは連結基であり、Yは機能基である。Yは、主たるキャリアが電子である界面においてはラジカルカチオンが安定な構造であり、主たるキャリアが正孔である界面においてはラジカルアニオンが安定な構造である官能基を表す。
【0018】
(6)上記Siそして連結基X、機能基Yにつながる分子鎖の全長が2nm以下である自己組織化単分子膜材料を用いた場合、良好に主たるキャリアをトンネリング機構により注入できることから、より安価で長寿命かつ高効率の有機薄膜電界発光素子が得られる。
【0019】
(7)これらの有機薄膜電界発光素子を備える照明装置が得られる。
【0020】
これにより、低コストかつ長寿命で優れた発光効率を発現できる照明装置が得られる。
【発明の効果】
【0021】
本発明によれば、安価で高効率かつ長寿命な有機薄膜発光素子、そしてそれを具備する照明装置が提供できる。
【図面の簡単な説明】
【0022】
【図1】本発明における有機無機ハイブリッドLED構造を有した有機薄膜電界発光素子の場合のエネルギー図である。
【図2】本発明における有機無機ハイブリッドLED構造を有した有機薄膜電界発光素子の実施形態1の縦断面を模式的に示す図である。
【図3】本発明における高分子材料を用いた有機薄膜電界発光素子の実施形態2の縦断面を模式的に示す図である。
【図4】実施例1および比較例1−1および1−2で製造された発光素子に対して、初期の輝度の評価を行った結果を示すグラフである。
【図5】実施例1および比較例1−1および1−2で製造された発光素子に対して、定電圧駆動での電流半減寿命の評価を行った結果を示すグラフである。
【図6】実施例2および比較例2で製造された発光素子に対して、初期の輝度の評価を行った結果を示すグラフである。
【図7】実施例2および比較例2で製造された発光素子に対して、定電圧駆動での電流半減寿命の評価を行った結果を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0023】
以下、本発明の有機薄膜電界発光素子、照明装置を図面に基づき好適な実施形態について説明する。
(実施の形態1)
図2は、本発明における有機無機ハイブリッドLED構造を有した有機薄膜電界発光素子の場合のエネルギー図である。図3は本発明における高分子有機EL構造を有した有機薄膜電界発光素子の場合のエネルギー図である。ここでは例として有機無機ハイブリッド型薄膜電界発光素子について説明する。
【0024】
図2に示す発光素子(エレクトロルミネッセンス素子)1は、陰極(一方の電極)3と、陽極(他方の電極)5と、陰極3と陽極5との間(一対の電極間)に、有機化合物層4が介挿され、さらに、有機化合物層4と陽極5との間に正孔注入性金属酸化物層7が、有機化合物層4と陰極3との間に電子注入性金属酸化物層6がそれぞれ設けられてなるものである。そして、発光素子1は、その全体が基板2上に設けられている。この発光素子はこれで完成する。ここに封止構造は原理的には必要としない。しかしながら、電極の絶縁性を維持するなどの意味合いから封止構造を用いても何ら支障はない。
【0025】
基板2は、発光素子1の支持体となるものであり、さらにここでは陰極が直接作製される支持体でもある。本実施形態の発光素子1は、光の取り出し方向を制限されるものではなく、基板2側から光を取り出す構成(ボトムエミッション型)の場合と、基板2とは反対側の陽極5から光を取り出す構成(トップエミッション型)の場合と、その両方が可能な場合(透明型)の3つが考えられる。ボトムエミッション型の場合、基板2および陰極3は、それぞれ、実質的に透明(無色透明、着色透明または半透明)とされている。
【0026】
基板2の構成材料としては、例えば、ポリエチレンテレフタレート、ポリエチレンナフタレート、ポリプロピレン、シクロオレフィンポリマー、ポリアミド、ポリエーテルサルフォン、ポリメチルメタクリレート、ポリカーボネート、ポリアリレートのような樹脂材料や、石英ガラス、ソーダガラスのようなガラス材料等が挙げられ、これらのうちの1種または2種以上を組み合わせて用いることができる。
【0027】
このような基板2の平均厚さは、特に限定されないが、0.1〜30mm程度であるのが好ましく、0.1〜10mm程度であるのがより好ましい。
【0028】
なお、トップエミッション型の場合、基板2には、透明基板および不透明基板のいずれも用いることができる。
【0029】
不透明基板としては、例えば、アルミナのようなセラミックス材料で構成された基板、ステンレス鋼のような金属基板の表面に酸化膜(絶縁膜)を形成したもの、樹脂材料で構成された基板等が挙げられる。
【0030】
本構造における陰極3は、通常の有機EL素子と異なり仕事関数を小さくするという制約を受けない。つまり、仕事関数の大きな材料を用いることができ、大気下での安定性を獲得するためにはその方が望ましい。その他に求められる特性としては、導電性に優れていること、そしてボトムエミッション型および透明型の場合、その透過性に優れていることである。これらは陽極5においても同様で、仕事関数が大きく、導電性に優れ、トップエミッション型および透明型の場合、透過性に優れている材料を用いることが望ましい。
【0031】
陰極3および陽極5の構成材料としては、例えば、ITO(インジウム酸化錫)、IZO(インジウム酸化亜鉛)、FTO(フッ素酸化錫)、In、SnO、Sb含有SnO、Al含有ZnO等の酸化物、Au、Pt、Ag、Cuまたはこれらを含む合金等が挙げられ、これらのうちの1種または2種以上を組み合わせて用いることができる。
【0032】
このような陰極3の平均厚さは、特に限定されないが、10〜200nm程度であるのが好ましく、30〜150nm程度であるのがより好ましい。また、Au、Pt、Ag、Cu等の不透過な材料を用いる場合でも、例えば平均厚さを10〜30nm程度にすることで、ボトムエミッション型および透明型の陰極として使用することができる。
【0033】
