説明

有機EL素子

【課題】 ポリマーで被覆された基板、および樹脂製基板を用いても、有機EL層の水分または酸素による劣化を防止してダークスポットの発生を防止することができる構造を有する有機EL素子の提供。
【解決手段】 基板と、基板上に形成された透明電極と、透明電極上に形成された有機EL層と、有機EL層上に反射電極とを備えた有機EL素子であって、透明電極は、複数の部分からなる第1透明電極と複数の部分からなる第2透明電極とから構成され、第1透明電極は第2透明電極と交互に配列され、第1透明電極の端部と第2透明電極の端部とが絶縁層を介して重なるように形成され、かつ第1透明電極と第2透明電極とは電気的に絶縁されていることを特徴とする有機EL素子。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は有機EL素子に関し、特に樹脂基板または可撓性フィルム基板を用いて形成される有機EL素子に関する。
【背景技術】
【0002】
1987年にイーストマンコダック社のTangらによって2層積層構成で高い効率を有する有機EL素子が発表されて以来、現在に至る間に様々な有機EL素子が開発されてきており、一部実用化が開始されている(非特許文献1参照)。こうした中で、次世代のディスプレイとして、有機EL素子を用いたフルカラー有機ELディスプレイの開発および実用化が急がれている。
【0003】
カラーディスプレイとしての実用上の重要課題は、精細なカラー表示機能を有すると共に、色再現性を含め長期的な安定性を有することである。しかしながら、カラー有機ELディスプレイには、一定期間の駆動により発光特性(電流−輝度特性)が著しく低下するという欠点を有している。
【0004】
この発光特性の低下原因の代表的なものは、ダークスポットの成長である。このダークスポットとは、発光欠陥点のことである。駆動時および保存中に酸化が進むとダークスポットの成長が進み、発光面全体に広がる。このダークスポットは、素子中の酸素または水分により、素子を構成する積層材料の酸化または凝集によるものと考えられている。その成長は、通電中はもちろん、保存中にも進行し、特に(1)素子の周囲に存在する酸素または水分により加速され、(2)有機積層膜中に吸着物として存在する酸素または水分に影響され、および(3)素子作製時の部品に吸着している水分あるいは製造時等における水分の侵入にも影響されると考えられている。
【0005】
この水分の有機EL素子への侵入を妨げる手法として、基板上に絶縁性の水分・酸素遮断層を設けることが提案されてきている。水分・酸素遮断層として、ポリイミド変性シリコーン樹脂(たとえば、特許文献1〜3参照)などの有機樹脂を配設する技術、および膜厚0.01〜200μmの無機酸化物層(特許文献4参照)を配設する技術が知られている。無機酸化物膜層には、有機発光層の寿命を維持するために高い防湿性が要求される。
【0006】
また、基板上に1つまたは複数のカラーフィルタ層を設けたカラーフィルタの作製方法として、カラーフィルタ層上に形成した高分子膜層に、DCスパッタリングによりSiOx、SiNxを形成する方法があり、透明導電膜の密着性を向上させる効果が知られている(特許文献5および6参照)。また、低融点ガラスを焼結する方法がある(特許文献7参照)。
【0007】
有機EL素子の性能低下に関しては、各所で活発な研究が行われており、これまでに様々な原因が発表されている。中でも、発光層をはじめとする有機EL層は耐熱性が低い材料で構成されていることから、素子駆動時に発生する熱による性能低下は深刻な問題である。
【0008】
【特許文献1】特開平5−134112号公報
【特許文献2】特開平7−218717号公報
【特許文献3】特開平7−306311号公報
【特許文献4】特開平8−279394号公報
【特許文献5】特開平7−146480号公報
【特許文献6】特開平10−10518号公報
【特許文献7】特開2000−214318号公報
