説明

有機金属高分子構造体、酸素還元触媒およびその製造方法

【課題】 金属配位高分子に含まれる配位金属量を従来よりも増加させ酸素還元活性を向上させた有機金属高分子構造体を提供する。
【解決手段】本発明の有機金属高分子構造体は、π共役系を主鎖に含む高分子と、前記高分子に導入され、有機骨格を有するアニオン基を含み、前記高分子鎖の間隔を拡張するカウンターイオンと、前記高分子に配位した金属と、を有し、カウンターイオンの導入により前記高分子鎖の間隔を拡張している。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、本発明は、水溶液中における酸素還元反応を促進する触媒に関し、特に燃料電池、空気電池等の電気化学デバイスの電極に用いられる触媒および電極触媒の構造、構成、および製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
燃料電池や空気電池は、空気中などの酸素を酸化剤とし、酸化剤と燃料となる化合物や負極活物質との化学反応のエネルギーを電気エネルギーとして取り出す電気化学エネルギーデバイスである。
【0003】
これらの電池はリチウム(Li)イオン電池などの2次電池よりも高い理論エネルギー容量を持ち、車載用電源、家庭や工場などの定置式分散電源、あるいは携帯電子機器用の電源などとして利用することができる。
【0004】
燃料電池や空気電池の酸素極側では、酸素が還元される電気化学反応が起こる。
【0005】
酸素還元は比較的低温では進行しにくい反応であり、一般的には白金(Pt)などの貴金属触媒により反応を促進させるが、それでも燃料電池や空気電池のエネルギー変換効率を制限する主な要因のひとつとなっている。
【0006】
そのため、白金微粒子触媒を上回る酸素還元活性を示す触媒の実現が大きな課題のひとつである。
【0007】
酸素還元触媒には、主に貴金属の白金(Pt)やその合金で平均粒径がナノメートルサイズの微粒子をカーボンブラック等の比表面積の大きな担体上に担持させたものが用いられている。
【0008】
Ptは酸素を水に還元する電気化学反応に対して既知の触媒の中では比較的高い酸素還元活性を示すが、実用上はそれでも不十分で、上記用途の電源として用いるには大量のPtが必要である。
【0009】
Ptは希少かつ高価であり、大量のPtを電極触媒として用いることはコスト面で実用上問題がある。従って、さらなる微細化によって白金の比表面積を増やしたり合金化によって白金量を減らしつつ触媒活性を上げたり、白金を使用しない触媒の開発が大きな技術課題とされている。
【0010】
白金を使用しない触媒としては、例えば、フタロシアニンやポルフィリンなどの有機骨格に原子・イオン状の金属が配位した金属系大環状化合物が知られている(非特許文献1)。
【0011】
これらの触媒は白金以外の比較的安価な金属でも配位させることが可能であり、また金属の微粒子触媒を用いる場合より金属使用量が少なくなると期待される。
【0012】
しかしながら、大半の金属系大環状化合物が示す触媒活性はPtに比べるとかなり低い。さらに酸性溶液中では非常に不安定で、酸素還元反応とともに分解するので長期間安定して燃料電池や空気電池を動作させることができない。
【0013】
一方、特許文献1は、ポルフィリンや、フタロシアニンといった大環状分子ではなく、高分子に金属を配位させた金属配位高分子からなる酸素還元触媒を提供している(特許文献1)。
【0014】
このような構造においては、酸に耐性のある高分子を用いることで酸性電解液中においても高い耐久性が期待できる。また金属を単原子状で用いるので、金属使用量およびコストを大幅に削減できる。
【0015】
さらに、最適な構造の高分子を用いることで、2電子反応(式1)と4電子反応(式2)の2つの酸素還元反応経路の内より大きな電力を取り出せる4電子反応に都合の良い酸素分子のブリッジタイプ吸着(非特許文献2)が起こる触媒反応サイト構造を作り、酸素還元触媒能そのものを向上させることもできる。
【0016】
+2H+2e→2OH (式1)
+4H+4e→2HO (式2)
【0017】
一方、非特許文献3では、記載の金属配位高分子として最も高活性なコバルト配位ポリピロールを作製し、Coとピロール環に含まれるNとの原子数比を調べた結果、Co原子はN原子20個に対して1つ程度の割合でしか配位していない事が判明した(非特許文献3)。
【0018】
【特許文献1】特開2005−66592号公報
