説明

有機EL表示装置

【課題】電極間でのショートによる消灯やリーク電流による輝度低下、輝度バラツキの発生による表示品質の低下を伴わず、良品質の有機EL表示装置を提供する。
【解決手段】一対の電極間に、少なくとも1層以上の発光層を含む有機層を狭持した有機EL素子を複数有し、前記複数の有機EL素子は、基板側電極上に形成された絶縁層によって区画されて成るアクティブマトリクス型の有機EL表示装置であって、有機層の少なくとも1層の周縁部を覆うように、絶縁層が形成されている。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、有機EL(Electro Luminescenceの略で、以下ELと略記する。)表示装置に関する。
【背景技術】
【0002】
近年は、有機EL素子を用いた表示装置の研究開発が精力的に進められており、薄膜トランジスタ(TFT)を用いて各画素に設けられた有機EL素子の発光を制御するアクティブマトリクス型の有機EL表示装置も製品化され始めている。これらの有機EL表示装置は、光取り出し効率を上げるため、有機層の膜厚を数10nm〜数100nmにする例が多い。この場合、膜厚が薄いために、基板側の画素電極の端部段差によって、電極間ショートが発生しやすい。
【0003】
この電極間ショートを防止するためには、図1のように絶縁層を基板側電極の周縁部に配置するのが一般的である(特許文献1を参照)。
【0004】
【特許文献1】特開平11−204264号
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
絶縁層を基板側電極上に配置した場合、絶縁層端部のテーパー角度が急峻なときには、有機層に亀裂が生じて、電極間でのショートによる消灯やリーク電流による輝度低下、輝度バラツキが発生し、表示品質を著しく低下させる。前記の表示品質の低下を防ぐには絶縁層端部のテーパー角度を緩慢にすることが有効だが、テーパー角度を緩慢にすると発光部開口率が小さくなってしまうという問題が生じる。
【0006】
本発明は、電極間でのショートによる消灯やリーク電流による輝度低下、輝度バラツキの発生による表示品質の低下を伴わず、良品質の有機EL表示装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記背景技術の課題を解決するための手段として、請求項1に記載した発明に係る有機EL表示装置は、
一対の電極間に、少なくとも1層以上の発光層を含む有機層を狭持した有機EL素子を複数有し、前記複数の有機EL素子は、基板側電極上に形成された絶縁層によって区画されて成るアクティブマトリクス型の有機EL表示装置であって、
有機層の少なくとも1層の周縁部を覆うように、絶縁層が形成されていることを特徴とする。
【発明の効果】
【0008】
本発明によれば、有機層が平坦な基板側電極上に形成されるので前記有機層に亀裂が生じない。しかも有機層の周縁部で極端に薄い箇所があっても上方に素子分離膜が配置されている。そのため、電極間でのショートによる消灯やリーク電流による輝度低下、輝度バラツキの発生による表示品質の低下を伴わない。
【発明を実施するための最良の形態】
【0009】
以下、図2を参照して本発明の有機EL表示装置の実施形態について説明するが、本発明はこの形態に限定されるものではない。
【0010】
この有機EL表示装置は、通例の有機EL表示装置と略同様に、一対の電極間(本実施形態では陽極となる基板側の画素電極203及び画素透明電極209と、陰極となる透明電極206との間)に、少なくとも1層以上の発光層を含む有機層204を狭持した有機EL素子を複数有する。そして、前記複数の有機EL素子は、画素電極203及び画素透明電極209上に形成された絶縁層(素子分離膜)205によって区画されて成るアクティブマトリクス型の有機EL表示装置である。
【0011】