【非特許文献1】C. W. Tang, S. A. VanSlike, Appl. Phys. Lett. 51, 913 (1987)
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
しかしながら、SiOxまたはSiNxのような無機酸化物膜は、その中にピンホールが形成される場合があることが知られている。そのようなピンホールが形成された場合には、ピンホールを通って水分または酸素が有機EL層に到達して、ダークスポットが成長する恐れがある。
【0010】
また、ポリマーで被覆された基板、および樹脂製基板を用いる場合、それらポリマーまたは樹脂中に水分または酸素が含まれていることが知られており、有機EL素子の駆動に伴う発熱によってそれらの水分または酸素が基板から放出され、有機EL層に到達してダークスポットを成長させることが知られている。加えて、前述のような基板は、表面上に相当の大きさの凹凸が存在し、その凹凸の一部が水分・酸素遮断層で被覆されずに露出する恐れがある。もし、露出部位が存在する場合、露出部位から基板内に含まれる水分または酸素が放出され、ダークスポットを成長させる。特に、水分・酸素遮断層として有機樹脂を用いた場合に、一旦ダークスポットが発生するとその成長が著しい。
【0011】
したがって、ポリマーで被覆された基板、および樹脂製基板を用いた場合であっても、有機EL層への水分および酸素の侵入を確実に阻止して、ダークスポットの発生を防止することができる構造が強く求められている。
【課題を解決するための手段】
【0012】
本発明の有機EL素子は、基板と、該基板上に形成された複数の部分電極からなる透明電極と、前記透明電極上に形成された有機EL層と、前記有機EL層上に反射電極とを備えた有機EL素子であって、前記透明電極は、複数の部分からなる第1透明電極と複数の部分からなる第2透明電極とから構成され、前記第1透明電極は前記第2透明電極と交互に配列され、前記第1透明電極の端部と前記第2透明電極の端部とが絶縁層を介して重なるように形成され、かつ前記第1透明電極と前記第2透明電極とは電気的に絶縁されていることを特徴とする。ここで、第1および第2透明電極が、SnO、In、ITO、IZOおよびZnO:Alからなる群から選択される材料から形成されていてもよい。また、基板は、透明基板、有機樹脂で被覆された透明基板、1つまたは複数の色変調部が設けられた透明基板、または1つまたは複数の色変調部が設けられ、有機樹脂で被覆された透明基板の中から選択することができる。さらに、透明基板は、ガラス基板、、ポリエチレンテレフタレートを含むポリエステル樹脂、ポリメチルメタクリレートを含むアクリル樹脂、ポリオレフィン、ポリカーボネート樹脂、またはポリイミド樹脂から形成される樹脂基板または可撓性フィルムであってもよい。
【0013】
前述の有機EL素子は、必要に応じて、前記第2透明電極の端部を覆うように形成されている第2絶縁膜をさらに含んでもよい。第2絶縁膜は、有機樹脂、絶縁性無機酸化物、絶縁性無機窒化物または絶縁性無機酸化窒化物を用いて形成することができる。あるいはまた、前記基板と前記透明電極との間に、SiO、SiN、SiN、AlO、TiO、TaO、およびZnOを含む絶縁性無機酸化物、絶縁性無機窒化物または絶縁性無機酸化窒化物を用いて形成される基板パッシベーション層をさらに含んでもよい。
【発明の効果】
【0014】
上記の構成を採ることによって、基板の全ての領域において、水分・酸素遮断性に優れた透明導電性酸化物から形成される透明電極またはパッシベーション層のいずれかが設けられ、基板側からの有機EL層への水分および酸素の侵入を効果的に防止することが可能となる。したがって、ダークスポットが発生することなく、長期間にわたって優れた発光特性を維持した有機EL素子を提供することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0015】