【非特許文献1】R.Jasinski,”A New Fuel Cell Cathode Catalyst”, Nature,201,1964, p.1212
【非特許文献2】E.Yeager, ”Electrocatalysts for O2 reduction”,Electrochim.Acta. ,29, 1984, p.1527,
【非特許文献3】M.Yuasa,”Modifying Carbon Particles with Polypyrrole for Absorption of Cobalt Ions as Electrocatalystic Site for Oxygen Reduction”, Chem. Mater , 17, 2005, p4278
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0019】
上記のように、酸素還元触媒として高い可能性を持つ金属配位高分子であるが、触媒活性サイトである配位金属量は高々数%(原子%)と低く、白金に匹敵するほどの高い触媒活性が得られていないという課題がある。
【0020】
金属配位高分子の触媒としての能力を最大限に引き出すためには、金属配位量をさらに増やす必要がある。
【0021】
本発明は上記の背景を鑑みて行われたものであり、その目的は金属配位高分子に含まれる配位金属量を従来よりも増加させ酸素還元活性を向上させた有機金属高分子構造体を提供することを目的としている。
【課題を解決するための手段】
【0022】
前述した目的を達成するために、第1の発明は、π共役系を主鎖に含む高分子と、前記高分子に導入され、有機骨格を有するアニオン基を含み、前記高分子鎖の間隔を拡張するカウンターイオンと、前記高分子に配位した金属と、を有することを特徴とする有機金属高分子構造体である。
【0023】
第2の発明は、第1の発明記載の有機金属高分子構造体を電気伝導性のある担体に担持させた電極触媒である。
【0024】
第3の発明は、第1の発明記載の有機金属高分子構造体を酸素還元触媒として用いる燃料電池である。
【0025】
第4の発明は、第1の発明記載の有機金属高分子構造体を酸素還元触媒として用いる空気電池である。
【0026】
第5の発明は、第3の発明記載の燃料電池を用いることを特徴とする充放電方法である。
【0027】
第6の発明は、第4の発明記載の空気電池を用いることを特徴とする充放電方法である。
【0028】
第7の発明は、π共役系を主鎖に含む高分子に、有機骨格を有するアニオン基を含むカウンターイオンを導入し、前記高分子に金属を配位させる工程を有することを特徴とする有機金属高分子構造体の製造方法である。
【0029】
第8の発明は、第7の発明記載の有機金属高分子構造体を電気伝導性のある担体に担持しさせる工程を有することを特徴とする電極触媒の製造方法である。
【0030】
第9の発明は、第7の発明記載の有機金属高分子構造体を酸素還元触媒として組み込む工程を有することを特徴とする燃料電池の製造方法である。
【0031】
第10の発明は、第7の発明記載の有機金属高分子構造体を酸素還元触媒として組み込む工程を有することを特徴とする空気電池の製造方法である。
【発明の効果】
【0032】
本発明によれば金属配位高分子に含まれる配位金属量を従来よりも増加させ酸素還元活性を向上させた有機金属高分子構造体を提供することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0033】
以下、本発明に好適な実施形態を詳細に説明する。
【0034】
本発明では、有機骨格を有するアニオン、例えば環状分子とアニオン基、アルキル基もしくはアルケニル基もしくはアルキニル基(各々炭素数が2〜16)などを含んだカウンターイオンを用いることで高分子鎖の間隔を3.5〜5.5Å(3.5〜5.5×10−10m)に拡張し、金属イオンを高分子内部へ浸入及び拡散しやすくすることで配位金属量を向上させた金属配位高分子および酸素還元触媒を提供する。
【0035】
カウンターイオンを構成する有機アニオンとしては、ベンゼン、及びその炭素数の異なるアヌレン類、ナフタレン、アントラセン、テトラセン、ペンタセン等のアセン類、フェナントレン、クリセン、トリフェニレン、テトラフェン、ピレン、ピセン、ペンタフェン、ペリレン、ヘリセン、コロネン、芳香族多環化合物であるビフェニル、トリフェニルメタン、アセプレイアジレンなどの環状分子を、少なくともひとつ以上用いることができる。
