説明

有機EL素子

【課題】優れた白色度、発光効率及び素子寿命を同時に兼ね備えた有機EL素子を提供すること。
【解決手段】陽極12と陰極19との間に、蛍光発光層16及び燐光発光層14が設けられた有機EL素子10において、蛍光発光層16が燐光発光層14よりも陰極19側に設けられ、かつ蛍光発光層16と燐光発光層14との間に、非発光界面層15が設けられた有機EL素子。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、有機EL(エレクトロルミネッセンス)素子に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、有機EL素子への大きな期待として、フルカラー表示デバイスへの応用が挙げられる。有機EL素子を用いてフルカラー表示を行う1つの方法として、有機EL素子から発せられた白色光を、カラーフィルタにより、赤、緑、青の光に分ける方法が知られており、ここで用いられる有機EL素子には、以下のような特性が要求される。
・赤、緑、青の各色の発光強度バランスが良好であり、白色度が良いこと。
・発光効率が高いこと。
・有機EL素子寿命が長いこと。
【0003】
そこで、上記特性が比較的良好な有機EL素子の1つとして、青色蛍光ドーパントと、赤色及び緑色燐光ドーパントとを同一発光層に含む有機EL素子が提案されている(例えば、特許文献1参照)。
しかしながら、このような有機EL素子において青色蛍光ドーパントの三重項エネルギーが、赤色及び緑色燐光ドーパントの三重項エネルギーよりも小さいと、赤色及び緑色燐光ドーパントの三重項エネルギーが青色蛍光ドーパントの三重項エネルギーへと移動してしまう。一般に、蛍光材料が三重項励起状態になった場合、その三重項エネルギーは発光に使われることなく、熱として消費される。そのため、三重項励起状態の青色蛍光ドーパントは発光することなく、熱失活してしまい、このような有機EL素子は高効率な発光を達成することができず、さらには良好な白色度を得ることができない。
【0004】
また、燐光発光ドーパントと、このドーパントの最大発光波長より長波長の最大発光波長を有する燐光発光又は蛍光発光ドーパントとを同一発光層に含む有機EL素子が提案されている(例えば、特許文献2参照)。
しかしながら、白色度が良好な有機EL素子を得るには、青色のピークを最大発光波長にするのが好ましいため、特許文献2では、良好な白色度を得ることができない。また、青色燐光ドーパントは極端に寿命が短いため、実用に供することができないという問題がある。
【0005】
さらに、燐光ドーパントとしてイリジウム(Ir)錯体を発光層に含む有機EL素子が提案されている(例えば、特許文献3参照)。
しかしながら、この有機EL素子では、緑色等の単色光の発光効率を高めることはできるものの、赤、緑及び青の発光強度バランスを良好なものとし、優れた白色を得ることはできない。
【0006】
【特許文献1】特開2004−14155号公報
【特許文献2】特開2003−77674号公報
【特許文献3】特表2003−526876号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
以上のように、優れた白色度、発光効率及び素子寿命を同時に兼ね備えた有機EL素子は、未だに得られていないのが実情である。本発明は、このような問題点に鑑み、優れた白色度、発光効率及び素子寿命を同時に兼ね備えた有機EL素子を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
そこで、本発明者らは上記のような従来の問題点を解決すべく鋭意研究、開発を遂行した結果、蛍光ドーパントを含む発光層と燐光ドーパントを含む発光層との間に非発光界面層を設け、さらに、燐光ドーパントを含む発光層よりも陰極側に、蛍光ドーパントを含む発光層を設けることが有効であることに想到し、本発明を完成するに至った。
すなわち、本発明に係る有機EL素子は、陽極と陰極との間に、蛍光ドーパント及び/又は燐光ドーパントを含む少なくとも2つの発光層が設けられた有機EL素子において、該蛍光ドーパントを含む発光層と該燐光ドーパントを含む発光層との間に非発光界面層が設けられ、かつ該蛍光ドーパントを含む発光層が該燐光ドーパントを含む発光層よりも該陰極側に設けられているものである。
【0009】
該蛍光ドーパントは、青色蛍光ドーパントであることが好ましく、また、該燐光ドーパントは、赤色燐光ドーパント及び緑色燐光ドーパントから選択される少なくとも1つであることが好ましい。
該燐光ドーパントを含む発光層は、該赤色燐光ドーパント及び該緑色燐光ドーパントを含むことが好ましい。このとき、該赤色燐光ドーパントの重量%濃度は、該緑色燐光ドーパントの重量%濃度よりも低いことが好ましい。
また、該赤色燐光ドーパント及び該緑色燐光ドーパントが、別々の発光層に含まれることも好ましい。このとき、該赤色燐光ドーパントの重量%濃度は、該緑色燐光ドーパントの重量%濃度よりも低いことが好ましい。また、該赤色燐光ドーパントを含む発光層が、該緑色燐光ドーパントを含む発光層よりも、前記陽極側に設けられていることが好ましく、該赤色燐光ドーパントを含む発光層が、島状薄膜となっていることも好ましい。
さらに、該蛍光ドーパントを含む発光層の膜厚が、該燐光ドーパントを含む発光層の膜厚よりも厚いことが好ましい。
該蛍光ドーパントを含む発光層の該陰極側に接して、ホールブロック層をさらに設けてもよい。
【発明の効果】
【0010】
本発明によれば、優れた白色度、発光効率及び素子寿命を同時に兼ね備えた有機EL素子を提供することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0011】
《本発明に係る有機EL素子の層構成》
本発明に係る有機EL素子は、陽極と陰極との間に、蛍光ドーパントを含む発光層及び燐光ドーパントを含む発光層が設けられた有機EL素子において、該蛍光ドーパントを含む発光層が該燐光ドーパントを含む発光層よりも該陰極側に設けられ、かつ該蛍光ドーパントを含む発光層(以下、蛍光発光層という)と該燐光ドーパントを含む発光層(以下、燐光発光層という)との間に、非発光界面層が設けられたことを特徴とする。つまり、以下のような層構成である。
・陽極/燐光発光層/非発光界面層/蛍光発光層/陰極
以下、燐光発光層/非発光界面層/蛍光発光層をまとめて「発光帯」と呼ぶこともある。
【0012】
この層構成を基本として、公知の有機EL素子を構成する他の層を設けてもよく、より具体的には、例えば以下のような層構成とすることができる。