本発明者は、種々の検討の結果、ダークスポットが透明電極の周辺部において発生することが多く、透明電極内部においてほとんど発生しないことを見出した。この事実は、透明電極を構成する透明導電性酸化物が極めて優れた水分・酸素透遮断性を有することを示している。本発明は、この知見に基づいて、より有効にダークスポットの発生を防止することができる有機EL素子の構造を提供するものである。
【0016】
図1に本発明の有機EL素子の1つの実施形態を示す。本発明の有機EL素子は、基板10の上に、複数の部分から形成される透明電極20、有機EL層60および反射電極70を順に積層した構造を有する。透明電極20は、複数の第1透明電極20aと複数の第2透明電極20bとから構成され、前記第1透明電極20aは前記第2透明電極20bと交互に配列され、前記第1透明電極20aの端部と前記第2透明電極20bの端部とが絶縁層を介して重なるように形成され、かつ前記第1透明電極20aと前記第2透明電極20bとは電気的に絶縁されている。
【0017】
基板10は、透明基板であってもよく、透明基板上に色変調部を設けた色変換フィルタであってもよい。あるいはまた、必要に応じて、それらを透明性の有機樹脂で被覆したものを基板10として用いてもよい。透明基板は、可視光(波長400〜700nm)に対して透明であり、積層される層の形成に用いられる条件(溶媒、温度等)に耐えるものであるべきであり、および寸法安定性に優れていることが好ましい。好ましい透明基板は、ガラス基板、およびポリオレフィン、アクリル樹脂(ポリメチルメタクリレートを含む)、ポリエステル樹脂(ポリエチレンテレフタレートを含む)、ポリカーボネート樹脂、またはポリイミド樹脂などの樹脂で形成された剛直性の樹脂基板を含む。あるいはまた、ポリオレフィン、アクリル樹脂(ポリメチルメタクリレートを含む)、ポリエステル樹脂(ポリエチレンテレフタレートを含む)、ポリカーボネート樹脂、またはポリイミド樹脂などから形成される可撓性フィルムを、基板として用いてもよい。
【0018】
透明基板上に設けられる色変調部は、カラーフィルタ層、色変換層、またはカラーフィルタ層と色変換層との積層体から構成することができる。カラーフィルタ層は、所望される波長域の光のみを透過させる層である。また、色変換層との積層構成を採る場合、色変換層にて波長分布変換された光の色純度を向上させることにカラーフィルタ層は有効である。カラーフィルタ層は、たとえば、市販の液晶用カラーフィルタ材料(富士フイルムアーチ製カラーモザイクなど)を用いて形成することができる。
【0019】
色変換層は、色変換色素とマトリクス樹脂からなる層である。色変換色素は、入射光の波長分布変換を行って、異なる波長域の光を放射する色素であり、好ましくは有機発光層からの近紫外光または青色〜青緑色の光の波長分布変換を行って、所望の波長域の光(たとえば、青色、緑色または赤色)を放射する色素である。色変換色素としては、赤色光を放射するローダミン系色素、シアニン系色素など;緑色光を放射するクマリン系色素、ナフタルイミド系色素など;青色光を放射するクマリン系色素など、当該技術で知られている任意のものを用いることができる。
【0020】
1つの透明基板に、複数種の色変調部、たとえば有機発光層からの光を吸収して赤色光を放射する赤色変調部、緑色光を放射する緑色変調部、青色光を放射する青色変調部などを設けてもよい。本発明においては、複数種の色変調部をマトリクス状に配置することによってフルカラー表示を可能にする構成を採ってもよい。
【0021】
色変調部は、スピンコート法、ロールコート法、キャスト法、ディップコート法などを用いて各層の材料を塗布し、続いてフォトリソグラフ法などを用いてパターニングすることによって形成することができる。必要に応じて、電極形成表面の平坦化を行うための平坦化層(種々の有機樹脂を用いて形成することができる)などを色変調部を覆うように形成して、基板(色変調部が設けられている色変換フィルタ)を有機樹脂で被覆されたものとしてもよい。
【0022】