一方、陽極5の平均厚さは、特に限定されないが、10〜10000nm程度であるのが好ましく、30〜150nm程度であるのがより好ましい。また、Au、Pt、Ag、Cu等の不透過な材料を用いる場合でも、例えば平均厚さを10〜30nm程度にすることで、トップエミッション型および透明型の陽極として使用することができる。
【0034】
有機化合物層4は、発光を担う層であり、少なくとも発光材料を含む層である。それゆえ、発光材料と正孔輸送性有機材料との混合もしくは積層でも構わない。発光材料の構成材料としては、各種高分子の発光材料(高分子材料)、各種低分子の発光材料(低分子材料)を単独または組み合わせて用いることができる。
【0035】
発光材料としては、各種高分子の発光材料(高分子材料)、各種低分子の発光材料(低分子材料)を単独または組み合わせて用いることができる。
【0036】
高分子の発光材料としては、例えば、トランス型ポリアセチレン、シス型ポリアセチレン、ポリ(ジ−フェニルアセチレン)(PDPA)、ポリ(アルキル,フェニルアセチレン)(PAPA)のようなポリアセチレン系化合物、ポリ(パラ−フェンビニレン)(PPV)、ポリ(2,5−ジアルコキシ−パラ−フェニレンビニレン)(RO−PPV)、シアノ−置換−ポリ(パラ−フェンビニレン)(CN−PPV)、ポリ(2−ジメチルオクチルシリル−パラ−フェニレンビニレン)(DMOS−PPV)、ポリ(2−メトキシ,5−(2’−エチルヘキソキシ)−パラ−フェニレンビニレン)(MEH−PPV)のようなポリパラフェニレンビニレン系化合物、ポリ(3−アルキルチオフェン)(PAT)、ポリ(オキシプロピレン)トリオール(POPT)のようなポリチオフェン系化合物、ポリ(9,9−ジアルキルフルオレン)(PDAF)、ポリ(ジオクチルフルオレン−アルト−ベンゾチアジアゾール)(F8BT)、α,ω−ビス[N,N’−ジ(メチルフェニル)アミノフェニル]−ポリ[9,9−ビス(2−エチルヘキシル)フルオレン−2,7−ジル](PF2/6am4)、ポリ(9,9−ジオクチル−2,7−ジビニレンフルオレニル−オルト−コ(アントラセン−9,10−ジイル)のようなポリフルオレン系化合物、ポリ(パラ−フェニレン)(PPP)、ポリ(1,5−ジアルコキシ−パラ−フェニレン)(RO−PPP)のようなポリパラフェニレン系化合物、ポリ(N−ビニルカルバゾール)(PVK)のようなポリカルバゾール系化合物、ポリ(メチルフェニルシラン)(PMPS)、ポリ(ナフチルフェニルシラン)(PNPS)、ポリ(ビフェニリルフェニルシラン)(PBPS)のようなポリシラン系化合物、さらには特願2010−28273号に記載のホウ素化合物系高分子材料等が挙げられる。
【0037】
一方、低分子の発光材料としては、例えば、配位子に下記化2で示す2,2’−ビピリジン−4,4’−ジカルボン酸を持つ、3配位のイリジウム錯体、ファクトリス(2−フェニルピリジン)イリジウム(Ir(ppy))、8−ヒドロキシキノリン アルミニウム(Alq)、トリス(4−メチル−8キノリノレート) アルミニウム(III)(Almq)、8−ヒドロキシキノリン 亜鉛(Znq)、(1,10−フェナントロリン)−トリス−(4,4,4−トリフルオロ−1−(2−チエニル)−ブタン−1,3−ジオネート)ユーロピウム(III)(Eu(TTA)(phen))、2,3,7,8,12,13,17,18−オクタエチル−21H,23H−ポルフィン プラチナム(II)のような各種金属錯体、ジスチリルベンゼン(DSB)、ジアミノジスチリルベンゼン(DADSB)のようなベンゼン系化合物、ナフタレン、ナイルレッドのようなナフタレン系化合物、フェナントレンのようなフェナントレン系化合物、クリセン、6−ニトロクリセンのようなクリセン系化合物、ペリレン、N,N’−ビス(2,5−ジ−t−ブチルフェニル)−3,4,9,10−ペリレン−ジ−カルボキシイミド(BPPC)のようなペリレン系化合物、コロネンのようなコロネン系化合物、アントラセン、ビススチリルアントラセンのようなアントラセン系化合物、ピレンのようなピレン系化合物、4−(ジ−シアノメチレン)−2−メチル−6−(パラ−ジメチルアミノスチリル)−4H−ピラン(DCM)のようなピラン系化合物、アクリジンのようなアクリジン系化合物、スチルベンのようなスチルベン系化合物、2,5−ジベンゾオキサゾールチオフェンのようなチオフェン系化合物、ベンゾオキサゾールのようなベンゾオキサゾール系化合物、ベンゾイミダゾールのようなベンゾイミダゾール系化合物、2,2’−(パラ−フェニレンジビニレン)−ビスベンゾチアゾールのようなベンゾチアゾール系化合物、ビスチリル(1,4−ジフェニル−1,3−ブタジエン)、テトラフェニルブタジエンのようなブタジエン系化合物、ナフタルイミドのようなナフタルイミド系化合物、クマリンのようなクマリン系化合物、ペリノンのようなペリノン系化合物、オキサジアゾールのようなオキサジアゾール系化合物、アルダジン系化合物、1,2,3,4,5−ペンタフェニル−1,3−シクロペンタジエン(PPCP)のようなシクロペンタジエン系化合物、キナクリドン、キナクリドンレッドのようなキナクリドン系化合物、ピロロピリジン、チアジアゾロピリジンのようなピリジン系化合物、2,2’,7,7’−テトラフェニル−9,9’−スピロビフルオレンのようなスピロ化合物、フタロシアニン(HPc)、銅フタロシアニンのような金属または無金属のフタロシアニン系化合物、さらには特開2009−155325号および特願2010−28273号に記載のホウ素化合物材料等が挙げられる。
高分子有機薄膜電界発光素子の場合、正孔注入/輸送層として用いられる正孔輸送性有機材料は、有機化合物層内での正孔の輸送を、促進させるものである。
【0038】
この正孔輸送性有機材料には、各種p型の高分子材料や、各種p型の低分子材料を単独または組み合わせて用いることができる。
【0039】
