説明

有機酸オリゴマーの製造方法

【課題】有機酸オリゴマーの効率的な製造方法を提供することを一つの目的とする。
【解決手段】 有機酸オリゴマーの製造方法を、アルキルアミンと、第3級アルコール及びエステル基を有しない非アルコール類から選択される1種又は2種以上とを含む反応溶媒を用いて、有機酸を重合して有機酸オリゴマーを合成する工程、を備えるものとする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、有機酸オリゴマーの製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
有機酸である乳酸の重合体であるポリ乳酸は手術用糸などの医療用材料、食器・食品容器・包装材、フィルムへの応用から発展し,近年では家電から自動車用材料まで幅広い分野へと広がりを見せている。近年、ポリ乳酸はトウモロコシ、サトウキビなどのバイオマス資源より得られるグルコースを原料にして乳酸菌や酵母などの微生物を用いて乳酸発酵し、乳酸を精製したのち、重合法により製造されるようになってきている。ポリ乳酸を効率的かつ低コストで製造するためには、乳酸発酵液から乳酸を安価な方法で分離回収する方法が必要である。乳酸を分離回収する方法としては、(1)溶媒抽出・逆抽出法による回収、(2)アンモニア中和発酵・エステル蒸留法、(3)乳酸カルシウム沈殿法・溶媒抽出法及び(4)溶媒抽出発酵法が報告されている。
【0003】
(1)の溶媒抽出・逆抽出法は、乳酸を非水性相(第三級アミン)中で優先的に抽出し、次いでその非水性相中の乳酸を縮合させてオリゴマーを生成させて分離し、乳酸を含有する非水性相から乳酸を蒸留および他の溶媒中へ逆抽出して分離する方法である(特許文献1)。また、(2)のアンモニア中和発酵・エステル蒸留法は、アンモニアで中和しながら乳酸発酵を行い、該発酵により得られた乳酸アンモニウムを加熱濃縮し、n−ブチルアルコールなどのアルコールを添加して加熱することにより乳酸ブチルとし、酸触媒存在下で加熱加水分解して乳酸を得る方法である(特許文献2)。また、(3)の乳酸カルシウム沈殿法・溶媒抽出法は、炭酸カルシウムなどの塩基存在下で乳酸発酵して得られた乳酸カルシウムを硫酸で酸性化して乳酸と硫酸カルシウムとし、該乳酸をアミン抽出剤で溶媒するか又は乳酸含有溶媒の逆抽出により乳酸を精製する方法である(特許文献3,4)。さらに、(4)の溶媒抽出発酵法は、固定化乳酸菌を用いて乳酸発酵させ、発酵液の一部を取り出してオレイルアルコールで希釈したAlamine336(第三級アミン)と接触させて乳酸を抽出し、乳酸抽出後の発酵液を発酵層に返送するという溶媒抽出発酵法である(非特許文献1)。
【特許文献1】特表2001−519178号
【特許文献2】特開平6−311886号
【特許文献3】特表2003−511360号
【特許文献4】特表2003−518476号
【非特許文献1】Yabannavar VM, Wang DI., 1987. Bioreactor system with solvent extraction for organic acid production. Ann N Y Acad Sci. 506:523−35.
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、上記(1)の方法では、第三級アミンを主成分とした抽出溶媒であるため、乳酸の抽出効率が低かった。また、上記(2)の方法では、濃縮、エステル化、蒸留、加水分解などの工程で多量の熱エネルギーを必要とするだけでなく、工程が煩雑で乳酸の回収率が低くなってしまう。さらに、上記(3)の方法では、硫酸の回収再利用が困難であり、廃棄物として硫酸カルシウムが発生してしまう。また、上記(4)の方法では、第三級アミンとオレイルアルコール(第一級アルコール)からなる溶媒を用いると、乳酸の抽出効率は高いが、その抽出溶媒中で乳酸の重合反応を行うと、乳酸とオレイルアルコールがエステル交換し、乳酸オレイルエステル(乳酸アルキルエステル)が生成するために乳酸の重合化が阻害され、抽出溶媒から乳酸を重合体として分離回収することができない。
【0005】
このように、上記(1)〜(3)によれば、抽出効率、エネルギーコスト等の観点から問題があり、上記(1)〜(4)のいずれも、乳酸を抽出分離後の工程であって、ポリ乳酸の合成のための前段階である乳酸オリゴマーの合成工程が考慮されていないため、乳酸の分離回収から乳酸オリゴマーの合成までの工程を通じて観た場合、工程数の多さや操作の煩雑さは否めなかった。
【0006】
そこで、本発明は、有機酸オリゴマーの効率的な製造方法を提供することを一つの目的とする。また、有機酸オリゴマーの製造に適した有機酸の抽出方法を提供することを他の一つの目的とする。さらに、本発明は、ポリ乳酸の効率的な製造方法を提供することを他の一つの目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明者らは、乳酸などの有機酸の抽出分離及びオリゴマー化の効率化について種々検討したところ、有機酸オリゴマーの合成及び分離に適した媒体を見出した。さらに、この媒体を用いることにより、有機酸含有水性溶液からの有機酸抽出に用いることにより、有機酸の抽出分離と有機酸オリゴマーの製造とを効率的又は連続的に実施できることを見出し、本発明を完成した。すなわち、本発明によれば、以下の手段が提供される。
【0008】
本発明によれば、有機酸オリゴマーの製造方法であって、アルキルアミン、トリブチルホスフェート及びトリ−n−オクチルホスフィンオキサイドから選択されるキャリアと、第3級アルコール及びエステル基を有しない非アルコール類から選択される1種又は2種以上とを含む反応溶媒を用いて、有機酸を重合して有機酸オリゴマーを合成する工程、を備える製造方法が提供される。
【0009】
この発明において、前記アルキルアミンは第3級アミン及び第2級アミンから選択される1種又は2種以上を含んでおり、さらに、前記キャリアはアルキルアミンであり、トリ−n−オクチルアミン、トリ−n−ノニルアミン、トリ−n−デシルアミン及びトリ−n−C8〜C10アルキルアミンから選択される1種又は2種以上を含むことができる。
【0010】
また、この発明において前記キャリアはトリブチルホスフェート及びトリ−n−オクチルホスフィンオキサイドから選択されてもよい。
【0011】
また、この発明において、前記第3級アルコールは、テルピネオール、イソフィトール、ゲラニルリナロール、リナロール、テトラヒドロリナロール、ネロリドール、ヒドロキシシトロネラールジエチルアセタール、ヒドロキシシトロネラールジメチルアセタール、4−ツヤノール、3−メチル−3−ペンタノール、オシメノール、スクラレオール、p−メンタン−8−オール、ピリジフロロール、3−メチル−3−オクタノール、エチルリナロール及びアンブリノールからなる群から選択される1種又は2種以上を含むことができる。さらに、前記第3級アルコールは、テルピネオール及びイソフィトールのいずれかを含むことができる。
【0012】
また、この発明において、前記非アルコール類は、ヘプタン、ヘキサン、ケロシン、イソオクタン、ヘキサデカン、トルエン、キシレン及びパラフィンオイルからなる群から選択される1種又は2種以上であるとすることができる。
【0013】
この発明においては、前記反応溶媒は、20vol%以上の前記アルキルアミンを含有することができる。
【0014】
この発明においては、前記有機酸オリゴマーを前記反応溶媒から分離する工程を備えることができる。
【0015】
この発明においては、前記有機酸を含有する有機酸含有水性溶液に前記反応溶媒を接触させて前記有機酸を抽出する抽出工程を備えることもできる。前記抽出工程における前記有機酸含有水性溶液は有機酸生産酵母による有機酸発酵液を含有することができるし、前記有機酸発酵液は、有機酸を発酵生産中の培養液を含んだものであってもよい。さらに、前記抽出工程は、前記培養液と前記反応溶媒とをおおよそ二相系を維持しながら培養する培養工程を含むことができる。前記培養工程は、前記有機酸生産酵母が代謝可能な炭素源を連続的に加えて培養する工程としてもよい。
【0016】
この発明においては、前記有機酸は乳酸とすることができる。また、前記有機酸生産酵母は、遺伝子工学的に有機酸生産酵素系が導入された遺伝子組換え酵母としてもよく、前記遺伝子組換え酵母の宿主は、サッカロマイセス・セレビシエから選択されていてもよい。
【0017】
本発明によれば、有機酸の抽出方法であって、有機酸含有水性溶液に、アルキルアミン、トリブチルホスフェート及びトリ−n−オクチルホスフィンオキサイドから選択されるキャリアと、第3級アルコール及びエステル基を有さない非アルコール類から選択される1種又は2種以上とを含む抽出溶媒を接触させて有機酸を抽出する工程、を備える、方法が提供される。また、本発明によれば、有機酸の生産方法であって、有機酸を発酵生産する工程と、前記有機酸発酵生産工程で得られる有機酸を含有する有機酸発酵液に、アルキルアミン、トリブチルホスフェート及びトリ−n−オクチルホスフィンオキサイドから選択されるキャリアと、第3級アルコール及びエステル基を有しない非アルコール類から選択される1種又は2種以上とを含む抽出溶媒を接触させて有機酸を抽出する工程、を備える、方法も提供される。さらに本発明によれば、脂肪族ポリエステルの製造方法であって、アルキルアミン、トリブチルホスフェート及びトリ−n−オクチルホスフィンオキサイドから選択されるキャリアと、第3級アルコール及びエステル基を有しない非アルコール類から選択される1種又は2種以上とを含む反応溶媒を用いて、有機酸を重合して有機酸オリゴマーを合成する工程と、該乳酸オリゴマーを用いて脂肪族ポリエステルを合成する工程と、を備える、製造方法も提供される。