あるいはまた、前記基板と透明電極との間に(すなわち透明基板表面上に、または存在する場合には色変調部を覆うように)、酸素および/または水分などを遮断する機能の一部を負担する基板パッシベーション層(SiO、SiN、SiN、AlO、TiO、TaO、ZnOなどの絶縁性の無機酸化物、無機窒化物、無機酸化窒化物などを用いて形成することができる)を形成してもよい。通常の場合、基板パッシベーション層は0.1〜1μmの膜厚を有して形成される。
【0023】
透明電極20は、複数の第1透明電極20aと複数の第2透明電極20bとから構成され、前記第1透明電極20aは前記第2透明電極20bと交互に配列され、前記第1透明電極20aの端部と前記第2透明電極20bの端部とが絶縁層を介して重なるように形成され、かつ前記第1透明電極20aと前記第2透明電極20bとは電気的に絶縁されている。前述の第1透明電極20aおよび第2透明電極20bは、スパッタ法を用いてSnO、In、ITO、IZO、ZnO:Alなどの導電性金属酸化物を堆積させることによって形成される。第1透明電極20aおよび第2透明電極20bは、波長400〜800nmの光に対して好ましくは50%以上、より好ましくは85%以上の透過率を有することが好ましい。透明電極20は、通常50nm以上、好ましくは50nm〜1μm、より好ましくは100〜300nmの範囲内の厚さを有することが望ましい。本発明において、第1透明電極20aおよび第2透明電極20bは、優れた水分・酸素遮断性を有する導電性金属酸化物から構成され、したがって基板側からの水分および酸素の透過を防止する機能を負担する主たる構成要素として機能する。以上のように、前記第1透明電極20aの端部と前記第2透明電極20bの端部とが重なるように形成することによって、基板10上の全ての領域において、優れた水分・酸素遮断性を有する導電性金属酸化物の層が存在するので、基板10の側から有機EL層60への水素および酸素透過を有効に防止することが可能となる。
【0024】
第1透明電極20aおよび第2透明電極20bは、第1の方向に延びるストライプ形状を有する複数の部分から構成することができる。そして、反射電極70を第1の方向と交差する(好ましくは直交する)第2の方向に延びる複数のストライプ状電極として形成することによって、パッシブマトリクス駆動を行うことができるように構成することが好ましい。
【0025】
絶縁膜30は、第1透明電極20aおよび第2透明電極20bの間に形成され、複数の第1透明電極20aのそれぞれを、隣接する第2透明電極20bから電気的に絶縁するための層である。絶縁膜30を第1透明電極20aの端部上に重なるように形成して、第1透明電極20aのそれぞれに関して、その端部とそれに隣接する第2透明電極(20b)の端部が重なるようにする。絶縁膜30を形成するのに好ましい材料は、SiO、SiN、SiN、AlO、TiO、TaO、ZnOなどの無機酸化物、無機窒化物および無機酸化窒化物を含む。したがって、絶縁膜30もまた、ピンホール形成などが発生するおそれがあるにせよ、水分および酸素の透過防止の機能の一部を負担し得る層である。したがって、図2に示すように隣接する2つの第1透明電極20aの間の基板10上に絶縁膜30を延在させた構成として、第1および第2透明電極間の電気的絶縁に加えて、水分および酸素の透過防止効果のさらなる向上を図ることができる。
【0026】
絶縁膜30は、蒸着(抵抗加熱または電子ビーム加熱)、スパッタ、イオンプレーティング、レーザーアブレーションなどの当該技術において知られている任意の手段を用いて形成することができる。
【0027】
加えて、図3に示すように、絶縁膜30および第2透明電極20bの積層体の端部を覆う第2絶縁膜50をさらに設けてもよい。第2絶縁膜50は、第1透明電極20aと第2透明電極20bとの電気的絶縁を長期間にわたって維持するのに有効な層である。第2絶縁膜は、ポリイミド変性シリコーン樹脂(たとえば、特許文献1〜3参照)などの有機樹脂を用いて形成されてもよいし、あるいはSiO、SiN、SiN、AlO、TiO、TaO、ZnOなどの絶縁性無機酸化物、絶縁性無機窒化物または絶縁性無機酸化窒化物を用いて形成されてもよい。
