有機EL装置、有機EL装置の製造方法、電子機器
【課題】長い発光寿命を実現することができる有機EL装置、有機EL装置の製造方法、電子機器を提供すること。
【解決手段】本適用例の有機EL装置10は、素子基板1上に設けられた複数の有機EL素子12と、複数の有機EL素子12を含む発光領域6を平面的に少なくとも覆う無機材料からなる第1ガスバリア層41と、第1ガスバリア層41に対して平面的に重なるように設けられた無機材料からなる第2ガスバリア層42とを備え、第2ガスバリア層42は、第1ガスバリア層41よりも膜密度が高く、発光領域6の周辺領域6aにおいて第1ガスバリア層41の外縁部41aを覆うように素子基板1上において配置されている。
【解決手段】本適用例の有機EL装置10は、素子基板1上に設けられた複数の有機EL素子12と、複数の有機EL素子12を含む発光領域6を平面的に少なくとも覆う無機材料からなる第1ガスバリア層41と、第1ガスバリア層41に対して平面的に重なるように設けられた無機材料からなる第2ガスバリア層42とを備え、第2ガスバリア層42は、第1ガスバリア層41よりも膜密度が高く、発光領域6の周辺領域6aにおいて第1ガスバリア層41の外縁部41aを覆うように素子基板1上において配置されている。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、有機EL(エレクトロルミネセンス)素子を備えた有機EL装置、有機EL装置の製造方法、電子機器に関する。
【背景技術】
【0002】
上記有機EL装置として、基板上に設けられた発光素子と、該発光素子を覆う保護膜とを有し、該保護膜がアンモニアガスを用いた化学的気相成長法によって成膜された膜密度が異なる窒化シリコン膜によって構成され、該保護膜における表面層の窒化シリコン膜がその下層の窒化シリコン膜よりも高密度となっている表示装置が知られている(特許文献1)。
また、駆動用基板の有機発光素子を有する表示領域が設けられた側に保護膜を形成する工程と、該表示領域に対向する領域に封止基板を配置する工程と、封止基板をマスクとして保護膜を異方性エッチングして該駆動用基板において外部接続領域を露出させる工程とを備えた表示装置の製造方法が知られている(特許文献2)。
【0003】
上記特許文献1および特許文献2における保護膜は、いずれも水分等の浸入によって発光素子が失活して発光が起こらない部分が生ずることを防止するバリア膜の機能を有している。
このようなバリア膜の製造方法としては、湿式の塗布法を用い、被加工物上に有機膜を成膜する工程と、イオンプレーティング法を用い該被加工物上方にSiON膜またはSiOx膜を成膜する工程とを有するバリア多層膜の製造方法が知られている(特許文献3)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2007−184251号公報
【特許文献2】特開2007−234610号公報
【特許文献3】特開2005−34831号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
上記特許文献1の表示装置では、基板の周縁において保護膜の周端を露出させずに樹脂で完全に覆ってから該基板と封止基板とを貼り合せている。しかしながら、各実施例1〜3において具体的にどの程度の膜厚で低密度と高密度の窒化シリコン膜を積層したのか明らかでない。また、実施例1の保護膜の構成において、信頼性を評価する高温(80℃)高湿(75%)試験では、基板の端面から2mm以上内側の窒化シリコン膜まで水分の浸入が認められている。
上記特許文献2の表示装置の製造方法では、実施例として設定膜厚が2μmのSiNx(窒化シリコン膜)を異方性エッチングして断面が駆動用基板に対して鉛直な保護膜を形成している。言い換えれば、封止用基板の端部において保護膜が露出されている。
したがって、上記特許文献1および特許文献2の保護膜の構成では、基板の端面側から浸入する水分等に対して十分なバリア性を有していないという課題がある。
【0006】
また、特許文献3のバリア多層膜の製造方法では、基板上の段差や異物に対して被覆性が高い有機膜を無機材料であるSiON膜やSiOx膜で覆うバリア多層膜の構成を提案している。しかしながら、無機材料に比べて有機膜自体の水蒸気透過度が大きいので、バリア多層膜の有機膜と無機膜との界面や基板とバリア多層膜との界面から水分等が浸入するおそれがあり、やはり十分なバリア性を有していないという課題がある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明は、上述の課題の少なくとも一部を解決するためになされたものであり、以下の形態または適用例として実現することが可能である。
【0008】
[適用例1]本適用例の有機EL装置は、基板上に設けられた複数の有機EL素子と、前記複数の有機EL素子を含む発光領域を平面的に少なくとも覆う無機材料からなる第1ガスバリア層と、前記第1ガスバリア層に対して平面的に重なるように設けられた無機材料からなる第2ガスバリア層とを備え、前記第2ガスバリア層は、前記第1ガスバリア層よりも膜密度が高く、前記発光領域の周辺領域において前記第1ガスバリア層の外縁部を覆うように前記基板上において配置されていることを特徴とする。
【0009】
この構成によれば、発光領域の周辺領域において第1ガスバリア層の外縁部が第1ガスバリア層よりも膜密度が高い第2ガスバリア層で覆われているので、発光領域からだけでなく周辺領域からの水分等の浸入によって有機EL素子が失活することを防ぐことができる。すなわち、長い発光寿命が得られる有機EL装置を提供することができる。
【0010】
[適用例2]上記適用例の有機EL装置において、前記第1ガスバリア層および前記第2ガスバリア層の膜応力が100MPa以下であることが好ましい。
この構成によれば、多層のガスバリア構造であったとしてもそれぞれの膜応力が100MPa以下に抑えられているので、膜応力による歪で各ガスバリア層にクラックなどの不具合が生ずることを低減できる。すなわち、発光寿命において高い信頼性を得ることができる。
【0011】
[適用例3]上記適用例の有機EL装置において、前記第1ガスバリア層に前記第2ガスバリア層が積層されているとしてもよい。
この構成によれば、膜密度が異なる第1および第2ガスバリア層の積層構造により有機EL素子が保護されるため、有機材料からなるガスバリア層を採用した場合に比べて、長い発光寿命が得られる。
【0012】
[適用例4]上記適用例の有機EL装置において、少なくとも前記発光領域において前記第1ガスバリア層と前記第2ガスバリア層との間に有機樹脂層が設けられているとしてもよい。
この構成によれば、有機EL素子の形成あるいは第1ガスバリア層の形成時に異物等が付着しても、異物は有機樹脂層によって被覆される。さらに膜密度が高い第2ガスバリア層によって有機樹脂層が覆われているので、異物等に起因する発光寿命の低下を防ぎ、長い発光寿命を実現することができる。
【0013】
[適用例5]上記適用例の有機EL装置において、前記発光領域は、前記複数の有機EL素子に対して順に積層された前記第1ガスバリア層と前記第2ガスバリア層とからなる第3ガスバリア層により覆われ、前記第3ガスバリア層を覆うように設けられた有機樹脂層と、前記周辺領域において前記有機樹脂層の外縁部を覆うと共に、前記有機樹脂層に積層された前記第2ガスバリア層と、を備えるとしてもよい。
この構成によれば、より発光寿命が長い有機EL装置を提供できる。
【0014】
[適用例6]上記適用例の有機EL装置において、前記発光領域は、前記複数の有機EL素子に対して順に積層された前記第1ガスバリア層と前記第2ガスバリア層とからなる第3ガスバリア層により覆われ、前記第3ガスバリア層を覆うように設けられた有機樹脂層と、前記周辺領域において前記有機樹脂層の外縁部を覆うと共に、前記有機樹脂層に順に積層された前記第1ガスバリア層と前記第2ガスバリア層とからなる第4ガスバリア層と、を備えるとしてもよい。
この構成によれば、発光寿命が長く高い信頼性を有する有機EL装置を提供できる。
【0015】
[適用例7]上記適用例の有機EL装置において、前記第1ガスバリア層が窒化シリコンからなり、前記第2ガスバリア層が酸化窒化シリコンからなることが好ましい。
この構成によれば、多層のガスバリア構造としても発光領域への水分等の浸入を防ぐ高いガスバリア性と高い透明性とを両立させた有機EL装置を提供できる。
【0016】
[適用例8]上記適用例の有機EL装置において、前記第1ガスバリア層および前記第2ガスバリア層の膜厚が200nm〜1200nmであることが好ましい。
この構成によれば、最低限のガスバリア性を確保しつつ、膜厚を増やしてもクラック等の不具合が生じない、高い信頼性を有する有機EL装置を提供することができる。
なお、第1ガスバリア層および第2ガスバリア層の膜厚は、200nm〜600nmがより好ましく、膜応力をより低い状態とすることができる。
【0017】
[適用例9]本適用例の有機EL装置の製造方法は、基板上に複数の有機EL素子を含む発光領域を有する有機EL装置の製造方法であって、前記基板上に前記複数の有機EL素子を形成する発光素子形成工程と、前記発光領域を平面的に少なくとも覆うように、プラズマCVD法を用いて無機材料からなる第1ガスバリア層を形成する第1ガスバリア層形成工程と、前記発光領域の周辺領域において前記第1ガスバリア層の外縁部を覆うと共に、前記第1ガスバリア層に対して平面的に重なるようにイオンプレーティング法を用いて無機材料からなる第2ガスバリア層を形成する第2ガスバリア層形成工程と、を備えたことを特徴とする。
【0018】
この方法によれば、第1ガスバリア層形成工程では、プラズマCVD法で第1ガスバリア層を形成するので、成膜面に凹凸などがあっても被覆性のよい第1ガスバリア層を形成できる。第2ガスバリア層形成工程ではイオンプレーティング法を用いるので、プラズマCVD法で形成された第1ガスバリア層よりも膜密度が高い第2ガスバリア層を形成できる。すなわち、被覆性のよい第1ガスバリア層とこれに対してよりガスバリア性が高い第2ガスバリア層とを組み合わせることにより、発光領域だけでなく、その周辺領域からの水分等の浸入を防止でき、発光寿命が長い有機EL装置を製造することができる。
【0019】
[適用例10]上記適用例の有機EL装置の製造方法において、前記第1ガスバリア層形成工程および前記第2ガスバリア層形成工程は、100℃以下の成膜温度で前記第1ガスバリア層、前記第2ガスバリア層を形成することが好ましい。
この方法によれば、成膜された第1ガスバリア層および第2ガスバリア層の膜応力を低く抑えて、多層のガスバリア層を備えた有機EL装置を製造することができる。
【0020】
[適用例11]上記適用例の有機EL装置の製造方法において、前記第2ガスバリア層形成工程は、前記第1ガスバリア層に積層して前記第2ガスバリア層を形成するとしてもよい。
この方法によれば、有機材料からなるガスバリア層と無機材料からなるガスバリア層とを積層する場合に比べて、相互の密着性が確保され高いガスバリア性を有する多層のガスバリア層とすることができる。
【0021】
[適用例12]上記適用例の有機EL装置の製造方法において、少なくとも前記発光領域において前記第1ガスバリア層上に有機樹脂層を形成する有機樹脂層形成工程をさらに備え、前記第2ガスバリア層形成工程は、前記周辺領域において前記第1ガスバリア層および前記有機樹脂層の外縁部を覆うように前記第2ガスバリア層を形成することが好ましい。
この方法によれば、発光素子形成工程や第1ガスバリア層形成工程において異物等が付着しても、有機樹脂層形成工程において成膜面を被覆して、後に形成される第2ガスバリア層形成工程における異物等の影響を低減することができる。すなわち、第2ガスバリア層における異物等に起因した膜欠陥などの不具合を低減して、長い発光寿命を有する有機EL装置を歩留まりよく製造することができる。
【0022】
[適用例13]上記適用例の有機EL装置の製造方法において、前記第1ガスバリア層形成工程は、前記第1ガスバリア層に前記第2ガスバリア層を積層形成する工程を含み、前記有機樹脂層形成工程は、前記第1ガスバリア層に積層された前記第2ガスバリア層を覆うように前記有機樹脂層を形成するとしてもよい。
この方法によれば、第1ガスバリア層に第2ガスバリア層が積層され、より長い発光寿命を有する有機EL装置を製造することができる。
【0023】
[適用例14]上記適用例の有機EL装置の製造方法において、前記第2ガスバリア層形成工程は、前記有機樹脂層上に前記第1ガスバリア層を積層形成する工程を含み、積層形成された前記第1ガスバリア層および前記有機樹脂層の外縁部を覆うように前記第2ガスバリア層を形成するとしてもよい。
この方法によれば、より長い発光寿命を有すると共に高い信頼性を有する有機EL装置を製造することができる。
【0024】
[適用例15]上記適用例の有機EL装置の製造方法において、前記第1ガスバリア層形成工程は、窒化シリコンからなる前記第1ガスバリア層を形成し、前記第2ガスバリア層形成工程は、酸化窒化シリコンからなる前記第2ガスバリア層を形成することが好ましい。
この方法によれば、高い光透過性とガスバリア性とを兼ね備えた多層のガスバリア構造が形成され、より長い発光寿命を有すると共に高い信頼性を有する有機EL装置を製造することができる。
【0025】
[適用例16]上記適用例の有機EL装置の製造方法において、前記第1ガスバリア層および前記第2ガスバリア層の膜厚が200nm〜1200nmであることが好ましい。
この方法によれば、最低限のガスバリア性を確保しつつ、膜厚を増やしてもクラック等の不具合が生じない、高い信頼性を有する有機EL装置を製造することができる。
なお、第1ガスバリア層および第2ガスバリア層の膜厚は、200nm〜600nmがより好ましく、膜応力をより低い状態とすることができる。
【0026】
[適用例17]本適用例の電子機器は、上記適用例の有機EL装置または上記適用例の有機EL装置の製造方法を用いて製造された有機EL装置を備えたことを特徴とする。
この構成によれば、発光特性において長い発光寿命と高い信頼性とを兼ね備えた電子機器を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0027】
【図1】実施形態1の有機EL装置の構成を示す概略正面図。
【図2】実施形態1の有機EL装置の構造を示す要部断面図。
【図3】実施形態1の有機EL素子の構成を示す模式図。
【図4】実施形態1の有機EL装置の製造方法を示すフローチャート。
【図5】マザー基板を示す概略平面図。
【図6】(a)〜(c)は機能層の成膜用マスクを示す概略平面図。
【図7】ガスバリア層の成膜用マスクを示す概略平面図。
【図8】(a)〜(g)は実施形態1の有機EL装置の製造方法を示す概略断面図。
【図9】(h)〜(l)は実施形態1の有機EL装置の製造方法を示す概略図。
【図10】実施形態1の有機EL装置の製造方法を示す概略断面図。
【図11】蒸着装置の構造を示す概略図。
【図12】プラズマCVD装置の構造を示す概略図。
【図13】イオンプレーティング装置の構造を示す概略図。
【図14】実施形態2の有機EL装置の構造を示す要部概略断面図。
【図15】膜応力と膜厚との関係を示すグラフ。
【図16】実施形態3の電子機器としての携帯型電話機を示す概略斜視図。
【図17】(a)〜(c)は変形例のガスバリア構造を示す概略断面図。
【発明を実施するための形態】
【0028】
以下、本発明を具体化した実施形態について図面に従って説明する。なお、使用する図面は、説明する部分が認識可能な状態となるように、適宜拡大または縮小して表示している。
【0029】
(実施形態1)
<有機EL装置>
まず、本実施形態の有機EL装置について、図1〜図3を参照して説明する。図1は有機EL装置の構成を示す概略正面図、図2は有機EL装置の構造を示す要部断面図、図3は有機EL素子の構成を示す模式図である。
【0030】
図1および図2に示すように、有機EL装置10は、それぞれの画素7に対応して発光素子である有機EL素子12(図2参照)が設けられた素子基板1と、素子基板1に接合され、複数の有機EL素子12を少なくとも封止する封止基板2とを備えている。
【0031】