【発明を実施するための最良の形態】
【0018】
本発明は、アルキルアミンと、トリブチルホスフェート及びトリ−n−オクチルホスフィンオキサイドから選択されるキャリアと、第3級アルコール及びエステル基を有しない非アルコール類から選択される1種又は2種以上を含む反応溶媒を用いて、有機酸を重合して有機酸オリゴマーを合成する工程、を備える有機酸オリゴマーの製造方法に関する。本発明の有機酸オリゴマーの製造方法によれば、上記反応溶媒に有機酸が溶解でき、上記反応溶媒内で有機酸のオリゴマー化反応を実施できるため、有機酸オリゴマーの製造を効率的に行うことができる。さらに、上記反応溶媒において、有機酸オリゴマーは不溶性となる傾向があるため、沈殿物として容易に分離回収することも可能である。
【0019】
さらに、このオリゴマー合成工程の前段側において、有機酸を含有する有機酸含有水性溶液に前記反応溶媒を接触させて有機酸を抽出する抽出工程を備える、有機酸含有水性溶液からの有機酸の分離回収を前記反応溶媒を用いて行うことで、分離回収からオリゴマー合成までを効率的に実施できる。さらに、こうしたオリゴマー合成工程を備える脂肪族ポリエステルの製造方法によれば、効率的にポリ乳酸などの脂肪族ポリエステルを製造できる。
【0020】
本発明は、また、有機酸含有水性溶液に、上記反応溶媒を接触させて有機酸を抽出する工程を備える方法に関する。この抽出方法によれば、有機酸含有水性溶液から有機酸を容易に抽出できるとともに、有機酸を含有する上記反応溶媒内においてそのまま有機酸オリゴマーの合成工程を実施できる。このため、オリゴマー合成ひいてはポリマー合成に好ましい有機酸の抽出方法となっている。
【0021】
以下、本発明の実施形態である、有機酸オリゴマーの製造方法、有機酸の抽出方法、有機酸の製造方法及び脂肪族ポリエステルの製造方法について適宜図面を参照しながら説明する。
【0022】
(有機酸オリゴマーの製造方法)
(有機酸)
本発明において「有機酸」とは、酸性を示す有機化合物であるが、有機酸が備える酸性基としては好ましくはカルボン酸基である。また、「有機酸」には、遊離の酸の他、有機酸塩を含む。このような有機酸として、具体的には、乳酸、酪酸、酢酸、ピルビン酸、コハク酸、ギ酸、リンゴ酸、クエン酸、マロン酸、プロピオン酸、アスコルビン酸、アジピン酸、グリコール酸、3−ヒドロキシ酪酸、4−ヒドロキシ酪酸、4−ヒドロキシ吉草酸が挙げられる。なかでも、乳酸、ポリグリコール酸等のα−ヒドロキシ酸が好ましい。特に好ましくは、乳酸である。乳酸には、L−乳酸、D−乳酸、及びDL−乳酸があるが、これらのいずれをも含む。
【0023】
(有機酸オリゴマー)
有機酸オリゴマーとしては、上記各種有機酸のオリゴマーを意味する。有機酸オリゴマーは、水酸基とカルボキシル基とを備える有機酸のオリゴマーであればよいが、好ましくはα−ヒドロキシ酸のオリゴマーである。こうした有機酸オリゴマーとしては、例えば、乳酸オリゴマー、グリコール酸オリゴマー、3−ヒドロキシ酪酸オリゴマー、4−ヒドロキシ酪酸オリゴマー、4−ヒドロキシ吉草酸オリゴマーなどが挙げられる。なかでも、工業的に利用されているポリ乳酸の前駆体である乳酸オリゴマーやグリコール酸オリゴマーが挙げられる。なお、ここでオリゴマーとは、単量体ユニットとしての上記有機酸が2個以上30個以下重合したものを含んでいる。有機酸オリゴマーは、通常有機酸が10個以上30個以下の範囲の重合体であることが多い。
【0024】
(脂肪族ポリエステル)
なお、本発明における脂肪族ポリエステルとしては、上記有機酸ポリマーが挙げられる。例えば、ポリ乳酸、ポリグリコール酸、ポリ(3−ヒドロキシ酪酸)、ポリ(4−ヒドロキシ酪酸)、ポリ(4−ヒドロキシ吉草酸)などである。なかでも、ポリ乳酸、ポリグリコール酸等のポリ(α−ヒドロキシ酸)が好ましく、ポリ乳酸が特に好ましい。
【0025】
(有機酸オリゴマーの反応溶媒)
本発明の有機酸オリゴマーの製造方法において用いる反応溶媒は、アルキルアミンと、トリブチルホスフェート及びトリ−n−オクチルホスフィンオキサイドから選択されるキャリアと、第3級アルコール及びエステル基を有しない非アルコール類から選択される1種又は2種以上であることが好ましい。反応溶媒は、好ましくは、含有することが不可避である不純物以外はキャリアとこれらのアルコール類及び非アルコール類とからなる。
【0026】
アルキルアミンは、特に有機酸を捕捉して反応溶媒側に分配させるためのキャリアである。アルキルアミンとしては、オリゴマー化しようとする有機溶媒に対してこうしたキャリア機能を発揮できるものを1種又は2種以上を組み合わせて用いることができる。こうしたアルキルアミンとしては、有機溶媒に可溶な第二級アミン又は第三級アミンが好ましく、より好ましくは第三級アミンである。こうしたキャリアとしては、ジ−n−オクチルアミン、トリ−n−オクチルアミン、トリ−n−ノニルアミン、トリ−n−デシルアミン、トリ−n−C8〜C10アルキルアミン(例えば、Alamine336(商品名、コグニス社製))、トリラウリルアミン(例えば、Alamine304(商品名、コグニス社製))等が挙げられる。また、Amberlite LA−1(各アルキル連鎖に12個の炭素原子を有するジアルキルアミンの混合物)等の第二級アミンも挙げられる。
【0027】
これらのアルキルアミンは、トリ−n−オクチルアミン、トリ−n−C8〜C10アルキルアミン、トリブチルホスフェート及びトリ−n−オクチルホスフィンオキサイドであり、より好ましくは、トリ−n−C8〜C10アルキルアミン(例えば、Alamine336(商品名、コグニス社製))である。なお、トリ−n−C8〜C10アルキルアミンは、アルキル基として、オクチル基、ノニル基及びデシル基から選択される1種又は2種以上のアルキル基を全体として3個備えることができる。また、オクチル基及び/またはデシル基のみを備えることもできる。トリ−n−デシルアミンを用いることも好ましい。例えば、Alamine336は、トリ−n−オクチルアミン、ジ−n−オクチル−モノ−n−デシル−アミンなどのトリ-n-C8〜C10アミンを含むことができるほか、ジ−n−デシル−モノ−n−ドデシルアミン、トリ−n−ドデシルアミン等を含有することができる。
【0028】
また、他のキャリアとしては、トリブチルホスフェート及びトリ−n−オクチルホスフィンオキサイドが挙げられる。
【0029】
この反応溶媒において、第3級アルコール及びエステル基を含まない非アルコール類は、有機酸を溶解し抽出するのを補足するとともに、有機酸含有水性溶液が有機酸生産性菌体を培養液である場合には、こうした菌体に対するアルキルアミンの毒性を低減するための希釈剤として機能する場合もある。これらの各種の溶媒は、こうした機能を発揮できる範囲で1種又は2種以上を組み合わせて用いることができる。なお、第1級アルコールを使用しないのは、第1級アルコールを用いると、有機酸オリゴマー合成が大きく阻害されるからである。また、エステル基を含有しない非アルコール類を用いるのは、エステル基を含んでいると、生成したオリゴヌクレオチドとエステル交換反応を生じて、結果として有機酸オリゴマーの生成を阻害するからである。なお、第3級アルコールは、エステル基を含有しない化合物を意味している。
【0030】
第3級アルコールとしては、テルピネオール、イソフィトール、ゲラニルリナロール、リナロール、テトラヒドロリナロール、ネロリドール、ヒドロキシシトロネラールジエチルアセタール、ヒドロキシシトロネラールジメチルアセタール、4−ツヤノール、3−メチル−3−ペンタノール、オシメノール、スクラレオール、p−メンタン−8−オール、ピリジフロロール、3−メチル−3−オクタノール、エチルリナロール及びアンブリノール等が挙げられる。なかでも、テルピネオール、イソフィトール、ネロリドール、ヒドロキシシトロネラールジエチルアセタール、ヒドロキシシトロネラールジメチルアセタールを好ましく用いることができる。さらに好ましくは、テルピネオール、イソフィトールである。
【0031】
また、エステル基を含有しない非アルコール類としては、ヘプタン、ヘキサン、ケロシン、ドデカン、イソオクタン、ヘキサデカン、トルエン、キシレン及びパラフィンオイル等が挙げられる。
【0032】
オリゴマー化反応溶媒には、好ましくは、第3級アルコールを用い、より好ましくは第3級アルコールのみを用いる。第3級アルコールを用いることで、アルキルアミンとともに有機酸の溶解性を高めることができるほか、有機酸生産菌体を含有する培養液と接触させた場合に、菌体に対する毒性を低くする場合もあるからである。また、第3級アルコールは、乳酸のオリゴマー化阻害を防ぐ効果もある。
【0033】