【0028】
透明電極20および絶縁膜30の形成は、最初に基板10上に、所望の形状の複数の第1透明電極20aを成膜し、所望の位置に絶縁膜30を成膜し、そして所望の形状の複数の第2透明電極20bを成膜することによって行われる。所望の形状を有する第1透明電極は、所望のパターンを与えるマスクを用いてパターン状に成膜してもよいし、あるいは、基板10の全面に成膜した後にフォトリソグラフ法を用いたパターニング(ウェットエッチングまたはドライエッチングを用いることができる)を行うことによって形成してもよい。絶縁膜30を所望の形状に形成するためには、第1透明電極20aを形成した基板10上に全面に成膜した後にドライエッチングを行ってもよいし、あるいは、予め所望のパターンを有するリフトオフ用レジストを形成した後に絶縁層材料を堆積させ、その後にレジストを除去するリフトオフ法を適用してもよい。また、第2透明電極20bついては、絶縁膜30を形成した基板10上に全面に導電性金属酸化物をスパッタ法にて堆積させた後にドライエッチングを行ってよいし、あるいはリフトオフ法を適用してもよい。
【0029】
あるいはまた、絶縁層30および第2透明電極20bの両方にリフトオフ法を適用する場合には、それらのパターニングを同時に行ってもよい。たとえば、リフトオフ用レジストを形成した基板上に、絶縁膜30および第2透明電極20bを順次積層し、その後にリフトオフ用レジストを除去して、所望の形状の絶縁層30および第2透明電極20bを同時に得ることができる。
【0030】
有機EL層60は、有機発光層を少なくとも含み、必要に応じて正孔輸送層、正孔注入層、電子輸送層および/または電子注入層を含む。これらの各層は、それぞれにおいて所望される特性を実現するのに充分な膜厚を有して形成される。たとえば、下記のような層構成からなるものが採用される。
(1)有機発光層
(2)正孔注入層/有機発光層
(3)有機発光層/電子注入層
(4)正孔注入層/有機発光層/電子注入層
(5)正孔輸送層/有機発光層/電子注入層
(6)正孔注入層/正孔輸送層/有機発光層/電子注入層
(7)正孔注入層/正孔輸送層/有機発光層/電子輸送層/電子注入層
(上記の構成において、陽極として機能する電極が左側に接続され、陰極として機能する電極が右側に接続される)
【0031】
有機発光層の材料としては、任意の公知の材料を用いることができる。たとえば、青色から青緑色の発光を得るためには、例えば縮合芳香環化合物、環集合化合物、金属錯体(Alqのようなアルミニウム錯体など)、スチリルベンゼン系化合物(4,4’−ビス(ジフェニルビニル)ビフェニル(DPVBi)など)、ポルフィリン系化合物、ベンゾチアゾール系、ベンゾイミダゾール系、べンゾオキサゾール系などの蛍光増白剤、芳香族ジメチリディン系化合物などの材料が好ましく使用される(非特許文献2および非特許文献3参照)。あるいはまた、ホスト化合物にドーパントを添加することによって、種々の波長域の光を発する有機発光層を形成してもよい。ホスト化合物としては、ジスチリルアリーレン系化合物(たとえば出光興産製IDE−120など)、N,N’−ジトリル−N,N’−ジフェニルビフェニルアミン(TPD)、アルミニウムトリス(8−キノリノラート)(Alq)等を用いることができる。ドーパントとしては、ペリレン(青紫色)、クマリン6(青色)、キナクリドン系化合物(青緑色〜緑色)、ルブレン(黄色)、4−ジシアノメチレン−2−(p−ジメチルアミノスチリル)−6−メチル−4H−ピラン(DCM、赤色)、白金オクタエチルポルフィリン錯体(PtOEP、赤色)などを用いることができる。
【0032】
正孔注入層の材料としては、Pc類(CuPcなどを含む)またはインダンスレン系化合物などを用いることができる。正孔輸送層は、トリアリールアミン部分構造、カルバゾール部分構造、オキサジアゾール部分構造を有する材料を用いて形成することができる。用いることができる材料は、好ましくは、TPD、α−NPD、MTDAPB(o−,m−,p−)、m−MTDATAなどを含む。