・陽極/ホール輸送層/燐光発光層/非発光界面層/蛍光発光層/電子輸送層/電子注入層/陰極(図1)
・陽極/ホール輸送層/燐光発光層/非発光界面層/蛍光発光層/ホールブロック層/電子輸送層/電子注入層/陰極
・陽極/燐光発光層/非発光界面層/蛍光発光層/電子輸送層/電子注入層/陰極
・陽極/燐光発光層/非発光界面層/蛍光発光層/ホールブロック層/電子輸送層/電子注入層/陰極
【0013】
以上のように、ホール注入機能及びホール輸送機能を、燐光発光層に持たせ、ホール輸送層等を省略することも可能である。このように層を省略すると、層の数が減り、コスト低減に繋がる。また、陽極とホール輸送層との間に、ホール注入機能を持った層(ホール注入層)を別に設けてもよい。ホール注入層は、有機EL素子に以下のような特性を付与する。
・駆動電圧を低くする。
・陽極からホール輸送層へのホール注入が安定化するので、有機EL素子自体が長寿命化する。
・陽極とホール輸送層との密着性が向上するため、発光面の均一性が高くなる。
・陽極の突起などを被覆し、有機EL素子としての欠陥を減少できる。
ホール注入層に用いられる材料としては、ホール注入層に上記特性を付与するものであれば特に制限はなく、公知の材料をそのまま用いることができる。ホール注入層は、単独の材料によって形成されてもよいし、複数の材料によって形成されてもよい。また、ホール注入層の膜厚は0.1nm以上100nm以下であり、好ましくは0.3nm以上50nm以下である。
【0014】
また、上記のような各層は、それぞれの本来の機能以外の機能を有していてもよく、例えば、発光層(燐光発光層及び蛍光発光層)が、ホール注入機能、ホール輸送機能、電子注入機能及び/又は電子輸送機能をも備えていてもよい。
さらに、上記以外の層をも適宜設けることができる。
ここでは、図1に基づいて、基板11上に陽極12が形成され、陽極12上にホール輸送層13、燐光発光層14、非発光界面層15、蛍光発光層16、電子輸送層17、電子注入層18及び陰極19が順次形成された有機EL素子10について詳細に説明する。なお、基板11は陽極12側ではなく、陰極19側に設けることも当然にできる。
【0015】
《基板11》
基板11は、有機EL素子を支える、一般的には板状の部材である。有機EL素子を構成する各層は非常に薄いため、一般的には、基板11によって支えられた有機EL素子として作製される。
【0016】
このような有機EL素子を支える目的から、基板11は平面平滑性を有していることが好ましい。
また、基板11は、発光帯に対して光取り出し側にある場合には、取り出す光に対して透明とされる。
【0017】
基板11としては、上記した性能を有していれば公知のものを用いることができる。一般的には、ガラス基板やシリコン基板、石英基板等のセラミックス基板や、プラスチック基板が選択される。また、金属基板や支持体に金属泊を形成した基板等も用いられる。さらに、同種又は異種の基板を複数組み合わせた複合基板を用いることもできる。
【0018】
《陽極12》
次に、陽極12が、基板11上に形成される。
陽極12は、ホール輸送層13にホールを注入する電極である。したがって、陽極12形成用の材料は、この性質を陽極12に付与する材料であればよく、一般的には、金属、合金、電気伝導性化合物、及びこれらの混合物等の公知の材料が選択される。
【0019】
陽極12形成用の材料としては、例えば、以下のものがある。
インジウム−スズ−オキサイド(ITO)、インジウム−亜鉛−オキサイド(IZO)、酸化スズ(SnO)、酸化亜鉛(ZnO)、亜鉛アルミニウム酸化物(AlZnO)等の金属酸化物;
窒化チタン等の金属窒化物;
金、白金、銀、銅、アルミニウム、ニッケル、コバルト、鉛、クロム、モリブデン、タングステン、タンタル、ニオブ等の金属、これらの金属の合金やヨウ化銅の合金等;
ポリアニリン、ポリチオフェン、ポリピロール、ポリフェニレンビニレン、ポリ(3−メチルチオフェン)、ポリフェニレンスルフィド等の導電性有機高分子
等。
【0020】
陽極12は、発光帯に対して光取り出し側に設けられる場合には、一般的に、取り出す光に対する透過率が10%よりも大きくなるように設定される。可視光を取り出す場合には、可視光に対して透過率が高いITOが、好適に用いられる。
陽極12を反射性電極として用いる場合には、上記材料の内、取り出す光を反射する性能を備えた材料が適宜選択され、一般的には、金属、合金、金属化合物等が選択される。
【0021】
陽極12は、上記材料の内の一種のみで形成されてもよく、上記材料の内の複数を混合することにより形成されてもよい。さらに、このような同一組成又は異種組成による複数層からなる複層構造であってもよい。
【0022】
上記材料の選択の結果、陽極12の抵抗が高い場合には、補助陽極を設けてこの抵抗を下げるとよい。補助陽極は、銀、銅、クロム、アルミニウム、チタン、アルミニウム合金等の金属もしくはこれらの積層構造であり、陽極12に部分的に併設される。
【0023】
陽極12は、上記材料を用いて、スパッタリング法やイオンプレーティング法、真空蒸着法、スピンコート法、電子ビーム蒸着法等の公知の薄膜形成法によって、基板11上に形成される。
また、陽極12表面をUVオゾン洗浄、酸素プラズマ洗浄等するとよい。短絡等の欠陥の発生を抑制するためには、陽極12形成後にその表面を研磨する方法等により、陽極12表面の粗さを、二乗平均値として20nm以下に抑制するとよい。
【0024】
陽極12の膜厚は、使用される材料にもよるが、一般的に、5nm〜1μm程度、好ましくは10nm〜1μm程度、さらに好ましくは10nm〜500nm程度、特に好ましくは10nm〜300nm程度、望ましくは10nm〜200nmの範囲に設定される。
陽極12のシート電気抵抗は、好ましくは、数百オーム/シート以下、より好ましくは、5〜50オーム/シート程度に設定される。
【0025】
《ホール輸送層13》
次に、ホール輸送層13が、陽極12上に形成される。
ホール輸送層13は、陽極12と燐光発光層14との間に設けられる。ホール輸送層13は、陽極12から注入されたホールを燐光発光層14に輸送する層である。
【0026】
ホール輸送層13に使用できる材料としては、ホール輸送層13に上記の性質を付与するものであれば特に制限はなく、ホール輸送材料として用いることができる公知の材料や、ホール輸送性能が高い材料、有機EL素子のホール輸送層に使用されている公知の材料等の中から、任意の材料を選択して用いることができる。