【0036】
カウンターイオンを構成するアニオン基としては、カルボン酸、硫酸、スルホン酸、亜硫酸アニオン、チオ硫酸アニオン、炭酸アニオン、クロム酸アニオン、二クロム酸アニオン、リン酸一水素アニオン、リン酸アニオンなどを用いることができる。
【0037】
カウンターイオンに含まれる水素の全て、または一部をカルボニル基、アミノ基、イミノ基、シアノ基、アゾ基、アジ基、チオール基、スルホ基、ニトロ基、ヒドロキシ基、アシル基、アルデヒド基、シクロアルキル基、アリール基などの置換基に置換することも可能である。これらの置換を行うことによって、カウンターイオンの親水性あるいは疎水性、形状を調整しカウンターイオン量の調整や高分子鎖間隔をより細かく調節することができる。
【0038】
本発明のカウンターイオンを導入する高分子としては構造内にπ共役系を持った高分子を用いることが出来る。π共役系を持った高分子としては、例えば、ポリアセチレン、ピロール、イミダゾール、ピラゾール、テルラゾール、イソテルラゾール、セレナゾール、イソセレナゾール、チオゾール、チアゾール、イソチアゾール、オキサゾール、イソオキサゾール、フラザン、トリアゾール、フラン、ジオキサン、チオフェン、セレノフェン、ピリジン、ピリミジン、ピペリジン、ピラジン、ピペラジン、ピリダジン、セレノモルホリン、モルホリン、ピラン、ジオキセン、チオピラン、トリチアン、チオキサン、セレニン、キナゾリン、イソキノリン、キノリン、ナフチリジン、アクリジン、ベンゾキノリン、フェナントロリン、キノキサリン、インドール、インドリン、インダゾール、カルバゾール、ベンゾチアゾール、ベンズイミダゾール、ピロロピリジン、ベンゾフラン、ジヒドロベンゾフラン、フェノキサチイン、ジベンゾフラン、ジベンゾジオキシン、メチレンジオキシベンゼン、ベンズオキサゾール、ベンゾチオフェン、ジベンゾチオフェン、チアントレンの中から選ばれる少なくとも1種類を主鎖及び側鎖に含むものが挙げられる。高分子へのカウンターイオン導入量は、高分子の酸化量を調節して決めることができる。高分子の酸化方法としては電気化学的に酸化する方法もしくは酸化剤を用いて化学的に酸化する方法などを用いることが出来る。
【0039】
本発明のカウンターイオンにより鎖間の距離が広げられた高分子に配位する金属としては、酸素の吸着サイトとして作用することが可能な遷移金属や貴金属ならばいずれを用いてもよい。そのなかでも、Ti、V、Cr、Mn、Fe、Co、Ni、Cu、Zr、Nb、Mo、Ru、Rh、Pd、Ag、Zn、Ir、Pt、Auから選ばれる少なくとも一種類の金属が配位することが望ましい。金属原子は、酸素分子の吸着サイトであると同時に、解離、原子状酸素のプロトン化過程の活性サイトとなりうる。
【0040】
燃料電池や空気電池の電極触媒として使用する際には、集電電極上に直接分散あるいは塗布してもよいし、カーボン微粒子などのような比表面積の大きな電気伝導性を持つ担体の上に分散、塗布してもよい。金属量を少なくおさえるためには、比表面積の大きな担体上に金属配位高分子触媒を数層分担持させることが望ましい。金属配位高分子触媒の担持は、触媒の合成時に担体を混合してもよいし、高分子触媒の合成後に混合してもよい。さらに、担持した触媒を触媒電極とする際には、バインダーなどのイオン導電性を持つ添加物を加えることもできる。ただし、この触媒担持方法は上記に限定されるものではなく、触媒と電極が電気的に接触すればいかなる状態でもかまわない。
【0041】
金属配位高分子触媒を含む電極触媒を、燃料電池や空気電池の電極触媒として用いることができる。
【0042】
即ち、本実施形態に係る有機金属高分子構造体を酸素還元触媒として組み込むことにより製造した燃料電池や空気電池もそれぞれ利用可能である。
【0043】
燃料電池としては、酸性溶液、アルカリ溶液、中性溶液のいかなる性質をもつ電解液も使用することが可能である。燃料電池の燃料は、なんら限定されることなく水素や水素化合物を用いることができる。空気電池の場合も同様に、なんら電解液や負極活物質に限定されることなく使用することが可能である。
【0044】
以下、本発明の詳細を具体的に実施例において示す。しかし、本発明はこれら実施例等に何ら制約されるものではない。
【実施例1】
【0045】
(ポリピロールの作製)