【0033】
電子輸送層の材料としては、Alqのようなアルミニウム錯体;PBD、TPOBのようなオキサジアゾール誘導体;TAZのようなトリアゾール誘導体;以下に示す構造を有するもののようなトリアジン誘導体;フェニルキノキサリン類;BMB−2Tのようなチオフェン誘導体などを用いることができる。電子注入層の材料としては、Alqのようなアルミニウム錯体、あるいはアルカリ金属ないしアルカリ土類金属をドープしたアルミニウムのキノリノール錯体などを用いることができる。
【0034】
また、任意選択的に、有機EL層60と陰極として用いる電極との界面に、アルカリ金属、アルカリ土類金属またはそれらを含む合金、アルカリ金属フッ化物などの電子注入性材料の薄膜(膜厚10nm以下)で形成されるバッファ層を設けて、電子注入効率を高めてもよい。
【0035】
有機EL層60を構成するそれぞれの層および任意選択的には、蒸着(抵抗加熱または電子ビーム加熱)などの当該技術において知られている任意の手段を用いて形成することができる。
【0036】
反射電極70は、複数の部分電極からなり、高反射率の金属、アモルファス合金、微結晶性合金を用いて形成されることが好ましい。高反射率の金属は、Al、Ag、Mo、W、Ni、Crなどを含む。高反射率のアモルファス合金は、NiP、NiB、CrPおよびCrBなどを含む。高反射率の微結晶性合金は、NiAlなどを含む。反射電極70は、陰極として用いてもよいし、陽極として用いてもよい。反射電極70を陰極として用いる場合には、反射電極70と有機EL層60との界面に、前述のバッファ層を設けて有機EL層30に対する電子注入の効率を向上させてもよい。
【0037】
反射電極70は、用いる材料に依存して、蒸着(抵抗加熱または電子ビーム加熱)、スパッタ、イオンプレーティング、レーザーアブレーションなどの当該技術において知られている任意の手段を用いて形成することができる。所望の形状を与えるマスクを用いて複数の部分電極からなる反射電極70を形成してもよいし、あるいは、逆テーパー状の断面形状を有する分離隔壁を用いて複数の部分電極からなる反射電極70を形成してもよい。
【0038】
反射電極70を構成する複数の部分電極のそれぞれは、たとえば、第2の方向に延びるストライプ形状であることができる。ここで、透明電極20に関する第1の方向と、前述の第2の方向とは交差していることが好ましく、直交していることがより好ましい。そのような構成を採ることによって、透明電極20を構成する部分電極の1つと、反射電極70を構成する部分電極の1つとに電界を印加することによって、それら部分電極の交差する部位の有機EL層を発光させる、パッシブマトリクス駆動を行うことができる。
【実施例1】
【0039】
(実施例1)
厚さ2mmのポリカーボネート(PC)樹脂製基板上に、ターゲットとしてIDIXO(出光興産株式会社製、インジウムおよび亜鉛の酸化物と酸化インジウムとの混合物)を用いるスパッタ法によって膜厚100nmのIZOを全面成膜した。次に、フォトリソグラフ法にてパターニングを行い、幅110μm、間隔90μmのストライプ形状を有する複数の第1透明電極を形成した。
【0040】
次に、リフトオフレジストを、第1透明電極上に積層した。引き続いて、DCスパッタ法により室温において膜厚300nmのSiOxを積層し、さらに膜厚200nmのIZOを積層した。その後に、レジスト剥離液でリフトオフレジストを除去し、第1透明電極の間隙に、SiOxからなる絶縁膜およびIZOからなる第2透明電極の積層体を形成した。ここで、前記積層体は、第1透明電極の側端の幅10μmの領域において第1透明電極と重なるように形成した。
【0041】