このような材料としては、例えば、フタロシアニン誘導体、トリアゾール誘導体、トリアリールメタン誘導体、トリアリールアミン誘導体(芳香族第3アミン化合物)、オキサゾール誘導体、オキサジアゾール誘導体、ヒドラゾン誘導体、スチルベン誘導体、ピラゾリン誘導体、ポリシラン誘導体、イミダゾール誘導体、フェニレンジアミン誘導体、アミノ置換カルコン誘導体、スチリルアントラセン誘導体やスチリルアミン誘導体等のスチリル化合物、フルオレン誘導体、シラザン誘導体、カルバゾール誘導体、アニリン系共重合体、ポルフィリン化合物、ポリアリールアルカン誘導体、ポリフェニレンビニレン誘導体、ポリチオフェン誘導体、ポリ−N−ビニルカルバゾール誘導体、チオフェンオリゴマー等の導電性高分子オリゴマー、スチリルアミン化合物、テトラミン類、ベンジジン類、アリーレンジアミン誘導体、パラフェニレンジアミン誘導体、メタフェニレンジアミン誘導体等が挙げられ、具体的には、トリアリールアミンの2量体、3量体、4量体及び5量体、1,1−ビス(4−ジアリールアミノフェニル)シクロヘキサン類、4,4’−ジ(ジアリールアミノ)ビフェニル類、ビス[4−(ジアリールアミノ)フェニル]メタン類、4,4’’−ジ(ジアリールアミノ)ターフェニル類、4,4’’’−ジ(ジアリールアミノ)クァテルフェニル類、4,4’−ジ(ジアリールアミノ)ジフェニルエーテル類、4,4’−ジ(ジアリールアミノ)ジフェニルスルファン類、ビス[4−(ジアリールアミノ)フェニル]ジメチルメタン類、ビス[4−(ジアリールアミノ)フェニル]−ジ(トリフルオロメチル)メタン類、2,2−ジフェニルビニル化合物、芳香族ジメチリデン系化合物等が挙げられる。
【0027】
これらの中でも、トリアリールアミン誘導体(芳香族第三級アミン化合物)及びスチリルアミン化合物としては、例えば、トリフェニルアミンの2量体、3量体、4量体および5量体、4,4’−ビス[N−フェニル−N−(4”−メチルフェニル)アミノ]ビフェニル、4,4’−ビス[N−フェニル−N−(3”−メチルフェニル)アミノ]ビフェニル、4,4’−ビス[N−フェニル−N−(3”−メトキシフェニル)アミノ]ビフェニル、N,N’−ジフェニル−N,N’−ビス(1−ナフチル)−(1,1’−ビフェニル)−4,4’−ジアミン(NPB)、3,3’−ジメチル−4,4’−ビス[N−フェニル−N−(3”−メチルフェニル)アミノ]ビフェニル、1,1−ビス[4’−[N,N−ジ(4”−メチルフェニル)アミノ]フェニル]シクロヘキサン、9,10−ビス[N−(4’−メチルフェニル)−N−(4”−n−ブチルフェニル)アミノ]フェナントレン、3,8−ビス(N,N−ジフェニルアミノ)−6−フェニルフェナントリジン、4−メチル−N,N−ビス[4”,4’’’−ビス[N’,N’’−ジ(4−メチルフェニル)アミノ]ビフェニル−4−イル]アニリン、N,N’’−ビス[4−(ジフェニルアミノ)フェニル]−N,N’−ジフェニル−1,3−ジアミノベンゼン、N,N’−ビス[4−(ジフェニルアミノ)フェニル]−N,N’−ジフェニル−1,4−ジアミノベンゼン、5,5”−ビス[4−ビス[4−メチルフェニル]アミノフェニル]−2,2’:5’,2”−ターチオフェン、1,3,5−トリス(ジフェニルアミノ)ベンゼン、4,4’,4”−トリス(N−カルバゾリル)トリフェニルアミン、4,4’,4”−トリス[N−(3’’’−メチルフェニル)−N−フェニルアミノ]トリフェニルアミン、4,4’,4”−トリス[N,N−ビス(4’’’−tert−ブチルビフェニル−4””−イル)アミノ]トリフェニルアミン、1,3,5−トリス[N−(4’−ジフェニルアミノフェニル)−N−フェニルアミノ]ベンゼン、N,N,N’,N’−テトラフェニル−4,4’−ジアミノフェニル、N,N’−ジフェニル−N,N’−ビス−(3−メチルフェニル)−[1,1’−ビフェニル]−4,4’−ジアミン、2,2−ビス(4−ジ−p−トリルアミノフェニル)プロパン、1,1−ビス(4−ジ−p−トリルアミノフェニル)シクロヘキサン、N,N,N’,N’−テトラ−p−トリル−4,4’−ジアミノフェニル、1,1−ビス(4−ジ−p−トリルアミノフェニル)−4−フェニルシクロヘキサン、ビス(4−ジメチルアミノ−2−メチルフェニル)フェニルメタン、ビス(4−ジ−p−トリルアミノフェニル)フェニルメタン、N,N’−ジフェニル−N,N’−ジ(4−メトキシフェニル)−4,4’−ジアミノビフェニル、N,N,N’,N’−テトラフェニル−4,4’−ジアミノフェニルエーテル、4,4’−ビス(ジフェニルアミノ)クオードリフェニル、N,N,N−トリ(p−トリル)アミン、4−(ジ−p−トリルアミノ)−4’−[4(ジ−p−トリルアミノ)スチリル]スチルベン、4−N,N−ジフェニルアミノ−2−ジフェニルビニルベンゼン、3−メトキシ−4’−N,N−ジフェニルアミノスチルベンゼン、N−フェニルカルバゾール等が好ましい。
【0028】
また、ポルフィリン化合物としては、例えば、ポルフィリン、1,10,15,20−テトラフェニル−21H,23H−ポルフィリン銅(II)、1,10,15,20−テトラフェニル−21H,23H−ポルフィリン亜鉛(II)、5,10,15,20−テトラキス(ペンタフルオロフェニル)−21H,23H−ポルフィリン、また、フタロシアニン誘導体としては、例えば、シリコンフタロシアニンオキシド、アルミニウムフタロシアニンクロリド、テトラ(t−ブチル)銅フタロシアニン等の金属フタロシアニン類、無金属フタロシアニン類、ジリチウムフタロシアニン、銅テトラメチルフタロシアニン、銅フタロシアニン(CuPc)、クロムフタロシアニン、亜鉛フタロシアニン、鉛フタロシアニン、チタニウムフタロシアニンオキシド、マグネシウムフタロシアニン、銅オクタメチルフタロシアニン等を挙げることができる。
【0029】
これらの中でも、NPB、CuPc、トリフェニルアミンの2量体、3量体、4量体、5量体等がさらに好ましい。
【0030】
また、ホール輸送層13は、発光帯に対して光取り出し側に設けられる場合には、取り出す光に対して透明に形成される。ホール輸送層13を形成可能な上記材料の中から、薄膜化された際に取り出す光に対して透明な材料が適宜選択され、一般的には、取り出す光に対する透過率が、10%よりも大きくなるように設定される。
【0031】
ホール輸送層13は、上記材料の内の一種から形成されてもよく、上記材料の内の複数を混合することにより形成されてもよい。また、このような同一組成又は異種組成の複数層からなる複層構造であってもよい。
【0032】