素子基板1は、有機EL素子12を駆動する駆動素子を備えた回路部11(図2参照)を有している。そして、発光領域6において赤(R)、緑(G)、青(B)のうち同一の発光色が得られる画素7が、同一方向に配列する所謂ストライプ方式の構成となっている。なお、画素7は、実際には非常に微細なものであり、図示の都合上拡大している。
【0032】
素子基板1は、封止基板2よりも一回り大きく、額縁状に張り出した部分には、駆動素子であるTFT(Thin Film Transistor)素子8(図2参照)を駆動する2つの走査線駆動回路部3と1つのデータ線駆動回路部4が設けられている。素子基板1の端子部1aには、これらの駆動回路部3,4と外部駆動回路とを接続するためのフレキシブルな中継基板5が実装されている。
【0033】
図2に示すように、有機EL装置10において、有機EL素子12は、第1電極(あるいは画素電極)としての陽極31と、陽極31を区画する隔壁部33と、陽極31上に積層形成された有機膜からなる発光層を含む機能層32とを有している。また、機能層32を介して陽極31と対向するように形成された第2電極(あるいは共通電極)としての陰極34を有している。
【0034】
隔壁部33は、フェノールまたはポリイミドなどの絶縁性を有する感光性樹脂からなり、画素7を構成する陽極31の周囲を一部覆って、複数の陽極31をそれぞれ区画するように設けられている。
【0035】
陽極31は、素子基板1上に形成されたTFT素子8の3端子のうちの1つに接続しており、例えば、透明電極材料であるITO(Indium Tin Oxide)を厚さ100nm程度に成膜した電極である。なお、図示省略したが、陽極31の下層(平坦化層28側)に、絶縁層を介してAlからなる反射層が設けられている。当該反射層は、機能層32における発光を封止基板2側に反射するものである。また、当該反射層はAlに限定されず、発光を反射する機能(反射面)を有していればよい。例えば、絶縁性の有機材料あるいは無機材料を用いて凹凸を有する反射面を形成する方法、陽極31自体を反射機能を有する導電材料で構成し、表面層にITO膜を形成する方法などが挙げられる。
【0036】
陰極34は、同じく、ITOなどの透明電極材料により形成されている。
【0037】
このような複数の有機EL素子12が設けられた発光領域6を少なくとも覆うように第1ガスバリア層41が設けられている。また、第1ガスバリア層41に対して、有機樹脂層45、第2ガスバリア層42が順に積層されている。
【0038】
第1ガスバリア層41は、無機材料からなる例えばSixNy(窒化シリコン)膜であり、後述するプラズマCVD装置を用いて透明性を有するように成膜されたものである。
【0039】
第2ガスバリア層42は、無機材料からなる例えばSiON(酸化窒化シリコン)膜であり、後述するイオンプレーティング装置を用いて透明性を有するように成膜されたものである。
【0040】
第1ガスバリア層41と第2ガスバリア層42との間に配置された有機樹脂層45は、透明性を有する例えばエポキシ系の樹脂材料からなる。有機樹脂層45は、第1ガスバリア層41の成膜に際して付着した異物等を被覆し、第2ガスバリア層42の成膜に際して成膜面の平坦性を確保する目的で設けられている。
【0041】
第2ガスバリア層42は、第1ガスバリア層41に比べて膜密度が高くなるように成膜されている。また、第1ガスバリア層41および第2ガスバリア層42は、共に膜応力が所定の値よりも小さくなるように成膜されている。詳しくは後述する有機EL装置の製造方法において述べる。
【0042】
封止基板2は、透明なガラス等からなる基板を用いている。有機EL素子12に面する側には、画素7の配置に対応した赤(R)、緑(G)、青(B)、3色のフィルターエレメント36R,36G,36Bとこれを区画する遮光部37が設けられている。
【0043】
有機EL装置10は、いわゆるトップエミッション型の構造となっており、陽極31と陰極34との間に駆動電流を流して機能層32で発光した白色光を前述した反射層で反射させ、フィルターエレメント36R,36G,36Bを介して封止基板2側から取り出す構成となっている。トップエミッション型の構造であるため、素子基板1は、透明基板および不透明基板のいずれも用いることができる。不透明基板としては、例えば、アルミナ等のセラミックス、ステンレススチール等の金属シートに表面酸化などの絶縁処理を施したものの他に、熱硬化性樹脂、熱可塑性樹脂などが挙げられる。
【0044】
素子基板1には、有機EL素子12を駆動する回路部11が設けられている。すなわち、素子基板1の表面にはSiO2(二酸化シリコン)を主体とする下地保護層21が下地として形成され、その上にはシリコン層22が形成されている。このシリコン層22の表面には、SiO2(二酸化シリコン)および/またはSixNy(窒化シリコン)を主体とするゲート絶縁層23が形成されている。
【0045】
また、シリコン層22のうち、ゲート絶縁層23を挟んでゲート電極26と重なる領域がチャネル領域22aとされている。なお、このゲート電極26は、図示しない走査線の一部である。一方、シリコン層22を覆い、ゲート電極26を形成したゲート絶縁層23の表面には、SiO2(二酸化シリコン)を主体とする第1層間絶縁層27が形成されている。
【0046】
また、シリコン層22のうち、チャネル領域22aのソース側には、低濃度ソース領域および高濃度ソース領域22cが設けられる一方、チャネル領域22aのドレイン側には低濃度ドレイン領域および高濃度ドレイン領域22bが設けられて、いわゆるLDD(Light Doped Drain)構造となっている。これらのうち、高濃度ソース領域22cは、ゲート絶縁層23と第1層間絶縁層27とにわたって開孔するコンタクトホール25aを介して、ソース電極25に接続されている。このソース電極25は、電源線(図示せず)の一部として構成されている。一方、高濃度ドレイン領域22bは、ゲート絶縁層23と第1層間絶縁層27とにわたって開孔するコンタクトホール24aを介して、ソース電極25と同一層からなるドレイン電極24に接続されている。
【0047】
ソース電極25およびドレイン電極24が形成された第1層間絶縁層27の上層には、例えばアクリル系の樹脂成分を主体とする平坦化層28が形成されている。この平坦化層28は、アクリル系やポリイミド系等の、耐熱性絶縁性樹脂などによって形成されたもので、TFT素子8やソース電極25、ドレイン電極24などによる表面の凹凸をなくすために形成された公知のものである。
【0048】
そして、陽極31が、この平坦化層28の表面上に形成されると共に、該平坦化層28に設けられたコンタクトホール28aを介してドレイン電極24に接続されている。すなわち、陽極31は、ドレイン電極24を介して、シリコン層22の高濃度ドレイン領域22bに接続されている。陰極34は、GNDに接続されている。したがって、スイッチング素子としてのTFT素子8により、上記電源線から陽極31に供給され陰極34との間で流れる駆動電流を制御する。これにより、回路部11は、所望の有機EL素子12を発光させカラー表示を可能としている。
【0049】
なお、有機EL素子12を駆動する回路部11の構成は、これに限定されるものではない。
【0050】
図3に示すように、有機EL素子12は、陽極31と陰極34とに挟まれた機能層32を有する。機能層32は、例えば、正孔輸送層(HTL)32h、各色の発光層32LR,32LB,32LG、電子輸送層(ETL)32eと呼ばれる複数の薄膜層からなり、素子基板1上の陽極31側からこの順で積層されている。
【0051】
正孔輸送層(HTL)32hとしては、例えば、トリフェニルアミン誘導体(TPD)、ピラゾリン誘導体、アリールアミン誘導体、スチルベン誘導体、トリフェニルジアミン誘導体等が挙げられる。
【0052】
発光層32LR,32LB,32LGの形成材料としては、蛍光あるいは燐光を発光することが可能な公知の発光材料が用いられる。例えば、発光層32LRを形成する材料としては、Alq3(トリス(8−ヒドロキシキノリノール)アルミニウム)をホストとしてアシストドーパントであるルブレンと赤色ドーパントであるDCM2(ジアノメチレンピラン誘導体)とを含む発光材料が挙げられる。発光層32LBを形成する材料としては、BH215をホストとして青色ドーパントであるBD102を含む発光材料が挙げられる。発光層32LGを形成する材料としては、BH215をホストとして緑色ドーパントであるGD206を含む発光材料が挙げられる。本構成は、いわゆる「ドーパント法」に基づく3色の発光層を備え、白色発光を可能としている。ホストであるBH215、ドーパントであるBD102、GD206は、いずれも出光興産製の公知材料である。
【0053】
電子輸送層(ETL)32eの形成材料としては、例えば、オキサジアゾール誘導体、アントラキノジメタンおよびその誘導体、ベンゾキノンおよびその誘導体、ナフトキノンおよびその誘導体、アントラキノンおよびその誘導体、テトラシアノアンスラキノジメタンおよびその誘導体、フルオレン誘導体、8−ヒドロキシキノリンおよびその誘導体の金属錯体等が挙げられる。
【0054】
これらの正孔輸送層(HTL)32h、発光層32LR,32LB,32LG、電子輸送層(ETL)32eの形成材料は所謂低分子系材料であり、真空蒸着法により成膜することができる。
【0055】
このような有機EL素子12を有する素子基板1は、空間35を介して透明な封止基板2と対向配置され、発光領域6の周辺領域においてシール材により接合され封止されている。
【0056】
有機EL装置10は、複数の有機EL素子12が設けられた発光領域6を覆う第1ガスバリア層41と、これに平面的に重畳された膜密度が高い第2ガスバリア層42とを有している。また、第2ガスバリア層42は、発光領域6の周辺領域において第1ガスバリア層41の外縁部を覆うように形成されている。このようなガスバリア構造を有しているため、外部から水分等のガスが発光領域6に浸入することが防止されている。したがって、当該ガスの浸入によって有機EL素子12の発光が失活したダークスポットと呼ばれる画素欠陥等の発生が防止され、長い発光寿命が実現されている。
【0057】
なお、有機EL装置10は、トップエミッション型に限定されず、陰極34を反射機能を有する不透明なAl等の導電材料を用いて成膜し、有機EL素子12の発光を陰極34で反射させて、素子基板1側から取り出すボトムエミッション型の構造としてもよい。
【0058】
<有機EL装置の製造方法>
図4は有機EL装置の製造方法を示すフローチャート、図5はマザー基板を示す概略平面図、図6(a)〜(c)は機能層の成膜用マスクを示す概略平面図、図7はガスバリア層の成膜用マスクを示す概略平面図、図8(a)〜(g)および図9(h)〜(l)並びに図10は有機EL装置の製造方法を示す概略図である。図11は蒸着装置の構造を示す概略図、図12はプラズマCVD装置の構造を示す概略図、図13はイオンプレーティング装置の構造を示す概略図である。
【0059】
図4に示すように、本実施形態の有機EL装置10の製造方法は、素子基板1に表面処理を施すプラズマ処理工程(ステップS1)と、正孔輸送層形成工程(ステップS2)と、R,B,Gの発光色が得られる発光層32LR,32LB,32LGをそれぞれ成膜する発光層形成工程(ステップS3〜ステップS5)と、電子輸送層形成工程(ステップS6)と、陰極形成工程(ステップS7)と、プラズマCVD法を用いて第1ガスバリア層41を成膜する第1ガスバリア層形成工程(ステップS8)と、有機樹脂層形成工程(ステップS9)と、イオンプレーティング法を用いて第2ガスバリア層42を成膜する第2ガスバリア層形成工程(ステップS10)とを備えている。
【0060】
以降、素子基板1における有機EL素子12の形成方法を説明するが、実際には、図5に示すように、素子基板1に該当する領域がマトリクス状に面付けされたマザー基板である基板Wに対して、その各発光領域6内に有機EL素子12の各構成を形成するものである。基板Wには、後述する成膜用マスクとの位置合わせのため四隅にアライメントマークAL1〜AL4が設けられている。なお、有機EL素子12を駆動するための回路部11および陽極31並びに隔壁部33は、公知の製造方法を用いて形成することができる。したがって、有機EL装置10の製造方法を示す概略図においては、特に回路部11の表示を省略するものである。
【0061】
図4のステップS1は、プラズマ処理工程である。ステップS1では、陽極31と隔壁部33とが形成された素子基板1をプラズマ処理装置に投入する。そして、図8(a)に示すように、酸素を処理ガスとして陽極31の表面をプラズマ処理する。これは酸素プラズマによって陽極31のHOMOレベルを有機膜(正孔輸送層)のHOMOレベルに近づけることで、陽極31から注入される正孔に対する有機膜(正孔輸送層)の障壁を相対的に低くして、有機EL素子12の発光性能を高めるためである。そして、ステップS2へ進む。
【0062】
以降のステップS2〜ステップS6では、真空蒸着法により成膜用マスクを用いて膜形成領域Eごとに有機膜を成膜する。
【0063】
<成膜用マスク>
より具体的には、図6(a)に示すように、成膜用マスクとしての蒸着マスク50は、基材51に対してマトリクス状に配置された複数のマスク領域52と、基材51の四隅に配置された4つのアライメントマーク53とを有している。1つのマスク領域52は、1つの有機EL装置10に対応するものであって、マスク領域52には、成膜パターンすなわち基板Wの膜形成領域Eに対応した開口部50aが形成されている。
【0064】
蒸着マスク50に設けられた開口部50aは、例えば同図(b)に示すように、1つの画素7(図1参照)に対応するように開口したものである。基板W(素子基板1)との重ね合わせ精度を考慮して膜形成領域Eよりもやや大きな開口面積を有している。また、これに限らず、例えば同図(c)に示すように、同色の発光が得られる複数の画素7からなる列に対応してスリット状に開口したものも有り得る。
【0065】
本実施形態では、メタルマスクを用いて蒸着マスク50を構成した。メタルマスクの材料としては、例えばインバーと呼ばれるFe−36wt%Niの強磁性材体などを用いることができる。その厚みはおよそ30μm〜50μm程度である。なお、蒸着マスク50はメタルマスクに限定されず、高精度に開口部50aを形成可能なシリコン基板を用いたシリコンマスクでもよい。
【0066】
このような蒸着マスク50は、額縁状のフレーム(図示省略)に歪まないように取り付けられ、前述したように基板Wと重ね合わされて用いられる。
【0067】
<蒸着装置>
次に有機膜の成膜を行う蒸着装置について図11を参照して説明する。図11(a)に示すように、蒸着装置100は、チャンバー111と、チャンバー111の底部に設けられ、膜形成材料を収納して蒸発させる蒸着源110と、蒸着源110に対向して設けられ、基板Wをほぼ水平な状態に保持する基板保持部113とを有している。また、蒸着源110から蒸発する膜形成材料の蒸着速度を測定する膜厚測定手段としての水晶振動子112が蒸着源110の上方に配設された構造となっている。なお、この他にも、例えばチャンバー111内を所定の真空度に減圧する減圧装置や成膜中の基板Wの温度を検出する温度計などを備えているが図11(a)では図示省略している。
【0068】
基板保持部113は、外縁側に保持部114を有する支持体115と、支持体115に設けられ、支持体115をチャンバー111内において吊設する回転軸116とを備えている。
【0069】
保持部114はクランプ状の形態となっており、順に重ね合わされた蒸着マスク50、ワークとしての基板W、磁石117からなる積層体の周辺部を保持している。
【0070】
図11(b)に示すように、膜形成領域Eが開口するように素子基板1と蒸着マスク50とが位置決めされて重ね合わされ、保持部114によって素子基板1が磁石117と蒸着マスク50との間に挟持される。
蒸着マスク50は、前述したようにメタルマスクであって磁石117により引き付けられる構成となっており、素子基板1の隔壁部33と密着している。
【0071】
磁石117は、無駄なエネルギーを使わずに安定した磁場が得られ、基板保持部113の構造が複雑にならない等の観点から電磁石よりも自発的に磁気(磁束)を生ずる永久磁石が用いられている。磁石117としては、例えばアルニコ磁石、フェライト磁石、ネオジム磁石などが挙げられる。また、これらの磁石粉を樹脂等に混ぜて成型したゴム磁石などでもよい。