カウンターイオンとしてベンゼンスルホン酸のパラ位にドデシル基を持つp‐ドデシルベンゼンスルホン酸(DBS)を用いたポリピロール(PPy)を、以下に示したドデシルベンゼンスルホン酸鉄(III)を酸化剤に用いた化学酸化重合法により作製した。
【0046】
ドデシルベンゼンスルホン酸鉄(III)は、ドデシルベンゼンスルホン酸ナトリウム溶液に塩化鉄(III)を加えて作製した。塩化鉄とドデシルベンゼンスルホン酸ナトリウムのモル比は1:3にした。塩化鉄投入後、攪拌しているとドデシルベンゼンスルホン酸鉄が析出してくる。溶液を遠心分離にかけて析出物を取り出した。この段階の析出物には塩化ナトリウムが混入している可能性があるので、超純水で十分に洗浄し除去した。洗浄後のドデシルベンゼンスルホン酸ナトリウムをメタノールに溶かし、酸化剤溶液とした。
【0047】
次にピロールモノマーを超純水に滴下し攪拌を加えてエマルジョン化したピロールを作製した。ここに酸化剤を滴下してピロールの化学酸化重合を行い、ドデシルベンゼンスルホン酸をカウンターイオンとして含んだPPy−DBSを得た。
【0048】
比較例として特許文献1に記載のClをカウンターイオンとしたPPy-Clの作製も行った。
【実施例2】
【0049】
(XRDを用いた高分子鎖間距離の測定)
作製した3種類のPPyのX線回折(XRD)測定を行い、PPy鎖の間隔(d)を測定した。解析の結果、PPy‐Clにおいては鎖間隔が平均3.5Å(3.5×10−10m)程度であったのに対してPPy−DBSにおいては鎖間隔が5Å(5×10−10m)と大きな値が得られた(図1)。PPy‐Clにおいて得られた3.5Å(3.5×10−10m)という値はグラフェンの面間隔3.46Å(3.46×10−10m)に近い値で、環状分子がスタックしたときの一般的な面間隔である。本発明の特徴を持つカウンターイオンを用いればこの間隔を広げることができる。
【実施例3】
【0050】
(金属導入)
特許文献1などで配位金属として用いられているコバルトのPPyへの導入処理を以下の方法で行った。
【0051】
PPyを分散させたメタノール溶液に酢酸コバルトをいれ、不活性ガス雰囲気で還流処理を6時間行った。還流後超純水で十分に洗浄し、PPyに配位せずに吸着しているコバルトを洗い流した。洗浄後の試料を十分に乾燥させコバルト配位ポリピロール(CoPPy)を作製した。
【0052】
CoPPy中のピロール由来の窒素量とコバルト量の比(窒素の原子量を元に規格化したもの)を有機元素分析、ICP発光分光分析より求めた(表1)。
【0053】
【表1】

【0054】
測定の結果、PPy鎖間隔の増加がみられたPPy−DBSにはPPy‐Clと比較して2倍近い量のコバルトが配位していることが分かった。カウンターイオンによりPPy鎖間隔を拡大し、PPy内部へのコバルトの浸入を容易にし、コバルトの配位量を向上させることに成功した。
【実施例4】
【0055】
(PPyの酸素還元能の評価)
作製したCo‐PPyの酸素還元能を以下の方法により評価した。電極の作製では、まず乳鉢で粉末状にしたCo‐PPyに超純水を加えて超音波照射により分散液を作製した。その分散液をよく研磨した直径3mmのグラッシカーボン(GC)電極上に10μgのCo‐PPyが担持されるように滴下乾燥し、さらにナフィオンとプロパノールの混合液を5μl滴下乾燥させ電極を作製した。作製した電極を用いて酸素飽和1M HClO水溶液中で酸素還元活性を測定した。
【0056】
カウンターイオンの異なる三種類のCo‐PPyの酸素還元活性を調べた結果、開回路電位及び0.6Vにおける電流値などがCo導入量の向上にともなって向上した(図2)。PPyの鎖間隔をカウンターイオンを用いることで広げPPy内部でのコバルトの浸入拡散を促進しコバルト配位量を向上させた結果、酸素還元活性が向上した。
【実施例5】
【0057】
(置換基の導入及び導入の効果)
p‐ドデシルベンゼンスルホン酸のアルキル基のオルト位にさらにドデシル基で置換した2,1-ドデシル-スルホン酸をカウンターイオンに用いてPPyを作製し、これにコバルトを配位させコバルト配位量への置換基の影響を調べた。
【0058】
PPyの合成法やコバルトの合成法は〔実施例1〕及び〔実施例3〕に記載の方法と同様に行った。XRDにより高分子鎖間隔を測定した結果、d=5.3Å(5.3×10−10m)が得られた。ベンゼン環中の水素がさらにドデシル基で置換したことによりカウンターイオンのサイズがさらに増え、高分子鎖間隔がさらに拡大した。有機元素分析及びICP発光分光分析によりコバルトの配位量を調べた結果、コバルト配位量が9%と高くなっている事が確認された。置換基を導入してカウンターイオンサイズを大きくすることでさらに高分子鎖間隔を拡大でき、コバルト配位量を向上することができた。