反応溶媒においては、アルキルアミンを20vol%以上含有することが好ましい。この範囲のキャリア濃度を有していると、良好な反応効率を得ることができる。また反応溶媒を有機酸含有水性溶液からの有機酸の抽出溶媒として用いる際、良好な抽出効率と菌体への低毒性を確保することが容易である。抽出効率や反応効率の観点からは、より好ましくは25vol%以上であり、さらに好ましくは30vol%以上であり、一層好ましくは40vol%以上である。なお、反応溶媒においては、残部が上記した希釈剤であることが好ましい。
【0034】
反応溶媒は、具体的には、20vol%以上のトリ−n−C8〜C10アルキルアミン又はトリ−n−デシルアミンを含有する第3アルコールを用いることが好ましく、より好ましくは25vol%以上である。20vol%以上であれば、それよりも少ない場合に比して顕著に高い乳酸の溶解ないし抽出が可能であるからである。また、25vol%以上であれば、ほぼ安定した有機酸の溶解性や抽出性が得られるからである。一方、これらのキャリアについては上限は80vol%以下とすることできる。また、有機酸培養液から有機酸を抽出することを考慮すると、上限は、75vol%以下であることが好ましい。したがって、有機酸生産微生物培養液から有機酸を抽出するなどするときには、このキャリアを25vol%以上75vol%以下を含むテルピネオール及び/又はイソフィトールを好ましく用いることができる。
【0035】
(有機酸オリゴマーの合成)
こうした反応溶媒中で有機酸から有機酸オリゴマーを合成するには、反応溶媒を加熱すればよい。加熱により有機酸が脱水して縮合し有機酸オリゴマーが生成する。加熱温度は、有機酸からオリゴマーが生成できる範囲であれば特に限定しないが、好ましくは130℃以上200℃以下である。この範囲であるとイソフィトールなどの第3級アルコールからの第1級アルコールの生成を防止でき、第1級アルコールによって有機酸オリゴマーの合成が阻害されにくいからである。
【0036】
(有機酸オリゴマーの分離)有機酸オリゴマーは、この反応溶媒への溶解性が高くないため、反応の進行に伴い、反応溶媒中に沈殿する。したがって、反応後、固液分離工程を実施すれば、容易に有機酸オリゴマーを分離回収することができる。なお、反応終了後には、有機酸オリゴマーの反応溶媒への溶解性を調節するため適宜反応溶媒組成を調製したり、温度を調整したりすることもできる。
【0037】
(脂肪族ポリエステルの製造)
こうして得られた有機酸オリゴマーを用いて所定の方法で重合工程を実施することで、ポリ乳酸を始めとする脂肪族ポリエステルを製造することができる。本発明の有機酸オリゴマーの製造方法によれば、有機酸オリゴマーが効率的に得られるため、結果として、脂肪族ポリエステルも効率的に製造できる。
【0038】
(有機酸の抽出)
以上説明した有機酸オリゴマーの合成に先立って、有機酸含有水性溶液から前記反応溶媒を用いて有機酸を抽出することができる。前記反応溶媒は、有機酸含有水性溶液からの有機酸の抽出にも適しているため都合がよい。また、有機酸オリゴマー合成工程に、本反応溶媒による有機酸抽出工程を実施することにより、有機酸オリゴマー合成後に不要となった本反応溶媒成分を有機酸の抽出工程で還流させて用いることで、溶媒の排出量の低減と炭素化合物の循環使用により地球環境に適した系を構築できる。
【0039】
なお、有機酸の抽出工程に用いる反応溶媒と有機酸オリゴマーの合成工程に用いる反応溶媒の組成は、上記した本発明の反応溶媒に包含されるものであれば同一であってもよいが異なっていてもよい。これらの工程で同一組成の反応溶媒を用いることは組成の調整を簡略化できる点において好ましいが、本発明の反応溶媒に包含される範囲内であれば、それぞれの工程の必要に応じて適宜変更を加えることができる。好ましくは、成分を同一としてこれらの組成を変更する範囲とする。例えば、同一アルキルアミンと同一のアルコール等を用いるが、抽出工程における抽出効率や微生物への影響及び合成工程における合成効率や分離効率等を考慮して、それぞれの工程においてそれぞれ比率を変更することができる。
【0040】
(有機酸含有水性溶液)
有機酸含有水性溶液は、有機酸を溶解して含有する水性溶液であれば、特に限定されない。pHも特に限定されないし、また、有機酸は塩の形態であってもよい。媒体は、水を含んだ水性媒体であればよく、特に限定されない。
【0041】
有機酸含有水性溶液は、他の材料から取得した乳酸の溶液であってもよいし、また、微生物により発酵生産された発酵液からの乳酸抽出液であってもよい。好ましくは、有機酸生産微生物が発酵によって有機酸を生成した有機酸発酵液である。有機酸発酵液から直接有機酸を抽出することで、一層、有機酸オリゴマーを効率的に合成することができる。有機酸発酵液は、発酵終了後において菌体等を除去した発酵上清であってもよいし、菌体等を含んだままのものであってもよい。こうした発酵終了後の発酵液から有機酸を抽出する場合には、抽出溶媒として用いる反応溶媒の有機酸生産微生物に対する毒性を考慮する必要がない点において効率的な有機酸抽出と有機酸オリゴマー合成が可能となる。
【0042】
こうした有機酸抽出工程と有機酸オリゴマーの合成工程との組み合わせの一例を図1に例示する。図1に示す形態においては、有機酸発酵工程における有機酸発酵液を連続式、半連続式又はバッチ式で取り出して、反応溶媒と接触させて、有機酸抽出工程を実施する。図1に示すように、オリゴマー合成及び分離後の反応溶媒の少なくとも一部を有機酸抽出工程に還流させることにより、反応溶媒を有効利用できる。また、図1には、発酵液に残存した炭素源などの発酵原料を分離して発酵原料として再利用する形態も含まれている。
【0043】
また、有機酸含有水性溶液としての有機酸発酵液は、有機酸生産微生物が炭素源から有機酸を発酵している最中の有機酸生産微生物の培養液であってもよい。こうした培養液を対象とすることで、培養液中の乳酸濃度の調整が可能となるとともに、連続的に乳酸を抽出し、ひいては連続的にオリゴマー化も可能となる点において好ましい。
【0044】
発酵中の培養液に反応溶媒(抽出溶媒)を接触させて、発酵生産物を抽出しつつ発酵させる溶媒抽出発酵の場合、反応溶媒は、培養液を構成する培地と二相分離可能である溶媒を選択する。培地との二相分離状態をおおよそ維持して発酵させることにより、発酵用微生物への細胞毒性を抑制して微生物の増殖活性を維持しつつ、同時に効率的な有機酸抽出が可能となり、さらに、発酵後に抽出溶媒の分離を容易に実現できる。なお、こうした抽出溶媒を構成する有機溶媒としては、有機酸生産酵母が耐性のある有機溶媒であることが好ましいが、本反応溶媒として用いることができる第3級アルコール及び非アルコール類のうち、既に例示したものをいずれも用いることができる。
【0045】
図2及び図3には、こうした抽出形態と有機酸オリゴマーの合成工程との組み合わせを例示する。図2には、本反応溶媒を用いて溶媒抽出発酵する工程を実施するとともに、培養液と接触する反応溶媒を連続式、半連続式又はバッチ式で有機酸オリゴマー合成工程に送液し、送液された反応溶媒中で有機酸オリゴマーを合成する形態である。この形態において、反応溶媒を培養液と分離するには、例えば、特開2004−217725号に記載の疎水性多孔質膜を発酵槽に設置した溶媒分離器を用いることができる。この形態においては、オリゴマー合成及びオリゴマー分離後の反応溶媒を溶媒抽出発酵工程に還流することで、反応溶媒を有効利用できる。
【0046】
また、図3には、本反応溶媒を用いて溶媒抽出発酵する工程から、反応溶媒と培養液との混合液を連続式、半連続式又はバッチ式で溶媒分離工程に送液し、培養液と反応溶媒とを分離して、この分離した反応溶媒について有機酸オリゴマー合成工程を実施する形態である。この形態においても、オリゴマー分離後の反応溶媒や溶媒分離後の培養液を溶媒抽出発酵工程に還流させることができる。
【0047】
本発明における溶媒抽出発酵では、培地と反応溶媒とをおおよそ二相系を維持しながら培養する工程とすることが好ましい。既に説明したように、反応溶媒として培地と二相分離可能なものを用いるが、こうした混合液の攪拌混合程度によって二相分離状態を維持して培養することもできるし、懸濁状態で培養することもできる。細胞毒性をできるだけ低減する観点からは、おおよそ上下に二相分離状態を維持して培養することが好ましい。こうした培養状態は、下相に培地、上相に抽出溶媒を有する二相液体を静置培養するか、緩やかに旋回培養、攪拌培養又は回転培養することにより得ることができる。なお、こうした二相分離状態を維持した培養工程に対して、培地と反応溶媒とを振とうなどにより強く攪拌して二相分離しない状態とする培養工程を組み合わせることもできる。
【0048】
なお、本発明における有機酸発酵では、反応溶媒を培養液に添加する時期は特に限定されない。例えば、培養工程の全体を通じて反応溶媒を添加して抽出培養することもできるし、培養工程の一部においてのみ反応溶媒を添加して二相系を構成して反応溶媒を実施することができる。後者の例としては、培養工程の途中までは、反応溶媒を添加せずに培養し、その後反応溶媒を添加して培養する、培養工程を実施することもできる。
【0049】