【0072】
蒸着源110には、前述した機能層32を構成する正孔輸送層(HTL)32h、発光層32LR,32LB,32LG、電子輸送層(ETL)32eのうちいずれかの膜形成材料が収納され加熱されることにより蒸発する。これらの膜形成材料が蒸発する間に回転軸116が回転することにより基板保持部113に保持された基板Wが回転する。これにより、素子基板1の膜形成領域Eには、各層の膜厚ばらつきが低減された状態で機能層32を成膜することが可能となっている。
【0073】
図4のステップS2は、正孔輸送層形成工程である。ステップS2では、図8(b)に示すように、成膜用マスクとしての蒸着マスク50の開口部50aと、隔壁部33によって区画された陽極31を有する膜形成領域Eとが合致するように素子基板1と蒸着マスク50とを位置決めして密着させる。そして、蒸着装置100にセットされ、チャンバー111内に設けられた蒸着源110から正孔輸送層形成材料が蒸発して、膜形成領域Eごとに正孔輸送層32hが形成される。そして、ステップS3〜ステップS5へ順次進む。
【0074】
図4のステップS3〜ステップS5は、発光層形成工程である。ステップS3〜ステップS5では、図8(c)〜(e)に示すように、素子基板1は、蒸着マスク50と重ね合わされた状態で、チャンバー111内に設けられた蒸着源110から発光層形成材料が蒸発して、膜形成領域Eごとに発光層32LR,32LB,32LGが順に成膜される。そして、ステップS6へ進む。
【0075】
図4のステップS6は、電子輸送層形成工程である。ステップS6では、図8(f)に示すように、素子基板1は、蒸着マスク50と重ね合わされた状態で、チャンバー111内に設けられた蒸着源110から電子輸送層形成材料が蒸発して、膜形成領域Eごとに電子輸送層32eが成膜される。
以上のステップS2〜ステップS6が機能層形成工程に相当する。機能層形成工程では、素子基板1と蒸着マスク50とが隔壁部33を介して密着しているので、プラズマ処理された陽極31や成膜後の各種有機膜の表面に蒸着マスク50が直接に触れない。したがって、蒸着マスク50が陽極31や各種有機膜に直接接触することによる膜欠陥などの不具合が回避されている。また、膜形成領域E以外に成膜されないので、所望の膜厚を有する機能層32が成膜される。そして、ステップS7へ進む。
【0076】
図4のステップS7は、陰極形成工程である。ステップS7では、図8(g)に示すように、蒸着マスク50が外され機能層32が形成された素子基板1に対して、例えば真空蒸着法により機能層32と隔壁部33とを覆うように陰極34を成膜する。陰極34はITOであり、膜厚は、100nm〜200nmである。これにより、陽極31と陰極34との間に機能層32を有する有機EL素子12が形成される。そして、ステップS8へ進む。
【0077】
図4のステップS8は、第1ガスバリア層形成工程である。ステップS8では、図9(h)および(i)に示すように発光領域6に設けられた複数の有機EL素子12を覆うと共に、発光領域6の周辺領域に外縁部41aが位置するように第1ガスバリア層41を形成する。
【0078】
具体的には、図12に示すように、複数の有機EL素子12が形成された基板Wと成膜用マスク70とを所定の位置で重ね合わせ、プラズマCVD装置200を用いてSixNy(窒化シリコン)からなる第1ガスバリア層41を対応する素子基板1ごとに成膜する。
【0079】
<プラズマCVD装置>
プラズマCVD装置200は、密閉可能なチャンバー201と、チャンバー201内において所定の間隔を置いて互いに対向するように設けられた一対の高周波電極202,204とを備えている。
【0080】
一方の高周波電極202には、成膜用マスク70が重ねられた基板Wが載置され保持部203により固定される。
【0081】
他方の高周波電極204は、一方の高周波電極202と対向する側に設けられた格子状の開口部と該開口部に連通する気体流路とを有している。成膜材料はキャリアガスによって該気体流路から該開口部を経て対向する高周波電極202,204間に運ばれる。
【0082】
チャンバー201内は予め減圧手段により所定の圧力となるように減圧され、その後に成膜材料を含むキャリアガスがチャンバー201内に導入される。
【0083】
一対の高周波電極202,204間において放電を起こすことにより、チャンバー201内に導入された処理ガスが励起されてプラズマ状態となる。プラズマ状態となった処理ガスに基板Wを晒すことにより、成膜用マスク70の開口部72に対応した領域に成膜材料からなる膜を形成することができる。
【0084】
図7に示すように、成膜用マスク70は、基材71と基材71に開口した複数の開口部72とを有する。開口部72は、基板Wにおける発光領域6に対応してマトリクス状に開口している。開口部72の平面的な大きさは、発光領域6よりも一回り大きい。また、基板WのアライメントマークAL1〜AL4(図5参照)に対応した位置に位置合わせ用の開口部73を有している。成膜用マスク70も先に説明した蒸着マスク50と同様にFe−36wt%Niなどの強磁性体からなるメタルマスクが採用されている。
【0085】
ステップS8では、成膜材料としてシラン(SiH4)ガスを用い、キャリアガスとして窒素(N2)ガスを用いて室温にて放電させプラズマを生成させた。形成された第1ガスバリア層41の膜厚はおよそ200nm、屈折率はおよそ1.86、膜応力はおよそ60Mpa、膜密度はおよそ1.7g/cm3であった。
なお、膜厚は200nm〜1200nm(好ましくは200nm〜600nm)とし、成膜時に、一対の高周波電極202,204間に印加する電圧を下げること、成膜圧力を上げること、あるいは水素ガスを添加して流量を増やすこと等により、所望の膜厚における膜応力、膜密度等を得ることができる。
プラズマCVD装置200を用いているので、発光領域6を含む成膜面において多少の凹凸を有していても、これに対応して被覆された第1ガスバリア層41が得られる。また、成膜用マスク70の開口部72を容易に廻り込んで成膜がされるため、発光領域6の周辺領域では、第1ガスバリア層41の膜厚が外縁部41aに向かって薄くなる傾向となる。言い換えれば、断面視で外縁部41aはテーパー状となる。
【0086】
なお、基板Wに対する成膜と同時に試料片にも成膜を行う。膜応力は試料片のソリ量から求められる。同じく膜密度は試料片における窒化シリコンの膜厚と単位面積当たりの重量とから求められる。屈折率は特定波長の光に対する試料の透過率を測定することにより求められる。そして、ステップS9へ進む。
【0087】
図4のステップS9は、有機樹脂層形成工程である。ステップS9では、図9(j)に示すように、少なくとも第1ガスバリア層41を覆うように例えば透明性を有するエポキシ樹脂などからなる有機樹脂層45を形成する。有機樹脂層45の厚みはおよそ5μm程度である。
有機樹脂層45を形成する方法としては、有機樹脂層形成材料に対して溶媒等を添加して適度な粘度に調整し、スクリーンなどを用いて印刷する印刷法や、ノズルから所定の領域に吐出描画する定量吐出法などを用いて塗布した後に乾燥させて成膜する方法が挙げられる。
このようにミクロンオーダーの有機樹脂層45によって第1ガスバリア層41を覆うことにより、機能層32や陰極34あるいは第1ガスバリア層41の形成時における異物等を被覆して、この後に成膜される第2ガスバリア層42の成膜面を平坦化し、且つ第2ガスバリア層42に対する応力緩和層としての機能も付与することができる。そして、ステップS10へ進む。
【0088】
図4のステップS10は、第2ガスバリア層形成工程である。ステップS10では、図9(k)および(l)に示すように、平面的に少なくとも有機樹脂層45を覆い、発光領域6の周辺領域において第1ガスバリア層41の外縁部41aと有機樹脂層45の外縁部45aとを覆うようにSiON(酸化窒化シリコン)からなる第2ガスバリア層42を形成する。
【0089】
具体的には、図13に示すように、複数の有機EL素子12が形成された基板Wと成膜用マスク80とを所定の位置で重ね合わせ、イオンプレーティング装置300を用いてSiONからなる第2ガスバリア層42を対応する素子基板1ごとに成膜する。
【0090】
<イオンプレーティング装置>
イオンプレーティング装置300は、気密性のチャンバー(真空容器)301と、プラズマビームを発生するプラズマビーム発生器310と、チャンバー301内を減圧する真空ポンプ350とを備えている。真空ポンプ350としては、例えば、ターボ分子ポンプ等が用いられている。
【0091】
チャンバー301は、上部の成膜室302と下部のプラズマ室303とからなり、プラズマ室303の内底部303aには、蒸発源としてのハース(陽極)304が設けられている。ハース304は上方に開口した筒状の容器となっており、内部に成膜材料Mが収納されている。また、ハース304を取り囲むように補助陽極340が設けられている。補助陽極340は、内部にコイル340aを有している。
【0092】
プラズマ室303の内壁303bには、プラズマビーム発生器310と、プラズマ室303内に反応性ガスRGを導入する反応性ガス導入部356が取り付けられている。
【0093】
プラズマビーム発生器310は、一方の端部がプラズマ室303に開口する導入管305を有している。導入管305の外側には、これを取り巻くようにステアリングコイルSCが設けられている。また、導入管305には、第1の中間電極306と、第2の中間電極307とが互いに同心となるように連結されている。第1の中間電極306は内部にコイル306aを有し、第2の中間電極307は内部に永久磁石307aとコイル(図示省略)を有している。第1の中間電極306および第2の中間電極307を介した導入管305のもう一方の端には、例えば、ガラス管からなる絶縁管308が連結しており、絶縁管308の他方の端は、導体板309によって閉塞されている。絶縁管308の内部には、熱電子放出部材312が先端側に設けられた導電性のパイプ311と、導体板309を貫通して、パイプ311の内部にキャリアガスCGを導入する配管とを有している。この場合、パイプ311は高融点材料のモリブデン、タンタル等からなり、熱電子放出部材312は六ホウ化ランタン(LaB6)を用いている。キャリアガスCGは、アルゴン(Ar)ガスである。
【0094】
イオンプレーティング装置300は、導体板309にマイナス端が接続された第1の可変電源V1と、第1の中間電極306のコイル306aとステアリングコイルSCとに接続された第2の可変電源V2と、第2の中間電極307のコイル(図示省略)にプラス端が接続された第3の可変電源V3と、を備えている。第1の可変電源V1のプラス端は、第3の可変電源V3のマイナス端に接続されると共に、抵抗R0を介して第1の中間電極306に接続されている。また、補助陽極340に接続されると共に、可変抵抗R1を介してハース304に接続されている。可変抵抗R1の値を調整することによりハース304に印加される電位を調整することができる。
【0095】
第1の可変電源V1は、導体板309を介して熱電子放出部材312に電位を与え、熱電子を放出させる。また、抵抗R0を所定の大きさに設定し電圧値を調整することで、第1の中間電極306が発生する磁場の大きさを制御することができる。第2の可変電源V2は、その電圧レベルを調整することにより、ステアリングコイルSCにより発生する磁場の大きさを調整することができる。
【0096】
キャリアガスCGであるArガスに熱電子放出部材312からの電子放出を受けて発生したプラズマビームPBは、第1の中間電極306によって収束され、ステアリングコイルSCが発生する磁場の大きさにより所望の方向にガイドされてプラズマ室303に射出される。そして、補助陽極340のコイル340aに印加される電圧レベルを調整することにより、補助陽極340において発生する磁場の大きさが制御され、射出されたプラズマビームPBがハース304に導かれる。第3の可変電源V3は、その電圧レベルを制御することにより、発生したプラズマビームPBを収束させるだけでなく、一時的に第2の中間電極307に引き付けることができる。例えば、導体板309に電圧を与えプラズマビームPBを着火してプラズマビーム発生器310を暖める際には、発生したプラズマビームPBを近くの第2の中間電極307に落とすように制御する。すなわち、むやみにプラズマビームPBをハース304に照射して、成膜材料Mが無駄に蒸発するのを防ぐことを可能としている。
【0097】
プラズマ室303のもう一方の内壁303cには、真空ポンプ350に繋がる配管355が設けられている。配管355には、真空ポンプ350側にゲートバルブ(GV)354と、プラズマ室303側に圧力調整バルブ353とを有している。圧力調整バルブ353は、成膜室302に設けられた真空計351からの信号を受けて圧力コントローラー(APC)352が制御信号を生成し、この制御信号を受けて稼動するように構成されている。真空計351を成膜室302に設置することにより、プラズマビームPBの影響を受け難く、真空計351の計測の信頼性と寿命を確保している。
真空計351の近傍には、非接触型の温度計360が設けられており、成膜中の基板Wの温度を計測することができる。
【0098】
成膜室302には、ワークとしての基板Wが装着される基板装着部321と、基板装着部321を吊設してハース304に対して所定の距離を保って一定方向(X軸方向)に移動可能な移動機構320とが設けられている。移動機構320により基板Wを移動させて、基板Wの表面に薄膜を均一に蒸着することができる。
【0099】
このようなイオンプレーティング装置300は、真空ポンプ350によりチャンバー301内を所定の減圧状態(真空状態)とする。そして、プラズマビーム発生器310から発生したプラズマビームPBをハース304に導くことにより、収納された成膜材料MにプラズマビームPBを照射する。プラズマビームPBが照射された成膜材料Mはジュール熱により加熱され蒸発する。蒸発した成膜材料Mは、基板装着部321に装着された基板Wに到達して薄膜として形成される。また、プラズマ室303に反応性ガスRGを導入すれば、蒸発した成膜材料Mと反応性ガスRGとを反応させ、反応物からなる薄膜を基板Wの表面に形成することもできる。
【0100】
ステップS10では、イオンプレーティング装置300を用い、成膜用マスク80と基板Wとを所定の位置で重ね合わせ、基板装着部321に保持させる。成膜材料Mとして一酸化珪素(SiO)を用いる。反応性ガスRGとして窒素(N2)を導入する。真空ポンプ350によりチャンバー301内をおよそ1×10-2Pa程度に減圧する。プラズマビーム発生器310を稼動させてプラズマビームPBを発生させ、ハース304に収納されたSiOをおよそ1100℃〜1300℃に加熱する。SiOは昇華材料であり、加熱により蒸発する。一方で反応性ガスRGとしてN2ガスを導入して、基板Wとハース304との空間をN2で満たし外部からの酸素を遮断した雰囲気を作り出し、機能層32の酸化を防止する。蒸発したSiOは、N2と結びついてSiON(酸化窒化シリコン)となり基板Wの表面に成膜される。
【0101】
このときの成膜温度(基板Wの表面温度)は100℃以下であって、形成された酸化窒化シリコンの膜厚はおよそ200nm、屈折率は1.79、膜応力は50MPa、膜密度は2.7g/cm3であった。
なお、膜厚は200nm〜1200nm(好ましくは200nm〜600nm)とし、成膜時の成膜圧力やプラズマビームPBのパワーあるいは反応性ガスRGの流量を調整する等により、所望の膜厚における膜応力、膜密度等を得ることができる。これらの値は、第1ガスバリア層41の場合と同様な方法で同時に成膜した試料片を分析することにより得られる。
【0102】
なお、第2ガスバリア層42の成膜時に用いられた成膜用マスク80は、基板Wの発光領域6に対応した複数の開口部82を有する。該開口部82の平面的な大きさは、第1ガスバリア層41の成膜時に用いられた成膜用マスク70の開口部72より一回りやや大きい。成膜用マスク80もメタルマスクが用いられている。イオンプレーティング装置300を用いた第2ガスバリア層42の成膜は、プラズマCVD装置200を用いた第1ガスバリア層41の成膜に比べて成膜用マスク80の開口部82を廻り込み難い。それゆえに、第1ガスバリア層41の外縁部41aを覆うように成膜するために、成膜用マスク80の開口部82の大きさは、第1ガスバリア層41の成膜時の廻り込みを考慮して設計されている。