【実施例6】
【0059】
(燃料電池用電極触媒の製造、および特性評価)
図3(a)に示すように、本発明の金属配位高分子構造体をカソード電極触媒に用いた燃料電池1を作製し、その特性評価を行った。
【0060】
〔実施例1〕で作製したPPy−DBSにCoを配位させた金属配位高分子構造体をカソード電極の触媒として用いて、以下の手順に従い小型の試験燃料電池を作製した。まず、拡散層3として、カーボンクロスの表面にポリテトラフルオロエチレン(PTFE)ディスパージョンで撥水化したカーボンブラックを塗布し撥水化処理したものを用意した。次に、撥水化処理された拡散層の表面にPPy−DBSにCoが配位した金属配位高分子構造体の粉末を触媒5として塗布しカソード電極7とした。アノード電極13には拡散層9としてのケッチェンブラック上にPt担持した触媒11をナフィオン溶液(ポリマ分5%wt、アルドリッチ社製)と混合したものを触媒として用いた。
【0061】
その後、触媒5、11を内側にして電解質膜15(厚さ約50μmのナフィオン(登録商標)膜、デュポン社製)の両面からガス拡散電極(カソード電極7、アノード電極13)を熱圧着し、膜電極接合体(MEA)を得た。さらにMEAをグラファイト板にガス流路を設けた集電体17で挟んで、試験電池とした。
【0062】
図3(b)はPPy−DBSにCoが配位した金属配位高分子構造体をカソード電極の触媒5に用いた燃料電池1の放電試験の結果である。試験条件はセル温度80℃、水素及び空気圧2.0atm(2.0×10Pa)、水素流量5ml/s、空気流量9ml/s、燃料ガス温度は水素80℃、空気70℃である。カソード電極7の触媒活性は高く、電流密度が増加しても高い電圧を維持していた。
【実施例7】
【0063】
(空気電池用電極触媒の製造、および特性評価)
図4(a)に示すように、カソード電極の触媒にCo‐PPy‐DBSを用いてコイン型空気亜鉛電池(空気電池21)を作製し、その特性を評価した。
【0064】
作製方法は典型的なコイン型空気電池の作製方法と同様である。亜鉛粉末とデンプン等でゲル化した40%水酸化カリウムから成る亜鉛合剤25が充填された負極缶23(耐食性コーティングを施したステンレス製)をポリプロピレンやポリエチレン等の多孔質樹脂膜からなるセパレータ27で封じた。次に、〔実施例1〕、〔実施例3〕で作製したCo‐PPy‐DBSの粉末、カーボンブラック、ポリフッ化ビニリデンを溶解させたNi-メチルピロリドン溶液を混錬したスラリーをニッケル金網に塗布した正極触媒層29と、微孔性テフロン(登録商標)フィルム31をセパレータ27の外側に取り付けた。その後、セパレータ27、正極触媒層29、微孔性テフロン(登録商標)フィルム31を取り付けた負極缶23にプラスチック製の絶縁性ガスケット37で空気通入孔33が設けられた正極缶35を2つの間が絶縁された状態で封止した。
【0065】
作製したコイン型の空気電池21の室温下における放電試験の結果を図4(b)に示す。1.15Vの高い電圧で平坦な放電曲線が記録された。従って本発明の金属配位高分子構造体は空気電池のカソード電極触媒としても有効であると考えられる。
【実施例8】
【0066】
(他の高分子成分、配位子、金属など)
実施例1〜7に記載されていない他の環状分子、炭素数の異なるアルキル基、スルホン酸アニオンを含むドーパントを用いてコバルト配位ポリピロールを合成し、それらの高分子鎖間隔と配位金属量を評価した。合成方法は実施例1、3に記載したものと同様の方法で行った。高分子鎖間隔(d)をXRDにより求め、成分分析とICP発光分光分析により配位金属量を調べた。表2に得られた結果を示す。なお、図中の%は原子%である。
【0067】
【表2】

【0068】
またドデシル基とスルホン酸アニオン、環状分子を含むドーパントのスルホン酸基のメタ位を各種置換基で置換したものを用いてコバルト配位ポリピロールを合成し、それらの高分子鎖間隔と配位金属量を評価した。合成方法は実施例1、3に記載したものと同様である。高分子鎖間隔(d)をXRDにより求め、成分分析とICP発光分光分析により配位金属量を調べた。表3に得られた結果を示す。なお、図中の%は原子%である。
【0069】
【表3】

【0070】