培養工程は、有機酸生産酵母が代謝可能な炭素源を連続的に加えて培養する工程とすることが好ましい。こうすることで、培地中で炭素源を枯渇させることなく有機酸発酵を継続させることができる。この場合、生産物である有機酸による阻害がないため、効率的に有機酸を連続的に発酵させることができる。なお、制限基質である炭素源のほか、各種の栄養成分も適宜添加することができる。こうした有機酸発酵は、例えば、バイオプロセスシステムエンジニアリング、清水浩、シーエムシー出版、P115−125に記載の流加培養法を参照することができる。
【0050】
培地のpHは5.0以下であることが好ましい。pHが5.0以下であると、上記キャリアによる有機酸の抽出溶媒側への分配効率が確保されるからである。好ましくは、pHは、乳酸のpKaである4.8以下であり、より好ましくは4.5以下である。
【0051】
本発明における有機酸発酵における各種の培養条件は適宜設定することができる。例えば、温度は、25℃〜35℃程度とすることができる。培養時間は、おおよそ24〜72時間程度とすることができる。
【0052】
なお、こうした有機酸の発酵生産には有機酸発酵用微生物を用い、用いる微生物に適した培地を用いることによって行うことができる。こうした微生物としては、有機酸生産が活性化された酵母を用いることができ、こうした酵母は、自然界からのスクリーニング、人工突然変異及び遺伝子工学的改変などのいずれの手法によって得られた酵母であってもよい。好ましくは、遺伝子工学的に改変された酵母である。有機酸の生産が促進されるよう遺伝子工学的に改変された酵母としては、好ましくは、酵母染色体上において有機酸合成酵素が導入された組換え酵母であることが好ましい。こうした組換え酵母の宿主酵母としては、サッカロマイセス・セレビシエ、シゾサッカロマイセス・ポンベ(Saccharomyces pombe)などのサッカロマイセス属酵母、ピキア・パストリス(Pichia pastoris)などのピキア属酵母、クルイベロマイセス属酵母、キャンディダ属酵母などの酵母が挙げられる。酵母としては、サッカロマイセス・セレビシエなどのサッカロマイセス属酵母が好ましい。例えば、サッカロマイセス・セレビシエIFO2260株を例示できる。
【0053】
遺伝子組換え酵母においては適当なプロモーターの制御下に有機酸合成酵素をコードするコード領域を発現可能に保持している。高効率で有機酸を生産するには、例えば、ピルビン酸脱炭酸酵素1(PDC1)遺伝子プロモーター、ADH1遺伝子プロモーター、高浸透圧応答7遺伝子(HOR7遺伝子)プロモーター、グリセルアルデヒド3リン酸脱水素酵素2遺伝子(TDH2遺伝子)プロモーター、熱ショックタンパク質30遺伝子(HSP30遺伝子)プロモーター、ヘキソース輸送タンパク質7遺伝子(HXT7遺伝子)プロモーター、チオレドキシンペルオキシダーゼ1遺伝子(AHP1遺伝子)プロモーター、膜タンパク質1関連遺伝子(MRH1遺伝子)プロモーター、グリセルアルデヒド三リン酸脱水素酵素3(TDH3)遺伝子プロモーター、グリセルアルデヒド三リン酸脱水素酵素1遺伝子(TDH1遺伝子)プロモーター、トリオースリン酸イソメラーゼ1遺伝子(TPI1遺伝子)プロモーター及び細胞壁関連タンパク質12遺伝子(CCW12遺伝子)及びリボゾーマルプロテインS31遺伝子(RSP31遺伝子)プロモーターなどが挙げられる。なお、これらはいずれも酵母における内在性プロモーターであり、本発明の形質転換酵母において好ましく用いられる。こうしたプロモーター群から選択されるプロモーターとしては、少なくともPDC1遺伝子プロモーターを含むことが好ましい。PDC1プロモーターの制御下で有機酸を合成する酵素を発現させることにより、高効率で有機酸を発酵することが期待でき、こうした酵母が本発明の微生物として有効だからである。
【0054】
有機酸合成酵素としては、乳酸生産の場合には、L−乳酸脱水素酵素、D−乳酸脱水素酵素等の酵素等が挙げられる。例えば、乳酸脱水素酵素(LDH)としては、生物の種類に応じてあるいは生体内においても各種同族体が存在する。本発明において使用する乳酸脱水素酵素としては、天然由来のLDHの他、化学合成的あるいは遺伝子工学的に人工的に合成されたLDHも包含している。LDHとしては、好ましくは、乳酸菌などの原核生物もしくはカビなどの真核微生物由来であり、より好ましくは、植物、動物、昆虫などの高等真核生物由来であり、さらに好ましくは、ウシを始めとする哺乳類を含む高等真核生物由来である。L−LDHとしては、ウシ由来のLDH(L−LDH)である。さらに、本発明におけるLDHは、これらのLDHのホモログも包含している。LDHホモログは、天然由来のLDHのアミノ酸配列において、1もしくは数個のアミノ酸が置換、欠失、挿入および/または付加されたアミノ酸でありかつLDH活性を有しているタンパク質、および、天然由来のLDHとアミノ配列の相同性が少なくとも70%、好ましくは80%以上を有しかつLDH活性を有しているタンパク質を含んでいる。また、D−LDHとしては、大腸菌、タコ及び乳酸菌由来のものなどが挙げられる。好ましくは乳酸菌由来のD−LDHである。なお、有機酸合成酵素をコードするコード領域は、酵母において複数コピー導入されていることが好ましい。
【0055】
このような有機酸生産酵母としては、例えば、特開2003−93060、特開2003−259878、特開2003−334092、特開2004−187643、特開2005−139270、特開2006−75133に記載の乳酸生産酵母等を好ましく用いることができる。
【0056】
なお、以上説明した有機酸の抽出及び有機酸発酵液からの有機酸の抽出は、必ずしも有機酸オリゴマーの製造方法と連続して行うことはなく、有機酸の抽出方法及び有機酸発酵生産工程を伴う有機酸の製造方法として実施することができる。さらには、こうした有機酸オリゴマー合成工程のほか、必要に応じて、有機酸抽出工程や有機酸の発酵生産工程を伴う脂肪族ポリエステルの製造方法としても実施できる。
【実施例】
【0057】
以下、本発明を、実施例を挙げて具体的に説明するが、本発明はこれらの実施例に何ら限定されるものではなく、本発明の要旨を逸脱しない範囲内において、種々なる形態で実施することができる。
【0058】
(発酵からオリゴマー化分離までの検討)〈乳酸の抽出溶媒の検討〉
【0059】
(実施例1) トリ−n−C8〜C10アルキルアミンとして100%Alamine336(第三級アミン)[コグニス社製]を用い、この第3級アミンをテルピネオール(第三級アルコール)で希釈した0〜100%のAlamine336溶液の1mlを1.2%乳酸溶液2mlに重層し、室温で二分間振盪したのちに静置した。静置後、乳酸アナライザー(酵素法)を用いて水相中の乳酸濃度を測定し、「数1」に従って抽出度(E)を求めた。
【数1】

[HL]o;溶媒中の乳酸濃度[HL]init;水相中に仕込んだ乳酸濃度[HL]AT;溶媒抽出操作後に測定した水相中の乳酸濃度V;水相の容積Vo;溶媒相の容積
【0060】
その結果、図4に示すように、Alamine336に25〜75%のテルピネオール(第三級アルコール)を添加した抽出溶媒は、Alamine336単独溶媒(100%Alamine336)(後述する比較例1)よりも乳酸抽出度が2倍以上に高いことがわかる。
【0061】
(実施例2)
イソフィトール(第三級アルコール)で希釈した0〜100%のAlamine336溶液の1mlを1.2%乳酸溶液2mlに重層した他は、実施例1と同様にして抽出度(E)を求めた。その結果、図5に示すように、Alamine336に25〜75%のイソフィトール(第三級アルコール)を添加した抽出溶媒は、Alamine336単独溶媒(100%Alamine336)よりも乳酸抽出度が2倍以上に高いことがわかる。
【0062】
(比較例1)
100%Alamine336(第三級アミン)[コグニス社製]溶液の1mlを用いた以外は、実施例1と同様にして抽出度(E)を求めた。その結果、乳酸抽出度は30%であった。Alamine336の単独溶媒では全乳酸量の3割程度しか抽出されないことがわかる。
【0063】
(比較例2)
オレイルアルコールで希釈した0〜100%のAlamine336溶液1mlを1.2%乳酸溶液2mlに重層した他は、実施例1と同様にして抽出度(E)を求めた。その結果、図6に示すように、Alamine336に25〜75%のオレイルアルコールを添加した抽出溶媒は、Alamine336単独溶媒(100%Alamine336)よりも乳酸抽出度が2倍以上に高いことがわかる。これまで、オレイルアルコールは菌体毒性を低減する目的で用いられていたが、本結果により、乳酸の抽出効率を高める効果があることを新たに確認した。
【0064】
(比較例3)
ドデカンで希釈した0〜100%のAlamine336溶液1mlを1.2%乳酸溶液2mlに重層した他は、実施例1と同様にして抽出度(E)を求めた。その結果、図7に示すように、Alamine336にドデカンを添加した抽出溶媒は、Alamine336単独溶媒(100%Alamine336)よりも乳酸抽出度が低いことがわかる。
【0065】
(比較例4)
ピネンで希釈した0〜100%のAlamine336溶液1mlを1.2%乳酸溶液2mlに重層した他は、実施例1と同様にして抽出度(E)を求めた。その結果、図8に示すように、Alamine336にピネンを添加した抽出溶媒は、Alamine336単独溶媒(100%Alamine336)よりも乳酸抽出度が低いことがわかる。