【0103】
このようにして複数の有機EL素子12が設けられた発光領域6を覆うガスバリア構造が出来上がる。そして、図10に示すように、フィルターエレメント36R,36G,36Bを有する封止基板2と素子基板1とが発光領域6の周辺領域6aに配置されたシール材9を介して接合され封着される。シール材9は例えば熱硬化型あるいは紫外線硬化型のエポキシ系接着剤である。シール材9の一部が第2ガスバリア層42の外縁部42aを覆うように配置されている。発光領域6の周辺領域6aでは、第1ガスバリア層41の外縁部41aと有機樹脂層45の外縁部45aとを覆って第2ガスバリア層42が形成されている。
【0104】
このような有機EL装置10の製造方法によれば、複数の有機EL素子12が設けられ成膜面に凹凸を有する発光領域6を高い被覆性を有するプラズマCVD法で成膜された第1ガスバリア層41と、有機樹脂層45と、第1ガスバリア層41に比べて膜密度が高いイオンプレーティング法で成膜された第2ガスバリア層42とが順に積層された、高いガスバリア性を有する有機EL装置10を製造することができる。
【0105】
特に、発光領域6の周辺領域6aにおいて、第1ガスバリア層41の外縁部41aおよび有機樹脂層45の外縁部45aが高いガスバリア性を有するSiON(酸化窒化シリコン)からなる第2ガスバリア層42によって覆われているため、水分等の発光寿命を妨げるガスがシール材9を透過しても発光領域6に浸入することを防ぐことができる。それゆえ、長い発光寿命と安定した発光特性とを兼ね備えた有機EL装置10を歩留まりよく製造することができる。
【0106】
さらには、プラズマCVD法を用いて第1ガスバリア層41を成膜しても、前述した特許文献2のように成膜されたSiNx膜を異方性エッチングする必要がないので、製造工程を簡略化することができる。
【0107】
(実施形態2)
次に他の実施形態の有機EL装置について図14を参照して説明する。図14は実施形態2の有機EL装置の構造を示す要部概略断面図である。なお、実施形態1と同様な構成については、同じ符号を付して説明する。また、有機EL素子12を駆動する回路部11の構成は図示省略されている。
【0108】
図14に示すように、本実施形態の有機EL装置10Aは、素子基板1上において、隔壁部33により区画された陽極31と、陽極31上に形成された発光層を含む機能層32と、機能層32上に形成された陰極34とからなる有機EL素子12が複数設けられた発光領域6を有する。
また、少なくとも発光領域6を覆う第2ガスバリア層42と、第2ガスバリア層42に積層された第1ガスバリア層41と、さらに発光領域6の周辺領域6aにおいて第1ガスバリア層41の外縁部41aを覆うように第1ガスバリア層41上に積層された第2ガスバリア層42とを備えている。
【0109】
第1ガスバリア層41は、プラズマCVD装置200を用いて成膜されている。成膜条件としては、室温で、成膜速度が100nm/min以上となるように、シランガスと窒素ガスの流量を調整する。これにより膜厚が0.5μm〜10μm(好ましくは0.5μm〜3μm)、屈折率がおよそ1.86、膜密度がおよそ1.7g/cm3、膜応力が50MPa以下のSixNy(窒化シリコン)からなる第1ガスバリア層41を形成した。
【0110】
第2ガスバリア層42は、イオンプレーティング装置300を用いて成膜されている。成膜条件としては、成膜温度を100℃以下とし、成膜材料MとしてのSiO(酸化シリコン)をプラズマビームPBによって加熱昇華させ、反応性ガスRGとしての窒素ガスと反応させることにより、膜厚がおよそ400nm、屈折率が1.79、膜密度がおよそ2.7g/cm3、膜応力が50MPa以下のSiONからなる第2ガスバリア層42を形成した。
【0111】
第1ガスバリア層41および第2ガスバリア層42とも上記実施形態1と同様にマスク成膜されている。
【0112】
このような素子基板1とフィルターエレメント36R,36G,36Bを有する封止基板2とが発光領域6の周辺領域6aに配置されたシール材9により接合され封着されている。シール材9の構成は、上記実施形態1と同じであって、その一部が第2ガスバリア層42の外縁部42aを覆うように配置されている。
【0113】
上記実施形態2の有機EL装置10Aとその製造方法によれば、無機材料からなる多層のガスバリア構造を有しており、特に発光領域6の周辺領域6aにおいて第1ガスバリア層41の外縁部41aを覆うように膜密度が高い第2ガスバリア層42が形成されている。したがって、実施形態1の有機EL装置10に比べて、第1ガスバリア層41を第2ガスバリア層42により挟む構成としているので、より長い発光寿命を実現できる。
【0114】
また、上記実施形態1に比べて第1ガスバリア層41を厚く成膜することによって、上記実施形態1の有機樹脂層45と同様な平坦化層と応力緩和層の両方の機能を持たせることができる。
【0115】
上記実施形態の有機EL装置10および有機EL装置10Aにおけるガスバリア構造の基本的考え方は、被覆性に優れたプラズマCVD法を用いて少なくとも発光領域6を覆う第1ガスバリア層41を形成し、外縁部41aを含めて第1ガスバリア層41が形成された領域を覆うと共に、発光領域6から最も離れたガスバリア層は高い膜密度が得られるイオンプレーティング法により形成された第2ガスバリア層42とする。
第1ガスバリア層41および第2ガスバリア層42をいずれも無機材料により構成することで、有機材料を用いた場合に比べて高いガスバリア性が得られる。特に、SiON(酸化窒化シリコン)からなる第2ガスバリア層42を用いることにより、ガスバリア性と光透過性の両方を高いレベルで実現できる。
また、応力緩和層(上記実施形態1の場合は有機樹脂層45、上記実施形態2の場合は厚く成膜された第1ガスバリア層41)を第2ガスバリア層42の下層に配置することで、第2ガスバリア層42の膜応力が100MPa以上となるように膜密度をさらに上昇させて成膜してもよい。これによりさらにガスバリア性を向上させることができる。
【0116】
図15は、膜応力と膜厚との関係を示すグラフである。無機材料であるSixNyやSiONは、ガスバリア性を得るために少なくとも200nm程度の膜厚が必要である。また、1.7g/cm3〜2.7g/cm3程度の膜密度で成膜した場合には、厚く成膜するとクラック等の欠陥が生ずるおそれがある。それゆえに、膜厚は、200nm〜1200nmの範囲が適当である。
【0117】
一方で複数の有機EL素子12が設けられた発光領域6を覆う第1ガスバリア層41または第2ガスバリア層42としては、有機EL素子12に対して成膜時に余計な熱や応力が加わらないことが好ましい。
それゆえに、図15に示すように、膜応力と膜厚との積が、120000MPa・nm(120GPa・nm)以下となるように斜線でハッチングした領域内で成膜条件を設定することが好ましい。
例えば、有機EL素子12を直接覆う第1ガスバリア層41または第2ガスバリア層42としては、膜応力を100MPa以下として、膜厚の上限を1200nmとする。
また、例えば、応力緩和層の機能を有する有機樹脂層45を覆う第2ガスバリア層42としては、膜応力を600MPaまで上昇させ、膜厚は200nmに抑える。
このようにすれば長い発光寿命と高い信頼性とを両立させることが可能となる。
【0118】
(実施形態3)
次に本実施形態の電子機器について図16を参照して説明する。図16は、電子機器としての携帯型電話機を示す概略斜視図である。
【0119】
図16に示すように、本実施形態の電子機器としての携帯型電話機500は、操作ボタン503を備えた本体502と、本体502にヒンジを介して折畳式に取り付けられた表示部501とを備えている。
表示部501には、上記実施形態1の有機EL装置10または上記実施形態2の有機EL装置10Aが搭載されている。
したがって、発光寿命が長く見栄えのよい携帯型電話機500を提供することができる。
【0120】
上記実施形態以外にも様々な変形例が考えられる。以下、変形例を挙げて説明する。
【0121】
(変形例1)上記実施形態の有機EL装置10および有機EL装置10Aにおいて、ガスバリア構造はこれに限定されない。図17(a)〜(c)は変形例のガスバリア構造を示す概略断面図である。例えば図17(a)に示すように、少なくとも発光領域を覆うと共に、外縁部41aを覆うように第1ガスバリア層41と第2ガスバリア層42とを積層させてもよい。この場合、それぞれの膜厚は400nm程度が適当である。
また、図17(b)に示すように、第1ガスバリア層41と第2ガスバリア層42とが積層された第3ガスバリア層43に対して、第1ガスバリア層41と第2ガスバリア層42とが積層された第4ガスバリア層44を積層する構成としてもよい。この場合には、各層の膜厚は200nm程度が適当である。
さらには、図17(c)に示すように、第3ガスバリア層43と第4ガスバリア層44との間に有機樹脂層45を設ける構成としてもよい。
これらの構成によれば、被覆性の高い第1ガスバリア層41と膜密度が高い第2ガスバリア層42とが積層された構成を採用しているので、より長い発光寿命を実現可能である。
【0122】
(変形例2)上記実施形態の有機EL装置10および有機EL装置10Aの製造方法において、機能層形成工程は、機能層32を構成する有機膜を蒸着法にて成膜する方法に限定されない。例えば、機能性材料を含む液状体を塗布して固化する方法を用いて機能層32を形成するとしてもよい。このような液状体塗布法を用いても上記実施形態のガスバリア構造を適用することができる。
【0123】
(変形例3)上記実施形態の有機EL装置10および有機EL装置10Aにおいて、有機EL素子12は白色発光が得られるものに、限定されない。例えば、発光領域6内に赤(R)、緑(G)、青(B)の発光色が得られる有機EL素子をそれぞれ配置してもよい。その場合に、封止基板2にはフィルターエレメント36R,36G,36Bを設けなくてもよい。
【0124】
(変形例4)上記実施形態の有機EL装置10および有機EL装置10Aにおいて、素子基板1と封止基板2とをシール材9を用いて接合してできた空間35は、透明な樹脂材料で充填してもよい。素子基板1と封止基板2とを所定の間隔を保って対向配置することができる。
【0125】
(変形例5)上記実施形態1の有機EL装置10および上記実施形態2の有機EL装置10Aが搭載された電子機器は、携帯型電話機500に限定されない。例えば、パーソナルコンピューターや携帯型情報端末、ナビゲーター、ビューワーなどの表示部を有する電子機器が挙げられる。また、有機EL装置10および有機EL装置10Aはフルカラーの発光(表示)が可能なものに限らず、単色発光としてもよい。単色の場合には照明装置や感光性のトナーを露光する露光装置などへの適用が挙げられる。
【符号の説明】
【0126】
1…基板としての素子基板、6…発光領域、6a…発光領域の周辺領域、10,10A…有機EL装置、12…有機EL素子、41…第1ガスバリア層、41a…第1ガスバリア層の外縁部、42…第2ガスバリア層、43…第3ガスバリア層、44…第4ガスバリア層、45…有機樹脂層、45a…有機樹脂層の外縁部、500…電子機器としての携帯型電話機。
【技術分野】
【0001】
本発明は、有機EL(エレクトロルミネセンス)素子を備えた有機EL装置、有機EL装置の製造方法、電子機器に関する。
【背景技術】
【0002】
上記有機EL装置として、基板上に設けられた発光素子と、該発光素子を覆う保護膜とを有し、該保護膜がアンモニアガスを用いた化学的気相成長法によって成膜された膜密度が異なる窒化シリコン膜によって構成され、該保護膜における表面層の窒化シリコン膜がその下層の窒化シリコン膜よりも高密度となっている表示装置が知られている(特許文献1)。
また、駆動用基板の有機発光素子を有する表示領域が設けられた側に保護膜を形成する工程と、該表示領域に対向する領域に封止基板を配置する工程と、封止基板をマスクとして保護膜を異方性エッチングして該駆動用基板において外部接続領域を露出させる工程とを備えた表示装置の製造方法が知られている(特許文献2)。
【0003】
上記特許文献1および特許文献2における保護膜は、いずれも水分等の浸入によって発光素子が失活して発光が起こらない部分が生ずることを防止するバリア膜の機能を有している。
このようなバリア膜の製造方法としては、湿式の塗布法を用い、被加工物上に有機膜を成膜する工程と、イオンプレーティング法を用い該被加工物上方にSiON膜またはSiOx膜を成膜する工程とを有するバリア多層膜の製造方法が知られている(特許文献3)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2007−184251号公報
【特許文献2】特開2007−234610号公報
【特許文献3】特開2005−34831号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
上記特許文献1の表示装置では、基板の周縁において保護膜の周端を露出させずに樹脂で完全に覆ってから該基板と封止基板とを貼り合せている。しかしながら、各実施例1〜3において具体的にどの程度の膜厚で低密度と高密度の窒化シリコン膜を積層したのか明らかでない。また、実施例1の保護膜の構成において、信頼性を評価する高温(80℃)高湿(75%)試験では、基板の端面から2mm以上内側の窒化シリコン膜まで水分の浸入が認められている。
上記特許文献2の表示装置の製造方法では、実施例として設定膜厚が2μmのSiNx(窒化シリコン膜)を異方性エッチングして断面が駆動用基板に対して鉛直な保護膜を形成している。言い換えれば、封止用基板の端部において保護膜が露出されている。
したがって、上記特許文献1および特許文献2の保護膜の構成では、基板の端面側から浸入する水分等に対して十分なバリア性を有していないという課題がある。
【0006】
また、特許文献3のバリア多層膜の製造方法では、基板上の段差や異物に対して被覆性が高い有機膜を無機材料であるSiON膜やSiOx膜で覆うバリア多層膜の構成を提案している。しかしながら、無機材料に比べて有機膜自体の水蒸気透過度が大きいので、バリア多層膜の有機膜と無機膜との界面や基板とバリア多層膜との界面から水分等が浸入するおそれがあり、やはり十分なバリア性を有していないという課題がある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明は、上述の課題の少なくとも一部を解決するためになされたものであり、以下の形態または適用例として実現することが可能である。
【0008】
[適用例1]本適用例の有機EL装置は、基板上に設けられた複数の有機EL素子と、前記複数の有機EL素子を含む発光領域を平面的に少なくとも覆う無機材料からなる第1ガスバリア層と、前記第1ガスバリア層に対して平面的に重なるように設けられた無機材料からなる第2ガスバリア層とを備え、前記第2ガスバリア層は、前記第1ガスバリア層よりも膜密度が高く、前記発光領域の周辺領域において前記第1ガスバリア層の外縁部を覆うように前記基板上において配置されていることを特徴とする。
【0009】
この構成によれば、発光領域の周辺領域において第1ガスバリア層の外縁部が第1ガスバリア層よりも膜密度が高い第2ガスバリア層で覆われているので、発光領域からだけでなく周辺領域からの水分等の浸入によって有機EL素子が失活することを防ぐことができる。すなわち、長い発光寿命が得られる有機EL装置を提供することができる。
【0010】
[適用例2]上記適用例の有機EL装置において、前記第1ガスバリア層および前記第2ガスバリア層の膜応力が100MPa以下であることが好ましい。
この構成によれば、多層のガスバリア構造であったとしてもそれぞれの膜応力が100MPa以下に抑えられているので、膜応力による歪で各ガスバリア層にクラックなどの不具合が生ずることを低減できる。すなわち、発光寿命において高い信頼性を得ることができる。
【0011】
[適用例3]上記適用例の有機EL装置において、前記第1ガスバリア層に前記第2ガスバリア層が積層されているとしてもよい。
この構成によれば、膜密度が異なる第1および第2ガスバリア層の積層構造により有機EL素子が保護されるため、有機材料からなるガスバリア層を採用した場合に比べて、長い発光寿命が得られる。
【0012】
