説明

有機EL表示装置用基板および有機EL表示装置

【課題】 COG実装により形成される有機EL表示装置に対して、短時間で効率的にエージング処理を施す。
【解決手段】 陽極1の層と陰極2の層とを電気的に絶縁するための絶縁膜12の層の下層であって、陰極引き回し配線11と有機EL素子7との間の部位において、陰極接続配線6を形成する。陰極接続配線6は、陰極引き回し配線11に接触しない。従って、陰極接続配線6は、いずれの陰極引き回し配線11に阻止されることなく有機EL表示装置の周囲部にまで延びることができる。その結果、有機EL表示装置の外部で、陰極接続配線6を介して全ての陰極引き回し配線11を電気的に接続することができる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、効率的なエージング処理を行うことができる有機EL表示装置用基板および有機EL表示装置に関する。
【背景技術】
【0002】
有機EL(エレクトロルミネッセンス)表示装置は、対向して設けられた陽極と陰極との間に配置された有機EL層に電流が供給されると自発光する電流駆動型の表示装置である。有機EL表示装置は半導体発光ダイオードに似た特性を有しているので有機LEDと呼ばれることもある。
【0003】
有機EL表示素子は、ガラス基板上に陽極に接続されるかまたは陽極そのものを形成する複数の陽極配線が平行して配置され、陽極配線と直交する方向に、陰極に接続されるかまたは陰極そのものを形成する複数の陰極配線が平行して配置され、両電極間に有機EL層が挟持された構造を有する。陽極配線と陰極配線とがマトリクス状に配置された有機EL表示素子において、陽極配線と陰極配線との交点が画素となる。すなわち、画素がマトリクス状に配置されている。一般に、陰極配線は金属で形成され、陽極配線はITO(インジウム・錫・酸化物)などの透明導電膜で形成される。
【0004】
陽極配線と陰極配線とがマトリクス状に配置された有機EL表示素子を単純マトリクス駆動法によって駆動する場合、陽極配線と陰極配線とのうちのいずれか一方を走査電極とし、他方をデータ電極とする。そして、定電圧回路を備えた走査電極駆動回路を走査電極に接続し、走査電極を定電圧駆動する。データ電極には、出力段に定電流回路が備えられたデータ電極駆動回路を接続する。そして、選択状態にある走査電極に対応する行の表示データに応じた電流を、走査に同期して各データ電極に供給する。
【0005】
有機EL表示素子を用いた有機EL表示装置を定電流で駆動していると、時間が経つにしたがって輝度が低下していく。初期輝度が高いほど輝度低下の割合は大きく、例えば、初期輝度が倍になれば、輝度が半減するまでの時間はおおよそ半分程度になる。さらに、発光していた時間が長い画素ほど暗くなるので、画素によって輝度が異なるという現象を引き起こす。この現象を「焼き付き」と呼ぶ。隣接している画素であれば3〜5%程度の輝度差があれば、輝度差があることが視認されてしまう。
【0006】
通電によって、有機EL表示装置の輝度は、初期に大きく低下し、その後は緩やかに低下することが多い。輝度がそのように低下する場合には、有機EL表示装置をしばらく駆動して輝度低下したものを新たに初期状態とすると、その後の低下の仕方が緩やかになる。有機EL表示装置が実際の使用に供される前(実稼働の前)に、有機EL表示装置をしばらく駆動して輝度低下させる処理をエージング処理(以下、寿命エージング処理という。)と呼ぶ。
【0007】
寿命エージング処理において、有機EL表示装置の陽極配線同士をリード線で短絡して電圧印加装置に接続し、かつ、陰極配線同士をリード線で短絡して電圧印加装置に接続する方法がある(例えば、特許文献1参照。)。そして、電圧印加装置から、所定期間、陽極配線同士を接続するリード線と陰極配線同士を接続するリード電極との間に電圧パルスを印加する。
【0008】
また、有機EL表示装置の製造時に、陽極と陰極との間に配されている有機EL層にごみ等の異物が混入したり、陽極に突起が生じて突起が有機EL層に侵入したりすることがある。そして、有機EL表示装置の実稼働中に、異物等に電荷が集中し局所的に熱が発生すると、有機EL層における有機物の分解が進む。すると、ついには有機物が陰極とともに裂け、陽極と陰極との短絡(層間短絡)が生ずる。短絡が生ずると、実稼働中に、特定の画素が発光しなくなる現象が生ずる。
【0009】
実稼働中にそのような現象が発生することを避けるために、あらかじめ、異物が混入している欠陥部を電気的な開放状態である絶縁状態にしたり酸化により不導体化したりするエージング処理(以下、短絡エージング処理という。)が行われる(例えば、特許文献2参照。)。短絡エージング処理は、陽極と陰極との間に、所定時間パルス状の直流電圧を印加することによって実行される。