【0066】
(比較例5) リモネンで希釈した0〜100%のAlamine336溶液1mlを1.2%乳酸溶液2mlに重層した他は、実施例1と同様にして抽出度(E)を求めた。その結果、図9に示すように、Alamine336にリモネンを添加した抽出溶媒は、Alamine336単独溶媒(100%Alamine336)よりも乳酸抽出度が低いことがわかる。
【0067】
(比較例6)
デカリンで希釈した0〜100%のAlamine336溶液の1mlを1.2%乳酸溶液2mlに重層した他は、実施例1と同様にして抽出度(E)を求めた。その結果、図10に示すように、Alamine336にデカリンを添加した抽出溶媒は、Alamine336単独溶媒(100%Alamine336)よりも乳酸抽出度が低いことがわかる。
【0068】
実施例1〜2及び比較例1〜6より、Alamine336(第三級アミン)にドデカンなどのアルカン系、デカリンなどのシクロアルカン系、及びピネンやリモネンなどのテルペン系炭化水素を添加すると、乳酸の抽出度は低下するが、25%〜75%のオレイルアルコール(第一級アルコール)、テルポネオール(第三級アルコール)及びイソフィトール(第三級アルコール)を添加すると、乳酸の抽出度は2倍以上に向上することを明らかにした。
【0069】
〈抽出溶媒中での乳酸のオリゴマー化分離の検討〉
【0070】
(実施例3)
4口フラスコにAlamine336/テルピネオール(1:1v/v)100mlと90%L−乳酸溶液(10.01g)とを加えて室温で5分間撹拌した。常圧下で45分間かけて40℃から200℃に昇温した後、直ちに64℃まで自然冷却した。圧力を4kPaにセットし、30分かけて64℃から200℃まで昇温した後、6時間200℃でオリゴマー化反応を行った。反応後、常圧に戻し、室温まで自然冷却した。反応液は上層画分と下層画分の二相に分離され、上層画分はデカンテーションにより除去され、残渣の下層画分(6.91g、乳酸の重量を100としたときの回収率:86.3%)を得た。MALDI−MS法(マトリックス支援レーザ脱離イオン化質量分析法、装置:Bruker Daltonics社製 autoflex、マトリックス:2,5−ジヒドロキシ安息香酸)により下層画分を分析した結果、図11に示すように、5〜23量体の乳酸オリゴマーが検出された。実施例1の結果と合わせると、Alamine336にテルピネオールを添加した抽出溶媒はAlamine336単独溶媒よりも乳酸の抽出効率が高く、かつその抽出溶媒中でオリゴマー化分離ができる抽出溶媒であることがわかる。
【0071】
(実施例4)
4口フラスコにトリ−n−オクチルアミン/テルピネオール(1:1v/v)100mlと90%L−乳酸溶液(10.0g)とを加えて室温で5分間撹拌した他は、実施例3と同様にしてオリゴマー化反応を実施した。反応後、常圧に戻し、室温まで自然冷却した。反応液は上層画分と下層画分の二相に分離され、上層画分はデカンテーションにより除去され、残渣の下層画分(5.64g)を得た。MALDI−MS法により下層画分を分析した結果、図12に示すように、6〜19量体の乳酸オリゴマーが検出された。
【0072】
(実施例5) 4口フラスコにAlamine336/イソフィトール(3:1v/v)75mlと90%L−乳酸溶液25ml(27.9g)とを加えて室温で5分間撹拌した他は、実施例3と同様にしてオリゴマー化反応を実施した。反応後、常圧に戻し、室温まで自然冷却したところ、反応液は上層画分と下層画分の二相に分離された。上層画分はデカンテーションにより容易に除去でき、残渣の下層画分(21.66g、乳酸の重量を100としたときの回収率:)を得ることができた。MALDI−MS法により下層画分を直接分析した結果、図13に示すように、9〜18量体の乳酸オリゴマーが検出された。実施例2の結果と合わせると、Alamine336にイソフィトールを添加した抽出溶媒はAlamine336単独溶媒よりも乳酸抽出効率が高く、さらには、その抽出溶媒中でオリゴマー化分離もできる抽出溶媒であることがわかる。
【0073】
(実施例6)
4口フラスコにAlamine336/イソフィトール(3:1v/v)75mlと90%L−乳酸溶液10ml(10.07g)とを加えて室温で5分間撹拌した他は、実施例3と同様にしてオリゴマー化反応を実施した。反応後、常圧に戻し、室温まで自然冷却したところ、反応液は上層画分と下層画分の二相に分離された。上層画分はデカンテーションにより容易に除去することができ、残渣の下層画分(3.31g、乳酸の重量を100としたときの回収率:36.8%)を得ることができた。MALDI−MS法により下層画分を分析した結果、図14に示すように、6〜19量体の乳酸オリゴマーが検出された。
【0074】
実施例4と比較して下層画分の回収率が低いのは、熱によりイソフィトール(第三級アルコール)の一部がフィトール(第一級アルコール)に変化し、乳酸のオリゴマー化を阻害することがわかっている。第一級アルコールの生成を防ぐためには、オリゴマー化反応が可能な温度〜200℃までの温度に設定することが好ましい。
【0075】
(比較例7) 4口フラスコにAlamine336(100ml)と90%L−乳酸溶液(10.9g)とを加えて室温で5分間撹拌した。常圧下で45分間かけて40℃から200℃に昇温した後、直ちに64℃まで自然冷却した。圧力を60mmHg(8kPa)にセットし、30分かけて64℃から200℃まで昇温した後、圧力を70mmHg(9.3kPa)にセットし、45分間200℃でオリゴマー化反応を行った。反応後、常圧に戻し、室温まで自然冷却することにより反応液を得た。反応液は上層画分(73.42g)と下層画分(12.42g)の二相に液々分離され、赤外吸光分析計を用いて上層画分と下層画分を分析した結果、上層画分よりAlamine336、下層画分よりエステル化合物とAlamine336が検出された。MALDI−MS法(マトリックス支援レーザ脱離イオン化質量分析法、装置:Bruker Daltonics社製 autoflex、マトリックス:2,5−ジヒドロキシ安息香酸)により下層画分を分析した結果、図15に示すように、2〜12量体の乳酸オリゴマーが検出された。
【0076】
比較例1の結果と合わせると、Alamine336単独の抽出溶媒ではオリゴマー化分離は可能であるが、乳酸の抽出効率が低いという問題点がある。
【0077】
(比較例8)
4口フラスコにAlamine336/オレイルアルコール(4:6v/v)100mlと90%L−乳酸溶液(10.9g)とを加えて室温で5分間撹拌した他は、比較例7と同様にしてオリゴマー化反応を行った。反応後、常圧に戻し、室温まで自然冷却することにより反応液を得た。反応液は二相に分離されず、GC−MS法により反応液を分析した結果、乳酸オレイルエステルと2量体の乳酸オリゴマーオレイルエステルが検出された。MALDI−MS法を用いても、図16の中段に示すように、3量体以上の乳酸オリゴマーオレイルエステルは検出されなかった。Alamine336とオレイルアルコールからなる抽出溶媒中ではオリゴマー化分離ができないという問題点がある。
【0078】
(比較例9)
4口フラスコにAlamine336/オレイルアルコール(8:2v/v)100mlと90%L−乳酸溶液(10.9g)とを加えて室温で5分間撹拌した他は、比較例7と同様にしてオリゴマー化反応を行った。反応後、常圧に戻し、室温まで自然冷却することにより反応液を得た。反応液は二相に分離されず、その反応液を分析した結果、GC−MS法により乳酸オレイルエステルが検出され、MALDI−MS法により、図16の上段に示すように、2〜4量体の乳酸オリゴマーオレイルエステルが検出された。比較例8で用いたオレイルアルコール量を1/3に少なくしても乳酸のオリゴマー化分離ができないことがわかる。
【0079】
(比較例10)
4口フラスコにAlamine336(100ml)と90%L−乳酸溶液(10.09g)とを加えて室温で5分間撹拌した。常圧下で45分間かけて40℃から200℃に昇温した後、直ちに64℃まで自然冷却した。圧力を4kPaにセットし、30分かけて64℃から200℃まで昇温した後、6時間200℃でオリゴマー化反応を行った。反応後、常圧に戻し、室温まで自然冷却した。反応液は上層画分と下層画分の二相に分離され、上層画分はデカンテーションにより除去され、残渣の下層画分(6.22g)を得た。下層画分をMALDI−MSで分析した結果、図17に示すように、5〜16量体の乳酸オリゴマーが検出された。比較例7の結果とあわせると、オリゴマー化反応時間を長くすると、乳酸モノマー重合度が高くなることがわかり、以下の実施例では本条件でオリゴマー化反応を実施した。
【0080】
(比較例11)
4口フラスコにAlamine336/ドデカン(1:1v/v)100mlと90%L−乳酸溶液(10.12g)とを加えて室温で5分間撹拌した他は、比較例10と同様にしてオリゴマー化反応を実施した。反応後、常圧に戻し、室温まで自然冷却した。反応液は上層画分と下層画分の二相に分離され、上層画分はデカンテーションにより除去され、残渣の下層画分(5.79g)を得た。下層画分をMALDI−MSで分析した結果、図18aに示すように、19量体までの乳酸オリゴマーが検出された。