[適用例4]上記適用例の有機EL装置において、少なくとも前記発光領域において前記第1ガスバリア層と前記第2ガスバリア層との間に有機樹脂層が設けられているとしてもよい。
この構成によれば、有機EL素子の形成あるいは第1ガスバリア層の形成時に異物等が付着しても、異物は有機樹脂層によって被覆される。さらに膜密度が高い第2ガスバリア層によって有機樹脂層が覆われているので、異物等に起因する発光寿命の低下を防ぎ、長い発光寿命を実現することができる。
【0013】
[適用例5]上記適用例の有機EL装置において、前記発光領域は、前記複数の有機EL素子に対して順に積層された前記第1ガスバリア層と前記第2ガスバリア層とからなる第3ガスバリア層により覆われ、前記第3ガスバリア層を覆うように設けられた有機樹脂層と、前記周辺領域において前記有機樹脂層の外縁部を覆うと共に、前記有機樹脂層に積層された前記第2ガスバリア層と、を備えるとしてもよい。
この構成によれば、より発光寿命が長い有機EL装置を提供できる。
【0014】
[適用例6]上記適用例の有機EL装置において、前記発光領域は、前記複数の有機EL素子に対して順に積層された前記第1ガスバリア層と前記第2ガスバリア層とからなる第3ガスバリア層により覆われ、前記第3ガスバリア層を覆うように設けられた有機樹脂層と、前記周辺領域において前記有機樹脂層の外縁部を覆うと共に、前記有機樹脂層に順に積層された前記第1ガスバリア層と前記第2ガスバリア層とからなる第4ガスバリア層と、を備えるとしてもよい。
この構成によれば、発光寿命が長く高い信頼性を有する有機EL装置を提供できる。
【0015】
[適用例7]上記適用例の有機EL装置において、前記第1ガスバリア層が窒化シリコンからなり、前記第2ガスバリア層が酸化窒化シリコンからなることが好ましい。
この構成によれば、多層のガスバリア構造としても発光領域への水分等の浸入を防ぐ高いガスバリア性と高い透明性とを両立させた有機EL装置を提供できる。
【0016】
[適用例8]上記適用例の有機EL装置において、前記第1ガスバリア層および前記第2ガスバリア層の膜厚が200nm〜1200nmであることが好ましい。
この構成によれば、最低限のガスバリア性を確保しつつ、膜厚を増やしてもクラック等の不具合が生じない、高い信頼性を有する有機EL装置を提供することができる。
なお、第1ガスバリア層および第2ガスバリア層の膜厚は、200nm〜600nmがより好ましく、膜応力をより低い状態とすることができる。
【0017】
[適用例9]本適用例の有機EL装置の製造方法は、基板上に複数の有機EL素子を含む発光領域を有する有機EL装置の製造方法であって、前記基板上に前記複数の有機EL素子を形成する発光素子形成工程と、前記発光領域を平面的に少なくとも覆うように、プラズマCVD法を用いて無機材料からなる第1ガスバリア層を形成する第1ガスバリア層形成工程と、前記発光領域の周辺領域において前記第1ガスバリア層の外縁部を覆うと共に、前記第1ガスバリア層に対して平面的に重なるようにイオンプレーティング法を用いて無機材料からなる第2ガスバリア層を形成する第2ガスバリア層形成工程と、を備えたことを特徴とする。
【0018】
この方法によれば、第1ガスバリア層形成工程では、プラズマCVD法で第1ガスバリア層を形成するので、成膜面に凹凸などがあっても被覆性のよい第1ガスバリア層を形成できる。第2ガスバリア層形成工程ではイオンプレーティング法を用いるので、プラズマCVD法で形成された第1ガスバリア層よりも膜密度が高い第2ガスバリア層を形成できる。すなわち、被覆性のよい第1ガスバリア層とこれに対してよりガスバリア性が高い第2ガスバリア層とを組み合わせることにより、発光領域だけでなく、その周辺領域からの水分等の浸入を防止でき、発光寿命が長い有機EL装置を製造することができる。
【0019】
[適用例10]上記適用例の有機EL装置の製造方法において、前記第1ガスバリア層形成工程および前記第2ガスバリア層形成工程は、100℃以下の成膜温度で前記第1ガスバリア層、前記第2ガスバリア層を形成することが好ましい。
この方法によれば、成膜された第1ガスバリア層および第2ガスバリア層の膜応力を低く抑えて、多層のガスバリア層を備えた有機EL装置を製造することができる。
【0020】
[適用例11]上記適用例の有機EL装置の製造方法において、前記第2ガスバリア層形成工程は、前記第1ガスバリア層に積層して前記第2ガスバリア層を形成するとしてもよい。
この方法によれば、有機材料からなるガスバリア層と無機材料からなるガスバリア層とを積層する場合に比べて、相互の密着性が確保され高いガスバリア性を有する多層のガスバリア層とすることができる。
【0021】
[適用例12]上記適用例の有機EL装置の製造方法において、少なくとも前記発光領域において前記第1ガスバリア層上に有機樹脂層を形成する有機樹脂層形成工程をさらに備え、前記第2ガスバリア層形成工程は、前記周辺領域において前記第1ガスバリア層および前記有機樹脂層の外縁部を覆うように前記第2ガスバリア層を形成することが好ましい。
この方法によれば、発光素子形成工程や第1ガスバリア層形成工程において異物等が付着しても、有機樹脂層形成工程において成膜面を被覆して、後に形成される第2ガスバリア層形成工程における異物等の影響を低減することができる。すなわち、第2ガスバリア層における異物等に起因した膜欠陥などの不具合を低減して、長い発光寿命を有する有機EL装置を歩留まりよく製造することができる。
【0022】
[適用例13]上記適用例の有機EL装置の製造方法において、前記第1ガスバリア層形成工程は、前記第1ガスバリア層に前記第2ガスバリア層を積層形成する工程を含み、前記有機樹脂層形成工程は、前記第1ガスバリア層に積層された前記第2ガスバリア層を覆うように前記有機樹脂層を形成するとしてもよい。
この方法によれば、第1ガスバリア層に第2ガスバリア層が積層され、より長い発光寿命を有する有機EL装置を製造することができる。
【0023】
[適用例14]上記適用例の有機EL装置の製造方法において、前記第2ガスバリア層形成工程は、前記有機樹脂層上に前記第1ガスバリア層を積層形成する工程を含み、積層形成された前記第1ガスバリア層および前記有機樹脂層の外縁部を覆うように前記第2ガスバリア層を形成するとしてもよい。
この方法によれば、より長い発光寿命を有すると共に高い信頼性を有する有機EL装置を製造することができる。
【0024】
[適用例15]上記適用例の有機EL装置の製造方法において、前記第1ガスバリア層形成工程は、窒化シリコンからなる前記第1ガスバリア層を形成し、前記第2ガスバリア層形成工程は、酸化窒化シリコンからなる前記第2ガスバリア層を形成することが好ましい。
この方法によれば、高い光透過性とガスバリア性とを兼ね備えた多層のガスバリア構造が形成され、より長い発光寿命を有すると共に高い信頼性を有する有機EL装置を製造することができる。
【0025】
[適用例16]上記適用例の有機EL装置の製造方法において、前記第1ガスバリア層および前記第2ガスバリア層の膜厚が200nm〜1200nmであることが好ましい。
この方法によれば、最低限のガスバリア性を確保しつつ、膜厚を増やしてもクラック等の不具合が生じない、高い信頼性を有する有機EL装置を製造することができる。
なお、第1ガスバリア層および第2ガスバリア層の膜厚は、200nm〜600nmがより好ましく、膜応力をより低い状態とすることができる。
【0026】
[適用例17]本適用例の電子機器は、上記適用例の有機EL装置または上記適用例の有機EL装置の製造方法を用いて製造された有機EL装置を備えたことを特徴とする。
この構成によれば、発光特性において長い発光寿命と高い信頼性とを兼ね備えた電子機器を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0027】
【図1】実施形態1の有機EL装置の構成を示す概略正面図。
【図2】実施形態1の有機EL装置の構造を示す要部断面図。
【図3】実施形態1の有機EL素子の構成を示す模式図。
【図4】実施形態1の有機EL装置の製造方法を示すフローチャート。
【図5】マザー基板を示す概略平面図。
【図6】(a)〜(c)は機能層の成膜用マスクを示す概略平面図。
【図7】ガスバリア層の成膜用マスクを示す概略平面図。
【図8】(a)〜(g)は実施形態1の有機EL装置の製造方法を示す概略断面図。
【図9】(h)〜(l)は実施形態1の有機EL装置の製造方法を示す概略図。
【図10】実施形態1の有機EL装置の製造方法を示す概略断面図。
【図11】蒸着装置の構造を示す概略図。
【図12】プラズマCVD装置の構造を示す概略図。
【図13】イオンプレーティング装置の構造を示す概略図。
【図14】実施形態2の有機EL装置の構造を示す要部概略断面図。
【図15】膜応力と膜厚との関係を示すグラフ。
【図16】実施形態3の電子機器としての携帯型電話機を示す概略斜視図。
【図17】(a)〜(c)は変形例のガスバリア構造を示す概略断面図。
【発明を実施するための形態】
【0028】
以下、本発明を具体化した実施形態について図面に従って説明する。なお、使用する図面は、説明する部分が認識可能な状態となるように、適宜拡大または縮小して表示している。
【0029】
(実施形態1)
<有機EL装置>
まず、本実施形態の有機EL装置について、図1〜図3を参照して説明する。図1は有機EL装置の構成を示す概略正面図、図2は有機EL装置の構造を示す要部断面図、図3は有機EL素子の構成を示す模式図である。
【0030】
図1および図2に示すように、有機EL装置10は、それぞれの画素7に対応して発光素子である有機EL素子12(図2参照)が設けられた素子基板1と、素子基板1に接合され、複数の有機EL素子12を少なくとも封止する封止基板2とを備えている。
【0031】
素子基板1は、有機EL素子12を駆動する駆動素子を備えた回路部11(図2参照)を有している。そして、発光領域6において赤(R)、緑(G)、青(B)のうち同一の発光色が得られる画素7が、同一方向に配列する所謂ストライプ方式の構成となっている。なお、画素7は、実際には非常に微細なものであり、図示の都合上拡大している。
【0032】
素子基板1は、封止基板2よりも一回り大きく、額縁状に張り出した部分には、駆動素子であるTFT(Thin Film Transistor)素子8(図2参照)を駆動する2つの走査線駆動回路部3と1つのデータ線駆動回路部4が設けられている。素子基板1の端子部1aには、これらの駆動回路部3,4と外部駆動回路とを接続するためのフレキシブルな中継基板5が実装されている。
【0033】
図2に示すように、有機EL装置10において、有機EL素子12は、第1電極(あるいは画素電極)としての陽極31と、陽極31を区画する隔壁部33と、陽極31上に積層形成された有機膜からなる発光層を含む機能層32とを有している。また、機能層32を介して陽極31と対向するように形成された第2電極(あるいは共通電極)としての陰極34を有している。
【0034】
隔壁部33は、フェノールまたはポリイミドなどの絶縁性を有する感光性樹脂からなり、画素7を構成する陽極31の周囲を一部覆って、複数の陽極31をそれぞれ区画するように設けられている。
【0035】
陽極31は、素子基板1上に形成されたTFT素子8の3端子のうちの1つに接続しており、例えば、透明電極材料であるITO(Indium Tin Oxide)を厚さ100nm程度に成膜した電極である。なお、図示省略したが、陽極31の下層(平坦化層28側)に、絶縁層を介してAlからなる反射層が設けられている。当該反射層は、機能層32における発光を封止基板2側に反射するものである。また、当該反射層はAlに限定されず、発光を反射する機能(反射面)を有していればよい。例えば、絶縁性の有機材料あるいは無機材料を用いて凹凸を有する反射面を形成する方法、陽極31自体を反射機能を有する導電材料で構成し、表面層にITO膜を形成する方法などが挙げられる。
【0036】
陰極34は、同じく、ITOなどの透明電極材料により形成されている。
【0037】
このような複数の有機EL素子12が設けられた発光領域6を少なくとも覆うように第1ガスバリア層41が設けられている。また、第1ガスバリア層41に対して、有機樹脂層45、第2ガスバリア層42が順に積層されている。
【0038】
第1ガスバリア層41は、無機材料からなる例えばSixNy(窒化シリコン)膜であり、後述するプラズマCVD装置を用いて透明性を有するように成膜されたものである。
【0039】
第2ガスバリア層42は、無機材料からなる例えばSiON(酸化窒化シリコン)膜であり、後述するイオンプレーティング装置を用いて透明性を有するように成膜されたものである。
【0040】
第1ガスバリア層41と第2ガスバリア層42との間に配置された有機樹脂層45は、透明性を有する例えばエポキシ系の樹脂材料からなる。有機樹脂層45は、第1ガスバリア層41の成膜に際して付着した異物等を被覆し、第2ガスバリア層42の成膜に際して成膜面の平坦性を確保する目的で設けられている。
【0041】
第2ガスバリア層42は、第1ガスバリア層41に比べて膜密度が高くなるように成膜されている。また、第1ガスバリア層41および第2ガスバリア層42は、共に膜応力が所定の値よりも小さくなるように成膜されている。詳しくは後述する有機EL装置の製造方法において述べる。
【0042】
封止基板2は、透明なガラス等からなる基板を用いている。有機EL素子12に面する側には、画素7の配置に対応した赤(R)、緑(G)、青(B)、3色のフィルターエレメント36R,36G,36Bとこれを区画する遮光部37が設けられている。
【0043】
有機EL装置10は、いわゆるトップエミッション型の構造となっており、陽極31と陰極34との間に駆動電流を流して機能層32で発光した白色光を前述した反射層で反射させ、フィルターエレメント36R,36G,36Bを介して封止基板2側から取り出す構成となっている。トップエミッション型の構造であるため、素子基板1は、透明基板および不透明基板のいずれも用いることができる。不透明基板としては、例えば、アルミナ等のセラミックス、ステンレススチール等の金属シートに表面酸化などの絶縁処理を施したものの他に、熱硬化性樹脂、熱可塑性樹脂などが挙げられる。
【0044】
素子基板1には、有機EL素子12を駆動する回路部11が設けられている。すなわち、素子基板1の表面にはSiO2(二酸化シリコン)を主体とする下地保護層21が下地として形成され、その上にはシリコン層22が形成されている。このシリコン層22の表面には、SiO2(二酸化シリコン)および/またはSixNy(窒化シリコン)を主体とするゲート絶縁層23が形成されている。
【0045】
また、シリコン層22のうち、ゲート絶縁層23を挟んでゲート電極26と重なる領域がチャネル領域22aとされている。なお、このゲート電極26は、図示しない走査線の一部である。一方、シリコン層22を覆い、ゲート電極26を形成したゲート絶縁層23の表面には、SiO2(二酸化シリコン)を主体とする第1層間絶縁層27が形成されている。
【0046】
また、シリコン層22のうち、チャネル領域22aのソース側には、低濃度ソース領域および高濃度ソース領域22cが設けられる一方、チャネル領域22aのドレイン側には低濃度ドレイン領域および高濃度ドレイン領域22bが設けられて、いわゆるLDD(Light Doped Drain)構造となっている。これらのうち、高濃度ソース領域22cは、ゲート絶縁層23と第1層間絶縁層27とにわたって開孔するコンタクトホール25aを介して、ソース電極25に接続されている。このソース電極25は、電源線(図示せず)の一部として構成されている。一方、高濃度ドレイン領域22bは、ゲート絶縁層23と第1層間絶縁層27とにわたって開孔するコンタクトホール24aを介して、ソース電極25と同一層からなるドレイン電極24に接続されている。
【0047】
ソース電極25およびドレイン電極24が形成された第1層間絶縁層27の上層には、例えばアクリル系の樹脂成分を主体とする平坦化層28が形成されている。この平坦化層28は、アクリル系やポリイミド系等の、耐熱性絶縁性樹脂などによって形成されたもので、TFT素子8やソース電極25、ドレイン電極24などによる表面の凹凸をなくすために形成された公知のものである。
【0048】