【0010】
【特許文献1】特開平6−20772号公報(段落0003,0006、図8)
【特許文献2】特開2003−282253号公報(段落0004−0007)
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0011】
有機EL表示素子を用いた有機EL表示装置を作製する場合、一般に、1枚の大きなガラス基板上に複数の有機EL表示素子を形成する。一般的な製造工程は、図7の工程図に示すように、1枚のガラス基板上に配線群および有機EL層を形成する有機EL素子形成工程と、有機EL層を水分などから守るために有機EL表示素子ごとにガラスなどの対向基板によって外気から隔離する封止工程と、ガラス基板を切断して複数の有機EL表示素子に分離する切断工程と、反射防止のために円偏光板などの光学フィルムを貼り付ける光学フィルム貼付工程と、駆動回路などの周辺回路を実装して有機EL表示装置を得る実装工程とを順に実行することによって成り立っている。
【0012】
短絡エージング処理および寿命エージング処理を効率的に実行するために、切断工程よりも前にそれらのエージング処理が実施されることが好ましい。切断工程よりも前にエージング処理を実施するために、多数の有機EL表示素子が形成されるガラス基板上に、エージング処理用の電圧を印加するための配線であって有機EL表示装置外に設置される電圧印加装置に接続可能な配線を形成し、多数の有機EL表示素子の陽極配線と有機EL表示素子の陰極配線との間に一括して電圧を印加する方法を提案した(特願2002−310196)。そのような配線による陽極配線の接続状態および陰極配線の接続状態は、切断工程において、配線が分断されることによって解消される。その方法によれば、多数の有機EL表示素子に対して短時間で効率的にエージング処理を施すことができる。
【0013】
しかし、有機EL表示装置には、同一基板上に有機EL表示素子と駆動回路とが実装されるCOG(チップ・オン・グラス)実装によって作製されるものがあるが、COG実装による有機EL表示装置に対して、既に提案した方法を適用することが難しい場合がある。
【0014】
図8はCOG実装による有機EL表示装置200を模式的に示す平面図である。以下、陽極電極を、単に陽極といい、陰極電極を単に陰極という。駆動回路としてのドライバIC8の裏面における左右両辺の近傍に、陰極を駆動する信号を出力するための接続用パッド(図示せず)が設けられている。また、ドライバIC8の裏面における上辺の近傍に、陽極を駆動するための信号を出力するための接続用パッド(図示せず)が設けられている。すなわち、ドライバIC8は表面実装型のICである。
【0015】
図8に示すように、配線(以下、陽極引き回し配線という。)10がドライバIC8の上辺から有機EL表示素子7に延び、配線(以下、陰極引き回し配線という。)11がドライバIC8の左右両辺から有機EL表示素子7に延びている場合には、既に提案した方法を適用することは難しい。全ての陰極引き回し配線11を有機EL表示装置200の外部において電気的に接続するためのそれぞれの経路(それぞれの陰極引き回し配線11からの配線)を、ガラス基板上において確保することが難しいからである。
【0016】
なお、図8に示す配置において、駆動回路としてのドライバIC8の裏面における左右両辺の近傍に所定の間隔を置いて陰極引き回し配線11の本数に応じた個数の接続用パッド(図示せず)が設けられている。それらの間隔(隙間)を利用して、それぞれの陰極引き回し配線11から有機EL表示装置200の外部に延びる配線を、他の陰極引き回し配線11と接触することなく形成することは可能である。しかし、陰極2の本数が多い場合など隙間が狭くなると、そのような配線を形成することが難しくなる。
【0017】
従って、COG実装による有機EL表示装置については、切断工程の後にエージング処理を実施せざるを得ない。そのために、エージング処理のために駆動しなければならない有機EL表示装置の数が多くなる。特に、2インチ角などの小型の有機EL表示装置を得る場合には、1枚のガラス基板から数10枚の有機EL表示装置が分離される。その結果、多数の有機EL表示装置をエージング処理しなければならない。また、電源装置に接続するための多数のリード線を設置しなければならない。従って、エージング処理のために大きな労力がかかる。
【0018】