ホール輸送層13は、これらの材料を、陽極12上に、例えば、スパッタリング法、イオンプレーティング法、真空蒸着法、スピンコート法、電子ビーム蒸着法、キャスト法、LB法等の公知の成膜方法を用いて成膜することにより、形成できる。
ホール輸送層13の膜厚は、選択される材料にもよるが、通常は5nm〜5μmであり、好ましくは10nm〜90nmである。
【0033】
《燐光発光層14》
次に、燐光発光層14が、ホール輸送層13上に形成される。
燐光発光層14は、主として燐光ホスト材料及び燐光ドーパントから構成されており、陽極12及び陰極19からそれぞれ注入されたホール及び電子が再結合されて励起子を発生させ、これが基底状態に戻る際に燐光を発する層である。すなわち、燐光発光層14に含まれる(ドープされる)燐光ドーパントは、常温において、燐光ホスト材料からエネルギーを得て三重項状態へと励起され、その後、基底状態へと遷移する際に燐光を発する。また、該燐光ドーパントにおいてホールと電子とが再結合することによっても、該燐光ドーパントが三重項状態へと励起され、その後、基底状態へと遷移する際に燐光を発する。
【0034】
燐光発光層14に含まれる燐光ドーパントとしては、有機EL素子の発光層で用いられる公知の燐光ドーパントから適宜選択することができる。特に、白色度、素子寿命および発光効率などの素子性能を考慮すると、燐光ドーパントとして赤色燐光ドーパントおよび緑色燐光ドーパントから選択される少なくとも1つを用いることが好ましい。
赤色燐光ドーパントを及び緑色燐光ドーパントは、同一の燐光発光層に含まれてもよく、燐光発光層が、赤色燐光ドーパントを含む燐光発光層と緑色燐光ドーパントを含む燐光発光層とからなる二層構造の、色毎の燐光発光層であってもよい。後者の場合、該赤色燐光ドーパントを含む燐光発光層が、該緑色燐光ドーパントを含む燐光発光層よりも、前記陽極側に設けられていることが好ましく、また、該赤色燐光ドーパントを含む燐光発光層が、島状薄膜となっていることも好ましい。なお、本発明において、島状薄膜とは、燐光ドーパントを含む燐光発光層の平均の膜厚が、該燐光発光層の燐光ホスト材料の単分子膜の膜厚より薄い状態を言う。
赤色燐光ドーパントとしては、赤色燐光発光能を有するものであれば特に制限はなく、例えば、イリジウム、ルテニウム、白金、オスミウム、レニウム、パラジウム等の金属錯体が好ましい。また、これら金属錯体の配位子の内の少なくとも1つが、フェニルピリジン骨格、ビピリジル骨格、ポルフィリン骨格等を持つことが好ましい。さらに具体的には、ビス[2−(2’−ベンゾ[4,5−a]チエニル)ピリジネート−N,C3’]イリジウム(アセチルアセトネート)(btp2Ir(acac))、2,3,7,8,12,13,17,18−オクタエチル−12H,23H−ポルフィリン−白金(II)、ビス[2−(2’−ベンゾ[4,5−a]チエニル)ピリジネート−N,C3’]イリジウム、ビス(2−フェニルピリジン)イリジウム(アセチルアセトネート)が好ましい。
このような赤色燐光ドーパントの重量%濃度(ドープ量)は、一般的には、燐光ホスト材料に対して0.01重量%以上30重量%以下、好ましくは0.02重量%以上3重量%以下にされる。この範囲内にあれば、本発明に係る有機EL素子の白色度をさらに向上させることができる。
【0035】
緑色燐光ドーパントとしては、緑色燐光発光能を有するものであれば特に制限はなく、例えば、イリジウム、ルテニウム、白金、オスミウム、レニウム、パラジウム等の金属錯体が好ましい。また、これら金属錯体の配位子の内の少なくとも1つが、フェニルピリジン骨格、ビピリジル骨格、ポルフィリン骨格等を持つことが好ましい。さらに具体的には、ファク−トリス(2−フェニルピリジン)イリジウム(Ir(ppy)3)、ビス(2−フェニルピリジネート−N,C2’)イリジウム(アセチルアセトネート)、ファク−トリス[5−フルオロ−2−(5−トリフルオロメチル−2−ピリジン)フェニル−C,N]イリジウムが好ましい。
このような緑色燐光ドーパントの重量%濃度(ドープ量)は、一般的には、燐光ホスト材料に対して0.01重量%以上30重量%以下、好ましくは5重量%以上20重量%以下にされる。この範囲内にあれば、本発明に係る有機EL素子の白色度をさらに向上させることができる。
【0036】
以上において、赤色燐光ドーパントの重量%濃度を、緑色燐光ドーパントの重量%濃度よりも低くすると、より効率よく赤色および緑色燐光を発光させることができる。
【0037】
また、燐光ホスト材料としては、燐光ドーパントの三重項エネルギーギャップよりも大きな三重項エネルギーギャップを有する材料であれば特に制限はなく、緑色燐光ホスト材料としては、例えば、カルバゾール誘導体、フェナントロリン誘導体、トリアゾール誘導体、キノリノラト系金属錯体、フェナントロリン誘導体等を挙げることができる。具体的には、4,4’−N,N’−ジカルバゾールビフェニル(CBP)、N,N’−ジカルバゾリル−3,5−ベンゼン、ポリ(9−ビニルカルバゾール)、4,4’,4’’−トリス(9−カルバゾリル)トリフェニルアミン、4,4’−ビス(9−カルバゾリル)−2,2’−ジメチルビフェニル、2,9−ジメチル−4,7−ジフェニル−1,10−フェナントロリン(BCP)、3−フェニル−4−(1’−ナフチル)−5−フェニルカルバゾール等が好ましい。赤色燐光ホスト材料としては、上記の材料に加え、トリス(8−キノリノラト)アルミニウム(Alq)、ビス−(2−メチル−8−キノリノラト)−4−(フェニルフェノラート)アルミニウム(BAlq)等も好ましい。
【0038】
燐光発光層14は、これらの燐光ホスト材料及び燐光ドーパントを、スパッタリング法、イオンプレーティング法、真空蒸着法、スピンコート法、電子ビーム蒸着法等の公知の成膜方法により、ホール輸送層13上に成膜されることにより形成できる。燐光発光層14の膜厚は、選択される材料にもよるが、通常は1nm〜50nmであり、好ましくは2nm〜10nmである。
【0039】
《非発光界面層15》
次に、非発光界面層15が、燐光発光層14上に形成される。
非発光界面層15は、燐光発光層14と蛍光発光層16との間に設けられる層である。
【0040】