p型の高分子材料(有機ポリマー)としては、例えば、ポリアリールアミン、フルオレン−アリールアミン共重合体、フルオレン−ビチオフェン共重合体、ポリ(N−ビニルカルバゾール)、ポリビニルピレン、ポリビニルアントラセン、ポリチオフェン、ポリアルキルチオフェン、ポリヘキシルチオフェン、ポリ(p−フェニレンビニレン)、ポリチニレンビニレン、ピレンホルムアルデヒド樹脂、エチルカルバゾールホルムアルデヒド樹脂またはその誘導体等が挙げられる。
【0040】
また、前記化合物は、他の化合物との混合物として用いることもできる。一例として、ポリチオフェンを含有する混合物としては、ポリ(3,4−エチレンジオキシチオフェン/スチレンスルホン酸)(PEDOT/PSS)等が挙げられる。
【0041】
一方、p型の低分子材料としては、例えば、1,1−ビス(4−ジ−パラ−トリアミノフェニル)シクロへキサン、1,1’−ビス(4−ジ−パラ−トリルアミノフェニル)−4−フェニル−シクロヘキサンのようなアリールシクロアルカン系化合物、4,4’,4’’−トリメチルトリフェニルアミン、N,N,N’,N’−テトラフェニル−1,1’−ビフェニル−4,4’−ジアミン、N,N’−ジフェニル−N,N’−ビス(3−メチルフェニル)−1,1’−ビフェニル−4,4’−ジアミン(TPD1)、N,N’−ジフェニル−N,N’−ビス(4−メトキシフェニル)−1,1’−ビフェニル−4,4’−ジアミン(TPD2)、N,N,N’,N’−テトラキス(4−メトキシフェニル)−1,1’−ビフェニル−4,4’−ジアミン(TPD3)、N,N’−ジ(1−ナフチル)−N,N’−ジフェニル−1,1’−ビフェニル−4,4’−ジアミン(α−NPD)、TPTEのようなアリールアミン系化合物、N,N,N’,N’−テトラフェニル−パラ−フェニレンジアミン、N,N,N’,N’−テトラ(パラ−トリル)−パラ−フェニレンジアミン、N,N,N’,N’−テトラ(メタ−トリル)−メタ−フェニレンジアミン(PDA)のようなフェニレンジアミン系化合物、カルバゾール、N−イソプロピルカルバゾール、N−フェニルカルバゾールのようなカルバゾール系化合物、スチルベン、4−ジ−パラ−トリルアミノスチルベンのようなスチルベン系化合物、OZのようなオキサゾール系化合物、トリフェニルメタン、m−MTDATAのようなトリフェニルメタン系化合物、1−フェニル−3−(パラ−ジメチルアミノフェニル)ピラゾリンのようなピラゾリン系化合物、ベンジン(シクロヘキサジエン)系化合物、トリアゾールのようなトリアゾール系化合物、イミダゾールのようなイミダゾール系化合物、1,3,4−オキサジアゾール、2,5−ジ(4−ジメチルアミノフェニル)−1,3,4,−オキサジアゾールのようなオキサジアゾール系化合物、アントラセン、9−(4−ジエチルアミノスチリル)アントラセンのようなアントラセン系化合物、フルオレノン、2,4,7,−トリニトロ−9−フルオレノン、2,7−ビス(2−ヒドロキシ−3−(2−クロロフェニルカルバモイル)−1−ナフチルアゾ)フルオレノンのようなフルオレノン系化合物、ポリアニリンのようなアニリン系化合物、シラン系化合物、1,4−ジチオケト−3,6−ジフェニル−ピロロ−(3,4−c)ピロロピロールのようなピロール系化合物、フローレンのようなフローレン系化合物、ポルフィリン、金属テトラフェニルポルフィリンのようなポルフィリン系化合物、キナクリドンのようなキナクリドン系化合物、フタロシアニン、銅フタロシアニン、テトラ(t−ブチル)銅フタロシアニン、鉄フタロシアニンのような金属または無金属のフタロシアニン系化合物、銅ナフタロシアニン、バナジルナフタロシアニン、モノクロロガリウムナフタロシアニンのような金属または無金属のナフタロシアニン系化合物、N,N’−ジ(ナフタレン−1−イル)−N,N’−ジフェニル−ベンジジン、N,N,N’,N’−テトラフェニルベンジジンのようなベンジジン系化合物等が挙げられる。
【0042】
このような有機化合物層4の平均厚さは、特に限定されないが、10〜150nm程度であるのが好ましく、40〜100nm程度であるのがより好ましい。
【0043】
有機化合物層4は、正孔注入性金属酸化物層7から注入された正孔を輸送するとともに、電子注入性金属酸化物層6から電子を受け取る。そして正孔と電子とが再結合し、この再結合に際して放出されたエネルギーによりエキシトン(励起子)が生成し、エキシトンが基底状態に戻る際にエネルギー(蛍光やりん光)を放出(発光)する。
これらの中でも、有機化合物層4の構成材料としては、高分子の発光材料を主とするものが好ましい。液相プロセスにより成膜が可能な高分子材料は、電子注入性金属酸化物層6とより多くの接触面を作りうる。これにより、より発光効率の優れたものとすることができる。
特に、有機化合物層4の構成材料としては、ポリフルオレンまたその誘導体を主成分とする高分子、もしくは特開2009−155325号記載のホウ素化合物をユニットとする高分子、さらには特願2010−28273号記載の高分子を主成分とする発光材料が好ましい。これにより、前記効果をより向上させることができる。
【0044】
電子注入性金属酸化物層6は陰極3より電子を注入し有機化合物層4へと輸送する。
【0045】
このような電子注入性金属酸化物層6を構成する金属酸化物としては、伝導バンドのエネルギー準位が高いものが好ましく、特に限定されないが、酸化チタン(TiO)、酸化亜鉛(ZnO)、酸化タングステン(WO)、酸化二オブ(Nb)、酸化鉄(Fe)、酸化錫(SnO)等があげられ、これらのうち1種または2種以上を組み合わせ用いることができる。
【0046】
この電子注入性金属酸化物層6の成膜方法については、特に制限されるものではなく、気相成膜法であるプラズマCVD、熱CVD、レーザーCVD等の化学蒸着法(CVD)、真空蒸着、スパッタリング、イオンプレーティング等の乾式メッキ法、溶射法、そして液相成膜法である電解メッキ、浸漬メッキ、無電解メッキ等の湿式メッキ法、ゾル・ゲル法、MOD法、スプレイ熱分解法、微粒子分散液を用いたドクターブレイド法、スピンコート法、インクジェット法、スクリーンプリンティング法などの印刷技術を用いることができる。本構造では、スプレイ熱分解法を用いた。