また、COG実装による有機EL表示装置では、実装されているドライバICからエージング処理のための電圧を供給することになる。しかし、ドライバICの出力可能電圧には限界がある。よって、特に、短絡エージング処理を実施する場合に、欠陥部を不導体化する等の現象を十分に出し尽くせないおそれがある。
【0019】
本発明は、上記のような課題を解決するための発明であって、COG実装により形成される場合でも、短時間で効率的にエージング処理を施すことが可能になって、エージング処理に要する労力を低減することができる有機EL表示装置用基板および有機EL表示装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0020】
本発明の態様1は、陽極配線と有機EL層と陰極配線とを備える有機EL表示素子が形成され、陽極配線および陰極配線を駆動する駆動回路が搭載された矩形状の構造体であり、駆動回路の陰極駆動端子に接続される陰極引き回し配線が有機EL表示素子における対向する第1の辺と第2の辺のそれぞれに接続され、駆動回路の陽極駆動端子に接続される陽極引き回し配線が有機EL表示素子における第3の辺に接続された構造体が複数配置された有機EL表示装置用基板であって、陰極配線にエージング用信号を供給するための陰極エージング用共通配線が、複数の構造体のそれぞれの第1の辺の近傍を通過するように設けられ、陰極引き回し配線と陰極エージング用共通配線とを接続する陰極エージング用接続配線が、陽極配線と陰極配線とを電気的に絶縁するための絶縁膜の層の下層に形成されていることを特徴とする有機EL表示装置用基板を提供する。
【0021】
態様2は、態様1において、それぞれの構造体で、陰極エージング用接続配線が、陰極配線と絶縁膜を介して交差し、陰極引き回し配線を陰極配線に接続する接続部と有機EL素子における発光領域との間の部位に形成されていることを特徴とする有機EL表示装置用基板を提供する。
【0022】
態様3は、態様1または2において、それぞれの構造体で、陰極エージング用接続配線が、陰極配線に接合される金属配線と、金属配線とエージング用共通配線との間に形成された抵抗体とを含むことを特徴とする有機EL表示装置用基板を提供する。
【0023】
態様4は、陽極配線と有機EL層と陰極配線とを備える有機EL表示素子が形成され、陽極配線および陰極配線を駆動する駆動回路が搭載され、駆動回路の陰極駆動端子に接続される陰極引き回し配線が有機EL表示素子における対向する第1の辺と第2の辺のそれぞれに接続され、駆動回路の陽極駆動端子に接続される陽極引き回し配線が有機EL表示素子における第3の辺に接続された矩形状の有機EL表示装置であって、陰極引き回し配線と有機EL表示装置外から信号を供給するための陰極エージング用共通配線とを接続する陰極エージング用接続配線が、陽極配線と陰極配線とを電気的に絶縁するための絶縁膜の層の下層に形成されていることを特徴とする有機EL表示装置を提供する。
【0024】
態様5は、態様4において、陰極エージング用接続配線が、陰極配線と絶縁膜を介して交差し、陰極引き回し配線を陰極配線に接続する接続部と有機EL素子における発光領域との間の部位に形成されていることを特徴とする有機EL表示装置を提供する。
【0025】
態様6は、態様4または5において、駆動回路がワンチップのLSIに集積されていることを特徴とする有機EL表示装置を提供する。
【発明の効果】
【0026】
本発明は、有機EL表示装置がCOG実装により形成される場合に、短時間で効率的に短絡エージング処理および寿命エージング処理を施すことが可能になって、エージング処理に要する労力を低減することができる有機EL表示装置用基板および有機EL表示装置を提供できる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0027】
以下、本発明の実施の形態を図面を参照して説明する。図1は、本発明の有機EL表示装置100を示す平面図である。なお、本実施の形態では、陽極をデータ電極とし、陰極を走査電極とするが、陰極をデータ電極とし、陽極を走査電極としてもよい。
【0028】
図1に示すように、有機EL表示装置100には、有機EL表示素子7と1チップLSIであるドライバIC8とが実装されている。ドライバIC8には、陰極2を駆動する走査電極駆動回路と、陽極1を駆動するデータ電極駆動回路とが内蔵されている。ドライバIC8のデータ出力端子(陽極駆動端子)と各陽極1とは陽極引き回し配線10で接続されている。ドライバIC8の走査出力端子(陰極駆動端子)と各陰極2とは陰極引き回し配線11で接続されている。また、ドライバIC8には、有機EL表示装置100の外から、有機EL表示装置100の下辺(四辺のうち図1において下側に図示されている辺)の近傍に形成されている入力信号線9によって、表示データに応じた信号や電力が供給される。なお、図1では、陰極2の長さは、誇張して記載されている。