非発光界面層の材料には、電子輸送性を備え、かつ発光機能を伴わない1又は複数の材料、又はホール輸送性を備え、かつ発光機能を伴わない1又は複数の材料を用いることができる。ここで、発光機能を伴わない材料とは、非発光界面層に使用した場合に発光しない材料を指し、本質的に発光機能を有する材料であってもよい。電子輸送性を備え、かつ発光機能を伴わない材料と、ホール輸送性を備え、かつ発光機能を伴わない材料とは、それぞれ単独で用いて非発光界面層としてもよいし、両者を混合して非発光界面層としてもよい。両者を混合する場合の材料の構成比率(前者:後者、重量%による)は、5:95〜95:5、好ましくは20:80〜80:20、さらに好ましくは40:60〜60:40である。
【0041】
このような、電子輸送性を備え、かつ発光機能を伴わない材料としては、以上の性質を有する材料であればよく、例えば、金属フェノラト、キノリノラト系金属錯体、トリアゾール誘導体、オキサゾール誘導体、オキサジアゾール誘導体、キノキサリン誘導体、キノリン誘導体、ピロール誘導体、ベンゾピロール誘導体、テトラフェニルメタン誘導体、ピラゾール誘導体、チアゾール誘導体、ベンゾチアゾール誘導体、チアジアゾール誘導体、チオナフテン誘導体、スピロ系化合物、イミダゾール誘導体、ベンゾイミダゾール誘導体、ジスチリルベンゼン誘導体、シロール誘導体、フェナントロリン誘導体、トリフェニルメタン誘導体等を用いることができ、更に具体的には、BCP、ビス−(2−メチル−8−キノリノラト)−4−(フェニルフェノラト)アルミニウム(BAlq)、アルミニウム(III)ビス(2−メチル−8−キノリナト)(SAlq)、2,2’,2’’−(1,3,5−ベンゼネトリール)トリス−[1−フェニル−1H−ベンゾイミダゾール](TPBI)、1,3−ビス(N−t−ブチルフェニル)−1,3,4−オキサジアゾール(OXD−7)、3−フェニル−4−(1’−ナフチル)−5−フェニル−1,2,4−トリアゾール(TAZ)等を用いることができる。
【0042】
また、ホール輸送性を備え、かつ発光機能を伴わない材料としては、以上の性質を備えた材料であればよく、例えば、トリアミン誘導体、テトラミン誘導体、ベンジジン誘導体、トリアリールアミン誘導体、アリーレンジアミン誘導体、フェニレンジアミン誘導体、パラフェニレンジアミン誘導体、メタフェニレンジアミン誘導体、1,1−ビス(4−ジアリールアミノフェニル)シクロヘキサン誘導体、4,4’−ジ(ジアリールアミノ)ビフェニル誘導体、ビス[4−(ジアリ−ルアミノ)フェニル]メタン誘導体、4,4’’−ジ(ジアリールアミノ)ターフェニル誘導体、4,4’’’−ジ(ジアリールアミノ)クァテルフェニル誘導体、4,4’−ジ(ジアリールアミノ)ジフェニルエーテル誘導体、4,4’−ジ(ジアリールアミノ)ジフェニルスルファン誘導体、ビス[4−(ジアリールアミノ)フェニル]ジメチルメタン誘導体、ビス[4−(ジアリールアミノ)フェニル]−ジ(トリフルオロメチル)メタン誘導体、トリフェニルアミンの2量体、トリフェニルアミンの3量体、トリフェニルアミンの4量体、トリフェニルアミンの5量体等を用いることができ、更に具体的には、NPB、CuPc、4,4’−ビス[N−[4’−[N’’−(1−ナフチル)−N’’−フェニルアミノ]ビフェニル]−N−フェニルアミノ]ビフェニル(NPTA)、N,N’−ジカルバゾリル−3,5−ベンゼン(mCP)、4,4’−N,N’−ジカルバゾールビフェニル(CBP)等を用いることができる。
【0043】
なお、非発光界面層15における、電子輸送性を備え、かつ発光機能を伴わない材料の少なくとも1つが、電子輸送層17及び電子注入層18における電子輸送性材料の内の少なくとも1つと同じであってもよい。このような構成にしても、本発明に係る有機EL素子の素子寿命を長くすることができる。
【0044】
同様にして、非発光界面層15における、ホール輸送性を備え、かつ発光機能を伴わない材料の少なくとも1つが、燐光発光層14のホスト材料の少なくとも1つと同じであってもよい。
【0045】
非発光界面層15は、以上のような材料を、スパッタリング法、イオンプレーティング法、真空蒸着法、スピンコート法、電子ビーム蒸着法等の公知の成膜方法により、燐光発光層14上に成膜されることにより形成できる。
非発光界面層15の膜厚は、選択される材料にもよるが、通常は1nm〜14nmであり、好ましくは2nm〜10nmであり、さらに好ましくは4〜8nmである。
【0046】
《蛍光発光層16》
次に、蛍光発光層16が、非発光界面層15上に形成される。
蛍光発光層16は、主として蛍光ホスト材料及び蛍光ドーパントから構成されており、陽極12及び陰極19からそれぞれ注入されたホール及び電子、又はこれらの一方を輸送して両者を再結合させ、励起子を発生させ、該励起子が基底状態に戻る際に蛍光を発する層である。すなわち、蛍光ホスト材料が、キャリア注入及びキャリア輸送を担い、キャリアの再結合により、励起状態が得られる。そして、励起状態となった蛍光ホスト材料は、励起エネルギーを蛍光ドーパントへと移動させ、蛍光ドーパントは、常温において、一重項励起状態から基底状態へと戻る際に蛍光を発する。
【0047】
青色ドーパントに関しては、色純度および寿命の観点から、青色燐光ドーパントよりも、青色蛍光ドーパントを用いることが好ましい。
このような青色蛍光ドーパントとしては、青色蛍光発光能を有するものであれば特に制限はなく、例えば、ジスチリルアミン誘導体、ピレン誘導体、ペリレン誘導体、アントラセン誘導体、ベンゾオキサゾール誘導体、ベンゾチアゾール誘導体、ベンゾイミダゾール誘導体、クリセン誘導体、フェナントレン誘導体、ジスチリルベンゼン誘導体、テトラフェニルブタジエン等を挙げることができ、これらの中でも、4,4’−ビス[2−(9−エチルカルバゾール−2−イル)ビニル]ビフェニル(BCzVBi)が好ましい。
この青色蛍光ドーパントの重量%濃度は、蛍光ホストに対して0.01重量%〜20重量%であり、好ましくは0.1重量%〜10重量%である。
また、蛍光発光層16において用いられる蛍光ホスト材料としては、ジスチリルアリーレン誘導体、スチルベン誘導体、カルバゾール誘導体、トリアリールアミン誘導体、アントラセン誘導体、ピレン誘導体、コロネン誘導体、BAlq等を挙げることができ、これらの中でも、4,4’−ビス(2,2’−ジフェニルビニル)ビフェニル(DPVBi)が好ましい。
この範囲内であれば、緑色燐光ドーパントによる緑色燐光発光及び赤色燐光ドーパントによる赤色燐光発光とバランスのとれた強度の青色蛍光発光が得られ、これらの発光により優れた白色光を得ることができる。
【0048】
蛍光発光層16は、例えば真空蒸着法やスピンコート法、キャスト法、LB法等の公知の薄膜化法により、非発光界面層15上に設ければよい。
蛍光発光層16の膜厚は、一般には1nm〜100nm程度であり、好ましくは2〜50nm程度であるが、燐光発光層14の膜厚よりも厚くするとよい。