【0047】
このような電子注入性金属酸化物層6の平均厚さは、特に限定されないが、1〜1000nm程度であるのが好ましく、20〜200nm程度であるのがより好ましい。
【0048】
正孔注入性金属酸化物層7は陽極5より正孔を注入し有機化合物層4へと輸送する。
【0049】
このような正孔注入性金属酸化物層7を構成する金属酸化物としては、仕事関数が大きな化合物が好ましく、特に限定されないが、例えば、酸化バナジウム(V)、酸化モリブテン(MoO)、酸化ルテニウム(RuO)等が挙げられ、これらのうちの1種または2種以上を組み合わせて用いることができる。
【0050】
これらの中でも、特に、酸化バナジウムもしくは酸化モリブテンを主成分とするものが好適である。酸化バナジウムもしくは酸化モリブテンを主材料として構成することにより、正孔注入性金属酸化物層7を前述した能力に特に優れたものとすることができる。
【0051】
また、特に酸化バナジウムもしくは酸化モリブテンは、それ自体の正孔輸送性が高いため、陽極5から有機化合物層4への正孔の注入効率が低下するのを好適に防止することもできるという利点がある。
【0052】
この正孔注入性金属酸化物層7の成膜方法については、特に制限されるものではなく、気相成膜法であるプラズマCVD、熱CVD、レーザーCVD等の化学蒸着法(CVD)、真空蒸着、スパッタリング、イオンプレーティング等の乾式メッキ法、溶射法、そして液相成膜法である電解メッキ、浸漬メッキ、無電解メッキ等の湿式メッキ法、ゾル・ゲル法、MOD法、スプレイ熱分解法、微粒子分散液を用いたドクターブレイド法、スピンコート法、インクジェット法、スクリーンプリンティング法などの印刷技術を用いることができる。本構造では、真空蒸着法を用いた。
【0053】
このような正孔注入性金属酸化物層7の平均厚さは、特に限定されないが、1〜1000nm程度であるのが好ましく、5〜50nm程度であるのがより好ましい。
【0054】
これらが有機無機ハイブリッドLEDの好適な構造である。
【0055】
本発明では、本構造の電子注入性金属酸化物層6と有機化合物層4の界面に自己組織化単分子膜を形成することを特徴としている。
【0056】
自己組織化単分子膜の材料は、耐酸化性、耐還元性が条件であり、以下に詳細を示す。
【0057】
,R,Rは同一であっても異なっていても良い。メトキシ基やエトキシ基などのアルコキシド、塩素やフッ素などのハロゲンが考えられる。
【0058】
Xは、機能基との間をつなぐ連結基で、該連結基としては、炭素―ヘテロ元素結合を有してもよい脂肪族炭化水素基若しくは置換されていてもよいアリーレン基が挙げられる。
ここで、脂肪族炭化水素基としては、炭素数が1〜20の直鎖、分枝若しくは環状の、飽和若しくは不飽和の炭化水素基が挙げられる。
飽和炭化水基の具体例としては、例えば、メチレン基、エチレン基、トリメチレン基、テトラメチレン基、ペンタメチレン基、ヘキサメチレン基、ヘプタメチレン基、オクタメチレン基、ノナメチレン基、デカメチレン基、ウンデカメチレン基、ドデカメチレン基、オクタデシル基、メチルメチレン基、ジメチルメチレン基、メチルエチレン基、メチレンエチレン基、エチルエチレン基、1,2−ジメチルエチレン基、1−メチルトリメチレン基、1−メチルテトラメチレン基、1,3−ジメチルトリメチレン基、1−エチル−4−メチル−テトラメチレン基、シクロヘキシレン基等が挙げられる。不飽和炭化水素基の具体例としては、例えば、ビニレン基、エチニレン基、プロペニレン基、2−ブテニレン基、2−ブチニレン基、1−ビニルエチレン基等が挙げられる。さらにこれら炭化水素基はその主鎖中に炭素―ヘテロ元素結合を有していてもよい。
例えば、
【0059】
【化2】

【0060】

等の結合を連結基中に1個または2個以上含んでいてもよい。
置換されていてもよいアリーレン基は、置換基を有していてもよいベンゼン環を1個または2個以上有するアリーレン基、置換基を有していてもよい2個以上のベンゼン環が縮環したアリーレン基又は2価の基を介して置換基を有していてもよい2個以上のベンゼン環が連結されたビスアリーレン基、さらに置換基を有していてもよい複素芳香環環基が挙げられ、具体的には
【0061】
【化3】

【0062】

(式中、Rは置換基を示し、n個のRは互いに同一でも、異なってもよい。nは0〜8の整数を示す。Pは2価の基を示す。Qは−NH−,−N(Ph)−,−N(Et)−,−O−,−S−を表す。)等が挙げられる。
ここで、Rとしては、アルキル基、アルケニル基、アリール基、アルコキシル基,アミノ基が好ましい。アルキル基としては、メチル基、エチル基、プロピル基、ブチル基、tert-ブチル基等が挙げられ、アルケニル基としては、ビニル基、アリル基、2−ブテニル基等が挙げられ、
アリール基としては、フェニル基、キシリル基、メシチル基等が挙げられ、アルコキシ基としてはメトキシ基、エトキシ基等が挙げられ、アミノ基としてはジエチルアミノ基、ジフェニルアミノ基等が挙げられる。また、2価の基であるPとしては、−CH−、−C(CH−、−CHCH−、−CH(C)−、−CH(C)−、−C(cyclo-C10)−、−CH(C64)−、−C(C−、−C(C17−、−O−、−S−、−SO−、−SO−、−SO−、−CO−、−COO−,−NH−、−N(Ph)−,−N(C)−,−CONH−、−NHCONH−等が挙げられる。
また脂肪族炭化水素基とアリーレン基が直接または炭素−ヘテロ元素結合を介して連結したものも連結基Xとみなすことができる。
【0063】