次に、フォトレジスト(新日鐵化学製V259PAP5)を塗布およびパターニングして、絶縁膜および第2透明電極の積層体の端部を覆う第2絶縁膜を形成した。得られた第2絶縁膜は、第2透明電極上において1μmの膜厚を有し、積層体端部から幅10μmの領域の第1透明電極、積層体端部から幅10μmの領域の第2透明電極を被覆した。これによって、第1および第2透明電極から構成される透明電極全体としては、幅90μm、間隔20μmの複数のストライプ形状部分から構成される電極として機能する。
【0042】
次いで、前記パッシベーション層以下の構造を形成した基板を抵抗加熱蒸着装置内に装着し、正孔注入層、正孔輸送層、有機発光層、電子注入層を、真空を破らずに順次成膜した。成膜に際して、真空槽内圧を1×10-4Paまで減圧した。正孔注入層として、膜厚100nmの銅フタロシアニン(CuPc)を、正孔輸送層として、膜厚20nmの4,4’−ビス[N−(1−ナフチル)−N−フェニルアミノ]ビフェニル(α−NPD)を、有機発光層として、膜厚30nmの4,4’−ビス(2,2’−ジフェニルビニル)ビフェニル(DPVBi)を、そして電子注入層として、膜厚20nmのAlqを積層した。
【0043】
次に、真空を破ることなしに、透明電極のストライプパターンと直交する方向に延びる幅300μmおよびピッチ330μm(ギャップ幅30μm)のストライプパターンが得られるマスクを用いて、膜厚200nmのMg/Ag(質量比10/1)を堆積させて反射電極を形成して、図3に示した構造を有する有機EL素子を得た。
【0044】
こうして得られた有機EL素子をグローブボックス内乾燥窒素雰囲気下(酸素および水分濃度ともに10ppm以下)において、封止ガラス(図示せず)とUV硬化接着剤を用いて封止した。
【0045】
(実施例2)
第1透明電極を形成する前に、PC基板上に膜厚200nmのSiOx膜を堆積させたことを除いて、実施例1の手順を繰り返して、有機EL素子を得た。
【0046】
(比較例1)
厚さ2mmのポリカーボネート(PC)樹脂製基板上に、ターゲットとしてIDIXOを用いるスパッタ法によって膜厚100nmのIZOを全面成膜した。次に、フォトリソグラフ法にてパターニングを行い、幅100μm、間隔10μmのストライプ形状を有する複数の部分電極からなる透明電極を形成した。
【0047】
次に、リフトオフレジストを、透明電極上に積層した。引き続いて、DCスパッタ法により室温において膜厚300nmのSiOxを積層し、レジスト剥離液でリフトオフレジストを除去し、透明電極の間隙および透明電極の複数の部分電極のそれぞれの側端5μmの領域を被覆するSiOxからなる絶縁膜を形成した。この絶縁膜の形成によって、透明電極は、幅90μm、間隔20μmの複数のストライプ形状部分から構成される電極として機能する。
【0048】
以後、実施例1と同様の手順によって、有機EL層および反射電極を形成し、最後に封止を行って、有機EL素子を得た。
【0049】
(比較例2)
透明電極を形成する前に、PC基板上に膜厚200nmのSiOx膜を堆積させたことを除いて、比較例1の手順を繰り返して、有機EL素子を得た。
【0050】
(評価)
実施例1〜2および比較例1〜2で得られた有機EL素子(概要を第1表に示す)のそれぞれについて、初期輝度1000cd/mを得るための直流電流を連続通電した際の輝度半減寿命を測定し、および初期輝度5000cd/mで通電後2000hにおけるダークスポットの発生を観察した。結果を第2表に示す。
【0051】
【表1】

【0052】
【表2】

【0053】
第2表から分かるように、実施例1〜2の素子は、比較例1〜2の素子において発生したダークスポットの発生もなく、比較例1の素子と比較して長い輝度半減寿命を有し、導電性金属酸化物から形成された重なり部分を有する第1および第2透明電極が水分および酸素から有機EL層60を保護する層として有効に機能していることが分かる。
【0054】