そして、陽極31が、この平坦化層28の表面上に形成されると共に、該平坦化層28に設けられたコンタクトホール28aを介してドレイン電極24に接続されている。すなわち、陽極31は、ドレイン電極24を介して、シリコン層22の高濃度ドレイン領域22bに接続されている。陰極34は、GNDに接続されている。したがって、スイッチング素子としてのTFT素子8により、上記電源線から陽極31に供給され陰極34との間で流れる駆動電流を制御する。これにより、回路部11は、所望の有機EL素子12を発光させカラー表示を可能としている。
【0049】
なお、有機EL素子12を駆動する回路部11の構成は、これに限定されるものではない。
【0050】
図3に示すように、有機EL素子12は、陽極31と陰極34とに挟まれた機能層32を有する。機能層32は、例えば、正孔輸送層(HTL)32h、各色の発光層32LR,32LB,32LG、電子輸送層(ETL)32eと呼ばれる複数の薄膜層からなり、素子基板1上の陽極31側からこの順で積層されている。
【0051】
正孔輸送層(HTL)32hとしては、例えば、トリフェニルアミン誘導体(TPD)、ピラゾリン誘導体、アリールアミン誘導体、スチルベン誘導体、トリフェニルジアミン誘導体等が挙げられる。
【0052】
発光層32LR,32LB,32LGの形成材料としては、蛍光あるいは燐光を発光することが可能な公知の発光材料が用いられる。例えば、発光層32LRを形成する材料としては、Alq3(トリス(8−ヒドロキシキノリノール)アルミニウム)をホストとしてアシストドーパントであるルブレンと赤色ドーパントであるDCM2(ジアノメチレンピラン誘導体)とを含む発光材料が挙げられる。発光層32LBを形成する材料としては、BH215をホストとして青色ドーパントであるBD102を含む発光材料が挙げられる。発光層32LGを形成する材料としては、BH215をホストとして緑色ドーパントであるGD206を含む発光材料が挙げられる。本構成は、いわゆる「ドーパント法」に基づく3色の発光層を備え、白色発光を可能としている。ホストであるBH215、ドーパントであるBD102、GD206は、いずれも出光興産製の公知材料である。
【0053】
電子輸送層(ETL)32eの形成材料としては、例えば、オキサジアゾール誘導体、アントラキノジメタンおよびその誘導体、ベンゾキノンおよびその誘導体、ナフトキノンおよびその誘導体、アントラキノンおよびその誘導体、テトラシアノアンスラキノジメタンおよびその誘導体、フルオレン誘導体、8−ヒドロキシキノリンおよびその誘導体の金属錯体等が挙げられる。
【0054】
これらの正孔輸送層(HTL)32h、発光層32LR,32LB,32LG、電子輸送層(ETL)32eの形成材料は所謂低分子系材料であり、真空蒸着法により成膜することができる。
【0055】
このような有機EL素子12を有する素子基板1は、空間35を介して透明な封止基板2と対向配置され、発光領域6の周辺領域においてシール材により接合され封止されている。
【0056】
有機EL装置10は、複数の有機EL素子12が設けられた発光領域6を覆う第1ガスバリア層41と、これに平面的に重畳された膜密度が高い第2ガスバリア層42とを有している。また、第2ガスバリア層42は、発光領域6の周辺領域において第1ガスバリア層41の外縁部を覆うように形成されている。このようなガスバリア構造を有しているため、外部から水分等のガスが発光領域6に浸入することが防止されている。したがって、当該ガスの浸入によって有機EL素子12の発光が失活したダークスポットと呼ばれる画素欠陥等の発生が防止され、長い発光寿命が実現されている。
【0057】
なお、有機EL装置10は、トップエミッション型に限定されず、陰極34を反射機能を有する不透明なAl等の導電材料を用いて成膜し、有機EL素子12の発光を陰極34で反射させて、素子基板1側から取り出すボトムエミッション型の構造としてもよい。
【0058】
<有機EL装置の製造方法>
図4は有機EL装置の製造方法を示すフローチャート、図5はマザー基板を示す概略平面図、図6(a)〜(c)は機能層の成膜用マスクを示す概略平面図、図7はガスバリア層の成膜用マスクを示す概略平面図、図8(a)〜(g)および図9(h)〜(l)並びに図10は有機EL装置の製造方法を示す概略図である。図11は蒸着装置の構造を示す概略図、図12はプラズマCVD装置の構造を示す概略図、図13はイオンプレーティング装置の構造を示す概略図である。
【0059】
図4に示すように、本実施形態の有機EL装置10の製造方法は、素子基板1に表面処理を施すプラズマ処理工程(ステップS1)と、正孔輸送層形成工程(ステップS2)と、R,B,Gの発光色が得られる発光層32LR,32LB,32LGをそれぞれ成膜する発光層形成工程(ステップS3〜ステップS5)と、電子輸送層形成工程(ステップS6)と、陰極形成工程(ステップS7)と、プラズマCVD法を用いて第1ガスバリア層41を成膜する第1ガスバリア層形成工程(ステップS8)と、有機樹脂層形成工程(ステップS9)と、イオンプレーティング法を用いて第2ガスバリア層42を成膜する第2ガスバリア層形成工程(ステップS10)とを備えている。
【0060】
以降、素子基板1における有機EL素子12の形成方法を説明するが、実際には、図5に示すように、素子基板1に該当する領域がマトリクス状に面付けされたマザー基板である基板Wに対して、その各発光領域6内に有機EL素子12の各構成を形成するものである。基板Wには、後述する成膜用マスクとの位置合わせのため四隅にアライメントマークAL1〜AL4が設けられている。なお、有機EL素子12を駆動するための回路部11および陽極31並びに隔壁部33は、公知の製造方法を用いて形成することができる。したがって、有機EL装置10の製造方法を示す概略図においては、特に回路部11の表示を省略するものである。
【0061】
図4のステップS1は、プラズマ処理工程である。ステップS1では、陽極31と隔壁部33とが形成された素子基板1をプラズマ処理装置に投入する。そして、図8(a)に示すように、酸素を処理ガスとして陽極31の表面をプラズマ処理する。これは酸素プラズマによって陽極31のHOMOレベルを有機膜(正孔輸送層)のHOMOレベルに近づけることで、陽極31から注入される正孔に対する有機膜(正孔輸送層)の障壁を相対的に低くして、有機EL素子12の発光性能を高めるためである。そして、ステップS2へ進む。
【0062】
以降のステップS2〜ステップS6では、真空蒸着法により成膜用マスクを用いて膜形成領域Eごとに有機膜を成膜する。
【0063】
<成膜用マスク>
より具体的には、図6(a)に示すように、成膜用マスクとしての蒸着マスク50は、基材51に対してマトリクス状に配置された複数のマスク領域52と、基材51の四隅に配置された4つのアライメントマーク53とを有している。1つのマスク領域52は、1つの有機EL装置10に対応するものであって、マスク領域52には、成膜パターンすなわち基板Wの膜形成領域Eに対応した開口部50aが形成されている。
【0064】
蒸着マスク50に設けられた開口部50aは、例えば同図(b)に示すように、1つの画素7(図1参照)に対応するように開口したものである。基板W(素子基板1)との重ね合わせ精度を考慮して膜形成領域Eよりもやや大きな開口面積を有している。また、これに限らず、例えば同図(c)に示すように、同色の発光が得られる複数の画素7からなる列に対応してスリット状に開口したものも有り得る。
【0065】
本実施形態では、メタルマスクを用いて蒸着マスク50を構成した。メタルマスクの材料としては、例えばインバーと呼ばれるFe−36wt%Niの強磁性材体などを用いることができる。その厚みはおよそ30μm〜50μm程度である。なお、蒸着マスク50はメタルマスクに限定されず、高精度に開口部50aを形成可能なシリコン基板を用いたシリコンマスクでもよい。
【0066】
このような蒸着マスク50は、額縁状のフレーム(図示省略)に歪まないように取り付けられ、前述したように基板Wと重ね合わされて用いられる。
【0067】
<蒸着装置>
次に有機膜の成膜を行う蒸着装置について図11を参照して説明する。図11(a)に示すように、蒸着装置100は、チャンバー111と、チャンバー111の底部に設けられ、膜形成材料を収納して蒸発させる蒸着源110と、蒸着源110に対向して設けられ、基板Wをほぼ水平な状態に保持する基板保持部113とを有している。また、蒸着源110から蒸発する膜形成材料の蒸着速度を測定する膜厚測定手段としての水晶振動子112が蒸着源110の上方に配設された構造となっている。なお、この他にも、例えばチャンバー111内を所定の真空度に減圧する減圧装置や成膜中の基板Wの温度を検出する温度計などを備えているが図11(a)では図示省略している。
【0068】
基板保持部113は、外縁側に保持部114を有する支持体115と、支持体115に設けられ、支持体115をチャンバー111内において吊設する回転軸116とを備えている。
【0069】
保持部114はクランプ状の形態となっており、順に重ね合わされた蒸着マスク50、ワークとしての基板W、磁石117からなる積層体の周辺部を保持している。
【0070】
図11(b)に示すように、膜形成領域Eが開口するように素子基板1と蒸着マスク50とが位置決めされて重ね合わされ、保持部114によって素子基板1が磁石117と蒸着マスク50との間に挟持される。
蒸着マスク50は、前述したようにメタルマスクであって磁石117により引き付けられる構成となっており、素子基板1の隔壁部33と密着している。
【0071】
磁石117は、無駄なエネルギーを使わずに安定した磁場が得られ、基板保持部113の構造が複雑にならない等の観点から電磁石よりも自発的に磁気(磁束)を生ずる永久磁石が用いられている。磁石117としては、例えばアルニコ磁石、フェライト磁石、ネオジム磁石などが挙げられる。また、これらの磁石粉を樹脂等に混ぜて成型したゴム磁石などでもよい。
【0072】
蒸着源110には、前述した機能層32を構成する正孔輸送層(HTL)32h、発光層32LR,32LB,32LG、電子輸送層(ETL)32eのうちいずれかの膜形成材料が収納され加熱されることにより蒸発する。これらの膜形成材料が蒸発する間に回転軸116が回転することにより基板保持部113に保持された基板Wが回転する。これにより、素子基板1の膜形成領域Eには、各層の膜厚ばらつきが低減された状態で機能層32を成膜することが可能となっている。
【0073】
図4のステップS2は、正孔輸送層形成工程である。ステップS2では、図8(b)に示すように、成膜用マスクとしての蒸着マスク50の開口部50aと、隔壁部33によって区画された陽極31を有する膜形成領域Eとが合致するように素子基板1と蒸着マスク50とを位置決めして密着させる。そして、蒸着装置100にセットされ、チャンバー111内に設けられた蒸着源110から正孔輸送層形成材料が蒸発して、膜形成領域Eごとに正孔輸送層32hが形成される。そして、ステップS3〜ステップS5へ順次進む。
【0074】
図4のステップS3〜ステップS5は、発光層形成工程である。ステップS3〜ステップS5では、図8(c)〜(e)に示すように、素子基板1は、蒸着マスク50と重ね合わされた状態で、チャンバー111内に設けられた蒸着源110から発光層形成材料が蒸発して、膜形成領域Eごとに発光層32LR,32LB,32LGが順に成膜される。そして、ステップS6へ進む。
【0075】
図4のステップS6は、電子輸送層形成工程である。ステップS6では、図8(f)に示すように、素子基板1は、蒸着マスク50と重ね合わされた状態で、チャンバー111内に設けられた蒸着源110から電子輸送層形成材料が蒸発して、膜形成領域Eごとに電子輸送層32eが成膜される。
以上のステップS2〜ステップS6が機能層形成工程に相当する。機能層形成工程では、素子基板1と蒸着マスク50とが隔壁部33を介して密着しているので、プラズマ処理された陽極31や成膜後の各種有機膜の表面に蒸着マスク50が直接に触れない。したがって、蒸着マスク50が陽極31や各種有機膜に直接接触することによる膜欠陥などの不具合が回避されている。また、膜形成領域E以外に成膜されないので、所望の膜厚を有する機能層32が成膜される。そして、ステップS7へ進む。
【0076】
図4のステップS7は、陰極形成工程である。ステップS7では、図8(g)に示すように、蒸着マスク50が外され機能層32が形成された素子基板1に対して、例えば真空蒸着法により機能層32と隔壁部33とを覆うように陰極34を成膜する。陰極34はITOであり、膜厚は、100nm〜200nmである。これにより、陽極31と陰極34との間に機能層32を有する有機EL素子12が形成される。そして、ステップS8へ進む。
【0077】
図4のステップS8は、第1ガスバリア層形成工程である。ステップS8では、図9(h)および(i)に示すように発光領域6に設けられた複数の有機EL素子12を覆うと共に、発光領域6の周辺領域に外縁部41aが位置するように第1ガスバリア層41を形成する。
【0078】
具体的には、図12に示すように、複数の有機EL素子12が形成された基板Wと成膜用マスク70とを所定の位置で重ね合わせ、プラズマCVD装置200を用いてSixNy(窒化シリコン)からなる第1ガスバリア層41を対応する素子基板1ごとに成膜する。
【0079】
<プラズマCVD装置>
プラズマCVD装置200は、密閉可能なチャンバー201と、チャンバー201内において所定の間隔を置いて互いに対向するように設けられた一対の高周波電極202,204とを備えている。
【0080】
一方の高周波電極202には、成膜用マスク70が重ねられた基板Wが載置され保持部203により固定される。
【0081】
他方の高周波電極204は、一方の高周波電極202と対向する側に設けられた格子状の開口部と該開口部に連通する気体流路とを有している。成膜材料はキャリアガスによって該気体流路から該開口部を経て対向する高周波電極202,204間に運ばれる。
【0082】
チャンバー201内は予め減圧手段により所定の圧力となるように減圧され、その後に成膜材料を含むキャリアガスがチャンバー201内に導入される。
【0083】
一対の高周波電極202,204間において放電を起こすことにより、チャンバー201内に導入された処理ガスが励起されてプラズマ状態となる。プラズマ状態となった処理ガスに基板Wを晒すことにより、成膜用マスク70の開口部72に対応した領域に成膜材料からなる膜を形成することができる。
【0084】
図7に示すように、成膜用マスク70は、基材71と基材71に開口した複数の開口部72とを有する。開口部72は、基板Wにおける発光領域6に対応してマトリクス状に開口している。開口部72の平面的な大きさは、発光領域6よりも一回り大きい。また、基板WのアライメントマークAL1〜AL4(図5参照)に対応した位置に位置合わせ用の開口部73を有している。成膜用マスク70も先に説明した蒸着マスク50と同様にFe−36wt%Niなどの強磁性体からなるメタルマスクが採用されている。
【0085】
ステップS8では、成膜材料としてシラン(SiH4)ガスを用い、キャリアガスとして窒素(N2)ガスを用いて室温にて放電させプラズマを生成させた。形成された第1ガスバリア層41の膜厚はおよそ200nm、屈折率はおよそ1.86、膜応力はおよそ60Mpa、膜密度はおよそ1.7g/cm3であった。
なお、膜厚は200nm〜1200nm(好ましくは200nm〜600nm)とし、成膜時に、一対の高周波電極202,204間に印加する電圧を下げること、成膜圧力を上げること、あるいは水素ガスを添加して流量を増やすこと等により、所望の膜厚における膜応力、膜密度等を得ることができる。
プラズマCVD装置200を用いているので、発光領域6を含む成膜面において多少の凹凸を有していても、これに対応して被覆された第1ガスバリア層41が得られる。また、成膜用マスク70の開口部72を容易に廻り込んで成膜がされるため、発光領域6の周辺領域では、第1ガスバリア層41の膜厚が外縁部41aに向かって薄くなる傾向となる。言い換えれば、断面視で外縁部41aはテーパー状となる。
【0086】
なお、基板Wに対する成膜と同時に試料片にも成膜を行う。膜応力は試料片のソリ量から求められる。同じく膜密度は試料片における窒化シリコンの膜厚と単位面積当たりの重量とから求められる。屈折率は特定波長の光に対する試料の透過率を測定することにより求められる。そして、ステップS9へ進む。