【0029】
なお、図1において、陽極、陰極、陰極引き回し配線および陽極引き回し配線について、多数存在するうちの2つにのみ符号が付されている。
【0030】
有機EL表示装置100における各陽極1は、エージング接続用配線としての陽極接続配線5によって、有機EL表示装置100の上辺(四辺のうち入力信号線9の端部が存在する辺と反対側の辺)を介して、エージング処理時に各陽極1に電圧を印加するための陽極エージング用共通配線に接続される。有機EL表示素子100における各陰極2は、エージング接続用配線としての陰極接続配線6によって、有機EL表示装置100の上辺を介して、エージング処理時に各陰極2に電圧を印加するための陰極エージング用共通配線に接続される。
【0031】
また、図1に示すように、それぞれの陰極接続配線6は、陰極2に直接接続されるのではなく、陰極引き回し配線11に接続されている。すなわち、陰極接続配線6は、陰極引き回し配線11を介して陰極2に電気的に接続される。
【0032】
本実施の形態では、ITO、有機薄膜、金属などを積層して有機EL表示装置100を形成するときに、陽極1となるITOの層と陰極2となる金属の層とを電気的に絶縁するための絶縁膜の層の下層であって、陰極引き回し配線11を陰極2に接続する部分であるコンタクトホール(接続部)と、有機EL素子7との間の部位において、陰極接続配線6を形成する。陰極接続配線6が形成される部位を、陰極接続配線領域15と呼ぶ。陰極接続配線領域15の幅は、数100μm、例えば800μmである。幅が800μmである場合には、陰極接続配線領域15において、それぞれの陰極接続配線6の間隙を10μmとして幅10μmの陰極接続配線6を40本形成することができる。
【0033】
図1において、一点鎖線で示す陰極接続配線領域15の内部で、上下方向に延びる破線が陰極接続配線6を示す。図1には示されていないが、陰極引き回し配線11の端部は、陰極2の下層に潜り込み、陰極2の下面において陰極2と接合されている。そして、陰極接続配線6は、陰極引き回し配線11が設けられている層と同層において形成され、陰極引き回し配線11に接続されている。
【0034】
有機EL表示装置を作製するときに、1枚のガラス基板上に複数の有機EL表示装置が形成される。図2は、ガラス基板(図示せず)上に形成されている2つの有機EL表示装置100,101を示す平面図である。図2において、破線で囲まれている領域が、矩形状の有機EL表示装置100または有機EL表示装置101を示す。ガラス基板上において、左端に陽極エージング用共通配線3としての配線パターンが複数の有機EL表示装置100,101を通過するように形成され、右端に陰極エージング用共通配線4として配線パターンが複数の有機EL表示装置100,101を通過するように形成される。なお、有機EL表示装置100の構造と有機EL表示装置101の構造は同じであるから、図2において、有機EL表示装置101のみに符号を付す。また、後で説明するように、図1に示す陰極接続配線6は、陰極2に接続される金属配線と、金属配線に接続されるITOによる抵抗体とを含む。そこで、図2では、図1に示す陰極接続配線6に相当するものを、金属配線61と陰極エージング用接続抵抗22として示す。なお、切断される前のガラス基板上に形成されているそれぞれの有機EL表示装置は、陽極配線と有機EL層と陰極配線とを備える有機EL表示素子が形成された構造体に相当し、多数の構造体の集まりが有機EL表示装置用基板に相当する。ただし、以下の説明では、切断される前の状態でも、構造体を有機EL表示装置100,101と表現することにする。
【0035】
図2には、ガラス基板上に形成されている2つの有機EL表示装置100,101が示されているが、実際には、ガラス基板上には、マトリクス状に、多数の有機EL表示装置が互いに接するように形成されている。それぞれの有機EL表示装置の構造は、図2に示す有機EL表示装置100,101の構造と同じである。
【0036】
図2に示すように、有機EL表示装置101の陽極1に接続されている陽極接続配線5は、有機EL表示装置101の上辺を介して有機EL表示装置100にまで配線され、陽極エージング用引出線23によって、有機EL表示装置100において陽極エージング用共通配線3に一括して電気的に接続される。
【0037】