図2に示す有機EL表示装置の特徴は、有機層204の少なくとも1層の周縁部を覆うように、素子分離膜205が形成されていることである。本実施形態では、画素電極203と略同一平面上に有機層204が形成されており、同有機層204の周縁部を挟みこむ形態で、画素電極203及び画素透明電極209上に素子分離膜205が形成されている。有機層204は平坦な基板側電極上に形成されるので前記有機層204に亀裂が生じない。しかも有機層204の周縁部で極端に薄い箇所があっても上方に素子分離膜205が配置されている。そのため、電極間でのショートによる消灯やリーク電流による輝度低下、輝度バラツキの発生による表示品質の低下を伴わない。
【0012】
以下に、上記有機EL表示装置の構成を具体的に説明する。
【0013】
有機EL素子は、ガラスや合成樹脂などから成る絶縁性基板、又は表面にSiO2膜やSiNx膜などの絶縁膜を形成した導電性基板あるいは半導体基板等の基板201上に、有機EL素子を駆動するための薄膜トランジスタ202が形成されている。基板201は透明であっても不透明であっても良い。また、薄膜トランジスタ202のポリシリコンの能動層は、ポリシリコンに限定されるものではなく非晶質シリコン、微結晶シリコンなどを用いても良い。
【0014】
薄膜トランジスタ202はコンタクトホールの形成された層間絶縁膜210に覆われている。その上に陽極となる画素電極203が形成されており、同画素電極203は薄膜トランジスタ202のドレイン電極と電気的に接続されている。画素電極203は、反射率の高い金属が用いられることが好ましく、銀膜もしくは添加物を含む銀膜や銀合金膜が好ましいが、アルミ膜もしくは添加物を含むアルミ膜やアルミ合金膜、クロム膜でも良い。なお、この画素電極203は画素ごとにパターニングで形成される。
【0015】
画素電極203上に更に陽極となる画素透明電極209が形成されている。画素透明電極209は、酸化錫と酸化インジウムとの化合物もしくは酸化亜鉛と酸化インジウムの化合物などの酸化物透明導電膜を用いれば良い。
【0016】
画素透明電極209上に発光層を含む有機層204が形成されている。図示した有機層204は、1層から形成されているが、複数の層から形成されていても良い。
【0017】
有機層204の周縁部を覆うように、素子分離膜205が形成されている。素子分離膜205は、SiO2膜やSiNx膜、ポリイミド系樹脂・ノボラック系樹脂等などの絶縁膜を用いれば良い。なお、素子分離膜205の頂点をマスク密着面として利用していた場合は、別途絶縁性の構造物を形成してマスク密着工程に対応できるようにすると良い。
【0018】
素子分離膜205及びその開口部から露出する有機層204を覆うように、陰極となる透明電極206が形成されている。
【実施例】
【0019】
<実施例1>
本発明に係る有機EL表示装置の実施例1を、作製工程に沿って説明する。
【0020】
ガラス基板(コーニング社:1737)201上に一般的なフォトリソグラフィー法による薄膜トランジスタ工程(詳細は省略)を用いて薄膜トランジスタ202と、層間絶縁層210を形成した。この基板上にスパッタ法により膜厚100nmのCrを堆積した基板を用い、フォトリソグラフィー法によりパターニングして、陽極となる画素電極203を形成した。更に、膜厚60nmのIZO(酸化亜鉛と酸化インジウムの化合物)からなる画素透明電極209をスパッタ法により堆積し、所望の形状にパターニングした。
【0021】
こうして作製された基板の上に、発光層を含む有機層204として正孔輸送層、発光層、電荷ブロック層、電子注入層を堆積した。有機層204は、真空度1×10-4Paの真空チャンバー内で抵抗加熱による真空蒸着により連続成膜した。使用した有機材料、及びその膜厚は<表1>の通りである。ドープ濃度は、共蒸着時のそれぞれの材料の堆積スピードを制御することにより所定の濃度に調整した。また、本実施例で用いた有機材料は<化1>の通りである。
【0022】
【表1】