【0049】
《電子輸送層17》
次に、電子輸送層17が、蛍光発光層16上に形成される。
電子輸送層17は、蛍光発光層16と電子注入層18との間に設けられる。電子輸送層17は、電子注入層18から輸送された電子を蛍光発光層16に輸送する層である。
【0050】
電子輸送層17において用いられる材料としては、電子輸送層17に上記の性能を付与する材料であれば特に制限なく採用でき、例えば、キノリノラト系金属錯体、トリアゾール誘導体、オキサゾール誘導体、オキサジアゾール誘導体、キノキサリン誘導体、キノリン誘導体、ピロール誘導体、ベンゾピロール誘導体、テトラフェニルメタン誘導体、ピラゾール誘導体、チアゾール誘導体、ベンゾチアゾール誘導体、チアジアゾール誘導体、チオナフテン誘導体、スピロ系化合物、イミダゾール誘導体、ジスチリルベンゼン誘導体、フェナントロリン誘導体、トリアゾール誘導体、オキサゾール誘導体、オキサジアゾール誘導体、キノキサリン誘導体、シロール誘導体、キノリン誘導体、ピロール誘導体、ベンゾピロール誘導体、テトラフェニルメタン誘導体、ピラゾール誘導体、チアゾール誘導体、トリフェニルメタン誘導体、ベンゾチアゾール誘導体、チアジアゾール誘導体、チオナフテン誘導体、ベンゾイミダゾール誘導体、ジスチリルベンゼン誘導体、トリス(8−キノリノラト)アルミニウム(Alq)等が挙げられ、中でもAlqが好ましい。電子輸送層17は、単独の材料によって形成されてもよいし、複数の材料によって形成されてもよい。
【0051】
電子輸送層17は、上記材料を、スパッタリング法、イオンプレーティング法、真空蒸着法、スピンコート法、電子ビーム蒸着法等の公知の成膜方法により、蛍光発光層16上に成膜されることにより形成できる。
【0052】
電子輸送層17の膜厚は、選択される材料にもよるが、通常は1nm〜50nmであり、好ましくは10nm〜40nmである。
【0053】
《電子注入層18》
次に、電子注入層18が、電子輸送層17上に形成される。
電子注入層18は、陰極19と電子輸送層17との間に設けられる。電子注入層18は、陰極界面層を形成し、陰極19から電子を注入しやすくする層である。
【0054】
電子注入層18において用いられる材料としては、電子注入層18に上記の性能を付与する物質であれば特に制限なく採用でき、例えば、アルカリ(土類)金属、これらのハロゲン化物、酸化物、過酸化物、硫化物等が挙げられ、さらに具体的には、セシウム、リチウム等のアルカリ金属、カルシウム、ストロンチウム、バリウム、ラジウム等のアルカリ土類金属、フッ化リチウム、フッ化マグネシウム、フッ化カルシウム、フッ化ストロンチウム、フッ化バリウム等のフッ化物、酸化リチウム等の酸化物等が挙げられ、中でも、フッ化リチウム、リチウム及び酸化リチウムが好ましい。電子注入層18は、これらの材料の内の単独で形成されてもよいし、これらの材料の内の複数の材料によって形成されてもよい。
【0055】
電子注入層18は、これらの材料を、スパッタリング法、イオンプレーティング法、真空蒸着法、スピンコート法、電子ビーム蒸着法等の公知の成膜方法を用い、電子輸送層17上に成膜することにより作製できる。
【0056】
電子注入層18の膜厚は、選択される材料にもよるが、通常は0.1nm〜5nmであり、好ましくは0.3nm〜4nmである。
【0057】
《陰極19》
次に、陰極19が、電子注入層18上に形成される。
陰極19は電子注入層18に電子を注入する電極であり、電子注入効率を高くするために、仕事関数が例えば4.5eV未満の金属、合金、電気伝導性化合物及びこれらの混合物等が、陰極材料として採用される。
【0058】
このような陰極材料としては、例えば、リチウム、ナトリウム、マグネシウム、金、銀、銅、アルミニウム、インジウム、カルシウム、スズ、ルテニウム、チタニウム、マンガン、クロム、イットリウム、アルミニウム−カルシウム合金、アルミニウム−リチウム合金、アルミニウム−マグネシウム合金、マグネシウム−銀合金、マグネシウム−インジウム合金、リチウム−インジウム合金、ナトリウム−カリウム合金、ナトリウム−カリウム合金、マグネシウム/銅混合物、アルミニウム/酸化アルミニウム混合物等が挙げられる。また、陽極材料として採用できる材料も使用できる。これらの中でも、アルミニウム及び銀が好ましい。
【0059】
陰極19は、発光帯に対して光取り出し側に設けられる場合には、取り出す光に対する透過率が10%よりも大きくなるように設定され、透明な導電性酸化物が積層される。また、陰極19において、導電性酸化物をスパッタリングする場合は、発光層等の他の層がプラズマにより損傷するのを防ぐため、銅フタロシアニンや、超薄膜の金属あるいは金属合金等を含むバッファー層を、陰極19と電子注入層18との間にさらに設けるとよい。
陰極19が光反射性電極として用いられる場合には、上記材料の内、取り出す光を反射する性能を備えた材料が適宜選択され、一般的には、金属、合金、金属化合物等が選択される。
【0060】
陰極19は、上記材料単独で形成されてもよいし、複数の上記材料によって形成されてもよい。例えば、マグネシウムに銀や銅を5重量%〜10重量%添加すれば、陰極19の酸化を防止でき、また、陰極19の電子注入層18との接着性も高くすることができる。
さらに、陰極19は、これら同一組成又は異種組成の複数層からなる複層構造であってもよい。
【0061】
陰極19は、真空蒸着法、スパッタリング法、イオン化蒸着法、イオンプレーティング法、電子ビーム蒸着法等の公知の薄膜成膜法によって、電子注入層18上に形成される。
陰極19の膜厚は、用いられる陰極材料にもよるが、一般に、5nm〜1μm程度、好ましくは5〜1000nm程度、特に好ましくは10nm〜500nm程度、望ましくは50〜200nmに設定される。
陰極19のシート電気抵抗は、数百オーム/シート以下に設定されることが好ましい。
【0062】
〈その他の層、その他のドーパント〉
本発明に係る有機EL素子には、図1に示される層以外の層が設けられてもよく、また、各層には公知のドーパント等がさらに添加されても(ドーピングされても)よい。
【0063】
〈ホールブロック層〉
蛍光発光層16と電子輸送層17との間に、ホールブロック層をさらに設けることもできる。ホールブロック層は、電子輸送層17から輸送された電子を蛍光発光層16に輸送し、蛍光発光層16からのホールをブロックする層であり、価電子帯最高準位が陽極側に接する材料よりも大きい特性を持つことが好ましい。このような性能により、蛍光発光層16が、より効率よく蛍光を発するようになる。