有機EL表示素子101の陰極2電気的に接続されている陰極接続配線6は、有機EL表示装置101の上辺を介して、有機EL表示装置100にまで配線され、有機EL表示装置100において、陰極エージング用引出線24に接続される。なお、図2では、陰極接続配線6は、金属配線61と陰極エージング用接続抵抗22として示されている。
【0038】
陰極エージング用引出線24は、有機EL表示装置101の内部(具体的には、陽極エージング用共通配線3と陰極引き回し配線11との間の領域)を配線され、有機EL表示装置101の下部に位置する他の有機EL表示装置(図2において図示せず)を経由して、陰極エージング用共通配線4に接続される。なお、ここでは、有機EL表示装置101に着目して配線の経路を説明したが、ガラス基板上の他の有機EL表示装置においても、有機EL表示装置101の場合と同様に、陽極エージング用引出線23と陰極エージング用引出線24とが配線されている。
【0039】
なお、陽極引き回し配線10の領域には、有機EL表示素子7の陽極1の数に応じた数の配線が形成されている。また、陰極引き回し配線11の領域には、有機EL表示素子7の陰極2の数に応じた数の配線が形成されている。また、陽極接続配線5の領域には、有機EL表示素子7の陽極1の数に応じた数の配線が形成され、陰極接続配線6の領域には、有機EL表示素子7の陰極2の数に応じた数の配線が形成されている。
【0040】
ガラス基板上に存在する全ての陽極エージング用共通配線3は、ガラス基板上の図2の図示範囲外の部分で電気的に接続されている。また、ガラス基板上に存在する全ての陰極エージング用共通配線4は、ガラス基板上の図2の図示範囲外の部分で電気的に接続されている。従って、切断工程前において、ガラス基板上の全ての有機EL表示装置における各陽極1に、陽極エージング用共通配線3から同じ信号を供給することができ、全ての有機EL表示装置における各陰極2に、陰極エージング用共通配線4から同じ信号を供給することができる。その結果、多数の有機EL表示装置に対して一括してエージング処理を実施することができる。
【0041】
陽極エージング用共通配線3と陽極接続配線5との接続は、切断工程において分断される。また、陰極エージング用共通配線4と陰極接続配線6の接続も、切断工程において分断される。
【0042】
次に、陰極接続配線6の形成方法を説明する。図3は、本発明の有機EL表示装置の製造方法の一例を説明するための工程図である。図3に示す工程では、有機EL表示装置は、1枚のガラス基板上に配線群および複数の有機EL層を形成する有機EL素子形成工程と、有機EL層を水分などから守るためにガラスなどの対向基板で有機EL表示装置ごとに外気から隔離する封止工程と、有機EL表示装置にエージングを施すエージング処理を実行するエージング工程と、ガラス基板を切断して複数の有機EL表示装置に分離する切断工程と、反射防止のために円偏光板などの光学フィルムを貼り付ける光学フィルム貼付工程と、ドライバIC8を実装する実装工程とを経て作製される。
【0043】
図4(A)は、陰極接続配線領域15およびその周辺を示す平面図であり、図4(B)はB−B断面を示す断面図である。図4(B)には、3つの陽極1も示されている。
【0044】
図3に示す有機EL素子形成工程では、ガラス基板上にITOを成膜し、ITOをエッチングして、陽極1を形成する。このとき、陰極エージング用接続抵抗22も形成する。次に、金属膜を成膜し、金属膜をエッチングして、陽極接続配線5、陰極接続配線6における金属配線61、陽極引き回し配線10、陰極引き回し配線11、陽極エージング用引出線23および陰極エージング用引出線24を形成する。ここで、陽極エージング用共通配線3および陰極エージング用共通配線4も形成する。
【0045】
その層の上に、感光性のポリイミド樹脂である絶縁膜12を塗布する。絶縁膜12は、その開口部が有機EL表示素子7の発光領域を規定するための構造物である。そして、露光現像等を行って、有機EL表示素子7において各画素の発光部となる開口部を形成する。
【0046】
有機EL表示素子7において開口部を形成する際に、陰極引き回し配線11における所定部位の絶縁膜12を除去して絶縁膜穴(コンタクトホール)33も形成する。絶縁膜穴33において、陰極2と陰極引き回し配線11とが接続される。
【0047】