【0081】
(比較例12)
4口フラスコにAlamine336/ピネン(1:1v/v)100mlと90%L−乳酸溶液(10.05g)とを加えて室温で5分間撹拌した他は、比較例10と同様にしてオリゴマー化反応を実施した。反応後、常圧に戻し、室温まで自然冷却した。反応液は上層画分と下層画分の二相に分離され、上層画分はデカンテーションにより除去され、残渣の下層画分(4.12g)を得た。下層画分をMALDI−MSで分析した結果、図18bに示すように、23量体までの乳酸オリゴマーが検出された。
【0082】
(比較例13)
4口フラスコにAlamine336/リモネン(1:1v/v)100mlと90%L−乳酸溶液(10.5g)とを加えて室温で5分間撹拌した他は、比較例10と同様にしてオリゴマー化反応を実施した。反応後、常圧に戻し、室温まで自然冷却した。反応液は上層画分と下層画分の二相に分離され、上層画分はデカンテーションにより除去され、残渣の下層画分(8.57g)を得た。この下層画分は流動性の高い物質であった。下層画分をMALDI−MSで分析した結果、図18dに示すように、18量体までの乳酸オリゴマーが検出された。
【0083】
(比較例14)
4口フラスコにAlamine336/デカリン(1:1v/v)100mlと90%L−乳酸溶液(10.0g)とを加えて室温で5分間撹拌した他は、比較例10と同様にしてオリゴマー化反応を実施した。反応後、常圧に戻し、室温まで自然冷却した。反応液は上層画分と下層画分の二相に分離され、上層画分はデカンテーションにより除去され、残渣の下層画分(6.74g)を得た。下層画分をMALDI−MSで分析した結果、図18cに示すように、19量体までの乳酸オリゴマーが検出された。
【0084】
以上の実施例(1〜3)と比較例(1〜9)の結果よりAlamine336単独溶媒中では乳酸のオリゴマー化分離が可能あるが、乳酸の抽出効率が低いという問題点があることがわかった。反対に、Alamine336にオレイルアルコールを添加した抽出溶媒は、乳酸の抽出効率が高いが、乳酸のオリゴマー化分離ができないという問題点があることがわかった。
【0085】
比較例3〜6、11〜14の結果より、Alamine336にドデカン等のアルカン系炭化水素、ピネンやリモネンなどのテルペン系炭化水素、デカリン等のシクロアルカン系炭化水素を添加した抽出溶媒ではAlamine336単独溶媒よりも乳酸の抽出効率が低いがオリゴマー化分離が可能であった。
【0086】
以上の比較例と実施例から明らかなように、第三級アミンに25%〜75%の第一級アルコール又は第三級アルコールを添加した抽出溶媒は、第三級アミン単独溶媒よりも乳酸の抽出効率が2倍以上に向上することがわかる。しかしながら、第三級アミンにオレイルアルコールなどの第一級アルコールが含まれていると、重合化(オリゴマー化)が阻害されるのに対し、第三級アミンと第三級アルコールからなる抽出溶媒を用いれば、オリゴマー化(重合化)が進み、抽出溶媒中の乳酸をオリゴマー(有機酸重合体)として分離回収することができる。
【0087】
〈培養液からの乳酸抽出とオリゴマー化分離の検討〉(実施例7)乳酸生産酵母TC20株を15%YPD培地500mlで3日間培養した結果、4.78%乳酸を含む発酵液を得た。該乳酸発酵液200mlに抽出溶媒としてAlamine336/テルピネオール(1:1v/v)100mlを加え、2分間振盪した。上層画分(溶媒画分)75mlを4口フラスコに入れ、比較例10と同様に、常圧下で45分間かけて40℃から200℃に昇温した後、直ちに64℃まで自然冷却した。圧力を4kPaにセットし、30分かけて64℃から200℃まで昇温した後、6時間200℃でオリゴマー化反応を行った。反応後、常圧に戻し、室温まで自然冷却した。その結果、水分とテルピネオールは蒸留画分に移行し、反応液は上層画分と下層画分の二相に分離された。上層画分(Alamine336)はデカンテーションにより除去され、残渣の下層画分(4.49g)を得た。MALDI−MS法により下層画分を分析した結果、図19に示すように、6〜11量体の乳酸オリゴマーが検出された。
【0088】
なお、TC20株は次のようにして取得した。
(1) 大腸菌K12株をテンプレートとして、ハイグロマイシン耐性遺伝子(以下、HPH遺伝子)のDNA断片をPCRで増幅した。HPH遺伝子のDNA塩基配列はGENBANKデータベースにV01499で登録されており、HPH遺伝子の両末端のプライマーHPH−U(5’ -ATG AAA AAG CCT GAA CTC ACC-3’ (配列番号1))とHPH−D(5’-CTA TTC CTT TGC CCT CGG ACG-3’ (配列番号2))を使用した。
【0089】
(2)酵母IFO2260株(社団法人発酵研究所に登録されている菌株)のゲノムDNAをテンプレートとして、TDH3プロモーター領域のDNA断片をPCRで増幅した。TDH3遺伝子のDNA塩基配列はGENBANKデータベースにZ72977で登録されており、プライマーTDH3P−U(5’ -ATA TAT GGA TCC TAG CGT TGA ATG TTA GCG TCAAC-3’ ;TDH3プロモーター配列にBamHIサイトを付加(配列番号3))、TDH−3P−D(5’ -ATA TAT CCC GGG TTT GTT TGT TTA TGT GTG TTT ATT CG-3’;TDH3プロモーター配列にSmaIサイトを付加(配列番号4))を使用した。
【0090】
(3)酵母IFO2260株のゲノムDNAをテンプレートとして、CYC1ターミネーター領域のDNA断片をPCRで増幅した。CYC1ターミネーター領域のDNA塩基配列はGENBANKデータベースにZ49548で登録されており、プライマーCYCT−U(5’ -ATA TAT AAG CTT ACA GGC CCC TTT TCC TTT G-3’ ;CYC1ターミネーター配列にHindIIIサイトを付加(配列番号5))、TDH−3P−D(5’ -ATA TAT GTC GAC GTT ACA TGC GTA CAC GCG-3’; CYC1ターミネーター配列にSaIIサイトを付加(配列番号6))を使用した。
【0091】
(4)HPH遺伝子断片を大腸菌プラスミドpBluescriptII(プロメガ製)のEcoRV部位に挿入した。このプラスミドをpBhphと命名した。本プラスミドをBamHIとSmaI部位で切断後、TDH3プロモーター断片を挿入し、このプラスミドをpBhph−Pと命名した。さらに本プラスミドをHindIIIとSaII部位で切断後、CYC1ターミネーター断片を挿入し、このプラスミドをpBhph−PTと命名した。pBhph−PTをテンプレートとしてTDH3プロモーター領域、CYC1ターミネーター領域を付加したHPH遺伝子カセットの両末端にGPD1遺伝子の一部(77bp)が付加したDNA断片をPCRで増幅した。付加したGPD1遺伝子のDNA塩基配列はGENBANKデータベースにZ24454で登録されており、プライマーはHPH遺伝子の外側にGPD1遺伝子の−127〜−51領域を付加したGPD1−CYC1−R(5’ -TTA CGT TAC CTT AAA TTC TTT CTC CCT TTA ATT TTC TTT TAT CTT ACT CTC CTA CAT AAG ACA TCA AGA AAC AAT TGg tta cat gcgtac acg cgtttg t-3’;大文字はGPD1遺伝子配列部分、小文字はHPH遺伝子配列部分(配列番号7))と、同じくGPD1遺伝子の+1100〜+1176領域を付加したGPD1−TDH3−F(5’ -CTA ATC TTC ATG TAG ATC TAA TTC TTC AAT CAT GTC CGG CAG GTT CTT CAT TGG GTA GTT GTT GTA AAC GAT TTG Gta gcg ttg aatgtt agc gtcaac a-3’; 大文字はGPD1遺伝子配列部分、小文字はHPH遺伝子配列部分(配列番号8))を使用した。このPCR産物を用いて、KCB27−7株を酢酸リチウム法(Ito et al.,J.Bacteriol.,153,163-168(1983))にて形質転換した。形質転換後、200μg/mlハイグロマイシンを含むYPD培地のプレートにまいて、30℃で2日間培養し、形質転換体を得た。形質転換体よりゲノムDNAを調製し、PCR法により挿入DNA断片の外側のプライマーであるGPD1−295F(5’ -TGC TTC TCT CCC CTT CTT-3’(配列番号9))、GPD1+1472R(5’ -CAG CCT CTG AAT GAG TGG T-3’(配列番号10))を用いて、HPH遺伝子がGPD1遺伝子領域の染色体に組み込まれていることを確認した。
【0092】
(5)この株を胞子形成培地で胞子を形成させ、ホモタリック性を利用して2倍化を行った。2倍体である染色体のGPD1遺伝子領域の両方にHPH遺伝子が組み込まれGPD1遺伝子が破壊されている株を取得した。これをTC20株とした。
【0093】
(実施例8)