Yは、機能基であり、素子中でキャリアを溜め込む(維持する)部位である。そのため、電子または正孔を付加して維持できる分子構造を持つものが候補となる。例えば、主たるキャリアが電子である(陰極)側ラジカルカチオンが安定な材料(A)であり、主たるキャリアが正孔である(陽極)側ラジカルアニオンが安定な材料(B)である。また、ラジカルカチオン、ラジカルアニオンどちらも安定な材料(C)も挙げられる。具体的には、電子輸送材料として用いられている材料、すなわちピリジンやキノリン、オキサジアゾール、トリアゾール、シロール、ベンゾチアジアゾール、ベンゾイミダゾール、さらには、さらには特開2009−155325号および特願2010−28273号記載のホウ素化合物材料などは(A)の候補であり、正孔輸送材料として用いられている材料、すなわちトリフェニルアミン、チオフェンなどは(B)の候補である。さらに両極性材料として用いられている材料すなわちカルバゾールなどは(C)の候補である。
また、Yは連結基Xに対して複数置換していてもよい。
【0064】
一例として、ジオクチルフルオレンをYに持つF8TESの合成方法を以下に示す。
【0065】
【化4】

【0066】

非特許文献(Dalton Transactions,2003年,p.74−84)を参考に合成した2‐ブロモ−9,9−ジオクチルフルオレン(5.0g,10.6mmol)を含むジエチルエーテル溶液(53mL)を−78℃で攪拌しながらノルマルブチルリチウムのヘキサン溶液(1.56M,6.8mL,10.6mmol)を滴下した。この溶液を−78℃で1時間攪拌し、室温まで昇温させさらに2時間攪拌した。再び−78℃に冷却し、別の容器に調整したクロロトリエトキシシラン(4.23g,21.3mmol)のジエチルエーテル溶液(80mL)に−78℃でキャヌラを用いてゆっくり加えた。この反応溶液を−78℃で1時間攪拌した後、室温で終夜攪拌した。再び−78℃に冷却し、少量の水を加えて反応を停止させた。ヘキサンを加え、有機層を水で洗浄し硫酸マグネシウムで乾燥した。ろ過後、ろ液をロータリーエバポレーターで濃縮し残渣をシリカゲルカラムクロマトグラフィー(ヘキサン:酢酸エチル=20:1)で精製することにより2−トリエトキシシリル−9,9−ジオクチルフルオレン(F8TES)を0.33g得た。(収率6%)
製膜の方法として、スピンコート法、浸漬法、超音波法などを選ぶことができる。電子注入性金属酸化物層6と結合を担うR,R,RおよびY等により最適な手法は変化するが、単分子層が形成できる最適な手法を選ぶ。
本構造では特に必要としないが、封止構造の構成材料としては、一般的に用いられる封止材料を用いることができる。例えば、Al、Au、Cr、Nb、Ta、Tiまたはこれらを含む合金、酸化シリコン、各種樹脂材料等を挙げることができる。
【0067】
このような発光素子1は、例えば、次のようにして製造することができる。
【0068】
以下では、有機化合物層4を、高分子材料を主材料として構成する場合を代表に説明する。
【0069】
[1] まず、基板2を用意し、この基板2上に陰極3を形成する。
【0070】
陰極3は、例えば、プラズマCVD、熱CVD、レーザーCVD等の化学蒸着法(CVD)、真空蒸着、スパッタリング、イオンプレーティング等の乾式メッキ法、溶射法のような気相成膜法、電解メッキ、浸漬メッキ、無電解メッキ等の湿式メッキ法、ゾル・ゲル法、MOD法のような液相成膜法、金属箔の接合等を用いて形成することができる。FTOはスパッタ法が難しく、CVD法やスプレイ熱分解法が用いられる。
【0071】
[2] 次に、陰極3上を洗浄の後、電子注入性金属酸化物層6を形成する。
【0072】
洗浄方法は、中性洗剤を用いた水系溶剤、イソプロパノールなどのアルコール系溶剤、アセトンなどの有機系溶剤による洗浄、加熱、さらにはUVオゾンを用いた洗浄などが、単独もしくは複数用いることができる。電子注入性金属酸化物層6は、例えば、前述のような気相成膜法や液相成膜法等を用いて形成することができる。
【0073】
[3] 次に、電子注入性金属酸化物層6の上面を洗浄した後、自己組織化単分子膜8を形成する。洗浄方法は[2]に同じ。中でも自己組織化単分子膜形成を良好に行うためにUVオゾン洗浄が公的に用いられる。自己組織化単分子膜材料は、一般式(1)をアルコール極性有機溶剤で希釈し、スピンコートなどの前期製膜方法で製膜後、前記希釈溶剤でリンスし、さらに同希釈溶剤で超音波洗浄を行う。その後、60℃〜180℃の加熱による固定化工程を経て、自己組織化単分子膜8は形成される。
【0074】
[4] 次に、自己組織化単分子膜8の上面に、有機化合物層4として発光性の高分子材料を形成する。もちろん、この中に正孔輸送性材料を混ぜることも可能だし、先に発光性高分子材料を形成しておき、その上に正孔輸送材料を形成する積層も可能である。ここでは単層成膜の例を示す。積層はこれを繰り返すことによって実現できる。
【0075】
まず、有機化合物層4を構成する高分子材料を溶媒(液状媒体)に溶解して液状材料を調製する。
【0076】
溶媒としては、例えば、硝酸、硫酸、アンモニア、過酸化水素、水、二硫化炭素、四塩化炭素、エチレンカーボネイト等の無機溶媒や、メチルエチルケトン(MEK)、アセトン、ジエチルケトン、メチルイソブチルケトン(MIBK)、メチルイソプロピルケトン(MIPK)、シクロヘキサノン等のケトン系溶媒、メタノール、エタノール、イソプロパノール、エチレングリコール、ジエチレングリコール(DEG)、グリセリン等のアルコール系溶媒、ジエチルエーテル、ジイソプロピルエーテル、1,2−ジメトキシエタン(DME)、1,4−ジオキサン、テトラヒドロフラン(THF)、テトラヒドロピラン(THP)、アニソール、ジエチレングリコールジメチルエーテル(ジグリム)、ジエチレングリコールエチルエーテル(カルビトール)等のエーテル系溶媒、メチルセロソルブ、エチルセロソルブ、フェニルセロソルブ等のセロソルブ系溶媒、ヘキサン、ペンタン、ヘプタン、シクロヘキサン等の脂肪族炭化水素系溶媒、トルエン、キシレン、ベンゼン等の芳香族炭化水素系溶媒、ピリジン、ピラジン、フラン、ピロール、チオフェン、メチルピロリドン等の芳香族複素環化合物系溶媒、N,N−ジメチルホルムアミド(DMF)、N,N−ジメチルアセトアミド(DMA)等のアミド系溶媒、クロロベンゼン、ジクロロメタン、クロロホルム、1,2−ジクロロエタン等のハロゲン化合物系溶媒、酢酸エチル、酢酸メチル、ギ酸エチル等のエステル系溶媒、ジメチルスルホキシド(DMSO)、スルホラン等の硫黄化合物系溶媒、アセトニトリル、プロピオニトリル、アクリロニトリル等のニトリル系溶媒、ギ酸、酢酸、トリクロロ酢酸、トリフルオロ酢酸等の有機酸系溶媒のような各種有機溶媒、または、これらを含む混合溶媒等が挙げられる。