さらに、ネガ型(露光時に光があたった部分が残る)の感光性樹脂を塗布した後、露光現像して隔壁26を形成する。形成された隔壁26によって、この後の工程で蒸着によって形成される画面内の各陰極2が分離される。以上のようにして構造体が形成された基板の上に、有機EL層としての有機薄膜を積層する。有機薄膜として、順に、正孔注入層、正孔輸送層、発光層、電子輸送層、電子注入層を形成する。最後に、蒸着によって、アルミニウム等の金属で陰極2となる陰極配線を形成する。なお、ここでは、それぞれの陰極2を分離するために隔壁を用いたが、陰極2をストライプ状にマスク蒸着することによって分離してもよい。また、図4に示すように、陰極接続配線6は、陰極2と絶縁膜12を介して交差し、コンタクトホール33と有機EL素子7における発光部を有する領域である発光領域(画面領域)との間の部位に形成されている。
【0048】
以上のようにして、陽極1の層と陰極2の層とを電気的に絶縁するための絶縁膜12の層の下層であって、コンタクトホール33と有機EL素子7における発光領域との間の部位において、陰極接続配線6(具体的には金属配線61)が形成される。図4(B)の断面図から明らかなように、陰極接続配線6は、接合する陰極引き回し配線11以外の陰極引き回し配線11には接触しない。また、いずれの陰極2とも接触しない。従って、陰極接続配線6は、陰極引き回し配線11および陰極2に阻止されることなく有機EL表示装置100の上の辺まで延びることができる。その結果、有機EL表示装置100の外部で、陰極接続配線6を介して全ての陰極引き回し配線11を電気的に接続することができる。
【0049】
陰極接続配線6の抵抗値はある程度高い方が好ましい。従って、陰極接続配線6を、陰極引き回し配線11に接合される金属配線61と抵抗体となる陰極エージング用接続抵抗22とによって形成した。図5は、抵抗体の形成方法を示す説明図である。抵抗体を含むように形成するには、陰極接続配線領域15において、例えば、図5(A)に示すように、陰極接続配線6を形成する金属配線61と陰極エージング用接続抵抗22とを接合する。図5(B)に示すように、陰極エージング用接続抵抗22が抵抗体に相当する。
【0050】
また、陰極引き回し配線11から陰極エージング用引出線24に至る陰極接続配線6の全体をITOで形成してもよい。図6(A)は、陰極接続配線6の全体をITOで形成する場合の陰極接続配線領域15およびその周辺を示す平面図であり、図6(B)はB−B断面を示す断面図である。図6に示す構造を有する有機EL表示装置、すなわち陰極接続配線6全体がITOで形成されている有機EL表示装置において、ITOの陰極接続配線6は、陽極1を形成するときに同時に形成される。
【0051】
陰極接続配線6の全体をITOで形成する場合には、図6に示すように、陰極接続配線6の幅を均一にしない方がよい。すなわち、陰極接続配線6の長さ(陰極引き回し配線11から有機EL表示装置100の上辺までの距離)が長くなる程、幅を広くする。そのように各々の陰極接続配線6を形成した場合には、陰極接続配線6の抵抗値をある程度高くすることができるとともに、各々の陰極接続配線6の抵抗値を揃えることができる。
【0052】
有機EL素子形成工程が終了すると、ガラス基板上に形成された複数の単純マトリクス型の有機EL表示素子におけるそれぞれの陽極1がガラス基板上で陽極用接続配線5を介して陽極エージング用共通配線3に電気的に接続され、複数の有機EL表示素子におけるそれぞれの陰極2がガラス基板上で陰極用接続配線6を介して陰極エージング用共通配線4に電気的に接続された構造を有する有機EL表示装置用基板が形成される。
【0053】
次に、有機EL素子形成工程でガラス基板上に形成された有機EL層を水分から守るために、第2の基板としての他のガラス基板1枚を、ガラス基板に対して対向配置し、間隙材としての周辺シール材によって双方のガラス基板を接合する。そして、2枚のガラス基板と周辺シール材とによって形成された封止空間の内部に乾燥窒素ガスを封入する。
【0054】
次いで、エージング工程において短絡エージング処理と寿命エージング処理とを実行する。陽極1および陰極2にエージングのための通電処理を行うために、陽極エージング用共通配線3および陰極エージング用共通配線4にエージング用の電圧印加装置を接続する。短絡エージング処理では、逆バイアス(陽極よりも陰極の電圧が高くなる。)が実際の駆動時よりも大きくなるように電圧を印加する。寿命エージング処理では、より短い時間で所望の輝度低下をさせるために、エージング処理での各画素の輝度が、有機EL表示装置として定格の表示動作をしているときの輝度よりも高くなるように通電の条件を設定する。例えば、有機EL表示装置としての輝度仕様が200cd/mであれば、400cd/mで発光するように通電する。有機EL表示装置としての輝度仕様に対して2倍の高輝度で発光させることによって、有機EL表示装置としての輝度仕様でエージングを行う場合に比べて、約半分の時間でエージング工程が完了する。