上記の結果から明らかなように、本実施形態に係る金属配位高分子構造体からなる酸素還元触媒を用いることにより、安定性に優れ活性が高く金属量を低減することが可能な触媒を提供することができる。
【産業上の利用可能性】
【0071】
上記した実施形態および実施例では、有機金属高分子構造体を、燃料電池1と空気電池21に適用した場合について説明したが、本発明は、なんら、これに限定されることなく、金属を従来より多く担持させる必要がある全ての有機金属高分子構造体に適用できる。
【図面の簡単な説明】
【0072】
【図1】X線回折(XRD)を用いて、PPy鎖の間隔を測定した結果を示す図である。
【図2】CoPPyの酸素還元活性を示す図である。
【図3】図3(a)は燃料電池1を示す断面図であって、図3(b)は燃料電池1の放電試験の結果を示す図である。
【図4】図4(a)は空気電池21を示す断面図であって、図4(b)は空気電池21の放電試験の結果を示す図である。
【符号の説明】
【0073】
1…………燃料電池
3…………拡散層
5…………触媒
7…………カソード電極
9…………拡散層
11………触媒
13………アノード電極
15………電解質膜
17………集電体
21………空気電池
23………負極缶
25………亜鉛合材
27………セパレータ
29………正極触媒層
31………微孔性テフロン(登録商標)フィルム
33………空気通入孔
35………正極缶
37………ガスケット

【特許請求の範囲】
【請求項1】
π共役系を主鎖に含む高分子と、
前記高分子に導入され、有機骨格を有するアニオン基を含み、前記高分子鎖の間隔を拡張するカウンターイオンと、
前記高分子に配位した金属と、
を有することを特徴とする有機金属高分子構造体。
【請求項2】
前記高分子鎖の間隔は、3.5〜5.5Å(3.5〜5.5×10−10m)であることを特徴とする請求項1記載の有機金属高分子構造体。
【請求項3】
前記金属は、
Sc、Ti、V、Cr、Mn、Fe、Co、Ni、Cu、Zr、Nb、Mo、Ru、Rh、Pd、Ag、Zn、Ir、Pt、Auから選ばれる少なくとも一種類の金属を有することを特徴とする請求項1または2のいずれかに記載の有機金属高分子構造体。
【請求項4】
前記高分子は、
主鎖あるいは主鎖の一部として、ポリアセチレン、ベンゼン、ナフタレン、アントラセン、テトラセン、ペンタセン、フェナントレン、クリセン、トリフェニレン、テトラフェン、ピレン、ピセン、ペンタフェン、ペリレン、ヘリセン、コロネン、ビフェニル、トリフェニルメタン、アセプレイアジレン、ピロール、イミダゾール、ピラゾール、テルラゾール、イソテルラゾール、セレナゾール、イソセレナゾール、チオゾール、チアゾール、イソチアゾール、オキサゾール、イソオキサゾール、フラザン、トリアゾール、フラン、ジオキサン、チオフェン、セレノフェン、ピリジン、ピリミジン、ピペリジン、ピラジン、ピペラジン、ピリダジン、セレノモルホリン、モルホリン、ピラン、ジオキセン、チオピラン、トリチアン、チオキサン、セレニン、キナゾリン、イソキノリン、キノリン、ナフチリジン、アクリジン、ベンゾキノリン、フェナントロリン、キノキサリン、インドール、インドリン、インダゾール、カルバゾール、ベンゾチアゾール、ベンズイミダゾール、ピロロピリジン、ベンゾフラン、ジヒドロベンゾフラン、フェノキサチイン、ジベンゾフラン、ジベンゾジオキシン、メチレンジオキシベンゼン、ベンズオキサゾール、ベンゾチオフェン、ジベンゾチオフェン、チアントレンの中から選ばれる少なくとも1種類を含むことを特徴とする請求項1〜3のいずれかに記載の有機金属高分子構造体。
【請求項5】
前記高分子は、
側鎖あるいは側鎖の一部として、ポリアセチレン、ベンゼン、ナフタレン、アントラセン、テトラセン、ペンタセン、フェナントレン、クリセン、トリフェニレン、テトラフェン、ピレン、ピセン、ペンタフェン、ペリレン、ヘリセン、コロネン、ビフェニル、トリフェニルメタン、アセプレイアジレン、ピロール、イミダゾール、ピラゾール、テルラゾール、イソテルラゾール、セレナゾール、イソセレナゾール、チオゾール、チアゾール、イソチアゾール、オキサゾール、イソオキサゾール、フラザン、トリアゾール、フラン、ジオキサン、チオフェン、セレノフェン、ピリジン、ピリミジン、ピペリジン、ピラジン、ピペラジン、ピリダジン、セレノモルホリン、モルホリン、ピラン、ジオキセン、チオピラン、トリチアン、チオキサン、セレニン、キナゾリン、イソキノリン、キノリン、ナフチリジン、アクリジン、ベンゾキノリン、フェナントロリン、キノキサリン、インドール、インドリン、インダゾール、カルバゾール、ベンゾチアゾール、ベンズイミダゾール、ピロロピリジン、ベンゾフラン、ジヒドロベンゾフラン、フェノキサチイン、ジベンゾフラン、ジベンゾジオキシン、メチレンジオキシベンゼン、ベンズオキサゾール、ベンゾチオフェン、ジベンゾチオフェン、チアントレンの中から選ばれる少なくとも1種類を含むことを特徴とする請求項1〜4のいずれかに記載の有機金属高分子構造体。