【0087】
図4のステップS9は、有機樹脂層形成工程である。ステップS9では、図9(j)に示すように、少なくとも第1ガスバリア層41を覆うように例えば透明性を有するエポキシ樹脂などからなる有機樹脂層45を形成する。有機樹脂層45の厚みはおよそ5μm程度である。
有機樹脂層45を形成する方法としては、有機樹脂層形成材料に対して溶媒等を添加して適度な粘度に調整し、スクリーンなどを用いて印刷する印刷法や、ノズルから所定の領域に吐出描画する定量吐出法などを用いて塗布した後に乾燥させて成膜する方法が挙げられる。
このようにミクロンオーダーの有機樹脂層45によって第1ガスバリア層41を覆うことにより、機能層32や陰極34あるいは第1ガスバリア層41の形成時における異物等を被覆して、この後に成膜される第2ガスバリア層42の成膜面を平坦化し、且つ第2ガスバリア層42に対する応力緩和層としての機能も付与することができる。そして、ステップS10へ進む。
【0088】
図4のステップS10は、第2ガスバリア層形成工程である。ステップS10では、図9(k)および(l)に示すように、平面的に少なくとも有機樹脂層45を覆い、発光領域6の周辺領域において第1ガスバリア層41の外縁部41aと有機樹脂層45の外縁部45aとを覆うようにSiON(酸化窒化シリコン)からなる第2ガスバリア層42を形成する。
【0089】
具体的には、図13に示すように、複数の有機EL素子12が形成された基板Wと成膜用マスク80とを所定の位置で重ね合わせ、イオンプレーティング装置300を用いてSiONからなる第2ガスバリア層42を対応する素子基板1ごとに成膜する。
【0090】
<イオンプレーティング装置>
イオンプレーティング装置300は、気密性のチャンバー(真空容器)301と、プラズマビームを発生するプラズマビーム発生器310と、チャンバー301内を減圧する真空ポンプ350とを備えている。真空ポンプ350としては、例えば、ターボ分子ポンプ等が用いられている。
【0091】
チャンバー301は、上部の成膜室302と下部のプラズマ室303とからなり、プラズマ室303の内底部303aには、蒸発源としてのハース(陽極)304が設けられている。ハース304は上方に開口した筒状の容器となっており、内部に成膜材料Mが収納されている。また、ハース304を取り囲むように補助陽極340が設けられている。補助陽極340は、内部にコイル340aを有している。
【0092】
プラズマ室303の内壁303bには、プラズマビーム発生器310と、プラズマ室303内に反応性ガスRGを導入する反応性ガス導入部356が取り付けられている。
【0093】
プラズマビーム発生器310は、一方の端部がプラズマ室303に開口する導入管305を有している。導入管305の外側には、これを取り巻くようにステアリングコイルSCが設けられている。また、導入管305には、第1の中間電極306と、第2の中間電極307とが互いに同心となるように連結されている。第1の中間電極306は内部にコイル306aを有し、第2の中間電極307は内部に永久磁石307aとコイル(図示省略)を有している。第1の中間電極306および第2の中間電極307を介した導入管305のもう一方の端には、例えば、ガラス管からなる絶縁管308が連結しており、絶縁管308の他方の端は、導体板309によって閉塞されている。絶縁管308の内部には、熱電子放出部材312が先端側に設けられた導電性のパイプ311と、導体板309を貫通して、パイプ311の内部にキャリアガスCGを導入する配管とを有している。この場合、パイプ311は高融点材料のモリブデン、タンタル等からなり、熱電子放出部材312は六ホウ化ランタン(LaB6)を用いている。キャリアガスCGは、アルゴン(Ar)ガスである。
【0094】
イオンプレーティング装置300は、導体板309にマイナス端が接続された第1の可変電源V1と、第1の中間電極306のコイル306aとステアリングコイルSCとに接続された第2の可変電源V2と、第2の中間電極307のコイル(図示省略)にプラス端が接続された第3の可変電源V3と、を備えている。第1の可変電源V1のプラス端は、第3の可変電源V3のマイナス端に接続されると共に、抵抗R0を介して第1の中間電極306に接続されている。また、補助陽極340に接続されると共に、可変抵抗R1を介してハース304に接続されている。可変抵抗R1の値を調整することによりハース304に印加される電位を調整することができる。
【0095】
第1の可変電源V1は、導体板309を介して熱電子放出部材312に電位を与え、熱電子を放出させる。また、抵抗R0を所定の大きさに設定し電圧値を調整することで、第1の中間電極306が発生する磁場の大きさを制御することができる。第2の可変電源V2は、その電圧レベルを調整することにより、ステアリングコイルSCにより発生する磁場の大きさを調整することができる。
【0096】
キャリアガスCGであるArガスに熱電子放出部材312からの電子放出を受けて発生したプラズマビームPBは、第1の中間電極306によって収束され、ステアリングコイルSCが発生する磁場の大きさにより所望の方向にガイドされてプラズマ室303に射出される。そして、補助陽極340のコイル340aに印加される電圧レベルを調整することにより、補助陽極340において発生する磁場の大きさが制御され、射出されたプラズマビームPBがハース304に導かれる。第3の可変電源V3は、その電圧レベルを制御することにより、発生したプラズマビームPBを収束させるだけでなく、一時的に第2の中間電極307に引き付けることができる。例えば、導体板309に電圧を与えプラズマビームPBを着火してプラズマビーム発生器310を暖める際には、発生したプラズマビームPBを近くの第2の中間電極307に落とすように制御する。すなわち、むやみにプラズマビームPBをハース304に照射して、成膜材料Mが無駄に蒸発するのを防ぐことを可能としている。
【0097】
プラズマ室303のもう一方の内壁303cには、真空ポンプ350に繋がる配管355が設けられている。配管355には、真空ポンプ350側にゲートバルブ(GV)354と、プラズマ室303側に圧力調整バルブ353とを有している。圧力調整バルブ353は、成膜室302に設けられた真空計351からの信号を受けて圧力コントローラー(APC)352が制御信号を生成し、この制御信号を受けて稼動するように構成されている。真空計351を成膜室302に設置することにより、プラズマビームPBの影響を受け難く、真空計351の計測の信頼性と寿命を確保している。
真空計351の近傍には、非接触型の温度計360が設けられており、成膜中の基板Wの温度を計測することができる。
【0098】
成膜室302には、ワークとしての基板Wが装着される基板装着部321と、基板装着部321を吊設してハース304に対して所定の距離を保って一定方向(X軸方向)に移動可能な移動機構320とが設けられている。移動機構320により基板Wを移動させて、基板Wの表面に薄膜を均一に蒸着することができる。
【0099】
このようなイオンプレーティング装置300は、真空ポンプ350によりチャンバー301内を所定の減圧状態(真空状態)とする。そして、プラズマビーム発生器310から発生したプラズマビームPBをハース304に導くことにより、収納された成膜材料MにプラズマビームPBを照射する。プラズマビームPBが照射された成膜材料Mはジュール熱により加熱され蒸発する。蒸発した成膜材料Mは、基板装着部321に装着された基板Wに到達して薄膜として形成される。また、プラズマ室303に反応性ガスRGを導入すれば、蒸発した成膜材料Mと反応性ガスRGとを反応させ、反応物からなる薄膜を基板Wの表面に形成することもできる。
【0100】
ステップS10では、イオンプレーティング装置300を用い、成膜用マスク80と基板Wとを所定の位置で重ね合わせ、基板装着部321に保持させる。成膜材料Mとして一酸化珪素(SiO)を用いる。反応性ガスRGとして窒素(N2)を導入する。真空ポンプ350によりチャンバー301内をおよそ1×10-2Pa程度に減圧する。プラズマビーム発生器310を稼動させてプラズマビームPBを発生させ、ハース304に収納されたSiOをおよそ1100℃〜1300℃に加熱する。SiOは昇華材料であり、加熱により蒸発する。一方で反応性ガスRGとしてN2ガスを導入して、基板Wとハース304との空間をN2で満たし外部からの酸素を遮断した雰囲気を作り出し、機能層32の酸化を防止する。蒸発したSiOは、N2と結びついてSiON(酸化窒化シリコン)となり基板Wの表面に成膜される。
【0101】
このときの成膜温度(基板Wの表面温度)は100℃以下であって、形成された酸化窒化シリコンの膜厚はおよそ200nm、屈折率は1.79、膜応力は50MPa、膜密度は2.7g/cm3であった。
なお、膜厚は200nm〜1200nm(好ましくは200nm〜600nm)とし、成膜時の成膜圧力やプラズマビームPBのパワーあるいは反応性ガスRGの流量を調整する等により、所望の膜厚における膜応力、膜密度等を得ることができる。これらの値は、第1ガスバリア層41の場合と同様な方法で同時に成膜した試料片を分析することにより得られる。
【0102】
なお、第2ガスバリア層42の成膜時に用いられた成膜用マスク80は、基板Wの発光領域6に対応した複数の開口部82を有する。該開口部82の平面的な大きさは、第1ガスバリア層41の成膜時に用いられた成膜用マスク70の開口部72より一回りやや大きい。成膜用マスク80もメタルマスクが用いられている。イオンプレーティング装置300を用いた第2ガスバリア層42の成膜は、プラズマCVD装置200を用いた第1ガスバリア層41の成膜に比べて成膜用マスク80の開口部82を廻り込み難い。それゆえに、第1ガスバリア層41の外縁部41aを覆うように成膜するために、成膜用マスク80の開口部82の大きさは、第1ガスバリア層41の成膜時の廻り込みを考慮して設計されている。
【0103】
このようにして複数の有機EL素子12が設けられた発光領域6を覆うガスバリア構造が出来上がる。そして、図10に示すように、フィルターエレメント36R,36G,36Bを有する封止基板2と素子基板1とが発光領域6の周辺領域6aに配置されたシール材9を介して接合され封着される。シール材9は例えば熱硬化型あるいは紫外線硬化型のエポキシ系接着剤である。シール材9の一部が第2ガスバリア層42の外縁部42aを覆うように配置されている。発光領域6の周辺領域6aでは、第1ガスバリア層41の外縁部41aと有機樹脂層45の外縁部45aとを覆って第2ガスバリア層42が形成されている。
【0104】
このような有機EL装置10の製造方法によれば、複数の有機EL素子12が設けられ成膜面に凹凸を有する発光領域6を高い被覆性を有するプラズマCVD法で成膜された第1ガスバリア層41と、有機樹脂層45と、第1ガスバリア層41に比べて膜密度が高いイオンプレーティング法で成膜された第2ガスバリア層42とが順に積層された、高いガスバリア性を有する有機EL装置10を製造することができる。
【0105】
特に、発光領域6の周辺領域6aにおいて、第1ガスバリア層41の外縁部41aおよび有機樹脂層45の外縁部45aが高いガスバリア性を有するSiON(酸化窒化シリコン)からなる第2ガスバリア層42によって覆われているため、水分等の発光寿命を妨げるガスがシール材9を透過しても発光領域6に浸入することを防ぐことができる。それゆえ、長い発光寿命と安定した発光特性とを兼ね備えた有機EL装置10を歩留まりよく製造することができる。
【0106】
さらには、プラズマCVD法を用いて第1ガスバリア層41を成膜しても、前述した特許文献2のように成膜されたSiNx膜を異方性エッチングする必要がないので、製造工程を簡略化することができる。
【0107】
(実施形態2)
次に他の実施形態の有機EL装置について図14を参照して説明する。図14は実施形態2の有機EL装置の構造を示す要部概略断面図である。なお、実施形態1と同様な構成については、同じ符号を付して説明する。また、有機EL素子12を駆動する回路部11の構成は図示省略されている。
【0108】
図14に示すように、本実施形態の有機EL装置10Aは、素子基板1上において、隔壁部33により区画された陽極31と、陽極31上に形成された発光層を含む機能層32と、機能層32上に形成された陰極34とからなる有機EL素子12が複数設けられた発光領域6を有する。
また、少なくとも発光領域6を覆う第2ガスバリア層42と、第2ガスバリア層42に積層された第1ガスバリア層41と、さらに発光領域6の周辺領域6aにおいて第1ガスバリア層41の外縁部41aを覆うように第1ガスバリア層41上に積層された第2ガスバリア層42とを備えている。
【0109】
第1ガスバリア層41は、プラズマCVD装置200を用いて成膜されている。成膜条件としては、室温で、成膜速度が100nm/min以上となるように、シランガスと窒素ガスの流量を調整する。これにより膜厚が0.5μm〜10μm(好ましくは0.5μm〜3μm)、屈折率がおよそ1.86、膜密度がおよそ1.7g/cm3、膜応力が50MPa以下のSixNy(窒化シリコン)からなる第1ガスバリア層41を形成した。
【0110】
第2ガスバリア層42は、イオンプレーティング装置300を用いて成膜されている。成膜条件としては、成膜温度を100℃以下とし、成膜材料MとしてのSiO(酸化シリコン)をプラズマビームPBによって加熱昇華させ、反応性ガスRGとしての窒素ガスと反応させることにより、膜厚がおよそ400nm、屈折率が1.79、膜密度がおよそ2.7g/cm3、膜応力が50MPa以下のSiONからなる第2ガスバリア層42を形成した。
【0111】
第1ガスバリア層41および第2ガスバリア層42とも上記実施形態1と同様にマスク成膜されている。
【0112】
このような素子基板1とフィルターエレメント36R,36G,36Bを有する封止基板2とが発光領域6の周辺領域6aに配置されたシール材9により接合され封着されている。シール材9の構成は、上記実施形態1と同じであって、その一部が第2ガスバリア層42の外縁部42aを覆うように配置されている。
【0113】
上記実施形態2の有機EL装置10Aとその製造方法によれば、無機材料からなる多層のガスバリア構造を有しており、特に発光領域6の周辺領域6aにおいて第1ガスバリア層41の外縁部41aを覆うように膜密度が高い第2ガスバリア層42が形成されている。したがって、実施形態1の有機EL装置10に比べて、第1ガスバリア層41を第2ガスバリア層42により挟む構成としているので、より長い発光寿命を実現できる。
【0114】
また、上記実施形態1に比べて第1ガスバリア層41を厚く成膜することによって、上記実施形態1の有機樹脂層45と同様な平坦化層と応力緩和層の両方の機能を持たせることができる。
【0115】
上記実施形態の有機EL装置10および有機EL装置10Aにおけるガスバリア構造の基本的考え方は、被覆性に優れたプラズマCVD法を用いて少なくとも発光領域6を覆う第1ガスバリア層41を形成し、外縁部41aを含めて第1ガスバリア層41が形成された領域を覆うと共に、発光領域6から最も離れたガスバリア層は高い膜密度が得られるイオンプレーティング法により形成された第2ガスバリア層42とする。
第1ガスバリア層41および第2ガスバリア層42をいずれも無機材料により構成することで、有機材料を用いた場合に比べて高いガスバリア性が得られる。特に、SiON(酸化窒化シリコン)からなる第2ガスバリア層42を用いることにより、ガスバリア性と光透過性の両方を高いレベルで実現できる。
また、応力緩和層(上記実施形態1の場合は有機樹脂層45、上記実施形態2の場合は厚く成膜された第1ガスバリア層41)を第2ガスバリア層42の下層に配置することで、第2ガスバリア層42の膜応力が100MPa以上となるように膜密度をさらに上昇させて成膜してもよい。これによりさらにガスバリア性を向上させることができる。
【0116】
図15は、膜応力と膜厚との関係を示すグラフである。無機材料であるSixNyやSiONは、ガスバリア性を得るために少なくとも200nm程度の膜厚が必要である。また、1.7g/cm3〜2.7g/cm3程度の膜密度で成膜した場合には、厚く成膜するとクラック等の欠陥が生ずるおそれがある。それゆえに、膜厚は、200nm〜1200nmの範囲が適当である。