【0055】
切断工程では、ガラス基板を切断して複数の有機EL表示装置100に分離する。そのときに、陽極エージング用共通配線3と陽極接続配線5との接続が分断され、陰極エージング用共通配線4と陰極接続配線6の接続が分断されることによって、それぞれの陽極1とそれぞれの陰極2とが、陽極エージング用共通配線3および陰極エージング用共通配線4から電気的に分離される。なお、陽極接続配線5および陰極接続配線6は、それぞれの有機EL表示装置100に残っている。
【0056】
次いで、光学フィルム貼付工程で、反射防止のために円偏光板などの光学フィルムを有機EL表示素子に貼り付ける。そして、実装工程で、ドライバIC8を実装し、入力信号線9に外部からの信号を伝達するフレキシブルケーブルを接続して有機EL表示装置100を得る。
【0057】
切断工程において、ガラス基板の端部が切り落とされて廃棄される。従って、複数の有機EL表示装置100の外に形成される陽極エージング用共通配線3および陰極エージング用共通配線4の部分を、切り落とされる部分に設ければ、陽極エージング用共通配線3および陰極エージング用共通配線4を形成してもガラス基板において無駄が生ずることはない。また、有機EL表示装置100に残る陽極エージング用共通配線3および陰極エージング用共通配線4の部分を、封止工程において周辺シール材が設置される領域に設ければ、陽極エージング用共通配線3および陰極エージング用共通配線4を形成してもガラス基板において無駄が生ずることはない。
【0058】
以上に説明したように、本実施の形態では、エージング工程において、複数の有機EL表示装置100に一括して通電することができる。その結果、エージング処理を実行する際の作業の労力が削減される。なお、陽極エージング用共通配線3および陰極エージング用共通配線4として、低抵抗である金属配線を使用することが好ましい。また、陰極接続配線6として、金属配線よりも高抵抗なITOを含むものを使用する。さらに、陰極接続配線6の場合と同様に、陽極接続配線5において陽極エージング用接続抵抗を設けることが好ましい。そのような好ましい材料を用いた場合には、陽極エージング用共通配線3および陰極エージング用共通配線4によって全ての有機EL表示素子に、ほぼ均一に電圧が印加される。
【0059】
なお、陽極接続配線5および陰極接続配線6は、それぞれの有機EL表示装置100に残っているので、ドライバIC8を実装する前に、有機EL表示装置100の外部から、陽極接続配線5および陰極接続配線6を介して陽極1のそれぞれおよび陰極2のそれぞれに信号を入力することができる。従って、陽極接続配線5および陰極接続配線6を、ドライバIC8が実装される前の有機EL表示素子の検査に役立たせることもできる。
【0060】
陽極エージング用共通配線3および陰極エージング用共通配線4として使用する金属は、面抵抗が0.2Ω/□以下で、配線幅が200μm以上であると、低抵抗が得られ好ましい。また、ガラス基板上の占有面積(切り落とされる部分における占有面積および周辺シール材が設置される部分における占有面積)を考慮すると3mm以下であることが好ましい。配線材料として、アルミニウム、アルミニウムと他の金属の積層構造、または銀系の合金などを使用すること好ましい。陽極接続配線5および陰極接続配線6としてITOなどの透明導電膜配線が使用される場合には、その面抵抗は5Ω/□以上で、アスペクト比(配線長/配線幅)が20以上であると、高抵抗が得られ好ましい。ガラス基板上の占有面積を考慮すると、配線長は1mm以下であることが好ましいので、配線幅は50μm以下であることが好ましい。
【0061】
また、陽極接続配線5および陰極接続配線6の抵抗値は、100Ω以上で10kΩ以下であることが好ましく、500Ω以上であればより好ましい。100Ω程度であれば、例えばエージング処理において10Vの電圧を印加する場合に短絡が発生しても100mA程度の消費電流で済む。しかし、陽極接続配線5および陰極接続配線6における発熱を考慮すると、抵抗値は500Ω以上であることが好ましい。また、抵抗値が大きすぎると、陽極接続配線5および陰極接続配線6における電圧降下が大きくなるので、好ましいことではない。
【0062】
また、陽極エージング用共通配線3および陰極エージング用共通配線4の抵抗値は10Ω以下であることが好ましい。エージング処理において各有機EL表示素子には電圧が均一に印加されることが好ましいためである。
【産業上の利用可能性】
【0063】
本発明は、1枚のガラス基板上に多数の有機EL表示装置が形成される場合であって、有機EL表示装置がCOG実装により形成される場合に適用できる。