【0077】
これらの中でも、溶媒としては、非極性溶媒が好適であり、例えば、キシレン、トルエン、シクロヘキシルベンゼン、ジハイドロベンゾフラン、トリメチルベンゼン、テトラメチルベンゼン等の芳香族炭化水素系溶媒、ピリジン、ピラジン、フラン、ピロール、チオフェン、メチルピロリドン等の芳香族複素環化合物系溶媒、ヘキサン、ペンタン、ヘプタン、シクロヘキサン等の脂肪族炭化水素系溶媒等が挙げられ、これらを単独または混合して用いることができる。
【0078】
次に、この液状材料を電子注入性金属酸化物層6上に供給して、液状被膜を形成する。
【0079】
この液状材料の供給方法としては、例えば、スピンコート法、キャスティング法、マイクログラビアコート法、グラビアコート法、バーコート法、ロールコート法、ワイヤーバーコート法、ディップコート法、スプレーコート法、スクリーン印刷法、フレキソ印刷法、オフセット印刷法、インクジェット印刷法等の各種塗布法を用いることができる。かかる塗布法によれば、液状被膜を比較的容易に形成することができる。
【0080】
次に、液状被膜中から溶媒を除去する。
【0081】
[5] 次に、有機化合物層4の上に、正孔注入性金属酸化物層7を形成する。
【0082】
正孔注入性金属酸化物層7は、例えば、前述のような気相成膜法や液相成膜法等を用いて形成することができる。
【0083】
これらの中でも、正孔注入性金属酸化物層7は、気相成膜法を用いて形成するのがより好ましい。気相成膜法によれば、有機化合物層4の表面を壊すことなく清浄にかつ陽極5と接触よく形成することができ、その結果、前述したような効果がより顕著なものとなる。
【0084】
[6] 次に、最終工程として正孔注入性金属酸化物層7上に陽極5を形成する。
【0085】
陽極5は、例えば、真空蒸着法、スパッタリング法、金属箔の接合等を用いて形成することができる。
【0086】
これで、本構造は完成だが、もし行うのであれば、この後封止工程を行えばよい。
【0087】
以上のような工程を経て、本発明の発光素子1が製造される。
【0088】
このような発光素子1は、例えば光源等として使用することができる。
(実施の形態2)
基本形態および多くの製造方法は、実施の形態1に準ずるので、有機化合物層4を、高分子材料を主材料として構成する場合を代表に発光素子11の製造方法を実施の形態1とは異なる部分を中心に例示する。
【0089】
[1] まず、基板2を用意し、この基板2上に陽極5を形成する。
【0090】
陽極5は、実施の形態1[1]であげた同様の製膜方法を用いることができる。
【0091】
[2] 次に、陽極5上に正孔注入/輸送層17を形成する。
【0092】
正孔注入/輸送層17の形成材料としては、特に3,4−ポリエチレンジオシチオフェン/ポリスチレンスルフォン酸(PEDOT/PSS)の分散液、すなわち、ポリスチレンスルフォン酸に3,4−ポリエチレンジオキシチオフェンを混合させ、さらにこれを水に分散させた分散液が好適に用いられる。
【0093】
なお、正孔注入/輸送層17の形成材料としては、前記のものに限定されることなく種々のものが使用可能である。例えば、ポリスチレン、ポリピロール、ポリアニリン、ポリアセチレンやその誘導体などを、適宜な分散媒、例えば前記のポリスチレンスルフォン酸に分散させたものなどが使用可能である。
【0094】
[3] 次に、正孔注入/輸送層17の上面に、自己組織化単分子膜8を形成する。実施の形態1とは異なり、UVオゾン洗浄のみを行い、自己組織化単分子膜8が形成されやすい環境を用意する。自己組織化単分子膜材料の希釈溶剤も正孔注入/輸送層17の多くが極性溶剤(水系、アルコール系溶剤)に可溶なため、非極性溶剤により希釈をし、リンスも同非極性溶剤を用いる。他の工程は実施の形態1[3]に同じ。
【0095】
[4] 実施の形態1[4]に同じ。
【0096】
[5] 次に、有機化合物層4の上に、陰極3を形成する。
【0097】
陰極3は、例えば、真空蒸着法、スパッタリング法、金属箔の接合等を用いて形成することができる。陰極には、実施の形態1では用いない仕事関数の小さな(4eV以下)の金属が好適に用いられる。
【0098】
これで、本構造は完成だが、もし行うのであれば、この後封止工程を行えばよい。
【0099】
以上のような工程を経て、本発明の発光素子11が製造される。
【0100】
このような発光素子11は、例えば光源等として使用することができる。
【実施例】
【0101】
次に、本発明の具体的実施例について説明する。
【0102】
1.発光素子の製造
(実施例1)
高分子材料を有機層に持つ実施の形態1の有機無機ハイブリッド型薄膜電界発光素子の作製方法を具体的に示す。
[1]市販されている平均厚さ0.7mmのITO付き透明ガラス基板を用意した。
[2]このITO電極上に、スパッタ法により、平均厚さ2nmの酸化チタン(TiO)層(電子注入性金属酸化物層)を形成した。
[3]
【0103】
【化5】

【0104】

で得られた自己組織化単分子材料F8TESをエタノールで1%に希釈した溶液を作製した。[2]で得られた基板をイソプロパノール、アセトンで洗浄後、UVオゾン洗浄を20分行い、上記1%溶液をスピンコート法(2000rpm)により製膜した。直後に、エタノールによりリンスを行い、さらに10分間エタノールによる超音波洗浄を行った。リンス後、ホットプレートにより90℃10分で固定化を行った。