【0117】
一方で複数の有機EL素子12が設けられた発光領域6を覆う第1ガスバリア層41または第2ガスバリア層42としては、有機EL素子12に対して成膜時に余計な熱や応力が加わらないことが好ましい。
それゆえに、図15に示すように、膜応力と膜厚との積が、120000MPa・nm(120GPa・nm)以下となるように斜線でハッチングした領域内で成膜条件を設定することが好ましい。
例えば、有機EL素子12を直接覆う第1ガスバリア層41または第2ガスバリア層42としては、膜応力を100MPa以下として、膜厚の上限を1200nmとする。
また、例えば、応力緩和層の機能を有する有機樹脂層45を覆う第2ガスバリア層42としては、膜応力を600MPaまで上昇させ、膜厚は200nmに抑える。
このようにすれば長い発光寿命と高い信頼性とを両立させることが可能となる。
【0118】
(実施形態3)
次に本実施形態の電子機器について図16を参照して説明する。図16は、電子機器としての携帯型電話機を示す概略斜視図である。
【0119】
図16に示すように、本実施形態の電子機器としての携帯型電話機500は、操作ボタン503を備えた本体502と、本体502にヒンジを介して折畳式に取り付けられた表示部501とを備えている。
表示部501には、上記実施形態1の有機EL装置10または上記実施形態2の有機EL装置10Aが搭載されている。
したがって、発光寿命が長く見栄えのよい携帯型電話機500を提供することができる。
【0120】
上記実施形態以外にも様々な変形例が考えられる。以下、変形例を挙げて説明する。
【0121】
(変形例1)上記実施形態の有機EL装置10および有機EL装置10Aにおいて、ガスバリア構造はこれに限定されない。図17(a)〜(c)は変形例のガスバリア構造を示す概略断面図である。例えば図17(a)に示すように、少なくとも発光領域を覆うと共に、外縁部41aを覆うように第1ガスバリア層41と第2ガスバリア層42とを積層させてもよい。この場合、それぞれの膜厚は400nm程度が適当である。
また、図17(b)に示すように、第1ガスバリア層41と第2ガスバリア層42とが積層された第3ガスバリア層43に対して、第1ガスバリア層41と第2ガスバリア層42とが積層された第4ガスバリア層44を積層する構成としてもよい。この場合には、各層の膜厚は200nm程度が適当である。
さらには、図17(c)に示すように、第3ガスバリア層43と第4ガスバリア層44との間に有機樹脂層45を設ける構成としてもよい。
これらの構成によれば、被覆性の高い第1ガスバリア層41と膜密度が高い第2ガスバリア層42とが積層された構成を採用しているので、より長い発光寿命を実現可能である。
【0122】
(変形例2)上記実施形態の有機EL装置10および有機EL装置10Aの製造方法において、機能層形成工程は、機能層32を構成する有機膜を蒸着法にて成膜する方法に限定されない。例えば、機能性材料を含む液状体を塗布して固化する方法を用いて機能層32を形成するとしてもよい。このような液状体塗布法を用いても上記実施形態のガスバリア構造を適用することができる。
【0123】
(変形例3)上記実施形態の有機EL装置10および有機EL装置10Aにおいて、有機EL素子12は白色発光が得られるものに、限定されない。例えば、発光領域6内に赤(R)、緑(G)、青(B)の発光色が得られる有機EL素子をそれぞれ配置してもよい。その場合に、封止基板2にはフィルターエレメント36R,36G,36Bを設けなくてもよい。
【0124】
(変形例4)上記実施形態の有機EL装置10および有機EL装置10Aにおいて、素子基板1と封止基板2とをシール材9を用いて接合してできた空間35は、透明な樹脂材料で充填してもよい。素子基板1と封止基板2とを所定の間隔を保って対向配置することができる。
【0125】
(変形例5)上記実施形態1の有機EL装置10および上記実施形態2の有機EL装置10Aが搭載された電子機器は、携帯型電話機500に限定されない。例えば、パーソナルコンピューターや携帯型情報端末、ナビゲーター、ビューワーなどの表示部を有する電子機器が挙げられる。また、有機EL装置10および有機EL装置10Aはフルカラーの発光(表示)が可能なものに限らず、単色発光としてもよい。単色の場合には照明装置や感光性のトナーを露光する露光装置などへの適用が挙げられる。
【符号の説明】
【0126】
1…基板としての素子基板、6…発光領域、6a…発光領域の周辺領域、10,10A…有機EL装置、12…有機EL素子、41…第1ガスバリア層、41a…第1ガスバリア層の外縁部、42…第2ガスバリア層、43…第3ガスバリア層、44…第4ガスバリア層、45…有機樹脂層、45a…有機樹脂層の外縁部、500…電子機器としての携帯型電話機。
【特許請求の範囲】
【請求項1】
基板上に設けられた複数の有機EL素子と、
前記複数の有機EL素子を含む発光領域を平面的に少なくとも覆う無機材料からなる第1ガスバリア層と、
前記第1ガスバリア層に対して平面的に重なるように設けられた無機材料からなる第2ガスバリア層とを備え、
前記第2ガスバリア層は、前記第1ガスバリア層よりも膜密度が高く、前記発光領域の周辺領域において前記第1ガスバリア層の外縁部を覆うように前記基板上において配置されていることを特徴とする有機EL装置。
【請求項2】
前記第1ガスバリア層および前記第2ガスバリア層の膜応力が100MPa以下であることを特徴とする請求項1に記載の有機EL装置。
【請求項3】
前記第1ガスバリア層に前記第2ガスバリア層が積層されていることを特徴とする請求項1または2に記載の有機EL装置。
【請求項4】
少なくとも前記発光領域において前記第1ガスバリア層と前記第2ガスバリア層との間に有機樹脂層が設けられていることを特徴とする請求項1または2に記載の有機EL装置。
【請求項5】
前記発光領域は、前記複数の有機EL素子に対して順に積層された前記第1ガスバリア層と前記第2ガスバリア層とからなる第3ガスバリア層により覆われ、
前記第3ガスバリア層を覆うように設けられた有機樹脂層と、
前記周辺領域において前記有機樹脂層の外縁部を覆うと共に、前記有機樹脂層に積層された前記第2ガスバリア層と、
を備えたことを特徴とする請求項1または2に記載の有機EL装置。
【請求項6】
前記発光領域は、前記複数の有機EL素子に対して順に積層された前記第1ガスバリア層と前記第2ガスバリア層とからなる第3ガスバリア層により覆われ、
前記第3ガスバリア層を覆うように設けられた有機樹脂層と、
前記周辺領域において前記有機樹脂層の外縁部を覆うと共に、前記有機樹脂層に順に積層された前記第1ガスバリア層と前記第2ガスバリア層とからなる第4ガスバリア層と、を備えたことを特徴とする請求項1または2に記載の有機EL装置。
【請求項7】
前記第1ガスバリア層が窒化シリコンからなり、前記第2ガスバリア層が酸化窒化シリコンからなることを特徴とする請求項1乃至6のいずれか一項に記載の有機EL装置。
【請求項8】
前記第1ガスバリア層および前記第2ガスバリア層の膜厚が200nm〜1200nmであることを特徴とする請求項7に記載の有機EL装置。
【請求項9】
基板上に複数の有機EL素子を含む発光領域を有する有機EL装置の製造方法であって、
前記基板上に前記複数の有機EL素子を形成する発光素子形成工程と、
前記発光領域を平面的に少なくとも覆うように、プラズマCVD法を用いて無機材料からなる第1ガスバリア層を形成する第1ガスバリア層形成工程と、
前記発光領域の周辺領域において前記第1ガスバリア層の外縁部を覆うと共に、前記第1ガスバリア層に対して平面的に重なるようにイオンプレーティング法を用いて無機材料からなる第2ガスバリア層を形成する第2ガスバリア層形成工程と、
を備えたことを特徴とする有機EL装置の製造方法。
【請求項10】
前記第1ガスバリア層形成工程および前記第2ガスバリア層形成工程は、100℃以下の成膜温度で前記第1ガスバリア層、前記第2ガスバリア層を形成することを特徴とする請求項9に記載の有機EL装置の製造方法。
【請求項11】
前記第2ガスバリア層形成工程は、前記第1ガスバリア層に積層して前記第2ガスバリア層を形成することを特徴とする請求項9または10に記載の有機EL装置の製造方法。
【請求項12】
少なくとも前記発光領域において前記第1ガスバリア層上に有機樹脂層を形成する有機樹脂層形成工程をさらに備え、
前記第2ガスバリア層形成工程は、前記周辺領域において前記第1ガスバリア層および前記有機樹脂層の外縁部を覆うように前記第2ガスバリア層を形成することを特徴とする請求項9または10に記載の有機EL装置の製造方法。
【請求項13】
前記第1ガスバリア層形成工程は、前記第1ガスバリア層に前記第2ガスバリア層を積層形成する工程を含み、
前記有機樹脂層形成工程は、前記第1ガスバリア層に積層された前記第2ガスバリア層を覆うように前記有機樹脂層を形成することを特徴とする請求項12に記載の有機EL装置の製造方法。
【請求項14】
前記第2ガスバリア層形成工程は、前記有機樹脂層上に前記第1ガスバリア層を積層形成する工程を含み、積層形成された前記第1ガスバリア層および前記有機樹脂層の外縁部を覆うように前記第2ガスバリア層を形成することを特徴とする請求項12または13に記載の有機EL装置の製造方法。
【請求項15】
前記第1ガスバリア層形成工程は、窒化シリコンからなる前記第1ガスバリア層を形成し、前記第2ガスバリア層形成工程は、酸化窒化シリコンからなる前記第2ガスバリア層を形成することを特徴とする請求項9乃至14のいずれか一項に記載の有機EL装置の製造方法。
【請求項16】
前記第1ガスバリア層および前記第2ガスバリア層の膜厚が200nm〜1200nmであることを特徴とする請求項15に記載の有機EL装置の製造方法。
【請求項17】
請求項1乃至8のいずれか一項に記載の有機EL装置または請求項9乃至16のいずれか一項に記載の有機EL装置の製造方法を用いて製造された有機EL装置を備えたことを特徴とする電子機器。
【請求項1】
基板上に設けられた複数の有機EL素子と、
前記複数の有機EL素子を含む発光領域を平面的に少なくとも覆う無機材料からなる第1ガスバリア層と、
前記第1ガスバリア層に対して平面的に重なるように設けられた無機材料からなる第2ガスバリア層とを備え、
前記第2ガスバリア層は、前記第1ガスバリア層よりも膜密度が高く、前記発光領域の周辺領域において前記第1ガスバリア層の外縁部を覆うように前記基板上において配置されていることを特徴とする有機EL装置。
【請求項2】
前記第1ガスバリア層および前記第2ガスバリア層の膜応力が100MPa以下であることを特徴とする請求項1に記載の有機EL装置。
【請求項3】
前記第1ガスバリア層に前記第2ガスバリア層が積層されていることを特徴とする請求項1または2に記載の有機EL装置。
【請求項4】
少なくとも前記発光領域において前記第1ガスバリア層と前記第2ガスバリア層との間に有機樹脂層が設けられていることを特徴とする請求項1または2に記載の有機EL装置。
【請求項5】
前記発光領域は、前記複数の有機EL素子に対して順に積層された前記第1ガスバリア層と前記第2ガスバリア層とからなる第3ガスバリア層により覆われ、
前記第3ガスバリア層を覆うように設けられた有機樹脂層と、
前記周辺領域において前記有機樹脂層の外縁部を覆うと共に、前記有機樹脂層に積層された前記第2ガスバリア層と、
を備えたことを特徴とする請求項1または2に記載の有機EL装置。
【請求項6】
前記発光領域は、前記複数の有機EL素子に対して順に積層された前記第1ガスバリア層と前記第2ガスバリア層とからなる第3ガスバリア層により覆われ、
前記第3ガスバリア層を覆うように設けられた有機樹脂層と、
前記周辺領域において前記有機樹脂層の外縁部を覆うと共に、前記有機樹脂層に順に積層された前記第1ガスバリア層と前記第2ガスバリア層とからなる第4ガスバリア層と、を備えたことを特徴とする請求項1または2に記載の有機EL装置。
【請求項7】
前記第1ガスバリア層が窒化シリコンからなり、前記第2ガスバリア層が酸化窒化シリコンからなることを特徴とする請求項1乃至6のいずれか一項に記載の有機EL装置。
【請求項8】
前記第1ガスバリア層および前記第2ガスバリア層の膜厚が200nm〜1200nmであることを特徴とする請求項7に記載の有機EL装置。
【請求項9】
基板上に複数の有機EL素子を含む発光領域を有する有機EL装置の製造方法であって、
前記基板上に前記複数の有機EL素子を形成する発光素子形成工程と、
前記発光領域を平面的に少なくとも覆うように、プラズマCVD法を用いて無機材料からなる第1ガスバリア層を形成する第1ガスバリア層形成工程と、
前記発光領域の周辺領域において前記第1ガスバリア層の外縁部を覆うと共に、前記第1ガスバリア層に対して平面的に重なるようにイオンプレーティング法を用いて無機材料からなる第2ガスバリア層を形成する第2ガスバリア層形成工程と、
を備えたことを特徴とする有機EL装置の製造方法。
【請求項10】
前記第1ガスバリア層形成工程および前記第2ガスバリア層形成工程は、100℃以下の成膜温度で前記第1ガスバリア層、前記第2ガスバリア層を形成することを特徴とする請求項9に記載の有機EL装置の製造方法。
【請求項11】
前記第2ガスバリア層形成工程は、前記第1ガスバリア層に積層して前記第2ガスバリア層を形成することを特徴とする請求項9または10に記載の有機EL装置の製造方法。
【請求項12】
少なくとも前記発光領域において前記第1ガスバリア層上に有機樹脂層を形成する有機樹脂層形成工程をさらに備え、
前記第2ガスバリア層形成工程は、前記周辺領域において前記第1ガスバリア層および前記有機樹脂層の外縁部を覆うように前記第2ガスバリア層を形成することを特徴とする請求項9または10に記載の有機EL装置の製造方法。
【請求項13】
前記第1ガスバリア層形成工程は、前記第1ガスバリア層に前記第2ガスバリア層を積層形成する工程を含み、
前記有機樹脂層形成工程は、前記第1ガスバリア層に積層された前記第2ガスバリア層を覆うように前記有機樹脂層を形成することを特徴とする請求項12に記載の有機EL装置の製造方法。
【請求項14】
前記第2ガスバリア層形成工程は、前記有機樹脂層上に前記第1ガスバリア層を積層形成する工程を含み、積層形成された前記第1ガスバリア層および前記有機樹脂層の外縁部を覆うように前記第2ガスバリア層を形成することを特徴とする請求項12または13に記載の有機EL装置の製造方法。
【請求項15】
前記第1ガスバリア層形成工程は、窒化シリコンからなる前記第1ガスバリア層を形成し、前記第2ガスバリア層形成工程は、酸化窒化シリコンからなる前記第2ガスバリア層を形成することを特徴とする請求項9乃至14のいずれか一項に記載の有機EL装置の製造方法。
【請求項16】
前記第1ガスバリア層および前記第2ガスバリア層の膜厚が200nm〜1200nmであることを特徴とする請求項15に記載の有機EL装置の製造方法。
【請求項17】
請求項1乃至8のいずれか一項に記載の有機EL装置または請求項9乃至16のいずれか一項に記載の有機EL装置の製造方法を用いて製造された有機EL装置を備えたことを特徴とする電子機器。
【図1】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図13】
【図14】
【図15】
【図16】
【図17】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図13】
【図14】
【図15】
【図16】
【図17】
【公開番号】特開2010−244696(P2010−244696A)
【公開日】平成22年10月28日(2010.10.28)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−88691(P2009−88691)
【出願日】平成21年4月1日(2009.4.1)
【出願人】(000002369)セイコーエプソン株式会社 (51,324)
【Fターム(参考)】
【公開日】平成22年10月28日(2010.10.28)
【国際特許分類】
【出願日】平成21年4月1日(2009.4.1)
【出願人】(000002369)セイコーエプソン株式会社 (51,324)
【Fターム(参考)】
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