【図面の簡単な説明】
【0064】
【図1】本発明の有機EL表示装置を示す平面図。
【図2】ガラス基板上に形成されている2つの有機EL表示装置を示す平面図。
【図3】本発明の有機EL表示装置の製造方法の一例を説明するための工程図。
【図4】(A)は陰極接続配線領域およびその周辺を示す平面図、(B)はB−B断面を示す断面図。
【図5】抵抗体の形成方法を示す説明図。
【図6】(A)は陰極接続配線領域およびその周辺を示す平面図、(B)はB−B断面を示す断面図。
【図7】従来の有機EL表示装置の製造方法の一例を説明するための工程図。
【図8】COG実装による有機EL表示装置を模式的に示す平面図。
【符号の説明】
【0065】
1 陽極
2 陰極
3 陽極エージング用共通配線
4 陰極エージング用共通配線(エージング用共通配線)
5 陽極接続配線
6 陰極接続配線(エージング用接続配線)
7 有機EL表示素子
8 ドライバIC
10 陽極引き回し配線
11 陰極引き回し配線
22 陰極エージング用接続抵抗
23 陽極エージング用引出線
24 陰極エージング用引出線
61 金属配線
100 有機EL表示装置

【特許請求の範囲】
【請求項1】
陽極配線と有機EL層と陰極配線とを備える有機EL表示素子が形成され、陽極配線および陰極配線を駆動する駆動回路が搭載された矩形状の構造体であり、前記駆動回路の陰極駆動端子に接続される陰極引き回し配線が有機EL表示素子における対向する第1の辺と第2の辺のそれぞれに接続され、前記駆動回路の陽極駆動端子に接続される陽極引き回し配線が有機EL表示素子における第3の辺に接続された構造体が複数配置された有機EL表示装置用基板であって、
陰極配線にエージング用信号を供給するための陰極エージング用共通配線が、前記複数の構造体のそれぞれの第1の辺の近傍を通過するように設けられ、
前記陰極引き回し配線と前記陰極エージング用共通配線とを接続する陰極エージング用接続配線が、前記陽極配線と前記陰極配線とを電気的に絶縁するための絶縁膜の層の下層に形成されている
ことを特徴とする有機EL表示装置用基板。
【請求項2】
それぞれの構造体において、陰極エージング用接続配線は、陰極配線と絶縁膜を介して交差し、陰極引き回し配線を前記陰極配線に接続する接続部と有機EL素子における発光領域との間の部位に形成されている
請求項1に記載の有機EL表示装置用基板。
【請求項3】
それぞれの構造体において、陰極エージング用接続配線は、陰極配線に接合される金属配線と、金属配線とエージング用共通配線との間に形成された抵抗体とを含む
請求項1または2に記載の有機EL表示装置用基板。
【請求項4】
陽極配線と有機EL層と陰極配線とを備える有機EL表示素子が形成され、陽極配線および陰極配線を駆動する駆動回路が搭載され、前記駆動回路の陰極駆動端子に接続される陰極引き回し配線が有機EL表示素子における対向する第1の辺と第2の辺のそれぞれに接続され、前記駆動回路の陽極駆動端子に接続される陽極引き回し配線が有機EL表示素子における第3の辺に接続された矩形状の有機EL表示装置であって、
前記陰極引き回し配線と有機EL表示装置外から信号を供給するための陰極エージング用共通配線とを接続する陰極エージング用接続配線が、前記陽極配線と前記陰極配線とを電気的に絶縁するための絶縁膜の層の下層に形成されている
ことを特徴とする有機EL表示装置。
【請求項5】
陰極エージング用接続配線は、陰極配線と絶縁膜を介して交差し、陰極引き回し配線を前記陰極配線に接続する接続部と有機EL素子における発光領域との間の部位に形成されている
請求項4に記載の有機EL表示装置。
【請求項6】
駆動回路は、ワンチップのLSIに集積されている
請求項4または5に記載の有機EL表示装置。

【図1】
image rotate

【図2】
image rotate

【図3】
image rotate

【図4】
image rotate

【図5】
image rotate

【図6】
image rotate

【図7】
image rotate

【図8】
image rotate


【公開番号】特開2006−3757(P2006−3757A)
【公開日】平成18年1月5日(2006.1.5)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2004−181875(P2004−181875)
【出願日】平成16年6月18日(2004.6.18)
【出願人】(000103747)オプトレックス株式会社 (843)
【出願人】(000000044)旭硝子株式会社 (2,665)
【Fターム(参考)】