[4]ADS社製ポリフルオレン誘導体ADS133YEを1%でキシレンに溶解させ、上記TiO層(電子注入性金属酸化物層)上に、スピンコート法(1000rpm)により塗布した後、乾燥させた。なお、液状材料の乾燥条件は、大気下、室温とした。これで有機化合物層が完成する。
[5]ここからの正孔注入性金属酸化物層の作製と陽極の作製工程は、真空蒸着機内で行う。ここで、有機化合物層の上に酸化モリブテン(MoO)層(正孔注入性金属酸化物層)を平均厚さ10nmで蒸着した。
[6][5]の連続工程で、平均厚さ30nmで金(Au)(陽極)を蒸着した。
【0105】
(実施例2)
[1]実施の形態2の高分子有機薄膜電界発光素子の作製方法を具体的に示す。
販されている平均厚さ0.7mmのITO付き透明ガラス基板を用意した。
[2][1]の基板を20分間のUVオゾン洗浄後、基板上に正孔注入/輸送材料として、ポリチオフェン誘導体であるH.C.スタルク株式会社製PEDOT:PSSを塗布した。ここでは、Baytron P AI4083を用い、スピンコート法(2000rpm)により製膜を行った。これを、大気下200℃、10分間の焼成により、膜化を行い正孔注入/輸送層17を形成した。
[3]自己組織化単分子材料B8TES
【0106】
【化6】

【0107】

をエタノールで1%に希釈した溶液を作製した。[2]で得られた正孔注入/輸送層が製膜された基板をUVオゾン洗浄20分した後、上記1%溶液をスピンコート法(2000rpm)により製膜した。直後に、トルエンによりリンスを行い、さらに10分間トルエンによる超音波洗浄を行った。リンス後、ホットプレートにより90℃10分で固定化を行った。
[4]ADS社製ポリフルオレン誘導体ADS133YEを1%でキシレンに溶解させ、上記TiO層(電子注入性金属酸化物層)上に、スピンコート法(1000rpm)により塗布した後、乾燥させた。なお、液状材料の乾燥条件は、大気下、室温とした。これで有機化合物層が完成する。
[5]陰極の作製工程は、真空蒸着機内で行う。有機化合物層上にカルシウムを平均厚さ10nmで、連続工程として平均厚さ200nmのアルミニウムを蒸着した。
(比較例1−1)
前記工程実施例1[3]を以下[3−2]の工程に変更する。それ以外は実施例1と同様に発光素子を製造した。つまり、分子内に分極を有する自己組織化単分子膜を有する有機無機ハイブリッド型薄膜電界発光素子を製造した。
[3−2]自己組織化単分子膜材料として信越化学工業製アミノプロピルトリメトキシシラン(APTMS)を用いる。
自己組織化単分子材料APTMSをメタノールで1%に希釈した溶液を作製した。[2]で得られた基板をイソプロパノール、アセトンで洗浄後、UVオゾン洗浄を20分行い、上記1%溶液1分間浸漬により製膜した。直後に、メタノールによりリンスを行い、さらに10分間メタノールによる超音波洗浄を行った。リンス後、ホットプレートにより90℃10分で固定化を行った。
【0108】
(比較例1−2)
前記工程実施例1[3]を省略した以外は実施例1と同様に発光素子を製造した。つまり、自己組織化単分子膜のみがない有機無機ハイブリッド型薄膜電界発光素子を製造した。
【0109】
(比較例2)
前記工程実施例2[3]を省略した以外は実施例2と同様に発光素子を製造した。つまり、自己組織化単分子膜のみがない高分子有機薄膜電界発光素子。
【0110】
2.評価
各実施例および比較例で製造した発光素子について、それぞれ、初期の輝度および定電圧駆動での電流半減寿命の評価を行った。
【0111】
輝度測定は、直流電源により、0Vから4Vに電圧を印加し、輝度計により測定することで行った。
【0112】
また、非特許文献(J.Am.Chem.Soc.127,10227,2005)などの結果から、自己組織化単分子膜のエネルギー準位はその機能基の値で近似できると想定すると、実施例1におけるF8TESは、5.7eVのHOMOと2.8eVのLUMOを有していることになる。また、実施例2におけるB8TESのHOMOは6.7eVであり、LUMOは3.8eVである。また、今回使用した有機化合物F8BTは、HOMOが5.9eVであり、LUMOが3.3eVである。実施例1における主たるキャリアである電子から見て、4.2eVのCBを持つTiOから自己組織化単分子膜F8TESへは1.4eVのエネルギー障壁が存在し、一方、逆のキャリアである正孔においては、F8BTからF8TESへはエネルギー障壁はない。同様に実施例2における主たるキャリアである正孔から見て、PEODT:PSSのHOMO(5.1eV)からB8TESのHOMOへは1.6eVへのエネルギー障壁が存在し、一方、逆のキャリアである電子においては、F8BTからB8TESへエネルギー障壁無しでのキャリア注入が可能である。また、比較例1−1で用いられるAPTMSは、絶縁体であるため電子、正孔ともに大きなエネルギー障壁が存在すると考えられる。なお、これら3つの自己組織化単分子膜材料は全て分子鎖の全長が2nm以下である。通常、トンネリングによるキャリア注入機構を想定した場合、2nm以下が良好であるとされており、このことから主たるキャリアは良好に注入される。
【0113】
結果を、それぞれ、図4〜図8に示す。
【0114】
図4および図6では各実施例および比較例の初期特性(電圧‐輝度)を示す。各実施例の発光素子は、いずれも、比較例の発光素子に比べて、同等もしくはそれ以上の輝度を示していることがわかる。このことは良好に電荷注入が行われており、消光が軽減されていることを示している。このことは自己組織化単分子膜が初期特性(輝度)に効果があることを示している。初期特性においては、比較例1−1で示した、カチオン安定性を示さず主たるキャリアそしてその逆のキャリアにおいてもエネルギー障壁のある自己組織化単分子膜APTMSでも同等の効果を示すことがわかる。また、ここには示さないが電流密度の値が各実施例および各比較例でほぼ同等であったことから、輝度の大小がそのまま効率の大小を示しており、自己組織化単分子膜が効率にも有効に作用していることが示された。