【請求項6】
前記カウンターイオンは、
ベンゼン、及びその炭素数の異なるアヌレン類、ナフタレン、アントラセン、テトラセン、ペンタセン等のアセン類、フェナントレン、クリセン、トリフェニレン、テトラフェン、ピレン、ピセン、ペンタフェン、ペリレン、ヘリセン、コロネン、芳香族多環化合物であるビフェニル、トリフェニルメタン、アセプレイアジレンおよび、上記有機化合物の誘導体のうち、少なくともひとつ以上を含むことを特徴とする請求項1〜5のいずれかに記載の有機金属高分子構造体。
【請求項7】
前記カウンターイオンは、
アルキル基もしくはアルケニル基もしくはアルキニル基のうち、少なくとも1つ以上を含むことを特徴とする請求項1〜6のいずれかに記載の有機金属高分子構造体。
【請求項8】
前記カウンターイオンは、
カルボン酸アニオン、硫酸アニオン、スルホン酸アニオン、亜硫酸アニオン、チオ硫酸アニオン、炭酸アニオン、クロム酸アニオン、二クロム酸アニオン、リン酸一水素アニオン、リン酸アニオンから選ばれる少なくとも1つ以上を含むことを特徴とする請求項1〜7のいずれかに記載の有機金属高分子構造体。
【請求項9】
前記カウンターイオンに含まれる水素の全てまたは一部をカルボニル基、アミノ基、イミノ基、シアノ基、アゾ基、アジ基、チオール基、スルホ基、ニトロ基、ヒドロキシ基、アシル基、アルデヒド基、シクロアルキル基、アリール基などの置換基の中から選ばれる少なくとも1種類で置換したことを特徴とする請求項1〜8のいずれかに記載の有機金属高分子構造体。
【請求項10】
請求項1〜請求項9記載の有機金属高分子構造体を電気伝導性のある担体に担持させた電極触媒。
【請求項11】
請求項1〜請求項9記載の有機金属高分子構造体を酸素還元触媒として用いる燃料電池。
【請求項12】
請求項1〜請求項9記載の有機金属高分子構造体を酸素還元触媒として用いる空気電池。
【請求項13】
請求項11記載の燃料電池を用いることを特徴とする充放電方法。
【請求項14】
請求項12記載の空気電池を用いることを特徴とする充放電方法。
【請求項15】
π共役系を主鎖に含む高分子に、有機骨格を有するアニオン基を含むカウンターイオンを導入し、前記高分子に金属を配位させる工程を有することを特徴とする有機金属高分子構造体の製造方法。
【請求項16】
前記工程は、
前記高分子に前記カウンターイオンを導入することにより、前記高分子鎖の間隔を、3.5〜5.5Å(3.5〜5.5×10−10m)とする工程を有することを特徴とする請求項15記載の有機金属高分子構造体の製造方法。
【請求項17】
前記工程は、
前記金属として、Sc、Ti、V、Cr、Mn、Fe、Co、Ni、Cu、Zr、Nb、Mo、Ru、Rh、Pd、Ag、Zn、Ir、Pt、Auから選ばれる少なくとも一種類の金属を配位させる工程を有することを特徴とする請求項15または16のいずれかに記載の有機金属高分子構造体の製造方法。
【請求項18】
前記高分子は、
主鎖あるいは主鎖の一部として、ポリアセチレン、ベンゼン、ナフタレン、アントラセン、テトラセン、ペンタセン、フェナントレン、クリセン、トリフェニレン、テトラフェン、ピレン、ピセン、ペンタフェン、ペリレン、ヘリセン、コロネン、ビフェニル、トリフェニルメタン、アセプレイアジレン、ピロール、イミダゾール、ピラゾール、テルラゾール、イソテルラゾール、セレナゾール、イソセレナゾール、チオゾール、チアゾール、イソチアゾール、オキサゾール、イソオキサゾール、フラザン、トリアゾール、フラン、ジオキサン、チオフェン、セレノフェン、ピリジン、ピリミジン、ピペリジン、ピラジン、ピペラジン、ピリダジン、セレノモルホリン、モルホリン、ピラン、ジオキセン、チオピラン、トリチアン、チオキサン、セレニン、キナゾリン、イソキノリン、キノリン、ナフチリジン、アクリジン、ベンゾキノリン、フェナントロリン、キノキサリン、インドール、インドリン、インダゾール、カルバゾール、ベンゾチアゾール、ベンズイミダゾール、ピロロピリジン、ベンゾフラン、ジヒドロベンゾフラン、フェノキサチイン、ジベンゾフラン、ジベンゾジオキシン、メチレンジオキシベンゼン、ベンズオキサゾール、ベンゾチオフェン、ジベンゾチオフェン、チアントレンの中から選ばれる少なくとも1種類を含むことを特徴とする請求項15〜17のいずれかに記載の有機金属高分子構造体の製造方法。