【0064】
ホールブロック層に用いられる材料としては、ホールブロック層に上記の性能を付与する材料であれば特に制限なく採用でき、例えば、BCP、BAlq、SAlq、OXD−7等が挙げられ、中でもBCP、BAlq等が好ましい。ホールブロック層は、単独の材料によって形成されてもよいし、複数の材料によって形成されてもよい。
また、ホールブロック層において用いられる材料は、非発光界面層15において用いられる電子輸送性材料と同一であってもよい。
【0065】
ホールブロック層は、上記材料を、スパッタリング法、イオンプレーティング法、真空蒸着法、スピンコート法、電子ビーム蒸着法等の公知の成膜方法により、蛍光発光層16上に成膜されることにより形成できる。
また、ホールブロック層は、上述の電子輸送層17と一体化され得る。このような場合には、例えばホールブロック層の材料であるBCPと電子輸送層17の材料であるAlqとを共蒸着させて、一体化された一つの層とする。
【0066】
ホールブロック層の膜厚は、選択される材料にもよるが、通常は1nm〜40nmであり、好ましくは2nm〜20nmである。
【0067】
図1には示されていないが、1つ又は複数の更なる層により、封止を行ってもよい。
このことにより、本発明に係る有機EL素子を、分子酸素や水分と接触するのを防止することができる。特に分子酸素は、燐光ドーパントから三重項エネルギーを奪い取ってしまうことから、このような封止は有効である。
【実施例】
【0068】
以下、本発明の実施例及び比較例を記すが、本発明はこれら実施例に限定して解釈されるものでないことは、当然である。
【0069】
≪実施例1≫
一方の面上に、陽極12(膜厚150nmのITOの層)が形成された透明なガラス基板11を用意し、基板洗浄を行った。つまり、アルカリ洗浄、純水洗浄を順次行い、乾燥させた後にUVオゾン洗浄を行った。
【0070】
このような基板洗浄を行った基板11上の陽極12上に、真空蒸着装置(カーボンるつぼ、蒸着速度0.1nm/s、真空度約5.0×10−5Pa)中、下記式(1)で示すNPBを蒸着して膜厚40nmの層を作製し、この層をホール輸送層13とした。
【0071】
【化1】

【0072】
ホール輸送層13上に、真空蒸着装置(カーボンるつぼ、蒸着速度0.1nm/s、真空度約5.0×10−5Pa)中、下記式(2)で示す燐光ホスト材料であるCBP(89.5重量%)と、下記式(3)で示す赤色燐光ドーパントであるbtP2Ir(acac)(0.5重量%)と、下記式(4)で示す緑色燐光ドーパントであるIr(ppy)3(10重量%)とを共蒸着して膜厚8nmの層を作製し、この層を燐光発光層14とした。
【0073】
【化2】

【0074】
燐光発光層14上に、真空蒸着装置(カーボンるつぼ、蒸着速度0.1nm/s、真空度約5.0×10−5Pa)中、上記式(1)で示すホール輸送性材料であるNPB(50重量%)と、下記式(5)で示す電子輸送性材料であるBCP(50重量%)とを共蒸着して膜厚4nmの層を作製し、この層を非発光界面層15とした。
【0075】
【化3】

【0076】
非発光界面層15上に、真空蒸着装置(カーボンるつぼ、蒸着速度0.1nm/s、真空度約5.0×10−5Pa)中、下記式(6)で示す蛍光ホスト材料であるDPVBi(96重量%)と、下記式(7)で示す蛍光ドーパントであるBCzVBi(4重量%)とを共蒸着して膜厚20nmの層を作製し、この層を蛍光発光層16とした。
【0077】
【化4】

【0078】
蛍光発光層16上に、真空蒸着装置(カーボンるつぼ、蒸着速度0.1nm/s、真空度約5.0×10−5Pa)中、上記式(5)で示すBCPを蒸着して膜厚6nmの層を作製し、この層をホールブロック層とした。
【0079】
ホールブロック層上に、真空蒸着装置(カーボンるつぼ、蒸着速度0.1nm/s、真空度約5.0×10−5Pa)中、下記式(8)で示すAlqを蒸着して膜厚24nmの層を作製し、この層を電子輸送層17とした。
【0080】
【化5】

【0081】
電子輸送層17上に、真空蒸着装置(カーボンるつぼ、蒸着速度0.1nm/s、真空度約5.0×10−5Pa)中、フッ化リチウム(LiF)を蒸着して膜厚1nmの層を作製し、電子注入層18とした。
【0082】
電子注入層18上に、タングステンボード(蒸着速度1nm/s、真空度約5.0×10−5Pa)により、膜厚150nmのアルミニウム(Al)の層を作製し、陰極19とした。
【0083】
このようにして有機EL素子を完成させた後、陽極12と陰極19とを公知の駆動回路で接続し、発光効率として、輝度1000cd/mにおける電力効率と、白色度と、有機EL素子寿命として、初期輝度2400cd/mにしたときの電流を流し続けた際の初期輝度半減寿命(輝度が1200cd/mになるまでの時間)とを測定した。輝度は、輝度測定器(株式会社トプコン製、商品名BM7)により測定された。測定結果を表1等に記す。
【0084】
以降の実施例及び比較例において使用された化合物の略称を、以下にまとめて示す。これらの略称は、以下のように各化合物に対応している。
NPB:4,4’−ビス−(N−ナフチル−N−フェニルアミノ)ビフェニル
CBP:4,4’−N,N’−ジカルバゾールビフェニル
btp2Ir(acac):ビス[2−(2’−ベンゾ[4,5−a]チエニル)ピリジネート−N,C3’]イリジウム(アセチルアセトネート)
Ir(ppy)3:ファク−トリス(2−フェニルピリジン)イリジウム
BCP:2,9−ジメチル−4,7−ジフェニル−1,10−フェナントロリン
DPVBi:4,4’−ビス(2,2’−ジフェニルビニル)ビフェニル
BCzVBi:4,4’−ビス[2−(9−エチルカルバゾール−2−イル)ビニル]ビフェニル
Alq:トリス(8−キノリノラト)アルミニウム
CuPc:銅フタロシアニン
【0085】
≪実施例2≫
実施例2では、実施例1における燐光発光層14を、膜厚1nmの赤色燐光ドーパント(5重量%)を含む赤色燐光発光層と、膜厚8nmの緑色燐光ドーパント(10重量%)を含む緑色燐光発光層とに分けた。両燐光発光層のホスト材料、赤色燐光ドーパント及び緑色燐光ドーパントは、実施例1と同じ材料を用いて、燐光発光層及び蛍光発光層の作製順(積層順)を表1に示すように代えた以外は、実施例1と同様にして、有機EL素子を作製した。ここで、該赤色燐光発光層の膜厚は1nmであり、燐光ホスト材料であるCBPの単分子膜の膜厚よりも薄いので、該赤色燐光発光層は島状薄膜となっている。作製した有機EL素子について、実施例1と同様にして、電力効率等を測定した。測定結果を表1に記す。なお、電力効率及び半減寿命は、実施例1に対する相対値として示されている。