図5および図7では各実施例および各比較例の寿命特性(時間‐電流)を示す。各実施例の発光素子は、いずれも、対応する全ての比較例の発光素子に比べて、長期安定性に優れていることが示されている。さらに具体的には、横軸が対数表示であることから、数桁にわたる改善の効果があることが示された。興味深いことは、実施例1と比較例1−1を比較した場合、初期特性は同等にもかかわらず、長期安定性においては大きな差が見られたことである。これはまさしく、本コンセプトに属さない自己組織化単分子膜では、素子寿命に対しての効果はないことを示している。さらに現実には、自己組織化単分子膜を含まない比較例1−2よりも寿命特性は悪く、自己組織化単分子膜は劣化を助長している。
これら結果のメカニズムについて、実施例1と比較例1−1および1−2を例に挙げて説明する。
本デバイスの駆動メカニズムは、正孔が電子注入性金属酸化物層/有機化合物層界面に蓄積され、電子が注入され発光する(非特許文献4参照)。そのため、上記界面では、ラジカル化された有機化合物が直接金属酸化物層に接しており、そこでの化学的劣化が無視できないと考えている。その結果、金属酸化物層上には結合を有さない劣化物が蓄積され、キャリア注入を阻害し、さらなる劣化の要因になっている。これが、自己組織化単分子膜を有さない比較例1−2の劣化メカニズムである。本発明では、この界面に自己組織化単分子膜を挿入した。正孔は同様に電子注入性金属酸化物層/有機化合物層界面に蓄積される。実施例1では、エネルギー障壁がないためにスムーズに自己組織化単分子膜上に正孔は移動してなおかつ安定に存在し続ける。加えて、アンカー部位(Si−O−)の存在により、金属酸化物層とは直接接しない状況が実現できている。その距離は1nm程度のため電子の注入には支障のない程度である。結果、長期の安定性が実現できていると考えている。一方、比較例1−1では、エネルギー障壁の存在のために、容易には正孔が自己組織化単分子膜には注入されない。しかしながら、APTMS自身が双極子を持っているため、それを利用した電子注入が促進され、初期特性は比較例1−2に比して改善される。しかしながら、自己組織化単分子膜/有機化合物層界面での有機化合物または正孔注入された自己組織化単分子膜自身がラジカル化し化学的劣化を引き起こし、キャリア注入を阻害し、さらなる劣化の要因になっていると推測している。元来、APTMSには強い双極子があることから、何もない比較例1−2よりも劣化が促進されていると考えている。
これらの結果は、薄膜デバイスにおける一つの課題である界面での劣化に対して有効な手法を提供するものである。従来の劣化軽減方法は、可能な限り、界面を減らす方向へと開発は進められてきた。しかしながら、界面を利用することは薄膜デバイスの本質的な利点でもあり、素子特性を低下させていたことも少なくないのが現状である。本手法は、その特性を維持しつつ、劣化要因の一つである界面を化学結合で強固なものとし、さらには堆積するキャリアを安定に長期間保持する手法を提供したものである。その結果、薄膜デバイスの長期安定性が実現された。以上のような理由により、同様の劣化メカニズムを有する薄膜デバイス一般に利用可能な技術と考えられる。
【符号の説明】
【0115】
1……有機無機ハイブリッド型薄膜電界発光素子 2……基板 3……陰極 4……有機化合物層 5……陽極 6……電子注入性金属酸化物層 7……正孔注入性金属酸化物層 8……自己組織化単分子層 11……高分子有機薄膜電界発光素子 17……正孔注入/輸送層

【特許請求の範囲】
【請求項1】
陽極および陰極と、前記陽極と前記陰極とに挟まれた1層または複数層の有機化合物層と、それら各層間に1層または複数層の、主たるキャリアにとってエネルギー障壁となり、逆のキャリアにとってエネルギー障壁とならない自己組織化単分子膜を有することを特徴とする有機薄膜電界発光素子。
【請求項2】
前記有機薄膜電界発光素子において、陽極と陰極とに挟まれた1層または複数層の有機化合物層と、前記陽極と前記有機化合物層との間または前記陰極と前記有機化合物層との間に、少なくとも1種類以上の金属酸化物薄膜を有することを特徴とする請求項1に記載の有機薄膜電界発光素子。
【請求項3】
前記金属酸化物薄膜界面上に自己組織化単分子膜が存在することを特徴とする請求項2記載の有機薄膜電界発光素子。
【請求項4】
前記金属酸化物薄膜が酸化チタン薄膜を含む請求項2または3記載の有機薄膜電界発光素子。
【請求項5】
請求項1〜4いずれかに記載の有機薄膜電界発光素子に具備される自己組織化単分子膜が、下記一般式(1)で表される化合物より得られることを特徴とする自己組織化単分子膜用材料。
一般式
【化1】


式中R,R,Rはアルコキシル基またはハロゲン原子であり、Xは連結基であり、Yは機能基である。Yは、主たるキャリアが電子である界面においてはラジカルカチオンが安定な構造であり、主たるキャリアが正孔である界面においてはラジカルアニオンが安定な構造である官能基を表す。
【請求項6】
前記自己組織化単分子膜用材料のSi−X−Yの分子鎖長が2nm以下であることを特徴とする請求項5記載の自己組織化単分子膜用材料。
【請求項7】
請求項1ないし4のいずれかに記載の有機薄膜電界発光素子を備えることを特徴とする照明装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【公開番号】特開2012−4492(P2012−4492A)
【公開日】平成24年1月5日(2012.1.5)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−140740(P2010−140740)
【出願日】平成22年6月21日(2010.6.21)
【出願人】(000004628)株式会社日本触媒 (2,292)
【Fターム(参考)】