乳酸生産酵母TC20株を15%糖蜜培地500mlで3日間培養した結果、3.79%乳酸を含む発酵液を得た。該乳酸発酵液200mlに抽出溶媒としてAlamine336/テルピネオール(1:1v/v)100mlを加え、2分間振盪した。上層画分(乳酸抽出された溶媒画分)80mlを4口フラスコに入れ、実施例6と同様に、オリゴマー化反応を行った。反応後、常圧に戻し、室温まで自然冷却した。その結果、水分とテルピネオールは蒸留画分に移行し、反応液は上層画分と下層画分の二相に分離された。上層画分(Alamine336)はデカンテーションにより除去され、残渣の下層画分(3.27g)を得た。赤外吸光分析計を用いて上層画分を分析した結果、主成分としてAlamine336が検出され、下層画分をMALDI−MSで分析した結果、図20に示すように、6〜11量体の乳酸オリゴマーが検出された。
【0094】
(実施例9)
4口フラスコにトリ−n−デシルアミン(70ml)とイソフィトール(27ml)の混合液に90%L−乳酸溶液10.4ml(12.08g)を加えて室温で5分間撹拌し、10w/v%のL−乳酸を含む25v/v%イソフィトール/トリ−n−デシルアミン溶液を調製した。常圧下で45分間かけて40℃から200℃で昇温した後、直ちに64℃まで自然冷却した。圧力を4kPaにセットし、30分かけて64℃から200℃まで昇温した後、6時間200℃でオリゴマー化反応を行った。反応後、常圧に戻し、室温まで自然冷却したところ、反応液は上層画分と下層画分の二相に分離され、上層画分はデカンテーションにより除去され、残渣の下層画分(一次沈殿画分という)3.27gを得た。さらに、上層画分を10000rpmで30分間遠心したところ、沈殿画分(二次沈殿画分という)2.69gを得ることができた。MALDI−MS法により一次沈殿画分と二次沈殿画分をそれぞれ直接分析した結果、図21と図22に示すように、8〜17量体の乳酸オリゴマーと8〜18量体の乳酸オリゴマーが検出された。
【0095】
(実施例10)
4口フラスコにトリ−n−デシルアミン(70ml)とイソフィトール(29ml)の混合液に90%L−乳酸溶液17ml(19.61g)を加えて室温で5分間撹拌し、15w/v%のL−乳酸を含む25v/v%イソフィトール/トリ−n−デシルアミン溶液を調製した他は、実施例9と同様にオリゴマー化反応を行った。反応後、常圧に戻し、室温まで自然冷却したところ、反応液は上層画分と下層画分の二相に分離され、上層画分はデカンテーションにより除去され、残渣の下層画分(一次沈殿画分という)4.15gを得た。さらに、上層画分を10000rpmで30分間遠心したところ、沈殿画分(二次沈殿画分という)4.12gを得ることができた。MALDI−MS法により一次沈殿画分と二次沈殿画分をそれぞれ直接分析した結果、図23と図24に示すように、8〜18量体の乳酸オリゴマーと8〜14量体の乳酸オリゴマーが検出された。
【0096】
(実施例11)
4口フラスコにトリ−n−デシルアミン(70ml)とイソフィトール(31.5ml)の混合液に90%L−乳酸溶液24.1ml(28.43g)を加えて室温で5分間撹拌して20w/v%のL−乳酸を含む25v/v%イソフィトール/トリ−n−デシルアミン溶液を調製した他は、実施例9と同様にオリゴマー化反応を行った。反応後、常圧に戻し、室温まで自然冷却したところ、反応液は上層画分と下層画分の二相に分離され、上層画分はデカンテーションにより除去され、残渣の下層画分(一次沈殿画分という)11.16gを得た。さらに、上層画分を10000rpmで30分間遠心したところ、沈殿画分(二次沈殿画分という)1.49gを得ることができた。MALDI−MS法により一次沈殿画分と二次沈殿画分をそれぞれ直接分析した結果、図25と図26に示すように、8〜16量体の乳酸オリゴマーと8〜17量体の乳酸オリゴマーが検出された。
【0097】
(実施例12)
4口フラスコにトリブチルホスフェート(TBP)(和光純薬株式会社製)30ml(28.68g)、イソフィトール水添物(クラレ製イソフィトール溶液に水素ガスを添加して合成したもの)60ml(48.53g)及び90%L−乳酸溶液(和光純薬株式会社製)9.7ml(11.40g) を入れ、室温で5分間撹拌して10w/v% L−乳酸を含む30v/v%TBP/イソフィトール水添物を調製した。40hPaの減圧下で45分間かけて40℃から200℃で昇温した後、直ちに64℃まで自然冷却した。冷却後、圧力を4hPaにセットし、30分かけて64℃から200℃まで昇温し、200℃で6時間オリゴマー化反応を行った。反応後、常圧に戻し、4℃まで冷却した。冷却後、反応液は二相に液々分離され、下層画分(オリゴマー画分)をエレクトロスプレーイオン化質量分析法(ESI-MS法)で直接分析したところ、図27に示すように、2〜14量体の遊離型乳酸オリゴマーと6〜10量体の環状型乳酸オリゴマーが検出された。
【0098】
(実施例13)
4口フラスコにトリブチルホスフェート(TBP)[和光純薬]30ml(28.70g)、イソフィトール[和光純薬]60ml(48.57g)及び90%L−乳酸溶液[和光純薬]9.7ml(11.40g) を入れ、室温で5分間撹拌して10w/v% L−乳酸を含む30%v/vTBP/イソフィトールを調製した。40hPaの減圧下で45分間かけて40℃から200℃で昇温した後、直ちに64℃まで自然冷却した。冷却後、圧力を4hPaにセットし、30分かけて64℃から200℃まで昇温し、200℃で6時間オリゴマー化反応を行った。反応後、常圧に戻し、4℃まで冷却した。冷却後、反応液は二相に液々分離され、下層画分(オリゴマー画分)をエレクトロスプレーイオン化質量分析法(ESI-MS法)で直接分析したところ、図28に示すように、5〜8量体の環状型乳酸オリゴマーと非遊離型乳酸オリゴマー(3〜19量体の遊離型乳酸オリゴマーに相当)が検出された。
【0099】
(実施例14)
4口フラスコにトリブチルホスフェート(TBP)[和光純薬]30ml(29.10g)、テルピネオール[和光純薬]60ml(54.74g)及び90%L−乳酸溶液[和光純薬]9.7ml(11.27g) を入れ、室温で5分間撹拌して10w/v% L−乳酸を含む30v/v%TBP/テルピネオールを調製した。40hPaの減圧下で45分間かけて40℃から200℃で昇温した後、直ちに64℃まで自然冷却した。冷却後、圧力を4hPaにセットし、30分かけて64℃から200℃まで昇温し、200℃で6時間オリゴマー化反応を行った。テルピネオールは蒸留除去され、残渣の反応液をエレクトロスプレーイオン化質量分析法(ESI-MS法)で直接分析したところ、図29に示すように、5〜8量体の環状型乳酸オリゴマーと非遊離型乳酸オリゴマー(3〜19量体の遊離型乳酸オリゴマーに相当)が検出された。
【配列表フリーテキスト】
【0100】
配列番号1〜10:合成プライマー
【図面の簡単な説明】
【0101】
【図1】有機酸の抽出工程と有機酸オリゴマーの合成工程との組み合わせの一例を示す図。
【図2】有機酸の抽出工程と有機酸オリゴマーの合成工程との組み合わせの他の一例を示す図。
【図3】有機酸の抽出工程と有機酸オリゴマーの合成工程との組み合わせの他の一例を示す図。
【図4】テルピネオールによる乳酸抽出効率を示す図。
【図5】イソフィトールによる乳酸抽出効率を示す図。
【図6】オレイルアルコールによる乳酸抽出効率を示す図。
【図7】ドデカンによる乳酸抽出効率を示す図。
【図8】ピネンによる乳酸抽出効率を示す図。
【図9】リモネンによる乳酸抽出効率を示す図。
【図10】デカリンによる乳酸抽出効率を示す図。
【図11】Alamin336反応液/テルピネオールの下層画分のMALDI−MSスペクトルを示す図。
【図12】トリ−n−オクチルアミン/テルピネオール反応液の下層画分のMALDI−MSスペクトルを示す図。
【図13】Alamin336/イソフィトール反応液の下層画分のMALDI−MSスペクトルを示す図。
【図14】Alamin336/イソフィトール反応液の下層画分のMALDI−MSスペクトルを示す図。
【図15】Alamin336反応液の下層画分のMALDI−MSスペクトルを示す図。
【図16】Alamin336/オレイルアルコール反応液の下層画分のMALDI−MSスペクトルを示す図。
【図17】Alamin336反応液の下層画分のMALDI−MSスペクトルを示す図。
【図18a】Alamin336/ドデカンの反応液の下層画分のMALDI−MSスペクトルを示す図。
【図18b】Alamin336/ピネンの反応液の下層画分のMALDI−MSスペクトルを示す図。
【図18c】Alamin336/デカリンの反応液の下層画分のMALDI−MSスペクトルを示す図。
【図18d】Alamin336/リモネンの反応液の下層画分のMALDI−MSスペクトルを示す図。
【図19】YPD乳酸発酵培養液からの溶媒抽出液からオリゴマー化分離した画分のMALDI−MSスペクトルを示す図。
【図20】YPD乳酸発酵培養液からの溶媒抽出液からオリゴマー化分離した画分のMALDI−MSスペクトルを示す図。
【図21】25v/v%イソフィトール/トリ−n−デシルアミン、10w/v%乳酸の一次沈殿画分のMALDI−MSスペクトルを示す図。
【図22】25v/v%イソフィトール/トリ−n−デシルアミン、10w/v%乳酸の二次沈殿画分のMALDI−MSスペクトルを示す図。