【請求項19】
前記高分子は、
側鎖あるいは側鎖の一部として、ポリアセチレン、ベンゼン、ナフタレン、アントラセン、テトラセン、ペンタセン、フェナントレン、クリセン、トリフェニレン、テトラフェン、ピレン、ピセン、ペンタフェン、ペリレン、ヘリセン、コロネン、ビフェニル、トリフェニルメタン、アセプレイアジレン、ピロール、イミダゾール、ピラゾール、テルラゾール、イソテルラゾール、セレナゾール、イソセレナゾール、チオゾール、チアゾール、イソチアゾール、オキサゾール、イソオキサゾール、フラザン、トリアゾール、フラン、ジオキサン、チオフェン、セレノフェン、ピリジン、ピリミジン、ピペリジン、ピラジン、ピペラジン、ピリダジン、セレノモルホリン、モルホリン、ピラン、ジオキセン、チオピラン、トリチアン、チオキサン、セレニン、キナゾリン、イソキノリン、キノリン、ナフチリジン、アクリジン、ベンゾキノリン、フェナントロリン、キノキサリン、インドール、インドリン、インダゾール、カルバゾール、ベンゾチアゾール、ベンズイミダゾール、ピロロピリジン、ベンゾフラン、ジヒドロベンゾフラン、フェノキサチイン、ジベンゾフラン、ジベンゾジオキシン、メチレンジオキシベンゼン、ベンズオキサゾール、ベンゾチオフェン、ジベンゾチオフェン、チアントレンの中から選ばれる少なくとも1種類を含むことを特徴とする請求項15〜18のいずれかに記載の有機金属高分子構造体の製造方法。
【請求項20】
前記カウンターイオンは、
ベンゼン、及びその炭素数の異なるアヌレン類、ナフタレン、アントラセン、テトラセン、ペンタセン等のアセン類、フェナントレン、クリセン、トリフェニレン、テトラフェン、ピレン、ピセン、ペンタフェン、ペリレン、ヘリセン、コロネン、芳香族多環化合物であるビフェニル、トリフェニルメタン、アセプレイアジレンおよび、上記有機化合物の誘導体のうち、少なくともひとつ以上を含むことを特徴とする請求項15〜19のいずれかに記載の有機金属高分子構造体の製造方法。
【請求項21】
前記カウンターイオンは、
アルキル基もしくはアルケニル基もしくはアルキニル基のうち、少なくとも1つ以上を含むことを特徴とする請求項15〜20のいずれかに記載の有機金属高分子構造体の製造方法。
【請求項22】
前記カウンターイオンは、
カルボン酸アニオン、硫酸アニオン、スルホン酸アニオン、亜硫酸アニオン、チオ硫酸アニオン、炭酸アニオン、クロム酸アニオン、二クロム酸アニオン、リン酸一水素アニオン、リン酸アニオンから選ばれる少なくとも1つ以上を含むことを特徴とする請求項15〜21のいずれかに記載の有機金属高分子構造体の製造方法。
【請求項23】
前記カウンターイオンに含まれる水素の全てまたは一部をカルボニル基、アミノ基、イミノ基、シアノ基、アゾ基、アジ基、チオール基、スルホ基、ニトロ基、ヒドロキシ基、アシル基、アルデヒド基、シクロアルキル基、アリール基などの置換基の中から選ばれる少なくとも1種類で置換したことを特徴とする請求項15〜22のいずれかに記載の有機金属高分子構造体の製造方法。
【請求項24】
請求項15〜請求項23記載の有機金属高分子構造体を電気伝導性のある担体に担持しさせる工程を有することを特徴とする電極触媒の製造方法。
【請求項25】
請求項15〜請求項23記載の有機金属高分子構造体を酸素還元触媒として組み込む工程を有することを特徴とする燃料電池の製造方法。
【請求項26】
請求項15〜請求項23記載の有機金属高分子構造体を酸素還元触媒として組み込む工程を有することを特徴とする空気電池の製造方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【公開番号】特開2010−84094(P2010−84094A)
【公開日】平成22年4月15日(2010.4.15)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−257445(P2008−257445)
【出願日】平成20年10月2日(2008.10.2)
【出願人】(000004237)日本電気株式会社 (19,353)
【Fターム(参考)】