一方、比較例1の素子においては、各画素の端部(より詳細には、透明電極を構成するストライプ状電極の側端)から、発光不能領域が時間とともに拡大して輝度の低下が著しく、その結果として輝度半減寿命が短くなることが観察された。これは、透明電極を構成する複数の部分電極の間隙からの水分および/または酸素が有機EL層を著しく劣化させたものと考えられる。
【0055】
また、比較例2の素子においては、比較例1の素子において観察された発光不能領域の拡大は見られなかった。これは、基板上に設けた基板パッシベーション層の効果によるものと考えられる。しかしながら、素子全体として数十〜数百個のダークスポットが観察され、比較例2の素子はディスプレイとして用いるのには不適当なものであった。
【0056】
以上のことから、複数の部分からなる透明電極の間隙に、絶縁膜および透明導電性酸化物から形成されるパッシベーション層の積層体を形成することが、ダークスポットの発生防止、および素子の長寿命化に有効であることが分かった。
【図面の簡単な説明】
【0057】
【図1】本発明の有機EL素子の1つの実施形態を示す断面図である。
【図2】本発明の有機EL素子の別の実施形態を示す断面図である。
【図3】本発明の有機EL素子の別の実施形態を示す断面図である。
【符号の説明】
【0058】
10 基板
20a 第1透明電極
20b 第2透明電極
30 絶縁膜
50 第2絶縁膜
60 有機EL層
70 反射電極

【特許請求の範囲】
【請求項1】
基板と、該基板上に形成された透明電極と、前記透明電極上に形成された有機EL層と、前記有機EL層上に反射電極とを備えた有機EL素子であって、
前記透明電極は、複数の部分からなる第1透明電極と複数の部分からなる第2透明電極とから構成され、前記第1透明電極は前記第2透明電極と交互に配列され、前記第1透明電極の端部と前記第2透明電極の端部とが絶縁層を介して重なるように形成され、かつ前記第1透明電極と前記第2透明電極とは電気的に絶縁されていることを特徴とする有機EL素子。
【請求項2】
前記第1および第2透明電極が、SnO、In、ITO、IZOおよびZnO:Alからなる群から選択される材料から形成されていることを特徴とする請求項1に記載の有機EL素子。
【請求項3】
前記基板は、透明基板、有機樹脂で被覆された透明基板、1つまたは複数の色変調部が設けられた透明基板、または1つまたは複数の色変調部が設けられ、有機樹脂で被覆された透明基板であることを特徴とする請求項1に記載の有機EL素子。
【請求項4】
前記透明基板は、ガラス基板、およびポリエチレンテレフタレートを含むポリエステル樹脂、ポリメチルメタクリレートを含むアクリル樹脂、ポリオレフィン、またはポリイミド樹脂から形成される樹脂基板または可撓性フィルムからなる群から選択されることを特徴とする請求項3に記載の有機EL素子。
【請求項5】
前記第2透明電極の端部を覆うように形成されている第2絶縁膜をさらに含むことを特徴とする請求項1に記載の有機EL素子。
【請求項6】
前記第2絶縁膜は、有機樹脂、絶縁性無機酸化物、絶縁性無機窒化物および絶縁性無機酸化窒化物からなる群から選択される材料から形成されていることを特徴とする請求項5に記載の有機EL素子。
【請求項7】
前記基板と前記透明電極との間に、SiO、SiN、SiN、AlO、TiO、TaO、およびZnOを含む絶縁性無機酸化物、絶縁性無機窒化物または絶縁性無機酸化窒化物を用いて形成される基板パッシベーション層をさらに含むことを特徴とする請求項1に記載の有機EL素子。

【図1】
image rotate

【図2】
image rotate

【図3】
image rotate


【公開番号】特開2006−120365(P2006−120365A)
【公開日】平成18年5月11日(2006.5.11)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2004−304723(P2004−304723)
【出願日】平成16年10月19日(2004.10.19)
【出願人】(000005234)富士電機ホールディングス株式会社 (3,146)
【Fターム(参考)】