【図23】25v/v%イソフィトール/トリ−n−デシルアミン、15w/v%乳酸の一次沈殿画分のMALDI−MSスペクトルを示す図。
【図24】25v/v%イソフィトール/トリ−n−デシルアミン、15w/v%乳酸の二次沈殿画分のMALDI−MSスペクトルを示す図。
【図25】25v/v%イソフィトール/トリ−n−デシルアミン、20w/v%乳酸の一次沈殿画分のMALDI−MSスペクトルを示す図。
【図26】25v/v%イソフィトール/トリ−n−デシルアミン、20w/v%乳酸の二次沈殿画分のMALDI−MSスペクトルを示す図。
【図27】30v/v%トリブチルホスフェート(TBP)/イソフィトール水添物、10w/v%乳酸の二次沈殿画分のMALDI−MSスペクトルを示す図。
【図28】30v/v%トリブチルホスフェート(TBP)/イソフィトール、10w/v%乳酸の二次沈殿画分のMALDI−MSスペクトルを示す図。
【図29】30v/v%トリブチルホスフェート(TBP)/イソフィトール、10w/v%乳酸の二次沈殿画分のMALDI−MSスペクトルを示す図。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
有機酸オリゴマーの製造方法であって、アルキルアミン、トリブチルホスフェート及びトリ−n−オクチルホスフィンオキサイドから選択されるキャリアと、第3級アルコール及びエステル基を有しない非アルコール類から選択される1種又は2種以上とを含む反応溶媒を用いて、有機酸を重合して有機酸オリゴマーを合成する工程、を備える製造方法。
【請求項2】
前記アルキルアミンは第3級アミン及び第2級アミンから選択される1種又は2種以上を含む、請求項1に記載の製造方法。
【請求項3】
前記キャリアはアルキルアミンであり、トリ−n−オクチルアミン、トリ−n−ノニルアミン、トリ−n−デシルアミン及びトリ−n−C8〜C10アルキルアミンから選択される1種又は2種以上を含む、請求項1又は2に記載の製造方法。
【請求項4】
前記キャリアはトリブチルホスフェート及びトリ−n−オクチルホスフィンオキサイドから選択される、請求項1に記載の製造方法。
【請求項5】
前記第3級アルコールは、テルピネオール、イソフィトール、ゲラニルリナロール、リナロール、テトラヒドロリナロール、ネロリドール、ヒドロキシシトロネラールジエチルアセタール、ヒドロキシシトロネラールジメチルアセタール、4−ツヤノール、3−メチル−3−ペンタノール、オシメノール、スクラレオール、p−メンタン−8−オール、ピリジフロロール、3−メチル−3−オクタノール、エチルリナロール及びアンブリノールからなる群から選択される1種又は2種以上を含む、請求項1〜3のいずれかに記載の製造方法。
【請求項6】
前記第3級アルコールは、テルピネオール及びイソフィトールを含む、請求項5に記載の製造方法。
【請求項7】
前記非アルコール類は、ヘプタン、ヘキサン、ケロシン、イソオクタン、ヘキサデカン、トルエン、キシレン及びパラフィンオイルからなる群から選択される1種又は2種以上である、請求項1〜6のいずれかに記載の製造方法。
【請求項8】
前記反応溶媒は、20vol%以上の前記アルキルアミンを含有している、請求項1〜7のいずれかに記載の製造方法。
【請求項9】
さらに、前記有機酸オリゴマーを前記反応溶媒から分離する工程を備える、請求項1〜8のいずれかに記載の製造方法。
【請求項10】
前記有機酸を含有する有機酸含有水性溶液に前記反応溶媒を接触させて前記有機酸を抽出する抽出工程を備える、請求項1〜9のいずれかに記載の製造方法。
【請求項11】
前記抽出工程における前記有機酸含有水性溶液は有機酸生産酵母による有機酸発酵液を含有する、請求項10に記載の製造方法。
【請求項12】
前記有機酸発酵液は、有機酸を発酵生産中の培養液を含む、請求項11に記載の製造方法。
【請求項13】
前記抽出工程は、前記培養液と前記反応溶媒とをおおよそ二相系を維持しながら培養する培養工程を含む、請求項12に記載の製造方法。
【請求項14】
前記培養工程は、前記有機酸生産酵母が代謝可能な炭素源を連続的に加えて培養する工程である、請求項13に記載の製造方法。
【請求項15】
前記有機酸は、乳酸である、請求項1〜14のいずれかに記載の製造方法。
【請求項16】
前記有機酸生産酵母は、遺伝子工学的に有機酸生産酵素系が導入された遺伝子組換え酵母である、請求項11〜15のいずれかに記載の製造方法。
【請求項17】
前記遺伝子組換え酵母の宿主は、サッカロマイセス・セレビシエから選択される、請求項16に記載の製造方法。
【請求項18】
有機酸の抽出方法であって、
有機酸含有水性溶液に、アルキルアミン、トリブチルホスフェート及びトリ−n−オクチルホスフィンオキサイドから選択されるキャリアと、第3級アルコール及びエステル基を有しない非アルコール類から選択される1種又は2種以上とを含む抽出溶媒を接触させて有機酸を抽出する工程、を備える、方法。
【請求項19】
有機酸の製造方法であって、
有機酸を発酵生産する工程と、
前記有機酸発酵生産工程で得られる有機酸を含有する有機酸発酵液に、
アルキルアミン、トリブチルホスフェート及びトリ−n−オクチルホスフィンオキサイドから選択されるキャリアと、第3級アルコール及びエステル基を有しない非アルコール類から選択される1種又は2種以上とを含む抽出溶媒を接触させて有機酸を抽出する工程、を備える、方法。
【請求項20】
脂肪族ポリエステルの製造方法であって、
アルキルアミン、トリブチルホスフェート及びトリ−n−オクチルホスフィンオキサイドから選択されるキャリアと、第3級アルコール及びエステル基を有しない非アルコール類から選択される1種又は2種以上とを含む反応溶媒を用いて、有機酸を重合して有機酸オリゴマーを合成する工程と、
該乳酸オリゴマーを用いて脂肪族ポリエステルを合成する工程と、を備える、製造方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【図14】
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【図15】
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【図16】
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【図17】
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【図18a】
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【図18b】
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【図18c】
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【図18d】
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【図19】
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【図20】
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【図21】
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【図22】
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【図23】
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【図24】
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【図25】
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【図26】
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【図27】
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【図28】
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【図29】
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【公開番号】特開2008−56919(P2008−56919A)
【公開日】平成20年3月13日(2008.3.13)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−201929(P2007−201929)
【出願日】平成19年8月2日(2007.8.2)
【国等の委託研究の成果に係る記載事項】(出願人による申告)平成16年度、独立行政法人新エネルギー産業技術総合開発機構、課題設定型産業技術開発費助成「バイオプロセス実用化開発」、産業活力再生特別措置法第30条の適用を受ける特許出願
【出願人】(000003609)株式会社豊田中央研究所 (4,200)
【Fターム(参考)】