【0086】
【表1】

【0087】
≪実施例3≫
実施例3では、非発光界面層を、ホール輸送性材料であるCuPcのみとした以外は、実施例1と同様にして、有機EL素子を作製した。作製した有機EL素子について、実施例1と同様にして、電力効率等を測定した。測定結果を表2に記す。なお、電力効率及び半減寿命は、実施例1に対する相対値として示されている。
【0088】
【表2】

【0089】
≪実施例4〜10≫
実施例4〜10ではそれぞれ、非発光界面層の膜厚を、4nmから、1nm、2nm、6nm、8nm、10nm、12nm、14nmへと代えた以外は、実施例1と同様にして、有機EL素子を作製した。作製した有機EL素子について、実施例1と同様にして、電力効率等を測定した。測定結果を表3に記す。なお、電力効率及び半減寿命は、実施例1に対する相対値として示されている。
【0090】
【表3】

【0091】
≪実施例11及び12≫
実施例11では、ホールブロック層と電子輸送層とを一層とし(BCPとAlqとを共蒸着)、実施例12では、ホールブロック層を省略したこと以外は、実施例1と同様にして、有機EL素子を作製した。作製した有機EL素子について、実施例1と同様にして、電力効率等を測定した。測定結果を表4に記す。なお、電力効率及び半減寿命は、実施例1に対する相対値として示されている。
【0092】
【表4】

【0093】
<比較例1〜3>
比較例1〜3ではそれぞれ、燐光発光層及び蛍光発光層の作製順(積層順)を、表5に示すように代えた以外は、実施例1と同様にして、有機EL素子を作製した。即ち、それぞれ実施例1に対して、比較例1では燐光発光層と蛍光発光層の作製順(積層順)を逆にして、比較例2では非発光界面層を省略して、比較例3では燐光発光層と蛍光発光層の作製順(積層順)を逆にし、更に非発光界面層を省略して、有機EL素子を作製した。即ち、比較例1は、実施例1に対して、燐光発光層と蛍光発光層の作製順(積層順)を逆にした構成である。比較例2は、実施例1に対して、非発光界面層がない構成である。比較例3は、実施例1に対して、非発光界面層がなく、更に燐光発光層と蛍光発光層の作製順(積層順)を逆にした構成である。作製した有機EL素子について、実施例1と同様にして、電力効率等を測定した。測定結果を表5に記す。なお、電力効率及び半減寿命は、実施例1に対する相対値として示されている。
【0094】
【表5】

【0095】
表1〜5から明らかなように、実施例1〜12の本発明に係る有機EL素子は、蛍光発光層と燐光発光層との間に非発光界面層を設けていない比較例2及び3と比較して、電力効率及び半減寿命が大幅に向上することが分かる。さらに、非発光界面層を設けたことによって優れた白色度が得られており、非発光界面層は、色度を調整する機能も有することが考えられる。一方、実施例1における蛍光発光層と燐光発光層とを逆に積層した(蛍光発光層を燐光発光層よりも陽極側に設けた)比較例1は、実施例1と比較して、電力効率及び素子寿命が低いことが分かる。
【図面の簡単な説明】
【0096】
【図1】本発明に係る有機EL素子の層構成例を説明するための断面図である。
【符号の説明】
【0097】
10 有機EL素子、11 基板、12 陽極、13 ホール輸送層、14 燐光発光層、15 非発光界面層、16 蛍光発光層、17 電子輸送層、18 電子注入層、19 陰極。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
陽極と陰極との間に、蛍光ドーパントを含む発光層及び燐光ドーパントを含む発光層が設けられた有機EL素子において、該蛍光ドーパントを含む発光層が該燐光ドーパントを含む発光層よりも該陰極側に設けられ、かつ該蛍光ドーパントを含む発光層と該燐光ドーパントを含む発光層との間に、非発光界面層が設けられたことを特徴とする有機EL素子。
【請求項2】
前記蛍光ドーパントが、青色蛍光ドーパントであることを特徴とする請求項1に記載の有機EL素子。
【請求項3】
前記燐光ドーパントが、赤色燐光ドーパントであることを特徴とする請求項1または2に記載の有機EL素子。
【請求項4】
前記燐光ドーパントが、緑色燐光ドーパントであることを特徴とする請求項1または2に記載の有機EL素子。
【請求項5】
前記燐光ドーパントを含む発光層が、赤色燐光ドーパント及び緑色燐光ドーパントを含むことを特徴とする請求項1または2に記載の有機EL素子。
【請求項6】
前記赤色燐光ドーパントの重量%濃度が、前記緑色燐光ドーパントの重量%濃度よりも低いことを特徴とする請求項5に記載の有機EL素子。
【請求項7】
前記燐光ドーパントを含む発光層が、赤色燐光ドーパントを含む発光層と緑色燐光ドーパントを含む発光層とからなることを特徴とする請求項1または2に記載の有機EL素子。
【請求項8】
前記赤色燐光ドーパントの重量%濃度が、前記緑色燐光ドーパントの重量%濃度よりも低いことを特徴とする請求項7に記載の有機EL素子。
【請求項9】
前記赤色燐光ドーパントを含む発光層が、前記緑色燐光ドーパントを含む発光層よりも、前記陽極側に設けられていることを特徴とする請求項7または8に記載の有機EL素子。
【請求項10】
前記赤色燐光ドーパントを含む発光層が、島状薄膜となっていることを特徴とする請求項9に記載の有機EL素子。
【請求項11】
前記蛍光ドーパントを含む発光層の膜厚が、前記燐光ドーパントを含む発光層の膜厚よりも厚いことを特徴とする請求項1〜10のいずれか1項に記載の有機EL素子。
【請求項12】
前記蛍光ドーパントを含む発光層の前記陰極側に接して、ホールブロック層がさらに設けられたことを特徴とする請求項1〜11のいずれか1項に記載の有機EL素子。

【図1】
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【公開番号】特開2006−172763(P2006−172763A)
【公開日】平成18年6月29日(2006.6.29)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2004−360420(P2004−360420)
【出願日】平成16年12月13日(2004.12.13)
【出願人】(000003218)株式会社豊田自動織機 (4,162)
【Fターム(参考)】