【0023】
【化1】

【0024】
更に、マスクを用いたスパッタ法により、ストライプ形状に画素電極203及び画素透明電極209上、しいては有機層204の周縁部を覆うように素子分離膜205を形成した。図3は基板縦方向に素子分離膜205が形成された状態を示し、図4は更に基板横方向に素子分離膜205が形成された状態を示す。
【0025】
素子分離膜205を形成した後、スパッタ法により陰極となる透明電極(IZO)206を60nmの膜厚で形成した。
【0026】
その後、露点−60℃以下のグローブボックス内において、UV硬化樹脂でガラス基板(図示は省略)を張り合わせて封止した。
【0027】
以上のように作製した有機EL表示装置の画素電極203を電流源の正極に、透明電極206を電流源の陰極に接続し、電流を流すと発光面内に非発光部のない均一な緑色発光が得られた。
【0028】
<実施例2>
本発明に係る有機EL表示装置の実施例2を、作製工程に沿って説明する。
【0029】
本実施例では、素子分離膜305が非接触(インクジェット)塗布装置を用いたパターニングで作製されている。
【0030】
上記実施例1と同様の方法で作製したクロム基板上に、膜厚40nmのIZOからなる画素透明電極309をスパッタ法により堆積し、所定の形状にパターニングした(図5を参照)。
【0031】
この基板の上に、正孔輸送層304aを全面蒸着した後、インクジェット塗布装置によりポリイミド溶液を塗布し、焼成することで素子分離膜305を形成した。図6はインクジェット塗布によりポリイミド溶液を滴下した直後の基板状態の部分的模式図、図7は素子分離膜305を焼成した後のパターン形状の部分的模式図である。ポリイミド溶媒は有機層にダメージを与える可能性があるため、パターニング直後にベークする。
【0032】
素子分離膜305及びその開口部から露出した正孔輸送層304aを覆うように、発光層304bをメタルマスクによりパターニングした。マスクを外した後、電荷ブロック層(図示は省略)、電子注入層304cを、真空度1×10-4Paの真空チャンバー内で抵抗加熱による真空蒸着により連続成膜し、更に陰極となる透明電極(IZO)306をスパッタ法により60nmの膜厚で堆積した。
【0033】
ちなみに、有機層304の構造は上記<表1>の通りである。ドープ濃度は、共蒸着時にそれぞれの材料の堆積スピードを制御することにより所定の濃度に調整した。また、本実施例で用いた有機材料は上記<化1>の通りである。
【0034】
素子作製後、露点−60℃以下のグローブボックス内において、UV硬化樹脂で本素子とガラス基板を張り合わせて封止した。
【0035】
以上のように作製した有機EL表示装置の画素電極303を電流源の正極に、透明電極306を電流源の陰極に接続し、電流を流すと発光面内に非発光部のない均一な緑色発光が得られた。
【図面の簡単な説明】
【0036】
【図1】従来技術の有機EL表示装置の一例を示す図である。
【図2】実施例1の有機EL表示装置をなす有機EL素子の断面構造を示す図である。
【図3】基板の縦方向に絶縁層が形成された状態を示す図である。
【図4】基板の縦横方向に絶縁層が形成された状態を示す図である。
【図5】実施例2の有機EL表示装置をなす有機EL素子の断面構造を示す図である。
【図6】絶縁層を塗布した直後の状態を示す図である。
【図7】絶縁層を焼成した後の状態を示す図である。
【符号の説明】
【0037】
1 金属電極(カソード)
2 電子輸送層
4 ホール輸送層
4a,4b ホール輸送性発光層
5 ITO透明電極(アノード)
6 ガラス基板
21B 青色発光素子部
24 絶縁層
33 ホールブロック層
201 ガラス基板
202 薄膜トランジスタ
210 層間絶縁層
203 基板側の画素電極(陽極)
204 有機層(発光層)
205 絶縁層(素子分離膜)
206 透明電極(陰極)
301 ガラス基板
302 薄膜トランジスタ
310 層間絶縁層
303 基板側の画素電極(陽極)
309 透明電極(陽極)
304a 正孔輸送層
304b 発光層
304c 電子注入層
305 絶縁層(素子分離膜)
306 透明電極(陰極)

【特許請求の範囲】
【請求項1】
一対の電極間に、少なくとも1層以上の発光層を含む有機層を狭持した有機EL素子を複数有し、前記複数の有機EL素子は、基板側電極上に形成された絶縁層によって区画されて成るアクティブマトリクス型の有機EL表示装置であって、
有機層の少なくとも1層の周縁部を覆うように、絶縁層が形成されていることを特徴とする、有機EL表示装置。
【請求項2】
有機層は基板側電極と同一平面上に形成されていることを特徴とする、請求項1に記載の有機EL表示装置。
【請求項3】
絶縁層はマスクを用いたパターニングで形成されていることを特徴とする、請求項1に記載の有機EL表示装置。
【請求項4】
絶縁層は非接触塗布装置を用いたパターニングで形成されていることを特徴とする、請求項1に記載の有機EL表示装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【公開番号】特開2008−108482(P2008−108482A)
【公開日】平成20年5月8日(2008.5.8)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−288250(P2006−288250)
【出願日】平成18年10月24日(2006.10.24)
【出願人】(000001007)キヤノン株式会社 (59,756)
【Fターム(参考)】